(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】コラーゲンXIバイオマーカーを検出するためのアッセイ
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20231220BHJP
G01N 33/577 20060101ALI20231220BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20231220BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231220BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
G01N33/577 B
G01N33/574 A
G01N33/53 D
G01N33/543 501A
G01N33/543 511A
G01N33/543 515A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537247
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2021086770
(87)【国際公開番号】W WO2022136260
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522403778
【氏名又は名称】ノルディック バイオサイエンス エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ウィルムセン,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ニッセン,ニール,インゲマン
(72)【発明者】
【氏名】カルスダル,モルテン,アッサー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045FA72
(57)【要約】
本明細書に開示されているものは、A’511↓でタイプXIコラーゲンのα1-鎖のN末端プロペプチドの開裂に対して形成されたC末端ネオエピトープを含むペプチドのC末端を特異的に認識してそれに結合するモノクローナル抗体、ならびに前記抗体を使用し、含む、イムノアッセイ法およびキットである。イムノアッセイ法は、癌などであるがこれに限定されない疾患の重症度もしくは予後を検出および/またはモニターおよび/または評価するために使用される可能性がある。
【選択図】
図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C末端アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)を有するペプチドのC末端を特異的に認識してそれに結合する、モノクローナル抗体。
【請求項2】
C末端アミノ酸配列DGSKGPTISAQ(配列番号2)を有するペプチドに特異的に結合しない、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
C末端アミノ酸配列DGSKGPTIS(配列番号3)を有するペプチドに特異的に結合しない、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
C末端アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して産生される、請求項1から3のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
イムノアッセイの方法であって:
i)患者由来の試料を、C末端アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)を有するペプチドのC末端を特異的に認識してそれに結合するモノクローナル抗体と接触させるステップ;ならびに
ii)前記モノクローナル抗体と試料中のペプチドとの間の結合量を検出し、決定するステップ
を含む、方法。
【請求項6】
患者の疾患を検出および/もしくはモニターする、ならびに/または患者の疾患の重症度もしくは予後を評価するためのイムノアッセイの方法であり、さらに:
iii)ステップ(ii)で決定されたような前記モノクローナル抗体の前記結合量を、健常人に関連する値、および/または既知の疾患重症度または予後に関連する値、および/または以前の時点で前記患者から得られた値、および/または所定のカットオフ値と関連付けるステップ
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記疾患が、膵癌または慢性膵炎である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記疾患が、メラノーマである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患が、間質および癌に関連する線維芽細胞が豊富な腫瘍微小環境を有する癌である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記疾患が、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎癌、肝癌、肺癌、メラノーマ、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、または胃癌である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記疾患が、癌であり、前記方法が、1つまたは複数の化学療法剤および/または免疫チェックポイント阻害剤での処置での考えられる患者の生存期間または無増悪生存期間を評価するための方法である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列DGSKGPTISAQ(配列番号2)を有するペプチドに特異的に結合しない、請求項5から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列DGSKGPTIS(配列番号3)を有するペプチドに特異的に結合しない、請求項5から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して産生される、請求項5から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記試料が、血液、血清または血漿から選択される生物流体試料である、請求項5から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記イムノアッセイが、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイである、請求項5から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記イムノアッセイが、ラジオイムノアッセイまたは酵素結合免疫吸着測定法である、請求項5から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
C末端アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)を有するペプチドのC末端を特異的に認識してそれに結合するモノクローナル抗体、ならびに;
