(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】Al-Si耐食コーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20231220BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20231220BHJP
C23C 16/30 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C23C14/06
C23C14/32
C23C16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532645
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2021000144
(87)【国際公開番号】W WO2022117220
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】102020007352.2
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523196356
【氏名又は名称】エリコン サーフェース ソリューションズ アーゲー, ファフィコン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】ラム, ユルゲン
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA03
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA58
4K029BB02
4K029BC01
4K029CA03
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA02
4K030BA29
4K030BA38
4K030BA42
4K030BB12
4K030CA02
4K030CA05
4K030FA01
4K030JA09
4K030JA10
(57)【要約】
本発明は、基板上にコーティングされた層システムであって、機能層及び中間層を含み、中間層は、基板と機能層との間に配置され、機能層は、必ずしも元素形態ではないが、アルミニウム及びケイ素の両方の元素を含み、及び機能層は、酸素若しくは窒素又は両方を含む、層システムにおいて、中間層は、原子%で測定される、機能層よりも多いパーセントのケイ素及び/又は機能層よりも多いパーセントのアルミニウムを含むことを特徴とする層システムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にコーティングされた層システムであって、
機能層及び中間層を含み、
前記中間層は、前記基板と前記機能層との間に配置され、
前記機能層は、必ずしも元素形態ではないが、アルミニウム及びケイ素の両方の元素を含み、及び前記機能層は、酸素若しくは窒素又は両方を含む、
層システムにおいて、前記中間層は、原子パーセントで測定される、前記機能層よりも多いケイ素及び/又は前記機能層よりも多いアルミニウムを含むことを特徴とする層システム。
【請求項2】
前記中間層は、ケイ素及びアルミニウムを含み、且つ前記基板の材料からの少なくとも1つのさらなる元素も追加的に含み得る層システムであることを特徴とする、請求項1に記載の層システム。
【請求項3】
前記機能層は、前記元素Al、Si、O及び/又はNに加えて、存在する場合、単にドーピング及び/又は不純物としての他の元素を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の層システム。
【請求項4】
前記機能層は、単層の層又は多層の層であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の層システム。
【請求項5】
前記機能層は、多層の層であり、前記機能層中のAl/Si比及び/又はO/N比は、層厚さの少なくとも一部にわたって周期的に、且つ/又は層厚さの少なくとも一部にわたって非周期的に変化することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の層システム。
【請求項6】
前記機能層中のAl対Si(Al/Si)原子の比率は、2~5であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の層システム。
