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特表2023-554406高速フルラップ衝突事象を早期に感知するためのアルゴリズムを実行する車両安全システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】高速フルラップ衝突事象を早期に感知するためのアルゴリズムを実行する車両安全システム
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/00 20060101AFI20231220BHJP
   B60R 21/0136 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01P15/00 D
B60R21/0136 310
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536461
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-07-06
(86)【国際出願番号】 IB2020062060
(87)【国際公開番号】W WO2022129996
(87)【国際公開日】2022-06-23
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ エイ バートレット
(72)【発明者】
【氏名】パウエル コジエル
(72)【発明者】
【氏名】ミハル ドゥホフスキー
(72)【発明者】
【氏名】アルチュール フィジャルコウスキー
(72)【発明者】
【氏名】キラン バラスブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】マチェイ レイア
(57)【要約】
車両の乗員を保護するための作動可能な安全デバイスを制御する方法は、左アップフロントセンサを介して左アップフロント車両加速度を感知するステップと、中央アップフロントセンサを介して中央アップフロント車両加速度を感知するステップと、右アップフロントセンサを介して右アップフロント車両加速度を感知するステップと、を含む。この方法はまた、中心エアバッグ制御ユニットを介して中心車両加速度を感知するステップを含む。この方法は、左、中央、および右アップフロント車両加速度の各々が、所定の大きさを超え、中心車両加速度から位相シフトされているという決定に応答して、車両衝突事象の発生を決定するステップを更に含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員を保護するための作動可能な安全デバイスを制御する方法であって、
左アップフロントセンサを介して左アップフロント車両加速度を感知するステップと、
中央アップフロントセンサを介して中央アップフロント車両加速度を感知するステップと、
右アップフロントセンサを介して右アップフロント車両加速度を感知するステップと、
中心エアバッグ制御ユニットを介して中心車両加速度を感知するステップと、
前記左アップフロント車両加速度、前記中央アップフロント車両加速度、および前記右アップフロント車両加速度の各々が、所定の大きさを超え、前記中心車両加速度から位相シフトされているという決定に応答して、車両衝突事象の発生を決定するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、車両衝突の発生の決定に応答して、前記作動可能な安全デバイスを作動させるステップを更に含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記左アップフロント車両加速度、前記中央アップフロント車両加速度、および前記右アップフロント車両加速度の各々が、所定の大きさを超え、前記中心車両加速度から位相シフトされているという決定は、各々のアップフロント加速度に対して、
平均化アップフロント加速度(UFS_AMA)および車両長手方向の車両変位(X_REL_DISP)を評価するアップフロント判別メトリックを実行するステップと、
前記アップフロント加速度と前記中心車両加速度との間の位相シフトを検出するように構成された閾値を、前記アップフロント判別メトリックにおいて実行するステップと、
