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2023-554297衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法
<図1a>
  • -衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法 図1a
  • -衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法 図1b
  • -衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法 図1c
  • -衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法 図1d
  • -衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法 図2
  • -衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法 図3
  • -衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法 図4
  • -衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231220BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20231220BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20231220BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/14
C21D8/02 B
C21D7/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535055
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 KR2021017978
(87)【国際公開番号】W WO2022124682
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0172341
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョ, ジェ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】カン, サン-ドク
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】低い降伏強度を有し、低温衝撃靭性に優れた
地震から構造物の耐震性を確保するために使用可能な制震ダンパー用鋼材及びその製造方法を提供する。
本発明は、重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×[N]~0.05%(ここで、[N]は窒素の重量%含量を意味する)、Nb:0.04~0.15%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、フェライト単一組織を有し、表面から全厚さの30%の領域までの表層部におけるフェライト結晶粒の平均粒径は150~500μmであることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×[N]~0.05%(ここで、[N]は窒素の重量%含量を意味する)、Nb:0.04~0.15%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
フェライト単一組織を有し、
表面から全厚さの30%の領域までの表層部におけるフェライト結晶粒の平均粒径は150~500μmであることを特徴とする制震ダンパー用鋼材。
【請求項2】
前記表層部以外の内部領域におけるフェライト結晶粒の平均粒径は10~60μmであることを特徴とする請求項1に記載の制震ダンパー用鋼材。
【請求項3】
下記関係式1で定義されるR1値が0.8~150の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の制震ダンパー用鋼材。
[関係式1]
R1=[Nb]/[Si]
(前記関係式1中、[Nb]はNbの重量%含量を示し、[Si]はSiの重量%含量を示す。)
【請求項4】
下記関係式2で定義されるR2値が4~200の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の制震ダンパー用鋼材。
[関係式2]
R2=([Ti]+[Nb])/[Si]
(前記関係式2中、[Ti]はTiの重量%含量を示し、[Nb]はNbの重量%含量を示し、[Si]はSiの重量%含量を示す。)
【請求項5】
前記鋼材の全厚さ(Dt)に対する前記表層部の厚さ(Ds)比率(Ds/Dt)は0.1~0.3の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の制震ダンパー用鋼材。