【請求項7】
前記機能層は、堆積されたままの状態で前記層中に存在し、且つ拡散プロセス及びエージングプロセス中のムライト構造の形成に寄与するAl液滴を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の層システム。
【請求項8】
前記中間層は、前記元素Al及びSiに加えて、存在する場合、単にドーピング及び/若しくは不純物としての元素を含むか、又は前記基板材料の金属、Si-O、Si-N、Si-O-N、Al-O、Al-N、Al-O-Nからなる群の1つ以上の群元素を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の層システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン翼など、高温に曝される構成要素だけでなく、高い表面温度に曝され、且つ酸化による摩耗及び他の化学的摩耗から保護される必要がある電力変換システムの他の構成要素にも関する。
【背景技術】
【0002】
これらの構成要素は、高合金及び低合金鋼、Inconel及びHastelloyなどのNi-Cr合金、Ni-及びCo系超合金、Ti-及びTiAl系材料並びにSiC及び炭素をベースとするセラミックマトリックス複合材料、並びに酸化物繊維-強化酸化物複合材料(Ox/Ox材料)などの様々な材料から作製され得る。
【0003】
全てのこれらの構成要素は、これらの構成要素の摩耗をもたらす腐食プロセスに曝される。腐食プロセスは、一般に、材料の損失又は構成要素の機械的特性の弱化をもたらす。例えば、大気中に存在する粒子によって引き起こされる浸食プロセスは、構成要素の浸食をもたらし得る。塩素又は硫黄化合物などのガスも構成要素の表面を浸食し得る。高温で酸化が起こり得、これは、多くの場合、材料の損失をもたらす。これは、超高温での反応に特に当てはまり、その場合、水蒸気は、ケイ素を含有する構成要素中でケイ素揮発が起こるように活性化される。これらの構成要素を腐食から保護するために、コーティングを適用することが知られている。とりわけ、気相から堆積されるコーティングが本明細書で使用される。
【0004】
従来技術によれば、TiN/Ti、TiN/TiAlN及びTiAlN層システムが使用される。これらは、改善された耐浸食性を示すが、例えば高クロム鋼基板における適用では不十分な耐食性を示す。構成要素がより温度安定性の材料、例えばInconel又はTi-Al材料を含む、より高い温度範囲での適用では、これらの層システムは、その表面における薄層酸化物の形成をもたらし、これは、機械的に安定でなく、したがって摩耗をもたらす。同様の問題は、SiC系CMC(セラミックマトリックス複合材料)を含む材料について存在し、これは、酸素雰囲気及び水蒸気中で高温においてケイ素揮発性化合物を形成し、その結果、同様に摩耗する。
【0005】
独国特許出願公開第102015212588号明細書は、層の適用による耐食性に関するさらなる発展を表している。これは、少なくとも第1、第2及び第3の層を含む表面を有する、腐食ストレスを受ける鋼基板のための層システムを記載しており、ここで、
- 基板の表面と第2の層との間に配置された第1の層は、接着促進剤層として構成され、
- 第2の層は、柱状構造を有する延性の金属層であり、及び
- 第2の層の、基板と反対向きの側に配置された第3の層は、少なくとも20GPaの硬度を有するセラミック酸化物層である。
【0006】
単位GPaにおける硬度規格は、コーティングが物体の浸透に耐え得る圧力を指す。
【0007】
接着促進剤層としての、従来技術による第1の層の構成は、層システムの基材と第2の層との間のより高い接着性を確実にする。
【0008】
第2の層は、犠牲陽極として作用することによって基板を陰極的に保護する。第2の層の延性は、層に亀裂を生じさせることなく、揺動荷重によって引き起こされる歪みを吸収するのに役立つ。第2の層の柱状構造は、第3の層によって引き起こされる残留応力を相殺するのに役立つ。
【0009】
層システムの第3の層は、好ましくは、混合された結晶構造中に酸化アルミニウム、及び/又は酸化クロム、及び/又はアルミニウム-クロム酸化物を有する。それはまた、全体的にこれらの酸化物からなり得る。酸化物は、第3の層を酸化に対して耐性にし、これは、第3の層が少なくとも1つの酸化物を既に含み、したがって高温で使用され得るためである。第3の層は、非常に高密度の構造を有する。とりわけ、第3の層は、第2の層のための腐食保護としての役割を果たす。さらに、第3の層は、そのセラミックの性質のために絶縁効果を有し、これは、有利には、ガルバニック作用を防止する。さらに、第3の層は、基材よりもかなり硬いため、浸食、特に液滴衝突及び粒子浸食からの保護として下位層及び基材のために有利に作用する。好ましくは、第3の層の硬度は、約25GPaである。
