(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】細胞をリプログラミングするための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20231220BHJP
C12N 5/073 20100101ALI20231220BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20231220BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231220BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20231220BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20231220BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/073
C12N5/0775
A61P27/02
A61P27/06
A61K35/30
A61P27/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532738
(86)(22)【出願日】2020-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 CN2020141524
(87)【国際公開番号】W WO2022110494
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】202011345680.2
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523350981
【氏名又は名称】モウセリオン・セラーピューティクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】林偉鋒
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB04
4B065BB19
4B065BD25
4B065BD39
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA58
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
1種又は複数種のリプログラミング因子の存在下で細胞をリプログラミングするための方法、該方法を用いて得られたリプログラミング細胞及びその用途、並びにリプログラミング因子を含むキットを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子-β(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養することを含む、第1タイプの細胞を第2タイプの細胞にリプログラミングするための方法。
【請求項2】
前記第1組のリプログラミング因子は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、BMP4又はそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1組のリプログラミング因子は、(a)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤、(b)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤及びbFGF、又は、(c)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤によって構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記GSK3阻害剤は、CHIR99021、LiCl、Li
2CO
3及びBIO((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、TD114-2、ケンパウロン、TWS119、CBM1078、SB216763、3F8(TOCRIS)、AR-A014418、FRATide、インジルビン-3’-オキシム及びL803からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記TGFβ阻害剤は、SB431542、Repsox、616452、LDN193189、A8301、GW788388、SD208、SB525334、LY364947、D4476、SB505124及びギニストからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記環状AMP誘導剤は、フォルスコリン、IBMX、ロリプラム、8BrcAMP、プロスタグランジンE2(PGE2)、NKH477、ジブトイルモノシクロアデニル酸(DBcAMP)、Sp-8-Br-cAMPsである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、5-アザ-dC、5-アザシチジン及びRG108からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記DOT1L阻害剤はEPZ004777である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA(TSA)、ボリノスタット、デプシペプチド、Trapoxin、Depudecin、FR901228及び酪酸塩からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記第1タイプの細胞は体細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記体細胞は中胚葉、外胚葉又は内胚葉に由来する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記体細胞が線維芽細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記線維芽細胞は、マウス胚線維芽細胞(MEF)、マウス尾端線維芽細胞(TTF)、ヒト胚線維芽細胞(HEF)、ヒト新生児線維芽細胞(HNF)、成人線維芽細胞(HAF)、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記体細胞はヒト脱落腎臓上皮細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記第1タイプの細胞は幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記幹細胞は、ヒト臍帯間葉系幹細胞、ヒト胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞(iPSC)からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2タイプの細胞は幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記幹細胞は、神経堤細胞様細胞(NCC様細胞)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記NCC様細胞はP75、Hnk1、AP2α及びSox10陽性を呈する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1タイプの細胞は前記第1組のリプログラミング因子の存在下で(a)少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12日間、又は、(b)20、19、18、17、16、15、14、13又は12日間未満培養する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下で第2タイプの細胞を培養することを含む、第2タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングする方法。
【請求項22】
前記第2組のリプログラミング因子は、BMP4及び/又はDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記カゼインキナーゼ1阻害剤はCKI-7である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、5-アザ-dC、5-アザシチジン及びRG108からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記第3タイプの細胞は体細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記体細胞は角膜内皮細胞(CEC)様細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記CEC様細胞はZO-1及びNa
+/K
+-ATP酵素陽性を呈する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記第2タイプの細胞は前記第2組のリプログラミング因子の存在下で(a)少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12日間、又は、(b)20、19、18、17、16、15、14、13又は12日間未満培養する、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(a)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養すること、及び、ステップ(b)TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下でステップ(a)から得られた細胞を培養すること、を含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングする方法。
【請求項30】
前記第1組のリプログラミング因子は、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤をさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記方法は、ステップ(b)を開始する前にステップ(a)から得られた細胞を洗浄することをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(a)とステップ(b)との間に洗浄ステップが存在しない、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子及びTGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養することを含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングする方法。
【請求項34】
前記第1組のリプログラミング因子は、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法に基づいて生成されたNCC様細胞集団。
【請求項36】
請求項21~34のいずれか一項に記載の方法に基づいて生成された角膜内皮細胞様細胞(CEC様細胞)集団。
【請求項37】
請求項35に記載のNCC様細胞又は請求項36に記載のCEC様細胞を含む組成物。
【請求項38】
必要とする被験者に有効量の請求項36に記載のCEC様細胞又は請求項37に記載の組成物を投与することを含む、機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状を治療する方法。
【請求項39】
前記被験者はヒトである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記疾患又は病状は、フックスジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群、後部多形性角膜変性症、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、加齢黄斑変性症(AMD)、網膜色素変性症、緑内障、角膜ジストロフィー、コンタクトレンズの使用、白内障手術及び角膜移植における後期内皮不全からなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子を含む、第1タイプの細胞を第2タイプの細胞にリプログラミングするためのキット。
【請求項42】
前記第1組のリプログラミング因子は、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤をさらに含む、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子を含む、第2タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングするためのキット。
【請求項44】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子及びTGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子を含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングするためのキット。
【請求項45】
前記第1組のリプログラミング因子は、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤をさらに含む、請求項44に記載のキット。
【請求項46】
請求項35に記載のNCC様細胞又は請求項36に記載のCEC様細胞に薬物候補を投与し、前記細胞の前記薬物候補に対する反応を検出することにより薬物を識別することを含む、薬物を識別する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概ね細胞をリプログラミングするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正常に作用する角膜内皮細胞(CEC)は角膜の透明度及び適切な流体レベルを維持し、例えば流体が基質に「漏洩」することと基質から連続的に能動的にポンピングすることにより流体を眼の前房に移動させることとの間でバランスを保持する。
【0003】
角膜内皮細胞はイン・ビボ増殖能力がほとんどないか又はないため、それが損傷されるか又は他の方式で損失される時に自然に置き換えることができないことが報告された。人体内において、角膜内皮細胞層は生まれた時に最も密集に凝集し、その後に細胞密度が眼の成長に伴って急速に低下する(同じ数の細胞でより大きな面積が被覆される)。その後、角膜細胞密度は加齢に伴って徐々に低下し、置換されていない細胞の段階的な損失を顕著に反映する。細胞密度の低下に伴い、細胞層のバリア及びポンプ機能を維持するために各細胞は展開してより大きな面積を被覆するようになる。しかしながら、細胞密度が低すぎる(約500~1000個の細胞/平方ミリメートルより低い)と、その機能が損なわれ、角膜混濁、基質浮腫、視感度(visual acuity)損失及び最終的な失明を引き起こす。
【0004】
異なる治療方法が開発されたが、新たな角膜内皮再構築技術が非常に必要とされる。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子-β(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養することを含む、第1タイプの細胞を第2タイプの細胞にリプログラミングするための方法を提供する。
【0006】
いくつかの実施例において、第1組のリプログラミング因子は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、DOT1L阻害剤)、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、BMP4又はそれらの組み合わせをさらに含む。
【0007】
いくつかの実施例において、第1組のリプログラミング因子は、(a)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤、(b)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤及びbFGF、又は、(c)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、DOT1L阻害剤)及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤によって構成される。
【0008】
いくつかの実施例において、GSK3阻害剤は、CHIR99021、LiCl、Li2CO3及びBIO((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン(Bromoindirubin)-3’-オキシム)、TD114-2、ケンパウロン(Kenpaullone)、TWS119、CBM1078、SB216763、3F8(TOCRIS)、AR-A014418、FRATide、インジルビン-3’-オキシム及びL803からなる群から選択される。
【0009】
いくつかの実施例において、TGFβ阻害剤は、SB431542、Repsox、616452、LDN193189、A8301、GW788388、SD208、SB525334、LY364947、D4476、SB505124及びギニスト(Tranilast)からなる群から選択される。
【0010】
いくつかの実施例において、環状AMP誘導剤は、フォルスコリン(forskolin)、IBMX、ロリプラム(Rolipram)、8BrcAMP、プロスタグランジンE2(PGE2)、NKH477、ジブトイルモノシクロアデニル酸(DBcAMP)、Sp-8-Br-cAMPsである。
【0011】
いくつかの実施例において、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、5-アザ-dC、5-アザシチジン(Azacytidine)及びRG108からなる群から選択される。
【0012】
いくつかの実施例において、DOT1L阻害剤はEPZ004777である。
【0013】
いくつかの実施例において、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA(trichostatin A;TSA)、ボリノスタット(vorinostat)、デプシペプチド(depsipeptide)、Trapoxin、Depudecin、FR901228及び酪酸塩からなる群から選択される。
【0014】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は体細胞である。いくつかの実施例において、体細胞は中胚葉、外胚葉又は内胚葉に由来するものである。
【0015】
いくつかの実施例において、体細胞は線維芽細胞である。いくつかの実施例において、線維芽細胞は、マウス胚線維芽細胞(MEF)、マウス尾端線維芽細胞(TTF)、ヒト胚線維芽細胞(HEF)、ヒト新生児線維芽細胞(HNF)、成人線維芽細胞(HAF)、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0016】
いくつかの実施例において、体細胞はヒト脱落腎臓上皮細胞である。
【0017】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は幹細胞である。いくつかの実施例において、幹細胞は、ヒト臍帯間葉系幹細胞、ヒト胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞(iPSC)からなる群から選択される。
【0018】
いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は幹細胞である。いくつかの実施例において、幹細胞は神経堤細胞様細胞(NCC様細胞)である。いくつかの実施例において、NCC様細胞はP75、Hnk1、AP2α及びSox10陽性を呈する。
【0019】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は第1組のリプログラミング因子の存在下で(a)少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12日間、又は、(b)20、19、18、17、16、15、14、13又は12日間未満培養する。
【0020】
本開示は、TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下で第2タイプの細胞を培養することを含む、第2タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングする方法を提供する。
【0021】
いくつかの実施例において、第2組のリプログラミング因子は、BMP4及び/又はDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤をさらに含む。いくつかの実施例において、カゼインキナーゼ1阻害剤はCKI-7である。いくつかの実施例において、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、5-アザシチジン、5-アザ-dC及びRG108からなる群から選択される。
【0022】
いくつかの実施例において、第3タイプの細胞は体細胞である。いくつかの実施例において、体細胞は角膜内皮細胞(CEC)様細胞(CEC様細胞)である。いくつかの実施例において、CEC様細胞はZO-1及びNa+/K+-ATP酵素陽性を呈する。
【0023】
いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は第2組のリプログラミング因子の存在下で(a)少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12日間、又は、(b)20、19、18、17、16、15、14、13又は12日間未満培養する。
【0024】
本開示は、ステップ(a)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養すること、及び、ステップ(b)TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下でステップ(a)から得られた細胞を培養すること、を含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングする方法を提供する。
【0025】
いくつかの実施例において、方法は、ステップ(b)を開始する前にステップ(a)から得られた細胞を洗浄することをさらに含む。いくつかの実施例において、ステップ(a)とステップ(b)との間に洗浄ステップが存在しない。
【0026】
本開示は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子及びTGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養することを含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングする方法を提供する。
