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特表2023-554419頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法
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  • 特表-頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231220BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20231220BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01N33/53 D
A61Q7/00 ZNA
A61K45/00
A61P17/14
G01N33/543 521
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536529
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2021086015
(87)【国際公開番号】W WO2022129241
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】2013349
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
【氏名又は名称原語表記】L’OREAL
【住所又は居所原語表記】14 Rue Royale,75008 PARIS,France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ナミタ・ミスラ
(72)【発明者】
【氏名】ニュクヘット・チャブシオール
(72)【発明者】
【氏名】オード・フシェ
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4C083BB53
4C083CC37
4C083EE22
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA921
(57)【要約】
頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法
本発明は、トランスグルタミナーゼ(3)の活性形態の量の測定に基づく、頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法に関する。本発明はまた、頭皮のための美容処置方法、薄皮症状を低減及び/又は排除するための化合物を識別するための方法に関する。最後に、本発明は、薄皮症状を低減及び/又は排除するための化合物を識別するためのキット、並びにその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法であって、
a.前記対象からの頭皮サンプルにおける、トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量を測定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
対象における薄皮症状を有する頭皮の美容的予防及び/又は処置の方法であって、
a.前記対象からの頭皮サンプルにおける、TGM3の活性形態の量を測定する工程、
b.前記対象の頭皮が薄皮症状を有するか、又は前記対象の頭皮が、薄皮症状を発現しそうかを、工程a)から推測する工程、
c.工程b)において、頭皮が薄皮症状を有すると、又は薄皮症状を発現しそうであると識別される場合、前記頭皮を、薄皮症状のための化粧用組成物で処置する工程
を含む、方法。
【請求項3】
頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物を識別するための方法であって、
a.候補化合物に曝露された頭皮サンプルにおける、TGM3の活性形態の量を測定する工程、
b.工程a)において測定した前記量を、前記化合物に曝露されていない頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量と比較する工程、
c.前記候補化合物に曝露された頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量において、前記候補化合物に曝露されなかった頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量に対する低減が検出された場合、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物として、前記候補化合物を識別する工程
を含む、方法。
【請求項4】
