(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】被覆鋼板及び高強度プレス硬化鋼部品並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231220BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20231220BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20231220BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20231220BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C22C38/38
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536434
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 IB2021061293
(87)【国際公開番号】W WO2022130102
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2020/062044
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィリポ,クレマン
(72)【発明者】
【氏名】デュモン,アリス
(72)【発明者】
【氏名】エリー,デボラ
(72)【発明者】
【氏名】ボーベ,マルタン
【テーマコード(参考)】
4K037
4K042
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA17
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4K037EB05
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4K037FA02
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4K037FH07
4K037FJ05
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4K037JA06
4K037JA07
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA05
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA12
4K042DA01
4K042DA03
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD01
4K042DE02
(57)【要約】
本発明は、重量パーセントで、以下、C0.15~0.25%、Mn0.5~1.8%、Si0.1~1.25%、Al0.01~0.1%、Cr0.1~1.0%、Ti0.01~0.1%、B0.001~0.004%、P≦0.020%、S≦0.010%、N≦0.010%、を含む、組成を有する被覆鋼板及びプレス硬化鋼部品であって、組成の残りが、鉄及び精錬から生じる不可避不純物である、被覆鋼板及びプレス硬化鋼部品に関する。プレス硬化鋼部品は、表面分率で、95%を超えるマルテンサイト及び5%未満のベイナイトを含む微細構造を有するバルクと、鋼部品の表面の被膜層と、被膜層とバルクとの間のフェライト相互拡散層と、以下の式、(GWint/PAGSbulk)-1≧30%を満たす、バルク中の旧オーステナイト粒径PAGSbulkに対する相互拡散層中のフェライト粒の幅GWintの比を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセントで、以下、
C:0.15~0.25%
Mn:0.5~1.8%
Si:0.1~1.25%
Al:0.01~0.1%
Cr:0.1~1.0%
Ti:0.01~0.1%
B:0.001~0.004%
P≦0.020%
S≦0.010%
N≦0.010%
を含み、
及び任意に、重量パーセントで、以下、
Mo≦0.40%
Nb≦0.08%
Ca≦0.1%
の元素のうちの1つ以上を含む、
組成を有する鋼でできた被覆鋼板であって、