-ストレプトアビジンコートウェルプレート;
-ビオチン化ペプチドであるビオチン-L-DGSKGPTISA(配列番号4)(ここで、Lは、任意選択のリンカーである);
-サンドイッチイムノアッセイにおいて使用するための二次抗体;
-前記配列DGSKGPTISA(配列番号1)を含むキャリブレータタンパク質;
-抗体ビオチン化キット;
-抗体HRP標識キット;
-抗体放射標識キット;および
-アッセイ可視化キット
の少なくとも1つを含む、イムノアッセイキット。
【請求項19】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列DGSKGPTISAQ(配列番号2)を有するペプチドに特異的に結合しない、請求項18に記載のイムノアッセイキット。
【請求項20】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列DGSKGPTIS(配列番号3)を有するペプチドに特異的に結合しない、請求項18または19に記載のイムノアッセイキット。
【請求項21】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して産生される、請求項18から20のいずれか一項に記載のイムノアッセイキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイプXIコラーゲンのα1-鎖のN末端プロペプチドの開裂に対して形成されたネオエピトープを検出するため、および/または試料中の前記ネオエピトープの量を定量するためのイムノアッセイに関する。本発明はまた、前記ネオエピトープに特異的に結合するモノクローナル抗体、および前記イムノアッセイを実行するための前記抗体を含むキットに関する。イムノアッセイ、抗体およびキットは、例えば患者の膵癌、慢性膵炎、メラノーマ、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎癌、肝癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、または胃癌などの疾患の重症度または予後を検出、モニターおよび/または評価するために使用される可能性がある。
【背景技術】
【0002】
膵癌(PC)は、わずかに14番目に多い癌であるが、依然として世界中で癌死全体の4.5%を占めている(世界保健機関:Latest global cancer data,2018;Bray et al.,2018)。この主な理由は、ほとんどの患者が診断時に転移があり、患者の10%のみが治癒的手術を受けることになる。他の標準ケア治療選択肢には、異なる化学療法レジメンが含まれるが、これらの薬物は、緩和的設定において主に使用される(McGuigan et al.,2018)。
【0003】
膵管腺癌(PDAC)は、結果として無血管および低酸素の腫瘍微小環境(TME)となる重度の腫瘍線維症/線維形成症により特徴づけられる。PCにおける線維化TMEは、多くの場合、周囲の間質からの持続的な傷害刺激のために活性化される線維芽細胞である、膨大な数の癌関連線維芽細胞(CAF)により特徴づけられる(Hosein,BrekkenおよびMaitra,2020)。CAFは、腫瘍微小環境において最も多く存在する細胞型であり、腫瘍転帰を必要とすることが知られている(Franco et al.,2010)。CAFは、増殖因子、酵素ならびに腫瘍増殖、血管新生、腫瘍浸潤および転移を促進する細胞外マトリックス(ECM)分子を分泌し、そのため、腫瘍促進因子の豊富なリザーバとして考えられている(KalluriおよびZeisberg,2006)。腫瘍の発生および進行におけるCAFおよび線維形成性間質のこの重要な役割を認識すること、腫瘍の間質成分を同定し、標的化することは、癌の広範な研究の分野である。特に、PCを有する患者の腫瘍において認められるような、間質およびCAFが豊富なTMEを有する患者における腫瘍生物学に、さらなる洞察を提供することができる新規非侵襲性バイオマーカーは、非常に有益であろう。
【0004】
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の有効性を予測するため、そしてそれによって現在のICIレジメンおよび新規併用療法のための患者の選択を可能にするためのバイオマーカーは、同様に非常に有益であろう。T細胞排除腫瘍を有する患者は、ICI治療に対して効果が乏しい。T細胞排除は、アップレギュレートされたTGF-β-シグナル伝達および活性化された線維芽細胞により行われ、線維性コラーゲンのレベルの増加を生じる(線維形成)。
【0005】
CAFにより分泌された主なECMタンパク質は、コラーゲンである。線維芽細胞由来コラーゲンには、コラーゲンI、II、III、V、IVおよびXIが含まれる。これらのコラーゲンは、腫瘍間質コンパートメントの主な構成要素であり、間質マトリックス内に配置されている。基底膜コラーゲン、例えばコラーゲンIV、および癌におけるそれらの役割が十分に説明されている一方で、線維芽細胞由来コラーゲンについては、あまり知られていない。しかし、証拠は、これらのコラーゲンが、腫瘍の開始および進行において主要な役割を果たす可能性があることを示している(Nissen,KarsdalおよびWillumsen,2019)。特異的線維芽細胞由来コラーゲンフラグメントを定量するバイオマーカーは、種々の癌疾患における患者の転帰を予測することが示されている(Willumsen et al.,2013,2014;Kang et al.,2014;Bager et al.,2015;Kehlet et al.,2016;Jensen et al.,2018)。近年、コラーゲンIIIのプロペプチドを標的化するバイオマーカーであるPRO-C3は、PCにおける全生存期間(OS)についての予後徴候であったことが示されている(Chen et al.,2020)。さらに、別の研究において、PRO-C3が、新規抗線維化薬であるPEGPH20に対して応答する患者を予測することができることが示された(Wang et al.,2018)。
【0006】
いくつかの研究は、新規バイオマーカーとして機能することができるCAF特異的遺伝子/タンパク質を同定することに焦点を当てている。興味深いことに、これまでに同定されている最も特異的なCAF遺伝子の1つは、タイプXIコラーゲンのα1-鎖をコードするCOL11A1である(Vazquez-Villa et al.,2015)。タイプXIコラーゲンは、軟骨細胞、破骨細胞、CAFにより発現されるが、休止期の線維芽細胞には発現しないマイナーな線維性コラーゲンである(Garcia-Pravia et al.,2013;RaglowおよびThomas,2015;Vazquez-Villa et al.,2015)。タイプXIコラーゲンの機能は、適切なフィブリル形成および直径の維持に関与することが示唆されている。成熟タイプXIコラーゲンは、プロコラーゲンとして合成されるα1-、α2-およびα3-鎖からなるヘテロ三量体であり、プロペプチドは、後でタンパク質分解的に開裂され、成熟タイプXIコラーゲンが得られる。タイプXIコラーゲンのα1-鎖のN末端プロペプチドは、A’253↓でBMP-1開裂によりインビトロで部分的にのみ放出されることが示されている(Rousseau et al.,1996)。しかし、タイプXIコラーゲンのα1-鎖のN末端プロペプチドはまた、A’511↓でのNプロテイナーゼ開裂によるプロペプチドの最末端で開裂されることが示されている(YoshiokaおよびRamirez,1990)。