【0027】
本開示は、本明細書が提供する方法に基づいて生成されたNCC様細胞集団を提供する。
【0028】
本開示は、本明細書が提供する方法に基づいて生成された角膜内皮細胞様細胞(CEC様細胞)集団を提供する。
【0029】
本開示は、本明細書が提供するNCC様細胞又はCEC様細胞を含む組成物を提供する。
【0030】
本開示は、必要とする被験者に有効量の本明細書が提供するCEC様細胞又は本明細書が提供する組成物を投与することを含む、機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状を治療する方法を提供する。いくつかの実施例において、被験者はヒトである。
【0031】
いくつかの実施例において、疾患又は病状は、フックスジストロフィー(Fuch’s dystrophy)、虹彩角膜内皮症候群、後部多形性角膜変性症、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、加齢黄斑変性症(AMD)、網膜色素変性症、緑内障、角膜ジストロフィー、コンタクトレンズの使用、白内障手術及び角膜移植における後期内皮不全からなる群から選択される。
【0032】
本開示は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子を含む、第1タイプの細胞を第2タイプの細胞にリプログラミングするためのキットを提供する。
【0033】
本開示は、TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子を含む、第2タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングするためのキットを提供する。
【0034】
本開示は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子及びTGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子を含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングするためのキットを提供する。
【0035】
本開示は、NCC、ciNCC又はciCECに薬物候補を投与し、細胞の薬物候補に対する反応を検出することにより薬物を識別することを含む、NCC、化学的に誘導されたNCC(ciNCC)又は化学的に誘導されたCEC(ciCEC)の効果に影響を与える薬物を識別する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】化学成分により決定された条件で線維芽細胞をciNCCに転換することを示す。A)マウス線維芽細胞からの誘導方法を示す模式図である。B)神経堤細胞様細胞誘導期間の異なる時点での形態変化を示す。C)指定条件で生成されたciNCCコロニー数を示す。データは平均値±SD、n=3の独立実験である。D)蛍光顕微鏡で原位置で撮影されたSOX10
+コロニーの画像を示す。E)指定条件で生成されたSOX10
+コロニー数を示す。データは平均値±SD、n=3の独立実験である。F)12日目のciNCCマーカーP75、Hnk1及びAP2αの免疫染色を示す。
【0037】
【
図2】線維芽細胞から転換されたciNCCの分化潜在能力を示す。A)免疫細胞化学分析を示し、該分析は(例えばTuj1及びペリフェリン(peripherin)の免疫細胞化学で示されるように)ciNCCが末梢ニューロンに分化することができ、(例えばS100β及びGFAPの免疫細胞化学で示されるように)さらにシュワン細胞(schwann cell)に分化することができることを示す。右側の明視野画像は、ciNCCから分化したメラニン細胞を示す。B)(例えばそれぞれアルシアンブルー(Alcian blue)染色、オイルレッドO(Oil Red O)染色及びアリザリンレッド(Alizarin Red)染色で示されるように)ciNCCはさらに軟骨細胞、脂肪細胞及び骨細胞に分化することができることを示す。
【0038】
【
図3】ciNCCがさらに角膜内皮細胞様細胞(又は化学的に誘導されたCEC、ciCEC)に分化することができることを示す。
図3Aは角膜内皮マーカー(Na+-K+ATP酵素、AQP1、ビメンチン(Vimentin)、N-カドヘリン(N-cadherin)、ラミニン(laminin)及びAQP1を含む)の免疫蛍光染色を示す。細胞核はDAPIで染色される。縮尺は50μmである。
図3Bは透過型電子顕微鏡画像を示し、該画像は角膜内皮細胞の緊密な接続を示す。
図3Cは線維芽細胞から角膜内皮細胞を機能的に生成するための2段階系譜リプログラミングストラテジーのスキームを示す。
【0039】
【
図4】線維芽細胞の角膜内皮細胞様細胞(又はciCEC)へのリプログラミングの系統追跡(Lineage tracing)を示す図である。A)Fsp1-Cre:R26R
tdTomatoMEFからリプログラミングされた角膜内皮細胞様細胞の起源を追跡するための遺伝的運命マッピング(genetic fate mapping)方法の模式図を示す。B)Fsp1-Cre:R26R
tdTomatoMEFからリプログラミングされた角膜内皮細胞様細胞の起源の系統追跡を示す。C)免疫細胞化学分析を示し、該分析はFSP1-ciNCCがP75、Hnk1、AP2α及びSOX10陽性を呈することを示す。D)これらのMEFから誘導されたFsp1-Cre:R26R
tdTomatoMEF及びciCECの代表的な形態変化を示す。
【0040】
【
図5】小分子によって異なる人体細胞タイプから角膜内皮細胞様細胞が生成されることを示す。ヒト胚皮膚線維芽細胞(HEF)、ヒト新生児線維芽細胞(HNF)、成人線維芽細胞(HAF)、ヒト臍帯間葉系基質細胞(MSC)及び尿細胞(UC)である。
【0041】
【
図6】ウサギにおけるciCECグループと対照グループの異なる日数での臨床観察結果を示す。A)第10世代(P10)におけるciCECの明視野画像を示す。第10世代のciCECはNa+-K+ATP酵素とZO-1を発現する。B)スリットランプの写真を示し、該写真はciCEC移植注射の7日目後に、ciCECグループの角膜の透明度が顕著に改良され(第1図)、スリットランプの写真分析による未処理対照グループの角膜混濁及び基質浮腫が依然として深刻である(第3図)ことを示す。C)visante OCT分析によるCEC様細胞グループと対照グループにおける顕著な角膜厚さの差を示す。D)共焦点顕微鏡画像を示し、該画像はciCECグループにおいてデスメ膜(Descemet’s membrane)上の多角形細胞の完全被覆が確認された。E)低用量(1×10
6個細胞/ミリリットルのciCEC)、高用量(2×10
6個細胞/ミリリットルのciCEC)及びPBSで処理された対照グループにおける臨床観察期間の角膜厚さの変化を示す。B)~D)の左から右への画像は、第1の画像:ciCECで処理されたグループ、第2の画像:無事な反対側の眼、第3の画像:PBSで処理された対照グループ、第4の画像:正常な眼のグループである。
【0042】
【
図7】ウサギにおけるciCECグループと対照グループの異なる日数の時のスリットランプの写真を示す。スリットランプ写真は注射後にciCECグループの角膜の透明度が顕著に改良され、瞳孔及び虹彩テクスチャが見られることを示す(ciCECグループ、上方の図)。約14日後に、角膜が明らかに透明になり、対照グループにおいて角膜混濁及び基質浮腫が依然として深刻である(対照グループ、上方の図)。ciCECグループ及び対照グループの両者の下方の図はスリットランプにより検出された角膜反射を示し、下方の図における各画像はその上方の図における画像に対応する。
【0043】
【
図8】小分子誘導によりMEFをciNCCに転換することを示す。A)MEFからNCCをリプログラミングする模式図である。B)各化学品のciNCC生成に対する効果である。データは平均値±SD、n=3の独立実験である。C)各化学品のciNCC生成に対する促進効果である(データは平均値±SD、n=3の独立実験である)。D)MEFをciNCCに転換するストラテジーの模式図である。E)小分子混合物(cocktail)を用いてMEFからWnt1
+ciNCCを生成することである。F)コンビナトリアルスクリーニングにおける候補混合物により誘導されたciNCCクラスタにおけるWnt1
+細胞数の定量である(独立実験、n=3)。G)ciNCC誘導処理期間の異なる日数での形態変化である(縮尺は50μm)。H)異なる日数に候補混合物により誘導されたWnt1
-tdTomato
+細胞の百分率である(独立実験、n=3)。
【0044】
【
図9】M6により誘導されたciNCCに対する特徴付けを示す。A)M6で誘導されたciNCCの形態である(縮尺は400μm)。B)MEF由来のciNCCがP75、HNK1、AP2a及びネスチン(Nestin)を発現することを示す免疫染色である(縮尺は50μm)。C)末梢ニューロンマーカーで染色された分化したciNCCの代表的な画像である(縮尺は50μm)。D)ciNCCのシュワン細胞及びメラニン細胞への分化及びマーカー発現である(縮尺は50μm)。E)ciNCCは間葉系系譜に分化してさらに脂肪細胞、軟骨細胞及び骨細胞に分化する(縮尺は100μm)。
【0045】
【
図10】小分子誘導による線維芽細胞からのマウスciCECの生成を示す。A)MEFからciCECを化学的にリプログラミングする模式図である。B)初期MEF、リプログラミングされたciNCCコロニー及びciCECの明視野画像である(縮尺は400μm)。C)Wnt1
-tdTomato
+ciNCCからciCECを誘導加工する期間の異なる日数での形態変化である(縮尺は400μm)。D)ciCECの角膜内皮マーカーNa
+/K
+-ATP酵素、AQP1、ビメンチン、N-カドヘリン、ラミニン及びZO-1に対する免疫蛍光染色である(縮尺は50μm)。E)ciCECにおけるLDL取り込み機能である(縮尺は50μm)。F)指定時点でのサンプル中の差次的発現遺伝子のヒートマップである。ヒートマップの下の番号は、独立したBiological Replicatesを示す。赤色及び青色はそれぞれアップレギュレーション及びダウンレギュレーションされた遺伝子を示す。G)緊密に接続されたciCECのTEMを示す(縮尺は5μm)。
【0046】
【
図11】ciNCC及びciCECの遺伝子発現プロファイリングを示す。A)指定時点でのNC遺伝子発現のqRT-PCR分析を示す。遺伝子発現(log2)は、MEFにおける遺伝子発現に対して正規化されている。B)異なる継代数のMEF由来のciCEC、MEF及びpCECにおける指定されたNC細胞遺伝子発現のqRT-PCR分析である。C)指定時点でのサンプル中の差次的発現遺伝子のヒートマップである。ヒートマップの下の番号は独立したBiological Replicates(n=2-3)を示す。赤色及び青色はそれぞれアップレギュレーション及びダウンレギュレーションされた遺伝子を示す。D)リプログラミング、ciCEC及び対照pCECの0日目(D0)、7日目(D7)及び12日目(D12)からのサンプルの主成分分析である。
【0047】
【
図12】線維芽細胞からciCECを誘導することを実証する系統追跡を示す。A)遺伝系統追跡ストラテジーを示す模式図である。Fsp1-Cre/ROSA26
tdTomato背景のE13.5マウス胚に由来するMEFのP75
-/tdTomato
+細胞を分取することによりMEFを得た。B)Fsp1-Cre/ROSA26
tdTomato遺伝的背景を有するMEF由来のP75
-/tdTomato
+細胞のFACS分取結果を示す。C)P75
-/tdTomato
+細胞におけるSox10、P75、Olig2、Hnk1、AP2、Sox2及びPax6の結果が陰性であることを示す免疫染色分析である(縮尺は100μm)。D)P75
-/tdTomato
+細胞のciNCC及びciCECへの分化である(縮尺は400μm)。e)Fsp1-tdTomato-MEF由来のciCECにおけるZO-1、ラミニン、Na
+/K
+-ATP酵素及びAQP1が陽性であることを示す免疫染色分析である(縮尺は50μm)。
【0048】
【
図13】小分子がciCECの長期にわたる増幅を促進することを示す。A)ciCECが無血清対照培地で3日間増殖することである(縮尺は200μm)。B)SB431542及びCKI-7が添加された無血清培地におけるciCECの連続増幅である(縮尺は200μm)。C)SB431542及びCK1-7を含むか又は含まない培地で培養されたciCECの平均集団倍加時間である(平均値±SD、n=3;***p<0.001)。D)P5にあるciCECの明視野画像であり、ciCECはSB431542及びCKI-7が添加された培養条件で3日間増幅する(縮尺は50μm)。E)P30にあるこれらのciCECが固定されNa
+/K
+-ATP酵素、AQP1及びZO-1に対して染色される(縮尺は50μm)。
【0049】
【
図14】ciCECのイン・ビボ移植を示す。A)ciCEC及びROCK阻害剤をモデルウサギに移植することを描画する図である。B)移植後、移植された眼における角膜透明度が顕著に改良され、未処理対照における角膜混濁及び基質浮腫が依然として深刻である。C)移植後に、移植された角膜の透明度が顕著に改良され、未処理対照において角膜混濁及び基質浮腫が依然として存在することを示すスリットランプ顕微鏡画像である。D)生存tdTomato
+ciCECがデスメ膜に接続されたことを示す免疫組織化学である(縮尺は100μm)。E)移植された眼で改善された角膜浮腫(減少された角膜厚さ)を示すVisante OCTである。F)移植後の角膜厚さの傾向である。未処理対照と移植対照との間に角膜厚さ上の顕著な差異が存在する。結果はBiological Replicates(n=9)の平均値及びSEMである。G)角膜内皮のリアルタイムな共焦点結像であり、それは移植された眼においてデスメ膜上の多角形細胞の完全被覆が確認された。
【0050】
【
図15】Wnt1
-MEFの特徴付けを示す。A)遺伝系統追跡ストラテジーを示す模式図である。Wnt1
-Cre/ROSA26tdTomato背景のE13.5マウス胚に由来するMEFのtdTomato
-細胞を分取することによりWnt1
-MEFを得た。B)MEF由来のtdTomato
-細胞のFACS分取結果を示す。C)Wnt1
-MEFにおけるP75、HNK1、Sox10及びAp2の陰性結果を示す免疫染色分析である(縮尺は100μm)。D)Wnt1
-MEF及び初代NCCにおいて指定された神経堤遺伝子発現を示すRT-PCR分析である。Gapdhは、対照とする。E)Wnt1
-MEF由来のciNCCコロニーの代表的な画像を示す(縮尺は400μm)。
【0051】
【
図16】M6がtdMEFをciNCCに転換することを示す。A)tdMEF及びtdMEF由来のciNCCの形態である(縮尺は400μm)。B)ciNCCがciCECに分化する代表的な画像である(縮尺は400μm)。C)tdMEF由来のciNCCがNC細胞マーカー(P75、HNK1、Sox10及びAP2α)を発現することを示す免疫染色分析である(縮尺は50μm)。D)FSP1-tdTomato
+ciCECの分化過程である。
【0052】
【
図17】iPSC段階を経由せずに、小分子により線維芽細胞からciCECを生成することを示す。A)MEFからciCECを誘導する期間の異なる時点での形態変化である(縮尺は400μm)。B)MEF由来のciNCCコロニーはNCマーカーSox10に対して行われた免疫蛍光染色である(縮尺は400μm)。C)OG-MEFからciCECを誘導する期間の異なる時点での形態変化である(縮尺は400μm)。D)FACS分析により、ciCEC誘導に対して、Oct4-GFP陽性細胞が存在しないことが測定される。E)典型的なciCEC核型(第10世代)である。
【0053】
【
図18】ciCECの増殖潜在能力を示す。A)P3にあるciCEC及びP3にあるpCECの代表的な画像である(縮尺は400μm)。B)P3にあるciCEC及びP3にあるpCECにおけるKi67とZO-1の発現の免疫蛍光画像である。C)フローサイトメトリーにより分析された異なる継代数のciCEC及びpCECのEdU取り込み実験である。D)細胞周期(G1、S及びG2期)におけるciCEC及びpCECの分布である(縮尺は400μm)。P3にあるciCEC及びP3にあるpCECをスクラッチし、8時間及び20時間後にマイグレーションが観察され、画像を撮影する。E)P3にあるpCEC及びP3、P15、P30にあるciCECのスクラッチアッセイ(scratch wound assay)である(縮尺は200μm)。8時間及び20時間後にマイグレーションが観察された。F)創傷閉鎖に対する定量を示す。
【0054】
【
図19】ウサギモデルの移植眼を観察した結果を示す。A)ベースライン(細胞注射前)及びROCK阻害剤が補充されたciCEC注射後の異なる日数で得られた被験者#10における移植眼のスリットランプ顕微鏡(中央)及び共焦点顕微鏡画像(右側)である。B)異なる日数でciCEC移植された眼中の角膜厚さを示すVisante OCTである。C)デスメ膜に接続された生存tdTomato
+ciCECを示す免疫染色分析である。D)異なる日数での角膜厚さの変化である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下の本開示の説明は、本開示の様々な実施例を説明するためのものに過ぎない。したがって、検討された具体的な修正は本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。当業者にとって明らかなように、本開示の範囲から逸脱することなく様々な等価物、変更及び修正を行うことができ、このような等価実施例が本明細書に含まれることが理解される。本明細書が引用する全ての参考文献は、出版物、特許及び特許出願を含み、いずれも全文引用の方式で本明細書に組み込まれる。
【0056】
A.一般的な定義
【0057】
コンテキストが別途に明確に指示されない限り、単数の用語「一(a/an)」及び「前記」は複数の指示物を含む。例として、「一細胞」に言及することは一種又は複数種の細胞を指し、「前記方法」に言及することは本明細書に開示された及び/又は当業者に知られている等価ステップ及び方法に言及することを含み、以下同様とする。同様に、コンテキストが別途に明確に指示されない限り、単語「又は」は「及び」を含むことを意図する。本明細書に記載された方法及び材料と類似するか又は等価の方法及び材料は本開示を実践するか又は試験するために用いることができるが、以下に適切な方法及び材料を説明する。略語「例えば(e.g.)」はラテン語exempli gratiaに由来し、本明細書において非限定的な例を示すために用いられる。したがって、略語「例えば(e.g.)」は用語「例えば(for example)」と同義である。
【0058】
本明細書で使用されるように、用語「含む(comprising/comprises)」は組成物、方法及び前記方法又は組成物に対して不可欠なその対応する成分に言及する時に使用されるが、示されていない要素を含むことに対して、必要であるか否かに関わらず、依然として開放される。
【0059】
用語「~からなる」は本明細書に記載された組成物、方法及びその対応する成分を指し、それは前記実施例の説明に記載されていない任意の要素を排除する。
【0060】
用語「約」又は「略」は所定値又は範囲の20%以内を意味し、好ましくは10%以内であり、より好ましくは5%以内である。
【0061】
本明細書で使用される用語「細胞」は単一の細胞、細胞系又はそのような細胞に由来する培養物を指す。
【0062】
本明細書で使用されるように、用語「リプログラミング(reprogram/reprogramming/reprogrammed)」又はその等価物は、細胞がリプログラミングを行わない同じ条件で有する分化状態に比べて、培養物又はイン・ビボで細胞の分化状態を変更するか又は逆転する過程を指す。換言すれば、本開示の場合に、「リプログラミング」は分化、脱分化及び分化転換を含む。本明細書で使用されるように、用語「分化」は一種の細胞過程を指し、低特殊化の細胞は前記細胞過程により高特殊化の細胞タイプになることである。対照的に、用語「脱分化」は一種の細胞過程を指し、そのうちの一部又は最終分化細胞は早期発育段階、例えば多能性又は複能性を有する細胞に復帰することである。さらに対照的に、用語「分化転換」は一つの分化細胞タイプを別の分化細胞タイプに転換する細胞過程を指す。したがって、本明細書に使用されるように、用語「低い分化状態」又は「低い特殊化」又は「早期発育段階」は相対的な用語でありかつ完全脱分化状態(又は完全脱分化)及び部分的分化状態(又は部分的分化)を含む。上記細胞発育と区別するために、「未分化細胞」は多くの方向に分化することができる細胞であり、すなわちそれは二種又はそれ以上の特殊化細胞に分化することができる。未分化細胞の典型例は、幹細胞である。
【0063】
細胞タイプは分化期間において様々なレベルの潜在能力、例えば全能性(totipotency)、多能性(pluripotency)及び複能性(multipotency)を経由する。フレーズ「全能性幹細胞」は生体を構成する全ての細胞に分化することができる細胞を指し、例えば卵細胞と精細胞の融合により生成された細胞である。受精卵の前の数回の分裂により生成された細胞も全能性である可能性がある。これらの細胞は胚及び胚外細胞タイプに分化することができる。多能性幹細胞、例えばES細胞は、任意の胚及び成体細胞タイプを生成することができる。しかしながら、それは胚又は成体動物を単独で育成することができず、それは胚外組織を発育する潜在能力が乏しいためである。胚外組織部分は胚外内胚葉に由来し、さらに遠位内胚葉(parietal endoderm)(ライヘルト膜(Reichert’s membrane))及び近位内胚葉(visceral endoderm)(卵黄嚢を形成する部分)に分類することができる。遠位内胚葉及び近位内胚葉の両方は胚の発育を支持するが、それ自体は胚構造を形成しない。さらに他の胚外組織が存在し、胚外中胚葉及び胚外外胚葉を含む。本明細書で使用されるように、「多能性幹細胞」又は「多能性」を有する細胞又は等価物は全ての三種類の胚葉(例えば、内胚葉、中胚葉及び外胚葉)に分化可能な細胞集団を指す。多能性細胞は様々な多能性細胞特異的マーカーを発現し、未分化細胞の細胞形態特徴(すなわち、緻密なコロニー、高核質比及び明らかな核小体)を有し、免疫低下動物、例えばSCIDマウスに導入する時に奇形腫を形成する。奇形腫は典型的には全ての三種類の胚葉の細胞又は組織特徴を含む。当業者であれば、当分野で一般的に用いられている技術を用いて、これらの特徴を評価することができる。例えばThomsonら、『サイエンス(Science)』282:1145-1147(1998)を参照する。多能性細胞は細胞培養において増殖して複能性特性を示す様々な系譜に向かって細胞集団の分化を制限することができる。複能性幹細胞(multipotent stem cells)又は複能性又は等価性を有する細胞は多能性幹細胞(pluripotent stem cells)に対して分化程度がより高いが、最終分化しない。これにより、多能性幹細胞は、複能性幹細胞よりも高い潜在能力を有する。
【0064】
B.リプログラミング細胞
【0065】