当該組成の残りが、鉄及び精錬から生じる不可避不純物であり、
前記被覆鋼板が、当該被覆鋼板のバルクから表面までに以下、
-表面分率で60%~90%のフェライトを含み、残りが島状マルテンサイト-オーステナイト、パーライト又はベイナイトである微細構造を有するバルク、
-かかるバルクは、上部に1μm~100μmの厚さを有するフェライト層を含む脱炭層で覆われており、
-アルミニウム又はアルミニウム合金でできた被膜層
を含む、被覆鋼板。
【請求項2】
被覆鋼板を製造するための方法であって、
以下の連続するステップ、
-請求項1に記載の組成を有する鋼を鋳造してスラブを得るステップ、
-前記スラブを1100℃~1300℃を含む温度T
reheatで再加熱するステップ、
-800℃~950℃を含む仕上げ熱間圧延温度で再加熱された前記スラブを熱間圧延するステップ
-670℃未満の巻取り温度T
coilで前記熱間圧延鋼板を巻き取って、巻取り鋼板を得る工程、
-任意に、前記巻取り鋼板を酸洗いするステップ、
-任意に、前記巻取り鋼板を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得るステップ、
-熱間圧延鋼板又は冷間圧延鋼板を700℃~850℃を含む焼鈍温度T
Aに加熱し、10秒~1200秒を含む保持時間t
Aにわたって鋼板を前記温度T
Aに維持して、焼鈍鋼板を得るステップであって、雰囲気が0%~15%のH2を含み、厳密に-10℃より高く+20℃以下の露点T
DP1を有する、ステップ、
-前記焼鈍鋼板を560℃~700℃の温度範囲に冷却するステップ、
-前記焼鈍鋼板をアルミニウム又はアルミニウム合金被膜で被覆するステップ
-前記被覆鋼板を室温に冷却するステップ
を含む、方法。
【請求項3】
プレス硬化鋼部品であって、重量パーセントで、以下、
C:0.15~0.25%
Mn:0.5~1.8%
Si:0.1~1.25%
Al:0.01~0.1%
Cr:0.1~1.0%
Ti:0.01~0.1%
B:0.001~0.004%
P≦0.020%
S≦0.010%
N≦0.010%
を含み、
及び任意に、重量パーセントで、以下、
Mo≦0.40%
Nb≦0.08%
Ca≦0.1%
の元素のうちの1つ以上を含む、
組成を有し、
当該組成の残りが、鉄及び精錬から生じる不可避不純物であり、
前記鋼部品が、当該鋼部品のバルクから表面までに連続的に以下、
-表面分率で、95%を超えるマルテンサイト及び5%未満のベイナイトを含む微細構造を有するバルク、
-フェライト相互拡散層、
-アルミニウムをベースとする被膜層、
を含み、
前記バルク中の旧オーステナイト粒径PAGS
bulkに対する前記相互拡散層中のフェライト粒の幅GW
intの比が、以下の式、
(GW
int/PAGS
bulk)-1≧30%
を満たす、プレス硬化鋼部品。
【請求項4】
前記バルクと前記フェライト相互拡散層との間に炭素勾配を有するマルテンサイトの層を含む、請求項3に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項5】
1350MPa以上の引張強度TS及び70°より大きい曲げ角度を有する、請求項3又は4に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項6】
1000MPa以上の降伏強度YSを有する、請求項5に記載のプレス硬化鋼部品。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか一項に記載のプレス硬化鋼部品を製造するための方法であって、以下の連続するステップ、
-請求項1に記載の組成を有する、又は請求項2に記載の方法によって製造された鋼板を提供するステップ、
-鋼ブランクを得るために、前記鋼板を所定の形状に切断するステップ、
-鋼ブランクを880℃~950℃を含む温度に10秒~900秒間加熱して、加熱された鋼ブランクを得るステップ、
-加熱されたブランクを成形プレスに移すステップ、
-前記成形プレス内で加熱されたブランクを熱間成形して成形部品を得るステップ、
-前記成形部品をダイクエンチするステップ
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆鋼板及び良好な曲げ特性を有する高強度プレス硬化鋼部品に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度プレス硬化部品は、侵入防止又はエネルギー吸収機能のための自動車両の構造要素として使用され得る。
