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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】荷電オリゴ糖の分離
(51)【国際特許分類】
   C07H 3/06 20060101AFI20231220BHJP
   C07H 7/027 20060101ALI20231220BHJP
   C12P 19/00 20060101ALI20231220BHJP
   C12P 19/26 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
C07H3/06
C07H7/027
C12P19/00
C12P19/26
C12N9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535700
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 IB2021061932
(87)【国際公開番号】W WO2022130322
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】PA202001430
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508278309
【氏名又は名称】グリコム・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Glycom A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】マトウィユク, マーティン
【テーマコード(参考)】
4B064
4C057
【Fターム(参考)】
4B064AF04
4B064AF21
4B064CA21
4B064CC30
4B064CE11
4C057AA05
4C057AA13
4C057BB04
4C057CC04
4C057DD02
4C057EE02
(57)【要約】
本発明は、荷電オリゴ糖とも呼ばれる、少なくとも1つのカルボン酸基を有する様々なオリゴ糖を分離する方法に関する。この方法は、非クロマトグラフィー法では分離が困難なオリゴ糖の高い処理量の分離を可能にし、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂の使用を伴う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1のオリゴ糖を、少なくとも1つのカルボン酸基を含む前記第1のオリゴ糖と、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第2のオリゴ糖とを少なくとも含む混合物から分離する方法であって、前記第1のオリゴ糖は、前記第2のオリゴ糖より少なくとも1つ少ない単糖単位を含み、
a)前記混合物を、前記第1及び前記第2のオリゴ糖の前記カルボン酸基の少なくとも90%がプロトン化(酸)形態で存在することを確実にするpHレベルで溶媒、好ましくは水において供給する工程と、
b)好ましくは遊離塩基形態で、工程a)の前記混合物を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布して又はそれと接触させて、これにより前記第2のオリゴ糖に富む水溶液を提供する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記カルボン酸基は、ノイラミン酸単位又は部位に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ノイラミン酸単位又は部位は、シアル酸単位又は部位である、請求項2に記載の方法:
【化1】

【請求項4】
前記第1及び前記第2のオリゴ糖は、それらの構造中に唯一1つの(単一の)シアル酸部位又は単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1及び前記第2のオリゴ糖は、人乳オリゴ糖(HMO)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のオリゴ糖は、前記第1のオリゴ糖と比較してちょうど1つの更なる単糖を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
-前記第1のオリゴ糖は、二糖であり、前記第2のオリゴ糖は、三糖であり、
-前記第1のオリゴ糖は、三糖であり、前記第2のオリゴ糖は、四糖であり、
-前記第1のオリゴ糖は、四糖であり、前記第2のオリゴ糖は、五糖であり、又は
-前記第1のオリゴ糖は、五糖であり、前記第2のオリゴ糖は、四糖である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のオリゴ糖は、三糖であり、前記第2のオリゴ糖は、四糖である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のオリゴ糖は、3’-SLであり、前記第2のオリゴ糖は、FSLである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のオリゴ糖は、前記第1のオリゴ糖と比較してちょうど1つの更なる単糖を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
-前記第1のオリゴ糖は、二糖であり、前記第2のオリゴ糖は、四糖であり、
-前記第1のオリゴ糖は、三糖であり、前記第2のオリゴ糖は、五糖であり、
-前記第1のオリゴ糖は、四糖であり、前記第2のオリゴ糖は、六糖であり、又は
-前記第1のオリゴ糖は、五糖であり、前記第2のオリゴ糖は、五糖である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のオリゴ糖は、三糖であり、前記第2のオリゴ糖は、五糖である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
-前記第1のオリゴ糖は、3’-SLであり、前記第2のオリゴ糖は、LST-aであり、
-前記第1のオリゴ糖は、6’-SLであり、前記第2のオリゴ糖は、LST-cであり、
-前記第1のオリゴ糖は、3’-SLであり、前記第2のオリゴ糖は、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glcであり、又は
-前記第1のオリゴ糖は、6’-SLであり、前記第2のオリゴ糖は、Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glcである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のオリゴ糖は、前記第1のオリゴ糖と比較してちょうど3つの更なる単糖を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
-前記第1のオリゴ糖は、二糖であり、前記第2のオリゴ糖は、五糖であり、
-前記第1のオリゴ糖は、三糖であり、前記第2のオリゴ糖は、六糖であり、又は
-前記第1のオリゴ糖は、四糖であり、前記第2のオリゴ糖は、七糖である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1のオリゴ糖は、三糖であり、前記第2のオリゴ糖は、六糖である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
-前記第1のオリゴ糖は、3’-SLであり、前記第2のオリゴ糖は、F-LST-aであり、又は
-前記第1のオリゴ糖は、6’-SLであり、前記第2のオリゴ糖は、F-LST-cである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のオリゴ糖は、トランスシアリダーゼにより媒介された前記第1のオリゴ糖からのオリゴ糖受容体へのシアル酸転移の生成物である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記オリゴ糖受容体は、その構造にシアル酸単位を含まない、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記オリゴ糖受容体は、人乳オリゴ糖(HMO)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記オリゴ糖受容体は、3-FL、LNT、LNnT、LNFP-II又はLNFP-VIから選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
工程a)で提供される前記第1のオリゴ糖と前記第2のオリゴ糖の前記混合物は、水溶液である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記水溶液のpHは、前記第1及び前記第2のオリゴ糖のいずれよりも強い無機酸を添加することにより設定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記無機酸は、HCl又は硫酸である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記水溶液のpHは、1.5~3である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記水溶液は、前記第1及び前記第2のオリゴ糖の前記混合物を、プロトン化された酸性カチオン交換樹脂に塗布する、又は前記混合物をプロトン化された酸性カチオン交換樹脂と接触させることによって提供される、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記酸性カチオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