一態様において、本開示は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子-β(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養することを含む、第1タイプの細胞を第2タイプの細胞にリプログラミングするための方法を提供する。
【0066】
いくつかの実施例において、第1組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はより多くの細胞を第2タイプの細胞に変化させる。
【0067】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は中胚葉、外胚葉又は内胚葉に由来する哺乳動物細胞であり、例えばヒト又はマウスである。
【0068】
外胚葉、中胚葉及び内胚葉は胚の発育中に形成された三つの胚葉であり、そのうち中胚葉を中間層とし、外胚葉を外層とし、内胚葉を内層とする。中胚葉は間葉系、中皮、非上皮血球及び体腔細胞を形成し、それは筋肉(平滑筋及び横紋筋)、骨、軟骨、結合組織、脂肪組織、循環系、リンパ系、真皮、泌尿生殖系、漿膜及び脊索を構成する。内胚葉は咽頭、食道、胃、小腸、結腸、肝臓、膵臓、膀胱、気管及び気管支上皮部分、肺、甲状腺及び副甲状腺を形成する。外胚葉は表面外胚葉、神経堤及び神経管を形成し、そのうち表面外胚葉は表皮、毛髪、爪、眼の水晶体、皮質腺、角膜、エナメル質、口及び鼻の上皮に成長する。外胚葉の神経堤は末梢神経系、副腎髄質、メラニン細胞、顔面軟骨及び象牙質に成長する。また外胚葉の神経管は脳、脊髄、脳下垂体後葉、運動ニューロン及び網膜に成長する。
【0069】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は体細胞である。本明細書で使用されるように、用語「体細胞」は生殖系細胞(例えば、精子及び卵、及びそれを製造する細胞(生殖母細胞))及び未分化幹細胞以外の任意の細胞を指す。内臓、皮膚、骨、血液及び結合組織は、いずれも体細胞からなる。体細胞は、任意由来の任意タイプの体細胞であってもよい。例えば、体細胞は線維芽細胞、上皮細胞、セルトリ細胞、内皮細胞、上皮顆粒層、ニューロン、膵島細胞、表皮細胞、肝細胞、毛嚢細胞、ケラチノサイト、造血細胞、メラニン細胞、軟骨細胞、リンパ球(B及びTリンパ球)、赤血球、マクロファージ、単球細胞(monocyte)、単核細胞(momonuclear cell)、心筋細胞及び他の筋細胞を含むがそれらに限定されない。
【0070】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は中胚葉細胞である。中胚葉細胞のマーカーは本分野で知られており、例えばCD56及びAPJである。いくつかの実施例において、中胚葉細胞は線維芽細胞、上皮細胞、白血球、脂肪細胞及びケラチノサイトを含む。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は線維芽細胞であり、マウス胚線維芽細胞(MEF)、マウス新生児線維芽細胞(MNF)、マウス尾端線維芽細胞(TTF)、ヒト胚皮膚線維芽細胞(HEF)、ヒト新生児線維芽細胞(HNF)、成人線維芽細胞(HAF)、ヒト胚肺線維芽細胞、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)及びそれらの混合物を含むがそれらに限定されない。
【0071】
線維芽細胞は任意の適切な供給源から取得することができ、例えば商業的供給源又は様々な器官組織又は皮膚組織から取得される。好ましい線維芽細胞は、肺線維芽細胞、包皮線維芽細胞及び成体真皮線維芽細胞である。いくつかの実施例において、線維芽細胞は患者から取得され、例えば皮膚生検(例えば、決定された因子で人体細胞を多能性になるまでリプログラミングする(reprogramming of human somatic cells to pluripotency with defined factors).George Q.Daleyら『ネイチャー(Nature)』2008、ヒト皮膚の単一パンチ生検からケラチノサイト、内皮細胞及び線維芽細胞を分離して連続的に増殖するための方法(a method for the isolation and serial propagation of keratinocytes,endothelial cells,and fibroblasts from a single punch biopsy of human skin)、Normandら『In Vitro Cellular & Developmental Biology-Animal 』,1995)で取得される。
【0072】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は上皮細胞であり、例えばヒト脱落腎臓上皮細胞である。上皮細胞は、尿サンプルから得ることができる。
【0073】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は白血球(leucocyte)である。白血球は、血液サンプルから得ることができる。白血球は、一般的に、RF信号強度(高周波での電気インピーダンスの変化)、DC信号強度(懸濁粒子と粒子がその中に懸濁された液体媒体との間の電気伝導性差異による直流電流変化)、蛍光強度、散乱光強度、吸光度、散乱光脱分極等(US5618733Aを参照)の差異により、その亜集団(リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球)に分類することができる白血球(white blood cell)である。
【0074】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は脂肪細胞又はケラチノサイトである。脂肪細胞及びケラチノサイトは皮膚生検又は採取された毛髪により容易に得ることができる(皮膚又は採取された毛髪からヒトケラチノサイトを分離して培養して人工多能性幹細胞を生成する(isolation and cultivation of human keratinocytes from skin or plucked hair for the generation of induced pluripotent stem cells)、Belmonteら『ネイチャープロトコルズ(Nature Protocols)』2010)。
【0075】
他の実施例において、第1タイプの細胞は成体細胞である。本明細書で使用されるように、用語「成体細胞」は胚が発育した後に体全体に発見された細胞を指す。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は幹細胞、例えば胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)及び成形幹細胞であってもよく、造血幹細胞、血管内皮幹細胞、心臓幹細胞、筋由来幹細胞、間葉系幹細胞、表皮幹細胞、脂肪由来幹細胞、腸幹細胞、神経幹細胞、腎上皮幹細胞、尿道上皮幹細胞及び肝臓幹細胞を含むがそれらに限定されない。
【0076】
いくつかの実施例において、幹細胞は未分化細胞を指し、それは増殖してより多くの前駆細胞を生成することができ、前駆細胞は大量の母細胞を生成することができ、母細胞はさらに分化又は分化可能な子細胞を生成することができる。幹細胞は非対称分裂してもよく、そのうちの一つの子細胞は幹細胞状態を保持し他の子細胞はいくつかの独特な他の特定機能及び表現型を発現する。代わりに、集団中の幹細胞のうちのいくつかは二つの幹細胞に対称的に分裂することができ、したがって集団全体においていくつかの幹細胞を維持し、集団中の他の細胞は分化した子孫のみを生成する。子細胞自体は誘導されて増殖して子孫を生成することができ、子孫はその後に一種又は複数種の成熟細胞タイプに分化し、同時に親の発育潜在能力を有する一種又は複数種の細胞を保留する。他の実施例において、用語「幹細胞」は特定の環境でより特殊化又は分化表現型に分化する能力又は潜在能力を有する前駆細胞亜集団を指し、それはある状況で増殖してほぼ分化しない能力を保留する。一つの実施例において、用語幹細胞は一般的に天然に存在する母細胞を指し、その後代(子孫)は分化により(例えば完全な個体特徴を取得することにより)通常、異なる方向に特殊化し、例えば胚細胞及び組織の漸進的多様化において発生する。分化した細胞は複能性細胞に由来することができ、該複能性細胞自体は複能性細胞に由来するものであり、以下同様とする。これらの複能性細胞のそれぞれは幹細胞と見なすことができるが、それぞれの生成可能な細胞タイプの範囲は顕著に変更される。多くの生物の例において、幹細胞も「複能性」であり、それは一つ以上の独特な細胞タイプの子孫を生成することができるが、それは「幹細胞特性(stem-ness)」に必要なものではない。自己更新は、幹細胞定義の他の典型的な部分である。理論的には、自己更新は二つのメカニズムのうちのいずれか一つにより行うことができる。
【0077】
用語「胚性幹細胞」は胚の胚盤胞の内細胞塊の多能性幹細胞を指す(米国特許第5843780号、第6200806号を参照、それは引用により本明細書に組み込まれる)。胚性幹細胞の区別的な特徴は胚性幹細胞の表現型を限定する。したがって、細胞が前記細胞を他の細胞と区別できる胚性幹細胞の独特な特徴のうちの一つ又は複数を有する場合、前記細胞は胚性幹細胞の表現型を有する。例示的に胚性幹細胞の区別的な特徴は、遺伝子発現プロフィール、増殖能、分化能、核型、特定の培養条件に対する反応性等を含むがそれらに限定されない。
【0078】
用語「成体幹細胞」又は「ASC」は、非胚性組織(胎児、幼体及び成体組織を含む)に由来する複能性幹細胞を意味する。成体幹細胞は広く様々な成体組織から分離され、血液、骨髄、脳、嗅上皮、皮膚、膵臓、骨格筋及び心筋を含む。これらの幹細胞はいずれも培養物における遺伝子発現、因子反応性及び形態に基づいて特徴づけることができる。以上に示すように、幹細胞がほぼ各組織に存在することが発見された。したがって、本明細書に記載された技術から幹細胞集団がほとんど任意の動物組織から分離することができることを知ることができる。
【0079】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は間葉系幹細胞、間葉系基質細胞、ヒト胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞(iPSC)であってもよい。
【0080】
本明細書で使用されるように、用語「iPS細胞」、「iPSC」及び「人工多能性幹細胞」は互換的に使用することができ、かつ人工的に(例えば、完全又は部分的に逆転誘導により)作られた自己分化した体細胞(すなわち、非多能性細胞に由来する)多能性細胞を指す。多能性細胞は三種類の発育胚葉の全ての細胞に分化することができる。
【0081】
間葉系幹細胞(MSC)又は間葉系基質細胞は、伝統的に骨髄から発見された成体幹細胞である。しかしながら、間葉系幹細胞は他の組織(臍帯血、末梢血、卵管及び胎児肝臓及び肺を含む)から分離することもできる。MSCは様々な細胞タイプに分類することができ、骨芽細胞(骨細胞)、軟骨細胞(chondrocyte/cartilage cell)、筋細胞(筋肉細胞)及び脂肪細胞(adipocyte)(骨髄脂肪組織を生成する脂肪細胞(fat cell))を含む。
【0082】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は外胚葉細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は内胚葉細胞である。
【0083】
いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は第1タイプの細胞から分化転換する。例えば、中胚葉細胞を外胚葉細胞にリプログラミングする。いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は外胚葉細胞である。いくつかの実施例において、複能性幹細胞は神経堤細胞(NCC)又は神経堤細胞様細胞である。いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は神経堤細胞(NCC)又は神経堤細胞様細胞である。
【0084】
「神経堤細胞」又は「NCC」とは、一般に、メラノソームマーカーとHMB45とを共発現する色素細胞を生成する発育潜在能力を有する神経前駆細胞を意味する。神経堤細胞は本明細書で同定され当分野で知られているマーカーを発現することにより同定することができる。本明細書が提供する化学的に誘導されたNCC(ciNCC)と初代NCCを区別するために、得られたciNCCも神経堤細胞様細胞(NCC様細胞)と命名される。いくつかの実施例において、得られたNCCのNCC様細胞は初代NCC表現型と一致する一種又は複数種のバイオマーカーを示す。いくつかの実施例において、得られたNCC様細胞はNCC表現型と一致する一種又は複数種のバイオマーカーの発現を欠如するか又はその発現が低い(例えばPAX6の発現)。存在状況がNCC表現型と一致する例示的なNCバイオマーカーは、ネスチン(Nestin)、SOX10、SOX9、HNK-1、P75(NGFR)、AP2α、PAX3、PAX7、SNAI2、Snail、Twistl、Krox20、CD271、FoxD3、AN2及びKi67、及び/又は少なくとも一種の多能性マーカーNANOG、ZNF206又はOCT4を含むことができる。いくつかの実施例において、NCバイオマーカーはP75、Hnk1、AP2α及び/又はSOX10である。実施例において、NCC様細胞を生成する第1タイプの細胞に対して、NCバイオマーカーの発現の向上は2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000倍を超え又はそれ以上である。
【0085】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は線維芽細胞でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞はマウス胚線維芽細胞(MEF)でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞はマウス尾端線維芽細胞(TTF)でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞はヒト胚皮膚線維芽細胞(HEF)でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞はヒト胚肺線維芽細胞、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞はヒト新生児線維芽細胞(HNF)又は成人線維芽細胞(HAF)でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。
【0086】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は上皮細胞(例えばヒト脱落腎臓上皮細胞)でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は白血球(例えばリンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球)でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は脂肪細胞でありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞はケラチノサイトでありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞はMSC、ヒト胚性幹(ES)細胞又はiPSCでありかつ第2タイプの細胞はNCC様細胞である。
【0087】
いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は別のタイプの幹細胞(第1タイプの細胞)(例えば間葉系幹細胞、ヒト胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞(iPSC))からリプログラミングされたいくつかのタイプの複能性幹細胞である。
【0088】
マーカーの発現は当分野で知られている任意の方法により検出することができ、ウエスタンブロッティング、mRNA増幅に基づく方法(例えば、PCR、等温増幅等、それは逆転写を含み単一細胞又は複数の細胞からの発現を検出することに適用することができる)、ノーザンブロット、免疫染色等を含むがそれらに限定されない。また、前記マーカーの発現はレポーター構築物(reporter construct)(例えば視覚的に検出可能な蛍光タンパク質の発現、抗生物質の存在下での細胞生存により検出可能な抗生物質耐性遺伝子の発現など)の発現により推定することができ、該レポーター構築物は細胞タイプに特異的発現を付与する遺伝子エレメント(例えば前述のマーカーのうちの一種又はその断片のプロモーター)の制御下にある。例示的なレポーター構築体はpOCT4-GFP及びpOCT4-LUC遺伝子であり、それらはそれぞれGFP及びルシフェラーゼのES細胞における発現を駆動し、GFP及びルシフェラーゼのうちのいずれか一つの発現は従来の方法で容易に検出することができる。マーカー表現を検出する他の使用可能な方法は当分野で知られている。一般的にAusubel、『Current Protocols in Molecular Biology』(Current Protocols)、1988);Ausubelら、『Short Protocols in Molecular Biology』(Current Protocols;第5版,2002);Sambrookら、『Molecular Cloning:A Laboratory Manual』(Cold Spring Harbor Laboratory Press),第3版,2001);Sambrookら、『The Condensed Protocols from Molecular Cloning:A Laboratory Manual』(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2006)を参照し、前記文献のそれぞれは全文引用の方式で本明細書に組み込まれる。
【0089】
当分野で知られている任意の細胞培養システムは本開示に用いることができる。いくつかの実施例において、接着培養システムは本開示の方法に用いられる。用語「接着培養」は一種の細胞培養システムを指し、細胞はこれにより固体表面で培養され、固体表面はさらに基質で塗布することができる。細胞は固体表面又は基質に密着していてもよく密着していなくてもよい。接着培養に用いられる基質は、さらに、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリオルニチン、ラミニン、ポリリジン、精製コラーゲン、ゼラチン、セルロース、細胞外マトリックス、フィブロネクチン、テネイシン(tenacin)、ビトロネクチン(vitronectin)、ポリ解糖系酸(poly glycolytic acid)(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)、マトリゲル、ヒドロキシアパタイト及び羊膜のうちのいずれか一種又は組み合わせを含むことができる。
【0090】
いくつかの実施例において、浮遊培養は本開示の方法に用いることができる。本明細書で使用される用語「浮遊培養」は細胞を固体担体又は培養容器に付着させない細胞培養方式を指す。細胞を浮遊培養物に転移するために、細胞を例えばセルスクレーパーにより培養容器から取り出して、培地を含有する無菌低接着性培養プレートに転移し、前記培養プレートは細胞を培養プレートの表面に接着することを許可しない。したがって、細胞はマトリックス又は培養皿の底部に付着せずに浮遊培養することができる。
【0091】
細胞の培養に適した培地は、培養皿に、ある細胞タイプを生育させるのに適した任意の培地である。該培地は例えばHam’s F10(Sigma)、Ham’s F12培地、Minimal Essential Medium(MEM)(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)及びDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)(Sigma)、IMDM培地、培地199、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)、aMEM培地、Fischer’s medium、Neurobasal medium(Life Technologies Corporation)及びこれらの培地の混合物を含む。また、Hamら、『Meth.Enz.』58:44(1979)、Barnesら、『Anal.Biochem.』102:255(1980)、米国特許第4767704号、第4657866号、第4927762号、第4560655号、又は第5122469号、WO90/03430、WO87/00195、又は米国特許再発行番号30985に記載の培地のうちのいずれか一つを培地として用いることができる。これらの培地のいずれかは必要に応じて必要な塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム塩、マグネシウム塩及びリン酸塩)、緩衝剤(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えばGENTAMYCINTM薬物)、微量元素(通常、マイクロモル範囲内の最終濃度で存在する無機化合物として定義される)、グルコース又は等価エネルギー源、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、成長因子、低分子量化合物、抗酸化剤、ピルビン酸、サイトカイン等を補充することができる。当業者に知られている適切な濃度の任意の他の必須補充剤をさらに含むことができる。培養条件(例えば温度、pH等)は従来の細胞培養に用いられる培養条件であり、一般的な当業者に明らかである。
【0092】
本明細書に記載の細胞リプログラミング方法において、細胞は一種又は複数種の本明細書に記載のリプログラミング因子が補充された基本培地で培養される。例えば、第1組のリプログラミング因子を添加する前に、基本培地はDMEM/F12/Glutamax(Gibco)、10%ノックアウト血清代替(KnockOut Serum Replacement;KSR)(Gibco)、1%NEAA(Gibco)、10%FBS(Gibco)及び0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)を含むことができる。別の実施例において、第1組のリプログラミング因子を添加する前に、基本培地はDMEM/F12/Glutamax(Gibco)、0.075%ウシ血清アルブミン(BSA)(Gibco)、1%NEAA(Gibco)及び0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)を含むことができる。別の例について、第2組のリプログラミング因子を添加する前に、基本培地はDMEM/F12/Glutamax(Gibco)、10%ノックアウト血清代替(KSR)(Gibco)、1%NEAA(Gibco)及び0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)を含むことができる。いくつかの実施例において、第2組のリプログラミング因子に用いられる基本培地は血清を含まない。当業者に理解されるように、他の必要な補充剤(例えば上述した補充剤)を培地に添加することができる。
