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特表2023-554454繊維複合材料製造用のマトリックス樹脂
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  • 特表-繊維複合材料製造用のマトリックス樹脂 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】繊維複合材料製造用のマトリックス樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 14/073 20060101AFI20231220BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C08G14/073
C08J5/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537082
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2021085400
(87)【国際公開番号】W WO2022128867
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】20214856.5
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュプレンガー
(72)【発明者】
【氏名】ヤクリン バルタザル
【テーマコード(参考)】
4F072
4J033
【Fターム(参考)】
4F072AB03
4F072AB28
4F072AD08
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH21
4F072AL02
4F072AL17
4J033FA01
4J033FA04
4J033FA11
4J033HA04
4J033HA11
4J033HA12
4J033HA28
4J033HB02
(57)【要約】
本発明の主題は、-少なくとも1つのアルデヒド(A)と、-少なくとも1つのフェノール系化合物(B)と、-第一級アミノ基および第二級アミノ基からなる群から選択されるアミノ基を少なくとも2つ有する少なくとも1つのアミン(C)とを含む組成物であって、該化合物の少なくとも1つは、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、組成物;該組成物を含む、繊維強化組成物;該繊維強化組成物を硬化させるための方法;および該方法によって得ることができる、繊維複合材料あるいは熱硬化性樹脂である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 少なくとも1つのアルデヒド(A)と、
- 少なくとも1つのフェノール系化合物(B)と、
- 第一級アミノ基および第二級アミノ基からなる群から選択されるアミノ基を少なくとも2つ有する少なくとも1つのアミン(C)と
を含む組成物であって、
前記化合物の少なくとも1つは、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、組成物。
【請求項2】
前記化合物(A)、(C)および(B)の少なくとも1つが、再生可能原料から製造されるかまたは再生可能原料である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも1つのアルデヒド(A)が、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも1つのアルデヒド(A)が、芳香族である、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つのアルデヒド(A)が、メタクリル化バニリンである、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1つのフェノール系化合物(B)が、エチレン性不飽和化合物である、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1つのフェノール系化合物(B)が、カルダノールである、請求項1から6までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つのアミン(C)が、芳香族であり、有利にはジアニリン、特に4,4’-ジアミノジフェニルスルホンである、請求項1から7までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、少なくとも1つの(メタ)アクリレート(D)をさらに含み、前記少なくとも1つの(メタ)アクリレート(D)は、有利には(メタ)アクリレート基を少なくとも2つ有し、特に1,6-ヘキサンジオールジアクリレートである、請求項1から8までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、
- 少なくとも1つの開始剤(E)、有利にはベンゾイルペルオキシドと、
- 任意に、少なくとも1つの促進剤(F)、有利にはN,N-ジエチルアニリンと、
- 任意に、少なくとも1つのさらなる添加物質(G)と
をさらに含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、それぞれ前記組成物の総重量に対して、
- 合計で60%~90%、有利には65%~85%、特に70%~80%の重量割合の、1つ以上のアルデヒド(A)と、
- 合計で1%~25%、有利には3%~20%、特に5%~15%の重量割合の、1つ以上のフェノール系化合物(B)と、
- 合計で1%~20%、有利には2%~10%、特に3%~5%の重量割合の、1つ以上のアミン(C)と、
- 合計で1%~25%、有利には3%~20%、特に5%~15%の重量割合の、1つ以上の(メタ)アクリレート(D)と、
- 合計で0.1%~5%、有利には0.2%~4%、特に0.3%~1%の重量割合の、1つ以上の開始剤(E)と、
- 合計で0%~10%、有利には0.01%~5%、特に0.02%~2%の重量割合の、1つ以上の促進剤(F)と、
- 合計で0%~10%、有利には0.01%~5%、特に0.02%~2%の重量割合の、1つ以上の添加物質(G)と
の成分を含むかまたはそれらからなる、請求項1から10までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
- 少なくとも1つの繊維材料であって、有利には1つ以上の再生可能原料から構成される繊維材料と、
- 請求項1から11までのいずれか1項記載の組成物と
を含む、繊維強化組成物。
【請求項13】
