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特表2023-554299延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231220BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20231220BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/14
C21D8/02 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535058
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(85)【翻訳文提出日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 KR2021016315
(87)【国際公開番号】W WO2022124599
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0173354
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, サン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ベク, デ-ウ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA05
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB02
4K032CC02
4K032CC03
4K032CD01
4K032CD02
4K032CD05
(57)【要約】
【課題】高強度を確保するとともに、優れた延性を有する鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.13~0.16%、Si:0.1~0.6%、Mn:1.1~1.6%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.015~0.05%、Ti:0.005~0.02%、Nb:0.01~0.02%、N:0.001~0.006%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1で定義されるR値が0.43~0.48であり、下記関係式2で定義されるP値が0.001以下であり、微細組織は面積%で、ベイナイト又はマルテンサイトが1%以下、残りのポリゴナルフェライト及びパーライトの複合組織からなり、前記ポリゴナルフェライトの結晶粒サイズが円相当径を基準に6~12μmであり、降伏強度が355MPa以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.13~0.16%、Si:0.1~0.6%、Mn:1.1~1.6%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.015~0.05%、Ti:0.005~0.02%、Nb:0.01~0.02%、N:0.001~0.006%を含み、残りがFe及び不可避不純物からなり、
下記関係式1で定義されるR値が0.43~0.48であり、
下記関係式2で定義されるP値が0.001以下であり、
微細組織は面積%で、ベイナイト又はマルテンサイトが1%以下、残りのポリゴナルフェライト及びパーライトの複合組織からなり、
前記ポリゴナルフェライトの結晶粒サイズが円相当径を基準に6~12μmであり、
降伏強度が355MPa以上であることを特徴とする延性に優れた高強度鋼板。
[関係式1]
R=[C]+[Si]/4+[Mn]/6
(式中、[C]、[Si]及び[Mn]は当該元素の重量%)
[関係式2]
P=[N]-0.36×[Ti]
(式中、[N]及び[Ti]は当該元素の重量%)
【請求項2】
前記パーライトを15~25%含むことを特徴とする請求項1に記載の延性に優れた高強度鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、引張強度が490MPa以上であり、比例伸び率が28%以上であることを特徴とする請求項1に記載の延性に優れた高強度鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.13~0.16%、Si:0.1~0.6%、Mn:1.1~1.6%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.015~0.05%、Ti:0.005~0.02%、Nb:0.01~0.02%、N:0.001~0.006%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1で定義されるR値が0.43~0.48であり、
