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特表2023-554534細胞のインビトロ輸送および保存のための培地
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】細胞のインビトロ輸送および保存のための培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20231220BHJP
   C12M 3/04 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C12N1/04
C12M3/04 Z
C12N11/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538052
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2021087010
(87)【国際公開番号】W WO2022136383
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】102338
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515189922
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー(エルアイエスティー)
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】モスキーニ,エリザ
(72)【発明者】
【氏名】ソウコウウリス,クリストス
(72)【発明者】
【氏名】セルシ,トマーゾ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC05
4B033NA16
4B033NB45
4B033NB54
4B033ND07
4B065AA90X
4B065AC14
4B065AC20
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、細胞のインビトロ保存および/または輸送に関し、以下の工程を含む:細胞を、液体形態かつ(A)カラギーナン、ジェランガムおよびコンニャクガムから選択される熱可逆性ゲル化多糖類、および(B)増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを含む水性熱可逆性ゲル化組成物と接触させる工程;温度を下げることによって前記組成物を熱ゲル化させる工程;得られたヒドロゲルに包埋されたインビトロ培養細胞を、得られたままの状態で保存および/または輸送する工程。本発明はまた、前記工程で使用される特定の熱可逆性ゲル化組成物にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のインビトロ貯蔵及び/又は輸送のための方法であって、以下の連続する工程を含む方法:
・工程1:細胞を水性熱可逆性ゲル化組成物Cと接触させる工程であって、
前記組成物Cは、液状であり、水性媒体中に
(A)カラギーナン、ジェランガム及びコンニャクガムから選択される熱可逆性ゲル化多糖類;及び
(B)増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースを含む、工程、
・工程2:工程1で得られた細胞と接触させた組成物Cを、温度を下げることによって熱ゲル化させる工程であって、それによって、細胞を包埋したヒドロゲルを得る工程、
・工程3:工程2で得られたヒドロゲルに包埋された細胞を保存及び/又は輸送する工程。
【請求項2】
工程3の後に、さらに以下の追加の工程4を含む、請求項1に記載の方法。
・工程4:温度を上げることによってヒドロゲルを液化する工程であって、それによって、細胞がヒドロゲルから放出される工程。
【請求項3】
組成物Cの水性媒体が、保存及び/又は輸送された細胞に適した培地である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程1が、30~60℃、好ましくは30~40℃の温度で実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程2が、30℃未満、好ましくは1~15℃の温度に下げることによって実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程4が、30~40℃、好ましくは34~39℃の温度で実施される、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程2と工程4の合計時間が4時間未満、好ましくは3時間未満である、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7の方法に適した組成物Cであって、水性媒体中に