【0007】
米国特許第9,702,879号明細書(Serra et al)は、個体から採取された試料中のproCOL11A1(タイプXIコラーゲンのα1-鎖のプロコラーゲン)の量の検出に基づいて前記個体における浸潤癌の存在を検出するためのインビトロ法を説明している。その方法は、prCOL11A1のアミノ酸268から400からなるproCOL11A1のN末端領域に位置する親水性ドメインに存在する1つまたは複数のエピトープに結合するモノクローナル抗体を使用する。本文書の著者は、この領域が、その疎水性のため(領域が、タンパク質の本来の構造において露出されていることを示唆する)およびproCOL11A1との類似性が最も高い他のコラーゲンアイソフォームとの相同性が最も低い配列を含むために、proCOL11A1に特異的なモノクローナル抗体を生成するための最も有望な領域であると結論づけた。
【0008】
国際公開第2020/065078号(Willumsen et al)は、A’253↓でのタイプXIコラーゲンのα1-鎖のN末端プロペプチドの開裂に対して形成されたC末端ネオエピトープを標的化するモノクローナル抗体の生成、および患者の非小細胞肺癌を診断および/またはモニターするための競合ECLIA(電気化学発光イムノアッセイ)における前記抗体の使用を説明している。
【0009】
それにも関わらず、間質およびCAFが豊富なTMEを有する癌(膵癌を有する患者の腫瘍で認められるものなど)およびICI治療での処置の応答および生存転帰を予測する可能性があるT細胞排除腫瘍を有する癌、ならびに重度の線維症により特徴づけられるか、それを提示する他の疾患などであるがこれらに限定されない癌に罹患している患者を同定するために臨床的に使用される可能性がある新規の非侵襲性バイオマーカーの必要性が残っている。
【発明の概要】
【0010】
出願人は、現在、A’511↓でのタイプXIコラーゲンのα1-鎖のN末端プロペプチドの酵素的開裂により生成されるC末端ネオエピトープを標的化する酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を開発しており、PCを有する患者、慢性膵炎(CP)を有する患者、および転移性メラノーマを有する患者および種々の他のタイプの癌を有する患者におけるこのバイオマーカーの予後値を示している。
【0011】
したがって、第1の態様において、出願人は、C末端アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)を有するペプチド(A’511↓でのタイプXIコラーゲンのα1-鎖のN末端プロペプチドの開裂に対して形成されたC末端ネオエピトープを含む)のC末端を特異的に認識してそれに結合するモノクローナル抗体を提供する。アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)はまた、本明細書では「PRO-C11-511標的配列」とも呼ばれ、前記配列からなるか、それらのC末端として前記配列を有するペプチドはまた、本明細書では「PRO-C11-511標的ペプチド」とも呼ばれる。
【0012】
本明細書で使用されるように、用語「C末端」は、ポリペプチドの末端、すなわちポリペプチドのC末端でのC末端ペプチド配列を指し、その一般的な方向の意味として解釈されるべきではない。
【0013】
本明細書で使用されるように、用語「ペプチド」および「ポリペプチド」は、同義的に使用される。
【0014】
本明細書で使用されるように、用語「ネオエピトープ」は、ペプチドの開裂に対して形成されているが、(例えば、開裂部位での遊離-NH2または-COOH基が、抗体により認識され、特異的に結合するエピトープの一部を形成するため)非開裂ペプチドでは存在しないか、抗体により認識可能ではないエピトープを指す。
【0015】
好ましい実施形態において、モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列DGSKGPTISAQ(配列番号2)(すなわちグルタミン残基の付加によりそのC末端で延びるPRO-C11-511標的配列)を有するペプチドを特異的に認識しないか、それに結合しない。
【0016】
好ましい実施形態において、モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列DGSKGPTIS(配列番号3)(すなわち最後のアラニン残基の除去により不完全なPRO-C11-511標的配列)を有するペプチドを特異的に認識しないか、それに結合しない。
【0017】
好ましくは、モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列DGSKGPTISA(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して産生されるモノクローナル抗体である。
【0018】
本明細書で使用されるように、用語「モノクローナル抗体」は、全抗体および例えばFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、一本鎖Fvフラグメント、または当業者に既知の他のそのようなフラグメントなどの全抗体の結合特異性を保持しているそのフラグメントの両方を指す。周知のように、全抗体は、典型的に2つの同一なポリペプチド鎖対の「Y字型」構造を有し、各対は、1つの「軽」鎖および1つの「重」鎖で構成される。各軽鎖および重鎖のN末端領域は、可変領域を含む一方で、各重鎖および軽鎖のC末端部分は、定常領域を構成する。可変領域は、主に抗原認識の役割を担っている、3つの相補性決定領域(CDR)を含む。定常領域は、抗体が免疫系の細胞および分子を補充することを可能にする。結合特異性を保持する抗体フラグメントは、少なくともCDRおよび前記結合特異性を保持するのに十分な可変領域の残りの部分を含む。
【0019】
本発明の方法において、当技術分野において既知である任意の定常領域を含むモノクローナル抗体を使用することができる。ヒト定常軽鎖は、カッパおよびラムダ軽鎖として分類される。定常重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンとして分類され、抗体のアイソタイプを、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEと定義する。IgGアイソタイプは、IgGl、IgG2、IgG3、およびIgG4を含むがこれらに限定されない、いくつかのサブクラスを有する。モノクローナル抗体は、好ましくは、IgGl、IgG2、IgG3またはIgG4のいずれか1つを含む、IgGアイソタイプのものであり得る。
【0020】