工程b)において、工程a)で提供された前記水溶液を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布する又はそれと接触させる、請求項22~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、遊離塩基形態である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記水溶液を弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布して又はそれと接触させて、前記第1のオリゴ糖が前記樹脂に結合することを確実にさせ、これにより前記第2のオリゴ糖に富む水溶液を提供する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、ポリスチレン骨格構造を含む、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
ポリスチレン骨格構造は、ジビニルベンゼンで架橋されている、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
工程b)において前記弱塩基性マイロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布された又はそれと接触された前記水溶液は、前記弱塩基性マイロ多孔性アニオン交換樹脂に関する前記第1のオリゴ糖における予め決定された飽和限界付近の量で前記第1のオリゴ糖を含む、請求項28~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記溶液における前記第1のオリゴ糖の量は、前記予め決定された飽和限界の約80~120%である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
工程c)において、前記第2のオリゴ糖に富み、工程b)で得られた前記水溶液を、塩基性アニオン交換樹脂に塗布する又はそれと接触させる、請求項28~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記塩基性アニオン交換樹脂は、塩基形態である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記水溶液を、前記塩基性アニオン交換樹脂に塗布して又はそれと接触させて、前記第2のオリゴ糖が前記樹脂に結合することを確実にさせる、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記アニオン交換樹脂は、遊離塩基形態の弱塩基性アニオン交換樹脂である、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
前記弱塩基性アニオン交換樹脂は、ゲルタイプである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ゲルタイプの弱塩基性アニオン交換樹脂は、ポリアクリル樹脂である、請求項39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、荷電オリゴ糖とも呼ばれる、少なくとも1つのカルボン酸基を有する様々なオリゴ糖を分離する方法に関する。この方法は、非クロマトグラフィー法では分離が困難なオリゴ糖の高い処理量の分離を可能にし、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂の使用を伴う。
【0002】
[発明の背景]
人乳オリゴ糖(HMO)などのオリゴ糖は、種々の様々な方法によって調製することができる。これらの方法は、典型的には、発酵ブロスの下流処理を含む細菌宿主の発酵を含む。このような発酵法は、3’-シアリルラクトース(3’-SL)及び6’-シアリルラクトース(6’-SL)などのより小さくあまり複雑でないオリゴ糖にはよく効くが、より大きくより複雑なオリゴ糖にはあまり効かない。これは、特に荷電オリゴ糖、即ち少なくとも1つのカルボン酸基を含むオリゴ糖に当てはまる。
【0003】
より大きくより複雑なオリゴ糖を調製するために、単糖単位が酵素的触媒作用によって供与体から受容体オリゴ糖に転移されるトランス-グリコシダーゼ反応が採用されてきた。このような1つの例は、トランスシアリダーゼ酵素を使用することによって、3’-SL又は6’-SLなどの供与体から、3-FL、LNT又はLNnTなどの受容体へのシアル酸単位の転移である(例えば、国際公開第2016/157108号パンフレット、国際公開第2016/199071号パンフレットを参照)。しかしながら、これらの反応は、出発となる遊離体とオリゴ糖生成物との間の平衡をもたらす。荷電オリゴ糖の場合、供与体と生成物は、両方とも少なくとも1つのカルボン酸基を含むので、当技術分野で知られている方法によって容易に分離できない。現在利用可能な方法は、ゲルクロマトグラフィー法などの低い処理量の方法である。
【0004】
従って、荷電オリゴ糖を高い処理量で分離できる方法が当技術分野で必要とされている。
【0005】
[発明の概要]
一態様では、本発明は、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1のオリゴ糖を、少なくとも1つのカルボン酸基を含む前述の第1のオリゴ糖と、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第2のオリゴ糖とを少なくとも含む混合物から分離する方法であって、前述の第1のオリゴ糖は、第2のオリゴ糖より少なくとも1つ少ない単糖単位を含む方法に関し、この方法は、
a)前述の混合物を、第1及び第2のオリゴ糖のカルボン酸基の少なくとも90%がプロトン化された(遊離酸)形態で存在することを確実にするpHレベルで溶媒において供給する工程と、
b)混合物を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布する又はそれと接触させる工程と、を含む。
【0006】
一実施形態では、本方法は、工程b)からの溶出液又は濾液を、ゲルタイプの弱塩基性アニオン交換樹脂などの塩基性アニオン交換樹脂に塗布する、或いは前述の溶出液又は濾液を、ゲルタイプの弱塩基性アニオン交換樹脂などの塩基性アニオン交換樹脂と接触させる、工程b)に続く工程c)を更に含む。
【0007】
本発明の方法は、カルボン酸基を含むオリゴ糖を相互に分離するのに効率的であり、その結果、第1のオリゴ糖は、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に結合するが、第2のオリゴ糖は、実質的に結合しないので、より大きなオリゴ糖の高レベルの純度が提供される。
【0008】
他の態様では、本発明は、少なくとも1つのシアリル基を含む第2のオリゴ糖を、少なくとも1つのシアリル基を含む第1のオリゴ糖と、前述の第1のオリゴ糖と、任意に中性オリゴ糖とを含む混合物から分離する方法であって、前述の第1のオリゴ糖は、第2のオリゴ糖より少なくとも1つ少ない単糖単位を含む方法に関し、この方法は、
a)第1及び第2のオリゴ糖のシアリル基の少なくとも90%がプロトン化された(遊離酸)形態で存在することを確実にするpHレベルで溶媒において前述の混合物を提供する工程と、
b)混合物を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布して又はそれと接触させて、樹脂への第1のオリゴ糖の結合を確実にする工程と、
c)工程b)の溶出液を、ゲルタイプの弱塩基性アニオン交換樹脂などの塩基性アニオン交換樹脂に塗布して又はそれと接触させて、樹脂への第2のオリゴ糖の結合を確実にする工程と、
d)樹脂から第2のオリゴ糖を溶出する工程と、
e)工程d)の溶出液から第2のオリゴ糖を単離する工程と、を含む。
【0009】
[発明の詳細な説明]
本発明は、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1のオリゴ糖を、少なくとも1つのカルボン酸基を含む前述の第1のオリゴ糖と、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第2のオリゴ糖とを少なくとも含む混合物から分離する方法であって、前述の第1のオリゴ糖は、第2のオリゴ糖より少なくとも1つ少ない単糖単位を含む方法に関し、この方法は、
a)カルボン酸基の少なくとも90%がプロトン化された(遊離酸)形態で存在することを確実にするpHレベルで溶媒において前述の混合物を提供する工程と、
b)工程a)で得られた混合物を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布する又はそれと接触させる工程と、を含む。
【0010】
本発明の方法の工程b)は、第2のオリゴ糖よりも多くの第1のオリゴ糖が樹脂に結合し、第2のオリゴ糖は、液相(移動)相に蓄積されることを確実にし、従って、第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖を互いに分離することが可能である。