【0003】
このような種類の用途では、高い機械的強度、高い耐衝撃性及び良好な耐食性を兼ね備えた鋼部品を製造することが望ましい。さらに、自動車産業における主要な課題の1つは、安全要件を無視することなく、地球環境保全の観点から車両の燃費を改善するために車両の重量を減少させることである。
【0004】
この軽量化は、特に、マルテンサイト又はベイナイト/マルテンサイト微細構造を有する鋼部品の使用によって達成することができる。
【0005】
刊行物、国際公開第2016/104881号は、車両等の構造部品として使用され、耐衝撃特性が要求される、より具体的には、1300MPa以上の引張強度を有する、熱間プレス成形部品、及び製造方法に関し、並びに鋼材をオーステナイト単相が形成され得る温度に加熱し、金型を使用して焼入れ及び熱間成形する方法に関する。このような特性を得るために、母鋼板は表面に50μm未満の薄いフェライト層を含み、炭化物のサイズ及び密度を制御する必要がある。基板中のこのフェライト層は、めっき層上に形成された微細な割れの母板への伝播の抑制を可能にするが、曲げ角度が70°未満の低い曲げ性をもたらす。
【0006】
国際公開第2018/179839号は、厚さ方向に変化する微細構造を有する鋼板を熱間プレスすることによって得られる熱間プレス部品であって、少なくとも90%のフェライトでできた軟質層と、フェライト及びマルテンサイトでできた遷移層と、マルテンサイトを主成分とする硬質層とを備え、高強度及び高曲げ性の両方を有する、熱間プレス部品に関する。このような特性を得るために、冷間圧延鋼板は、アルミニウム合金被覆に有害であり得る露点温度が50℃~90℃を含む雰囲気中で焼鈍される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/104881号
【特許文献2】国際公開第2018/179839号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、上述の問題を解決し、1350MPa以上の引張強度TS及び70°より大きい曲げ角度を有する高い機械的特性の組み合わせを有するプレス硬化鋼部品を提供することである。好ましくは、本発明によるプレス硬化鋼部品は、1000MPa以上の降伏強度YSを有する。
【0009】
本発明の別の目的は、熱間成形によってそのようなプレス硬化鋼部品に変形することができる被覆鋼板を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、請求項1に記載の鋼板を提供することによって達成される。別の目的は、請求項2に記載の方法を提供することによって達成される。本発明の別の目的は、請求項3に記載のプレス硬化鋼部品を提供することによって達成される。鋼部品はまた、請求項4~6のいずれか一項に記載の特性を含むことができる。別の目的は、請求項7に記載の方法を提供することによって達成される。
【0011】
ここで、添付の図面を参照して、本発明を限定を導入することなく実施例によって詳細に説明し、例示する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1a】試験4の被覆鋼板の概略断面図を示す。これは、本発明によるものではない。
【
図1b】試験4からのプレス硬化鋼部品の概略断面図を示す。これは、本発明によるものではない。
【
図2a】試験5の被覆鋼板の概略断面図を示す。これは、本発明によるものではない。
【
図2b】試験5からのプレス硬化鋼部品の概略断面図を示す。これは、本発明によるものではない。
【
図3a】試験1及び2の被覆鋼板の概略断面図を示す。これは、本発明による。
【
図3b】試験1及び2からのプレス硬化鋼部品の概略断面図を示す。これは、本発明による。
【
図4a】試験3の被覆鋼板の概略断面図を示す。これは、本発明による。
【
図4b】試験3からのプレス硬化鋼部品の概略断面図を示す。これは、本発明による。
【
図5a】試験9の被覆鋼板の概略断面図を示す。これは、本発明によるものではない。
【
図5b】試験9からのプレス硬化鋼部品の概略断面を示す。これは、本発明によるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明による鋼の組成を説明するが、含有量は重量パーセントで表される。