請求項1から11までのいずれか1項記載の組成物または請求項12記載の繊維強化組成物を硬化させるための方法であって、前記硬化を、ラジカルおよび非ラジカル硬化機構により行い、前記硬化が、有利には
(i)40℃~100℃の温度での、特に1時間~8時間の期間にわたる熱的予備硬化および/または化学線、特にUV光による光化学的予備硬化を行うステップと、
(ii)100℃超~200℃の温度での、特に1時間~8時間の期間にわたる熱的後硬化を行うステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記方法が、射出成形法またはインフュージョン法である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項13または14記載の方法によって得ることができる、繊維複合材料あるいは熱硬化性樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維複合材料製造用のマトリックス樹脂に関する。
【0002】
より高価値の用途向けの、ガラス繊維または炭素繊維で強化された繊維複合材料は、主に熱硬化性樹脂系をベースとして製造される。量的に最も大きな割合を占めているのが不飽和ポリエステル樹脂であり、次いでエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂の順となっている。ここで、通常は、エポキシ樹脂をベースとした繊維複合材料が最も優れた機械的特性を示し、不飽和ポリエステル樹脂をベースとした部材が最も劣っている。しかし、不飽和ポリエステル樹脂はエポキシ樹脂よりも安価であり、過酸化物により架橋されるため使い勝手が良い。ビニルエステル樹脂は、性能、使い勝手の良さおよびコストの面でも妥協策である。
【0003】
これらの熱硬化性樹脂系は、いずれも石油系原料をベースとしており、さらに、ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂はスチレンを多く含んでおり、労働衛生上問題のない物質であるとは言えない。
【0004】
そのため、使い勝手が良く、機械的特性が良好で、コスト的にも許容できるバイオベースのマトリックス樹脂が長年求められてきた。しかし、これまで使用されてきた樹脂系は、これらの要件を満たしておらず、例として、ここではポリフルフリルアルコールが挙げられる。ポリフルフリルアルコールは、水脱離下に架橋して非常に迅速に高粘度化する。インフュージョンでの使用が可能な低粘度のポリフルフリルアルコール樹脂は、一般に水を多く含んでいる。この樹脂を硬化させると気泡が発生する。また、対応する熱硬化性樹脂あるいは繊維複合材料は、非常に多孔質である。
【0005】
バイオベースの反応性材料は、エポキシド化学の分野(例えばエポキシ化大豆油やエポキシ化カシューナッツシェルオイル)でもポリエステル化学の分野(例えばカシューナッツシェルオイルから得られたカルダノール、ロジン樹脂や不飽和オレイン酸)でも既に長年知られている。これらは、純粋な形態では機械的特性が劣るポリマーとなるため、しばしば配合成分としてのみ使用される。
【0006】
バニリンは現在、製紙産業の廃棄物であるリグニンから工業規模で非常に安価で生産されている。2014年には、バニリンは既に17,000トン超に達していた。バニリンは、公知のとおり食品産業で香料として使用されており、毒性がない。また、メタクリル化バニリン(バニリンメタクリレート)も知られている。その製造に加え、コンポジットまたは3D印刷におけるその使用も、例えば、Stanzione III et al.,“Vanillin-based resin for use in composite applications”, Green Chem., 2012, 14, 2346-2352、あるいはBassett et al.,“Vanillin-Based Resin for Additive Manufacturing”, ACS Sustainable Chem. Eng. 2020, 8, 5626-5635に先行して記載されている。
【0007】
しかし、繊維複合材料の分野では、メタクリル化バニリンの使用に際して2つの問題に直面することになる。第一に、メタクリル化バニリンは固体であるため、一般的な繊維複合体の処理にそのまま使用することができない。確かに、メタクリル化バニリンは、反応性希釈剤としてよく使用されるアクリレートモノマー、例えば1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)に溶解するが、この溶液を、使用に必要な硬化剤や促進剤と混合すると、メタクリル化バニリンが再び晶出し、それ以上使用できなくなる。第二に、硬化したメタクリル化バニリンは非常に脆いため、繊維複合材料のマトリックス樹脂としては不向きである。
【0008】
先行技術から、例えば、Zhang, C. et al. “Biorenewable Polymers based on acrylated epoxidized soybean oil and methacrylated vanillin”, Materials Today Communications 5 (2015) 18-22からは、メタクリル化バニリンとアクリル化されたエポキシ化大豆油との混合物も知られている。しかし、硬化した混合物の機械的特性は、繊維複合部材の製造には十分なものではない。
【0009】
本発明者らが行った実験によれば、既に言及したようにポリエステル化学の分野でしばしば使用されるメタクリル化バニリンとカルダノールとの混合物は、貯蔵安定性に欠けることが判明した。また、メタクリル化バニリンも同様に晶出する。
【0010】
本発明者らが行った実験によればさらに、メタクリル化バニリンとカルダノールとアクリレートモノマー、例えばHDDAとの混合物は、反応性希釈剤としては確かにより良好な貯蔵安定性を示すようであるが、硬化剤や促進剤と混合すると同様にまたも自然な結晶化が起こり、使用できなくなることが判明した。
【0011】
したがって、本発明の課題は、上記の欠点の少なくとも1つを克服することであった。
【0012】
ここで、驚くべきことに、この課題は、
- 少なくとも1つのアルデヒド(A)と、
- 少なくとも1つのフェノール系化合物(B)と、
- 第一級アミノ基および第二級アミノ基からなる群から選択されるアミノ基を少なくとも2つ有する少なくとも1つのアミン(C)と
を含む組成物であって、
これらの化合物の少なくとも1つは、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、組成物によって解決されることが見出された。
【0013】