【0011】
一実施形態では、本発明は、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1のオリゴ糖を、少なくとも1つのカルボン酸基を含む前述の第1のオリゴ糖と、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第2のオリゴ糖とを少なくとも含む混合物から分離する方法であって、前述の第1のオリゴ糖は、第2のオリゴ糖より少なくとも1つ少ないカルボン酸基を含む方法に関し、この方法は、
a)カルボン酸基の少なくとも90%がプロトン化された(遊離酸)形態で存在することを確実にするpHレベルで溶媒において前述の混合物を提供する工程と、
b)工程a)で得られた混合物を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布する又はそれと接触させて、第2のオリゴ糖に富んだ溶液を提供する工程と、
c)工程b)からの第2のオリゴ糖に富んだ溶液を、ゲルタイプの弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂などの塩基性アニオン交換樹脂に塗布する、又は前述の溶出液を、ゲルタイプの弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂などの塩基性アニオン交換樹脂と接触させる工程と、を含む。
【0012】
この方法の工程c)を使用することにより、第2のオリゴ糖を高純度で得ることが可能である。
【0013】
従って、本発明は又、少なくとも1つのシアリル基を含む第2のオリゴ糖を、少なくとも1つのシアリル基を含む第1のオリゴ糖と、前述の第1のオリゴ糖と、任意で中性オリゴ糖とを含む混合物から分離する方法であって、前述の第1のオリゴ糖は、第2のオリゴ糖より少なくとも1つ少ない単糖単位を含む方法に関し、この方法は、
a)第1及び第2のオリゴ糖のシアリル基の少なくとも90%がプロトン化された(遊離酸)形態で存在することを確実にするpHレベルで溶媒において前述の混合物を提供する工程と、
b)混合物を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布して又はそれと接触させて、樹脂への第1のオリゴ糖の結合を確実にし、これにより第2のオリゴ糖及び任意に中性オリゴ糖に富んだ溶液を提供する工程と、
c)工程b)の溶液を、ゲルタイプの弱塩基性アニオン交換樹脂などの塩基性アニオン交換樹脂に塗布又はそれと接触させて、第2のオリゴ糖の樹脂への結合を確実にし、これにより任意に中性オリゴ糖を溶出する工程と、
d)樹脂から第2のオリゴ糖を溶出する工程と、
e)工程d)の溶出液から第2のオリゴ糖を単離する工程と、を含む。
【0014】
[定義]
「オリゴ糖」という用語は、好ましくは、グリコシド間結合によってともに接続された複数の、しかし少なくとも2つの単糖単位を含む直鎖又は分岐構造を有する炭水化物ポリマーを意味する。本発明の文脈において、オリゴ糖には二糖も含まれる。本発明の文脈におけるオリゴ糖は、好ましくは、遊離形態である、即ち、その遊離アノマーの、1級及び2級のOH-基(例えば、エーテル、エステル、アセタールなど)のいずれにも保護基を含まず、-アミノデオキシ糖では-アセチル以外の遊離NH-基に保護基を含まない。オリゴ糖は、好ましくは二糖、三糖、四糖、五糖又は六糖である。「単糖」という用語は、好ましくは、アルドース(例えば、D-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-アラビノース、L-アラビノース、D-キシロースなど)、ケトース(例えば、D-フルクトース、D-ソルボース、D-タガトースなど)、デオキシ糖(例えば、L-ラムノース、L-フコースなど)、デオキシアミノ糖(例えば、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルガラクトサミンなど)、ウロン酸、アルドン酸、ケトアルドン酸(例えばシアル酸)、アルダル酸又は糖アルコールである5~9の炭素原子の糖(炭水化物)を意味する。
【0015】
「少なくとも1つのカルボン酸基を含むオリゴ糖」という用語は、好ましくは、カルボン酸基を含む単糖単位を有するオリゴ糖を意味する。カルボン酸基を含む単糖単位は、好ましくは、ウロン酸、アルドン酸、ケトアルドン酸又はアルダル酸、より好ましくはケトアルドン酸である。ケトアルドン酸は、好ましくは、N-アセチル-、グリコリル-又はデアミノ-ノイラミン酸(KDN)などのノイラミン酸、より好ましくは、N-アセチル-ノイラミン酸(NANA、シアル酸、Neu5Ac)である。従って、NANA含有オリゴ糖は、「シアル化オリゴ糖」とも呼ばれることができる。従って、一実施形態では、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1及び第2のオリゴ糖は、シアル化オリゴ糖である。好ましくは、第1及び第2のオリゴ糖の両方は、カルボン酸基を1つのみ含み、より好ましくはシアル酸単位を1つのみ含む。
【0016】
本明細書で使用される「人乳オリゴ糖」又は「HMO」という用語は、別段の指定がない限り、一般に、ヒト母乳(human breast milk)中に見られるいくつかの複合炭水化物を指し(例えば、(Urashima et al.:Milk Oligosaccharides,Nova Biomedical Books,New York,2011;Chen Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.72,113(2015)を参照)、それは、酸性又は中性の形態であり得る。「シアル化人乳オリゴ糖」又は「シアル化HMO」又は「荷電HMO」とも呼ばれる酸性HMOは、少なくとも1つのシアル酸単位、好ましくは1つのみのシアル酸単位を含む。例には、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、シアリルラクト-N-テトラオース-a(LST-a)、シアリルラクト-N-テトラオース-b(LST-b)、シアリルラクト-N-テトラオース-c(LST-c)、及び3-フコシル-3’-シアリル-ラクトース(FSL)が含まれる。
【0017】
本明細書全体を通じて、「少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1のオリゴ糖」及び「第1のオリゴ糖」という用語は、互換的に使用される。「少なくとも1つのカルボン酸基を含む第2のオリゴ糖」及び「第2のオリゴ糖」という用語についても同じことがあてはまる。
【0018】
[少なくとも第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖とを含み、両方とも少なくとも1つのカルボン酸基を含む混合物]
本発明の方法における第2のオリゴ糖は、第1のオリゴ糖に比べて少なくとも1つの更なる単糖を含み、換言すれば、第2のオリゴ糖の重合度は、第1のオリゴ糖の重合度よりも高い。一実施形態では、第1のオリゴ糖は、二糖であり、第2のオリゴ糖は、三糖、四糖、五糖、六糖以上のオリゴ糖である。他の実施形態では、第1のオリゴ糖は、三糖であり、第2のオリゴ糖は、四糖、五糖、六糖以上のオリゴ糖である。他の実施形態では、第1のオリゴ糖は、四糖であり、第2のオリゴ糖は、五糖、六糖以上のオリゴ糖である。他の実施形態では、第1のオリゴ糖は、五糖であり、第2のオリゴ糖は、六糖以上のオリゴ糖である。更に、より好ましい実施形態では、第2のオリゴ糖は、第1のオリゴ糖と比較して、(ちょうど)1つの更なる単糖のみを含む。これに関して、例えば、第1のオリゴ糖が二糖である場合、第2のオリゴ糖は、三糖であり、第1のオリゴ糖が三糖である場合、第2のオリゴ糖は、四糖であり、第1のオリゴ糖が四糖である場合、第2のオリゴ糖は、五糖であり、又は第1のオリゴ糖が五糖である場合、第2のオリゴ糖は、六糖である。他の好ましい実施形態では、第2のオリゴ糖は、第1のオリゴ糖と比較して、ちょうど2つの更なる単糖を含む。これに関して、例えば、第1のオリゴ糖が二糖である場合、第2のオリゴ糖は、四糖であり、第1のオリゴ糖が三糖である場合、第2のオリゴ糖は、五糖であり、第1のオリゴ糖が四糖である場合、第2のオリゴ糖は、六糖である。他の好ましい実施形態では、第2のオリゴ糖は、第1のオリゴ糖と比較して、ちょうど3つの更なる単糖を含む。これに関して、例えば、第1のオリゴ糖が二糖である場合、第2のオリゴ糖は、五糖であり、第1のオリゴ糖が三糖である場合、第2のオリゴ糖は、六糖である。更により好ましくは、上記の好ましい又はより好ましい実施形態のいずれかにおいて、第1及び第2のオリゴ糖は、カルボン酸基を1つのみ、特にシアル酸単位を1つのみ含む。
【0019】
本発明の方法は、典型的には、第2のオリゴ糖が、トランスシアリダーゼを使用することによって、シアル化された二糖、三糖以上の糖供与体(第1のオリゴ糖として)から二糖、三糖、四糖以上のオリゴ糖受容体へのシアル酸単位の不完全な転移の生成物である場合に有用であり、この場合、受容体オリゴ糖は、好ましくは中性オリゴ糖(シアル酸を含まない)である。従って、一実施形態では、第1のオリゴ糖は、二糖又は三糖である。別の実施形態では、第1のオリゴ糖は、3’-シアリルラクトース(3’-SL)及び6’-シアリルラクトース(6’-SL)から選択される。
【0020】
