(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】生物学的治療薬を製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231220BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20231220BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231220BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A61K39/395 M
A61K39/395 J
A61K38/16
A61K35/17
A61K38/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535839
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 US2021063641
(87)【国際公開番号】W WO2022132982
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョー,ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ジュベール,マリサ・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】クレーマン,ゲルト・リヒャルト
(72)【発明者】
【氏名】トクダ,ジョシュア・エム
(72)【発明者】
【氏名】リーダー,ノエル・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ナルヒ,リンダ・アウアース
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジョンチイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ユンロン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA06
4C084BA03
4C084BA22
4C084NA20
4C084ZC80
4C085AA14
4C085DD90
4C087AA01
4C087BB37
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA20
4C087ZC80
(57)【要約】
生物学的治療薬を製造する方法が説明されている。この方法は、製剤中の生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出すること、貯蔵条件下での分子属性の変化率を決定すること、及び前記投与時に対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定することを含み得る。分子属性を含む生物学的治療薬の製造ロットであって、分子属性暴露の推定レベルに基づいて、分子属性の許容レベルの指定の規格以下で分子属性を含む製造ロットを製造し得る。生物学的治療薬の製造プロセスを開発する方法が説明されている。生物学的治療薬の分子属性の臨床的影響を評価する方法が説明されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的治療薬を製造する方法であって、
貯蔵条件下での1つ又は複数の時点にて、製剤中の前記生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出すること;
前記貯蔵条件下での前記分子属性の変化率を決定すること;
前記生物学的治療薬が投与されている対象に関して、前記生物学的治療薬のインビボでの安全性及び/又は有効性に関するデータを得ること:
(i)前記製剤中の前記生物学的治療薬の貯蔵中における前記分子属性の変化率、及び(ii)前記製剤中の前記生物学的治療薬が前記投与前に前記貯蔵条件下であった期間に基づいて、前記投与時に前記対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定すること;
前記分子属性暴露の推定レベルと、前記生物学的治療薬に関する前記安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定すること;
並びに
前記相関関係が存在しない場合には、前記分子属性暴露の推定レベルに基づいて、前記分子属性の指定の許容レベル以下で、前記分子属性を含む前記生物学的治療薬の製造ロットを製造すること
を含む方法。
【請求項2】
前記相関関係が存在する場合には、前記方法は、製造時での前記分子属性のレベルの規格を、前記生物学的治療薬の前記分子属性の最大許容レベルを超えないように設定することを更に含み、
前記分子属性の前記最大許容レベルは、前記生物学的治療薬の有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベルに基づいており、
前記製造することは、前記最大許容レベルを超える前記分子属性のレベルを含む前記生物学的治療薬の製造ロットを拒絶することを更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分子属性の前記指定の最大許容レベルを、対象中での有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない前記分子属性暴露の最高推定レベルの90~100%以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
生物学的治療薬の製造プロセスを開発する方法であって、
貯蔵条件下での1つ又は複数の時点にて、製剤中の前記生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出すること;
前記貯蔵条件下での前記分子属性の変化率を決定すること;
前記生物学的治療薬が投与されている対象中での前記生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性に関するデータを得ること:
(i)前記製剤中の前記生物学的治療薬の貯蔵中における前記分子属性の変化率、及び(ii)前記製剤中の前記生物学的治療薬が前記投与前に前記貯蔵条件下であった期間に基づいて、前記投与時に前記対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定すること;
前記分子属性暴露の推定レベルと、前記生物学的治療薬の前記安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定すること;
並びに
(a)前記相関関係が存在しない場合には、前記分子属性暴露の推定レベルに基づいて、指定の許容レベル以下で前記分子属性のレベルを生じるように前記製造プロセスを確立するか;
又は
(b)前記相関関係が存在する場合には、前記生物学的治療薬の有害事象及び/若しくは有効性の阻害と関連しない前記分子属性の最高レベルに基づいて、前記分子属性の指定の最大許容レベル以下で前記分子属性のレベルを生じるように前記製造プロセスを確立すること
を含む方法。
【請求項5】
生物学的治療薬の分子属性の臨床的影響を評価する方法であって、
貯蔵条件下での1つ又は複数の時点にて、製剤中の前記生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出すること;
前記貯蔵条件下での前記分子属性の変化率を決定すること;
前記生物学的治療薬が投与されている対象中での前記生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性に関するデータを得ること:
(i)前記製剤中の前記生物学的治療薬の貯蔵中における前記分子属性の変化率、及び(ii)前記製剤中の前記生物学的治療薬が前記投与前に前記貯蔵条件下であった期間に基づいて、前記投与時に前記対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定すること;
前記推定の分子属性暴露と、前記生物学的治療薬の前記安全性及び/又は有効性との間の相関関係の有無を決定すること;
(a)前記相関関係が存在しない場合には、前記分子属性が前記生物学的治療薬の臨床的な安全性にも有効性にも影響を及ぼさないと決定すること、
又は
(b)前記相関関係が存在する場合には、前記分子属性が前記生物学的治療薬の安全性及び/若しくは有効性に影響を及ぼすと決定すること
を含む方法。
【請求項6】
(a)前記相関関係が存在していない場合には、前記方法は、前記生物学的治療薬の前記分子属性の許容レベルの規格を設定することを更に含み、前記分子属性の前記許容レベルは、前記対象が受けた分子属性暴露の最高推定レベルに基づいているか、
又は
(b)前記相関関係が存在する場合には、前記方法は、前記生物学的治療薬の前記分子属性の最大許容レベルの規格を設定することを更に含み、前記分子属性の前記最大許容レベルは、前記生物学的治療薬の有害事象及び/若しくは有効性の阻害と関連する前記分子属性のレベルに基づいている、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記推定することは、(iii)前記投与における前記生物学的治療薬の用量、並びに(iv)製造時及び/又はロットの引き渡し時に測定された前記分子属性の量に更に基づいている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記製剤中の前記生物学的治療薬の前記分子属性のレベルを、貯蔵条件下での2つ以上の時点で検出する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ若しくは複数の時点、又は2つ以上の時点は、製造時、及びその後の少なくとも2つの時点を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記分子属性暴露のレベルを推定することは、計算:
【数1】
(式中、A
tは、前記分子属性暴露の推定レベルであり、%A
0は、ロットの引き渡し時での前記分子属性の割合であり、%A
Δiは、所与の貯蔵条件下での経時的な前記分子属性レベルの割合の変化率であり、t
iは、前記所与の条件での貯蔵時間であり、Dは、前記投与の用量強度である)
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記分子属性暴露のレベルを推定することは、計算:
【数2】
(式中、%A
rel.は、投与量に対する前記分子属性暴露の相対レベルの割合であり、A
tは、方程式1又は2を使用して算出された前記分子属性暴露のレベルであり、Dは、それぞれの処置と関連する有効医薬成分の重量の次元での用量強度である)
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記相関関係は、属性暴露と、有害事象の発生との間の加重相関関係を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記製剤中の前記生物学的治療薬は、様々な対象への投与において様々な期間にわたり前記貯蔵条件下であった、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記投与は、2回以上の投与事象を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記投与時に前記対象が受けた前記分子属性暴露の推定レベルは、2回以上の投与事象の最大値又は平均値である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記投与は、連続注入を含み、前記推定することは、24時間間隔等の、前記連続注入の2つ以上の間隔の最中での分子属性暴露の推定レベルを計算することを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記安全性のデータは、有害事象のデータを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記安全性のデータは、有害事象の経時変化を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記有効性のデータは、臨床的エンドポイントのデータを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記分子属性は、酸性種、塩基性種、高分子量種、非可視粒子数、低分子量、中分子量、グリコシル化(例えば、非グリコシル化重鎖又は高マンノース)、非重鎖及び軽鎖、脱アミド化、脱アミノ化、環化、酸化、異性化、断片化/クリッピング、N末端バリアント及びC末端バリアント、還元種及び部分種、折り畳み構造、表面疎水性、化学修飾、共有結合、C末端アミノ酸モチーフPARG、又はC末端アミノ酸モチーフPAR-アミドの内の少なくとも1つを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記分子属性は、酸性種、塩基性種、高分子量種、アミノ酸異性体、又は非可視粒子数の内の少なくとも1つを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記生物学的治療薬は、抗体、抗原結合抗体断片、抗体タンパク質生成物、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))分子、二重特異性抗体、三重特異性抗体、Fc融合タンパク質、組換えタンパク質、組換えウイルス、組換えT細胞、合成ペプチド、及び組換えタンパク質の活性断片からなる群から選択される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記製剤は、薬学的に許容される製剤である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出することは、質量分析、クロマトグラフィー、電気泳動、分光法、光遮蔽、粒子法(例えば、ナノ粒子/可視/ミクロンサイズの共鳴質量、若しくはブラウン運動)、分析的遠心分離、画像化若しくは画像特性評価、又は免疫測定を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記分子属性暴露の推定レベルと、前記生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定することは、ベイジアン推定を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「Methods of Manufacturing Biological Therapies」という表題の、2020年12月16日に出願された米国仮特許出願第63/126,274号明細書、及び「Methods of Manufacturing Biological Therapies」という表題の、2021年9月9日に出願された米国仮特許出願第63/242,395号明細書の利益を主張しており、これらのそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書の実施形態は、生物学的治療薬を製造する方法、及び生物学的治療薬(biological therapy)の分子属性(molecular attribute)のレベルに関する。
【背景技術】
【0003】
生物学的分子(例えば、治療用タンパク質)の天然の構造又は化学的性質は、この分子の環境内の変化に応じて適応するか、又は変化する。他の生物学的治療薬(例えば、核酸治療薬、及び細胞ベースの治療薬)も、その環境内の変化を受ける可能性がある。この構造又は化学的性質での柔軟性は、全てではないにしてもほとんどの生物学的分子及び細胞の生物学的機能に必要とされているが、この柔軟性はまた、医薬用途の生物学的治療薬の開発及び製造の最中に多くの課題も提示する。例えば、治療用タンパク質は、患者に投与されるまでに多くのプロセス工程中の様々な条件に耐える。多くのプロセス工程には、例えば、タンパク質の生産(例えば、組換え生産)、回収、精製、処方、充填、包装、貯蔵、配送、及び患者への投与直前の最終調製の内の1つ又は複数が含まれる。これらの工程のそれぞれの最中に、治療用タンパク質は、その構造又は化学的性質が変化し得るか又は変化し得ない1つ又は複数の環境に置かれる。この構造又は化学的性質の変化は、異種製品を生じる生物学的治療薬の様々な種の形成をもたらし得る。一部の種は、これらの標的に結合する能力を保持し、従って治療効力を維持するが、他のものは、標的結合能力を失い、そのため機能的に不活性になる。これらの生物学的治療薬の品質管理を最大化し且つ維持するために、バイオ医薬品産業は、一部の種は活性を失うが他のものは活性を保持する理由を理解しようと多くの努力を注いできた。
【0004】
分子属性は、治療用生物学的分子の物理化学的特性を定義し、従って、薬物の安全性及び有効性に影響を及ぼし得る。薬物の品質にとって重要な属性(即ち、重要品質属性(CQA))のレベルは、広範な規制当局の審査による認可を必要とする製品純度規格により明確に定義される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施形態によれば、生物学的治療薬を製造する方法が説明されている。この方法は、貯蔵条件下での1つ又は複数の時点にて、製剤中のこの生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出することを含み得る。この方法は、貯蔵条件下でのこの分子属性の変化率を決定することを含み得る。この方法は、生物学的治療薬が投与されている対象に関して、この生物学的治療薬のインビボでの安全性及び/又は有効性に関するデータを得ることを含み得る。この方法は、(i)製剤中の生物学的治療薬の貯蔵中における分子属性の変化率、及び(ii)製剤中の生物学的治療薬がこの生物学的治療薬の投与前に貯蔵条件下であった期間に基づいて、この生物学的治療薬の投与時に前記対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定することを含み得る。この方法は、分子属性暴露の推定レベルと、生物学的治療薬に関する安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定することを含み得る。この相関関係が存在しない場合には、この方法は、分子属性暴露の推定レベルに基づいて、分子属性の指定の許容レベル以下で、分子属性を含む生物学的治療薬の製造ロットを製造することを含み得る。この相関関係が存在する場合には、この方法は、製造時での分子属性のレベルの規格を、生物学的治療薬の分子属性の最大許容レベルを超えないように設定することを更に含み得る。この分子属性の最大許容レベルは、生物学的治療薬の有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベルに基づき得る。製造することは、最大許容レベルを超える分子属性のレベルを含む生物学的治療薬の製造ロットを拒絶することを更に含み得る。場合によっては、分子属性の指定の最大許容レベルを、対象中での有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベルの90~100%以下である、保存終了(end-of-shelf)時の属性暴露のレベルを生じるように算出する。