【請求項6】
前記鋼材の降伏強度は120MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の制震ダンパー用鋼材。
【請求項7】
重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×[N]~0.05%(ここで、[N]は窒素の重量%含量を意味する)、Nb:0.04~0.15%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1050~1250℃の 温度範囲に加熱する段階と、
加熱された鋼スラブをAr3-80℃以上Ar3以下の温度範囲で仕上げ圧延する段階と、
仕上げ圧延された鋼材の表面にショットブラスト処理する段階と、を含み、
前記ショットブラスト処理する段階は、金属材ボール又は非金属材ボールを1500~2500rpmの速度で回転させて、60~100m/sの速度で板材の表面に噴射するように行われることを特徴とする制震ダンパー用鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記ショットブラスト処理する段階は10~30分間行われることを特徴とする請求項7に記載の制震ダンパー用鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記金属材ボール又は非金属材ボールの直径は0.8~1.2mmであるものを使用することを特徴とする請求項7に記載の制震ダンパー用鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記ショットブラスト処理する段階の後に、下記関係式3により定義されるLMP値が23.5~24.5の範囲を満たすように熱処理する段階をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の制震ダンパー用鋼材の製造方法。
[関係式3]
LMP=T×[log(t)+20]/1000
(前記関係式3中、前記Tは熱処理温度を示し、単位は℃である。また、前記tは熱処理時間を示し、単位は分である。)
【請求項11】
前記熱処理する段階は850~900℃の範囲で行われることを特徴とする請求項10に記載の制震ダンパー用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、地震から構造物の耐震性を確保するために使用される衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、韓国内で主に使用されていた耐震設計では、地震時に、柱や梁の構造物に使用される鋼材の降伏比を下げて構造物の破壊に至る時点を遅らせる技術が主に使用されてきた。しかし、このような低降伏比の鋼材を用いた耐震設計は、構造物に使用される鋼材の再使用が不可能であるだけでなく、構造物自体に対しても安定性が確保されないため、再建築を行わなければならないという問題があった。
【0003】
近年では、耐震設計技術が発展し、制震又は免震構造の実用化が進められているが、特に、地震による構造物に加わるエネルギーを特定部位に吸収させて耐震性能を確保する技術が多様に開発されている。このような地震エネルギーを吸収する装置として制震ダンパーが用いられており、制震ダンパー用鋼材の場合には極低降伏点の特性を有する。制震ダンパー用鋼材は、既存の柱や梁の構造材よりも降伏点を下げることで、地震時に先に降伏を起こして地震による振動エネルギーを吸収し、他の構造材は弾性の範囲に維持させることで、構造物の変形を抑制するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国公開特許第2008-0088605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が目的とするところは、低い降伏強度を有し、地震から構造物の耐震性を確保するために使用可能な制震ダンパー用鋼材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0006】
また、本発明は、低い降伏強度を有するとともに、低温衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0007】
本発明の課題は、前述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全体にわたる内容から本発明の更なる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×[N]~0.05%(ここで、[N]は窒素の重量%含量を意味する)、Nb:0.04~0.15%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
フェライト単一組織を有し、
表面から全厚さの30%の領域までの表層部におけるフェライト結晶粒の平均粒径は150~500μmである、制震ダンパー用鋼材を提供する。
【0009】