本組成物は、有利には、硬化により熱硬化性樹脂(いわゆる熱硬化性樹脂系)が得られる樹脂、また樹脂系とも呼ばれ、本樹脂は、複合材料、特に繊維複合材料の製造に非常に有利な特性プロファイルを示す。本樹脂は貯蔵安定性があり、低粘度であり、慣用の硬化剤や促進剤と問題なく混合してさらに使用することができる。硬化剤や促進剤の添加後、本樹脂は、約4時間の十分に長いポットライフ(可使時間)を有し、これは、実地において非常に重要である。本樹脂は、40℃~100℃、例えば60℃の適度な温度で予備硬化させることができる。100℃超~200℃、例えば140℃の温度で後硬化を行った後、本樹脂は非常に良好な機械的特性を示し、かつ脆くない。そのため、熱硬化性樹脂や繊維複合材料の製造に非常に適している。
【0014】
したがって、本発明の第1の主題は、
- 少なくとも1つのアルデヒド(A)と、
- 少なくとも1つのフェノール系化合物(B)と、
- 第一級アミノ基および第二級アミノ基からなる群から選択されるアミノ基を少なくとも2つ有する少なくとも1つのアミン(C)と
を含む組成物であって、
これらの化合物の少なくとも1つは、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する、組成物である。
【0015】
本発明のさらなる主題は、
- 少なくとも1つの繊維材料であって、有利には1つ以上の再生可能原料から構成される繊維材料と、
- 本発明による組成物と
を含む、繊維強化組成物である。
【0016】
本発明のなおもさらなる主題は、本発明による組成物または本発明による繊維強化組成物を硬化させるための方法であって、硬化を、ラジカルおよび非ラジカル硬化機構により行い、硬化が、有利には
(i)40℃~100℃の温度での、特に1時間~8時間の期間にわたる熱的予備硬化および/または化学線、特にUV光による光化学的予備硬化を行うステップと、
(ii)100℃超~200℃の温度での、特に1時間~8時間の期間にわたる熱的後硬化を行うステップと
を含むことを特徴とする、方法である。
【0017】
本発明のなおもさらなる主題は、本発明による方法により得ることができる繊維複合材料あるいは熱硬化性樹脂である。
【0018】
本発明の有利な構成は、従属請求項、実施例および発明の詳細な説明において規定される。さらに、本発明の主題の開示には、本発明の前出あるいは後出の説明および特許請求の範囲の個々の特徴の全ての組み合わせが包含されることが明示的に指摘される。特に、本発明によるある1つの主題の実施形態は、必要な変更を加えた上で本発明による他の主題の実施形態にも該当する。
【0019】
本発明による主題およびその好ましい実施形態について、以下に例示的に説明するが、本発明がこれらの例示的な実施形態に限定されることを意図するものではない。以下に範囲、一般式または化合物クラスが示されている場合、これらには、明示的に言及された対応する範囲または化合物群だけでなく、個々の値(範囲)または化合物を選び出すことによって得られる全ての部分範囲および部分化合物群も包含されるものとする。本明細書において文書が引用されている場合、その内容全体が本発明の開示内容に属するものとする。
【0020】
以下に、測定により求められる測定値、パラメータまたは物質特性が示されている場合、これらは、特に断りのない限り、25℃で、有利には標準圧力で測定された測定値、パラメータまたは物質特性である。標準圧力とは、101325Paの圧力であると理解される。
【0021】
「(メタ)アクリル」という語句は、「メタクリル」および/または「アクリル」を表す。したがって、「(メタ)アクリレート基」という用語は、メタクリレート基および/またはアクリレート基を表す。ここで、メタクリレート基とは、メタクリル酸エステル基であると理解され、アクリレート基とは、アクリル酸エステル基であると理解される。
【0022】
上記で既に説明したとおり、本発明による組成物は、
- 少なくとも1つのアルデヒド(A)と、
- 少なくとも1つのフェノール系化合物(B)と、
- 第一級アミノ基および第二級アミノ基からなる群から選択されるアミノ基を少なくとも2つ有する少なくとも1つのアミン(C)と
を含み、ここで、これらの化合物の少なくとも1つは、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する。
【0023】
(メタ)アクリレート基は、ラジカル硬化機構に必要である。さらに、アルデヒド(A)、フェノール系化合物(B)およびアミン(C)は、理論に束縛されるものではないがベッティ反応/マンニッヒ反応により進行する非ラジカル硬化機構に必要である。
【0024】
化合物(A)、(C)および(B)の少なくとも1つが、再生可能原料から製造されるかまたは再生可能原料であることが好ましい。少なくとも1つのアルデヒド(A)およびフェノール系化合物(B)が再生可能原料から製造され、かつ/または再生可能原料であることが特に好ましい。混合物の組成に応じて、例えば、組成物の総重量に対して75~96%のバイオベース原料の重量割合を達成することが可能である。
【0025】
少なくとも1つまたは全てのアルデヒド(A)が、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有することが好ましい。さらに、少なくとも1つまたは全てのアルデヒド(A)が芳香族であることが好ましい。したがって、少なくとも1つまたは全てのアルデヒド(A)が芳香族であり、かつ少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有することも同様に好ましい。少なくとも1つのアルデヒド(A)が、(メタ)アクリル化バニリン(バニリン(メタ)アクリレート)であることがさらに好ましい。アルデヒド(A)として、専ら(メタ)アクリル化バニリン(バニリン(メタ)アクリレート)が使用されることが特に好ましい。「(メタ)アクリル化バニリン」および「バニリン(メタ)アクリレート」という用語は、本発明において同義で使用される。「(メタ)アクリル化バニリン」あるいは「バニリン(メタ)アクリレート」とは、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド(バニリン)の(メタ)アクリル酸エステルである4-(メタ)アクリルオキシ-3-メトキシベンズアルデヒドである。メタクリル化バニリン(バニリンメタクリレート、4-メタクリロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド)は、式(I):
【化1】
による構造を有する。
【0026】
それに応じて、アクリル化バニリン(バニリンアクリレート、4-アクリルオキシ-3-メトキシベンズアルデヒド)は、式(II):
【化2】
で表される構造を有する。
【0027】