【0006】
いくつかの実施形態によれば、生物学的治療薬の製造プロセスを開発する方法。この方法は、貯蔵条件下での1つ又は複数の時点にて、製剤中のこの生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出することを含み得る。この方法は、貯蔵条件下でのこの分子属性の変化率を決定することを含み得る。この方法は、生物学的治療薬が投与されている対象中での生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性に関するデータを得ることを含み得る。この方法は、(i)製剤中の生物学的治療薬の貯蔵中における分子属性の変化率、及び(ii)製剤中の生物学的治療薬がこの生物学的治療薬の投与前に貯蔵条件下であった期間に基づいて、この生物学的治療薬の投与時に対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定することを含み得る。この方法は、分子属性暴露の推定レベルと、生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定することを含み得る。(a)この相関関係が存在しない場合には、この方法は、分子属性暴露の推定レベルに基づいて、指定の許容レベル以下で分子属性のレベルを生じるように製造プロセスを確立することを含み得る。又は、(b)この相関関係が存在する場合には、この方法は、生物学的治療薬の有害事象及び/若しくは有効性の阻害と関連しない分子属性の最高レベルに基づいて、分子属性の指定の最大許容レベル以下で分子属性のレベルを生じるように製造プロセスを確立することを含み得る。
【0007】
いくつかの実施形態によれば、生物学的治療薬の分子属性の臨床的影響を評価する方法が説明されている。この方法は、貯蔵条件下での1つ又は複数の時点にて、製剤中のこの生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出することを含み得る。この方法は、貯蔵条件下でのこの分子属性の変化率を決定することを含み得る。この方法は、生物学的治療薬が投与されている対象中での生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性に関するデータを得ることを含み得る。この方法は、(i)製剤中の生物学的治療薬の貯蔵中における分子属性の変化率、及び(ii)製剤中の生物学的治療薬が前記投与前に貯蔵条件下であった期間に基づいて、この生物学的治療薬の投与時に対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定することを含み得る。この方法は、推定の分子属性暴露と、生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性との間の相関関係の有無を決定することを含み得る。(a)相関関係が存在しない場合には、この方法は、分子属性が生物学的治療薬の臨床的な安全性にも有効性にも影響を及ぼさないと決定することを含み得る。又は、(b)相関関係が存在する場合には、分子属性が生物学的治療薬の安全性及び/若しくは有効性に影響を及ぼすと決定することを含み得る。場合によっては、(a)相関関係が存在しない場合には、この方法は、生物学的治療薬の分子属性の許容レベルの規格を設定することを更に含み得、この分子属性の許容レベルは、対象が受けた分子属性暴露の最高推定レベルに基づいている。又は、(b)相関関係が存在する場合には、この方法は、生物学的治療薬の分子属性の最大許容レベルの規格を設定することを更に含み得、この分子属性の最大許容レベルは、生物学的治療薬の有害事象及び/若しくは有効性の阻害と関連する分子属性のレベルに基づいている。
【0008】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、推定することは、(iii)前記投与における生物学的治療薬の用量、並びに(iv)製造時及び/又はロットの引き渡し時に測定された分子属性の量に更に基づき得る。
【0009】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、製剤中の生物学的治療薬の分子属性のレベルを、貯蔵条件下での2つ以上の時点で検出し得る。
【0010】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、1つ若しくは複数の時点、又は2つ以上の時点は、製造時、及びその後の少なくとも2つの時点を含み得る。
【0011】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、分子属性暴露のレベルを推定することは、算出:
【数1】
(式中、A
tは、分子属性暴露の推定レベルであり、%A
0は、ロットの引き渡し時での分子属性の割合であり、%A
Δiは、所与の貯蔵条件下での経時的な分子属性レベルの割合の変化率であり、t
iは、所与の条件での貯蔵時間であり、Dは、投与の用量強度である)
を含み得る。
【0012】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、分子属性暴露のレベルを推定することは、算出:
【数2】
(式中、%A
rel.は、投与量に対する分子属性暴露の相対レベルの割合であり、A
tは、方程式1又は2を使用して算出された分子属性暴露のレベルであり、Dは、それぞれの処置と関連する有効医薬成分の重量の次元での用量強度である)
を含み得る。
【0013】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、相関関係は、属性暴露と、有害事象の発生との間の加重相関関係(weighted correlation)を含み得る。
【0014】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、分子属性暴露の推定レベルと、生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定することは、ベイジアン推定を含み得る。
【0015】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、製剤中の生物学的治療薬は、様々な対象への投与において様々な期間にわたり貯蔵条件下であり得る。
【0016】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、(生物学的治療薬の)投与は、2回以上の投与事象を含み得る。場合によっては、(生物学的治療薬の)投与時に対象が受けた分子属性暴露の推定レベルは、2回以上の投与事象の最大値又は平均値であり得る。
【0017】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、(生物学的治療薬の)投与は、連続注入を含み得、推定することは、24時間間隔等の、この連続注入の2つ以上の間隔の最中での分子属性暴露の推定レベルを算出することを含み得る。
【0018】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、安全性のデータは、有害事象のデータを含み得る。場合によっては、安全性のデータは、有害事象の経時変化を含み得る。
【0019】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、有効性のデータは、臨床的エンドポイントのデータを含み得る。
【0020】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、分子属性は、酸性種、塩基性種、高分子量種、非可視粒子数、低分子量、中分子量、グリコシル化(例えば、非グリコシル化重鎖又は高マンノース)、非重鎖及び軽鎖、脱アミド化、脱アミノ化、環化、酸化、異性化、断片化/クリッピング、N末端バリアント及びC末端バリアント、還元種及び部分種、折り畳み構造、表面疎水性、化学修飾、共有結合、C末端アミノ酸モチーフPARG、又はC末端アミノ酸モチーフPAR-アミドの内の少なくとも1つを含み得る。本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、分子属性は、酸性種、塩基性種、高分子量種、アミノ酸異性体、又は非可視粒子数の内の少なくとも1つを含み得る。
【0021】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、生物学的治療薬は、抗体、抗原結合抗体断片、抗体タンパク質生成物、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))分子、二重特異性抗体、三重特異性抗体、Fc融合タンパク質、組換えタンパク質、組換えウイルス、組換えT細胞、合成ペプチド、及び組換えタンパク質の活性断片からなる群から選択され得る。
【0022】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、製剤は、薬学的に許容される製剤であり得る。本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、対象(又は患者)は、ヒト対象(又はヒト患者)であり得る。
【0023】
本明細書で説明されている方法の内のいずれかに関して、生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出することは、質量分析、クロマトグラフィー、電気泳動、分光法、光遮蔽、粒子法(例えば、ナノ粒子/可視/ミクロンサイズの共鳴質量、若しくはブラウン運動)、分析的遠心分離、画像化若しくは画像特性評価、又は免疫測定を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本明細書の実施形態に従って属性の臨床的影響(CIA)を決定するための算出及び統計アプローチの構成要素を示す一連のグラフである。
【
図1B】本明細書の実施形態に従って属性の臨床的影響(CIA)を決定するための算出及び統計アプローチの構成要素を示す一連のグラフである。
【
図1C】本明細書の実施形態に従って属性の臨床的影響(CIA)を決定するための算出及び統計アプローチの構成要素を示す一連のグラフである。
【
図2A】本明細書の実施形態に従ってmAb A(
図1A)及びmAb B(
図1B)の属性によるADAへの影響を示す一連のグラフである。
図2Bのそれぞれのグラフでは、ADA陰性患者の結果が左側に示されており、ADA陽性患者の結果が右側に示されている。
【
図2B】本明細書の実施形態に従ってmAb A(
図1A)及びmAb B(
図1B)の属性によるADAへの影響を示す一連のグラフである。
図2Bのそれぞれのグラフでは、ADA陰性患者の結果が左側に示されており、ADA陽性患者の結果が右側に示されている。
【
図3A】本明細書の実施形態に従うmAb A(
図3A)及びmAb B(
図3B)の属性に関するADA発生率のCIA分析(代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象)を示す一連のグラフである。
【
図3B】本明細書の実施形態に従うmAb A(
図3A)及びmAb B(
図3B)の属性に関するADA発生率のCIA分析(代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象)を示す一連のグラフである。
【
図4A】本明細書の実施形態に従うmAb A(
図4A)及びmAb B(
図4B)の属性に関するADA経時変化のCIA分析(代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象)を示す一連のグラフである。
【
図4B】本明細書の実施形態に従うmAb A(
図4A)及びmAb B(
図4B)の属性に関するADA経時変化のCIA分析(代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象)を示す一連のグラフである。
【
図5A】mAb Bに対するADA応答と代表的なA
t(処置実施時の属性暴露の量)との間の関連を示す一連のグラフである。
図5Aのそれぞれのグラフでは、ADA陽性患者に関する全ての処置の結果が左側に示されており、ADA陰性患者に関する全ての処置の結果が中央に示されており、ADA陽性患者に関するADA関連処置のための全ての処置の結果が右側に示されている。
【
図5B】mAb Bに対するADA応答と代表的なA
t(処置実施時の属性暴露の量)との間の関連を示す一連のグラフである。
図5Aのそれぞれのグラフでは、ADA陽性患者に関する全ての処置の結果が左側に示されており、ADA陰性患者に関する全ての処置の結果が中央に示されており、ADA陽性患者に関するADA関連処置のための全ての処置の結果が右側に示されている。
【
図5C】mAb Bに対するADA応答と代表的なA
t(処置実施時の属性暴露の量)との間の関連を示す一連のグラフである。
図5Aのそれぞれのグラフでは、ADA陽性患者に関する全ての処置の結果が左側に示されており、ADA陰性患者に関する全ての処置の結果が中央に示されており、ADA陽性患者に関するADA関連処置のための全ての処置の結果が右側に示されている。
【
図6】処置における因子のADAへの影響を示す一連のグラフである。
図6のそれぞれのグラフでは、ADA陰性患者の結果が左側に示されており、ADA陽性患者の結果が右側に示されている。
【
図7A】レトロスペクティブに既知の臨床転帰によりグループ分けされたCIA分析対象(
図7A)を示し、且つ代表的なAtに従ってグループ分けされた対象に関して、mAb Aの属性によるADAへの影響の発生率(
図7B)を示す一連のグラフである。
図7Aのそれぞれのグラフでは、ADA陰性患者の結果が左側に示されており、ADA陽性患者の結果が右側に示されている。
【
図7B】レトロスペクティブに既知の臨床転帰によりグループ分けされたCIA分析対象(
図7A)を示し、且つ代表的なAtに従ってグループ分けされた対象に関して、mAb Aの属性によるADAへの影響の発生率(
図7B)を示す一連のグラフである。
図7Aのそれぞれのグラフでは、ADA陰性患者の結果が左側に示されており、ADA陽性患者の結果が右側に示されている。
【
図8】進行段階の臨床試験(Advanced-Stage Clinical Study)を使用するmAb Aの属性によるADAへの影響に関するレトロスペクティブに既知の臨床転帰によりグループ分けされた対象のCIA分析を示すグラフである。
【
図9】mAb Bの属性によるADAへの影響に関する、代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象で分析された代表的なA
tとして使用された平均の又は最大のA
tを示すグラフである。
【
図10A】6種の有害事象への、標準的なBiTE(登録商標)分子である製品Cの分子属性及び効力の影響の評価例を示すグラフである。
図10Aのグラフのそれぞれでは、それぞれのX軸値のカテゴリー(0、>0~15、又は>15)に関して、有害事象がない患者を左側に示し、有害事象がある患者を右側に示す。
図10Bのグラフのそれぞれでは、それぞれのX軸値のカテゴリー(0、>0~15、又は>15)に関して、有害事象がないか又はG≦2である患者を左側に示し、有害事象がG≧3である患者を右側に示す。
【
図10B】6種の有害事象への、標準的なBiTE(登録商標)分子である製品Cの分子属性及び効力の影響の評価例を示すグラフである。
図10Aのグラフのそれぞれでは、それぞれのX軸値のカテゴリー(0、>0~15、又は>15)に関して、有害事象がない患者を左側に示し、有害事象がある患者を右側に示す。
図10Bのグラフのそれぞれでは、それぞれのX軸値のカテゴリー(0、>0~15、又は>15)に関して、有害事象がないか又はG≦2である患者を左側に示し、有害事象がG≧3である患者を右側に示す。
【
図11A】ベイジアン推定を利用しない本明細書で説明されている方法を使用した(
図11A~B)、及びベイジアン推定を利用する本明細書で説明されている方法を使用した(
図11C~D)、発熱への高分子量(HMW)種の影響の分析を示す一連のグラフである。
【
図11B】ベイジアン推定を利用しない本明細書で説明されている方法を使用した(
図11A~B)、及びベイジアン推定を利用する本明細書で説明されている方法を使用した(
図11C~D)、発熱への高分子量(HMW)種の影響の分析を示す一連のグラフである。
【
図11C】ベイジアン推定を利用しない本明細書で説明されている方法を使用した(
図11A~B)、及びベイジアン推定を利用する本明細書で説明されている方法を使用した(
図11C~D)、発熱への高分子量(HMW)種の影響の分析を示す一連のグラフである。
【
図11D】ベイジアン推定を利用しない本明細書で説明されている方法を使用した(
図11A~B)、及びベイジアン推定を利用する本明細書で説明されている方法を使用した(