【0010】
この発明による層システムに対応する3つの層を含む、腐食に曝される基板のための層システムを製造する方法も公知であり、全ての層の材料は、物理的気相成長法(PVD)によって適用される。この方法は、熱処理が必要とされないために有利である。さらに、PVDによって適用される層は、有利な表面粗さを有し、これは、良好な空気力学的特性をもたらす。
【0011】
従来技術によれば、層システムのPVD層は、陰極スパーク蒸発及び/又はスパッタリングによって適用される。
【0012】
従来技術によるこの3層の層システムは、多くの用途に好適である。しかしながら、それは、基板がSi-C系材料であるか、又はチタンアルミナイドの場合のようにかなりの量のチタンを含有する場合、接着性の問題を示す。さらに、それは、特定の用途のために、シリケート、例えば、限定されないが、ケイ酸アルミニウム又はケイ酸ハフニウムの担体として意図される層システムが所望される場合に有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、先行技術から公知のもの及び/又はシリケートのための担体として構成されるものと比較して、改善された接着性を有する層システム及びその製造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、この課題を解決するために、これらの場合、Si含有担体から開始すること、すなわち例えばSi、Si-O、Si-O-Nを含むか、又はこれらの構成要素と他の酸化物、例えばAl-Oとの混合物を含む層システムが有用であることを見出した。酸化物繊維-強化酸化物複合材料(Ox/Ox材料)の場合のように、酸化物を含むか又は酸化物を含有する構成要素でも、コーティングが、ケイ素、アルミニウム、酸素及び窒素を含む層システムを含む場合に良好なコーティング接着性が達成される。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、層システムは、構成要素上で製造され、必須(10原子パーセント(原子%)超の)要素としてケイ素を含有する。
【0016】
本発明の別の改良された実施形態によれば、層システムは、第2の必須(10原子パーセント(原子%)超の)要素としてAlを含有する。
【0017】
本発明の別の目的は、この層システムが腐食から構成要素を保護することであり、これは、コーティングが構成要素の基板材料における腐食プロセスを防止するためである。
【0018】
本発明の別の目的は、高温でのガスタービンの構成要素の表面の酸素及び水蒸気との反応を防止するか又は少なくとも減速させることである。
【0019】
本発明の別の目的は、高温において、特に粒子による浸食及び水蒸気中の蒸発に関して構成要素表面の機械的強度を改善することである。
【0020】
高い率のケイ素含有コーティングを陰極スパーク蒸発コーティングと同時に又は連続して実施する方法を開示することが本発明のさらなる目的である。
【0021】
ここで、様々な実施形態を参照して且つ例としての図を用いて、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明による中間層及び機能層でコーティングされた基板又は構成要素を示す。
【
図2】Al
0.24Si
0.15O
0.61の化学組成を示す、本発明による第1のAl-Si-O機能層におけるエネルギー分散型X線分光法(EDX分析)によって得られたスペクトルを示す。
【
図3】
図2においてEDXを用いて分析された同じAl-Si-O層システムでコーティングされたSiC基板のX線スペクトルにより、3つの曲線3A~3Cを示す。X線スペクトルを2°の斜入射下で測定して、使用されるSiC基板のモアッサナイトピークの強度を低下させた。それにもかかわらず、基板ピークは、完全に抑制することができなかった:コーティング後の3Aスペクトル、1000℃でエージングした後の3Bスペクトル、1400℃でエージングした後の3Cスペクトル。
【
図4】
図2においてEDXを用いて分析された同じAl-Si-O層システムでコーティングされた鋼基板のX線スペクトルを示す。X線スペクトルを2°の斜入射下でのコーティング後に測定して、モアッサナイトピークを回避し、他のピーク及び非晶質バックグラウンドの位置を明確にした。
