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特表2023-554361静電容量感知を有するシリンジおよびインジェクタ、ならびにそれらの作製方法および使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】静電容量感知を有するシリンジおよびインジェクタ、ならびにそれらの作製方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/46 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A61M5/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536150
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 US2021063176
(87)【国際公開番号】W WO2022132674
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】63/126,197
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522242018
【氏名又は名称】メルク・シャープ・アンド・ドーム・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイツェル,ダグラス・イー.
(72)【発明者】
【氏名】ペルサック,スティーブン・カール
(72)【発明者】
【氏名】ギバンド,ジェフリー・シー.
(72)【発明者】
【氏名】グラネリ,クリストファー
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066EE06
4C066EE14
4C066FF05
4C066LL15
4C066QQ48
(57)【要約】
注入デバイスは、薬剤を収容するためのリザーバと、リザーバと連通し、薬剤を患者の体に送達するように構成された針と、互いに離間され、針の対向する両側に配置された少なくとも2つの電極と、信号を生成し、少なくとも2つの電極間の静電容量を測定するように構成された静電容量-デジタル変換器回路とを含む。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を収容するためのリザーバと、
前記リザーバと連通し、前記薬剤を患者の体に送達するように構成された針と、
互いに離間され、前記針の対向する両側に配置された少なくとも2つの電極と、
信号を生成し、前記少なくとも2つの電極間の静電容量を測定するように構成された静電容量-デジタル変換器回路と
を備える、注射デバイス。
【請求項2】
前記少なくとも2つの電極は、平坦である、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項3】
前記少なくとも2つの電極は、円弧状である、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項4】
前記少なくとも2つの電極は、導電性材料を備える、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項5】
前記少なくとも2つの電極は、前記針から2~7mm離間している、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項6】
前記少なくとも2つの電極は、前記針と物理的に接触していない、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項7】
前記少なくとも2つの電極は、互いに5~15mm離間している、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項8】
前記少なくとも2つの電極の周りに配置された一対の遮蔽電極をさらに備える、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項9】
前記遮蔽電極は、導電性材料を備える、請求項8に記載の注射デバイス。
【請求項10】
前記リザーバを収容するためのバレルであって、前記バレルは、少なくとも1つのバレルフランジを有するバレルと、前記バレル内に少なくとも部分的に配置され、前記薬剤を前記リザーバから前記針に駆動するために前記バレルに対して並進可能なプランジャであって、前記少なくとも1つのバレルフランジは、前記静電容量-デジタル変換器回路と電気的に連通する絶縁導電パッドを有するプランジャとをさらに備える、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項11】