(A)カラギーナン、ジェランガムおよびコンニャクガムから選択される熱可逆性ゲル化多糖類;および
(B)増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを含む、組成物C。
【請求項9】
化合物(A)がカラギーナン、より好ましくはカッパ-カラギーナンを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
化合物(B)が、2重量%の水中で25℃において40mPa・s未満の粘度を有するカルボキシメチルセルロースである、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
化合物(A)の全質量の化合物(B)の全質量に対する比A/Bが15:85~40:60である、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
化合物(A)および(B)の総濃度、すなわち、化合物(A)の質量プラス化合物(B)の質量の合計の、組成物(C)の総体積に対する比が、6~10g/L、好ましくは8~10g/Lである、請求項8~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
好ましくは1mM未満の含有量で、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)をさらに含む、請求項8~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
動物由来の物質を含まない、請求項8から13のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞のインビトロ輸送および保存に関し、より具体的には、輸送または保存操作の間に培養および/または単離された細胞のための適切な培地として有用なゲル化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インビトロで培養または単離された細胞を輸送する場合、細胞は、適切な培地中に保存し、長距離輸送および/または中間保存のような操作の間、それらの完全性および生存性を可能にしなければならない。
【0003】
この目的のために、ドライアイスまたは液体窒素上のクライオバイアル中での輸送方法が記載され、一般的に使用されてきたが、この凍結保存輸送は、ドライアイスおよび液体窒素の有害な性質による問題に加えて、高いコストを誘発する。さらに、これらの方法は、それらが使用され得る前に、それらの輸送後の細胞の長期間の適応(一般に、数日または数週間)を必要とする。
【0004】
あるいは、典型的には液体培地に囲まれた付着細胞または浮遊細胞を用いて、培養された状態での細胞の輸送が可能であるが、その場合、細胞の完全性および/または接着能力のようなその機能的能力に劇的に影響し得る輸送条件に極めて注意する必要がある。
【0005】
細胞の完全性および機能的能力を維持することは、(例えば、遺伝的、生化学的、代謝的または生理学的プロセスをモデル化するための)モデルとして使用されるインビトロ培養細胞、より一般的には、特定の支持体上で培養される細胞、および特にトランスウェル型支持体のような非対称支持体上に置かれた共培養細胞にとって特に重要である。その場合、各細胞の完全性が維持されなければならないだけでなく、特にモデルとして作用することが意図されている場合には、培養の全体の構造も維持されなければならない。
【0006】
前述の問題を回避するために、培養細胞を半固形培地、典型的にはゲル中で輸送する方法が開発されている。
【0007】
これに関連して、特に、非対称支持体上でインビトロで組織化された細胞培養を保存および/または輸送するためにゼラチンをベースとするゲル化組成物を利用する、特許文献1に記載された方法を参照することができる。特許文献1では、ゼラチンおよびゼラチンを含む培地でコーティングされた組織化された細胞培養を15~25℃の間の温度でゲル化し、同じ温度範囲での輸送/保存を可能にする。この方法は、得られたゲル化(ゲル化)が熱可逆的であるため、特に興味深い。すなわち、輸送/保存後、ゼラチンの液化を誘導する37℃で細胞を含む固化組成物をインキュベートするだけで、液化を容易に得ることができる。液化は、輸送/保存に使用された組成物の洗浄および培地への置換を可能にする。
【0008】
細胞を輸送/保存するためにゲルを利用する他の方法が記載されているが、ゲルは細胞を回収するために直接可逆的ではないので、それらは一般にあまり興味がない。
【0009】
一例として、特許文献2の方法は、化学的に分解または溶解される必要があるヒドロゲル、典型的にはアルギン酸塩をベースとする不可逆性ヒドロゲルを使用し、これは、モデルまたは共培養細胞のような複雑な培養の場合に、細胞および細胞培養構造に有害であり得る。
【0010】