抗体のCDRは、Kabat et alにより説明されたものなど、当技術分野において既知の方法を使用して決定することができる。抗体は、実施例に記載のB細胞クローンから生成することができる。抗体のアイソタイプは、ヒトIgM、IgGもしくはIgAアイソタイプ、またはヒトIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4サブクラスに特異的なELISAにより決定することができる。生成された抗体のアミノ酸配列は、標準技術を使用して決定することができる。例えば、RNAは、細胞から単離することができ、逆転写によりcDNAを生成するために使用することができる。その後、cDNAを、抗体の重鎖および軽鎖を増幅するプライマを使用するPCRに供する。例えば、全VH(可変重鎖)配列のためのリーダー配列に特異的なプライマは、以前決定されているアイソタイプの定常領域に位置する配列に結合するプライマと一緒に使用することができる。軽鎖は、カッパまたはラムダ鎖の3’末端に結合するプライマを、VカッパまたはVラムダリーダー配列にアニールするプライマと一緒に使用して増幅することができる。完全長重鎖および軽鎖を生成し、配列決定することができる。
【0021】
第2の態様において、本出願は、イムノアッセイの方法を提供し、その方法は:
(i)患者由来の生物流体試料を、第1の態様によるモノクローナル抗体と接触させるステップ;ならびに
(ii)前記モノクローナル抗体と試料中のペプチドとの間の結合量を検出し、決定するステップ
を含む。
【0022】
好ましい実施形態において、方法は、患者の疾患を検出および/もしくはモニターする、ならびに/または患者の疾患の重症度もしくは予後を評価するためのイムノアッセイの方法であり、その方法はさらに:
(iii)ステップ(ii)で決定されたような前記モノクローナル抗体の前記結合量を、健常人に関連する値、および/または既知の疾患重症度または予後に関連する値、および/または以前の時点で前記患者から得られた値、および/または所定のカットオフ値と関連付けるステップ
を含む。
【0023】
いくらかの実施形態において、疾患は、膵癌、メラノーマ、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎癌、肝癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、または胃癌などであるがこれらに限定されない癌である。癌は、間質および癌に関連する線維芽細胞が豊富な腫瘍微小環境を有する癌であり得る。癌は、特に膵管腺癌または転移性メラノーマであり得る。
【0024】
いくらかの実施形態において、疾患は、膵癌(特に膵管腺癌)または慢性膵炎などであるがこれらに限定されない膵疾患である。
【0025】
方法が、疾患の重症度または予後を評価するための方法である場合、方法は、例えば癌の病期を評価するため;または考えられる患者の生存期間または無増悪生存期間を評価するため;または1つもしくは複数の薬物(例えば1つまたは複数の化学療法剤(すなわち細胞毒性剤)および/または免疫チェックポイント阻害剤)での処置での考えられる患者の生存期間または無増悪生存期間などの医療介入に応答する可能性を評価するためのものであり得る。
【0026】
試料は、好ましくは生物流体である。生物流体は、血液、血清、血漿、尿または細胞もしくは組織培養物由来の上清であり得るが、これらに限定されない。好ましくは、生物流体は、血液、血清または血漿である。
【0027】
イムノアッセイは、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイであり得るが、これらに限定されない。イムノアッセイは、例えばラジオイムノアッセイまたは酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)であり得る。そのようなアッセイは、当業者に既知の技術である。
【0028】
本明細書で使用されるように、用語「結合量」は、モノクローナル抗体と患者の試料中のペプチドとの間の結合の定量化を指す。前記定量化は、患者の試料中で抗体が特異的に結合するペプチドの量をそれによって決定するために、例えば患者の試料中の結合の測定値を、抗体が特異的に結合するペプチドの既知の濃度を含む標準試料中の結合の測定値を使用して生成された検量線に対して比較することにより決定される可能性がある。以下に提示する実施例において、ELISA法が使用され、そこで分光光度分析が、患者の試料中、および検量線を生成する場合の両方で、結合量を測定するために使用される。しかし、任意の適切な分析法を使用することができる。
【0029】
本明細書で使用されるように、用語「所定のカットオフ値」は、患者の疾患の可能性が高いことまたは特定のその重症度(またはその予後)を示唆すると統計的に決定される結合量を意味し、統計的カットオフ値で、またはそれを超える患者の試料中での標的ペプチドの測定値は、前記疾患の存在またはその前記特定の重症度(またはその予後)の少なくとも70%の確率、好ましくは少なくとも75%の確率、より好ましくは少なくとも80%の確率、より好ましくは少なくとも85%の確率、より好ましくは少なくとも90%の確率、および最も好ましくは少なくとも95%の確率に対応する。
【0030】
本明細書で使用されるように、用語「健常人に関連する値」は、健康であるとみなされる、すなわち疾患がない被験者由来の試料のために上述した方法により決定された標準化結合量を意味する;そして用語「既知の疾患重症度または予後に関連する値」は、既知の重症度または予後の疾患を有することが既知である患者由来の試料のために上述した方法により決定された標準化結合量を意味する。
【0031】
第3の態様において、本出願は、第1の態様によるモノクローナル抗体、ならびに;
-ストレプトアビジンコートウェルプレート;
-ビオチン化ペプチドであるビオチン-L-DGSKGPTISA(配列番号4)(ここで、Lは、任意選択のリンカーである);
-サンドイッチイムノアッセイにおいて使用するための二次抗体;
-配列DGSKGPTISA(配列番号1)を含むキャリブレータタンパク質;
-抗体ビオチン化キット;
-抗体HRP標識キット;
-抗体放射標識キット;および
-アッセイ可視化キット
の少なくとも1つを含むイムノアッセイキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】PRO-C11-253(A)およびPRO-C11-511(B)バイオマーカーの標的の説明があるコラーゲンタイプXIの略図。
【
図2】PRO-C11-253およびPRO-C11-511アッセイの特異性テスト。A)PRO-C11-253抗体の反応性を、標準(STD)、伸長、不完全およびナンセンス(ナンセンスSTD)ペプチドおよびナンセンスコーターに対してテストした。3つの異なる除外ペプチドに対してもテストした。B)PRO-C11-511抗体の反応性を、標準(STD)、伸長、不完全およびナンセンス(ナンセンスSTD)ペプチド、ナンセンスコーターおよび除外ペプチドに対してテストした。%B/B0:Bはxng/mlのペプチドでのODと等しく、B0は、0ng/mlのペプチドでのODと等しい。
【
図3】健康な対照(n=20)、および慢性膵炎(n=12)ならびに膵癌(n=39)患者における個々のバイオマーカーの測定値。黒線は、中央値を示すものである。A)PRO-C11-253、B)PRO-C11-511。Ns:有意差なし。*はp<0.05である。****はp<0.0001である。
【
図4】PRO-C11-253、PRO-C11-511および全生存期間の高(>75%)および低(<75%)バイオマーカーレベル間の関連を示すカプラン・マイヤー生存プロット。A)PRO-C11-253、B)PRO-C11-511