少なくとも1つのアルデヒド(A)がメタクリル化バニリン(バニリンメタクリレート、4-メタクリロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド)であるかまたはそれを含むことが特に好ましい。この化合物は、例えばEvonik社よりVisiomer(登録商標)VALMAの名称で入手可能である。
【0028】
本発明による組成物は、少なくとも1つのフェノール系化合物(B)をさらに含む。ここで、フェノール系化合物とは、芳香環系とも呼ばれる1つ以上の芳香族系上に1つ以上のヒドロキシ基を有する化合物であると理解される。よって、これらのヒドロキシ基は、芳香族系の一部である1つの炭素原子にそれぞれ結合している。フェノール系化合物の最も単純な例は、フェノール(ヒドロキシベンゼン)である。
【0029】
少なくとも1つまたは全てのフェノール系化合物(B)がエチレン性不飽和化合物であることが好ましい。ここで、エチレン性不飽和化合物とは、芳香族系の一部でないC=C二重結合を少なくとも1つ含む化合物であると理解される。したがって、フェノール系化合物(B)が芳香族系の一部でないC=C二重結合を少なくとも1つ含むことが好ましい。理論に束縛されるものではないが、C=C二重結合は、ラジカル硬化機構に少なくとも部分的に関与していると考えられている。
【0030】
少なくとも1つまたは全てのフェノール系化合物(B)がカルダノールであることが特に好ましい。カルダノールとは、アナカルド酸の脱炭酸により得られるフェノール系化合物である。アナカルド酸とは、カシューナッツの加工の副産物であるカシューナッツシェルリキッドあるいはカシューナッツシェルオイルの主成分である。本発明において、アナカルド酸とは、式(III)の化合物であると理解され、カルダノールとは、式(IV)の化合物であると理解され、
【化3】
【化4】
ここで、Rは、それぞれ互いに独立して、飽和または不飽和炭化水素基である。
【0031】
カシューナッツシェルオイルのアナカルド酸、およびそれに応じてそこから得られるカルダノールは、一般に、15個の炭素原子を有する炭化水素基Rを有し、ここで、飽和度は変化し得る。カシューナッツシェルオイルから得られたカルダノールは、約41%の三価不飽和カルダノール、約34%の一価不飽和カルダノール、約22%の二価不飽和カルダノールおよび約2%の飽和カルダノールを含み、これらはそれぞれカルダノールの総重量に対する重量パーセント単位で示されている。
【0032】
したがって、式(III)あるいは(IV)の基Rが15個の炭素原子を有する炭化水素基であることが好ましい。式(III)あるいは(IV)の基Rが、C=C二重結合を0個、1個、2個または3個有することがさらに好ましい。
【0033】
したがって、式(III)および(IV)の基Rが、それぞれ互いに独立して、15個の炭素原子を有する基であり、かつC=C二重結合を0個、1個、2個または3個有することが特に好ましい。
【0034】
C=C二重結合はラジカル重合性であるため、基Rが、それぞれ互いに独立して、少なくとも1つのC=C二重結合を有する基であることがさらに好ましい。
【0035】
したがって、基Rが、それぞれ互いに独立して、少なくとも1つのC=C二重結合および/または15個の炭素原子を有する基であり、特に、少なくとも1つのC=C二重結合と15個の炭素原子とを有する基であることが好ましい。
【0036】
アナカルド酸の群にその名称を与え、カシューナッツシェルオイル中のアナカルド酸の主成分であるアナカルジン酸は、例えば、式(V)
【化5】
の基Rを有し、ここで、破線は、ベンゼン環との共有結合を表す。したがって、式(III)および(IV)のRが式(V)の基であることが好ましい。同様に好ましいのは、1つ、2つまたは3つ全てのC=C二重結合の水素化/飽和によって式(V)(形式)の基から誘導される基Rである。
【0037】
カルダノールは市販されている。特に好ましいのは、式(VI)[式中、R=-C14-CH=CH-CH-CH=CH-Cである]の二価不飽和カルダノールであるCardanol NX-2026(Cardolite)である。式(III)および(IV)のRにおいて、R=-C14-CH=CH-CH-CH=CH-Cであることが好ましい。
【0038】
本発明による組成物は、第一級アミノ基および第二級アミノ基からなる群から選択されるアミノ基を少なくとも2つ有する少なくとも1つのアミン(C)をさらに含む。第一級アミノ基または第二級アミノ基は、マンニッヒ反応あるいはベッティ反応に必要である。これに対し、第三級アミノ基は、マンニッヒ反応あるいはベッティ反応では反応させることができない。
【0039】
本発明による組成物は、有利には、第一級アミノ基を少なくとも2つ有する少なくとも1つのアミン(C)を含む。
【0040】
アミン(C)が芳香族であることがさらに好ましい。芳香族アミンとは、芳香族系の一部である1つの炭素原子にそれぞれ結合したアミノ基を1つ以上有するアミンである。芳香族アミンの最も単純な例は、アニリン(フェニルアミン、アミノベンゼン)である。
【0041】
アミン(C)がジアニリンであることがさらに好ましい。ジアニリンとは、2つのアミノフェニル基、特に2つの4-アミノフェニル基を有する化合物であると理解される。ここで、本発明によれば、アミノ基は、第一級アミノ基および第二級アミノ基の群から選択される。したがって、アミン(C)は、特に好ましくは、第一級アミノ基を有するジアニリンである。
【0042】
少なくとも1つのアミン(C)が、置換または非置換の4,4’-イソプロピリデンジアニリン、および置換または非置換の4.4’-メチレンジアニリン、および置換または非置換の4,4’-スルホニルジアニリンからなる群から選択され、有利には、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジイソプロピルアニリン)および4,4’-ジアミノジフェニルスルホンからなる群から選択されることがさらに好ましい。少なくとも1つのアミン(C)が4,4’-ジアミノジフェニルスルホンであることが特に好ましい。
【0043】
ジアニリンは市販されている。例えば、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)は、例えばLonzacure(登録商標)M-DEA(Lonza)の名称で、4,4’-メチレンビス(2,6-ジイソプロピルアニリン)は、Lonzacure(登録商標)M-DIPA(Lonza)の名称で、そして4,4’-ジアミノジフェニルスルホンは、Aradur(登録商標)976-1(Huntsman)の名称で商業的に入手可能である。
【0044】