また、本発明は、
重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×[N]~0.05%(ここで、[N]は窒素の重量%含量を意味する)、Nb:0.04~0.15%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1050~1250℃の 温度範囲に加熱する段階と、
加熱された鋼スラブをAr3-80℃以上Ar3以下の温度範囲で仕上げ圧延する段階と、
仕上げ圧延された鋼材の表面にショットブラスト処理する段階と、を含み、
上記ショットブラスト処理する段階は、金属材ボール又は非金属材ボールを1,500~2,500rpmの速度で回転させて、60~100m/sの速度で板材の表面に噴射するように行われる、制震ダンパー用鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地震から構造物の耐震性を確保するために使用される制震ダンパーとして好適に使用できる鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【0011】
また、本発によれば、降伏強度が低く、低温衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【0012】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は、前述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1a】本発明の鋼材に対する表層部及び表層部以外の内部領域における微細組織を模式的に示す、光学顕微鏡で撮影した写真である。
図1b図1a中、A領域の拡大図を示したものである。
図1c図1a中、B領域の拡大図を示したものである。
図1d図1a中、C領域の拡大図を示したものである。
図2】本発明の鋼材について、Nbの添加量による再結晶停止温度(Tnr)の変化を示すグラフである。
図3】本発明の鋼材に対する表層部における平均結晶粒サイズと、上記表層部以外の内部領域における平均結晶粒サイズによる降伏強度の変化を示すグラフである。
図4】熱処理温度及び時間で表されるパラメータであるLMPに応じて、鋼材の全厚さに対する上下部表層部の厚さ比率の変化を示すグラフである。
図5】鋼材の厚さに対する上下部表層部の厚さ比率による降伏強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0015】
地震から構造物の耐震性を確保するために使用される鋼材として、従来は純鉄に近い成分を使用し、且つ、910~960℃の温度範囲で追加の熱処理を行う技術が知られていた。
【0016】
しかし、このような技術は、仕上げ圧延後に900℃以上の高温で追加の熱処理を行う必要があるため、Siが添加されていない極低降伏点の鋼材の場合、過度なスケールが発生して不良を起こしたり、粗大なNb又はTi析出物が形成され、衝撃靭性の劣化が発生するという問題があった。また、900℃以上の高温における追加の熱処理工程が伴うため、製造コストの上昇を招くという問題もあった。
【0017】
そこで、本発明者らは、前述の問題点を解決するために鋭意検討を行った結果、鋼の組成、表層部の微細組織及び製造条件等を最適化することにより、降伏強度が120MPa以下と低いながらも、低温衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
以下では、本発明に係る[制震ダンパー用鋼材]について詳細に説明する。
【0019】
具体的に、本発明の制震ダンパー用鋼材は、重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×[N]~0.05%、Nb:0.04~0.15%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる組成を有する。以下、本発明の主な特徴の一つである鋼組成を構成する各合金成分を添加する理由、及びそれらの適切な含量範囲について先ず説明する。
【0020】
C:0.006%以下(0%を除く)
Cは、固溶強化を引き起こし、自由な状態では転位に固着して降伏強度を高め、伸び率を下げる元素である。前述の効果を確保するために、本発明においてC含量が0%である場合を除く(すなわち、C含量は0%超過)。したがって、制震ダンパー用鋼材として好適に使用するためには、C含量が低ければ低いほど良いため、その含量を0.006%以下に制御し、より好ましくは0.0045%以下に制御することができる。また、より好ましくは、上記C含量は0.0005%以上であってもよい。
【0021】
Si:0.05%以下(0%を除く)
Siは、Cと同様に固溶強化を引き起こす元素であって、降伏強度を高め、伸び率を下げる元素であり、前述の効果を確保するために、Si含量が0%である場合を除く(すなわち、Si含量は0%超過)。但し、制震ダンパー用鋼材として好適に使用するためには、Si含量が低いほど良い。したがって、本発明では、低い降伏強度を確保する観点から、Si含量を0.03%以下に制御し、より好ましくは0.013%以下に制御することができる。また、上記Si含量は0.001%以上であってもよい。