【
図5】膵癌(n=686)における個々のPRO-C11-253バイオマーカー測定値。黒線は、中央値を示すものである。*はp<0.05である。***はp<0.001である。
【
図6】A)膵癌(n=686)におけるPRO-C11-511および全生存期間の高(>75%)および低(>75%)レベル間の関連を示すカプラン・マイヤープロット。B)高(>75%)および低(>75%)バイオマーカー測定値についてベースラインから2年後に生存している患者の割合を示すプロット。
【
図7】ペンブロリズマブで処置された転移性メラノーマ患者において75パーセンタイル(Q1+Q2+Q3対Q4)でグループ分けする(二分する)ことによる、ベースラインでのPRO-C11-511に関連する無増悪生存期間および全生存期間を評価するためのカプラン・マイヤープロット。
【
図8】多発性癌患者群および健康な対照の血清中でPRO-C11-511を測定した。PRO-C11-511レベルを、データポイントジッタ付きのテューキースタイルの箱ひげ図として表す:水平の棒は、中央値を示す;箱の上部および下部ヒンジは、第1四分位数および第3四分位数(25および75パーセンタイル)を示す;ひげは、ヒンジから最大値または最小値まで延びるが、正負のいずれかの方向で、1.5×IQR(こで、IQRは、第1四分位数と第3四分位数との間の四分位数範囲である)を超えない。測定範囲の下限(LLMR)未満で測定される試料には、PRO-C11-511の検証で決定されたように、LLMRの値を与えた。****は、0.0001未満のp値を示す。***は、0.001未満である。**は、0.01未満である。*は0.05未満である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施例
本開示の実施形態は、以下の実施例において説明され、本開示の理解を助けるために記載され、その後に続く特許請求の範囲で定義される本開示の範囲をいかなる方法でも制限するものと解釈されるべきではない。以下の実施例は、説明された実施形態を製造および使用する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するように述べられており、本開示の範囲を限定することを意図しておらず、また、以下の実験が、すべてまたは唯一の実行された実験であることを表すことを意図していない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関して正確性を期するために努力がなされているが、いくらかの実験誤差および偏差は、説明されるべきである。別段の指示のない限り、部は重量部であり、分子量は、重量平均分子量であり、温度は、摂氏度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0034】
材料および方法
コラーゲンXIアッセイ開発-標的配列の同定およびモノクローナル抗体産生
タイプXIコラーゲンのα1-鎖のN末端プロペプチドは、アミノ酸A’253↓またはアミノ酸(Rousseau et al.,1996)A’511↓(YoshiokaおよびRamirez,1990)のいずれかで開裂されることが示されている。標的化されるこれらの2つの部位の関連性を評価するため、モノクローナル抗体は、ペプチド
244DSSAPKAAQA
253(配列番号5)(その標的配列およびペプチドは、本明細書ではPRO-C11-253と呼ばれる)または
502DGSKGPTISA
511(配列番号1)(その標的配列およびペプチドは、本明細書ではPRO-C11-511と呼ばれる)のいずれかに対して上昇した(
図1)。アミノ酸配列は、UniprotKB/Swiss-protデータベースを用いるNPS@:Network Protein Sequence解析を使用して他のヒト分泌細胞外マトリックスタンパク質との相同性のためにBLAST検索し、一意であることが分かった(Combet et al.,2000)。
【0035】
免疫原性ペプチド(PRO-C11-253用:KLH-CGG-DSSAPKAAQA(配列番号6)およびPRO-C11-511用:KLH-CGG-DGSKGPTISA(配列番号7))を、スルホサクシニミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、SMCC(サーモサイエンティフィック、ウォルサム、MA、USA、カタログ番号22322)を使用して標的ペプチドをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)輸送タンパク質に共有的に架橋させることにより生成した。グリシンおよびシステイン残基をN末端で添加して、輸送タンパク質の正しい結合を確保した。モノクローナル抗体を、PRO-C11-253免疫原性ペプチド用にはSpecol(インビトロジェンカタログ番号7925000)と、PRO-C11-511免疫原性ペプチド用にはシグマアジュバントシステム(シグマカタログ番号S6322)と混合した免疫原性ペプチド100μgを含む乳化抗原200μLを用いる6週齢のBalb/Cマウスの皮下免疫付与により生成した。安定した血清力価レベルに到達するまで、2週間間隔で連続免疫付与を実行した。最高力価を有するマウスを4週間休ませ、その後、0.9%NaCl溶液100μL中の免疫原性ペプチド100μgを用いて静脈内で追加免疫付与した。以前説明された(Gefter,MarguliesおよびScharff,1977)ように脾臓細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合することによりによりハイブリドーマ細胞を生成した。その後、得られたハイブリドーマ細胞を96ウェルマイクロタイタープレートで培養し、標準限界希釈を使用して単クローン性増殖を確保した。
【0036】
メーカーの指示書(GEヘルスケア・ライフサイエンス、リトルチャルフォント、UK、cat.#17-0404-01)にしたがって、タンパク質-G-カラムを使用してモノクローナル抗体を精製した。各バイオマーカー用の最良の抗体クローンを、選択ペプチド(標的ペプチド、標準ペプチドとも呼ばれる)に対する反応性、および標的ペプチド配列のC末端に添加された追加のアミノ酸を有する伸長選択ペプチド、第1のC末端アミノ酸の除去を有する不完全選択ペプチド、ナンセンス選択ペプチドおよびナンセンスビオチン化コーティングペプチドに反応性がないことについて、予備競合ELISAに基づいて選択した(表1を参照されたい)。ビオチン化選択ペプチドを、コーティングペプチドとして使用した(表1)。他のタンパク質に対する任意の潜在的な交差反応性についてスクリーニングし、抗体特異性をさらにテストするため、PRO-C11-253には、標的配列中の第1の6個のアミノ酸と比較して1つのアミノ酸ミスマッチを有する3個のペプチド(シスタチン-M、リジルオキシダーゼホモログ1およびケラチン様タンパク質KRT222由来)が、PRO-C11-511には、1つのペプチド(ムチン4由来)が含まれていた(表1)。
【0037】
【0038】
PRO-C11-253およびPRO-C11-253ELISAプロトコル
抗体/コーターペプチドの最適比、インキュベーション緩衝液、-時間および-温度、ならびに(PRO-C11-253アッセイの感度を高めるため)西洋ワサビペルオキシダーゼのPRO-C11-253抗体へのコンジュゲーションの決定後、競合PRO-C11-253およびPRO-C11-253ELISAアッセイを以下のように実行した:
【0039】
PRO-C11-253ELISA
96ウェルストレプトアビジンコートマイクロプレートプレートを、アッセイ緩衝液(50mM PBS-BTB、NaCl/L8g、pH7.4)に溶解したビオチン化コーティングペプチド(0.5ng/mL)100μLを用いて、振盪(300rpm)しながら20℃暗所で30分間コートした。5回の洗浄(20mmol/Lトリス、50mmol/L NaCl、pH7.2)後、標準ペプチドまたは血清試料(1:2に事前希釈した)20μLを、適切なウェルに添加し、続いて、アッセイ緩衝液に溶解したPRO-C11-253用の西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)-コンジュゲート抗体(25ng/mL)100μLを添加し、振盪(300rpm)しながら4℃暗所で20時間インキュベートした。5回の洗浄後、テトラメチルベジジン(Tetramethylbezidine)(TMB)(Kem-En-Tec Diagnostics、トストルプ、デンマーク)100uLをプレートに添加し、振盪(300rpm)しながら20℃暗所で15分間インキュベートした。1%硫酸100μLを添加することにより反応を停止した。プレートを、VersaMax ELISAマイクロプレートリーダー中、650nmを基準として450nMで分析した。4-パラメトリック数学的フィットモデルを使用して標準曲線をプロットし、GraphPad Prismバージョン8(GraphPad Software社)を使用して、データを分析した。
【0040】
PRO-C11-511ELISA
96ウェルストレプトアビジンコートマイクロプレートプレートを、アッセイ緩衝液(25mM PBS-BTB、2NaCl/L、pH7.4)に溶解したビオチン化ペプチド(1.9ng/mL)100μLを用いて、振盪(300rpm)しながら20℃暗所で30分間コートした。5回の洗浄(20mmol/Lトリス、50mmol/L NaCl、pH7.2)後、標準ペプチドまたは血清試料(1:2に事前希釈した)20μLを、適切なウェルに添加し、続いて、アッセイ緩衝液に溶解したPRO-C11-511用の抗体(18.8ng/mL)を添加し、振盪(300rpm)しながら4℃暗所で20時間インキュベートした。5回の洗浄後、アッセイ緩衝液で希釈した130ng/mL二次ヤギ抗マウスHRP-コンジュゲートIgG抗体(サーモサイエンティフィック、ウォルサム、MA、USA)を各ウェルに添加し、20℃で1時間振盪(300rpm)しながら暗所でインキュベートした。5回の洗浄後、テトラメチルベジジン(Tetramethylbezidine)(TMB)(Kem-En-Tec Diagnostics、トストルプ、デンマーク)100uLをプレートに添加し、振盪(300rpm)しながら20℃暗所で15分間インキュベートした。1%硫酸100μLを添加することにより反応を停止した。プレートを、VersaMax ELISAマイクロプレートリーダー中、650nmを基準として450nMで分析した。4-パラメトリック数学的フィットモデルを使用して標準曲線をプロットし、GraphPad Prismバージョン8(GraphPad Software社)を使用して、データを分析した。
【0041】
PRO-C11-253およびPRO-C11-511ELISAの技術的評価
PRO-C11-253およびPRO-C11-511ELISAアッセイの技術的性能を、以下の検証テスト:測定範囲の下限(LLMR)、測定範囲の上限(ULMR)、アッセイ間およびアッセイ内変動、直線性、精度(添加)、検体安定性(凍結/解凍および貯蔵)ならびに干渉で評価した。
【0042】
分析測定範囲を、10個の独立した実験から推定されたLLMRからULMRまでの濃度(標準曲線の線形部分)として定義した。アッセイ間およびアッセイ内変動を、検出範囲をカバーする5個の品質管理試料を使用する異なる日での10個の独立した実験により決定し、各実験は、試料の二重判定からなっていた。5個の管理試料には、3個のヒト血清試料および緩衝液中の標準ペプチドを有する2個の試料が含まれていた。アッセイ内変動を、プレート内の平均変動係数(CV%)として算出し、アッセイ間変動を、異なる日に分析された10個の個々の実験間の平均CV%として算出した。直線性(希釈回収率)を、3個のヒト血清試料の2倍希釈物を用いて決定し、未希釈試料の回収率として算出した。既知の濃度の8個のヒト血清試料を組み合わせることにより、精度(添加回収率)を評価し、添加回収率を、理論量の測定されたPRO-C11-253およびPRO-C11-511の量の回収率として算出した。繰り返し凍結/解凍の影響により、また温度貯蔵に関して検体安定性を決定した。3個の血清試料を4回解凍、凍結し、続いて、PRO-C11-253およびPRO-C11-511を測定した。第1のサイクルを基準として用いて凍結/解凍回収率を算出した。48時間の研究を実行し、3個のヒト血清試料を使用して4℃および20℃での検体安定性を決定した。PRO-C11-253およびPRO-C11-511のレベルを、貯蔵の4時間後、24時間後および48時間後に測定し、回収率を、-20℃で貯蔵したノンストレスの試料を基準として用いて算出した。高/低含有量のヘモグロビン(2.5/5mg/mL)、血中脂肪/脂質(1.5/5mg/mL)およびビオチン(30/90ng/mL)を既知の濃度の血清試料に添加することにより、干渉を決定した。血清試料を基準として用いて回収率を算出した。
【0043】
慢性膵炎および膵癌を有する患者
PC(ステージI~IV)(n=39)、慢性膵炎(CP)(n=12)を有する患者ならびに年齢および性別が釣り合う健康な対照(n=20)を含む発見コホート由来の前処理した血清試料中で、2個のバイオマーカーPRO-C11-253およびPRO-C11-511を分析した。さらに、PC(ステージI~IV)を有する686人の患者を含む検証コホート由来の前処理した血清試料中でPRO-C11-511を分析した。健康な対照は、商業ベンダーであるValley BioMedical(VA、USA)から取得した(患者の人口構成については表2を参照されたい)。Valley BioMedicalは、専有の治験審査委員会/独立倫理委員会が承認した試料コレクションを有しており、すべての被験者は、インフォームドコンセントに記入した。PCおよびCP患者はすべて、デンマークBIOPAC研究「BIOmarkers in patients with Pancreatic Cancer」(NCT03311776)からであった。2008年12月から2017年9月まで、デンマークの6つの病院から患者を募集した。PC患者は、組織学的に腫瘍が確認された。PC患者は、国家ガイドライン(www.gicancer.dk)にしたがって種々のタイプの化学療法で処置された。健康研究倫理に関するデンマーク地域委員会の推奨事項にしたがって研究を実行した。BIOPACプロトコルは、健康研究倫理に関するデンマーク地域委員会(VEK ref.KA-20060113)およびデータ保護機関(j.nr.2006-41-6848)により承認された。被験者はすべて、ヘルシンキ宣言、バージョン8にしたがって書面によるインフォームドコンセントを提出した。診断時または手術前に血液試料を取得した。血液用の国内承認された標準の手術手順(www.herlevhospital.dk/biopac.dk)にしたがって試料を処理した。患者由来の血清試料および臨床データを、前向き研究的に回収した。血清試料を盲検的に測定した。臨床データには:年齢、性別、転移部位の数、肝転移、BMI、病期、糖尿病、喫煙、飲酒、CA19-9(中央値)、全身状態(PS)、チャールソン年齢併存疾患指数(CACI)、全生存期間(OS)が含まれていた。
