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特表2023-554305効率が向上したレドックスフロー電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】効率が向上したレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20231220BHJP
   H01M 8/2455 20160101ALI20231220BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20231220BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20231220BHJP
   H01M 8/04791 20160101ALI20231220BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20231220BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20231220BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/2455
H01M8/02
H01M8/04746
H01M8/04791
H01M8/04858
H01M8/0444
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535308
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-06-22
(86)【国際出願番号】 US2021062839
(87)【国際公開番号】W WO2022125920
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】17/119,408
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590005449
【氏名又は名称】アールティーエックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】RTX CORPORATION
【住所又は居所原語表記】1000 Wilson Boulevard,Arlington,VA 22209,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】サライダリディス,ジェームズ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジーウェイ
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA02
5H126AA23
5H126BB10
5H126RR01
5H127AA10
5H127AC03
5H127BA01
5H127BA57
5H127BB01
5H127BB37
5H127DB15
5H127DC12
5H127DC15
5H127DC32
5H127DC35
5H127DC42
(57)【要約】
レドックスフローを維持するための方法は、レドックスフロー電池セルから第1の電池電解質溶液を排出することであって、セルが、第1の電極と第2の電極との間に配置されたセパレータ層、第1の電池電解質溶液を第1の電極に提供するように構成された第1の循環ループ、及び第2の電池電解質溶液を第2の電極に提供するように構成された第2の循環ループを含む、排出することと、第1の電極を通して非電池電解質溶液を流すことと、を含む。非電池電解質は、第1の電極及びセパレータ層の少なくとも1つから固体析出物の少なくとも一部を除去する。方法はまた、非電池電解質溶液をセルから排出することと、第1の電池電解質溶液をセルに戻すことと、を含む。レドックスフロー電池のための方法及びレドックスフロー電池も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池を維持するための方法であって、
レドックスフロー電池セルから第1の電池電解質溶液を排出することであって、前記セルが、第1の電極と第2の電極との間に配置されたセパレータ層、前記第1の電池電解質溶液を前記第1の電極に提供するように構成された第1の循環ループ、及び第2の電池電解質溶液を前記第2の電極に提供するように構成された第2の循環ループを含む、前記排出することと、
前記第1の電極を通して非電池電解質溶液を流すことであって、前記流すことによって前記非電池電解質が前記第1の電極及び前記セパレータ層の少なくとも1つから固体析出物の少なくとも一部を除去する、前記流すことと、
前記非電池電解質溶液を前記セルから排出することと、