アガロースをベースにしたゲルを用いる方法も検討されている。これらのゲルは熱可逆的であるが、液化(ゲル-ゾルプロセス)は、細胞の保存に適合しない高温(典型的には少なくとも50℃)を意味する。特定の方法は、特許文献3に記載されている。この方法では、アガロースを、低温(アガロースとアガラーゼの混合物が凝固すると細胞輸送が可能になる25℃以下)で不活性化され、37℃でのインキュベーションによって温度を上昇させることによって再活性化されるアガラーゼの混合物中で使用する。これは、ゲルのアガロースの酵素消化を導き、その液化を誘導する。この方法でも、細胞を回収するために追加の化合物が必要である。
【0011】
熱可逆性ゲルを使用する既存の方法、特に特許文献1に開示されたゼラチンを使用する方法、または特許文献3のアガロース-アガラーゼ混合物の使用に関する問題は、それらが、(i)ゲルの形成のための輸送/貯蔵の前(「ゾル-ゲル時間」)、および(ii)ゲルの液化のための輸送/貯蔵の後(「ゲル-ゾル時間」)の両方の時間を必要とすることである。ゾル-ゲル工程およびゲル-ゾル工程の持続時間のそれぞれは、典型的には数時間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第8,900,842号
【特許文献2】米国特許第10,655,120号
【特許文献3】米国特許第8,709,803号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の1つの目的は、細胞のインビトロ輸送および/または保存のための方法を提供することであり、これは、熱可逆性ゲルを利用する既存の方法の利点を有するが、ゲルを形成し、次いで細胞を回収するための短い作業時間を必要とし、特に特許文献1および特許文献3のゾル-ゲル工程およびゲル-ゾル工程の全持続時間より短い作業時間を必要とする。
【0014】
これに関連して、本発明は特に、例えばトランスウェル型支持体のような特定の、例えば非対称の支持体上で培養または共培養された細胞の輸送または保存に適した方法を提供することを目的とし、より一般的には、例えばモデルとして使用されることを意図した特定の構造を有する細胞培養に適した方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、本明細書において「組成物C」と呼ばれる特定の熱可逆性ゲル化組成物を利用する。本発明者らは、以下に記載する他の利点の中でも、この組成物Cが、例えば特許文献1に開示されているゼラチンをベースとする組成物と同様に、細胞の適切なインビトロ輸送および/または保存を特に可能にするが、ゾル/ゲルおよびゲル/ゾル工程の総持続時間がより短いことを見出した。
【0016】
より正確には、本発明の1つの主題は、細胞(典型的には培養または単離され、好ましくは培養された細胞)のインビトロでの保存および/または輸送のための方法であって、以下の連続する工程を含む方法である:
・工程1:細胞を水性熱可逆性ゲル化組成物Cと接触させ、
前記組成物Cは、液体形態であり、水性媒体中に以下を含む:
(A)カラギーナン、ジェランガムおよびコンニャクガムから選択される熱可逆性ゲル化多糖;および
(B)増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース;
・工程2:工程1で得られた細胞と接触させた組成物Cを、温度を下げることによって熱ゲル化させ、それによって細胞を包埋したヒドロゲルを得る;
・工程3:工程2で得られたヒドロゲルに包埋された細胞を保存および/または輸送する。
【0017】
ほとんどの場合、本発明の方法は、工程3の後に、以下の追加の工程4をさらに含む。
・工程4:温度を上げることによってヒドロゲルを液化し、それによって細胞がヒドロゲルから放出される。
【0018】
別の態様によれば、本発明の1つの特定の主題は、水性媒体中に以下を含む、上記の方法に有用な組成物Cである:
(A)カラギーナン、ジェランガムおよびコンニャクガムから選択される熱可逆性ゲル化多糖;および
(B)増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る組成物Cは、具体的には、水性媒体をベースとし、これは、一般に、塩または水溶性溶媒のような添加剤を含有することができる水をベースとする均一相である。組成物Cの水性媒体は、典型的には、組成物Cの総重量に基づいて少なくとも90重量%の水を含む。ほとんどの場合、水性媒体は、組成物Cの総重量に基づいて少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%、特に少なくとも98重量%の水を含む。
【0020】
典型的には、組成物Cの水性培地は、保存および/または輸送された細胞に適した培養培地である。本発明の方法の1つの利点は、実質的に任意の種類の水性培養培地を組成物Cの水性培地として使用することができることである。培地中に存在する塩の性質および濃度に応じて、比A/Bを適合させることができ、EDTAの存在が望ましいが、組成物Cの培地に関しては技術的な制限はない。