【0022】
Mn:0.3%以下(0%を除く)
Mnは、Siと同様に固溶強化を引き起こす元素であって、降伏強度を高め、伸び率を下げる元素である。前述の効果を確保するために、Mn含量が0%である場合を除く(すなわち、Mn含量は0%超過)。但し、制震ダンパー用鋼材として好適に使用するために、本発明では、低い降伏強度を確保する観点から、Mn含量を0.3%以下に制御し、より好ましくは0.2%以下に制御することができる。また、上記Mn含量は0.06%以上であってもよく、より好ましくは0.1%以上であってもよい。
【0023】
P:0.02%以下(0%を除く)
Pは、強度向上及び耐食性に有利な元素であるため、前述の効果を確保するために、P含量が0%である場合を除く(すなわち、P含量は0%超過)。但し、Pは、衝撃靭性を大きく阻害することがあるため、P含量はできるだけ低く維持することが好ましい。したがって、本発明では、P含量を0.02%以下に制御し、より好ましくは0.013%以下に制御することができる。また、上記P含量は0.001%以上であってもよく、より好ましくは0.004%以上であってもよい。
【0024】
S:0.01%以下(0%を除く)
Sは、MnS等を形成して衝撃靭性を大きく阻害する元素であるため、できるだけその含量を低く維持することが好ましい。したがって、本発明では、S含量を0.01%以下に制御し、より好ましくは0.004%以下に制御することができる。また、上記S含量は0.0005%以上であってもよく、より好ましくは0.001%以上であってもよい。
【0025】
Al:0.005~0.05%
Alは、溶鋼を安価に脱酸できる元素であって、降伏強度を十分に下げながらも衝撃靭性を確保する観点から、Al含量の上限を0.05%に制御する。あるいは、より好ましくはAl含量の上限を0.035%に制御することができ、最小限の脱酸性能を確保する観点から、Al含量の下限を0.005%に制御することができ、より好ましくは0.023%であってもよい。
【0026】
N:0.005%以下(0%を除く)
Nは、固溶強化を引き起こし、自由な状態では転位に固着して降伏強度を高め、伸び率を下げる元素である。前述の効果を確保するために、N含量が0%である場合を除く(すなわち、N含量は0%超過)。但し、N含量は低ければ低いほど良いため、低い降伏強度を確保する観点からN含量を0.005%以下に制御する。また、上記N含量は0.001%以上であってもよい。
【0027】
Nb:0.04~0.15%
Nbは、TMCP鋼の製造において重要な元素であって、NbC又はNbCNの形態で析出してCが転位に固着することを防止する非常に重要な元素である。また、高温に再加熱する際に固溶したNbは、オーステナイトの再結晶を抑制し、組織が微細化する効果を奏する。
【0028】
一方、変形誘起析出物を導入するためには、広い未再結晶領域を確保することが必要であるが、図2に示すように、Ar3とTnrとの間に50℃以上の温度領域を確保する観点から、Nbを0.04%以上添加することが好ましい。また、析出物の粗大化により衝撃靭性が劣化することを防止するためには、Nbを0.15%以下添加することが好ましい。
【0029】
具体的に、図2では、本発明の鋼材について、Nbの添加量による再結晶停止温度(Tnr)の変化をグラフで示している。すなわち、本発明のように、炭素の含量を極低量に制御した極低炭素鋼の場合にはAr3が890℃程度と非常に高く、Ar3の変化が僅かである。よって、Ar3の変化値は無視可能なレベルとなるため、図2のようにAr3を890℃程度に固定して表すことができ、Nb含量を0.04~0.15%添加した場合にのみ極低炭素鋼の再結晶停止温度(Tnr)を高く制御することができる。したがって、本発明のように、Nb含量を0.04~0.15%の範囲に制御することにより、極低炭素鋼のTnrとAr3との差を50℃以上確保することができ、これにより変形誘起析出物が微細に発生し、Cを析出物として固着することができる。一方、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記Nb含量の下限は0.07%であってもよく、あるいは、上記Nb含量の上限は0.1%であってもよい。
【0030】
Ti:48/14×[N]~0.05%
Tiは、TiNの形態で析出することにより、Nが転位に固着することを防止する役割を果たす元素である。したがって、鋼中のNを適正範囲に固着させるためには、添加したN含量(重量%)を考慮して、Tiを48/14×[N]%以上添加しなければならず(ここで、[N]は重量%で示した窒素の含量を意味する)、あるいは0.02%以上添加しなければならない。一方、Tiが過度に添加される場合には、析出物が粗大化して衝撃靭性が劣化するおそれがあるため、衝撃靭性を確保する観点から、Tiを0.05%以下に制御し、より好ましくは0.04%以下に制御することができる。
【0031】