一実施形態では、両方とも少なくとも1つのカルボン酸基を含む、第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖とを少なくとも含む混合物は、発酵によって生成され得る。
【0021】
上述のトランスシアリダーゼ媒介酵素反応において、シアル酸単位を受容するオリゴ糖は、典型的には、好ましくはシアル酸単位を含まない二糖、三糖、四糖、五糖以上のオリゴ糖である。一般に、シアル化オリゴ糖供与体(即ち、本発明の文脈における第1のオリゴ糖)は、受容体オリゴ糖より多くの単糖単位を含まない。従って、反応の生成物(即ち、本発明の文脈における第2のオリゴ糖)は、受容体オリゴ糖よりちょうど1つ多い単糖単位(シアル酸単位である)を含むオリゴ糖であり、これに関して、第2のオリゴ糖は、オリゴ糖受容体の構造を含む。
【0022】
従って、本発明の文脈における第1及び第2のオリゴ糖の混合物は、典型的には、シアル化オリゴ糖供与体から中性オリゴ糖受容体へのシアル酸単位のトランスシアリダーゼによる不完全な転移の結果である。従って、本発明による方法の一実施形態では、第1及び第2のオリゴ糖の混合物は、第1のオリゴ糖、及びカルボン酸又はシアル酸基を含まない前駆体オリゴ糖基質(受容体)を含む混合物にトランスシアリダーゼを添加することによって調製され、これにより、シアリル酸単位が第1のオリゴ糖から受容体に転移し、こうして第2のオリゴ糖が作られる。トランスシアリダーゼ媒介酵素反応は、次のように表されることができる:
【化1】

(式中、Sia-Aは、第1のオリゴ糖の一実施形態であり、二、三、又はそれ以上のシアル化オリゴ糖であり、Siaは、シアル酸単位又はシアル酸部位であり、化合物Bは、好ましくはシアル酸単位を含まない二、三、四、五又はそれ以上のオリゴ糖受容体であり、Sia-Bは、第2のオリゴ糖の実施形態であり、三、四、五又はそれ以上のシアル化オリゴ糖であり、化合物Aは、脱シアル化されたSia-Aである、Sia-Aから出発する単糖又はオリゴ糖である)。一般的に、トランスシアリダーゼは、新たに形成されたSia-BからのSia残基を、Sia-Aから予め生成された化合物Aに転移することができるため、平衡:B+Sia-A⇔Sia-B+Aに達する。上記の酵素反応系において、Sia-Aと化合物Bは、その構造内に同じ単糖単位を有する場合、Sia-Bは、Sia-Aよりもちょうど1つ多い単糖単位を含む(従って、Sia-Aと化合物Bの両方が三糖である場合、例えば、Sia-Bは、四糖である)。Sia-Aと化合物Bが、その構造内に同じ単糖単位を有する場合、Sia-Bは、Sia-Aよりちょうど1つ多い単糖単位を含む(従って、Sia-Aと化合物Bの両方が三糖である場合、例えば、Sia-Bは、四糖である)。Sia-Aが、化合物Bよりちょうど1つ少ない単糖単位を含む場合、Sia-Bは、Sia-Aよりちょうど2つ多い単糖単位を含む(従って、Sia-Aが三糖であり、化合物Bが四糖である場合、例えば、Sia-Bは、五糖である)。Sia-Aが、化合物Bよりちょうど2つ少ない単糖単位を含む場合、Sia-Bは、Sia-Aよりちょうど3つ多い単糖単位を含む(従って、Sia-Aが三糖であり、化合物Bが五糖である場合、例えば、Sia-Bは、六糖である)。
【0023】
トランスシアリダーゼは、供与体及び生成物に対して選択性を示す。従って、α2,3-トランスシアリダーゼは、α2,3-シアル化供与体からシアル酸基を有利に転移し、好ましくはα2,3-シアル化生成物を生成する。従って、「α2,3-トランスシアリダーゼ」という用語は、好ましくはα2,3-シアル化供与体のシアリル残基を、オリゴ糖受容体における、好ましくは末端の、ガラクトース単位の3位に転移させることができる任意の野生型又は改変されたシアリダーゼを意味する。このようなトランスシアリダーゼは、好ましくは、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)由来のα2,3-トランスシアリダーゼ(TcTS)である。同様に、α2,6-トランスシアリダーゼは、α2,6-シアル化供与体からシアル酸基を有利に転移し、好ましくはα2,6-シアル化生成物を生成する。従って、好ましくは、「α2,6-トランスシアリダーゼ」という用語は、好ましくはα2,6-シアル化供与体のシアリル残基を、オリゴ糖受容体における、好ましくは末端の、ガラクトース単位の6位に転移させることができる任意の野生型又は改変されたシアリダーゼを意味する。このようなトランスシアリダーゼは、好ましくは、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2016/199069号パンフレットに開示されているものである。
【0024】
本発明は、一実施形態では、Sia-A、Sia-B、A及びBを含む反応環境からSia-Aを分離し、任意に続いて中性オリゴ糖A及びBからSia-Bを分離するための便利な方法を提供する。
【0025】
シアル酸単位を含む第1のオリゴ糖(Sia-A)とシアル酸単位を含む第2のオリゴ糖(Sia-B)とを少なくとも含む混合物は、例えば、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2016/157108号パンフレット又は国際公開第2016/199071号パンフレットに従って生成されることができる。
【0026】
好ましくは、トランスシアリダーゼ媒介酵素反応において第1及び第2のオリゴ糖の混合物の生成において、前駆体オリゴ糖基質(受容体、化合物B)は、中性HMOである。有利には、前駆体オリゴ糖基質(受容体)は、3-FL、LNT、LNnT、LNFP-II又はLNFP-VIである。
【0027】
従って、一実施形態では、本発明は、シアル酸単位を含む第1のオリゴ糖(Sia-Aと呼ばれる)を、前述の第1のオリゴ糖及びシアル酸単位を含む第2のオリゴ糖(Sia-Bと呼ばれる)、化合物A及び化合物Bを含む混合物から分離する方法であって、前述の第1のオリゴ糖は、第2のオリゴ糖より少なくとも1つ少ない単糖単位を含む方法に関し、この方法は、
a)Sia-A及びSia-Bのシアル酸単位の少なくとも90%がプロトン化(酸)形態で存在することを確実にするpHレベルで溶媒において前述の混合物を提供する工程と、
b)工程a)の混合物を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布して又はそれと接触させて、好ましくはSia-Aを結合させ、Sia-Bに富み化合物A及びBを含む水溶液を提供する工程と、を含む。
【0028】
一実施形態では、この方法は、工程c):工程b)からの水溶液を、ゲルタイプの弱塩基性アニオン交換樹脂などの塩基性アニオン交換樹脂に塗布して、又は前述の溶液を、ゲルタイプの弱塩基性アニオン交換樹脂などの塩基性アニオン交換樹脂と接触させて、好ましくはSia-Bを結合させ、化合物A及びBに富む水溶液を提供する工程を更に含む。
【0029】
一実施形態では、Sia-Aは、3’-SL及び6’-SLからなる群から選択される。
【0030】
一実施形態では、Sia-Bは、FSL(3-O-フコシル-3’-O-シアリルラクトース、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-[Fucα(1-3)-]Glc)、LST-a(シアリルラクト-N-テトラオースa、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc)、LST-c(シアリルラクト-N-テトラオースc、Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc)、Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc、
F-LST-a(Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-3)-[Fucα(1-4)-]GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc))及びF-LST-c(Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-[Fucα(1-3)-]Glc))からなる群から選択される。
【0031】
一実施形態では、Sia-Aは、3’-SL及び6’-SLからなる群から選択され、Sia-Bは、FSL(3-O-フコシル-3’-O-シアリルラクトース、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-[Fucα(1-3)-]Glc)、LST-a(シアリルラクト-N-テトラオースa、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc)、LST-c(シアリルラクト-N-テトラオースc、Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc)、Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc、F-LST-a(Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-3)-[Fucα(1-4)-]GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc))及びF-LST-c(Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-[Fucα(1-3)-]Glc))からなる群から選択される。
