IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポリピッド リミテッドの特許一覧

特表2023-554249固形腫瘍を治療する組成物および方法
<>
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図1
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図2
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図3
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図4A
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図4B
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図5
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図6
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図7
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図8
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図9
  • 特表-固形腫瘍を治療する組成物および方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】固形腫瘍を治療する組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/337 20060101AFI20231220BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231220BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A61K31/337
A61P25/00
A61P35/00
A61P35/04
A61K47/24
A61K47/30
A61K47/34
A61K9/16
A61K47/04
A61K47/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532746
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 IB2021062116
(87)【国際公開番号】W WO2022137126
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】63/128,218
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/231,662
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/243,147
(32)【優先日】2021-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515025424
【氏名又は名称】ポリピッド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル,ノーム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA95
4C076CC27
4C076DD26
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE01
4C076EE24
4C076FF31
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA02
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、タキサン化学療法剤の局所持続性放出を提供するポリマー/脂質のマトリックスでコーティングした微粒子生分解性基質を含む医薬組成物を、直接腫瘍に投与することによって、もしくは腫瘍切除腔に投与することによって、固形腫瘍を治療する方法、局所腫瘍再発および腫瘍の転移性拡散を減少させる方法を提供する。本発明は、化学療法耐性腫瘍を治療する方法をさらに提供する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳腫瘍を治療する方法であって、脳腫瘍を有する対象に:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキサン、
を含む医薬組成物を投与することを含む、
方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、ここで該脳腫瘍が原発脳腫瘍である、方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって、ここで該原発脳腫瘍が多形性膠芽腫である、方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、ここで該脳腫瘍が転移性脳腫瘍である、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物を腫瘍切除腔の内部表面に投与する、方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、ここで該医薬組成物を、表面積1cm当たり20mg~260mgの範囲の用量で脳腫瘍切除腔の内部表面に適用する、方法。
【請求項7】
請求項6の方法であって、ここで該医薬組成物を、表面積1cm当たり50~120mgの範囲の用量で適用する、方法。
【請求項8】
請求項6の方法であって、ここで該医薬組成物を、表面積1cm当たり75~160mgの範囲の用量で適用する、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載される方法であって:
(i)局所腫瘍再発を減少させること;
(ii)転移性腫瘍拡散を軽減すること;
(iii)腫瘍サイズを減少させること;
および
(iv)生存を増加させること、
のうちの少なくとも1種類にとって有用である、方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該タキサンが、ドセタキセル、パクリタキセルおよびカバジタキセルから成る群から選択される、方法。
【請求項11】
請求項10の方法であって、ここで該タキサンがドセタキセルである、方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該ポリマーがポリエステルである、方法。
【請求項13】
請求項12の方法であって、ここで該ポリエステルが、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)およびポリ(乳酸-グリコール酸)(PLGA)から選択される、方法。
【請求項14】
請求項10の方法であって、ここで該ポリマーがPLGAである、方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該リン脂質が、DMPC、DPPC、DSPCおよびDOPCから選択されるホスファチジルコリンである、方法。
【請求項16】
請求項15の方法であって、ここで該ホスファチジルコリンがDMPCである、方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該微粒子生分解性基質が、約200μm未満の平均粒子サイズを有する粒子から成る、方法。
【請求項18】
請求項17の方法であって、ここで該生分解性基質の平均粒子サイズが約50~150μmである、方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、ここで該生分解性基質の平均粒子サイズが約50~100μmである、方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該微粒子基質がリン酸三カルシウムから成る、方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該微粒子生分解性基質が該医薬組成物の総重量の約80~93%(w/w)を占める、方法。
【請求項22】
請求項21の方法であって、ここで該微粒子生分解性基質が該医薬組成物の総重量の約85~92%(w/w)を占める、方法。
【請求項23】
請求項22の方法であって、ここで該微粒子生分解性基質が該医薬組成物の総重量の約86~89%(w/w)を占める、方法。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該ポリマーが該医薬組成物の総重量の約0.5~5%(w/w)を占める、方法。
【請求項25】
請求項24の方法であって、ここで該ポリマーが該医薬組成物の総重量の約1.0~4.0%(w/w)を占める、方法。
【請求項26】
請求項25の方法であって、ここで該ポリマーが該医薬組成物の総重量の約2.0~3.0%(w/w)を占める、方法。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質が該医薬組成物の総重量の約4.0~15%(w/w)を占める、方法。
【請求項28】
請求項27の方法であって、ここで該少なくとも1種類のリン脂質が該医薬組成物の総重量の約4.0~10.0%(w/w)を占める、方法。
【請求項29】
請求項28の方法であって、ここで該少なくとも1種類のリン脂質が該医薬組成物の総重量の約7.0~9.0%(w/w)を占める、方法。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該タキサンが最大で該医薬組成物の総重量の2.6%(w/w)を占める、方法。
【請求項31】
請求項30の方法であって、ここで該タキサンが該医薬組成物の総重量の約0.5~1.5%(w/w)を占める、方法。
【請求項32】
請求項31の方法であって、ここで該タキサンが該医薬組成物の総重量の約0.6~1.3%(w/w)を占める、方法。
【請求項33】
請求項1~30のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物がコレステロールをさらに含む、方法。
【請求項34】
請求項33の方法であって、ここで該コレステロールが最大で該医薬組成物の総重量の2%(w/w)を占める、方法。
【請求項35】
請求項34の方法であって、ここで該コレステロールが該医薬組成物の総重量の約0.8~1.5%(w/w)を占める、方法。
【請求項36】
前記請求項のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該方法がpH調整剤をさらに含む、方法。
【請求項37】
請求項36の方法であって、ここで該該医薬組成物のpHが4.0~6.0である、方法。
【請求項38】
前記請求項のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該タキサンが切除腫瘍表面から少なくとも0.5cm離れた距離に浸透する、方法。
【請求項39】
請求項38の方法であって、ここで該タキサンが切除腫瘍表面から少なくとも1.0cm離れた距離に浸透する、方法。
【請求項40】
請求項39の方法であって、ここで該タキサンが切除腫瘍表面から少なくとも1.5cm離れた距離に浸透する、方法。
【請求項41】
脳腫瘍を治療する方法であって、該方法が脳腫瘍を有する対象に:
(a)80~93%(w/w)のβ-リン酸三カルシウム粒子;
(b)1.0~4.0%(w/w)のPLGA;
(c)4.0~15.0%(w/w)のDMPC;
(d)0~2.0%(w/w)のコレステロール;
および
(d)0.2~2.6%(w/w)のドセタキセル、
を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項42】
前記請求項のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該脳腫瘍が化学療法耐性腫瘍である、方法。
【請求項43】
前記請求項のいずれか1項に記載の方法であって、ここで該脳腫瘍がドセタキセル耐性腫瘍である、方法。
【請求項44】
前記請求項のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物が粉末として投与される、方法。
【請求項45】
請求項1~43のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物がペーストとして製剤化される、方法。
【請求項46】
請求項1~43のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物が注射用懸濁液として製剤化される、方法。
【請求項47】
固形腫瘍を治療する方法であって、該方法が固形腫瘍を有する対象に:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキサン、
を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項48】
請求項47の方法であって、ここで該固形腫瘍が原発腫瘍である、方法。
【請求項49】
請求項47の方法であって、ここで該腫瘍が転移性腫瘍である、方法。
【請求項50】
請求項47~49のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該固形腫瘍が結腸癌、前立腺癌、膵癌、乳癌、食道癌、胃癌、頭頚部癌および軟組織肉腫から成る群から選択される、方法。
【請求項51】
請求項47~50のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物が腫瘍切除腔の内部表面に投与される、方法。
【請求項52】
請求項51の方法であって、ここで該医薬組成物が表面積1cm当たり20mg~260mgの範囲の用量で固形腫瘍切除腔の内部表面に適用される、方法。
【請求項53】
請求項52の方法であって、ここで該医薬組成物が表面積1cm当たり50~120mgの範囲の用量で適用される、方法。
【請求項54】
請求項52の方法であって、ここで該医薬組成物が表面積1cm当たり75~160mgの範囲の用量で適用される、方法。
【請求項55】
請求項47~50のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物が非切除腫瘍に腫瘍内注入される、方法。
【請求項56】
請求項47~55のいずれか1項に記載される方法であって:
(i)局所腫瘍再発を減少させること;
(ii)転移性腫瘍拡散を軽減すること;
(iii)腫瘍サイズを減少させること;
および
(iv)対象の生存を増加させること、
のうちの少なくとも1種類について有用である、方法。
【請求項57】
請求項47~56のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該タキサンがドセタキセル、パクリタキセルおよびカバジタキセルから成る群から選択される、方法。
【請求項58】
請求項57の方法であって、ここで該タキサンがドセタキセルである、方法。
【請求項59】
請求項47~58のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該ポリマーがポリエステルである、方法。
【請求項60】
請求項59の方法であって、ここで該ポリエステルが、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)およびポリ(乳酸-グリコール酸)(PLGA)から選択される、方法。
【請求項61】
請求項60の方法であって、ここで該ポリマーがPLGAである、方法。
【請求項62】
請求項47~61のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該リン脂質がDMPC、DPPC、DSPCおよびDOPCから選択されるホスファチジルコリンである、方法。
【請求項63】
請求項62の方法であって、ここで該ホスファチジルコリンがDMPCである、方法。
【請求項64】
請求項47~62のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該微粒子生分解性基質が約200μm未満の平均粒子サイズを有する粒子から成る、方法。
【請求項65】
請求項63の方法であって、ここで該生分解性基質の平均粒子サイズが約50~150μmである、方法。
【請求項66】
請求項64の方法であって、ここで該生分解性基質の平均粒子サイズが約50~100μmである、方法。
【請求項67】
請求項47~65のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該微粒子基質がリン酸三カルシウムから成る、方法。
【請求項68】
請求項67の方法であって、ここで該微粒子基質がβ-リン酸三カルシウムから成る、方法。
【請求項69】
請求項47~68のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該微粒子生分解性基質が該医薬組成物の総重量の約80~93%(w/w)を占める、方法。
【請求項70】
請求項69の方法であって、ここで該微粒子生分解性基質が該医薬組成物の総重量の約85~92%(w/w)を占める、方法。
【請求項71】
請求項70の方法であって、ここで該微粒子生分解性基質が該医薬組成物の総重量の約86~89%(w/w)を占める、方法。
【請求項72】
請求項47~71のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該ポリマーが該医薬組成物の総重量の約0.5~5%(w/w)を占める、方法。
【請求項73】
請求項72の方法であって、ここで該ポリマーが該医薬組成物の総重量の約1.0~4.0%(w/w)を占める、方法。
【請求項74】
請求項73の方法であって、ここで該ポリマーが該医薬組成物の総重量の約2.0~3.0%(w/w)を占める、方法。
【請求項75】
請求項47~74のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質が該医薬組成物の総重量の約4.0~15%(w/w)を占める、方法。
【請求項76】
請求項75の方法であって、ここで該少なくとも1種類のリン脂質が該医薬組成物の総重量の約4.0~10.0%(w/w)を占める、方法。
【請求項77】
請求項76の方法であって、ここで該少なくとも1種類のリン脂質が該医薬組成物の総重量の約7.0~9.0%(w/w)を占める、方法。
【請求項78】
請求項47~77のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該タキサンが最大で該医薬組成物の総重量の2.6%(w/w)を占める、方法。
【請求項79】
請求項78の方法であって、ここで該タキサンが該医薬組成物の総重量の約0.5~1.5%(w/w)を占める、方法。
【請求項80】
請求項79の方法であって、ここで該タキサンが該医薬組成物の総重量の約0.6~1.3%(w/w)を占める、方法。
【請求項81】
請求項47~80のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物がコレステロールをさらに含む、方法。
【請求項82】
請求項81の方法であって、ここで該コレステロールが最大で該医薬組成物の総重量の2%(w/w)を含む、方法。
【請求項83】
請求項82の方法であって、ここで該コレステロールが該医薬組成物の総重量の約0.8~1.5%(w/w)を占める、方法。
【請求項84】
前記請求項のいずれか1項に記載される方法であって、pH調整剤をさらに含む、方法。
【請求項85】
請求項84の方法であって、ここで該医薬組成物のpHが4.0~6.0である、方法。
【請求項86】
請求項47~85のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該タキサンが切除腫瘍表面から少なくとも0.5cm離れた距離に浸透する、方法。
【請求項87】
請求項47~85のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該タキサンが切除腫瘍表面から少なくとも1.0cm離れた距離に浸透する、方法。
【請求項88】
請求項87の方法であって、ここで該タキサンが切除腫瘍表面から少なくとも1.5cm離れた距離に浸透する、方法。
【請求項89】
固形腫瘍を治療する方法であって、該方法が固形腫瘍を有する対象に:
(a)80~93%(w/w)のβ-リン酸三カルシウム粒子;
(b)1.0~4.0%(w/w)のPLGA;
(c)4.0~15.0%(w/w)のDMPC;
(d)0~2.0%(w/w)のコレステロール;
および
(d)0.2~2.6%(w/w)のドセタキセル、
を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項90】
請求項47~89のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該固形腫瘍が化学療法耐性腫瘍である、方法。
【請求項91】
請求項90の方法であって、ここで該固形腫瘍がドセタキセル耐性腫瘍である、方法。
【請求項92】
請求項47~90のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物が粉末として投与される、方法。
【請求項93】
請求項47~91のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物がペーストとして製剤化される、方法。
【請求項94】
請求項47~91のいずれか1項に記載される方法であって、ここで該医薬組成物が注射用懸濁液として製剤化される、方法。
【請求項95】
ドセタキセルを、それを必要とする対象の腫瘍細胞に送達および持続放出するための医薬組成物であって:
(a)リン酸三カルシウム粉末;
(b)PLGA(ポリ(乳酸/グリコール酸共重合体);
(c)コレステロール;
(d)1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC);
および
(e)ドセタキセル、
を含む、医薬組成物。
【請求項96】
ドセタキセルを、それを必要とする対象の腫瘍細胞に送達および持続放出するための医薬組成物であって:
(a)リン酸三カルシウム粉末;
(b)PLGA(ポリ(乳酸/グリコール酸共重合体);
(c)コレステロール;
(d)1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC);
および
(e)ドセタキセル、
を含むが;
ただし、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)も1,2-ジオクタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)も含まない、
医薬組成物。
【請求項97】
請求項95または96の医薬組成物であって:
(a)86~93%(w/w)のリン酸三カルシウム;
(b)2.0%~3.0%(w/w)のPLGA;
(c)0.7~2.0%(w/w)のコレステロール;
(d)4.0~10.0%(w/w)のDMPC;
(e)0.4~1.5%(w/w)のドセタキセル、
を含む、医薬組成物。
【請求項98】
請求項97の医薬組成物であって:
(a)86~89%(w/w)のリン酸三カルシウム;
(b)2.4%~2.8%(w/w)のPLGA;