本発明による組成物が、少なくとも1つの(メタ)アクリレート(D)をさらに含むことが好ましい。ここで、(メタ)アクリレートとは、1つ以上の(メタ)アクリレート基、すなわち1つ以上のメタクリル酸エステル基および/またはアクリル酸エステル基を有する化合物であると理解される。(メタ)アクリレート(D)は、反応性希釈剤および/または架橋剤としての役割を果たす。反応性希釈剤として、(メタ)アクリレート(D)は、1つ以上の(メタ)アクリレート基を有することができる。架橋剤として、(メタ)アクリレート(D)は、少なくとも2つの(メタ)アクリレート基を有する必要がある。したがって、(メタ)アクリレート(D)を反応性希釈剤と架橋剤との双方として採用する場合には、(メタ)アクリレート(D)が少なくとも2つの(メタ)アクリレート基を有することが必要である。したがって、少なくとも1つまたは全ての(メタ)アクリレート(D)が、少なくとも2つの(メタ)アクリレート基を有することが好ましい。少なくとも1つまたは全ての(メタ)アクリレート(D)が、2~6個の(メタ)アクリレート基を有することがさらに好ましい。有利には、(メタ)アクリレート(D)は、炭素、水素、酸素および窒素の元素のみからなり、特に炭素、水素、酸素の元素のみからなる。好適な(メタ)アクリレート(D)は、European Coatings Tech Files, Patrick Gloeckner et al. “Strahlenhaertung: Beschichtungen und Druckfarben”, 2008, Vincentz Network, Hannover, Deutschlandに記載されている。
【0045】
有利には、少なくとも1つの(メタ)アクリレート(D)は、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、ラウリルアクリレート、ドデシルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、トリデシルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートならびにこれらのエトキシル化および/またはプロポキシル化誘導体からなる群から選択される。
【0046】
少なくとも1つの(メタ)アクリレート(D)が、例えばHolmberg, A.L. et al., “Softwood Lignin-Based Methacrylate Polymers with Tunable Thermal and Viscoelastic Properties”, Macromolecules 2016, 49, 1286-1295に記載されているようなバニリルアルコール(4-ヒドロキシ-3-メトキシベンジルアルコール)の(メタ)アクリル酸エステル、グアヤコール、クレオゾールからなる群から選択されることも同様に好ましい。(メタ)アクリル化バニリンと同様に、これらの化合物は、再生可能原料であるリグニンから製造される化合物である。
【0047】
適切な(メタ)アクリレート(D)は、Ebecryl(登録商標)TMPTA(Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)OTA480(プロポキシル化グリセリルトリアクリレート、Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)TPGDA(Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)DPGDA(Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)892(Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)11(ポリエチレングリコールジアクリレート、Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)45(Allnex SA、ドイツ)、PETIA(ペンタエリスリトールトリ-およびテトラアクリレートの混合物、Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)150(ビスフェノールAをベースとするジアクリレート、Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)605(ビスフェノールAジエポキシアクリレート80%とTPGDA20%との混合物、Allnex SA、ドイツ)、Ebecryl(登録商標)40(エトキシル化およびプロポキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、Allnex SA、ドイツ)、Laromer(登録商標)TMPTA(BASF、ドイツ)、Miramer(登録商標)M200(HDDA、Rahn AG、ドイツ)、Miramer(登録商標)M220(TPGDA、Rahn AG、ドイツ)、Miramer(登録商標)3130(エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、Rahn AG、ドイツ)、SR 415(エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、Sartomer、フランス)、SR 489(トリデシルアクリレート、Sartomer、フランス)およびSarbio(登録商標)5101(ドデシルアクリレート、Arkema、フランス)の名称で市販されている。
【0048】
適切な(メタ)アクリレート(D)は、Evonik Operations GmbH(ドイツ)よりVISIOMER(登録商標)製品系列でも市販されている。好ましい化合物は、グリセリンホルマールメタクリレート(VISIOMER(登録商標)GLYFOMA)、ジウレタンジメタクリレート(VISIOMER(登録商標)HEMA TMDI)、ブチルジグリコールメタクリレート(VISIOMER(登録商標)BDGMA)、ポリエチレングリコール200ジメタクリレート(VISIOMER(登録商標)PEG200DMA)、トリメチロールプロパンメタクリレート(VISIOMER(登録商標)TMPTMA)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(VISIOMER(登録商標)THFMA)、イソボルニルメタクリレート(VISIOMER(登録商標)Terra IBOMA)、イソボルニルアクリレート(VISIOMER(登録商標)IBOA)、平均で13.0個の炭素原子を有する脂肪アルコールのメタクリル酸エステル(VISIOMER(登録商標)Terra C13-MA)または平均で17.4個の炭素原子を有する脂肪アルコールのメタクリル酸エステル(VISIOMER(登録商標)Terra C17.4-MA)である。
【0049】
特に好ましくは、組成物は、ジオールおよびトリオールをベースとする二官能性および三官能性アクリレート、特に1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)の群から選択される少なくとも1つの(メタ)アクリレート(D)を含む。