【0093】
培養温度について、35.0℃又はそれ以上の温度で培養すると、細胞リプログラミングを促進することができることが実証された。培養温度は細胞を損傷しない温度であり、例えば好ましくは35.0℃~42.0℃であり、又はより好ましくは36.0℃~40.0℃であり、又はより好ましくは37.0℃~39.0℃である。
【0094】
リプログラミング因子は細胞と接触する時(例えば、細胞により発現されたり、細胞に形質転換されて発現したり、細胞に外因的に提供したりする等)に単独で又は他の分子と組み合わせてリプログラミングを引き起こすことができる分子である。リプログラミング因子は外因性の由来から提供することができ、例えば培地に添加することにより、かつ本分野で知られている方法、例えば細胞とのペプチドカップリング、タンパク質又は核酸トランスフェクション試薬、リポフェクション、エレクトロポレーション、バイオロジカルプロジェクタイルパーティクルデリバリーシステム(biolistic particle delivery system)(遺伝子銃(gene gun))、マイクロインジェクション等により細胞に導入することができる。いくつかの実施例において、リプログラミング因子は培地に添加されて任意の他の成分と結合しない。
【0095】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞を第2タイプの細胞にリプログラミングするための第1組のリプログラミング因子は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子-β(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む。他の実施例において、第1組のリプログラミング因子は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、DOT1L阻害剤)、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、BMP4又はそれらの組み合わせをさらに含む。
【0096】
いくつかの実施例において、第1組のリプログラミング因子は、GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤からなる。いくつかの実施例において、第1組のリプログラミング因子はGSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤及びbFGFからなる。いくつかの実施例において、第1組のリプログラミング因子はGSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤及びBMP4からなる。いくつかの実施例において、第1組のリプログラミング因子はGSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、DOT1L阻害剤)及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤からなる。
【0097】
いくつかの実施例において、リプログラミング因子は、その各自のファミリー内のパラログ(paralog)により機能的に置換されることができる場合がある。
【0098】
本明細書で使用されるように、用語「阻害剤」は標的にされた発現産物(例えば標的をコードするmRNA又は標的ポリペプチド)の発現及び/又は活性を例えば少なくとも10%又はそれ以上(例えば10%又はそれ以上、50%又はそれ以上、70%又はそれ以上、80%又はそれ以上、90%又はそれ以上、95%又はそれ以上又は98%又はそれ以上)低下させることができる試薬を指す。例えば発現産物のレベル及び/又は標的の活性を測定することにより阻害剤の効果(例えば標的レベル及び/又は活性を低下させる能力)を測定することができる。所定のmRNA及び/又はポリペプチドのレベルを測定するための方法は当業者に知られており、例えばRT-PCRはRNAレベルを測定するために用いることができ、抗体を利用するウエスタンブロッティングはポリペプチドのレベルを測定するために用いることができる。標的活性は当分野で知られかつ本明細書で説明された方法、例えば転写活性アッセイを使用することができる。いくつかの実施例において、阻害剤は阻害性核酸、アプタマー、抗体又はその結合断片、又は小分子であってもよい。
【0099】
GSK3(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3)はセリン/スレオニンプロテインキナーゼであり、グリコーゲン生成、アポトーシス、幹細胞維持等に関連する多くのシグナル経路に関連する。GSK3は、異なる遺伝子によりコードされ、アミノ酸レベルで高い相同性を有するアイソフォーム(GSK3α及びGSK3β)を含む。GSK3阻害剤の例としては、GSK3α阻害剤及びGSK3β阻害剤を含む。GSK3阻害剤の具体例としては、GSK3をコードする遺伝子に対するsiRNA、抗GSK3抗体、CHIR98014(Milipore,Bedford)、CHIR99021(Milipore,Bedford)、ケンパウロン(Kenpaullone)(Milipore,Bedford)、AR-AO144-18(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz)、TDZD-8(Abcam,Cambridge,US)、SB216763(Abcam,Cambridge,US)、BIO((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)(R&D Systems,Minneapolis,US)、TWS-119(Abcam,Cambridge,US)、SB415286(Abcam,Cambridge,US)、Ro3303544(US6479490)LiCl、Li2CO3等を含む。これらの全ては市販されているか、又は当業者であれば既知の文献を参照して製造することができる。
【0100】
いくつかの実施例において、GSK3阻害剤は、CHIR99021、LiCl、Li2CO3及びBIOからなる群から選択される。いくつかの実施例において、GSK3阻害剤はCHIR99021である。いくつかの実施例において、GSK3阻害剤はBIOである。培地中のGSK3阻害剤の濃度は、使用される阻害剤の種類に応じて適宜決定される。CHIR99021又はBIOの場合、濃度は一般的に0.1-10μMであり、好ましくは1-5μMであり、より好ましくは約3μMである。一種又は複数種のGSK3阻害剤を組み合わせて使用することができる。
【0101】
TGFβ(形質転換成長因子β)は、形質転換成長因子スーパーファミリーに属する多機能サイトカインである。TGFβは三種類の異なる哺乳動物のアイソフォーム(TGFβ1~3、HGNCシンボルTGFBETA1、TGFBETA2、TGFBETA3)を含む。TGFβはマクロファージを含む多くの細胞タイプから分泌することができ、潜伏形態を呈し、中でもTGFβは他の二種類のポリペプチド(潜伏TGFβ結合タンパク質(LTBP)及び潜伏関連ペプチド(LAP))と複合する。本発明において使用されるTGFβ阻害剤の由来は特に限定されず、それがTGFβ機能を効果的に阻害することができればよい。TGFβ阻害剤は市販されているか、又は当業者であれば既知の文献を参照して製造することができる。TGFβ阻害剤の具体例としては、GSK3をコードする遺伝子に対するsiRNA、抗TGFβ抗体及び化学アンタゴニストを含む。
【0102】
いくつかの実施例において、TGFβ阻害剤は、SB431542(Tocris Bioscience,Bristol,UK)、Repsox(Tocris Bioscience,Bristol,UK)、LDN193189(Tocris Bioscience,Bristol,UK)及びトラニラスト((リザベン)Rizaben)からなる群から選択される。いくつかの実施例において、TGFβ阻害剤はSB431542である。培地中のTGFβ阻害剤の濃度は、使用される阻害剤の種類に応じて適宜決定される。SB431542の場合、濃度は一般的に0.1-20μMであり、好ましくは1-10μMであり、より好ましくは約5μMである。Repsoxの場合、濃度は一般的に0.1-20μMであり、好ましくは1-15μMであり、より好ましくは約10μMである。
【0103】
本明細書で使用されるように、用語「環状AMP誘導剤」は有効濃度で細胞におけるcAMPの細胞内濃度を少なくとも2%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、最も好ましくは少なくとも20%向上させる任意の化合物を指す。細胞内のcAMPレベルを測定するための方法は当業者に知られている。好ましくは環状AMP誘導剤はイソブチルメチルキサンチン及びフォルスコリンを含む。フォルスコリンの濃度は一般的に1-20μMであり、好ましくは5-15μMであり、より好ましくは約10μMである。
【0104】
bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)は体内に固有に存在する一種のタイプのタンパク質であり、かつそれが細胞成長及び分化を制御することができ、様々な組織及び器官において例えば血管生成、平滑筋細胞増殖、傷口治療、組織修復、造血、神経細胞分化などの機能を有することが知られている。本発明において使用されるbFGFの由来は特に限定されず、それがリプログラミングに有効であればよい。bFGFは市販されているか、又は当業者であれば既知の文献を参照して製造することができる。例えば、それは既知の塩基配列及びアミノ酸配列に基づいて合成することができ、例えばアミノ酸配列はNCBI登録番号AAA52448.1(ヒト)及びAAA37621.1(マウス)に基づいて取得することができる。培地中のbFGFの濃度は一般的に1-50ng/mlであり、好ましくは約1-20ng/mlであり、より好ましくは約10ng/ml又は約20ng/mlである。
【0105】
ヒストンのアセチル化は可逆的な修飾であり、脱アセチル化はヒストンデアセチラーゼ(HDAC)と呼ばれる酵素ファミリーにより触媒される。HDAC阻害剤はバルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA(TSA)、ボリノスタット(スベロイルアニリドヒドロキサム酸、SAHA、メルク社(Merck & Co.,Inc.))、デプシペプチド(ロミデプシン(Romidepsin)、FK-228、Gloucester Pharmaceutical Inc.)、トラポキシン、デプデシン、FR901228(Fujisawa Pharmaceuticals))及び酪酸塩を含む。いくつかの実施例において、HDAC阻害剤はVPAである。培地中のHDAC阻害剤の濃度は、使用される阻害剤の種類に応じて適宜決定される。VPAの場合、濃度は一般的に1-2000μMであり、好ましくは10-1000μMであり、より好ましくは約500μMである。
【0106】
第1組のリプログラミング因子が補充された基本培地を1、2又は3日ごとに一回更新する。
【0107】
いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は第1組のリプログラミング因子の存在下で少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30日、1.5ヶ月又は2ヶ月培養する。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞は第1組のリプログラミング因子の存在下で2ヶ月、1.5ヶ月、30、25、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1日未満培養する。いくつかの実施例において、第1タイプの細胞を第1組のリプログラミング因子の存在下で1日~2ヶ月、1日~1ヶ月、1日~25日、1日~20日、1日~19日、1日~18日、1日~17日、1日~16日、5日~16日、7日~16日、8日~16日、9日~16日、10日~16日、11日~16日、12日~16日、1日~15日、1日~14日、1日~13日、1日~12日、2日~12日、3日~12日、4日~12日、5日~12日、6日~12日、7日~12日培養する。
【0108】
一態様において、本開示は、TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下で第2タイプの細胞を培養することを含む、第2タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングするための方法を提供する。
【0109】
カゼインキナーゼ1(CK1)は、大部分の真核細胞タイプにおいてシグナル伝達経路調節因子として作用するセリン/スレオニン選択性酵素である。CK1アイソフォームは、Wntシグナル伝達、概日リズム、転写因子核-細胞質シャトリング、DNA修復及びDNA転写に関与する。本発明において使用されるCK1抑制剤の由来は特に限定されず、それがリプログラミングに有効であればよい。CK1抑制剤は市販されているか、又は当業者であれば既知の文献を参照して製造することができる。CK1阻害剤の具体例としては、CK1をコードする遺伝子に対するsiRNA、抗CK1抗体及び化学アンタゴニストを含む。好ましくは、CK1抑制剤はCKI-7である。培地中のCK1阻害剤の濃度は、使用される阻害剤の種類に応じて適宜決定される。CKI-7の場合、濃度は一般的に0.1-20μMであり、好ましくは1-10μMであり、より好ましくは約5μMである。カゼインキナーゼ1の他の阻害剤には、PF 670462(R&D systems,Minneapolis,US)、D4476(R&D systems,Minneapolis,US)、(R)-CR8(R&D systems,Minneapolis,US)、(R)-DRF053二塩酸塩(R&D systems,Minneapolis,US)、TAK 715(R&D systems,Minneapolis,US)、PF 4800567塩酸塩(R&D systems,Minneapolis,US)、LH 846、CKI 7二塩酸塩(R&D systems,Minneapolis,US)、SR 3029(R&D systems,Minneapolis,US)、エピブラスチンA(R&D systems,Minneapolis,US)、PF 5006739(R&D systems,Minneapolis,US)を含む。
【0110】
いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は外胚葉細胞である。いくつかの実施例において、外胚葉細胞は神経堤細胞(NC)又はNCC様細胞である。いくつかの実施例において、第2タイプの細胞はNC又はNCC様細胞である。NC又はNCC様細胞は、例えば、本明細書に記載されているような、又はWO/2010/096496に記載されているような二重SMAD阻害剤を用いてヒト胚性幹細胞(hES細胞)から分化させることができる。NC又はNCC様細胞はWntアゴニスト(例えばWnt3a及び/又は(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO))とSMAD阻害剤(例えばSB431542及び/又はノギン(Noggin))との組み合わせを用いてhES細胞から分化させることができる。Menendezら、『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』2011年11月29日、第108巻第48期19240-19245を参照する。例えば、hES細胞をSB431542及び(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)(ノギンが存在するか又は存在しない)又はWnt3a及びSB431542と接触させた後にNC又はNCC様細胞に対する効率的な誘導が報告された。NCは神経ロゼット(rosette)の培養によっても取得することができ、例えばMS5基質の飼育細胞にhES細胞を培養する(Leeら、『Stem Cells』25(8),1931-1939(2007)を参照し、それは全文引用の方式で本明細書に組み込まれる)。NCは大量の組織からも取得することができ、発育胚において、神経管、坐骨神経、腸管及び背根神経節に含まれ、及び幼体及び成体において、背根神経節、骨髄、皮膚、心臓、角膜、歯及び頸動脈小体に含まれる。Nagoshiら、『Journal of Cellular Biochemistry』107:1046-1052(2009);Crane及びTrainor、『Annu.Rev.Cell Dev.Biol.』2006.22:267-86;及びBlum、『Brain Research Bulletin』83(2010)189-193を参照し、前記文献のそれぞれは全文引用の方式で本明細書に組み込まれる。いくつかの実施例において、NCC様細胞は本願に基づいて第1タイプの細胞をリプログラミングすることにより取得される。
【0111】
いくつかの実施例において、第2組のリプログラミング因子の存在下で第2タイプの細胞を培養し、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の細胞が第3タイプの細胞になることを引き起こす。
【0112】
いくつかの実施例において、第3タイプの細胞は外胚葉細胞である。いくつかの実施例において、第3タイプの細胞は神経体細胞である。いくつかの実施例において、第3タイプの細胞は角膜内皮細胞様細胞(CEC様細胞)である。
【0113】
「角膜内皮細胞」又は「CEC」とは、一般的に、生体において角膜後面に配列し、眼の前房に面するミトコンドリアリッチ細胞を意味する。本明細書が提供する化学的に誘導されたCEC(ciCEC)と初代CECを区別するために、得られたCECも角膜内皮細胞様細胞(CEC様細胞)と命名される。本明細書に開示されたリプログラミング方法により取得されたCEC様細胞は、CECマーカーを表現し、主に六角形の均一な大きさの細胞単層を形成する能力、「リーキーポンプ(leaky pump)」(溶質及び栄養素が眼房水から角膜のより浅い層に漏れることを許可すると同時に逆方向でストロマから眼房水へ水を能動的にポンピングする)を形成する能力のような内因性CEC属性のうちの一種又は複数種を示すことにより識別される。例示的なCECマーカーは、Na+/K+ATP酵素、タイトジャンクションタンパク質1(TJPl/ZO-1)、KLF13、AQP1、コラーゲンVIII、SLC16A3、CFTR、NBC1、CA2、AE2/SCL4A2、SCL16A1、CA12、CA4、FoxClを含むがそれらに限定されない。例えば、CECは、通常、コラーゲンVIII、Na+K+ATP酵素ポンプ及びZO-1を発現し、かつvWF及びCD31を発現しない(後者は血管内皮細胞に存在する)。また、CECは一種又は複数種の角膜内皮ポンプマーカー(それはAQP1、CA2、CA4、CA12、SCL14A2、SLC16A1、SLC16A3、SLC16A7、CFTR、NHE1、ADC Y10、電圧依存性陰イオンチャネルVDAC2及びVDAC3、塩素イオンチャネルタンパク質CLCN2及びCLCを含む)、眼球周囲神経堤マーカー(それはPITX2及びFOXClを含む)及び/又は細胞接着及びマトリックスタンパク質(それはオクルディン(Occludin)、コネクシン(Connexin)43、9.3E抗原、コラーゲンIII、コラーゲンIV、Nカドヘリン、VEカドヘリン、Eカドヘリン、βカテニン、ラミニンα4、ネスチン(Nidogen)-2及びネトリン(Netrin)4を含む)を発現することができる。例えば、CECは少なくとも一種の角膜内皮ポンプマーカー、少なくとも一種の眼球周囲神経堤マーカー及び少なくとも一種の細胞接着及び基質タンパク質を発現することができる。
【0114】
いくつかの実施例において、得られたCEC様細胞は初代CEC表現型と一致する一種又は複数種のバイオマーカーを示す。いくつかの実施例において、得られたCEC様細胞はタイトジャンクションタンパク質1(TJPl/ZO-1)、N-カドヘリン及びNa+/K+ATP酵素を発現する。いくつかの実施例において、CEC様細胞を生成するNCC又はNCC様細胞に対して、CECバイオマーカーの発現の向上は2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000倍を超えて又はそれ以上である。
【0115】
マーカーは、当分野で公知の方法により検出又は測定することができる。例えば、N-カドヘリンによる接着接続はタンパク質レベル(例えば、抗原抗体反応を利用する方法)又は遺伝子レベル(例えば、RT-PCRを利用する方法)での発現を検査することにより確認することができる。細胞のNa+/K+-ATP酵素ポンピング機能は例えば『Investigative Ophthalmology & Visual Science』、2010第51巻、第8期、3935-3942、及び『Current Eye Research』、2009第34巻、347-354に記載の方法に基づき、ウッシングチャンバー(Ussing chamber)を用いて測定することができる。
【0116】
いくつかの実施例において、第2組のリプログラミング因子は、BMP4及び/又はDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤をさらに含む。
【0117】
骨形成タンパク質(BMP)は、骨及び軟骨の形成を促進する成長因子の群である。BMPは、骨形成タンパク質受容体(BMPR)と呼ばれる細胞表面上の特異的受容体と相互作用する。BMPRのシグナル伝達によりSMADファミリータンパク質メンバーの動員を引き起こす。BMP、BMPR及びSmadに関するシグナル伝達経路は心臓、中枢神経系及び軟骨発育及び生後骨発育において重要である。それは胚発育中に胚のパターニング及び早期骨格形成に重要な役割を有する。したがって、BMPシグナル伝達への干渉は発育胚のボディプラン(body plan)に影響を与える。BMP阻害剤の例としては、DMH2(Milipore,Bedford,US)、ドルソモルヒン(Dorsomorphin)(Abcam,Cambridge,US)、LDN193189(Tocris Bioscience,Bristol,UK)、DMH-1(Tocris Bioscience,Bristol,UK)、K 02288(Tocris Bioscience,Bristol,UK)及びML 347(Tocris Bioscience,Bristol,UK)を含むがそれらに限定されない。培地中のBMP阻害剤の濃度は、使用される阻害剤の種類に応じて適切に決定され、例えば0.1nM-10μM、0.1nM-5μM、0.1nM-2.5μM、0.1nM-2μM、0.5nM-2μM、1nM-2μM、1nM-1.5μM、1nM-1000nM、5nM-1000nM、10nM-1000nM、50nM-1000nM、50nM-500nM、50nM-200nM、100nM-200nM、100nM-150nM又は100nMである。
【0118】
