(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】めっき品質に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板、めっき用鋼板及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/20 20060101AFI20231220BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20231220BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20231220BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20231220BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20231220BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20231220BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20231220BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C25D3/20
C25D5/50
C23C2/02
C23C2/06
C22C38/38
C25D5/26 A
C23C28/02
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535324
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 KR2021018661
(87)【国際公開番号】W WO2022124825
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0173908
(32)【優先日】2020-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ジン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ウォン-フウィ
(72)【発明者】
【氏名】カン、 キ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】クウォン、 ソン-チュン
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4K023AA04
4K023AA14
4K023CB16
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA04
4K024BA02
4K024CA04
4K024CA06
4K024DB01
4K027AA23
4K044AA02
4K044BA06
4K044BA10
4K044BB03
4K044BC08
4K044CA11
4K044CA18
(57)【要約】
本発明は、めっき品質に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板、これを製造するためのめっき用鋼板、及びこれらの製造方法に関するものである。
本発明の一側面に係るめっき用鋼板は、表面から深さ方向に観察したMn成分のGDSプロファイルが順次的に極大点と極小点を含み、上記極大点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値と極小点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値との差(Mnの換算濃度の差)が80%以上であり、上記極大点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値と極小点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値との差(Siの換算濃度の差)が50%以上であることができる。
但し、深さ5μm以内で極小点が現れない場合には、深さ5μm地点を極小点が現れた地点とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から深さ方向に観察したMn成分とSi成分のGDSプロファイルが順次的に極大点と極小点を含み、
前記Mn成分のGDSプロファイルの極大点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値と、前記Mn成分のGDSプロファイルの極小点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値との差(Mnの換算濃度の差)が80%以上であり、
前記Si成分のGDSプロファイルの極大点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値と、前記Si成分のGDSプロファイルの極小点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値との差(Siの換算濃度の差)が50%以上である、鋼板。
但し、深さ5μm以内で極小点が現れない場合には、深さ5μm地点を極小点が現れた地点とする。
【請求項2】
前記鋼板は、素地鉄、及び前記素地鉄の表面に形成されたFeめっき層を含み、前記表面はFeめっき層の表面である、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
前記Mnの換算濃度の差が90%以上であり、前記Siの換算濃度の差が60%以上である、請求項1に記載の鋼板。
【請求項4】
前記極大点が形成される深さは0.05~1.0μmである、請求項1に記載の鋼板。
【請求項5】
前記素地鉄が重量%で、Mn:1.0~8.0%、Si:0.3~3.0%を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のめっき用鋼板。
【請求項6】
前記素地鉄が重量%で、Mn:1.0~8.0%、Si:0.3~3.0%、C:0.05~0.3%、Al:0.005~3.0%、P:0.04%以下(0%は除く)、S:0.015%以下(0%は除く)、Cr:1.5%以下(0%を含む)、B:0.005%以下(0%を含む)、残部Fe及び不可避不純物を含む組成を有する、請求項5に記載のめっき用鋼板。
【請求項7】
請求項1から4に記載のめっき用鋼板、及び前記めっき用鋼板上に形成された溶融亜鉛めっき層を含む、溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項8】
素地鉄を準備する段階;
前記素地鉄に対して電気めっきを行い、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;及び
前記Feめっき層が形成された素地鉄を露点温度-15~+30℃に制御された1~70%H
2-残りのN
2ガス雰囲気の焼鈍炉で600~950℃に5~120秒間維持して焼鈍する段階を含む、めっき用鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記Feめっき層の付着量は0.5~3g/m
2である、請求項8に記載のめっき用鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記錯化剤はアラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸及びグリシルグリシンの中から選択された1種以上である、請求項8または9に記載のめっき用鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記電気めっき溶液は第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含み、前記第2鉄イオンは全体鉄イオンに対して5~60重量%の割合を有し、前記鉄イオンの全体濃度は、前記電気めっき溶液1L当たり1~80gである、請求項8または9に記載のめっき用鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記電気めっきは、溶液温度80℃以下、電流密度3~120A/dm