すなわち、本発明によれば、Ti含量を48/14×[N]~0.05%の範囲に制御することにより、鋼中のNを析出物として固着させることができ、Nb含量を0.04~0.15%の範囲に制御することにより、鋼中のCを 析出物として固着させることができる。よって、本発明では、Ti及びNb含量を最適化することにより、変形誘起析出物を適正サイズに微細に形成するように制御可能となり、これにより、低い降伏強度を有しながらも低温衝撃靭性に優れた制震ダンパー用鋼材を効果的に提供することができる。
【0032】
具体的に、C又はNが自由な状態になると、転位にC又はNが固着して上部降伏点現象を起こし、これにより、降伏強度が120MPa超過となってしまう。また、フェライト単一組織において粗大な析出物が存在すると、衝撃靭性が劣化する。ところが、圧延時に変形誘起で析出する場合には、そのサイズが微細になり、衝撃靭性の劣化を抑制することができ、上部降伏点の発現を抑制して極低降伏点の鋼材が得られるようになる。したがって、本発明によれば、降伏強度が120MPa以下と非常に低いながらも、シャルピー衝撃遷移温度が-20℃以下である低温衝撃靭性に優れた鋼材を提供することができる。
【0033】
一方、本発明によれば、特に限定するものではないが、上記制震ダンパー用鋼材は、下記関係式1で定義されるR1値が0.8以上を満たすことができ、あるいは、より好ましくは上記R1値が0.8~150の範囲であることができる。上記R1値が0.8以上であると、120MPa以下の非常に低い降伏強度を有する鋼材をより効果的に提供することができる。また、上記R1値が150以下であると、Nb析出物が微細に形成されるため、より優れた衝撃靭性を確保することができる。
【0034】
[関係式1]
R1=[Nb]/[Si]
(上記関係式1中、[Nb]はNbの重量%含量を示し、[Si]はSiの重量%含量を示す。)
【0035】
一方、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記関係式1で定義されるR1値の下限は3.33であってもよく、あるいは、上記R1値の上限は90であってもよい。
【0036】
あるいは、本発明の一側面によれば、上記制震ダンパー用鋼材は、下記関係式2で定義されるR2値が0.8以上を満たすことができる。あるいは、より好ましくは、上記R2値が0.8~200の範囲であってもよく、最も好ましくは4~200の範囲であってもよい。上記R2値が0.8以上であると、120MPa以下の低い降伏強度を有する鋼材をより効果的に提供することができる。また、上記R2値が200以下であると、Nb析出物が微細に形成され、より優れた衝撃靭性を確保することができる。
【0037】
[関係式2]
R2=([Ti]+[Nb])/[Si]
(上記関係式2中、[Ti]はTiの重量%含量を示し、[Nb]はNbの重量%含量を示し、[Si]はSiの重量%含量を示す。)
【0038】
一方、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記関係式2で定義されるR2値の下限は4.33であってもよく、上記R2値の上限は130であってもよい。
【0039】
本発明において、残りの成分はFe及びその他の不可避不純物である。すなわち、本発明に係る制震ダンパー用鋼材は、通常の製造過程において原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。このような不純物は、通常の技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容については言及しない。
【0040】
本発明によれば、上記制震ダンパー用鋼材はフェライト単一組織を有する。これを満たすことにより、地震の発生時に効果的にエネルギーを吸収し、地震ダンパーとしての役割を果たすことができる。
【0041】
また、本発明によれば、表層部におけるフェライト結晶粒の平均粒径は150~500μmであってもよい。上記表層部におけるフェライト結晶粒の平均粒径が150μm未満であると、降伏強度が目標とする降伏強度を超えるという問題が生じる可能性があり、500μmを超えると、ダンパー鋼材の降伏強度が目標とする強度より低くなるという問題が生じる可能性がある。一方、上記表層部におけるフェライト結晶粒の平均粒径の下限は、より好ましくは175μmであってもよく、最も好ましくは200μmであってもよい。あるいは、上記表層部におけるフェライト結晶粒の平均粒径の上限は、より好ましくは310μmであってもよく、最も好ましくは300μmであってもよい。
【0042】
なお、本明細書において、上記表層部とは、鋼材の表面から全厚さの30%までの領域を意味する。したがって、後述する表層部以外の内部領域というのは、上記鋼材の厚さ方向への上下部にそれぞれ存在する表層部(上部表層部及び下部表層部)を除いた領域を意味する。
【0043】
本発明によれば、上記表層部におけるフェライト結晶粒の平均粒径は、上記表層部以外の内部領域におけるフェライト結晶粒の平均粒径より大きくてもよく、より好ましくは、上記内部領域におけるフェライト結晶粒の平均粒径より150μm以上大きくてもよい。これを満たすことにより、目的とする降伏強度を確保する効果を発揮することができる。
