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特表2023-554545改変ミオスタチン遺伝子を有するトランスジェニック動物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】改変ミオスタチン遺伝子を有するトランスジェニック動物
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20231220BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20231220BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20231220BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20231220BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N5/07
C12N15/12
C12N15/86 Z
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558112
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 KR2021018176
(87)【国際公開番号】W WO2022119367
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0167296
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519397105
【氏名又は名称】ラート バイオ カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(71)【出願人】
【識別番号】523211420
【氏名又は名称】キュンサンブクド (キュンサンブクド ライブストック リサーチ インスティテュート)
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ゴー
(72)【発明者】
【氏名】キム、ギョン ミン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ドン ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジ ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ウォン ヨウ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジ ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ユム、スー ヨウン
(72)【発明者】
【氏名】ムーン、ジョーン ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジュン コー
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ダエ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ハ、ジェ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ダエ ヒュン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA41
4B065CA47
(57)【要約】
本願は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する動物又は細胞に関する。本願はまた、ミオスタチン遺伝子の12個の塩基対の欠失を操作して、動物又は細胞を構築することが可能な組成物を含んでもよい。本願はまた、筋肉を増大するための組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムにおいて人工改変されたミオスタチン遺伝子を備えるトランスジェニック動物であって、
人工改変は、前記ミオスタチン遺伝子の第2エクソンに位置付けられ、
前記人工改変は、野性型動物のミオスタチンのアミノ酸配列と比較して、前記第2エクソンの中で、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序のアミノ酸配列をエンコードする領域に対応する12個の塩基対の欠失であり、
前記トランスジェニック動物は、野性型動物より少ない前記ミオスタチン遺伝子のmRNAを発現させ、前記野性型動物と同じ配列の成熟ミオスタチンタンパク質を発現させる、
トランスジェニック動物。
【請求項2】
前記トランスジェニック動物はヒト以外の哺乳類である、
請求項1に記載のトランスジェニック動物。
【請求項3】
前記トランスジェニック動物は、ウシ亜科動物である、
請求項1に記載のトランスジェニック動物。
【請求項4】
前記ウシ亜科動物の体において発現されるプロミオスタチンタンパク質は、配列識別番号:30によって表されるアミノ酸配列を有する、
請求項3に記載のトランスジェニック動物。
【請求項5】
ゲノムにおいて人工改変されたミオスタチン遺伝子を備える操作された細胞であって、
人工改変は、前記ミオスタチン遺伝子の第2エクソンに位置付けられ、
前記人工改変は、野性型細胞のミオスタチンのアミノ酸配列と比較して、前記第2エクソンの中で、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序のアミノ酸配列をエンコードする領域に対応する12個の塩基対の欠失であり、
前記操作された細胞は、野性型細胞より少ない前記ミオスタチン遺伝子のmRNAを発現させ、前記野性型細胞と同じ配列の成熟ミオスタチンタンパク質を発現させる、
操作された細胞。
【請求項6】
前記細胞は、胚細胞、幹細胞、及び体細胞から選択される少なくとも1つである、
請求項5に記載の操作された細胞。
【請求項7】
前記細胞は、哺乳類から得られたものである、
請求項5または6に記載の操作された細胞。
【請求項8】
前記細胞は、ウシ亜科動物から得られたものである、
請求項5または6に記載の操作された細胞。
【請求項9】
前記操作された細胞の体において発現されるプロミオスタチンタンパク質は、配列識別番号:30によって表されるアミノ酸配列である、
請求項8に記載の操作された細胞。
【請求項10】
標的配列と相補結合を形成することが可能なガイド配列を有するガイドRNA、又はそれをエンコードするDNA;及び
Casタンパク質又はそれをエンコードする核酸配列;