下記関係式2で定義されるP値が0.001以下である鋼スラブを1100~1200℃の温度範囲に再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼スラブを60%以上の累積圧下率及び780~850℃の圧延終了温度で熱間圧延する段階と、
前記熱間圧延された鋼板を600℃~Ar3の温度区間で2℃/s以下の冷却速度で冷却する段階と、を含むことを特徴とする延性に優れた高強度鋼板の製造方法。
[関係式1]
R=[C]+[Si]/4+[Mn]/6
(式中、[C]、[Si]及び[Mn]は当該元素の重量%)
[関係式2]
P=[N]-0.36×[Ti]
(式中、[N]及び[Ti]は当該元素の重量%)
【請求項5】
前記熱間圧延された鋼板の冷却時に、600℃~Ar3の温度区間以後、常温までの温度区間で空冷することを特徴とする請求項4に記載の延性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に係り、より詳しくは、高強度を確保するとともに、優れた延性を有する延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海洋構造物、建築構造物などに使用される構造用鋼は用途上、高強度特性が要求される。高強度特性が高くなるほど構造物の軽量化が可能となり、これにより、船舶の場合は輸送効率が増加し、海洋構造物及び建築構造物は自重の減少により大型化が容易になる。
【0003】
しかし、強度と延性は反比例の関係にあるため、強度が増加するほど延性が減少するという問題点がある。船舶運航時に座礁又は船舶間の衝突により船体外壁が破れた場合、鋼板の強度が高いほど延性が低いため、船体外壁が破れやすくなり、このため浸水又は沈没などが発生することがあり、原油等が流出する場合、深刻な海洋環境事故につながる恐れがある。
【0004】
したがって、強度と延性の両方に優れた鋼板を作製するために多くの努力がなされてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、主相であるフェライトの平均粒径を3~12μm、フェライト分率を90%以上に制御し、第2相の平均円相当径を0.8μm以下に制御することにより、引張強度が490MPa以上でありながらも、均一伸び率が15%以上である衝突吸収性に優れた鋼板について開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1では、引張強度が490MPa以上であるとともに、均一伸び率が15%以上である鋼板について述べているが、鋼板の破断には均一伸び率より総伸び率(又は破断伸び率)の関連性が高いにもかかわらず、最終的に確保される総伸び率については明確に開示していないことが確認できる。
【0007】
特許文献2では、圧延後の冷却過程において、せん断冷却、空冷及び後段冷却からなる製造条件を適用することにより、組織がフェライトと硬質第2相からなり、上記フェライトの体積分率が板厚全体において75%以上であり、硬度がHv140以上、160以下、平均結晶粒径が2μm以上である鋼材について特定している。これにより、引張強度が490MPa以上でありながらも均一伸び率が20%以上の鋼材を提供できることが開示されている。
【0008】
しかし、特許文献2は、引張強度が490MPa以上であるとともに、均一伸び率が20%以上と非常に優れているが、均一伸び率に優れているからといって、必ずしも総伸び率まで優れているとは言えないため、破断伸び率に該当する総伸び率については不明確である。
【0009】
特許文献3では、衝突時のエネルギー吸収能を増加させるために組織をフェライト主相とパーライトを主体とする第2相で構成し、上記第2相の硬度、分率、平均面積及び平均周囲長が所定の条件を満たしながら、フェライトの平均転位密度を一定以下に下げた厚鋼板について述べている。このために、鋼素材を通常の再加熱温度より高い高温に加熱した後、制御圧延を行い、空冷又は弱水冷する製造方法を提示している。
特許文献4では、フェライト面積率が80~95%、パーライトの面積率が5~20%を満たし、フェライトの結晶粒サイズ、アスペクト比及び転位密度について規定し、表層部と厚さ中心部の硬度差を最小化する高強度高延性鋼板を製造する方法について述べている。これにより、引張強度が490MPa以上でありならも、伸び率が板厚に応じて23~40%以上である鋼板を提供できることを開示している。
