(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】3-メチルクロトン酸からイソブテンを生産するための改善された手段および方法
(51)【国際特許分類】
C12P 5/00 20060101AFI20231220BHJP
C12N 1/15 20060101ALN20231220BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20231220BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20231220BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20231220BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20231220BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
C12P5/00 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/54
C12N15/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537463
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2021086687
(87)【国際公開番号】W WO2022136207
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513099083
【氏名又は名称】グローバル・バイオエナジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】ベンスーサン,クロード
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】チャヨット,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ティボー,デニス
(72)【発明者】
【氏名】デルクール,マーク
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AB04
4B064CA01
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC24
4B064CD07
4B064DA16
4B065AA26X
4B065AA29Y
4B065AA50Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BB01
4B065BC01
4B065BD29
4B065CA27
4B065CA29
4B065CA60
(57)【要約】
炭素源からイソブテンを生産する方法であって:(a)炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を液体培養培地で培養し、それによって、前記3-メチルクロトン酸が液体培養培地に蓄積するように前記3-メチルクロトン酸を生産するステップと;(b)(i)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすること;および/または(ii)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすることによって、ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される前記3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換し;それによって前記イソブテンを生産するステップと;(c)生産されたイソブテンを回収するステップとを含むことを特徴とする、炭素源からイソブテンを生産する方法が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源からイソブテンを生産する方法であって:
(a)炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を液体培養培地で培養し、それによって、前記3-メチルクロトン酸が液体培養培地に蓄積するように前記3-メチルクロトン酸を生産するステップと;
(b)(i)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすること;および/もしくは
(ii)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすること
によって、ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される前記3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換し;
それによって前記イソブテンを生産するステップと;
(c)生産されたイソブテンを回収するステップと
を含むことを特徴とする;または
炭素源からイソブテンを生産する方法が:
(a)炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を液体培養培地で培養し、それによって、前記3-メチルクロトン酸が液体培養培地に蓄積するように前記3-メチルクロトン酸を生産するステップと;
(b)ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される前記3-メチルクロトン酸を、好ましくは180℃~400℃の温度でイソブテンに熱化学的に変換するステップと;
(c)生産されたイソブテンを回収するステップと
を含むことを特徴とする、炭素源からイソブテンを生産する方法。
【請求項2】
ステップ(b)の前記インキュベーションが、
(a)ガス供給がない容器;または
(b)入口ガスを使用して<0.1vvm(1分あたりの容器体積)でガス供給がある容器
で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)の前記3-メチルクロトン酸を含有する液体培養培地がステップ(b)の前に微生物から分離される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記3-メチルクロトン酸が、請求項1のステップ(b)の前に前記液体培養培地から単離または精製される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記入口ガスが空気、不活性ガスまたは空気および不活性ガスの混合物であり、前記不活性ガスが好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、CO
2およびこれらのガスの混合物から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素源が、3-メチルクロトン酸へのその酵素的変換の前にアセチルCoAに代謝される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記炭素源が、グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、グリセロール、デンプン、エタノール、乳酸、酢酸およびそれらの混合物からなる群からから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1(b)(i)で使用される前記微生物が、請求項1の変換ステップ(b)(i)の前に適切な条件下、適切な液体培養培地で前培養される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
回収されたイソブテンを精製/濃縮するステップをさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物が細菌、酵母、真菌または藻類である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素源からイソブテンを生産する方法であって、(a)炭素源から3-メチルクロトン酸(3-methylcrotonic acid)を生産することができる微生物を液体培養培地で培養し、それによって、前記3-メチルクロトン酸が液体培養培地に蓄積するように前記3-メチルクロトン酸を生産するステップと;(b)(i)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすること;および/または(ii)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすることによって、ステップ(a)で得られた前記液体培養培地に含有される前記3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換し;それによって前記イソブテンを生産するステップと;(c)生産されたイソブテンを回収するステップとを含むことを特徴とする、炭素源からイソブテンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、数多くの化学化合物が石油化学製品から得られている。アルケン(例えば、エチレン、プロピレン、種々のブテン、またはペンテンなど)は、例えばポリプロピレンまたはポリエチレンを生産するプラスチック工業、ならびに化学工業および燃料工業の他の分野において使用されている。ブチレンは4種類の形態で存在し、そのうちの1つ、イソブテン(イソブチレンとも呼ばれる)は、自動車燃料のアンチノック添加剤であるメチル-tert-ブチル-エーテル(MTBE)の組成の一部になる。イソブテンはイソオクテンを生産するのに使用することもでき、イソオクテンは今度はイソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)に還元することができる;その極めて高いオクタン価により、イソオクタンはいわゆる「ガソリン」エンジンにとって最良の燃料となる。イソブテンなどのアルケンは現在、石油製品の接触分解によって(またはヘキセンの場合、石炭またはガスからのフィッシャー-トロプシュ法の誘導体によって)生産されている。生産コストはそれ故に油の価格と密接に関連している。さらに、接触分解は、プロセスの複雑さおよび生産コストを増加させる相当な技術的問題を伴うことがある。
【0003】
イソブテンなどのアルケンの生物学的経路による生産が、地球化学的循環と調和した持続可能な生産工程の文脈で求められている。食品加工業で発酵および蒸留プロセスが既に存在していたことから、バイオ燃料の第一世代はエタノールの発酵生産にあった。特に長鎖アルコール(ブタノールおよびペンタノール)、テルペン、直鎖アルカンおよび脂肪酸の生産を包含する第二世代バイオ燃料の生産は試験段階にある。2つの最近のレビューがこの分野における研究の総括を提供している:Ladygina et al. (Process Biochemistry 41 (2006), 1001)およびWackett (Current Opinions in Chemical Biology 21 (2008), 187)。
【0004】
酵母ロドトルラ・ミヌタ(Rhodotorula minuta)によるイソ吉草酸のイソブテンへの変換が記載されている(Fujii et al. (Appl. Environ. Microbiol. 54 (1988), 583))。
【0005】
Gogerty et al. (Appl. Environm. Microbial. 76 (2010), 8004-8010)およびvan Leeuwen et al. (Appl. Microbiol. Biotechnol. 93 (2012), 1377-1387)は、酵素的変換によるアセトアセチルCoAからのイソブテンの生産を記載しており、提案された経路の最後のステップは、メバロン酸二リン酸脱炭酸酵素を用いた3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸(3-ヒドロキシイソ吉草酸(HIV)とも呼ばれる)の変換である。3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸からイソブテンを生産するためのこの反応は、国際公開第2010/001078号パンフレットにも記載されている。これは、一般的に言えば、生物学的プロセスを通じてアルケンを生成する方法、特に末端アルケン(特にプロピレン、エチレン、1-ブチレン、イソブチレンまたはイソアミレン)を3-ヒドロキシアルカノエートタイプの分子から生産する方法を記載する。
【0006】
国際公開第2012/052427号パンフレットも、生物学的プロセスを通じてアルケンを生成する方法を記載しているが、特に、アルケン(例えばプロピレン、エチレン、1-ブチレン、イソブチレンまたはイソアミレン)を3-ヒドロキシアルカノエートタイプの分子から生産する方法が記載されている。これに関連して、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸からイソブテンを生産するための反応も国際公開第2012/052427号パンフレットに記載されている。
【0007】
国際公開第2016/042012号パンフレットは、前記3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸を生産する方法を記載する。特に、国際公開第2016/042012号パンフレットは、3-メチルクロトニルCoAを3-メチルクロトン酸に酵素的に変換するステップと、このように生産された3-メチルクロトン酸を3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸に酵素的にさらに変換するステップとを含む、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸を生産する方法を記載する。
【0008】
Gogerty et al.(上記引用文中)およびvan Leeuwen et al.(上記引用文中)では、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の生産は、3-ヒドロキシ-3-メチルブチリルCoAを介した3-メチルクロトニルCoAの変換によって達成されることが提案されている。再利用可能な資源からイソブテンを生産する方法の効率および変動性をさらに改善するために、3-メチルクロトン酸(3-メチル-2-ブテン酸、3,3-ジメチルアクリル酸またはセネシオ酸とも呼ばれる)のイソブテンへの酵素的変換を含むイソブテンを生産する方法の提供による、イソブテンおよびその前駆体を提供するための代替経路が開発されている。
【0009】
特に、国際公開第2017/085167号パンフレットでは、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換が、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を用いることによって達成される、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換を含むイソブテンを生産する方法が記載されており、前記FMNプレニルトランスフェラーゼは、ジメチルアリルリン酸(DMAP)を利用するフラビン補因子(FMNまたはFAD)のフラビン由来補因子へのプレニル化を触媒するが、これらの酵素は、イソブテンの生産を最終的にもたらす経路で人工的に実施されている。さらに、国際公開第2017/085167号パンフレットでは、そのような方法が、(a)3-メチルクロトニルCoAの3-メチルクロトン酸への酵素的変換によって3-メチルクロトン酸を提供するステップ、または(b)3-ヒドロキシイソ吉草酸(HIV)の3-メチルクロトン酸への酵素的変換によって3-メチルクロトン酸を提供するステップをさらに含む方法が記載されている。
【0010】
国際公開第2017/085167号パンフレットはまた、3-メチルクロトン酸を介して3-メチルクロトニルCoAから、または3-メチルクロトン酸を介して3-ヒドロキシイソ吉草酸(HIV)からイソブテンを生産するために開発されたこの方法が、多くの生化学反応で使用される代謝の中心的成分であり、重要な鍵となる分子であるアセチルCoAから始まるイソブテンの生産経路にはめ込まれ得ることも記載している。対応する反応は、
図1に概略的に示されている。
【0011】
国際公開第2018/206262号パンフレットでは、DMAPの代わりにジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)が使用される場合、3-メチルクロトン酸は、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を用いることによってイソブテンに酵素的に変換されることが記載されている。
【0012】
さらに、国際公開第2018/206262号パンフレットは、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を用いることによって達成され、前記FMNプレニルトランスフェラーゼがジメチルアリルリン酸(DMAP)および/またはジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)を利用してフラビン補因子(FMNまたはFAD)のフラビン由来補因子へのプレニル化を触媒する、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換は、アセチルCoAからイソブテンへの上記代謝経路全体の鍵となるステップであることを記載する。この鍵となるステップおいて、ジメチルアリルリン酸(DMAP)および/またはジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)の利用可能性ならびにフラビン補因子FMNの利用可能性は制限因子となることが見出されているが、国際公開第2018/206262号パンフレットでは、プレニル化フラビン補因子(FMNまたはFAD)の効率的な生合成を確保するために、ジメチルアリルリン酸(DMAP)および/またはジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)のプール/量を増やすことによる改善された方法が記載されている。