を備え、
前記標的配列は、配列識別番号:38~配列識別番号:60から選択される1又は複数の配列を含み、
前記ガイド配列は、配列識別番号:62~配列識別番号:84から選択される1又は複数の配列を含む、
ミオスタチン遺伝子を改変するための組成物。
【請求項11】
前記Casタンパク質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9タンパク質、黄色ブドウ球菌由来のCas9タンパク質、及びCas12aタンパク質(従来のCPF1:プレボテラ及びフランシセラ1)から選択される、
請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、前記ガイドRNAをエンコードするDNA、及び前記Casタンパク質をエンコードするDNAを含むプラスミドベクターを備える、
請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物は、前記ガイドRNAをエンコードするDNA、及び前記Casタンパク質をエンコードするDNAを含むウイルスベクターを備える、
請求項10または11に記載の組成物。
【請求項14】
前記ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルスベクターからなる群から選択される少なくとも1つである、
請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は、前記ガイドRNA及び前記Casタンパク質の複合体であるリボ核タンパク質(RNP)において形成される、
請求項10から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
細胞又は胚に、請求項10から15のいずれか一項に記載の組成物を接触させる段階
を備える、
人工改変されたミオスタチン遺伝子を有する、操作された細胞又は胚を製造するための方法。
【請求項17】
前記接触させる段階は、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション法、リポソームの使用、プラスミドの使用、ウイルスベクターの使用、ナノ粒子の使用、及びPTD(タンパク質転座ドメイン)融合タンパク質法から選択される1又は複数の方法によって実行される、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
人工改変されたミオスタチン遺伝子を有するトランスジェニック動物を製造するための方法であって、
胚を請求項10に記載の組成物と接触させる段階によって、人工改変されたミオスタチン遺伝子を有する操作された前記胚を調製する段階;及び
代理母に操作された前記胚を移入する段階;
を備え、
製造された前記トランスジェニック動物は、野性型動物において発現される前記ミオスタチンのmRNAより少ない前記人工改変されたミオスタチンのmRNAを発現させる、
方法。
【請求項19】
前記トランスジェニック動物は、ヒト以外の哺乳類である、
請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、人工改変遺伝子を有するトランスジェニック動物、又は細胞に関する。トランスジェニック動物又は細胞は、第2エクソンにおいて12個の塩基対の欠失を有するミオスタチン遺伝子を有する。
【0002】
本願は、トランスジェニック動物又は細胞の製造に関連する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
「ベルジャンブルー」は、筋肉がよく発達したウシの優れた品種として良く知られている。この品種は、19世紀にベルギーのブリーダーが異種交配したことよって偶然に作り出された。それらは、野性型と比較してそれほど多くの飼料を消費しないが、それらは、遺伝的理由による筋細胞の高増殖率によって特徴付けられ、結果として常用飼料は低脂肪及び高タンパク質となる。これらの特徴は、ミオスタチン遺伝子の改変によって引き起こされることが報告されている(McPherron AC、Lawler AM、Lee SJ(1997) Nature 387:83-90)。
【0004】
ミオスタチンは、その名称から、「筋肉(myo)+阻害するもの(statin)」の意味を示し、研究が継続される中、ミオスタチンタンパク質は、筋肉の分化及び成長を阻害することが既に知られている。
ミオスタチンは、様々な動物モデルにおいて、遺伝子編集ツールを使用する遺伝子調節によって筋細胞の分化及び増殖を制御するために調査されてきた。
【0005】
更に、ミオスタチントランスジェニック大型動物の場合、高品質の食肉を得ることができ、それにより利用が増大する。しかしながら、ミオスタチン遺伝子の欠失はなお、心臓肥大化、血圧の上昇、及び短寿命など、いくつかの副作用をともなう技術的限界を有する。
【0006】
上述の技術的限界の結果として、ミオスタチントランスジェニック動物はまだ工業的使途に利用可能ではない。
【0007】
それに応じて、本出願人は、健康で筋肉量が増大したミオスタチントランスジェニック動物を得ることを試みた。結果として、本開示は、本願のトランスジェニックのウシ亜科動物は、ミオスタチンが改変されている特異的バリアントを有し、従来の副作用のないトランスジェニック動物であることを確認することによって完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】CN104531705A
【特許文献2】CN107034221A
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Am J Physiol Endocrinol Metab.2017 Mar 1;312(3):E150-E160、Myostatin propeptide mutation of hyper muscular compact mice decreases formation of myostatin and improves insulin sensitivity.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願の1つの目的は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有する動物を提供することである。
【0011】
本願の別の目的は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有する胚を提供することである。
【0012】
本願の更に別の目的は、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンの12個の塩基対を欠失させるための組成物を提供することである。