図11C~D)、発熱への高分子量(HMW)種の影響の分析を示す一連のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で説明されているのは、生物学的治療薬(例えば、治療用タンパク質、核酸、又は細胞を含む治療薬)を製造する方法であり、この生物学的治療薬の安全性及び有効性は、対象への属性暴露のレベルを制限することにより制御される。生物学的治療薬の製造ロットが製造され後、この生物学的治療薬は、対象に投与される前に、一定期間にわたり製剤中で貯蔵されることになる。この貯蔵期間中に、この生物学的治療薬の分子属性のレベルが変化する場合がある。加えて、分子属性のレベルは、例えば、最初の細胞培養と生物学的治療薬の最終医薬品との間の異なる製造段階での分子属性レベルの差違を反映して、様々な製造ロットの間で異なる場合がある。例えば、酸性種、塩基性種、高分子量種、アミノ酸異性体、又は非可視粒子等の属性のレベルが上昇する場合がある。そのような属性は、生物学的治療薬の有効性の低下を引き起こす場合があり、及び/又は生物学的治療薬が投与されている対象に有害事象を引き起こす場合がある。本明細書で説明されているように、貯蔵中での分子属性のレベルの変化をモデル化し得る。生物学的治療薬の製造ロットの製造時の分子属性のレベル、製剤中の生物学的治療薬が対象への投与前に貯蔵されている期間、貯蔵中での分子属性の変化率、及び生物学的治療薬の投与量に基づいて、対象への投与時の分子属性のレベルを算出し得る。更に、投与時の分子属性の実際のレベルが、有害事象又は有効性の喪失と関連していない場合には、この分子属性のレベルは安全であり且つ有効であると決定し得る。従って、本明細書で説明されている方法を使用して、生物学的治療薬の製造ロットを、投与時に安全であり且つ有効であると見なされるレベルに基づいて、指定のレベル以下で製造し得る。
【0026】
分子属性の臨界及び製造規格は、従来の方法を使用して決定されているが、従来の方法で決定された分子属性の臨界及び規格は、臨床的関連をわずかしか示し得ないことが企図される。この臨界は、一般的に、非ヒトモデル系を使用して調査されており、規格限界は、製造及び貯蔵時に合理的に達成可能な低レベルの属性を反映している。或いは、事前知識又は臨床経験アプローチでは、属性は、この属性を含む他の医薬品に関して臨床的帰結がほとんど観察されない場合には重要ではないと提案されている。しかしながら、このアプローチは、属性の影響における製品固有のばらつきの可能性を無視している。また、有害事象は、属性により引き起こされ得、且つこの事象を引き起こすのに十分な高レベルの属性を含むロットが、ロット間のばらつきに起因して診療所であまり流通していない場合には、依然として稀であるように思われ得る。
【0027】
本明細書で説明されている方法は、所与の属性への患者暴露の推定される実際のレベルと、臨床試験及び製品品質分析試験からのデータを分析することによる臨床転帰の発生の程度との間に相関関係が存在するかどうかを試験するデータ分析アプローチを利用し得る。このアプローチは、属性の臨床的影響(CIA)と称され得る。本明細書で説明されている方法は、実際の臨床データ、及び生物学的治療薬が投与される時点での属性暴露のレベルの評価を利用する。この方法は、分子属性の影響の現実的な評価を提供し、属例レベルの決定に非ヒトモデル系を利用しており且つ投与時の属性暴露を説明してない従来のアプローチの欠点を克服している。
【0028】
分子属性
「分子属性」及びこの語源用語の変形は、本開示を考慮して当業者に理解されるだろうこの通常の慣習的な意味を有する。これは、タンパク質又は核酸等の高分子上の化学的に又は物理的に変化した構造を指しており、その物理化学的同一性又は属性タイプ、及び高分子の配列内の位置(例えば、この属性が存在しているアミノ酸の位置)の観点で特徴付けられ得る。例えば、アスパラギン残基及びグルタミン残基は、脱アミド化に対する感受性を示す。治療用タンパク質アミノ酸配列の10位での脱アミド化アスパラギンは、属性の一例である。例示的な分子属性タイプは、本明細書で説明されている。簡潔さのために、分子属性は、本明細書では単に「属性」と称され得る。薬物の品質にとって重要な属性(即ち、重要品質属性(CQA))のレベルは、製品の純度規格により明確に定義され得る。この規格は、典型的には、広範な規制当局の審査による認可を必要とする。いくつかの実施形態では、規格により、生物学的治療薬の製造における1種又は複数種の分子属性の許容レベルが設定され得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、分子属性は、酸性種、塩基性種、高分子量種、非可視粒子数、低分子量、中分子量、グリコシル化(例えば、非グリコシル化重鎖又は高マンノース)、非重鎖及び軽鎖、脱アミド化、脱アミノ化、環化、酸化、異性化、断片化/クリッピング、N末端バリアント及びC末端バリアント、還元種及び部分種、折り畳み構造、表面疎水性、化学修飾、共有結合、C末端アミノ酸モチーフPARG、又はC末端アミノ酸モチーフPAR-アミドの内の1つ又は複数を含むか、又はからなる。
【0030】
PARGは、代替スプライシングの結果として起こり得る抗体の代替C末端バリアントである。これは、4つのアミノ酸(プロリン、アラニン、アルギニン、グリシン)を表しており、「AR」は、基準のIgG2 C末端配列に遺伝的に挿入されていた。PAR-アミドは、PARGの更なるプロセシングにより生じる別のC末端バリアントである。これは、PARGで終わる抗体の切断されたC末端グリシンを指しており、C末端アルギニン上にアミド基が残っている。
【0031】
いくつかの実施形態では、分子属性は、酸性種、塩基性種、高分子量種、アミノ酸異性体、又は非可視粒子数の内の少なくとも1つを含むか、又はからなる。
【0032】
分子属性のレベルを検出するための技術
分子属性を検出するための任意の好適な分析技術を、本明細書で説明されている方法と共に使用し得る。分子属性を検出するための技術として、質量分析、クロマトグラフィー、電気泳動、分光法、光遮蔽、粒子法(ナノ粒子/可視/ミクロンサイズの共鳴質量、若しくはブラウン運動)、分析的遠心分離、画像化及び画像特性評価、並びに免疫測定が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
分子属性を検出するための例示的な技術として、下記が挙げられる:還元及び非還元ペプチドマッピング(化学修飾を検出し得る)、クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、例えば、カチオン交換クロマトグラフィー(CEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、親和性クロマトグラフィー、例えば、プロテインA-カラムクロマトグラフィー、又は逆相(RP)クロマトグラフィー)、キャピラリ等電点電気泳(cIEF)、キャピラリゾーン電気泳動(CZE)、フリーフロー分画(FFF)、又は超遠心分離(UC)、HIAC(例えば、非可視粒子数の検出用)、MFI(例えば、非可視粒子の数及び形態の検出用)、可視検査(可視粒子)、SDS-PAGE(例えば、断片、共有結合凝集体の検出用)、色分析(Trp Ox)、rCE-SDS及びnrCE-SDS(例えば、部分分子である断片の検出用)、ナノ粒子サイジング法、分光法(例えば、FTIR、CD、自家蛍光、又はANS色素結合)、エルマンのアッセイ(遊離スルフヒドリル)、SEC-MALS、HILIC(糖鎖マップ)、及びELISA(例えば、HCPの検出用)。
【0034】
生物学的治療薬
本明細書で使用される場合、「生物学的治療薬」及びこの語源用語の変形は、本開示を考慮して当業者に理解されるだろうこの通常の慣習的な意味を有する。これは、生物学的高分子(例えば、遺伝子治療薬、治療用タンパク質、核酸、ウイルス、若しくは細胞、又はこれらの一部)を含む治療用組成物を指す。
【0035】
本明細書で説明されている方法では、生物学的治療薬は、抗体、抗原結合抗体断片、抗体タンパク質生成物、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))分子、二重特異性抗体、三重特異性抗体、Fc融合タンパク質、組換えタンパク質、組換えウイルス、組換えT細胞、合成ペプチド、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、及び組換えタンパク質の活性断片からなる群から選択され得る。
【0036】
「抗体」は、本開示を考慮して当業者に理解されるこの慣習的な通常の意味を有する。これは、標的抗原に特異的に結合する任意のアイソタイプの免疫グロブリンを指しており、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び完全ヒト抗体が挙げられる。例として、抗体は、モノクローナル抗体であり得る。例として、ヒト抗体は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4サブタイプを含む)、IgA(IgA1及びIgA2サブタイプを含む)、IgM、並びにIgEを含む任意のアイソタイプのものであり得る。ヒトIgG抗体は、一般に、2本の完全長重鎖及び2本の完全長軽鎖を含むことになる。抗体は、単一の供給源のみに由来してもよいし、「キメラ」であってもよく、即ち、この抗体の異なる部分が、同じ又は異なる種からの2種以上の異なる抗体に由来してもよい。抗体が供給源から得られると、この抗体は、例えば、安定性及びフォールディングを増強するために、更なる操作を受け得ることが理解されるだろう。従って、「ヒト」抗体は、ある供給源から得られ得、次いで例えばFc領域中で更なる操作を受け得ることが理解されるだろう。操作された抗体は、依然として、ヒト抗体の一種と称され得る。同様に、ヒト抗体のバリアント(例えば、親和性成熟したもの)も、別途明記されない限り、「ヒト抗体」であると理解されるだろう。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、又はキメラモノクローナル抗体を含むか、から本質的になるか、又はからなる。
【0037】
抗原結合タンパク質(例えば抗体)の「重鎖」は、可変領域(「VH」)と、3つの定常領域:CH1、CH2、及びCH3とを含む。本明細書で説明されている抗原結合タンパク質に適した例示的な重鎖定常領域(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4定常領域)を、
図9A~Bに示す。抗原結合タンパク質(例えば抗体)の「軽鎖」は、可変領域(「VL」)と、定常領域(「CL」)とを含む。ヒト軽鎖は、カッパ鎖及びラムダ鎖を含む。本明細書で説明されている抗原結合タンパク質に適した例示的な軽鎖定常領域(例えば、ヒトラムダ定常領域及びヒトカッパ定常領域)を、
図9Cに示す。
【0038】
様々な態様では、生物学的治療薬は、抗体タンパク質生成物である。本明細書で使用される場合、「抗体タンパク質生成物」という用語は、様々な例において、抗体の構造に基づくが天然には見出されないいくつかの抗体代替物の内のいずれか1つを指す。いくつかの態様では、抗体タンパク質生成物は、少なくとも約12~150kDaの範囲内の分子量を有する。ある特定の態様では、抗体タンパク質生成物は、更に高次の価数ではない場合には、単量体(n=1)から二量体(n=2)、三量体(n=3)、四量体(n=4)までの価数(n)範囲を有する。抗体タンパク質生成物は、一部の態様では、完全な抗体構造に基づくもの、及び/又は完全な抗原結合能を保持する抗体断片を模倣するものであり、例えば、scFv、Fab、及びVHH/VH(後述する)である。完全な抗原結合部位を保持する最小の抗原結合抗体断片は、専ら可変(V)領域からなるFv断片である。可溶性で柔軟なアミノ酸ペプチドリンカーを使用して、V領域をscFv(一本鎖断片可変)断片に連結させて分子を安定化させるか、又は定常(C)ドメインをV領域に加えてFab断片[断片、抗原結合性]を生成する。scFv断片及びFab断片はいずれも、宿主細胞(例えば原核生物宿主細胞)中で容易に産生され得る。他の抗体タンパク質生成物として、下記が挙げられる:ジスルフィド結合安定化scFv(ds-scFv)、一本鎖Fab(scFab)、並びにオリゴマー化ドメインに連結されたscFvからなる様々な型を含む、ダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディ、又はミニボディ(ミニAb)のような二量体抗体型及び多量体抗体型。最小の断片は、ラクダ科動物重鎖Ab及び単一ドメインAb(sdAb)のVHH/VHである。新規の抗体型を作製するために最も頻繁に使用される構築ブロックは、約15個のアミノ酸残基のペプチドリンカーにより連結された重鎖及び軽鎖由来のVドメイン(VHドメイン及びVLドメイン)を含む一本鎖可変(V)-ドメイン抗体断片(scFv)である。ペプチボディ又はペプチド-Fc融合体は、更に別の抗体タンパク質生成物である。ペプチボディの構造は、Fcドメインにグラフト化された生物学的に活性なペプチドからなる。ペプチボディは、当該技術分野で十分に説明されている。例えば、Shimamoto et al.,mAbs 4(5):586-591(2012)を参照されたい。
【0039】
本明細書で説明されている方法に適した生物学的治療薬として、ポリペプチドが挙げられ得、例えば、下記の内の1つ又は複数に結合するものが挙げられ得る:これらとして、CDタンパク質、例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD22、CD30、及びCD34;例えば、受容体結合を妨害するものが挙げられる。HER受容体ファミリタンパク質、例えば、HER2、HER3、HER4、及びEGF受容体。細胞接着分子、例えば、LFA-I、MoI、pl50、95、VLA-4、ICAM-I、VCAM、及びα v/β 3インテグリン。成長因子、例えば、血管内皮増殖因子(「VEGF」)、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、ミュラー管阻害物質、ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP-Iα)、エリスロポエチン(EPO)、神経成長因子、例えばNGF-β、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子、例えば、aFGF及びbFGF、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、例えば、特に、TGF-α及びTGF-β、例えば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、又はTGF-β5、インスリン様成長因子-I及びII(IGF-I及びIGF-II)、des(l-3)-IGF-I(脳IGF-I)、並びに骨誘導因子。インスリン及びインスリン関連タンパク質、例えば、インスリン、インスリンA鎖、インスリンB鎖、プロインスリン、及びインスリン様成長因子結合タンパク質。凝固及び凝固関連タンパク質、例えば、特に、第VIII因子、組織因子、フォン・ヴィレブランド因子、プロテインC、α-1-アンチトリプシン、プラスミノーゲン活性化因子、例えば、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲン活性化因子(「t-PA」)、ボンバジン(bombazine)、トロンビン、及びトロンボポエチン;(vii)アルブミン、IgE、及び血液型抗原が挙げられるがこれらに限定されない他の血液タンパク質及び血清タンパク質。コロニー刺激因子及びその受容体、特に、M-CSF、GM-CSF、及びG-CSF、並びにこれらの受容体、例えばCSF-1受容体(c-fms)。受容体及び受容体関連タンパク質、例えば、flk2/flt3受容体、肥満(OB)受容体、LDL受容体、成長ホルモン受容体、トロンボポエチン受容体(「TPO-R」、「c-mpl」)、グルカゴン受容体、インターロイキン受容体、インターフェロン受容体、T細胞受容体、幹細胞因子受容体、例えば、c-Kit、及び他の受容体。受容体リガンド、例えば、OX40受容体のリガンドであるOX40L。神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、及びニューロトロフィン-3、-4、-5、又は-6(NT-3、NT-4、NT-5、又はNT-6)。リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、及びプロリラキシン;インターフェロン及びインターフェロン受容体、例えば、インターフェロン-α、-β、及び-γ、並びにこれらの受容体。インターロイキン及びインターロイキン受容体、特に、IL-1~IL-33及びIL-1~IL-33受容体(例えばIL-8受容体)。ウイルス抗原、例えば、AIDSエンベロープウイルス抗原。リポタンパク質、カルシトニン、グルカゴン、心房性ナトリウム利尿因子、肺界面活性物質、腫瘍壊死因子アルファ及びベータ、エンケファリナーゼ、RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted)、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、DNAse、インヒビン、及びアクチビン。インテグリン、プロテインA又はD、リウマチ因子、免疫毒素、骨形成タンパク質(BMP)、スーパーオキシド・ジスムターゼ、表面膜タンパク質、崩壊促進因子(DAF)、HIVエンベロープ、輸送タンパク質、ホーミング受容体、アドレシン、調節タンパク質、イムノアドヘシン、抗体。ミオスタチン、TALLタンパク質、例えば、TALL-I、アミロイドタンパク質、例えば、限定されないが、アミロイドβタンパク質、胸腺間質性リンパ球新生因子(「TSLP」)、RANKリガンド(「RANKL」又は「OPGL」)、c-kit、TNF受容体、例えば、TNF受容体1型、TRAIL-R2、アンジオポエチン、及び前述の内のいずれかの生物学的に活性な断片又は類似体又はバリアント。
【0040】