【0013】
さらに、国際公開第2020/188033号パンフレットは、イソブテン生産に使用される細胞においてアセチルCoAの高プールを提供し、維持することによってイソブテンの収量を高めるという概念に基づいており、アセチルCoAプールは、細胞によるパントテン酸の取り込みの増加および/またはパントテン酸のCoAへの変換の増加を確保することによって高く保たれる。したがって、国際公開第2020/188033号パンフレットは、とりわけ、アセチルCoAをイソブテンに酵素的に変換することができる組換え生物または微生物を記載しており、(A)前記生物または微生物において:(i)アセチルCoAはアセトアセチルCoAに酵素的に変換され、(ii)アセトアセチルCoAは3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAに酵素的に変換され、(iii)3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAは3-メチルグルタコニルCoAに酵素的に変換され、(iv)3-メチルグルタコニルCoAは3-メチルクロトニルCoAに酵素的に変換され、(v)前記3-メチルクロトニルCoAは以下によってイソブテンに変換される:(a)3-メチルクロトニルCoAを3-メチルクロトン酸に酵素的に変換し、3-メチルクロトン酸は次いでさらに前記イソブテンに酵素的に変換される;または(b)3-メチルクロトニルCoAを3-ヒドロキシ-3-メチルブチリルCoAに酵素的に変換し、3-ヒドロキシ-3-メチルブチリルCoAは次いでさらに3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸に酵素的に変換され、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸は次いでさらに3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸に酵素的に変換され、3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸は次いでさらに前記イソブテンに酵素的に変換される;(B)前記組換え生物または微生物は、それが由来する生物または微生物と比べて:(i)パントテン酸の取り込みの増加;および/または(ii)パントテン酸のCoAへの変換の増加により、コエンザイムA(CoA)のプールが増加している。
【0014】
さらに、国際公開第2014/086780号パンフレットは、炭化水素化合物、好ましくはイソブテンを生産するための発酵方法であって、生物を液体発酵培地で培養するステップを含み、前記生物は酵素経路によって所望の炭化水素化合物を生産し、前記酵素経路は気相に蒸発する中間体を含み、前記中間体は気相から回収され、液体発酵培地に再導入される、前記発酵方法を記載する。
【0015】
さらに、国際公開第2014/086781号パンフレットは、炭化水素、好ましくはイソブテンを発酵生産するためのプロセスであって、炭化水素を生産する微生物が発酵槽の液体発酵培地で培養され、酸素を含む入口ガスが発酵槽に供給され、発酵槽に導入前の入口ガスの全圧が約1.5バール~約15バール(約150kPa~約1500kPa)であり、炭化水素が発酵オフガス中の気体状態で得られ、発酵オフガス中の酸素の濃度が約10vol%以下であるように制御される、前記プロセスを記載する。
【0016】
上記のように、生物系および発酵プロセス/発酵槽での酵素的変換によってイソブテンを生産し、それによって再利用可能な資源を原料として使用できるようにするための様々なアプローチが従来技術に記載されているが、収量および/または安全性を向上させ、それらを商業的により魅力的にするために、特にそのような(発酵)方法の効率、有効性および安全性に関する改善のニーズが依然としてある。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、炭素源からイソブテンを生産する方法であって:
(a)炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を液体培養培地で培養し、それによって、前記3-メチルクロトン酸が液体培養培地に蓄積するように前記3-メチルクロトン酸を生産するステップと;
(b)(i)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすること;および/または
(ii)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすること
によって、ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される前記3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換し:
それによって前記イソブテンを生産するステップと;
(c)生産されたイソブテンを回収するステップと
を含むことを特徴とする、炭素源からイソブテンを生産する方法を第1の態様で提供することによってこの要求を満たす。
【0018】
第2の態様では、本発明は、炭素源からイソブテンを生産する方法であって:
(a)炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を液体培養培地で培養し、それによって、前記3-メチルクロトン酸が液体培養培地に蓄積するように前記3-メチルクロトン酸を生産するステップと;
(b)ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される前記3-メチルクロトン酸を、好ましくは180℃~400℃の温度でイソブテンに熱化学的に変換するステップと;
(c)生産されたイソブテンを回収するステップと
を含むことを特徴とする、炭素源からイソブテンを生産する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】3-メチルクロトン酸を介したアセチルCoAからのイソブテン生産のための人工経路を示す図である。さらに、経路中に生じ得る代謝産物の酵素リサイクリングがステップXa、Xb、XIおよびXIIに示されている。
【
図2】3-メチルクロトニルCoAを介したアセチルCoAからのイソブテン生産のための人工経路の主要経路および3-メチルクロトン酸を介した3-メチルクロトニルCoAからイソブテンへの可能性のある経路を示す図である。特定のステップについては、対応する酵素が示されている。
【
図3】大規模プラントの工程図を示す図である。IBN:イソブテン。
【
図4】「ガス供給しない」(上の図)および「入口ガス(inlet gas)を使用して<0.1vvm(1分あたりの容器体積(vessel volume per minute))でガス供給する」(下の図)インキュベーション用容器を、それぞれ概略的に示す図である。
【
図5】N
2、CO
2およびイソブテン(IBN)に関する排ガスの組成を経時的に示す図である。
【
図6】イソブテン(IBN)および3-メチルクロトン消費速度を示す図である。
【
図7】IBN総生産量および3-メチルクロトン酸の100%がイソブテン(IBN)に変換されることを示す図である。
【
図8】1vvmでガス供給するインキュベーションと対比した、ガス供給しないおよび<0.1vvm(1分あたりの容器体積)でガス供給するインキュベーション中に、高濃度のIBNおよびCO
2が生産されることをそれぞれ示す図である。
【
図9】イソブテンが容器中で気体となる温度と圧力の相関を示す図である。曲線より上ではイソブテンは液体である。曲線より下ではイソブテンは気体である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
これまで企図されてきたように、3-メチルクロトン酸からイソブテンを生産するための発酵方法(本明細書ではプレネート(prenate))とも呼ばれることがある)は、イソブテンを生産することができる微生物を使用する従来の発酵方法に基づく。ガス状化合物として通常の発酵条件下で生産されるイソブテンは、培養中培養物の換気に使用される入口ガスの一部であるまたは培養中に生産される様々なガスの混合物である、培養物のオフガスの一部として回収される。そのような条件下では、培養物のオフガス中のイソブテンの割合は通常約3~7mol%の量に達するにすぎないことが見出された。故に、オフガスからイソブテンを所望の純度に精製するためには相当な時間および労力が必要とされる。
【0021】
本発明者らは、3-メチルクロトン酸が発酵中に炭素源から生産され、培養培地に蓄積される(およびイソブテンに直接変換されない)こと、および3-メチルクロトン酸が培養培地に蓄積して初めて、その後3-メチルクロトン酸が別個の反応でイソブテンに変換されることが最初に確保されるという意味で、3-メチルクロトン酸の生産とその後の3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換をもたらす酵素反応が脱共役されるならば、3-メチルクロトン酸からイソブテンに至る生物学的変換を含む発酵方法のオフガス中のイソブテンの量/割合は、劇的に増加され得るという驚くべき発見をした。3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換するこの第2のステップは単純化された条件下で達成することができ、発酵条件の維持を必要としない。この第2のステップでは、3-メチルクロトン酸を変換させる酵素を、蓄積された3-メチルクロトン酸またはそのような酵素を生産する微生物の細胞と接触させることで十分である。蓄積された3-メチルクロトン酸および酵素/微生物を含有する溶液の単なるインキュベーションが、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの極めて効率的な変換、およびインキュベーション反応のオフガス中の極めて高い割合のイソブテンをもたらすことが見出された。
【0022】
さらに、3-メチルクロトン酸がイソブテンに変換されるインキュベーションステップは、ガス供給が全くないか、またはガス供給が非常に低い容器で実行されるならば有利であることが示される可能性がある。
【0023】
以下の実施例に示されるように、特許請求された方法は、3-メチルクロトン酸(プレネート)をイソブテンに効率的に変換し、故にイソブテンの効率的な生産をもたらすようにする。さらに、実施例は、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換に使用されるインキュベーションステップ中にガス供給が低く保たれる(すなわち、<0.1vvm)か、またはガスが供給されない(0vvm)場合、生産されたイソブテン(IBN)濃度はオフガス中で特に高いことを示す。したがって、イソブテンを所望の純度に精製することがより容易である。
【0024】
実施例に示されるように、3-メチルクロトン酸がイソブテンに変換されるインキュベーションステップ中に低いガス供給条件を使用すると、イソブテンおよびCO2(3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的脱炭酸中に生産される)が高濃度で生産される。実際、インキュベーションステップ中にガス供給が極めて低く保たれる場合、基本的にCO2およびイソブテンのみが生産される。
【0025】
3-メチルクロトン酸に言及がなされる場合は常に、その脱プロトン化カルボン酸イオン形態(すなわちCOO-形態、すなわち3-クロトン酸メチル)およびそのプロトン化酸性形態(すなわちCOOH形態、すなわちメチルクロトン酸)の両方を意味する。実際、その形態は溶液のpHに依存し、したがって、3-メチルクロトン酸の定義は、どちらかの形態、すなわち3-クロトン酸メチルおよび3-メチルクロトン酸を互換的に意味する。
【0026】
塩の形態として、すなわち3-クロトン酸メチルとして示される場合、好ましい陽イオンはNa+、Ca2+、Mg2+、K+またはNH4+である。
【0027】
本発明による方法は、ステップ(a)において、炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を液体培養培地で培養し、それによって、前記3-メチルクロトン酸が液体培養培地に蓄積するように前記3-メチルクロトン酸を生産することを含む。
【0028】
用語「培養(culturing)」とは、この文脈で使用される場合、細胞を液体培地で保ち、それによって細胞を元気に保ち、所望の産物の生産に必要な酵素を生産できるようにすることを指す。好ましくは、用語「培養」は、微生物細胞の伝播、増殖および細胞分裂を可能にし、それによって液体培養培地中の細胞の数を増加させる条件下の微生物細胞の成長も包含する。故に、用語「培養」とは、細胞の生存を可能にし、および炭素源を3-メチルクロトン酸に変換するように細胞に必要な代謝プロセスの発生を可能にする培養条件で微生物を維持することを指す。そのような条件は一般的に、細胞を培養培地で炭素源と共に提供すること、培養培地を撹拌すること、必要な代謝的変換が生じるようにする値で培養培地の温度を維持すること(および、必要に応じて微生物の成長の温度)、ならびに細胞の生存および代謝活性を可能にする空気またはガス混合物を培養細胞に供給することを含む。
【0029】
故に、用語「培養」とは、この文脈で使用される場合、「発酵」、すなわち、好ましくは酵素の作用を通じて有機基質の化学変化をもたらす代謝プロセスと理解されるべきであり、したがって、微生物の天然の代謝または遺伝子改変代謝を介して産物が成長基質から合成され、代謝中間体によって達成されるプロセスを指す。それ故に、培養という用語は、培養細胞の代謝の発生、培養細胞の成長および生存を可能にする。さらに、培養ステップは、これを可能にするために、炭素源およびエネルギー源が存在する(例えば、グルコースおよび酸素の形態で)ことを必要とする。
【0030】
一般に、本発明による方法の培養ステップ(a)は、手段(発酵槽およびそれらの設備のような)を使用する古典的発酵方法、および当技術分野で周知の方法という観点から、ステップ(a)で使用される特定の微生物に適合した培養培地および培養条件を用いて実行することができる。
【0031】
用語「炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物」とは、適切な条件下で培養される場合、それぞれの炭素源の3-メチルクロトン酸への変換を可能にする酵素を発現することができ、故に培養中に炭素源から3-メチルクロトン酸を生産する微生物を指す。
【0032】
炭素源からの3-メチルクロトン酸の酵素的生産のための方法は当技術分野で公知であり、それぞれの酵素的変換を触媒することができる(組換え)微生物が記載されている。原理的には、炭素源を3-メチルクロトン酸に変換することができる任意の微生物が本発明の方法のステップ(a)で使用され得る。
【0033】
炭素源から始まる3-メチルクロトン酸への酵素的変換の可能性のある個々のステップが、限定されるものではなく例としてのみ以下にさらに記載される。さらに、好ましい実施形態では、限定されるものではなくさらなる例として、中心的な代謝産物アセチルCoAおよびさらには3-メチルクロトン酸を生じさせる炭素源から始まる酵素的変換の可能性のある個々のステップが以下にさらに記載される。
【0034】
さらに、用語「炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物」は、本発明の文脈では、適用される培養条件下で、生産された3-メチルクロトン酸をそのような微生物が他の化合物、特にイソブテンにさらに代謝しないかもしくは変換しない、またはかなりの程度までさらに代謝しないかもしくは変換しないことを意味する。この用語は特に、培養ステップ(a)の間に、生産された3-メチルクロトン酸を微生物がイソブテンに変換しないことを意味する。これは、本発明による方法のステップ(a)で使用される微生物は、3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換することができる酵素をコードする遺伝子情報を含まず、故にこの反応を触媒することができる酵素を生産できないという事実に基づき得る。
【0035】
あるいは、ステップ(a)で使用される微生物は、3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換することができる酵素をコードするが、ステップ(a)で使用される培養条件下ではこの酵素を発現しない遺伝子情報を含む微生物でもあってもよい。例えば、対応する酵素をコードする遺伝子は、その活性が制御され得、ステップ(a)で使用される培養条件下では不活性となるプロモーターの制御下に置かれてもよい。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明による方法のステップ(a)で使用される微生物は、3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換することができる酵素をコードする遺伝子を含まない微生物である。
【0037】
しかし、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素などの、原理的には3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換することができる酵素をコードするが、3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換するこの酵素の活性が低いため、培養ステップ(a)の間に実質的な変換が生じない遺伝子を天然に含む微生物を本発明の方法のステップ(a)で使用することも可能である。
【0038】
本発明による方法のステップ(a)の培養中に微生物によって生産される3-メチルクロトン酸は、培養培地に蓄積する。
【0039】