【0050】
本発明による組成物が、少なくとも1つの開始剤(E)をさらに含むことが好ましい。
【0051】
本発明による組成物の開始剤(E)は、外部トリガに曝された際にラジカルを形成する化合物である。このトリガは、化学線、有利にはUV光および/もしくは可視光、または熱であってよい。したがって、開始剤(E)は、光化学的ラジカル硬化あるいは重合のための開始剤(光開始剤)および/または熱的ラジカル硬化あるいは重合のための開始剤(熱開始剤)であってよい。
【0052】
熱開始剤としては、有利には、有機ペルオキシド、例えば、Arkema(フランス)の2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン(例えばLUPEROX 101(登録商標))、ジラウロイルペルオキシド(例えばLUPEROX LP(登録商標))、ジベンゾイルペルオキシド(例えばLUPEROX A98(登録商標))およびビス(tert-ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン(例えばVulCUP R(登録商標))、またはPergan GmbH(ドイツ)のPeroxan BP-Pulver 50 W、すなわち、ジベンゾイルペルオキシド約40~50重量%とジシクロヘキシルフタレート約40~50重量%とを含む粉末が使用される。好ましい熱開始剤はさらに、メチルエチルケトンペルオキシドなどのケトンペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、ならびにペルオキシケタール、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシジカーボネートおよびペルオキシエステル、ならびに無機ペルオキシド、例えば、過硫酸ナトリウム(Na)、過硫酸カリウム(K)および過硫酸アンモニウム((NH)を含むペルオキソ二硫酸塩、またさらにはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)である。
【0053】
光開始剤としては、ノリッシュI型およびノリッシュII型光開始剤を含む当業者に知られている全ての光開始剤が適している。これには、アセトフェノン(例えばジエトキシアセトフェノン)およびホスフィンオキシド(例えばジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(PPO)およびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド)といった通常使用されるUV光開始剤も含まれる。特に好ましいのは、例えばベンゾフェノン、ベンゾイン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシドまたはその誘導体などのノリッシュI型光開始剤である。適切な光開始剤は、例えば、“A Compilation of Photoinitiators Commercially available for UV today”(K. Dietliker, SITA Technology Ltd., London 2002)に記載されている。
【0054】
本発明による組成物が、少なくとも1つの促進剤(F)をさらに含むことが好ましい。
【0055】
本組成物が熱開始剤を含む場合、このラジカル熱硬化を促進させる促進剤(F)が含まれていることが好ましい。その例としては、ナフテン酸コバルトなどの有機酸金属塩、および第三級芳香族アミン、有利には、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチルパラトルイジンなどの第三級芳香族アミンが挙げられる。
【0056】
本組成物が光開始剤を含む場合、この光化学的ラジカル硬化を促進させる促進剤(F)が含まれていることが好ましい。このような促進剤は、光増感剤とも呼ばれる。その例としては、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、ピペリジン、N,N-ジメチルアニリンおよびトリエチレンテトラミンなどのアミン、S-ベンジルイソチウロニウム-p-トルエンスルフィネートなどの硫黄化合物、例えばN,N-ジメチル-p-アミノベンゾニトリル、ならびにナトリウムジエチルチオホスフェートなどのリン化合物が挙げられる。
【0057】
本発明による組成物が、促進剤(F)として、少なくとも1つの第三級アミン、有利には少なくとも1つの第三級芳香族アミン、特にN,N-ジエチルアニリンを含むことが特に好ましい。N,N-ジエチルアニリンは、例えばPergan GmbH(ドイツ)よりPERGAQUICK A3Xの名称で溶液として市販されている。ここで、この溶液は、N,N-ジエチルアニリン約5~10重量%と、1-イソプロピル-2,2-ジメチルトリメチレンジイソブチレート約80~90重量%とを含む。
【0058】
本発明による組成物が、少なくとも1つのさらなる添加物質(G)をさらに含むことが好ましい。添加物質(G)は、有利には、未硬化のまたは硬化した組成物の特性を狙いどおりに調整することができる物質である。これは例えば、染料、顔料、レオロジー調整剤および耐衝撃性改良剤であってもよいし、インフュージョン法や射出成形法を用いて加工可能なナノスケールの充填剤であってもよい。その例としては、アクリレート官能性アクリロニトリル-ブタジエンコポリマー、例えばHuntsman社製Hypro(登録商標)VTBNX 1300x43、Evonik Operations社製Tegomer(登録商標)M-Si 2650、ナノシリカ、およびナノアルミネートが挙げられる。
【0059】
本発明による組成物が、それぞれ該組成物の総重量に対して、
- 合計で60%~90%、有利には65%~85%、特に70%~80%の重量割合の、1つ以上のアルデヒド(A)と、
- 合計で1%~25%、有利には3%~20%、特に5%~15%の重量割合の、1つ以上のフェノール系化合物(B)と、
- 合計で1%~20%、有利には2%~10%、特に3%~5%の重量割合の、1つ以上のアミン(C)と、
- 合計で1%~25%、有利には3%~20%、特に5%~15%の重量割合の、1つ以上の(メタ)アクリレート(D)と、
- 合計で0.1%~5%、有利には0.2%~4%、特に0.3%~1%の重量割合の、1つ以上の開始剤(E)と、
- 合計で0%~10%、有利には0.01%~5%、特に0.02%~2%の重量割合の、1つ以上の促進剤(F)と、
- 合計で0%~10%、有利には0.01%~5%、特に0.02%~2%の重量割合の、1つ以上の添加物質(G)と
の成分を含むかまたはそれらからなることが好ましい。