【0014】
本発明によれば、炭素含有量は、満足のいく強度を確保するために0.15%~0.25%を含む。炭素が0.25%を超えると、鋼板の溶接性及び曲げ性が低下する可能性がある。炭素含有量が0.15%未満である場合、引張強度が目標値に達しない。
【0015】
マンガン含有量は、0.5%~1.8%を含む。添加量が1.8%を超えると、中心偏析のリスクが増大し、曲げ性が損なわれる。0.5%未満では、鋼板の焼入れ性が低下する。好ましくは、マンガン含有量は0.8%~1.5%を含む。
【0016】
本発明によれば、ケイ素含有量は0.1%~1.25%を含む。ケイ素は、固溶体中の硬化に関与する元素である。ケイ素は、炭化物の形成を制限するために添加される。1.25%を超えると、酸化ケイ素が表面に形成され、鋼の被覆性を損なう。さらに、鋼板の溶接性が低下する可能性がある。好ましくは、ケイ素含有量は0.2%~1.25%である。より好ましくは、ケイ素含有量は0.3%~1.25%である。
【0017】
アルミニウム含有量は、精緻化中に液相中の鋼を脱酸素するための非常に有効な元素であるため、0.01%~0.1%を含む。チタン含有量が十分でない場合、アルミニウムはホウ素を保護することができる。アルミニウム含有量は、プレス硬化中の酸化問題及びフェライト形成を回避するために0.1%未満である。好ましくは、アルミニウム含有量は0.01%~0.05%を含む。
【0018】
本発明によれば、クロム含有量は0.1%~1.0%を含む。クロムは、固溶体中の硬化に関与する元素であり、0.1%より高くなければならない。クロム含有量は、加工性の問題及びコストを制限するために1.0%未満である。
【0019】
チタン含有量は、ホウ素をBNの形成から保護するために0.01%~0.1%を含む。チタン含有量は、TiN形成を回避するために0.1%に制限される。
【0020】
本発明によれば、ホウ素含有量は0.001%~0.004%を含む。ホウ素は、鋼の焼入れ性を改善する。ホウ素含有量は、連続鋳造中にスラブが破損するリスクを回避するために、0.004%以下である。
【0021】
いくつかの元素を任意に添加することができる。
【0022】
モリブデン含有量は、最大0.40%まで任意に添加することができる。ホウ素と同様に、モリブデンは、鋼の焼入れ性を改善する。モリブデンは、コストを制限するために0.40%以下である。
【0023】
本発明によれば、ニオブは、鋼の延性を改善するために、最大0.08%まで任意に添加することができる。添加量が0.08%を超えると、NbC又はNb(C、N)炭化物の形成のリスクが増大し、曲げ性が損なわれる。好ましくは、ニオブ含有量は0.05%以下である。
【0024】
カルシウムもまた、任意の元素として最大0.1%まで添加することができる。液段階でのCaの添加は、連続鋳造の鋳造性を促進する微細な酸化物の生成を可能にする。
【0025】
鋼の組成の残りは、鉄及び精錬から生じる不純物である。この点において、P、S及びNは少なくとも、不可避不純物である残留元素とみなされる。それらの含有量は、Sについては0.010%未満、Pについては0.020%未満、Nについては0.010%未満である。
【0026】
次に、本発明による被覆鋼板の微細構造を説明する。
【0027】
本発明の被覆鋼板の断面が、
図3a及び
図4aに概略的に表されている。被覆鋼板は上部に、1μm~100μmの厚さを有するフェライト層(4)を含む脱炭層(3)で覆われており、及び、被膜層(1)とバルク(2)を含む。好ましくは、フェライト層の厚さは、20μm~100μmを含む。より好ましくは、フェライト層の厚さは、25μm~100μmである。より好ましくは、フェライト層の厚さは、25μm~80μmである。
【0028】
被覆鋼板のバルク(2)は、表面分率で60%~90%のフェライトを含み、残りは島状マルテンサイト-オーステナイト、パーライト又はベイナイトからなる微細構造を有する。
【0029】
このフェライトは、冷間圧延鋼板の変態区間焼鈍中に形成される。微細構造の残りは、均熱の終了時に、オーステナイトであり、これは鋼板の冷却中に島状マルテンサイト-オーステナイト、パーライト又はベイナイトに変態する。
【0030】
バルクの上部に存在する脱炭層は、露点温度を厳密に-10℃より高く20℃以下に設定するように炉内の雰囲気を制御することにより、冷間圧延鋼板の焼鈍中に得られる。