故に、ステップ(a)の培養は、炭素源の3-メチルクロトン酸への変換および培養培地へのその蓄積を可能にするために十分な時間実行される。好ましくは、培養は、培養培地に提供された炭素源が少なくとも20%、30%、40%、50%もしくは60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、または少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%まで細胞によって代謝される(すなわち、培養培地から枯渇される)まで実行される。
【0040】
「蓄積する」は、ステップ(a)で微生物によって生産される3-メチルクロトン酸が主に培養培地で生じること、およびステップ(a)の培養中にその濃度が増加することを意味する。好ましくは、培養は、3-メチルクロトン酸の濃度のさらなる増加が観察できなくなるまで実行される。
【0041】
また、ステップ(a)の培養は、3-メチルクロトン酸の少なくとも5g/l、より好ましくは少なくとも10g/l、さらにより好ましくは少なくとも20g/l、さらにより好ましくは少なくとも40g/lの濃度が液体培養培地で達成されるまで実行されることが好ましい。
【0042】
本発明の方法のステップ(a)において培養培地への3-メチルクロトン酸の所望の蓄積が達成されると、微生物の培養は停止される。培養の停止は、細菌の成長を維持するのに発酵方法で使用される処置が停止されることを意味する。
【0043】
培養は、炭素源消費が低い(好ましくは、DCW(乾燥細胞重量)/時間の炭素源/g 0.03gより低い)および/または3-メチルクロトン酸(3-methylcotonic acid)生産率が低い(好ましくは、DCW/時間の3-メチルクロトン酸(3-methylcotonic acid)/g 0.01gより低い)場合に好ましくは停止される。
【0044】
炭素源消費および3-メチルクロトン酸(3-methycrotonic acid)生産は、それぞれ当技術分野で公知の方法、例えばHPLCによって測定することができる。
【0045】
培養は、望ましくない副産物(例えば、酢酸、乳酸のような有機酸、またはエタノールのようなアルコール)が培養培地に蓄積され始める場合に、好ましくは停止することもできる。培養物中の副産物の蓄積は、当技術分野で公知の方法によって(例えば、HPLCまたはGC分析によって)測定することができる。
【0046】
好ましくは、培養は、通気の終了および/または炭素源の提供によって停止され得る。
【0047】
故に、本発明による方法の培養ステップ(a)の終わりには、蓄積された3-メチルクロトン酸およびそれを生産するのに使用された微生物を含む液体培養培地が得られる。この液体培養培地はその後、本発明による方法のインキュベーションステップ(b)で使用される。
【0048】
本発明による方法のステップ(b)によれば、ステップ(a)で生産され、液体培養培地に含有される3-メチルクロトン酸はその後イソブテンに酵素的に変換される。
【0049】
このステップは、微生物の培養を必要としないが、ステップ(a)で生産された3-メチルクロトン酸を、3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換することができる酵素(特に、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素)またはそのような酵素を生産する微生物(の事前成長培養物)とただインキュベートすることによって達成され得ることを特徴とする。培養がこのステップ(b)で達成されないということは、例えば、一般的にさらなる栄養物が添加されないことを意味する。インキュベーションは、基質(3-メチルクロトン酸)と酵素(単離された酵素の形態か、または前培養され、酵素を合成した微生物の形態のいずれか)を接触させ、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換を可能にする制御された反応条件(例えば、温度およびpH値)下でインキュベートすることを単に必要とするにすぎない。
【0050】
ステップ(a)の培養が上記のように停止され得る間に、3-メチルクロトン酸(3-methylcotonic acid)を含有する液体培養培地を、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する細胞またはFMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素と一緒にしてインキュベーションが開始され得る。
【0051】
故に、用語「インキュベート(incubating)」とは、本発明の方法のステップ(b)で使用される場合、このステップで使用されるならば微生物を必ずしも元気に保つ必要はない。用語「インキュベート」はまた、ステップ(b)で使用される微生物のさらなる増殖/成長を必ずしも包含しない。本発明に関して「インキュベーション」とは、好ましくは最適な温度、湿度および3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換を可能にする他の条件下、所望の酵素を発現する微生物および酵素のそれぞれ活性状態での維持を指す。故に、ステップ(a)の「培養」/「発酵」とは対照的に、本発明に関して「インキュベーション」とは本質的に、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換を単に指すが、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換に必要な微生物の増殖/成長および/またはそれぞれの酵素の生産は必ずしも必要ではない。したがって、本発明の方法のステップ(b)の「インキュベーション」では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換に必要な微生物の増殖/成長および/またはそれぞれの酵素の生産は、包含されるまたは必要であるとしても、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの実際の変換から物理的に分離される。対照的に、上記の「培養」では、以下により詳細にさらに記載されるように、炭素源から3-メチルクロトン酸へのステップが関連する。
【0052】
本発明による方法のインキュベーションステップ(b)は、ステップ(a)で生産された3-メチルクロトン酸および酵素または3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換するための酵素を発現する微生物を含有する溶液を含む容器で実行される。
【0053】
容器は、容器からのガスの流れと、場合により容器へのガスの流れも制御できるようにするクローズドシステムとして設計される。
【0054】
容器はまた、容器に含有される溶液の撹拌を可能にする手段、またはインキュベーションステップ(b)中の温度を制御する手段を備えていてもよい。
【0055】
理論に拘束されるものではないが、撹拌は、細胞/酵素と3-メチルクロトン酸を含有する溶液の混合ならびに、したがって、細胞および/または酵素ならびに3-メチルクロトン酸の溶液中での均等な分散を可能にする。さらに、撹拌は、ガス状成分、例えばイソブテンが溶液から気相に出るのを促進し得る。
【0056】
有利には、好ましい実施形態では、容器は、pH制御システムおよび/または容器中の液体培養培地のpHを制御/調整するのに使用される酸の貯蔵タンクへの接続を含む。一例として、pHを制御/調整するのに硫酸またはリン酸が使用されてもよい。
【0057】
別の好ましい実施形態では、容器はインキュベーションステップ(b)の間に、本発明による方法のステップ(a)に従って生産された3-メチルクロトン酸(またはその塩)の(濃縮)溶液、好ましくは3-メチルクロトン酸を供給されてもよい。3-メチルクロトン酸を溶液に供給する可能性ある方法は以下に記載される。インキュベーションステップ(b)の間に3-メチルクロトン酸を容器に供給することによって、例えば、イソブテンへの効率的な変換を可能にする所望のレベルで培地中の3-メチルクロトン酸の濃度で維持することができる。故に、そのような実施形態では、培地中の3-メチルクロトン酸の濃度が監視され(例えば、絶えずまたは所定の時間間隔で)、追加の3-メチルクロトン酸を培地に供給して所望の濃度に濃度が調整されることも想定される。
【0058】
本発明の1つの実施形態では、インキュベーションステップ(b)は、クローズドシステムとして設計された、出口を通るガスの制御排出のみを可能にするがガスを流入させない容器で実行される。対応する容器が、
図4の上部に概略的に示されている。故に、そのような実施形態では、外側からのガス供給はなく、方法はガス供給がない容器で実行される。この場合、インキュベーションステップ(b)の間に生産されるガス(イソブテンを含む)は、ガスの排出を可能にする出口を通るオフガスとして捕捉される。故に、そのようなクローズドシステムでは、本発明のステップ(b)のインキュベーション中に生産されるガスは、対応する体積のガスを入口ガスで再補充することなく容器から回収することができる。言い換えれば、ガス(イソブテンを含む)がインキュベーション中に生産されると、ガスの生産により圧力は容器中で上昇する。定圧を維持するために、ガスは出口を通じて容器から回収され得る。
【0059】
したがって、そのような状況では、容器はクローズドシステム(ガス出口から離れた)であり、容器中の圧力は、上昇しないような方法で(すなわち、出口を介してガス排出させることによって)好ましくは制御される。
【0060】
インキュベーションステップ(b)の間にガス供給が全くないそのようなインキュベーションは、極めて高含量のイソブテンを含むガスの生産をもたらすことが添付の実施例に示されている。
【0061】
別の実施形態では、インキュベーションステップ(b)は、クローズドシステムとして設計されるが、ガスの制御排出およびガスの制御流入を可能にする容器で実行される。そのような実施形態では、入口ガスは制御された方法でシステムに提供することができ、入口ガスは、イソブテンを含有するインキュベーションによって生産されたガスをシステムから押し出すのに使用することができる。対応する容器は
図4の下部に概略的に示されている。
【0062】
したがって、入口ガス(例えば、さらに以下でより詳細に概説されるように窒素、空気などのような)が制御された方法で供給され得る入口がある。さらに、ガスの排出を可能にする出口がある。
【0063】
そのような状況では、入口ガスの流れ(ガス供給)は低速で保たれることが好ましい。好ましくは、流れは0.1vvm(1分あたりの容器体積)未満の速度で保たれる。
【0064】
単位「vvm」(「1分あたりの容器体積」を表す)は当業者に公知である。単位「vvm」は、1分あたりの液体発酵培地の体積あたりの基準状態(101.325kPa、0°C)での入口ガスの体積であり、容器で容易に調整することができる。対応する装置は当業者に公知である。
【0065】
好ましい実施形態では、ガス供給は>0.0~0.1vvm、>0.0~0.09vvm、>0.0~0.08vvm、>0.0~0.07vvm、>0.0~0.06vvm、>0.0~0.05vvm、>0.0~0.04vvm、>0.0~0.03vvm、>0.0~0.02vvm、または>0.0~0.01vvmの範囲である。より好ましい実施形態では、ガス供給は>0.0~0.05vvmの範囲である。
【0066】
さらに好ましい実施形態では、ガス供給は<0.09vvm、<0.08vvm、<0.07vvm、<0.06vvm、<0.05vvm、<0.04vvm、<0.03vvm、<0.02vvm、<0.01vvmまたは<0.005vvmである。より好ましい実施形態では、ガス供給は<0.05vvmである。
【0067】
特に好ましい実施形態では、ガス供給は<0.1vvmである。別の特に好ましい実施形態では、ガス供給は<0.05vvmである。別の特に好ましい実施形態では、ガス供給は<0.02vvmである。
【0068】
ガスは、溶液への入口を介して(例えば、溶液を通じてガスを吹き込むことによって)容器に供給されてもよい。あるいは、ガスは容器の気相に供給することもできる。
【0069】
好ましくは、入口ガスは、容器の底面からスパージャーを用いて(例えば、溶液を通じてガスを「吹き込む」ことによって)容器中の溶液に提供される。
【0070】
添付の実施例では、インキュベーションステップ(b)の間のごく低いガス供給によるそのようなインキュベーションが、非常に高含量のイソブテンを含むガスの生産をもたらすことが示される。特に、実施例は、インキュベーションステップがガス供給なしかまたは低いガス供給で実行される場合、CO2およびイソブテンが高濃度で生産され、実際、基本的にCO2およびイソブテンのみが生産されることを示している。結果として、さらに以下でより詳細に説明されるように、容器からの出口ガスは、主にまたはさらには専ら(最終的な微量の他のガスを例外として)CO2およびイソブテンからなるが、基本的には酸素は存在しない。
【0071】
本発明の方法はそれ故に、イソブテンの生産中に生産された出口ガスの燃焼リスクを排除する、または少なくとも大幅に低減することができるという点でも有利である。したがって、ガス供給がない場合、またはガス供給が低レベルに制御される場合、出口ガスの酸素は約10vol%より低く、故に、燃焼に必要なイソブテンの最低酸素濃度(MOC)より低い。したがって、本発明の方法はまた、イソブテンの生産の安全性を改善できるようにし、回収された出口ガスのその後の処理を容易にする。
【0072】
入口ガスは、好ましくは空気、不活性ガス、いくつかのガスの混合物、または空気および不活性ガスの混合物であり、前記不活性ガスは、好ましくは窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、CO2およびこれらのガスの混合物から選択される。
【0073】
さらに、ガス供給で窒素(または別の不活性ガス)が使用される場合、窒素はシステムを不活性化する(それによって、燃焼および/または爆発のリスクを回避/低減する)ことができる。
【0074】
本発明による方法のインキュベーションステップ(b)は、イソブテンを気体状態にし、溶液から蒸発できるようにする条件下で実行される。
図9には、純粋なイソブテンに関する蒸気圧と温度の相関を示すグラフが示されている。曲線より下ではイソブテンは気体であるのに対し、曲線より上ではイソブテンは液体である。
【0075】
故に、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換に適用される温度(通常は30℃~40℃;一般的には37℃前後)および気圧では、生産されるイソブテンは気体形態で生産される。当業者は、生産されるイソブテンを気体状態の物質にするために適切な条件を選択する容易な立場にある(容器中の温度および/または圧力を調整するという点で)。
【0076】
気相に蒸発する生産されたイソブテンは、本発明による方法のステップ(c)により次いで回収される。回収は、溶液から蒸発し、イソブテンを含有するガスの回収を含む。イソブテンは、当業者に周知の方法に従ってその後さらに精製されてもよい。
【0077】
上記のように、本発明による方法のインキュベーションステップ(b)は、3-メチルクロトン酸を含有する液体培養培地と、3-メチルクロトン酸をイソブテンに変換することができる酵素、またはそのような酵素を発現する微生物とのインキュベーションを含む。
【0078】
ステップ(a)による培養の停止後、ステップ(b)への移行は異なる方法で達成され得る。例えば、ステップ(a)の最後に生じる培養培地は、そのままの(蓄積された3-メチルクロトン酸およびその生産に使用された微生物の細胞を含有する)状態で採取することができ、インキュベーションステップ(b)で使用される酵素および/または微生物と一緒にすることができる。この状況では、ステップ(a)で使用される細胞の培養培地からの分離は達成されない。インキュベーションステップ(b)は、ステップ(b)に必要な酵素および/または微生物をただ添加することによって、ステップ(a)の培養と同じ容器で実行され得る。好ましい実施形態では、インキュベーションステップ(b)は、ステップ(b)に必要な酵素および/または微生物をただ添加すること、ならびに当技術分野で公知の対応する日常的な処置を適用して温度、pH、撹拌力および/または酸素濃度を制御することによる、インキュベーション、すなわちステップ(b)の酵素的変換に最適な条件を適用することによってステップ(a)の培養と同じ容器で実行され得る。
【0079】
しかし、ステップ(a)の培養の停止後に得られる培養培地は異なる容器に移されることが好ましい。
【0080】
別の実施形態では、本発明の方法は、ステップ(a)の培養の停止後に得られ、3-メチルクロトン酸を含有する液体培養培地が、ステップ(b)の前に微生物から分離されるステップを含む。微生物を液体培養培地から分離する方法は当業者に公知である。一例として、遠心分離が微生物を液体から分離するのに使用されてもよい。分離されると、前記3-メチルクロトン酸を含有する液体培養培地は、本発明の方法のインキュベーションステップ(b)に供することができる。
【0081】
上に概説したように、第2の態様では、本発明は、炭素源からイソブテンを生産する方法であって:
(a)炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を液体培養培地で培養し、それによって、前記3-メチルクロトン酸が液体培養培地に蓄積するように前記3-メチルクロトン酸を生産するステップと;
(b)ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される前記3-メチルクロトン酸を、好ましくは180℃~400℃の温度でイソブテンに熱化学的に変換するステップと;
(c)生産されたイソブテンを回収するステップと
を含むことを特徴とする、炭素源からイソブテンを生産する方法を提供する。
【0082】
ステップ(b)では、ステップ(a)で得られた液体培養培地中に含有される3-メチルクロトン酸がイソブテンに熱化学的に変換される。好ましくは、前記熱化学的変換は180℃~400℃の温度で達成される。
【0083】
3-メチルクロトン酸は、当技術分野で公知の手順に従ってイソブテンおよび二酸化炭素に効率的に変換することができる。好ましくは、3-メチルクロトン酸は、180℃~400℃、好ましくは230℃~350℃の温度で加熱される。別の好ましい実施形態では、熱化学的変換は、沸騰リアクター、撹拌タンクリアクターまたは管状リアクターで達成される。別の好ましい実施形態では、熱化学的変換は、0~30バール、好ましくは10~30バールの圧力で達成される。