【0010】
しかし、特許文献3及び4は、引張強度が490MPa以上でありながらも延性に優れた鋼板を製造することはできるものの、Sを0.003%以下に制御するためには製鋼負荷を伴うしかなく、再加熱温度が通常の範囲から外れるため、鋼板製造時の困難が予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】韓国登録特許第10-0914590号公報
【特許文献2】韓国公開特許第2016-0104077号公報
【特許文献3】特許第5994819号公報
【特許文献4】特許第6007968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が目的とするところは、高強度を確保するとともに、優れた延性を有する鋼板及びその製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体的な内容から本発明のさらなる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、重量%で、C:0.13~0.16%、Si:0.1~0.6%、Mn:1.1~1.6%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.015~0.05%、Ti:0.005~0.02%、Nb:0.01~0.02%、N:0.001~0.006%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、
下記関係式1で定義されるR値が0.43~0.48であり、
下記関係式2で定義されるP値が0.001以下であり、
微細組織は面積%で、ベイナイト又はマルテンサイトが1%以下、残りのポリゴナルフェライト及びパーライトの複合組織からなり、
上記ポリゴナルフェライトの結晶粒サイズが円相当径を基準に6~12μmであり、
降伏強度が355MPa以上である延性に優れた高強度鋼板を提供することができる。
【0015】
[関係式1]
R=[C]+[Si]/4+[Mn]/6
(式中、[C]、[Si]及び[Mn]は当該元素の重量%)
【0016】
[関係式2]
P=[N]-0.36×[Ti]
(式中、[N]及び[Ti]は当該元素の重量%)
【0017】
上記パーライトを15~25%含むことができる。
【0018】
上記鋼板は、引張強度が490MPa以上であり、比例伸び率が28%以上であることができる。
【0019】
本発明の他は、重量%で、C:0.13~0.16%、Si:0.1~0.6%、Mn:1.1~1.6%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.015~0.05%、Ti:0.005~0.02%、Nb:0.01~0.02%、N:0.001~0.006%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1で定義されるR値が0.43~0.48であり、下記関係式2で定義されるP値が0.001以下である鋼スラブを1100~1200℃の温度範囲に再加熱する段階と、
上記再加熱された鋼スラブを60%以上の累積圧下率と780~850℃の圧延終了温度で熱間圧延する段階と、
上記熱間圧延された鋼板を600℃~Ar3の温度区間で2℃/s以下の冷却速度で冷却する段階と、を含む、延性に優れた高強度鋼板の製造方法を提供することができる。
【0020】
[関係式1]
R=[C]+[Si]/4+[Mn]/6
(式中、[C]、[Si]及び[Mn]は当該元素の重量%)
【0021】
[関係式2]
P=[N]-0.36×[Ti]
(式中、[N]及び[Ti]は当該元素の重量%)
【0022】
上記熱間圧延された鋼板の冷却時に、600℃~Ar3の温度区間以後、常温までの温度区間で空冷することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高強度を確保するとともに、優れた延性を有する鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0024】
また、本発明によれば、船舶、海洋構造物及び建築構造物などの構造物の作製に使用できる高強度鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の好ましい実現例について説明する。本発明の実現例は様々な形態に変形することができ、本発明の範囲は以下に説明される実現例に限定されるものとして解釈されてはならない。本実施例は、当該発明が属する技術分野において通常の技術者に、本発明をより詳細に説明するために提供されるものである。