【0032】
一実施形態では、第1のオリゴ糖(Sia-A)は、6’-SLであり、第2のオリゴ糖(Sia-B)は、LST-c(シアリルラクト-N-テトラオースc、Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc)であり、好ましくは以下のα2,6-トランスシアリダーゼ触媒反応から得られる:6’-SL+LNnT⇔LST-c+ラクトース。
【0033】
一実施形態では、第1のオリゴ糖(Sia-A)は、3’-SLであり、第2のオリゴ糖(Sia-B)は、LST-a(シアリルラクト-N-テトラオースa、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc)であり、好ましくは以下のα2,3-トランスシアリダーゼ触媒反応から得られる:3’-SL+LNT⇔LST-a+ラクトース。
【0034】
一実施形態では、第1のオリゴ糖(Sia-A)は、3’-SLであり、第2のオリゴ糖(Sia-B)は、FSL(3-O-フコシル-3’-O-シアリルラクトース、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-[Fucα(1-3)-]Glc)であり、好ましくは以下のα2,3-トランスシアリダーゼ触媒反応から得られる:3’-SL+3-FL⇔FSL+ラクトース。
【0035】
一実施形態では、第1のオリゴ糖は、(Sia-A)3’-SLであり、第2のオリゴ糖(Sia-B)は、F-LST-a(Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-3)-[Fucα(1-4)-]GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc))であり、好ましくは以下のα2,3-トランスシアリダーゼ触媒反応から得られる:3’-SL+LNFP-II⇔F-LST-a+ラクトース。
【0036】
一実施形態では、第1のオリゴ糖は、(Sia-A)6’-SLであり、第2のオリゴ糖(Sia-B)は、F-LST-c(Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-[Fucα(1-3)-]Glc)であり、好ましくは以下のα2,6-トランスシアリダーゼ触媒反応から得られる:6’-SL+LNFP-VI⇔F-LST-c+ラクトース。
【0037】
一実施形態では、第1のオリゴ糖は、(Sia-A)6’-SLであり、第2のオリゴ糖(Sia-B)は、Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glcであり、好ましくは以下のα2,6-トランスシアリダーゼ触媒反応から得られる:6’-SL+LNT⇔Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc+ラクトース。
【0038】
一実施形態では、第1のオリゴ糖は、(Sia-A)3’-SLであり、第2のオリゴ糖(Sia-B)は、Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glcであり、好ましくは以下のα2,3-トランスシアリダーゼ触媒反応から得られる:3’-SL+LNnT ⇔Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc+ラクトース。
【0039】
[混合物に適切なpHを提供する工程(工程a)]
本発明による方法の工程a)において、混合物は、この方法で分離される特定のオリゴ糖に適合したレベルのpHで提供される。これに関して、混合物は、好ましくは水溶液である。分離が最適であるために、第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖のカルボン酸基は、主にプロトン化された形態である必要があり、即ち、カルボン酸基の少なくとも90%は、遊離酸の形態である必要がある。当業者は、プロトン化された遊離酸の形態の必要なレベルを確実にするためにpHを調整する方法を知っている。一例として、カルボン酸含有オリゴ糖のpKを決定し、ヘンダーソン・ハッセルバルヒ(Henderson-Hasselbalch)の式を用いて必要なpHを計算することができる。必要な量のプロトン化形態(90%)を有するために、pHは、pH約pKa-0.954として計算される。
【0040】
一実施形態では、カルボン酸基の少なくとも92%は、プロトン化形態である。別の実施形態では、カルボン酸基の少なくとも95%は、プロトン化形態である。更に別の実施形態では、カルボン酸基の少なくとも98%は、プロトン化形態である。
【0041】
pHは、原則として、例えば、カルボン酸基含有の第1及び第2のオリゴ糖よりも強い酸、好ましくは、その例示的な実施形態はHCl溶液又は硫酸溶液であり得るより強い無機酸を使用するなど、当業者に公知の任意の方法によって調整され得る。一実施形態では、pHは、約1.5~3に設定される。
【0042】
本発明による方法の工程a)の観点からpH調整を達成する便利な及び又好ましい方法は、プロトン化されたカチオン交換樹脂を使用することである。従って、一実施形態では、工程a)において提供されるpHが設定された混合物は、第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖の混合物を、プロトン化された酸性カチオン交換樹脂(H-形態の酸性カチオン交換樹脂)に塗布する、又は前述の混合物をプロトン化された酸性カチオン交換樹脂(H-形態の酸性カチオン交換樹脂)と接触させることによって提供される。好ましくは、プロトン化された酸性カチオン交換樹脂は、プロトン化強酸性カチオン交換樹脂である。
【0043】
一実施形態では、工程a)で提供される水溶液の形態のpHが設定された混合物は、プロトン化された酸性カチオン交換樹脂、好ましくは強酸性カチオン交換樹脂を充填したカラムの上部に第1及び第2のオリゴ糖を含む水溶液を充填し、水で溶出し、プロトン化形態の第1及び第2の酸性オリゴ糖を含む画分(溶出液)を収集することによって得られることができる。酸性カチオン交換樹脂の量は、第1及び第2の酸性オリゴ糖をプロトン化形態に、例えば、その対応する塩形態から、変換するのに十分である必要がある。別の実施形態では、第1及び第2のオリゴ糖を含む水溶液を、実質的に全てのカルボン酸基がプロトン化形態に変換されるまで、撹拌下又は撹拌せずに容器中でプロトン化された酸性カチオン交換樹脂、好ましくは強酸性カチオン交換樹脂と接触させる。次いで、樹脂は、例えば、濾過(濾液)によって分離される。工程a)で得られることができる濾液と溶出液の両方を、「pHが設定された混合物」、「pHが設定された(水性)溶液」、「酸性カチオン交換樹脂処理混合物」又は「酸性カチオン交換樹脂処理(水性)溶液」と呼ぶことができる。前述のpHが設定された溶液は、本発明の工程b)に使用される用意ができている。
【0044】
上記の実施形態のいずれにおいても、両方とも、少なくとも1つのカルボン酸基、好ましくはシアル酸単位又は部位を含む、少なくとも第1のオリゴ糖と第の2オリゴ糖とを含む混合物は、中性オリゴ糖を更に含み得る。中性オリゴ糖は、酸性カチオン交換樹脂に結合しないので、工程a)の後、酸性化された(プロトン化された)第1及び第2のオリゴ糖とともに収集される。
【0045】
更に、両方とも、少なくとも1つのカルボン酸基、好ましくはシアル酸単位又は部位を含む、少なくとも第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖と、任意に中性オリゴ糖とを含む混合物は、強無機酸の無機アニオン、典型的には、塩化物、硫酸、硝酸、リン酸などを更に含み得る。これらの存在は、工程b)で使用される少なくともカルボキシル基を含む第1のオリゴ糖に関して、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂の容量を実質的に低下させない限り、許容される(下記参照)。適切には、上記で開示されたものなどの酵素反応から得られた、両方とも少なくとも1つのカルボン酸基を含む、第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖の混合物であれば、無機アニオンの量は、本発明の工程b)における第1のオリゴ糖の第2のオリゴ糖からの分離に実質的に影響しない。いずれにせよ、このような無機アニオンの存在が望ましくない場合には、例えば、第1のオリゴ糖及び第2のオリゴ糖を保持し、第1のオリゴ糖及び第2のオリゴ糖と比較して実質的にサイズが小さいために無機アニオンを通過させる適切な膜を利用することによって、本発明の工程を混合物に適用する前に、両方とも、少なくとも1つのカルボン酸基、好ましくはシアル酸単位又は部位を含む、第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖とを含む混合物から少なくとも部分的に除去され得る。
【0046】
両方とも、少なくとも1つのカルボン酸基、好ましくはシアル酸単位又は部位を含む、第1及び第2のオリゴ糖のいずれよりも強い酸、好ましくは無機酸が、第1及び第2のオリゴ糖を含む溶液のpHを所望の値に設定するために使用される実施形態では、即ち、第1及び第2のオリゴ糖におけるカルボン酸基の少なくとも90%がプロトン化形態である場合、酸の量が、工程b)で使用されるカルボン酸基を少なくとも含む第1のオリゴ糖に関する弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂の容量を実質的に低下させないために、酸が、過剰に塗布されないことが望ましい(下記参照)。無機酸のこのような過剰使用を避けるために、pHを約1.5~3に設定することが望ましい。