【0084】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、本発明の方法のステップ(a)で生産される3-メチルクロトン酸が、本発明の方法のステップ(b)の前に液体培養培地から単離または精製されるステップを含む。3-メチルクロトン酸を液体培養培地から単離、精製、抽出または分離する方法は当技術分野で公知である。3-メチルクロトン酸は、例えば、濃縮されてもよく(例えば、液体培養培地からの含水量の除去によって)、または好ましくは、存在し得る残留している可能性がある糖および他の化合物の除去によって、(部分的に)精製されてもよい。それに加えてまたは別の方法では、3-メチルクロトン酸は、少なくとも100g/l、より好ましくは少なくとも150g/l、さらにより好ましくは少なくとも200g/l、さらにより好ましくは少なくとも250g/lの3-メチルクロトン酸の濃度に当技術分野で公知の方法を適用して濃縮および/または精製されてもよい。好ましくは、3-メチルクロトン酸は、そのナトリウム塩またはカリウム塩の形態で回収される。
【0085】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、本発明の方法のステップ(a)で生産される3-メチルクロトン酸が、本発明の方法のステップ(b)の前に液体培養培地から精製されるステップを含む。
【0086】
対応する好ましい実施形態では、本発明の方法のステップ(a)で生産される3-メチルクロトン酸は、本発明の方法のステップ(b)の前に、バッチまたは連続液液抽出を使用して液体培養培地から精製/分離されてもよい。
【0087】
3-メチルクロトン酸の液液抽出は、次のように行うことができる:
細菌および全ての他の固体は、発酵ブロス、すなわち、本発明でいう液体培養培地から標準的な液体固体分離によって優先的に除去される。標準的な液体固体分離は、好ましくは遠心分離または濾過であってもよい。その後、分離された発酵ブロス、すなわち、分離された液体培養培地は酸性化され得る。好ましくは、酸性化は4.2より下、好ましくは4.0より下のpHであり、より好ましくは任意の鉱酸の添加による。故に酸性化された発酵ブロス、すなわち、本発明でいう液体培養培地は、有機溶媒、好ましくはアルコール(より優先的には、2-オクタノールまたは2-エチルヘキサノール)、重い有機酸(より優先的にはヘプタン酸)、ケトン(より優先的にはメチルイソブチルケトンまたはメチルエチルケトン)、重いアルカン(より優先的には8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、もしくは16個の炭素またはそれらの混合物を含有する)と混合され得る。この混合は、当技術分野で公知の任意の技術の一連の撹拌タンクリアクターかまたは連続液液抽出カラムのどちらかで行われ得る(例えば、同時撹拌によってまたは撹拌なしで)。有機相が回収され、蒸留に送られ得る。溶媒は蒸留物中で回収され得、3-メチルクロトン酸は残留物中で回収され得る。あるいは、3-メチルクロトン酸は、蒸留物中で回収されるようにさらに蒸留することもできる。
【0088】
別の好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸の上記液液抽出は、前記3-メチルクロトン酸を含有し、ステップ(a)で培養された微生物を依然として含有する、本発明のステップ(a)の培養で得られた液体培養培地から直接行うこともできる。
【0089】
これは、培養容器または発酵槽で好ましくは行われ得る。
【0090】
好ましい実施形態では、溶媒、優先的には重いアルカン(8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、もしくは16個の炭素またはそれらの混合物を含有する)が、培養もしくは発酵の初めにまたは培養もしくは発酵中に培養物または発酵槽に送られ得る。得られた混合物は、培養物または発酵槽から連続的に引き出され得る。pHは、好ましくは、3-メチルクロトン酸から溶媒への移動を強化するために4.2未満に低下されて酸性化され得る。相は両方ともデカンターに送られてもよい。分離された有機相は蒸留に送られ、依然として微生物を含有する水相は培養物または発酵槽に戻され得る。
【0091】
別の好ましい実施形態では、上記の精製/抽出はまた、培養物または発酵槽から外側で行われてもよい。そのような実施形態では、培養物または発酵は標準的な方法で行われ、ブロス(すなわち、本発明でいうステップ(a)の液体培養培地)は、培養物または発酵槽から連続的に引き出され得る。この流れ(すなわち、培養物または発酵槽から連続的に引き出される本発明でいうステップ(a)の液体培養培地)は、当技術分野で公知の任意の鉱酸を用いて、好ましくは4.2未満のpHで優先的に酸性化される。あるいはまた、酸性化されなくてもよい。流れ(すなわち、培養物または発酵槽から連続的に引き出される本発明でいうステップ(a)の液体培養培地)は、上記のように一連の撹拌タンクか、または液液抽出カラムでのどちらかで溶媒(優先的には同じ重いアルカン)と混合されてもよい。有機相が回収され、蒸留に送られて、一方では3-メチルクロトン酸を、他方では溶媒を回収する。
【0092】
好ましくは、上記液液抽出では、生物源溶媒、より好ましくはイソドデカンまたは2-オクタノールが使用される。
【0093】
本発明の方法では、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物が、本発明のステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する液体培養培地とインキュベートされるインキュベーションステップ(b)(i)において、前記微生物は、液体培養培地中に懸濁培養物として存在していてもよい(自由に漂っているという点で)。あるいは、微生物は固定化されてもよい。固定化は、適切な担体、表面および/または支持材料上であってもよい。適切な担体、表面および/または支持材料ならびに固定化の方法は、当業者に公知である。Martins et al.は、対応する支持材料および固定化の方法をレビューしている(African Journal of Biotechnology 12(28):441-4418(2013))。
【0094】
本発明の方法では、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素が、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートされるインキュベーションステップ(b)(ii)において、前記酵素は、液体培養培地の溶液に存在していてもよい(自由に漂っているという点で)。あるいは、前記酵素は固定化されてもよい。固定化は、適切な担体、表面および/または支持材料上であってもよい。適切な担体、表面および/または支持材料ならびに酵素の固定化の方法は、当業者に公知である(例えば、Mohamad et al., Biotechnology & Biotechnological Equipment 29(2), 2015, 205-220参照)。
【0095】
インキュベーションステップ(b)は、溶液に含有される3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換を可能にする条件下で実行される。これらの条件は、変換に使用される生物または酵素のタイプに依存し、日常的な処置によって当業者により適合され得る。
【0096】
インキュベーションは、イソブテンの生産を可能にするのに十分な時間実行される。インキュベーション中、溶液中の3-メチルクロトン酸の濃度を監視することができる。好ましくは、インキュベーションは、3-メチルクロトン酸の少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%がイソブテンに変換されるまで実行される。
【0097】
インキュベーションが停止された後、溶液は細胞/酵素から分離され、方法のステップ(a)に再導入さてもよい。好ましくは、溶液は、方法のステップ(a)に再導入される前に滅菌される。ステップ(b)で使用される細胞または酵素は、再利用され、ステップ(b)の別のラウンドで使用され得る。
【0098】
好ましい実施形態では、炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を利用する本発明の培養ステップ(a)において、3-メチルクロトン酸へのアセチルCoAの酵素的変換の前に前記炭素源をアセチルCoAに代謝することができる微生物が使用される。炭素源をアセチルCoAに代謝することができる対応する酵素的変換および微生物、好ましくは組換え微生物、ならびに3-メチルクロトン酸へのアセチルCoAのさらなる酵素的変換は、さらに以下でより詳細に記載される。
【0099】
しかし、本発明の方法は、3-メチルクロトン酸へのアセチルCoAの酵素的変換の前に前記炭素源をアセチルCoAに代謝することができる対応する微生物の使用に限定されない。さらに以下でより詳細に説明されるように、炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる(組換え)微生物があり、これらの微生物における代謝は中間体としてのアセチルCoAの形成を必要としない。
【0100】
炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を使用する本発明の培養ステップ(a)において、C1固定微生物または微生物、好ましくはC1固定微生物の組み合わせを使用することも考えられる。
【0101】
C1固定微生物は当技術分野で公知であり、例えば、国際公開第2020/188033号パンフレットに記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0102】
好ましい実施形態では、微生物、好ましくは上に定義されるC1固定微生物は、1種類を超える糖を消費することができる微生物である。好ましくは、前記1種類を超える糖は、グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、グリセロール、デンプン、エタノール、乳酸、酢酸および/またはマンノースを含む。より好ましい実施形態では、微生物、好ましくはC1固定微生物は、グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、グリセロール、デンプン、エタノール、乳酸、酢酸およびマンノースからなる群からから選択される2種類以上の糖を消費することができる微生物である。グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、グリセロール、デンプン、エタノール、乳酸、酢酸および/またはマンノース消費することができる生物および/または微生物は天然に存在し、当技術分野で公知である。
【0103】
好ましい実施形態では、微生物、好ましくはC1固定微生物は、COおよび/または合成ガスを消費することができる生物である。別の好ましい実施形態では、微生物、好ましくはC1固定微生物は、COおよび/またはCO2ならびにH2の混合物を消費することができる生物である。
【0104】
別の実施形態では、前記微生物は、グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、グリセロール、デンプン、エタノール、乳酸、酢酸、マンノースおよび/もしくはCO(または合成ガス)を消費することができるように遺伝子改変され、ならびに/またはグルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、グリセロール、デンプン、エタノール、乳酸、酢酸、マンノースおよび/もしくはCO(または合成ガス)を消費する微生物の能力を高めるように遺伝子改変される。対応する遺伝子改変は、当技術分野で公知である。
【0105】
別の好ましい実施形態では、微生物、好ましくはC1固定微生物は、ホスホトランスフェラーゼ輸送系(Phosphotransferase Transport System)(PTS)を通じて糖を消費することができる微生物である。
【0106】
好ましい実施形態では、微生物、好ましくはC1固定微生物は、非ホスホトランスフェラーゼ輸送系(非PTS)を通じて糖を消費することができる生物である。
【0107】
好ましい実施形態では、炭素源から3-メチルクロトン酸を生産することができる微生物を利用する本発明の培養ステップ(a)において、前記炭素源は、グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、グリセロール、デンプン、エタノール、乳酸、酢酸およびそれらの混合物からなる群からから選択される。
【0108】
好ましい実施形態では、本発明の培養ステップ(a)において、使用される微生物は組換え微生物である。対応する組換え微生物は、さらに以下でより詳細に記載される。
【0109】
好ましい実施形態では、本発明の培養ステップ(a)において、使用される微生物は、(組換え)微生物がステップ(a)により培養されると、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素の発現および/もしくは活性が低下/減少する、またはFMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現しない微生物、好ましくは組換え微生物である。
【0110】
上に概説したように、好ましい実施形態では、本発明の方法は、ステップ(a)の前記3-メチルクロトン酸を含有する液体培養培地がステップ(b)の前に微生物から分離されるステップを含む。故に分離された微生物は必ずしも廃棄されなくてもよい。実際、好ましい実施形態では、液体培養培地から分離された前記微生物は、再利用され、本発明の方法のステップ(a)に再導入され得る。対応する再利用は、
図3に概略的に示されている。
【0111】
別の好ましい実施形態では、ステップ(b)(i)で使用される微生物は、本発明の方法の変換ステップ(b)(i)の前に適切な条件下、適切な液体培養培地で前培養される。理論に拘束されるものではないが、対応する前培養ステップは、微生物の(および、それに対応して所望の酵素的変換のための所望の酵素の)数および/または密度を増加させるある特定の程度に微生物が増殖および濃縮されるという効果がある。適切な液体培養培地および適切な条件は当業者に公知であり、さらに以下でより詳細に記載される。
【0112】
ステップ(b)(i)で使用される微生物は、少なくとも1g/l、さらにより好ましくは少なくとも5g/l、最も好ましくは少なくとも10g/lの1リットルあたりの乾燥細胞重量で表される細胞密度を達成するように、3-メチルクロトン酸を含有する溶液に好ましくは添加される。上に概説したように、インキュベーションステップ(b)(i)は、細胞のさらなる増殖を支持しない条件下で好ましくは実行される。好ましくは、前記インキュベーションステップ(b)(i)は、インキュベーション中、細胞密度が基本的に一定に保たれるかまたはわずかな増加(好ましくは20%を超えない、さらにより好ましくは10%を超えない)のみを示すように、細胞のさらなる増殖を支持しない条件下で実行される。別の好ましい実施形態では、前記インキュベーションステップ(b)(i)は、インキュベーション中、細胞密度が基本的に一定に保たれるかまたはわずかな減少(好ましくは20%を超えない、さらにより好ましくは10%を超えない)のみを示すように、細胞のさらなる増殖を支持しない条件下で実行される。細胞密度の減少は、例えば、例えば液体培養培地のpHを調整する場合、(酸性)溶液を添加することによって、細胞(の一部)が溶解し、インキュベーション中の液体培養培地の体積を増加させた際に生じ得る。
【0113】
細胞密度の減少はまた、例えば、上記および以下で本明細書に記載されるようにインキュベーションステップ(b)の間に3-メチルクロトン酸を容器に供給し、それによって溶液中のバイオマス/細胞を希釈した際の、容器への3-メチルクロトン酸の添加によっても生じ得る。
【0114】
上に概説したように、本発明の方法は、インキュベーションステップ(b)において、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物が、本発明の方法のステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートされるステップを含む。あるいは、本発明の方法は、インキュベーションステップ(b)において、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素が、本発明の方法のステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートされるステップを含む。好ましい実施形態では、両方の場合とも、本発明の方法の前記ステップ(b)の完了後に前記液体培養培地が回収され、場合により滅菌されてもよく、本発明の方法のステップ(a)に再導入されてもよい。対応する再利用は、
図3に概略的に示されている。
【0115】
前述の別の好ましい実施形態では、記載された回収液体培養培地に存在する微生物(すなわち、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物)は前記液体培養培地から除去され、本発明の方法の生物変換ステップ(b)(i)に再導入される。対応する再利用は、
図3に概略的に示されている。
【0116】
別の好ましい実施形態では、回収されたイソブテンはその後、精製および/または濃縮される。
【0117】
本発明でいう精製または部分的精製は、好ましくは、存在し得る残留している可能性がある他の化合物(イソブテン以外の成分)の(部分的または完全な)除去を意味する。
【0118】
本発明でいう濃縮は、気相または液相中のイソブテンの濃度の増加を意味する。
【0119】
イソブテンを精製および/または濃縮する方法は当技術分野で公知である。イソブテンは、当技術分野で公知の手法、例えば、例えば、物理吸収、反応吸収、吸着、凝集、低温技術、および/または膜ベースの分離を使用して、本発明の方法のインキュベーションステップ(b)のオフガスから回収または単離され得る。