本明細書で説明されている方法に適した生物学的治療薬の例として、下記が挙げられる:抗体、例えば、インフリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、ラニビズマブ、パリビズマブ、アバゴボマブ、アブシキシマブ、アクトクスマブ、アダリムマブ、アフェリモマブ、アフツズマブ、アラシズマブ、アラシズマブペゴル、ald518、アレムツズマブ、アリロクマブ、アルツモマブ、アマツキシマブ、アナツモマブマフェナトクス、アンルキンズマブ、アポリズマブ、アルシツモマブ、アセリズマブ、アルチヌマブ(altinumab)、アトリズマブ、アトロリムマブ、トシリズマブ、バピヌズマブ、バシリキシマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベマリツズマブ、ベンラリズマブ、ベルチリムマブ、ベシレソマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ビシロマブ、ビバツズマブ、ビバツズマブメルタンシン、ブリナツモマブ、ブロソズマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブリアキヌマブ、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カンツズマブメルタンシン、カンツズマブメルタンシン、カプラシズマブ、カプロマブペンデチド、カルルマブ、カツマキソマブ、cc49、セデリズマブ、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、シタツズマブボガトクス、シクスツムマブ、クラザキズマブ、クレノリキシマブ、クリバツズマブテトラキセタン、コナツムマブ、クレネズマブ、cr6261、ダセツズマブ、ダクリズマブ、ダロツズマブ、ダラツムマブ、デミシズマブ、デノスマブ、デツモマブ、ドルリモマブアリトクス、ドロジツマブ、デュリゴツマブ、デュピルマブ、エクロメキシマブ、エクリズマブ、エドバコマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エフングマブ、エロツズマブ、エルシリモマブ、エナバツズマブ、エンリモマブペゴル、エノキズマブ、エノチクマブ、エンシツキシマブ、エピツモマブシツキセタン、エピラツズマブ、エレヌマブ、エルリズマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、エトロリズマブ、エボロクマブ、エキシビビルマブ、ファノレソマブ、ファラリモマブ、ファルレツズマブ、ファシヌマブ、fbta05、フェルビズマブ、フェザキヌマブ、フィクラツズマブ、フィギツムマブ、フランボツマブ、フォントリズマブ、フォラルマブ、フォラビルマブ、フレソリムマブ、フルラヌマブ、フツキシマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ガンテネルマブ、ガビリモマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゲボキズマブ、ギレンツキシマブ、グレムバツムマブベドチン、ゴリムマブ、ゴミリキシマブ、gs6624、イバリズマブ、イブリツモマブチウキセタン、イクルクマブ、イゴボマブ、イムシロマブ、イムガツズマブ、インクラクマブ、インダツキシマブラブタンシン、インフリキシマブ、インテツムマブ、イノリモマブ、イノツズマブオゾガマイシン、イピリムマブ、イラツムマブ、イトリズマブ、イキセキズマブ、ケリキシマブ、ラベツズマブ、レブリキズマブ、レマレソマブ、レルデリムマブ、レキサツムマブ、リビビルマブ、リゲリズマブ、リンツズマブ、リリルマブ、ロルボツズマブメルタンシン、ルカツムマブ、ルミリキシマブ、マパツズマブ、マスリモマブ、マブリリムマブ、マツズマブ、メポリズマブ、メテリムマブ、ミラツズマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モガムリズマブ、モロリムマブ、モタビズマブ、モキセツモマブパスドトクス、ムロモナブ-cd3、ナコロマブタフェナトクス、ナミルマブ、ナプツモマブエスタフェナトクス、ナルナツマブ、ナタリズマブ、ネバクマブ、ネシツムマブ、ネレリモマブ、ネスバクマブ、ニモツズマブ、ニボルマブ、ノフェツモマブメルペンタン、オカラツズマブ、オクレリズマブ、オデュリモマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オロキズマブ、オマリズマブ、オナルツズマブ、オポルツズマブモナトクス、オレゴボマブ、オルチクマブ、オテリキシズマブ、オキセルマブ、オザネズマブ、オゾラリズマブ、パジバキシマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、パノバクマブ、パルサツズマブ、パスコリズマブ、パテクリズマブ、パトリツマブ、ペムツモマブ、ペラキズマブ、ペルツズマブ、パキセリズマブ、ピジリズマブ、ピンツモマブ、プラクルマブ、ポネズマブ、プリリキシマブ、プリツムマブ、PRO 140、クイリズマブ、ラコツモマブ、ラドレツマブ、ラフィビルマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レガビルマブ、レスリズマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロバツムマブ、ロレデュマブ、ロモソズマブ、ロンタリズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、サマリズマブ、サリルマブ、サツモマブペンデチデ、セクキヌマブ、セビルマブ、シブロツズマブ、シファリムマブ、シルツキシマブ、シムツズマブ、シプリズマブ、シルクマブ、ソラネズマブ、ソリトマブ、ソネプシズマブ、ソンツズマブ、スタムルマブ、スレソマブ、スビズマブ、タバルマブ、タカツズマブテトラキセタン、タドシズマブ、タリズマブ、タネズマブ、タプリツモマブパプトクス、テフィバズマブ、テリモマブアリトクス、テナツモマブ、テフィバズマブ、テネリキシマブ、テプリズマブ、テプロツムマブ、テゼペルマブ、TGN1412、トレメリムマブ、チシリムマブ、チルドラキズマブ、チガツズマブ、TNX-650、トシリズマブ、トラリズマブ、トシツモマブ、トラロキヌマブ、トラスツズマブ、TRBS07、トレガリズマブ、ツコツズマブセルモロイキン、ツビルマブ、ウブリツキシマブ、ウレルマブ、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ、バパリキシマブ、バテリズマブ、ベドリズマブ、ベルツズマブ、ベパリモマブ、ベセンクマブ、ビジリズマブ、ボロシキシマブ、ボルセツズマブマフォドチン、ボツムマブ、ザルツムマブ、ザノリムマブ、ザツキシマブ、ジラリムマブ、又はゾリモマブアリトクス。
【0041】
いくつかの実施形態では、生物学的治療薬は、BiTE(登録商標)分子である。BiTE(登録商標)分子は、癌細胞に対してT細胞の細胞傷害活性を指示する操作された二重特異性抗原結合構築物である。これは、約55キロダルトンの単一ペプチド鎖上の様々な抗体の2つの単鎖可変断片(scFv)又は4種の異なる遺伝子由来のアミノ酸配列の融合である。scFvの一方は、CD3受容体を介してT細胞に結合し、他方は、腫瘍特異的分子を介して腫瘍細胞に結合する。ブリナツモマブ(BLINCYTO(登録商標))は、CD19に対して特異的であるBiTE(登録商標)分子の一例である。改変されているBiTE(登録商標)分子(例えば、半減期を延長するように改変されているもの)も、本開示の方法で使用し得る。様々な態様では、ポリペプチドは、抗原結合性タンパク質であり、例えば、BiTE(登録商標)分子である。いくつかの実施形態では、抗体タンパク質生成物は、BiTE(登録商標)分子を含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、生物学的治療薬は、製剤中に存在している。この製剤は、薬学的に許容される製剤であり得る。この製剤は、生物学的治療薬を、薬学的に許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存料、及び/又はアジュバントと一緒に含み得る。
【0043】
本明細書で説明されている生物学的治療薬のための許容される製剤材料は、好ましくは、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに無毒である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、例えば、この組成物のpH、モル浸透圧濃度、粘度、透明度、色、等張性、匂い、無菌状態、安定性、溶解又は放出の速度、吸着又は浸透性を修正するか、維持するか、又は保存するための製剤材料を含み得る。そのような実施形態では、適切な製剤材料として下記が挙げられるが、これらに限定されない:アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリシン);抗菌剤;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、又は亜硫酸水素ナトリウム);緩衝剤(例えば、ホウ酸塩、重炭酸塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩、又は他の有機酸);増量剤(例えば、マンニトール又はグリシン);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA));錯化剤(例えば、カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ-シクロデキストリン、又はヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン);充填剤;単糖類;二糖類;及び他の炭水化物(例えば、グルコース、スクロース、マンノース、又はデキストリン);タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン);着色、香味及び希釈剤;乳化剤;親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);低分子量ポリペプチド;塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);保存料(例えば、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸、又は過酸化水素);溶媒(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、又はポリエチレングリコール);糖アルコール(例えば、マンニトール又はソルビトール);懸濁剤;界面活性剤又は湿潤剤(例えば、プルロニック、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパール);安定性促進剤(例えば、スクロース又はソルビトール);等張化促進剤(例えば、アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウム又は塩化カリウム、マンニトールソルビトール);送達ビヒクル;希釈剤;賦形剤、及び/又は医薬アジュバント。例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18’’Edition,(A.R.Genrmo,ed.),1990,Mack Publishing Companyを参照されたい。
【0044】
本製剤に好適なビヒクル又は担体は、注射用水、生理食塩水溶液、又は人工脳脊髄液であり得、場合により非経口投与用組成物で一般的な他の材料が補充される。中性緩衝生理食塩水、又は血清アルブミンと混合された生理食塩水は、更なる例示的なビヒクルである。特定の実施形態では、医薬組成物は、約pH7.0~8.5のトリス緩衝液、又は約pH4.0~5.5の酢酸塩緩衝液を含み、ソルビトール又はその適切な代替物を更に含んでもよい。
【0045】
製剤構成成分は、好ましくは、投与部位に許容可能な濃度で存在する。ある特定の実施形態では、緩衝液は、本組成物を、生理学的pH又はわずかに低いpH(典型的には約5~約8のpH範囲内)に維持するために使用される。約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、及び約8.0を含む。
【0046】
一部の生物学的治療薬は、直接的に又は自動注射器を介して、対象により自己投与され得、一部は、医療提供者等の別の個体により対象に投与され得ることが留意される。従って、対象への生物学的治療薬「の投与を受けている」又は「が投与されている」対象、及びこれらの語源用語の変形は、本明細書で使用される場合、(直接的に又は自動注射器等の装置を介して)対象により自身に自己投与され、及び/又は医療提供者等の他の個体により対象に投与される生物学的治療薬を指し得る。
【0047】
生物学的治療薬を製造する方法
本明細書で説明されている方法を使用して、分子属性が生物学的治療薬の有効性に影響を及ぼすかどうか、及び/又は生物学的治療薬の安全性プロファイルに影響を及ぼすかどうかを評価し得ることが企図される。この方法は、対象に生物学的治療薬が投与された時点での分子属性暴露の推定される実際のレベルを決定することを含み得る。そのような方法は、製造、ロットの引き渡し、及び/又は投与時に好適な分子属性のレベル又は範囲を特定し得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、生物学的治療薬を製造する方法が説明されている。この方法は、貯蔵条件下での1つ又は複数の時点にて(任意選択的に、貯蔵条件下での2つ以上の時点にて)、製剤中の生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出することを含み得る。任意選択的に、例えば、貯蔵時に分子属性が変化しない場合(例えば、冷凍保存されているある医薬品)には、1つの時点で分子属性のレベルを検出すれば十分であり得る。貯蔵中に変化し得る分子属性のレベルに関しては、貯蔵条件下での2つ以上の時点にて分子属性のレベルを検出することを使用して、本明細書で説明されている分子属性の変化率を算出し得ることが、更に企図される。例として、この時点は、製造時を含み得る。例として、この時点は、製造時と、少なくとも1つの他の時点とを含み得る。この方法は、貯蔵条件下での分子属性の変化率を決定することを含み得る(ある貯蔵条件下でのある生物学的治療薬(例えば、冷凍保存されているある生物学的治療薬)のある分子属性に関して、変化率をゼロとして算出し得ることが企図される)。この方法は、生物学的治療薬が投与されている対象に関して、この生物学的治療薬のインビボで安全性及び/又は有効性に関するデータを得ることを含み得る。この方法は、(i)貯蔵中における分子属性の変化率、及び(ii)製剤中の生物学的治療薬が前記投与前に貯蔵条件下であった期間に基づいて、前記投与時に対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定することを含み得る。この推定することはまた、(iii)製造時及び/若しくはロットの引き渡し時での分子属性のレベル、並びに/又は(iv)対象に投与される生物学的製剤の用量も考慮し得る。例として、この推定することは、方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用し得る。この方法は、対象が受ける分子属性暴露の推定レベルと、生物学的治療薬に関する安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定することを含み得る。相関関係が存在しない場合には、この方法は、分子属性暴露の推定レベルに基づいて、分子属性の指定の許容レベル以下で、この分子属性を含む生物学的治療薬の製造ロットを製造することを含み得る。例えば、この指定の許容レベルは、対象中での分子属性暴露の最高推定レベル以下である保存終了時の属性暴露のレベルをもたらすように算出される分子属性のレベルであり得る。例えば、この指定の許容レベルは、対象中での分子属性暴露の最高推定レベルの90~100%以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。従って、この許容レベルは、生物学的治療薬の保存期間全体を通して対象中で安全であり且つ有効であることが示されている属性暴露のレベルをもたらすと予想される。分子属性のレベルがこの指定の許容レベルを超える製造ロットは、拒絶される場合がある。
【0049】
相関関係が存在する場合には、この方法は、製造時での分子属性のレベルの規格を、生物学的治療薬の分子属性の最大許容レベルを超えないように設定することを更に含み得る。この分子属性の最大許容レベルは、生物学的治療薬の有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない、対象中での分子属性暴露の最高推定レベルに基づき得る。本製造する方法は、最大許容レベルを超える(従って規格外である)分子属性のレベルを含む生物学的治療薬の製造ロットを拒絶することを更に含み得る。分子属性のレベルが指定の最大許容レベルを超えない製造ロットは、受け入れられ得る。例えば、指定の最大許容レベルは、対象中での有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベル以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。この算出は、方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用し得、且つ貯蔵中における製剤中の分子属性の変化率、及び対象に投与される分子属性の用量を考慮し得る。例えば、指定の最大許容レベルは、対象中での有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベルの90~100%以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。
【0050】