(c)1.0~1.5%(w/w)のコレステロール;
(d)7.0~9.0%(w/w)のDMPC;
(e)0.6~0.9%(w/w)のドセタキセル、
を含む、医薬組成物。
【請求項99】
請求項95~98のいずれか1項に記載される医薬組成物であって、乾燥粉末として製剤化される、医薬組成物。
【請求項100】
請求項95~98のいずれか1項に記載される医薬組成物であって、ペーストとして製剤化される、医薬組成物。
【請求項101】
請求項95~98のいずれか1項に記載される医薬組成物であって、注射用懸濁液として製剤化される、医薬組成物。
【請求項102】
請求項95~101のいずれか1項に記載される医薬組成物であって、脳腫瘍を治療する方法において用いられる、医薬組成物。
【請求項103】
請求項102の用途の組成物であって、ここで該脳腫瘍が原発脳腫瘍である、組成物。
【請求項104】
請求項103の用途の組成物であって、ここで該原発脳腫瘍が多形性膠芽腫である、組成物。
【請求項105】
請求項102の用途の組成物であって、ここで脳腫瘍が転移性脳腫瘍である、組成物。
【請求項106】
請求項102~105のいずれか1項に記載される用途の組成物であって、ここで該医薬組成物が表面積1cm当たり20mg~260mg、表面積1cm当たり50~120mg、または表面積1cm当たり75~160mgの範囲の用量で腫瘍切除腔の内部表面に投与される、組成物。
【請求項107】
請求項102~106のいずれか1項に記載される用途の組成物であって:
(i)局所腫瘍再発を減少させること;
(ii)転移性腫瘍拡散を軽減すること、
(iii)腫瘍サイズを減少させること;
および
(iv)生存を増加させること、
のうちの少なくとも1種類について有用である、組成物。
【請求項108】
請求項102~107のいずれか1項に記載される用途の組成物であって、ここで該リン酸三カルシウム粉末が約200μm未満、約50~150μm、または約50~100μmの平均粒子サイズを有する粒子から成る、組成物。
【請求項109】
請求項102~108のいずれか1項に記載される用途の組成物であって、ここで該組成物がpH調整剤をさらに含み、および/または該医薬組成物のpHが4.0~6.0である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年12月21日付けで出願された米国仮出願第63/128218号、2021年8月10日付けで出願された米国仮出願第63/231662号、および2021年9月12日付けで出願された米国仮出願第63/243147号に基づく優先権を主張するものである。その優先出願の内容全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は一般に、化学療法剤の持続放出組成物、および固形腫瘍の局所治療のためのその用途、切除後の癌再発および転移の予防のためのその用途に関するものである。
【背景技術】
【0003】
全身性治療は、腫瘍およびその周囲において薬剤が効果的に悪性腫瘍を殺滅するのに充分な時間、継続して治療レベルに達することが困難であることが原因で失敗することも多いのである。用量を増加させることにより、この問題に対処することもできるのではあるが、その効力、漸増毒性およびそれに関連するコストの間の得失については意見の分かれるところである。
【0004】
全身性化学療法剤投与には本質的欠点が存在し、そのため効果を増強し副作用を軽減する解決策として局所薬剤送達基盤の開発が活発化しているのである。
【0005】
局所薬剤送達は全身性薬剤投与(経口投与または静脈内投与など)に複数の利点を与え、それらの薬剤を有望な癌治療薬にする。薬剤溶出デポ剤であれば、薬剤持続性放出で薬剤を供給することにより全身性ピークの低下を実現しながらも、疾患部位局所においては高濃度の薬剤を供給することができる。さらに、局所持続薬剤送達システムでは定常的に薬剤を供給し、疾患転帰および患者の薬剤服用順守を改善するのである。しかもさらに、局所薬剤送達は、全身性薬剤投与にしばしば認められる全身性副作用を軽減する、あるいはそれを防止することもある。これらの利点によって、デポ剤は腫瘍の再発と転移を予防する癌療法において、特に外科的切除後の取り残しのある手術縁において、特に有望なものとなるのである;このような場合に、デポ剤は、検出可能な全身性副作用が最少であるか、あるいは全く副作用を与えることなく、持続性薬剤供給によって、外科的切開部位に残存する癌細胞に対して効果を発揮し得るのである。重合体生分解性持続放出システムを含む局所送達の各種技術について積極的な取り組みが成されているのであるが、このようなシステムは、典型的には、バースト放出プロファイルおよび減衰放出プロファイルという欠点を有するマイクロ粒子またはナノ粒子の形態、および埋め込み可能フィルムまたはパッチの形態である。臨床的に認可された療法の一つであるGliadel(登録商標)では、ポリ無水物担体(ポリフェプロザン)を利用するが、これはカルムスチンを脳の細胞外液へ持続性放出することが可能であり、そのため薬剤が血液脳関門を越える必要性がないのである。生分解性のポリエステルおよびポリ無水物を基盤とするデポ技術の欠点は、多くのシステムで用い得る薬剤放出の放出時間が比較的短いこと、ならびに用量ダンピング(バースト効果)および非定常的薬剤放出による潜在的毒性である。Gliadel(登録商標)は、例えば、その薬剤の大部分を5~10日以内に放出し、また最初の12時間でバースト放出を示す(Brudnら、Biomaterials、178(2018)373-382)。初期バースト放出によって過剰な局所薬剤濃度または全身性薬剤濃度となるので、このバースト効果によって、デポ剤に搭載可能な薬剤総量がさらに限定的となる。もう一つの重大な欠点は、放出薬剤が脳組織においては浸透性が低いことである。Gliadel(登録商標)を用いた薬剤浸透では、切除腫瘍からの距離が最大で僅か5mm延長するのみであり、それも手術後1~2日の短い期間のみである(Dan Bunisら、Efficacy of nanoparticle-encapsulated BCNU delivery in apCPP:SA scaffold for treatment of Glioblastoma Multiforme、2012)。米国特許第9,956,172号には、生体組織に薬剤を送達する、特に、脳腫瘍切除後の脳に化学療法剤を送達するために、その近傍に配置する薬剤送達多層インプラントまたはウェハが開示されている。米国特許第9,956,172号に開示されたインプラントは薬剤含有層を含むが、この層は、薬剤、脂質および親水性ポリマーまたは孔形成剤、および疎水性物質を含む疎水性コーティング剤を含む。
【0006】
多形性膠芽腫(GBM)は、脳腫瘍のうちで最も一般的なタイプの腫瘍の1つであり浸潤型である;ヒトでは全脳腫瘍の50~60%を占め、生存率中央値が低い。GBMは一般的に、高致死性、侵襲性、過剰増殖、および予後不良を特徴とする。脳腫瘍の患者に対する現在の標準的治療は、腫瘍切除外科手術およびその後の化学療法(典型的には経口テモゾロミド(temozolomide))および放射線治療であり、これら2種の療法は外科手術から約1か月後に実施される。この遅延措置によって創傷治癒プロセス開始が可能になる。しかし、外科的切除の難しさ、および放射線照射と化学療法による重度の有害作用が、これらアプローチの妨げとなるのである。それに加えて、上記のような遅延処置の欠点は、この期間にも癌細胞は増殖し続けることである。
【0007】
ドセタキセルは、脳腫瘍に対して最も有効な薬剤の1つであると見なされる細胞分裂抑制タキサン剤であり、典型的には静脈内点滴により全身性に投与される。しかし、高分子量であり親油性であるがために、その抗脳腫瘍活性が限定的となる;これは主に、血液脳関門を越える輸送が限定的であること、および血液脳腫瘍関門の透過性が不良であることに起因するものである。ドセタキセルは、感染、好中球減少症、過敏症、血小板減少症、神経障害などを含む重度の有害事象を引き起こすことが知られている。
【0008】
本発明の発明者らの一人、およびその他の発明者による国際特許出願WO2010/007623では、生分解性ポリマーを含み、脂質を基盤とするマトリックスを含む薬剤送達組成物であって、有効成分を制御放出する薬剤送達組成物を開示している;この参考文献の内容は参照として本明細書に組み入れられる。これらの薬剤送達組成物によって、多様な1種類以上の生物学的に活性な分子を封入し、事前にプログラムされた速度で数日~数か月の範囲の期間それらを放出することが可能になる。
【0009】
一般的にタキサン類、特に全身毒性が軽減されたドセタキセルによる、安全かつ頑健な局所抗癌治療法の開発が必要となっている;そのような局所抗癌治療法とは、腫瘍部位においてそのペイロード濃度を高めることが可能であり、標的腫瘍細胞への浸透性が増強され、腫瘍細胞の根絶を促進し、その時点で腫瘍が耐性を獲得する確率を低下させて、薬剤耐性機構を克服する局所抗癌治療法である。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、持続放出抗癌組成物ならびに癌の局所治療、癌再発の予防および腫瘍転移の阻害にそのような組成物を利用する方法を提供する。
【0011】
本発明の第1の局面においては、固形腫瘍を治療する方法が提供されるが、該方法は、タキセンを含むポリマー/脂質マトリックスでコーティングした微粒子生分解性基質を含む医薬組成物を、固形腫瘍を有する対象に投与することを含む。腫瘍部位に該医薬組成物を適用すると、事前設定された長期間にわたって、好ましくは最長で10週間の間、腫瘍部位およびその周囲にタキセン薬剤の局所制御放出を起こすので、それによって薬剤の治療効果が改善されるのである。いくつかの実施態様にしたがえば、腫瘍切除後の腫瘍切除部位に該医薬組成物を投与し、それによって腫瘍切除腔または切除組織近傍の残存癌細胞を殺滅し、癌の局所再発を阻止する。いくつかの実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、脳腫瘍、結腸癌、前立腺癌、肺癌、膵癌、乳癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌および軟組織肉腫のうちの少なくとも1種類である。特定の実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、膠芽細胞腫または多形性膠芽腫、高悪性度の内因性脳腫瘍および別の腫瘍の脳転移から選択される脳腫瘍である。特定の実施態様にしたがえば、該脳腫瘍は多形性膠芽腫である。
【0012】
本発明の第2の局面においては、局所持続放出組成物が提供されるが、該局所持続放出組成物は、ポリマー/脂質マトリックスであって、そこに封入タキセンを含むマトリックスでコーティングまたは包埋した微粒子生分解性基質を含に、該組成物はタキセンを安定化させ、保存中およびさらにその持続放出期間中に、タキサンが7-エピマー不純物に変わる変換を緩徐化するのである。
【0013】
本発明は部分的には、以下を示す実験結果に基づくものである;すなわち、ドセタキセル耐性結腸癌の固形腫瘍同系マウスモデルにおいて、本発明のいくつかの実施態様にしたがうドセタキセル含有持続性放出組成物を、腫瘍部分切除後に術中単回適用を行った結果、試験の終わり(手術後39日目)に全体で75%が腫瘍非担持生存であった;これについて比較を示せば、5サイクルの全身性ドセタキセル処置を実施した処置群ではたかだか全体の25%が腫瘍非担持生存にすぎず、また非処置群では生存個体がまったく存在しなかった。さらに、該組成物で処置したマウスでは、試験の終わりに全体で25%の腫瘍再発が認められたが、これに比較して、広範な全身性処置では75%が再発し、非処置群では100%再発が見られた。さらに、ドセタキセル持続放出組成物治療群では、腫瘍切除から30日の腫瘍再発遅延を示したが、これに比較して、全身性処置群および非処置対照群の両方で腫瘍再発遅延はたったの9日に過ぎなかった;これらは、各群における最初の腫瘍に関する死亡率で判定した。
【0014】
さらに、本発明の特定の実施態様にしたがうドセタキセル持続放出組成物は、部分的切除ヒト膠芽細胞腫皮下マウスモデルにおいて、腫瘍の増殖および再発に対して強力な阻害を誘導した。該組成物の単回局所適用では、非処置対照(p<0.001)と比較して、98%の腫瘍増殖阻害を誘導した(手術後41日目);また、全身性化学療法処置群(p=0.0165)の複数回の注射と比較して、66%の腫瘍増殖阻害を誘導した。ドセタキセル持続放出組成物についての41日目の生存率は、全身処置マウスまたは未処置マウスよりもはるかに高かった(各生存率はそれぞれ、60%、20%、および10%であった)。
【0015】
またさらに、ラットモデルにおいて非切除膠芽細胞腫脳腫瘍の近傍に適用したドセタキセル組成物では、処置開始後23日目において生存率は40%であったが、これに比べて、標準全身性処置群(テモゾロミド(Temozolomide)33.5mg/kg、処置5日)、プラセボ群(ドセタキセル不含組成物)および非処置対照群では、生存率が0%であった。
【0016】
本発明のいくつかの実施態様にしたがえば、固形腫瘍を治療する方法は、固形腫瘍を有する対象に以下を含む医薬組成物を投与することを含む:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキセン。
いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はステロールをさらに含む。様々な実施態様にしたがえば、該タキセンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体、およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキセンはドセタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、脳腫瘍、前立腺癌、肺癌、膵癌、乳癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌および軟組織肉腫のうちの少なくとも1種類である。特定の実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、膠芽細胞腫または多形性膠芽腫および高悪性度の内因性脳腫瘍から選択される脳腫瘍である。特定の実施態様にしたがえば、該脳腫瘍は多形性膠芽腫である。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍は化学療法耐性腫瘍である。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍はタキサン耐性腫瘍である。
【0017】
本発明のいくつかの実施態様にしたがえば、本発明は、固形腫瘍切除部位における腫瘍細胞再増殖を減少させる方法を提供するが、ここで該方法は、以下を含む医薬組成物を固形腫瘍切除部位に投与することを含む:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキセン。
いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はステロールをさらに含む。様々な実施態様にしたがえば、該タキセンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体、およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキセンはドセタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、脳腫瘍、前立腺癌、肺癌、膵癌、乳癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌および軟組織肉腫のうちの少なくとも1種類である。特定の実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、膠芽細胞腫または多形性膠芽腫および高悪性度の内因性脳腫瘍から選択される脳腫瘍である。特定の実施態様にしたがえば、該脳腫瘍は多形性膠芽腫である。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍は化学療法耐性腫瘍である。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍はタキサン耐性腫瘍である。
【0018】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明は、腫瘍転移を阻害する方法を提供するが、ここで該方法は悪性固形腫瘍を有する対象に:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキセン、
を含む医薬組成物を投与することを含み、それによって腫瘍転移を阻害する。
いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はステロールをさらに含む。様々な実施態様にしたがえば、該タキセンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体、およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキセンはドセタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、悪性腫瘍の少なくとも一部が外科的に除去された直後に、悪性腫瘍切除部位に、該医薬組成物を投与する。いくつかの実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、脳腫瘍、結腸癌、前立腺癌、肺癌、膵癌、乳癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌および軟組織肉腫のうちの少なくとも1種類である。特定の実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、膠芽細胞腫または多形性膠芽腫、高悪性度の内因性脳腫瘍および他の腫瘍に由来する脳内転移から選択される脳腫瘍である。特定の実施態様にしたがえば、該脳腫瘍は多形性膠芽腫である。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍はタキサン耐性腫瘍である。
【0019】
本発明のいくつかの実施態様にしたがう、固形腫瘍を治療する方法は、アジュバント癌療法を提供する。本明細書に記載の医薬組成物は、癌患者の生存率を増加させる目的で、腫瘍切除外科手術後直後に腫瘍切除腔に局所投与することを意図するものである。本発明の医薬組成物は、腫瘍切除術中に、持続性制御性のタキセン薬剤局所曝露を提供するものであり、切除腫瘍部位の局所環境におけるタキサン剤の吸収と分布が可能となり、長期にわたり治療レベルでタキサンを供給するが、それによって腫瘍切除部位またはその近傍において切除され残った腫瘍細胞を殺滅し、局所腫瘍再発と腫瘍の転移性拡散とを減少させる。該医薬組成物からタキサンが放出されるが、それは腫瘍切除部位に適用直後に開始し、ゼロ次またはゼロ次に近い速度論にしたがう放出である。該タキサンは、初期バーストを起こさずに2~10週間、持続的に放出される(最初の24時間以内に、該組成物に封入したタキセンの10%未満が放出される;典型的には、最初の24時間以内に、該タキセンの8%、7%、6%、5%(w/w)未満が放出される)、それにより用量ダンピング(バースト効果)毒性の潜在的可能性を回避するのである。
【0020】
該タキセン薬剤は、2~10週間;2~8週間;あるいは2~6週間、あるいは、2~5週間;あるいは2~4週間の範囲の期間局所で放出されるが、これは典型的には、腫瘍切除の外科手術とアジュバント放射線療法による処置、化学療法処置および/または生物学的処置の開始との間のタイムラグである;これらの処置はいずれも典型的には、手術創傷の治癒プロセス開始後にのみ開始されるのである。腫瘍除去手術後に実施するアジュバント治療の遅延の欠点は、この期間に癌細胞が増殖し拡散し続けることである。本発明の方法および医薬組成物は、この欠点を克服するのである。
【0021】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明は固形腫瘍を治療するネオアジュバント法を提供するが、該方法は:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキセン、
を含む医薬組成物を腫瘍内に注入することを含む。
いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はステロールをさらに含む。様々な実施態様にしたがえば、該タキセンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体、およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキセンはドセタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は、脳腫瘍、前立腺癌、肺癌、膵癌、乳癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌および軟組織肉腫のうちの少なくとも1種類である。ネオアジュバント治療の目的は、腫瘍切除外科的処置前、あるいは放射線療法前の腫瘍サイズを減少させることであり、それによって外科的処置を簡素化し、外科処置中の癌細胞拡散リスクを減らすのである。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物を乾燥粉末形態で、乾燥粉末注入に好適な器具を用いて腫瘍に直接注入するのであってもよい。あるいは、該医薬組成物を液体懸濁液として注射するのであってもよい。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍は化学療法耐性腫瘍である。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍はタキサン耐性腫瘍である。
【0022】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の医薬組成物および方法に用いる微粒子生分解性基質は、粒子で構成され、その粒子は典型的には球形または球状である。いくつかの実施態様においては、該粒子は、必ずしも球形および/またはステロイド性である必要はないが、好ましくは球形および/または球状であり、(レーザー回折で測定した場合に)その平均直径が、少なくとも約30μm、少なくとも約40μm、少なくとも約50μm、少なくとも約60μm、少なくとも約70μm、少なくとも約80μm、少なくとも約90μm、少なくとも約100μm、30μm~120μm、30μm~100μm、50μm~100μm、約200μm以下、約180μm以下、約150μm以下、約140μm以下、約130μm以下、約120μm以下、約110μm以下、約100μm以下であってもよい。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。いくつかの実施態様にしたがえば、本明細書に記載の組成物および方法に用いる微粒子基質は、生体適合性、生体吸収性親水性材料であり、その水への溶解性は低く、それが身体内で完全に除去される、または完全に溶解するのに要する期間は、4週間以上、5週間以上、6週間以上、7週間以上、8週間以上、9週間以上の期間、好ましくは10週間以上の期間であり、さらに周囲温度で固形形状を有し、かつ成形性を有するものである。これらの特性を有する材料であれば、いずれも非限定的に用い得る。特定の実施態様にしたがえば、該微粒子基質は、リン酸三カルシウム(TCP)、好ましくはβ-TCPで構成される。その他の実施態様にしたがえば、該微粒子基質は、ポリビニルアルコール(PVA)、好ましくは少なくとも88%の加水分解度を有するPVAから成る。いくつかの実施態様にしたがえば、該微粒子生分解性基質は、硫酸カルシウムではなく、またカルシウム二水和物または硫酸カルシウム半水和物などの関連する水和物でもない。理論または作用機序によって限定されるものではないが、生分解性基質粒子の表面をコートする該ポリマー/脂質マトリックスは、溶解によって基質粒子を分解から保護することが示唆される。該基質粒子の徐々の溶出は、ポリマー/脂質マトリックスの分解後にその表面が体液に曝露されたときにのみ開始する。その粒子サイズは、少なくとも該薬剤の大部分、好ましくは該薬剤の全部が放出されるまでは、投与部位から移動することがない程度に充分大きい。該生分解性基質の大きさについては、本明細書に開示の医薬組成物が適用部位から移動しない程度に大きい必要がある。化学療法剤などの毒性薬剤が放出される場合には、このことが特に重要である。したがって、該薬剤の放出期間中には粒子の全体的形状が大きく変化しないことが重要となる。いくつかの実施態様にしたがえば、用いる医薬組成物は、タキサン剤放出期間中にその総重量が約10~15%減少する。該タキサン含有持続放出組成物は、時間とともに他の区画および臓器に偶発的に移動することを防ぐため、組織に固定されるように設計される。いくつかの実施態様にしたがえば、該微粒子生分解性基質は、医薬組成物の総重量の約80~93%(w/w)を占める。