本発明による識別方法において使用される前記頭皮サンプルが、体毛を有する皮膚若しくは頭皮から得られる細胞培養物、体毛を有する皮膚若しくは頭皮から得られる細胞、再建完全頭皮、又はヒト頭皮外植片からなる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記頭皮サンプルが、頭皮の表面をこすることによって、又は接着性表面を使用することによって取得される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
TGM3の活性形態の量が、TGM3の活性形態に特異的なリガンドを使用して測定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a.頭皮サンプルにおいてTGM3の活性形態の量を測定するための手段、及び
b.指示リーフレット
を含むキット。
【請求項8】
前記頭皮サンプルにおいてTGM3の活性形態の量を測定するための手段が、TGM3の活性形態に特異的なリガンドを含む、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記頭皮サンプルにおいて測定するための手段が、イムノクロマトグラフィー試験を含む、請求項7又は8に記載のキット。
【請求項10】
頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物を識別するための、請求項7から9のいずれか一項に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスグルタミナーゼ3の活性形態の量の測定に基づく、頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法に関する。本発明はまた、頭皮のための美容処置方法、薄皮症状を低減及び/又は排除するための化合物を識別するための方法に関する。最後に、本発明は、薄皮症状を低減及び/又は排除するための化合物を識別するためのキット、並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚、特に頭皮は、絶えず再生される上皮である。再生、すなわち落屑は、連携して働く、精密に統制されたプロセスであり、無感覚的に、目立たずに表面細胞を排除する。しかしながら、様々な理由のために、角質層の細胞の異常な又は変則的な落屑によって、肉眼で見え、頭皮の文脈では「ふけ」又は「頭垢」と呼ばれる、細胞の大きく厚い塊が形成されることがあり、又は他の状況では、角質層が薄くなることがある。
【0003】
ふけ又は頭垢の発生を促進する要因の例として、ストレス、冬期、過剰な皮脂、水分補給の不足、及び/又はマラセチア(Malassezia)種の酵母が皮膚若しくは毛嚢に棲みつくことを挙げることができる。特に、マラセチア種のタイプの酵母は、頭垢のない対象においては、頭皮の表面に標準的な片利共生フローラの一部を形成するが、頭垢の場合においては、その割合にかなりの増加が見られる。
【0004】
ふけの存在又は薄皮症状は、慢性的で、頻繁で、再発性で、その明白に不体裁な性質に起因して、社会的に能力を奪う症状でありうる。更に、頭皮の薄皮症状又は皮膚の異常な落屑は、痒みの感覚をもたらすことがあり、ふけ又は頭垢の発生という現象を増幅する引っ掻き挙動をもたらしうる。
【0005】
頭皮の薄皮症状は、脂性タイプであることもあり、乾燥タイプであることもある。頭皮の乾燥薄皮症状は、より頻繁に起こる。頭皮は皮脂腺が豊富であり、皮脂が過剰に存在すると、薄皮症状はより容易に発現しうる。したがって、過剰な皮脂の分泌又は高脂漏症は、一般に困惑、不快な感覚及び審美的障害と関係する、頭皮の脂性薄皮症状又は脂性頭垢の発生を促進する。通例として、薄皮症状は、様々な局所的又は全身的処置に反応する。しかしながら、これらの処置の有効性は単なる一時停止であり、しばしば、使用者による徹底的なフォローアップ(十分な頻度の使用及び適用時間)を要する。しかしながら、これらの処置を毎日及び長期的に使用すると、その有効性が低減する順応現象を起こすことがあり、一般に、処置を中断すると起こるリバウンド現象と関係する。この現象は、高脂漏症として発症し、薄皮症状を悪化させる。更に、表皮細胞又は頭皮のエコフローラに対するある特定の抗頭垢剤の攻撃性もまた、薄皮症状の悪化を誘導しうる。
【0006】
表皮の発現、生物学的活性又は成熟を変化、低減又は上昇させる複数の表皮因子が、皮膚の、特に頭皮の再生又は落屑プロセスに、直接又は間接的に関与していることは公知である。しかしながら、皮膚の落屑に、特に頭垢の発症に関与する密接なメカニズム及び要因について、多くは依然として未知のままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】仏国特許第3023486号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cavusogluら、Archives of Dermatological Research volume 308、631~642頁、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのため、頭皮の薄皮症状を特徴付けるのに、又は薄皮症状の発症を予測するのに好適な、特に、再発を予期する助けになる、新規なバイオマーカーを有することが必要である。