前記第1の電池電解質溶液を前記セルに戻すことと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記非電池電解質溶液が、固体電解質を前記セルの外に運び出すことによって前記固体析出物を前記セルから除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非電池電解質溶液が、前記固体析出物に対して化学的に不活性である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記非電池電解質溶液が、前記固体析出物を溶解することによって固体析出物を前記セルから除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記非電池電解質溶液が、前記固体析出物に対して活性である少なくとも1つの種を含み、
前記固体析出物と前記少なくとも1つの種との間の活性が、前記固体析出物を前記セルから除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記固体析出物が、少なくとも1つの金属を含み、
少なくとも1つの活性種がキレート剤を含み、前記キレート剤が前記セルからの金属固体析出物の除去を促進する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの活性種が、成分と前記固体析出物との反応生成物が前記非電池電解質溶液に可溶であるように前記固体析出物に対して化学的に反応する種を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記反応生成物が、還元反応の生成物及び酸化反応の生成物のうちの1つである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの活性種が、前記反応生成物が気体であるように前記固体析出物に対して化学的に反応する種を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記気体を放出することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記非電池電解質溶液が、第1の電池電解質及び第2の電池電解質の少なくとも1つと共通の溶媒を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記非電池電解質溶液が、前記第1の電池電解質溶液及び前記第2の電池電解質溶液のいずれかからのいかなる活性種も含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記排出するステップの前に前記セル内の固体析出物の量を判定することと、
前記固体析出物の量を固体析出物の所定の閾値量と比較することと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の電極を通して前記非電池電解質溶液を流すことであって、前記流すことによって前記非電池電解質が前記固体析出物を前記第2の電極から除去する、前記流すことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
レドックスフロー電池のための方法であって、
充電時に入力電気エネルギーを貯蔵するためにレドックスフロー電池のセルを使用すること、及び前記貯蔵された電気エネルギーを放電時に放出することであって、
前記セルが、第1の電極と第2の電極との間に配置されたセパレータ層を有し、前記使用することが、
前記セルの前記第1の電極と流体接続された第1の循環ループを通して第1の電解質溶液を循環させること、及び
前記セルの前記第2の電極と流体接続された第2の循環ループを通して第2の電解質溶液を循環させることを含み、
少なくとも1つの反応生成物が、固体析出物として前記第2の電極内に析出する、
前記使用すること及び前記放出することと、
前記第2の電極を通して非電池電解質を流すことによって前記第2の電極及び前記セパレータ層の少なくとも1つから固体生成物の少なくとも一部を除去することであって、前記除去することによって前記非電池電解質が前記固体析出物を前記セルから除去する、前記除去することと、
を含む、方法。
【請求項16】
非電池電解質溶液が、固体電解質を前記セルの外に運び出すことによって前記固体析出物を前記セルから除去する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記非電池電解質溶液が、前記固体析出物に対して活性である少なくとも1つの種を含み、