【0023】
本発明の実施態様にしたがう医薬組成物中の生分解性ポリマーはポリエステルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該ポリエステルは、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)およびポリカプロラクトンおよびそれらの任意の組み合わせまたは共重合体から成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該ポリエステルはPLGAである。いくつかの実施態様にしたがえば、該ポリエステル成分は、該医薬組成物の総重量の0.5~5%(w/w)を占める。
【0024】
いくつかの実施態様にしたがえば、該リン脂質は、それぞれ少なくとも12個の炭素原子の脂肪酸鎖を含む。いくつかの実施態様においては、該リン脂質の脂肪酸鎖は、それぞれ18個以下の炭素原子を含む。いくつかの実施態様においては、該リン脂質の脂肪酸鎖は完全飽和である。いくつかの実施態様においては、該リン脂質脂肪酸鎖の少なくとも一方は、不飽和である(例えば、少なくとも1つの二重結合を含む)。いくつかの実施態様においては、該リン脂質脂肪酸鎖の両方が不飽和である。いくつかの実施態様にしたがえば、少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有するリン脂質は、その相転移温度が、60℃未満、55℃未満、50℃未満、45℃未満、42℃未満、40℃未満、38℃未満、35℃未満、32℃未満、30℃未満、28℃未満、25℃未満である。いくつかの実施態様においては、該リン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン混合物、ホスファチジルエタノールアミン、およびそれらの組み合わせから成る群から選択されるリン脂質を含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該第2の脂質は、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルコリン混合物を含む。いくつかの実施態様においては、該ホスファチジルコリンは、DMPC、DPPC、DSPC、DOPCおよびそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される。いくつかの実施態様においては、該ホスファチジルコリンは、DMPC、DPPC、DSPCおよびそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される。いくつかの実施態様においては、該ホスファチジルコリンは、DMPC、DPPCおよびそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される。いくつかの実施態様においては、該ホスファチジルコリンは、DMPC、DSPCおよびそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該ホスファチジルコリンはDMPCである。いくつかの実施態様においては、該リン脂質成分は、該医薬組成物の総重量の2~15%(w/w)を占める。
【0025】
いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はステロールをさらに含む。いくつかの実施態様においては、該ステロールは植物ステロールである。いくつかの実施態様においては、該ステロールは動物ステロールである。特定の実施態様にしたがえば、該ステロールはコレステロールである。いくつかの実施態様においては、該ステロールは、該医薬組成物の総重量0~4%(w/w)を占める。いくつかの好ましい実施態様においては、該ステロールはコレステロールであり、最大で、該医薬組成物の総脂質含有量の50%(w/w)を占める。総脂質含量は、該医薬組成物中に含まれる全脂質類の総重量を指す(例えば、該医薬組成物中に含まれるステロール、リン脂質および付加的脂質添加物)。いくつかの実施態様にしたがえば、該ステロールおよびポリマーは非共有結合的に結合している。
【0026】
いくつかの実施態様にしたがえば、該タキサンは、ポリマー/脂質を基盤とするマトリックスに取り込まれている。いくつかの実施態様にしたがえば、該タキセンは、本明細書に記載の方法に用いる医薬組成物の総重量の0.2%~2.6%(w/w)を占める。あるいは、該タキサンは、該医薬組成物の総重量の0.5%~1.5%(w/w)を占める。特定の実施態様にしたがえば、該タキサンは、該医薬組成物の総重量の0.7%~1.3%(w/w)、あるいは0.7%~1.0%(w/w)を占める。様々な実施態様にしたがえば、該タキサンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキサンはドセタキセルである。本発明の方法のいくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物を、固形腫瘍表面または腫瘍の外科的除去後の固形腫瘍切除腔表面に投与する。本発明の方法のいくつかの実施態様にしたがえば、固形腫瘍表面または切除腔内部表面に、該医薬組成物を、表面積1cm当たり20mg~260mgの範囲の量で投与する。別の実施態様にしたがえば、該組成物は、50mg/cm~160mg/cm;50mg/cm~160mg/cm;50mg/cm~150mg/cm;50mg/cm~120mg/cm;50mg/cm~100mg/cm;50mg/cm~100mg/cm;75mg/cm~160mg/cm;75mg/cm~120mg/cm;75mg/cm~100mg/cmの範囲の量で適用される。
【0027】
いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物は粉末形態である。いくつかの実施態様にしたがえば、該粉末を腫瘍表面に広げる、または腫瘍表面上に散布する、あるいは切除腔内部表面に適用する。該粉末は、付加的にあるいは代替的に、好適な粉末注入器を用いて腫瘍内注入するのであってもよい。本発明の特定の実施態様にしたがえば、該医薬組成物は、腫瘍部位または切除腔の腫瘍内部表面に適用する前にペーストとして処方する。いくつかの実施態様にしたがえば、該ペーストを腫瘍表面に広げる、あるいは切除腔の内部表面に、例えば、スパチュラで塗布する。別の実施態様にしたがえば、該医薬組成物は注射用懸濁液として製剤化するのであってもよい。
【0028】
本発明のいくつかの実施態様にしたがう固形腫瘍治療法は、固形腫瘍を有する対象に、以下を含む医薬組成物を投与することを含む:
(a)リン酸三カルシウム粒子;
(b)ポリエステル;
(c)すくなくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有するホスファチジルコリン;
および
(d)タキサン、
ここで該組成物は、固形腫瘍表面または固形腫瘍切除腔の内部表面に局所投与することが意図される。
いくつかの実施態様にしたがえば、該組成物はコレステロールをさらに含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該タキサンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキサンはドセタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該ポリエステルはPLGA(ポリ(乳酸/グリコール酸共重合体)である。いくつかの実施態様にしたがえば、該ホスファチジルコリンの炭化水素鎖は飽和している。いくつかの実施態様にしたがえば、該ホスファチジルコリンは1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)である。いくつかの実施態様にしたがえば、該ドセタキセルは、該医薬組成物の総重量の0.2%~2.6%(w/w)を占める。あるいは、該ドセタキセルは、該医薬組成物の総重量の0.5%~1.5%(w/w)を占める。特定の実施態様にしたがえば、該ドセタキセルは、該医薬組成物の総重量の0.7%~1.3%(w/w)、あるいは0.7%~1.0%(w/w)を占める。いくつかの実施態様にしたがえば、該リン酸三カルシウム(TCP)は、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウムおよびそれらの組み合わせから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該TCPはβ-リン酸三カルシウムである。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物を表面積1cm当たり20mg~500mgの範囲の量で、固形腫瘍表面または切除腔表面に適用する。別の実施態様にしたがえば、1cm当たり50mg~400mg、50mg~350mg、50mg~300mg、50mg~275mg、50mg~250mg、50mg~225mg、50mg~200mg、50mg~180mg、50mg~170mg;50mg~160mg;50mg~150mg;50mg~120mg;50mg~100mg;50mg~100mg;75mg~160mg;75mg~120mg;75mg~100mgの範囲の量で、該組成物を適用する。いくつかの実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は脳腫瘍である。いくつかの実施態様にしたがえば、該脳腫瘍は多形性膠芽腫である。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍はタキサン耐性腫瘍である。
【0029】
特定の実施態様にしたがえば、本発明は、固形腫瘍を治療する方法を提供するが、ここで該方法は、固形腫瘍表面または固形腫瘍切除腔表面に、以下を含む医薬組成物を局所投与することを含む:
(a)80~93%(w/w)のリン酸三カルシウム粒子;
(b)1%~4.0%(w/w)のポリエステル;
(c)0.0~2.0%(w/w)のコレステロール;
(d)4.0~15.0%(w/w)の、少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有するホスファチジルコリン;
(e)0.2~2.6%(w/w)のドセタキセル。
いくつかの実施態様にしたがえば、該ドセタキセルは、該医薬組成物の総重量の0.5%~1.5%(w/w)を占める。特定の実施態様にしたがえば、該ドセタキセルは、該医薬組成物の総重量の0.7%~1.3%(w/w)、あるいは0.7%~1.0%(w/w)を占める。いくつかの実施態様にしたがえば、該ポリエステルは、PLGA(ポリ(乳酸/グリコール酸共重合体)である。いくつかの実施態様にしたがえば、該ホスファチジルコリン炭化水素鎖は飽和している。いくつかの実施態様にしたがえば、該ホスファチジルコリンは、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)である。いくつかの実施態様にしたがえば、該リン酸三カルシウム(TCP)は、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウムおよびそれらの組み合わせから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該TCPはβ-リン酸三カルシウムである。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物を表面積1cm当たり20mg~500mgの範囲の量で固形腫瘍表面または切除腔表面に適用する。別の実施態様にしたがえば、1cm当たり50mg~400mg、50mg~350mg、50mg~300mg、50mg~275mg、50mg~250mg、50mg~225mg、50mg~200mg、50mg~180mg、50mg~170mg;50mg~160mg;50mg~150mg;50mg~120mg;50mg~100mg;50mg~100mg;75mg~160mg;75mg~120mg;75mg~100mgの範囲の量で、該組成物を適用する。いくつかの実施態様にしたがえば、該固形腫瘍は脳腫瘍である。いくつかの実施態様にしたがえば、該脳腫瘍は多形性膠芽腫である。いくつかの実施態様にしたがえば、該腫瘍はドセタキセル耐性腫瘍である。
【0030】
本明細書に開示の医薬組成物のpHは、本質的に該医薬組成物中の添加剤によって決まる。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物のpHは、pH電極InLab(登録商標)Solids Go-ISMで測定した場合に、7.0~9.0、好ましくは7.5~8.5である。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はpH調整剤をさらに含む。該医薬組成物のpHを、3.5~7;3.5~6.5;4~6;4~5.5;4~5または4~4.5に維持するために、緩衝液または酸などのpH調整剤を該医薬組成物に添加することができる。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物のpHを7未満、好ましくは6未満、より好ましくは4~5に維持することによって、タキセンを安定化させて、保存中にタキサンがその7-エピマー不純物に変換されるのを緩徐化する。特定の実施態様にしたがえば、該タキセンはドセタキセルであり、該医薬組成物のpHは4~5.5である。該医薬組成物に含有させる好適な酸としては、有機酸(酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、およびその混合物など)ならびに無機酸(塩酸、リン酸、硝酸、および硫酸、またはそれらの組み合わせなど)が挙げられる。酢酸は好ましいpH調整剤である。いくつかの実施態様にしたがう医薬組成物中のpH調整剤の量は、該医薬組成物の総重量の0.1~5%(w/w);0.1~4%(w/w);0.1~3%(w/w);0.1~2%(w/w);0.2~2%(w/w);0.3~2%(w/w);0.5~2%(w/w);0.5~1.8%(w/w);0.5~1.7%(w/w);0.5~1.6%(w/w);0.5~1.5%(w/w);0.5~1.4%(w/w);0.5~1.3%(w/w);0.5~1.2%(w/w);0.5~1.1%(w/w)または0.5~1.0%(w/w)である。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。
【0031】
切除腫瘍表面から深部の癌性組織へ化学療法剤を組織浸透させることは大きな課題である。標的薬剤による積極的または受動的な標的療法あるいは浸透性と滞留(EPR)の増強によって、化学療法の治療効果を改善することが可能ではあるが、腫瘍間質におけるナノ医薬の浸透性という問題も存在するのである(Xiaoqianら、Biomacromolecules 2019、20:2637-48)。これまで、ほとんどの治療法において、活性物質の効率的な腫瘍組織内浸透が不成功であった。脳腫瘍の治療の場合には、この問題はさらに重大である。多形性膠芽腫は、脳実質ヘの高度浸潤を特徴とするびまん性脳腫瘍である。この過程は、局所(小神経膠細胞)と浸潤免疫細胞(マクロファージおよびTreg細胞(制御性T細胞))との間の相互作用によって強化されるが、これらの免疫細胞は、脳における腫瘍増殖および腫瘍拡大にとって重要なサイトカインとマトリックス分解酵素を産生するのである。そのため、患者に神経損傷の重大リスクを負わせることなしに神経外科手術でGBM腫瘍を完全に除去(切除)することは困難で、ほぼ不可能である。したがって、神経外科手術の不断の進歩にもかかわらず、GBMの浸潤挙動が腫瘍の完全切除を阻み、紛れもなく患者における臨床転帰不良の主要原因となっているのである。本発明は、切除表面から組織内への該薬剤の浸透を改善する3つの主要因子を提供する:すなわち、(1)腫瘍切除腔表面の直近傍における高い局所濃度;(2)該高濃度への長時間暴露;および(3)放出される化学療法剤の物理的保護、である。長期間にわたる局所高濃度では、放出薬剤の活性濃度をより高濃度にすることが可能であり、それによって薬剤曝露を延長するのみならず、組織内部のより深部へと浸透することを助け、表面から深くに浸潤している腫瘍細胞の根絶を可能にするのである。いくつかの実施態様にしたがえば、本明細書に開示の方法と組成物を用いることによって、定量的オートラジオグラフィーで測定した場合に、切除腫瘍表面(例えば、残存腫瘍縁の外側の境界部)から少なくとも0.5cm離れた距離までタキサン浸透が伸長するのである。いくつかの実施態様にしたがえば、薬剤浸透が、切除腫瘍表面から少なくとも0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1.0cm、1.2cm、1.3cm、1.4cm、1.5cm、1.6cm、1.7cm、1.8cm、1.9cm、2.0cm、2.1cm、2.2cm、2.3cm、2.4cm、2.5cm、2.6cm、2.7cm、2.8cm、2.9cm、3.0cm離れた距離に伸長する。いくつかの実施態様にしたがえば、薬剤浸透が、切除腫瘍表面から2.5cm以上、あるいは、2.4cm、2.3cm、2.2cm、2.1cm、2.0cm、1.9cm、1.8cm、1.7cm、1.6cm、1.5cm以上伸長する。
【0032】
タキサン類は、比較的大きく高度に疎水性であるが、その特性のために組織浸透が制限され、組織中100μm超の深部に到達する薬剤はごく少ない(Alastair H.、Clin Cancer Res、2007;13(9):2804-10)。これは少なくとも部分的には、遊離のタキサン類が循環蛋白質に高度に(>98%)結合するようになり、このことが組織中への浸透能を限定的にするということによるのである。本明細書に開示の医薬組成物は、保存経過中にマトリックス内部でタキサンを保護するのみならず、放出時にも保護するのである。水性環境に置かれた場合には、ポリマー/脂質マトリックスが穏やかに分解され、その時点で開示の医薬組成物からタキサンが放出される。本明細書に開示の組成物から、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%のタキサン剤が放出されることは、水性環境(例えば、体液)への曝露時に、脂質/ポリマーを基盤とするマトリックスの外層の辺縁に形成される脂質のコロイド構造に関連していることが、明らかになっている。これら脂質のコロイド粒子は、該薬剤が循環蛋白質へ結合することから保護するのであるが、腫瘍細胞による薬剤取り込みには悪影響を及ぼすものではない。理論または作用機序によって限定されるものではないが、これら脂質コロイド粒子が、組織へのタキサンの浸透と浸潤を改善することが示唆されるのである。
【0033】
本明細書においてこれ以降に記載する詳細な説明によって、さらなる実施態様および本発明の適用可能性の全貌が明らかになるであろう。しかし、この詳細な記述から、当業者には本発明の趣旨および範囲内の様々な変形および変更が明らかであるので、その詳細な記述および具体例は、本発明の好ましい実施態様を示しているのであるが、具体的な例示としてのみ提供されるものであることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の複数の実施態様にしたがう、コレステロール含有もしくはコレステロール不含の異なるリン脂質類を含む医薬組成物からのドセタキセル蓄積放出のプロファイルを示す。
図2】本発明の複数の実施態様にしたがう、コレステロール含有もしくはコレステロール不含の異なるリン脂質類を含むドセタキセル持続放出組成物におけるドセタキセル7-エピマーの量を示す。
図3】本発明の複数の実施態様にしたがう、異なる量のDMPCを含むドセタキセル持続放出組成物におけるドセタキセル7-エピマーの量を示す。
図4A】ドセタキセルの蓄積放出プロファイルに対する、本発明の特定の実施態様にしたがう、DMPC(4A)およびDPPC(4B)を含むドセタキセル持続放出組成物へのTween-80添加の効果を示す。
図4B】ドセタキセルの蓄積放出プロファイルに対する、本発明の特定の実施態様にしたがう、DMPC(4A)およびDPPC(4B)を含むドセタキセル持続放出組成物へのTween-80添加の効果を示す。
図5】本発明の特定の実施態様にしたがう、様々な量のコレステロールを含むドセタキセル持続放出組成物中のドセタキセル7-エピマーの量を示す。
図6】本発明の特定の実施態様にしたがう、異なるリン脂質類を含むパクリタキセル持続放出組成物からのパクリタキセル蓄積放出のプロファイルを示す。
図7】ポリマー成分としてPLGAまたはPEGのいずれかを含むドセタキセル持続放出組成物からのドセタキセル蓄積放出を示す。
図8】本発明の特定の実施態様にしたがう各種のドセタキセル持続放出組成物によって局所処置されたBALB/cマウスにおけるCT26結腸癌の平均腫瘍容積を示す。
図9】ドセタキセル全身性処置と比較した、本発明の特定の実施態様にしたがうドセタキセル持続放出組成物で局所処置されたBALB/cマウスにおけるCT26結腸癌の平均腫瘍容積を示す。
図10】ヌードマウスにおけるU87多形性膠芽腫(GBM)腫瘍の平均腫瘍容積に反映される、0.87%(w/w)のドセタキセルを含むドセタキセル持続放出組成物を用いた局所処置に対する用量応答を示す。ゲムシタビンによる反復全身性処置を陽性対照とした。
【発明を実施するための形態】
【0035】
上記のように、本発明は、癌局所処置、癌再発予防および腫瘍転移阻害のための方法および持続放出抗癌組成物を提供する。
【0036】
本発明の一局面においては、固形腫瘍を治療する方法を提供するが、該方法は、タキセンを含むポリマー/脂質を基盤とするマトリックスでコーティングした微粒子生分解性基質を含む有効量の医薬組成物を、固形腫瘍を有する対象に投与することを含み、ここで該医薬組成物は、腫瘍を外科的に除去した後に、切除腫瘍腔の腫瘍壁に直接的に投与される。あるいは、該医薬組成物を、直接的に腫瘍(例えば、非切除腫瘍、または切除後の残存腫瘍)に注入してもよい。本発明の方法は、腫瘍切除外科手術後の固形腫瘍切除部位において、腫瘍細胞の再増殖を減少させるためにさらに有用である。特定の実施態様にしたがえば、本発明の方法は、脳腫瘍(例えば、多形性膠芽腫)の治療に有用である。いくつかの実施態様にしたがえば、タキセン持続放出組成物は、腫瘍切除外科手術中、または手術創傷縫合前のいずれかの時点で単回適用する本発明の方法に準拠することが意図される。