【0013】
本願の更に別の目的は、組成物を使用して、動物の筋肉における筋成長を誘導するための使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の問題を解決するために、本明細書は、特定の部分が人工改変されたミオスタチン遺伝子を有するトランスジェニック動物を提供する。
【0015】
ミオスタチン遺伝子の第2エクソンにおいて、改変が生じてもよい。
【0016】
上述の改変は、野性型動物におけるミオスタチン遺伝子配列と比較して、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンのアミノ酸配列をエンコードする領域に対応する、第2エクソンにおける12個の塩基対の欠失である。
【0017】
ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序のアミノ酸配列をエンコードする核酸は、各アミノ酸をエンコードする1又は複数の配列を有してもよい。
【0018】
換言すれば、ロイシンをエンコードする配列は、5'-CTT-3'、5'-CTC-3'、5'-CTA-3'、又は5'-CTG-3'から選択される1つであってもよく、トリプトファンをエンコードする配列は、5'-TGG-3'から選択される1つであってもよく、イソロイシンをエンコードする配列は、5'-ATT-3'、5'-ATC-3'、又は5'-ATA-3'から選択される1つであってもよく、チロシンをエンコードする配列は、5'-TAT-3'又は5'-TAC-3'から選択される1つであってもよい。
【0019】
トランスジェニック動物におけるミオスタチンmRNA発現量は、野性型動物におけるものより低い。
【0020】
加えて、トランスジェニック動物は、野性型動物と同じアミノ酸配列を有する成熟ミオスタチンタンパク質を発現させ得る。
【0021】
トランスジェニック動物は、野性型動物と比較して、見た目には筋肉の量が増加していてもよい。
【0022】
トランスジェニック動物は哺乳類を含む。
【0023】
哺乳類は有蹄類を含む。
【0024】
有蹄類は偶蹄類を含む。偶蹄類は、ブタ、シカ、ウシ、ヒツジ、及びヤギを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0025】
哺乳類はげっ歯類を含んでもよい。げっ歯類は、マウス及びラットを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0026】
好ましくは、本願におけるトランスジェニック動物は、ウシ亜科動物である。ウシ亜科動物は、配列識別番号:30によって表されるアミノ酸配列を含むプロミオスタチンタンパク質を発現させる。
【0027】
更に、本願は、特定の部分が人工改変された人工改変ミオスタチン遺伝子を有する操作された細胞を提供する。
【0028】
操作された細胞の形質転換は、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンにおいて生じてもよい。
【0029】
上述の改変は、野性型細胞におけるミオスタチン遺伝子配列と比較して、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンのアミノ酸配列をエンコードする領域に対応する、第2エクソンにおける12個の塩基対の欠失である。
【0030】
ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序のアミノ酸配列をエンコードする核酸は、各アミノ酸をエンコードする1又は複数の配列を有してもよい。
【0031】
換言すれば、ロイシンをエンコードする配列は、5'-CTT-3'、5'-CTC-3'、5'-CTA-3'、又は5'-CTG-3'のうちの1つであってもよく、トリプトファンをエンコードする配列は、5'-TGG-3'のうちの1つであってもよく、イソロイシンをエンコードする配列は、5'-ATT-3'、5'-ATC-3'、又は5'-ATA-3'のうちの1つであってもよく、チロシンをエンコードする配列は、5'-TAT-3'又は5'-TAC-3'のうちの1つであってもよい。
【0032】
操作された細胞は、野性型細胞より少ないミオスタチンmRNAを発現した。
【0033】
加えて、操作された細胞は、野性型動物と同じアミノ酸配列を有する成熟ミオスタチンタンパク質を発現させ得る。
【0034】
細胞は、胚細胞、体細胞、又は幹細胞であってもよい。
【0035】
細胞としては、例えば、卵母細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、ケラチン生成細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、マクロファージ、単球、筋細胞、及びBリンパ球、Tリンパ球、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、胎児由来細胞、胎盤細胞、及び胚細胞が挙げられるが、これらに限定されない。更に、オリジンの様々な組織由来の成体幹細胞、例えば、脂肪、子宮、骨髄、筋肉、胎盤、臍帯血、又は皮膚(上皮)由来の組織由来幹細胞を使用することができる。非ヒト宿主の胚は一般に、2細胞期、4細胞期、8細胞期、16細胞期、32細胞期、64細胞期、中絶胚、又は胚盤胞を含む胚であり得る。
【0036】
細胞は、哺乳類から得ることができる。
【0037】
好ましくは、本願の細胞はウシ亜科動物から得ることができる。
【0038】
操作された細胞は、配列識別番号:30によって表されるアミノ酸配列を有するプロミオスタチンタンパク質を発現させてもよい。
【0039】
本願は、ミオスタチン遺伝子を改変するための組成物を提供する。
【0040】
ミオスタチン遺伝子を改変するために、組成物は、
標的配列との相補結合を形成するガイド配列を含むガイドRNA、又はガイドRNAをエンコードするDNA;
及びCasタンパク質、又はガイドRNAをエンコードする核酸配列
を含んでもよい。
【0041】
標的配列は、配列識別番号:38~配列識別番号:60から選択される1又は複数を含んでもよい。
【0042】
ガイド配列は、配列識別番号:62~配列識別番号:84から選択される1又は複数を含んでもよい。
【0043】
Casタンパク質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス由来Cas9タンパク質、黄色ブドウ球菌由来Cas9タンパク質、又はCas12aタンパク質(CPF1:プレボテラ及びフランシセラ1として従来から知られている)タンパク質からなる群から選択される1つであってもよい。
