(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】オリゴ糖を生成するための、ラクトース内部移行の低減を保有する微生物細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20231220BHJP
C12P 19/44 20060101ALI20231220BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P19/44
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537997
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2021087337
(87)【国際公開番号】W WO2022136568
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511149751
【氏名又は名称】クリスチャン.ハンセン・ハー・エム・オー・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレリクマン,ヘニング
(72)【発明者】
【氏名】トレッチェル,クリスティアーン
(72)【発明者】
【氏名】ワルテンベルク,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】イェネバイン,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF04
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA21
4B065CA41
(57)【要約】
目的のオリゴ糖を産生するための遺伝子操作された微生物細胞であって、ラクトースの輸送活性の低下を示す大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体を保有する、遺伝子操作された微生物細胞、及び前記遺伝子操作された微生物細胞を使用することによってオリゴ糖を生産する方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のオリゴ糖を生産するための遺伝子操作された微生物細胞であって、外因性ラクトースを内部移行するためのラクトースパーミアーゼを含み、前記ラクトースパーミアーゼが、大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較してラクトースの内部移行の低下を示す大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体である、遺伝子操作された微生物細胞。
【請求項2】
大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体が、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項1に記載の遺伝子操作された微生物細胞。
【請求項3】
大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体が、配列番号1で表されるラクトースパーミアーゼに関するアミノ酸位置292、293及び293の少なくとも1つに塩基性アミノ酸残基を含む、請求項1又は2に記載の遺伝子操作された微生物細胞。
【請求項4】
塩基性アミノ酸残基が、アルギニン、ヒスチジン及びリジンからなる群より選択される、請求項3に記載の遺伝子操作された微生物細胞。
【請求項5】
a)請求項1~4のいずれか一項に定義される大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体をコードするヌクレオチド配列、
b)a)のヌクレオチド配列のいずれか1つに相補的なヌクレオチド配列;
c)a)又はb)に記載のヌクレオチド配列のいずれか1つと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列
からなる群のヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物細胞。
【請求項6】
大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体をコードするヌクレオチド配列が、発現制御配列に作動可能に連結されている、請求項5に記載の遺伝子操作された微生物細胞。
【請求項7】
-ヌクレオチド活性化糖の細胞内生合成のための少なくとも1つの代謝経路;及び
-ドナー基質としてのヌクレオチド活性化単糖からアクセプター分子としてのラクトース又はオリゴ糖に単糖部分を細胞内転移するための少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼ、
をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物細胞。
【請求項8】
目的のオリゴ糖の生産のための請求項1~7のいずれか一項に記載の遺伝子操作された微生物細胞の使用であって、目的のオリゴ糖が、その還元末端にラクトース部分を含む、使用。
【請求項9】
目的のオリゴ糖を生産するための方法であって、目的のオリゴ糖が、微生物細胞において合成され、
-請求項1~7のいずれか一項に定義されるオリゴ糖の細胞内生合成のための遺伝子操作された微生物細胞を提供すること;
-培地中、外因性ラクトースの存在下で、及び細胞が目的のオリゴ糖を細胞内合成することを可能にする条件下で、遺伝子操作された細胞を培養すること;及び
-培養培地又は細胞から目的のオリゴ糖を回収すること
を含む、方法。
【請求項10】
オリゴ糖が、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、2’,3-ジフコシルラクトース(DFL)、ラクト-N-トリオースII、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNFP-I)、ラクト-N-ネオフコペンタオースI(LNnFP-I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFP-II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP-III)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFP-V)、ラクト-N-ネオフコペンタオースV(LNnFP-V)、ラクト-N-ヘキサオース(LNH)、ラクト-N-ネオヘキサオース(LNnH)、パララクト-N-ヘキサオース(paraLNH)、パララクト-N-ネオヘキサオース(paraLNnH)、ジフコシル-ラクト-N-ネオヘキサオース(DF-LNnH)、ラクト-N-ジフコシルヘキサオースI、ラクト-N-フコシルヘキサオースII、パララクト-N-フコシルヘキサオース(paraLNH)、フコシル-ラクト-N-シアリルペンタオースa(F-LST-a)、フコシル-ラクト-N-シアリルペンタオースb(F-LST-b)、フコシル-ラクト-N-シアリルペンタオースc(F-LST-c)、フコシル-ラクト-N-シアリルペンタオースc、ジシアリル-ラクト-N-フコペンタオース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(3F-3’-SL)、3-フコシル-6’-シアリルラクトース(3F-6’-SL)、ラクト-N-ネオジフコヘキサオースI、3’-シアリルラクトース(3-SL)、6’-シアリルラクトース(6-SL)、シアリルラクト-N-テトラオースa(LST-a)、シアリルラクト-N-テトラオースb(LST-b)、シラクト-N-テトラオース(LST-c)、ジシアリルラクト-N-テトラオース(DS-LNT)、ジシアリル-ラクト-N-フコペンタオース(DS-LNFP V)、ラクト-N-ネオジフコキサオースI(LNnDFH I)、3’-ガラクトシルラクトース(3’-GL)、6’-ガラクトシルラクトース(6’-GL)からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物細胞によるラクトースの内部移行に関する。より具体的には、本発明はラクトース死滅(lactose killing)の現象に関し、微生物細胞のラクトース死滅を低減又は緩和するための手段及び方法を提供する。本発明はまた、オリゴ糖及び複合糖質の生産において、ラクトース死滅に耐性である微生物細胞を使用する利点に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物(糖類とも呼ばれる)は、単糖、二糖、オリゴ糖及び多糖の4つの化学群に分類される生体分子である。炭水化物は、タンパク質若しくはポリペプチドに結合している(糖タンパク質と呼ばれる)又は脂質に結合している(糖脂質と呼ばれる)場合、遊離形態又は複合糖質の形態で存在し得る。炭水化物の別の分類は、それらの生理学的効果に基づく。単糖類を人体に提供する炭水化物は、「消化可能な」炭水化物として定義され、「消化不可能な」炭水化物は、ヒトの小腸での消化に抵抗性である。
【0003】