前記閾値をクロスする前記メトリックに応答して必須起動状態を決定するステップと、を含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記アップフロント判別メトリックの前記閾値は低減された大きさの部分を備え、前記低減された大きさの部分は、前記アップフロント加速度と前記中心車両加速度との間の前記位相シフトの検出を向上させるように構成されている、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記閾値の前記低減された大きさの部分は、V字形である、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記車両衝突事象は、高速フルラップ衝突事象を含む、方法。
【請求項7】
車両安全システムであって、
作動可能な安全デバイスと、
左アップフロントセンサと、
中央アップフロントセンサと、
右アップフロントセンサと、
請求項1に記載の方法を実行して、車両衝突の発生の検出に応答して前記作動可能な安全デバイスを作動させるように構成されたコントローラを備える中心エアバッグ制御ユニットと、を備える、車両安全システム。
【請求項8】
請求項7に記載の車両安全システムであって、前記左アップフロントセンサは車両の前左位置に取り付けられ、前記中央アップフロントセンサは前記車両の前中央位置に取り付けられ、前記右アップフロントセンサは前記車両の前右位置に取り付けられている、車両安全システム。
【請求項9】
請求項1に記載の車両安全システムであって、前記左アップフロント車両加速度、前記中央アップフロント車両加速度、および前記右アップフロント車両加速度の、前記中心車両加速度からの同時の位相シフトの検出に応答しての車両衝突の発生の検出を更に含む、車両安全システム。
【請求項10】
車両安全システムであって、
作動可能な安全デバイスと、
左アップフロント加速度センサと、
中央アップフロント加速度センサと、
右アップフロント加速度センサと、
前記安全デバイス、前記左アップフロント加速度センサ、前記中央アップフロント加速度センサ、および前記右アップフロント加速度センサに動作可能に接続されたエアバッグ制御ユニット(ACU)と、を備え、
前記エアバッグ制御ユニットは、ACU加速度センサおよびコントローラを備え、前記コントローラは、前記左アップフロント加速度センサ、前記中央アップフロント加速度センサ、および前記右アップフロント加速度センサの各々によって感知された加速度が所定の大きさを超え、前記ACU加速度センサによって感知された加速度から位相シフトされているという決定に応答して、車両衝突の発生を検出するように構成されている、車両安全システム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
作動可能な車両乗員保護システム、または「車両安全システム」は、作動可能なシートベルトリトラクタおよびエアバッグなど、作動可能な拘束具を含む。これらの車両安全システムは、加速度計などの複数の事象センサと、本明細書ではエアバッグ制御ユニット(「ACU」:airbag control unit)と称される電子制御ユニットと、を含む。このACUは、センサによって提供される信号を監視し、作動可能な拘束具を作動させるか否かを決定する。
【0002】
車両安全システムは、車両が巻き込まれる可能性がある様々な激突または衝撃事象(「衝突事象」)を判別することが望ましい。現実の衝突のシナリオは無限であることを認識して、衝突のタイプおよび衝突のシビアリティの観点から最も一般的な現実の衝突のシナリオを模倣するために、衝突試験が開発されてきた。車両安全システムが様々な衝突試験の間を識別して判別することができて、それに応じて作動可能な拘束具を作動させることができれば、車両安全システムは、現実の衝突事象においても機能することになる。
【0003】
衝突試験は、前面衝撃、側面衝撃、オフセット衝撃、および斜めまたは角度のついた衝撃など、様々な衝撃のタイプを含むことができる。その各々は、所定の速度で実行される。車両の衝突事象は、ポール、剛性のバリア、または変形可能なバリアなど、様々な衝撃を与える構造を含むことができる。変形可能なバリアは、静止していても、または移動していてもよい。これら衝撃を与える構造の各々は、特に、現実の衝突のシナリオで遭遇する構造を表すように設計される。例えば、ポール衝突試験は、典型的な電話または交通信号機ポールを表すように設計されたポールを実装することができる。変形可能なバリアは、衝突に関与する別の車両を表すように設計することができる。