Casタンパク質をエンコードする核酸は、ストレプトコッカス・ピオゲネス由来Cas9タンパク質、黄色ブドウ球菌由来Cas9タンパク質、又はCas12aタンパク質(従来のCPF1:プレボテラ及びフランシセラ1)タンパク質をエンコードする核酸からなる群から選択される任意の1つであってもよい。
【0044】
組成物は、ガイドRNA及びCasタンパク質をエンコードするDNAの形態でプラスミドベクター中に存在してもよい。
【0045】
組成物は、ガイドRNA及びCasタンパク質をエンコードするDNAの形態でウイルスベクター中に存在してもよい。
【0046】
この際、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルスベクターからなる群から選択される1又は複数であってもよい。
【0047】
遺伝子操作組成物は、ガイドRNA及びCasタンパク質を含む複合体(RNP:リボ核タンパク質)の形態であってもよい。
【0048】
更に、本願は、上の組成物で改変された人工改変ミオスタチン遺伝子を有する細胞又は胚を調製するための方法を提供する。
【0049】
本願のミオスタチン操作された細胞又は胚を製造するための方法は、細胞又は胚を組成物と接触させる段階を含んでもよい。接触させる段階は、インビボ又はエクスビボで実行されてもよい。
【0050】
接触させる段階は、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション法、リポソーム、プラスミド、ウイルスベクター、ナノ粒子、及びタンパク質翻訳ドメイン(protein translation domain:PTD)融合タンパク質法から選択される1又は複数の方法によって実行されてもよい。
【0051】
更に、本願は、人工改変ミオスタチン遺伝子を有する動物を調製するための方法を提供する。
【0052】
本開示のミオスタチントランスジェニック動物を製造する方法は、上述のとおり胚を組成物と接触させる段階によって人工改変遺伝子を有するトランスジェニック胚を製造する段階、及び代理母にトランスジェニック胚を移入する段階を含んでもよい。
【0053】
上の製造方法によって製造された動物は、野性型動物より少ないミオスタチンmRNAを発現させる。
【0054】
動物は、ヒト以外の哺乳類であってもよい。
【0055】
有利な効果
【0056】
本願のミオスタチントランスジェニック動物は、ミオスタチンmRNAの低い発現量に起因して、野性型動物と比較して、筋肉の量を増大させることができる。
【0057】
結果として、低い脂肪含有量及び高いタンパク質含有量を有する高品質の食肉を提供することが可能である。
【0058】
従来のミオスタチン変異トランスジェニック動物は、短寿命などの様々な副作用を有するが、本願は、そのような様々な副作用を有しない健康なミオスタチン変異トランスジェニック動物を提供することができる。
【0059】
更に、本願によって提供される組成物は、ミオスタチン遺伝子を改変することが可能な組成物であり、動物の組織に注入された場合、筋肉量を増大させることが可能であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】ミオスタチン遺伝子における改変の場所の図を示し、本開示の一例において使用されるプロトスペーサー配列を列記する。
図2】第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有するトランスジェニック胚を製造するための方法の概略図である。
図3】第2エクソンにおいて12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する操作された胚におけるミオスタチン改変の、T7E1アッセイによる確認を示す。
図4】ミオスタチン遺伝子のプロトスペーサー配列、及び自身の相補的標的配列に結合する配列を含むガイドRNAを有するミオスタチン操作胚のサンガーシーケンシングを示し、複数のバリアントを示す。
図5】最も適切なガイドRNA及びCAS9 mRNAの量を決定して本願を進めるための、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンの12個の塩基対の欠失を駆動するために使用されるCas9の、異なる量のガイドRNA又はmRNAを示す。
図6】出産後1~4か月の間、1か月に1回、外見を確かめるために撮影された、第2エクソンにおける12個の塩基対のミオスタチン遺伝子欠失を有するウシを示す。
図7】T7E1アッセイによる、第2エクソンにおいて12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有するウシにおけるミオスタチン改変の確認を示す。
図8】CRISPR/Cas9によって生成され得るオフターゲット効果を確認するために、T7E1アッセイによって同定される潜在的なオフターゲット部位に関する5個の配列を示す。野性型DNAを混合することによって、又は野性型DNAを混合しないことによって、5個のオフターゲット位置すべてに関して、ヘテロノックアウトもホモノックアウトも生じないことが確認された。
図9図2の方法によって生成された胚を代理母の子宮に着床させた後に生まれた17頭のウシのディープシーケンシングの結果を示し、ミオスタチン遺伝子における12個の塩基対の欠失が確認される。
図10】第2エクソンにおける12個の塩基対の欠失を有するミオスタチン遺伝子を有するウシに対するネガティブコントロールとしての野性型ウシのディープシーケンシングの結果を列挙する。
図11】第2エクソンにおける12個の塩基対の欠失を有するミオスタチン遺伝子を有するウシNo.6に関するディープシーケンシングの結果を列挙する。
図12】第2エクソンにおける12個の塩基対の欠失を有するミオスタチン遺伝子を有するウシNo.14に関するディープシーケンシングの結果を列挙する。
図13】第2エクソンにおける12個の塩基対の欠失を有するミオスタチン遺伝子を有するウシNo.17に関するディープシーケンシングの結果を列挙する。
図14】第2エクソンにおける12個の塩基対の欠失を有するミオスタチン遺伝子を有するウシ14及び17におけるミオスタチンmRNA発現の量を示す。
図15】MSTN変異雌の生殖細胞系移入、MSTN変異ウシ卵母細胞由来のMSTN変異胚盤胞の製造の実証、及び30日目の超音波機器による妊娠の診断の代表的な写真を示す。
図16】OPU中に得られた卵胞液由来の体細胞の画像である。
図17】MSTN変異雌胚盤胞からのT7E1アッセイの結果及びシーケンシングデータを示す。
図18】卵胞液中の体細胞からのT7E1アッセイの結果及びシーケンシングデータを示す。