前記リザーバを収容するためのバレルと、前記バレル内に少なくとも部分的に配置されたプランジャであって、前記プランジャは、プランジャフランジを有し、前記薬剤を前記リザーバから前記針に駆動するために前記バレルに対して並進可能であり、前記プランジャフランジは、前記静電容量-デジタル変換器回路と電気的に連通する中央導電パッドを有するプランジャとをさらに備える、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項12】
薬剤を収容するためのリザーバと、
前記リザーバと連通し、前記薬剤を患者の体に送達するように構成された針と、
前記針の周りに配置され、前記針から離間している第1のリング状電極と、
前記第1のリング状電極から離間している第2の基準電極と、
信号を生成し、前記第1のリング状電極と前記第2の基準電極との間の静電容量を測定するように構成された静電容量-デジタル変換器回路と
を備える、注入デバイス。
【請求項13】
前記基準電極は、バレルフランジ上に両側に配置される、請求項12に記載の注入デバイス。
【請求項14】
前記基準電極は、プランジャフランジ上に配置される、請求項12に記載の注入デバイス。
【請求項15】
薬剤を投与する方法であって、
薬剤を収容するためのリザーバ、前記リザーバと連通し、前記薬剤を患者の体に送達するように構成された針、互いに離間され、前記針の対向する両側に配置された少なくとも2つの電極、および信号を生成し、前記少なくとも2つの電極間の静電容量を測定するように構成された静電容量-デジタル変換器回路を含む注入デバイスを設けるステップと、
前記針が前記患者の体と物理的に接触していないときに前記少なくとも2つの電極間の第1のベースライン静電容量を測定するステップと、
前記針が前記患者の体と物理的に接触しているときに前記2つの電極間の第2の静電容量を測定するステップと、
前記第1のベースライン静電容量と前記第2の静電容量との間の差に基づいて、前記針が前記患者の体内に挿入されたかどうかを決定するステップと
を含む、方法。
【請求項16】
第2の静電容量を測定するステップは、前記第1の静電容量と前記第2の静電容量との間の前記差が所定の閾値を超えるまで、前記第2の静電容量を連続的に測定し、前記第2の静電容量を前記第1のベースライン静電容量と比較するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
マイクロコントローラに前記第1のベースライン静電容量および前記第2の静電容量を記憶するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記針が前記患者の体と物理的に接触したという情報を第三者に送信するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記針が前記患者の体と物理的に接触するまで、インターロックデバイスを維持して薬剤が前記注入デバイスから排出されるのを防止するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの補助センサから補助情報を収集し、前記補助情報および前記第1のベースライン静電容量を使用して前記注入デバイスの状態を推測するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、静電容量感知能力を有するシリンジおよびインジェクタに関する。より具体的には、本開示は、患者の体内への針の挿入を評価するために使用される静電容量感知を有するシリンジおよびインジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
プレフィルドシリンジは、典型的には、医薬品を収容するガラスバレルを含み、これはストッパによって密封されている。プレフィルドシリンジを使用する際の1つの懸念は「用量分割」であることが知られており、用量分割において、典型的には、皮下注射用に設計されたプレフィルドシリンジの内容物が、ラベル外あるいは他の意図しない使用に備えて、バイアルまたは静脈内バッグなどの別の容器に移される。「用量分割」などの挙動は望ましくなく、不適切な治療のために安全でない可能性があり、例えば、臨床試験のためのデータ収集を損なう場合がある。従来のデバイスおよび方法は、患者のコンプライアンスを評価するための無菌かつ正確な技術を提供しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、プレフィルドシリンジなどのインジェクタおよびシリンジを安全に使用する方法を改善および改良するデバイスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態では、注入デバイスは、薬剤を収容するためのリザーバと、リザーバと連通し、薬剤を患者の体に送達するように構成された針と、互いに離間され、針の対向する両側に配置された少なくとも2つの電極と、信号を生成し、少なくとも2つの電極間の静電容量を測定するように構成された静電容量-デジタル変換器回路とを含む。