2の条件で行われる、請求項8または9に記載のめっき用鋼板の製造方法。
【請求項13】
素地鉄を準備する段階;
前記素地鉄に対して電気めっきを行い、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;
前記Feめっき層が形成された素地鉄を露点温度-15~+30℃に制御された1~70%H
2-残りのN
2ガス雰囲気の焼鈍炉で600~950℃に5~120秒間維持して焼鈍してめっき用鋼板を得る段階;及び
亜鉛めっき浴に前記めっき用鋼板を浸漬する段階を含む、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき品質に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板、これを製造するためのめっき用鋼板及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業分野では自動車用鋼材として高強度鋼板を適用することにより、安全性向上及び厚さ減少による軽量化を行ってきた。自動車用鋼材として好ましく適用できる鋼材としては、析出強化鋼、固溶強化鋼などが開発されており、さらに強度向上と同時に延伸率を向上させるために相変態を利用したDP鋼(Dual Phase Steel)、CP鋼(Complex Phase Steel)、TRIP鋼(Transformation Induced Plasticity Steel)、及びTWIP鋼(Twinning Induced Plasticity Steel)などが開発された。これらの高強度鋼には一般鋼に比べて様々な合金元素が添加されているが、特にMn、Si、Al、Cr、BなどFeよりも酸化傾向が高い元素が多く添加されている。
【0003】
溶融亜鉛めっきは、めっきが実施される直前の焼鈍鋼板の表面状態によってめっき品質が決定されるが、鋼板の物性を確保するために添加されたMn、Si、Al、Cr、Bなどの元素に起因する焼鈍中の表面酸化物の形成によりめっき性が悪化する。すなわち、焼鈍過程で上記元素が表面側に拡散し、焼鈍炉中に存在する微量の酸素もしくは水蒸気と反応して鋼板表面に上記元素の単独あるいは複合酸化物を形成することにより表面の反応性を低下させるようになる。反応性が落ちた焼鈍鋼板の表面は溶融亜鉛めっき浴の濡れ性を妨げ、めっき鋼板の表面に局部的または全体的にめっき金属が付着しない未めっきを引き起こし、また、このような酸化物によって、溶融めっき過程でのめっき層の密着性確保に必要な合金化抑制層(Fe2Al5)の形成が不十分となり、めっき層の剥離が発生するなど、めっき鋼板のめっき品質が大きく低下する。
【0004】
高強度溶融めっき鋼板のめっき品質を向上させるために様々な技術が提案された。そのうち特許文献1は、焼鈍過程で空気と燃料の空燃比を0.80~0.95に制御し、酸化性雰囲気の直接火炎炉(Direct Flame Furnace)内で鋼板を酸化させ、鋼板内部の一定深さまでSi、Mn又はAl単独あるいは複合酸化物を含んだ鉄酸化物を形成させてから、還元性雰囲気で鉄酸化物を還元焼鈍させた後、溶融亜鉛めっきを行うことにより、めっき品質に優れた溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する技術を提示している。
【0005】
特許文献1のように焼鈍工程で酸化させた後に還元する方法を用いると、鋼板表層から一定の深さにおいてSi、Mn、Alなどの酸素と親和力が大きい成分が内部酸化され、表層への拡散が抑制されるため、表層ではSi、MnまたはAlの単独または複合酸化物が相対的に減少し、亜鉛との濡れ性が改善され、未めっきを減少させることができる。しかし、Siが添加された鋼種の場合、還元工程中にSiが酸化鉄の直下に濃化して帯状のSi酸化物を形成するようになり、これによってめっき層を含む表層部での剥離、すなわち、還元された鉄とその下の素地鉄との間の界面で剥離が発生して、めっき層の密着性確保が難しいという問題がある。
【0006】
一方、高強度溶融めっき鋼板のめっき性向上のための他の方法として、特許文献2には、焼鈍炉内の露点(Dew Point)を高く維持し、酸化が容易なMn、Si、Alなどの合金成分を鋼内部で内部酸化させることにより、焼鈍後の鋼板表面で外部酸化される酸化物を減少させてめっき性を向上させる方法が提示されている。しかし、特許文献2による方法では、内部酸化が容易なSiの外部酸化によるめっき性問題は解決が可能であるが、内部酸化が比較的難しいMnが多量添加されている場合には、その効果が僅かである問題がある。
【0007】
また、内部酸化によってめっき性を向上させるとしても、表面に不均一に形成された表面酸化物によって線状の未めっきが発生することがある他、めっき後の合金化熱処理によって合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)を製造する場合には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に不均一合金化による線状欠陥が発生するなどの問題が発生することがある。
【0008】
また他の従来技術として、焼鈍前にNiの先めっきを行い、焼鈍中に合金元素が表面に拡散することを抑制する方法がある。しかし、この方法もMnの拡散抑制には効果があるが、Siの拡散を十分に抑制できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許公開公報第2010-0030627号公報
【特許文献2】韓国特許公開公報第2009-0006881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一側面によると、未めっきが発生せず、めっき層が剥離する問題が解決されためっき品質に優れた溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法が提供される。
【0011】
本発明の他の一側面によると、めっき後に合金化熱処理を実施しても線状欠陥が発生せず、優れた表面品質の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造できる溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法が提供される。
【0012】
本発明のまた他の一側面によると、このように優れためっき品質を有する溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができるめっき用鋼板及びその製造方法が提供される。
【0013】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全体的な事項から本発明のさらなる課題を理解することに何ら問題がない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面に係るめっき用鋼板は、表面から深さ方向に観察したMn成分とSi成分のGDSプロファイルが順次的に極大点と極小点をそれぞれ含み、上記Mn成分のGDSプロファイルの極大点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値と、上記Mn成分のGDSプロファイルの極小点におけるMn濃度を母材のMn濃度で除した値との差(Mnの換算濃度の差)が80%以上であり、上記Si成分のGDSプロファイルの極大点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値と、上記Si成分のGDSプロファイルの極小点におけるSi濃度を母材のSi濃度で除した値との差(Siの換算濃度の差)が50%以上であることができる。
【0015】
但し、深さ5μm以内で極小点が現れない場合には、深さ5μm地点を極小点が現れた地点とする。
【0016】
本発明の他の一側面である溶融亜鉛めっき鋼板は、上述しためっき用鋼板と、上記めっき用鋼板上に形成された溶融亜鉛めっき層を含むことができる。
【0017】
本発明の他の一側面であるめっき用鋼板の製造方法は、素地鉄を準備する段階;上記素地鉄に対して電気めっきを行い、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;及び上記Feめっき層が形成された素地鉄を露点温度-15~+30℃に制御された1~70%H2-残りのN2ガス雰囲気の焼鈍炉で600~950℃に5~120秒間維持して焼鈍する段階を含むことができる。