本明細書で使用される場合、分子属性の「許容レベル」は、製造時に規定内である製剤中の生物学的治療薬の分子属性のレベルを指す。本明細書で説明されているように、この許容レベルを、有害事象及び/又は有効性の喪失と関連しなかった分子属性暴露の推定レベル(これは、属性暴露の推定レベルに「基づく」許容レベルと称され得る)以下である保存終了時又は期限切れ時での(製剤中の生物学的治療薬が投与されるであろう対象に対する)分子属性暴露の指定のレベルが生じるように算出し得る。そのため、分子属性の許容レベルは、たとえ保存終了又は期限切れに非常に近い日に投与されても、製剤中の生物学的治療薬からの分子属性暴露のレベルが、対象に投与された場合に安全であり且つ有効であるという確信をもたらし得る。「最大許容レベル」は、分子属性暴露の推定レベルと、安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係が存在する場合のシナリオを指す。「最大許容レベル」は、有害事象と関連しない分子属性暴露の最高レベル以下である保存終了時又は期限切れ時での(製剤中の生物学的治療薬が投与されるであろう対象に対する)分子属性暴露のレベルをもたらす製剤中の分子属性の最高レベルを指す。許容レベル又は最大許容レベルを、有害事象と関連しない属性暴露の推定レベル、保存終了又は期限切れまでの期間、及び分子属性のレベルの変化率、及び生物学的治療薬の用量に基づいて、方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用して算出し得る。即ち、有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しなかった分子属性暴露のレベル、製剤中の分子属性の変化率、及びこの期間を使用して、許容レベル(該当する場合、最大許容レベル)を決定し得る。そのため、生物学的治療薬が、許容レベル(該当する場合、最大許容レベル)以下の分子属性で製造される場合には、対象への投与時に、この対象への分子属性暴露の推定レベルが、有害事象及び/又は有効性の喪失と関連しないレベル以下であろうことが予想され得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、分子属性暴露の推定レベルに「基づく」許容レベル又は最大許容レベルは、保存終了時又は期限切れ時での分子属性の推定レベルを超えないように算出される許容レベル(又は最大許容レベル)を指す。複数回の用量が、製剤中の生物学的治療薬に好適な場合には、最高の好適用量を使用して、分子属性の推定レベルに「基づいて」許容レベル又は最大許容レベルを算出し得る(なぜならば、より低い用量は、分子属性暴露が更に低いレベルになるからである)。例として、属性暴露の推定レベルを、一群の対象に関して決定された推定の分子属性暴露レベルの分布又は広がりの信頼区間内に入るように選択し得る。対象が受ける属性暴露の推定レベルは、必ずしも全ての対象が同一の数値レベルの属性暴露を受けたことを暗示するわけではないことが企図される。むしろ、これらの対象が受ける属性暴露の推定レベルは、個々の対象が受ける推定属性レベルの分布を含み得る。そのため、少なくとも85%、90%、95%、97%、又は99%の確率で、保存終了時の属性暴露のレベルが、安全性又は有効性の喪失と関連しなかった属性暴露の最高レベル以下であるように、信頼区間を使用して最大許容レベルを選択し得る。分子属性暴露のレベルに「基づく」許容レベル又は最大許容レベルの実際の値が丸められ得ることが、更に企図される。分子属性の測定に好適な単位で有効数字1桁、2桁、又は3桁に丸める等の丸めることは、管理上の又は数学上の利便性を提供し得る。更なる注意として、この丸めることは、切り捨ての場合がある。例えば、属性暴露の推定レベルに「基づく」属性の許容レベル又は最大許容レベルを算出して、本明細書で説明されている方程式1又は2を使用して算出される分子属性の参照レベル(安全性及び/又は有効性の喪失と関連していなかった)の99%、97%、95%、90%、85%、又は80%以下である保存終了時での属性暴露のレベルが得られる。この切り捨てにより、保存終了での生物学的治療薬からの属性暴露のレベルが依然として安全であり及び/又は有効であるだろうことが更に保証され得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、製造ロットは、複数種の分子属性のレベルで製造されており、それぞれが、その許容(又は最大許容)レベル以下である。例えば、製造ロットは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種の分子属性(例えば、列挙された値の内の任意の2つの間の範囲、例えば、1~10、1~5、2~10、2~5、3~10、3~5、又は5~10種の分子属性)で製造され得、これらのそれぞれは、指定の許容(又は最大許容)レベル以下である。
【0053】
製造技術
本明細書で説明されている生物学的治療薬(例えば、治療用タンパク質)を製造する方法は、組換えDNA技術を利用し得る。抗体又は抗体タンパク質生成物等の治療用タンパク質を製造するための組換えDNA法は、周知である。DNAは、この治療用タンパク質をコードし得る。例えば、DNAは、抗体をコードし得、例えば、VHドメイン、VLドメイン、一本鎖可変断片(scFv)、又はこれらの断片及び組み合わせをコードするDNA(標的ポリヌクレオチド)を、好適な発現ベクター内に挿入し得、次いで、このベクターを、他の方法では抗体を産生しない好適な宿主細胞(例えば大腸菌(Escherichia coli)細胞、COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞)内にトランスフェクトして、所望の抗体を得ることができる。
【0054】
例えば、プロモーターに連結された標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する好適な発現ベクターは、当該技術分野で既知である。そのようなベクターは、抗体分子の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含み得、抗体の可変ドメインを、重鎖、全軽鎖、又は全重鎖及び軽鎖(又はこれらの断片)の両方を発現させるためにそのようなベクター内にクローン化し得る。この発現ベクターを、従来技術によって宿主細胞に転移させ得、トランスフェクト細胞を培養して抗体を産生させ得る。
【0055】
機能的抗体又は抗体断片等のタンパク質を発現し得るか又は発現するように操作されている任意の細胞株を使用し得る。例えば、好適な哺乳動物細胞株として、チャイニーズハムスター卵巣(CH)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、及びヒト上皮腎293細胞等の、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Manassas,VA)から入手可能な不死化細胞株が挙げられる。更に、細胞株又は宿主系を、抗体の正確な修飾及びプロセシングを保証するように選択し得る。遺伝子産物の一次転写産物、グリコシル化、及びリン酸化の適正なプロセシングのための細胞機構を有する真核宿主細胞を使用し得る。この真核宿主細胞として、CHO、VERY、BHK、Hela、COS、MDCK、293、3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT20、及びT47D、NS0(任意の機能的免疫グロブリン鎖を内生的には産生しないマウス骨髄腫細胞株)、SP20、CRL7030、及びHsS78Bst細胞が挙げられる。ヒトリンパ球を不死化することによって開発されたヒト細胞株も使用し得る。ヒト細胞株PER.C6(登録商標)(Janssen;Titusville,NJ)を使用して、モノクローナル抗体を組換え的に産生し得る。同様に使用され得る非哺乳動物細胞の例として、昆虫細胞(例えば、Sf21/Sf9、イラクサキンウワバ(Trichoplusia ni)Bti-Tn5bl-4)、又は酵母細胞(例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)(例えばS.セレビジアエ(S.cerevisiae)、ピチア(Pichia)属等)、植物細胞、又はニワトリ細胞が挙げられる。
【0056】
抗体等のタンパク質を、従来の方法を使用して細胞株内で安定に発現させ得る。安定性発現を、組換えタンパク質の長期で高収率の産生のために使用し得る。安定性発現のために、宿主細胞を、発現制御要素(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位等)を含む適切な操作ベクター及び選択性マーカー遺伝子で形質転換させ得る。高収率で安定性細胞株を製造する方法は、当該技術分野で既知であり、試薬は市販されている。一過性発現も、従来の方法を使用して実施し得る。
【0057】
抗体等のタンパク質を発現する細胞株を、細胞培養培地中で並びに抗体の発現及び産生を生じさせる培養条件下で維持し得る。細胞培養培地は、例えば、DMEM又はHamのF12等の市販の培地調製物に基づき得る。更に、細胞培養培地を改変して、細胞増殖及び生物学的タンパク質発現の両方の増加を支持し得る。当然ながら、細胞培養培地を、特定の細胞培養のために最適化し得、細胞増殖を促進するために処方される細胞培養増殖培地、又は組換えタンパク質産生を促進するために処方される細胞培養産生培地が挙げられる。
【0058】
多数の細胞培養培地、及び細胞培養栄養素、及びサプリメントが、公知である。例えば、好適な基本培地として、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、DME/F12、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI 1640、F-10、F-12、α-最小必須培地(α-MEM)、グラスゴーの最小必須培地(G-MEM)、PF CHO、及びイスコフ改変ダルベッコ培地が挙げられる。使用され得る基礎培地の他の例として、BME基礎培地、ダルベッコ改変イーグル培地が挙げられる。
【0059】
基礎培地は、この培地が血清(例えば、胎仔ウシ血清(FBS))を含有しないこと、又は動物性タンパク質非含有培地、又は化学的に定義された培地であることを意味する、血清非含有であり得る。基礎培地を改変して、例えば様々な無機及び有機バッファー、界面活性剤、及び塩化ナトリウム等の基礎培地中で見出されるある特定の非栄養成分を除去し得る。細胞培養培地は、(改変又は非改変)基礎細胞培地、及び下記:鉄源、組換え成長因子、バッファー;界面活性剤;オスモル濃度調整剤;エネルギー源;及び非動物性加水分解産物の内の少なくとも1つを含有し得る。更に、改変基礎細胞培地は、任意選択的に、アミノ酸、ビタミン類、又はアミノ酸及びビタミン類の両方の組み合わせを含有し得る。改変基礎培地は、グルタミン(例えばL-グルタミン)、及び/又はメトトレキセートを更に含有し得る。
【0060】
治療用タンパク質(例えば、抗体又は抗体タンパク質生成物)が産生されると、この治療用タンパク質を、従来の方法によって精製し得、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、特に、特異的抗原、プロテインA、プロテインGに対する親和性、又はサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差溶解度、又はタンパク質精製のための任意の他の標準技術によって精製し得る。更に、このタンパク質を、異種ポリペプチド配列(「タグ」)に融合させて、精製を促進させ得る。
【0061】
精製されたタンパク質は、典型的には、賦形剤で製剤化して、注射され得るか又は注入され得る無菌溶液を生成する。例えば、精製されたタンパク質を、本明細書で説明されている製剤で製剤化し得る。製剤化に続いて、充填、包装、貯蔵、輸送、及び対象への投与直前での最終調製を行い得る。
【0062】
生物学的治療薬の製造プロセスを開発する方法
本明細書で説明されている方法を使用して生物学的治療薬を製造する方法も開発し得ることが企図される。いくつかの実施形態では、生物学的治療薬の製造プロセスを開発する方法が説明されている。この方法は、貯蔵条件下での1つ又は複数の時点(任意選択的に、貯蔵条件下での2つ以上の時点)にて、製剤中の生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出することを含み得る。例えば、この時点は、製造時を含み得る。例えば、この時点は、製造時と、少なくとも1つの他の時点とを含み得る。この方法は、貯蔵条件下での分子属性の変化率を決定することを含み得る。この方法は、生物学的治療薬が投与されている対象中での生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性に関するデータを得ることを含み得る。この方法は、(i)製剤中の生物学的治療薬の貯蔵中における分子属性の変化率、及び(ii)製剤中の生物学的治療薬が前記投与前に貯蔵条件下であった期間に基づいて、投与時に対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定することを含み得る。この推定することはまた、(iii)製造時及び/若しくはロットの引き渡し時での分子属性のレベル、並びに/又は(iv)対象に投与される生物学的製剤の用量も考慮し得る。例として、この推定することは、方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用し得る。この方法は、分子属性暴露の推定レベルと、生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定することを含み得る。
【0063】
(a)相関関係が存在しない場合には、この方法は、分子属性暴露の推定レベルに基づいて、指定の許容レベル以下で分子属性のレベルを生じるように製造プロセスを確立することを含み得る。例えば、指定の許容レベルは、対象中での分子属性暴露の最高推定レベル以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。この算出は、方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用し得る。例えば、指定の許容レベルは、対象中での分子属性暴露の最高推定レベルの90~100%以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。分子属性のレベルがこの指定の許容レベルを超える製造ロットは、拒絶される場合がある。
【0064】
(b)相関関係が存在する場合には、この方法は、生物学的治療薬の有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性の最高レベルに基づいて、分子属性の指定の最大許容レベル以下で分子属性のレベルを生じるように製造プロセスを確立することを含み得る。例えば、指定の最大許容レベルは、対象中での有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベル以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。この算出は、方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用し得る。例えば、この指定の最大許容レベルは、対象中での有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベルの90~100%以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。許容レベル又は最大許容レベルは、製造時又はロットの引き渡し時での規格の一部であり得る。
【0065】
生物学的治療薬の分子属性の臨床的影響を評価する方法
いくつかの実施形態では、分子属性の臨床的影響を評価する方法が説明されている。そのような方法を、更に、生物学的治療薬を製造する方法、及び本明細書で説明されている生物学的治療薬の製造プロセスを開発する方法で使用し得る。この方法は、貯蔵条件下での1つ又は複数の時点にて、製剤中の生物学的治療薬の分子属性のレベルを検出することを含み得る。属性暴露のレベルを、貯蔵条件下での2つ以上の時点で検出し得る。例として、分子属性のレベルを検出する時点は、製造時、又は少なくとも1つの他の時点を含み得る。例として、分子属性のレベルを検出する2つ以上の時点は、製造時と、少なくとも1つの他の時点とを含み得る。この方法は、貯蔵条件下での分子属性の変化率を決定することを含み得る。この方法は、生物学的治療薬が投与されている対象中での生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性に関するデータを得ることを含み得る。この方法は、(i)製剤中の生物学的治療薬の貯蔵中における分子属性の変化率、及び(ii)製剤中の生物学的治療薬が前記投与前に前記貯蔵条件下であった期間に基づいて、前記投与時に対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定することを含み得る。この推定することはまた、(iii)製造時及び/若しくはロットの引き渡し時での分子属性のレベル、並びに/又は(iv)対象に投与される生物学的製剤の用量も考慮し得る。例として、この推定することは、本明細書で説明されている方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用し得る。この方法は、推定の分子属性暴露と、生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性との間の相関関係の有無を決定することを含み得る。(a)相関関係が存在しない場合には、分子属性が生物学的治療薬の臨床的な安全性にも有効性にも影響を及ぼさないと決定し得る。(b)相関関係が存在する場合には、分子属性が生物学的治療薬の臨床的な安全性及び/又は有効性に影響を及ぼすと決定し得る。
【0066】