【0031】
本発明による被覆鋼板は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者はこれを規定することができる。しかしながら、以下のステップを含む本発明による方法を使用することが好ましい:
さらに熱間圧延することができる半製品に、上述の鋼組成を提供する。半製品を1150℃~1300℃を含む温度で再加熱する。
【0032】
次いで、800℃~950℃を含む仕上げ熱間圧延温度で、鋼板を熱間圧延する。
【0033】
次いで、熱間圧延鋼を冷却し、670℃未満の温度Tcoilで巻き取り、任意に酸洗いして酸化を除去する。
【0034】
次いで、巻取り鋼板を任意に冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得る。冷間圧延圧下率は、好ましくは20%~80%を含む。20%未満では、その後の熱処理中の再結晶は好ましくなく、鋼板の延性を損なう可能性がある。80%を超えると、冷間圧延中に端部割れが発生するリスクがある。
【0035】
次いで、鋼板を、0%~15%のH2を含むHNx雰囲気中で、700℃~850℃を含む焼鈍温度TAまで焼鈍し、10秒~1200秒を含む保持時間tAにわたって前記焼鈍温度TAに維持して、焼鈍鋼板を得る。700℃未満では、脱炭層の形成速度が遅すぎて、その上部にフェライト層を得ることができない。保持時間tAは、フェライト層の形成を可能にするために10秒以上であり、このフェライト層の厚さを制限するために1200秒以下である。
【0036】
この焼鈍中、炉内の雰囲気は、本発明による脱炭層を形成するために、厳密に-10℃より高く+20℃以下の露点温度TDP1を有するように制御される。TDP1が-10℃以下である場合、脱炭層の形成が遅くなり、その上部にフェライト層が形成されない。鋼部品の曲げ性は、低くなりすぎる。TDP1が20℃より高い場合、鋼板の表面が完全に酸化され、鋼板の被覆性及び機械的特性を損なう可能性がある。
【0037】
本発明の一実施形態では、焼鈍鋼板は、700℃~850℃を含む焼鈍温度T2に加熱され、10秒~1200秒を含む保持時間t2にわたって前記温度T2に維持され、雰囲気は、厳密に-10℃より高く+20℃以下の露点TDP2を有する。
【0038】
次いで、鋼板は、アルミニウム合金被覆で被覆される。
【0039】
次に、本発明によるプレス硬化鋼部品の微細構造を説明する。プレス硬化鋼部品の断面が、
図3b及び
図4bに概略的に表されている。
【0040】
鋼部品は、鋼部品のバルクから表面までに連続的に以下、
-表面分率で、95%を超えるマルテンサイト及び5%未満のベイナイトを含む微細構造を有するバルク(7)、
-フェライト相互拡散層(6)、
-アルミニウムをベースとする被膜層(5)
を含む。
【0041】
本発明による鋼板から切り出された鋼ブランクの加熱中に、バルクのすべての微細構造元素がオーステナイトに変態し、脱炭層のフェライトは、バルクのオーステナイトよりも広い粒径を有するオーステナイトに変態する。熱間成形後、鋼部品は次いで、ダイクエンチされる。相互拡散層は、前者の広粒径のオーステナイト層から成長するため、バルク中の旧オーステナイト粒径よりも大きい粒の幅を有する。機械的特性を低下させることなく、鋼板の曲げ性を改善するために、バルク中の旧オーステナイト粒径PAGSbulkに対する相互拡散層中のフェライト粒の幅GWintの比は、以下の式
(GWint/PAGSbulk)-1≧30%
を満たす。
【0042】
フェライト粒の幅は、2つの平行な粒界間の平均距離であり、粒界は鋼板の厚さ方向に配向している。本発明による焼鈍温度TA、焼鈍時間tA及び露点温度TDP1の組み合わせは、相互拡散層において大きい粒の幅を得ることを可能にする。さらに、プレス成形前の鋼ブランクの加熱は、バルク中に小さいPAGSを得ることを可能にする。
【0043】
一実施形態では、プレス硬化鋼部品は、
図4bの(8)によって表されるように、バルクと相互拡散層との間に炭素勾配を有するマルテンサイト層をさらに含んでもよい。鋼ブランクの加熱中、炭素はバルクから表面に拡散する。次いで、脱炭層のフェライト上部は、炭素の勾配を有するオーステナイトの層に変態する。ダイクエンチ中、炭素の勾配を有するこのオーステナイト層は、炭素勾配を有するマルテンサイトの層に変態する。
【0044】