【0026】
本発明では、鋼板の合金組成及び製造方法を最適化して強度と延性を同時に確保しようとする。本発明者は、特に、関係式を通じて合金元素を厳密に制御することにより、固溶強化の効果及び組織の微細化を適切に確保して強度と延性を同時に確保できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0028】
以下では、本発明の鋼組成について詳細に説明する。
【0029】
本発明において特に断りのない限り、各元素の含量を表す%は重量を基準とする。
【0030】
本発明の鋼は、重量%で、C:0.13~0.16%、Si:0.1~0.6%、Mn:1.1~1.6%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.015~0.05%、Ti:0.005~0.02%、Nb:0.01~0.02%、N:0.001~0.006%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる。
【0031】
炭素(C):0.13~0.16%
炭素(C)はパーライト分率に多くの影響を及ぼす元素であって、引張強度を確保するために0.13%以上添加することが好ましい。一方、その含量が0.16%を超えると、引張強度は確保できるものの、本発明で目標とする延性の確保は困難となる。また、炭素(C)の含量が過度になると、低温割れに対する抵抗性が低下し、溶接熱影響部の靭性も低下して溶接構造物に対する適用性が低下するという問題点がある。
【0032】
したがって、炭素(C)の含量は0.13~0.16%であってもよい。
【0033】
シリコン(Si):0.1~0.6%
シリコン(Si)は脱酸に効果的であり、置換型固溶強化元素であって、強度の確保に大きく寄与する。また、強度を高めながらも、強度の上昇に比べて延性の低下が大きくないため、有用な元素である。シリコン(Si)の含量が0.1%未満であると、強度の確保が困難となり、その含量が0.6%を超えると、溶接部の靭性が低下するという問題がある。
【0034】
したがって、シリコン(Si)の含量は0.1~0.6%であってもよく、より好ましくは0.3%以上であってもよく、0.5%以下であってもよい。
【0035】
マンガン(Mn):1.1~1.6%
マンガン(Mn)は置換型固溶強化元素であって、フェライト粒度の微細化とパーライトによる強化にもかかわらず、不十分な強度を補完するために1.1%以上添加することが好ましい。但し、その含量が1.6%を超えると、強度が高くなりすぎて、本発明で目標とする伸び率を満たすことができなくなる。
【0036】
したがって、マンガン(Mn)の含量は1.1~1.6%であってもよく、より好ましい下限は1.2%であってもよく、より好ましい上限は1.5%であってもよい。
【0037】
リン(P):0.02%以下
リン(P)は、鋼中に不可避に混入する不純物であって、延性を低下させるため、含量を最小化する必要があるが、含量を下げるほど製鋼工程上の負荷が増加し、製鋼コストが増加するため、その上限を0.02%とする。
【0038】
硫黄(S):0.005%以下
硫黄(S)は、鋼中に不可避に混入する不純物であって、MnSを形成して延性を低下させるため、含量を最小化する必要がある。但し、Pと同様に、硫黄(S)の含量を下げるほど製鋼負荷及びコストが増加するため、その上限を0.005%とする。
【0039】
アルミニウム(Al):0.015~0.05%
アルミニウム(Al)は、脱酸効果に優れた元素であって、このためには0.015%以上添加することが好ましい。但し、その含量が0.05%を超えると、溶接部の靭性が低下する恐れがある。
【0040】
したがって、アルミニウム(Al)の含量は0.015~0.05%であってもよく、より好ましくは0.025%以上であってもよく、さらに好ましくは0.04%以下であってもよい。
【0041】
チタン(Ti):0.005~0.02%
チタン(Ti)は、鋼鋳片の再加熱過程において、高温によりオーステナイトが過度に成長することを防止して組織を微細化し、侵入型元素であるNと結合して自由Nを減少させるため、0.005%以上添加することが好ましい。
但し、その含量が0.02%を超えると、TiNが粗大になりオーステナイトが高温で成長することを効率的に防止できず、これにより、最終組織において本発明で目標とするフェライトの微細化を確保することができない。
【0042】
したがって、チタン(Ti)の含量は0.005~0.02%であってもよく、より好ましい下限は0.007%であってもよく、より好ましい上限は0.015%であってもよい。