オリゴ糖は、炭水化物の中で多様な分子群を構成する。本明細書で使用される場合、「オリゴ糖」という用語は、典型的には、グリコシド結合によって互いに結合している、少なくとも3つの単糖部分からなるが、12以下の単糖部分、好ましくは10以下の単糖部分からなる高分子糖分子を指す。オリゴ糖は、単糖部分の直鎖からなっていてもよく、又は分枝分子であってもよく、少なくとも1つの単糖部分は、グリコシド結合によってそれに結合した少なくとも3つの単糖部分を有する。オリゴ糖の単糖部分は、アルドース(例えば、アラビノース、キシロース、リボース、デスオキシリボース、リキソース、グルコース、イドース、ガラクトース、タロース、アロース、アルトロース、マンノース)、ケトース(例えば、リブロース、キシルロース、フルクトース、ソルボース、タガトース)、デオキシ糖(例えば、ラムノース、フコース、キノボース)、デオキシ-アミノ糖(例えば、N-アセチルグルコサミン、N-アセチル-マンノサミン、N-アセチル-ガラクトサミン)、ウロン酸(例えば、ガラクツロン酸(galacturonsaure)、グルクロン酸(glucuronsaure))及びケトアルドン酸(例えば、N-アセチルノイラミン酸)からなる群から選択することができる。
【0004】
ビフィズス菌及び/又は乳酸桿菌によって選択的に代謝される能力を有する非消化性オリゴ糖は、プレバイオティクスと呼ばれる。プレバイオティックオリゴ糖を消費する利点には、便秘の軽減、結腸がんになるリスクの低減、胃腸管での病原体の阻害、ミネラル吸収の増加、免疫系の調節、短鎖脂肪酸及びビタミンの産生、血中コレステロール及び脂質のレベルの低下、並びに腸内の微生物バランスの改善が含まれる。プレバイオティックオリゴ糖の特定の群は、いわゆる「ヒトミルクオリゴ糖」(HMO)である。
【0005】
ヒトミルクオリゴ糖は、ヒトミルク中に存在する非消化性オリゴ糖の複合混合物を構成する。ヒトミルクは、そのオリゴ糖含有量及び組成に関して独特である。これまでに、150を超える構造的に異なるHMOが同定されている。大部分のHMOは、その還元末端のラクトース部分を特徴とする。多くのHMOは、非還元末端にフコース部分及び/又はシアル酸部分を含有する。より一般的に言えば、HMOが由来する単糖は、D-グルコース、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、L-フコース及びN-アセチルノイラミン酸である。
【0006】
プレバイオティックオリゴ糖は、チコリ及びアーチチョークなどの天然源から得ることができるか、又はインビトロで化学合成若しくは酵素的合成によって製造することができる。オリゴ糖、特にいくつかのHMOの工業規模の生産に関しては、HMOはそれらの天然源からはほとんど得ることができないので、目的のオリゴ糖が遺伝子操作された微生物細胞によって産生される発酵法が開発された。個々のHMOの工業規模の発酵生産により、これらのプレバイオティクス化合物は食品産業にとって利用可能になり、その結果、HMOは乳児用調製粉乳の栄養補助剤として利用可能になる。
【0007】
オリゴ糖の発酵生産、すなわち目的のオリゴ糖、特にHMOの生産において、遺伝子操作された細菌は、典型的には(i)外因性炭素源及び(ii)外因性ラクトースの存在下で培養される。本明細書で使用される「外因性」という用語は、目的のオリゴ糖を産生するための遺伝子操作された細菌の培養前及び/又は培養中に、遺伝子操作された細菌の培養培地中に存在する及び/又は添加される化合物を指す。典型的には、そのような化合物が培養培地に添加されるが、他の実施形態では、該化合物は、培養培地中に存在する及び/又は添加された微生物細胞によって産生もされ得る。ラクトースは、HMOの還元末端で二糖部分を構成し、典型的には、遺伝子操作された細菌により細胞内で合成される個々のHMOを有するための出発分子である。
【0008】
ラクトース(β-D-ガラクトピラノシル-(1→4)-D-グルコース)は、乳畜のミルク中に見出される天然に存在する糖である。ラクトースは、グルコース部分とガラクトース部分とから構成される二糖である。乳児哺乳動物は、母親により授乳され、ラクトースが豊富な乳を飲む。乳児の腸内では、酵素のラクターゼ(β-D-ガラクトシダーゼ)がラクトースをその構成成分である単糖類のグルコースとガラクトースとに加水分解し、これを吸収することができる。大腸菌(Escherichia coli)を含む多くの腸内細菌は、炭素源としてグルコースを好み、グルコースが利用できない場合、ラクトースを効果的に消化することができる。
【0009】
ラクトース部分をその還元末端に有する目的のオリゴ糖の微生物細胞による細胞内生合成のために、ラクトースがその単糖に分解されないか又は過度に分解されずに、前記オリゴ糖生合成に利用可能になるように細胞内ラクトースプールを確立することが望ましい。細胞内ラクトースプールを提供する1つの選択肢は、ラクトースを分解又は変換する酵素をコードする細菌の(1又は複数の)内因性遺伝子の欠失又は機能的不活性化である。例示的な遺伝子は、大腸菌(E.coli)のlacZ及び/又はlacAである。lacZ遺伝子はラクトースを加水分解するβ-ガラクトシダーゼ(LacZ)をコードし、lacAはアセチル-CoAからβ-ガラクトシドにアセチル基を転移する酵素であるβ-ガラクトシドトランスアセチラーゼ(LacA)をコードする。
【0010】
しかしながら、微生物細胞内の細胞内ラクトースプールを増加させることには欠点が伴う。そのような欠点の1つは、ラクトース死滅と呼ばれる現象である。ラクトース死滅は、大腸菌(E.coli)がラクトース限定増殖培地からラクトース含有増殖培地に移されると、細菌細胞膜を横切るラクトースの急速な内部移行のために、それらの大部分が死滅する特異な現象である。ラクトース死滅の現象は、微生物細胞が発酵培地に接種されたときに前記発酵培地がラクトースを含有するか、及び/又はラクトースが発酵の過程で連続的又は少なくとも1回のボーラスのいずれかで発酵培地に添加されるかどうかにかかわらず、外因性ラクトースが発酵培地に大量に供給される発酵スキームを使用した、還元末端にラクトース部分を有するHMOなどのオリゴ糖の発酵生産に特に関連する。ラクトース死滅は、ラクトースが発酵培地に供給されたときに発酵槽内の微生物細胞培養物の増殖及び生産性を少なくとも遅らせるので、目的のオリゴ糖又は複合糖質の発酵生産のために、ラクトース死滅に耐性である微生物細胞を使用することが望ましい。
【0011】
特殊製品の微生物生産のためのラクトース死滅の欠点を克服する試みにおいて、国際公開第2016/075243号は、ラクトース輸送体の発現レベルがラクトース負荷に耐え、前記ラクトース輸送体の野生型発現カセットにより得られたラクトース流入の少なくとも50%を保持する微生物をもたらすように、微生物内のラクトース輸送体の発現を改変させることによって微生物をラクトース死滅に耐性にすることを提案している。
【0012】
しかしながら、ラクトースパーミアーゼと、bglオペロン及び他の非PTS糖パーミアーゼ発現の調節にも関与するホスホエノールピルビン酸:炭水化物ホスホトランスフェラーゼ系の酵素IIIGlcとが相互作用することが知られているので、細菌細胞におけるLacYなどのラクトースパーミアーゼの発現レベルの低下は、細菌細胞の増殖に影響を及ぼし得る。
【0013】
その観点から、ラクトース死滅には耐性であるが、ラクトースパーミアーゼの発現レベルの低下による有害作用の影響を受けない微生物株を開発することが望ましい。
【0014】
驚くべきことに、微生物細胞において野生型LacYの代わりにLacYラクトースパーミアーゼの特定の変異体の発現がラクトース死滅に対する微生物細胞の耐性を増加させるが、LacY及びその変異体の発現レベルがそのままで変化しないこと、並びにそのようなLacY変異体を保有する微生物細胞がオリゴ糖の発酵生産に有用であることが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の態様では、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼの変異体が提供される。
【0017】
第2の態様では、野生型大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼの変異体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子が提供される。
【0018】
第3の態様では、ラクトースを内部移行することができ、野生型大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体を保有する、遺伝子操作された細菌細胞が提供される。
【0019】
第4の態様では、目的のオリゴ糖の生産のための、野生型大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体を保有する遺伝子操作された細菌細胞の使用が提供される。
【0020】
第5の態様では、目的のオリゴ糖を生産する方法であって、前記目的のオリゴ糖が、野生型大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体を保有する、遺伝子操作された細菌細胞において合成される方法が提供される。
【0021】
第6の態様では、細菌細胞におけるラクトース死滅の影響を緩和する方法であって、細菌細胞の内因性ラクトースパーミアーゼを、野生型大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体と置き換えることを含む方法が提供される。
【0022】
第7の態様では、内部移行されたラクトースからの細胞内オリゴ糖生合成の有効性を改善するための方法であって、野生型大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体によって置き換えられた内因性ラクトースパーミアーゼを有する、遺伝子操作された細菌細胞の使用を含む方法が提供される。
【0023】