【0005】
本開示のシリンジおよびセンサの様々な実施形態が、図面を参照して本明細書に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】静電容量センサを有するプレフィルドシリンジの概略正面図である。
図1B】静電容量センサを有するプレフィルドシリンジの概略正面図である。
図2A】挿入中の針の動きを示す概略図である。
図2B】挿入中の針の動きを示す概略図である。
図2C】挿入中の針の動きを示す概略図である。
図3A】針を用いた静電容量センサの動作についての概略図である。
図3B】針を用いた静電容量センサの動作についての概略図である。
図4】遮蔽電極を有するプレフィルドシリンジの一例の概略正面図である。
図5A】リング状電極を有するプレフィルドシリンジの別の実施形態の概略正面図である。
図5B】リング状電極を有するプレフィルドシリンジの別の実施形態の概略正面図である。
図6】シミュレートされた使用シーケンスにおける静電容量針センサおよび加速度計(Z軸)の出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に、様々な実施形態について添付の図面を参照して説明する。これらの図面は、本開示のいくつかの実施形態のみを図示しており、したがってその範囲を限定するものと見なされるべきではないことを理解されたい。
【0008】
プレフィルドシリンジなどのインジェクタおよびシリンジになされた様々な改善にもかかわらず、従来の方法は、上述のようにいくつかの欠点を抱えている。
【0009】
したがって、薬剤を送達し、患者のコンプライアンスを測定するために使用されるデバイスおよび方法をさらに改善する必要がある。他の利点の中でも、本開示は、これらの必要性のうちの1つまたは複数に対処することができる。
【0010】
本明細書で使用される場合、「近位」という用語は、シリンジまたはインジェクタの構成要素に関連して使用される場合、デバイスを保持するときにユーザの手に最も近い構成要素の端部を指し、「遠位」という用語は、シリンジまたはインジェクタの構成要素に関連して使用される場合、使用中に針挿入部位に最も近い構成要素の端部を指す。
【0011】
同様に、「後方」および「前方」という用語は、シリンジまたはインジェクタのオペレータの指(例えば、医師)に対して解釈されるべきである。「後方」は、オペレータの指に比較的近いと理解されるべきであり、「前方」は、オペレータの指から比較的遠いと理解されるべきである。
【0012】
ここで図1A図1Bを参照すると、図1A図1Bは、2つの状態、すなわち注射前に針が伸長した第1の状態(図1A)、および完全に注射が完了した後に針がバレル内に後退した第2の状態(図1B)を有する針安全デバイス内に収容された例示的なプレフィルドシリンジ100を示す。安全デバイス内の針が示されているが、本開示はこのように限定されないことが理解されよう。例えば、本開示のセンサは、特別に設計されたシリンジバレルに、または使用前にシリンジに取り付けることができる別々のアセンブリを使用することにより統合することができる。加えて、固定針を有するプレフィルドシリンジが示されているが、本明細書に開示された原理は、他のタイプのインジェクタ(例えば、取り外し可能な針を有するシリンジ、自動インジェクタ、またはオンボディ(装着型)インジェクタなど)にも等しく適用可能であることが理解されよう。プレフィルドシリンジ100は、一般に、2つの主要部分、すなわちプランジャロッド110およびバレル120を備える。プランジャロッド110は、一般に、近位端112と遠位端114との間に延在しており、プランジャフランジ117とカプラ119との間に延在する細長いピストン115を備える。一実施形態では、ピストン115は、十字形断面形状を有する。
【0013】