図19】Computer Assisted Semen Analysisによる、MSTN雄創始者由来の精液の概要を示す。
図20】MSTN変異雄ウシからの生殖細胞系移入の、検証された結果としての、代表的な胚盤胞の写真を示す。
図21】インビトロで受精させたMSTN変異雄ウシの精液由来の胚盤胞におけるMSTN遺伝子の変異率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本明細書において開示される内容を説明するために、いくつかの用語が本明細書において定義される。これらの用語に加えて、必要な場合、本明細書の他の箇所で他の用語が定義される。本明細書において明白に別段に定義されていない限り、本明細書において使用される業界用語は、それらの分野で認識される意味を有するものである。矛盾がある場合、本明細書における定義が支配する。
【0062】
一般的な用語の定義
【0063】
ミオスタチン遺伝子の保存領域
【0064】
ミオスタチン遺伝子の保存領域は、進化の間、種にわたって、ミオスタチンのアミノ酸配列における、改変のない共通保存領域をエンコードする核酸配列を指す。
【0065】
本願において、「種によるミオスタチン遺伝子の保存領域」という用語は、ミオスタチンの保存領域において、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序でアミノ酸をエンコードする核酸配列を含む(表3を参照されたい)。
【0066】
種によるミオスタチンの保存領域は、同じアミノ酸配列を有してもよいが、種に従ってアミノ酸配列のためのいくつかの塩基コドンがあってもよい。
換言すれば、ロイシンをエンコードする核酸配列は、5'-CTT-3'、5'-CTC-3'、5'-CTA-3'、又は5'-CTG-3'のうちの1つであってもよく、トリプトファンをエンコードする核酸配列は、5'-TGG-3'のうちの1つであってもよく、イソロイシンをエンコードする核酸配列は、5'-ATT-3'、5'-ATC-3'、又は5'-ATA-3'のうちの1つであってもよく、チロシンをエンコードする核酸配列は、5'-TAT-3'又は5'-TAC-3'のうちの1つであってもよい。
【0067】
したがって、本願の「種によるミオスタチン遺伝子の保存領域」の核酸配列は、種ごとに異なっていてもよい。本明細書において、「ミオスタチン遺伝子の保存領域」は、「保存領域」と略記される場合がある。
【0068】
トランスジェニック動物
【0069】
本願における「トランスジェニック動物」という用語は、人工改変ミオスタチン遺伝子を有する動物を意味する。
【0070】
本願において、「トランスジェニック動物」は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有し、野性型動物と同じ配列を有する成熟ミオスタチンタンパク質を発現させる。
【0071】
本願のトランスジェニック動物における人工改変ミオスタチン遺伝子の形質は、子孫によって継承される。
【0072】
第1世代動物としてのF0は、人工改変ミオスタチン遺伝子を有する。
F0は、後代F1を生成することができる。F1及びサブF1後代に含まれるミオスタチン遺伝子は、人工改変ミオスタチン遺伝子と同じヌクレオチド配列を有する。本願における「トランスジェニック動物」という用語は、F0、F1、及びサブF1後代を含む。換言すると、動物F1が改変ミオスタチン遺伝子を有する場合に、形質転換のための直接的な人工操作が、動物F1の製造プロセス中、又は動物F1が製造された後に、適用されない場合でさえも、それは本願のトランスジェニック動物である。
【0073】
動物
【0074】
本願の動物は非ヒト動物を含む。
【0075】
動物は哺乳類を含む。
【0076】
哺乳類は有蹄類を含む。
【0077】
有蹄類は偶蹄類を含む。偶蹄類は、ブタ、シカ、ウシ、ヒツジ、及びヤギを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0078】
哺乳類はげっ歯類を含んでもよい。
げっ歯類は、マウス及びラットを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0079】
標的領域
【0080】
本願における「標的領域」という用語は、トランスジェニック動物を製造するために遺伝子が人工的に操作されることになる野性型のゲノムにおける領域を意味し、下記に示すように、プロトスペーサー配列及び標的配列を含む領域を有する。
【0081】
プロトスペーサー配列
【0082】
本願における「プロトスペーサー配列」という用語は、本願の標的領域におけるPAM配列の場所による、PAM配列に近接した20個の配列を指す。プロトスペーサー配列及び標的配列は相補配列である。換言すれば、これは、標的配列に相補的に結合するガイド配列と同じ配列を意味する。しかしながら、ガイド配列は、プロトスペーサー配列においてT(チミン)がU(ウラシル)で置換される配列を有してもよい。
【0083】
標的配列
【0084】
本願の「標的配列」という用語は、本願の標的領域に含まれる配列であり、相補的にプロトスペーサー配列に結合する配列である。標的配列は、ガイド配列と相補的に結合してもよい。
【0085】
A、T、C、G、及びUの意味
【0086】
本明細書において用いられるように、A、T、C、G、及びUという記号は、当業者によって理解される意味であると解釈される。これらの記号のそれぞれは、文脈及び技術に応じて、塩基、ヌクレオシド、又はDNA又はRNA上のヌクレオチドであると適当に解釈されてもよい。例えば、記号のそれぞれが塩基を意味する場合、A、T、C、G、及びUという記号はそれぞれ、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)、又はウラシル(U)であると解釈することができる。記号のそれぞれが、ヌクレオシドを意味する場合、A、T、C、G、及びUという記号はそれぞれ、アデノシン(A)、チミン(T)、シチジン(C)、グアノシン(G)、又はウリジン(U)であると解釈することができる。配列におけるヌクレオチドを意味する場合、A、T、C、G、及びUという記号はそれぞれ、ヌクレオシドを含むヌクレオチドを表す。
【0087】
以下で詳細に本願を説明する。
【0088】
本願は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有するトランスジェニック動物に関する。
【0089】
ミオスタチン
【0090】
本願のトランスジェニック動物は、人工改変ミオスタチン遺伝子を含むことを特徴とする。
【0091】
ミオスタチンの構造及び機能は、以下で詳細に説明される。
【0092】
ミオスタチンの構造
【0093】