【
図5】
図2においてEDXによって分析された同じAl-Si-O層システムのサンプルの破断面の写真を示す。コーティングは、Ti-Al基板上に堆積された。中間層(ZW)として、Si(約2μm)-SiO
2(約2μm)層が選択され、機能層は、前記Al-Si-O(約3μm)層である。破断面の画像の円は、XRD分析で見られたアルミニウム元素の液滴を含む領域を示す。
【
図6】Al
0.27Si
0.20O
0.11N
0.42の化学組成を示す、本発明による第2のAl-Si-O-N機能層におけるエネルギー分散型X線分光法(EDX分析)によって得られたスペクトルを示す。
【
図7】
図6においてEDXを用いて分析された同じAl-Si-O-N層システムでコーティングされたSiC基板のX線スペクトルをスペクトル7A~7Cによって示す。X線スペクトルを2°の斜入射下で測定して、使用される基板のモアッサナイトピークの強度を低下させた。それにもかかわらず、基板ピークは、完全に抑制することができなかった:コーティング後の3Aスペクトル、800℃でエージングした後の3Bスペクトル、1000℃でエージングした後の3Cスペクトル。
【
図8】
図6においてEDXによって分析された同じAl-Si-O-N層システムでコーティングされた鋼基板のX線スペクトルを示す。X線スペクトルを2°の斜入射下でのコーティング後に測定して、モアッサナイトピークを回避し、他のピーク及び非晶質バックグラウンドの位置を明確にした。
【
図9】Al
0.33Si
0.16N
0.51の化学組成を示す、本発明による第3のAl-Si-N機能層におけるエネルギー分散型X線分光法(EDX分析)によって得られたスペクトルを示す。
【
図10】
図9においてEDXを用いて分析された同じAl-Si-N層システムでコーティングされたSiC基板のX線スペクトルを示す。X線スペクトルを2°の斜入射下で測定して、使用される基板のモアッサナイトピークの強度を低下させた。それにもかかわらず、基板ピークは、完全に抑制することができなかった:コーティング後の3Aスペクトル、1200℃でエージングした後の3Bスペクトル、1400℃でエージングした後の3Cスペクトル。
【
図11】
図9においてEDXを用いて分析された同じAl-Si-N層システムでコーティングされた鋼基板のX線スペクトルを示す。X線スペクトルを2°の斜入射下でのコーティング後に測定して、モアッサナイトピークを回避し、他のピーク及び非晶質バックグラウンドの位置を明確にした。
【
図12A】中間層及び約5.8μmの厚さを有する本発明のAl-Si-N機能層を有しない、コーティングされたTi-Al基板の破断面の例を示す。コーティングされたサンプルを20時間にわたって周囲雰囲気中で800℃においてエージングした。
【
図12B】(B)において、破断面に沿った化学組成、いわゆるEDX線スキャンが示される。このプロファイルから、Al、Si及びNのシグナルのみが見られるため、層中に酸素がないと結論付けられ得る。基板材料の両方の構成要素、Al及びTiは、調製中にその表面で容易に酸化するため、基板の領域中の酸素シグナルの弱い強度がサンプル調製によって引き起こされる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明によるこのような層システムの製造のための例示的な方法が示され、それにより、プロセスパラメータは、例としての役割を果たすが、当業者に公知であるように広い範囲で変化され得る。コーティングプロセスは、物理的気相成長法(PVD)及びプラズマ化学気相成長法(PECVD)の組合せであり、すなわち、両方の方法は、コーティング合成を実現するために、特に必要に応じて同時に使用される。例えば、電子ビーム蒸着、スパッタリング及び/又は陰極スパーク蒸発がPVD法として使用され得る。CVD法は、さらなるガス注入に本質的に基づいており、このガス注入により、様々なガス状前駆体が、使用されるコーティングシステムに入れられ得、次に分解され、プラズマ中で励起される。有利には、同じコーティングシステムがPVD法及びCVD法に使用される。CVD法に必要とされるプラズマは、PVD法のために存在するプラズマ源、すなわち例えば陰極スパーク源によって生成され得る。しかしながら、それは、他の手段、例えば別個の低電圧アーク放電によっても生成され得る。これらの方法は、当業者に公知である。
【0024】
まず、
図1に示されるように、本発明による層システム、すなわち中間層及び機能層を含む基板におけるAl-Si含有層の堆積を製造する方法が記載される。