BMP4(骨形成タンパク質4)は、形質転換成長因子-βスーパーファミリーの一部である骨形成タンパク質ファミリーのメンバーである。BMP4は腹側辺縁帯及び眼、心血及び耳胞の早期胚発育に発見される。本発明において使用されるBMP4抑制剤の由来は特に限定されず、それがリプログラミングに有効であればよい。BMP4阻害剤は市販されているか、又は当業者であれば既知の文献を参照して製造することができる。BMP4阻害剤の具体例としては、BMP4をコードする遺伝子に対するsiRNA、コーディン(Chordin)、ノギン及び抗BMP4抗体を含む。培地中のBMP4阻害剤の濃度は使用される阻害剤の種類に応じて適切に決定され、例えば0.01-100μg/ml、0.01-50μg/ml、0.01-25μg/ml、0.01-10μg/ml、0.01-5μg/ml、0.01-1μg/ml、0.01-0.5μg/ml、0.01-0.1μg/ml、0.01-0.05μg/ml、0.05-10μg/ml、0.1-10μg/ml、0.1-5μg/ml、0.1-4μg/ml、0.1-3μg/ml又は0.1-2μg/ml又は10ng/mlである。
【0119】
DNMT(DNAメチルトランスフェラーゼ)ファミリー酵素は、メチル基のDNAへの移動を触媒することができる。DNAメチル化は広範な生物学的機能を提供する。本発明において使用されるDNMT阻害剤の由来は特に限定されず、それがリプログラミングに有効であればよい。DNMT阻害剤は市販されているか、又は当業者であれば既知の文献を参照して製造することができる。DNMT阻害剤の具体例としては、DNMTをコードする遺伝子に対するsiRNA、抗DNMT抗体及び化学アンタゴニストを含む。
【0120】
いくつかの実施例において、DNMT阻害剤は、デシタビン(decitabine)(Tocris Bioscience,Bristol,UK)、5-アザシチジン(Tocris Bioscience,Bristol,UK)、5-アザ-dC(Tocris Bioscience,Bristol,UK)及びRG108(Tocris Bioscience,Bristol,UK)からなる群から選択される。培地中のDNMT阻害剤の濃度は使用される阻害剤の種類に応じて適切に決定され、例えば0.1-100μM、0.1-50μM、0.1-25μM、0.1-10μM、0.5-10μM、1-10μM、5μMである。
【0121】
DOT1L(disruptor of telomeric silencing 1-like)は、一種類のヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)であり、それはクロマチン構造(例えばテロメアのクロマチン)内のヒストン3の37番目のリジン残基のメチル化を触媒する。本発明において使用されるDOT1L阻害剤は特に限定されず、それがリプログラミングに有効であればよい。DOT1L阻害剤は市販されているか、又は当業者であれば既知の文献を参照して製造することができる。DOT1L阻害剤の具体例としては、DOT1Lをコードする遺伝子に対するsiRNA、抗DOT1L抗体及び化学アンタゴニストを含む。いくつかの実施例において、DOT1L阻害剤は小分子DOT1L阻害剤である。理論に拘束されることを望まない場合、DOT1Lはアデノシルメチオニン(AdoMet)を補助因子としてDOT1L上のAdoMet結合部位によりH3K27のメチル化を触媒することができることが知られている。したがって、AdoMetをそのDOT1Lでの結合部位から移動させたAdoMet分子構造をシミュレートする任意の化学品をDOT1L阻害剤とすることができることは本開示の想定内である。いくつかの実施例において、DOT1L阻害剤は、EPZ004777、EPZ5676(ピノメトスタット(pinometostat)とも呼ばれる)、SGC0946及びSYC-522からなる群から選択される。
【0122】
いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は第2組のリプログラミング因子の存在下で少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30日、1.5ヶ月又は2ヶ月培養する。いくつかの実施例において、第2タイプの細胞は第2組のリプログラミング因子の存在下で2ヶ月、1.5ヶ月、30、25、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1日未満培養する。いくつかの実施例において、第2タイプの細胞を第2組のリプログラミング因子の存在下で1日~2ヶ月、1日~1ヶ月、1日~25日、1日~20日、1日~19日、1日~18日、1日~17日、1日~16日、5日~16日、7日~16日、8日~16日、9日~16日、10日~16日、11日~16日、12日~16日、1日~15日、1日~14日、1日~13日、1日~12日、2日~12日、3日~12日、4日~12日、5日~12日、6日~12日、7日~12日培養する。
【0123】
一態様において、本開示は、ステップ(a)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養すること、及び、ステップ(b)TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下でステップ(a)から得られた細胞を培養すること、を含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングする方法を提供する。
【0124】
一態様において、本開示は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子及びTGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養することを含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングする方法を提供する。
【0125】
いくつかの実施例において、第1組のリプログラミング因子はbFGFをさらに含む。いくつかの実施例において、第2組のリプログラミング因子はBMP4及び/又はDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤をさらに含む。
【0126】
いくつかの実施例において、第1組及び第2組のリプログラミング因子の存在下で第1タイプの細胞を培養して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の細胞を第3タイプの細胞に変更する。
【0127】
いくつかの実施例において、方法は、ステップ(b)を開始する前にステップ(a)から得られた細胞を洗浄することをさらに含む。いくつかの実施例において、ステップ(a)とステップ(b)との間に洗浄ステップが存在しない。
【0128】
C.医薬組成物及び治療方法
【0129】
一態様において、本開示は、本明細書が提供する方法に基づいて生成されたNCC様細胞集団を提供する。いくつかの実施例において、群のうちの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%はNCC様細胞である。
【0130】
一態様において、本開示は、患者特異的神経堤細胞様細胞を生成するための方法を提供する。一つの実施例において、第1タイプの細胞は神経疾患に罹患している被験者から取得される。
【0131】
一態様において、本開示は本明細書が提供する方法に基づいて生成された角膜内皮細胞様細胞(CEC様細胞)群を提供する。いくつかの実施例において、本開示の群のうちの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%の細胞はCEC様細胞である。
【0132】
いくつかの実施例において、本明細書が提供する方法に基づいて生成されたNCC様細胞又はCEC様細胞はエクスビボで精製される。いくつかの実施例において、リプログラミングのための方法では高純度のNCC様細胞又はCEC様細胞が生成され、精製する必要がない。例えば、いくつかの実施例において、本明細書が提供するリプログラミング方法は少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ以上のNCC様細胞又はCEC様細胞を含む細胞組成物を得ることができる。いくつかの実施例において、本明細書が提供するリプログラミング方法は、低純度又は所望の純度より低いNCC様細胞又はCEC様細胞が生成され、精製する必要がある。いくつかの実施例において、NCC様細胞又はCEC様細胞は、NCC様細胞又はCEC様細胞と組成物中の他の細胞を概ねに分離することにより精製される。CEC様細胞を精製する場合、組成物中の他の細胞は未分化NCC様細胞及び/又は所望しない細胞系譜又は表現型に分化したNCC様細胞を含むことができる。
【0133】
一態様において、本開示は、本明細書が提供する方法に基づいて生成されたNCC様細胞又はCEC様細胞を含む組成物を提供する。組成物は一種又は複数種の薬学的に許容可能な担体及び希釈剤を含むことができる。
【0134】
用語「薬学的に許容可能」とは、指定された担体、ビヒクル、希釈剤、賦形剤及び/又は塩が一般的に化学的及び/又は物理的に配合物を構成する他の成分と相溶し、かつその受容者と生理的に相溶することを示す。本明細書に開示された医薬組成物に用いられる薬学的に許容可能な担体は、例えば薬学的に許容可能な液体、ゲル又は固体担体、水性ビヒクル、非水性ビヒクル、抗菌剤、等張化剤、緩衝剤、酸化防止剤、麻酔剤、懸濁剤/分散剤、キレート(sequestering/chelating)剤、希釈剤、アジュバント、賦形剤又は非毒性補助物質、当分野で既知の他の成分又はその様々な組み合わせを含むことができる。
【0135】
本明細書に記載の組成物はさらに移植しやすい成分を含むことができる。本明細書に記載の組成物は、パイロジェンフリーであるか又は実質的にパイロジェンフリーでありかつ病原体フリーであってもよく、ここで病原体は細菌汚染物質、マイコプラズマ汚染物質及びウイルスを含む。
【0136】
本明細書に記載のNCC様細胞又はCEC様細胞を含む組成物はさらに免疫抑制剤又は免疫寛容剤を含むことができる。
【0137】
別の態様では、本開示は、本明細書が提供するCEC様細胞の治療用途に関する。例えば、本発明のCEC様細胞は細胞療法において角膜内皮を移植する必要がある疾患を治療するための移植物として使用することができ、前記疾患は例えば水疱性角膜症、角膜浮腫、角膜白斑等である。
【0138】
一態様において、本開示は、必要とする被験者に有効量の本明細書が提供するCEC様細胞又はCEC様細胞を含む組成物を投与することを含む、機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状を治療する方法を提供する。
【0139】
いくつかの実施例において、角膜内皮細胞を投与して眼治癒過程を誘導する。いくつかの実施例において、角膜内皮細胞を投与して病変組織を補充する。いくつかの実施例において、角膜内皮細胞の投与は損傷又は病変眼組織に対して再生効果を有する。
【0140】
投与経路は任意の適切な手段を含むことができ、眼部位に局所的に投与すること、眼部位に注射すること、眼部位に移植すること等を含むがそれらに限定されない。いくつかの実施例において、選択された特定の投与モードは特定の治療、患者の疾患状態又は病状、被験者に投与された他の薬物又は治療剤の性質又は投与経路等に依存する。いくつかの実施例において、角膜内皮細胞は単回投与量又は選択された時間間隔内に複数回の投与量で被験者に投与することができ、例えば滴定投与量である。複数回の投与量で投与する場合、投与量は例えば一週間、一ヶ月、一年又は十年間隔とすることができる。細胞を投与する前、投与中又は投与後に、前記細胞がさらに特定の細胞タイプに偏るように一種又は複数種の成長因子、ホルモン、インターロイキン、サイトカイン、小分子又は他の細胞を投与してもよい。
【0141】
本明細書で使用されるように、用語「有効量」は一般的に患者に投与して疾患を治療する時に疾患に対するこのような治療を実現するのに十分な化合物又は細胞の量を指す。有効量はプロフィラキシス(prophylaxis)のための有効量及び/又はプリベンション(prevention)のための有効量であってもよい。有効量は、兆候・症状を効果的に減少させることができる量であってもよく、兆候・症状の発生を効果的に防止する、兆候・症状の発生の重症度を低下させる、兆候・症状の発生を解消する、兆候・症状の発生の進行を遅らせる、兆候・症状の発生の進行を防止する及び/又は兆候・症状の発生へのプロフィラキシスを実現することができる量であってもよい。「有効量」は、疾患やその重症度、治療対象の患者の年齢、体重、病歴、感受性、過去に存在していた病状によって異なりうる。本発明の目的のために、用語「有効量」は「治療有効量」と同義である。
【0142】
本明細書で使用されるように、「治療(treating/treatment)」は被験者、例えばヒト、動物又は哺乳動物の本明細書に記載された疾患又は医学的病状に対する治療を含み、また、(i)疾患又は病症を抑制し、すなわち、その発展を抑制すること、(ii)疾患又は病症を緩和し、すなわち、病症の消失を引き起こすこと、(iii)病症の進行を遅らせること、及び/又は(iv)疾患又は医学的病状の一種又は複数種の症状を抑制し、緩和するか又は疾患又は医学的病状の一種又は複数種の症状の進行を遅らせることを含む。
【0143】
本明細書で使用されるように、用語「被験者」は、特定種又はサンプルタイプに限定されない。例えば、用語「被験者」は患者を指すことができ、かつ常に患者を指す。しかしながら、この用語はヒトに限定されず、このため様々な哺乳動物種を含み、例えば非ヒト獣医学哺乳動物、例えば犬、猫、ウサギ、豚、げっ歯類動物、馬又はサルである。
【0144】
本明細書が提供するCEC様細胞は細胞塊であり、例えば濃縮及び濾過により取得された塊及びその類似体であり、かつその類似体は本発明の薬剤として用いられる。なお、薬剤に保護剤、例えばグリセリン、DMSO(ジメチルスルホキシド)、プロピレングリコール、アセトアミド等を添加し、混合物を冷凍保存する可能性もある。薬剤をより安全に利用するために、薬剤は病原性タンパク質の変性を引き起こす条件下での処理、例えば熱処理、放射処理などを経ることができ、同時に角膜内皮細胞の機能を保持する。
【0145】
いくつかの実施例において、CEC様細胞は手術と組み合わせて投与することができる。いくつかの実施例において、手術はデスメ膜剥離角膜内皮移植(Descemet’s stripping with endothelial keratoplasty;DSEK)であってもよく、それはデスメ膜及び角膜内皮を除去し、後続のドナー組織を移植することを含む。代わりに、手術はpenetrating keratoplasty(PKP)であってもよく、ここで角膜全体が除去され置換される。その他の手術としては、lamellar keratoplasty、デスメ膜角膜内皮移植(Descemet’s Membrane Endothelial Keratoplasty;DMEK)、DSAEK、DLEKを含む。
【0146】
「機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状」は、CEC様細胞を投与することにより治療することに適する任意の疾患又は病状を含み、被験者のCEC数が減少するか又は死亡し、密度が低下するか又は他の方式で機能不全になる疾患を含む。角膜内皮に影響を与える原発性疾患は、フックスジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群、後部多形性角膜変性症、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィーを含む。効果的な治療には角膜内皮の置換を含みうる継発性疾患又は病状は、加齢黄斑変性症(AMD)、網膜色素変性症、緑内障、角膜ジストロフィー、コンタクトレンズの使用、白内障手術及び角膜移植における後期内皮不全を含む。角膜内皮細胞疾患は、また角膜への任意の損傷を含み、例えば化学刺激による損傷、コンタクトレンズの使用、(例えば、コンタクトレンズの洗浄保存液、化粧品、点眼液、薬剤、煙等に対する)反応又は敏感、引っ掻き、引っ掻き傷、擦り傷、座傷、眼中の異物(例えば、砂又は粉塵)又は紫外光に曝される(例えば日光、蛍光灯、雪反射、水反射又はアーク溶接又は他の暴露)に起因する損傷を含む。いくつかの実施例において、機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状は、被験者の視力喪失を引き起こす。いくつかの実施例において、被験者の視力喪失は恒久的又は不可逆的である。
【0147】
いくつかの実施例において、角膜内皮細胞は、被験者と免疫学的に適合する(例えば同種他家由来又は自己由来である)。
【0148】
いくつかの実施例において、治療方法は、前記被験者に免疫抑制剤又は免疫寛容剤を投与することをさらに含むことができる。免疫抑制剤又は免疫寛容剤は、前記CEC様細胞に対する拒絶反応のリスクを低減するのに十分な量で投与することができる。
【0149】
免疫抑制剤又は免疫寛容剤は、抗リンパ球グロブリン(ALG)ポリクローナル抗体、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)ポリクローナル抗体、アザチオプリン(azathioprine)、BASILIXIMAB(登録商標)(抗lL-2Ra受容体抗体)、シクロスポリン(cyclosporin)(シクロスポリンA)、DACLIZUMAB(登録商標)(抗IL-2Ra受容体抗体)、エベロリムス(everolimus)、ミコフェノール酸(mycophenolic acid)、RITUXIMAB(登録商標)(抗CD20抗体)、シロリムス(sirolimus)、タクロリムス(tacrolimus)、ミコフェノール酸エステル及びコルチコステロイドのうちの一種又は複数種を含むことができる。
【0150】
免疫抑制剤は少なくとも約1、2、4、5、6、7、8、9又は10mg/kg投与することができる。免疫抑制剤を使用する場合、それは全身又は局所的に投与することができ、かつそれはCEC様細胞を投与する前に投与したり、CEC様細胞と一緒に投与したり、CEC様細胞を投与した後に投与したりすることができる。免疫抑制療法は、細胞投与後、数週間、数ヶ月、数年又は無限期継続してもよい。例えば、患者はCEC様細胞を投与した後に5mg/kgのシクロスポリンを6週間持続投与することができる。
【0151】
一態様において、本開示は、機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状を治療するための薬剤を製造するために用いられる、本明細書が提供するCEC様細胞又は組成物の用途を提供する。
【0152】
一態様において、本開示は、必要とする被験者に有効量の本明細書が提供するNCC様細胞又はNCC様細胞を含む組成物を投与することを含む、機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状を治療する方法を提供する。
【0153】
一態様において、本開示は、機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状を治療するための薬剤を製造するために用いられる、本明細書が提供するNCC様細胞又は組成物の用途を提供する。
【0154】
本明細書が提供するNCC様細胞は、神経疾患の治療に用いることができる。
【0155】
本明細書で使用される「神経疾患」は神経系の病症として定義され、中枢神経系(脳、脳幹及び小脳)、末梢神経系(脳神経を含む)及び自律神経系(その一部が中枢及び末梢神経系に位置する)に関する病症を含む。特に、神経疾患は、神経堤細胞又はシュワン細胞の機能が損なわれ、変更され、又は破壊される任意の疾患を含む。シュワン細胞に関連する神経疾患の例は、脱髄疾患、多発性硬化、脊髄症、実験的アレルギー性脳脊髄炎(Experimental allergic encephalomyelitis;EAE)、急性播種性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis;ADEM)、感染後又は接種後の脳脊髄炎、末梢神経病変、シュワン細胞腫病(Schwannomatosis)、シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie- Tooth disease)、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre Syndrome)、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(Chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy;CIDP)。である。
【0156】
本開示は、さらに薬物発見及び/又は薬物スクリーニングのための方法を提供する。さらに薬物発見及び/又は薬物スクリーニングのための分析を提供する。いくつかの実施例において、これらの方法はNCC様細胞又はCEC様細胞に薬物候補物を投与し、細胞の薬物候補物に対する反応を検出することを含む。検出反応は、薬物候補が適切な特性(例えば、毒性又は治療効果)を有するか否かを識別することができる。いくつかの実施例において、方法は、薬物候補物の存在下での細胞の健康さ及び活力を特定することに用いることができる。いくつかの実施例において、方法は、薬物候補物の毒性を試験するために用いることができる。いくつかの実施例において、方法は、薬物候補物の存在下での細胞集団表現型の変化を評価することに用いることができる。
【0157】
一態様において、本開示は、NCC様細胞を使用して神経疾患又は薬剤(例えば糖尿病薬剤)の神経副作用を逆転、抑制又は予防する薬物をスクリーニングする方法を提供する。
【0158】
D.キット
【0159】
一態様において、本開示は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子を含む、第1タイプの細胞を第2タイプの細胞にリプログラミングするためのキットを提供する
【0160】
一態様において、本開示は、TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子を含む、第2タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングするためのキットを提供する。
【0161】
一態様において、本開示は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子及びTGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子を含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングするためのキットを提供する。
【0162】
キットは、取扱説明書、及びキット中の成分の各成分を分離する包装をさらに含むことができる。
【0163】
本明細書に引用された全ての出版物及び特許はいずれも全文引用の方式で本明細書に組み込まれる。
実施例
実施例1:材料及び方法
【0164】
1.動物
【0165】
全ての動物実験はいずれも中国の温州の温州医科大学動物倫理委員会(Animal Ethics Committee of Wenzhou Medical University,Wenzhou,China)により承認された。Oct4-GFP遺伝子組換えアレル担持マウス(CBA/CaJ×C57BL/6J)はジャクソン・ラボラトリー(Jackson Laboratory)に由来する。Wnt1-cre及びFsp1-Creマウスはジャクソン・ラボラトリーに由来する(BALB/c-Tg(S100a4-cre)1Egn/YunkJ)。ROSA26-tdTomatoマウスはジャクソン・ラボラトリーに由来する(Gt(ROSA)26Sortm14(CAG-tdTomato)Hze)。129Sv/Jae及びC57BL/6マウスはBeijing Vital River Laboratoryに由来する。Wnt1-Cre/ROSA26