【0018】
本発明のまた他の一側面である溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、素地鉄を準備する段階;上記素地鉄に対して電気めっきを行って、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;上記Feめっき層が形成された素地鉄を露点温度-15~+30℃に制御された1~70%H2-残りのN2ガス雰囲気の焼鈍炉で600~950℃に5~120秒間維持して焼鈍してめっき用鋼板を得る段階;及びAl:0.1~0.3%、残りのZnと不可避不純物からなり、440~500℃の温度範囲で維持された亜鉛めっき浴に上記めっき用鋼板を浸漬する段階を含むことができる。
【発明の効果】
【0019】
上述のように、本発明は、先めっき層を形成し、内部のMn及びSi成分の濃度プロファイルを制御することにより、溶融亜鉛めっき時に未めっきが発生する現象を顕著に改善し、めっき密着性を向上させた溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0020】
また、本発明の一側面によると、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板に対して合金化熱処理を行っても得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に線状欠陥などを防止することができるため、表面品質に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】Fe電気めっきされた冷延鋼板を用いて製造した溶融亜鉛めっき鋼板について、めっき層を除去した後に測定したGDSプロファイルの概略図である。
【
図2】素地鉄を露点+5℃、温度800℃の条件下で53秒間焼鈍した鋼板の断面の電子顕微鏡写真であり、(a)は、Feめっき層を形成せずに焼鈍して得た鋼板の断面であり、(b)は、鉄付着量1.99g/m
2となるようにFe電気めっきして焼鈍して得た鋼板の断面である。
【
図3】酸素を含有するFeめっき層を形成した素地鉄を露点が高い雰囲気で焼鈍する過程の模式図である。
【
図4】溶融亜鉛めっき鋼板についてめっき層の除去後に測定されたGDS濃度プロファイルであり、(a)は、比較例2の素地鉄に関するものであり、(b)は、比較例11の素地鉄に関するものであり、(c)は、比較例16の素地鉄に関するものであり、そして(d)は、発明例7の素地鉄に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明者の研究により完成された本発明の一側面によるめっき品質に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板について詳細に説明する。本発明において、各元素の濃度を示す際に特に断りのない限り、重量%を意味することに留意する必要がある。なお、Fe電気めっき量は単位面積当たりのめっき層に含まれるFeの総量として測定されためっき量であり、めっき層内の酸素及び不可避不純物はめっき量に含まなかった。
【0023】
さらに、特に断りのない限り、本発明で言及する濃度及び濃度プロファイルはGDS、すなわちグロー放電分光器(Glow discharge optical emission spectrometer)を用いて測定された濃度及び濃度プロファイルを意味する。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
MnとSiを多量に含有する鋼板で未めっき及びめっき密着性の低下が発生する原因は、冷延鋼板を高温で焼鈍する過程で、特にMn、Siなどの合金元素が表面で酸化されて生成される表面酸化物に起因すると知られている。
【0026】
Mn、Siなどの合金元素が表面に拡散することを抑制するために、酸素を多量に含有する酸化物層を形成する方法で、昇温中に酸化させた後、再度還元雰囲気に維持して還元させる酸化還元法または素地金属の表面に鉄酸化物をコーティングして熱処理する方法などを用いることができる。しかし、素地金属の表面に強固に形成された鉄酸化物は、FeOだけでなく還元が難しいFe3O4及びFe2O3が混在しており、還元雰囲気の焼鈍過程で表面は金属鉄に還元される一方、鉄酸化物層と素地鉄の界面は還元速度が遅いため、完全に還元されにくく、Mn、Si酸化物が界面に蓄積して連続的な酸化物層を形成するようになるため、溶融亜鉛の濡れ性は改善されるが、酸化物層が容易に割れてめっき層が剥離する問題が発生する可能性がある。
【0027】
一方、熱処理過程で焼鈍炉内の酸素分圧または露点を上昇させて、Mn、Siなどの合金元素を鋼内部で酸化させる焼鈍内部酸化法を適用する場合、熱処理過程で鋼表面に優先的にMn、Si酸化物が形成され、この後、鋼内部に拡散した酸素によってMn、Siが酸化されて表面拡散を抑制するようになる。したがって、素地鉄の表面に薄い酸化物膜が形成されるが、焼鈍前の冷延鋼板の表面が完全に均質でない、或いは酸素分圧、温度などの局部的なばらつきが発生すると、溶融亜鉛めっき中の濡れ性が不均一となって未めっきが発生するか、或いは、亜鉛めっき後の合金化熱処理過程において酸化膜の厚さが不均一であることに起因して、合金化度の差が発生するため、目視で容易に識別可能な線状欠陥が引き起こされる傾向にある。
【0028】
上記の技術の問題点を解決するために、本発明者らは、めっき用鋼板の表面側において、酸化性元素であるMn及びSiの存在形態を以下のように制御することにより、表面が美麗で、めっき剥離の問題がない溶融亜鉛めっき鋼板を製造しようとした。
【0029】
すなわち、本発明の一実施例による鋼板は、Mn及びSiのGDS濃度プロファイルが次のような特徴を有することができる。
図1のGDSプロファイルを参照して、本発明のめっき用鋼板について詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の鋼板を含む溶融亜鉛めっき鋼板から亜鉛めっき層を除去した後に表面部から現れ得るMn成分またはSi成分の典型的なGDSプロファイルを概略的に示したグラフである。グラフにおける縦軸はMn、Siなどの合金元素の濃度を、横軸は深さを示す。
図1のグラフで例示したように、本発明のめっき用鋼板は、MnまたはSi成分の濃度プロファイルが表面(溶融亜鉛めっきされた場合にはめっき層との界面)から内部に向かうときに、極大点と極小点が順次現れる形態を有することができる。ここで、順次的に有するということは、表面(界面)から深さ方向に向けて、必ず極大点が先に現れることではなく、場合によっては極小点が先に現れることもあるが、この後に極大点と極小点が順次的に現れるべきであることを意味する。但し、一部の実施例においては、極大点の後に極小点が現れない場合もあり、この場合には5μm深さ領域の内部濃度を極小点濃度とすることができる。また、表面の合金元素濃度は極大点の濃度より低い値を有するが、場合によっては表面と極大点との間に合金元素濃度が低い極小点が現れることもある。
【0031】
上記
図1で例示したGDS濃度プロファイルにおいて、必ずしもこれに制限するものではないが、表層部は素地鉄から合金元素が多く拡散しないため、合金元素の濃度が低いFeめっき層に該当し、極大点はFeめっき層と素地鉄との間の界面付近に形成された合金元素の内部酸化物が集中された領域に該当し、Feめっき層から素地鉄側に現れる極小点は、合金元素を含まないFeめっき層として合金元素が拡散して希釈されたり、内部酸化が発生された極大点で合金元素が拡散して枯渇したりした領域に該当する。
【0032】
本発明の一実施形態では、上記極大点は、鋼板の表面から0.05~1.0μmの深さに形成されることができる。もし、これより深い領域で極大点が現れた場合には、本発明の効果に寄与する極大点と判断されないことがある。また、極小点は鋼板の表面から深さ5μm以内の位置に形成されることができる。上述したように、もし極小点が深さ5μm以内の地点で形成されない場合、5μm深さを極小点が形成される地点とすることができる。5μm深さの濃度は、母材の内部濃度と実質的に同一であるため、これ以上濃度が減少しない地点と見なすことができる。
【0033】