【0044】
【0045】
【0046】
転移性メラノーマを有する患者
抗PD-1治療(ペンブロリズマブ)で処置された転移性メラノーマを有する35人の患者由来の前処理した血清試料でPRO-C11-511レベルを測定した。ヘアレウのコペンハーゲン大学病院で、インフォームドコンセントの後、1975年のヘルシンキ宣言に準拠し、デンマーク首都圏倫理委員会により承認された標準治療として、患者をペムブロリズマブで処置した。血清試料を盲検的に測定した。
【0047】
種々の癌型を有する患者
222個の癌試料および33個の健康な試料からなるさらなる患者コホート由来の試料で、Pro-C11-511レベルを測定した。それには、それぞれ膵癌、結腸直腸癌、腎癌、胃癌、乳癌、膀胱癌、肺癌、メラノーマ、頭頸部癌および前立腺癌の20人の患者、19人の卵巣癌患者、3人の肝癌患者ならびに33人の年齢が釣り合った健康な対照が含まれていた。すべての癌試料は、Proteogenex(ロスアンゼルス、CA、USA)から取得され、健康な対照は、BioIVT(ウェストバリー、NY、USA)から取得された。コホートの特徴の要約は、表3に認めることができる。
【0048】
【0049】
統計解析
REMARK(腫瘍マーカー予後研究のための推奨事項の報告)ガイドラインにしたがってバイオマーカーの結果を報告する。
【0050】
クラスカル-ウォリス検定を使用して、PC、CPおよび健康な対照のPRO-C11-253とPRO-C11-511バイオマーカーレベル間の差異をテストした。カプラン-マイヤー曲線を使用して、高(>75%四分位数)および低(<75%四分位数)PRO-C11-253およびPRO-C511バイオマーカーレベルならびに全生存期間(OS)の間の差異を評価した。BIOPAC研究に組み入れられた日からフォローアップ終了まで、または何らかの原因で死亡するまでのいずれか早い時期まで患者を追跡した。単変量Cox比例ハザード回帰モデルは、PRO-C11-511バイオマーカーレベルおよび臨床的共変量:年齢(連続)、性別(女性対男性)、転移部位の数(<1対≦1)、肝転移(あり対なし/他)、BMI(連続)、病期(連続およびIII+IV対I+II)、糖尿病(あり対なし)、喫煙(喫煙歴あり対喫煙歴なし)、飲酒(デンマーク保健局推奨事項未満対乱用)、CA19-9(>中央値)、全身状態(PS)(2対≦1、2対0、2+3対0+1)およびチャールソン年齢併存疾患指数(CACI)(≧4対<4)ごとのOSについて95%信頼区間(Cl)でのハザード比(HR)を算出することであった(Asano et al.,2017)。PRO-C11-511、年齢、転移部位(<1対≦1)、肝転移(あり対なし/他)、病期(III+IV対I+II)、CA19-9(>中央値)およびPS(2+3対0+1)を含む多変量Cox比例ハザード回帰モデルを使用して、PRO-C11-511バイオマーカーの潜在的に独立した予後値を評価した。p<0.05のp値は、統計的に有意であるとみなされた。GraphPad Prismバージョン8.2(GraphPad Software社)およびMedCalcバージョン19.3(Medcalcソフトウエア)を使用して、グラフデザインおよび統計解析を実行した。
【0051】
転移性メラノーマを有する患者のPRO-C11-511レベルと無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)との間の関連を、カプラン・マイヤー分析およびCox回帰分析により、単独ならびに腫瘍PDL1発現およびBRAF突然変異状態について調節した後、評価した。
【0052】
種々の癌型を有する患者から獲得した試料の分析は、ダネット検定を使用する対照群に対する通常の一元配置分散分析およびその後の一対比較を使用して群全体でのPRO-C11-511レベルの比較を含んでいた。0.05未満のp値は、有意であるとみなされた。統計解析およびグラフ化を、Rバージョン4.0.4(R Core Team(2021)、R Foundation for Statistical Computing、ウィーン、オーストリア、https://www.R-project.org)で行った。
【0053】
結果
PRO-C11-253およびPRO-C11-511抗体の特異性
各結合部位に対してPRO-C11-253およびPRO-C11-511抗体の抗体特異性を確保するため、それらの反応性を、標準、伸長、不完全、およびナンセンス標準ペプチドに対して、上で議論したように、予備競合ELISAでテストした。PRO-C11-511抗体用に選択されたナンセンスペプチドは、PRO-C11-253標準ペプチドであった(上記表1を参照されたい)。さらに、それらの反応性を、ミスマッチアミノ酸配列を有する除外ペプチドに対してテストした。両方の選択ペプチドは、それらの各抗体と用量依存的にシグナルを阻害した。伸長、不完全ペプチドおよびナンセンスペプチドに対する反応性はなく、除外ペプチドに対する最小限の反応性があった。さらに、ナンセンスビオチン化コーティングペプチドを使用する場合、観察された検出可能なシグナルはなかった(
図2)。
【0054】
同時に、これらのデータから、モノクローナル抗体が、それらの各標的部位に対して高いネオペプチド特異性を示すことが示唆される。
【0055】
PRO-C11-253およびPRO-C11-511ELISAの技術的評価
PRO-C11-253およびPRO-C11-511ELISAアッセイの技術的性能を、表4に要約する。アッセイの測定範囲(LLMRからULMR)は、PRO-C11-253については3.1~103.0ng/mL、PRO-C11-511については1.6~117.5ng/mLと決定された。PRO-C11-253についてのアッセイ内およびアッセイ間変動は、それぞれ5%および9%であり、PRO-C11-511については%および5%であった。未希釈から1:2希釈までに観察されたヒト血清についての平均希釈回収率は、PRO-C11-253については112%、PRO-C11-511については85.5%であった。平均添加回収率は、PRO-C11-253については102.7%、PRO-C11-511については92.5%と決定された。検体安定性は、凍結/解凍サイクルならびに4℃および20℃での試料安定性にしたがって分析された。4回の凍結/解凍サイクル後の血清における検体回収率は、PRO-C11-253については99.9%、PRO-C11-511については93.0%であった。検体は、4℃で2時間から48時間のヒト血清の長期貯蔵後に回収され、PRO-C11-253については105.2~92.2%およびPRO-C11-511については91.5~90%の範囲の回収となった。20℃で2時間から48時間では、PRO-C11-253についての回収率範囲は、104.7~80.1%であり、PRO-C11-511については91.2~119.1%であった。これらのデータから、血清検体PRO-C11-253およびPRO-C11-511が結合し、48時間まで4℃および20℃で安定であることが示唆される。脂質またはヘモグロビンが低含有量または高含有量のいずれであっても干渉は検出されず、回収率は、PRO-C11-253については83.5~127.7%、PRO-C11-511については95.6~107.9%の範囲であった。