第8の態様では、細菌細胞において目的のオリゴ糖を生産する信頼性を改善する方法であって、目的のオリゴ糖の細胞内生合成のための宿主細胞である遺伝子操作された細菌細胞の使用を含み、前記細菌宿主細胞が、野生型大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体によって置き換えられた内因性ラクトースパーミアーゼを有する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】UniProt Knowledgebase Databaseに存在する大腸菌(E.coli)K12株ラクトースパーミアーゼLacYのアミノ酸配列(エントリ番号P02920;エントリバージョン180;UniProtリリース番号2020年10月07日の2020_05)であり、添付の配列表の配列番号1としても存在する。
【
図2】Sondej,M.and Seok,Y.-J.,Phosphotransferase System by Cysteine Scanning Mutagenesis of E.coli Lactose Permease;Proc.Natl.Acad.Sci.(1999)96:7,3525-3530から適合させた、大腸菌(E.coli)細胞の細胞質膜内の大腸菌(E.coli)K12株ラクトースパーミアーゼLacYのトポロジーの概略図である。
【
図3】大腸菌(E.coli)野生型LacYと、大腸菌(E.coli)の野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)LacYの変異体との大腸菌(E.coli)内での相対的発現量を示すカラムチャートである。
【
図4】異なる量のラクトースの存在下での大腸菌(E.coli)細胞の増殖に対する、大腸菌(E.coli)の野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下しているLacY変異体の影響を示すカラムグラフである。
【
図5A】インビトロアッセイにおける大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacY及びラクトースの輸送活性が低下しているその変異体の輸送活性を示すカラムグラフを示す。
【
図5B】インビトロアッセイにおける大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacY及びラクトースの輸送活性が低下しているその変異体の輸送活性を示すカラムグラフを示す。
【
図6】大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacY又はラクトースの輸送活性が低下しているその変異体を発現する細菌株のLNT生産性を示すグラフである。
【
図7】LNT生産中の、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacY又はラクトースの輸送活性が低下しているその変異体を発現する細菌細胞の増殖動態を示すグラフである。
【
図8】異なるラクトースパーミアーゼ変異体の疎水性及び予測される膜貫通ドメインを表す図である。
【
図9】異なるラクトースパーミアーゼ変異体の疎水性及び予測される膜貫通ドメインを表す図である。
【
図10】ラクトースパーミアーゼ変異体の疎水性及び予測される膜貫通ドメインを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
驚くべきことに、大腸菌(Escherichia coli)ラクトースパーミアーゼLacYの特定の変異体は、大腸菌(Escherichia coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性の低下を示し、大腸菌(E.coli)LacYのそのような変異体を保有する大腸菌(E.coli)細胞はラクトース死滅に対する感受性が低いため、そのような変異体を、培養培地への外因性ラクトースの添加を必要とするオリゴ糖の発酵生産に有利に使用できることが本発明者らによって見出された。
【0026】
第1の態様によれば、野生型大腸菌(E.coli)LacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの変異体が提供される。変異体の輸送活性の低下は、野生型ラクトースパーミアーゼLacYの代わりにそのような変異体を保有する大腸菌(E.coli)細胞によるラクトース内部移行レベルの低下を引き起こす。
【0027】
大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYは、いわゆる主要促進因子スーパーファミリー(major facilitator superfamily)(E.C.2.A.1.5.1)の膜タンパク質である。LacYは、β-ガラクトシド及びプロトンを細胞内に共輸送するために細胞膜を横切るプロトン勾配を利用する共輸送体である。したがって、LacYは、ラクトース、メリビオース、ラクツロース及び類似体のメチル-1-チオ-β,D-ガラクトピラノシド(TMG)を輸送することができるが、スクロース又はフルクトースを輸送することはできない。大腸菌(E.coli)野生型LacYのβ-ガラクトシド輸送活性の動態を表1に示す。
【0028】
【0029】
大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYは、膜輸送の分子詳細を理解する上でプロトタイプとなっている。そのアミノ酸配列、すなわち、「野生型」大腸菌(E.coli)LacYのアミノ酸配列は、
図1に示され、配列番号1で表される、大腸菌(E.coli)K12株(UniProtKB-P02920、1986年7月21日にUniProtKB/Swiss-Protデータベースに統合、2020年6月17日に最終修正)のLacYのアミノ酸配列である。大腸菌(E.coli)LacYは、417アミノ酸残基長のアミノ酸鎖からなるタンパク質であり、計算質量は46,503Daである。大腸菌(E.coli)野生型LacYは、膜貫通ヘリックス優先性及び予測膜貫通ヘリックス位置をグラフの下側のボックスに示す
図9A及び
図10Aから推測することができるように、膜タンパク質二次構造予測サーバーSPLIT 4.0(splitbioinf.pmfst.hr/split/4/)によって予測される12個の膜貫通ドメインを含む。大腸菌(E.coli)野生型LacYのより詳細なトポロジーを表2に提供し、
図2に示す。
【0030】
大腸菌(E.coli)LacYの突然変異誘発分析により、いくつかのアミノ酸残基がラクトース輸送の機能性を維持するために置き換え不可能であることが明らかになった。これらのアミノ酸残基及びラクトース輸送におけるそれらの機能を表3に提供する。
【0031】
【0032】
【0033】
大腸菌(E.coli)LacYの突然変異誘発分析からも、特定のアミノ酸残基がラクトース輸送に必須ではないと思われることが明らかになった。これらの非必須アミノ酸残基を表4に特定する。
【0034】
【0035】
大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼの変異体は、同じ大腸菌(E.coli)株で本質的に同じレベルで発現された大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの内部移行が低下している。大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼの変異体によるラクトースの内部移行レベルは、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼによって提供されるラクトース内部移行レベルと比較して、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%低下する。いくつかの実施形態では、大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体によるラクトースの内部移行レベルは、大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較して、5mMの外因性ラクトース濃度で約30%低下する。「約30%」という用語は、範囲の下端で26%、27%、28%又は29%、上端で34%、33%、32%又は31%と理解される。
【0036】
ラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)LacYの変異体は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と比較して、大腸菌(E.coli)野生型LacYと少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0037】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、ラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)LacYの変異体は、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYの膜貫通ヘリックスIX中に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、LacYの膜貫通ヘリックスIX中のアミノ酸置換は、膜貫通ヘリックスIX中の1つ以上の中性アミノ酸残基のそれぞれを、塩基性アミノ酸残基で置換することである。
【0038】