【0021】
典型的には、本発明に従って輸送および/または保存される細胞は、本明細書中で「初期培養培地」と呼ばれる、本発明の工程1に供される前に、培養培地に包埋されるか、または培養培地によってコーティングされる。ほとんどの場合、本発明に従って厳密に必要とされない場合であっても、方法は、有利には、初期培養培地の全てまたは一部が組成物Cによって置換される培地置換工程を含む。その場合、工程1は、典型的には、初期培養培地の全てまたは一部(および典型的には実質的に全て)を除去し、次いで、本発明に従って組成物Cを添加することによって実施することができる。その場合、組成物Cの水性培地は、典型的には、初期培養培地と同じ組成を有してもよいが、可能な変形に従って、組成物は、組成物Cにおいても異なり得る。
【0022】
本発明に係る組成物Cは、カラギーナン、ジェランガム、コンニャクガムから選ばれる熱可逆性ゲル化多糖(A)を主成分として含有する。この化合物(A)は、特に、工程2で形成され、工程3で使用されるヒドロゲルに適切な弾性を付与する。
【0023】
具体的な実施形態によれば、本発明に係る組成物C中に存在する化合物(A)は、カラギーナンである。別の実施形態はジェランガムを利用し、別の具体的な実施形態はコンニャクガムを使用する。
【0024】
特に好適な実施形態によれば、化合物(A)は、カラギーナンを含み、好ましくはカラギーナンである。カラギーナンは、好ましくは0.3重量%の水中、25℃で5~25mPa・sの粘度を有するカッパーカラギーナンであることが好ましい。本発明に従って有用なカラギーナンの溶解性は、典型的には、熱水中約5mg/mLである。本発明に従った好適なカッパ-カラギーナンは、例えば、Sigma Aldrichから入手可能な紅藻由来のカッパ-カラギーナン(CAS番号11114-20-8に対応する)またはデュポン社の市販品Grinsted、CWシリーズである。
【0025】
本発明に係る組成物Cの第2の成分は、カルボキシメチルセルロースである増粘剤(B)である。この第2の化合物(B)は、特に、工程2で形成され、工程3で使用されるヒドロゲルに適切な剛性を付与し、細胞の輸送および/または保存中のいかなる漏出も回避する。化合物(A)への弾性および成分(B)によって付与される剛性の関連付けにより、実質的にあらゆる種類の細胞の輸送を可能とする。例えば、非対称支持体上で共培養された細胞のような複雑な構造をもつ細胞培養であっても、細胞とその特性の両方が適切に保存され、培養構造における細胞の組織化も適切に保存されているため、長距離輸送が可能である。
【0026】
好ましくは、本発明に従って使用される化合物(B)は、25℃、水中4重量%で50~200mPa.sの粘度を有し、典型的には約40mg/mLの冷水への溶解度を有するカルボキシメチルセルロースである。好ましくは、本発明に従って有用なカルボキシメチルセルロースは、25℃、水中2重量%で40mPa.s未満の粘度を有する。
【0027】
適切なカルボキシメチルセルロースは、例えば、以下の市販製品を含む:
- FisherScientificからのLow Viscosity USP、Spectrum(登録商標);またはSigma-AldrichからのLow Viscosityカルボキシメチルセルロースナトリウム塩、のようなカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CAS番号9004-32-4に対応する);
- DupontからのAcqualon CMC 7L2、またはAcqualon CMC 7M2F。
【0028】
特に、適切な弾性および剛性を得るために、本発明の組成物Cにおいて、化合物(A)の総質量と化合物(B)の総質量の比A/Bが15:85~40:60、好ましくは20:80~40:60であることが一般的に好ましい。
【0029】
また、本発明に用いられる組成物Cにおいて、化合物(A)と(B)の合計濃度、すなわち、組成物(C)の総体積に対する化合物(A)の質量と化合物(B)の質量の合計の比は、好ましくは6~10g/L、例えば、好ましくは8~10g/Lである。
【0030】
本発明の組成物Cにおいて、化合物(A)の濃度は、典型的には1.5~4g/L、より好ましくは1.5~2.3g/Lである。また、化合物(B)の濃度は、一般的には6~8.5g/L、より好ましくは7.7~8.5g/Lである。
【0031】
可能な実施形態によれば、本発明による組成物(C)は、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)をさらに含むことができる。このキレート剤は、特に、化合物(A)がカッパ-カラギーナンである場合に凝集を引き起こすであろう、輸送/貯蔵中の生理学的細胞代謝に任意に由来する過剰なカチオンをキレート化することによって、工程4における脱ゲル化プロセスを助けるために特に有用であり得る。EDTAを使用する場合、組成物(C)におけるその含有量は、1mM未満であることが好ましい。