(a)相関関係が存在しない場合には、この方法は、生物学的治療薬の分子属性の許容レベルの規格を設定することを更に含み得、分子属性の許容レベルは、対象が受ける分子属性の最高推定レベルに基づく。例えば、許容レベルの規格は、対象中での分子属性暴露の最高推定レベル以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される製造時での分子属性のレベルであり得る。例えば、許容レベルの規格は、対象中での分子属性暴露の最高推定レベルの90~100%以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。この規格を、生物学的治療薬の製造及び/又は引き渡し試験に使用し得る。生物学的治療薬のロット又は製品が、許容レベルを超えるレベルで分子属性を含む場合には、このロット又は製品は、規格外と見なされて拒絶される場合がある。生物学的治療薬を、この規格に従って製造し得る。
【0067】
(b)相関関係が存在する場合には、この方法は、生物学的治療薬の分子属性の最大許容レベルの規格を設定することを更に含み得、分子属性の最大許容レベルは、生物学的治療薬の有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しなかった最高の推定分子属性暴露のレベルに基づく。この規格を、生物学的治療薬の製造及び/又は引き渡し試験に使用し得る。例えば、最大許容レベルの規格は、対象中での有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベル以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。この算出は、方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用し得る。例えば、指定の最大許容レベルは、対象中での有害事象及び/又は有効性の阻害と関連しない分子属性暴露の最高推定レベルの90~100%以下である保存終了時の属性暴露のレベルを生じるように算出される分子属性のレベルであり得る。生物学的治療薬の製造ロット又は製品が、最大許容レベルを超えるレベルで分子属性を含む場合には、このロット又は製品は、規格外と見なされて拒絶される場合がある。生物学的治療薬を、この規格に従って製造し得る。
【0068】
方法の更なる態様
本明細書で説明されている方法の内のいずれかは、1つ又は複数の更なる態様を含み得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、推定することは、更に、(iii)前記投与での生物学的治療薬の用量、並びに(iv)製造時及び/又はロットの引き渡し時に測定された分子の属性の量に基づく。(iii)に関して、生物学的製剤のより多い用量は、分子属性の含有率が同一であるより少ない用量と比べて、多い量の分子属性を投与するであろうことが留意される。また、場合によっては、製造時及び/又は投与時の分子属性のレベルが明確に変化し得ず、そのため、推定は、(i)及び(ii)のみから実施され得ることも企図される。例えば、製造プロセスは、十分に確立され得、厳密に管理され得、且つ製造時に分子属性の一貫したレベルをもたらすことが示され得る。例えば、生物学的治療薬を、単回用量でのみ投与し得、そのため、用量による算出を考慮する必要はない。
【0070】
いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、製剤中の生物学的治療薬の分子属性のレベルを、製造時又はその後の1つ又は複数の時点(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の時点、例えば、列挙された値の内の任意の2つの間の範囲、例えば、1~2個の時点、1~5個の時点、又は1~10個の時点)で測定する。理論に限定されることなく、分子属性のレベルが貯蔵中に変化しない製剤中のある生物学的治療薬の場合には、凍結保存される製剤中のある生物学的治療薬の場合のように、単一の時点で分子属性のレベルを測定することで十分であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、製剤中の生物学的治療薬の分子属性のレベルを、2つ以上の時点(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の時点、例えば、列挙された値の内の任意の2つの間の範囲、例えば、2~5個の時点、2~10個の時点、3~5個の時点、3~10個の時点、又は5~10個の時点)で測定する。2つ以上の時点での分子属性のレベルを使用して、貯蔵条件下での分子属性のレベルの変化率を算出し得る。これらの時点は、製造時又はその後であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、2つ以上の時点は、製造時を含む。いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、2つ以上の時点は、製造時と、少なくとも1つのその後の時点とを含む。いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、2つ以上の時点は、製造時と、少なくとも2つのその後の時点とを含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、分子属性暴露のレベルを推定することは、本明細書で説明されている方程式を使用することを含む。いくつかの実施形態では、分子属性暴露のレベルを推定することは、方程式1:
At=(%A0+%AΔ×t)D (1)
(式中、Atは、分子属性暴露の推定レベルであり、%A0は、ロットの引き渡し時での属性の割合であり、%AΔは、属性レベルの割合の変化率であり、tは、ロットの引き渡しと処置実施との間の貯蔵時間であり、Dは、それぞれの処置と関連する有効医薬成分の重量の次元での用量強度である)
を使用することを含む。
【0072】
いくつかの実施形態では、分子属性暴露のレベルを推定することは、方程式2:
【数3】
(式中、A
tは、分子属性暴露の推定レベルであり、%A
0は、ロットの引き渡し時での分子属性の割合であり、%A
Δiは、所与の貯蔵条件下での経時的な分子属性レベルの割合の変化率であり、t
iは、所与の条件での貯蔵時間であり、Dは、投与の用量強度である)
を使用することを含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、分子属性暴露のレベルを推定することは、方程式3:
【数4】
(式中、%A
rel.は、投与量に対する分子属性暴露の相対レベルの割合であり、A
tは、方程式1又は2を使用して算出された分子属性暴露のレベルであり、Dは、それぞれの処置と関連する有効医薬成分の重量の次元での用量強度である)を使用することを含む。方程式3は、用量強度に対する分子属性暴露の相対レベルを考慮し得ることが留意される。理論に限定されることなく、分子属性が有効性に影響を及ぼす場合には、非属性も有効性に影響を及ぼす場合があると推測され得る。例えば、投与量強度に対する有効医薬成分(API)の相対濃度は、有効性に影響を及ぼす場合がある。従って、投与量強度に対する分子属性の%は、有効性への分子属性の影響を測定するのに有用であり得る。従って、いくつかの実施形態の方法では、分子属性暴露の推定レベルと、有効性のデータとの間の相関関係の有無を決定する場合に、方程式3を使用し得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている方法に関して、対象が受ける分子属性暴露のレベルを推定することは、推定の属性暴露レベルを下記のように割り当てることを含む:
(A)下記で説明する全ての関連処置に関して、方程式1、又は方程式2、又は方程式3を使用して、Atを最初に決定する。
(1)臨床試験の経過全体を通して目的の臨床転帰を示さない患者の場合には、関連処置とは、この試験全体を通して患者に施される全ての処置のことである。
(2)この臨床転帰を示す患者の場合には、関連処置とは、この臨床転帰の発生前にこの患者に施される全ての処置のことである。
(3)任意の処置を受ける前にこの臨床転帰を発症する患者の場合には、関連処置は存在していない。この患者の場合には、Atは、0である。
(4)連続注入により投与される生物学的治療薬の場合には、この注入の関連部分中に生じるAtを、下記のように決定し得る(連続注入により投与されない生物学的治療薬の場合には、項目(4)は省略され得る):
a.12又は24時間を超えて連続的に投与される注入の場合には、臨床転帰の発生前の関連注入の12又は24時間長のセグメント当たりのAtを決定する。
b.12時間長(又は該当する場合は24時間長)未満の注入の場合には、臨床転帰の発生前の関連注入のそれぞれと関連するAtを決定する。
c.上記2つ(a及びb)のいずれかの場合には、臨床転帰が注入中に発生すると、この臨床転帰の発生前の注入の部分と関連するAtを決定する。
(B)全ての関連処置のAtを、臨床転帰の有無にかかわらず各患者に関して決定すると、関連処置又は注入の関連部分と関連する全てのAtの平均値又は最大値を、上記で定義されているように算出する。
【0075】
更なる数学的操作を適用して、分子属性暴露のレベルと安全性及び有効性に関するデータとの間の相関関係の決定を更に洗練し得ることが留意される。いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、この相関関係は、属性暴露と有害事象の発生との間の加重相関関係を含む。この加重は、対象のそれぞれの群のサイズを使用し得る。理論に限定されることなく、対象が生物学的治療薬の複数回用量レジメンにおいて有害事象を経験した場合には、この対象が生物学的治療薬の使用を中止し得ることが企図される。全体として、有害事象を経験している対象のデータは、有害事象を経験しなかった対象の場合と比べて少ない場合があり、このことは、相関関係(又はその欠如)の決定に影響を及ぼす場合がある。従って、生物学的治療薬の複数回用量レジメンを完了する前にこのレジメンを中止した対象(例えば、有害事象を経験した対象)を考慮するために、データを任意選択的に加重し得る。
【0076】
様々な対象に関して、製剤中の生物学的治療薬は、様々な対象に関して様々な期間にわたり貯蔵条件下であり得ることが更に企図される。従って、製剤中の生物学的治療薬が貯蔵条件下であった期間が一度ではない場合がある。むしろ、必要に応じて、様々な期間を、生物学的治療薬の様々な投与に適用し得る。分子属性暴露のレベルを推定することは、それぞれの場合で適切な貯蔵時間(ti)を選択することにより、これらの異なる期間を考慮し得る。そのため、いくつかの実施形態の方法では、生物学的治療薬は、様々な対象への投与における様々な期間にわたり貯蔵条件下であった。
【0077】
本明細書で説明されている方法に関して、生物学的治療薬の投与は、2回以上の投与事象を含み得、例えば、少なくとも2、3、4、5、又は10回の投与事象(列挙された値の内の任意の2つの間の範囲、例えば、2~3、2~5、2~10、3~5、3~10、又は5~10回の投与事象を含む)を含み得ることが更に企図される。従って、いくつかの実施形態では、投与時に対象が受ける属性暴露の推定レベルは、2回以上の投与事象の最大値又は平均値である。
【0078】
本明細書で説明されている方法に関して、生物学的治療薬の投与は連続注入を含み得ることが更に企図される。この連続注入は、例えば、数時間又は数日の期間にわたり得る。いくつかの実施形態では、投与は、連続注入を含み、属性暴露のレベルを推定することは、12時間又は24時間間隔のような連続注入の2つ以上の間隔の最中での分子属性暴露の推定レベルを算出することを含む。
【0079】
本明細書で説明されている方法は、臨床試験データを利用し得る。これとして、対象数、臨床転帰情報(日付、時間、及び程度(重症度又はグレード))、処置ロット番号、処置(日付、時間、及び期間)が挙げられるが、これらに限定されない。データを、臨床転帰(例えば、臨床エンドポイント及び/又は有害事象)に従ってグループ分けし得る。有害事象は、安全性データを示し得、臨床エンドポイントは、有効性データを示し得る。臨床転帰に基づくグループ分けでは、対象は、目的の重症度又は程度を伴う臨床転帰の発生に従ってグループ分けされる。例えば、安全性有害事象の重症度への分子属性の影響を分析するために、対象は、目的の重症度グレードを伴うAE発生に従ってグループ分けされる(例えば、重度発熱陽性群は、グレード3以上の発熱があった患者を含むことになり、重度発熱陰性群は、グレード3以上の発熱がなかった対象を含むことになる)。次いで、それぞれの対象の分子属性の推定レベルは、説明されているように決定される。
【0080】
例として、本明細書で説明されている方法に関する安全性データは、有害事象データを含み得る。この有害事象は、処置に関連する有害事象を含み得る。例えば、生物学的治療薬による処置に関連する有害事象は、生物学的治療薬に対する免疫応答(例えば、抗薬物抗体(ADA))等の免疫有害事象を含み得る。有害事象の更なる例として、貧血、サイトカイン放出症候群(CRS)、発熱、注入関連反応(IRR)、リンパ球減少、又は神経学的事象が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている任意の方法に関して、安全性データは、有害事象データを含む。例として、安全性データは、有害事象の経時変化を含み得る。
【0081】
例として、本明細書で説明されている方法の有効性データは、有効性の臨床的証拠(例えば、疾患又は障害の処置、予防、寛解、又は発症遅延)を含み得る。臨床エンドポイントデータは、有効性を示し得る。従って、いくつかの実施形態では、有効性データは、臨床エンドポイントデータを含む。
【0082】
本明細書の方法の内のいくつかに関して、分子属性暴露の推定レベルと、生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無を、統計的方法を使用して算出し得ることが企図される。例えば、安全性及び/又は有効性のデータからの臨床事象率と属性暴露レベルとの間の線形回帰相関関係を算出し得、p値を決定し得る(
図3A、3B、7B、及び9)。例えば、p値を、t検定又はF検定から算出し得る(
図2A、2B、5A、5B、6、7A、8、10A、及び10B)。例えば、ログランク検定又はマンテルコックス検定を実施して、より高レベルの属性暴露を有する臨床対象群のより早期の臨床安全性事象の発症を検証するためのp値を算出し得た(
図4A及び4B)。
【0083】
本明細書で説明されている方法の内のいくつかの実施では、ベイジアン推定アプローチが使用される。ベイジアン推定アプローチを、分子属性暴露の推定レベルと生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無の決定に使用し得る。ベイジアンアプローチの段階的学習性質に起因して、全ての証拠を、公平な方法で事前に完全に使用し得る。具体的には、ベイジアン推定アプローチを、分子属性暴露の推定レベルと生物学的治療薬の安全性及び/又は有効性のデータとの間の相関関係の有無の決定に適用する場合には、この方法は、全ての証拠が使用されるまで、新たな証拠が得られる度に、それぞれの属性の臨床的影響の確率密度関数を、ある特定の値を取るように修正し得る。各属性が各有害事象と関連する確率は、分析の最後に導き出される。ベイジアンアプローチに必要な高い計算能力を利用するために、コンピュータプログラムが開発されている(実施例12を参照されたい)。このプログラムは、ユーザーにより提供されたスプレッドシートによるベイジアン推定アプローチの結果を視覚化するためのインタラクティブプラットフォームを提供する。このプログラムはまた、初期事前確率(initial prior)を定義し、外れ値を除去し、且つ複数の属性を選択するためのパラメータ調整モジュールも提供する。mAb Dに関して実施された以前のCIAの実際の臨床データの少数のセット、及びmAb D CIAデータに基づく少数のモデル化データを、このシステムで検証した。ベイジアン推定法により、期待される結果が得られ、このことから、このシステムの有効性が実証された。
【実施例】
【0084】
実施例1:分子属性分析の方法
ここで、本発明者らは、臨床影響解析(Clinical Impact Analysis)(CIA)と呼ばれるデータ解析アプローチを使用して、2種の免疫グロブリンG2(IgG2)モノクローナル抗体(mAb)医薬品であるmAb A及びmAb B間で、15種の分子属性による臨床的に関連する免疫学的安全性への影響を調べる。CIAにより、臨床試験及び製品品質分析試験のデータを解析することによって、所与の属性に対する患者暴露のレベルと、臨床転帰の発生率との間に相関関係が存在するかどうかが検証される。属性の内のいずれかに対する患者暴露のレベルとADA応答との間に関連が見出されず、このことは、調べた暴露レベルで分析された属性はいずれもADA応答を引き起こさないことを示唆する。更に、調べた暴露レベルの上限範囲は、mAb Aの属性に関する純度規格限界と比べて高いか、又はそれに近く、このことから、CIAにより可能となるこれらの属性を正当化するための臨床的に関連する証拠を作成することの実現可能性が実証される。これらの結果から、臨床情報と分析情報とを統合することにより、薬物の開発及び製造で適用可能な属性の影響に関する臨床的に関連する洞察が得られることが示される。
【0085】
本発明者らは、臨床データと属性分析データとを統合することにより、属性の臨床的に関連する安全性への影響を評価する(
図1、方程式1)。簡潔に説明すると、ロットの引き渡しで測定された属性レベルを、ロットの引き渡しと処置実施時間との間での属性レベルの変化と組み合わせることにより、処置実施時での属性暴露レベルを近似させる(
図1A)。次いで、処置レジメン中に患者に施された個々の処置に関して、属性暴露を決定する。ある属性が臨床事象を引き起こす場合には、この事象を有する患者は、平均してこの属性へのより高い暴露レベルとの関連が見出されるか(
図1B)、又は属性暴露レベルと臨床事象の発生率(
図1C、左側)又は経時変化(
図1C、右側)との間の正の相関関係が見出されるだろう。逆に、属性暴露と臨床事象との間に関連がないことは、この属性が、調べた暴露レベルで、この事象を引き起こさないことを示すだろう。
【0086】
図1Aに示すように、処置実施時での属性暴露レベルであるA
tを、製造時に測定された属性レベルと、経時的なレベルの変化とを考慮することにより近似させる。レトロスペクティブ分析では、患者を、ADA試験結果等のレトロスペクティブに既知の臨床転帰によりグループ分けする(