特定の実施形態では、膜貫通ヘリックスIX中のアミノ酸置換は、ロイシン残基(Leu、L)の少なくとも1つを塩基性アミノ酸残基で置き換えることを含むか、又はそれからなる。膜貫通ヘリックスIX中の前記ロイシン残基は、
図1及び配列番号1に示されるように、大腸菌(E.coli)野生型LacYに関して292、293及び294の位置にあるロイシン残基である。塩基性アミノ酸残基は、アルギニン(Arg、R)、リジン(Lys、K)及びヒスチジン(His、H)からなる群より選択されるアミノ酸である。
【0039】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)LacYの変異体は、そのような変異体が、大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較して292、293及び294の位置の少なくとも1つに塩基性アミノ酸残基を保有することを条件として、本明細書において前述したLacY(L292R)、LacY(L292K)、LacY(L292H)、LacY(L293R)、LacY(L293K)、LacY(L293H)、LacY(L294R)、LacY(L294K)、LacY(L294H)及びそれらの変異体からなる群から選択される。したがって、大腸菌(E.coli)野生型LacYの変異体は、括弧内に示されるように、大腸菌(E.coli)野生型LacYに関する位置にアミノ酸置換を有する。
【0040】
好ましい実施形態では、大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)LacYの変異体は、293位(大腸菌(E.coli)野生型LacYに関して)のロイシン残基のアルギニン残基による置換(LacY(L293R)と命名される)を含む。
【0041】
さらなる実施形態及び/又は代替的な実施形態では、大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)LacYの変異体は、SPLIT 4.0サーバー(splitinfo.pmfst.hr/split/4/)を使用して分析した場合、大腸菌(E.coli)野生型LacYにおいて膜貫通ドメインIXとXとを互いに分離するペリプラズムループP9を表すアミノ酸配列が、膜貫通ドメインIXとXとを互いに分離するアミノ酸のストレッチとしてもはや同定されず、その結果、変異体の予測されたトポロジーが膜貫通ドメインIXとXとの単一の膜貫通ドメインへの融合を示すという点で、大腸菌(E.coli)野生型LacYの膜トポロジーと比較して改変された膜トポロジーを示す。したがって、これらの変異体は、非膜貫通ループによって互いに分離された合計11個の膜貫通ドメインを示す。
【0042】
大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較してラクトースの内部移行レベルが低下している大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体は、前記変異体の機能性断片、すなわち、配列番号1で表されるアミノ酸配列と比較した場合、N末端及び/若しくはC末端が切断されているか、並びに/又はアミノ酸配列内に欠失を示すが、ラクトース輸送活性を示すラクトースパーミアーゼも含む。いくつかの実施形態では、切断型は、配列番号1のL292、L293及びL294に対応するロイシン残基の少なくとも1つが塩基性アミノ酸残基で置換されていることを含む。塩基性アミノ酸残基は、アルギニン(Arg、R)、リジン(Lys、K)及びヒスチジン(His、H)からなる群より選択されるアミノ酸である。
【0043】
驚くべきことに、膜貫通ヘリックスIXのアミノ酸配列中の3つのロイシン残基のうちの1つ以上のそれぞれが塩基性アミノ酸残基で置換されていることを含む大腸菌(E.coli)LacYの変異体は、大腸菌(E.coli)野生型LacYを発現する大腸菌(E.coli)細胞と比較して、前記変異体を発現する大腸菌(E.coli)細胞によるラクトースの内部移行レベルの低下をもたらすことが見出された。しかしながら、ラクトースの内部移行は、本明細書において前述した大腸菌(E.coli)LacYの変異体の1つを発現する細菌細胞において無効にはされない。
【0044】
第2の態様では、大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較してラクトースの輸送活性レベルが低下している大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子が提供される。大腸菌(E.coli)野生型LacYをコードするヌクレオチド配列を配列番号2で表す。大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼの変異体をコードするヌクレオチド配列は、本明細書において前述したLacY変異体のいずれか1つをコードするヌクレオチド配列である。
【0045】
いくつかの実施形態では、大腸菌(E.coli)LacYの変異体をコードするヌクレオチド配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列に関して292、293及び294のアミノ酸位置のうちの1つ以上について、ロイシン残基をコードするコドン(すなわち、CT(A/C/G/T)又はTT(A/T))の代わりに、CGA、CGC、CGG、CGT、AGA、AGG、AAA、AAG、CAC及びCATからなる群より選択されるコドンを含む。
【0046】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼの変異体をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2で表されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0047】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、核酸分子は、大腸菌(E.coli)野生型LacYと比較して輸送活性が低下していて、かつ配列番号2で表されるヌクレオチド配列、及び/又は配列番号1で表されるアミノ酸配列に関して292、293及び294の位置の1つ以上のアミノ酸残基をコードするコドンが塩基性アミノ酸残基をコードするコドンで置き換えられている、配列番号2で示されるヌクレオチド配列の変異体で表されるヌクレオチド配列を含む核酸分子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするラクトースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0048】
本明細書で使用される「ハイブリダイズする」という用語は、Sambrookら(Molecular Cloning.A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd edition,1989)に記載されているように、従来の条件下、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることを意味する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、例えば、65℃において4×SSC中でハイブリダイズし、その後、65℃において0.1×SSC中で合計1時間の複数回の洗浄である。あまりストリンジェントではないハイブリダイゼーション条件は、例えば、37℃において4×SSC中でハイブリダイズし、その後、室温において1×SSC中での複数回洗浄である。本明細書で使用される「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という用語はまた、0.25M リン酸ナトリウム、pH 7.2、7% SDS、1mM EDTA及び1% BSA中68℃において16時間ハイブリダイズし、その後68℃において2×SSC及び0.1% SDSで2回洗浄することも意味し得る。
【0049】
核酸分子は、組換え又は合成の核酸分子である。核酸分子は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はリガーゼ連鎖反応(LCR)によって得られるアンプリコンなどの直鎖状核酸分子、酵母人工染色体などの染色体として存在してもよく、又はプラスミド、コスミド若しくは細菌人工染色体などの環状核酸分子として存在してもよい。
【0050】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、ラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)LacYの変異体をコードするヌクレオチド配列は、前記核酸分子を含有する遺伝子操作された微生物細胞において、ラクトースパーミアーゼをコードする前記ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を行う発現制御配列に作動可能に連結される。
【0051】