【0047】
[工程a)で得られた混合物を弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布する工程(工程b)]
本発明による方法の工程b)では、工程a)で提供された水溶液の形態のpHが設定された混合物を、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に塗布する又はそれと接触させる。
【0048】
塩基性アニオン交換樹脂は、強塩基性又は弱塩基性であり得、マクロ多孔性又はゲルタイプであり得る。マクロ多孔性イオン交換樹脂は、三次元構造においてより大きな孔を可能にする架橋度が設計されているのに対し、ゲルタイプのイオン交換樹脂は、より大きな孔を含まない。
【0049】
塩基性アニオン交換樹脂は、典型的には、ポリアクリル又はポリスチレンの骨格を有し、個々のポリマー鎖の間で架橋されている。典型的な架橋剤は、ジビニルベンゼン(DVB)である。従って、好ましい一実施形態では、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、ポリスチレン骨格を含む。別の実施形態では、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、ジビニルベンゼンによって架橋された骨格を含む。更に別の好ましい実施形態では、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、ジビニルベンゼンが架橋されたポリスチレン骨格を含む。
【0050】
弱塩基性アニオン交換樹脂は、典型的には、特定の窒素含有基などの、プロトンを引き寄せる孤立電子対を有する塩基基を含む。塩基基はプロトン化形態であってはならず、換言すれば遊離塩基である。従って、一実施形態では、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、プロトンを引き寄せる孤立電子対を有する塩基基を含む。更なる実施形態では、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、プロトンを引き寄せる孤立電子対を有する窒素原子を含む。このような基には、例えば、1級アミン、2級アミン、3級アミン(遊離アミン基)、グアニジノ又は窒素含有複素芳香族基(ピリジノ、ピリミジノなどの)、好ましくは3級アミンが含まれる。更なる実施形態では、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、ジビニルベンゼンが架橋されたポリスチレン骨格に遊離アミン基を含む。後者の例には、LanxessのLewatit MP62、DowのDowex 77、Mitsubishi ChemicalのDIAION WA30、及びDowのDowex 66が含まれる。
【0051】
特定の理論に束縛されることなく、遊離塩基形態の弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂の塩基性と孔径は、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第2のオリゴ糖に対して、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1のオリゴ糖の選択的結合を可能にする。任意の他の樹脂と同様に、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂は、特定の結合容量を有する。従って、樹脂におけるオリゴ糖の充填量は、有利には、最良の結合オリゴ糖、即ち、本発明による方法における第1のオリゴ糖に対する結合容量/飽和限界に従って調整される。或いは、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂の量は、有利には、最良の結合オリゴ糖、即ち第1のオリゴ糖に対する樹脂の結合容量/飽和限界に従って、樹脂に対するオリゴ糖の充填量を適合させるように調整される。従って、本発明による方法の一実施形態では、第1のオリゴ糖の量は、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に関する第1のオリゴ糖に対する予め決定された飽和限界付近である。飽和限界は、比較的多量の第1のオリゴ糖を有する試料を樹脂に通し、樹脂を通過する量を測定することにより決定できる。飽和限界は、初期量から樹脂を通過する量を引いたものとして計算される。
【0052】
一実施形態では、混合物における第1のオリゴ糖の量は、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に関する第1のオリゴ糖に対する予め決定された飽和限界の約80~120%、例えば、85%、90%、95%、100%、105%、110%又は115%である。
【0053】
供給溶液おいて、第1のオリゴ糖より強い酸、典型的には無機酸が存在すると、工程b)で使用される弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂の遊離塩基官能基を占有する可能性がある。しかしながら、それらの量がわずかである場合、例えば、第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖の混合物が酵素反応(上記参照)から得られ、カルボン酸基を含む第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖をプロトン化形態に変換するために、工程a)が、強酸性イオン交換樹脂(H-形態にて)又は工程a)で使用される強酸が過剰に塗布されずに使用されて実施される場合、それらの存在は、本発明の工程b)の分離効果に実質的に影響しない。
【0054】
一実施形態では、工程a)で得られた水溶液の形態のpHが設定された混合物を、計算された量の弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂、好ましくはジビニルベンゼンが架橋されたポリスチレン骨格を有し、水で溶出する弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂を充填したカラムの上部に充填することができる。第1のオリゴ糖は、樹脂の遊離塩基性官能基への吸着により弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に結合し、第2のオリゴ糖(任意に存在する他の中性オリゴ糖とともに)は、樹脂を通過し溶出液として収集される。
【0055】
別の実施形態では、工程a)で得られた水溶液の形態のpHが設定された混合物を、計算された量の弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂、好ましくはジビニルベンゼンが架橋されたポリスチレン骨格を有する弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂と、容器中で撹拌下又は撹拌せずに、実質的に全ての第1のオリゴ糖が樹脂の遊離塩基性官能基への吸着により弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に結合するまで、接触させる。第2のオリゴ糖(任意に存在する他の中性オリゴ糖とともに)は、溶液中に残る。次いで、第1のオリゴ糖が結合した樹脂は、第2のオリゴ糖を含む溶液(濾液)から、例えば、濾過によって分離される。工程b)で得られることができる濾液と溶出液の両方を、第2のオリゴ糖に富む(水性)溶液と呼ぶことができる。
【0056】
任意に、本発明の工程b)を実施し、第2のオリゴ糖に富む溶液を収集した後、次いで第1のオリゴ糖を、適切な第2の溶出液で、例えば、希釈アンモニア溶液で、又は第1のオリゴ糖より強い酸である酸、好ましくはHClなどの無機酸の溶液で、連続又はバッチモードにて、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂から溶出させることができる。従って、第1のオリゴ糖は、十分な純度で第2のオリゴ糖から分離されることができ、シロップの形態にて、又は例えば、結晶化、沈殿、噴霧乾燥、凍結乾燥により単離されることができる。
【0057】
当業者は、条件によっては、若干量の第1のオリゴ糖が弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に結合しない場合があること、及び/又は若干量の第2のオリゴ糖が弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に結合する場合があることを理解する。従って、第1のオリゴ糖の第2のオリゴ糖からの完全な分離は達成できなくても、第1のオリゴ糖の少なくとも大部分は、第2のオリゴ糖の少なくとも大部分から分離されることができる。これに関して、第2のオリゴ糖に富む画分は、工程b)の最後に収集されることができ、その後、第1のオリゴ糖の少なくとも濃縮された画分は、第2の溶出液で弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂から洗浄除去されることができる。