【0010】
本発明は、この必要性に応じることを狙いとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量が、頭皮における薄皮症状と相関関係にあったという、本発明者らの予期せぬ発見から生じている。実際に、本発明者らは、頭垢の影響を受けた頭皮サンプルでは、正常な頭皮と比較して、TGM3の活性形態の量が大幅に上昇していることを実証した。
【0012】
TGM3は、様々なタンパク質における、グルタミン残基とリジン残基との間のイソペプチド架橋の形成、及びポリアミンのタンパク質との抱合を触媒する。毛嚢においては、TGM3は構造タンパク質の架橋に関与し、これは、毛根の内鞘が硬化するのに資する。
【0013】
TGM3は、13個のエクソンを含有する42.8kbの遺伝子によってコードされる。これは、染色体20: 2 296 001-2 341 079における、センス鎖上に位置する。TGM3は、アミノ酸配列として、693個のアミノ酸の配列番号3の配列を有する(及びヌクレオチド配列として配列番号4の配列を有する)プロフォームの形態で生成される。この酵素は、プロフォームのタンパク質分解処理によって活性化され、活性形態を生じる。このように生成した活性形態は、そのアミノ酸配列として、470個のアミノ酸の配列番号1の配列(及びそのヌクレオチド配列として配列番号2の配列)を有する。
【0014】
TGM3のプロフォームの発現を質量分析によって識別すると、頭垢の影響を受けた頭皮では、正常な頭皮と比較して低減していた(Cavusogluら、Archives of Dermatological Research volume 308、631~642頁、2016年)。しかしながら、本発明者らは、ここで、頭垢の影響を受けた頭皮では、単純なElisa試験によって検出可能である、活性形態の量が増加しており、低減していないことを発見した。しかしながら、タンパク質のプロフォームの量と活性形態の量との間に、直接的な相関関係はなく、これら2つの量は様々な要因に依存する(例えば、プロフォームの生成速度、プロフォームの活性形態への変換速度、プロフォームの分解速度及び活性形態の分解速度)。
【0015】
したがって、本発明は、対象における頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法であって、
a.前記対象からの頭皮サンプルにおける、トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量を測定する工程
を含む、方法に関する。
【0016】
本発明はまた、対象における薄皮症状を有する頭皮のための美容的予防及び/又は処置の方法であって、
a.前記対象からの頭皮サンプルにおける、TGM3の活性形態の量を測定する工程、
b.前記対象の頭皮が薄皮症状を有するか、又は前記対象の頭皮が、薄皮症状を発現しそうかを、工程a)から推測する工程、
c.工程b)において、頭皮が薄皮症状を有すると、又は薄皮症状を発現しそうであると識別される場合、前記頭皮を、薄皮症状のための化粧用組成物で処置する工程
を含む、方法に関する。
【0017】
本発明はまた、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物を識別するための方法であって、
a.前記候補化合物に曝露された頭皮サンプルにおける、TGM3の活性形態の量を測定する工程、
b.工程a)において測定した前記量を、前記化合物に曝露されていない頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量と比較する工程、
c.前記候補化合物に曝露された頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量において、候補化合物に曝露されなかった頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量に対する低減が検出された場合、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物として、前記候補化合物を識別する工程
を含む、方法に関する。
【0018】
本発明はまた、
a.頭皮サンプルにおいてTGM3の活性形態の量を測定するための手段、及び
b.指示リーフレット
を含むキットに関する。
【0019】