【0004】
車両安全システムは、作動可能な拘束具の作動が望まれる衝突事象と、作動可能な拘束具の作動が望まれない衝突事象と、を判別するように、構成する、または適合させることができる。したがって、衝突の判別は、例えば、前面、側面、オフセット、斜め、角度など、衝突のタイプを決定することを必要とする。衝突の判別はまた、例えば、ポールまたは変形可能なバリアなど、衝撃を与える構造のタイプを決定することを伴うことができる。衝突の判別はまた、衝突のシビアリティを決定することを伴うことができる。衝突の判別は、さらに、車両の衝撃を検出することができるが、作動可能な拘束具の作動が正当とされない、誤用状態の検出を伴うことができる。発生し得る誤用状態の例としては、オフロード運転、悪路、縁石に当たる、動物による衝撃、ハンマーブロー(岩または物体に当たることをシミュレートする)、ポットホール、および踏切が挙げられる。衝突試験は、誤用状態をシミュレートし、車両安全システムが所望の態様で反応することを検証するために、実行することができる。
【0005】
したがって、車両安全システムは、事象が、必須起動(MF:must-fire)事象、非起動(NF:no-fire)事象、または誤用事象のいずれであるかを決定しなければならない。必須起動事象は、それに対してエアバッグの展開が行われる必要がある衝突事象である。更なる判別が望ましいのは、これらの事象に対してである。なぜならば、この更なる判別によって、特定の分類された事象に対して、エアバッグの展開を、誂えたように調整できるからである。非起動事象は、その大きさがエアバッグの展開を正当としないものである。誤用事象は、オフロード走行など、車両が従来とは異なる態様で使用されており、検出された事象の大きさによっては別のことが指示される可能性のある場合でも、エアバッグの展開が望まれない事象である。
【0006】
米国高速道路交通安全局(「NHTSA」:National Highway Traffic Safety Administration)は、車両の安全性を管理し、NHTSAの新車評価プログラム(US‐NCAP:New Car Assessment Program)によって新車の安全性を評価する米国政府機関である。NHTSAは、US‐NCAPを通して衝突試験を確立し、新しい車両の耐衝突性を確立し、そうした車両を星評価で評価する。5つ星の評価が最高である。こうした試験のための基準は、連邦自動車安全基準(FMVSS:Federal Motor Vehicle Safety Standards)として発行される。NHTSAは、FMVSSを、議会で可決された安全法を実施するために発行する。FMVSS規格は、US‐NCAPの評価を決定するために使用される正確な試験手順を詳細に説明している。これは、試験時に車両内に配置された衝突試験用ダミーについて測定されたメトリックによって決定される。
【0007】
米国は、独自の新車評価プログラムを有している唯一の国ではない。中国、日本、およびオーストラリアなどの他の国、並びに欧州および中南米などの国の他のグループが、独自のNCAPを有している。こうした機関によって発行された新車の評価は類似しているが、一部はわずかに異なる方法で衝突試験を利用している。
【0008】
何年もの間、自動車の安全に関して、安全基準は「限界に挑む」ために修正され、更新されている。結果として、基準を維持することにおいて、自動車製造業者は、自身の製品の安全性を常に改善するように強いられる。基準がより厳しくなるにつれ、安全システムは、適合して、より複雑で高機能になる。車両安全システムの進化を通じて、衝突の分類が、システムの有効性を決定することを助ける重要な態様の1つであることが見出された。安全システムが、安全基準によって規定されるように、正確且つロバストに衝突シナリオを識別できれば、それに対して基準が設計されている事故に巻き込まれた乗員にとって最良の結果をもたらすよう、誂えたように調整された対策を、取ることができる。
【0009】
様々な衝突事象を判別する能力を備えた車両安全システムが開発されてきたが、車両安全システムが適切な応答動作を行うことができるように、衝突事象を更に分類および判別することが常に必要である。判別が必要とされ得る衝突事象には、異なるタイプの車両の前面衝撃衝突事象がある。