【0120】
好ましい実施形態では、本発明の方法のステップ(a)および/またはステップ(b)で使用される微生物、好ましくは組換え微生物は、細菌、酵母、真菌または藻類である。特に好ましい実施形態では、微生物は細菌、例えば大腸菌(E. coli)である。対応する適切な微生物、好ましくは組換え微生物は、さらに以下でより詳細に記載される。
【0121】
ステップ(a)による炭素源からの3-メチルクロトン酸の酵素的生産
上述のように、炭素源からの3-メチルクロトン酸の酵素的生産のための方法は当技術分野で公知であり、それぞれの酵素的変換を触媒することができる(組換え)生物が記載されている;例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2017/085167号パンフレット、国際公開第2018/206262号パンフレットおよび国際公開第2020/188033号パンフレットを参照のこと。
【0122】
中心的な代謝産物アセチルCoAを生じさせる炭素源から始まる酵素的変換、および3-メチルクロトン酸へのそのさらなる変換の可能性のある個々のステップが、限定されるものではなく例としてのみ記載される。
【0123】
アセチルCoA(アセチルコエンザイムA)は、全ての生物に存在する中心的な代謝産物であり、タンパク質、炭水化物および脂質代謝における多くの生化学反応に関与している。アセチルCoAは、例えば、解糖による炭素源の分解およびβ-酸化による脂肪酸の分解によってCoAがアセチルCoAにアセチル化すると生産される。
【0124】
したがって、脂肪酸から、および特に炭素源から生産されるアセチルCoAは全ての生物に存在する中心的な代謝産物であることから、その生産は本明細書では記載されない。
【0125】
限定されるものではなく、以下では、アセチルCoAの3-メチルクロトン酸への酵素的変換の可能性のある個々のステップ、および3-メチルクロトン酸を、例えばアセチルCoAから生産することができる微生物が要約される。対応する酵素的変換および微生物は、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2017/085167号パンフレット、国際公開第2018/206262号パンフレットおよび国際公開第2020/188033号パンフレットに記載されている。
【0126】
可能性のある異なる経路を介する3-メチルクロトン酸を生産する方法が記載されている(概要については
図1および
図2参照)。これらの経路および酵素的変換を利用する方法ならびに組換え生物および微生物は、特に国際公開第2010/001078号パンフレット、国際公開第2012/052427号パンフレット、国際公開第2017/085167号パンフレット、国際公開第2018/206262号パンフレットおよび国際公開第2020/188033号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0127】
しかし、本発明の方法のステップ(a)では、これらの反応が使用され得るだけでなく、原理的には、従来技術文献国際公開第2017/085167号パンフレット、国際公開第2018/206262号パンフレット、国際公開第2010/001078号パンフレット、国際公開第2012/052427号パンフレットおよび国際公開第2016/042012号パンフレットに記載されるアセチルCoAを3-メチルクロトン酸に変換するための任意の他の経路も使用され得る。
【0128】
さらに、本発明の方法のステップ(a)では、前記3-メチルクロトン酸は、炭素源または窒素源からピルビン酸およびロイシンを介して、チオエステル、すなわち3-メチルクロトニルCoAとしても生産され得る。対応する生合成経路および3-メチルクロトニルCoAを生産することができる微生物は、Li et al. (Angew. Chem. Int. Ed. (2013) 52: 1304)に記載されている;特に
図1を参照のこと。
【0129】
生産された3-メチルクロトン酸のチオエステル、すなわち3-メチルクロトニルCoAは、次いで、従来技術に記載される酵素的変換によって3-メチルクロトン酸にさらに変換され得る。
【0130】
これらの文献の開示は、特にその中に記載された経路の個々の変換のための酵素の好ましい実施形態に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。したがって、好ましい実施形態では、それぞれの酵素的変換に関してこれらの従来技術文献に記載された好ましい実施形態から選択される酵素を使用することが好ましい。故に、国際公開第2017/085167号パンフレット、国際公開第2018/206262号パンフレット、国際公開第2010/001078号パンフレット、国際公開第2012/052427号パンフレット、国際公開第2016/042012号パンフレットおよびLi et al. (Angew. Chem. Int. Ed. (2013) 52: 1304)にそれぞれ記載されているのと同じことが、本発明の方法のステップ(a)の酵素的変換に適用される。
【0131】
好ましい実施形態では、本発明の方法のステップ(a)において、前記3-メチルクロトン酸は、アセチルCoAから始まり、その後アセチルCoAがアセトアセチルCoAに酵素的に変換され、その後アセトアセチルCoAが3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAに酵素的に変換され、その後3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAが3-メチルグルタコニルCoAに酵素的に変換され、その後3-メチルグルタコニルCoAが3-メチルクロトニルCoAに酵素的に変換され、その後3-メチルクロトニルCoAが前記3-メチルクロトン酸に酵素的に変換される経路によって生産される(概要については、例えば
図2参照)。これらの経路および酵素的変換を利用する対応する方法、酵素的変換ならびに組換え生物および微生物は、上記の従来技術文献に記載されている。これらの文献の開示は、特に上記の好ましい経路(すなわち、アセチルCoAから始まり、アセトアセチルCoAを介し、次いで3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAを介し、次いで3-メチルグルタコニルCoAを介し、次いで3-メチルクロトニルCoAを介し、次いで前記3-メチルクロトン酸へと変換される)のための酵素の好ましい実施形態に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。したがって、この可能性のある好ましい経路に関する好ましい実施形態では、それぞれの酵素的変換に関してこれらの従来技術文献に記載された好ましい実施形態から選択される酵素を使用することが好ましい。故に、上記の従来技術文献に記載されているのと同じことが、本発明の方法のステップ(a)の酵素的変換に適用される。
【0132】
上述のように、好ましい実施形態では、本発明の培養ステップ(a)において、ステップ(a)で使用される前記微生物は、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素(好ましくは、3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換することができるFMN依存性脱炭酸酵素)の活性が低下/減少している微生物、好ましくは組換え微生物である。FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素(好ましくは、3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換することができるFMN依存性脱炭酸酵素)の活性が低下/減少している対応する微生物を使用することは、このように生産された3-メチルクロトン酸の代謝を回避し、したがって、前記液体培養培地への3-メチルクロトン酸の蓄積を可能にするため有益である。
【0133】
したがって、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素(好ましくは、3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換することができるFMN依存性脱炭酸酵素)の活性が低下/減少している微生物は、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を天然には発現しない微生物か、またはそれぞれの酵素の活性が完全に消失するように、もしくは対応する非改変微生物と比べて活性が低下/減少するように改変、特に遺伝子改変されている微生物のどちらかである。
【0134】
FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素(好ましくは、3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換することができるFMN依存性脱炭酸酵素)を天然には発現しない対応する微生物は、当技術分野で公知である。
【0135】
好ましい実施形態では、非改変生物または微生物と比べて、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素(好ましくは、3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換することができるFMN依存性脱炭酸酵素)の活性が低下/減少している微生物とは、好ましくは、非改変微生物と比べたそれぞれの酵素的活性の低下/減少が、前記不活性化または低下をもたらす微生物の遺伝子改変によって達成される微生物を指す。
【0136】
好ましい実施形態では、本発明の組換え微生物は、非改変微生物と比べて、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素の活性を低下させることによってFMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素(好ましくは、3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換することができるFMN依存性脱炭酸酵素)が低下/減少している組換え微生物である。好ましくは、この低下は微生物の遺伝子改変によって達成される。これは、例えば、プロモーターおよび/もしくは酵素のランダム変異誘発もしくは部位特異的変異誘発と、所望の特性を有するプロモーターおよび/もしくは酵素のその後の選択、または上記のような相補的ヌクレオチド配列もしくはRNAi作用によって達成することができる。
【0137】
本発明の文脈では、「活性の低下」は、遺伝子改変微生物における酵素、特にFMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素の活性が、対応する非改変微生物より少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%または50%、さらにより好ましくは少なくとも70%または80%、特に好ましくは少なくとも90%または100%低いことを意味する。FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素の酵素活性の低下を測定するためのアッセイは、当技術分野で公知である。
【0138】
別の実施形態では、本発明による微生物は、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素(好ましくは、3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換することができるFMN依存性脱炭酸酵素)の活性を持たない微生物である。これは、そのような微生物が、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素の活性を天然には持たないことを好ましくは意味する。これは、そのような微生物がそのゲノム中に、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素の活性を有する酵素をコードするヌクレオチド配列を天然には含有しないことを意味する。
【0139】
別の好ましい実施形態では、本発明の微生物は、アセチルCoAの漏出を回避し、それによってアセチルCoAの細胞内濃度を増加させ、これが最終的に3-メチルクロトン酸に変換されるように遺伝子改変される生物である。アセチルCoAの細胞内濃度の増加をもたらす遺伝子改変は、当技術分野で公知である。そのような微生物は、好ましくは、次の遺伝子を欠失または不活性化して遺伝子改変され得る:
ΔackA(酢酸キナーゼ)、Δldh(乳酸脱水素酵素)、ΔadhE(アルコール脱水素酵素)、ΔfrdBおよび/またはΔfrdC(フマル酸還元酵素およびフマル酸脱水素酵素)。
【0140】
好ましい実施形態では、アセチルCoAの収量、プールおよび/または流れが増加される方法が利用される。対応する方法ならびに、アセチルCoAのプールが増加した組換え生物および微生物は、従来技術、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2013/007786号パンフレット、国際公開第2020/021051号パンフレットおよび国際公開第2020/188033号パンフレットに記載されている。
【0141】
好ましい実施形態では、アセチルCoAの収量、プールおよび/または流れは、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2013/007786号パンフレット、国際公開第2020/021051号パンフレットおよび国際公開第2020/188033号パンフレットに記載されるホスホケトラーゼ(PKT)活性を有する組換え生物または微生物を利用することによって増加される。
【0142】
ステップ(b)による3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換
上に概説したように、本発明の方法のインキュベーションステップ(b)(i)または(b)(ii)では、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素またはそのような酵素を発現する微生物が使用され、本発明のステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する液体培養培地とインキュベートされる。
【0143】
原理的には、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随した任意のFMN依存性脱炭酸酵素(またはそれを発現する微生物)が、本発明による方法のステップ(b)で使用され得る。3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換のためのそのような酵素の使用は、従来技術、例えば、国際公開第2017/085167号パンフレット、国際公開第2018/206262号パンフレットおよび国際公開第2020/188033号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0144】
以下では、3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換することができる、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を使用する、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換が記載される。本発明でいうFMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素に言及がなされる場合は常に、言及を簡単にするために「プレニル化FMN依存性脱炭酸酵素」にもより正確に言及がなされ得る。
【0145】
3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換は、
図1のステップIに概略的に示されている。この変換は、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を用いた脱炭酸によって達成され得る。「脱炭酸」は一般的には、カルボキシ基を除去し、二酸化炭素(CO
2)を放出する化学反応である。
【0146】
FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を利用する3-メチルクロトン酸のイソブテンへの酵素的変換は、2つの酵素、すなわち、改変フラビン補因子を提供するFMNプレニルトランスフェラーゼが付随したFMN依存性脱炭酸酵素(3-メチルクロトン酸のイソブテンへの実際の脱炭酸を触媒する)によって触媒される2つの連続的ステップの反応に依存する。
【0147】
フラビン補因子は、好ましくはFMNまたはFADであってもよい。FMN(フラビンモノヌクレオチド;リボフラビン-5’-リン酸とも呼ばれる)は、酵素リボフラビンキナーゼによってリボフラビン(ビタミンB2)から生産される生体分子であり、様々な反応の補欠分子族として機能する。FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)は、代謝におけるいくつかの重要な反応に関与する酸化還元補因子、より具体的には補欠分子族である。
【0148】
故に、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換において、第1のステップでは、フラビン補因子(FMNまたはFAD)が(改変)フラビン由来補因子に改変される。この改変は、前記FMNプレニルトランスフェラーゼによって触媒される。FMNプレニルトランスフェラーゼは、フラビン補因子(FMNまたはFAD)のフラビン環を(改変)プレニル化フラビン補因子にプレニル化する。より具体的には、FMNプレニルトランスフェラーゼは、ジメチルアリルリン酸(DMAP)またはジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)を利用するフラビン補因子(FMNまたはFAD)のフラビン由来補因子へのプレニル化を触媒する。