【0025】
基板(構成要素)がコーティングシステムに入れられ、対応するホルダー上に固定される。ホルダーは、基板ホルダーシステムに取り付けられ、これは、コーティング中に静止し、且つ/又は1回、2回及び/若しくは3回にわたって回転され得る。コーティングシステムは、約10-5mbar以下の圧力になるまでポンプダウンされる。次に、基板が前処理される。これは、例えば、放射加熱器を用いて、基板を典型的には100℃~600℃の所望の温度に加熱することと、システムで基板前処理を行うこと、例えばアルゴンガスイオンによるスパッタリングによって基板表面を清浄化することとを含む。清浄化工程/段階のために、通常、負電圧(基板バイアス)が基板に適用される。DC電圧がこのために使用されるが、両極性パルス電圧又はRF電圧を用いてこの工程/段階を実施することも可能である。
【0026】
本明細書に記載される例では、これらの前処理工程/段階後、例えば90μs/10μs、若しくは36μs/4μs、若しくは20μs/20μs、若しくは10μs/10μs又は作製される層に有用ないくつかの他の値の、例えば負バイアスから正バイアス(グラウンドに対する基板)のパルス特性を有する両極性パルスバイアスが基板に適用される。両極性バイアスを選択する理由は、かなり望ましいが、可能な限り小さい、作製される層の導電性であり、これは、完全に絶縁性でさえあり得る。このような層において、両極性運転は、層形成イオンに対するバイアスの有効性を保証する。本明細書に記載される例では、バイアス電源における両極性基板バイアスは、36μs/4μsのパルス特性のために-40V/+40Vに設定され、このバイアスがコーティング全体にわたって維持される。
【0027】
アルミニウム-ケイ素含有層システムの例として、ここで、本発明による方法におけるSi/Al-Si-O層の、PVD及びCVDプロセスの組合せからの合成が記載される。Si層は、中間層を形成する一方、Al-Si-O層は、機能層を形成する。コーティングは、補助プラズマの点火、例えばアルゴン中の低電圧アーク放電(約5×10-3mbarにおける約150Aの放電電流)から開始する。次に、90sccmの流束でのシランの注入が行われ、これは、このようなタイプのプラズマ中で有効に分解され、中間層を形成する、基板表面におけるケイ素の堆積が行われる。この例では、ケイ素界面の厚さは、わずか約0.5μm~1μmに制限される。しかしながら、これは、より薄く、例えば0.1μm未満、またより厚く、例えば30μmになるようにも選択され得る。次に、アルミニウムの蒸発は、アルミニウム標的で陰極スパーク放電を点火させることによって開始される。このシーケンスは、必要に応じて逆にも行われ得る:まず、陰極スパーク放電の点火及び次にコーティングチャンバー中へのシランの注入、それにより陰極スパーク放電が高密度プラズマを既に生成しているため、このシーケンスでは補助プラズマが必要とされない。その後、同時に又は短時間の遅延後に酸素が反応性ガスとして入れられる。希ガス又は希ガスの混合物も補助ガスとして入れられ得る。この例では、スパーク放電は、140Aのソース電流で操作されるが、50A~400Aの範囲の放電電流も使用され得る。本明細書で選択される例における酸素流れは、250sccmである。このように、基板は、Al-Si-O層でコーティングされ、それにより、この層の化学組成は、Al標的の蒸発速度(すなわちスパーク電流のサイズ)によって広い範囲で制御され得、シラン流れ及び酸素流れ、その結果として層の化学組成が調整され得、且つ深さに依存して層自体の中でも調整され得る。
【0028】
第1の例として、Si/Al-Si-O層システムは、上述される手順に従って調製され、この層システムは、様々な方法を用いて分析された。この分析の結果が以下に示され、説明される。
図2は、この層システムのEDXスペクトルを示す。このスペクトルから、層が24/15/61原子パーセント(原子%)の比率の元素アルミニウム/ケイ素/酸素(Al/Si/O)から構成され、したがってそれがAl
0.24Si
0.15O
0.61などの式によって表され得ることが分かる。この組成物は、ムライト化合物の組成物におよそ対応する。
図3Aは、コーティング後のSiC基板におけるこの層のXRDスペクトルを示し、これは、2°のX線ビームの入射角、すなわち斜入射角で測定された。20°~35°の、2θ領域におけるシグナルの増加した強度は、非晶質又は微結晶酸化物化合物を示す。広がったピークは、EDX分析によって見られる元素組成に特有の酸化物材料であるムライト、及びアルミナ、及びシリカ標準ピークにより十分に近似される。XRDスペクトルは、約800℃まであまり形状を変化させない。約1000℃まで加熱すると(