【0010】
1つの特定の前面衝突試験は、車両が56kph(約35mph)で剛性のバリアに衝突する高速フルラップ衝突試験である。この試験はフルラップの衝撃を伴うため、車両は、車両の全幅がバリアに当たっている状態で、剛性のバリアに正面から当たる。これは、車両前端の左/右側またはコーナーなど、車両前端の全幅未満のものがバリアに当たるオフセット衝突試験などの、他の衝突試験とは相反する。
【0011】
高速フルラップ衝突試験は、例えば、他の車両との正面衝突、または他の車両との後面衝突をシミュレートすることができる。高速フルラップ衝突事象は、急速に進展する。したがって、必要な安全デバイスを展開するために車両安全システムに許容される時間を最大化するために、車両安全システムが、事象において可能な限り早期に、この衝突シナリオを判別することが望ましい。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、エアバッグ制御ユニット(「ACU」:airbag control unit)に加速度信号を提供するアップフロント衛星センサを、右、中央、および左に含む車両安全システムに関する。ACUは、高速フルラップ前面衝突の発生を判別するために、アップフロントセンサ(upfront sensors)からの加速度信号を利用する衝突判別アルゴリズムを実行する。このアルゴリズムは、高速フルラップ前面衝突を判別するために、ACUの加速度信号と比較してアップフロントセンサの加速度信号の間の位相シフトを利用する衝突判別メトリックを実行する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様によれば、車両乗員を保護することを助けるための車両安全システムは(慣例では、出願が完了すると、ここに言い換えられた請求項を挿入する)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一構成例による、車両安全システムを含む車両の概略図である。
図2】車両安全システムにおいて実行される衝突信号の調整を示す模式図である。
図3】車両安全システムにおいて実行される衝突判別アルゴリズムを示す図である。
図4図4A及び図4Bは、車両安全システムにおいて実行される衝突判別アルゴリズムの進展に関連する衝突試験データを表すグラフである。
図5】車両安全システムにおいて実行される衝突判別アルゴリズムにおいて実行される衝突判別メトリックを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、車両の左側および右側について言及する場合がある。これらの言及は、車両走行の前方に関して言及されるものと理解されたい。したがって、車両の「左」側への言及は、車両の運転者側(「DS」:driver side)に対応することを意味する。車両の「右」側への言及は、車両の助手席側(「PS」:passenger side)に対応することを意味する。
【0016】
また、本明細書において、車両軸、具体的には、車両のX軸、Y軸、およびZ軸について、いくつかの説明を行う。X軸は、XVEH図1に示される車両の中心の、長手方向に延びる軸である。Y軸は、車両の横方向に延びる軸で、X軸に垂直であり、図1においてYVEHで表されている。Z軸は、車両の垂直に延びる軸で、X軸およびY軸の両方に垂直であり、図1においてZVEHで表されている。X軸、Y軸、およびZ軸は、車両の重心(「COG」:center of gravity)で、またはその近傍で、交差する。
【0017】
車両安全システム
図1を参照すると、車両10は、車両安全システム100を含む。安全システム100は、110で概略的に示される複数の作動可能な車両安全デバイスを含むことができる。作動可能な安全デバイス110は、例えば、エアバッグ(例えば、フロントエアバッグ、サイドインパクトエアバッグ、カーテンエアバッグなど)およびシートベルト、例えばシートベルトプリテンショナ、を含むことができる。保護デバイス110はまた、それらの作動を制御する中心エアバッグ制御ユニット(「ACU」)120に動作可能に接続されている。
【0018】