本発明はまた、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物を識別するための、本発明によるキットの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】薄皮症状の総合スコアに対する、平均TGM3測定値の対数に基づく線形回帰を示すグラフである。平均TGM3測定値の対数がy軸にあり、頭垢スコアがx軸にある。
図2】頭皮の薄皮症状を検出するための、TGM3の量の対数を使用したROC曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
TGM3の活性形態
「TGM3の活性形態」とは、ここでは、タンパク質分解切断後のTGM3タンパク質を意味する。好ましくは、TGM3の活性形態は、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%の、配列番号1の配列との同一性を有する。好ましくは、TGM3の活性形態は、そのアミノ酸配列として、配列番号1の配列を有する。特に、活性形態の特異的抗体によって検出可能である。
【0022】
「TGM3の活性形態の特異的抗体」とは、TGM3の活性形態に結合する、抗体又は抗体フラグメントを意味する。
【0023】
抗体フラグメントとしては、Fabフラグメント、単鎖Fv(scFv)、ドメイン抗体、ミニボディ(minibody)、ダイアボディ(diabody)及びトリアボディ(triabody)が挙げられる。参照抗体は全長抗体を指すが、その参照フラグメントは、参照抗体において提供される可変領域の少なくとも1つを含むコンストラクトを指す。
【0024】
実施形態では、TGM3の活性形態の前記特異的抗体は、真核細胞によって生成される、例えば動物細胞又は植物細胞によって生成される、組み換え型TGM3タンパク質の活性形態に結合することができる。好ましい実施形態では、前記特異的抗体は、昆虫細胞によって生成されたTGM3の活性な組み換え形態、例えばZedira社の製品T024に結合することができる。
【0025】
好ましくは、TGM3の活性形態の前記特異的抗体は、HuCAL技術を使用して生じる。
【0026】
端的に記すと、HuCAL技術では、ファージ粒子に提示される抗体を含有するバンクが、ヒト組み換え型TGM3タンパク質の活性形態によってスクリーニングされる。次いで、大腸菌(E. Coli)において、補助フェーズを使用して数回の増幅サイクルが実行され、選別された抗体ファージを濃縮する。選別された抗体ファージのDNAを収集し、マーカーによって追跡される、Fab - Fab-A_FSx2フォーマット(二価Fab融合抗体)細菌性アルカリホスファターゼ発現ベクターにおいてサブクローニングする。大腸菌における形質転換及び発現後、陽性クローンのDNAを選別し、配列決定して、単一抗体クローンを識別する。次いで、各単一クローンを、例えば大腸菌に発現させ、精製することができる。各抗体の親和性及び特異度は、TGM3の組み換え活性形態を使用し、無関係の抗原及びマーカーを使用して、直接ELISAによって評価することができる。
【0027】
したがって、特定的な活性形態では、TGM3の活性形態の前記特異的抗体又はそのフラグメントは、
a.ファージ粒子に提示される抗体を含有するバンクを、ヒト組み換え型TGM3タンパク質の活性形態によってスクリーニングする工程、
b.大腸菌において、補助フェーズを使用して少なくとも2回の増幅サイクルを実行し、選別された抗体ファージを濃縮する工程、
c.選択された抗体ファージのDNAを収集し、マーカー又はタグによって追跡される、Fab発現ベクターにおいてサブクローニングする工程、
d.大腸菌をFab発現ベクターによって形質転換させ、Fabを発現させる工程、
e.陽性クローンを選別し、最終的に配列決定して、単一抗体クローンを識別する工程、
f.選別されたFabを、例えば大腸菌に発現させ、精製する工程
を含む方法によって生じる。
【0028】
予測及び/又は診断の方法
したがって、この発明は、頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法に関する。
【0029】
「頭皮の薄皮症状」とは、乾燥又は脂性頭垢の存在、及び場合によりそう痒症を特徴とする、過剰な乾燥又は過剰な皮脂分泌を示している頭皮を表す。乾燥薄皮症状は、ときとして、過剰に急速な角質層の再生と関係がある。乾燥頭垢フレークは、一般に、サイズが小さく、白色又は灰色で、頭皮及び衣類に分散して不体裁な視覚的効果を発生させ、ときとして痒みを伴う。脂性薄皮症状は、しばしば、蓄積して塊を形成する、大きく、脂性で黄色のふけフレークを特徴とする。これらはときとして、影響を受ける領域に、痒み及び焼けるような感覚を伴う。頭皮の表皮に過剰の皮脂が分泌されると、頭皮の脂性薄皮症状が起こり、増幅する。
【0030】
本発明による頭皮の薄皮症状の予測及び/又は診断の方法は、トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量を測定するという工程a)を含む。