【0060】
本発明による組成物の必須あるいは任意成分、すなわち、アルデヒド(A)、フェノール系化合物(B)、アミン(C)、(メタ)アクリレート(D)、開始剤(E)、促進剤(F)および添加物質(G)は、全て互いに異なるものである。ある化合物が、原則的に前述の群(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)および(G)のうちの2つ以上に属する場合、この化合物は、上記の順序で最初に挙げられたものに該当する群に割り当てられるものとするが、ただし、明示的にこの規則から逸脱する場合を除く。例えば、ある化合物が群(B)、(D)および(G)のうちのいずれかに属する場合、この化合物は、該当する群のうち最初に挙げられたもの、すなわちこの例では(B)に割り当てられるものとする。したがって、1つの化合物が、群(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)および(G)のうちの複数に割り当てられることはない。
【0061】
本発明による組成物は、エレクトロニクスにおいて、ポッティングコンパウンドとして、またはステレオリソグラフィー(SLA)において使用することができる。しかし、本発明による組成物は、繊維強化組成物、ひいてはそれから製造される繊維複合材料の製造に特に適している。
【0062】
したがって、本発明のさらなる主題は、
- 少なくとも1つの繊維材料であって、有利には1つ以上の再生可能原料から構成される繊維材料と、
- 本発明による組成物と
を含む、繊維強化組成物である。
【0063】
繊維材料は、好ましくは、モノフィラメント、モノフィラメントを含む繊維束、モノフィラメントまたは繊維束を含む糸である。繊維材料は、さらに好ましくは、モノフィラメント、繊維束または糸を含むレイドウェブおよび織物のような生成物である。繊維束を含むレイドウェブが特に好ましい。織物の場合、これらは好ましくはリネン織布である。好ましいレイドウェブは、層状に構成されており、これらの層は、同一方向に配向されていてもよいし(単軸)、異なる方向に配向されていてもよい(多軸)。レイドウェブの利点は、層の繊維または繊維束が編組操作によって曲げられていないことである。その結果、より高い力吸収能力を得ることができる。繊維材料は、有利にはガラス繊維材料、鉱物繊維材料、天然繊維材料および/またはポリマー繊維材料であり、好ましくは天然繊維材料、特に天然繊維である。繊維材料は、さらに好ましくは、ガラス繊維材料、鉱物繊維材料、天然繊維材料および/またはポリマー繊維材料から構成されるレイドウェブであり、特に天然繊維から構成されるレイドウェブである。繊維材料は、好ましくは、調製された素材であって、清浄化された材料としてのまたは既にコーティングされたものであり、好ましくは、清浄化された繊維材料が使用される。清浄化は、好ましくは材料に依存し、好ましい清浄化法は、熱処理、特に好ましくはIRエミッタを用いた照射である。熱処理は、任意に保護ガス下で実施することができる。この清浄化ステップの際に、特に、繊維複合体を得るためのその後の加工の際に障害となる、天然繊維中にほぼ常に含まれる水が除去される。繊維材料が、亜麻繊維、麻繊維、ジュート繊維、ケナフ繊維、ラミー繊維、サイザル繊維および木材繊維からなる群から選択されることが好ましい。標準化可能な処理プロセスによって繊維に再現性のある技術的特性が付与されるように、超音波分解により繊維を狙いどおりに変化させることができる。
【0064】
本発明による組成物および本発明による繊維強化組成物は、特定の方法により硬化可能である。ここで、これらの組成物の硬化は、ラジカル硬化機構によっても非ラジカル硬化機構によっても行われる。
【0065】
したがって、本発明のなおもさらなる主題は、本発明による組成物または本発明による繊維強化組成物を硬化させるための方法であって、硬化を、ラジカルおよび非ラジカル硬化機構により行い、硬化が、有利には
(i)40℃~100℃の温度での、特に1時間~8時間の期間にわたる熱的予備硬化および/または化学線、特にUV光による光化学的予備硬化を行うステップと、
(ii)100℃超~200℃の温度での、特に1時間~8時間の期間にわたる熱的後硬化を行うステップと
を含むことを特徴とする、方法である。
【0066】
ここで有利には、予備硬化は、ラジカル硬化機構によって行われ、後硬化は、非ラジカル硬化機構によって行われる。
【0067】
ラジカル硬化機構の際に、(メタ)アクリレート基および任意にエチレン性不飽和二重結合のラジカル重合が生じる。ラジカル重合は、熱的または光化学的に誘導することができる。この場合、熱的予備硬化は、特に繊維複合材料の製造に使用され、光化学的予備硬化は、ステレオリソグラフィーの分野で使用される。
【0068】
理論に束縛されるものではないが、非ラジカル硬化機構は、マンニッヒ反応の特殊なケースとみなすことができる一般化されたベッティ反応であると考えられる。ベッティ反応は、例えば、Cardellicchio et al. “The Betti base: the awakening of a sleeping beauty”, Tetrahedron: Asymmetry Volume 21, Issue 5, 30 March 2010, Pages 507-517に記載されている(https://en.wikipedia.org/wiki/Betti_reactionおよびhttps://de.wikipedia.org/wiki/Betti-Reaktionも参照のこと)。この場合、アルデヒド(A)、フェノール系化合物(B)およびアミン(C)がベッティ反応により互いに反応すると考えられる。この反応は、図1に概略的に示されている。
【0069】
特に好ましくは、熱的後硬化(ii)は、140℃~150℃の温度で行われる。
【0070】
本発明による組成物は、有利には、繊維複合材料の一般的な製造工程で使用可能な、安定した低粘度の樹脂である。したがって、本発明による方法は、好ましくは、射出成形法やインフュージョン法(例えば、VARI;バキュームインフュージョン法)である。これらの方法は、当業者に公知である。
【0071】
本発明による方法により、卓越した機械的特性を有する熱硬化性樹脂あるいは繊維複合材料の製造が可能となる。
【0072】
したがって、本発明のなおもさらなる主題は、本発明による方法によって得ることができる繊維複合材料あるいは熱硬化性樹脂である。
【0073】
本発明による繊維複合材料および熱硬化性樹脂は、航空機建造、軌道車両建造、自動車製造、造船、機械建設、プラント建設、土木建築において、および風力発電所用の回転翼の製造の際に、部材あるいは成形部材として(例えば、純粋な樹脂シートとして、繊維複合部材としてなど)用いられる。
【0074】