本発明によるプレス硬化鋼部品は、1350MPa以上の引張強度TS及び70°より大きい曲げ角度を有する。曲げ角度は、VDA238-100曲げ規格(厚さ1.5mmに正規化)に従って、プレス硬化部品において決定されている。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、降伏強度YSは、1000MPa以上である。
【0046】
TS及びYSは、ISO規格ISO 6892-1に従って測定される。
【0047】
本発明によるプレス硬化鋼部品は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者はそれを規定することができる。しかしながら、以下のステップを含む本発明による方法を使用することが好ましい:
本発明に係る被覆鋼板を所定の形状に切断して鋼ブランクを得る。次いで、鋼ブランクを880℃~950℃を含む温度に10秒~900秒間加熱して、加熱された鋼ブランクを得る。次いで、加熱されたブランクを、熱間成形及びダイクエンチする前に成形プレスに移す。
【0048】
ここで、本発明を以下の実施例によって説明するが、これらは決して限定的なものではない。
【実施例】
【0049】
表1に組成をまとめた7つのグレードを半製品に鋳造し、表2にまとめた加工パラメータに従って鋼板、次いで鋼部品に加工した。
【0050】
表1-組成
試験した組成物を以下の表にまとめ、元素含有量を重量パーセントで表す。
【0051】
【0052】
表2-加工パラメータ
鋳造された鋼半製品を1200℃で再加熱し、800~950℃を含む仕上げ熱間圧延温度で熱間圧延し、550℃で巻き取り、60%の圧下率で冷間圧延した。次いで、鋼板を温度TAに加熱し、制御された露点を有する5%のH2を含むHNx雰囲気中で、保持時間tAにわたって前記温度に維持する。次いで、鋼板を560~700℃の温度に冷却し、次いで、10%のケイ素を含むアルミニウム-ケイ素被膜で溶融めっき被覆した。
【0053】
試料3を、被膜前に温度T2で第2の焼鈍に供し、鋼板は、5%のH2及び制御された露点を有するHNx雰囲気中で、保持時間t2にわたって前記T2温度に維持した。以下の特定の条件を適用した:
【0054】
【0055】
被覆鋼板を分析し、脱炭層の対応する特性を表3にまとめる。
【0056】
表3-被覆鋼板の脱炭層の特性
【0057】
【0058】
次いで、被覆鋼板を切断して鋼ブランクを得て、900℃で6分間加熱し、熱間成形した。鋼部品を分析し、対応する微細構造、相互拡散層中のフェライト粒の幅GWint及びバルク中の旧オーステナイト粒径PAGSbulkを表4にまとめる。機械的特性を表5にまとめる。
【0059】
表4-プレス硬化鋼部品の微細構造
【0060】
【0061】
表面分率、相互拡散層中のフェライト粒の幅及びPAGSは、以下の方法によって決定される:試験片をプレス硬化鋼部品から切断し、研磨し、それ自体公知の試薬でエッチングして、微細構造を明らかにする。その後、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡、例えば、BSE(後方散乱電子)デバイスと組み合わせた5000倍を超える倍率の電界放出電子銃(「FEG-SEM」)を備えた走査型電子顕微鏡を用いて、断面を検査する。
【0062】
表5-プレス硬化鋼部品の機械的特性
試験した試料の機械的特性を測定し、以下の表にまとめた:
【0063】
【0064】
実施例は、本発明による鋼部品、すなわち実施例1~3が、それらの特定の組成及び微細構造のおかげですべての目標特性を示す唯一の鋼部品であることを示している。
【0065】
図3aは、試験1及び2の被覆鋼板の概略断面図を表す。本発明の加工パラメータ、焼鈍温度T
A、焼鈍時間t
A及び露点温度T
DP1の組み合わせにより、上部にフェライトの層(4)が形成された脱炭層(3)を得ることが可能になる。
【0066】
次いで、被覆鋼板を熱間成形する。
図3bは、試験1及び2のプレス硬化鋼部品の概略断面図を表す。
【0067】
相互拡散層(6)内に形成されるフェライトの粒の幅は、加熱中にオーステナイト形成が起こる純粋なフェライト層の遺産であり、より大きい粒径を有する。相互拡散層は、この大きいオーステナイト粒径で成長する。相互拡散層(6)のフェライトの粒の幅は、バルク(7)の旧オーステナイト粒径よりも大きく、70°より大きい曲げ角度を有して良好な曲げ性をもたらす。
【0068】