【0031】
トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量は、任意の好適な技法によって測定することができる。特に、この量は、質量分析によって、又は抗体ベースアッセイ、例えばELISA試験によって測定することができる。好ましくは、TGM3の活性形態に特異的なリガンド、特にTGM3の活性形態に対する特異的抗体、又は前記抗体のフラグメントを使用して測定される。本発明の好ましい実施形態では、トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量は、ELISA試験によって測定される。
【0032】
本発明による予測及び/又は診断の方法において使用される対象の頭皮サンプルは、対象の頭皮から、特に対象の側頭から取得される、好ましくは非侵襲的に取得されるサンプルである。好ましくは、頭皮サンプルは、角質層から、特に角質層の表面から得られる。好ましくは、頭皮サンプルは、外傷を伴わずに頭皮の領域から取得される。
【0033】
角質層は、表皮の最も外側の層であり、皮膚表面を含む。角質層は、本質的に死細胞で構成される。
【0034】
一実施形態によれば、本発明による予測及び/又は診断の方法は、対象から、特に対象の頭皮の表面から、頭皮サンプルを収集する工程を含む。この工程は、好ましくは非侵襲的に実行され、特に、局所麻酔を必要としない。好ましい実施形態によれば、サンプルを収集する工程は、頭皮の表面をこすることによって、又は接着性表面、例えばD-squame(登録商標)ディスクを使用することによって実行される。接着性表面の場合、頭皮に適用し、次いで、頭皮の表面のサンプルを収集するためにこれを取り外す。
【0035】
特定の実施形態では、頭皮サンプルはこのように、例えば、綿棒若しくは滅菌スワブを使用して、前記頭皮の表面をこすることによって、又は接着性表面、例えばD-squame(登録商標)ディスクを使用することによって収集される。好ましくは、頭皮サンプルは、滅菌スワブを使用して収集される。
【0036】
頭皮サンプルからの可溶性タンパク質抽出物は、緩衝液中に溶解させることによって得ることができる。好ましい実施形態では、頭皮サンプルからの可溶性タンパク質抽出物は、トリスを含む緩衝液中に、より特定的には10~100mMのトリスと100~200mMのNaClとを含む、好ましくは50mMのトリスと150mMのNaClとを含む、pH8の緩衝液中に溶解させることによって得られる。
【0037】
次いで、前記可溶性タンパク質抽出物を使用して、例えば、質量分析によって、又は抗体ベースアッセイ、例えばELISA試験によって、トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量を測定することができる。
【0038】
「対象」とは、ここでは、ヒト、好ましくは20~70歳の年齢のヒトを意味する。好ましくは、対象は、頭皮に影響を及ぼす疾病又は症状を患っていない。
【0039】
特定の実施形態では、本発明による予測及び/又は診断の方法は、
(b)工程(a)において測定したTGM3の活性形態の量を、対照と比較する工程、及び
(c)工程(b)による比較に基づいて、前記対象の頭皮が、薄皮の頭皮又は薄皮症状を発現しそうな頭皮であるかを判定する工程
を更に含む。
【0040】
「頭皮の薄皮症状を発現しそう」とは、頭皮の薄皮症状を以前に少なくとも1度有したことがある頭皮、及び/又は乾燥若しくは脂性頭垢を未だ有したことがないが、痒み等の頭垢の発症の早期兆候を示している頭皮を意味する。
【0041】
特定の実施形態では、対象の頭皮サンプルにおける、工程(a)において測定したTGM3の活性形態の量が、対照よりも大きい場合、特に大幅に大きい場合、前記対象の頭皮は薄皮症状を有する、又は薄皮症状を発現しそうであると診断される。
【0042】
特定的な実施形態では、対照は参照値である。
【0043】
特定の実施形態では、参照値は、規定の集団、例えば、規定の年齢群の集団及び/又は規定の頭皮タイプを有する集団において測定した、TGM3の活性形態の量の平均値によって決定される。
【0044】
特定の実施形態では、参照値は、9ng/mlから12ng/mlの間のTGM3、例えば10.44ng/mlのTGM3である。
【0045】
特定の実施形態では、対照は、正常な頭皮を有する、対象の集団、特に以下に規定される対象の集団において測定した、TGM3の活性形態の量の平均値である。
【0046】
「正常な頭皮」とは、ここでは、薄皮頭皮の兆候、例えば、乾燥若しくは脂性頭垢の存在、又はそう痒症を有しない頭皮を意味する。
【0047】
特定の実施形態では、参照値は、ROC研究によって決定される。
【0048】
本発明による「大幅に大きい」又は「大幅に小さい」とは、TGM3の活性形態の量の統計的に有意な変化を意味する。
【0049】