本明細書で使用される「作動可能に連結される」という用語は、ラクトースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列と、第2のヌクレオチド配列である、ラクトースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列に対応する核酸の転写及び/又は翻訳に影響を及ぼす核酸発現制御配列(例えば、プロモーター、オペレーター、エンハンサー、調節因子、転写因子結合部位、転写ターミネーター、リボソーム結合部位のアレイ)との間の機能的連結を指す。したがって、「プロモーター」という用語は、通常DNAポリマーにおいて遺伝子に「先行」し、mRNAへの転写の開始部位を提供するDNA配列を示す。「調節因子」DNA配列もまた、通常所与のDNAポリマーにおいて遺伝子の「上流側」にあり(すなわち、先行し)、転写開始の頻度(又は速度)を決定するタンパク質に結合する。集合的に「プロモーター/調節因子」又は「制御」DNA配列と呼ばれ、機能性DNAポリマー中の選択された遺伝子(又は一連の遺伝子)に先行するこれらの配列は、遺伝子の転写(及び最終的な発現)が起こるかどうかを決定するために協働する。DNAポリマー中で遺伝子の後に「続き」、mRNAへの転写の終結のためのシグナルを提供するDNA配列は、転写「ターミネーター」配列と呼ばれる。
【0052】
第3の態様によれば、遺伝子操作された微生物細胞、好ましくは目的のオリゴ糖を生産するための遺伝子操作された微生物細胞が提供され、前記微生物細胞はラクトースを内部移行することができ、すなわち該微生物細胞は、ラクトースが微生物細胞の環境に存在する場合にラクトースを内部移行する。遺伝子操作された微生物細胞は、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下している、ラクトースの内部移行のためのラクトースパーミアーゼの変異体を保有する。
【0053】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、本明細書において前述したラクトースパーミアーゼを保有する。好ましくは、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼは、膜貫通ドメインIX中のロイシン残基の少なくとも1つが塩基性アミノ酸に置き換えられた大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体である。
【0054】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、微生物細胞は、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較して輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含有する。大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較して輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子は、ラクトースパーミアーゼの発現のためのものである。大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較して輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼの発現のために、核酸分子のヌクレオチド配列は発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0055】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較して輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼ以外の他のいかなるラクトースパーミアーゼも保有しない。
【0056】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、ヌクレオチド活性化糖の細胞内生合成のための少なくとも1つの代謝経路を含む。ヌクレオチド活性化糖は、GDP-フコース、CMP-NeuNAc、UDP-ガラクトース、UDP-グルコース、GDP-マンノース、UDP-グルコサミン又はUDP-ガラクトサミン、UDP-N-アセチルガラクトサミン、UDP-N-アセチルグルコサミンであり得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作された微生物細胞は、ドナー基質としてのヌクレオチド活性化単糖から単糖部分をアクセプター分子に転移するための少なくとも1つのグリコシルトランスフェラーゼを含む。グリコシルトランスフェラーゼは、フコシルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、マンノシルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼからなる群から選択され得る。アクセプター分子は、ラクトース及び還元末端にラクトース部分を有するオリゴ糖からなる群から選択される。
【0058】
第4の態様によれば、目的のオリゴ糖の生産のための、本明細書において前述した遺伝子操作された微生物細胞の使用が提供される。
【0059】
本明細書で使用される場合、「目的のオリゴ糖」という用語は、産生されることが意図されているオリゴ糖を指す。
【0060】
本明細書で使用される「オリゴ糖」という用語は、3~20個の単糖残基からなる糖分子を指し、前記単糖残基のそれぞれは、グリコシド結合によって前記単糖単位の少なくとも1つの他のものに結合している。オリゴ糖は、単糖残基の直鎖であってもよいし、単糖残基の分枝鎖であってもよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、目的のオリゴ糖は、その還元末端にラクトース部分を含むオリゴ糖である。さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、所望のオリゴ糖は、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)である。
【0062】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、所望のオリゴ糖は、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、2’,3-ジフコシルラクトース(DFL)、ラクト-N-トリオースII、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNFP-I)、ラクト-N-ネオフコペンタオースI(LNnFP-I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFP-II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP-III)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFP-V)、ラクト-N-ネオフコペンタオースV(LNnFP-V)、ラクト-N-ヘキサオース(LNH)、ラクト-N-ネオヘキサオース(LNnH)、パララクト-N-ヘキサオース(paraLNH)、パララクト-N-ネオヘキサオース(paraLNnH)、ジフコシル-ラクト-N-ネオヘキサオース(DF-LNnH)、ラクト-N-ジフコシルヘキサオースI、ラクト-N-フコシルヘキサオースII、パララクト-N-フコシルヘキサオース(paraLNH)、フコシル-ラクト-N-シアリルペンタオースa(F-LST-a)、フコシル-ラクト-N-シアリルペンタオースb(F-LST-b)、フコシル-ラクト-N-シアリルペンタオースc(F-LST-c)、フコシル-ラクト-N-シアリルペンタオースc、ジシアリル-ラクト-N-フコペンタオース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(3F-3’-SL)、3-フコシル-6’-シアリルラクトース(3F-6’-SL)、ラクト-N-ネオジフコヘキサオースI、3’-シアリルラクトース(3-SL)、6’-シアリルラクトース(6-SL)、シアリルラクト-N-テトラオースa(LST-a)、シアリルラクト-N-テトラオースb(LST-b)、シラクト-N-テトラオース(LST-c)、ジシアリルラクト-N-テトラオース(DS-LNT)、ジシアリル-ラクト-N-フコペンタオース(DS-LNFP V)、ラクト-N-ネオジフコヘキサオースI(LNnDFH I)、3’-ガラクトシルラクトース(3’-GL)、6’-ガラクトシルラクトース(6’-GL)からなる群から選択されるHMO及び/又はオリゴ糖である。
【0063】
遺伝子操作された微生物宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞であり得る。適切な微生物宿主細胞には、酵母細胞、細菌細胞、古細菌細胞及び真菌細胞が含まれる。