図4aは、試験3の被覆鋼板の概略断面図を表す。本発明の加工パラメータ、焼鈍温度T
A、焼鈍時間t
A及び露点温度T
DP1の組み合わせは、より長い焼鈍時間により、試験1及び2よりも深いフェライトの層(4)を上部に有する脱炭層(3)の形成をもたらす。
【0069】
次いで、被覆鋼板を熱間成形する。
図4bは、試験3からのプレス硬化鋼の概略断面図を表す。
【0070】
相互拡散層(6)のフェライトの粒径は、鋼部品の加熱中にオーステナイト形成が起こる純粋なフェライト層の遺産であり、より大きい粒径を有する。相互拡散層は、これらのより大きいオーステナイト粒径で成長する。相互拡散層(6)のフェライト粒の幅は、バルク(7)の旧オーステナイト粒径よりも大きく、70°より大きい曲げ角度を有して良好な曲げ性をもたらす。さらに、被覆鋼板中の厚いフェライト層(3)により、炭素勾配を有するマルテンサイトの層が、プレス硬化鋼部品中のバルクと相互拡散層との間に形成され、1350MPaより高い引張強度をもたらす。
【0071】
試験4では、鋼板の組成は、試験1及び本発明によるものと同じである。試験1との比較では、鋼板の焼鈍中の露点温度が低すぎて、被覆鋼板中の上部フェライト部分を有する脱炭層を得ることができない。
図1aは、被膜層(1)及びバルク(2)を有する、これらの試験の被覆鋼板の概略断面図を表す。
【0072】
次いで、被覆鋼板を熱間成形する。
図1bは、試験4からのプレス硬化鋼部品の概略断面図を表す。フェライト層が存在しないため、相互拡散層(6)のフェライト粒の幅はバルク(7)の旧オーステナイト粒径と同等であり、70°未満の低い曲げ角度をもたらす。
【0073】
試験5では、被覆鋼板は、
図2aに概略的に表されるように、その上部にフェライト層のない脱炭層を有する。フェライト層が存在しないのは、-10℃の低い露点温度T
DP1によるものであり、これは脱炭の速度を遅くする。
【0074】
次いで、被覆鋼板を熱間成形する。
図2bは、試験5からのプレス硬化鋼部品の概略断面図を表す。フェライト層が存在しないため、相互拡散層(6)のフェライト粒の幅はバルク(7)の旧オーステナイト粒径と同等であり、70°未満の低い曲げ角度をもたらす。
【0075】
試験6及び7では、鋼板は0.14%の低い炭素レベルを有する。試験6では、-35℃の低い露点温度TDP1は、被覆鋼板中の脱炭層及びフェライト層の成長を可能にしない。比較すると、試験7では、試験6と同じ温度及び同じ時間で、ただし-10℃の露点温度で、鋼板を焼鈍す。このより高い露点温度は、鋼板の低い炭素レベルのおかげで、フェライト層を有する脱炭層を得ることを可能にする。しかし、この低い炭素レベルは、プレス硬化鋼部品において所望の機械的特性を得ることを可能にしない。特に、引張強度は1350MPa未満である。
【0076】
試験8では、鋼板は、0.08%の低い炭素レベルを有する。この低い炭素含有量は、加工パラメータと組み合わされて、フェライト層のない、被覆鋼板の脱炭層をもたらす。それにもかかわらず、プレス硬化鋼部品の降伏強度及び引張強度は、炭素レベルが低いために達成されない。
【0077】
試験9では、鋼板を均熱温度で3600秒間維持し、これにより、被覆鋼板に、以前の試験よりも脱炭層により厚いフェライト層が形成される。
図5aは、試験9の被覆鋼板の概略断面図を表し、被膜層(1)、脱炭層(3)、より粗い粒径を有するより厚いフェライト層(4)及びバルク(2)を有する。
【0078】
次いで、被覆鋼板を熱間成形し、
図5bは試験9からのプレス硬化鋼部品の概略断面図を表す。鋼部品の加熱中、バルクの微細構造はオーステナイトであり、厚いフェライト層は、炭素の勾配を有するオーステナイトの層に変態する。しかし、100μmより厚いフェライト層の厚さのために、フェライトの層は、相互拡散層と炭素の勾配を有するオーステナイトの層との間に存在したままである。
【0079】
鋼部品のダイクエンチ中、フェライト層は依然として存在し、炭素勾配を有するオーステナイトの層は、炭素の勾配を有するマルテンサイト層に変態し、多相層をもたらす。これは、降伏強度及び引張強度の低下を引き起こす。
【0080】
試験10では、鋼板は、0.25%より高い炭素含有量を有する。-40℃の低い露点温度TDP1は、脱炭層の成長を可能にせず、被覆鋼板中にフェライト層が存在しないこと、及びプレス硬化部品において70°未満の低い曲げ角度をもたらす。
【国際調査報告】