美容処置方法
この発明は、対象における薄皮症状を有する頭皮のための美容的予防及び/又は処置の方法であって、
a.前記対象からの頭皮サンプルにおける、TGM3の活性形態の量を測定する工程、
b.前記対象の頭皮が薄皮症状を有するか、又は前記対象の頭皮が、薄皮症状を発現しそうかを、工程a)から推測する工程、
c.工程b)において、頭皮が薄皮症状を有すると、又は薄皮症状を発現しそうであると識別される場合、前記頭皮を、薄皮症状のための美容処置法で処置する工程
を含む、方法に関する。
【0050】
TGM3の活性形態の量は、好ましくは、上の「予測及び/又は診断の方法」セクションに記載したように測定される。
【0051】
前記対象からの頭皮サンプル及び頭皮サンプルからの可溶性タンパク質抽出物、並びに対象は、上の「予測及び/又は診断の方法」セクションに記載した通りでありうる。
【0052】
「薄皮症状のための美容処置法」とは、ここでは、薄皮症状を予防、低減又は排除すると想定される任意のタイプの美容処置法(例えば局所又は経口)を意味する。
【0053】
前記美容処置法は、任意の好適な投与経路によって、特に局所的又は経口的に適用することができる。
【0054】
前記美容処置法は、薄皮症状を予防、低減及び/又は排除するための、好ましくは局所適用のための化粧用組成物でありうる。これは、例えば、シャンプー又はコンディショナーの形態で提示することができる。
【0055】
薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化粧用組成物は、エラグ酸、ピリチオン亜鉛、ピロクトンオラミン、二硫化セレン及びこれらの混合物から選択される抗頭垢剤を含むことができる。
【0056】
特定の実施形態では、対象の頭皮サンプルにおける、工程(a)において測定したTGM3の活性形態の量が、上に規定したように、対照よりも大きい場合、特に大幅に大きい場合、工程b)において、前記対象の頭皮は薄皮症状を有する、又は薄皮症状を発現しそうであると診断される。
【0057】
頭皮の薄皮症状を低減及び/又は排除するための化合物を識別するための方法
本発明はまた、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物を識別するための方法であって、
a.前記化合物に曝露された頭皮サンプルにおける、TGM3の活性形態の量を測定する工程、
b.工程a)において測定した前記量を、前記化合物に曝露されていない頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量と比較する工程、
c.前記候補化合物に曝露された頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量において、候補化合物に曝露されなかった頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量に対する低減が検出された場合、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物として、前記化合物を識別する工程
を含む、方法に関する。
【0058】
特定の実施形態では、前記候補化合物に曝露された頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量において、候補化合物に曝露されなかった頭皮サンプルにおけるTGM3の活性形態の量に対する大幅な低減が検出された場合、化合物は、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物として識別される。
【0059】
本発明による識別方法は、好ましくはex vivoで実施される。
【0060】
一実施形態によれば、本発明による識別方法において使用される頭皮サンプルは、薄皮症状を有する対象の頭皮から、侵襲的又は非侵襲的に取得されたサンプルである。
【0061】
一実施形態によれば、本発明による識別方法において使用される頭皮サンプルは、体毛を有する皮膚若しくは頭皮から得られる細胞培養物、体毛を有する皮膚若しくは頭皮から得られる細胞、再建完全頭皮、又はヒト頭皮外植片からなる。
【0062】
一実施形態によれば、本発明による識別方法において使用される頭皮サンプルは、例えば、綿棒若しくは滅菌スワブを使用して、頭皮の表面をこすることによって、又は接着性表面、例えばD-squame(登録商標)ディスクを使用することによって得られる頭皮サンプルである。好ましくは、頭皮サンプルは、滅菌スワブを使用して収集される。
【0063】
頭皮サンプルからの可溶性タンパク質抽出物は、緩衝液中に溶解させることによって得ることができる。好ましい実施形態では、頭皮サンプルからの可溶性タンパク質抽出物は、トリスを含む緩衝液中に、より特定的には10~100mMのトリスと100~200mMのNaClとを含む、好ましくは50mMのトリスと150mMのNaClとを含むpH8の緩衝液中に溶解させることによって得られる。