【0149】
第2のステップでは、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの実際の変換は、1,3-双極子環化付加ベースの機構を介して前記FMN依存性脱炭酸酵素によって触媒され、前記FMN依存性脱炭酸酵素は、付随したFMNプレニルトランスフェラーゼによって提供されるプレニル化フラビン補因子(FMNまたはFAD)を使用する。
【0150】
好ましい実施形態では、フラビン補因子(FMNまたはFAD)を(改変)フラビン由来補因子に改変する(ジメチルアリルリン酸(DMAP)またはジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)を利用して)前記FMNプレニルトランスフェラーゼは、フェニルアクリル酸脱炭酸酵素(PAD)型タンパク質、または原核生物のユビキノン生合成に関与する酵素である、近縁原核生物酵素UbiXである。
【0151】
大腸菌(Escherichia coli)において、タンパク質UbiX(3-オクタプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸カルボキシリアーゼとも呼ばれる)は、ユビキノン生合成の第3のステップに関与することが示されている。
【0152】
好ましい実施形態では、対応する(改変)フラビン由来補因子へのフラビン補因子(FMNまたはFAD)の改変は、FMN含有タンパク質フェニルアクリル酸脱炭酸酵素(PAD)によって触媒される。対応する改変フラビン由来補因子へのフラビン補因子(FMNまたはFAD)の改変に関与する酵素は、当初は脱炭酸酵素(EC4.1.1.~)としてアノテートされた。一部のフェニルアクリル酸脱炭酸酵素(PAD)は、現在、EC2.5.1.~としてフラビンプレニルトランスフェラーゼとしてアノテートされている。フラビンプレニルトランスフェラーゼの本明細書に記載された酵素反応を触媒することができる酵素は、最近、EC2.5.1.129としてのフラビンプレニルトランスフェラーゼとしてもアノテートされている。
【0153】
より好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換は、フラビン補因子(FMNまたはFAD)を対応する(改変)フラビン由来補因子に改変するFMNプレニルトランスフェラーゼとして、フェニルアクリル酸脱炭酸酵素(PAD)型タンパク質を用いる。前記フェニルアクリル酸脱炭酸酵素(PAD)型タンパク質は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(Uniprotアクセッション番号Q5A8L8)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)(Uniprotアクセッション番号A3F715)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)(Uniprotアクセッション番号P33751)またはクリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gattii)(Uniprotアクセッション番号E6R9Z0)に由来する。
【0154】
別の好ましい実施形態では、対応する(改変)フラビン由来補因子へのフラビン補因子(FMNまたはFAD)の改変は、UbiXとも呼ばれるFMN含有タンパク質3-オクタプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸カルボキシリアーゼ(当初はEC 4.1.1.~としてアノテートされた)によって触媒される。上述のように、対応する改変フラビン由来補因子へのフラビン補因子(FMNまたはFAD)の改変に関与する酵素は、当初は脱炭酸酵素としてアノテートされた。一部のフェニルアクリル酸脱炭酸酵素(PAD)は、現在、EC 2.5.1.~としてフラビンプレニルトランスフェラーゼとしてアノテートされている。
【0155】
上述のように、フラビンプレニルトランスフェラーゼの本明細書に記載された酵素反応を触媒することができる酵素は、最近、EC 2.5.1.129としてのフラビンプレニルトランスフェラーゼとしてもアノテートされている。
【0156】
より好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換は、フラビン補因子(FMNまたはFAD)を対応する(改変)フラビン由来補因子に改変するFMNプレニルトランスフェラーゼとして、3-オクタプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸カルボキシリアーゼ(UbiXとも呼ばれる)を用いる。前記3-オクタプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸カルボキシリアーゼ(UbiXとも呼ばれる)は、大腸菌(Escherichia coli)(Uniprotアクセッション番号P0AG03)、枯草菌(Bacillus subtilis)(Uniprotアクセッション番号A0A086WXG4)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(Uniprotアクセッション番号A0A072ZCW8)またはエンテロバクター属種(Enterobacter sp.)DC4(Uniprotアクセッション番号W7P6B1)に由来する。
【0157】
別の好ましい実施形態では、対応する(改変)フラビン由来補因子へのフラビン補因子(FMNまたはFAD)の改変は、それぞれkpdBおよびecdBによってコードされる大腸菌(E. coli)に由来するUbx様フラビンプレニルトランスフェラーゼ(それぞれ、UniProtアクセッション番号A0A023LDW3およびUniProtアクセッション番号P69772)、ならびにkpdBによってコードされる肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)に由来するUbiX様フラビンプレニルトランスフェラーゼ(UniProtアクセッション番号Q462H4)によって触媒される。
【0158】
別の好ましい実施形態では、対応する(改変)フラビン由来補因子へのフラビン補因子(FMNまたはFAD)の改変は、フラビンプレニルトランスフェラーゼによって触媒される。
【0159】
上述のように、実際の脱炭酸、すなわち、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換は、1,3-双極子環化付加ベースの機構を介してFMN依存性脱炭酸酵素によって触媒され、前記FMN依存性脱炭酸酵素は、上記の付随したFMNプレニルトランスフェラーゼのいずれかによって提供されるプレニル化フラビン補因子(FMNまたはFAD)を使用する。
【0160】
好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの脱炭酸を触媒する前記FMN依存性脱炭酸酵素は、フェルラ酸脱炭酸酵素(FDC)によって触媒される。フェルラ酸脱炭酸酵素(FDC)は、酵素クラスEC 4.1.1.~に属する。
【0161】
さらにより好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換は、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)(Uniprotアクセッション番号Q03034)、エンテロバクター属種(Enterobacter sp.)(Uniprotアクセッション番号V3P7U0)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)(Uniprotアクセッション番号Q45361)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)(Uniprotアクセッション番号A2R0P7)またはカンジダ・デュブリニエンシス(Candida dubliniensis)(Uniprotアクセッション番号B9WJ66)に由来するフェルラ酸脱炭酸酵素(FDC)を用いる。
【0162】
別のより好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換は、プロトカテク酸脱炭酸酵素(EC 4.1.1.63)を用いる。
【0163】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法で使用されるPCA脱炭酸酵素は、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(Uniprotアクセッション番号B9AM6)、レプトリングビア属種(Leptolyngbya sp.)(Uniprotアクセッション番号A0A0S3U6D8)、またはファスコラークトバクテリウム属種(Phascolarctobacterium sp.)(Uniprotアクセッション番号R6IIV6)に由来するPCA脱炭酸酵素である。
【0164】
別の好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの脱炭酸を触媒する前記FMN依存性脱炭酸酵素は、上記のフェルラ酸脱炭酸酵素(FDC)、すなわち3-ポリプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素(UbiDとも呼ばれる)の近縁の酵素である。3-ポリプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は、EC 4.1.1.~として分類されるUbiD脱炭酸酵素ファミリーに属する。
【0165】
より好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換は、ヒポクレア・アトロビリディス(Hypocrea atroviridis)(UniProtアクセッション番号G9NLP8)、スファエルリナ・ムシバ(Sphaerulina musiva)(UniProtアクセッション番号M3DF95)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penecillinum requeforti)(UniProtアクセッション番号W6QKP7)、トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici)(UniProtアクセッション番号W9LTH3)、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ(Saccharomyces kudriavzevii)(UniProtアクセッション番号J8TRN5)、出芽酵母(Saccaromyces cerevisiae)、アスペルギルス・パラジチカス(Aspergillus parasiticus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、グロスマンニア・クラビゲラ(Grosmannia clavigera)、大腸菌(Escherichia coli)(Uniprotアクセッション番号P0AAB4)、巨大菌(Bacillus megaterium)(Uniprotアクセッション番号D5DTL4)、メタノサーモバクター属種(Methanothermobacter sp.)CaT2(Uniprotアクセッション番号T2GKK5)、マイコバクテリウム・ケロネー(Mycobacterium chelonae)1518(Uniprotアクセッション番号X8EX86)またはエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)(Uniprotアクセッション番号V3DX94)に由来する3-ポリプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素(UbiD)を用いる。
【0166】
別のより好ましい実施形態では、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの変換は、ストレプトマイセス属種(Streptomyces sp)(UniProtアクセッション番号A0A0A8EV26)に由来するUbiD様脱炭酸酵素を用いる。
【0167】
好ましい実施形態では、本発明の方法のインキュベーションステップ(b)(i)において、改善された特性、例えば、より高い酵素活性もしくはより高い基質特異性を示すような酵素を過剰発現するおよび/またはそのような酵素を発現する、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物が使用される。
【0168】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法のインキュベーションステップ(b)(ii)において、改善された特性、例えば、より高い酵素活性もしくはより高い基質特異性を示すような酵素を過剰発現するおよび/またはそのような酵素が使用される微生物を用いて生産された、FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素が使用される。そのような改善された特性を示す対応する組換え微生物および酵素は、従来技術、例えば、国際公開第2018/206262号パンフレットに記載されている。
【0169】
この文献の開示、特に、改善された特性、例えば、より高い酵素活性もしくはより高い基質を示すような酵素の過剰発現および/または改善された特性、例えば、より高い酵素活性もしくはより高い基質を示す酵素に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0170】
本発明はまた、3-メチルクロトン酸または3-メチルクロトン酸に近縁の化合物からイソブテンを生産する代替方法も企図する。
【0171】
例えば、1つの実施形態では、本発明による上記方法の培養ステップ(a)が省略され、3-メチルクロトン酸(どのように生産されたかにかかわらず)が、3-メチルクロトン酸のイソブテンへの効率的な変換を可能にするためにガス供給が制御される上記のインキュベーションステップ(b)で使用されることも考えられる。
【0172】
したがって、1つの実施形態では、本発明は、培養ステップ(a)が省略され、インキュベーションステップ(b)で使用される容器に3-メチルクロトン酸が(直接)供給される、本発明でいう方法に関する。故に、1つの実施形態では、本発明は、3-メチルクロトン酸からイソブテンを生産する方法であって:
(a)3-メチルクロトン酸を容器の液体培地に供給するステップと;
(b)(i)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を発現する微生物を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすること;および/または
(ii)FMNプレニルトランスフェラーゼと付随したFMN依存性脱炭酸酵素を、ステップ(a)で得られた3-メチルクロトン酸を含有する前記液体培養培地とインキュベートすること
によって、液体培地に含有された前記3-メチルクロトン酸をイソブテンに酵素的に変換し;
それによって前記イソブテンを生産するステップと;
(c)生産されたイソブテンを回収するステップと
を含むことを特徴とし、
ステップ(b)の前記インキュベーションが、
(a)ガス供給がない前記容器;または
(b)入口ガスを使用して<0.1vvm(1分あたりの容器体積)でガス供給がある前記容器で実行される、3-メチルクロトン酸からイソブテンを生産する方法に関する。
【0173】
用語「3-メチルクロトン酸を容器の液体培地に供給する」は、3-メチルクロトン酸が、インキュベーションステップ(b)が実行されるべき容器の液体培地に提供されることを意味する。これは、最初に、インキュベーションが実行されるべき液体培地を容器に提供し、次いで所望の濃度で3-メチルクロトン酸を前記培地に添加することによって、または既に3-メチルクロトン酸を含有する培地を容器に提供することによって、達成され得る。3-メチルクロトン酸の変換を達成するのに使用される微生物/酵素は、3-メチルクロトン酸を提供する前、3-メチルクロトン酸を提供した後、または同時に添加することができる。さらに、インキュベーションステップ(b)の間に3-メチルクロトン酸が容器の培地に供給されてもよい。これは、連続的にまたはバッチで行うことができる。この方法で、例えば、イソブテンへの効率的な変換を可能にする所望のレベルで培地中の3-メチルクロトン酸の濃度を維持することができる。故に、そのような実施形態では、培地中の3-メチルクロトン酸の濃度が監視され(例えば、絶えずまたは所定の時間間隔で)、追加の3-メチルクロトン酸を培地に供給して所望の濃度に濃度が調整されることも想定される。
【0174】
インキュベーションステップ(b)のさらに好ましい実施形態については、本発明の第1の態様に関して上に記載されたのと同じことが適用される。
【0175】
別の代替方法では、本発明はまた、上に記載の方法であるが、ステップ(a)において3-メチルクロトン酸ではなくむしろ3-メチルクロトン酸の水和形態(すなわち、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸(3-ヒドロキシイソ吉草酸、HIVとしても知られる))が生産される、方法にも関する。
【0176】
種々の可能性のある経路を介する3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸を生産する方法が記載されている(概要については
図2参照)。これらの経路および酵素的変換を利用する方法ならびに組換え生物および微生物は、例えば、国際公開第2012/052427号パンフレット、国際公開第2017/085167号パンフレットおよび国際公開第2016/042012号パンフレットに記載されている。
【0177】