今日知られている高等生物におけるミオスタチン遺伝子は、3個のエクソン及び2個のイントロンを有することによって特徴付けられる。ミオスタチン遺伝子は、大部分が筋肉に存在することが知られている。
【0094】
ミオスタチンmRNAは、ミオスタチンタンパク質を生成し、ミオスタチンタンパク質は、約375個のアミノ酸で構成され、シグナルペプチド領域、プロペプチド(プロドメイン)領域(28kDa、N末端)、及び成熟領域(12kDa、C末端)である3つの部分に分割される。
【0095】
前駆タンパク質、プロミオスタチンの構造は、2つの同一のサブユニットであり、成熟領域は、互いにジスルフィド結合を形成し、それによりホモ二量体タンパク質の形態を維持する。
【0096】
ミオスタチン成熟タンパク質の機能及びシグナル伝達経路
【0097】
ミオスタチンタンパク質のシグナル伝達経路に関しては、酵素フューリンによる、前駆タンパク質、プロミオスタチンの第1の切断後、それは、プロペプチド領域及び成熟領域に分割される。切断後、潜在型複合体において、プロペプチド領域は、非共有結合を介して成熟領域に結合する。次いで、BMP/Tolloidによって第2の切断が実行された後、ミオスタチン成熟領域は、細胞から分泌されるに従い、アクチビンII型受容体への結合によってリン酸化される。シグナルは再度アクチビンI型受容体に伝達され、シグナルは、受容体調節型タンパク質、Smad2及びSmad3に伝達され、Smed2及びSmed3は、co-Smad4と組み合わさって標的遺伝子の転写を調節する。このシグナル伝達経路の結果として、成熟ミオスタチンタンパク質が発現される。
【0098】
ミオスタチン遺伝子の従来的改変
【0099】
ミオスタチン遺伝子に関連する従来の調査において、成熟ミオスタチンタンパク質が発現されていない調査が行われてきた。成熟ミオスタチンタンパク質の発現を抑制することによって、大量の筋肉が生成され、脂肪が低減された動物を調製するための調査が行われた。更に、成熟ミオスタチンタンパク質が発現されていない調査を通して、末期がん患者などの筋肉量が急速に減少する疾病、及び筋繊維再生のために活用する方向で、ミオスタチンのシグナル伝達経路に関する研究が行われつつある。
【0100】
ミオスタチントランスジェニック動物の多くの場合において、ミオスタチン遺伝子は、筋成長を阻害するミオスタチンタンパク質が、体細胞においてあまり発現されないように改変される。換言すると、それは、上述の成熟ミオスタチンタンパク質のシグナル伝達経路において切断領域を改変することによって、成熟ミオスタチンタンパク質の発現が抑制される形式である。体細胞の核移入によってクローニングされた動物は、2倍の筋肉量を有し、筋肉量は野性型動物と比較して増大している。
【0101】
しかしながら、上の従来の方法によって得られるミオスタチン遺伝子の改変を有するトランスジェニック動物は、短寿命である。したがって、特に大型動物において、生殖における問題、及び健康に関する致命的な副作用が生じるという点で欠点がある。
【0102】
本願は、従来のミオスタチン遺伝子改変によって引き起こされる副作用を最小限にするトランスジェニック動物に関し、ミオスタチン遺伝子改変の利点を強調する。
【0103】
具体的には、成熟ミオスタチンタンパク質のシグナル伝達経路の切断領域ではないエクソン2の特異的な領域を標的として12個の塩基対を欠失させることによって、本発明は、成熟ミオスタチンタンパク質の発現が、発現が全くないのではなく、野性型と比較して抑制された、動物を提供する。
【0104】
ミオスタチントランスジェニック動物
【0105】
本願の一態様は、人工改変ミオスタチン遺伝子を有するミオスタチントランスジェニック動物である。一実施形態において、それは、有蹄類動物、例えば、ウシ亜科動物であってもよい。
【0106】
以下において、本開示は、本願の人工改変ミオスタチン遺伝子を有するウシ亜科動物(ウシ)を一例として取り上げ、詳細に説明される。
【0107】
特徴1-トランスジェニック動物のゲノムの遺伝子改変
【0108】
本願のトランスジェニック動物は、ミオスタチン遺伝子組成物に関して、野性型動物のそれとは異なるミオスタチン遺伝子組成物を有してもよい。
【0109】
本願の遺伝子改変は、ミオスタチンタンパク質のアミノ酸配列の中の特定の保存領域の4個のアミノ酸配列(ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序でのアミノ酸)をエンコードする核酸配列の欠失を指す。
【0110】
本願のトランスジェニック動物は、保存領域のアミノ酸配列をエンコードする核酸配列である第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている、ミオスタチン遺伝子を有する。
【0111】
トランスジェニック動物がウシ亜科動物、ブタ、又はヒトである場合、12個の塩基対の欠失は、野性型のミオスタチン遺伝子の第2エクソンをエンコードする配列の位置93~104における塩基対(5'-3'として配列決定された)の欠失であってもよい。
【0112】
トランスジェニック動物がマウスである場合、12個の塩基対の欠失は、野性型ミオスタチン遺伝子の第2エクソンをエンコードする配列の位置94~105における塩基対の欠失であってもよい。
【0113】
特徴2-トランスジェニック動物における、mRNA組成物及びミオスタチン遺伝子の発現量の変化
【0114】
本願のトランスジェニック動物は、野性型動物とは異なる、ミオスタチンmRNAの態様を有してもよい。本願のトランスジェニック動物は、12個の塩基が欠失されたミオスタチンmRNAを有する。
【0115】
本願の一実施形態において、トランスジェニック動物におけるミオスタチンmRNA発現の量は、測定することができる。
【0116】
特定の実施形態において、本願のトランスジェニック動物におけるミオスタチンmRNA発現の量は、野性型動物のそれより少なくとも60%低い。好ましくは、本願のトランスジェニック動物におけるミオスタチンmRNA発現の量は野性型動物のそれより少ないが、発現が不在でないことを意味しない。
【0117】
特徴3-トランスジェニック動物におけるミオスタチン遺伝子のタンパク質組成及び成熟ミオスタチンタンパク質の発現の変化
【0118】
本願のトランスジェニック動物の欠失された12個の塩基対は、ミオスタチン遺伝子の進化の間に種ごとのアミノ酸配列の改変がない保存アミノ酸配列をエンコードする核酸である。保存アミノ酸配列は、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序でのアミノ酸配列である。
【0119】