このとき、Mn濃度プロファイルとSi濃度プロファイルにおいて、該当元素の極大点の換算濃度(該当地点の濃度を母材の濃度で除した値、%単位で表示)と極小点の換算濃度との差が大きいほど表面に拡散するMn及びSiを減少させることができるため重要である。本発明の一実施形態では、Mnの場合、極大点の換算濃度-極小点の換算濃度値が80%以上であることができ、Siの場合の上記値の差は50%以上であることができる。SiはMnよりも酸化性が強い元素であり、酸素濃度が低い素地鉄の内部でも容易に内部酸化を引き起こすため、Mnより広い領域で酸化が発生することがある。したがって、Siの極大点と極小点の換算濃度の差がMnのそれよりも小さくても内部酸化の程度が小さいとは言えない。本発明者らが様々な条件で実験した結果、上記の条件を満たす場合、溶融亜鉛めっき時に未めっきが発生せず、めっき密着性が良好な溶融亜鉛めっき鋼板が得られた。しかし、Mnの極大点と極小点の換算濃度の差が80%未満であるか、Siの極大点と極小点の換算濃度の差が50%未満であると、点または線状の未めっきが発生するか、めっき剥離が発生する問題がある。すなわち、このようにすることで表面にMn及びSiの酸化物が生成されることを防止することができ、表面が美麗でかつめっき密着性が良好な超高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができ、追って合金化熱処理過程を経ても表面に線状欠陥などの欠陥が発生することを抑制することができる。上記換算濃度値の差が大きいほど有利であるため、その値の上限を敢えて決める必要はない。但し、含まれる元素の含有量を考慮するとき、上記換算濃度値の差は、Mnの場合には400%以下と決めることができ、Siの場合には250%以下と決めることができる。本発明の他の一実施形態では、上記Mnの換算濃度の差を90%以上または100%以上とすることができ、上記Siの換算濃度の差を60%以上または70%以上とすることもできる。
【0034】
以下、本発明で実施したGDS分析方法について詳細に説明する。
【0035】
GDS濃度分析のために溶融亜鉛めっきされた鋼板を長さ30~50mmの大きさにせん断し、20~25℃の常温で5~10重量%の塩酸水溶液に浸漬して亜鉛めっき層を除去する。亜鉛めっき層の溶解過程で素地鉄の表面損傷を防止するために、亜鉛めっき層と酸溶液との反応による気泡発生が中断してから10秒以内に酸溶液を除去し、純水を用いて素地鉄を洗浄して乾燥した。まだ溶融亜鉛めっきされていないめっき用鋼板であれば、このようなめっき層の除去作業なしにも分析できることはもちろんである。
【0036】
GDS濃度プロファイルは、鋼板の厚さ方向に1~5nm毎に鋼板に含有された全ての成分の濃度を測定する。測定されたGDSプロファイルには、不規則なノイズが含まれていてもよく、Mn及びSi濃度の極大点、極小点を算出するために測定された濃度プロファイルにカットオフ値が100nmのガウシアンフィルタを適用して平均濃度プロファイルを得て、ノイズが除去されたプロファイルから濃度の極大点と極小点の濃度値と深さをそれぞれ求めた。なお、本発明で言及する極大点と極小点は、深さ方向に互いに10nm以上の位置差がある場合にのみ極大点と極小点として算出したことに留意する必要がある。
【0037】
本発明で対象とするめっき用鋼板は、素地鉄と、上記素地鉄上に形成されたFeめっき層を含むことができる。上記素地鉄は、その組成を特に制限しない。
【0038】
但し、Mn1.0~8.0重量%、Si0.3~3.0重量%を含有して表面に酸化物が生成され易い組成を有する高強度鋼板であれば、本発明によってめっき性を有利に改善することができる。素地鉄のMn濃度の上限は特に制限しないが、通常的に用いられる組成を考慮するとき、その上限を8重量%に制限することができる。また、Mnの濃度の下限を特に制限しないが、Mnを1.0重量%未満含有する組成は、Feめっき層を形成しなくても溶融亜鉛めっき鋼板の表面品質が美麗でFe電気めっきを行う必要がない。Si濃度の上限は特に制限しないが、通常的に用いられる組成を考慮するとき、その上限を3.0重量%以下に制限することができ、Si濃度が0.3重量%未満ではFe電気めっきと焼鈍内部酸化を同時に実施しなくても溶融亜鉛めっきの品質が美麗であるため、本発明の方法を実施する必要がない。
【0039】
上記MnとSiはめっき性に影響を及ぼす元素であるため、その濃度を上述のように制限することができるが、本発明は素地鉄の残りの成分については特に制限しない。
【0040】
但し、合金成分を多量含有する高強度鋼板の場合において、未めっき及びめっき密着性の低下がひどく起こり得るという側面を考慮して、本発明の一実施形態では、上記素地鉄の組成を重量%で、Mn:1.0~8.0%、Si:0.3~3.0%、C:0.05~0.3%、Al:0.005~3.0%、P:0.04%以下(0%は除く)、S:0.015%以下(0%は除く)、Cr:1.5%以下(0%を含む)、B:0.005%以下(0%を含む)、残部Fe及び不可避不純物を含むものとすることができる。ここで高強度とは、焼鈍後に高い強度を有する場合にはもちろん、この後の後続工程での熱処理などによって高い強度を有し得る場合を全て含む意味で用いられる。なお、本発明における高強度は、引張強度(Tensile strength)基準490MPa以上を意味することができるが、これに制限されるものではない。上記素地鉄は、上述した成分の他にも、Ti、Mo、Nbなどの元素を合計1.0%以下でさらに含むことができる。上記素地鉄については特に制限しないが、本発明の一実施形態では、上記素地鉄として冷延鋼板または熱延鋼板を用いることができる。
【0041】
本発明の一側面では、上記めっき用鋼板を含む溶融亜鉛めっき鋼板が提供されることができ、上記溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき用鋼板及び上記めっき用鋼板の表面に形成された溶融亜鉛めっき層を含むことができる。このとき、溶融亜鉛めっき鋼板としては常用されるものであれば、どのようなものでも適用することができ、特にその種類を制限しない。
【0042】
次に、上述した有利な効果を有するめっき用鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法の1つの例示的な実施形態を説明する。本発明の一実施形態によると、鋼板は素地鉄を準備する段階;上記素地鉄に対して電気めっきを行い、酸素が5~50重量%含まれたFeめっき層を形成する段階;上記Feめっき層が形成された素地鉄を焼鈍して鋼板を得る段階を含む過程により製造されることができる。
【0043】
図2にMn2.6%、Si1.0%、及びその他の合金元素を含む1.2GPa級冷延鋼板をN
2-5%H
2、露点+5℃の雰囲気下、温度800℃で53秒間焼鈍して冷却した後、透過電子顕微鏡で観察した断面を示した。上記加熱する全体時間の間の雰囲気は同一に維持され、冷却時にはFeが酸化されないように露点温度を-40℃に維持した。
図2の(a)は、Feめっきを行わずに焼鈍した鋼板の断面であり、(b)は、冷延鋼板(素地鉄)にFe付着量で1.99g/m
2となるように電気めっきを行った後に焼鈍した鋼板の断面である。Feめっき層の酸素含有量は6.3重量%であった。
【0044】
図2の(a)のように、Feめっきを行わずに露点+5℃で焼鈍された鋼板は表層から微細なMn、Si酸化物が観察され、素地鉄の内部には厚い粒界酸化物が形成されることが分かる。これは、冷間圧延組織が昇温過程で回復及び微細結晶粒に再結晶する段階から粒界酸化物が形成され始め、焼鈍温度が上昇して焼鈍時間が増加するほど結晶粒が粗大化した素地鉄の内部に酸素が流入されながら、粒界酸化物が主に生成されるためである。このような形態は、結局、GDSプロファイルでMn及びSi成分の濃度が緩やかに変化して、極大点と極小点がはっきり現れないか、現れたとしても換算濃度の差が本発明で制限する範囲を満たさなくなる。
【0045】
図2の(b)のように、5~50重量%の酸素を含有したFeめっき層を鉄付着量で1.99g/m
2となるようにめっきした後に焼鈍した場合、Feめっき層の領域には酸化物がほぼ生成されず、Feめっき層と素地鉄の界面及び素地鉄の内部に粒子状の酸化物が生成され、この酸化物が内部酸化物の核として作用して鋼板表面と垂直な方向に線状の酸化物が成長していく。しかし、内部酸化物の生成深さは、Feめっき層を実施する場合よりもFeめっき層を形成していない場合に、さらに深く酸化物が生成される。このような場合には、Feめっき層(表層部)にはMnとSiの成分が少なく存在し、界面で極大値を示すだけでなく、極大値より深い領域においてMn、Si含有量が大きく減少する枯渇層を有することができる。