前記固体析出物と前記少なくとも1つの種との間の活性が、前記固体析出物を前記セルから除去する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの活性種が、成分と前記固体析出物との反応生成物が前記非電池電解質溶液に可溶であるように前記固体析出物に対して化学的に反応する種を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記固体生成物が、第1の電解質の元素と第2の電解質の元素との間の反応の生成物及び前記第2の電解質の2つの元素間の副反応の生成物のうちの1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
レドックスフロー電池であって、
第1の電極及び第2の電極、ならびに前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置されたセパレータ層を有するセルと、
前記第1の電極と流体接続された第1の循環ループと、
第1の再循環ループに含まれる第1の電池電解質溶液と、
前記第2の電極と流体接続された第2の循環ループと、
第2の再循環ループに含まれる第2の電池電解質溶液と、
前記第1の電極、前記第2の電極、または前記第1の電極及び前記第2の電極の両方に流体接続された第3の循環ループと、
第3の再循環ループに含まれる非電池電解質溶液であって、前記非電池電解質溶液が、前記非電池電解質溶液が前記第1の電極、前記第2の電極、及び前記セパレータ層の少なくとも1つから固体析出物の少なくとも一部を除去するように動作可能であるように、前記固体析出物と化学的に反応する少なくとも1つの種を含む、前記非電池電解質溶液と、
を備える、レドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年12月11日に出願された米国特許出願第17/119,408号に対する優先権を主張し、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明は、エネルギー省から授与された契約番号DE-AR000994の下で政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
レドックスフロー電池またはレドックスフローセルとしても知られるフロー電池は、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するように設計されており、化学エネルギーは、貯蔵し、かつ後で需要があるときに電気エネルギーに戻すことが可能である。一例として、フロー電池は、風力発電システムなどの再生可能エネルギーシステムとともに使用されて、消費者の需要を超えるエネルギーを貯蔵し、後で需要が高まったときにそのエネルギーを放出することができる。
【0004】
典型的なフロー電池は、電解質層によって分離された負極及び正極を有するレドックスフローセルを含み、電解質層は、イオン交換膜などのセパレータを含み得る。負の流体電解質(陽極液またはネゴライトと呼ばれることもある)が負極に送られ、正の流体電解質(陰極液またはポソライトと呼ばれることもある)が正極に送られて、酸化還元対間に可逆的な酸化還元反応が引き起こされる。充電すると、供給された電気エネルギーにより、一方の電解質では還元反応が、もう一方の電解質では酸化反応が引き起こされる。セパレータは、電解質が自由かつ急速に混合することを妨げるが、イオンの通過を選択的に可能にして酸化還元反応を完了させる。放電すると、液体電解質に含まれる化学エネルギーが、逆反応で放出され、電気エネルギーが電極から引き出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の例示的実施形態によるレドックスフロー電池を維持するための方法は、他の可能なものの中でも特に、レドックスフロー電池セルから第1の電池電解質溶液を排出することであって、セルが、第1の電極と第2の電極との間に配置されたセパレータ層、第1の電池電解質溶液を第1の電極に提供するように構成された第1の循環ループ、及び第2の電池電解質溶液を第2の電極に提供するように構成された第2の循環ループを含む、排出することと、第1の電極を通して非電池電解質溶液を流すことと、を含む。非電池電解質は、第1の電極及びセパレータ層の少なくとも1つから固体析出物の少なくとも一部を除去する。方法はまた、非電池電解質溶液をセルから排出することと、第1の電池電解質溶液をセルに戻すことと、を含む。
【0006】
前述のさらなる実施例では、非電池電解質溶液は、固体電解質をセルの外に運び出すことによって固体析出物をセルから除去する。
【0007】
前述のいずれかのさらなる実施例では、非電池電解質溶液は、固体析出物に対して化学的に不活性である。
【0008】
前述のいずれかのさらなる実施例では、非電池電解質溶液は、固体析出物を溶解することによって固体析出物をセルから除去する。
【0009】
前述のいずれかのさらなる実施例では、非電池電解質溶液は、固体析出物に対して活性である少なくとも1つの種を含む。固体析出物と少なくとも1つの種との間の活性が、固体析出物をセルから除去する。
【0010】