したがって、本願のトランスジェニック動物は、野性型プロミオスタチンタンパク質と比較して、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの配列における4個のアミノ酸が欠失している、ミオスタチンタンパク質を発現させる。
【0120】
4個のアミノ酸が欠失しているプロミオスタチンタンパク質は、配列識別番号:30~33のうちの1つであってもよい。
【0121】
トランスジェニック動物のプロミオスタチンタンパク質は、いくつかの配列において改変を有してもよいが、配列識別番号:30~33のうちの1つと90%又はそれより高い相同性を有してもよい。
【0122】
例えば、トランスジェニック動物がウシ亜科動物(ウシ)である場合、4個のアミノ酸が欠失されている配列識別番号:30のプロミオスタチンタンパク質が発現され得る。
【0123】
例えば、トランスジェニック動物がブタである場合、4個のアミノ酸が欠失されている配列識別番号:31のプロミオスタチンタンパク質が発現され得る。
【0124】
例えば、トランスジェニック動物がマウスである場合、4個のアミノ酸が欠失されている配列識別番号:32のプロミオスタチンタンパク質が発現され得る。
【0125】
例えば、トランスジェニック動物がヒトである場合、4個のアミノ酸が欠失されている配列識別番号:33のプロミオスタチンタンパク質が発現され得る。
【0126】
【表1】
【0127】
欠失されることになる4個のアミノ酸は、成熟ミオスタチンタンパク質の形成のプロセスにおいて切断されるプロミオスタチンタンパク質の領域と重複しない。
【0128】
アミノ酸欠失の部位は、切断が生じる領域に含まれていないため、プロミオスタチンタンパク質は、通常のシグナル伝達プロセスを介して成熟ミオスタチンタンパク質になる。換言すれば、本願における特定のアミノ酸の欠失は、正常な成熟ミオスタチンタンパク質の形成プロセスに影響を与えない。
【0129】
したがって、本願のミオスタチントランスジェニック動物によって発現される成熟ミオスタチンタンパク質は、野性型のそれと同じである。換言すれば、それは、野性型成熟ミオスタチンタンパク質のアミノ酸配列と同一であることによって特徴付けられる。
【0130】
一実施形態において、トランスジェニック動物の成熟ミオスタチンタンパク質は、配列識別番号:34~37のうちの1つであってもよい。
【0131】
トランスジェニック動物の成熟ミオスタチンタンパク質は、いくつかの配列において改変を有してもよいが、配列識別番号:34~37のうちの1つと90%又はそれより高い相同性を有してもよい。
【0132】
例えば、トランスジェニック動物がウシ亜科動物(ウシ)である場合、野性型ウシ亜科動物のそれと同一である配列識別番号:34の成熟ミオスタチンタンパク質が発現され得る。
【0133】
例えば、トランスジェニック動物がブタである場合、野性型ブタのそれと同一である配列識別番号:35の成熟ミオスタチンタンパク質が発現され得る。
【0134】
例えば、トランスジェニック動物がマウスである場合、野性型マウスのそれと同一である配列識別番号:36の成熟ミオスタチンタンパク質が発現され得る。
【0135】
例えば、トランスジェニック動物がヒトである場合、野性型ヒトのそれと同一である配列識別番号:37の成熟ミオスタチンタンパク質が発現され得る。
【0136】
【表2】
【0137】
成熟ミオスタチンタンパク質は、血液中で単量体又は二量体の形態を有してもよい。本願のトランスジェニック動物は、野性型と同じ成熟ミオスタチンタンパク質を発現させることができる。
換言すれば、本願のトランスジェニック動物の成熟ミオスタチンタンパク質は、野性型動物の成熟ミオスタチンタンパク質と同じアミノ酸配列を有する。
【0138】
本願の一実施形態において、トランスジェニック動物の成熟ミオスタチンタンパク質は、質量分析によって、野性型成熟ミオスタチンタンパク質と比較し、同定することができる。
【0139】
本願の一実施形態において、本願のトランスジェニック動物における成熟ミオスタチンタンパク質の発現量は、野性型動物のそれより低くてもよい。この結果は、本願のトランスジェニック動物におけるミオスタチンmRNA発現の量が、野性型におけるミオスタチンmRNA発現の量と比較して低減された事実からも見て取ることができる(図14を参照されたい)。
【0140】
特徴4-増大した筋肉量
【0141】
本開示のトランスジェニック動物は、野性型動物と比較してミオスタチンmRNA及び成熟ミオスタチンタンパク質の低減した発現に起因して、筋肉を肥大させる表現型を示す。筋肉を肥大させる表現型は、筋肉量の増大、筋細胞数の増加、筋細胞サイズの増大、及び筋細胞分化速度の上昇などの表現型を指す。
【0142】
特定の実施形態において、本開示のトランスジェニック動物は、野性型動物と比較して、筋肉量において、少なくとも1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は40%の増大を有してもよい。
【0143】
特徴5-寿命の短縮などの副作用がない
【0144】
従来のミオスタチントランスジェニック動物は、寿命の短縮及び健康異常と関連付けられることが知られている。
【0145】
従来のミオスタチントランスジェニック動物と違い、本願のトランスジェニック動物は、ミオスタチンmRNA及び成熟ミオスタチンタンパク質をまったく発現しないものではない。換言すると、ミオスタチンmRNA及び成熟ミオスタチンタンパク質の発現は、ミオスタチンmRNA及び成熟ミオスタチンタンパク質を発現しない野性型動物と比較して低減されている。
【0146】
したがって、ミオスタチンmRNA及び成熟ミオスタチンタンパク質を発現しない結果として生じ得る寿命の短縮及び健康異常と違い、健康における異常はない可能性がある。
【0147】
特定の実施形態において、本願の12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有するウシ亜科動物(ウシ)は、健康であり、健康における異常がないことが見出された。
【0148】
一実施形態において、本願の12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有するウシ亜科動物は、生殖によって子孫を繁殖させることができる。
【0149】
ミオスタチントランスジェニック細胞
【0150】
本願の別の態様は、人工改変ミオスタチン遺伝子を有する操作された細胞である。
【0151】
操作された細胞は、胚細胞、体細胞、又は幹細胞であってもよい。
【0152】