【0058】
[任意の工程c)]
本発明による方法は、第1のオリゴ糖と第2のオリゴ糖を分離するのに役立つ。第1のオリゴ糖は、典型的には、他の供給源から高純度で入手可能であるが、本発明の方法は、ゲルクロマトグラフィー又は分取HPLCなどの、低処理量のクロマトグラフィー法を必要とするような純度での第2のオリゴ糖の単離を可能にする。従って、本発明の方法の一実施形態では、工程b)から得られた第2のオリゴ糖を含みそれに富んだ溶液を収集し、そこから第2のオリゴ糖を単離することができる。
【0059】
一実施形態では、第2のオリゴ糖は、シロップの形態にて、又は結晶化、沈殿、噴霧乾燥、凍結乾燥等を含む当技術分野で公知の方法により、工程b)で得られた水溶液から直接単離されることができる。
【0060】
他の実施形態では、第2のオリゴ糖は、更に精製され、次いで工程b)で得られた水溶液から単離されることができる。従って、前述の水溶液を塩基性アニオン交換樹脂、好ましくは塩基形態で弱塩基性アニオン交換樹脂に塗布して又はそれと接触させて、オリゴ糖が樹脂に結合することを確実にする。任意の工程c)で塗布される弱塩基性イオン交換樹脂は、先の工程b)で塗布された弱塩基性イオン交換樹脂と同一であっても同一でなくてもよい。好ましくは、工程c)で塗布される弱塩基性イオン交換樹脂は、工程b)で塗布される弱塩基性イオン交換樹脂と同一ではない。より好ましくは、工程c)で塗布される弱塩基性アニオン交換樹脂は、ゲルタイプである。更により好ましくは、ゲルタイプの弱塩基性アニオン交換樹脂は、ポリアクリル樹脂である。
【0061】
本発明による方法の初期混合物は、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1及び第2のオリゴ糖を少なくとも含む。加えて又、混合物は、カルボン酸基を含まないオリゴ糖(「中性オリゴ糖」)を更に含む。本発明による方法の工程c)では、工程b)で得られた溶液が、第2のオリゴ糖に加えて、中性オリゴ糖も含む場合、中性オリゴ糖は樹脂に結合しないが、第2のオリゴ糖は結合するので、中性オリゴ糖は、第2のオリゴ糖から都合よく分離される。中性オリゴ糖を含む溶出液又は濾液(工程c)をクロマトグラフィーで行う又はバッチモードで行うかによって異なる)を収集した後、次いで結合した第2のオリゴ糖を、適切な溶離液で、例えば、希釈アンモニア溶液で、又は第2のオリゴ糖より強い酸である酸、好ましくはHClなどの無機酸の溶液で、塩基性樹脂から溶出させることができる。
【0062】
本発明による方法の工程a)がプロトン化されたカチオン交換樹脂を用いて実施される場合、工程a)及びb)は、工程a)からの溶出液を工程b)の樹脂に直接通過させることにより、溶出液画分の中間的な収集なしに都合よく実施することができる。同様に、工程c)が必要な場合、工程b)からの溶出液を工程c)の樹脂に直接通すと都合よくあり得る。従って、本発明による方法の一実施形態では、溶出液画分の中間的な収集なしに工程が実施される。
【0063】
下記では、番号付けした本発明の態様を提供する:
【0064】
態様1.少なくとも1つのカルボン酸基を含む第1のオリゴ糖を、少なくとも1つのカルボン酸基を含む少なくとも1つの前述の第1のオリゴ糖と、少なくとも1つのカルボン酸基を含む第2のオリゴ糖とを含む混合物から分離する方法であって、前述の第1のオリゴ糖は、第2のオリゴ糖より少なくとも1つ少ない単糖単位を含み、
a)前述の混合物を、第1及び第2のオリゴ糖のカルボン酸基の少なくとも90%がプロトン化(酸)形態で存在することを確実にするpHレベルで溶媒、好ましくは水において供給する工程と、
b)工程a)の混合物を、遊離塩基形態の弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂と接触させ、これにより第2のオリゴ糖に富む水溶液を提供する工程と、を含む方法。
【0065】
態様2.オリゴ糖は、シアル化人乳オリゴ糖、好ましくはモノシアル化人乳オリゴ糖である、態様1に記載の方法。
【0066】
態様3.マクロ多孔性樹脂は、ポリスチレン骨格構造を含み、好ましくはジビニルベンゼンで架橋されている、態様1又は2に記載の方法。
【0067】
態様4.工程b)において弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂と接触させた工程a)の混合物は、弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂に関する第1のオリゴ糖に対する予め決定された飽和限界付近の量、好ましくは予め決定された飽和限界の80~120%の量で第1のオリゴ糖を含む、態様1~3のいずれかに記載の方法。
【0068】
態様5.第1及び第2のオリゴ糖の混合物は、第1のオリゴ糖、及びカルボン酸基を含まない前駆体オリゴ糖基質にトランスシアリダーゼを添加することによって調製される、態様2~4のいずれかに記載の方法。
【0069】
態様6.工程c)において、第2のオリゴ糖に富み、前駆体オリゴ糖を含む工程b)で得られた水溶液を、アニオン交換樹脂、好ましくは遊離塩基形態の弱塩基性アニオン交換樹脂と接触させる、態様5の方法。
【0070】
態様7.弱塩基性アニオン交換樹脂は、ゲルタイプである、態様6に記載の方法。
【0071】
態様8.工程a)におけるpHは、1.5~3である、態様1~7のいずれかに記載の方法。
【0072】
態様9.第1のオリゴ糖は、3’-シアリルラクトースであり、第2のオリゴ糖は、FSL(3-O-フコシル-3’-O-シアリルラクトース)、LST-a(シアリルラクト-N-テトラオースa)、F-LST-a(Neu5Acα(2-3)-Galβ(1-3)-[Fucα(1-4)-]GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glc))又はNeu5Acα(2-3)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glcである、態様1~8のいずれかに記載の方法。
【0073】
態様10.第1のオリゴ糖は、6’-シアリルラクトースであり、第2のオリゴ糖は、LST-c(シアリルラクト-N-テトラオースc)、F-LST-c(Neu5Acα(2-6)-Galβ(1-4)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-[Fucα(1-3)-]Glc))又はNeu5Acα(2-6)-Galβ(1-3)-GlcNAcβ(1-3)-Galβ(1-4)-Glcである、態様1~8のいずれかに記載の方法。
【0074】
[実施例]
[実施例1-LST-cの酵素反応及び精製]
本質的に国際公開第2016/199071号パンフレットの実施例1に従って、LNnT(136ミリモル)及び6’-SL(72ミリモル)を、その中で開示されたそのシグナルペプチド(Δ2-15)によって切断されたフォトバクテリウム・レイオグナチ(photobacterium leiognathi)JT-SHIZ-119シアリルトランスフェラーゼのA218Y-N222R-G349S-S412P-D451K変異体の存在下で反応させた。精製及び凍結乾燥後、以下の混合物を得た:LNnT(45.2重量%)、6’-SL(16.3重量%)、LST-c(31.4重量%)及びラクトース(9.6重量%)。この混合物を水に溶解して、3.6ブリックス(Brix)(°Bx)溶液を得、樹脂1からの溶出液が、樹脂2のカラムの上部に直接導かれ、その溶出液が、樹脂3のカラムの上部に直接導かれるように、様々なイオン交換樹脂を充填した相互に連結した3つのカラムを通過させた。樹脂1は、Dowex88(H-形態の強酸性カチオン交換樹脂(SAC))であり、樹脂2及び3は、弱塩基性アニオン交換樹脂(WBA1:マクロ多孔性ポリスチレン-DVB樹脂であるDowex66、及びWBA2:ポリアクリルゲルタイプの樹脂であるAmberlite FPA53、いずれも遊離塩基形態である)であった。LNnTとラクトースは、樹脂のいずれにも結合しなかった。WBA1樹脂は、5ミリモルの6’-SL/100ml樹脂に相当するように使用した。6’-SLは、WBA1に選択的に結合し、LST-cは、WBA2に選択的に結合した。その後、カラムを切り離した。0.5M HCl溶液を用いてWBA2からLST-cを溶出させ、NaOH溶液でpHを4.8に調整した。この溶液をナノろ過で脱塩した。LST-cを凍結乾燥により単離し(24.5g)、純度は91.4%であった(LNnT 0.3重量%、6’-SL 2.9重量%、ラクトースなし)。
【0075】
[実施例2-LST-aの酵素反応及び精製]
基本的に国際公開第2016/157108号パンフレットに従い、LNT(134ミリモル)と3’-SL(70ミリモル)をクルーズトリパノソーマ(T.cruzi)由来のα2,3-トランスシアリダーゼ(TcTS)の存在下で反応させた。精製後、以下の混合物をブリックス4.0溶液の形態で得た:LNT(42.1重量%)、3’-SL(10.3重量%)、LST-a(24.2重量%)及びラクトース(10.3重量%)。溶液を、樹脂1からの溶出液が樹脂2のカラムの上部に直接導かれ、その溶出液が樹脂3のカラムの上部に直接導かれるように、様々なイオン交換樹脂を充填した相互に連結した3つのカラムを通過させた。樹脂1は、Dowex88(H-形態の強酸性カチオン交換樹脂(SAC))であり、樹脂2及び3は、弱塩基性アニオン交換樹脂(WBA1:マクロ多孔性ポリスチレン-DVB樹脂であるDowex66、及びWBA2:ポリアクリルゲルタイプの樹脂であるAmberlite FPA53、いずれも遊離塩基形態)であった。LNTとラクトースは、樹脂のいずれにも結合しなかった。WBA樹脂を、5ミリモルの3’-SL/100ml樹脂に対応するように使用した。3’-SLは、WBA1に選択的に結合し、LST-aは、WBA2に選択的に結合した。その後、カラムを切り離した。0.5M HCl溶液を用いてWBA2からLST-aを溶出させ、NaOH溶液でpHを約6に調整した。この溶液をナノろ過で脱塩した。LST-aを凍結乾燥により単離し(38.4g)、純度は91.4%であった(LNT 0.5重量%、3’-SL 0.6重量%、ラクトースなし)。