図1B)。次いで、個々の患者を表すA
tを、示された群間で比較する。プロスペクティブ分析では、患者を、代表的なA
tに従ってグループ分けする(
図1C)。各群の臨床転帰の発生率(左側)又は経時変化(右側)を、群の平均的な代表A
tに関して比較する。
【0087】
本発明者らは、mAb Aに関する8つの個別の臨床試験からの1,398例の患者、及びmAb Bに関する2つの組み合わされた臨床試験からの5,439例の患者に関する属性暴露及びADA試験結果を調べることにより、2種の別々の医薬品mAb A及びmAb Bの間での15種の属性に暴露された患者の免疫応答を調べた。ADAには、安全性及び有効性への様々な影響(例えば、薬物による標的結合機能の中和、及び他のより重篤な有害事象17,18)に起因して、重大な規制上の懸念事項が依然としてある。
【0088】
mAb Aに関して分析された属性は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)では高分子量(HMW)種であり、カチオン交換(CEX)では酸性種であり、還元/変性条件下でのキャピラリ電気泳動(rCE-SDS)では非重鎖及び軽鎖(非HC+LC)種であり、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)では主要種の前に溶出するプレピーク中の親水性種である。mAb Bに関して分析された属性は、下記である:SEC HMW;rCE-SDS分離可能な低分子量(LMW)種、中分子量(MMW)種、非グリコシル化重鎖(NGHC)種、LMW MMWとNGHCとの合計(L+M+NG)、及び非HC+LC;親水性相互作用クロマトグラフィーで分析された高マンノース(HM)種、CEXで分離可能な塩基性種3及び全塩基性種;質量分析で分析されたC末端配列バリアント1(CSV1)及びC末端配列バリアント2(CSV2)。本明細書で説明されている方法に関して、任意の属性又は属性の組み合わせを分析し得ることが企図される。
【0089】
調べた属性暴露レベルにて、本発明者らは、mAb Aの4種の属性のいずれもがADAの決定因子ではないことを発見している。同様に、mAb Bの11種の属性のいずれもが、ADAの決定因子ではないことも発見している。更に、調べた属性暴露レベルの上限範囲は、mAb Aの対応する属性に関して提案されている純度規格と比べて高いか、又はそれに近く、このことから、CIAを、提案されている規格を正当化する臨床的に関連する証拠の作成で使用し得ることが実証される。
【0090】
CIAは、患者に暴露される属性の様々なレベル等の所与の変数当たりの臨床転帰の有病率又は経時変化の程度の分析を伴う。CIAの実施において、下記のアプローチを実行して、個々の患者のADA試験結果と属性暴露レベルとを統合した。
【0091】
臨床試験選択
CIAに関する臨床試験の選択基準は、(1)属性暴露レベルに大きなばらつきが存在すること、及び(2)多数の患者が登録されていることであった。このようにして、統計的に有意な結果を、広範囲の属性暴露レベルの状況での臨床的影響の分析から得ることができる。そのため、用量漸増試験、又は複数の処置ロットを使用する試験を選択し、より多数の患者が必要であった場合には、分析のために、同等の試験からの患者を組み合わせた。
【0092】
臨床試験からのADA試験結果
患者の血清中のmAB A結合型ADA又はmAb B結合型ADAを特異的に検出するために開発された、電子化学発光(ECL)ベースのブリッジングイムノアッセイ(bridging immunoassay)からのADA試験結果を、分析のために解析した。結合型ADAは中和型ADA及び非中和型ADAの両方を包含することが留意される。しかしながら、中和型ADAは、mAb A及びmAb Bの両方に関して結合型ADAと比べてはるかに普及しておらず、統計的に有意な分析には、はるかに多数の患者が必要であり、結合型ADAの分析は、任意の臨床転帰が処置の変数と関連しているかどうかを試験する本実施例に適合する。
【0093】
mAb A用に選択した臨床試験は、最大合計218例の患者による4つの初期用量漸増試験、最大627例の患者による2つの第2相試験、及び最大542例の患者による2つの第3相試験であった。これら3セットの試験を、下記で説明するレトロスペクティブCIA又はプロスペクティブCIAにより個別に分析した。mAb B用に選択した臨床試験は、最大5,440例の患者による2つの第2相試験であった。このセットの試験を、レトロスペクティブCIA及びプロスペクティブCIAの両方で分析した。
【0094】
属性分析及び安定性試験のデータ
CIA用に選択された臨床試験で投与された医薬品バッチを、バッチトレースレコードを使用して追跡して、製品品質分析試験で検査された医薬品ロットを特定し、そのようにして、個々の処置ロットに特有のロットの引き渡し時で決定された属性レベルを得ることができた。
【0095】
ロットの引き渡し分析のための試験は、mAb A又はmAb B専用に個別に開発された、HMW用のSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)、HC、LC、LMW、MMW、及びNGHC用のrCE-SDS(還元及びSDS変性条件下でのキャピラリ電気泳動)、並びに酸性種又は塩基性種用のCEX(カチオン交換クロマトグラフィー)である。HIC(疎水性相互作用クロマトグラフィー)、HM用の親水性クロマトグラフィー(HILIC)、並びにC末端配列バリアント種(CSV1及びCSV2)用のLCMSMS(液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析)によるペプチドマッピングからの他の分析データは、ロットの引き渡しアッセイのパネルに含まれなかったことから、mAb A又はmAb Bの限定されたバッチに利用可能であった。
【0096】
属性安定性試験のデータも、各医薬品に関して利用した。安定性データは、下記のように処置実施時での属性暴露レベルの決定に重要な、貯蔵条件下での経時的な個々の属性のレベルの変化を表している。
【0097】
属性暴露の決定
それぞれの処置と関連する処置実施時での属性暴露の量Atを、方程式1:
At=(%A0+%AΔ×t)D (方程式1)
(式中、%A0は、ロットの引き渡し時での属性の割合であり、%AΔは、属性レベルの割合の変化率であり、tは、ロットの引き渡しと処置実施との間の貯蔵時間であり、Dは、それぞれの処置と関連する有効医薬成分の重量の次元での用量強度である)
を使用して、上記の情報から決定した。
【0098】
次いで、それぞれの患者に、代表的なAtを割り当てた。それぞれの患者に単一の処置が施される初期試験の場合には、代表的なAtは、この処置と関連するAtであった。
【0099】
複数の処置レジメンを含む試験では、患者が初めてADAに対して陽性と検査された後に施される処置は、ADAの原因の調査とは無関係である。そのため、ADA陽性患者の場合には、代表的なAtは、初めてADAが陽性と検査される前に施された処置と関連する属性暴露レベルの平均値又は最大値であった。ADA陰性患者の場合には、代表的なAtを得るために、レジメン全体での全ての処置を平均暴露又は最大暴露の決定に含めた。
【0100】
CIAの患者群
上記で説明したように選択された試験からの患者の内、下記の基準を満たすもののみを、CIAに含めた:(1)レジメンでの全ての処置に関して、バッチ情報が入手可能である;(2)レジメンでの全ての処置に関して、属性暴露を決定し得た;(3)ADA試験結果が利用可能である;及び(4)最初の処置の実施前に実行したADA試験で、陽性結果が得られなかった。例えば、mAb Bの臨床試験からの1例の患者をCIAから除外しており、なぜならば、処置の内の1つに関して医薬品のロット番号が登録されていなかったからである。また、mAb Bの試験では29例の患者を除外しており、なぜならば、これらの患者は、処置前にADAに対して陽性と検査されたからである。
【0101】
これらの基準を適用して、患者数は下記のようになった:mAb AのHMW、非HC+LC、又は酸性種に関するCIAでは、4つの組み合わされた初期試験からの218例の患者と、2つの組み合われた第2相試験からの627例の患者とを別々に分析した。mAb AのHICプレピークに関するCIAでは、2つの組み合わされた初期試験からの90例の患者と、2つの組み合わされた第2相試験からの24例の患者とを別々に分析した。加えて、mAb AのHMWに関する別個のCIAで、2つの組み合わされた第3相からの553例の患者を分析した。
【0102】
mAb BのHMW、LMW、MMW、NGHC、M+N+NG、非HC+LC、塩基性種3、及び全塩基性種に関して、3つ全てのCIAアプローチにより、2つの組み合わされた第2相試験からの5,439例の患者を分析した(
図1B及びC、下記を参照されたい)。mAb BのHMに関するCIAを、同一セットの臨床試験から、127例の患者を分析することで実施し、CSV1及びCSV2に関するCIAを、1,671例の患者を分析することで実施した。
【0103】
実施例2:個々の患者に関する属性の影響の分析結果
属性がADA応答を引き起こす場合には、正の相関関係が存在することとなり、そのため、ADA陽性患者は、ADA陰性患者と比較して高い属性暴露レベルと関連することが見出されるだろう(
図1A~C)。関連の発見が因果関係を証明することとはならないが、そのような発見は、因果関係を検証するための更なる研究を促し得る。しかしながら、そのような関連が存在しないという発見により、調べた暴露レベルでのこの属性によるADAの因果関係は排除されるだろう。属性-暴露レベルとADA応答の発生との間の関連を検証するために、3つの別個の分析を実施した。
【0104】
(実施例1で説明したように)個々の患者に関して分析した代表的な属性-暴露レベルを、mAb Aに関する第1相試験での患者の単回暴露、mAb Bに関する第2相試験及び第3相試験での患者の最大暴露、及びmAb Bの患者の最大暴露から決定した。平均Atは、複数回の属性暴露の統計的表現である。最大Atは、免疫学的に関連しており、なぜならば、患者は、ある特定の閾値を超える免疫原への暴露時にのみADAを生じ得るからでる。
【0105】
実施例3:mAb A及びmAb Bの属性に関するレトロスペクティブCIA
レトロスペクティブ分析(レトロスペクティブに既知の臨床転帰によりグループ分けされた対象)を開発して、ADA陽性患者がADA陰性患者と比較して高い属性暴露レベルと相関するかどうかを検証した。患者を、レトロスペクティブに既知のADA試験結果に従ってグループ分けする(
図1B)。次いで、各属性に関して、代表的な属性暴露レベルの分布を、ADA陽性患者群とADA陰性患者群とで比較する。ADA陽性患者群の代表的な属性暴露レベルが、平均でADA陰性患者群の場合と比べて高い場合には、スチューデントのt検定を実施して、この差違が統計的に有意であるかどうかを評価する。
【0106】
ADA陽性患者と、mAb A又はmAb Bの属性のいずれかへのより高い暴露との間には、統計的な関連が見出されず(
図2)、このことは、これらの属性はいずれも、調べた暴露レベルではADAを引き起こさないことを示す。この発見は、単回暴露(
図2A)、平均暴露(付属
図1)、又は最大暴露(
図2B)を代表的な暴露レベルとして使用した(方法セクションを参照されたい)かどうかにかかわらず成立する。様々な相でのmAb Aの複数セットの臨床試験の調査により、4種の属性はいずれも、ADAの決定因子ではないことが同義的に示される(
図2A、
図7A、及び8)。
【0107】
図2A~Bは、分析した全ての属性に関して、高暴露レベルとADA陽性患者との間に統計的に有意な関連がないことを示す、ADA陽性患者とADA陰性患者との間の属性暴露のレベルの比較を示しており、このことは、これらの属性は、調べた臨床条件ではADAを引き起こさないことを示す。括弧内の数字は、必要に応じて決定されたp値である。直線は、各群に関する個々の患者の代表的な属性暴露の平均±標準偏差である。
【0108】
実施例4:mAb A及びmAb Bの属性に関するADA発生率のプロスペクティブCIA
代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象の発生率分析を開発して、属性暴露レベルと、ADA応答の発生率との間に正の相関関係が存在するかどうかを検証した。患者を、属性暴露レベルに従って四分位でグループ分けし、各群に関して決定したADA陽性患者の%を、代表的な属性暴露レベルの群平均に関して互いに比較する(
図1C、左側のパネル)。
【0109】
四分位のビン(bin)を作成するために適用された暴露レベルの範囲を最適化して、各患者群内の暴露レベルの最小限のばらつきを達成し、同時に各群を構成する十分な患者数を確保した。ADAの発生率と属性暴露レベルとの間に正の相関関係を観察した場合には、加重値として個々の群での患者数を使用して加重相関関係を算出して、この相関関係が統計的に有意であるかどうかを検証した。
【0110】
実施例3のCIA分析(この分析では、対象を、レトロスペクティブに既知の臨床転帰によりグループ分けした)の結果と一致して、ADAの発生率と、mAb A又はmAb Bに関して分析した全ての属性の暴露レベルとの間では、相関関係は統計的に正ではないことが分かる(
図3A~B、
図7B)。実際に、より低い暴露が、mAb BのADA陽性患者と関連していると思われ、代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象の発生率での負の相関関係として現れている(
図3B)。この負の相関関係は、因果関係が存在しないことを更に裏付ける統計的に有益な転帰である(下記を参照されたい;
図5A~B、
図9)。
【0111】
図3A~Bは、代表的な暴露レベルの群平均の関数としてプロットされている、低から高までの範囲の代表的な属性暴露レベルに従ってグループ分けされた患者四分位でのADA陽性患者の割合を示す。括弧内の数字は、正の相関関係が見出される場合に決定された加重p値である。このプロットの横には、それぞれの四分位での患者数が記載されている。エラーバーは、標準偏差である。mAb Aの結果を
図3Aに示し、mAb Bの結果を
図3Bに示す。
【0112】
実施例5:mAb A及びmAb Bの属性に関するADA経時変化のプロスペクティブCIA分析
別のプロスペクティブ分析を開発して(代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象;
図1B、右側のパネルを参照されたい)、上記の実施例4でのCIA発生率と同じ方法でグループ分けされた患者の間でADA応答の経時変化を比較した。より高い属性暴露レベルが、経時的により広範囲な発生と関連した場合には、マンテルコックスログランク検定23,24を実施して、経時変化の差違が統計的に有意であるかどうかを検証した。
【0113】
上記の分析と一致して、mAb A又はmAb Bの全ての属性に関して、ADAの経時変化と暴露レベルとの間に関連は見出されなかった(
図4A~B)。mAb AのHICプレピークに関して(
図4A)、分析した患者数は限定されていることから、ADAとの関連が存在しないことを示す結果は、有益ではなかった。別のセットの臨床試験においてより多数の患者に関するデータを使用して実施した上記の他の分析(
図2A及び3A)は、HICプレピークが、実際には、ADAの決定因子ではないことを示す。
【0114】
実施例6:ADA応答と代表的なA
tの低下との間の関連
A
tの低下とADA応答との間の関連、即ち負の相関関係は、mAb A及びmAb Bの両方に関して、発生率及び経時変化の両方で見出される(
図2B、3B、4A、及び4B)。この負の相関関係は、mAb BのCIAにおける最大A
tを分析する場合に顕著になる(
図2B、3B、及び4B)。
【0115】
mAb Bで処置された患者におけるHMW暴露を使用して、本発明者らは、負の相関関係が、属性暴露がADA応答を引き起こさないことを示すCIAの結果を裏付けることを示す。ADA陰性患者とADA陽性患者との間には、最大HMW暴露がどのようにして起こるかについての偏りは存在しない:一般的に、ADA陰性患者とADA陽性患者との間では、最大A
tのレベルに差違は存在せず(
図5A);最大HMW暴露が起こる処置時間も、ADA陰性患者とADA陽性患者との間で同様に分布している(
図5B)。しかしながら、ほとんどの処置は、
図5Aのような、特に最大HMW暴露の平均である2mgと比べて低いHMW暴露と関連している(
図5C)。理論により限定されることなく、(ADAの発生の因果関係との関連がないことに起因して)より後の実施時間の内のいくつかで処置を除外することにより、ADA陽性患者の代表的な暴露として、次に高いHMW暴露を分析し得ることが企図される。この次に高いHMW暴露の使用により、相関関係を負の方向に誘導する偏りが生じる場合がある。分析を実施する場合には、この潜在的な偏りを考慮する場合がある。
【0116】
図5Aでは、全ての処置又はADA関連処置を使用して決定された最大A
tが、ADA陰性患者又はADA陽性患者に関してプロットされている。ADA陰性患者に関して全ての処置を使用して決定された最大A
tの平均±標準偏差が示されており;他の群に関するものは、
図2Bでの同一の対応する群に関して分析した通りである。t検定のp値は、別途示されない限り、n.s.(有意ではない)で示された比較に関して0.05よりも高い。エラーバーは、標準偏差である。
図5Bでは、ADA陰性群及びADA陽性群に関して、個々の患者にける最大HMW暴露に関連する毎月の処置時の頻度が示されている。
図5Cでは、個々のmAb2患者に関して、処置数の累積率と共に、様々なレベルのHMW暴露をもたらす処置の頻度がプロットされている。
【0117】
ADA応答前に実施された処置による属性暴露のみが、ADA応答と関連している。また、ADAは、閾値濃度を超える免疫原によってのみ誘発され得ることから20,21、最大属性暴露の分析は、免疫学的メカニズムを考慮に入れている。まとめると、ここで見出された負の相関関係は、属性暴露がADAを引き起こさないという更なる証拠を提供する(実施例8を参照されたい)。
【0118】
実施例7:処置レジメンの臨床的影響の分析におけるCIAのアプローチの適用