tdTomato及びFsp1-Cre/ROSA26
tdTomatoマウスは、それぞれWnt1-Cre及びFsp1-CreマウスとROSA26-tdTomatoマウスとをハイブリダイズすることにより取得する(
図4A参照)。ニュージーランドの白ウサギ(New Zealand white rabbit)は、JOINN Laboratories(Suzhou)Inc.,Suzhou,Chinaに由来する。全ての動物は、ARVO(Association for Research in Vision and Ophthalmology)及びStatement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchにより処理される。全ての動物は12時間暗/光サイクルを有する安定条件(21℃±2℃)で閉じ込め養殖される。
【0166】
2.細胞培養
【0167】
前述したように、初代マウス胚線維芽細胞(MEF)は、胚が13.5日目(E13.5)にあるマウス胚から分離される(Liu,C.,Hu,X.,Li,Y.,Lu,W.,Li,W.,Cao,N.,Zhu,S.,Cheng,J.,Ding,S.及びZhang,M.(2019).『Conversion of mouse fibroblasts into oligodendrocyte progenitor-like cells through a chemical approach』。『Journal of molecular cell biology』;Wang,H.,Cao,N.,Spencer,C.I.,Nie,B.,Ma,T.,Xu,T.,Zhang,Y.,Wang,X.,Srivastava,D.及びDing,S.(2014).『小分子使得能(▲ゴウ▼、句偏に多い)用単一因子Oct4進行小鼠成線維細胞的心臓重編程(Small molecules enable cardiac reprogramming of mouse fibroblasts with a single factor,Oct4) 』。『Cell reports』6,951-960)。簡単に言えば、胚の頭、尾、肢体及び内臓組織を注意深く取り出して捨てる。残りの組織を小片にスライスし、0.25%のトリプシン/EDTA(Gibco)により、トリプシン化して10-cmの培養皿に接種する。線維芽細胞を10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco)、2m MGlutaMAX(Gibco)、0.1mM非必須アミノ酸(Sigma)、100単位/ミリリットルのペニシリン及び100mg/mLストレプトマイシン(Gibco)を補充したDMEM(Gibco)を含有する線維芽細胞培地で培養する。全ての線維芽細胞を二世代増幅させた後にさらなる実験に用いる。Wnt1-MEFを調製するために、Wnt1-Cre/ROSA26tdTomatoマウス胚に由来する線維芽細胞をtdTomato-細胞に対してFACSにより分取する。
【0168】
マウス初代角膜内皮細胞(CEC)(CP-M179)及び培地(CM-M179)は、Procell Life Science & Technology Co.,Ltd(中国武漢)から購入される。マウスの初代CECを10%FBS(Gibco)、0.1mMの非必須アミノ酸(Sigma)、2m MGlutaMAX(Gibco)及び1%のペニシリンストレプトマイシン(Gibco)を含有するDMEMで培養する。mESCをESC培地に維持し、ESC培地は10%FBS(Gibco)、LIF、0.1mMの非必須アミノ酸(Sigma)、2m MGlutaMAX(Gibco)、1%のペニシリンストレプトマイシン(Gibco)、0.1mMの2-メルカプトエタノール(Gibco)、CHIR99021(3mM)及びPD0325901(1mM)を含有するDMEMで構成される。
【0169】
ヒト胚線維芽細胞(HEF)、ヒト新生児線維芽細胞(HNF)及び成人線維芽細胞(HAF)はScienCell Research Laboratoriesから購入される。ヒト臍帯間葉系幹細胞(MSC)はNuwacell Ltd.(中国合肥)により友情によって提供される。前記細胞を、10%FBS(Gibco)、1%GlutaMAX(Gibco)及び1%NEAA(Gibco)を補足したDMEM(Gibco)を含有する線維芽細胞培地に維持した。ヒト脱落腎臓上皮細胞(UC)は正常ヒトからの100-300mLの尿サンプルに由来し、例えば、前述した報告Zhou,T.ら(2012)、『Generation of human induced pluripotent stem cells from urine samples』、『Nature protocols』7,2080-2089)を参照する。
【0170】
3.tdMEFを生成するためのFACS分取
【0171】
tdMEFを調製するために、前述したように、得られた線維芽細胞を、tdTomato+/P75-細胞に対してFACSによって分取する。Fsp1-Cre/Rosa26tdTomato(Fsp1-Creマウス×Rosa26tdTomatoマウス)の遺伝的背景を有するE13.5マウス胚から初代MEFを分離した。第2世代にあるMEFを0.25%のトリプシンで37℃で5分間解離し、MEF培地で中和する。それらのMEFを、P75に対する特異的抗体で染色し、tdTomato+/P75-細胞に対するFACS分取を経由させる。FACS分取期間において、マトリゲルで塗布された24ウェル培養プレートを37℃で少なくとも30分間予熱し、その後にtdMEFを接種する。FACS分取後、直ちに37℃で5%CO2及び20%O2でtdMEFを15,000個の細胞/ウェルで予熱されたマトリゲルで塗布された24ウェル培養プレート中の1μMのチアゾビビン(Thiazovivin)(Tzv)が補充されたMEF培地に接種して5時間持続することにより、MEFをプレートに接続する。5時間後、培地をTzvを含まないMEF培地に変更し、tdMEFsを37℃で5%CO2で一晩培養する。
【0172】
4.小分子化合物及びライブラリー
【0173】
小分子はSigmaから入手した、GSK3b阻害剤CHIR99021(SML1046)、TGFb阻害剤SB431542(S4317)、DNAメチル化阻害剤5-アザ-dC(A3656)、環状AMP誘導剤フォルスコリン(F6886)及びCKI-7(C0742)を含む。bFGFは、Peprotechから入手した。DOT1L阻害剤EPZ004777(S7353)及びROCK阻害剤Y-27632(S1049)はSelleckから入手した。
【0174】
5.免疫細胞化学
【0175】
典型的な神経堤(NC)細胞マーカーの発現をさらに研究するために、リプログラミンされたグMEFに対して固定、免疫染色及び分析を行う。簡単に言えば、細胞を1×PBSで一回洗浄して4%のパラホルムアルデヒドで室温で10分間固定し、次に0.2%のTriton X-100の1×PBS溶液で10分間透過性化し、7.5%のBSAで少なくとも1時間封止する。全ての一次抗体(primary antibody)を7.5%BSAに希釈し、4℃で一晩培養する。細胞を室温で1×PBSで10分間洗浄し、五回持続する。二次抗体(secondary antibody)Alexa-488、Alexa-555及びAlexa-647はイン・ビトロジェン社(Invitrogen)から購入され、それを7.5%BSAに希釈し、室温で1時間培養し続け、次に1×PBSで五回10分間洗浄する。細胞核はDAPIで染色される。この研究に用いた抗体を表2に示す。
【0176】
【0177】
6.統計分析
【0178】
全ての実験を独立して少なくとも三回行う。結果は平均値±SDとして示した。データはunpaired two-tailed Student’s t-testにより分析されて二つのグループを比較し、one-way ANOVA)及びTukey’s test又はDunnett’s multiple comparisons testにより分析されて複数のグループを比較する。全ての分析は、SPSS Statistics 19.0ソフトウェアを用いて行った。P値<0.05であれば顕著とみなす。
【0179】
7.細胞周期分析
【0180】
アクターゼ(Accutase)溶液を用いて細胞を単細胞懸濁液に注意深く解離し、PBSで二回洗浄し、その後に冷たい70%のエタノールで一晩固定する。固定された細胞をPBSで二回洗浄し、次に37℃でリボヌクレアーゼ(100μg/mL、Sigma)処理され及びヨウ化プロピジウム(50μg/mL、Sigma)で30分間染色する。FACSCanto II(BD社(Becton Dickinson))を用いて約1×106個の細胞を分析し、細胞周期分布パターンを特定した。ModFit 4.1(Verity Software House)を用いて細胞周期のG1、S及びG 2/M期にある細胞の百分率を分析する。
【0181】
8.移植
【0182】
DSEK
全ての重量が2.0-2.5kgのウサギを塩酸ケタミン(60mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg、Bayer,Munich,Germany)を筋肉内に麻酔する。ウサギを2つのグループ(各グループn=10)に分け、その右眼はこの実験に用いられる。操作部位に消毒及び無菌被覆を行った後、スリットナイフで12時中央の6 mm角膜切断を行い、粘弾性剤(Healon;Amersham Pharmacia Biotech AB)を前房に注入する。角膜表面をマーキングペン((Madrid,Spain)Devon Industries社)で画線した後、30ゲージのニードル(Terumo,Tokyo,Japan)を用いて角膜中心にデスメ膜除去術(descemetorhexis)のための直径6.0mmの円形孔口を生成し、眼の前房からデスメ膜を除去する。前述したように、涙道洗浄器(Shandong Weigao)を用いてデスメ膜から角膜内皮を機械的に引っ掻く。0.25%トリプシン-EDTAを使用してFsp-ciCECを解離し、1×107個の細胞/ミリリットルの密度で基本培地に再懸濁し氷上で保持する。前房をPBSで三回洗浄する。この手順の後に、26ゲージのニードルを使用して100μlの100μMROCK阻害剤Y-27632(Selleck)を含有する基本DMEMに懸濁した1×106個の培養されたciCECを右眼の前房に注射する。その後、凍結(個別の凍結損傷)、CE眼の下向き(凍結損傷及びCE注射)及び球体眼の下向き(凍結損傷及び球体注射)グループにおけるウサギは眼の下向き位置を24時間保持することにより、細胞は重力により接続することができ、また球体眼の上向きグループにおけるウサギは深麻酔下で眼の上向き位置を24時間保持する。各手術眼は外部検査により、一週間に二回又は三回検査し、かつ注射後の3、7、14及び28日目に写真を撮影する。手術後の0.5、1、3、7、14、21及び28日目に、超音波角膜厚さ測定装置(ultrasound pachymeter)で中央角膜厚さを測定し、気圧眼圧計(pneumatic tonometer)で眼内圧を測定する。三回の読み取り値の平均値を取る。
【0183】
9.細胞増殖分析
【0184】
Click-iTTMエチニルデオキシウリジン(EdU)Alexa Fluor 488イメージングキット(Qiagen社)により、メーカーの説明書に基づいて、個別の分化培地又は個別のM5で培養されたciCECの増殖速度を測定する。簡単に言えば、継代CECを5×103個の細胞/平方センチメートルの低い密度でスライドガラスに接種し、24時間培養する。
【0185】
10.透過型電子顕微鏡(TEM)分析
【0186】
TEM分析について、細胞を2.5%EM級グルタルアルデヒド(Servicebio)で4℃で2-4時間固定し、0.1Mリン酸塩緩衝液(pH7.4)で洗浄し、1%四酸化オスミウムで、4℃で2-4時間固定処理し、洗浄しその後にエタノールシリーズ(50-100%)で100%アセトン最終洗浄まで脱水し、次に1:1アセトン/Pon 812(SPI)で2時間培養し、1:2アセトン/Pon 812で一晩培養する。サンプルをPon 812に包埋し、60℃で48時間重合し、その後にダイヤモンドナイフ(Daitome)でスライスする(60-80nm)。切片を2%の酢酸ウランで染色し、次にクエン酸鉛で染色し、HT7700透過型電子顕微鏡(日立(HITACHI))で可視化される。
【0187】
11.核型分析
【0188】
0.1μg/mLのコルセミド(Gibco)で37℃で細胞を2時間処理し、トリプシン化し、さらに懸濁し0.075Mの塩化カリウムで37℃で15分間培養し、3:1のメタノール:酢酸で固定し、その後にスライドガラスに滴下して染色体を分散させる。染色体は、ギムザ(Solarbio)染色により可視化される。
【0189】
12.RNAシークエンシング及び分析
【0190】
メーカーの説明書に準拠して、TRIzol試薬で各サンプルの全RNAを分離しRNeasy 23ミニキット(Qiagen)を用いて精製する。NanoDrop 2000、 Agilent 2100バイオアナライザ、Agilent RNA 6000 Nanoキットを用いてRNA質量及び数量を評価する。Annoroad Gene TechnologyによりRNAライブラリー構築及びRNAシークエンシングを行う。メーカーの提案に従いIllumina24用のNEB Next UltraRNAライブラリー調製キット(NEB)を使用してシークエンシングライブラリーを生成し、HiSeq PEクラスタキットv4-cBot-HS(Illumina社)を使用してライブラリークラスタリングを行う。クラスタを生成した後、Illumina社のプラットフォームでライブラリーをシークエンシングし150bpのペアエンドリードを生成する。BMKCloud(http://www.biocloud.net/)で初期データ分析を行う。
【0191】
13.FACSサイトメトリー
【0192】
MEF調製について、所望の遺伝子型を有する線維芽細胞をMEF培地で培養し、それが80%を超える融合度に達するまで停止する。細胞を1×PBSで二回洗浄し、0.25%トリプシンで37℃で5分間処理した。収穫した後、細胞を70-μmのフィルタに通過させ、予備冷却緩衝液(1×PBS、1.5%FBS、0.5%BSA)で二回洗浄し、前記緩衝液に再懸濁させる。推奨濃度で、細胞とFITCコンジュゲートP75抗体(Abcam)又はアイソタイプ・コントロール(BD)を氷上で共に30分間培養し、又は室温で45分間培養し、次にFACS緩衝液で六回洗浄する。その後、細胞をFACS緩衝液に再懸濁させ、BD FACSAria IIで分取した。
実施例2:線維芽細胞からciNCC及びciCECを生成する
【0193】
1.培地調製
【0194】
段階I培地調製
【0195】
DMEM/F12/Glutamax(Gibco)、10%KSR(Gibco)、10%FBS(Gibco)、1%NEAA(Gibco)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)を含有する基礎培地であって、それに小分子Repsox(10μM)、Chir99021(10μM)、フォルスコリン(10μM)、及びbFGF(10ng/ml)が補充されている。
【0196】
第1組のリプログラミング因子分子を添加する前に、基礎培地は、DMEM/F12/Glutamax(Gibco)、0.075%ウシ血清アルブミン(BSA)(Gibco)、1%NEAA(Gibco)及び0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)をさらに含有してもよく、細胞リプログラミングの面で同等又はより高い効果が得られる(データは未図示)。
【0197】
なお、小分子Repsox(10μM)、Chir99021(10μM)及びフォルスコリン(10μM)の組み合わせは、類似の誘導効果を達成することができる(データは未図示)。培地を30分間振とうして完全に溶解させる。
【0198】
段階II培地調製
【0199】
DMEM/F12/Glutamax(Gibco)、10%KSR(Gibco)、1%NEAA(Gibco)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)であって、5μM SB431542及び5μM CKI-7が補充されている。
【0200】
2.線維芽細胞からciCECを化学的に誘導する
【0201】
小分子が化学的に線維芽細胞を角膜内皮細胞にリプログラミングできるか否かを研究するために、本発明者らは2段階法を設計してマウス線維芽細胞を神経堤細胞に直接リプログラミングし、角膜内皮細胞に分化させる(
図1A)。Wnt1-Cre-Rosa
Tomatoマウスにおいて、tdTomatoはWnt1遺伝子の制御下で神経堤(NC)において忠実に発現する。したがって、胚期E13.5にあるWnt1-Cre/ROSA26
tdTomatoマウスからMEFを分離し、神経堤集団をtdTomato発現でマーカーする。本発明者らは、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を行ってtdTomato
-集団を収集することにより、いかなる神経堤又は前駆細胞を排除する。これらのMEFは典型的なNCマーカー(Sox10、P75、Hnk1及びAP2αを含む)に対して陰性を呈する(データは未図示)。また、これらのMEFも典型的な神経幹細胞(NSC)マーカー(Sox2、Pax6及びOlig2を含む)に対して陰性を呈する(データは未図示)。小分子によって線維芽細胞からciNCCを誘導するための方法は報告されていない。小分子が化学的に線維芽細胞をciNCCにリプログラミングすることができるか否かを研究するために、本発明者らは20種を超える小分子を潜在的な候補分子として選択し、これらの候補分子は標的外観遺伝的修飾及び神経堤発育シグナル伝導調節に基づいて神経堤系譜のリプログラミングを行うために用いられる。候補小分子は三種類の小分子を含む三つの主なタイプのリプログラミング因子に着目する。(1)TGF-βシグナル伝達抑制剤、例えばRepsox(R)であり、それは中胚葉及び内胚葉の特殊化を抑制する。(2)GSK3抑制剤、例えばCHIR99021(C)であり、それは神経発育を促進する。及び(3)環状AMP誘導剤、例えばフォルスコリン(F)である。この三種類の化合物が塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)と組み合わせて化学成分が決定された培地(以下RCFと呼ばれる)とすることにより、マウス胚線維芽細胞(MEF)をciNCCにリプログラミングする。
【0202】
簡単に言えば、MEFを50,000個の細胞/ウェルで6ウェル培養プレートに接種する。一晩培養した後、RCF化学成分が決定されたリプログラミング培地でMEFを処理する。RCF培地において、多数の明瞭なエッジを有する小さい緻密な細胞クラスタは十二日間以内に迅速に出現する(
図1B)。マウス線維芽細胞を化学的に誘導された神経堤細胞(ciNCC)にリプログラミングするのに十分なRCFの組み合わせを識別するために、Wnt1
-MEFを用いてtdTomato発現を観察する。結果は、RCF化合物がMEFをtdTomato陽性神経堤細胞様細胞にリプログラミングすることができることを示す(
図1D)。典型的なNCマーカーの発現をさらに研究するために、RCF処理されたMEFに固定、免疫染色及び分析を行う。これらの細胞は、HNK1、P75及びAP2αを発現している(
図1F)。これらの線維芽細胞由来の、増殖性が高く自己再生が可能なSox10陽性細胞は、以下、ciNCCと呼ばれる。
【0203】
リプログラミング過程において、多数の明瞭なエッジを有する小さい緻密な細胞クラスタは7日間以内に迅速に出現する(
図1B及び
図1C)。Repsox、Chir99021、フォルスコリン及びbFGFで処理された後、10日間処理した後にtdTomato
+細胞を観察した(
図1D及び
図1E)が観察された。12日目に、神経堤細胞(NC)のマーカー(HNK1、P75及びAP2α)が観察された(
図1Fを参照)。しかしながら、bFGFがない場合、小分子Repsox(10μM)、Chir99021(10μM)及びフォルスコリン(10μM)の組み合わせは類似の誘導効果を達成することができる(データは未図示)。
【0204】
SB431542及びCKI-7分化培地でciNCCを14日間誘導した後、ciNCCは角膜内皮細胞様細胞(ciCEC)に分化する(
図3Cを参照)。
図3Aは14日目に免疫蛍光染色により検出された段階IIで誘導されたciCECのマーカー(Na
+-K
+ATP酵素、AQP1、ビメンチン、N-カドヘリン、ラミニン及びAQP1)を示す。また、透過型電子顕微鏡では、角膜内皮細胞の緊密な結合が観察された。
【0205】
あり得る出発MEFにおける神経堤細胞(ciNCC)の汚染を回避するために、本発明者らは系統追跡実験を行ってciNCC及びciCECの由来を追跡する(
図4B)。Fsp1-Cre-RosaTomatoマウスにおいて、tdTomatoはFsp1遺伝子の制御下でciNCC及びciCECにおいて忠実に発現する。Fsp1-ciNCCにおいて免疫細胞化学によりciNCCマーカーP75、Hnk1、AP2α及びSOX10の発現が観察された(
図4Cを参照)。
図4DはFsp1-Cre:R26RtdTomato MEFの代表的な形態変化及びこれらのMEFから誘導されたciCECを示す。
【0206】
以上に説明したような同じ手順を用いて、化学因子によりヒト細胞(ヒト胚皮膚線維芽細胞(HEF)、ヒト新生児線維芽細胞(HNF)、成人線維芽細胞(HAF)、ヒト臍帯間葉系基質細胞(MSC)及び尿細胞(UC))を誘導する。好ましくは、段階Iに添加された化学因子はRepsox(10μM)、Chir99021(10μM)、フォルスコリン(10μM)、5-アザシチジン(5μM)、VPA(500μM)及びBMP4(10ng/ml)である。段階IIに添加された化学因子は5μMのSB431542及び5μMのCKI-7であり、これは上記と一致する。以上の細胞から誘導されたciNCC及びciCECを
図5に示す。
実施例3:実施例2で得られたciNCC及びciCECに対する特徴付け
【0207】
1.1 RNA調製及びRT-PCR
【0208】
NC遺伝子(Sox10、P75、Pax3及びMsx1を含む)の発現を確認するためである。RNeasy Plusミニキット(Qiagen)を用いて全RNAを抽出する。簡単に言えば、1μgの全RNAはiScript cDNAシンセシスキット(Bio-Rad)と逆転写反応を行うために用いられ、得られたcDNAをH2Oで五回希釈してPCRの使用に備える。半定量的PCRについて、1μlの1/5希釈されたcDNAはPCRプログラムのテンプレートとして用いられる。95℃で5分間、及び35個の95℃で30秒、60℃で30秒及び72℃で30秒で循環し、次に72℃で10分間である。FAST SYBR Greenマスターミックス(ABI)のプロトコルに従って定量PCRを行う。全てのPCRを三回繰り返し、個別の遺伝子の発現をGapdhの発現に対して正規化する。プライマー配列を表2に示す。
【0209】
【0210】