【0064】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、原核細胞は細菌細胞、好ましくはバチルス属(Bacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、マイクロモノスポラ属(Micromonospora)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ロドコッカス属(Rhodococcus)及びスポロラクトバチルス属(Sporolactobacillus)からなる群から選択される属の細菌から選択される細菌細胞である。適切な細胞種は、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)、B.コアギュランス(B.coagulans)、B.サーモフィルス(B.thermophilus)、B.ラテロスポルス(B.laterosporus)、B.メガテリウム(B.megaterium)、B.ミコイデス(B.mycoides)、B.プミルス(B.pumilus)、B.レンタス(B.lentus)、B.セレウス(B.cereus)、B.サーキュランス(B.circulans)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、B.インファンティス(B.infantis)、B.ビフィダム(B.bifidum)、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)、クロストリジウム・セルロリティクム(Clostridium cellulolyticum)、C.ユングダリ(C.ljungdahlii)、C.オートエタノゲナム(C.autoethanogenum)、C.アセトブチリカム(C.acetobutylicum)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、E.サーモフィルス(E.thermophiles)、大腸菌(Escherichia coli)、エルウィニア・ハービコラ(Erwinia herbicola(パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)))、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、L.サリバリウス(L.salivarius)、L.プランタルム(L.plantarum)、L.ヘルベティカス(L.helveticus)、L.デルブルエッキィ(L.delbrueckii)、L.ラムノーサス(L.rhamnosus)、L.ブルガリカス(L.bulgaricus)、L.クリスパタス(L.crispatus)、L.ガセリ(L.gasseri)、L.カゼイ(L.casei)、L.ロイテリ(L.reuteri)、L.ジェンセニー(L.jensenii)、L.ラクティス(L.lactis)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)、ペクトバクテリウム・カルトボラム(Pectobacterium carotovorum)、プロピオニバクテリウム・フリューデンレイッヒイ(Proprionibacterium freudenreichii)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、P.エルギノーザ(P.aeruginosa)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)及びキサントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)である。
【0065】
さらなる実施形態及び/又は代替の実施形態では、真核細胞は酵母細胞、好ましくはサッカロミセス属(Saccharomyces sp.)、特に、サッカロミセス・セレビシイ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミコプシス属(Saccharomycopsis sp.)、ピキア属(Pichia sp.)特にピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ属(Hansenula sp.)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces sp.)、ヤロウィア属 Yarrowia sp.)、ロドトルラ属(Rhodotorula sp.)、及びシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces sp.)からなる群から選択される酵母細胞である。
【0066】
別の態様によれば、目的のオリゴ糖の生産方法であって、目的のオリゴ糖が遺伝子操作された微生物細胞中で/遺伝子操作された微生物細胞によって合成される方法が提供される。次いで、方法は、目的のオリゴ糖を合成するための遺伝子操作された微生物細胞を提供することを含み、ここで、該遺伝子操作された微生物細胞は、本明細書において前述した遺伝子操作された微生物細胞である。遺伝子操作された微生物細胞は、培養培地において、遺伝子操作された微生物細胞が目的のオリゴ糖を合成するのに適した条件下で培養される。目的のオリゴ糖の生合成のために、遺伝子操作された微生物細胞は外因性ラクトースの存在下で培養される。本方法は、遺伝子操作された微生物細胞によって合成された目的のオリゴ糖を回収する工程をさらに含む。目的のオリゴ糖は、遺伝子操作された微生物細胞及び/又は培養培地から回収される。
【0067】
別の態様によれば、細菌細胞のラクトース死滅の影響を緩和するための方法であって、細菌細胞の内因性ラクトースパーミアーゼを、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼと置き換える工程を含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、ラクトースパーミアーゼは、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下しており、本明細書において前述した大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼの変異体である
【0068】
いくつかの実施形態では、内因性ラクトースパーミアーゼを、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼと置き換えることは、微生物細胞の(1又は複数の)内因性ラクトースパーミアーゼ遺伝子を、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子で置き換えることによって行われる。
【0069】
細菌細胞の内因性ラクトースパーミアーゼを、大腸菌(E.coli)野生型ラクトースパーミアーゼLacYと比較してラクトースの輸送活性が低下しているラクトースパーミアーゼと置き換えることは、外因性ラクトースに曝露された場合、特に高濃度の外因性ラクトースに曝露された場合、細菌細胞の死滅を低減又は防止する。ラクトース死滅に対する微生物細胞の耐性を評価するために使用される場合の「高濃度のラクトース」という用語は、微生物細胞を培養するための培養培地中少なくとも5mM、好ましくは約10mM、より好ましくは約20mM、最も好ましくは約25mMのラクトース濃度を意味する。
【0070】
別の態様によれば、微生物細胞中で、又は微生物細胞によって目的のオリゴ糖を生産する有効性及び/又は信頼性を改善する方法であって、遺伝子操作された微生物細胞を、目的のオリゴ糖の生合成のために外因性ラクトースの存在下で培養スル必要がある方法が提供される。この方法は、目的のオリゴ糖の生産のために本明細書において前述した微生物細胞を提供する工程を含む。前記微生物細胞は、ラクトースの輸送活性が低下している大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの変異体を保有する。微生物細胞は、外因性ラクトースを内部移行することによって目的のオリゴ糖を合成することができる。微生物細胞は、大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYを保有する微生物細胞と比較して、微生物細胞によるラクトース内部移行レベルが低いため、外因性ラクトースの添加/存在に対する感受性が低い。したがって、微生物細胞の培養及び/又は微生物細胞によるオリゴ糖の産生は、外因性ラクトースの存在及び/又は添加に対する感受性が低い。
【0071】
微生物細胞中又は微生物細胞によるオリゴ糖の産生をより効率的及び/又はより信頼性の高いものにすることは、大規模/工業生産方法において特に興味深い。「大規模」及び「工業的」という用語は、目的のオリゴ糖の生産を、100L、500L、1000L、5000L、1万L、5万L、10万L又はさらには20万Lを超える発酵ブロスの体積での微生物発酵によって行うことを示す。
【0072】
本発明を特定の実施形態に関して図面を参照して説明するが、本発明はそれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。さらに、明細書及び特許請求の範囲における第1、第2などの用語は、同様の要素を区別するために使用され、必ずしも時間的、空間的、序列的、又は他の様式で順序を説明するためのものではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で互換的であり、本明細書に記載の本発明の実施形態は、本明細書に記載又は図示されている以外の順序で作業できることを理解されよう。
【0073】
特許請求の範囲で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に限定されるものではなく、他の要素又は工程を排除するものではないと解釈されるべきであることに留意されたい。したがって、明言された特徴、整数、工程又は言及された構成要素の存在を指定するものとして解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程若しくは構成要素、又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではない。したがって、「手段A及びBを備える装置」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなる装置に限定されるべきではない。これは、本発明に関して、単に装置の関連構成要素がA及びBであることを意味する。