【0064】
次いで、前記可溶性タンパク質抽出物を使用して、例えば、質量分析によって、又は抗体ベースアッセイ、例えばELISA試験によって、トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量を測定することができる。
【0065】
好ましくは、頭皮サンプルは、角質層から、特に角質層の表面から得られる。
【0066】
TGM3の活性形態の量は、好ましくは、上の「予測及び/又は診断の方法」セクションに記載したように測定される。
【0067】
本発明による「大幅な低減」とは、TGM3の活性形態の量の統計的に有意な低減を意味する。
【0068】
代替実施形態では、本発明は、対象における薄皮症状のための美容処置法の有効性を評価するための方法であって、前記美容処置法を適用する工程の後、前記対象からの頭皮サンプルにおけるトランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量を測定するという工程(a)を含む、方法に関する。
【0069】
好ましくは、この評価方法は、
b.工程a)において測定した前記量を、対照と比較する工程、
c.薄皮症状のための前記美容処置法が、前記対象において有効であるかを判定する工程
を更に含む。
【0070】
効能を評価するための方法は、好ましくは、in vitro又はex vivoで実施される。
【0071】
対象は、好ましくは、頭垢の影響を受けた頭皮を有するヒトである。対象は、好ましくは20~70歳の年齢である。好ましくは、対象は、頭皮に影響を及ぼす疾病又は症状を患っていない。
【0072】
前記対象からの頭皮サンプル及び頭皮サンプルからの可溶性タンパク質抽出物は、上の「予測及び/又は診断の方法」セクションに記載した通りでありうる。
【0073】
トランスグルタミナーゼの活性形態の量は、好ましくは、上の「予測及び/又は診断の方法」セクションに記載したように測定される。
【0074】
特定の実施形態では、対照は、前記美容処置法を適用する前の、前記対象からの頭皮サンプルにおける、トランスグルタミナーゼ3(TGM3)の活性形態の量である。
【0075】
好ましくは、対象の頭皮サンプルにおける、工程(a)において測定したトランスグルタミナーゼ3の活性形態の量が、対照よりも少ない、特に大幅に少ない場合、薄皮症状のための前記美容処置法は、前記対象において有効であると評価される。
【0076】
本発明による「~よりも大幅に少ない」とは、TGM3の活性形態の量の統計的に有意な低減を意味する。
【0077】
キット
本発明は、
a.頭皮サンプルにおいてTGM3の活性形態の量を測定するための手段、及び
b.指示リーフレット
を含むキットに関する。
【0078】
「頭皮サンプルにおいてTGM3の活性形態の量を測定するための手段」とは、TGM3の活性形態を検出又は定量するための手段を表す。本発明の特定の実施形態では、この手段は、TGM3の活性形態に特異的なリガンドを含む。本発明の特定の実施形態では、この手段は、TGM3の活性形態に特異的な捕捉抗体と検出抗体とのペアを含む。
【0079】
本発明の特定の実施形態では、この手段は、TGM3の活性形態に特異的な少なくとも1種の抗体を含む、マイクロ流体カートリッジである。本発明の別の実施形態では、この手段は、TGM3の活性形態に特異的な少なくとも1種の抗体を含む、イムノクロマトグラフィー試験である。
【0080】
一実施形態によれば、本発明によるキットは、標準範囲のTGM3の活性形態を更に含む。
【0081】
一実施形態によれば、本発明によるキットは、既知濃度のTGM3の活性形態を有する少なくとも1種のサンプルを更に含む。このサンプルは、対照として使用することができる。
【0082】
一実施形態によれば、本発明によるキットは、可溶化緩衝液を更に含む。好ましくは、前記緩衝液はトリスを含む。特定的な実施形態では、前記緩衝液は、10~100mMのトリス及び100~200mMのNaClを含み、より好ましくは50mMのトリス及び150mMのNaClを含み、pH8である。
【0083】
特定の実施形態では、キットは、サンプルを頭皮から収集するための少なくとも1種の手段を更に含む。例えば、キットは、滅菌スワブ若しくは綿棒、又は接着性表面、例えばD-squame(登録商標)ディスクを更に含む。
【0084】
本発明はまた、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物を識別するための、本発明によるキットの使用に関する。
【0085】
特に、前記使用は、前記候補化合物に曝露された頭皮サンプルにおける、TGM3の活性形態の測定を含む。
【0086】