1.2 RNAシークエンシング及び解析パイプライン
【0211】
ciNCCのトランスクリプトーム解析を検証するために、RNAシークエンシングを行う。ovation RNAシークエンシングシステムv2キット(NuGEN)でRNAシークエンシングライブラリーを製造する。全RNA(50ng)を逆転写してランダム六量体とポリTキメラプライマーの組み合わせで第1鎖cDNAを合成する。次にRNAテンプレートを加熱により部分的に分解し、DNAポリメラーゼを用いて第二鎖cDNAを合成する。次にシングルプライマー等温増幅(SPIA)を使用して二本鎖DNAを増幅する。SPIAは線形cDNA増幅プロセスであり、該プロセスにおいてリボヌクレアーゼHは二本鎖DNAの5’端でDNA/RNA異種二本鎖中のRNAを分解し、その後にSPIAプライマーがcDNAに結合しポリメラーゼがプライマーの3’端で既存の順方向鎖を置換することにより複製を開始する。その後にランダム六量体を使用して第二鎖cDNAを線形増幅する。最後に、Ultralow V2ライブラリーキット(Nu GEN)を使用してSPIA増幅cDNAからのライブラリーを作製する。RNAシークエンシングライブラリーをバイオアナライザにより分析してQPCR(KAPA)により定量する。HiSeq 2500 instrument(Illumina社)で、三つのRNAシークエンシングライブラリーをペアエンド100bpシークエンシングの各通路に集約する。Fastq-mcfを用いてリードの既知の継ぎ目及び低品質領域を調整する。サンプルQCは、FastQChttp://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/)を用いて評価した。Tophat 2.0.13(Kim,D.ら、2011.『TopHat 2:accurate alignment of transcriptomes in the presence of insertions,deletions and gene fusions』、『Genome Biology』14.)を用いてリードをマウス参照アセンブリmm9と比較する。Subread featureCounts(Liaoら2014.『FeatureCounts:an efficient general-purpose program for assigning sequence reads to genomic features』、『Bioinformatics』30,923-930.)により、mm9のEnsembl遺伝子アノテーションを使用し、遺伝子レベルの発現を連携する。差次的発現を処理する前に、RUVSeqを使用してバッチ効果を調節する(David Rissoら、2014、『Normalization of RNA-seq data using factor analysis of control genes or samples』、『nature Biotechnology』32,896-902)。CPM(百万当たり)値が.5~5000にある少なくとも二つのサンプルを有しない遺伝子を除外する。差次的発現P値はedgeR(Robinson,M.D.ら、2010.『edgeR:a Bioconductor package for differential expression analysis of digital gene expression data』、『Bioinformatics』26,139-140)を用いて計算される。内蔵R関数「p.adjust」を使用してBenjamini-Hochberg method法(Benjamini及びHochberg,(1995).『Controlling the false discovery rate:a practical and powerful approach to multiple testing』、『Journal of the Royal Statistical Society Series B』57,289-300)でFDRを計算する。DAVID Bioinformatics Resources 6.7又はToppGeneにより遺伝子オントロジー解析を完了する。Cluster 3.0によりヒートマップを生成し、Java(登録商標) Treeviewにより閲覧する。トランスクリプトーム解析は、これらの細胞がマウスNCと非常に類似するが、MEFと異なることを示す。
【0212】
1.3 ウエスタンブロッティング法
【0213】
NC特定マーカー及びCEC特定マーカーの発現を確認するためにウエスタンブロッティング法を行う。簡単に言えば、ホスファターゼ阻害剤(Cell Signaling Technology)の存在下で細胞を収集し、それを同じ体積のDTTを含有する2×SDS-PAGEサンプル緩衝液と混合する。サンプルを煮沸し、遠心分離機で清澄した。電気泳動した後、タンパク質をPVDF膜に移動する。膜をポンソー(Ponceau)染色剤中で短時間染色することにより移動の効率を求めた。膜を5%BSAで室温で少なくとも1時間封止し、5%BSAのTBST溶液に希釈された所望の抗体と共に4℃で一晩培養する。膜をTBSTで五回(毎回10分間)洗浄し、次にTBSAで希釈されたHRPコンジュゲート二次抗体と共に室温で1時間培養する。TBSTで五回洗浄した後、ECLにより検出キットを追加してブロットを発色させる。線維芽細胞をciNCC及びciCECにリプログラミングすることに対して、これらの結果は化学混合物がロバストで普遍的効果を有することを共に示す(データは未図示)。
【0214】
2.ciNCCの維持及び分化潜在能力
【0215】
FACSで分取し精製した後にciNCCを維持するには、細胞を神経堤培地のポリD-リジン/ラミニンで塗布された培養プレートで培養し、前記培地は1×N2、1×B27、10μg/ml bFGF、10μg/ml EGF及び10ng/ml BMP4が補充された神経基礎培地(Gibco)で構成される。
【0216】
増幅されたciNCCの分化潜在能力を特徴付けるために、まずそれを分化条件で培養する。FGF2/EGFを引き下げBDNF、GDNF、NGF及びジブチリル環状AMP(dbcAMP)に暴露することによりニューロンの分化を誘導し、末梢ニューロンを生成する。免疫染色により、ciNCCは第5世代の時にTuj1+及びペリフェリン+ニューロンを生成し、このような分化潜在能力は長期培養期間に良好に維持されている(
図2A)。例えばS100b及びGFAP+発現により評価されたシュワン細胞分化はCNTF、ニューロリギン(neuregulin)1b及びdbcAMPの存在下で誘導される。
【0217】
メラニン細胞分化について、7日間の誘導処理の後、ciNCCをメラニン細胞分化培地(EBM2基礎培地、5%(v/v)FBS、100ng/ml SCF(Life Technology)、200nMエンドセリン3(EDN3、Sigma)、50ng/ml WNT1、10ng/ml FGF2、5μg/mlインスリン、1pMコレラ毒素、10nM 12-O-テトラ-デカノイルホルボール-13-アセタート(TPA、Sigma)及び10μM SB431542(Sigma))に培養する。3-4週間処理した後、メラニン細胞が観察された(
図2A)。
【0218】
間葉系系譜への分化潜在能力を検査するために、本発明者らはMSC培養条件でciNCCを培養した。これらの条件下で、間葉系形態及びマーカー発現(CD105+)を有する細胞が出現した(データは未図示)。さらに一ヶ月培養した後、大部分の細胞はCD 105及び一組の間葉系幹細胞に特有の表面マーカーを発現する。確立された間葉系幹細胞分化方案を使用し、ciNCCにより生成された間葉系前駆細胞が脂肪細胞、軟骨及び骨形成(
図2B)へ分化できることを示す。
【0219】
3.ciNCC由来のニューロンの機能の特徴付け
【0220】
ciNCC由来のニューロンの機能を特定するために、その電気生理学的特性を検査した。分化条件下で、ラット皮質ニューロンと10-20日間共培養した後、ciNCC由来のニューロンから全細胞パッチクランプ記録(Whole-cell patch-clamp recording)を取得する。培養されたニューロンをオリンパス(Olympus)BX51WI正立顕微鏡の灌流台に移し、以下の物質(mMを単位とする)を含有する人工脳脊髄液(aCSF)で室温で2.5ミリリットル/分間で灌流する。NaCl 119、KCl 2.5、NaH2PO4 1、NaHCO3 26.2及びグルコース11、CaCl2 2.5及びMgSO4 1.3を含有し、かつ浸透圧が300osmL-1に調整される。記録過程全体においてaCSFを95%O2及び5%CO2でバブリングする。データは、MultiClamp 700B増幅器(Axon Instruments)で集め、2kHzでフィルタリングし、10kHzでデジタル化した。オフライン分析はIgor Pro(Wavemetrics)で行った。活動電位は電流クランプ全細胞配置で記録する。電流クランプ実験に用いられる電極液は以下の物質(mMを単位とする)を含有する。グルコン酸カリウム123、KCl 10、MgCl21、HEPES 10、EGTA1、CaCl20.1、K2ATP 1、Na4GTP 0.2及びグルコース4を含有し、pHがKOHで7.2に調整される。膜電位は約-70 mVに維持され、10pA間隔で-20~50pAのステップ電流が注入される。全細胞電流は-70mVの保持電位で記録され、-70mV~+30mVの範囲内の電圧ステップを20-mV増分で送達する。自発的シナプス後電流は全細胞電圧クランプモードで記録される。シナプス電流記録用の全細胞電極液は以下の物質(mMを単位とする)を含有する。CSCl 135、HEPES 10、EGTA 1、Mg-ATP 4、Na4GTP 0.4及びQX-314 10を含有し、pH7.4である。興奮性及び阻害性電流をサンプリングするために、1mMのグルタミン酸及び100μMのGABAを10p.s.i.で100ms吹きかけ、かつ保持電圧はそれぞれ-70mV及び0mVである。所望のように、それは電流クランプモードで膜に対して脱分極誘発を行う反復配列の動作電位を生成し、ciNCC由来のニューロンが正常なニューロン活性を有することを示す(データは未図示)。
【0221】
4.細胞増殖分析
【0222】
ciCECの増殖能力を測定するために、細胞増殖分析を行う。Click-iTTMエチニルデオキシウリジン(EdU)AlexA Fluor 488イメージングキット(Invitrogen/Life Technologies)により、メーカーの説明書に従って段階II培地で培養されたciCECの増殖速度を測定する。簡単に言えば、継代CECを5×103個の細胞/平方センチメートルの低い密度でFNCコーティングされたスライドガラスに接種し、24時間培養する。結果は、これらの細胞が高い増殖能力を有することを示す(データは未図示)。
【0223】
5.奇形腫形成試験により検証されたciCEC安全性
【0224】
腫瘍発生の潜在的なリスクを評価するために、1×106個のciCECをNOD-SCIDマウスに皮下注射し、奇形腫が4-8週間で形成される。キメラを生成するために、ciCECをICR胚盤胞に注射し偽妊娠ICR雌に移植する。F2マウスとICRマウスとをハイブリダイズさせることにより、得られたキメラマウスの生殖系伝達を特定した。全ての動物実験は広州生物医薬と健康研究院動物保護及び使用委員会(Animal Care and Use Committee of the Guangzhou Institutes of Biomedicine and Health)により承認されかつその基準に基づいて行われる。ciCECで移植した後の6ヶ月以内に腫瘍が形成されず、mESCで移植した受容者に4-8週間後に大きな奇形腫が出現する(データは未図示)。これはciCECが極めて小さい(存在すれば)腫瘍誘発可能性を有することを示す。なお、イン・ビトロ30回の連続継代期間でciCECは正常な核型を維持する(データは未図示)。イン・ビボ分化をよりよく理解するために、ciCECをNOD/SCIDマウスの眼に移植する。4-8週間後、ciCECで移植した後、6ヶ月以内に移植されたciCECは腫瘍を形成していない(データは未図示)。
【0225】
6.ciCECのウサギ損傷眼への移植
【0226】
ciCECがイン・ビボ移植及び増幅の能力を有するか否かを評価するために、本発明者らはそれをデスメ膜から機械的に引っ掻かれた角膜内皮により水疱性角膜症に誘導されたウサギモデルに移植する。ウサギを2つのグループ(各グループn=10)に分け、右目をこの実験に用いる。ciCECを前房に注射する(
図6B第1画像)。各受容者は、1×10
6個(低ドーズ量)のciCEC又は2×10
6個(高ドーズ量)のciCECを受ける。未処理の正常なウサギ(
図6B第4画像)とPBSのみを注射したウサギ(
図6B第3画像)を対照として用いる。
【0227】
操作部位に消毒及び無菌被覆を行った後、スリットナイフ(中国上海Alcon Surgical)で12時中央の6mm強膜角膜切断を行い、粘弾性剤(Healon;Amersham Pharmacia Biotech AB)を前房に注入する。角膜表面をマーキングペン((Madrid,Spain)Devon Industries社)で画線した後、30ゲージのニードル(Terumo,Tokyo,Japan)を用いて角膜中心にデスメ膜除去術(descemetorhexis)のための直径6.0mmの円形孔口を生成し、眼の前房からデスメ膜を除去する。涙道洗浄器(Shandong Weigao)を用いてデスメ膜から角膜内皮を機械的に引っ掻く。0.25%トリプシン-EDTAを使用してFsp-ciCECを解離し、1×107個の細胞/ミリリットルの密度でPBSに再懸濁し氷上で保持する。前房をPBSで三回洗浄する。
【0228】
この手順の後に、26ゲージのニードルを使用して、100μlの、100μMROCK阻害剤Y-27632(それは細胞のインプラント部位への付着を促進する)(ROCK阻害剤、Selleck)を含有する基礎DMEM中の1×10
6個のciCECを右眼の前房に注射する(
図6B、第1画像)。
【0229】
前記手順の後、ウサギを伏臥位置で2-3時間放置する。各手術眼は外部検査により一週間に二回又は三回検査し、かつ手術後に1、3、5、7、14、21、35及び42日目に写真を撮影する。スリットランプ写真は、注射後のCEC様細胞グループ(ciCECグループ)角膜の透明度が顕著に改良され、かつ瞳孔及び虹彩テクスチャが見られることを示す。約7日後に、角膜が明らかに透明になり、対照グループにおいて角膜混濁及び基質浮腫が依然として深刻である(
図6Bは左からそれぞれ第1画像及び第3画像である)。Visante OCTもCEC様細胞を注射した後に角膜厚さが急速に減少することを示す(
図6C、各画像はそれぞれ上方の
図6Bの画像に対応する)。共焦点顕微鏡画像により、ciCECグループ中のデスメ膜上の多角形細胞の完全被覆が確認された(
図6D、第1の画像。
図6Dの各画像はそれぞれ上方の
図6B及び
図6Cの画像に対応する)。ciCECグループにおいて1、3、5、7、14、21、35及び42日目の平均角膜厚さは未処理対照グループの厚さよりも顕著に小さいことが分かる(
図6E)。スリットランプ写真は1、3、7、14、21及び28日目にciCECグループの角膜の透明度が顕著に改良されたことを示す(
図7)。
実施例4:別の実施例に基づいて線維芽細胞からciNCC及びciCECを生成する
【0230】
M6リプログラミング培地の調製
【0231】
基礎培地は、ノックアウトDMEM(Gibco)、10%KSR(Gibco)、10%FBS(Gibco)、1%NEAA(Gibco)及び0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)を含み、かつ小分子Chir99021(3μM)、SB431542(5μM)、フォルスコリン(10μM)、VPA(500mM)、EPZ004777(5μM)及び5-アザ-dC(0.5μM)が補充されている。培地を30分間振とうして全ての成分を完全に溶解させる。
【0232】
分化培地の調製
【0233】
DMEM/F12/GlutaMAX(Gibco)、10%KSR(Gibco)、1%NEAA(Gibco)及び0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)にSB431542(5μM)及びCKI-7(5μM)が補充されている。
【0234】
線維芽細胞からのNCCの化成
【0235】
MEFを5×104個の細胞/ウェルで6ウェル組織培養プレート上の線維芽細胞培地に接種した。培養プレートをフィブロネクチン又はラミニンを2時間を超えてプレコーティングする。一晩培養した後、培地をM6化学培地で交換し、2日ごとに更新する。NCC様細胞は3-5日目に出現し、かつ増加した。7-10日間誘導した後、FACS分取を行ってWnt1+細胞を収集する。
【0236】
マウスciNCCからCEC様細胞を化学的に誘導する
【0237】
12-16日目に、M6化学培地をSB431542及びCKI-7培地で置換し、2日ごとに更新する。内皮様細胞クラスタは8日目に出現しかつ増加し、Oct4-GFP陽性クラスタは12日目に出現する。CEC様細胞は20日目に早く出現する。30日目から35日目までの期間に、CEC様細胞コロニーをカウントするか又はさらに検出する。
【0238】
ciNCC分化
【0239】
約5×103個のciNCCをNCSC培地を含有する24ウェル培養プレート中のラミナインでコーティングされたカバーガラスに接種し、一番目の24時間持続する。24時間後、細胞に分化条件を経験させる。ニューロン分化について、培地をニューロン分化培地(bFGF及びEGFを含まないNCC培地であり、それに200μMのアスコルビン酸、2μMのdb-cAMP、25ng/mlのBDNF、25ng/mlのNT3及び50ng/mlのGDNFが添加されている)に切り替える。2-3日ごとに半分の培地を交換する。分化後10日目~20日目に特異的ニューロンマーカーを分析する。オリゴデンドロサイトに分化するために、5μMのレチノイン酸及び200ng/mlのShhの存在下で、細胞を1日間培養して20ng/mlのPDGF-AA、20ng/mlのbFGF及び200ng/mlのSHHの存在下で3-5日間培養する。次に、それを40ng/mlのT3、200ng/mlのShh、1nMのLDN193189、5 mMのdb-cAMP及び10ng/mlのNT3を含有する分化培地で8-12日間培養する。培地は一日ごとに更新する。アストロサイト分化について、50ng/mlのBMP4を分化培地に添加して8-12日間持続し、培地を一日ごとに交換する。
【0240】
結果
【0241】
角膜内皮がNCCに由来することに鑑み、本発明者らは小分子を用いてマウス線維芽細胞をCEC様細胞にリプログラミングする2段階法を設計した。第1段階はマウス胚線維芽細胞(MEF)をガイドしてciNCCに化学的リプログラミングすることである。線維芽細胞をciNCCに転換する潜在能力を有する小分子をスクリーニングするために、本発明者らは系統追跡実験を行って転換過程を追跡し、出発MEFからいかなるNCC又は前駆細胞を排除する(
図8A、
図15A)。Wnt1-Cre遺伝子組換えマウスは、NC発育の系統追跡レポーターモデルであることが確認された。Wnt1-Cre/ROSA26tdTomatoマウスにおいて、tdTomatoタンパク質はNCCにおいて忠実に発現する。したがって、E13.5にあるWnt1-Cre/ROSA26tdTomatoマウスからMEFを分離する。NCC集団はtdTomatoがマーカーされているため、本発明者らは蛍光活性化セルソーティング(FACS)を行ってtdTomato
-集団を収集していかなるNCC又は前駆細胞(精製細胞は以下にWnt1-tdTomato
-MEFと呼ばれる、
図15B)を排除する。本発明者らはWnt1-tdTomato
-MEFがさらに他のNCCマーカー(Sox10、P75、Pax3、Hnk1及びAP2αを含む)に対して陰性を呈することを確認した(
図15C、D)。また、これらのWnt1-tdTomato
-MEFは典型的なNSCマーカー(Sox2、Pax6及びネスチンを含む)に対して陰性を呈する(データは未図示)。
【0242】
報告によると、いくつかのリプログラミングを強化するための小分子は、系譜リプログラミングを促進することができる。MEFからciNCCを生成するために、(1)NCC発育に対するエピジェネティクス制御及びシグナル伝達調節、及び(2)強化された神経系譜リプログラミングに基づいて、本発明者らは一組の16種類の小分子を候補物として選択した。最初に、NC系譜リプログラミングに用いられる小分子候補は、Chir99021(GSK3阻害剤)、SB431542(TGF-β阻害剤)及びフォルスコリン(cAMPアゴニスト)を含む三つの種類のリプログラミング因子に絞ることに成功した(
図8B)。後続のスクリーニング及び最適化について、本発明者らはVPA(HDAC阻害剤)、EPZ004777(DOT1L阻害剤)及び5-アザ-dC(DNAメチル化阻害剤)がWnt1-tdTomato
+細胞に対する誘導をさらに強化することを見出した(
図8C)。この研究において、本発明者らは、化学成分が決定された培地と上記6種の小分子の混合物との組み合わせ(以下M6と呼ばれる)を使用してMEFをciNCCにリプログラミングした(
図8D)。M6培地で処理する場合、早く3日目に各細胞におけるWnt1-tdTomatoの発現が観察された(
図8E)。M6リプログラミング培地は3.97%でWnt1-tdTomato
+細胞を効果的に誘導した(
図8F)。5-7日目に、M6リプログラミング培地で誘導されたWnt1-tdTomato
+コロニーが観察された(
図8G、
図15E)。これらのWnt1-tdTomato
+細胞及びコロニーは初代NCC(pNCC)に類似する典型的な形態を有する。約12日目に、小さなコロニーにおいてWnt1-tdTomato
+細胞数が顕著に増加した(
図8H)。Wnt1-tdTomato
+NCCの生成効率はTFs31を用いてヒト線維芽細胞を転換する場合と同様であるが、この研究において2-5%の細胞のみがWnt1-tdTomato陽性を呈する。これらの結果は、異なるバッチのMEF(n=8)において再現することができ、異なる遺伝的背景(C57BL/6、129×C57 BL/6及び129)を有するMEFもM6条件によりciNCCに転換することができる。総合すると、これらの結果は、M6がMEFをciNCCにリプログラミングすることができることを示す。
実施例5:実施例4及び追加の研究で得られたciNCC及びciCECに対する特徴付け
【0243】
転換されたciNCCに対する特徴付け
【0244】
ciNCCのリプログラミング過程は、初期段階(0-7日目)及び増幅段階(7-12日目)の2段階を有する。第1段階は、リプログラミング培地でMEFを培養してエピジェネティクス活性化を開始することである。明らかなエッジを有する小さなNCC様クラスタが少数出現する。第2段階は、決定された小分子培地でエピジェネティクス活性化された細胞を培養することである。大部分のクラスタは第2段階で増幅し、徐々に成長する。
【0245】
ciNCCを取得するために、本発明者らはFACSを行ってWnt1-tdTomato
+細胞を収集した。形成されたciNCCは、N2、B27、bFGF及びEGFを含む通常のNCC増幅培地で連続的に増殖した。形態上、P3にあるM6で誘導された細胞は単層培養において典型的なNCC特徴を維持した(
図9A)。継代した後、ciNCCは形態が均一になる。M6で誘導されたWnt1-tdTomato