【0037】
本明細書中の「固形腫瘍」(あるいは「固形癌」とも称する)は、通常は嚢胞も液状領域も含まない組織の異常な腫瘤である。固形腫瘍は、悪性のことも良性のこともある。悪性固形腫瘍は、周囲組織に浸潤して新規の身体側に転移し得る。用語「固形腫瘍」は白血病(血液に影響を与える癌)を含まない。主要な3つのタイプの固形腫瘍は、肉腫、癌腫およびリンパ腫である。「肉腫」は、骨または筋肉などの結合組織または支持組織から起こる癌である。「癌腫」は、身体組織の壁を形成する腺細胞および上皮細胞から起こる癌である。「リンパ腫」は、リンパ節、脾臓、および胸腺などのリンパ系器官の癌である。固形腫瘍の例としては肉腫および癌腫(多形性膠芽腫、頭頸部癌、結腸癌、膵癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、小細胞肺癌、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑液腫瘍、中皮腫、膵癌、食道癌、胃癌、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄質癌、気管支癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、精巣腫瘍、膀胱癌、上皮癌、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起神経膠腫、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、黒色腫、神経芽細胞腫、および網膜芽細胞腫など)が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0038】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の方法は、脳腫瘍の治療に有用であり、また脳腫瘍切除の外科手術後の腫瘍切除部位における脳腫瘍細胞再増殖を低減することにおいて有用である。本明細書に記載の組成物および方法を利用して治療し得る脳腫瘍の代表的な例としては、以下が挙げられる:
神経膠腫(未分化星状細胞腫、多形性膠芽腫、毛様細胞性星状細胞腫、希突起神経膠腫、上衣腫、粘液乳頭状上衣腫、上衣下腫、脈絡叢乳頭腫など);神経腫瘍(例えば、神経芽細胞腫、神経節芽細胞腫、神経節細胞腫、および髄芽細胞腫);松果腺腫瘍(例えば、松果体芽細胞腫および松果体細胞腫);髄膜腫瘍(例えば、髄膜腫、頭蓋内血管周皮腫、髄膜肉腫);神経鞘細胞の腫瘍(例えば、神経鞘腫(Schwannoma)(神経鞘腫(Neurolemmoma)および神経線維腫);リンパ腫(例えば、ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫(数多くの亜種を含む、原発および2次性の両方);奇形性腫瘍(Malformative Tumor)(例えば、頭蓋咽頭腫、類表皮嚢胞、皮様嚢腫およびコロイド嚢胞);および転移性脳腫瘍(実質的に如何なる腫瘍にも由来し得るが、最も一般的には、肺、乳房、黒色腫、腎臓、および消化管の腫瘍に由来する)。
【0039】
本明細書中の用語「治療(処置)」または「治療する(処置する)」は、有益な結果または所望の結果を得るアプローチを指し、そのような結果としては、治療上の利点および/または予防的利点が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。治療上の利点は、以下のうちの少なくとも1種類を意味する:
(a)腫瘍サイズを減少させること;(b)腫瘍増殖を抑制することまたは減少させること;(c)転移の発生および/または拡散を低下させることまたは制限すること;(d)生存または無進行生存を増進させること、および(e)腫瘍除去手術から腫瘍再発までの時間を遅延させること。
【0040】
いくつかの実施態様にしたがえば、固形腫瘍を治療することは、腫瘍転移を阻害することを含む。「腫瘍細胞転移を阻害すること」は、非処置と比較して、如何なる程度の阻害をも含み得る。
【0041】
用語「腫瘍切除(tumor resection)」または「腫瘍切除(tumor excision)」は、その目的が腫瘍全体または腫瘍の可能な限り大部分を除去することにある外科的処置に関するものである。一部の腫瘍は容易に切除され得るが、他は到達困難な位置に存在することもある。典型的には、外科医が腫瘍を除去するが、その際、外科手術の成功率を上げるために、周囲の一部の正常で健常な組織(すなわち、「切除縁」)も除去する。外科手術による腫瘍全体の除去または切除が常に成功するとは限らないことは、当業者であれば理解するであろう。本明細書中の用語「腫瘍切除」は、腫瘍容積の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%が外科手術によって除去されている状態を指す。
【0042】
本明細書中の用語「腫瘍切除腔」は、腫瘍切除外科手術後の術後欠損を指す。外科手術によって腫瘍完全除去が常に可能とは限らないので、腫瘍切除腔は残存腫瘍塊を含み得ることが理解される。
【0043】
本明細書中の用語「有効量」または「治療的有効量」は、意図する用途(上記に定義されるような癌治療が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない)に充分効果的である、本明細書に記載される医薬組成物の量を指す。いくつかの実施態様にしたがえば、該「有効量」は、用いるタキセンの最大耐性用量(全身投与した場合に、許容できない副作用を引き起こすことのない、遊離の薬剤の最大用量と定義される)を超えるものではない。いくつかの好ましい実施態様にしたがえば、本発明の方法における「有効用量」は、タキセンの最大耐性用量よりも低量である。当業者であれば理解することであるが、最大耐性用量は薬剤の忍容全身性毒性に基づくものである。しかし、該薬剤を全身投与した場合の曝露と比較して、局所投与した該薬剤への全身性曝露が有意に低いので、局所送達について定義されるようなその耐性用量は、全身性処置における最大耐性用量に比較して、有意に高いこともある。バースト効果を起こさずに該薬剤が局所に放出される場合には、これは特に妥当である。本発明のいくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物中のタキサンがドセタキセルの場合には、本発明の方法による治療において、体重60Kgの成人に投与するドセタキセルの総量は600mgを超えるものではなく、あるいは、500mg、450mg、400mg、350mg、300mg、290mg、280mg、270mg、260mg、250mg、240mg、230mg、220mg、210mg、200mg、190mg、180mg、170mg、160mg、155mg、150mg、145mg、140mg、135mg、130mg、125mg、120mg、115mg、110mg、100mgを超えるものではない。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。特定の実施態様にしたがえば、本発明の方法による治療において投与するドセタキセルの総用量は、20~600mg、あるいは、20~550mg;20~500mg、20~450mg、20~400mg、20~350mg、20~300mg、20~280mg、20~260mg、20~240mg、20~220mg、20~200mg、20~190mg、20~180mg、20~170mg、20~160mg、20~150mg、20~140mg、20~130mg、20~120mg、20~110mg、20~100mg、50~600mg、50-550mg;50~500mg、50~450mg、50~400mg、50~350mg、50~300mg、50~280mg、50~260mg、50~240mg、50~220mg、50~200mg、50~190mg、50~180mg、50~175mg、50~170mg、50~165mg、50~160mg、60~160mg、65~160mg、70~160mg、75~160mg、80~160mg、85~160mg、90~160mg、95~160mg、100~160mg、80~150mg、80~140mg、80~130mg、80~120mgである。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。
【0044】
本発明のいくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物中のタキサンがパクリタキセルの場合には、本発明の方法による治療において、体重60Kgの成人に投与するパクリタキセルの総量は、800mgを超えるものではなく、あるいは、750、mg、700mg、650mg、600mg、550mg、500g、450mg、420mg、400mg、380mg、360mg、340mg、320mg、300mg、280mg、260mg、250mg、240mg、230mg、220mg、210mg、200mg、190mg、180mg、175mg、170mg、165mg、160mg、155mg、150mg、145mg、140mg、135mg、130mg、125mg、120mg、115mg、110mg、100mgを超えるものではない。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。特定の実施態様にしたがえば、本発明の方法による治療において投与するパクリタキセルの総用量は、60~800mg、あるいは、60~750mg、60~700mg、60~650mg、60~600mg、60~550mg、60~500mg、60~450mg、60~400mg、60~350mg、60~320mg、60~300mg、60~295mg、60~290mg、60~285mg、60~280mg、60~275mg、60~270mg、60~265mg、60~260mg、60~250mg、60~240mg、60~230mg、60~220mg、60~210mg、60~200mg、60~190mg、60~185mg、60~180mg、60~175mg、60~170mg、60~165mg、60~160mg、60~155mg、60~150mg、80~300mg、90~300mg、100~300mg、110~300mg、120~300mg、130~300mg、140~300mg、150~300mg、160~300mg、170~300mg、180~300mg、190~300mg、200~300mg、200~290mg、200~280mgである。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。
【0045】
本発明のいくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物中のタキサンがカバジタキセルである場合には、本発明の方法による治療において投与するカバジタキセルの総量は、60mgを超えるものではなく、あるいは、80mg、75mg、70mg、65mg、60mg、55mg、50mg、45mg、42mg、40mg、38mg、37mg、36mg、35mg、34mg、33mg、32mg、31mg、30mg、29mg、28mg、27mg、26mg、25mg、24mg、23mg、22mg、21mg、20mgを超えるものではない。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。特定の実施態様にしたがえば、本発明の方法による治療において投与するカバジタキセルの総用量は、10~80mg、あるいは、10~75mg、10~70mg、10~65mg、10~60mg、10~55mg、10~50mg、10~45mg、10~42mg、10~40mg、10~38mg、10~35mg、20~50mg、20~45mg、20~42mg、20~40mg、20~38mg、20~35mg、25~50mg、25~45mg、25~40mg、30~50mg、30~45mg、30~40mgである。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。用語「制御放出」は、本発明の医薬組成物によって送達されるタキサン剤の率および/または量の制御を指す。用語「持続放出」は、医薬活性物質が長期間にわたって放出されることを意味する。
【0046】
本明細書に開示される医薬組成物は、以下を含むマトリックス組成物でコーティングまたは包埋した微粒子生分解性基質によって構成される:(a)生分解性ポリマー、(b)少なくとも12個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質を含む脂質成分;および(c)タキサン化学療法剤。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックスはステロールをさらに含んでいてもよい。該マトリックス組成物は、それを必要とする対象の身体中の腫瘍部位または腫瘍切除部位において薬学的活性物質の持続性放出を提供する。
【0047】
特定の実施態様においては、該ポリマーおよび該脂質または脂質類は、実質的に水を含まない構造的に組織化された脂質飽和マトリックス組成物を形成する。いくつかの実施態様においては、該マトリックス組成物は、該ポリマーおよび脂質類が複数の交互層の形態で構造化されている高度に秩序立った多層構造を有する。いくつかの実施態様においては、該マトリックスは、重量で少なくとも約50%の総脂質類を含む。
【0048】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の医薬組成物は、該医薬組成物の総重量に対して、約80~93%(w/w)の微粒子生分解性基質および7~20(w/w)%のマトリックス組成物を含む。別の実施態様にしたがえば、該微粒子生分解性基質は、該医薬組成物の総重量の約80~92%(w/w)、80~91%(w/w)、80~90%(w/w)、80~89%(w/w)、80~88%(w/w)、80~87%(w/w)、80~86%(w/w)、80~85%(w/w)、81~93%(w/w)、82~93%(w/w)、83~93%(w/w)、84~93%(w/w)、85~93%(w/w)、85~92%(w/w)、85~91%(w/w)、85~90%(w/w)、85~89%(w/w)、85~88%(w/w)、86~89%(w/w)を占める。
【0049】
いくつかの実施態様においては、該マトリックス組成物は、該マトリックス組成物の重量で少なくとも10%の生分解性ポリマーを含む。いくつかの実施態様においては、該マトリックス組成物は、該マトリックス組成物の重量で約10~30%のポリマーを含む。いくつかの実施態様においては、該マトリックス組成物は、該マトリックス組成物の重量で約15~25%のポリマーを含む。いくつかの実施態様においては、該マトリックス組成物は、該マトリックス組成物の重量で約20%のポリマーを含む。いくつかの実施態様においては、該生体適合性ポリマーは、該マトリックス組成物の重量の少なくとも10%(w/w)、少なくとも11%(w/w)、少なくとも12%(w/w)、少なくとも13%(w/w)、少なくとも14%(w/w)、少なくとも15%(w/w)、少なくとも16%(w/w)、少なくとも17%(w/w)、少なくとも18%(w/w)、少なくとも19%(w/w)、少なくとも20%(w/w)、少なくとも21%(w/w)、少なくとも22%(w/w)、少なくとも23%(w/w)、少なくとも24%(w/w)、少なくとも25%(w/w)、少なくとも26%(w/w)、少なくとも27%(w/w)、少なくとも28%(w/w)、少なくとも29%(w/w)、少なくとも30%(w/w)を占める。
【0050】
本発明の特定の実施態様にしたがえば、該ポリマーは生分解性ポリエステルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該ポリエステルは、PLA(ポリ乳酸)から成る群から選択される。「PLA」は、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D-ラクチド)、およびポリ(DL-ラクチド)を指す。別の一実施態様においては、該ポリマーはPGA( ポリグリコール酸)である。別の一実施態様においては、該ポリマーはPLGA(ポリ(乳酸-グリコール酸)である。PLGAに含まれるPLAは、当該技術分野において公知の如何なるPLAであってもよく、例えば、光学異性体またはラセミ混合物のいずれかであってもよい。本発明の方法および組成物のPLGAについては、別の一実施態様において、乳酸/グリコール酸比が50:50である。別の一実施態様においては、該比は60:40である。別の一実施態様においては、該比は75:25である。別の一実施態様においては、該比は85:15である。別の一実施態様においては、該比は90:10である。別の一実施態様においては、該比は95:5である。別の一実施態様においては、該比はインビボでの徐放または持続放出プロファイルに適する別の比である。該PLGAは、ランダム共重合体またはブロック共重合体のいずれかであってもよい。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。該ポリマーは、いずれのサイズまたは長さであってもよい(すなわち、任意の分子量)ことに留意されたい。
【0051】
別の一実施態様においては、該生分解性ポリエステルが水素結合受容体部分を含む場合には、該ポリエステルは、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリプロピレンフマレート、ポリオルトエステル、ポリ無水物、およびポリアルキルシアノアクリレートから成る群から選択されるのであってもよい。別の一実施態様においては、該生分解性ポリエステルは、PLA、PGA、PLGA、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリプロピレンフマレート、ポリオルトエステル、ポリ無水物、およびポリアルキルシアノアクリレートから成る群から選択されるいずれかの2種類の単量体の組み合わせを含むブロック共重合体である。別の一実施態様においては、該生分解性ポリエステルは、上記に列挙される単量体のうちのいずれか2種類の組み合わせを含むランダム共重合体である。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。
【0052】
用語「生分解性」は、ヒトの身体において、加水分解作用、酵素作用、および/またはその他の類似機構によって経時的に分解される物質を指す。「生分解性」は、治療剤の放出後、あるいは放出中に、物質が身体内で非毒性成分に分解または還元されることをさらに含む。
【0053】
いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、少なくとも約30%(マトリックス組成物の総重量のw/w)の少なくとも12個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質を含む脂質成分を含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、少なくとも12個の炭素、好ましくは12~18個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質を含む脂質成分を、少なくとも約40%(w/w)含むが、好ましくはここで該炭化水素鎖は完全飽和している。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、少なくとも12個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質を含む脂質成分を約40~75%(w/w)含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、少なくとも12個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質を含む脂質成分を約50~70%(w/w)含む。特定の典型的な実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、少なくとも12個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質を含む脂質成分を約60%(w/w)含む。いくつかの実施態様においては、少なくとも12個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質を含む脂質成分は、該マトリックス組成物の総重量の少なくとも40%(w/w)、少なくとも45%(w/w)、少なくとも50%(w/w)、少なくとも55%(w/w)、少なくとも60%(w/w)、少なくとも65%(w/w)、または少なくとも70%(w/w)を占める。いくつかの実施態様においては、少なくとも12個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質を含む脂質成分は、該マトリックス組成物の総重量の75%(w/w)以下、70%(w/w)以下、65%(w/w)以下を占める。いくつかの実施態様にしたがえば、該脂質成分は、少なくとも14個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のリン脂質分子を含む。いくつかの実施態様にしたがえば、第2の脂質成分は、少なくとも14個の炭素の脂肪酸部分を有する少なくとも1種類のホスファチジルコリン分子を含む。いくつかの好ましい実施態様にしたがえば、該組成物のホスファチジルコリン分子はDMPCを含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該組成物のホスファチジルコリン分子はDPPCを含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該組成物のホスファチジルコリン分子はDSPCを含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物はDOPCを含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、少なくとも14個の炭素の脂肪酸部分を有する第2のリン脂質とDMPCとの混合物を含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物はDMPCとDPPCとの混合物を含む。典型的には、該マトリックス製剤におけるDMPCとDPPCとの間の比は約10:1~1:10である。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、DMPCまたはDMPC/DPPC混合物を約50~70%(w/w)含む。
【0054】