ACU120は、車両10の中心に、インストルメントパネル12の後方に取り付けられている。図示のように、ACU120は、典型的には、車両10の前部座席間の中央位置に取り付けられている。システム100は、複数の衛星センサ130、132、134を更に含む。衛星センサ130、132、134は、ACU120から離れて取り付けられて、ACUに動作可能に接続されている。衛星センサ130、132、134は加速度計である。これらの加速度計は、車両加速度を感知し、感知した加速度を示す信号をACU120に提供するために使用される。
【0019】
衛星センサ130、132、134は、それらの個々の感知された加速度を示すデジタル化された加速度信号を、ACU120に提供する。ACU120は、コントローラを含む。このコントローラは、デジタル化された加速度信号を利用し、衝突状態などの車両状態を決定し、決定された車両状態に応答して安全デバイス110の作動を制御するようにプログラムされている。
【0020】
ACU120は、ACU120に組み込まれたACUセンサ122を含む。ACUセンサ122は、2軸加速度計を含む。この2軸加速度計は、X軸(XVEH)およびY軸(YVEH)の方向の車両加速度を測定し、これらの感知された車両加速度を示す値を決定する。CCU_Xは、ACU120の位置において車両X軸方向に測定された車両加速度を示す値である。CCU_Yは、ACU120の位置において車両Y軸方向に測定された車両加速度を示す値である。ACU120は、これらの信号を使用して、衝突を決定し、異なる衝突タイプを判別することができる。CCU_Xは、本明細書で説明されるアルゴリズムにおいて実行されるが、CCU_Yは実行されない。
【0021】
衛星センサは、車両10の前端に、例えば、フロントバンパ14またはその近傍に取り付けられたアップフロントセンサである。衛星センサは、車両10の前右コーナーまたはその近傍に取り付けられた右アップフロントセンサ130と、車両の前中央またはその近傍に取り付けられた中央アップフロントセンサ132と、車両の前左コーナーまたはその近傍に取り付けられた左アップフロントセンサ134と、を含む。アップフロントセンサ130、132、134は、X軸方向の車両加速度を測定する加速度計である。アップフロントセンサ130、132、134は、それぞれ、ACU120に提供される、右、中央、および左のアップフロント(upfront)のX軸加速度信号RT_UFS、MD_UFS、およびLT_UFSを生成するように動作可能である。ACU120はこれらの信号を使用して、衝突を検出し、本明細書で開示されるアルゴリズムに従って異なる衝突タイプを判別することができる。
【0022】
信号の調整
図2は、本明細書に開示される判別アルゴリズムにおいて実行される前に、センサデータが受ける信号調整を示すブロック図を示す。信号RT_UFS、MD_UFS、LT_UFS、およびMD_UFSの各々は、関連する調整された信号を生成するために、いくつかの異なる機能を介して調整される。判別アルゴリズムにおいて実行されるのは、これらの調整された信号である。
【0023】
図2に示されるように、右UFS130からの加速度信号RT_UFSは、RT_UFS加速度信号から高周波ノイズを除去するために使用可能なローパスフィルタリング(low pass filtering)(LPFブロック150)を受ける。調整可能なウィンドウサイズを有する加速度移動平均計算(acceleration moving average calculation)(AMAブロック160)を使用して、フィルタリングされた加速度信号を平滑化することができる。この調整は、ブロック170に示されるフィルタリングされた移動平均化信号RT_UFS_AMAを生成する。
【0024】
同様に、中央UFS132からの加速度信号MD_UFSは、MD_UFS加速度信号から高周波ノイズを除去するために使用可能なローパスフィルタリング(LPFブロック152)を受ける。調整可能なウィンドウサイズを有する加速度移動平均計算(AMAブロック162)を使用して、フィルタリングされた加速度信号を平滑化することができる。この調整は、ブロック172に示されるフィルタリングされた移動平均化信号MD_UFS_AMAを生成する。
【0025】
同様に、左UFS134からの加速度信号LT_UFSは、LT_UFS加速度信号から高周波ノイズを除去するために使用可能なローパスフィルタリングを受ける(LPFブロック154)。調整可能なウィンドウサイズを有する加速度移動平均計算(AMAブロック164)を使用して、フィルタリングされた加速度信号を平滑化することができる。この調整は、ブロック174に示されるフィルタリングされた移動平均化信号LT_UFS_AMAを生成する。