【0046】
一方、Feめっきを行わずに高い露点雰囲気で焼鈍すると、素地鉄の表面から微細再結晶組織の粒界に酸化物が生成されて結晶成長を抑制するため、微細酸化物に囲まれた不規則な微細結晶粒が生成されるのに対し、酸素含有量が高いめっき層を形成した後、-15℃~+30℃の高い露点で焼鈍すると、Feめっき層はMn、Siなどの酸化性合金元素を含まず、めっき層の結晶粒界に酸化物が生成されず、Feめっき層と素地鉄の界面に酸化物が生成されるため、均一な厚さのFeめっき層組織と素地鉄の内部の結晶粒が区別される特徴がある。しかし、焼鈍炉内の露点、素地鉄の延伸率、鋼成分などによってFeめっき層と素地鉄の境界がはっきりと現れない場合もあるため、Fe電気めっきを行った後、焼鈍炉内の露点を-15℃~+30℃に制御しても必ずしも
図2の(b)のような特徴を有するものではない。
【0047】
焼鈍内部酸化法は酸化還元法と異なり、層状の酸化物層を形成しないため、Mn、Siなどの合金元素が多量含有される超高強度鋼板の溶融亜鉛めっき時のめっき密着性を改善するのに優れた特性を示すが、焼鈍炉内の水蒸気が必然的に鋼板の表面をまず酸化させた後、酸素が内部に浸透するため、表面酸化物を根本的に除去することはできない。
【0048】
上記の問題を解決するために、本発明者らは、多くの実験を通じて、酸素を多量に含有するFeめっき層を形成した後、高い露点雰囲気で焼鈍すると、焼鈍炉内の水蒸気から酸素がFeめっき層の表面にMn、Siなどの合金元素の表面酸化物が形成されずに、Feめっき層が含有する酸素が素地鉄内のMn、Siなどの合金元素を内部酸化させることにより、表面に拡散することを効果的に抑制することができることを発見した。焼鈍炉内の高い露点により鋼中に流入した酸素は合金元素をさらに内部酸化させるため、鋼表面には合金元素の表面酸化物がほぼ生成されず、溶融亜鉛めっき鋼板の表面品質及びめっき密着性が画期的に改善され、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際にも合金化反応を促進させて、表面欠陥がなく均一な合金化溶融めっき鋼板を得ることができる。
【0049】
より詳細には、冷延鋼板(素地鉄)に5~50重量%の酸素を含有するFeめっき層を形成し、露点-15℃~+30℃に制御された焼鈍炉で鋼板の機械的物性が確保できるように600~950℃の温度に昇温した後、再び冷却して溶融めっきを行うと、未めっきが抑制され、めっき密着性に優れた溶融めっき鋼板を得ることができる。
【0050】
本発明の一実施形態では、上記Feめっき層は連続めっき工程を通じて形成されることができ、このときのFeめっき量はFe付着量の基準として0.5~3.0g/m2になるようにすることができる。Feめっき量が0.5g/m2未満になると、通常の連続焼鈍工程でFeめっき層による合金元素の拡散抑制効果が不足することがある。また、3.0g/m2を超過しても合金元素の抑制効果はさらに増加するが、高いめっき量を確保するために複数のめっきセルを運用しなければならず、不溶性陽極を用いる場合、電気めっき溶液が急激に酸性化してめっき効率が低下し、スラッジが発生する問題があるため、経済的ではない。本発明の他の一実施形態において、上記Feめっき量は1.0~2.0g/m2であることができる。Feめっき層を形成した後に内部酸化させると、Feめっき層と素地鉄の界面または界面直下に内部酸化物を形成するようになるため、MnとSi濃度の極大点は0.05~1.0μm領域に存在するようになる。本発明の0.5~3.0g/m2のFeめっき量は、焼鈍後の0.05~0.4μmの厚さに該当することができる。
【0051】
また、上述した高い酸素濃度を有するFeめっき層は、後続する焼鈍工程の温度、露点温度及び雰囲気を制御することで鋼板の内部にMn及びSi元素のGDS濃度プロファイルで極大点と極小点が形成され、上記極大点における換算濃度と極小点における換算濃度が本発明の一実施形態で制限する数値範囲を満たすことができるようにする。このような点を考慮して、本発明の一実施形態において、上記Feめっき層内の酸素濃度は5~50重量%であることができ、他の一実施形態では10~40重量%であることができる。表面酸化物の抑制効果を得るためには、Feめっき層内の酸素量が十分に多くなければならない。Feめっき層内の酸素濃度が5重量%未満であってもFeめっき量を増加させて表面酸化物の抑制効果を得ることができるが、このような効果を得るためには3.0g/m2を超過してめっきを行う必要があるため、上述した様々な問題が発生することがある。また、酸素の含有量が5重量%に達しない場合、MnとSiのGDSプロファイルに極大点と極小点を順次形成させることが難しいため、本発明の一実施形態では、上記Feめっき層中の酸素の含有量を5重量%以上に制御する。一方、Feめっき層内の酸素濃度が増加するほど、焼鈍中の表面酸化物の抑制効果をさらに向上させることができるが、通常の電気めっき方法では50重量%を超過するめっき層を得ることが難しいため、上限を50重量%に制限することができる。本発明の他の一実施形態では、上記Feめっき層中の酸素濃度を10~40%に制限することもできる。
【0052】
本発明の一実施形態において、焼鈍温度は均熱帯の鋼板温度を基準として600℃~950℃とすることができる。焼鈍温度が低すぎると、冷延鋼板の組織が適切に回復、再結晶されず、鋼板の強度、延伸率などの機械的物性を確保し難く、950℃を超過するようになると鋼中の合金元素が急速に表面に拡散して溶融亜鉛めっきの品質が不良になり、不要に高温で操業するようになるため経済的ではない。
【0053】
一方、本発明の一実施形態において、焼鈍炉の内部の露点は-15℃~+30℃であることができる。露点が-15℃未満になると、鋼内部に流入する酸素量が減少して表面酸化のみが促進され、内部酸化が発生しないため、表面に酸化物が多量に存在して溶融亜鉛めっきの品質が悪くなる。また、露点が+30℃を超過する場合、内部酸化が増加し、合金元素の拡散を抑制して表面酸化を抑制する効果はさらに増加するが、水蒸気供給量が急激に増加するため、加湿設備容量が不要に大きくなければならず、冷却された水蒸気が凝縮して連続焼鈍で長期間適用すると、設備の問題が発生する可能性がある。上記露点は600~950℃で上述した範囲で管理されることができ、それよりも低い温度範囲ではより緩和された条件で管理されることができる。本発明の他の一実施形態では、上記露点は-10~+20℃に制限されることもできる。
【0054】
また、焼鈍中の素地鉄とFeめっき層の酸化を防止するためには、焼鈍時の雰囲気ガス中の水素濃度を体積%で1%以上とすることができる。水素濃度が1%未満になると、H2及びN2ガスに不可避に含まれる微量の酸素を酸化反応によって効果的に除去できず、酸素分圧が増加して素地鉄の表面酸化を引き起こすことがある。一方、水素濃度が70%を超過すると、ガス流出時の爆発リスク、高水素作業による費用が増加するため、上記水素濃度を70%以下に決めることができる。上記水素(H2)以外には不可避に含まれる不純ガスを除いては、実質的に窒素(N2)であることができる。
【0055】
そして、本発明の一実施形態によると、焼鈍時の目標温度に達した後の維持時間を5~120秒に制限することができる。焼鈍時、素地鉄の内部まで十分に熱が伝達され、厚さ方向に均一な機械的物性を得るためには焼鈍目標温度で5秒以上維持する必要がある。一方、高温の焼鈍維持時間が長すぎると、Feめっき層を介した合金妨害元素の拡散が増加して表面酸化物の生成量が増加し、結果的に溶融亜鉛めっきの品質が不良になるため、120秒以下に制限することができる。
【0056】
以下、上述した内容に基づいて多量の酸素を含むFeめっき層を形成した冷延鋼板において、高い露点雰囲気での焼鈍中にMn、Siの表面拡散が抑制される効果を、
図3を参照してより詳細に説明する。
【0057】
図3は、本発明の条件により鋼板の温度を上げることによって鋼板内部で起こる現象を概略的に示したものである。
図3の(a)は、酸素を多量含有するFeめっき層が形成された素地鉄の断面概略図を示した。素地鉄にはMn、Siなどの合金元素が含まれ、Feめっき層は5~50重量%の酸素と電気めっき中に不可避に混入する不純物が含まれ、残部がFeで構成される。
【0058】
図3の(b)には、Feめっきされた冷延鋼板を1~70%のH