前述のいずれかのさらなる実施例では、固体析出物は、少なくとも1つの金属を含む。少なくとも1つの活性種は、キレート剤を含み、キレート剤は、セルからの金属固体析出物の除去を促進する。
【0011】
前述のいずれかのさらなる実施例では、少なくとも1つの活性種は、成分と固体析出物との反応生成物が非電池電解質溶液に可溶であるように固体析出物に対して化学的に反応する種を含む。
【0012】
前述のいずれかのさらなる実施例では、反応生成物は、還元反応の生成物及び酸化反応の生成物のうちの1つである。
【0013】
前述のいずれかのさらなる実施例では、少なくとも1つの活性種は、反応生成物が気体であるように固体析出物に対して化学的に反応する種を含む。
【0014】
前述のいずれかのさらなる実施例では、方法は、気体を放出することも含む。
【0015】
前述のいずれかのさらなる実施例では、非電池電解質溶液は、第1の電池電解質及び第2の電池電解質の少なくとも1つと共通の溶媒を有する。
【0016】
前述のいずれかのさらなる実施例では、非電池電解質溶液は、第1の電池電解質溶液及び第2の電池電解質溶液のいずれかからのいかなる活性種も含まない。
【0017】
前述のいずれかのさらなる実施例では、方法は、排出するステップの前にセル内の固体析出物の量を判定することと、固体析出物の量を固体析出物の所定の閾値量と比較することと、を含む。
【0018】
前述のいずれかのさらなる実施例では、方法は、第2の電極を通して非電池電解質溶液を流すことを含む。非電池電解質は、固体析出物を第2の電極から除去する。
【0019】
本開示の例示的実施形態によるレドックスフロー電池のための方法は、他の可能なものの中でも特に、充電時に入力電気エネルギーを貯蔵するためにレドックスフロー電池のセルを使用すること、及び貯蔵された電気エネルギーを放電時に放出することを含む。セルは、第1の電極と第2の電極との間に配置されたセパレータ層を有する。使用することは、セルの第1の電極と流体接続された第1の循環ループを通して第1の電解質溶液を循環させることと、セルの第2の電極と流体接続された第2の循環ループを通して第2の電解質溶液を循環させることと、を含む。少なくとも1つの反応生成物が、固体析出物として第2の電極内に析出する。方法はまた、第2の電極を通して非電池電解質を流すことによって、第2の電極及びセパレータ層の少なくとも1つから固体生成物の少なくとも一部を除去することを含む。非電池電解質は、固体析出物をセルから除去する。
【0020】
前述のさらなる実施例では、非電池電解質溶液は、固体電解質をセルの外に運び出すことによって固体析出物をセルから除去する。
【0021】
前述のいずれかのさらなる実施例では、非電池電解質溶液は、固体析出物に対して活性である少なくとも1つの種を含む。固体析出物と少なくとも1つの種との間の活性が、固体析出物をセルから除去する。
【0022】
前述のいずれかのさらなる実施例では、少なくとも1つの活性種は、成分と固体析出物との反応生成物が非電池電解質溶液に溶解可能であるように固体析出物に対して化学的に反応する種を含む。
【0023】
前述のいずれかのさらなる実施例では、固体生成物は、第1の電解質の元素と第2の電解質の元素との間の反応の生成物及び第2の電解質の2つの元素間の副反応の生成物のうちの1つである。
【0024】
本開示の例示的実施形態によるレドックスフロー電池は、他の可能なものの中でも特に、第1の電極及び第2の電極、ならびに第1の電極と第2の電極との間に配置されたセパレータ層とを有するセルと、第1の電極と流体接続された第1の循環ループと、第1の再循環ループに含まれる第1の電池電解質溶液と、第2の電極と流体接続された第2の循環ループと、第2の再循環ループに含まれる第2の電池電解質溶液と、第1の電極、第2の電極、または第1の電極及び第2の電極の両方に流体接続された第3の循環ループと、第3の再循環ループに含まれる非電池電解質溶液と、を含む。非電池電解質溶液は、非電池電解質溶液が第1の電極、第2の電極、及びセパレータ層の少なくとも1つから固体析出物の少なくとも一部を除去するように動作可能であるように固体析出物と化学的に反応する、少なくとも1つの種を含む。
【0025】
本開示の様々な特徴及び利点は、以下の詳細な説明から当業者には明らかになるであろう。詳細な説明に添付された図面は、以下のように簡単に説明され得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】レドックスフロー電池の実施例を示す。
図2】請求項1に記載の例としてのレドックスフロー電池から固体析出物を回収する例としての方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、電気エネルギーを選択的に貯蔵及び放電するためのレドックスフロー電池20(「RFB20」)を含む、例としてのシステム10の一部を概略的に示す。一実施例として、RFB20は、再生可能エネルギーシステムで生成された電気エネルギーを化学エネルギーに変換するために使用されてもよく、化学エネルギーは、後で需要が大きくなるまで貯蔵され、その時点で、化学エネルギーを変換して電気エネルギーに戻すためにRFB20が使用されてもよい。RFB20は、例えば、電力網に電気エネルギーを供給することができる。