円筒形バレル120は、近位端122と遠位端124との間に延在しており、プランジャロッド110の一部を受け入れるための内腔126を画定する本体125を備える。本体125は、近位端122に隣接するバレルフランジ127をさらに備え、患者の体内に注入するための薬剤、薬物、生理食塩水、または他の物質を保持するリザーバ「R」を画定する。雌ねじ付きストッパ130が、本体125の内腔126の内側に配置される。一実施形態では、ストッパ130は、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマ、またはそれらの組み合わせなどのエラストマ材料で作製され、プランジャロッドをバレル内腔126の内側に前進させ、カプラ119およびストッパ130の少なくとも一方を他方に対して回転させることによって、プランジャロッド110のカプラ119を受け入れて嵌合するための開口部を備える。
【0014】
この例では、プレフィルドシリンジ100は、追加の安全機構を提供するために針134に動作可能に結合されたばね132を含む。キャップ135もまた、針134の上に配置される。キャップ135が取り外されると、ユーザは、針で患者の皮膚を穿刺し、次いでプランジャフランジ117を押してプランジャを駆動し、針134を通して薬剤を患者の体内に送達することができる。ばね130は、作動時および薬剤の完全な送達時、針134がバレル120内に安全に後退し、内側に係止されて針刺し損傷のリスクを低減するように構成される(図1B)。
【0015】
図1A図1Bのシリンジ100は、デバイスの安全性を高めるための静電容量センサシステムの使用をさらに示している。具体的には、感知システム150が、シリンジの針がヒト組織または動物組織に注入されたことを電子的に検出するのを助けることができる。いくつかの例では、検出システムおよび対応する方法は、シリンジの針(またはカニューレ)がセンサ電極および信号処理回路のセットに間接的に静電容量結合される(導電接触していない)静電容量感知手法を使用する。具体的には、図1A図1Bに示すように、一対の導電性電極152が、針134の両側に配置され、針から離間している。電極152は、銅、チタン、真鍮、銀、および白金などの金属、または他の適切な金属、合金、導電性インクもしくはポリマーもしくは材料で作製することができる。電極152は、2つの比較的平坦な平板であるように示されているが、電極の形状および/またはサイズは、所望に応じて変えることができることが理解されよう。電極152は、ワイヤ154を介して、静電容量-デジタル変換器(CDC)回路156、または電荷転送を含む様々な検出方法(例えば、アナログ測定技術、従来のアナログ-デジタル変換器を使用してデジタル信号に変換されたアナログ信号、集積回路など)を用いる同様の適切なシステムに電気的に連通することができる。次に、回路156は、電源(図示せず)と、例えば、データを記憶するか、またはデータをコンピュータもしくは他の適切なシステムに中継するためのプロセッサおよび記憶能力を有するマイクロコントローラ158とに電気的に結合することができる。任意選択で、本体125のハウジングは、ガラスまたはプラスチックなどの絶縁材料で構成される場合、電極152を囲む電極ガード160を形成するように遠位に伸長され、投与中に電極が患者の皮膚と直接接触するのを防止することができる(この直接接触は、電極の短絡をもたらし、あるいは静電容量信号を破壊して使用できなくする可能性がある)。
【0016】
感知システム150は、電極と針との間の直接的な物理的接触を必要としないという主な利点を提供する。電極152と針134との間に物理的接触が存在しないため、システムは、シリンジの通常の使用または無菌性を妨げずに、独立型であるかまたは針安全デバイスに含まれるガラスまたはプラスチックシリンジの固定針と取り外し可能な針の両方のための様々なシリンジの幾何学的形状に適用することができる。
【0017】
図2A図2Cは、針134が患者の皮膚200に接近し(図2A)、患者の皮膚200と最初に接触し(図2B)、患者の皮膚を穿刺する(図2C)際の様々な段階における感知システム150の使用を示している。これらの実施形態では、センサ回路は、2つの電極間のリアルタイム静電容量測定値を取得することができ、測定された静電容量は、針がそれ自体の電荷を有する患者の体と接触するにつれて変化し得ることが理解されよう。この現象をよりよく説明するために、円弧状電極152が針134に隣接している図3A図3Bが示されている。2つの分離された電極152は互いに近接しており(例えば、約5~15mm離れている)、針を囲んで第1の静電容量C図3A)を有するコンデンサを効果的に形成する。一般に、平行平板電極配置についての静電容量Cは、数学的に以下のように表すことができる:
【数1】
ここで、
【数2】
は、2つの平板間の材料の透過率であり、
【数3】
は、自由空間の誘電率であり、Aは、平行平板間の面積であり、dは、平板間の距離である。この式において、
【数4】
は、平板間の材料(例えば、真空、乾燥空気など)に基づいて変化する。この場合、