いくつかの実施態様にしたがえば、該持続放出マトリックス組成物はステロールをさらに含んでいてもよい。いくつかの実施態様にしたがえば、該ステロールは、該マトリックス組成物の総重量に対して、最大で40%(w/w)を占める。いくつかの実施態様にしたがえば、該ステロールが存在する場合には、該生分解性ポリマーに非共有結合的に結合する。いくつかの実施態様にしたがえば、該ステロールは、該マトリックス組成物の総重量に対して、最大で約30%(w/w)を占める。いくつかの実施態様にしたがえば、該ステロールは、該マトリックス組成物の総重量に対して、約5~40%(w/w)、約5~30%(w/w)、約5~20%(w/w)、約5~15%(w/w)、約7~13%(w/w)、約9~11%(w/w)を占める。特定の典型的な実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、約10%のステロール(該マトリックス組成物の総重量のw/w)を含む。いくつかの実施態様においては、該ステロールは、該マトリックスの少なくとも5%(w/w)、少なくとも6%(w/w)、少なくとも7%(w/w)、少なくとも8%(w/w)、少なくとも9%(w/w)、少なくとも10%(w/w)、少なくとも11%(w/w)、少なくとも12%(w/w)、少なくとも13%(w/w)、少なくとも14%(w/w)、少なくとも15%(w/w)、少なくとも16%(w/w)、少なくとも17%(w/w)、少なくとも18%(w/w)、または少なくとも19%(w/w)を占める。いくつかの実施態様においては、ステロールは、該マトリックス組成物の20%(w/w)以下、19%(w/w)以下、18%(w/w)以下、17%(w/w)以下、16%(w/w)以下、15%(w/w)以下、14%(w/w)以下、13%(w/w)以下、12%(w/w)以下、11%(w/w)以下、10%(w/w)以下、9%(w/w)以下、8%(w/w)以下、7%(w/w)以下、6%(w/w)以下、または5%(w/w)以下を占める。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。特定の好ましい実施態様にしたがえば、該ステロールはコレステロールである。
【0055】
いくつかの実施態様においては、本発明の医薬組成物における脂質:ポリマー重量比は1:1~9:1の範囲である。別の一実施態様においては、該比は2:1~9:1の範囲である。別の一実施態様においては、該比は3:1~9:1の範囲である。別の一実施態様においては、該比は4:1~9:1の範囲である。別の一実施態様においては、該比は5:1~9:1の範囲である。別の一実施態様においては、該比は6:1~9:1の範囲である。別の一実施態様においては、該比は7:1~9:1の範囲である。別の一実施態様においては、該比は8:1~9:1の範囲である。別の一実施態様においては、該比は1.5:1~9:1の範囲である。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。
【0056】
本発明の組成物を用いる持続放出期間は、該ポリマーおよび脂質の生化学的および/または生物物理学的な特性を考慮してプログラムすることが可能であることに留意されたい。具体的には、該ポリマーの分解速度および該脂質の流動性を考慮に入れる必要がある。例えば、PLGA(85:15)ポリマーは、PLGA(50:50)ポリマーよりもゆっくりと分解する。体温では、ホスファチジルコリン(12:0)は、ホスファチジルコリン(18:0)よりも流動性が高い(硬さの程度がより低く、またより不定型である)。したがって、例えば、PLGA(85:15)およびホスファチジルコリン(18:0)を含むマトリックス組成物に取り込まれた薬剤の放出速度は、PLGA(50:50)およびホスファチジルコリン(14:0)で構成されるマトリックスに取り込まれた薬剤よりも緩徐である。放出速度を決定するもう一つの局面は、封入薬剤または含浸薬剤の物理的特性である。加えて、マトリックス製剤に他の脂質類を添加することによって、薬剤放出速度をさらに制御することができる(脂質類の一部については後述する)。
【0057】
様々な実施態様においては、微粒子基質をコーティングするマトリックス組成物に封入したタキサン化学療法剤は、如何なる好適なタキサンであってもよく、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、タキサジエン、バッカチンII、タクスキニンA、ブレビフォリオール(brevifoliol)、タキススピンD、それらの組み合わせ、または薬学的に許容可能なその塩が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。様々な実施態様にしたがえば、該タキサンはドセタキセルである。様々な実施態様にしたがえば、該タキサンはパクリタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該タキサンは、該マトリックス組成物の総重量の約3~20%(w/w)を占める。いくつかの実施態様にしたがえば、該タキサンは、該マトリックス組成物の総重量の約3~19%(w/w)、3~18%(w/w)、3~17%(w/w)、3~16%(w/w)、3~15%(w/w)、3~14%(w/w)、3~13%(w/w)、3~12%(w/w)、3~11%(w/w)、3~10%(w/w)、3~9%(w/w)、3~8%(w/w)、4~15%(w/w)、4~14%(w/w)、4~13%(w/w)、4~12%(w/w)、4~11%(w/w)、4~10%(w/w)、4~9%(w/w)、4~8%(w/w)、5~15%(w/w)、5~14%(w/w)、5~13%(w/w)、5~12%(w/w)、5~11%(w/w)、5~10%(w/w)、5~9%(w/w)、5~8%(w/w)、6~15%(w/w)、6~14%(w/w)、6~13%(w/w)、6~12%(w/w)、6~11%(w/w)、6~10%(w/w)、6~9%(w/w)、6~8%(w/w)を占める。特定の実施態様にしたがえば、タキサンは、該医薬組成物の総重量の約0.2%~2.6%(w/w)を占める。あるいは、該医薬組成物の総重量の約0.3~2.5%、0.3~2.4%、0.3~2.3%、0.3~2.2%、0.3~2.1%、0.3~2.0%、0.3~1.9%、0.3~1.8%、0.3~1.7%、0.3~1.6%、0.3~1.5%、0.3~1.4%、0.3~1.3%、0.3~1.2%、0.3~1.1%、0.3~1.0%、0.3~0.0%、0.5~2.5%、0.5~2.4%、0.5~2.3%、0.5~2.2%、0.5~2.1%、0.5~2.0%、0.5~1.9%、0.5~1.8%、0.5~1.7%、0.5~1.6%、0.5~1.5%、0.5~1.4%、0.5~1.3%、0.5~1.2%、0.5~1.1%、0.5~1.0%、0.6~2.5%、0.6~2.4%、0.6~2.3%、0.6~2.2%、0.6~2.1%、0.6~2.0%、0.6~1.9%、0.6~1.8%、0.6~1.7%、0.6~1.6%、0.6~1.5%、0.6~1.4%、0.6~1.3%、0.6~1.2%、0.6~1.1%、0.6~1.0%、0.6~0.9%、0.7~2.5%、0.7~2.4%、0.7~2.3%、0.7~2.2%、0.7~2.1%、0.7~2.0%、0.7~1.9%、0.7~1.8%、0.7~1.7%、0.7~1.6%、0.7~1.5%、0.7~1.4%、0.7~1.3%、0.7~1.2%、0.7~1.1%、0.7~1.0%、0.7~0.9%、0.8~1.0%、0.8~0.9%(w/w)を占める。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。いくつかの実施態様にしたがえば、該タキサンはパクリタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該タキサンはドセタキセルである。
【0058】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の医薬組成物および方法に用いる微粒子生分解性基質は、典型的には球形またはステロイド性の粒子で構成される。いくつかの実施態様においては、該粒子は、必ずしも球形および/またはステロイド性である必要はないが、好ましくは球形および/または球状であり、(例えば、MalvernのMastersizer 3000装置を用いたレーザー回折で測定した場合に)その平均直径が、少なくとも約30μm、少なくとも約40μm、少なくとも約50μm、少なくとも約60μm、少なくとも約70μm、少なくとも約80μm、少なくとも約90μm、少なくとも約100μm、30μm~120μm、30μm~100μm、50μm~100μm、約150μm以下、約140μm以下、約130μm以下、約120μm以下、約110μm以下、約100μm以下であってもよい。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の組成物および方法に用いる微粒子基質は、生体適合性(すなわち、毒性が低く、生体において、低いレベルの異物反応しか示さず、身体組織に対して良好な親和性を有し得る)、生体吸収性(すなわち、生体内分解性)、および親水性を有するが、水には低溶解性の生体吸収性親水性材料である;この低溶解性のために、身体内で完全に消失する、あるいは溶解するに要する期間は、4週間以上、6週間以上、8週間以上、および好ましくは、10週間以上の期間であり、該材料は周囲温度で固形形状を有し、また成形性を有する。これらの特性を有する材料はいずれも非限定的に用いられ得る。いくつかの実施態様にしたがえば、該生分解性基質は、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウムヒドロキシアパタイト、α-リン酸三カルシウム(α-TCP)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、不定形リン酸カルシウム、リン酸四カルシウム、無水リン酸二カルシウム、無水リン酸一カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸一水素二ナトリウム、およびリン酸塩を基盤とする他のバイオセラミックおよびそれらの組み合わせから成る群から選択される。いくつかの実施態様にしたがえば、該微粒子基質は、リン酸三カルシウム(TCP)、好ましくはβ-TCPで構成される。その他の実施態様にしたがえば、該微粒子基質は、ポリビニルアルコール(PVA)、好ましくは少なくとも88%の加水分解度を有するPVAから成る。いくつかの実施態様にしたがえば、該生分解性基質は、40~80%、45~80%、50~80%、55~80%、60~80%、65~80%、65~75%の範囲の間隙率を有する多孔質基質である。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。
【0059】
本明細書中の用語「平均直径サイズ」は、レーザー回折によって測定した場合には、少なくとも約50%の基質粒子が測定平均直径サイズ未満のサイズを有することを意味する。一例を挙げれば、100μmの平均粒子サイズを有する粒子は、少なくとも約50%の粒子が100μm未満の直径を有することを意味する。
【0060】
特定の実施態様においては、該医薬組成物は実質的に水を含まない。本明細書中の「実質的に水を含まない」は、一実施態様においては、該医薬組成物の総重量に基づいて、重量で2%未満の水を含む医薬組成物を意味する。別の一実施態様においては、上記の用語は、該医薬組成物の総重量にもとづいて、重量で1.5%未満の水、1.4%未満の水、1.3%未満の水、1.2%未満の水、1.1%未満の水、1.0%未満の水、0.9%未満の水、0.8%未満の水、0.7%未満の水、0.6%未満の水、0.5%未満の水を含むマトリックス組成物を指す。別の一実施態様においては、上記の用語は、該マトリックス組成物の耐水性特性に影響を与える量の水が存在しないことを意味する。別の一実施態様においては、上記の用語は、水性溶媒を全く用いずに製造した医薬組成物を指す。別の一実施態様においては、本明細書に記載のように、実質的に水を含まない処理を用いて該医薬組成物を製造することにより、脂質飽和が可能になる。脂質飽和は、インビボにおけるバルク分解抵抗能をマトリックス組成物に付与する;そのため、該マトリックス組成物は、数日~数週間(最長で約10週間)のスケールで持続放出を媒介する能力を示すのである。該組成物中の水の総量は、カールフィッシャー法および乾燥による水分消失などの、当該技術分野において公知の方法で判定するのであってもよい。
【0061】
本発明の方法に用いる医薬組成物の技術基盤
いくつかの実施態様にしたがえば、微粒子生分解性基質をコーティングする、持続放出マトリックス組成物は該ポリマーが1層を形成し、該リン脂質類が第2の種類の層を形成し、これら2種の層が複数の交互層または準交互層の形態に構成される高度に秩序立った多層構造を有する。いくつかの実施態様にしたがえば、該マトリックス組成物は、内部ギャップおよび/または自由体積のない連続的構造を含む。コーティングマトリックス組成物は脂質飽和しているが、この脂質飽和は、ポリマー層またはポリマーバックボーン間の空間が、タキサン剤と組み合わせたが脂質分子で充填されており、この充填がもはやマトリックスにさらなる脂質部分を大幅には取り込ませることができない程度であることを意味している。
【0062】
本明細書に開示されるコーティングマトリックス組成物は脂質飽和している。本明細書中の「脂質飽和した」は、該マトリックス組成物のポリマーが、マトリックス中に存在するタキサン剤と組み合わせた脂質成分(例えば、リン脂質類、および任意選択的にステロール)および存在することもある他の任意の脂質類で飽和していることを指す。該マトリックス組成物には何らかの脂質類が存在し、その脂質類で飽和しているのである。別の一実施態様においては、「脂質飽和」は、該ポリマーバックボーンの外側縁を境界とするような脂質マトリックス内の内部ギャップ(自由体積)を充填していることを指す。該ギャップは、ホスファチジルコリンで充填され、また任意選択的にコレステロール、また場合によって他の種類の脂質類と組み合わせ、およびマトリックス中に存在するタキサン剤で充填されるが、もはや該マトリックスに付加的脂質部分を大幅には取り込ませることができない程度に充填されるのである。本発明の脂質飽和マトリックスは、ポリビニルアルコールなどの合成乳化剤も界面活性剤も不要であるというさらなる利点を示す;したがって、本発明のマトリックス組成物は典型的には実質的にポリビニルアルコールを含まない。
【0063】
いくつかの実施態様においては、水性媒体に曝露され、さらに水性媒体中に維持される場合には、該マトリックス組成物は、ゼロ次の速度過程で少なくとも40%のタキサン剤を放出可能である。いくつかの実施態様において、水性媒体中に維持される場合には、ゼロ次の速度過程でマトリックス組成物から少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%のタキサンが放出される。特定の理論または作用機序によって限定されるものではないが、本発明のマトリックス組成物の秩序立った構造または下位構造が、水和後のマトリックス製剤から薬剤(単一薬剤または複数薬剤)が放出されるゼロ次放出速度の主要原因であることが示唆される。したがって、このゼロ次放出速度は、脂質類およびポリマーの高度に秩序立った層の水和表面層の緩徐で連続的な「剥離」に起因する可能性があり、その際、同時に該マトリックスから脱落した表面層の成分としてのタキサン剤も放出されるのである。このプロセスはゆっくりとそのプロセス自体を繰り返すので、マトリックスが完全に分解されてしまうまで、数日あるいは数週間かけて定常速度でタキサン剤を放出するのであろうと推論される。理論に基づくのではなくとも、該ポリマーが第1の種類の層を形成すること、および該リン脂質が第2の種類の層を形成すること、ならびにこれらの層が交互、すなわち、(ポリマー)-(リン脂質)-(ポリマー)-(リン脂質)に配置することが考えられるのである;本明細書中の用語「準交互」は、層の種類が2種類以上交互に存在する状態、例えば、(ポリマー)-(リン脂質)-(リン脂質)-(ポリマー)-(リン脂質)-(リン脂質)-(ポリマー)を指す。
【0064】
いくつかの実施態様においては、該マトリックス組成物は、上記のようにポリマーおよびリン脂質の複数の混合層を有するが、ミクロスフェア、ミセル、逆ミセル、およびリポソームの形態ではない。いくつかの実施態様においては、該マトリックス組成物は、ミセルも、逆ミセルも、リポソームをも含まない。
【0065】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明のマトリックスは耐水性である。したがって、仮に水が存在したとしても、水は容易に該マトリックスの内層中に拡散することができず、また内層間に封じ込められたタキサン剤は、仮に拡散することがあったとしても、容易に該マトリックスの外に拡散することはできない。より具体的には、組成物はその大部分が水に露出していない、あるいは浸透水の量は少なく、マトリックスバルクの崩壊または分解を引き起こすのには不充分である程度にしか水に露出していない(その大部分とは、例えば、周囲環境に露出している外表面に囲まれた組成物の部分である)ことを意味している。理論または作用機序に基づくまでもなく、該マトリックス組成物の耐水特性は、その固有の多層構造と共に、該マトリックスに持続性放出特性を付与する(例えば、該組成物が生理的温度で水性環境に維持される場合には、数日~数週間およびさらに数か月の範囲の期間にわたってゼロ次速度論で、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、60%、または少なくとも70%のタキサン化学療法剤を該組成物から放出する能力)。
【0066】
薬剤の効力は通常、その局所濃度で判定される。一方、局所濃度は、製剤から放出される薬剤の蓄積速度と周囲組織に物理的に拡散することによる、ならびに中和および/または分解による消失との間の比によって決定される。最適薬剤送達システムでは、生物学的必要性にしたがって薬剤を放出する必要があるが、その目的は、所望の生物学的効果を得るのに必要となる充分な期間を通じて、標的の近接域または直近域において有効濃度を創り出すことである。最小有効濃度より高い有効濃度が得られる速度で、かつ有効な治療効果に必要な所望の期間、標的部位において該薬剤を放出することによって、上記を達成できる。意外なことには、本発明のいくつかの実施態様にしたがう医薬組成物は、(該医薬組成物に封入された)薬剤(例えば、ドセタキセル)の投与総量が、該薬剤の処方情報に基づく該薬剤の最大耐性用量の30%未満であった場合ですら、固形腫瘍の治療が可能であり、腫瘍切除外科手術後にそれが局所再発を阻止可能であることを見いだした。またさらに、腫瘍がタキサン耐性腫瘍である場合であっても、同様な結果が得られたのである。
【0067】
本発明の組成物および方法の利点の一つは、局所部位へのタキサン供給速度を制御することによる、該タキサン剤局所曝露を制御する制御能である。この供給速度は、(1)タキサン放出プロファイル;(2)放出速度;および(3)放出持続時間、によって決まるものである。これらのパラメータは密接に関連する;放出速度は特定の製剤に強く依存するものであるが、一方、持続時間は2種類の因子すなわち放出速度と薬剤リザーバーサイズの関数である。タキサン剤、好ましくはドセタキセルを搭載した特定の脂質類およびポリマーの組み合わせを含む本発明の医薬組成物は、該タキサンの放出速度プロファイルを決定するのみならず、持続するゼロ次速度論相の経過中の放出速度に対する制御を可能にする。理論または作用機序に基づくまでもなく、化学療法剤の最も有効でかつ安全な放出プロファイルは、初期のバーストが起こらず、充分な持続時間にわたる、連続的なゼロ次速度論での放出であることが示唆され、その持続期間は、例えば、最長14日、最長15日、最長16日、最長17日、最長18日、最長19日、最長20日、最長21日、最長22日、最長23日、最長24日、最長25日、最長26日、最長27日、最長28日、最長29日、最長30日、最長31日、最長32日、最長33日、最長34日、最長35日、最長36日、最長37日、最長38日、最長39日、最長40日、最長6週間、最長7週間、最長8週間、最長9週間、最長10週間、好ましくは約14~35日である。
【0068】
「ゼロ次放出速度」または「ゼロ次放出速度論」は、該医薬組成物からのタキサンの定常的、線形性、連続的、持続性、および制御性の放出速度を意味し、すなわち、時間に対するタキサン放出量のプロットが直線である。いくつかの実施態様にしたがえば、該タキサンの少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、およびより好ましくは、少なくとも60%が、ゼロ次速度論により約1~7%、1~6%、1~5%、1~4%、1~3%、2~7%、2~6%、2~5%、2~4%、2~3%([1日当たりに放出されるタキサンの重量パーセント]/[該組成物において最初に封入されたタキサンの総重量])の速度で該組成物から放出される。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。
【0069】
いくつかの実施態様にしたがえば、生理的温度で水性媒体中に維持される場合には、第1日目の終わりまでに該組成物からタキサンの1~10%が放出され;第1週の終わりまでに該組成物からタキサンの10~50%が放出され;最初の2週間の終わりまでに該組成物からタキサンの20~100%が放出され;最初の3週間の終わりまでに該組成物からタキサンの30~100%が放出される。いくつかの実施態様においては、生理的温度で水性媒体中に維持される場合には、第1週の終わりまでに該タキサンの少なくとも10%~50%以下が放出され;第2週の終わりまでに該タキサンの少なくとも20%~80%以下が放出され;第3週の終わりまでに該タキサンの少なくとも30%が放出される。第3週の終わりまでに該タキサンの少なくとも40%が放出される。第3週の終わりまでに該タキサンの少なくとも50%が放出される。第3週の終わりまでに該タキサンの少なくとも60%が放出される。現在好ましい実施態様にしたがえば、該タキサンはドセタキセルである。
【0070】
本発明の方法に用いる医薬組成物は、予測可能な長期持続放出によってタキサンを腫瘍部位または腫瘍切除部位に局所放出する。したがって、タキサン剤の全身性レベルを低くまたはゼロレベルに維持しながら、局所の腫瘍部位においては、タキサン剤のレベルを維持することができる。該タキサンの持続性局所放出により、安全用量の局所タキサンは、典型的には通常静注で投与される単回用量よりも低用量で、非常に効果的に腫瘍を治療し、その再発を予防する。一例を示せば、直径約5cmの腫瘍切除腔の表面(約25cmの推定腔表面)に塗布するのに好適な、本発明の方法に用いる医薬組成物10グラム中のドセタキセル量(ここでドセタキセルは該組成物の総重量の約0.7~1%を占める)は、3週間毎に1回の単回用量静注で通常投与される推奨ドセタキセル量の約50%である。
【0071】
さらに、該医薬組成物は、封入タキサンを保護するリザーバーのように働く。ポリマーによる従来の送達システムとは対照的に、この特性により、酵素などの生物学的分解因子からのみならず、インビボ溶解性物質および水和に起因する化学的破壊からも、感受性薬剤リザーバーを保護することができる。持続的効果が必要な場合には、この特性が非常に重要となる。
【0072】
治療法
固形腫瘍を治療および腫瘍切除外科手術後の再発予防を対象とする本発明の方法は、現在、有効な解決策がなく医学界において懸案となっている医学的必要性に対処するものである。本発明の方法は、腫瘍切除外科手術中または手術直後に腫瘍切除部位の腔に直接適用する、あるいは腫瘍内注射により腫瘍内に直接実施するネオアジュバント療法として直接適用する、局所的腫瘍治療および腫瘍再発予防を提供する。本発明の方法は多様な固形腫瘍における癌治療、癌再発予防および癌転移予防に好適である。
【0073】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明は、脳腫瘍を治療する方法を提供するが、ここで該方法は、固形脳腫瘍表面または固形脳腫瘍切除後の切除腔表面に、以下を含む医薬組成物を治療有効量で投与する工程を含む:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキセン。