図3B)、ムライトのためのピークは、より明瞭になり、これは、再結晶化プロセスを示すが、層破壊の形態で現れず、すなわち、実験は、酸化物相が堆積後に微結晶相中に既に存在していたこと及び新たな相形成がエージングの結果として起こらないことを示す。XRD分析では、Al
4.8Si
1.2O
9.6の標準ピークが、データベース中に示されるようにムライトのために使用された。層が1400℃でさらにエージングされる場合(
図3C)、クリストバライト、酸化ケイ素のさらなるピークが形成され得る。
【0029】
図4は、Si/Al-Si-O層システムについての別のXRDスペクトルを示し、この層は、SiC基板上ではなく、鋼基板上である以外には
図3のプロセスと同じプロセスで堆積された。この理由は、SiC基板では、基板特異的モアッサナイトピークがAl-Si-O層の本質的な特性、すなわち層内のAl領域の存在を証明するアルミニウムピークと重複することであった。これらの領域は、層が大気に曝されるとき、拡散プロセスを可能にすることにより、ムライト構造の形成を促進する。この図は、
図3のXRDスペクトルから明らかになるより明らかに別の層特性、すなわち非晶質ピークの強度最大の位置が2θ20°~24°であることを示す。
【0030】
図5は、層の断面のSEM画像も示し、層における、液滴として本質的に存在するアルミニウム領域の部位は、白丸で示されている。
【0031】
層の組成がアルミニウムの蒸発速度並びにシラン及び酸素流束によって制御され得ることは、冒頭で既に指摘されている。一連の実験では、これらの影響パラメータが調べられ、ムライト、及び/又はアルミナ、及び/又はシリカを含む、原子パーセント(原子%)におけるAl/Siの2~5のAl対Si比を有するコーティングを調製することが可能であった。合成されたAl-Si-Oのピーク位置に関するデータベースからのAl4.8Si1.2O9.6の標準ピークの十分な一致及びAl/Si比も決定された層の組成の範囲と一致することは、温度安定性及び酸化耐性を保証するAl-Si-O層の重要な特性である。
【0032】
硬度測定もこれらのコーティングで行われた。9GPa~15GPaの範囲の圧入硬度が測定された。これらは、陰極スパーク蒸発によって生成される、従来技術の冒頭で言及されたAl-Cr-Oコーティングで測定される20~30GPaよりも大幅に低い。
【0033】
例えば、浸食保護コーティングに必要とされるように、コーティングの温度安定性及び酸化耐性が重要であるだけでなく、コーティング硬度も重要である用途では、Al-Si-Oコーティングのコーティング硬度を増加させることが有利である。
【0034】
したがって、本発明のさらなる目的は、Al-Si-Oコーティングの良好な耐食性及び酸化耐性をより高い硬度まで増加させることである。これは、別のプロセスガスとしての窒素をシラン及び酸素流れに加えることによって達成された。
図6は、90sccmのシラン流れ、50sccmの酸素流れ及び470sccmの窒素流れを用いて調製されたAl-Si-O-NフィルムのEDXスペクトルを示す。この層についてのEDX分析(
図6)は、原子パーセント(原子%)で測定されるAl/Si/O/Nの比率についての値27/20/11/42、すなわち式Al
0.27Si
0.20O
0.11N
0.42によって表され得る層を示す。
【0035】
層の圧入硬度の測定は、上記に示されるプロセスパラメータについての22GPaの値を示し、これは、窒素添加なしで調製されたAl-Si-O層よりもはるかに高い値である。プロセスの直後のこの層のXRDスペクトルが
図7Aに示される。基板ピーク(モアッサナイト)並びにわずかなSi及びAlピークを除いて、広い非晶質バックグラウンドの増加した強度のみが注目され得る。スペクトル(すなわちモアッサナイトピーク)に対する基板の影響を回避するために、鋼基板において同じプロセスで調製されたAl-Si-O層が測定され(Al-Si-O層について上記で行われたように)、このXRDスペクトルが
図8に示される。
図4及び
図8のXRDスペクトルを比較すると、元素Si及びAlのピークが両方のスペクトルで見られる。しかしながら、非晶質ピークの最大の位置が変化し、より大きい2θ角に移行している。
図4の非晶質ピークの最大は、20°~24°の2θの範囲内である一方、Al-Si-O-Nのこの組成について、それは、25°~35°の範囲に移行する。広い非晶質ピークは、同様に微結晶酸化物又は(窒素が使用される場合に同様に可能である)微結晶窒化物を示す。SiNピークは、