【0032】
本発明の1つの興味深い側面は、本発明の範囲で求められる結果を得るために必要な化合物が動物由来ではないことである。本発明の特に好ましい実施形態によれば、組成物Cは動物由来の物質を全く含まない。
【0033】
動物を含まないゲル化組成物を提供するこの可能性は、ブタ皮膚由来のゼラチンのようなゼラチンを使用する特許文献1に記載された方法と比較して、本発明のもう1つの大きな利点である。
【0034】
これは、第一に、倫理的観点からの改善を構成し、例えば、いわゆる3R原則(科学における動物使用の削減、改良及び代替)の目的を達成することを可能にする。これに関連して、本発明のインビトロ輸送及び貯蔵方法は、真の改善を構成し、インビトロシステムが依然として大きく依存していることが多い動物由来の製品を回避することを可能にする。特に、本発明は、以下の動物由来成分(本発明の組成物で使用される組成物中に存在しないことが好ましい)の存在を回避することを可能にする:ウシ胎児血清(FCS)、動物由来酵素、コラーゲン、ゼラチン。
【0035】
さらに、上記の倫理的配慮とは独立して、動物を使用しない技術的解決策を提供するために本発明によって提供される可能性は、より公平な技術的利点も有する。すなわち、動物由来の化合物が存在しないことは、動物の使用および異なるバッチの製品に関連する実験的変動性の減少を誘導する可能性もあり、より制御された製品を可能にし、下流の用途の最良の再現性および品質を保証する。さらに重要なことは、動物由来の化合物が存在しないことは、特にゼラチンの使用と比較した場合、汚染のリスクを低減することである。
【0036】
本発明の組成物Cは、必要に応じて、任意の動物由来の化合物の使用を回避することを可能にするので、この組成物は、任意の動物由来の化合物の使用を回避するグローバルプロセス内で有利に使用され得る。特に、具体的な実施形態によれば、本発明の組成物Cは、ウシ胎児血清などの血清を含有せず、かつこれと共に使用されない。
【0037】
これに関連して、組成物Cの水性培地として使用される培養培地は、例えば、血清を含まない以下の培地から選択することができる:
- STEMCELL TechnologiesからのPneumaCult(登録商標)-ALI培地およびサプリメント。
- STEMCELL TechnologiesからのPneumaCult(登録商標)-Ex培地およびサプリメント。
- STEMCELL TechnologiesからのStemSpan SFEM。
- STEMCELL TechnologiesからのSTEMdiff(登録商標)APEL(登録商標)培地。
- Lonza BioscienceからのX-VIVO 15。
- Lonza BioscienceからのXVivo 10。
- CorningからのCellGro DC。
- CellGenixからのCellGenix GMP DC、無血清。
- BiochromからのCD-U3 supplemented。
- PromoCellからのSmall Airway Epithelial Cell Growth Medium。
- MP BiomedicalsからのMPハイブリドーマ培地。
- EpithelixからのHuman Airway Epithelial Cell(hAEC)Culture Medium。
- EpithelixからのSmallAir培地。
- EpithelixからのMucilAir(登録商標)培地。
【0038】
さらに、好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、有利には、血清を添加せずに実施される。動物由来でない血清代替製品を使用することができ(前の段落に列挙した培地の1つが水性培地として使用される場合、それらは必要とされない)、例えば、以下を含む:
- Gibco(登録商標)からのKnockOut(登録商標)Serum Replacement。
- バイオサイエンスからのCellastim InVitria。
- 富士フイルム和光化学株式会社からのStemSure(登録商標)Serum Replacement。
- フナコシからの人工血清Xeno-freeまたはAnimal-free。
- PeproTechからのSerum Replacement Solution。
- CorningからのMITO+Serum Extender。
【0039】
より一般的には、本発明の目的は、水性媒体中で化合物A、Bおよび任意にEDTAをもっぱら使用することによって得ることができる。
言い換えれば、本発明による組成物Cは、他の化合物を含まないことが有利である。
特に、好ましい実施形態によれば、組成物Cは、以下の化合物の全部または一部を含まない(および好ましくは、それらのいずれも含まない):
- ゼラチン、例えば、より重要なゲル化および脱ゲル化時間を誘導するGPS(ブタ皮膚由来のゼラチン);