【0076】
[実施例3-マクロ多孔性ポリスチレン-DVB弱塩基性アニオン(遊離アミン)樹脂を用いたLST-c、6’-SL、LNnT及びラクトースの混合物からのLST-cの濃縮]
LST-c 13.09g/l、6’-SL 5.92g/l、LNnT 17.74g/l及びラクトース4.64g/lを含む凍結乾燥混合物10gを水(240ml)に溶解し、<5°Bxの溶液を得た。供給組成物をサンプリングし、HPLCで分析し、各成分の量を決定した。
【0077】
強酸性イオン交換樹脂DOWEX88H(40ml)と弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂(遊離塩基)LEWATIT MP62(40ml)を直列に連結し、供給溶液を充填した。純水を溶離液として使用して、50mlの画分を収集し、合計16画分を収集した。
【0078】
画分をTLCでスポットし、溶離液として、AcCN:NH3:水(6:3:1)を用いて評価した。画分2~5は、LST-cを含まず、別々にプールされた。画分6~8は、LST-c、LNnT及びラクトースの混合物を含むことが示され、別々にプールされた。画分9~13は、純粋なLST-cを含むことが示され、別々にプールされた。
【0079】
プールされた画分にてpHをチェックし、典型的には1M NaOH溶液で4~5.5に調整した。プールされた画分のHPLC分析結果を以下に要約する:
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例4-マクロ多孔性ポリスチレン-DVB弱塩基性アニオン(遊離アミン)樹脂を使用したLST-c、6’-SL、LNnT及びラクトースの混合物からのLST-cの濃縮]
Dowex 88H(50ml)と弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂(遊離塩基)Dowex 77(50ml)を使用して、240mlの水に12gの凍結乾燥混合物を入れて実施例3を繰り返した。同じ溶離液を用いてTLCを行い、画分1~4は、LST-cをわずかな量しか含まないことを示し、別々にプールされた。画分5~16は、LST-c、LNnT及びラクトースの混合物を含むことを示し、別々にプールされた。
【0082】
プールされた画分にてpHをチェックし、1M NaOHで4~5.5に調整した。プールされた画分のHPLC分析結果を以下に要約する:
【0083】
【表2】
【0084】
[実施例5-マクロ多孔性ポリスチレン-DVB弱塩基性アニオン(遊離アミン)樹脂を用いたLST-c、6’-SL、LNnT及びラクトースの混合物からのLST-cの濃縮]
Dowex 88H(50ml)と弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂(遊離塩基)DIAION WA 30(50ml)を用いて、240mlの水に12gの凍結乾燥混合物を入れて実施例3を繰り返した。同じ溶離液を用いてTLCを行い、画分2~6は、LST-cの存在を示さず、別々にプールされた。画分7~14は、LST-c、LNnT及びラクトースの混合物を含むことを示し、別々にプールされた。
【0085】
プールされた画分にてpHをチェックし、1M NaOHで4~5.5に調整した。プールされた画分のHPLC分析結果を以下に要約する:
【0086】
【表3】
【0087】
[実施例6-弱塩基性マクロ多孔性アニオン樹脂の結合容量の決定]
強酸性イオン交換樹脂Dowex 88H(200ml)と弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂(遊離塩基)Dowex 66(200ml)を直列に連結し、13.0gの3’-SLと13.0gの6’-SLを1lの水に溶解した供給溶液を酸性イオン交換カラムに充填した。第2のカラム(Dowex 66)から溶出した合計14の画分を収集し、TLCでチェックした。
【0088】
Dowex 66に結合しているため、3’-SLと6’-SLは、最初の画分からは検出されなかった。Dowex 66の結合容量に達すると、3’-SLと6’-SLが溶出し始めた(画分6から)。溶出した3’-SLと6’-SLを含む画分6~14を収集した。画分をイオンクロマトグラフィー(IC)によって分析した。
【0089】
分析によると、画分6~14は、8gのシアリルラクトースを含み、従って18gのシアリルラクトースが、Dowex 66によって吸着された(Dowex 66の100mlあたり約15ミリモル)。画分6~14の組成に基づいて、3’-SLは、6’-SLよりもDowex 66にわずかに強く結合した。
【0090】
[実施例7-弱塩基性マクロ多孔性アニオン樹脂における3’-SLとLST-aの分離]
強酸性イオン交換樹脂Dowex 88H(25ml)と弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂(遊離塩基)Dowex 66(25ml)を充填した2本のカラムを、それぞれ直列に連結した。
【0091】
23.6重量/重量%の3’-SL及び73.9重量/重量%のLST-aを含む凍結乾燥粉末から充填溶液を調製し、この場合、3’-SLの量は、実施例6に基づくDowex 66の結合容量(即ち、約15ミリモル/100ml)に相当した。これに関して、供給溶液は、約3.7ミリモルの3’-SLを含む必要があった。従って、10.0gの上記凍結乾燥粉末(従って、3.7ミリモルの3’-SL及び7.4ミリモルのLST-aを含む)を190mlの水に溶解した。この溶液を酸性イオン交換カラムに充填し、第2のカラム(Dowex 66)から溶出した画分を収集した(45~50ml)。流速は、毎時2総容積であった。
【0092】
画分をICによって分析した。画分の内容物を下表に要約する:
【0093】
【表4】
【0094】
組み合わされた画分2~6では、LST-a/3’-SLの比は、10:1であった。従って、弱塩基性マクロ多孔性アニオン樹脂におけるLST-a/3’-SL混合物のクロマトグラフィーでは、LST-a/3’-SLのモル比は、2:1から10:1に改善した。
【0095】
[実施例8-弱塩基性マクロ多孔性アニオン樹脂における6’-SLとLST-cの分離]
強酸性イオン交換樹脂Dowex 88H(25ml)と弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂(遊離塩基)Dowex 66(25ml)を充填した2本のカラムを、それぞれ直列に連結した。
【0096】
22.0重量/重量%の6’-SL(5.2ミリモル)と33.3重量/重量%のLST-c(5.0ミリモル)を含む凍結乾燥粉末15.0gを285gの水に溶解して充填溶液を調製した。この溶液を酸性イオン交換カラムに充填し、第2のカラム(Dowex 66)から溶出した画分を収集した(45~50ml)。流速は、毎時2総容積であった。
【0097】
画分をICによって分析した。画分の内容物を下表に要約する:
【0098】
【表5】
【0099】
この実験では、6’-SLの量(20.8ミリモル/100ml)がDowex 66の結合容量(15ミリモル/100ml)を約40%上回った。従って、Dowex 66が飽和した後、結合していない6’-SLが溶出し始めた。それにもかかわらず、画分2~6は、LST-cを濃縮された比で含んだ。
【0100】
[実施例9-弱塩基性マクロ多孔性アニオン樹脂における3’-SLとFSLの分離]
強酸性イオン交換樹脂Dowex 88H(25ml)と弱塩基性マクロ多孔性アニオン交換樹脂(遊離塩基)Dowex 66(25ml)を充填した2本のカラムを、それぞれ直列に連結した。
【0101】
15.9重量/重量%の3’-SL及び27.5重量/重量%のFSLを含む凍結乾燥粉末から充填溶液を調製し、この場合、3’-SLの量は、実施例6に基づくDowex 66の結合容量(即ち、約15ミリモル/100ml)に相当した。これに関して、供給溶液は、約3.7ミリモルの3’-SLを含む必要があった。従って、15.0gの上記凍結乾燥粉末(従って、3.8ミリモルの3’-SL及び5.3ミリモルのFSLを含む)を285gの水に溶解した。この溶液を酸性イオン交換カラムに充填し、第2のカラム(Dowex 66)から溶出した画分を収集した(45~50ml)。流速は、毎時2総容積であった。
【0102】
画分をICによって分析した。画分の内容物を下表に要約する:
【0103】
【表6】
【0104】
組み合わされた画分2-7では、FSL/3’-SLの比は、5.6:1であった。従って、弱塩基性マクロ多孔性アニオン樹脂におけるFSL/3’-SL混合物のクロマトグラフィーでは、FSL/3’-SLのモル比は、2:1から5.6:1に改善した。
【国際調査報告】