【0028】
RFB20は、少なくとも1つの電気化学的活性種28を有する第2の電解質26に対して酸化還元対として機能する、少なくとも1つの電気化学的活性種24を有する第1の電解質22を含む。理解されるように、「第1の」及び「第2の」という用語は、2つの別個の電解質/電極が存在することを区別するためのものである。「第1の」及び「第2の」という用語は、第1の電解質/電極を、代替として第2の電解質/電極と呼ぶこともでき、その逆も同様であるという点で、交換可能であることをさらに理解されたい。
【0029】
少なくとも第1の電解質は液体であるが、第2の電解質もまた、典型的には液体である。例えば、電気化学的活性種24、28は、バナジウムまたは鉄をベースとし得る。電気化学的活性種24、28は、水溶液、1~5Mの硫酸もしくは1~5Mの水酸化ナトリウムなどの希酸性水溶液もしくは希塩基性水溶液、または1M未満の酸もしくは塩基濃度を有する中性付近の溶液などであるがこれらに限定されない、選択された溶液中に複数の可逆的な酸化状態を有する元素のイオンを含み得る。いくつかの実施例では、複数の酸化状態は、バナジウム、鉄、マンガン、クロム、亜鉛、モリブデン、及びそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない遷移金属、ならびに硫黄、セリウム、鉛、錫、チタン、ゲルマニウム、及びそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない他の元素などの非ゼロ酸化状態である。いくつかの実施例では、元素がゼロ酸化状態で選択された溶液に容易に溶解する場合、複数の酸化状態はゼロ酸化状態を含み得る。このような元素は、臭素、塩素、及びそれらの組み合わせなどのハロゲンを含み得る。電気化学的活性種24、28はまた、キノン、またはキノキサリンもしくはピラジンなどの窒素含有有機物、またはフェノチアジンなどの硫黄含有有機物など、電気化学的に可逆的な反応を受ける基を含む有機分子または高分子であってもよい。実施形態では、電解質22及び26は、電気化学的活性種24、28の1つまたは複数を含む溶液である。第1の電解質22(例えば、正の電解質)及び第2の電解質26(例えば、負の電解質)は、第1の容器32及び第2の容器34を含む供給/貯蔵システム30内に含まれる。
【0030】
電解質22、26は、ポンプ35によってそれぞれの供給ライン38を通ってフロー電池20の少なくとも1つのレドックスフローセル36に循環され、セル36から戻りライン40を介して容器32、34に戻される。理解されるように、必要に応じて追加のポンプ35が使用されてもよく、同様に流量を制御するためにRFB20の構成要素の入口/出口に弁(図示せず)が使用されてもよい。この実施例では、供給ライン38及び戻りライン40は、それぞれのループL1、L2内の容器32、34を第1の電極42/第2の電極44と接続する。複数のセル36が、ループL1、L2内に積層体として設けられ得る。
【0031】
1つまたは複数のセル36はそれぞれ、第1の電極42、第1の電極42から離隔された第2の電極44、及び第1の電極42と第2の電極44との間に配置された電解質セパレータ層46を含む。例えば、電極42/44は、カーボン紙またはフェルトなどの多孔質の導電性構造であってもよい。電極42/44はまた、触媒活性の追加の材料、例えば金属酸化物を含んでもよい。概して、1つまたは複数のセル36は、流動場チャネルを通して電解質22/26を電極42/44に送るためのバイポーラプレート、マニホールドなどを含み得る。しかしながら、他の構成も使用できることを理解されたい。例えば、1つまたは複数のセル36は、代替として、流動場チャネルを使用せずに流体電解質22/26が電極42/44に直接ポンプで送り込まれるフロースルー動作用に構成され得る。
【0032】
電解質セパレータ層46は、イオン交換膜、微孔性ポリマー膜、または炭化ケイ素(SiC)などの材料の電気絶縁性の微孔性マトリクスであってもよいがこれらに限定されず、電解質22/26が自由かつ迅速に混合することを妨げるが、電極42/44を電気的に絶縁しながら、選択されたイオンが通過することを可能にして酸化還元反応を完了させる。この点において、ループL1、L2は、充電、放電、及びシャットダウン状態などの正常動作中は互いに隔離される。
【0033】
電解質22/26は、能動充電/放電モード中に1つまたは複数のセル36に送られ、かつセル36を循環して、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するか、または逆反応で化学エネルギーを電気エネルギーに変換して放電する。電気エネルギーは、電極42/44と電気的に結合された電気回路48を通して、1つまたは複数のセル36に、かつセル36から伝達される。