【0026】
また、ACUセンサ122からの加速度信号CCU_Xは、CCU_X加速度信号から高周波ノイズを除去するために使用可能なローパスフィルタリング(LPFブロック156)を受ける。ローパスフィルタリングされたCCU_X加速度信号は、減衰ばね質量(MSD)モデル166に提供される。減衰ばね質量(MSD)モデル166は、減衰ばね質量モデリングを使用して、CCU_X加速度を生成した衝撃からもたらされる軸XVEHに沿った相対変位に対するモデル化された値を生成する。これは、特定の車両アーキテクチャに基づいて、また特定の特性を有する乗員に基づいて、既知のモデリング方法に従って行うことができる。この信号調整およびモデリングの例は、Fooらの米国特許第5,935,182号およびFooらの米国特許第6,036,225号に詳細に記載されている。これらの特許の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。この調整は、ブロック176に示されるモデル化された相対変位信号(relative displacement signal)X_REL_DISPを生成する。
【0027】
高速フルラップ衝突の早期検出アルゴリズム
図3は、高速フルラップ衝突の早期検出を提供するために、車両安全システム100によって実行される判別アルゴリズム200を示す。判別アルゴリズム200は、図2に従って決定された調整された信号を利用して、高速フルラップ衝突事象の早期検出を達成する。その結果、車両安全システム100は、安全デバイス110のうちの1つまたは複数を展開することによって応答できる。判別アルゴリズム200は、3つの判別メトリックを実行して、早期衝突検出を提供する。
【0028】
右UFS判別メトリック180は、RT_UFS_AMA信号170およびX_REL_DISP信号176の大きさを評価する。メトリックが所定の右UFS閾値を超える場合、衝突が決定されて、右UFS判別メトリック180は論理1を出力する。そうでなければ、右UFS判別メトリック180は論理0を出力する。
【0029】
中央UFS判別メトリック182は、MD_UFS_AMA信号172およびX_REL_DISP信号176の大きさを評価する。メトリックが所定の中央UFS閾値を超える場合、衝突が決定されて、中央UFS判別メトリック182は論理1を出力する。そうでなければ、中央UFS判別メトリック182は論理0を出力する。
【0030】
左UFS判別メトリック184は、LT_UFS_AMA信号174およびX_REL_DISP信号176の大きさを評価する。メトリックが所定の左UFS閾値を超える場合、衝突が決定されて、左UFS判別メトリック184は論理1を出力する。そうでなければ、左UFS判別メトリック184は論理0を出力する。
【0031】
判別メトリック180、182、184の出力は、論理ANDブロック186に提供される。図示のように、3つの判別メトリック180、182、184のすべてが一致する場合、すなわち、3つの判別メトリックのすべてが衝突の発生を示す場合(論理1)、ANDブロック186は、高速フルラップ衝突が検出されたことを示す論理1を示す。判別アルゴリズム200は、図3のブロック190に示される高速フルラップ衝突検出信号を生成する。高速フルラップ衝突検出信号190に応答して、ACU120は、安全デバイス110のうちの1つまたは複数を作動させる(図1参照)。
【0032】
高速フルラップ衝突事象を検出するために、判別アルゴリズム200は、3つのUFS判別メトリック180、182、184すべてからの一致を必要とする。この一致のために、高速フルラップ衝突が高い信頼度で検出されるので、事象の更なる検証は必要ない。判別アルゴリズム200は車両10の前端全体にわたる一致を必要とする。そのため、高速フルラップ衝突事象の判別は、他の前面衝撃衝突事象が類似していても、それらを除外して実行される。
【0033】
例えば、高速左オフセット衝突事象などの高速オフセット衝突事象は、左UFS判別メトリック184が衝突を判別する原因となる位相シフトを生成する可能性がある。オフセットの程度およびオフセット衝突のシビアリティに応じて、中央UFS判別メトリック182も、衝突を判別する可能性がある。しかしながら、右UFS130が衝撃を受けず、したがって位相シフトが検出されないため、右UFS判別メトリック180は衝突を判別しないことになる。このただ1つのUFS判別メトリックによる一致の欠如は、判別アルゴリズム200が高速フルラップ衝突事象を検出することを妨げるのに十分である。