【0044】
あるいは、本発明によれば、上記表層部以外の内部領域におけるフェライト結晶粒の平均粒径は10~50μmの範囲であってもよく、より好ましくは30~50μmの範囲であってもよい。上記内部領域におけるフェライト結晶粒の平均粒径が10μm未満であると、目標とする降伏強度を超えるという問題が生じる可能性があり、50μmを超えると、ダンパ全体の降伏強度が目標とする強度より低くなるという問題が生じる可能性がある。
【0045】
前述したフェライト結晶粒の平均粒径は、鋼材の厚さ方向(すなわち、圧延方向に垂直な方向)への切断面を基準にして、結晶粒に対する円相当径を測定した値の平均値を意味し、具体的には、結晶粒の内部を貫通する最も長い長さを粒径として描かれる球状の粒子を仮定したとき、上記粒径を測定した値の平均値である。
【0046】
本発明の一例に該当する後述の発明例1-2の鋼材について、光学顕微鏡を用いて微細組織を撮影した光学写真を図1に示した。図1から分かるように、表層部におけるフェライト結晶粒サイズが上記表層部以外の内部領域におけるフェライト結晶粒サイズより大きいことが確認できる。
【0047】
また、本発明によれば、特に限定するものではないが、鋼材の厚さ方向(すなわち、圧延方向と垂直な方向)を基準にして、上記鋼材の全厚さ(Dt)に対する上記表層部の厚さ(Ds)比率(Ds/Dt)は0.1~0.3の範囲であってもよい。このように、鋼材の全厚さに対する表層部の厚さ比率(Ds/Dt)が0.1~0.3を満たすことにより、図5から確認できるように、本発明で目標とする120MPa以下の非常に低い降伏強度を有する制震ダンパー用鋼材を効果的に提供することができる。
【0048】
一方、本発明において、上記比率(Ds/Dt)が0.1未満であると、目標とする降伏強度を超えてダンパーとしての十分なエネルギーを吸収できないという問題が生じる可能性があり、上記比率(Ds/Dt)が0.3を超えると、図3に示すように、降伏強度が低くなりすぎて構造物に対する安全な支えを行う上で問題が生じる可能性がある。
【0049】
なお、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記比率(Ds/Dt)の下限は0.14であってもよく、あるいは、上記比率(Ds/Dt)の上限は0.25であってもよい。
【0050】
このとき、上記表層部は、鋼材の上下部のそれぞれに形成された表層部を全て包括する概念であることに留意する必要がある。
【0051】
本発明によれば、前述した制震ダンパー用鋼材の降伏強度(YS)は120MPa以下であってもよく、特に限定するものではないが、より好ましくは80~120MPaの範囲であってもよい。上記鋼材の降伏強度が120MPaを超えると、地震の発生時に、エネルギーを十分に吸収できないという問題が生じる可能性があり、上記鋼材の降伏強度が80MPa未満であると、構造物の安定的な維持に問題が生じる可能性がある。
【0052】
以下では、本発明に係る[制震ダンパー用鋼材の製造方法]について詳細に説明する。
【0053】
スラブの加熱段階
本発明の制震ダンパー用鋼材の製造方法は、前述した組成を満たす鋼スラブを再加熱する段階を含むことができ、上記再加熱は1050~1250℃の範囲で行うことができる。このとき、鋳造中に形成されたTi及び/又はNbの炭窒化物を十分に固溶させるために、鋼スラブの加熱温度を1050℃以上に制御する。但し、過度に高い温度に加熱する場合は、オーステナイトが粗大化するおそれがあり、粗圧延の後に表面の温度が表層部の冷却開始温度に至るまで過度な時間がかかるため、スラブの加熱を1250℃以下で行うことが好ましい。一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記スラブの再加熱温度の下限は1075℃であってもよく、あるいは、上記スラブの再加熱温度の上限は1125℃であってもよい。
【0054】
粗圧延段階
本発明によれば、上記加熱された鋼スラブは、後述する仕上げ圧延段階の前に、スラブの形状調整のために粗圧延を行う段階をさらに含むことができ、このような粗圧延の温度はオーステナイトの再結晶が停止する温度(Tnr)以上に制御されることができる。粗圧延により鋳造中に形成されたデンドライト等の構造組織を破壊する効果を得ることができ、さらにオーステナイトのサイズを小さくする効果も得ることができる。一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記粗圧延終了温度の下限は995℃であってもよく、あるいは、上記粗圧延終了温度の上限は1035℃であってもよい。
【0055】
仕上げ圧延段階
前述の加熱された鋼スラブ(又は粗圧延されたバー)を、Ar3-80℃以上Ar3以下の温度範囲で仕上げ圧延する段階を含む。次いで、仕上げ圧延後、必要に応じて冷却する段階を含むことができ、上記冷却は空冷であってもよい。
【0056】