2を含有する窒素雰囲気で約300~500℃に加熱した状態を示した。多量の酸素を含有するFeめっき層の表面は徐々に還元されて酸素が除去されるが、Feめっき層と素地鉄の界面には、素地鉄から拡散したMn、SiなどがFeめっき層の酸素と結合して内部酸化物が生成されるため、表面への拡散が抑制される。また、温度が上昇するほど、素地鉄の内部で拡散したMnとSiが蓄積されながら、界面の内部酸化物は徐々に成長する。昇温段階の低温領域で焼鈍炉内の露点が-90℃~+30℃まで広く変化しても、温度が低いことにより水蒸気から解離した酸素が鋼内部に拡散する速度よりも、Feめっき層内に多量の酸素が存在し、Feめっき層が還元されて酸素が放出される速度がさらに速いため、低温区間では焼鈍炉内の露点が変化しても大きな影響を受けない。したがって、本段階では、露点制御は大きく重要な要素ではない。
【0059】
しかし、Feめっき層の内部の酸素量は重要な役割を果たすものであって、低温段階でFeめっき層と素地鉄の界面及び素地鉄の内部に微細な内部酸化物が多く発生すると、素地鉄の内部の合金元素が持続的に内部酸化され得る酸化物核として作用するようになる。このような酸化物核が生成されるためには、酸素と合金成分の濃度が同時に高くなければならないが、もしFeめっき層に十分に多い酸素が含まれていると、酸素濃度が高いFeめっき層と合金元素濃度が高い素地鉄の界面付近で酸化物核が大量生成される。しかしながら、Feめっき層に酸素がほぼ含まれないと、素地鉄に含まれた合金元素はFeめっき層を通過して表面に酸化物を形成するようになる。この後、温度を上げるようにすると、Feめっき層の酸素はさらに枯渇し、素地鉄内の合金元素の拡散はさらに促進されるため、表面酸化物の生成が増加する。
【0060】
図3の(c)には、同じ還元雰囲気で500~700℃に昇温したときの素地鉄の断面概略図を示した。昇温過程で焼鈍炉の内部は露点を-15℃~+30℃に制御することが良い。温度が上昇すると、Feめっき層が十分に還元されて酸素濃度が低くなるため、酸素の放出速度が遅くなる一方、焼鈍炉内の水蒸気が解離して鋼内部に拡散する速度が大きく増加する。したがって、Feめっき層が完全に還元される温度より低い500~700℃領域から露点を上昇させると、鋼内部のMnとSiがFeめっき層を通過して表面に拡散することを効果的に抑制することができる。
【0061】
図3の(d)には、露点を-15℃~+30℃に調節しながら600~950℃領域の高温に維持した後の鋼板の断面概略図を示した。素地鉄の内部ではMn、Siが持続的に拡散し、鋼板表面では水蒸気から供給される酸素が急速に浸透して供給されるため、MnとSiは内部で酸化されるが、低温区間でFeめっき層と素地鉄の界面にFeめっき層の酸素と反応して生成された粒子形態のMn、Si酸化物は酸化物が成長できる核として作用するため、内部酸化物はFeめっき層と素地鉄との境界面に集中して成長するようになる。さらに、酸素の拡散速度は原子サイズが大きいMn、Siよりも速いため、素地鉄の内部の粒界だけでなく、粒内を通じても内部酸化物が深く生成される。
【0062】
以上、温度別に制御条件を説明したが、焼鈍工程で最も核心的な段階は鋼板温度を600~950℃に維持する段階であり、この温度領域で雰囲気の露点を制御するだけでも鋼板の内部の酸化物分布を効果的に制御することができる。もちろん、このような露点制御は、上記維持段階前の全ての過程で行われても特に問題にならない。それだけでなく、上述した過程は本発明の一実施形態を説明して例示することに過ぎず、常に本発明の反応機構が上述の説明に拘束されて解釈されるものではないことに留意する必要がある。
【0063】
上記焼鈍段階後に、焼鈍した鋼板を冷却することができる。焼鈍段階後の冷却段階における冷却条件は、最終製品の表面品質、すなわちめっき品質に大きな影響を与えないため、本発明において冷却条件を特に制限する必要はない。但し、冷却過程で鉄成分の酸化を防止するために、少なくとも鉄に対しては還元性の雰囲気が適用されることができる。
【0064】
本発明の一実施形態によると、上述した過程によって得られた鋼板に対して溶融亜鉛めっきして溶融亜鉛めっき層を形成することができる。本発明における溶融亜鉛めっき方法は特に制限しない。
【0065】
なお、本発明では、上述した合金組成を有する素地鉄であれば、本発明に係る鋼板または溶融亜鉛めっき鋼板の素地鉄として制限なく適用可能であるため、素地鉄を製造する方法については具体的に限定されない。
【0066】
本発明の一実施形態において、Feめっき層は電気めっき方式を介して素地鉄の表面に形成されることができ、電気めっき溶液の条件とめっき条件を適切に制御することで形成されるFeめっき層の酸素濃度を制御することができる。
【0067】
すなわち、本発明においてFeめっき層を形成するためには、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む鉄イオン;錯化剤;及び不可避不純物を含み、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの濃度は5~60重量%である電気めっき溶液を用いることができる。
【0068】
本発明の一実施形態によると、電気めっき溶液は、第1鉄イオン及び第2鉄イオンを含む。高いめっき効率を得るためには、第1鉄イオンのみが含まれることが有利であることができるが、第1鉄イオンのみを含む場合、溶液が変質してめっき効率が急激に下落し、連続電気めっき工程で品質偏差を引き起こす可能性があるため、上記第2鉄イオンをさらに含むことができる。このとき、上記第2鉄イオンの濃度は、第1鉄と第2鉄イオンの合計の5~60重量%であることが好ましく、5~40重量%であることがより好ましい。5%未満の場合、陰極で第2鉄が第1鉄に還元される速度が陽極で第1鉄が第2鉄に酸化される速度よりも小さくなるため、第2鉄濃度が急激に上昇し、pHが急激に下落するとともにめっき効率が持続的に低下する。一方、第2鉄のイオンの濃度が60%を超過するようになると、陰極で第2鉄が第1鉄に還元される反応量が、第1鉄が還元されて金属鉄に析出する反応量より大きく増加するため、めっき効率が大きく下落し、めっき品質が低下する。したがって、めっき量、作業電流密度、溶液補給量、ストリップに付着して失われる溶液量、蒸発による濃度変化速度などの設備及び工程特性を考慮して、上記鉄イオン中の第2鉄イオンの濃度を5~60重量%になるようにすることが好ましい。
【0069】
上記鉄イオンの濃度は、上記電気めっき溶液1L当たり1~80gであることが好ましく、1L当たり10~50gであることがより好ましい。1g/L未満の場合、めっき効率とめっき品質が急激に低下する問題があるのに対し、80g/Lを超過すると、溶解度を超過するようになって沈殿が発生する可能性があり、連続めっき工程で溶液流失による原料損失が増加するため経済的ではない。
【0070】
本発明の電気めっき溶液は錯化剤を含むが、第2鉄を多量含有しながらもスラッジが発生せず、高いめっき効率を維持するためにアミノ酸またはアミノ酸重合体を錯化剤として用いることが好ましい。
【0071】
アミノ酸は、カルボキシル基(-COOH)とアミン基(-NH2)が結合している有機分子を示し、アミノ酸重合体は、2個以上のアミノ酸が重合して形成された有機分子を意味し、アミノ酸重合体はアミノ酸と類似した錯化剤特性を示す。したがって、以下の説明でアミノ酸とアミノ酸重合体を総称してアミノ酸と表記する。
【0072】
アミノ酸は中性の水に溶解すると、アミンは水素イオンと結合して正電荷を有するようになり、カルボキシル基は水素イオンが解離して負電荷を有するため、アミノ酸分子は電荷中性を維持するようになる。一方、溶液が酸性化されると、カルボキシル基は水素イオンと再結合して電荷中性となり、アミンは正電荷を有するため、アミノ酸分子は陽イオンを形成するようになる。すなわち、アミノ酸は弱酸性の水溶液内で電荷中性または陽イオンを形成するようになる。
【0073】
鉄イオンを含有する酸性の電解液にアミノ酸を投入すると、第1鉄イオン及び第2鉄イオンと錯化されるが、アミノ酸と錯化された鉄イオンは錯化された状態でも陽イオン状態を維持するようになる。したがって、複数のカルボキシル基を有する通常の錯化剤が弱酸性の水溶液で負電荷を帯びることと電気的に反対の特性を示す。
【0074】