図8では同定することができない。しかしながら、Al及び立方晶AlNのピークが重複し、したがって疑いなく分離することができないため、立方晶AlNの形成を除外することができない。EDXによって決定される化学組成に基づいて、立方晶構造中にAlNが形成される可能性は、さらに高い。広い非晶質ピークは、Al-Si-O-Nの微結晶層を示す。周囲雰囲気中で800℃(
図7B)及び次に1000℃(
図7C)に加熱されるとき、ムライトに起因し得るピークが同様に形成される。さらなる実験では、様々なガス流れの組合せが調べられ、圧入硬度が測定された。様々なガス組成に応じて、16~26GPaの範囲の硬度が得られた。反応性ガスであるシラン、酸素及び窒素の比率がどのように選択されるかに応じて、Al-Si-O-N層の特定の組成が設定され得る。
【0036】
これらの結果に基づいて、酸素の添加が完全に省略されたコーティングも製造された。
図9は、このような層についてのEDXスペクトルを示す。この層についてのEDX分析は、原子パーセント(原子%)で測定される、Al/Si/Nの比率についての値33/16/51、すなわち式Al
0.33Si
0.16N
0.51によって表され得る層を示す。この場合にも、層の化学量論は、Al蒸発速度を調整し、且つシラン及び窒素流束を選択することによって設定され得る。酸素なしで調製されたこれらのコーティングは、27~35GPaの硬度を有することが分かり、これもこのコーティング特性の改善である。Al
0.33Si
0.16N
0.51層のXRDスペクトルがSiC基板について
図10に示され、鋼基板について
図11に示される。
図10Aを参照すると、堆積の直後に、フィルムは、SiC基板に起因し得るピークのみを示し、これは、Al-Si-Nの非晶質又は微結晶層を示す。鋼基板(
図11)では、元素Al及びSiのピークが同様に見られ、同様にAlピーク及び立方晶AlNについてのピーク間に差異は生じない。このスペクトルは、明確な非晶質バックグラウンドによってさらに特徴付けられ、その最大は、2θ34°~37°にあり、これは、SiNを示す。層がエージングされるとき(
図10B、1200℃)、AlN及びSiについてのピークがより明確に視認できるようになる。1200℃では、元素Siについての明確なピークが出現すると同時に、クリストバライトについてのピークが出現し、これは、拡散プロセスを示す。クリストバライトピークがもはや視認できず、明らかにムライトが形成されたため、これらは、1400℃で完了されたようである(
図10C)。
【0037】
酸化バリアとしての本発明による層の特性を実証するためにさらなる例が使用される。Ti-Al基板材料は、酸化摩耗を特に起こしやすい。これは、主に拡散プロセスに起因し、この拡散プロセスは、表面でTiを酸化させ、機械的に不安定な非接着性酸化物を形成させる。このようなプロセスは、700℃程度の温度でも基板の機械的特性に影響する。したがって、同様に例として、Ti-Al基板がAl-Si-N層でコーティングされ、これは、EDX分析に基づいて化学組成Al
0.35Si
0.13N
0.52を有する層によって表され得る。
図12(A)は、中間層及び本発明による約5.8μmの厚さを有するAl-Si-Nの機能層を有しない、コーティングされたTi-Al基板の破断面の画像を示す。コーティングされたサンプルを20時間にわたって周囲雰囲気中で800℃においてエージングした。(B)において、破断面に沿った化学組成、いわゆるEDX線スキャンが示される。このプロファイルから、Al、Si及びNのシグナルのみが見られるため、層中に酸素がないと結論付けられ得る。基板材料の両方の構成要素、Al及びTiは、調製中にその表面で容易に酸化するため、基板の領域中の酸素シグナルの弱い強度は、サンプル調製にその原因を有する。
【0038】
実験結果を要約すると、PVD及びCVDの組み合わされた方法を用いて、高温で安定しており、酸素拡散を阻害するAl-Si-(O)-(N)コーティングを製造できると結論付けられ得る。同時に、これらのコーティングの硬度は、窒素及び酸素をAl-Si-(O)-(N)に組み込むことによって制御され得る。原子パーセント(原子%)におけるAl/Siの2~5のAl対Si比で調製された、酸素を含む層は、部分的に非晶質又は微結晶構造において、堆積中に高温安定性ムライトの部分を既に示すか、又は大気に曝されると再結晶化し、ムライト及び/又はコランダム構造の明確なピークを示す。
【0039】