これらの文献の開示は、特にその中に記載された3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸をもたらす経路の個々の変換のための酵素の好ましい実施形態に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。したがって、好ましい実施形態では、それぞれの酵素的変換に関してこれらの従来技術文献に記載された好ましい実施形態から選択される酵素を使用することが好ましい。そのような代替方法では、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸がステップ(a)で生産されると、次いでインキュベーションステップ(b)は、このように生産された3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸からの、これを3-メチルクロトン酸に脱水することによる、好ましくは熱化学的変換による3-メチルクロトン酸の生産を含む(図解については
図2参照)。同じステップ(b)において、このように生産された3-メチルクロトン酸が次いで上記のようにイソブテンに変換される。
【0178】
別の好ましい実施形態では、ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される3-メチルクロトン酸のイソブテンへの熱化学的変換に関して上に概説したように、必要な変更を加えて、3-メチルクロトン酸の代わりに3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸が使用される上記の代替方法では、ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される前記3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸は、好ましくは180℃~400℃の温度でイソブテンに熱化学的に変換される。
【0179】
故に、対応するステップ(b)では、ステップ(a)で得られた液体培養培地に含有される3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸が、イソブテンに熱化学的に変換される。好ましくは、前記熱化学的変換は180℃~400℃の温度で達成される。
【0180】
3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸は、当技術分野で公知の手順に従ってイソブテンおよび二酸化炭素に効率的に変換することができる。好ましくは、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸は、180℃~400℃、好ましくは230℃~350℃の温度で加熱される。別の好ましい実施形態では、熱化学的変換は、沸騰リアクター、撹拌タンクリアクターまたは管状リアクターで達成される。別の好ましい実施形態では、熱化学的変換は、0~30バール、好ましくは10~30バールの圧力で達成される。
【0181】
好ましくは、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸は、気体形態のイソブテン、水および二酸化炭素に変換される。
【0182】
別の代替実施形態では、本発明は、上に記載の方法であるが、ステップ(a)において3-メチルクロトン酸ではなくむしろ3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸のリン酸化形態(すなわち、3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸;3-ホスホノキシイソ吉草酸(PIV)としても知られる)が生産される、方法に関する。
【0183】
種々の可能性のある経路を介する3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸を生産する方法が記載されている(概要については
図2参照)。これらの経路および酵素的変換を利用する方法ならびに組換え生物および微生物は、例えば、国際公開第2012/052427号パンフレット、国際公開第2017/085167号パンフレットおよび国際公開第2016/042012号パンフレットに記載されている。
【0184】
これらの文献の開示は、特にその中に記載された3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸をもたらす経路の個々の変換のための酵素の好ましい実施形態に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。したがって、好ましい実施形態では、それぞれの酵素的変換に関してこれらの従来技術文献に記載された好ましい実施形態から選択される酵素を使用することが好ましい。
【0185】
そのような代替方法では、3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸がステップ(a)で生産されると、次いでインキュベーションステップ(b)は、このように生産された3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸からの、好ましくは3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸の脱リン酸化(加水分解が-OH結合の形成をもたらす)による3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の生産を含み(図解については
図2参照)、次いでステップ(b)は、このように生産された3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸からの、これを3-メチルクロトン酸に脱水することによる、好ましくは熱化学的変換による3-メチルクロトン酸の生産をさらに含む。
【0186】
同じステップ(b)において、このように生産された3-メチルクロトン酸が次いで上記のようにイソブテンに変換される。
【0187】
あるいは、そのような代替方法では、3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸がステップ(a)で生産されると、次いでインキュベーションステップ(b)は、このように生産された3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸からの、好ましくは脱リン酸化および同時の二重結合形成による3-メチルクロトン酸の直接生産を含む。
【0188】
同じステップ(b)において、このように生産された3-メチルクロトン酸が次いで上記のようにイソブテンに変換される。
【0189】
さらなる代替実施形態では、本発明は、上に記載の方法であるが、上記のように、ステップ(a)において3-メチルクロトン酸ではなくむしろ、3-メチルクロトン酸の水和形態(すなわち、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸(3-ヒドロキシイソ吉草酸、HIV)としても知られる)および3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸のリン酸化形態(すなわち、3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸;3-ホスホノキシイソ吉草酸(PIV)としても知られる)が生産される、方法に関する。
【0190】
そのような代替方法では、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸がステップ(a)で生産されると、次いでインキュベーションステップ(b)は、上記のように、このように生産された3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸からの3-メチルクロトン酸の生産を含む。同じステップ(b)において、このように生産された3-メチルクロトン酸が次いで上記のようにイソブテンに変換される。
【0191】
さらに、そのような代替方法では、3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸がステップ(a)で生産されると、次いでインキュベーションステップ(b)は、このように生産された3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸からの3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の生産、ならびにさらに、上に記載のこのように生産された3-ホスホノキシ-3-メチル酪酸からの上に記載の3-メチルクロトン酸の生産および/または3-メチルクロトン酸の直接生産を含む。同じステップ(b)において、このように生産された3-メチルクロトン酸が次いで上記のようにイソブテンに変換される。
【0192】
上述のように、本発明による方法は、特に商業生産のための、インビボでのイソブテンの大規模生産に特に有用である。本発明は、これまで得られなかった大量のイソブテンを商業的および費用効果的に生産するための新規の手段および方法を記載する。生成された大量のイソブテンは、次いで商業的環境でさらに変換されて、大量の、例えば、ドロップインガソリン(例えばイソオクタン、ETBE、MTBE)、ジェット燃料、化粧品、化学物質、例えばメタクリル酸、ポリイソブテン、またはブチルゴムを生産することができる。本明細書で使用される場合、発酵容器またはインビトロでのイソブテンの「大規模生産」、「商業生産」および「バイオプロセシング」は、少なくとも100リットルを超える、好ましくは少なくとも400リットルを超える、またはより好ましくは1,000リットル規模以上の生産、さらにより好ましくは5,000リットル規模以上の生産の容量で実行される。本明細書で使用される場合、「大量」は、微生物において本質的に生産され得る微量を具体的には除外する。
【0193】
本明細書では、特許出願を含む多数の文献が引用される。これらの文献の開示は、本発明の特許性に関するとみなされるものではないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、全ての参考文献は、個々の文献が、参照により組み込まれることが具体的および個別に示されるのと同程度に参照により組み込まれる。
【0194】
本発明はこれより、単なる例示であり、本発明の範囲の限定として解釈されるべきではない以下の例を参照して記載される。
【実施例】
【0195】
[実施例1]
15Lリアクターでの2段階プロセスによるイソブテン生産
【0196】
第1のステップ:アセチルCoAからのインビボ3-メチルクロトン酸生産
この実施例は、外因性遺伝子を発現する組換え大腸菌(E. coli)株による3-メチルクロトン酸の生産を示し、それによって3-メチルクロトン酸経路を成す。
【0197】
ほとんどの微生物と同様に、大腸菌(E. coli)はグルコースをアセチルCoAに変換する。アセチルCoAを3-メチルクロトン酸に変換する(
図2)ためにこの試験で使用された酵素を以下に要約する。
【0198】
大腸菌(E. coli)における3-メチルクロトン酸生合成経路の発現
次の遺伝子が、大腸菌(E. coli)での発現のためにコドン最適化され、GeneArt(Life Technologies)によって合成された:
- クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のthl(Uniprotアクセッション番号Q6LD78)
- シュードモナス属種(Pseudomonas sp.)由来のech(エノイルCoAヒドラターゼ)(Uniprotアクセッション番号K9NHK2)
- 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)由来のmvaS(Uniprotアクセッション番号P54874)
- ミクソコッカス・ハンスプス(Myxococcus hansupus)由来のグルタコン酸CoAトランスフェラーゼの2つのサブユニットをコードするaibAおよびaibB(Uniprotアクセッション番号AKQ65711.1およびAKQ65710.1)
- 大腸菌(Escherichia coli)(株K12)由来のmenI(Uniprotアクセッション番号P77781)。
【0199】
pSC101の複製起点を含有する発現ベクター(参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC320470/)を、国際公開第2017/085167号パンフレット、実施例12に記載された手順に従い(FDC1遺伝子の組み込みを除いて)遺伝子:mvaS、Ech、aibA、aibB、ydiIの発現に使用した。組換えpGBE13786プラスミドを配列決定によって検証した。
【0200】
株MG1655を、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のthl遺伝子のssrS遺伝子座への組み込みによって改変した。得られた株(GBI19077)をエレクトロコンピテントにし、pGBE13786で形質転換した。
【0201】
形質転換細胞、株SB1429を次いでLBプレートに入れ、テトラサイクリンを供給した。プレートを一晩、30℃でインキュベートした。単離したコロニーを使用して以下に記載される前培養物を調製した。
【0202】
3-メチルクロトン酸の生産
15L容器を、15g/L酵母抽出物、50mMグルタミン酸ナトリウム、4mM硫酸マグネシウム、5mM硫酸ナトリウム、10mM硫酸アンモニウム、25mMリン酸二水素カリウムおよび25mMリン酸水素二ナトリウムを含有する培養培地6Lで満たし、121℃で20分間滅菌した。冷却後、濾過滅菌したビタミンを、チアミンについては0.6mM、パントテン酸カルシウム(calcium panthotenate)については5mMの最終濃度で添加した。濾過滅菌した微量金属も、10μM塩化鉄III、4μM塩化カルシウム、2μM塩化マンガン、2μM硫酸亜鉛、0.4μM塩化銅および0.4μMモリブデン酸ナトリウムの最終濃度で添加した。次いで、濾過滅菌したグルコースを1g/Lの最終濃度で添加した。
【0203】
バッチ培養培地に加えて、2種類のフェドバッチ溶液を調製した。第1のフェドバッチ溶液は、濾過滅菌した300g/L酵母抽出溶液であった。第2のフェドバッチ溶液は、50μM塩化鉄III、20μM塩化カルシウム、10μM塩化マンガン、10μM硫酸亜鉛、2μM塩化銅および2μMモリブデン酸ナトリウムの最終濃度で5g/L硫酸マグネシウム七水和物、10mMグルタミン酸ナトリウムおよび微量金属も含有する700g/Lグルコース溶液であった。
【0204】
培養培地に、30℃の50mMグルタミン酸ナトリウムおよびテトラサイクリンを含有するLB培地で前もって増殖させた株(SB1429)の前培養物500mLを接種した。温度を32℃で30時間保ち、次いで34℃まで上げた。通気を0.77vvmに設定し、溶解酸素を飽和度5%で維持するように撹拌を制御した。
【0205】
培養の6時間後、酵母抽出溶液400mLを18時間にわたり連続的に添加した。並行して、培養の開始8時間後にグルコースフェドバッチを開始し、1時間あたりの乾燥細胞重量1gあたり0.1gグルコースで、特定の供給速度を22時間維持した。
【0206】
次いで、特定の供給速度を最初に0.25g/g/hに上げ、後に低レベルのグルコースおよび酢酸を培養培地で維持するように調整した。3-メチルクロトン酸生産をHPLCによって監視し、所望の産物の代わりに酢酸が蓄積し始めたら発酵を停止した。
【0207】
発酵を停止したとき、その時点で20g/Lを超える3-メチルクロトン酸が生産された。次いで、培養培地を遠心分離によって清澄化し、第2のステップおよび実施例2で使用した。
【0208】
第2のステップ:3-メチルクロトン酸からのイソブテン生産
pSC101誘導ベクター
(参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC320470/)を使用して、ストレプトマイセス属種(Streptomyces sp)769(UniProtアクセッション番号A0A0A8EV26)由来のプレニル化FMN依存性3-メチルクロトン酸脱炭酸酵素(FDC)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(kpdB;UniProtアクセッション番号Q462H4)に由来するUbx様フラビンプレニルトランスフェラーゼの変異体を発現させた。大腸菌(E. coli)MG1655細胞を構築したプラスミドで形質転換し、新しく得られた株SB1505の細胞を、炭素源としてのグルコースと共に酵母抽出物および無機塩を含有する富栄養培地で約35g/Lの細胞密度まで増殖させた。細胞を遠心分離によって収集し、250g/Lの濃度で上清に再懸濁し、使用前に最大3週間、4℃で保った。
【0209】
15Lリアクターを、3-クロトン酸メチルを含有する培養培地12Lで満たし、800RPMで撹拌した。温度を37℃に設定し、リン酸20%でpHを6.3に制御した。スパージャーを通じて窒素で容器を通気してリアクター(約3L)のヘッドスペースから空気を流し、圧力を0.5バールに制御した。出口ガスを分析し、酸素がもはや検出されなくなったらガス供給窒素を0.017vvmに設定した。株MB106の濃縮細胞1Lを容器に添加して、イソブテンの生産を開始した。
【0210】
その時点で、3-メチルクロトン酸の濃度は231mMであった。
経時的な排ガスの組成を
図5に示す。
3-メチルクロトン酸が培養培地で検出されなくなったら、イソブテンの生産を停止した。
【0211】
[実施例2]
1Lリアクターでの3-メチルクロトン酸(3-methycrotonic acid)からのイソブテンの生産
【0212】
インキュベーションステップを次の条件下、1L容器で実行した:
【0213】
【表1】
インキュベーション培地は以下で構成された:
【0214】
【0215】
出口ガス(IBN、CO2)および3-メチルクロトン酸消費を経時的監視した。
【0216】
結果を、
図6(イソブテン(IBN)および3-メチルクロトン消費速度を示す)、
図7(IBN総生産量、および100%の3-メチルクロトン酸がイソブテン(IBN)に変換されることを示す)および
図8(1vvmでガス供給するインキュベーションと対比して高濃度のIBNおよびCO