また、アミノ酸はクエン酸、EDTAなどの複数のカルボキシル基を含む錯化剤に比べて鉄イオンと形成する結合数が少なく、結合力は弱いが、スラッジを発生させる第2鉄イオンとの結合力は十分に強いため、第2鉄イオンによる沈殿を防止することができる。さらに、第2鉄イオンが錯化されても陽イオンを維持することができるため、第2鉄イオンが陰極に容易に伝達され、第1鉄イオンに還元されてめっき反応に参加できるのに対し、陽極への移動が抑制されて第2鉄イオンの生成速度が鈍化するため、長期間連続めっきを行っても第2鉄イオン濃度が一定レベルを維持するようになり、めっき効率が一定に維持され、電解液を交換する必要がなくなる。
【0075】
一方、連続電気めっき工程でめっきによって溶液内の鉄イオンが消耗されると溶液は酸性化されるが、同じ量の鉄イオンが析出されても第1鉄イオンのみを含有する溶液よりも第2鉄イオンを一緒に含む溶液ではpH変化が減少する。pHが高くなると一部の第2鉄イオンが水酸イオンと結合し、pHが減少すると水酸イオンが分離して中和されるため、第2鉄イオンを含む溶液は別途のpH緩衝剤がなくてもpH変化が鈍化してpH緩衝剤の役割を果たすようになるため、連続電気めっき工程で電気めっき効率を一定に維持することができる。
【0076】
したがって、アミノ酸を錯化剤として用いて、スラッジを防止することができ、第1鉄イオンだけでなく第2鉄イオンもめっき原料として用いることができ、第1鉄イオンと第2鉄イオンを混合して用いることにより、溶液のpH変化を鈍化させ、第2鉄イオンの蓄積を容易に防止することができるため、連続電気めっき工程において電気めっき効率とめっき品質を一定に維持することができる。
【0077】
一方、上記錯化剤は、上記鉄イオンと錯化剤とのモル濃度比が1:0.05~2.0となる量で投入されることが好ましく、1:0.5~1.0となる量で投入されることがより好ましい。0.05未満の場合、過量に含有された第2鉄イオンが水酸イオンまたは酸素と結合してスラッジを形成することを抑制できず、第2鉄が含まれなくてもめっき効率が非常に低下し、さらにバーニングを誘発してめっき品質が悪くなる。一方、2.0を超過してもスラッジ抑制効果とめっき品質は維持されるが、過電圧が上昇してめっき効率が低下し、硫酸鉄などの鉄イオンを含有する原料に比べて比較的高価のアミノ酸を不要に過量に含むことになるため、原料費用が上昇することから経済的ではない。
【0078】
上記錯化剤は、アミノ酸またはアミノ酸重合体の中から選択された1種以上であることが好ましく、例えば、アラニン、グリシン、セリン、スレオニン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸及びグリシルグリシンの中から選択された1種以上であることができる。
【0079】
上記アミノ酸を錯化剤として用い、溶液温度80℃以下、pH2.0~5.0に維持しながら、電流密度3~120A/dm2で電気めっきを行うと、めっき効率が高く、酸素濃度の高いFeめっき層を得ることができる。
【0080】
Fe電気めっき溶液の温度はFeめっき層の品質には大きく影響しないが、80℃を超過するようになると溶液の蒸発がひどくなり、溶液の濃度が持続的に変化することから均一な電気めっきが難しくなる。
【0081】
Fe電気めっき溶液のpHが2.0未満になると、電気めっき効率が低下するため連続めっき工程に適さず、pHが5.0を超過するとめっき効率は増加するが、連続電気めっき中に鉄水酸化物が沈殿するスラッジが発生されて配管詰まり、ロール、及び設備汚染の問題が発生するようになる。
【0082】
電流密度は3A/dm2未満になると、陰極のめっき過電圧が下落してFe電気めっき効率が下落するため、連続めっき工程に適さず、120A/dm2を超過するようになると、めっき表面にバーニングが発生して電気めっき層が不均一であり、Feめっき層が脱落しやすいという問題が生じる。
【0083】
本発明は、上述したように、Feめっき層が5~50重量%の酸素を含有することが好ましい。Feめっき層に酸素が混入する原因は、以下のとおりである。陰極を印加した鋼板表面に鉄が析出する過程で同時に水素イオンが水素気体に還元されながらpHが上昇する。これに伴い、第1鉄及び第2鉄イオンはいずれも一時的にOH-イオンと結合するようになり、Feめっき層が形成されるときに一緒に混入することがある。もし、酢酸、乳酸、クエン酸、EDTAなどのアニオン性錯化剤を用いると、錯化剤がOH-イオンと結合された鉄イオンが平均的に負電荷を帯び、電気めっきのために陰極を印加した際、電気的に反発力が発生してFeめっき層への混入が抑制される。一方、アミノ酸はpH2.0~5.0で電気的に中性であり、pH2.0未満の強酸では陽イオンを帯びるが、アミノ酸と結合した鉄イオンに1~2個のOH-が結合しても陽イオンを帯びるため、電気めっきを実施する陰極との間に電気的引力が発生して多量の酸素が混入するようになる。よって、鉄イオンとアミノ酸のモル濃度比が1:0.05~1:2.0となるようにアミノ酸を錯化剤として用いて、pH2.0~5.0を維持してFe電気めっきを行うと、めっき効率が高く、スラッジ発生が抑制されながらも酸素を5~50重量%含有するFeめっき層を得ることができる。
【0084】
Mn、Siを含有する鋼板の溶融亜鉛めっきの品質を確保するためには、Feめっき層のめっき量を鉄の量を基準として0.5~3.0g/m2で処理することが好ましい。Feめっき量の上限は特に限定されないが、連続めっき工程で3.0g/m2を超過するようになると、複数個のめっきセルが必要になるか、生産速度が低下するため経済的でない。さらに、Fe電気めっき量が多いと連続工程でFe電気めっき溶液が急激に変性してpHが下落し、めっき効率が大きく低下して、溶液管理が難しくなるという問題がある。一方、Fe電気めっき量が0.5g/m2未満になると、Feめっき層内に含まれた酸素が急速に還元されて除去されるため、素地鉄からMn、Siが拡散して表面酸化物が形成されることを効果的に抑制できなくなり、溶融めっき品質が低下するという問題がある。上記Feめっき量は、めっき層内に含有された鉄濃度でFeめっき層が焼鈍中に完全に還元されると、約0.05~0.4μmの厚さを有する。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示して具体化するためであって、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0086】
(実施例)
まず、下記表1の組成のように1種の素地鉄を用意した。素地鉄は冷間圧延された鋼板であり、表面に特別なめっき層が形成されていないものである。
【0087】
【0088】
鋼板にFe電気めっきを行う前に、Cu板を用いてFe電気めっきを行った後に、5~10重量%の塩酸溶液で溶解してFe総量を測定して電気めっき付着量とめっき効率を予め測定した。測定されためっき効率を参考にして、冷延鋼板にFe電気めっきを施すことによって、めっき溶液及びめっき条件が変更されても、Fe電気めっき付着量を類似に調節した。各溶液及びめっき条件でCu板にFe電気めっきをさらに行い、GDS分析によりFeとOの総量を求めて、各電気めっき条件に応じたFeめっき層の平均酸素濃度を測定し、塩酸で溶解してめっき付着量を別途測定し、表2に示した。めっき時の全てのめっき溶液の温度は50℃に調節した。一方、Cuに電気めっきした溶液及びめっき条件と同様にして表1に記載された組成を有する複数枚の冷延鋼板にFeめっき層を形成した後に次の条件で焼鈍及び溶融亜鉛めっきを行った。
【0089】
焼鈍炉の内部は全ての区間で5%H2を含むN2ガス雰囲気に還元性雰囲気を維持し、露点は表2に示したように昇温区間及び均熱帯区間まで-18℃~+5℃に維持し、冷却区間からは鉄に対して還元性雰囲気である-40℃に維持した。ここに上述した過程(すなわち、表2の条件、めっき浴温度:50℃)でFe電気めっきされた冷延鋼板を装入し、約2.5℃/secの昇温速度で850℃まで加熱した後、53秒間維持した。この後、2.8℃/secの速度で650℃まで徐々に冷却し、再び14.5℃の速度で400℃まで急冷し、上述したように冷却が始まると焼鈍炉の内部の露点は-40℃となるように水蒸気の注入を中断した。冷却完了後、溶融亜鉛めっきが可能になるように480℃まで再び昇温して溶融亜鉛めっき浴に引き入れた。溶融亜鉛めっき浴は0.20~0.25%のAlを含有し、温度は460℃に維持し、めっき後、徐々に常温に冷却して溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0090】
製造された溶融亜鉛めっき鋼板に対するめっき性評価を行い、約8%塩酸溶液でめっき層を溶解した素地鉄についてGDS濃度プロファイルを測定し、Mn及びSiの極大点、極小点及び素地鉄の内部の5μmで平均濃度をそれぞれ測定し、その結果を表3に示した。