一方、上記仕上げ圧延の温度がAr3-80℃未満であると、鋼材内部のフェライト結晶粒サイズが過度に微細になるという問題が生じる可能性がある。また、上記仕上げ圧延の温度がAr3を超えると、鋼材内部のフェライト粒径が粗大になるという問題が生じる可能性がある。一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記仕上げ圧延開始温度の下限は955℃であってもよく、あるいは、上記仕上げ圧延開始温度の上限は980℃であってもよい。また、上記仕上げ圧延終了温度の下限は860℃であってもよく、あるいは、上記仕上げ圧延終了温度の上限は905℃であってもよい。
【0057】
ショットブラスト処理段階
前述した仕上げ圧延鋼材の表面にショットブラスト処理する段階を含み、上記ショットブラスト処理は、金属材ボール又は非金属材ボールを1,500~2,500rpmの速度で回転させ、60~100m/sの速度で板材の表面に噴射するように実施することができる。ショットブラスト処理を行うことで、鋼材の表層部に粗大なフェライト結晶粒が成長することができ、且つ、鋼材の全厚さに対する表層部の厚さ比率が増大して降伏強度を下げることができる。
【0058】
上記ショットブラスト処理時に、金属材ボール又は非金属材ボールの回転速度が1,500rpm未満であると、十分な速度を確保できず、表面部のフェライト結晶粒サイズを確保できないという問題が発生する可能性があり、2,500rpmを超えると、機械の安定した運営に問題が発生する可能性がある。一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記回転速度の下限は1,550rpmであってもよく、あるいは、上記回転速度の上限は2,350rpmであってもよい。
【0059】
また、上記噴射速度が60m/s未満であると、鋼材の表面に効果的な応力の付与が不足し、目的とする物性を確保できないという問題が発生する可能性があり、100m/sを超えると、鋼材の表面に深い溝が発生して製品不良を引き起こす可能性がある。一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記噴射速度の下限は62m/sであってもよく、あるいは、上記噴射速度の上限は94m/sであってもよい。
【0060】
本発明によれば、上記ショットブラスト処理時には、平均直径が0.8~1.2mmの金属材ボール又は非金属材ボールを用いることができる。上記ボールの直径が0.8mm未満であると、鋼材の表面に伝達するエネルギーが不足するという問題が生じる可能性があり、上記ボールの直径が1.2mmを超えると、鋼材の表面にエネルギーを均一に伝達できないという問題が生じる可能性がある。一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記金属材ボール(又は非金属材ボール)の平均直径の下限は0.9mmであってもよく、あるいは、上記金属材ボール(又は非金属材ボール)の平均直径の上限は1.1mmであってもよい。
【0061】
また、本発明によれば、上記ショットブラスト処理は10~30分間行われることができる。上記ショットブラスト処理時間が10分未満であると、鋼材の表面に伝達するエネルギーが不足するという問題が生じる可能性があり、上記ショートブラスト処理時間が30分を超えると、鋼材の表面品質に不良を誘発するという問題が生じる可能性がある。一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記ショットブラスト処理時間の下限は15分であってもよく、あるいは、上記ショットブラスト処理時間の上限は25分であってもよい。
【0062】
熱処理段階
本発明によれば、特に限定するものではないが、上記ショットブラスト処理する段階の後に、下記関係式3により定義されるLMP値が23.5~24.5の範囲を満たすように熱処理する段階をさらに含むことができる。
【0063】
[関係式3]
LMP=T×[log(t)+20]/1000
(上記関係式3中、上記Tは熱処理温度を示し、単位は℃である。また、上記tは熱処理時間を示し、単位は分である。)
【0064】
このとき、下記関係式3の値は経験的に得られる数値であるため、特に単位を定めなくてもよい。すなわち、下記関係式3において、後述するT、tの各単位を満たせばよい。
【0065】
本発明によれば、前述の関係式3により定義されるLMP値が23.5~24.5の範囲を満たすことにより、図4に示すように、鋼材の全厚さに対する表層部の厚さ比率を0.1~0.3の範囲に制御することができ、これにより、目標の降伏強度である120MPa以下(より好ましくは、80~120MPaの範囲)を満たす鋼材を得ることができる。
【0066】
ショットブラスト処理を経た鋼板に熱処理を施すと、表層部に導入された応力により鋼材の表面部から粗大なフェライトが成長する。このように、熱処理条件を制御して鋼材の表層部に、図1のように粗大なフェライトを形成させることにより、鋼材に対する降伏強度の変化を導入できるようになる。
【0067】
一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記関係式3により定義されるLMP値の下限は23.7であってもよく、あるいは、上記関係式3により定義されるLMP値の上限は24.3であってもよい。