本発明はまた、本発明によるキットの使用であって、キットが、既知濃度の、好ましくは参照値に対応する、TGM3の活性形態を有するサンプルを含み、候補化合物は、前記候補化合物に曝露された頭皮サンプルにおいて測定したTGM3の活性形態の量が、既知濃度のTGM3の活性形態を有するサンプルにおけるTGM3の活性形態の量よりも少ない場合、頭皮の薄皮症状を予防及び/又は低減及び/又は排除するための化合物として識別される、使用に関する。
【0087】
図面及び以下の実施例によって、この発明をより詳細に記載する。
【実施例
【0088】
(実施例1)
TGM3に対して標的化された組み換え型ヒト抗体の開発、及び抗体のペアの選択
TGM3に対して非常に特異的な組み換え型ヒト抗体を、Bio-Rad AbD Serotec社のHuCAL(登録商標)技術を使用して発生させた。端的に記すと、ファージ粒子に提示される、4.5×1010種の抗体を含有するHuCAL(登録商標)バンクを、200μgのヒト組み換え型TGM3タンパク質の活性形態によってスクリーニングした。次いで、大腸菌において、補助フェーズを使用して3回の増幅サイクルを実行し、選別された抗体ファージを濃縮した。選別された抗体ファージのDNAを収集し、FLAG(登録商標)及びHis6マーカーによって追跡される、Fab - Fab-A_FSx2フォーマット(二価Fab融合抗体)細菌性アルカリホスファターゼ発現ベクターにおいてサブクローニングした。大腸菌における形質転換及び発現後、陽性クローンのDNAを選別し、配列決定して、単一抗体クローンを識別した。各単一クローンを大腸菌に発現させ、親和性クロマトグラフィーによって精製した。各抗体の親和性及び特異度を、組み換え型TGM3を使用し、無関係の抗原及びマーカーを使用して、直接ELISAによって評価した。
【0089】
(実施例2)
TGM3抗体に基づくサンドイッチ試験
マイクロ流体カートリッジ
頭垢を有する又は有しない個人の頭皮から滅菌スワブを使用して収集した、角質層サンプルからの可溶性タンパク質抽出物中のTGM3の量を、パーソナライズTGM3マイクロ流体カートリッジを使用して測定した。組み換え型捕捉抗体を、マイクロ流体溝の内部に固定した(NanoEnTek社、公開された仏国特許第3023486号に記載)。組み換え型TGM3(活性形態)を使用して、1~170ng/mlの標準曲線をプロットした。滅菌スワブ上のサンプルからのタンパク質を、緩衝液(50mMのトリス、150mMのNaCl、pH8.0)に溶解させ、35μlをマイクロ流体カートリッジ内に注入した。抗TGM3検出抗体をコーティングした蛍光性ビーズを使用して、検出を実行した。
【0090】
(実施例3)
臨床研究
研究の設計
これは、3つの並行群による、医療監督下での単一施設ランダム化二重盲検比較研究である。2週間の無処置期間に4週間の処置が続く。処置は、シャンプーの使用からなる。3種のシャンプーを試験し、各条件を20人の対象のサンプルにおいてモニタリングする。
【0091】
研究のために選別された対象は、健康な男性又は女性の志願者であり、境界値を含めて18~60歳の年齢であり、毛髪の長さは2cm超で、好ましくは肩までの長さよりも短く、中程度~重度の頭皮の薄皮症状を有し、通常はシャンプーを3回/週使用し、研究中は1週間当たり3回シャンプーを使用するように務める。
【0092】
評価基準
主要な基準は、頭皮の薄皮症状の総合スコアであり、ベースライン及び4週間の処置後における、付着性又は非付着性の頭垢の0~5の範囲にわたる(合計頭垢スコアは0~10にわたる)序数型スケールによる評価である。
【0093】
結果の分析
TGM3タンパク質濃度を、対数スケールに変換した。
【0094】
頭皮領域全体の薄皮症状の総合スコア(付着性+非付着性頭垢)に応じて、以下の規則に従い、志願者を頭垢「+」又は「-」に分類した。
頭垢「+」=(薄皮症状の総合スコア)>2.5
頭垢「-」=(薄皮症状の総合スコア)<1
【0095】
線形回帰
図1は、薄皮症状の総合スコアに対する、平均TGM3測定値に基づく線形回帰を表す。
【0096】
分析は、0.968の決定係数R2による、TGM3濃度と薄皮症状の総合スコアとの間の良好な相関関係を示唆している。
【0097】
ROC曲線
受信者操作特性、すなわちROC曲線とは、弁別閾値を変動させた場合の二項分類系の診断能力を図示するグラフのプロットである。真陽性の割合は、感度としても知られる。偽陽性の割合は、誤警報の確率としても知られ、(1-特異度)として計算することができる。
【0098】
図2は、薄皮症状を検出するための、TGM3の量の対数を使用したROC曲線を表す。
【0099】
この分析によって、2つの群(頭垢あり及びなし)を区別する最良の閾値、並びにバイオマーカーの感度及び特異度を決定することができる。
【0100】
ROC曲線の最良の感度及び特異度に基づいて、2つの群を隔てるための閾値は、ここでは10.44ng/mlのTGM3(すなわち、対数スケール上の2.346であり、図2の左から3番目の点に対応する)である。
図1
図2
【配列表】
2023554419000001.app
【国際調査報告】