【数5】
は、針が患者の体に接触するときに針の存在によっても影響を受ける。
【0018】
したがって、高周波信号(例えば、10~100kHz)が一方の電極に印加されると、信号は静電容量Cを有するコンデンサを介して他方の電極に結合され、センサ回路によって検出される。信号が部分的に2つのコンデンサ電極間の電界内にあるため、針は、寄生コンデンサCとして示される電極と静電容量結合される(接触しない)。
【0019】
針が空気中にあるかまたはバイアルのゴム隔壁を通して押し込まれた状態では、寄生静電容量Cは無視できると予想されるため、一方の電極に印加される信号は針によって大きく影響を受けず、正味の感知静電容量Cを通して他方の電極で拾い上げられる。あるいは、針134が皮下組織に挿入されると、患者の体に存在する比較的高い電荷のために寄生静電容量Cの値が増加し、結果として、2つの電極152間で検出される全体的な静電容量Cの正味の変化をもたらす。正味の静電容量および静電容量の変化は、従来のAC小信号技術を使用して、ならびに電荷転送を含む様々な検出方法を用いる静電容量-デジタル変換器(CDC)回路またはシステムを使用して測定することができる。
【0020】
本発明は、薬剤を収容するためのリザーバと、リザーバと連通し、薬剤を患者の体に送達するように構成された針と、互いに離間され、針の対向する両側に配置された少なくとも2つの電極と、信号を生成し、少なくとも2つの電極間の静電容量を測定するように構成された静電容量-デジタル変換器回路とを備える注入デバイスを備える。別の実施形態では、注射デバイスは、平坦な少なくとも2つの電極を備える。別の実施形態では、注射デバイスは、円弧状の少なくとも2つの電極を備える。
【0021】
一実施形態では、静電容量センサシステムは、針が空気中または患者の体内にあるときに寄生静電容量の小さな差を感知することにシステムが依存するため、場合によっては数百フェムトファラド(fF)の範囲内の非常に小さな静電容量変化を検出する能力を有することができる。いくつかの例では、電極の位置は、デバイスの通常の使用を妨げることなく合理的に測定可能な静電容量信号を取得することができるように、デバイスが注射用に構成されているときに針に十分に近い。
【0022】
針注射センサの1つの用途は、「用量分割」としても知られているプレフィルドシリンジの意図的な誤用の防止に関し、用量分割において、典型的には、皮下注射用に設計されたプレフィルドシリンジの内容物が、ラベル外あるいは他の意図しない使用に備えて、バイアルまたは静脈内バッグなどの別の容器に移される。いくつかの例では、針注射センサシステムは、動物組織への挿入が検出されたかどうかに応じて、シリンジプランジャの作動を防止または可能にするため、あるいは注射が投与されることを防止または可能にするためにインターロック機構と共に使用され得る信号を提供する。したがって、一実施形態では、針が患者の皮膚に挿入されていることをシステムが感知しない場合、インターロック機構を維持して意図しない使用のために薬剤を分配することを防止することができる。組織への挿入が検出されると、インターロックを解除し、薬剤を分配することができる。この情報は、マイクロコントローラによって収集され、デバイスに記憶されてもよい。いくつかの例では、情報はまた、ノンコンプライアンスにフラグを立てる(flag noncompliance)ためにコンピュータまたはサーバに通信されてもよい。いくつかの例では、通信される情報はまた、代替的または追加的に、アドヒアランス監視目的で適切に送達される用量に関連してもよい。
【0023】
針挿入センサシステムの別の用途は、センサが、所定の量の流体が充填されたシリンジから分配されたことを検出するための方法と組み合わせられたとき、注射が組織内にも投与されたという追加の客観的な証拠を提供する治療アドヒアランスの監視を含む。追加の静電容量検出により、システムは、分配された量を検出するだけでは提供することができない堅牢な情報を取得することができる。すなわち、このシステムでは、薬剤がシリンジから完全に分配されたこと、およびバッグまたはバイアルまたはシンクではなく組織に挿入されたことを知ることが可能であり得る。このタイプのデータは、例えば、臨床試験中に患者のコンプライアンスを調べる場合に有用であり得る。
【0024】
上述の検出システムおよび方法はまた、安全デバイスの有無にかかわらず、プレフィルドシリンジアセンブリに統合されてもよく、または従来の再充填可能なシリンジへの付属物として提供されてもよい。加えて、検出システムの出力は、加速度計または慣性測定ユニット(IMU)などの他の搭載型動きセンサからの信号と組み合わせて、治療アドヒアランス監視のためのデバイスの使用に関する情報を提供し、使用の安全性を高め、または安全インターロックと組み合わせた場合、意図的な誤用を無効にすることができる。