さらなる詳述がなくとも、当業者であれば、上記の説明を最大限に活用することができるものと想定される。したがって、好ましい実施形態および実施例は、単に説明的な開示であると解釈されるべきであり、決して何らかの限定を加える開示であると解釈されるべきではない。
【0075】
本発明の主題を、図1および図2をもとに詳説するが、本発明の主題はそれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1】フェノール系化合物(1)、アルデヒド(2)およびアミン(3)の縮合反応(ベッティ反応/マンニッヒ反応)によるベッティ塩基/マンニッヒ塩基(4)の形成および水の脱離を概略的に示す図である。
図2】実施例で説明した本発明による組成物の示差走査熱量測定(DSC)の結果を示す図である。2つのピークが確認され、1つはラジカル予備硬化のピークであり、1つは非ラジカル後硬化のピークである。
【0077】
実施例
全般的方法:
ガラス変態温度/ガラス転移温度(Tg):
ガラス変態温度/ガラス転移温度(Tg)を、規格ISO 6721-11:2019-06に準拠した動的粘弾性測定(DMA)により測定する。
【0078】
弾性率(E):
弾性率(E)を、規格ISO 6721-4:2019-05に準拠した動的粘弾性測定(DMA)により測定する。
【0079】
衝撃強度:
衝撃強度を、規格ISO 179-1:2010-11に準拠して測定する。
【0080】
粘度:
粘度を、規格DIN EN ISO 3219:1994-10に準拠して測定する。
【0081】
曲げ強度:
曲げ強度を、規格ISO 178:2019-04に準拠した3点曲げ試験により測定する。
【0082】
曲げ弾性率:
曲げ弾性率を、規格ISO 178:2019-04に準拠した3点曲げ試験により測定する。
【0083】
示差走査熱量測定(DSC):
示差走査熱量測定(DSC)を、DIN EN ISO 11357-1:2017-02、DIN EN ISO 11357-2:2020-08およびDIN EN ISO 11357-4:2014-10に準拠して実施する。
【0084】
原料/材料:
【表1】
【0085】
樹脂および繊維複合材料:
a)樹脂の製造
Speedmixerで、まず、Visiomer(登録商標)VALMA 76重量部と、Cardanol NX-2026 10重量部と、HDDA 10重量部と、Aradur(登録商標)976-1 4重量部との混合物を製造し、この混合物を、次いで60℃で2時間にわたって加熱処理した。粘度260mPas(25℃で測定)の澄明な液体生成物を得た。この生成物は、貯蔵安定であった。この生成物は、数ヶ月間貯蔵した後でも澄明であり、インフュージョン法で問題なくさらに使用することができた。
【0086】
b)樹脂の硬化および機械的特性値
生成物a)100重量部に、不活性ガス(N)下でPeroxan BP Pulver 50W 2重量部およびPergaquick A3X 0.5重量部を混ぜ入れた。この混合物のポットライフ(可使時間)は、60℃で約4時間であった。この混合物を、60℃で6時間にわたって予備硬化させ、次いで140℃で2時間にわたって後硬化させた。硬化した生成物は、約120℃のガラス変態温度Tg、1.8GPaの弾性率、および1.5kJ/mの衝撃強度を有する。DSCでは2つのピークが確認され、1つはラジカル予備硬化のピークであり、1つは非ラジカル後硬化のピークである。
【0087】
比較のため:同様に硬化させたビニルエステル樹脂は、通常は、約130℃のガラス変態温度および約3GPaの弾性率を有する。また、ビニルエステル樹脂は非常に脆い。無水物(例えば、Albidur(登録商標)HE 600)で硬化させたDGEBA(例えば、Huntsman社製Araldite(登録商標)LY 556)のような標準的なエポキシ樹脂は、130℃のTg、および2.8GPaの弾性率を有する。ここで、硬化した本発明による樹脂の構造は、特に一つには硬化機構が異なるという理由から、エポキシ樹脂の構造ともビニルエステル樹脂の構造とも異なることに留意すべきである。したがって、機械的特性も異なることが予想される。
【0088】
c)繊維複合材料の製造および機械的特性値
生成物a)100重量部に、不活性ガス(N)下でPeroxan BP Pulver 50W 2重量部およびPergaquick A3X 0.5重量部を混ぜ入れた。得られた混合物を、その後、バキュームインフュージョン法(VARI)で処理する。繊維材料として、±45°の構造(Bcomp/スイスのampliTex(登録商標)5008)および目付350g/mを有する二軸亜麻繊維のレイドウェブを4層使用する。得られた繊維強化樹脂を、真空下60℃で4時間にわたって予備硬化させ、次いで140℃でオーブンにて6時間にわたって後硬化させる。こうして得られた繊維複合シートの再生可能原料の重量割合は、繊維複合材料の総重量に対して93%である。この繊維複合シートは、約120℃のガラス変態温度、137MPaの曲げ強度および9.8GPaの曲げ弾性率を有する。
【0089】
比較のため:同一のテキスタイルレイドウェブ(同一の製造バッチ)を用いて同等の条件で製造した繊維複合シートであって、標準的なエポキシ樹脂(Huntsman社製LY 556)にアミン(Evonik社製Ancamine(登録商標)2167)を加え、80℃で2時間、150℃で4時間硬化させたものは、108℃のTg、160MPaの曲げ強度、および9.4GPaの曲げ弾性率を有する。不飽和ポリエステル樹脂をベースとするジュート強化部材について、文献では、曲げ強度80MPa、および曲げ弾性率4.8GPaとされている。
【0090】
バニリンとアクリル酸との等モル混合物でのバニリンメタクリレートの置換
a)で説明した方法様式と同様に、Speedmixerで、まず、バニリン52重量部と、アクリル酸24重量部と、Cardanol NX-2026 10重量部と、HDDA 10重量部と、Aradur(登録商標)976-1 4重量部との混合物を製造し、この組成物を、次いで60℃で2時間にわたって加熱処理した。バニリンを完全に溶解させることはできなかった。したがって、澄明な溶液を得ることはできなかった。得られた組成物は、懸濁液であった。この組成物は、該組成物の固体成分が織物によって保持されることなく織物を通過して流れることができなかったため、インフュージョン法での使用には適していなかった。さらに、室温で4時間貯蔵した後、未溶解のバニリンの一部が貯蔵容器の底部に沈殿した。
【0091】
さらに、得られた混合物を、b)で説明した方法様式に従って硬化させることを試みた。60℃での硬化は観察されなかった。140℃では激しい煙が生じたが、これは恐らく、アクリル酸が抜け、かつ分解している可能性があることに起因する。最終的に、全く使用することができない、炭化して砕けた固形物が得られた。
図1
図2
【国際調査報告】