いくつかの実施態様にしたがえば、該脳腫瘍は多形性膠芽腫である。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はステロールをさらに含む。様々な実施態様にしたがえば、該タキセンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体、およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキセンはドセタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該生分解性ポリマーはポリエステルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該生分解性ポリマーはPLGAである。いくつかの実施態様にしたがえば、該リン脂質は、12~18個の炭素の炭化水素鎖を有するホスファチジルコリンである。特定の実施態様にしたがえば、該リン脂質成分はDMPCを含む。いくつかの実施態様にしたがえば、脳腫瘍を治療する方法に用いる医薬組成物は以下を含む:(a)80~93%(w/w)のリン酸三カルシウム;(b)1%~4.0%(w/w)のPLGA;(c)0.0~2.0%(w/w)のコレステロール;(d)4.0~15.0%(w/w)のDMPC;(e)0.2~2.6%(w/w)のドセタキセル。いくつかの実施態様にしたがえば、該ドセタキセルは該医薬組成物の総重量の0.5%~1.5%(w/w)を占める。特定の実施態様にしたがえば、該ドセタキセルは該医薬組成物の総重量の0.7%~1.3%(w/w)、あるいは0.7%~1.0%(w/w)を占める。いくつかの実施態様にしたがえば、該リン酸三カルシウム(TCP)は、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウムおよびそれらの組み合わせから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該TCPはβ-リン酸三カルシウムである。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物のpHは約7.5~8.5である。いくつかの実施態様にしたがえば、脳腫瘍を治療する医薬組成物はpH調整剤をさらに含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物のpHは約4~6である。いくつかの実施態様にしたがえば、4~6のpHは、該タキサン(例えば、ドセタキセル)を安定化し、その7-エピマーへの変換を軽減する。特定の実施態様にしたがえば、脳腫瘍を治療する方法は、上記に開示の医薬組成物を固形脳腫瘍表面または固形脳腫瘍切除後の切除腔表面へ局所投与することを含む。いくつかの実施態様にしたがえば、本明細書中の脳腫瘍切除は、腫瘍容積の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%が外科手術によって除去されている状態を指す。脳腫瘍の外科手術ができない場合、および切除不可能な場合、もしくは腫瘍を有する患者がその病状によって手術不可能な場合には、該医薬組成物を直接的に腫瘍に注入するのであってもよい。特定の実施態様にしたがえば、該医薬製剤は:(a)85~92%(w/w)のリン酸三カルシウム;(b)2.0%~3.0%(w/w)のPLGA;(c)0.0~2.0%(w/w)のコレステロール;(d)4.0~10.0%(w/w)のDMPC;および(e)0.5~1.5%(w/w)のドセタキセル、を含む。いくつかの例示的な実施態様にしたがえば、該医薬組成物は:(a)86~89%(w/w)のリン酸三カルシウム;(b)2.4%~2.8%(w/w)のPLGA;(c)0.8~1.5%(w/w)のコレステロール;(d)7.0~9.0%(w/w)のDMPC;および(e)0.6~1.3%(w/w)のドセタキセル、を含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該リン酸三カルシウムはβ-リン酸三カルシウムである。上記に開示の脳腫瘍治療法では、外科手術による腫瘍除去と放射線および全身化学療法などの現在実施されているアジュバント治療の開始(典型的には、外科手術から約4週間後であって、手術創傷治癒プロセスが始まった後にのみ実施される)との間の遅延を軽減、最小化、あるいは効果的に回避する。いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の脳腫瘍治療法はさらに腫瘍転移の形成を阻害する。
【0074】
いくつかの実施態様にしたがえば、上記に開示の方法は、原発脳腫瘍の治療に好適である。原発脳腫瘍は、異なる種類の脳細胞、あるいは脳の周りの膜(髄膜)、神経または腺から起こり得る。脳における最も一般的な原発腫瘍の種類は神経膠腫であり、これは脳の神経膠組織から起こる。いくつかの実施態様にしたがえば、該神経膠腫は星状細胞腫である。いくつかの実施態様にしたがえば、星状細胞腫はグレードI(毛様細胞)星状細胞腫、グレードII(線維性)星状細胞腫、グレードIII(未分化)星状細胞腫およびグレードIV多形性膠芽腫(GBM)から成る群から選択される。その他の実施態様にしたがえば、該神経膠腫は希突起神経膠腫である。またさらなる実施態様にしたがえば、該神経膠腫は上衣腫である。いくつかの実施態様にしたがえば、該脳腫瘍は二次性または転移性の脳腫瘍である。二次性または転移性の脳腫瘍は、身体の他の部分で発生した腫瘍から遊走した癌細胞から生成する。最も一般的な脳転移は、肺癌細胞、乳癌細胞、黒色腫、結腸直腸癌細胞および腎臓癌細胞に由来する。
【0075】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明は結腸癌を治療する方法を提供するが、ここで該方法は、固形結腸癌腫瘍表面または固形癌腫瘍切除後の切除腔表面に、以下を含む医薬組成物を治療有効量で投与する工程を含む:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキセン。
いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はステロールをさらに含む。様々な実施態様にしたがえば、該タキセンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体、およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキセンはドセタキセルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該生分解性ポリマーはポリエステルである。いくつかの実施態様にしたがえば、該生分解性ポリマーはPLGAである。いくつかの実施態様にしたがえば、該リン脂質は、12~18個の炭素の炭化水素鎖を有するホスファチジルコリンである。特定の実施態様にしたがえば、該リン脂質成分はDMPCを含む。いくつかの実施態様にしたがえば、結腸癌を治療する方法に用いる医薬組成物は以下を含む:(a)80~93%(w/w)のリン酸三カルシウム;(b)1%~4.0%(w/w)のPLGA;(c)0.0~2.0%(w/w)のコレステロール;(d)4.0~15.0%(w/w)のDMPC;(e)0.2~2.6%(w/w)のドセタキセル。いくつかの実施態様にしたがえば、該ドセタキセルは該医薬組成物の総重量の0.5%~1.5%(w/w)を占める。特定の実施態様にしたがえば、該ドセタキセルは該医薬組成物の総重量の0.7%~1.3%(w/w)、あるいは0.7%~1.0%(w/w)を占める。いくつかの実施態様にしたがえば、該リン酸三カルシウム(TCP)は、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウムおよびそれらの組み合わせから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該TCPはβ-リン酸三カルシウムである。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物のpHは約7.5~8.5である。いくつかの実施態様にしたがえば、結腸癌を治療する医薬組成物はpH調整剤をさらに含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物のpHは約4~6である。いくつかの実施態様にしたがえば、4~6のpHは、該タキサン(例えば、ドセタキセル)を安定化し、その7-エピマーへの変換を軽減する。特定の実施態様にしたがえば、結腸癌腫瘍を治療する方法は、上記に開示の医薬組成物の固形結腸腫瘍表面または結腸癌腫瘍切除後の切除腔表面へ局所投与することを含む。いくつかの実施態様にしたがえば、本明細書中の結腸癌腫瘍切除は、腫瘍容積の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%が外科手術によって除去されている状態を指す。腫瘍の外科手術ができない場合、および切除不可能な場合、もしくは腫瘍を有する患者がその病状によって手術不可能な場合には、該医薬組成物を直接的に結腸腫瘍に注入するのであってもよい。特定の実施態様にしたがえば、該医薬製剤は:(a)85~92%(w/w)のリン酸三カルシウム;(b)2.0%~3.0%(w/w)のPLGA;(c)0.0~2.0%(w/w)のコレステロール;(d)4.0~10.0%(w/w)のDMPC;および(e)0.5~1.5%(w/w)のドセタキセル、を含む。いくつかの例示的な実施態様にしたがえば、該医薬組成物は:(a)86~89%(w/w)のリン酸三カルシウム;(b)2.4%~2.8%(w/w)のPLGA;(c)0.8~1.5%(w/w)のコレステロール;(d)7.0~9.0%(w/w)のDMPC;および(e)0.6~1.3%(w/w)のドセタキセル、を含む。いくつかの実施態様にしたがえば、該リン酸三カルシウムはβ-リン酸三カルシウムである。いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の結腸癌治療法はさらに腫瘍転移の形成を阻害する。別の実施態様にしたがえば、結腸癌を治療する上記に開示の処置法は、前立腺癌、肺癌、膵癌、乳癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌および軟組織肉腫に関しても好適である。
【0076】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明は、腫瘍転移を阻害する方法を提供するが、ここで該方法は、悪性固形腫瘍を有する対象に:
(a)微粒子生分解性基質;
(b)生分解性ポリマー;
(c)少なくとも12個の炭素の炭化水素鎖を有する少なくとも1種類のリン脂質;
および
(d)タキセン、
を含む医薬組成物を投与することを含み、それによって腫瘍転移を阻害する。
いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物はステロールをさらに含む。様々な実施態様にしたがえば、該タキセンは、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセルの誘導体、およびカバジタキセルから成る群から選択される。特定の実施態様にしたがえば、該タキセンはドセタキセルである。
【0077】
本発明の方法は、従来の化学療法に耐性である腫瘍細胞の治療にさらに有用である。化学療法耐性腫瘍細胞は:(a)P-糖蛋白質などの薬剤排出ポンプの過剰発現;(b)チューブリンの薬剤結合部位における後天性突然変異;(c)チューブリンイソ型の差異的発現;(d)アポトーシス機構の変化;(e)増殖因子経路の活性化;または(f)その他の生化学変化、に起因し得る(Deepak Sampathら、 Clin Cancer Res 2006;12(11):3459-69)。これらの機構のそれぞれが臨床的耐性に与える寄与は不明であるが、一部の腫瘍型においてP-糖蛋白質の発現レベルには相関関係が認められている。意外なことに、本明細書に開示の医薬組成物が化学療法耐性腫瘍細胞を効果的に殺滅し得ることが見いだされている。特に、上記に開示されるようなドセタキセル持続放出医薬組成物がドセタキセル耐性癌細胞を効率的に殺滅することが明らかになっている。理論または作用機序に基づくまでもなく、局所濃高度と持続放出の組み合わせによって、排出(MDR)ポンプによる耐性機構を効果的に克服する該薬剤への高濃度持続曝露が起こることを示唆している。化学療法耐性腫瘍細胞の非限定的なリストとしては以下が挙げられる:HCT-8結腸直腸癌細胞(IC50ドセタキセル-3070nM、IC50パクリタキセル 3290nM)、GXF-209胃癌細胞、UISO BCA-1乳癌細胞、P02膵臓細胞、3LLルイス肺癌、KB-8-5(IC50ドセタキセル-8.8nM、IC50パクリタキセル 70.2 nM)、KB-P-15(IC50ドセタキセル-17.6nM、IC50パクリタキセル 117nM)、KB-D-15(IC50ドセタキセル-68.2nM、IC50パクリタキセル 565.5nM)、KB-V-1(IC50ドセタキセル-467.5nM、IC50パクリタキセル 3202nM)およびKB-PTX/099(IC50ドセタキセル-8.8nM、IC50パクリタキセル 74.1nM)類表皮細胞、DLD-1(IC50ドセタキセル-16.2 nM、IC50パクリタキセル 32.8nM)およびHCT-15(IC50ドセタキセル-54.1nM、IC50パクリタキセル 434.6nM)結腸直腸癌細胞およびA549.EpoB40非扁平上皮細胞肺癌(IC50ドセタキセル-28.5nM、IC50パクリタキセル 127.5nM)。いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の方法は、耐性が薬剤排出ポンプの過剰発現に起因する他の化学療法耐性腫瘍に対しても好適であり得る。
【0078】
薬剤効力は通常、腫瘍細胞の周りの間質液におけるその局所濃度によって判定される。一方、局所濃度は、医薬組成物から放出される薬剤の蓄積速度とその消失(例えば、周囲組織に物理的に拡散することによる)との間の比によって決定される。理論または作用機序によって限定されるものではないが、腫瘍内または外科手術による腫瘍除去後の切除部位の内部表面において生体可用性タキセン薬剤が充分な持続時間、局所高濃度を形成する能力は、本明細書に開示の医薬組成物が腫瘍細胞を有効に殺滅する能力、さらには用いようとする薬剤に対して耐性である腫瘍細胞(すなわち、ドセタキセルを含む医薬組成物でドセタキセル耐性腫瘍を治療する)であっても有効に殺滅する能力の主要な因子であることが示唆される。タキセン(例えば、ドセタキセル)の局所効果についてより良好な制御を得る方法の一つとしては:
(1)該医薬組成物から放出されるタキセンの放出プロファイル;
(2)その放出速度;
および
(3)その放出持続時間、
を制御することが挙げられる。
これらのパラメータは密接に関連する;放出速度は特定の製剤(すなわち、ポリマー、脂質類とタキサンとの間の比)に強く依存するものであるが、一方、持続時間は2種類の因子すなわち放出速度と薬剤リザーバーサイズの関数である(例えば、リン酸三カルシウム粒子と有機成分量との間の比を変化させることによって、達成し得る)。エネルギー依存性排出ポンプを介した、細胞内区画からの薬剤排出の増加が、細胞における自然のメカニズムであることは、当該技術分野において公知である。この機構はまた、化学療法耐性の起こる原因でもある。耐性細胞を克服する方法の一つとしては、長期間にわたる高濃度の薬剤によって排出ポンプを圧倒することである。したがって、腫瘍部位における生体可用性タキサンの濃度が充分であり、かつ腫瘍細胞の該タキセンへの曝露持続時間が適切である限り、該タキサンによってタキサン耐性腫瘍細胞の殺滅が可能であることが示唆される。
【0079】
いくつかの実施態様にしたがえば、本発明の医薬組成物は粉末形態である。いくつかの実施態様にしたがえば、該粉末は実質的に水を含まない。その他の実施態様にしたがえば、該粉末は乾燥粉末である。いくつかの実施態様にしたがえば、該粉末の粒子サイズは、生分解性ミネラル基質の粒子サイズで決定される。該生分解性基質をコーティングするポリマー/脂質マトリックスは部分的には、多孔質生分解性基質の内部空間に含まれるものである。いくつかの実施態様にしたがえば、該ポリマー-脂質の平均直径は、(レーザー回折によって測定した場合)少なくとも約30μm、少なくとも約40μm、少なくとも約50μm、少なくとも約60μm、少なくとも約70μm、少なくとも約80μm、少なくとも約90μm、少なくとも約100μm、30μm~120μm、30μm~100μm、50μm~100μm、約150μm以下、約140μm以下、約130μm以下、約120μm以下、約110μm以下、約100μm以下であってもよい。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。いくつかの実施態様にしたがえば、該粉末を腫瘍表面に塗り広げる、または腫瘍表面上に散布する、もしくは切除腔の内部表面に適用する。いくつかの実施態様にしたがえば、該粉末を表面積1cm当たり20mg~500mgの範囲の量で、固形腫瘍表面または切除腔表面に塗り広げる、あるいは散布する。別の実施態様にしたがえば、該組成物を1cm当たり50mg~400mg、50mg~350mg、50mg~300mg、50mg~275mg、50mg~250mg、50mg~225mg、50mg~200mg、50mg~180mg、50mg~170mg;50mg~160mg;50mg~150mg;50mg~120mg;50mg~100mg;50mg~100mg;75mg~160mg;75mg~120mg;75mg~100mgの範囲の量で適用する。
【0080】
本発明の特定の実施態様にしたがえば、該医薬組成物は、腫瘍部位、あるいは腫瘍切除後の切除腫瘍腔の腫瘍壁に適用する前にペーストとして処方する。いくつかの実施態様にしたがえば、該ペーストは、腫瘍表面に塗り広げる、あるいは切除腔の内部表面に適用する。典型的には、適用前に該微粒子医薬組成物を水性溶液、例えば、食塩水(0.9%生理食塩水)で水和させることにより、ペースト様構造が得られる。いくつかの実施態様にしたがえば、得られたペーストを腫瘍部位に適用する前の2時間以下のタイミングで、好ましくは、得られたペーストを腫瘍部位に適用する前の最長1時間前に、より好ましくは、腫瘍部位への適用前の30分間以下のタイミングで、水和が実施される。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物と混合する水性溶液(例えば、食塩水)の量がそれぞれ0.1:1~1:1(w/w);好ましくはそれぞれ0.3:1~0.6:1(w/w)の場合に、ペースト状になる。いくつかの実施態様にしたがえば、上記のようにペースト形成のために該乾燥医薬組成物粉末に添加する水性溶液が、水和している医薬組成物粉末の総容積を変化させることはなく、そのため総容積はほとんど不変化のままである。いくつかの実施態様にしたがえば、該ペーストを、最大5mm厚;あるいは最大4mm厚;あるいは最大3mm厚;好ましくは1~3mm厚の薄くて均一な層を形成するように、腫瘍表面または切除腔表面に塗り広げる。
【0081】
別の実施態様にしたがえば、本明細書に開示の医薬組成物は、ネオアジュバント療法として、典型的には外科手術前に、典型的には注射によって、腫瘍内投与してもよい。いくつかの実施態様にしたがえば、該医薬組成物は、乾燥粉末の注入に好適な器具を用いて乾燥粉末として直接的腫瘍に注入するのであってもよい(非限定的例としては、米国特許第8579855号に開示されたものを挙げることができるが、当該技術分野において公知の他の如何なる粉末送達に好適な医療器具も用いることができる)。あるいは、該医薬組成物を液体懸濁液として注入するのであってもよい。臨床的に用いられる標準的な注射筒、針、管挿入システムおよびカニューレを用いて該液体懸濁液を注入するのであってもよい。該液体懸濁液は、好ましくは、注射用懸濁液の作製に好適な医薬組成物粉末に、最小量の連続的液相が添加されるように調製し得る。いくつかの実施態様にしたがえば、医薬組成物粉末に混合した連続的液相(例えば、水相)の量がそれぞれ0.1:1~2:1(w/w);好ましくはそれぞれ0.3:1~1:1(w/w)、より好ましくはそれぞれ0.3:1~0.6:1(w/w)の場合に、注射用懸濁液が得られる。注入する医薬懸濁液の容積は固形腫瘍容積の50%を超えず、好ましくは腫瘍容積の45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満であってもよい。各可能性は本発明の別個の実施態様を表す。該懸濁液の容積は、好ましくは1回以上の注射に分割するのであってもよく、好ましくは腫瘍全体、または実質的に腫瘍の容積全体にわたってその用量が広がるように、腫瘍の異なる部分に注入するのであってもよい。本発明の医薬組成物中に含まれる生分解性微粒子基質に固有の特性のため、該組成物は放射線不透過性であり標準的な臨床的X線透視法で観察可能である;したがって、例えば、超音波画像診断;磁気共鳴映像法;X線透過撮像;コンピューター断層撮影法;陽電子断層撮影法またはガンマカメラ/SPECTを含む同位元素によるイメージング;磁気または電波による位置決定システムによって、注入中および治療期間経過中に、本明細書に開示の医薬組成物の位置をモニターすることができる。
【0082】
いくつかの実施態様においては、該注射用懸濁液は、水(例えば、食塩水)および任意選択的に、緩衝液、等張化剤、粘度調整剤、滑沢剤、浸透圧調節剤および界面活性剤から成る群から選択される1種類以上の添加剤を含み得る。例えば、該懸濁液は、該医薬組成物粒子、水、滑沢剤を含み得る。いくつかの実施態様においては、該懸濁液は、水、食塩水に懸濁した医薬組成物粒子、および界面活性剤から成る、もしくは本質的にそれらから成る。用いることのできる界面活性剤の非限定的な例としては、ポリソルベート(ポリソルベート20、ポリソルベート21、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート61、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85、およびポリソルベート120など)、ラウリル硫酸類、アセチル化モノグリセリド類、ジアセチル化モノグリセリド類、およびポロクサマー類が挙げられる。該懸濁液は1種類以上の等張化剤を含み得る。好適な等張化剤の例としては、1種類以上の無機塩、電解質、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ナトリウム、硫酸カリウム、重炭酸ナトリウムおよび重炭酸カリウムおよびアルカリ土類金属塩(アルカリ土類金属無機塩など、例えば、カルシウム塩およびマグネシウム塩)、マンニトール、デキストロース、グリセリン、プロピレングリコール、およびその混合物が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。該懸濁液は1種類以上の鎮痛剤を含み得る。好適な鎮痛剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびメチルセルロースなどのセルロース誘導体;ゼラチン、グリセリン、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、およびプロピレングリコールが挙げられる。該懸濁液は、該懸濁液の粘度を増加または減少させる粘度調整剤を含み得る。好適な粘度調整剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マンニトールおよびポリビニルピロリドンが挙げられる。該懸濁液は、1種類以上の滑沢剤を含み得る。好適な滑沢剤としては、天然リン脂質類および合成リン脂質類(例えば、DMPCなど)またはヒアルロン酸が挙げられる。