【0025】
感知システムの変形例もまた可能である。図4は、そのような変形例の1つを示している。シリンジ200は、シリンジ100と同様であり、注射投与者および患者の手または他の身体部分の近接に起因する静電容量信号に対する影響から一次電極152を遮蔽するために一次電極152に対して配置された1つまたは複数の二次静電容量電極252を追加することを除いて、同じ構成要素を含む。この例では、二次電極252は、注射前にデバイスが操作される際の静電容量信号ベースラインの同相変化を補償する差動測定を可能にする。
【0026】
図5A図5Bは、シリンジ300が針134の基部に近接する(好ましくは完全に取り囲む)リング電極352を利用し、センサコンデンサCの一方の電極を形成する別の代替の実施形態を示している。静電容量Cの他方の電極は、少なくとも2つの異なる方法で形成されてもよい。第1に、第2の電極は、針が第2の電極として機能するように、ばね荷重接点などで針自体に導電接触することによって形成されてもよい。第2に、センサ回路に接続される接着パッチ電極などを用いた患者への導電性接続である。
【0027】
特定の実施形態では、注射デバイスは、導電性材料を備える少なくとも2つの電極を備える。さらなる実施形態では、少なくとも2つの電極は、針から2~7mm離間している。別の実施形態では、少なくとも2つの電極は、針と物理的に接触していない。別の実施形態では、少なくとも2つの電極は、互いに5~15mm離間している。別の実施形態では、注射デバイスは、少なくとも2つの電極の周りに配置された一対の遮蔽電極を備える。さらなる実施形態では、遮蔽電極は、導電性材料を備える。
【0028】
いくつかの例では、注射を投与する人物を感知回路に接続するための可能な方法の1つは、シリンジアセンブリのバレルフランジ127の下側(指側)またはプランジャフランジ117上の中央導電パッド361のいずれかに第1の絶縁導電パッド360を使用することである。導電パッド360または中央導電パッド361は、静電容量-デジタル変換器と電気的に接続されてもよい。図5A図5Bは、これらの可能性の両方を示しているが、シリンジは、いずれかまたは両方の場所に絶縁導電パッドを含むことができることが理解されよう。第2の人物が注射を投与しているとき、2つの体の近接または直接の接触は、投与者の体を患者の体に接続するのに役立ち、より大きな基準電極を効果的に形成する。この実施形態に使用される静電容量センサ回路は、前述の実施形態で用いられたものと同じタイプであってもよい。少なくともいくつかの例では、この代替の実施形態における感知された静電容量の基準電極部分の大きな予想変動のために、静電容量測定手法は、より広いダイナミックレンジにわたって動作することが可能であり、注射前にベースライン読み取り値を確立する能力を有する。例えば、システムは、場合によっては静電容量信号を少なくとも1つの補助センサ(例えば、加速度計または慣性測定ユニット)からの信号と組み合わせることによって、対象の異なるイベント間を区別することが可能なスマート検出アルゴリズムを含むことができる。
【0029】
一実施形態では、注射デバイスは、リザーバを収容するためのバレルであって、バレルは、少なくとも1つのバレルフランジを有するバレルと、バレル内に少なくとも部分的に配置され、薬剤をリザーバから針に駆動するためにバレルに対して並進可能なプランジャであって、少なくとも1つのバレルフランジは、静電容量-デジタル変換器回路と電気的に連通する絶縁導電パッドを有するプランジャとをさらに備える。
【0030】
図6は、z軸に沿って測定する静電容量針センサおよび加速度計がシミュレートされた使用シーケンスで使用される一例を示している。上側の青色線は静電容量を示し、下側の赤色線は加速度計g力を示す。この例に示すように、2つのセンサは、それらのそれぞれのパラメータを連続的に測定することができ、様々なランドマークを2つの信号の各々において識別することができる。これらの2つの信号から、デバイスは、静電容量の変化を意図する使用に関連するものとしてさらに認定するために、デバイスが操作されているとき、注射の投与に関連するデバイスの向きまたは振動などのデバイスの使用の特定の態様を推測することができる。いくつかの例では、この情報はまた、コンプライアンス監視のためにコンピュータまたはサーバに通信されてもよい。いくつかの例では、注射前のベースライン読み取り値は、デバイスが最初に操作されたときに見られる静電容量(操作は、例えば、加速度計によって検出される)が「0」であると仮定され、さらなる変化はその値に基づく「風袋引き」動作を介して確立され得る。ベースライン値は、デバイスの使用ごとに変化してもよく、またはベースライン静電容量は、固定電極/針構成によって決定されてもよく、ユニットごとに比較的一定である。