【0074】
本明細書を通して「一実施形態」又は「ある実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所における「一実施形態では」又は「ある実施形態では」という語句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではないが、そうであってもよい。さらに、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の実施形態において、本開示から当業者に明らかであるように、任意の適切な様式で組み合わせることができる。
【0075】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、本発明の様々な特徴は、本開示を簡素化し、様々な発明の態様のうちの1つ以上の理解を助ける目的で、単一の実施形態、図、又はその説明にまとめられることがあることを理解されたい。しかしながら、この開示方法が、特許請求される発明が、各請求項に明示的に列挙されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、本発明の態様は、単一の前述の開示された実施形態のすべての特徴よりも少ない。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の個別の実施形態として独立している。
【0076】
さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが、他の特徴を含まず、異なる実施形態の特徴の組み合わせは本発明の範囲内であり、当業者によって理解されるように、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のいずれも、任意の組み合わせで使用することができる。
【0077】
さらに、実施形態のいくつかは、コンピュータシステムのプロセッサによって、又は機能を実行する他の手段によって実施することができる方法又は方法の要素の組み合わせとして本明細書に記載されている。したがって、そのような方法又は方法の要素を実行するために必要な命令を有するプロセッサは、該方法又は方法の要素を実行するための手段を形成する。さらに、装置実施形態の本明細書に記載の要素は、本発明を実施する目的で要素によって実行される機能を実行するための手段の一例である。
【0078】
本明細書で提供される説明及び図面には、多数の具体的な詳細が記載されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細なしでも実施され得ることが理解されよう。他の例では、この説明の理解を不明瞭にしないために、周知の方法、構造、及び技術は詳細に示されていない。
【0079】
次に、本発明を、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明によって説明する。本発明の他の実施形態は、本発明の真の精神又は技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成することができ、本発明は添付の特許請求の範囲の用語によってのみ限定されることは明らかである。
【実施例】
【0080】
[実施例1] LC/MS分析
LCトリプル四重極MS検出システム(Shimadzu LCMS-8050)を使用した多重反応モニタリング(MRM)によって、生成されるラクト-N-テトラオースの同一性を判定した。前駆体イオンを選択し、四重極1で分析した後、アルゴンを用いた衝突誘起フラグメンテーション(CID)及び四重極3でのフラグメントイオンの選択を行った。中間体及び最終生成物代謝産物の選択されたトランジション及び衝突エネルギーを表5に列挙する。
【0081】
【0082】
粒子を含まない培養上清又は細胞質画分中のオリゴ糖LNTを、中性糖又は酸性糖の両方についてWaters XBridge Amide HPLCカラム(3.5μm、2.1Å 50mm)を使用する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分離した。0.1%(v/v)水酸化アンモニウムを含むH2Oの定組成流で中性糖を溶出した。HPLCシステムは、中性糖の溶出のために8℃で作動するShimadzu Nexera X2SIL-30ACMPオートサンプラー、Shimadzu LC-20ADポンプ、及び35℃で作動するShimadzu CTO-20ACカラムオーブンを包含し、酸性糖の溶出のために50℃に調整した。LNTの分析のために、1μlを機器に注入した。流速は、5分の実行時間に相当する0.3mL/分に設定した。LNTを負イオンモードで分析した。質量分析計をユニット分解能で操作した。衝突エネルギー、Q1及びQ3pre-biasを各分析物に対して最適化した。定量方法は、市販の標準(Carbosynth及びElicityl)を用いて確立した。
【0083】
[実施例2] 最小培養培地
所望のオリゴ糖を生産するために細胞を増殖させるために使用した培養培地は、3g/L KH2PO4、12g/L K2HPO4、5g/L(NH4)SO4、0.3g/L クエン酸、0.1g/L NaCl、2g/L MgSO4×7 H2O及び0.015g/L CaCl2×6 H2Oを含有し、1ml/Lの微量元素溶液(54.4g/L クエン酸アンモニウム鉄、9.8g/L MnCl2×4 H2O、1.6g/L CoCl2×6 H2O、1g/L CuCl2×2 H2O、1.9g/L MnCl2×4 H2O、1.1g/L Na2MoO4×2 H2O、1.5g/L Na2SeO3、1.5g/L NiSO4×6 H2O)を添加した。培地のpHを7.0に調整した。細胞による所望のオリゴ糖の合成及びラクトースに対する細胞の感受性を試験するために、ラクトースを10mM~25mMの濃度で培地に添加した。
【0084】
[実施例3] ラクトース感受性が低下したラクトース-N-テトラオース産生大腸菌(E.coli)株の生成
遺伝子操作によって、ラクトン-N-テトラオース(LNT)を産生することができる大腸菌(E.coli)BL21の代謝操作誘導体(DE3)を得た。ラクトースに対する前記細菌LNT産生株の感受性を低下させるために、この株の内因性lacY遺伝子を、ミスマッチオリゴヌクレオチドを使用することによって改変して、ラクトースパーミアーゼLacY(L293R)をコードするlacY変異体lacY(L293R)を作製した。
【0085】
発現分析のために、上述の突然変異誘発アプローチから得られた個々のクローンを、振盪フラスコ中の25mlの無機塩培地に接種した。各クローンの発現分析を3回反復で行った。細菌細胞を、120rpmで一定に撹拌しながら、30℃及び相対湿度80%で増殖させた。20時間の培養後、これらの前培養物の光学密度を決定し、本培養物を、25mlの無機塩培地中OD
600が0.05になるように播種した。本培養物を、前培養物を培養したのと同じ条件下で20時間培養した。次いで、細菌細胞を遠心分離によって回収し、RNAの抽出及びその後のqPCRによる発現分析に使用した。発現レベルの相対定量化を、比較Δサイクル閾値法を使用して行い、計算した相対発現値をgapAに対して正規化し、対照として使用した親株における発現レベルと比較した。結果を
図3に示す。LacY(
図3、カラムA)の相対発現は、LacY(L293R)の相対発現と同レベルであった(
図3、カラムB)。したがって、ラクトースパーミアーゼ変異体LacY(L293R)をもたらす突然変異をlacY遺伝子に導入しても、それぞれのラクトースパーミアーゼ遺伝子の発現は改変されなかった。
【0086】
LacY(L293R)を有する細菌LNT産生株のラクトース感受性を試験するために、前記株の個々のクローンを振盪フラスコ中の25mlの無機塩培地に接種した。細菌細胞を、120rpmで一定に撹拌しながら、30℃及び80%相対湿度で増殖させた。20時間の培養後、この前培養物の光学密度を決定し、本培養物を、25mlの無機塩培地中OD600が0.3になるように播種した。培養物の接種の2時間後にラクトースを培養培地に添加して、最終濃度を10又は25mMにした。ラクトース添加20時間後に、本培養物の光学密度(OD600)を決定した。
【0087】
光学密度を
図4に示す。この図により、LacYを保有する細菌株(黒色のカラム)が、培養培地中ラクトース非存在下でラクトースパーミアーゼ変異体LacY(L293R)を保有する細菌株(白色のカラム)と同様の増殖を示すことが明らかである(カラムのサブセットI)。10mMラクトース(カラムのサブセットII)又は25mMラクトース(カラムのサブセットIII)の存在下では、LacYを保有する細菌細胞の増殖は、ラクトースの非存在下での増殖と比較して大幅に減少したが、ラクトースパーミアーゼ変異体LacY(L293R)を保有する細菌細胞の増殖は、それらの培養培地中10mM又は25mMのラクトースの存在下で減少しなかった。
【0088】
[実施例4] 14C標識ラクトースを使用した、ラクトース導入量の定量
ラクトース輸送を測定するために、大腸菌(E.coli)ラクトースパーミアーゼLacYの異なる変異体を発現する大腸菌(E.coli)株を3ml LB培地に接種し、シェーカーにおいて37℃で20時間培養した。これらの培養物からの細菌細胞ペレットを使用して、振盪フラスコ中の100mlの最小培地に接種した。これらの培養物をシェーカーにおいて37℃で16時間インキュベートした。次いで、細菌細胞を遠心分離によって沈降させ、得られたペレットを新鮮な冷(4℃)培養培地で2回洗浄し、最後に冷培地に再懸濁した。細胞懸濁液の光学密度(OD600)を冷培地で5に設定し、内部移行アッセイに使用するまで細胞懸濁液を氷上で保存した。