- アルギン酸塩および/またはペクチン(熱可逆性を脅かす多価イオンと相互作用する)。
- アガロースまたは寒天(ヒドロゲルの熱可逆性に必要な温度の上昇を誘導する)。
- 酵素
- FCS等の血清
- 抗生物質
【0040】
本発明に従って有用な組成物Cは、その組成に起因する別の利点を有する:化合物(A)および(B)ならびに任意のEDTAは水に非常に容易に溶解するので、本発明の組成物Cは、典型的には、化合物(A)および(B)に加えて任意のEDTAを水相に溶解させることによって、非常に簡単かつ迅速に調製することができ、例えば、50~60℃に加熱された水性媒体中に粉末形態の化合物を導入することによって(次いで、得られた組成物Cを細胞と接触させる前に冷却することによって)、完全かつ迅速な溶解が非常に容易に得られる。
【0041】
その正確な組成が何であれ、本発明による組成物Cは、非常に単純な方法で使用することができ、特に、工程2におけるヒドロゲル(半固体組成物)の取得および工程4におけるその液化(脱ゲル化)は、熱的に誘導されるだけであり、いかなる化学反応または酵素反応も必要としない。
【0042】
より正確には、工程2におけるヒドロゲルの獲得は、化合物Cのゲル化温度(典型的には約30℃である)未満に温度を低下させることによって得られる。
したがって、組成物Cが液体形態で使用される方法の工程1は、典型的には、30℃を超える温度、例えば30~60℃、好ましくは30~40℃、例えば34~39℃(典型的には約37℃)で実施される。工程2は、典型的には、温度を30℃未満、好ましくは20℃未満、例えば1~15℃(特に4~10℃)に下げることによって実施される。工程4における液化(脱ゲル化)は、逆に、ヒドロゲルを、やはり約30℃であるその液化温度以上に加熱することによって得られる。したがって、本発明の方法の工程4は、典型的には、温度を30℃以上、好ましくは30~40℃、例えば34~39℃(典型的には約37℃)に上げることによって実施される。
【0043】
典型的には、本発明による特定の組成物Cを用いると、ヒドロゲルの形成(ゾル/ゲル転移)は工程2で迅速に得ることができ、液化(ゲル/ゾル転移)も工程4で比較的迅速であり、工程2+工程4の合計時間は典型的には4時間未満であり、多くの場合3時間未満である。
【0044】
これは、先行技術において提案された方法、特に特許文献1に開示されているようなゼラチンを用いる方法、または特許文献3の混合物アガロース/アガラーゼを用いる方法と比較して大きな利点を構成する。なぜなら、ゾル/ゲル+ゲル/ゾル転移工程の合計時間は、これらの方法でははるかに長い(少なくとも5時間)からである。
【0045】
興味深い態様によれば、工程2は、90分未満で行うことができる。
【0046】
ヒドロゲルを形成するために工程2で必要とされる時間は、一般に、工程2で使用される温度が低下すると減少するが、開始温度、すなわち工程1で使用される温度にも依存する。工程2の低温および30~40℃の工程1の温度では、ヒドロゲルの形成は、典型的には30~60分以内またはそれ未満でさえ起こり得、特許文献1または特許文献3の方法では、少なくとも約2~3時間が系統的に必要とされるる。
同様に、興味深い実施形態によれば、本発明の方法の工程4は、150分未満で行うことができる。
【0047】
ヒドロゲルを形成するために工程2で必要とされる時間は、一般に、工程2で使用される温度が低下すると減少するが、開始温度、すなわち工程1で使用される温度にも依存する。工程2の低温および30~40℃の工程1の温度では、ヒドロゲルの形成は、典型的には60~120分以内、またはそれ以下で起こり得、特許文献1または特許文献3の方法では、少なくとも約3~4時間が系統的に必要とされる。
【0048】
化合物(A)および(B)によって付与される良好な機械的特性を考慮すると、工程4の輸送/保存のために長期間を考慮することができる。典型的には、工程4は少なくとも36時間まで実施することができ、これは細胞の長距離輸送を可能にする。
【0049】
本発明の方法は、以下を含む任意の種類の細胞の輸送を可能にする:
-単離された細胞または培養された細胞(単一培養および共培養を含む)
-遊離の非付着細胞(第1の場合、工程1と接触する際に、細胞は、典型的には、細胞のための分散媒体として作用する組成物C中に包埋される)、または支持体上の付着細胞(第2の場合、工程1と接触する際に、細胞は、典型的には、組成物Cでコーティングされる)。支持体は、特にインサート、フラスコ、多層プレート、ペトリ皿、または他のプラスチック製品を含む任意の種類のものであってよい。
【0050】
特に興味深い実施形態によれば、本発明に従って輸送および/または保存される細胞は、非対称支持体上、典型的にはトランスウェルインサートの両面上に付着した共培養細胞である。
【0051】
この可能な実施形態に対応する以下の実施例は、本発明を例示する。
【実施例
【0052】