属性の影響の分析に加えて、本発明者らは、ADA応答と処置レジメンの様々な因子(例えば、処置実施数、各処置の用量強度、及び各患者に関する処置経過と関連する処置ロットの数)との間に相関関係が存在するかどうかを検証した。
【0119】
これらの因子はいずれも、ADAの発生率との相関が見出されない。実際に、ADA陽性患者は、処置のより少ない数及び期間、並びにより少ない処置ロットと関連しており、なぜならば、この分析は、最初の陽性ADA検査前に行われた処置のみを含んだからである。
【0120】
このことから、CIAのアプローチが、属性暴露に加えて、処置の他の態様にも適用され得ることが実証される。本発明者らは、属性暴露の情報と、患者情報(例えば、人口統計、更には遺伝子型に関する情報)とを組み合わせることにより、薬物の安全性及び有効性での知識を広げる強力な分析を実施し得ると想定している。
【0121】
実施例8:プロスペクティブCIA発生率の更なる分析
代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象に関するCIA発生率では(
図9A~B)、線形回帰の傾きがゼロと有意に異なるかどうかを、無作為に選択した点が、観察された線形回帰相関係数R
2になるか又はそれを超えるであろう確率pを算出するF検定を使用して検証した。最大A
tを使用して分析した、rCE-SDS 非HC+LC、CEX塩基性種3、CEX全塩基性種、及びCSV2の回帰における有意な非ゼロ傾きを決定するF検定からのp値は、それぞれ、0.017、0.049、0.031、及び0.045であった。他の傾きは、ゼロとは有意に異なっていなかった。
【0122】
図9Bを要約し、
図9Bのように最大A
tの代わりに平均A
tを使用して再分析した同一セットのデータと比較する。直線は、非加重線形回帰であり、全ての回帰の傾きは、最大Atを使用して分析したrCE-SDS 非HC+LC、最大Atを使用して分析したCEX塩基性種3、最大A
tを使用して分析したCEX全塩基性種、及び最大A
tを使用して分析したCSV2の場合を除いて、統計的にゼロである。*再分析のために四分位に分けられた患者の数は、別途指示されない限り、
図9Bの場合の対応する四分位と同一である。再分析されたデータの相関関係は、HM及びCSV1を除いて、一般的に負が低く、これらの全ての適合度の傾きは、統計的にゼロである。
【0123】
実施例9:更なる臨床試験を使用するCIA
第2相臨床試験のデータを使用して実施したADAへのmAb Aの属性の影響に関するCIA分析により、調べた暴露レベルではいずれCQAもADA応答の決定因子でないことが示される(
図7A)。mAb Aの第3相臨床試験での属性暴露レベルは、それ以前の相試験でのものと比べて低く、代表的なA
tに従ってグループ分けされた対象のCIA分析により示されるように、ADAを引き起こさない(
図8)。
【0124】
図7Bに示されるように、
図2Aで分析された患者とは異なる臨床試験でのレジメンの患者が分析されている。1回の処置当たりの平均A
tが、個々の処置の代表的なA
tとして使用されている。エラーバーは、個々の平均A
tと関連する標準偏差から伝播される不確実性である。(
図7B)で分析された四分位、及びこの四分位をグループに分けるために使用された属性暴露範囲は、
図4のものと同一である。
【0125】
低いA
tとADAとの相関関係
本明細書で証明されているように、属性がADAを引き起こさずADA陽性患者のCIAにおいてADA関連処置のみが分析される場合には、ADA陰性患者とADA陽性患者との間で、最大属性暴露で偏りが見出されるだろう。そのような偏りは、1回の処置当たりの平均暴露が個々の患者の代表的な暴露として分析される場合に減少するだろう。例えば、おそらく、ADA陽性患者のCIAからADAと無関係な処置を排除した場合に、最大HMW暴露が低下する偏りは、最小HMW暴露が上昇する同様の偏りにより相殺され得る。この説明と一致して、CIAの代表的な暴露として平均暴露を使用すると、一般に、これらの負の相関関係が減少するか、又は排除される(
図9)。ここで分析されたA
tは、ADAに関連しており、最大暴露を分析することは免疫学的に重要であることから25,26、本文で説明されている負の相関関係は、調べた臨床条件下で属性がADAを引き起こさないという更なる証拠を提供する。
【0126】
実施例10:実施例1~9の分析及び結論
本発明者らは、処置ロット、臨床転帰、及び属性分析データに関する情報を統合することにより、患者に施された個々の処置と関連する属性暴露レベルの近似が可能となることを示す。次いで、ある属性がADAを引き起こすかどうかを、より高いAtとADA応答の発生との間の相関関係の存在を調べる統計的検定により検証し得る。関連が存在する場合には、因果関係を証明するために更に焦点を当てた調査が必要となるが、関連が存在しない場合には、因果関係は除外される。
【0127】
本明細書での研究は、個々の患者の処置情報を統合し、治療薬の分子属性の臨床的に関連する影響を評価する取り組みを説明している。ここで、2つの医薬品mAb A及びmAb Bの間で調べた15種の属性のいずれかに関して、ADA応答と暴露レベルとの間に有意な正の相関関係は見出されず、このことは、対応する医薬品に関して調べたレベルでは、これらの属性はいずれもADAの決定因子ではないことを示す(表1)。この研究は、これらの属性がまた、様々な暴露レベルにおいて、又は他の治療用mAb分析に関して、安全性のリスクも増加させないことを立証するものではない。
【0128】
本アプローチは、元々は医薬品の安全性又は有効性の立証に焦点を当てることが意図された臨床試験から利用された受動的データを分析する。任意のレベルの属性への患者の暴露での倫理上の懸念事項により、患者中における属性の影響を調査するために特別に研究を設計することによる能動的データの作成は不可能となる。それにもかかわらず、受動的データのCIAは、生命工学における応用科学的探求及び基礎科学的探求の両方に、豊かな洞察及び示唆を提供する。
【0129】
例えば、CIAは、患者中心の製品純度規格の限界値を決定することに役立ち得る。上記で立証されたように、属性暴露によるADAの因果関係の欠如は、調べた暴露レベルでは、属性により免疫学的安全性のリスクが増加しないことを示す。特に、mAb Aに関して分析されたこれらの属性暴露レベルの上限(表1)は、この医薬品の規格により強いられる対応する属性の限界付近であるか、又はそれよりも高く(示さない)、このことから、CIAにより生成された患者に焦点を当てた証拠が、治療薬の規格限界を決定するために使用され得ることが実証される。
【0130】
図6は、ADAへの処置の因子の影響を示す。mAb Bの処置レジメン、1回の処置当たりの平均用量強度、処置期間、処置数、及び処置ロット番号の様々な因子を、ADA陰性患者とADA陽性患者との間で比較する。これらの因子は、ADA陰性患者の場合は全ての処置のものであるか、又はADA陽性患者の場合には最初のADA陽性検査結果前の処置のものである。エラーは、標準偏差である。
【0131】
【0132】
CIAはまた、臨床免疫学での基礎知識も深め得る。ADA応答と属性暴露レベルとの間で見出された任意の相関関係は、ADA生成の因果関係又はメカニズムを調査するために、集中的なインビトロ又はインビボでの研究を促進し得る。平均又は最大Atのどちらが、ADAと相関することが見出された任意の属性暴露をよりよく表しているかに応じて、仮説を絞り込んで、反復される高属性暴露又は単回の高属性暴露のどちらがADA応答の誘発に重要であるかも検証し得る。
【0133】
本発明者らは、CIAを他の分析と組み合わせて、治療薬開発に強力な示唆を与え得、且つ未知の重大な問題に対処し得ることを更に示す。ある属性は、人口統計学的情報又はゲノム情報により定義される集団のサブセットの臨床転帰に影響を及ぼし得るか?人口統計及びゲノミクスで得られた知識は、臨床試験デザインを前進させるだろうか?属性は、様々な治療用タンパク質分子の構造及びコンフォメーションダイナミクス等の生物物理学的挙動を変化させ、ひいては臨床転帰に影響を及ぼすだろうか?本研究は、これらの及び更なる議論の先駆けとなるデータ及び分析を報告する。
【0134】
要約すると、薬物の安全性及び有効性への分子属性の影響を理解することは、治療薬の開発に重要である。例えば、いくつかの属性が患者に抗薬物抗体(ADA)応答を引き起こす場合があり、これは、薬物の中和を含む潜在的な臨床的影響に起因して、依然として重要な規制上の懸念事項である。非ヒトモデル系(例えば、細胞、組織、及び動物)は、属性の安全性への影響を検証するための実行可能な実験系であるが、属性への患者暴露の臨床的帰結への洞察は限定されている。ここで、本発明者らは、臨床影響解析(CIA)と呼ばれるデータ解析アプローチを使用して、2種の免疫グロブリンG2(IgG2)モノクローナル抗体(mAb)医薬品であるmAb A及びmAb B間で、15種の属性による臨床的に関連する免疫学的安全性への影響を調べる。CIAにより、臨床試験及び製品品質分析試験のデータを解析することによって、所与の属性に対する患者暴露のレベルと、臨床転帰の発生率との間に相関関係が存在するかどうかが検証される。属性の内のいずれかに対する患者暴露のレベルとADA応答との間に関連が見出されず、このことは、調べた暴露レベルで分析された属性はいずれもADA応答を引き起こさないことを示唆する。更に、調べた暴露レベルの上限範囲は、mAb Aの属性に関する純度規格限界と比べて高いか、又はそれに近く、このことから、CIAにより可能となるこれらの属性を正当化するための臨床的に関連する証拠を作成することの実現可能性が実証される。これらの結果から、臨床情報と分析情報とを統合することにより、薬物開発で適用可能な属性の影響に関する臨床的に関連する洞察が得られることが示される。
【0135】
実施例11:カノニカルBiTE(登録商標)分子である製品Cの分析
カノニカルBiTE(登録商標)分子である製品Cを更に分析した。測定した分子属性は、Tyr硫酸化、Asp異性化、Lysヒドロキシリジン、Lysグルコシル-ガラクトシルヒドロキシリジン、Met酸化、及びSE-HPLC凝集体であった。効力も評価した。安全性データは、下記の有害事象の特定を含んだ:貧血、サイトカイン放出症候群(CRS)、発熱、注入関連反応(IRR)、リンパ球減少、及び神経学的事象。
【0136】
属性暴露を、各処置に関してどの医薬品ロットが投与されたかの記録と共に、1)製造時での様々な医薬品ロットに関する属性レベル%、2)属性の安定性、即ち、DP貯蔵中の属性レベルの変化割合、3)各患者に個々の処置が施された日時に基づいて推定した。次いで、4)所定の臨床転帰の発生日時、及び目的のグレード(又は重症度)を、CIAでの次の工程に組み込み得(
図1)、5)CIAは、情報を組み合わせて属性暴露を決定し、6)属性暴露のレベルと目的の臨床転帰の発生との間に関連が存在するかどうかを分析する。
(A)A
tを、下記で定義する全ての関連処置に関して方程式1を使用して最初に決定した。
(1)臨床試験の全経過を通して目的の臨床転帰を示さない患者に関しては、関連処置は、この試験全体を通して患者に施される全ての処置である。
(2)臨床転帰を示している患者に関しては、関連処置は、この臨床転帰の発生前に患者に施された全ての処置である。
(3)処置を受ける前に臨床転帰を発症した患者に関しては、関連処置は存在しない。この患者に関しては、A
tは、0であった。
(4)連続注入による投与に関しては、この注入の関連部分中に生じるA
tを、下記のように決定した:
a.24時間を超えて連続投与される注入に関しては、臨床転帰の発生前の関連注入の各24時間長区間当たりのA
tを決定する。
b.24時間長未満の注入に関しては、臨床転帰の発生前の関連注入のそれぞれと関連するA
tを決定する。
c.上記2つのいずれかの場合に関して、臨床転帰が注入中に発生した場合には、この臨床転帰の発生前の注入部分と関連するA
tを決定する。
【0137】
製品Cの分析結果を、
図10A~Bに示す。製品CのCIAに関して列挙された6つのCQAに加えて、AEへの効力の影響を、力価毎に調整された製品Cの用量と、無用量レベル、中用量レベル、又は高用量レベルが投与された患者に関するAEの発生との間に相関関係が存在するかどうかを検証することにより分析した。
図10Aに示すように、効力と任意のグレードのAEの発生との関連を分析した。
図10Bに示すように、効力と、3以上のグレードのAEの発生との関連を分析した。
【0138】
いずれの属性も、試験した有害事象のいずれとも相関していないことを観察した。そのため、属性暴露の推定レベルは安全であると決定した。
【0139】
実施例12:ベイジアン推定のコンピュータによる実施
ベイジアン推定アプローチに必要な高い計算能力を利用するために、コンピュータプログラムを開発した。このプログラムは、ユーザーにより提供されたスプレッドシートによるベイジアン推定アプローチの結果を視覚化するためのインタラクティブプラットフォームを提供する。このプログラムはまた、初期事前確率を定義し、外れ値を除去し、且つ複数の属性を選択するためのパラメータ調整モジュールも提供する。mAb Dの分子属性の臨床的影響を評価する方法のための一連の処理された臨床データ、及びmAb D CIAデータに基づく少数のモデル化データを、このシステムで検証した。この方法を実施して、有害事象の陰性患者と陽性患者とで1日当たりの最大HMW暴露を比較することにより、mAb D HMW暴露と発熱有害事象の発生との間に正の相関関係が存在するかどうかを検証した。この方法では、従来の方法を使用して相関関係を見出せなかった(
図11A)。ベイジアン法(
図11C~D)は、従来のシステム(
図11A~B)と類似の結果を生成し、このことにより、このシステムの有効性が実証された:
(1)mAb D臨床試験の臨床データを分析した場合には、ベイジアン推定法は、属性が臨床転帰に相関する確率がないことを示した(
図11C)。従来の統計を使用してデータを処理した場合には、従来の統計により同一の結果が示された(
図11A)が、
(2)モデル化されたデータセット(前記臨床データに基づく)を分析した場合(但し、属性暴露レベルを臨床試験対象に関して任意に上昇させた場合)には、ベイジアン推定法は、従来の統計(
図11B)と同様に、属性が臨床転帰と相関する確率を示した(
図11D)。そのため、従来の統計及びベイジアン推定法は両方とも、臨床転帰と任意に上昇させた属性暴露レベルとの間の相関関係を示した。
【0140】
参考文献
下記の文書は、その全体が参照により本明細書に援用される。
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19 Bautista, A. C., Salimi-Moosavi, H. & Jawa, V. Universal immunoassay applied during early development of large molecules to understand impact of immunogenicity on biotherapeutic exposure. AAPS J 14, 843-849, doi:10.1208/s12248-012-9403-0 (2012).
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【0141】
本明細書に引用する刊行物、特許出願及び特許等の全ての参考文献を、それぞれの参考文献が、個々に且つ具体的に参照により本明細書に援用されているのと同程度に、且つ本明細書にその全体が記載されているのと同程度に、参照により本明細書に援用する。
【0142】
本開示の説明に関連して(特に下記の特許請求の範囲に関連して)、「1つの(a)」、及び「1つの(an)」、及び「その」という用語、並びに類似の指示対象の使用は、別途本明細書で指示されない限り又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されなければならない。「含む」、「有する」、「包含する」、及び「含有する」という用語は、特記しない限り、オープンエンドの用語(即ち「含むが、限定されない」を意味する)と解釈されなければならない。
【0143】
「患者」及び「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。一般に、これらの用語は、ヒトを指すものと理解される。いくつかの実施形態の方法では、患者又は対象は、ヒトである。
【0144】
本明細書における値の範囲の記載は、本明細書中で別段の指定がない限り、範囲内にあるそれぞれ別個の値及びそれぞれの境界値を個々に言及する簡略法としての役割を果たすことを単に意図しており、それぞれの別個の値及び境界値を、本明細書中にあたかも個々に記載されているように本明細書に援用する。
【0145】
本明細書で説明されている方法は全て、別途本明細書で指示されない限り、又は文脈と明確に矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書で提供されるあらゆる例又は例示的な言語(例えば、「等」)の使用は、本開示を単により明らかにすることを意図するものであり、別途特許請求されない限り、本開示の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、任意の特許請求されていない要素を、本開示を実施するのに必要不可欠なものとして示すものと解釈されるべきではない。
【0146】
本開示を実施するのに本発明者らに既知の最良の形態を含む、本開示の好ましい実施形態が本明細書で説明されている。それらの好ましい実施形態の変形形態は、上記の記載を読めば当業者にとって明らかになろう。本発明者らは、かかる変形形態を必要に応じて当業者らが用いることを期待するものであり、本発明者らは、本明細書で具体的に説明されている以外の別の方法で本開示が実施されることを意図する。従って、本開示は、適用される法律に許可されるように、本明細書に添付される特許請求の範囲に列挙された主題の全ての修正形態及び均等物を包含する。更に、上記の要素の任意の組み合わせは、別途本明細書で指示されない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、その全ての可能な変形形態で本開示に包含される。
【国際調査報告】