【0031】
上述のインターロック機構は、電気機械式、電磁式、またはメモリ金属(Nitinol)式のアクチュエータに通電することによって解除されるプランジャ係止ピンまたはラチェット爪を含むいくつかの形態で具現化することができる。あるいは、小さな加熱要素に通電すると、ばね荷重ピンまたは爪をシリンジプランジャの作動を防止する位置に保持するワックスまたは接着剤の状態が変化し、プランジャの作動が解除される。いくつかの他の例では、カニューレ内の固体材料の状態を変化させる小さな加熱要素の通電を利用して、薬剤(例えば、液体)の流れを遮断することができる。
【0032】
いくつかの例では、アドヒアランス監視目的で分配量を測定するために使用される方法は、光学的、機械的、または電子的手段によるシリンジプランジャの線形位置の決定、ならびに機械的シリンジ安全デバイスの展開または非展開のバイナリ状態の決定を含むことができ、これは、安全デバイスを備えたプレフィルドシリンジアセンブリによる成功した注射の完了時にのみ起こり得る。
【0033】
特定の実施形態では、本発明は、薬剤を収容するためのリザーバと、リザーバと連通し、薬剤を患者の体に送達するように構成された針と、針の周りに配置され、針から離間している第1のリング状電極と、第1のリング状電極から離間している第2の基準電極と、信号を生成し、第1のリング状電極と第2の基準電極との間の静電容量を測定するように構成された静電容量-デジタル変換回路とを備える注入デバイスを備える。さらなる実施形態では、基準電極は、バレルフランジ上に両側に配置される。さらに別の実施形態では、基準電極は、プランジャフランジ上に配置される。
【0034】
特定の実施形態では、本発明は、薬剤を投与する方法であって、薬剤を収容するためのリザーバ、リザーバと連通し、薬剤を患者の体に送達するように構成された針、互いに離間され、針の対向する両側に配置された少なくとも2つの電極、および信号を生成し、少なくとも2つの電極間の静電容量を測定するように構成された静電容量-デジタル変換器回路を含む注入デバイスを設けるステップと、針が患者の体と物理的に接触していないときに少なくとも2つの電極間の第1のベースライン静電容量を測定するステップと、針が患者の体と物理的に接触しているときに2つの電極間の第2の静電容量を測定するステップと、第1のベースライン静電容量と第2の静電容量との間の差に基づいて、針が患者の体内に挿入されたかどうかを決定するステップとを含む、方法を含む。さらなる実施形態では、本発明は、第2の静電容量を測定するステップを含み、第1の静電容量と第2の静電容量との間の差が所定の閾値を超えるまで、第2の静電容量を連続的に測定し、第2の静電容量を第1のベースライン静電容量と比較するステップを含む。別の実施形態では、本発明は、マイクロコントローラに第1のベースライン静電容量および第2の静電容量を記憶するステップを含む。さらに別の実施形態では、薬剤を投与する方法は、針が患者の体と物理的に接触したという情報を第三者に送信するステップをさらに含む。さらに別の実施形態では、薬剤を投与する方法は、針が患者の体と物理的に接触するまで、インターロックデバイスを維持して薬剤が注入デバイスから排出されるのを防止するステップをさらに含む。別の実施形態では、薬剤を投与する方法は、少なくとも1つの補助センサから補助情報を収集し、補助情報および第1のベースライン静電容量を使用して注入デバイスの状態を推測するステップをさらに含む。
【0035】
本明細書に記載の実施形態は、本開示の原理および用途の単なる例示であることを理解されたい。例えば、静電容量センサの電極の数、位置決め、および配置は変更することができる。さらに、特定の構成要素は任意選択であり、本開示は、本明細書に開示された要素の様々な構成および組み合わせを企図している。したがって、多数の修正を例示的な実施形態に加えることができ、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の精神および範囲から逸脱することなく他の配置を考案することができることを理解されたい。
【0036】
様々な従属請求項およびそこに記載された特徴は、最初の請求項に提示されたものとは異なる方法で組み合わせることができることが理解されよう。個々の実施形態に関連して説明された特徴は、説明された実施形態の他の特徴と共有されてもよいことも理解されよう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
【国際調査報告】