この例では、以下の細胞株を使用した:A549、EA.hy926、THP-1およびMΦ-THP-1。それらのそれぞれの特徴は以下のとおりである:
細胞株A549は、界面活性剤を産生する能力を有する肺胞II型ヒト上皮細胞に対応する;
EA.hy926細胞株は、内皮の特徴を有する体細胞ハイブリッドである;
THP-1は、ヒト単球白血病細胞株である;
MΦ-THP-1は、PMA(ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート)または1,25-ジヒドロキシビタミンD3で分化したTHP-1細胞由来のマクロファージである。
細胞は、以下のプロトコルに従って使用されている:
【0053】
1)非対称支持体上での細胞播種
細胞をT75フラスコ中で日常的に増殖させ、週に2回トリプシン処理する。
培地(細胞培養プレート、Transwell(登録商標)インサートまたは細胞培養フラスコのいずれか)を1日おきに交換する。細胞を37℃で5%COの加湿雰囲気中に維持し、マイコプラズマによる汚染について定期的に試験する。
【0054】
EA.hy926内皮細胞を反転したTranswell(登録商標)インサート(1.2×10細胞/cm;細孔径は1μm;0.3cm)上に播種する。インサートの基底側に付着したら、プレートを元の向きに戻し、上皮細胞(A549)をTranswell(登録商標)(0.83×10細胞/cm;0.3cm)上に播種する。上皮細胞および内皮細胞を、頂端側に200μL、基底側に900μLの培地を用いて、37℃で3日間増殖させる。
【0055】
使用した播種培地は、以下のように調製した。
新しいボトル(500mL)から62.5mLのDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)培地を除去し、50mLのFBS(10%)を添加し、次いで12.5mLのHEPES原液(1000mM;滅菌、濾過)を加えてHEPES緩衝培地(25mM)を得る。
【0056】
使用した共培養培地は以下のように調製した。
新しいボトル(500mL)から12.5mLのDMEM培地を除去し、12.5mLのHEPES原液(1000mM;滅菌、濾過)を加えて、HEPES緩衝培地(25mM)を得る。
混合して125mLを取り出す。
50mLのIMDM培地を添加し、次いで75mLのRPMI+Glutamax培地を添加する。
【0057】
2)本発明によるゲル化組成物の調製
紅藻由来のカッパ-カラギーナン(Sigma Aldrich)および本明細書中で「CMC」と呼ばれるカルボキシメチルセルロース(Sigma Aldrich由来のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩-CAS番号:9004-32-4、製品番号:C5678)を、以下の表に報告された異なる濃度で、上記のステップ1)で定義された共培養培地に溶解し、本発明による5つの組成物C1~C5を得た。
【0058】
【表1】
【0059】
粉末の形態のカッパ-カラギーナンおよびCMCを、培地中に60℃で撹拌しながら添加した。得られたゲル化組成物がまだ温かい(>50℃)とき、それらを滅菌真空濾過システム(孔径0.22μm)を用いて滅菌した。
【0060】
次いで、それらを適切な容量に等分し、10%の血清置換生成物を補充した。本発明による使用に先立って、ゲル化組成物を37℃にした。
【0061】
3)二培養ゲル化(本発明の工程1および工程2による)
細胞培養培地を、Transwell(登録商標)インサートの両側から除去し、段落2)に記載したように組成物C1と交換し、使用するまで37℃の水浴中に保持した(頂端側で300μLおよび基底側で900μL)。組成物C2~C5も同様に使用することができる。
層流フード下でマルチウェルプレートを開いたままにして60分間で温度を17~21℃に冷却し、次いで、プレートを閉じ、密封した。
【0062】
4)ゲル化した二培養の輸送/保存(本発明の工程3による)
得られたゲル化したプレートを、4℃~10℃の温度に維持された冷蔵ボックス内で24時間輸送した。
【0063】
5)二培養脱ゲル化(本発明の工程4による)
シールを除去し、ゲル化した二培養をインキュベーター(37℃、5%CO、95%湿度)に2時間入れた。液化した組成物をピペッティングによって除去し、インサートの両側を細胞培養培地で3回洗浄して、ゲルの潜在的な残留物を除去した。
【0064】
6)三培養組立
脱ゲル化した二培養から、以下のプロトコルに従って三培養を調製した。
THP-1から予め分化させたマクロファージ様細胞をPMAで剥離する。密度1.8×10細胞/mLの細胞懸濁液を調製する。。ゲルを除去した後、この懸濁液の200μLを各インサートの頂端側に置き、培地の900μLを側底側に置く。4時間後、マクロファージは付着するはずである。頂端側から培地を完全に除去し、基底側の培地を200μLに減らす(ALI条件を作り出す)。
【国際調査報告】