【0034】
バナジウム水溶液電解質の化学に基づく一実施例では、電解質22/26は、V2+/V3+及びV4+/V5+(V(ii)/V(iii)及びV(iv)/V(v)としても示され得るが、酸化状態4及び5のバナジウム種の電荷は必ずしも+4及び+5ではない)をそれぞれ電気化学活性種24/28として含む。例えば、電解質溶液が硫酸水溶液である場合、第1の電解質22のV(iv)/V(v)種は、VO2+及びVO として存在し、第2の電解質のV(ii)/V(iii)種は、V2+及びV3+イオンとして存在することとなる。RFB20の動作中、第1の電極42からセパレータ層46を横切って第2の電極44へのバナジウム種のある程度のクロスオーバーがあり、その逆も同様である。概して、採用されるバナジウム種は、両方の環境で可溶である。しかしながら、比較的高い動作温度、例えば約40°Cより高い動作温度では、V5+は、第1の電極42の環境内では溶解度が低下し、したがって溶液から析出することがある。
【0035】
上述したバナジウム系は、電解質ループL1/L2の両方に対して同様の活性種24/28(例えば、バナジウムの様々な荷電状態)を使用する。しかしながら、他の例としての系は、2つの異なる活性種24/28を使用してもよい。1つの特定の実施例は鉄/クロム系であり、別の特定の例は硫黄/マンガン系であり、両方とも当技術分野で知られている。前述の実施例を含む、異なる活性種を有するいくつかの系は、例えばバナジウム系と比較して化学コストが低いため、RBFで使用するには魅力的である。しかしながら、セパレータ層46を横切る活性種24/28のクロスオーバーが、第1の活性種24と第2の電極44内の溶液との非相溶性、または第2の活性種28と第1の電極42内の溶液との非相溶性により、固体析出物の形成につながる場合がある。加えて、いくつかの実施例では、電解質22/26内の種間の副反応により、電極42/44またはセパレータ層46上に集まる固体析出物が形成される場合がある。
【0036】
両方のタイプの系、例えば、類似の活性種と非類似の活性種を有する系では、ある固体の析出が、RFB20内の活性種24/28の量を減少させ、それによってRFB20の容量が縮小することがあるだけでなく、RFB20内の固体析出物の存在による効率の低下につながる場合がある。例えば、固体は、電極42/44上に析出し、電解質22/26が電極44/42上の活性部位に到達するのを妨げ得る。別の例として、固体は、セパレータ層26上に析出するか、そうでなければセパレータ層26に詰まることがあり、それによってセパレータ層26を横切るイオン交換を阻害する。後述する方法は、これらの固体析出物をRFB20から除去することを可能にし、いくつかの実施例では、析出物から活性種24/28を回収することも可能にする。
【0037】
図1に示されるように、RFB20は、セル36及び電解質貯蔵タンク50に流体接続された第3の循環ループL3をさらに含む。第3の循環ループL3は、活性種24/28のいずれも含まない非電池電解質溶液52を含む(即ち、タンク50に流体接続されている)。いくつかの実施例では、非電池電解質溶液52は、電解質22/26の一方または両方と同一の溶媒を含み得る。
【0038】
RFB20から析出物を除去することによってRFB20を維持するための方法60が、図2に概略的に示されている。ステップ62において、電解質22/26は、任意の既知の方法に従って、RFB20から貯蔵タンク32/24に排出される。ステップ64において、非電池電解質50が、第3の循環ループL3からセル36を通って流れる。非電池電解質50は、電極42/44の一方または両方を通って流れ得る。例えば、いくつかの実施例では、固体析出物が、電極42/44の1つに相当量で集まる。この実施例では、非電池電解質52は、固体析出物とともに電極42/44を通って流れることになる。
【0039】
非電池電解質がセル36を通って流れると、それによって固体析出物がセル36から除去され、固体析出物またはその構成要素が電極42/44の外に運び出される。ステップ66において、非電池電解質溶液52が排出されて貯蔵タンク50に戻される。ステップ68において、第1の電解質22/第2の電解質26は、上述のような通常のRFB動作のためにセル36に戻される。
【0040】
いくつかの実施例では、固体析出物が非電池電解質溶液52から回収され、任意選択のステップ70においてセル36内の適切な電解質溶液22/26に戻され得る。
【0041】