【0034】
これは、安全システム100が、前の段落で述べた例の左オフセット衝突事象を、検出せず反応しないということではない。安全システム100は、ラップ衝突を検出することをタスクとする他の判別アルゴリズムを含むことが可能であり、また間違いなく含むであろうし、オフセット衝突事象に適切な方法で疑いなく応答するであろう。ここで重要なポイントは、判別アルゴリズム200が、高速フルラップ衝突事象に対して迅速な応答を提供し、他の衝突タイプを判別するためは他の判別アルゴリズムに従うということである。
【0035】
前面高速フルラップ衝突の特性
図4A~Bは、記録された衝突試験データを表すグラフである。グラフは、本明細書に記載の様々なセンサが、異なるタイプの衝突シナリオにどのように反応するかを示す。図4Aは、前面高速フルラップ衝突試験に対するセンサ応答を示す。図4Bは、誤用状態衝突試験に対するセンサ応答を示す。図4Bの例について、誤用状態は、車両が縁石に対して垂直な方向に縁石を乗り越えるという、前方縁石事象である。
【0036】
図4Aに示すように、衝突事象が前面フルラップ高速事象であるため、ACUセンサが衝突加速度を記録する前に、アップフロントセンサが衝突加速度を記録する。これは、UFSセンサは車両においてアップフロントに取り付けられ、衝突に反応して車両が変形する(例えば、押しつぶされる、またはもみこまれる)ためである。これが、車両において、後方に、例えば中心に取り付けられたACUの加速を遅らせる。このために、UFS加速度とACU加速度との間に遅延があることを理解できる。その結果、アップフロントセンサおよびACUセンサによって出力される加速度信号の間には位相シフトがある。図4Bの衝突試験例において、位相シフトは、中央UFSについては約7ミリ秒であり、左UFSおよび右UFSについては約3ミリ秒である。
【0037】
比較すると、図4Bに示されるように、誤用事象について、アップフロントセンサおよびACUセンサによって測定された加速度には、顕著な位相シフトがないことが分かる。これは、誤用事象の大きさが、前面高速フルラップ衝突事象よりも小さいためである。このために、車両は、事象に反応して顕著には変形せず、アップフロントセンサおよびACUセンサの両方の、加速度センサのすべては、車両加速度に対して、より同時に、すなわち、ほとんど遅延せずに、またはまったく遅延せずに応答する。したがって、アップフロントセンサおよびACUセンサによって生成される加速度信号には、顕著な位相シフトがない。
【0038】
これらの現象は、図5の衝突判別メトリックの例によって裏付けられている。図5は、図4Aおよび4Bの事象に対するアップフロントセンサの応答を示す。前面高速フルラップ事象の場合、メトリックは、最初は高い勾配を示し、必須起動閾値とクロスし、その後、横ばいになる。これは、図4Aに示される、アップフロントセンサおよびACUセンサの間の位相シフトの結果である。衝突の初期フェーズの間、初期の車両変形の間、またACUセンサが車両のフル加速を経験する前に、アップフロントセンサによって測定されたUFS_AMA信号の大きさが、ACUセンサによって測定されたX_REL_DISP信号と比較して、高い。したがって、メトリックの大きさは、主にアップフロントセンサ加速度に起因する。
【0039】
必須起動閾値は、アップフロント加速度とACU加速度との間の位相シフトの検出を促進するように構成される、すなわち、そのような形状とされる。図5に示されるように、必須起動閾値の初期部分、すなわち、図示の左側は、この閾値の残りの部分、すなわち、図示の右側の部分よりも、大きさが低い。図5に示されるメトリックの例示的な構成において、閾値の、このより低い大きさの部分は、概してV字形である。しかしながら、形状は、より低い大きさの特性を維持しながら、異なる形状にすることができる。より低い大きさの部分は、例えば、正方形または長方形、カーブ(例えば、U字形)、階段状などであり得る。閾値の、この位相シフト検出部分がより低い大きさであることに起因して、メトリックの急勾配によって示される位相シフトを、より迅速かつ容易に検出することができ、それによってメトリックの応答が向上する。