【0083】
実施例
実施例1:異なるリン脂質類を含むドセタキセル持続放出製剤
コレステロール含有または非含有の製剤であって、異なるホスファチジルコリンを含む製剤を調製した。試験した製剤成分間の比率は以下である:TCP:(DMPC、DPPC、DSPCまたはDOPC):PLGA:DTXの比が、1000:90:30:10;およびTCP:(DMPC、DPPC、DSPCまたはDOPC):PLGA:CH:DTXの比が、1000:90:30:15:10である。
【0084】
これらの製剤は、以下の例示的プロトコルにしたがって調製した:
(a)PLGA(100mg)、CH(50mg必要とした)、ドセタキセル(33.3mg)およびホスファチジルコリン(300mg)を8個の5mlメスフラスコに添加した後、その固形物を溶解するためにEA:EtOH混合液を添加した。
(b)リン脂質類の溶解を助けるために必要であれば常に、混合物を40℃~45℃に加熱した。
(c)8つの30mmのペトリ皿にそれぞれ1.5gのβ-TCP粒子(50~100μm)を添加し、工程(a)で調製した8種類の有機溶液を2.25mL、TCPの上に添加した。
(d)45℃に加熱した乾式加熱ブロック上に、そのペトリ皿を載せて、覆いをせずに約45分間放置した後、溶媒を完全蒸発させるため覆いをしながら(室温)真空下で一晩置いた。
(e)8種類の製剤全てを20mlのシンチレーションバイアルに移し、光から保護しながら4℃に置いた。
【0085】
ドセタキセル放出
各被検製剤250mgを20mlのバイアルに入れて、それに5mlのPBSをゆっくりと添加し、試料を37℃の恒温器内に置いた。1日1回、PBS媒体を採取して分析した。次いで、このバイアルに5mlの新鮮PBSを添加した。HPLCを用いて放出薬剤濃度を定量した。13日後に放出分析を終了した。この製剤残存物を室温真空下に置き一晩乾燥させた。製剤残存物中のドセタキセルの量およびその7-エピ不純物を定量した。
【0086】
図1から明らかなように、より長鎖の炭化水素鎖を有し、より高い相転移温度を有するリン脂質類(例えば、DPPCおよびDSPC)を含む類似の組成物からのドセタキセル放出に比較して、DMPCを含む組成物からはドセタキセルがより速くまたより効率的に放出される。14個の炭素より長い飽和炭化水素鎖を有するリン脂質類を含む組成物は、6週間以内では完全放出の可能性には至らなかった;この6週間という期間は、腫瘍切除術とその後のアジュバント療法(典型的には腫瘍切除後の予防的処置として実施される放射線照射または全身性化学療法を含む)との間の、典型的には限定的な時間窓である。さらに、コレステロール不含の類似組成物に比べて、コレステロール含有組成物は、ドセタキセルの7-エピマー変換からドセタキセルリザーバーを良好に保護したことが分かる(図2)。
【0087】
実施例2:異なる量のDMPCを含むドセタキセル持続放出製剤
材料
PLGA(Corbion、Purac 7502);ドセタキセル(DTX)(TAPI);DMPC(類脂質);TCP(Cam bioceramics、50~100μm)
【0088】
製剤成分の比、TCP:DMPC:PLGA:DTXはそれぞれ1000:(0、30、60、90、135):30:10であり、該製剤の総重量に基づけばDMPCは0、2.8%、5.5%、8%および11.5%(w/w)に相当するものであった。製剤を調製し、その製剤からのドセタキセル放出については上記の実施例1の説明のように実施した。
【0089】
図3から明らかなように、DMPC不含製剤において7-エピの相対含量が最大であるが、他方、DMPC含有製剤においてはその相対量が著しく低下していることが分かった。
【0090】
実施例3:界面活性剤を含むドセタキセル持続性放製剤
界面活性剤Tween80を含む製剤を調製し、上記実施例1の説明のように該製剤の放出プロファイルを作成した。
【0091】
脂質成分としてDMPCまたはDPPCのいずれかを含み、さらにTween80を含む製剤を調製した。製剤成分間の比、TCP:DMPC:PLGA:DTX:Tween-80は、それぞれ1000:90:30:10:(0、15、45)であった(図4A)。脂質成分としてDPPCを含む製剤を調製したが、その製剤成分の比、TCP:DMPC:PLGA:DTX:Tween-80は、それぞれ1000:90:30:10:(0、15、45、90)であった(図4B)。
【0092】
持続放出組成物へのTween-80添加によって放出速度が増加したが、それは全体的な放出プロファイルに影響を与え、Tween-80存在下では、重大な局所毒性および全身毒性を引き起こし得る望ましくないバースト放出を特徴とするものであることを、図4Aおよび4Bは示している。
【0093】
実施例4:様々な量のコレステロールを含むドセタキセル持続放出製剤
異なる量のコレステロール(CH)を含む製剤を調製した。
【0094】
被検製剤の成分比は以下であった;TCP:DMPC:PLGA:DTX:CHの比は、1000:90:30:10:(0、15、30);該製剤の総重量に基づけば、該製剤のコレステロール(w/w)は0、1.3%および2.6%に相当する。
【0095】
ドセタキセルの7-エピマーへの変換が、コレステロール含有製剤では低下していることが明らかとなった(図1)。さらに、コレステロールの添加は保存中のドセタキセル保護に有効であることが明らかになった(表2を参照のこと)。
【0096】
図5は、コレステロール濃度が高いほど、該製剤におけるドセタキセルの7-エピマーの割合(%)が低下することを示している。しかし、該調製混合物中でのコレステロール溶解性が限定的なので、好ましくは、該製剤の総重量のw/wで2.6%未満の濃度でコレステロールを使用すべきである。
【0097】
表1には、各種のTCP/DMPC/PLGA/コレステロール/DTXを含むさらなる製剤を列挙し、コレステロール含有または不含の製剤を比較する。
【0098】
【表1】
【0099】
表2は、表1のリストに示されている製剤I~IVについて実施した安定性アッセイの結果のまとめであり、コレステロールが存在することによって、該製剤中のドセタキセルの7-エピマー形成が低下、さらには完全停止することを示している。
【0100】
【表2】
【0101】
本発明の実施態様にしたがえば、ドセタキセルの持続放出組成物におけるコレステロールの存在は、ドセタキセルを化学的に安定化し、その結果、(例えば、室温で)9週間保存した後の7-エピ-ドセタキセル含量が0.5%である組成物が得られる。特に、好ましくは9週間の室温保存後に、7-エピ-ドセタキセル含量は0.4%未満(約0.35%、約0.3%、約0.25%、約0.20%以下など)である。
【0102】
用語「化学的に安定な」は、本発明の医薬組成物を従来の条件下で保存した場合には、化学構造物ドセタキセルが安定であることを意味する。好ましくは、2~8℃で少なくとも24か月保存後に、7-エピ-ドセタキセルの含量(%)が1%未満、好ましくは0.5%未満である。
【0103】
実施例5:持続放出パクリタキセル製剤
パクリタキセル(PTX)持続放出組成物を、上記の実施例1のように調製した。被検製剤成分間の比は以下であった:TCP:(DMPC、DPPC、DSPCまたはDOPC):PLGA:CH:PTXの比が、1000:90:30:15:10である。該組成物からのパクリタキセルの放出は、上記実施例1の説明の方法で追跡した;そのゼロ次放出プロファイルを図6に示す。
【0104】
実施例6:ポリエチレングリコールを含む持続放出ドセタキセル製剤(PEG)
ポリマーとしてPEG4000を含む製剤を、実施例1の説明のように調製した。製剤成分間の比、TCP:DMPC:PEG:コレステロール:ドセタキセルは、1000:90:30:15:10であった。
【0105】
PEG4000を含む製剤からのドセタキセル放出を、溶出分析(USP1溶出装置-Sotax AT7 smart、バスケット、50RPM)を用いて追跡し、ポリマーとしてPLGAを含む類似の製剤からのドセタキセル放出と比較した。
【0106】
0.5%SDSを含むPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に製剤1gを溶解した(各容器に500mlの媒体)。サンプリングの時点は、1時間、2時間、4時間、6時間、24時間であった。
【0107】
図7から分かるように、PEG4000が存在することによって、封入ドセタキセルのバースト放出が起こり、その薬剤の90%超が5時間以内に放出された。対照的に、PLGAを含む製剤からのドセタキセル放出では、著しく延長した持続性ゼロ次速度論を示し、20時間以内に薬剤の90%が放出された。
【0108】
実施例7:本発明のいくつかの実施態様にしたがう、異なる量のドセタキセル(DTX)を含む医薬組成物の、CT26細胞株同系腫瘍マウスモデルにおける再発に対するインビボ抗腫瘍効果の評価
本発明の例示的な実施態様にしたがう持続放出製剤の抗腫瘍効果を、BALB/cマウス(試験開始時点で、7~8週齢、体重は16~20+/-グラムであった)におけるCT26結腸癌細胞株腫瘍に対して異なるドセタキセル用量を用いて評価する目的で、本試験を実施した。
【0109】
被検製剤
製剤V - 2.6%のドセタキセルを含有するPLEX-DTX(TCP:DMPC:PLGA:DTX(w/w)=1000:90:30:30)
製剤VI - 1.3%のドセタキセルを含有するPLEX-DTX(TCP:DMPC:PLGA:DTX(w/w)=1000:90:30:15)
製剤I - 0.88%のドセタキセルを含有するPLEX-DTX(TCP:DMPC:PLGA:DTX(w/w)=1000:90:30:10)
製剤VII - 0.27%のドセタキセルを含有するPLEX-DTX(TCP:DMPC:PLGA:DTX(w/w)=1000:90:30:3)
対照:生理食塩水
【0110】
疾患の誘導
ドセタキセル耐性細胞株(IC50、260nM)であるCT-26皮下腫瘍の移植。比較目的のドセタキセル非耐性細胞株のIC50は数nMの範囲である。例としては、NSCLC:A549細胞(1.9nM)、CRC:HCT-116細胞(5.4nM)、および類表皮KB-3-1細胞(1.1nM)が挙げられる[Preclinical Pharmacologic Evaluation of MST-997, an Orally Active Taxane with Superior In vitro and In vivo Efficacy in Paclitaxel- and Docetaxel-Resistant Tumor Models (Clin Cancer Res 2006、12:3459-69)]。
【0111】
マウスの右殿部上部に50万個のCT-26細胞を皮下注射した。11日後に、腫瘍が所望の容積(約400mm)に達したので、動物を5群に分け、マウスを麻酔してから腫瘍の切除を行った。群1~4には、腫瘍床に被検製剤(200mg)を皮下投与したが、このとき各群には異なる濃度のドセタキセル(2.6%、1.3%、0.88%または0.27%w/w(表3))を含む製剤を投与した;また、群5では食塩水を局所投与した。次いで、滅菌縫合糸を用いて皮膚切開部を縫合した。外科手術後、動物をケージに戻して回復させ観察した。43日間にわたり、腫瘍サイズ、臨床的兆候、および体重についてモニターした。
【0112】
【表3】
【0113】
結果
本試験の終わり(43日目)には、DTX処置群間で腫瘍非担持動物の数に相違が認められた。最大ドセタキセル用量(5.2mg/マウス)では、4/8の動物が腫瘍非担持であり;群2(2.6mg/マウス)では、5/9の動物が腫瘍非担持であり;群3(1.73mg/マウス)では、7/9の動物が腫瘍非担持であり;および群4(0.52mg/マウス)では、3/8の動物が腫瘍非担持であった。群5には、腫瘍非担持動物が存在しなかった。平均腫瘍容積については、食塩水処置群(群5;2091mm)に比べて、DTX処置群(群1、群2、群3、および群4で、それぞれ548mm、814mm、218mmおよび872mm図8)において有意に小さかった(p<0.05)。大きな群内標準偏差は、群内で腫瘍サイズに大きな変動性があることを反映している。
【0114】
群1、群2、群3、および群4の生存率は、それぞれ、63%(5/8)、56%(5/9)、90%(8/9)、および50%(4/8)であり、群5(非処置)では0%(0/8)であった。群1(2.6%ドセタキセル)では、重度の体重減少のため、2個体の動物を安楽死させた(19日目);また、腫瘍容積が1500mmを超えたため、1個体の動物を屠殺した(43日目)。群2(1.3%ドセタキセル)では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、3個体の動物を屠殺した(22日目、31日目および36日目);また、1個体の動物の死亡が確認された(36日目)。群3(0.88%ドセタキセル)では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、1個体の動物のみ早期殺処分した(15日目)。群4(0.27%ドセタキセル)では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、4個体の動物を早期殺処分した(10日目、12日目、および17日目)。群5(非処置)では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、24日目に全動物を屠殺した。食塩水対照群では全動物が24日目に殺処分となったが、本発明のいくつかの実施態様にしたがうドセタキセル製剤処置群では、動物のほとんどが試験終了まで生存した(43日目)。
【0115】
体重
動物の総体重に対する腫瘍重量の影響を軽減するために、腫瘍容積に対する実際の腫瘍重量の較正曲線プロットを、切除腫瘍に基づいて作成した。このプロットによって、容積に基づく腫瘍重量の推定が可能となり、腫瘍担持動物の実際の体重からこの腫瘍重量を差し引いて、試験後の経過観察中の動物体重測定を可能とした。この試験経過中は、動物体重を週3回測定した。この体重を腫瘍切除の日および処置開始日の動物体重に対して正規化した。
【0116】
群1および2(それぞれ、2.6%ドセタキセルおよび1.3%ドセタキセル)の動物では、体重減少が起こり、17日目に最大減少でそれぞれ20%および9%であった。群1および2両方の動物で、17日目に体重増加が観察された;試験終了までに、これらの動物ではそのもともとの体重の115~116%となった。群3(0.88%ドセタキセル)の動物では、投与から2週間後までで、軽度の体重減少(約2%)があったが、17日目およびそれ以降には、体重増加が観察され、試験終了までにもともとの重量の113%に達した。群4(0.27%ドセタキセル)および非処置群(群5)の動物では、外科手術後3日目に体重が増加し始めた。
【0117】
考察
本発明のいくつかの例示的な実施態様にしたがう各種のドセタキセル製剤(それぞれ、異なる濃度のドセタキセルを含む)を用いた治療の抗腫瘍効果を、食塩水処置群と比較して示した。食塩水処置群に比較して、全ての製剤で動物生存が増加した。しかし、ドセタキセルの毒性に関連する症状は、最大濃度でドセタキセル(1.3%ドセタキセル(製剤VI)および2.6%ドセタキセル(製剤V))を含有するドセタキセル製剤においてより高頻度であった。
【0118】
興味深いことに、ドセタキセルがより低濃度の製剤(0.88%(製剤I);1.76mg/マウス)では、最小の体重減少しか示さず、より安全性が高いと結論付けられた。この用量の場合には、マウスにおいて腫瘍再発を減少させることにおいても、最小ドセタキセル濃度の製剤(0.27%(製剤VII);0.54mg/マウス)よりも有効であった。
【0119】
実施例8:同系腫瘍マウスモデルにおける、本発明の実施態様にしたがう製剤の抗腫瘍効果の評価
本実験では、本発明のいくつかの実施態様にしたがう持続放出製剤の局所処置の効力を、全身性ドセタキセル処置と比較した。これを目的として、雌BALB/cマウス(試験開始時に7~8週齢、体重が±16~20グラムであった)の皮下に結腸癌腫瘍を作成し、所望の容積(400~600mm)に達した後に切除を行い、それらの容積の約90%を除去してから、被検剤を投与した。腫瘍再発率を追跡し非処置対照群と比較した。
【0120】
試験設計
動物の右殿部上部に50万個のCT-26細胞を皮下注射した。約7日後に腫瘍が所望の容積(400mm)に達してから、動物を5群に分け、マウスを麻酔してから腫瘍を切除した。群1では、1.3%ドセタキセル(2.6mg/マウス)を含む製剤VIを200mg量で腫瘍床に投与し、群2では、0.88%ドセタキセル(1.72mg/マウス)を含む製剤Iを200mg量で腫瘍床に投与した。群3および群4では、ドセタキセル溶液を反復静注することにより処置した。群3では、20mg/kgの静注投与後に、4日毎に1回10mg/kgの静注を5回行った。群4では、30mg/kgの静注投与後に、4日毎に1回15mg/kgの静注を5回行った。群5は食塩水処置対照であり、約100μLの食塩水を腫瘍床に局所投与した。次いで、滅菌縫合糸を用いて皮膚切開部を縫合した。外科手術後、動物をケージに戻して回復させ観察した。39日間にわたり、腫瘍サイズ、臨床的兆候、および体重をモニターした。試験設計の全貌を表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
実験方法
試験結果
試験の終わり(39日目)には、群1において、5/8の動物が腫瘍非担持であった。群2では、6/8の動物が腫瘍非担持であった。群3(静注ドセタキセル)では、2/8の動物が腫瘍非担持であった。群4(静注ドセタキセル)では、3/8の動物が腫瘍非担持であった。群5(食塩水処置)では、全動物が腫瘍を有していた。
【0123】
39日後には、平均腫瘍容積は、処置群1~4(群1、群2、群3、および群4において、それぞれ563mm、375mm、955mmおよび485mm図9)において、食塩水対照群(1500mm)よりも有意に小さかった(p<0.05)。大きな群内標準偏差は、群内で腫瘍サイズに大きな変動性があることを反映している。
【0124】
本発明の実施態様にしたがう持続放出製剤による処置群の生存率は、群1および群2で、それぞれ63%(5/8)および75%(6/8)であった。IVドセタキセル処置群の生存率は、群3および群4で、それぞれ50%(4/8)および63%(5/8)であった。群5(食塩水対照)では、生存率がたかだか12.5%(1/8)であった。群1(製剤VI、1.3%ドセタキセル)では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、3個体の動物を早期に屠殺した(18日目、30日目および37日目)。群2(製剤I、0.88%ドセタキセル)では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、2個体の動物を早期に屠殺した(30日目および34日目)。群3(静注ドセタキセル10mg/kg)では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、4個体の動物を早期殺処分した(10日目に3個体および25日目に1個体)。群4(静注ドセタキセル15mg/kg)では、重度の体重減少および身体状態不良のため、1個体の動物を早期殺処分し(20日目)、また腫瘍容積が1500mmを超えたため、2個体の動物を早期殺処分した(10日目および34日目)。食塩水対照群では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、8個体の動物を屠殺した(10日目に4個体、および16日目、20日目、23日目、および37日目に各1個体)。
【0125】
本試験では、上記の実施例5に記載の方法で、動物の体重を週3回測定した。群1、群2、群3および群4の動物では体重減少が起こり、その最大減少は、それぞれ12%(16日目)、8%(16日目)、8%(16日目)および17%(20日目)であった。群5(食塩水対照)の動物では、マウス体重を増加させる初期の腫瘍発生のため、体重減少は認められなかった。全体的にみて、本明細書に開示される持続放出製剤による処置群および静注ドセタキセル処置群では、体重が18日目、18日目、20日目および23日目(それぞれ群1、群2、群3および群4)に増加し始めた。
【0126】
結論
製剤Iおよび製剤VIは両方とも局所適用において、腫瘍再発低下および全体的な生存の増加に高効力を示した。両製剤は同程度の効力を示した。局所処置に比較して、15mg/Kg(2.6mg/マウスの総用量)の全身性ドセタキセル処置では腫瘍非担持生存率に関して効力が弱かった;このことは、局所処置の優位性を示すものである。加えて、全身性処置は重度の全身性毒性を惹起し、このことは動物の体重減少に反映されるものであった。両群において投与したドセタキセルの総用量に対する曝露は同程度(約1.7mg)であったにもかかわらず、群2(製剤I、0.88%ドセタキセル)では体重減少がさほど顕著ではなかった。
【0127】
実施例9:本発明の例示的な実施態様にしたがう持続放出製剤の、U87 GBM細胞株インビボマウス異種移植腫瘍モデルに対する抗腫瘍効果の評価
異なる量の、本発明のいくつかの例示的な実施態様にしたがう持続放出組成物を、ヌードマウスにおけるU87ヒトGBM細胞株腫瘍異種移植に対する抗腫瘍効果の効力に関して評価する目的で、本試験を実施した。
【0128】
試験設計
マウスの右殿部上部に3百万個のU87細胞を皮下(SC)注射した。約9日後に、腫瘍容積が約400mmに達してから、動物を6群(n=10/群)に分け、マウスを麻酔して腫瘍を切除した。腫瘍床サイズを測定し記録した。群1、群2および群3には、0.87%ドセタキセルの製剤IIをそれぞれ20、50、または100mgの量で腫瘍床に局所投与した。群4には、100mgの製剤IIのビヒクル(DTXを含まない添加剤のみ)を腫瘍床に局所投与した。群5は食塩水対照であり、約100μLの食塩水を腫瘍床に局所投与した。群6は陽性対照であり、ゲムシタビン処置を行った(7日毎に300mg/kgを腹腔内注射で投与した、4回)。次いで、滅菌縫合糸を用いて皮膚切開部を縫合した。外科手術後、動物をケージに戻して回復させ観察した。43日間にわたり、腫瘍サイズ、臨床的兆候、および体重をモニターした。
【0129】
試験結果
腫瘍切除後に、腫瘍床の面積を測定した。腫瘍床の平均面積は134±17mmであった。製剤IIの適用を算出し、腫瘍床面積1cm当たりの量に正規化した。この正規化適用率およびドセタキセル用量の詳細を表5に示す。
【0130】
【表5】
【0131】
本試験の終わり(43日目)には、製剤II処置群間で腫瘍非担持動物の数に相違が認められた。群1(100mgの製剤II)では、2/10の動物が腫瘍非担持であり;群2(50mgの製剤II)では、1/10の動物が腫瘍非担持であり;および群3(20mgの製剤II)では、4/10の動物が腫瘍非担持であった。群4(100mgの製剤IIビヒクル)および群5(食塩水対照)では、全動物が腫瘍を有していた。群6(ゲムシタビン)では、2/10の動物が腫瘍非担持であった。43日後(図10)に、平均腫瘍容積は、全ての製剤II処置群およびゲムシタビン処置群(それぞれ、群1、群2、群3、および群6において、69mm、456mm、403mmおよび780mm)において、製剤IIのビヒクル処置群および食塩水処置群(それぞれ、群4および群5において、1898mmおよび2059mm)よりも有意に小さかった(p<0.001)。
【0132】