【0043】
ニオブ(Nb):0.01~0.02%
ニオブ(Nb)は、オーステナイト未再結晶域の温度範囲を拡大させて、圧延時にオーステナイトのパンケーキ化を増大させ、これにより、最終組織のポリゴナルフェライト粒度を微細化するため、0.01%以上添加することが好ましい。但し、その含量が0.02%を超えると、Nbによる固溶強化効果により強度は増加するものの、延性が低下するという問題点がある。
【0044】
したがって、ニオブ(Nb)の含量は0.01~0.02%であってもよく、より好ましい下限は0.013%であってもよく、より好ましい上限は0.018%であってもよい。
【0045】
窒素(N):0.001~0.006%
窒素(N)は、Tiと共にTiNを形成し、再加熱中のオーステナイトが粗大に成長することを抑制するため、0.001%以上添加することが好ましい。但し、その含量が0.006%を超えると、自由Nの増加により延性を低下させる恐れがある。
【0046】
したがって、窒素(N)の含量は0.001~0.006%であってもよく、より好ましくは0.002%以上であってもよく、0.004%以下であってもよい。
【0047】
本発明の鋼材は、上述した組成以外に、残りは鉄(Fe)及び不可避不純物からなることができる。不可避不純物は、通常の製造工程で意図せずに混入することがあるため、これを排除することはできない。このような不純物は、通常の鉄鋼製造分野における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容を特に言及しない。
【0048】
本発明の鋼は、下記関係式1で定義されるR値が0.43~0.48であってもよい。
【0049】
強度と延性は一般に反比例するため、本発明で目標とする強度と延性を同時に達成するためには、強度が高すぎると困難である。強度を適切に制御するために、パーライトを形成するCと置換型固溶強化元素であるSi及びMnの含量を適切に制御する必要がある。
【0050】
関係式1で定義されるR値が0.43未満であると、本発明で目標とする強度の確保が困難であるのに対し、その値が0.48を超えると、強度が高くなりすぎて、本発明で目標とする延性の確保が困難となる。
【0051】
[関係式1]
R=[C]+[Si]/4+[Mn]/6
(式中、[C]、[Si]及び[Mn]は当該元素の重量%)
【0052】
本発明の鋼は、下記関係式2で定義されるP値が0.001以下であってもよい。
【0053】
Si及びMnのような置換型固溶強化元素に比べて、侵入型固溶強化元素であるC及びNは鋼の延性に不利である。したがって、C及びNが鋼中に固溶状態にあることを最大限に防止する必要がある。Cの場合、変態過程で冷却速度が遅い場合には、ほとんどがパーライトの形成に使用されるため、大きな問題とはならないが、Nの場合、生成される窒化物が十分でないと、固溶した状態で存在し、延性を低下させることになる。
【0054】
本発明では、Tiと共にNbを添加するため、(Ti、Nb)(C、N)複合炭窒化物が生成され、これを考慮した関係式2から自由Nの含量を制御することができる。関係式2のP値は、鋼中に存在する自由Nの含量を示すものであり、P値が0以下であると、自由Nがないことを意味するため、特に下限は限定されず、より好ましいP値の上限は0であってもよい。したがって、関係式2で定義されるP値を0.001以下とし、自由Nの含量を最小化することで、本発明で目標とする延性の確保が可能である。
【0055】
[関係式2]
P=[N]-0.36×[Ti]
(式中、[N]及び[Ti]は当該元素の重量%)
【0056】
以下では、本発明の鋼の微細組織について詳細に説明する。
【0057】
本発明において特に断りのない限り、微細組織の分率を表す%は面積を基準とする。
【0058】
上述の合金組成を満たす本発明の鋼の微細組織は、面積%で、パーライトが15~25%、ベイナイト又はマルテンサイトが1%以下、残りのポリゴナルフェライトからなり、上記ポリゴナルフェライトの結晶粒サイズは円相当径を基準に6~12μmであることができる。
【0059】
パーライトが15~25%、ベイナイト又はマルテンサイトが1%以下、残りのポリゴナルフェライトからなることができる。
【0060】
パーライトは引張強度の向上には寄与するものの、伸び率は減少させる組織である。パーライトの面積分率が15%未満であると、引張強度の確保が困難であり、その分率が25%を超えると、伸び率の確保に困難がある。
【0061】
また、微細組織内にベイナイト又はマルテンサイトなど、低温組織が1%以上含まれる場合、本発明で目標とする伸び率の確保が困難となる。