【0068】
また、本発明によれば、特に限定するものではないが、上記熱処理する段階は850~900℃の範囲で行われることができる。上記熱処理温度が850℃未満であると、表面において十分に粗大なフェライトの成長を確保できなくなるという問題が生じる可能性があり、900℃を超えると、目標とするフェライト結晶粒より過度に粗大なフェライト結晶粒が形成されるという問題が生じる可能性がある。一方、特に限定するものではないが、前述の効果を向上させる観点から、より好ましくは、上記熱処理温度の下限は855℃であってもよく、あるいは、上記熱処理温度の上限は880℃であってもよい。
【0069】
また、本発明によれば、特に限定するものではないが、上記熱処理時間は5~30分の範囲であってもよい。なお、より好ましくは、上記熱処理時間の下限は10分であってもよく、あるいは、上記熱処理時間の上限は25分であってもよい。
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。但し、下記の実施例は例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項、及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0071】
(実施例)
下記表1の合金組成及び性質を有する鋼スラブを準備した。このとき、下記表1において、各成分の含量は重量%であり、残りはFe及びその他の不可避不純物である。すなわち、下記表1に記載の鋼スラブ(残部はFe)において、発明鋼A~Dは本発明で定義する合金組成の範囲と一致する例であり、比較鋼E~Iは本発明で定義する合金組成の範囲から外れる例である。一方、下記表1に記載の鋼スラブについては、極低炭素鋼をもって高温Torsion実験を通じて温度による応力が変曲する地点からAr3及びTnrを実験的に測定した値を示した。
【0072】
準備した鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で再加熱した後、下記表2に記載の条件でスラブ再加熱-粗圧延-仕上げ圧延を行った。次いで、平均直径1.0mの金属材ボールを用いて下記表3の条件で15分間ショットブラスト処理した後、熱処理を行って鋼材を製造した。
【0073】
【表1】
(上記表1において、Ti*は48/14×N(重量%)の値を示す。)
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
上記表2、3に記載の条件で鋼材を製造した後、このようにして得られた鋼材についてポリシング-エッチングした後に、光学顕微鏡で観察することによりフェライト単相組織を有することを確認した。
【0077】
また、各実験例から得られる鋼材に対する表層部及び表層部以外の内部領域におけるそれぞれに対する結晶粒の平均粒径、降伏強度(YS)、引張強度(TS)及びシャルピー衝撃遷移温度を測定した結果を下記表4に示した。
【0078】
このとき、結晶粒の平均粒径はライン測定法を用いて測定し、ASTM規格に従って引張試験機を使用して降伏が起こる点を降伏強度とし、ネッキングが起こるときの強度を引張強度とした。シャルピー衝撃遷移温度は、シャルピー衝撃試験機を用いて衝撃吸収エネルギーを測定し、延性から脆性に破断が遷移するときの温度を示した。
【0079】
【表4】
【0080】
上記表4において、実施例1-1、1-2、2-1、2-2、3-1、3-2、4-1及び4-2は、本発明の鋼組成及び製造条件を全て満たす場合であって、鋼材の全厚さに対する上下部表層部の厚さ比率が0.1~0.3の範囲であり、鋼材の物性がいずれも降伏強度80~120MPa及びシャルピー衝撃遷移温度-20℃以下を満たしている。
【0081】
一方、参考例1~4は、本発明の鋼組成は満たしているものの、製造条件が本発明から外れる場合である。これらのうち、参考例1~4はLMPが24.5を超える場合である。このような参考例1~4の場合には、表層部の厚さ比率である0.1~0.3の範囲から外れ、降伏強度が全て80MPa未満を示している。
【0082】
また、比較例1は、Cが本発明で規定する含量の上限を超え、降伏強度が120MPaを超えている。比較例2は、固溶強化元素であるSiが本発明で規定する含量の上限を超え、降伏強度が120MPaを超えている。比較例3は、Nbを過剰に添加した場合であって、粗大な析出物の形成により衝撃靭性が劣化し、シャルピー衝撃遷移温度が-20℃を上回った。比較例4は、本発明の製造条件を全て満たしてはいるものの、Tiの含量が本発明で規定する上限を超える場合であって、粗大な析出物の生成によりシャルピー衝撃遷移温度が-20℃を上回った。比較例5は、本発明の製造条件を全て満たしてはいるものの、Tiの含量が本発明で規定する下限に達していない場合であって、Tiの含量が不足して自由N(Free N)を窒化物として析出させるには不十分であり、降伏点現象が発現し、降伏強度が120MPaを超えている。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】