【0040】
初期の車両変形後、ACUセンサは加速し、それに応じてその出力が増加する。一方、アップフロントセンサの出力は、それらの加速が完了に向かうことに起因して減少する。その結果、予想された通り、メトリックが横ばいになることが分かる。これは、メトリックの大きさが、主にACU加速度に起因するためである。
【0041】
上記から、アップフロントセンサ加速度およびACUセンサ加速度が、位相シフトされておらず、同時にまたは実質的に同時に発生するとき、メトリックの傾きがより急峻でないことが分かる。追加的に、加速度の大きさが十分に高くないとき、いかなる位相シフトにも関係なく、必須起動閾値はクロスされない。したがって、ACUセンサから位相シフトされたアップフロントセンサによって測定された高い大きさの加速度を示す、初期の急勾配の加速度が、必須起動事象としてキャプチャされるように、メトリックにおいて実行される必須起動閾値が構成される、すなわち、そのような形状とされることが理解されよう。
【0042】
誤用事象のためのメトリックを見ると、アップフロントセンサとACUセンサとの間に遅延/位相シフトがないので、メトリックの大きさは、より急峻でない傾斜に沿って増加する、すなわち、メトリックの上昇と走行とが、より等しいことが分かる。これは、アップフロントセンサおよびACUセンサの両方が、より同時に加速を受けるからである。追加的に、誤用事象の場合、加速度の大きさは、必須起動閾値とクロスするのに十分ではない。したがって、メトリックは、必須起動閾値を満たさない。
【0043】
位相シフト感知によって可能な早期衝突検出
典型的に、衝突判別は、2つのステップを、すなわち衝突検出と、衝突検証/分類と、を含む。衝突検出は、様々なセンサまたはセンサの組合せによって、トリガすることができる。例えば、閾値の大きさを超える測定されたACUセンサ加速度を使用して、衝突が発生したことを検出することができる。これが発生するとき、安全システムは、1つまた複数の車両の安全デバイスを作動させる要求を生成する。同時に、衝突分類アルゴリズムは、感知された衝突データを利用して、感知された衝突のタイプおよび/またはシビアリティを分類する。この検証の結果として、安全システムは保護デバイスを展開する。
【0044】
有利には、本明細書に開示される車両安全システム100は、感知された衝突状態を分類/検証する必要性を回避するセンサ構造およびアルゴリズムを実行する。この必要性を排除することが、結果的に、安全システム100が高速フルラップ衝突事象において早期に保護デバイス110を展開できる能力となる。安全システム100は3つのアップフロントセンサ130、132、134を実行するので、アルゴリズム200は、これらのセンサに関連する3つの判別メトリック180、182、184の即時の、かつ実質的に同時の応答に応答して、特定の事象すなわち高速フルラップ衝突事象の発生を区別することができる。この特定のタイプの衝突事象の、この早期段階で3つのアップフロントセンサが一致していれば、更なる分類または検証を行わなくても、安全デバイス110を展開するには十分である。
【0045】
センサアーキテクチャおよび判別アルゴリズムの実行によって、高速フルラップ衝突事象の場合に、車両安全システム100の起動時間(「TTF」:time-to-fire)性能が改善される。試験は、高速フルラップ衝突事象に応答して3~5ミリ秒の範囲のTTFを、同時に、誤用事象に応答して「非起動(no fire)」状態を判別しながら、確実に達成できることを示した。
【0046】
本発明の上記の記載から、当業者は、改善、変更、および修正を認識するのであろう。例えば、開示された車両安全システムにおいて実行される様々なメトリックを示す図は、特定の「形状」を有する閾値を示している。図示された閾値は、単なる例である。当業者は、これらのメトリックの特性は、すなわち閾値を識別する線の形状は、安全システムが実装される特定の車両の構成(すなわち、車両の特定のプラットフォームまたはモデル)および特定の車両に実装される安全システムのための設計基準などの、様々な要因に応じて、変化し得ることを理解するであろう。当業者の技能の範囲内のそのような改善、変更、および/または修正は、添付の特許請求の範囲によって網羅されるように意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】