【0062】
ポリゴナルフェライトの結晶粒サイズは、円相当径を基準に6~12μmであってもよい。
【0063】
フェライト及びパーライトの混合組織は伸び率の確保には有利であるものの、強度の確保の面では不利である。これを補完するために、パーライト分率を高める必要があるが、このような場合、降伏強度の増加の面では効果が少なく、延性を低下させるという問題がある。上記混合組織を維持しながらも強度を高めることができる更に他の方法として、フェライト粒度の微細化がある。フェライト粒度を適切な範囲内で制御する場合、降伏強度を高めながらも延性の低下を防止することができる。
【0064】
フェライト結晶粒サイズが12μmを超えると、本発明で目標とする強度、特に降伏強度の確保が難しく、そのサイズが6μm未満であると、強度は上昇するものの、延性の急激な低下を誘発することあるため、伸び率の確保が困難である。
【0065】
以下では、本発明の鋼の製造方法について詳細に説明する。
【0066】
本発明に係る鋼は、上述した合金組成を満たす鋼スラブを再加熱、熱間圧延及び冷却することで製造することができる。
【0067】
再加熱
上述した合金組成を満たし、連続鋳造法で作製された鋳片を1100~1200℃の温度範囲に再加熱することができる。
【0068】
再加熱温度が1100℃未満であると、延性の確保は可能であるが、鋳造中に形成された粗大なNb析出物が再加熱過程で十分に溶解しないため、降伏強度の確保が困難となる。一方、その温度が1200℃を超えると、初期オーステナイトが粗大化し、圧延過程でオーステナイトを微細化させても、十分に微細な最終組織を確保することが困難となる。
【0069】
熱間圧延
上記再加熱された鋼スラブを60%以上の累積圧下率と780~850℃の圧延終了温度で熱間圧延することができる。
【0070】
再加熱された鋼スラブは、粗圧延と仕上げ圧延を経ることができ、本発明では粗圧延について特に限定しない。仕上げ圧延において、圧延終了温度と累積圧下率はフェライト粒度に大きく影響する。圧延終了温度が780℃未満であると、オーステナイトが微細化し、これにより、最終組織においてフェライト結晶粒が過度に微細になって伸び率が大きく低下する恐れがある。一方、その温度が850℃を超えると、オーステナイトの微細化が十分に行われず、これにより、最終微細組織においてフェライト結晶粒が粗大になるため、強度の確保が困難となる。
【0071】
仕上げ圧延時の累積圧下率は60%以上であってもよい。
【0072】
本発明で目標とするフェライト結晶粒サイズを得るためには、圧下率を適切に制御する必要がある。累積圧下率が60%未満であると、オーステナイトの微細化が十分に行われず、強度の確保が困難となる。
【0073】
冷却
上記熱間圧延された鋼板を600℃~Ar3の温度区間で2℃/s以下の冷却速度で冷却することができる。
【0074】
仕上げ圧延後の冷却は空冷を基本とする。より詳細には、本発明で目標とする伸び率を確保するために、微細組織がポリゴナルフェライトとパーライトの混合組織からなる必要があり、このようにするためには、相変態時に変態が起こる600℃~Ar3の温度区間で冷却速度を2℃/s以下に制御することが好ましい。
【0075】
冷却速度が2℃/sを超えると、強度の過度な上昇により、本発明で目標とする伸び率の確保が困難となる。
【0076】
Ar3=910-310×[C]+80×[Mn]-20×[Cu]-55×
[Ni]-15×[Cr]-80×[Mo]
(式中、[C]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]及び[Mo]は当該元素の重量%)
【0077】
上記のようにして製造された本発明の鋼は、降伏強度が355MPa以上、引張強度が490MPa以上、比例引張試験片を基準にして比例伸び率が28%以上であり、延性に優れるとともに高強度特性を備えることができる。
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、以下の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。
【0079】
下記表1は、鋼種による合金成分、関係式1のR値及び関係式2のP値を示している。表1の合金成分を有する溶鋼を製造し、連続鋳造法により300mm厚の鋼鋳片を鋳造した。製造された鋼鋳片を表2に示した条件で再加熱、熱間圧延及び冷却により鋼板を製造した。下記表2の冷却速度は、600~Ar3の温度区間での冷却速度を示したものである。
【0080】
【表1】
【0081】
[関係式1]
R=[C]+[Si]/4+[Mn]/6