【0089】
輸送アッセイの3分前に、細菌細胞を37℃のサーモブロックに入れた。輸送アッセイを、14C標識ラクトース及び非放射標識ラクトースの混合物を0.5mMラクトース及び50,000dpmの最終濃度まで添加することによって開始した。30秒のインキュベーション時間後、ニトロセルロースフィルター(細孔径0.22μM;Millipore、Eschborn、DE)を含むフィルターシステムを使用して細菌細胞をそれらの培地から分離することによって輸送アッセイを停止した。フィルター上の細菌細胞を100mM LiClで2回洗浄し、続いてフィルターを使用して、残存放射能をTricarb 2800シンチレーションカウンター(Perkin Elmar、Waltham、MA)において定量した。この目的のために、フィルターをシンチレーションチューブ内に移し、6mlのRotiszint eco plus(Roth、Karlsruhe、DE)を重ねた。
【0090】
実験の第2セットでは、輸送アッセイを、14C標識ラクトース及び非放射標識ラクトースの混合物を5mMラクトース及び550,000dpmの最終濃度まで添加することによって開始した。60秒のインキュベーション後、ろ過により細菌細胞を回収し、5mMの非標識ラクトースを含有する培地3mlで2回洗浄した。
【0091】
図5に見ることができるように、LacYを保有する細菌細胞(黒色のカラム)は、ラクトースパーミアーゼ変異体LacYを保有する細菌細胞(L293R)(白色のカラム)よりもはるかに多くの放射能が取り込まれており、
図5Aは0.5mMの外因性ラクトース濃度でのラクトース内部移行を示し、
図5Bは5mMの外因性ラクトース濃度でのラクトース内部移行を示す。したがって、ラクトースパーミアーゼ変異体LacY(L293R)は、LacYと比較して減少しているが検出可能な細菌細胞へのラクトース取り込みをもたらす。
【0092】
[実施例5] 実験室規模の発酵における、代謝操作された大腸菌(E.coli)によるラクト-N-テトラオース産生
細菌株によるラクトース取り込みの減少及びラクトース感受性の減少がそのオリゴ糖産生に及ぼす影響を小規模発酵で分析した。したがって、LacYを有する大腸菌(E.coli)株及びLacY(L293R)を有する大腸菌(E.coli)株によるLNTの発酵生産を3リットル規模で比較した。
【0093】
発酵の第1セットでは、各細菌株を、20mMラクトースを含有する発酵ブロス中の前培養物から接種した。LacY(L293R)を有する大腸菌(E.coli)株は増殖に何ら問題を示さなかったが、野生型LacYを有する大腸菌(E.coli)株(stain)は増殖に著しい遅延を示し(データ非掲載)、この実験アプローチはLNT産生を比較するのに適していないと言える。さらに、ラクトースレベルは、連続ラクトース供給(3.2ml/L/時)を適用することによって、OD600の逆行を引き起こすことなく、また、明らかなラクトースに起因する細胞溶解を引き起こすことなく、LacY(L293R)を有する大腸菌(E.coli)株の培養物において高く維持することができる。
【0094】
ラクトースの存在下でLacYを有する細菌の増殖の著しい遅延にもかかわらず、異なるLNT産生株のLNT産生を比較するために、ラクトースを欠く培養培地に菌株を接種した。これらの培養物では、ラクトース供給物(2.5ml/L/時)をバッチ相の終わりに開始した。しかしながら、より低いラクトース供給物を使用したにもかかわらず、OD600の低下が、LacYを有する大腸菌(E.coli)において40時間後に観察された。
【0095】
小規模発酵の結果を
図6及び
図7に表す。
図6は、LacYの代わりにLacY(L293R)を有する細菌株(x)と比較した、LacY を有する細菌株(●)のLNT産生の相対量を示し、それらの培養培地中での両株の増殖を
図7に示す。
【0096】
LacY を有するLNT産生株(●)の増殖は約25時間後に著しく損なわれるが、LacY(L293R)を有するLNT産生株(x)は発酵全体を通して規則的な増殖動態を示し、培養物の光学密度はより高くなる(
図7)。
【0097】
驚くべきことに、LacY(L293R)を有する株(x)から得られたLNTの収率は、
図6から推測できるように、LacY を有するLNT産生株(●)から得られた収率より高かった。LacYを有するLNT産生株を使用した120時間の発酵におけるLNT量を100%に設定した。
【0098】
LacY(L293R)を有する大腸菌(E.coli)株の、バッチ培地中のラクトースを処理する能力により、この株は、LNTの産生をより速く開始することができ、したがって、野生型LacYを有する対照株より多くのLNTを産生できる。しかしながら、ラクトース感受性の低下の最大の利点は、オリゴ糖産生のためにラクトースを供給した際の細胞溶解のリスク及び発酵の全損の可能性を巧みに回避する能力である。
【0099】
[実施例6] 大腸菌(E.coli)LacY変異体の膜トポロジーの決定
大腸菌(E.coli)野生型LacYの様々な変異体のアミノ酸配列が、以下の論文においてSPLIT 4.0サーバー(http://splitbioinf.pmfst.hr/split/4/)を使用してそれらの膜貫通二次構造の予測に供されており、その中に記載されている:
Juretic,D.,Zoranic,L.,Zucic,D.”Basic charge clusters and predictions of membrane protein topology” J.Chem.Inf.Comput.Sci.Vol.42,pp.620-632,2002.
Juretic,D.,Lee,B.K.,Trinajstic,N.,and Williams,R.W.”Conformational preference functions for predicting helices in membrane proteins.” Biopolymers 33,255-273(1993).
Juretic,D.,Lucic,B.,Zucic,D.and Trinajstic,N.”Protein transmembrane structure:recognition and prediction by using hydrophobicity scales through preference functions.” Theoretical and Computational Chemistry,Vol.5.Theoretical Organic Chemistry,pp.405-445.Editor:Parkanyi,C.,Elsevier Science,Amsterdam,1998.(SPLIT 3.1の結果がその論文に記載されている)
Juretic,D.,Zucic,D.,Lucic,B.and Trinajstic,N.”Preference functions for prediction of membrane-buried helices in integral membrane proteins.” Computers Chem.Vol.22,No.4,pp.279-294,1998.(SPLIT 3.1の結果が、同様にその論文に記載されている)
Juretic,D.and Lucin A.”The preference functions method for predicting protein helical turns with membrane propensity.” J.Chem.Inf.Comput.Sci.Vol.38,No.4,pp.575-585,1998.(SPLIT 3.5の結果がその論文に記載されている)
Juretic,D.,Jeroncic,A.and Zucic,D.”Sequence analysis of membrane proteins with the web server SPLIT.” Croatica Chemica Acta Vol.72,No.4,pp.975-997,1999.
Juretic,D.,Jeroncic,A.and Zucic,D.”Prediction of initiation sites for protein folding.” Periodicum Biologorum 101,No 4,339-347,1999.
【0100】
大腸菌(E.coli)野生型LacYの疎水性を
図8A及び
図9Aに示し、疎水性の評価により、曲線下のボックスI~XIIで示すように、ラクトースパーミアーゼ内に12個の膜貫通ドメインが存在することが明らかになった。変異体LacY(L293H)の疎水性の評価は膜貫通ドメインの数の変化を示さなかったが(
図9B)、大腸菌(E.coli)LacY変異体LacY(L293R)(
図9C)及びLacY(L293K)(
図9D)、並びに大腸菌(E.coli)LacY変異体LacY(L292R)(
図8B)、LacY(L294R)及びLacY(L292R)、LacY(L293R)、LacY(L294R)(
図10)は、膜貫通ドメインの予測においてペリプラズムループP9(
図2)が考慮されないような、大腸菌(E.coli)LacYに関して野生型膜貫通ドメインIX及びXの単一膜貫通ドメインへの融合をもたらす変化した疎水性を示すことが見出された。しかし、LacY変異体の膜トポロジーの予測変化は、大腸菌(E.coli)野生型LacYの膜トポロジーと比較して、LacY変異体によるラクトースの膜貫通輸送を完全には無効にしない。
【配列表】
【国際調査報告】