いくつかの実施例では、方法60は、任意選択のモニタリング/フィードバックステップを含む。任意選択のステップ72において、セル36内の固体析出物の量が判定される。セル36内の固体析出物の量は、RFB20から収集できる流量、圧力、または効率の測定値との相関によって判定され得る。任意選択のステップ74において、ステップ72からの固体析出物の量が、固体析出物の所定の閾値量と比較される。ステップ72からの量がステップ74からの閾値量を超える場合、方法60はステップ62から始まる。ステップ72からの量がステップ74からの閾値量を下回る場合、方法はステップ72に戻る。いくつかの実施例では、ステップ72及びステップ74は、所定の時間間隔で自動的に実行され得る。
【0042】
ステップ64における析出物の除去は、さまざまな方法で達成され得る。一実施例では、機械的除去プロセスによって除去が発生し、例えば、非電解質溶液52の流れがセル36内の固体析出物を物理的に掃き集め、それらをセル36の外に運び出す。この実施例では、非電解質溶液52は、固体析出物に対して化学的に不活性であり得る。
【0043】
別の実施例では、非電解質溶液52は、固体析出物に対して活性である1つまたは複数の種を含み、その活性により、除去ステップ64中にセル36からの固体析出物の除去が引き起こされる。例えば、非電解質溶液52は、金属固体析出物と相互作用するキレート剤を含んでもよく、それによって金属析出物の溶解度を変化させ、それらを溶液相でセル36の外に運び出す。別の実施例として、非電解質溶液52は、固体析出物に対して高い溶解度を有する溶媒を含んでもよく、それによって固体析出物を溶解し、それらをセル36から除去し得る。さらに別の実施例では、非電解質溶液52は、固体析出物と酸化、還元、またはその他の反応をして、セル36からより容易に除去される反応生成物を形成し得る、1つまたは複数の種を含んでもよい。反応生成物は、非電解質溶液52に可溶なイオンまたは他の種であってもよく、それによって非電解質溶液52により除去される。別の実施例では、反応生成物は、RFB20システムから排気され得る気体であってもよい。
【0044】
非電解質溶液52が固体析出物に対して活性である1つまたは複数の種を含む前述の実施例では、活性種と固体析出物との間の活性が自然発生的に発生する。例えば、その種が固体析出物を還元または酸化するという点で固体析出物に対して活性である場合、両者の間の化学反応は、反応生成物の形成に有利に働く。
【0045】
方法60を採用するシステムの一実施例は、硫黄/マンガンRFB20である。以下の式は、セル36における反応の例を示し、また、結果として得られる標準電極電位(E)対標準水素電極(SHE)及びオープンセル電圧(OCV)が、本明細書では2つの電極反応の標準電極電位間の差として定義される。
【0046】
アノード:2S2-=S 2-+2e=-0.49対SHE
カソード:MnO +e-=MnO 2-=0.56対SHE
ネットセル:2MnO +2S2-=MnO 2-+S 2- OCV=1.06V
MnO 2-(Mn6+)の不均化が、MnO析出物の形成につながり得る。酸性過酸化水素溶液を非電解質溶液52として使用して、以下の式に従ってMnO析出物と反応させることによって固体のMnO析出物を除去し得る。
【0047】
溶解:MnO+4H+2e=Mn2++2H0 E=1.23対SHE
過酸化物の分解:H=O+2H+2e=0.695対SHE
完全反応:MnO+2H+H=Mn2++2HO+O
図示されるように、過酸化水素の分解によって、MnOを可溶性Mn2+に還元するのに必要な電子及びプロトンのいくらかが提供され、Mn2+は、非電解質溶液に溶解し、それによってセル36から除去される。
【0048】
いくつかの実施例では、方法60は、電解質引き取り方法(ETM:electrolyte takeover method)の前処理ステップとして使用され得る。一実施例では、ETMは、第2の電極44を通して第1の電解質22を流すこと、及び/または第1の電極42を通して第2の電解質26を流すことを含み、それによって電解質22/26は、セパレータ層46を越えて電極42/44の他方へクロスオーバーした種を収集する。前述の方法60は、上述したようなセル36からの固体析出物の除去を支援することによって、後続のETMステップの効率を改善し得る。
【0049】
図示された実施例には特徴の組み合わせが示されているが、本開示の様々な実施形態の利点を実現するためにそれらの全てを組み合わせる必要はない。言い換えると、本開示の実施形態に従って設計されたシステムは、図面のいずれか1つに示された特徴の全て、または図面に概略的に示された部分の全てを必ずしも含む必要はない。さらに、1つの例としての実施形態の選択された特徴が、他の例としての実施形態の選択された特徴と組み合わされてもよい。
【0050】
前述の説明は、本質的に制限ではなく例示である。必ずしも本開示から逸脱していない、開示された実施例に対する変形及び修正が、当業者に明らかとなり得る。本開示に与えられる法的保護の範囲は、以下の特許請求の範囲を検討することによってのみ決定され得る。
図1
図2
【国際調査報告】