(式中、[C]、[Si]及び[Mn]は当該元素の重量%)
【0082】
[関係式2]
P=[N]-0.36×[Ti]
(式中、[N]及び[Ti]は当該元素の重量%)
Ar3=910-310×[C]+80×[Mn]-20×[Cu]-55×[Ni]-15×[Cr]-80×[Mo]
(式中、[C]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]及び[Mo]は当該元素の重量%)
【0083】
【表2】
【0084】
下記表3に示すように、鋼板の微細組織を分析するために、製造された鋼板から板厚の1/4地点で試験片を採取した。その後、試験片を研磨し、ナイタル腐食溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で観察した。光学顕微鏡に連結されたイメージ分析器(Image Analyzer)を用いて、フェライト結晶粒サイズに該当する平均円相当径とパーライトの面積率を測定した。
【0085】
また、製造された鋼板から鋼板幅の1/4地点で引張試験片を採取して引張試験を行った。引張試験片は、試験片の長さが鋼板の幅方向と平行になるように加工し、韓国船級に登載された比例試験片であるR14B試験片の規則に従って試験片の幅を25mm、試験片の厚さは鋼板の厚さとし、標点の長さを5.65×√(試験片の幅×試験片の厚さ)とする比例試験片に加工し、常温引張試験により降伏強度、引張強度及び比例伸び率の値を示した。
【0086】
【表3】
【0087】
上記表1~3に示すように、本発明の合金組成、製造条件及び微細組織を全て満たす発明例1~3は、本発明で目標とする降伏強度、引張強度、比例伸び率を全て満たしている。
【0088】
これに対し、合金組成又は製造条件を満たしていない比較例1~13は、本発明で目標とする強度又は伸び率を確保することができなかった。
【0089】
比較例1及び2は、C含量が本発明の範囲から外れた例である。比較例1の場合、C含量が高くパーライトが過度に形成され、これにより、比例伸び率を確保することができなかった。比較例2の場合、C含量が不足してパーライトの面積率が不足しており、本発明で目標とする引張強度値に達していない。
【0090】
比較例3及び4は、Nb含量が外れた場合であって、比較例3はNb含量が本発明の範囲に及ばず、フェライト結晶粒サイズが粗大になり、降伏強度を確保することができなかった。比較例4は、Nb含量が超過してNb析出物が過度に形成され、強度は確保したものの、比例伸び率が目標とするレベルを満たしていない。
【0091】
比較例5及び6は、本発明の合金成分の範囲及び製造条件は満たしているものの、関係式1のR値が本発明の範囲から外れた例である。比較例5は、R値が本発明の範囲に及ばない場合であり、本発明で目標とする強度の確保が困難であった。比較例6は、R値が超過した場合であり、強度が過度に高くなり、本発明で目標とする延性の確保が困難であった。
【0092】
比較例7は、関係式2のP値が本発明の範囲から外れた場合であって、自由Nの含量が過度になり、目標とする延性値を確保することができなかった。
【0093】
比較例8及び9は、本発明の合金組成を満たしているものの、再加熱温度が本発明の範囲から外れた例である。比較例8の場合、再加熱温度が過度になり、オーステナイト粒度の粗大化によりフェライト結晶粒サイズが本発明の範囲から外れ、降伏強度を確保することができなかった。比較例9の場合、再加熱温度が本発明の範囲に及ばないものであって、粗大なNb析出物を十分に溶解させず、目標とする降伏強度を確保することができなかった。
【0094】
比較例10は、本発明の合金組成を満たしているものの、熱間圧延の累積圧下率が本発明の範囲に及ばず、降伏強度が十分に確保されていない。
【0095】
比較例11及び12は、本発明の合金組成を満たしているものの、圧延終了温度から外れた場合であって、比較例11は圧延終了温度の範囲に及ばず、フェライト結晶粒が微細化しすぎて伸び率が大きく低下し、比較例12は、温度が過度に高く、結晶粒の微細化が十分に行われず、強度を確保することができなかった。
【0096】
比較例13は、合金組成を満たしているものの、冷却速度が本発明を満たしていない場合であって、冷却速度が過度になり、パーライトの他にベイナイトが形成され、本発明で目標とする伸び率を確保することができなかった。
【0097】
以上のように、実施例を挙げて本発明について詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載された特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
【国際調査報告】