【0091】
溶融亜鉛めっき鋼板のめっき性は目視で評価した。全体面積にわたって未めっきが全くない場合は「良好」で表し、1mm以内の微細な点状未めっきが発生する場合は「点未めっき」に区分し、線状の未めっき、または点状の未めっきが線状または群集して複数個が同時に発生する場合は「線状欠陥」と表記し、直径5mm以上の広い面積で未めっきが発生する場合は「未めっき」に区分した。めっき欠陥は「未めっき」、「線状欠陥」、「点未めっき」、「良好」の順に未めっきの面積割合が大きく現れる傾向にある。
【0092】
めっき密着性を評価するために、溶融亜鉛めっき鋼板に自動車構造用シーラーを約5mm厚さで塗布し、150~170℃の温度で硬化した。常温に冷却された溶融亜鉛めっき鋼板を90度にベンディングしてシーラーを剥離させた。めっき層がシーラーに接着して亜鉛めっきと素地鉄の界面の全体で剥離した場合には、めっき密着性が不良であると判断して「剥離」と表記し、めっき層の剥離が発生しなかった場合には、めっき密着性が「良好」であると判断した。一部の試験片では、めっき層の一部のみが剥離される場合もあったが、この場合には「部分剥離」と表示した。しかし、「未めっき」が発生した試験片については、めっき密着性を評価しなかった。
【0093】
めっき層を塩酸で除去した素地鉄は、上述したGDS分析方法にしたがって濃度プロファイルを求め、100nmガウシアンフィルタを適用してノイズを除去した後、極大点と極小点を算出した。一部のGDSプロファイルでは、極大点または極小点を算出することができず、この場合、「ND」と表記した。但し、極小点の場合には表示されなかったとしても、換算濃度の差を求める際には、以下に記載した母材内部のMn及びSi濃度と同一であるものとみなして計算に導入した。しかしながら、極大点が形成されていない場合には、換算濃度を求めることができず、本発明の範囲から逸脱したものとみなした。
【0094】
母材内部のMn及びSiの濃度としては、いずれも鋼板表面(亜鉛めっき層と鋼板界面)から深さ方向に5μm地点で測定した値を用いた。
【0095】
【0096】
【0097】
比較例1及び2では、Feめっき層を形成していない素地鉄を上述した条件と同様に焼鈍条件及び溶融亜鉛めっきを行った。比較例1でFe電気めっきを行わずに焼鈍炉内の露点を-15℃に維持して焼鈍すると、溶融亜鉛めっきにならず、表面酸化のみが発生した結果、GDSプロファイルで表面のMn、Si濃度が高く、素地鉄の内部では徐々に濃度が減少する傾向を示し、極大点及び極小点を算出することができなかった。一方、比較例2では焼鈍炉内の露点を+5℃に維持したところ、溶融亜鉛めっき表面には微細な点状の未めっきが発生し、めっき密着性の評価時に部分的に剥離が発生した。比較例2の素地鉄に対するGDS濃度プロファイルを
図4のグラフ(a)に示した。図面での実線はMnの濃度プロファイルであり、点線はSiの濃度プロファイルである(以下、同一)。表面よりも素地鉄の内部0.5μm以内に多量の内部酸化物が生成されながら極大点を有するが、Mnの枯渇層は表面から2μm深さに発生した。これは、焼鈍中の酸素が鋼内部に持続的に流入しながら、素地鉄の内部まで深く粒界の内部酸化を形成させたためであり、
図2の(a)でも確認することができる。比較例2は、MnとSiの極大点及び極小点における換算濃度の差がそれぞれ63.9%と30.8%で不十分な結果を示した。比較例3~12には、クエン酸を錯化剤として含有したFe電気めっき溶液で鉄付着量0.42~2.99g/m
2となるように電気めっきした素地鉄を焼鈍炉内の露点-15℃及び+5℃で焼鈍し、溶融亜鉛めっきを行った。クエン酸を錯化剤として含有したFe電気めっき溶液で鉄を電気めっきした場合、Feめっき層内の酸素の濃度が5重量%未満と低かった。焼鈍炉の露点を-15℃及び+5に調節したにも関わらず、Fe電気めっき量が増加するにつれて未めっきされるレベルは徐々に改善される傾向にあるものの、ほとんどの表面に微細なめっきが発生し、めっき密着性が不良であった。比較例11の、Fe電気めっき付着量が1.99g/m
2であり、焼鈍炉内の露点を+5℃に調節して焼鈍し、溶融亜鉛めっきされた素地鉄のGDSプロファイルを
図4の(b)に示した。Feめっき層の直下に該当する深さ方向に約0.2μm位置にMn濃度が集中されているが、Siは内部酸化による極大点が高く生成されなかった。MnとSiの極大点と極小点の換算濃度の差はそれぞれ69%、45%レベルであった。
【0098】
比較例13~17では、アミノ酸の一種であるグリシンを錯化剤として用いたFe電気めっき溶液でFe電気めっきした冷延鋼板を焼鈍炉内の露点-18℃に調節しながら焼鈍し、溶融亜鉛めっきした。Fe電気めっき量が1.18g/m
2以下の場合には、微細な線状欠陥が確認され、めっき密着性が不良であった。一方、Fe電気めっき量が1.99~2.99g/m
2ではめっき外観は良好であったが、密着性は不良であった。たとえ、Feめっき層内の酸素が高く、焼鈍炉内の昇温過程では、Mn、Siの表面拡散が効果的に抑制されたとしても、焼鈍炉内の酸素分圧が鋼内部に浸透するには不足な状態であり、表面酸化は加重させることがあるレベルであるため、却って露点が非常に低いか、十分に高い場合よりも溶融亜鉛めっきの品質がさらに不良になると判断される。比較例16の、Fe電気めっき付着量が1.99g/m
2であり、焼鈍炉内の露点-18℃で焼鈍された鋼板のGDSプロファイルを
図4の(c)に示した。Feめっき層の酸素によりFeめっき層と素地鉄の界面には効果的に内部酸化を形成したにも関わらず、表面の酸化性雰囲気によってMn及びSiの極大点と極小点の換算濃度の差がそれぞれ53.7%と45.1%として本発明の条件を満足できず、その結果、めっき性が悪くなった。
【0099】
比較例18及び発明例1~4は、比較例13~17と同様の条件でFe電気めっきを行い、焼鈍炉内の露点を-15℃に上向して焼鈍した後、溶融亜鉛めっきを行った場合である。但し、比較例18はFeめっき量が少なかった場合であり、その結果、MnとSiの極大点と極小点との間の換算濃度の差が十分でなく、めっき性とめっき密着性が十分でなかった。また、比較例19及び発明例5~8においても同様の条件でFe電気めっきを行い、焼鈍炉内の露点は+5℃にさらに上向して焼鈍し、溶融めっきを行った。Fe電気めっき量が0.40g/m
2と低い場合には、内部酸化のみを実施した場合よりは表面状態が改善されるが、めっき密着性が不良な場合が発生した。しかし、Fe電気めっき量が0.82g/m
2以上の場合には、露点-15℃と+5℃で内部酸化を行うと、内部酸化の効果が加重されて、美麗な表面を有しながらもめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られた。発明例7の、グリシンを錯化剤としたFe電気めっき溶液で付着量1.99g/m
2となるように電気めっきし、焼鈍炉内の露点を+5℃に維持しながら焼鈍した溶融亜鉛めっき用素地鉄に対するGDS濃度プロファイルを
図4の(d)に示した。内部酸化のみを行うか、Feめっき層内の酸素濃度が低いか、または焼鈍炉内の露点が低い場合に比べて酸素の濃度が高いFeめっき層を形成し、内部酸化を行うようになるとFeめっき層の直下には内部酸化が加重されて、表面にMn及びSiがほとんど拡散できなくなるため、溶融亜鉛めっきの品質が画期的に改善されることができた。
【0100】
発明例9~16では、グリシンを含有したFe電気めっき溶液で70A/dm2の高い電流密度でFe電気めっきを行い、焼鈍炉内の露点を-15℃及び+5℃に維持しながら焼鈍した後、溶融亜鉛めっきを行った。Fe電気めっき時に20A/dm2で電気めっきした場合よりもFeめっき層内の酸素の濃度が大きく増加し、溶融亜鉛めっき鋼板の表面も美麗で、めっき密着性も良好であった。素地鉄のGDS濃度プロファイルでもMnとSiの内部酸化が良好に形成された。酸素の濃度が5重量%より高いFeめっき層を0.5g/m2以上電気めっきし、焼鈍炉内の露点を-15℃以上に上昇させて内部酸化すると、Fe電気めっきによる内部酸化の効果と焼鈍炉内の露点の上向による内部酸化の効果が加重されて、高強度鋼板の溶融亜鉛めっきの品質を画期的に改善させることができる。
【0101】
上述したように、本発明の条件を全て満たす発明例の場合には、優れためっき性とめっき密着性を示していることが確認できた。したがって、本発明の有利な効果を確認することができた。
【国際調査報告】