【0056】
【0057】
健康なドナー、CPを有する患者およびPCを有する患者由来の血清中のPRO-C11-253およびPRO-C11-511の臨床評価
PRO-C11-253およびPRO-C11-511の臨床的関連性を評価するため、健康な対照(n=20)、CPを有する患者(n=12)およびPCを有する患者(n=39)のコホート由来の血清中でバイオマーカーを測定した。健康な対照、CPおよびPC患者の間でPRO-C11-253では有意差がなかったが、PRO-C11-511は、健康な対照と比較してCP(p=0.0116)およびPC(p<0.0001)を有する患者で有意に増加した(
図3Aおよび3B)。バイオマーカーレベルとPCの病期との間に差異はなかっった(データを示さず)。さらに、PRO-C11-253とPRO-C11-511バイオマーカー測定値との間に相関はなかった(r、0.14、p=0.3827)。
【0058】
次に、上述したような39人のPC患者の同じ検証コホートにおいてカプラン-マイヤー曲線およびCox比例ハザードモデルを使用してPRO-C11-253およびPRO-C11-511の予後値を調べた。カプラン-マイヤー曲線およびCox比例ハザードモデルにより、PRO-C11-253の高(>75%)および低(<75%)バイオマーカーレベルがOSと関連していなかったことが示された(p=0.9958、HR1.00、95%Cl 0.42~2.35)。高(>75%)および低(<75%)PRO-C11-253を有する患者についてのOS中央値は、それぞれ1.2年および1.3年であった(
図4A)。興味深いことに、PRO-C11-511バイオマーカーレベルと生存率との間の関連を評価する場合、高PRO-C11-511(>75%)は、低PRO-C11-511(<75%)と比較してより短いOSと有意に関連していた(p=0.0045、HR3.33、95%Cl 1.44~7.69)。さらに、高(>7%:0.3年)および低PRO-C11-511(<75%:2.2年)を有する患者についてのOS中央値間には7倍の差異があった(
図4B)。これらのデータから、PRO-C11-253ではなくPRO-C11-511が、PCを有する患者の予後の可能性を有することができ、同じタンパク質での特異的エピトープの測定が、異なる値を与える可能性があることを示唆する。
【0059】
検証コホートにおける予後バイオマーカーとしてのPRO-C11-511の確認
上述したPC発見コホートで認められたPRO-C11-511の予後バイオマーカーの可能性を検証するため、PCを有する患者のより大きいコホート(n=686)でPRO-C11-511レベルを測定した。興味深いことに、各疾患の病期(ステージI~IV)に患者を分ける場合、ステージII~IVおよびステージIII~IV由来のPRO-C11-511で有意な増加があった(
図5)。次に、高(>75%)および低(<75%)PRO-C11-511とOSとの間の関連を観察した。発見コホートと同様に、高PRO-C11-511(>75%)は、低PRO-C11-511(<7%)と比較してより大きい研究個体群でより短いOSと有意に関連していた(p<0.0001、HR1.68、95%Cl 1.40~2.02)。高PRO-C11-511(>75%)を有する患者についてのOS中央値は、0.48年であり、低PRO-C11-511(<75%)を有する患者については0.82年であった(
図6A)。興味深いことに、ベースラインから2年後、低PRO-C11-511患者群の21%と比較して高PRO-C11-511患者群では7.0%のみ生存した(
図6B)。これらのデータにより、PRO-C11-511がPCを有する患者の予後の可能性を有することが確認される。
【0060】
PRO-C11-511およびOSの関連が、臨床的共変量とは無関係であるかどうかを評価するため、PRO-C11-511を年齢、転移部位(<1対≦1)、肝転移(あり対なし/他)、病期(III+IV対I+II)、CA19-9(>中央値)およびPS(2+3対0+1)について調節して多変量Cox分析を実行した。分析により、高レベルのPRO-C11-511(>75%)が、臨床的共変量に依存せず、そのため、依然として調節後もPC患者のOSの予測因子であった(p<0.0021、HR1.41、95%Cl 1.13~1.74(表5Aおよび5B)。
【0061】
【0062】
【0063】
転移性メラノーマ患者のPRO-C11-511の臨床評価
カプラン-マイヤー分析により転移性メラノーマ患者のPRO-C11-511と生存転帰との間の関連を評価した。75パーセンタイルカットポイントを使用して、高PRO-C11-511レベル(>75パーセンタイル)を有する患者が有意に悪化したPFS(p=0.032)およびOS(p=0.020)を有していることが分かった(
図7)。支持として、単変量Cox回帰は、不十分なPFS(HR=2.87、95%CI=1.05~7.87、p=0.040)およびOS(HR=4.58、95%CI=1.13~18.65、p=0.034)の予測因子として高(>75パーセンタイル)ベースラインPRO-C11-511を同定した。さらに、PRO-C11-511がPDL1発現(≧1%)およびBRAF突然変異について調節された場合、バイオマーカーは、不十分なPFS(HR=3.66、95%CI=1.22~10.98、p=0.021)およびOS(HR=7.85、95%CI=1.32~46.78、p=0.024)の独立した予測因子のままであった(表6)。
【0064】
【0065】
種々の癌型を有する患者のPro-C11-511の臨床評価
他のタイプの癌でPRO-C11-511の臨床的関連性を確認するため、222個の癌試料(それぞれ膵癌、結腸直腸癌、腎癌、胃癌、乳癌、膀胱癌、肺癌、メラノーマ、頭頸部癌および前立腺癌の20人の患者、19人の卵巣癌患者、3人の肝癌患者)ならびに33人の年齢が釣り合った健康な対照からなる、さらなる患者コホート由来の血清試料中でPro-C11-511のレベルを測定した。すべての癌型でPRO-C11-511レベルを評価し、健康な対照と比較して、肝癌を除くすべての癌型で有意に上昇した(
図8)。
【0066】
本明細書において、明示的に別段の指示がない限り、単語「または」は、記載された条件のいずれかまたは両方が満たされた場合、真の値を返す演算子の意味で使用され、条件のうち1つのみが満たされることを必要とする演算子「排他的論理和」とは対照的である。単語「含む」は、「含むまたはからなる」を意味するために使用される。上記で認められたすべての先行教示は、参照により本明細書に組み込まれている。本明細書において、いかなる先行公開文書の認識も、その教示が本明細書の日付の時点で、オーストラリアまたはその他の地域で共通の一般的な知識であったことを認めたり表明したりするものと解釈されるべきではない。
【0067】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】