Al-Si-Nコーティング、すなわち酸素含量を含まないコーティングは、1000℃をはるかに超える温度安定性及び増加した硬度によっても特徴付けられる。
【0040】
ムライト構造の合成に有利なAl/Si比から製造されたコーティングに加えて、PVD及びCVD法の組合せも、より高いケイ素含量を有するコーティング、例えば原子パーセント(原子%)におけるAl/Siの0.1~1.5のAl対Si比を有するAl-Si-Oコーティングの合成を可能にする。これらのコーティングは、堆積の直後に非晶質又は微結晶構造を示し、これは、その後、大気に曝されると結晶性SiO2層(例えば、クリストバライト)に変化する。この遷移は、1000℃超の温度で起こり、通常、層破壊をもたらす。しかしながら、この温度未満では、これらの層は、安定しており、好ましくはその非晶質構造のために耐食コーティングに好適である。
【0041】
上述される方法によれば、層システムは、例えば、ある期間中、シラン流れ、酸素流れ又は窒素流れをそれぞれそれ自体で又は互いに組み合わせて変化させ、次に、それが、化学組成が設定ガス流れ(及び当然のことながらAl蒸発速度)に応じてそれぞれの個々の層について決定される多層構造をもたらすことにより、多層構造でも有利に製造され得る。
【0042】
独国特許出願公開第102015212588号明細書と適切に比較される別の重要な層は、本発明による層におけるクロムの非存在であり、これは、多くの用途のために必要とされ、地域によっては法律によって義務付けられることさえある。
【0043】
PVD及びCVD方法の組合せはまた、堆積速度の有意な上昇をもたらし、これは、主に、陰極スパーク蒸発から生じるAl含量に加えて、シランガス源から生じるさらなるSi含量が層に組み込まれ、すなわちそれが層厚さに直接寄与するためである。
【0044】
したがって、本発明は、構成要素の摩耗を減少させると同時に、必要な整備間隔間の時間を増加させることにより、ガスタービン中のタービン翼などの構成要素の耐用寿命を延長することが特に意図される。
【0045】
表面が保護されるべきである構成要素は、高合金及び低合金鋼、Inconel及びHastelloyなどのNi-Cr合金、Ni及びCo系超合金、Ti及びTiAl系材料並びにSiC及び炭素をベースとするセラミックマトリックス複合材料、並びに酸化物繊維-強化酸化物複合材料(Ox/Ox材料)などの様々な材料から作製され得る。
【0046】
本発明によるコーティングは、固体粒子衝突、液滴衝突及びさらに膨れに対する基材の耐浸食性を増加させることが意図される。
【0047】
本発明によるコーティングは、例えば、硫黄及び塩素を含有するガスに対する耐食性を増加させ、CMAS燃え殻又はガラス様物質の溶融物などの溶融堆積物に対する耐食性を改善することが意図される。
【0048】
さらに、本発明によるコーティングは、水蒸気との反応及び基材の関連する揮発を防止するか又は少なくとも大幅に減少させることが意図される。
【0049】
本発明によるコーティングの非常に重要な態様は、特に基板材料に応じて「高い」と分類される高い使用温度、すなわち例えばステンレス鋼について600℃、Inconel若しくはHastelloyについて800℃、Ti-Al化合物について800℃、Ni若しくはCo系超合金について1000℃、MCrAlYコーティングを有する超合金について1100℃又はSiC系CMC材料について1000℃における、様々な材料を含む構成要素の酸化摩耗からの保護である。
【0050】
本発明によれば、目的は、請求項1に記載の構成要素によって解決される。本発明による構成要素は、機能層及び構成要素表面と機能層との間に配置された中間層を有する浸食耐性及び腐食耐性コーティングを有する。
【0051】
様々な有利な実施形態に関して、とりわけ以下が列挙され得る:
- 中間層は、ケイ素及びアルミニウムを含む層システムであり得、且つ構成要素材料の元素を追加的に含み得る。
- 機能層は、元素Al、Si、O及びNを本質的に含む。
- 機能層は、単層の層又は多層の層であり得る。
- 機能層が多層構造である場合、Al/Si比及び/又はO/N比が層厚さの少なくとも一部にわたって周期的に、且つ/又は層厚さの少なくとも一部にわたって非周期的に変化する場合に有利である。
- 特に好ましくは、機能層中のAl対Si(Al/Si)原子の比率は、2~5である。
- 機能層は、層中で堆積されたままの状態であり、且つ拡散プロセス及びエージングプロセス中のムライト構造の形成に寄与するAl液滴によって特徴付けられる。
【0052】
【0053】
【0054】
【国際調査報告】