2が、ガス供給しないおよび<0.1vvmでガス供給するインキュベーション中にそれぞれ生産されることを示す)に示す。
【0217】
要約:
ガス供給が低い(0.05vvm)かまたはガス供給がない(0vvm)場合:
・IBN濃度が高い(および、したがって精製しやすい)
・燃焼/爆発のリスクがない
ことが示された。
【0218】
[実施例3]
3-メチルクロトン酸精製、プロセス1
【0219】
15リットル発酵槽を、実施例1に記載した条件に従って処理した。バイオマスを遠心分離によって除去し、29g/L 3-メチルクロトン酸(3 methylcrotonate)の上清10.8Lを得た。次いで、得られた上清を、蒸発ステップの前にpHがpH3.5に調整されるまで98%硫酸270gを添加して酸性化した。
【0220】
加熱温度80℃、冷却温度10℃、および圧力150mbarでロタベーパーR300(Buchi)を使用して蒸発を行った。3-メチルクロトン酸の結晶をコンデンサーで回収した。結晶を水で洗浄して除去し、蒸留物と混合した。残留物が粘稠になるまで蒸発を行った。3-メチルクロトン酸24.5g/Lを含有する蒸留物11.7kgを回収した。
【0221】
次いで、pHを9.1の値に調整するために、3M水酸化ナトリウム600gを蒸留物に添加した。固体が残留物中に現れるまで、加熱温度80℃、冷却温度10℃、および圧力150mbarで蒸発を行なった。35w%の3-メチルクロトン酸ナトリウム900gを回収した。
【0222】
20%硫酸488gおよび80%硫酸11gを添加し、3-メチルクロトン酸を沈殿させた。スラリーをブフナー漏斗で濾過し、57w%3-メチルクロトン酸の湿った固体488gを得た。
【0223】
[実施例4]
3-メチルクロトン酸精製、プロセス2
【0224】
15リットル発酵槽を、実施例1に記載した条件に従って処理した。バイオマスを遠心分離によって除去し、27.3g/L 3-メチルクロトン酸(3 methylcrotonate)の上清7.1Lを得た。次いで、3M水酸化ナトリウム204gを添加してアルカリ化を行って、pHをpH9.0に調整した。
【0225】
加熱温度80℃、冷却温度10℃、および圧力150mbarでロタベーパーR300(Buchi)を使用して蒸発を行った。蒸発は、固体が残留物中に現れるまで行なった。3-メチルクロトン酸117g/Lを含有する蒸留物1.4kgを回収した。
【0226】
蒸留物を10℃に冷却し、ブフナー漏斗で濾過した。
【0227】
次いで、pHを3.78に調整するために、98%硫酸165gを残留物に添加した。固体が残留物中に現れるまで、加熱温度80℃、冷却温度10℃、および圧力150mbarで蒸発を行なった。35w%の3-メチルクロトン酸ナトリウム900gを回収し、52w%3-メチルクロトン酸の湿った固体146gを得た。
【0228】
[実施例5]
3-メチルクロトン酸精製、プロセス3
【0229】
200mL、ガラス製ジャケット型撹拌セルに、21g/L 3-メチルクロトン酸(3 methylcrotonate)を含有する清澄ブロス40mL(実施例1に従って得られた)を導入した。次いで98%硫酸を添加して、ブロスをpH=2に酸性化した。次いで溶媒40mLを1/1vol%/vol%比で細胞に添加した。以下の溶媒をこの実験でテストした:
2-オクタノール(CAS番号:123-96-6)
イソドデカン(IDD、CAS番号:31807-55-3)
ヘプタン酸(CAS番号:111-14-8)
4-メチル-2-ペンタノン(CAS番号:108-10-1)
【0230】
細胞の温度を20℃に設定し、混合物を2時間強く撹拌した。次いで16時間にわたって2つの液相を形成させる間に撹拌を止めた。最後に、各相を別々に回収し、秤量した。
次いで各相を次のように分析した:
水相は次のように分析した:
・LC-RID:3-メチルクロトン酸の定量化
・200℃での乾燥質量
有機相は次のように分析した:
・Karl Fisher法:水の定量化
・200℃での乾燥質量
【0231】
測定した分配係数(K)を次の表に示す:
【0232】
【0233】
これは、テストした4種類の溶媒が、発酵ブロスからの3-メチルクロトン酸の液液抽出に効率的に使用され得ることを示している。
【0234】
3-メチルクロトン酸を、2.5w%3-メチルクロトン酸、1.1w%酢酸の清澄発酵ブロス1kgから抽出した。1kg 2-オクタノールを添加し、16時間にわたり撹拌した。デカンテーション後、有機相の質量は1.03kgであった。組成は、97.1w%2-オクタノール、2.3w%プレン酸(prenic acid)、0.5w%酢酸、0.02w%水であった。この混合物を、21理論段のバッチカラムに圧力100mbar、還流比2で蒸留した。第1の画分は、2-オクタノール、酢酸および水を含有した:それらの組成は、2-オクタノールのみが蒸留カラムの最上部で回収されるまで経時的に変化した。温度が蒸留カラムの中央で上昇したら(プレン酸も蒸発したことを示している)、還流比を5まで強化した。35%2-オクタノールおよび65%プレン酸を含有する中間体画分を回収した。次の画分は、99.9%のプレン酸4.9gでできていた。
【0235】
[実施例6]
3-メチルクロトン酸のイソブテンへの熱変換
【0236】
上の実施例3~5で得られる3-メチルクロトン酸を70℃の温度まで溶かし、撹拌タンクリアクター、管状リアクター)に送液した。リアクターは、最低220℃の温度および10~30バールの圧力で作動した。3-メチルクロトン酸は、気体形態のイソブテンおよび二酸化炭素に変換される。
【0237】
[実施例7]
3-メチルクロトン酸のイソブテンへの熱変換
【0238】
3-メチルクロトン酸を100℃で溶かし、連続的にポンピングした。これを85℃まで予熱し、流速22g/hでリアクターに送液した。リアクターは2mmのガラスビーズを含有する管状リアクターである(280mL-1インチ径)。リアクター圧力は15バールであり、温度は290℃である。リアクター後、ガスが液体を通過しなければならないように、2種類の液体トラップ(連続的に水およびエタノールおよび水でできた)を添加した。115分実行後、試料を分析した。3-メチルクロトン酸からイソブテンへの収量が95%であることを示す、CO2と比べたイソブテン比は、65(GCでの面積比)と測定される。GC-MSによって分析したトラップ中の収集された液体は、わずかな不純物しか示さない。一部の3-メチルクロトン酸はリアクターに残留する。これは、イソブテンへの変換率が100%より少ないことを説明している。
【0239】
[実施例8]
3-メチルクロトン酸のイソブテンへの熱変換
【0240】
3-メチルクロトン酸を100℃で溶かし、連続的にポンピングした。これを85℃まで予熱し、流速22g/hでリアクターに送液した。リアクターは2mmのガラスビーズを含有する管状リアクターである(280mL-1インチ径)。リアクター圧力は25バールであり、温度は290℃である。リアクター後、ガスが液体を通過しなければならないように、2種類の液体トラップ(連続的に水およびエタノールおよび水でできた)を添加した。70分実行後、試料を分析した。3-メチルクロトン酸からイソブテンへの収量は101%と測定される。GC-MSによって分析したトラップ中の収集された液体は、わずかな不純物しか示さない。一部の3-メチルクロトン酸はリアクターで回収される。
【0241】
[実施例9]
アセチルCoAからの3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の生産
【0242】
この実施例は、外因性遺伝子を発現する組換え大腸菌(E. coli)株による3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の生産を示し、それによって3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸経路を成す。
【0243】
ほとんどの微生物と同様に、大腸菌(E. coli)はグルコースをアセチルCoAに変換する。アセチルCoAを3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸に変換する(
図2)ためにこの試験で使用された酵素を以下に要約する。
【0244】
9.1 大腸菌(E. coli)での3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸生合成経路の発現
次の遺伝子を、大腸菌(E. coli)での発現のためにコドン最適化し、GeneArt(Life Technologies)によって合成した:
- クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のthl(Uniprotアクセッション番号P45359)
- エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)由来のmvaS(Uniprotアクセッション番号P54874)
ミクソコッカス・ハンスプス(Myxococcus hansupus)由来のグルタコン酸CoAトランスフェラーゼの2つのサブユニットをコードするaibAおよびaibB(Uniprotアクセッション番号A0A0H4WQB1およびA0A0H4WWJ4)
- 大腸菌(Escherichia coli)(株K12)由来のtesB(Uniprotアクセッション番号P0AGG2)
- ミクソコッカス・ザンサス(Myxococcus xanthus)由来のliuC(Uniprotアクセッション番号Q1D5Y4)。
【0245】
pSC101の複製起点を含有する発現ベクター(参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC320470/)を、国際公開第2017/085167号パンフレット、実施例12に記載された手順に従い(一方ではFDC1遺伝子の組み込み、他方ではliuC遺伝子によるech遺伝子の置換を除いて)遺伝子:mvaS、Ech、aibA、aibB、menI、liuCの発現に使用した。組換えpGB 5550プラスミドを配列決定によって検証した(配列番号1)。
【0246】
株MG1655を、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のthl遺伝子のssrS遺伝子座への組み込みによって改変した。
【0247】
酢酸へのアセチルCoA変換を低減するために、ackA、ptaおよびpoxB遺伝子の欠失を行った。遺伝子ldhAも欠失させて乳酸生産を低減した。得られた株(GBI19706)をエレクトロコンピテントにし、プラスミドpGB 5550で形質転換した。
【0248】
形質転換細胞、株SB1653を次いでLBプレートに入れ、スペクチノマイシンを供給した。プレートを一晩、30℃でインキュベートした。単離したコロニーを使用して以下に記載される前培養物を調製した。
【0249】
9.2 フェドバッチモードでの3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の生産
1L容器を、5g/L酵母抽出物、10g/Lトリプトン、50mMグルタミン酸ナトリウム、4mM硫酸マグネシウム、5mM硫酸ナトリウム、10mM硫酸アンモニウム、25mMリン酸二水素カリウムおよび25mMリン酸水素二ナトリウムを含有する培養培地0.5Lで満たし、121℃で20分間滅菌した。冷却後、濾過滅菌したビタミンを、チアミンについては0.6mM、パントテン酸カルシウム(calcium panthotenate)については5mMの最終濃度で添加し、濾過滅菌したスペクチノマイシン50mg/Lも培養培地に導入した。濾過滅菌した微量金属も、10μM塩化鉄III、4μM塩化カルシウム、2μM塩化マンガン、2μM硫酸亜鉛、0.4μM塩化銅および0.4μMモリブデン酸ナトリウムの最終濃度で添加した。次いで、濾過滅菌したグルコースを1g/Lの最終濃度で添加した。
【0250】
バッチ培養培地に加えて、2種類のフェドバッチ溶液を調製した。第1のフェドバッチ溶液は、濾過滅菌した250g/L酵母抽出溶液であった。第2のフェドバッチ溶液は、50μM塩化鉄III、20μM塩化カルシウム、10μM塩化マンガン、10μM硫酸亜鉛、2μM塩化銅および2μMモリブデン酸ナトリウムの最終濃度で5g/L硫酸マグネシウム七水和物、20g/lグルタミン酸ナトリウムおよび微量金属も含有する600g/Lグルコース溶液であった。
【0251】
培養培地に、30℃の50mMグルタミン酸ナトリウムおよび50mg/Lスペクチノマイシンを含有するLB培地で前もって増殖させた株SB1653の前培養物500mLを接種した。温度を32℃で30時間保ち、次いで34℃まで上げた。通気を2vvmに設定し、溶解酸素を飽和度5%で維持するように撹拌を制御した。pHを6.5に制御した。
【0252】
培養の8時間後、12時間後および16時間後に、酵母抽出溶液10mLを毎回添加した。並行して、培養の開始8時間後にグルコースフェドバッチを開始し、1時間あたりの乾燥細胞重量1gあたり0.08gグルコースで、特定の供給速度を22時間維持した。
【0253】
次いで、供給速度を上げて4g/l/hグルコースを送達し、後に低レベルのグルコースおよび酢酸を培養培地で維持するように調整した。3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸生産をHPLCによって監視し、所望の産物の代わりに酢酸が蓄積し始めたら発酵を停止した。
【0254】
発酵を停止したとき、その時点で80g/Lを超える3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸が生産された。
【0255】
9.3 準連続モードでの3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の生産
1L容器を、15g/L酵母抽出物、13.4g/lグルタミン酸ナトリウム、2.2g/l硫酸マグネシウム、0.85g/lリン酸二水素カリウムおよび1.1g/lリン酸水素二ナトリウムを含有する培養培地0.5Lで満たし、121℃で20分間滅菌した。冷却後、濾過滅菌したビタミンを、チアミンについては0.6mM、パントテン酸カルシウム(calcium panthotenate)については5mMの最終濃度で添加し、濾過滅菌したスペクチノマイシン50mg/Lも培養培地に導入した。濾過滅菌した微量金属も、10μM塩化鉄III、4μM塩化カルシウム、2μM塩化マンガン、2μM硫酸亜鉛および0.4μM塩化銅の最終濃度で添加した。次いで、濾過滅菌したグルコースを5g/Lの最終濃度で添加した。
【0256】
バッチ培養培地に加えて、2種類のフェドバッチ溶液を調製した。第1のフェドバッチ溶液は、濾過滅菌した600g/Lグルコース溶液であった。第2のフェドバッチ溶液は、0.85g/lリン酸二水素カリウム、1.1g/lリン酸水素二ナトリウム、2g/L硫酸マグネシウム七水和物、50μM塩化鉄III、20μM塩化カルシウム、10μM塩化マンガン、10μM硫酸亜鉛および2μM塩化銅を含有する生理食塩水であった。培養物の体積を約0.5リットルに維持しながら細胞を再利用し、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸を含有する透過液を得るために、1L容器をvivaflow 200 PES(200cm2、0.2μ)モジュール(Sartorius)に接続した。
【0257】
培養培地に、30℃で、50mMグルタミン酸ナトリウムおよびスペクチノマイシンを含有するLB培地で前もって増殖させた株(SB1653)の前培養物500mLを接種した。温度32℃に保った。通気を0.5vvmに設定し、溶解酸素を飽和度5%で維持するように撹拌を制御した。pHを、30%アンモニア溶液および5Mリン酸を使用して7.5に制御した。
【0258】
培養の7.5時間後にグルコース5g/lを添加した。次いで、培養の9時間後にグルコース3g/l/hの供給を7時間適用した。培養の16時間後に、1時間あたりの乾燥細胞重量1gあたり0.3gグルコースの特定の供給を適用した。
【0259】
3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸生産をHPLCによって監視し、発酵を停止したとき、12Lを超える3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸溶液が生産された。
【0260】
[実施例10]
濃度による3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸(HMB)の精製
【0261】
実施例9.2に記載したように得た、48g 3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸(HMB)を含有するブロス590mlを遠心分離した。上清を回収し、濃縮硫酸でpH3.3にした。次いで、Buchi 300エバポレーターを50℃、20mbarの圧力下で使用して、酸性化ブロスを90mlに濃縮した。濃縮物を遠心分離して固体を除去し、同様の方法で上清を35mlの体積に再び蒸発させた。この新たな濃縮物も遠心分離し、最終的に、18g HMB(684g/L)を含有する26mlの均一な上清を回収した。
【0262】
[実施例11]
液体抽出による3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸(HMB)の精製
【0263】
実施例9.3に記載したように得た、177g 3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸(HMB)および約153g 酢酸を含有する透過液11.9L、pH7.6を、80℃、180mbarの圧力下でBuchi 300エバポレーターを使用して1.7Lに濃縮した。濃縮物を濃縮硫酸でpH3.84にし、次いで2回、1回目の1.3L、次いで1.1L MIBK(メチルイソブチルケトン)で抽出した。2つのMIBK層を一緒にし、Buchi 300エバポレーターを85℃で、最初は150mbar、オペレーションの最後は10mbarに下げた圧力下で使用して蒸発させた。93g HMBおよび10g酢酸を含有する125mlの液相(132g)を回収した。
【配列表】
【国際調査報告】