+細胞をさらに特徴付けるために、本発明者らはその遺伝子発現を検査しようとした。結果は、ciNCCが、P75、HNK1、AP2α及びネスチンを含む様々なNCCマーカーを発現することを示した(
図9B)。なお、本発明者らはciNCCが末梢ニューロン、シュワン細胞及びその他などに向かって分化する潜在能力を有するか否かを試験した。ciNCCの分化について、これらの細胞を異なる系譜分化培地で培養した。2-4週間培養した後、免疫染色によりマーカー発現を評価することにより、分化細胞を検査した。注意すべきことは、ciNCCはさらにニューロン(Tuj1及びペリフェリンを含む)特異的マーカーを発現する細胞を生成することができる(
図9C)。メラニン細胞分化について、2-3週間誘導した後にメラニン細胞が観察された(
図9C)。免疫染色結果は、ciNCCがシュワン細胞に分化できることを示した。誘導されたシュワン細胞はGFAP
+及びS100β
+細胞である(
図9D)。これらのciNCCのさらなるイン・ビトロ分化は、間葉系系譜を生成し、典型的な間葉系細胞形態が得られる。本発明者らの結果は、これらのciNCC由来間葉系細胞が骨芽細胞、前脂肪細胞及び軟骨細胞を生成することができることを示した(
図9E)。共通して、これらのデータは、本発明者らのciNCCが誘導されて末梢神経系系譜及び間葉系系譜に向けて分化することができることを示した。
【0246】
動物モデルに移植してciCEC機能を示す
【0247】
ciCECがイン・ビボで角膜内皮を再生する能力を有するか否かを評価するために、本発明者らはそれを良好に確立されたウサギモデルに移植し、該モデルはデスメ膜から角膜内皮を機械的に引っ掻くことにより水疱性角膜症を有する。以前の研究により、ROCK阻害剤を注射して補充したヒトpCECは内皮機能が回復したことを見出した。この研究によれば、ciCECとROCK阻害剤(Y27636)を組み合わせて眼の前房に注射した(
図14A)。受容者は、1×10
6個のciCECを受けた。対側眼(正常)と未処理の眼(PBS注射)を実験対照として用いた。未処理の眼に比べて、ciCEC移植後、角膜浮腫の減少が非常に早い。本発明者らは、角膜の透明度が変化しないことを示す未処理の眼に比べて、移植された眼の角膜の透明度が移植後に徐々に向上することに気付いた(
図14B、
図19A)。7日後、移植された眼の角膜は透明になり、未処理の眼の角膜混濁及び基質浮腫は依然として不良である。スリットランプの検査結果は、注射後に移植された眼の角膜の透明度も顕著に改良され、かつ瞳孔及び虹彩テクスチャを明らかに観察できることを示す(
図14C、
図19A)。
【0248】
次に、本発明者らは移植された眼におけるciCECの生存を研究した。手術後28日目に眼球をくり抜いて移植したciCEC細胞を評価する。蛍光顕微鏡法でtdTomato-標識された移植細胞の存在を確認した。免疫組織化学はZO-1発現を示し、移植されたciCEC細胞のポンプ機能を示した(
図14D、
図19C)。前眼部のVisante光干渉断層撮影(OCT)においても、ciCEC注射後に角膜厚さが減少したことが示されている(
図14E)。共焦点顕微鏡は、ciCEC移植疾患モデルにおいてデスメ膜上の多角形内皮細胞の完全被覆が確認され、それは未処理のモデルにおいてその深刻な角膜混濁のため検出できなかった(
図14G)。拡大下で、28日目に、移植されたciCECは単層で角膜の後表面に緊密に接着され、未処理のモデルにおいてデスメ膜が露出しかつ検出可能なCECを有しない。
【0249】
ciCEC注射後の4週間内に角膜厚さが急速に減少し、次に、次の2週間内により漸進的に減少する(
図14F、
図19D)。未処理のグループにおいて、42日の観察過程全体において平均角膜厚さは約1200μmである。対照的に、移植グループにおいて迅速に減少し、未処理グループにおける平均角膜厚さよりも顕著に小さい。手術後の14日目(P<0.01)、21、28、35及び42日目(P<0.001)に、ciCEC移植グループにおける平均角膜厚さが対照グループにおける平均角膜厚さより顕著に小さいことが観察され、角膜浮腫が明らかに逆転したことを示した。これらの結果は、ciCEC移植が角膜後表面に再充填されかつ自己組織化し、かつ角膜内皮を再生する能力を有することを強力に示した。
【0250】
小分子はciNCCのciCECへの誘導を促進する
【0251】
ciNCCからマウスCEC様細胞を生成するために、本発明者らはさらに小分子のイン・ビトロCEC器官での発生及び維持における重要性に基づいて一組の小分子を候補物として求めた。初期スクリーニングにおいて、本発明者らはSB431542及びCKI-7がciNCCからCEC様細胞を誘導することができることを見出した。この2つの化合物はその後分化条件に含まれる(
図10A)。ciNCCが成熟CECにさらに分化できるか否かを確認するために、本発明者らはこの2種類の小分子を含有する分化培地でciNCCを処理した。この分化培地で7-15日間培養した後、クラスタ外又はクラスタ内の小集団は均一で多角形形態を有する典型的な緊密な集合体を示した(
図10B)。本発明者らは、さらに、これらのコロニーが迅速に増幅し、12-15日目になる時、小さいクラスタが大きいクラスタに合併することを観察した(
図10B)。これらのCEC様細胞は急速に成長しかつ強い増殖能力を有する。ciNCCにより誘導されたCEC様細胞は六角形及び五角形細胞の単層を形成する。CEC様細胞がciNCCに由来することを証明するために、本発明者らは5μMのSB431542及び5μMのCKI-7を含有するCEC分化培地でtdTomato
+ciNCCを分化する。これらのtdTomato
+ciNCCはその後に誘導されてCEC様細胞に向けて分化することができる(
図10C)。Na
+/K
+-ATP酵素、AQP1、ビメンチン、ZO-1及びN-カドヘリンの発現はさらに免疫蛍光染色により検証される(
図10D)。この研究において、本発明者らはDilで標識されたアセチル化低密度リポプロテイン(Dil-Ac-LDL)の摂取によりCEC様細胞の機能を識別する(
図10E)。RNAシークエンシングにより行われたグローバル遺伝子発現解析により、CEC様細胞と初代CEC(pCEC)が類似する遺伝子発現プロフィールを共有することが示されているが、このプロフィールは初期MEFのプロフィールと異なる(
図10F)。TEMによりCEC様細胞に緊密な接続が存在することを観察した(
図10G)。リプログラミング過程をさらに監視するために、本発明者らはqRT-PCRを使用することにより一組のNCC及びCECマーカーの異なる時間での発現をさらに確認した。12日目になると、細胞においてNCC遺伝子のロバスト発現が検出され、Hnk1、P75、Sox10、Sox9、Pax3及びAP2(
図11A)を含む。また、さらにqRT-PCRによりCEC遺伝子(例えばSlc4a1c、Col8a1、Na
+/K
+-ATP酵素、Aqp1及びN-カドヘリン)の遺伝子活性化の類似運動力学を検出する(
図11B)。pCECでリッチな遺伝子はciCECにおいて大幅にアップレギュレートされたことが知られている。線維芽細胞からCECへの転換過程を検証するために、本発明者らはRNAシークエンシングを用いてトランスクリプトームを分析した(
図11C)。ciCECにおいて16種類のCEC特徴遺伝子の発現は顕著にアップレギュレートされ、pCECと一致する。しかし線維芽細胞特徴遺伝子は明らかにダウンレギュレートされた。注意すべきことは、誘導過程において、一組のNCCマーカー遺伝子は最初にアップレギュレートされ、その後にダウンレギュレートされた。主成分分析はM6で処理された細胞が初期MEFと異なることを示し、これは化学的リプログラミングが顕著な転写変化を引き起こすことを示す(
図11D)。これらの結果はCEC様細胞がCEC属性が得られたことを示す。共通して、これらのデータはSB431542とCKI-7の組み合わせがciNCC培養において10-15日間内のCECの生成を効果的に促進することを示す。それらの線維芽細胞由来のCEC様細胞は、その後に化学的に誘導されたCEC様細胞(ciCEC)と呼ばれる。
【0252】
線維芽細胞からciCECを誘導することを実証するための系統追跡
【0253】
小分子に基づくリプログラミングの初期線維芽細胞の起源を実証するために、本発明者らは線維芽細胞特異的タンパク質1(Fsp1)-tdTomato陽性線維芽細胞を精製する遺伝系統追跡ストラテジーを求めた(
図12A)。Fsp1-Creは系統追跡のための特異的線維芽細胞マーカーとして既に実証されている。したがって、Fsp1-CreマウスをROSA26tdTomatoマウスとハイブリダイズさせる。MEFはE13.5にある遺伝子組換えマウス(Fsp1-Cre/ROSA26tdTomato)から分離され、線維芽細胞はtdTomatoを特異的に発現する。これらの細胞は以下tdMEFと命名される(
図16A)。あり得るNCC前駆細胞のMEFに対する汚染を回避するために、FACSを行ってtdTomato
+/P75
-集団を収集する(
図12B)。これらのtdMEFは、全てのNCCマーカー(P75、HNK1、Sox10及びAP2αを含む)に対して陰性を呈する(
図12C)。
【0254】
その後、これらのtdMEFを上記M6培地で誘導する。ciNCC誘導期間にtdTomatoを発現する上皮クラスタが観察された(
図12D、
図16B)。Fsp1-tdTomato
+ciNCCを継代させ、NCC増殖培地で培養してさらなる実験に供した(2週間誘導後)。免疫蛍光分析により、これらのFsp1-tdTomato
+ciNCCがNCマーカーP75、HNK1、SOX10及びAP2αに対して陽性を呈することが実証され、それはFsp1-tdTomato
+ciNCCのコロニーがCEC様細胞に向かって分化したことを示す(
図16C)。なお、Fsp1-tdTomato
+ciNCCはtdTomato
+ciCECに分化することができる(
図16D)。免疫染色により、本発明者らは分化したCEC様細胞がNa
+/K
+-ATP酵素、AQP1、ラミニン、ZO-1、Na
+/K
+-ATP酵素及びtdTomatoを共発現することを見出した(
図12E)。注意すべきことは、これらの全てのciCECはさらにtdTomatoを発現し、それは線維芽細胞からの転換を示す。それらの結果により、ciNCC及びciCECが2段階系譜リプログラミングにより線維芽細胞から転換することが明らかに実証された。
【0255】
化学品により生成されたciCECが人工多能性幹細胞(iPSC)段階を避ける
【0256】
本発明者らの系譜リプログラミングのメカニズムは、化学的方式でリプログラミングされたiPSCに類似する可能性があるため、ciCECがiPSC段階を経験するか否かを評価しようとした。本発明者らは、MEFからのiPSC化学的リプログラミングとciCEC誘導との比較を行い、該MEFはOct4プロモーターにより駆動されるGFP(OG2)レポーターを携帯するマウスに由来する。本発明者らは、M6で処理されたこれらのMEF形態に特徴的な間葉系から上皮への転換(MET)を経て、6日目に近い時に小さい細胞コロニーが徐々に出現することを観察した(
図17A)。これらの細胞コロニーはNCCマーカーSox10を発現する(
図17B)。対照的に、本発明者らの方法に基づいてMEFからciCECへの過程全体において任意のOct4-GFP陽性細胞が観察されていない(
図17C、3D)。なお、イン・ビトロでの十回の連続継代期間に、ciCECは正常な核型を維持する(
図17E)。腫瘍発生の潜在的なリスクを評価するために、合計5×10
6個のciCECと2×10
6個のマウス胚性幹細胞(ESC)をNOD/SCIDマウスに皮下移植する。注意すべきことは、ciCECで移植した後、6ヶ月以内に腫瘍が形成されず、ESCで移植したマウスにおいて4-8週間後に大きな奇形腫が出現することである(データは未図示)。この結果は、ciCECが造腫瘍性を有しないことを示す。そのイン・ビボでの分化をよりよく理解するために、ciCECをNOD/SCIDマウスの眼の前房に移植した。4-8週間後、移植後の6ヶ月以内に、移植されたciCECは腫瘍を形成しない。これらの結果は、本発明者らの方法がMEFをciNCCに直接リプログラミングし最終的にciCECにリプログラミングすることができ、同時にiPSC段階を避けることを示す。
【0257】
ciCECイン・ビトロ長期増幅能力
【0258】
イン・ビトロで維持培養されたCECの形態及び正常な生理機能が挑戦的なことであることが証明された。ciCECを大規模に適用できることを目的として、本発明者らは線維芽細胞から大量の機能的ciCECを生成できるか否かを試験した。本発明者らの観察結果に基づいて、即ちSB431542(5μM)及びCKI-7(5μM)を含む培地で培養されたciCECは小さい六角形細胞(上皮間葉転換様細胞がない)(
図18A)であり、本発明者らはSB431542及びCKI-7がイン・ビトロでのciCECの成長を促進すると仮定した。1:6の比率でciCECを連続的に継代することによりciCECのイン・ビトロ長期増幅能力を評価し、表現型がP3とP30との間では類似することを見出した(
図13A、B)。この結果は、SB431542及びCKI-7がciCEC増幅を強力に促進することを示した。小分子に基づく培地において、これらのciCECは自体が六角形形態を有する同質細胞集団であることを少なくとも30世代(P30)保持する。また、これらのciCECを10世代にクローン的に培養してかつ一致する形態を示すことに成功した。免疫染色結果は、P3にあるciCECにおけるKi 67陽性細胞比率がP3にあるpCECより高いことを示す(
図18B)。ciCECは高度な増殖性を有し、P1、P3及びP6にあるこれらの細胞の24.6%、37.8%、48.1%はEdU組み込みを示す(
図18C)。ヨウ化プロピジウム(PI)で染色されたFACS分析の結果は、細胞周期分布(G0/G1、S及びG2/M期)がP3にあるciCECに対して46.30%、45.11%及び8.59%となり、P3にあるpCECに対して67.30%、21.50%及び11.20%となることを示す(
図18D)。それは大きな同質コロニーに迅速に増幅し、集団増倍時間は22.3±3.7時間である(
図13C)。注目すべきことは、P2~P10にあるciCECの表面に大きな「液泡様」構造を発見したことである(
図13D)。細胞が連続的に増殖する場合、P 20でこれらの液泡様構造が消える。注意すべきことは、P30にあるciCECは典型的なCECマーカーも表現し、Na+/K+-ATP酵素、AQP1及びZO-1を含む(
図13E)。イメージングによりスクラッチにより生成された隙間に移動する能力を分析する場合、pCECに比べて、SB431542及びCKI-7を含む培地で培養された異なる継代数にあるciCECはより強い増殖及び移動能力を示す(
図18E、F)。共通して、これらの結果はSB431542及びCKI-7がciCECイン・ビトロ長期増幅についてロバストでかつ普遍的効果を有することを示す。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1タイプの細胞を第
3タイプの細胞にリプログラミングするための方法
であって、以下のステップを含む方法:
ステップ(a)として、第1組のリプログラミング因子の存在下で前記第1タイプの細胞を培養して、第2タイプの細胞を提供すること、ここで、前記第1組のリプログラミング因子は以下を含む:
(1)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤及び環状AMP誘導剤、又は、
(2)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、形質転換成長因子(TGFβ)阻害剤、環状AMP誘導剤、及び、以下から選択される更なるリプログラミング因子:塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、BMP4若しくはそれらの組み合わせ、
並びに、
ステップ(b)として、第2組のリプログラミング因子の存在下で、前記ステップ(a)で得られた前記第2タイプの細胞を培養して、第3タイプの細胞を提供すること、ここで、前記第2組のリプログラミング因子は以下を含む:
(1)TGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤、又は、
(2)TGFβ阻害剤、カゼインキナーゼ1阻害剤、及び、以下から選択される更なるリプログラミング因子:BMP4、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、若しくはそれらの組み合わせ。
【請求項2】
前記第1組のリプログラミング因子は、(a)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤、(b)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤及びbFGF、又は、(c)GSK3阻害剤、TGFβ阻害剤、環状AMP誘導剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤によって構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記GSK3阻害剤は、CHIR99021、LiCl、Li
2CO
3及びBIO((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、TD114-2、ケンパウロン、TWS119、CBM1078、SB216763、3F8(TOCRIS)、AR-A014418、FRATide、インジルビン-3’-オキシム及びL803からなる群から選択される、
並びに/又は、
前記TGFβ阻害剤は、SB431542、Repsox、616452、LDN193189、A8301、GW788388、SD208、SB525334、LY364947、D4476、SB505124及びギニストからなる群から選択される、並びに/又は、
前記環状AMP誘導剤は、フォルスコリン、IBMX、ロリプラム、8BrcAMP、プロスタグランジンE2(PGE2)、NKH477、ジブトイルモノシクロアデニル酸(DBcAMP)、Sp-8-Br-cAMPsである、並びに/又は、
前記DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、5-アザ-dC、5-アザシチジン及びRG108からなる群から選択される、並びに/又は、
前記DOT1L阻害剤はEPZ004777である、並びに/又は、
前記ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA(TSA)、ボリノスタット、デプシペプチド、Trapoxin、Depudecin、FR901228及び酪酸塩からなる群から選択される、並びに/又は、
前記カゼインキナーゼ1阻害剤はCKI-7である、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1タイプの細胞は体細胞
若しくは幹細胞である、
及び/又は、前記第2タイプの細胞は幹細胞である、及び/又は、前記第3タイプの細胞は体細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項
1に記載の方法
であって、ここで、
前記第1タイプの細胞は、
線維芽細胞及びヒト脱落腎臓上皮細胞から成る群から選択される体細胞である、若しくは、
ヒト臍帯間葉系幹細胞、ヒト胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞(iPSC)から成る群から選択される幹細胞である、
及び/又は、
前記第2タイプの細胞は、神経堤細胞様細胞(NCC様細胞)である、
及び/又は、
前記第3タイプの細胞は、角膜内皮細胞(CEC)様細胞である、
方法。
【請求項6】
前記線維芽細胞は、マウス胚線維芽細胞(MEF)、マウス尾端線維芽細胞(TTF)、ヒト胚線維芽細胞(HEF)、ヒト新生児線維芽細胞(HNF)、成人線維芽細胞(HAF)、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記NCC様細胞はP75、Hnk1、AP2α及び
/又はSox10陽性を呈する、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1タイプの細胞は前記第1組のリプログラミング因子の存在下で(a)少なくと
も5、6、7、8、9、10、11
若しくは12日間、
若しくは、(b)20、19、18、17、16、15、14、13
若しくは12日間未満培養する、
及び/又は、
前記第2タイプの細胞は前記第2組のリプログラミング因子の存在下で(a)少なくとも5、6、7、8、9、10、11若しくは12日間、若しくは、(b)20、19、18、17、16、15、14、13若しくは12日間未満培養する、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記CEC様細胞はZO-1及びNa
+/K
+-ATP酵素陽性を呈する、請求項
5に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、ステップ(b)を開始する前にステップ(a)から得られた細胞を洗浄することをさらに含む、
又は、
ステップ(a)とステップ(b)との間に洗浄ステップが存在しない、
請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法
のステップ(a)に基づいて生成された
化学誘導NCC様細胞集団。
【請求項12】
請求項
1~
10のいずれか一項に記載の方法に基づいて生成された
化学誘導角膜内皮細胞様細胞(CEC様細胞)集団。
【請求項13】
請求項
11に記載のNCC様細胞又は請求項
12に記載のCEC様細胞を含む組成物。
【請求項14】
必要とする被験者に
おいて、機能不全又は損傷した角膜内皮細胞に関連する疾患又は病状の治療に使用するための有効量の請求項
12に記載のCEC様細胞又は請求項
13に記載の組成
物。
【請求項15】
前記被験者はヒトである、請求項
14に記載の
使用のための有効量のCEC様細胞又は組成物。
【請求項16】
前記疾患又は病状は、フックスジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群、後部多形性角膜変性症、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、加齢黄斑変性症(AMD)、網膜色素変性症、緑内障、角膜ジストロフィー、コンタクトレンズの使用、白内障手術及び角膜移植における後期内皮不全からなる群から選択される、請求項
14に記載の
使用のための有効量のCEC様細胞又は組成物。
【請求項17】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、TGFβ阻害剤及び環状AMP誘導剤を含む第1組のリプログラミング因子及びTGFβ阻害剤及びカゼインキナーゼ1阻害剤を含む第2組のリプログラミング因子を含む、第1タイプの細胞を第3タイプの細胞にリプログラミングするためのキット。
【請求項18】
前記第1組のリプログラミング因子は、
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DOT1L阻害剤
、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤
、BMP4又はそれらの組み合わせをさらに含む、請求項
17に記載のキット。
【国際調査報告】