群1、群2および群3(それぞれ、100、50、または20mgの製剤IIを投与した)の生存率は、それぞれ、60%(6/10)、30%(3/10)、および50%(5/10)であった。群4(100mgの製剤IIビヒクル)では、10%(1/10)の生存が記録されたに過ぎなかった。群5(食塩水対照)では、31日目に記録された生存動物はいなかった。群6(ゲムシタビン)では、生存率は20%(2/10)であった。群1(100mgの製剤II)では、4個体の動物の死亡が確認された(20日目および33日目に各1個体、および34日目に2個体)。群2(50mgの製剤II)では、6個体の動物の死亡が確認された(9日目、18日目、23日目、25日目、33日目および39日目に各1個体)。23日目に腫瘍容積が1500mmを超えたため、1個体の動物を早期殺処分した。群3(20mgの製剤II)では、5個体の動物の死亡が確認された(9日目、18日目、23日目、25日目、33日目、および39日目に各1個体)。これらの動物は全て死亡が確認された前日に約20%の体重減少を示していたので、その死の原因はおそらく全身性毒性であると考えられる。群4(100mgの製剤IIビヒクル)では、腫瘍容積が1500mmを超えたため、9個体の動物を早期殺処分した(9日目に2個体、13日目に3個体、18日目3個体、および25日目に1個体)。群5(食塩水対照)では、2個体の動物の死亡が確認された(13日目および23日目に各1個体)。その死の原因については不明であった。腫瘍容積が1500mmを超えたため、8個体の動物を早期殺処分した(9日目に3個体、13日目に2個体、17日目に1個体、27日目に1個体、および30日目に1個体)。群6(ゲムシタビン)では、4個体の動物の死亡が確認された(30日目および41日目に各1個体、および34日目に2個体)。腫瘍容積が1500mmを超えたため、4個体の動物を殺処分した(23日目、27日目、30日目、および33日目に各1個体)。処置群(群1、群2、群3および群6)における大部分の動物の死亡原因は、おそらく全身毒性であろうと考えられた(これらの動物は全て、死亡が確認された日の前日に、約20%の体重減少を示した)。
【0133】
製剤IIを受容する群1および群2の動物(それぞれ、100mgまたは50mg)では体重減少が起こったが、その最大平均減少は、それぞれ、9%(34日目)および2%(13日目)であった。群3(20mgの製剤II)の動物には体重減少が認められなかった。群4(製剤Vのビヒクル)の動物には、2%の最大平均体重減少が認められた(6日目)。群5(食塩水対照)の動物には、5%の最大平均体重減少が認められた(23日目)。群6(ゲムシタビン)の動物には、13%の最大平均体重減少が認められた(34日目)。最大体重減少時点から、全群において動物の体重が増加し始めた。43日目には、製剤II処置群における動物の体重が、群1、群2、および群3の試験開始時点の体重のそれぞれ99%、100.5%および105%であった。食塩水対照群(群4)、製剤IIビヒクル群(群5)、およびゲムシタビン群(群6)では、生存動物の数は有意な平均を算出できないほど少なくなっていた。
【0134】
結論
異なる量の製剤II(mg/cmに反映される)による処置の抗腫瘍効果を、食塩水対照および製剤IIビヒクル処置群と比較して示した。全ての製剤II処置レベルにおいて、食塩水対照群と比較して動物生存が増加した。20mgまたは50mgの製剤II(15または37mg/cm)で処置した群では、平均腫瘍容積が食塩水対照群の1898mmから、それぞれ、403mmおよび456mmに減少した。100mgの製剤II/動物(75mg/cm)による処置では、外科的切除後のヒトGBM腫瘍再発に最大効果を発揮した(生存動物最大数および最少平均総腫瘍容積(69mm)に反映される)。
【0135】
実施例10:Fischerラットの脳における同系9L GBM細胞株腫瘍に対する、本発明の実施態様にしたがう持続放出製剤の抗腫瘍効果の評価
異なる量の、本発明のいくつかの例示的な実施態様にしたがう持続放出製剤を、Fischerラットにおける同系脳腫瘍誘導後の動物生存に対する抗腫瘍効果に関して評価するために、本試験を実施した。
【0136】
試験設計
この試験では75個体の動物を用いた。表6に記載するように、動物を9群に分けた。群1を非処置対照とした。群2および群3を陽性対照とし、それぞれ、低用量(33.5mg/kg)および高用量(50mg/kg)のテモゾロミド(temozolomide)(GBM患者におけるSOC化学療法処置である)の強制経口投与による処置を行った。群4(n=10)では、製剤II高用量群と同一量を用いて、切除部位を製剤IIのビヒクルで処置した。群5~8(n=10/群)では、製剤IIを5mg、10mg、25mg、または50mg/欠損部位の用量で用い、切除部位を処置した。試験開始時に、全動物において、切開を加え頭蓋冠の骨を露出した後、頭蓋冠の骨にドリルで直径5mmの孔(欠損)を穿った。硬膜を切り、脳を露出した。各動物において、定位固定装置を用い、脳内の約1mmの深さに9L細胞(10細胞/2μL/動物)を注入した。細胞注入後に、切開部を縫合した。動物をケージに戻して回復させた。細胞注入から5日後に、処置(テモゾロミド(temozolomide)または製剤II)を開始した。製剤II/製剤IIビヒクル処置に関しては、5日目に、群4~8の脳欠損部を再び開き、欠損部の内部にある注入部位の上に被験物質を投与した。動物をケージに戻して回復させた。本試験の経過中に、生存、臨床的兆候、体重、および認知行動評価を継続して調べた。
【0137】
【表6】
【0138】
試験結果
動物はすべて処置後5週間以内に死亡した。群1では、平均生存は15.8±1.9日であった。群2(テモゾロミド(temozolomide)33.5mg/kg)では、平均生存は18.8±2.7日であった。群3(テモゾロミド(temozolomide)50mg/kg)では、平均生存は21.8±3.3日であった。群4(製剤IIのビヒクル)では、平均生存は17.9±2.2日であった。群5(製剤II 50mg/動物)では、平均生存は22.8±5.8日であった。群6(製剤II 25mg/動物)では、平均生存は20.9±6.5日であった。群7(製剤II 10mg/動物)では、平均生存は20.4±4.9日であった。群8(製剤II 5mg/動物)では、平均生存は20.4±3.2日であった。
【0139】
結論
脳ヘの腫瘍細胞注入から5日後の製剤II頭蓋内投与により、試験用量全てにおいて、動物生存の改善が見られた。投与した製剤IIの量に伴い抗腫瘍効果が増強した。全体で255mg/cmの製剤II(2.2mg/cmのドセタキセル)に対応する部位(欠損直径5mm、欠損領域0.196cm)当たり最大量の50mg製剤II(0.87%ドセタキセルw/w)で、最大効果が得られた。
【0140】
実施例11:局所投与した、本発明の例示的な実施態様にしたがうドセタキセル(DTX)持続放出組成物の、ラットにおける薬物動態(PK)プロファイルの評価
本試験では、ラットに投与した、本発明の複数の実施態様にしたがうドセタキセル持続放出組成物の薬物動態プロファイルを比較した。局所投与製剤から放出されたドセタキセルの全身PKプロファイルを静注投与したドセタキセルのPKプロファイルと比較した。
【0141】
動物
体重が+/-200グラムである30個体の雌Sprague-Dawleyラット
【0142】
実験設計
この試験には3つの試験群(n=10)を含めた。動物を麻酔してから、右殿部上部の皮膚を切開(1cmの長さ)して持ち上げ、皮下ポケットを作成した。このポケットを作成することにより、下部にある筋肉が僅かに傷害され、ラットモデルにおける皮下腫瘍移植片の切除の状態が模倣された。各動物は、表7に詳細を示すような処置を受けた。群1および群2においては、それぞれ製剤VIおよびIを皮下ポケット内の損傷筋肉の上に投与した。次いで、皮膚を縫合した。静注処置群(群3)では、創縫合直後に、投与処置を1回施した。投与後、所定の時点で血液試料を採取した。各処置群を2亜群(n=5/亜群)に分割して、異なる時点で各亜群の採取を行った。血液採取は、投与から0.5時間後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、および24時間後、ならびに2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、14日後、21日後、および30日後に実施した。臨床徴候および動物体重は試験の経過中を通じてモニターした。血漿試料の放出ドセタキセル濃度は、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)で評価した(定量の下限[LLOQ]=3ng/mL)。この結果を用いてドセタキセルのPKプロファイルを決定した。
【0143】
【表7】
【0144】
試験結果
血漿試料のPK分析により、製剤VIおよび製剤Iの全体的な曝露は、単回静注投与よりも長時間であることが示された(製剤VI、製剤Iおよび静注では、Tlastがそれぞれ168、120および72時間であった;表6)。放出ドセタキセル曝露時間は、徐放性製剤(VIおよびI)中のドセタキセルの用量に相関した。高いドセタキセル用量(1.3%)では、低いドセタキセル用量(0.88%)よりも血漿曝露が長かった。AUC、Cmaxおよびt1/2に同一傾向が観察された。静注製剤のCmaxは製剤VIの最大曝露よりも10倍超高かった(群3および群1で、それぞれ881および80.4ng/ml;表4)。製剤Iおよび静注のドセタキセル総用量は同程度(それぞれ、1.76および2mg/動物)であったので、2群のAUC値も同様に同程度であった(それぞれ、2351および2276時間*mg/ml;表8)。この観察は、これら2群における重量変化の類似傾向を支持する。
【0145】
【表8】
【0146】
結論
ラットにおける徐放性製剤(製剤IおよびVI)からのドセタキセルとドセタキセル静注投与との全身PKプロファイルの比較によって、全曝露時間およびピーク曝露における相違が示された。全曝露持続時間については、単回静注投与よりも徐放性製剤(DTX濃度の両方)でより長かった。ピーク血漿レベルはドセタキセル静注投与後のほうが高かった。これらの相違は、徐放性製剤からの穏やかに持続するドセタキセル放出に起因するもののである。製剤IおよびVIでは徐放ドセタキセルにより曝露期間が延長したが、ピーク血漿レベルも減少したので、細胞毒性濃度への潜在的曝露が限定的になった。Tlastは、徐放性製剤中のドセタキセルの用量と共に増加した。同様の関係がAUC、Cmaxおよびt1/2にも観察された。本試験では、本発明の例示的な実施態様にしたがう持続放出製剤が、Cmaxを大幅に低下させながらも、静注処置の曝露と同程度の全身性曝露(AUC)を保ちつつ長期間にわたりドセタキセルを放出することを実証した。
【0147】
実施例12:SDラットにおける、本発明の例示的な実施態様にしたがう持続放出製剤の頭蓋内(IC)投与後の局所安全性の評価
Sprague-Dawleyラットにおいて、異なる量の、本発明の例示的な実施態様にしたがう持続放出製剤をIC投与した後の局所安全性および全身安全性を評価するために、本試験を実施した。
【0148】
試験設計
動物を7群(n=20/群)に分けた。試験開始時に、動物の頭蓋冠の骨を露出して、頭蓋冠の骨にドリルで直径5mmの孔(欠損)を穿って、脳を露出させた。群1~3では、製剤II(50mg、25mgおよび10mg;それぞれ、0.435、0.218、および0.087mgのドセタキセルに対応する;さらに255mg/cm、127mg/cmおよび51mg/cmの製剤IIに対応する((孔(欠損)サイズが直径0.5cmでは、表面積が0.196cmであることに基づいて算出された))を動物の脳に投与した。群4~6では、製剤IIのビヒクル(ドセタキセル不含)(50mg、25mg、および10mg)を動物の脳に投与した。群7をシャム対照とした。被験物質投与後に、欠損部を骨ろうで密閉し切開部を縫合した。動物をケージに戻して回復させた。本試験の経過中に、臨床的兆候、体重および認知行動(運動性、振戦、頭部傾動および毛回転)評価を継続して調べた。所定の各時点(1、4、8または16週間)で、各群から5個体の動物を屠殺した後、剖検を行い、投与部位および重要臓器を回収して盲検的に組織病理的評価を行った。
【0149】
本試験経過中に、89日目に動物1個体のみ死亡が確認された(25mg処置群から)。重度の体重減少のため、90日目に動物1個体を早期殺処分した(50mg処置群から)。両方の動物が、動物の早期殺処分または死亡の数日前に軽度~中等度に相当する行動変化を示した。死亡が認められた動物は、剖検も組織学的評価も実施しなかった;その理由は、死亡が確認時間まで、死亡してから長時間(約24時間)が経過していたためである。早期殺処分となった動物の剖検および組織学的評価では、製剤IIの投与と動物の状況との間に如何なる相関も示さなかったので、体重減少が被験物質には関連していなかったと結論付けた。
【0150】
重度の体重減少(上記)を起こしていた1個体の動物を除き、その他の動物は全群において全てが本試験経過中に体重増加した。
【0151】
製剤IIの投与から1週間後に屠殺した動物の頭蓋骨および脳の組織病理学的分析では、頭蓋骨および皮質に平均グレードが類似する炎症(1.4~2.4)および壊死(1.2~3.2)が全群の全動物に存在することが示された。処置群の異なる用量の製剤IIと製剤IIのビヒクル(ドセタキセル不含)間に平均スコアの差異は認められなかった。
【0152】
投与から4週間後、シャムおよび製剤IIビヒクル全群において、頭蓋骨および皮質の平均壊死および炎症のスコアは、第1週目スコアと比較して減少した。50mgおよび25mg製剤IIによる処置群の動物では、4週の時点で、平均壊死および炎症のスコアが第1週目終了時点と比較して一般的に増加した。10mg製剤II群のスコアは第1週目と第4週目の間で一定していた。
【0153】
第8週目終了時点では、25mgおよび50mgの製剤IIを投与した群において、頭蓋骨および皮質の壊死の平均スコアが、第4週目終了時点と比較して重症度について減少した。皮質炎症スコアは軽度~中等度であった。他の全群において、炎症および壊死のスコアはゼロ~最小であった。
【0154】
第16週目終了時点では、頭蓋骨の壊死スコアが最小~軽度である25mg処置群を除き、全製剤II処置群において、壊死および炎症の平均スコアが最小であった。シャム群および製剤IIビヒクル処置群では、壊死スコアはゼロであり炎症スコアが最小であった。
【0155】
結論
製剤IIの投与は可視的な全身性有害作用を全く惹起しなかった。投与した製剤IIのドセタキセル総用量(すなわち、最大50mgの製剤II、1~2mg/kgのドセタキセルに相当する)は、報告されている(タキソテール(10mg/kg静注);NDA020449)ならびにドセタキセル(NDA205924)の最大耐性用量(MTD)および非致死用量(NLD)よりも低かった。
【0156】
細胞毒性薬剤の局所放出は局所有害作用をもたらしたが、これらの効果は時間経過につれて消失した。本試験は、ラットにおいて最大で総用量50mg/19.6mmまでの製剤IIの投与について安全性を支持するものである。
【0157】
実施例13:本発明の例示的な実施態様にしたがう持続放出製剤の、LLC1細胞株インビボマウス同系腫瘍モデルに対する抗腫瘍および抗転移性効果の評価
この試験の目的は、C57BLマウスにおいて、マウス同系ルイス肺癌(LLC1)細胞株の腫瘍に対する、異なる量の製剤IIの抗腫瘍および抗転移性効果の効力を評価することであった。選択した細胞株(LLC1)は、自然発生的に原発腫瘍から肺転移することが知られている。
【0158】
上記の目的で、雌BALB/cマウス(試験開始時に7~8週齢、体重が±16~20グラムであった)の皮下に結腸癌腫瘍を作成し、所望の容積(400~600mm)に達した後に切除を行い、それらの容積の約90%を除去してから、被検剤を投与した。腫瘍再発率を追跡し非処置対照群と比較した。
【0159】
7~8週齢の体重が18~21グラムである雄C57BLマウスをこの試験に用いた。LLC1腫瘍細胞をマウスの背部皮下に注射した。腫瘍が約400mmの容積に達した後、切除を行った(少なくとも腫瘍容積の90%を除去した;平均面積0.7cm)。動物を6群(n=10)に分けた。試験設計の詳細が表9のリストに示されている。群1~4には、異なる量の製剤IIを直接的に腫瘍床に投与した。非処置群(群5)を陰性対照とし、全身性処置群(群6)を陽性対照とした。5個体の動物をシャム群とし、腫瘍細胞注射を行わなかったが外科的処置は施した(群7)。処置後、手術部位を縫合し動物をケージに戻して回復させた。1500mmを超える腫瘍を有する動物は安楽死させた。終了後に、各動物において肺転移数をカウントした。
【0160】
【表9】
【0161】
試験結果
群1では、21日目に1個体の動物のみ早期殺処分した。腫瘍は早期殺処分と規定される最大容積には至らなかったが、この群の腫瘍担持動物に転移が発生したか否かを確認する目的で動物の屠殺を行った。群2では、14日目に1個体の動物の死亡が確認された。3個体の動物を早期殺処分した;18日目に1個体、および21日目に2個体。腫瘍は早期殺処分と規定される最大容積には至らなかったが、この群の腫瘍担持動物に転移が発生したか否かを確認する目的で、21日目に1個体の動物を殺処分した。第2の個体はその腫瘍サイズのため殺処分した。群3では、4個体の動物の死亡が確認された(11日目、18日目;ならびに23日目に2個体)。21日目に、腫瘍サイズのため4個体の動物を早期殺処分した。群4では、6個体の動物の死亡が確認された(14日目、16日目;ならびに21日目に3個体;および23日目)。腫瘍が早期殺処分と規定される最大容積値を超過したので、23日目に、2個体の動物を早期殺処分した。群5(非処置)では、16日目に1個体の動物の死亡が確認された。腫瘍サイズのため、14日目に3個体、16日目に2個体、および23日目に1個体の動物(6個体)を早期殺処分した。群6では、25日目に1個体の動物の死亡が確認された。腫瘍が早期殺処分と規定される最大容積値を超過したので、23日目に1個体の動物を早期殺処分した。
【0162】
全群において、平均体重(%)の小変化が記録された。これらの変化は一般的に最小(約3%)であり、ほとんどが群5(非処置)および群6(タキセル)において認められるものであった;終了時における平均体重は、t=0での体重よりもそれぞれ6.5%および4%軽いものであった。
【0163】
群1では、6/10の動物が平均腫瘍容積150mmの腫瘍を有していた。群2では、8/10の動物が平均腫瘍容積1363mmの腫瘍を有していた。群3では、9/10が平均腫瘍容積2097mmの腫瘍を有していた。群4では、6/10が平均腫瘍容積1559mmの腫瘍を有していた。群5(非処置)では、7/10が平均腫瘍容積2463mmの腫瘍を有していた。群6では、4/10が平均腫瘍容積490mmの腫瘍を有していた。
【0164】
殺処分/死亡後に、転移数を計数した。一部の場合には、肺の状態により転移評価できないものもあった。高度の腐敗で肺の転移数を評価できなかった。小型転移(0.1~0.5mm)と大型転移(>0.5mm)とは区別して計数した。転移が多数(>100)の場合には、計数不能(TNTC)と定義した。
【0165】
群1では、5/10の動物が転移を有していなかった。3個体の動物が小型(0.1~0.5mm)転移(2、6および7転移)を有しており、また他の2個体の動物では、肺が腐敗し過ぎていて計数が不可能であった。平均肺重量は198±55mgであった。群2では、4/10の動物が転移を有していなかった。5個体の動物が転移を有していた。2個体の動物が小型転移(3および5転移)を有しており、1個体の動物が小型転移(0.1~0.5mm)および大型転移(>0.5mm)(それぞれ、11および6)の両方を有しており、また、2個体の動物では転移が多すぎて(>100)計数不能であった(TNTC)。1個体の動物では、肺が腐敗し過ぎていて計数不能であった。平均肺重量は252±87mgであった。群3では、3/10の動物が転移を有していなかった。3個体の動物が小型転移(5、5および4転移)を有しており、3個体の動物が小型および大型の転移の両方を有しており(それぞれ、6個、10個および22個の小型;1個、4個および4個の大型)、また、1個体の動物がTNTC転移を有していた。平均肺重量は323±115mgであった。群4では、2/10の動物が転移を有していなかった。5個体の動物が転移を有していた。3個体の動物が小型転移(4、7および9転移)を有しており、2個体の動物がTNTC転移を有していた。3個体の動物において、肺が腐敗し過ぎていて計数不能であった。平均肺重量は587±481mgであった。群5(非処置)では、全動物に転移が認められた。8個体の動物が小型転移を有しており(2~20で変動がある)、1個体の動物が小型転移および大型転移(それぞれ、5個および3個)の両方を有しており、また1個体の動物がTNTC転移を有していた。平均肺重量は330±64mgであった。 群6では、5/10の動物が転移を有していなかった。4個体の動物が転移を有していた。2個体の動物が小型転移(3および4転移)を有しており、1個体の動物が小型転移および大型転移(それぞれ、7および2)の両方を有しており、また1個体の動物がTNTC転移を有していた。1個体の動物において、肺が腐敗し過ぎていて計数不能であった。平均肺重量は226±114mgであった。
【0166】
結論
この試験では、原発腫瘍の外科的切除後の肺における腫瘍容積および転移数に基づいて治療効力を評価した。本試験の結果により、100mg用量の製剤IIの投与は、腫瘍外科的切除後の腫瘍再発予防ならびに腫瘍細胞遊走の阻止に有効であり、転移を有する動物の数および肺における転移総数を低下させることが明らかになった。これらの結果は、本発明の実施態様にしたがう医薬組成物による腫瘍床局所処置が、腫瘍再発および転移の両方の予防に利点を有することを示すものである。
【0167】
実施例14:本発明のいくつかの実施態様にしたがう医薬組成物から放出されたタキサンのラット脳への浸透に関する評価
本発明の特定の実施態様にしたがうタキサン持続放出組成物(例えば、製剤II)をラットの脳の右半球において、5mmの孔に投与する。異なる時点で、タキサン持続放出組成物処置群の動物を屠殺し、その脳を取り出してタキサンの存在に関して分析する。具体的には、採取した脳を水平および垂直に切断して製剤IIの投与部位から始まる複数の2mm立方体を作成する。立方状に切り出したそれぞれにおけるドセタキセル量を、ラット脳組織におけるドセタキセルの検証済み生物分析法を用いて決定する。ドセタキセルに曝露された脳の割合(%)、薬剤に曝露された部位の直径、およびこの領域内の薬剤平均濃度を決定する。
【0168】
方法論
硬膜レベルに定常的な食塩水灌流を行いながら、トレフィンバー(冠状鋸ビット)用いて右半球上の頭蓋冠骨の中央部をドリルで深く貫通して5mmの孔(19.6mm)を穿つ。硬膜損傷を回避するよう細心の注意を払う。切除縁に起子(elevator blade)を差し込み、ドリル穿孔を行った頭蓋冠の骨片が持ち上がり外れるまで孔の円周上を移動させる。次いで、硬膜を切開して脳を露出させる。続いて、ペースト状に処方した製剤IIを脳表面に塗布する。
【0169】
本明細書に開示し特許請求する方法はいずれも、本開示を踏まえることによって、過度の実験を実施することなく構成し実施することができる。本発明の組成物および方法は、好ましい実施態様について説明されているが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法、その方法の工程、および工程の順序に変更を加え得ることは当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的および生理学的の両方において関連する特定薬剤は、同一または類似の結果を達成しながら本明細書に記載の薬剤の代替として用い得ることは、明らかであろう。当業者には明らかであるそのような類似の代替物はいずれも全て、付属の特許請求項によって規定されるような本発明の趣旨、範囲および概念に含まれるものと見なされる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】