ある特定の実施形態において、細胞としては、例えば、卵母細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、ケラチン生成細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、マクロファージ、単球、筋細胞、及びBリンパ球、Tリンパ球、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、胎児由来細胞、胎盤細胞、及び胚細胞が挙げられるが、これらに限定されない。更に、オリジンの様々な組織由来の成体幹細胞、例えば、脂肪、子宮、骨髄、筋肉、胎盤、臍帯血、又は皮膚(上皮)由来の組織由来幹細胞を使用することができる。非ヒト宿主の胚は一般に、2細胞期、4細胞期、8細胞期、16細胞期、32細胞期、64細胞期、中絶胚、又は胚盤胞を含む胚であり得る。
【0153】
本願の操作された細胞の特徴は、上のトランスジェニック動物の特徴1~3と同じである。
【0154】
要約すれば、操作された細胞は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する。
【0155】
操作された細胞の遺伝子改変は、ミオスタチンタンパク質のアミノ酸配列の中の特定の保存領域の4個のアミノ酸配列(ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序でのアミノ酸)をエンコードする核酸配列の欠失を指す。したがって、操作された細胞は、保存領域のアミノ酸配列をエンコードする核酸配列である第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている、ミオスタチン遺伝子を有する。
【0156】
操作された細胞は、野性型細胞とは異なる、ミオスタチンmRNAの態様を有してもよい。本願の操作された細胞は、12個の塩基が欠失されたミオスタチンmRNAを有する。
【0157】
操作された細胞におけるミオスタチンmRNA発現の量は、野性型動物の細胞のそれより低い。
【0158】
プリプロミオスタチンタンパク質は、活性状態の成熟ミオスタチンタンパク質になるために、切断段階を経なければならない。
【0159】
トランスジェニック細胞において欠失された4個のアミノ酸の場所は切断が生じる領域に含まれていないため、プロミオスタチンタンパク質は、通常のシグナル伝達プロセスを介して成熟ミオスタチンタンパク質になる。換言すれば、本願における特定のアミノ酸の欠失は、正常な成熟ミオスタチンタンパク質の形成プロセスに影響を与えない。
【0160】
換言すれば、本願のミオスタチン遺伝子の12個の塩基対が欠失されている操作された細胞によって発現される成熟ミオスタチンタンパク質は、野性型細胞の成熟ミオスタチンタンパク質と同じアミノ酸配列を有する。
【0161】
遺伝子操作のための組成物
【0162】
本願において提供される本開示の別の態様によれば、ミオスタチン遺伝子を改変する遺伝子操作のための組成物が提供される。
【0163】
ミオスタチン遺伝子を改変するために、遺伝子操作のための組成物は、
ミオスタチン遺伝子の標的配列と相補結合を形成するガイド配列を含むガイドRNA、又はガイドRNAをエンコードするDNA;及び
Casタンパク質又はCasタンパク質をエンコードする核酸配列、を含んでもよい。
【0164】
標的配列は、組成物によって標的とされるプロトスペーサー配列と相補的であり、標的領域内に含まれる配列である。
【0165】
標的配列は、ミオスタチン遺伝子の第2エクソン(エクソン2)に位置付けられる。
【0166】
標的配列
【0167】
本願の組成物は、ミオスタチン遺伝子を改変するために、ミオスタチン遺伝子を標的とする。
【0168】
組成物によって標的とされ得る部分は標的領域と呼ばれる。
【0169】
標的領域は、ミオスタチン遺伝子の第2エクソン(エクソン2)に位置付けられる。
【0170】
標的領域は、標的配列及びプロトスペーサー配列を含み、組成物のガイド配列が相補的に結合する配列は、標的配列と呼ばれる。
【0171】
本願において、種間で遺伝的配列の相違があるため、遺伝子操作のための組成物の標的領域として、ミオスタチンタンパク質のアミノ酸配列の保存領域をエンコードする核酸を標的とすることは容易であり得る。
【0172】
それに応じて、標的配列は、以下に説明されるように、種によって、ミオスタチンタンパク質の保存アミノ酸配列をエンコードする配列のいくつか又はすべてを含むように構成されている。
【0173】
以下において、種によるプロミオスタチンタンパク質の保存アミノ酸配列が詳細に説明される。一実施形態において、保存アミノ酸配列は、ヒト、ブタ、又はマウスに対するウシ亜科動物に関して説明される。保存アミノ酸配列を有する動物は、それらに限定されない。
【0174】
ウシ亜科動物、ヒト、ブタ、及びマウスのプロミオスタチンタンパク質配列の比較は、部分的に下に提供される(表3)。各プロミオスタチンタンパク質の位置156~159におけるアミノ酸配列は保存され、以下、保存アミノ酸配列は、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序である(下の表中の太字の列を参照されたい)。
【0175】
【表3】
【0176】
本願のプロミオスタチンタンパク質の特定のアミノ酸の欠失の場所は、そのような保存アミノ酸配列、すなわち、ミオスタチンタンパク質の156番目~159番目のアミノ酸配列である。
【0177】
これらのアミノ酸配列は、マウスにおいて、ミオスタチンタンパク質の位置157番~160番に位置付けられるが、マウスにおけるアミノ酸配列は、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンと同じである。
【0178】
本願において組成物によって標的とされる領域は、保存アミノ酸配列をエンコードする領域のいくつか又はすべてを含んでもよい。標的配列は、保存領域を含むDNA二重鎖の1つの鎖の周りに設計することができる。
【0179】
標的配列は、アミノ酸配列におけるロイシンをエンコードする5'-CTT-3'、5'-CTC-3'、5'-CTA-3'、又は5'-CTG-3'、アミノ酸配列のトリプトファンをエンコードする5'-TGG-3'、アミノ酸配列のイソロイシンをエンコードする5'-ATT-3'、5'-ATC-3'、又は5'-ATA-3'、アミノ酸配列のチロシンをエンコードする5'-TAT-3'又は5'-TAC-3'の配列のいくつか又はすべて、又はそのような配列の相補配列のいくつか又はすべてを含んでもよい。本願の一実施形態において、標的配列は、配列識別番号:28-5'-ATATATCCACAG-3'を含んでもよい。本願の別の実施形態において、標的配列は、配列識別番号:29-5'-CTGTGGATATAT-3'を含んでもよい。
【0180】
標的配列を設計するために、標的領域におけるPAM配列が考慮されるべきである。PAM配列は、Casタンパク質のオリジンに応じて、異なっていてもよい。
【0181】
PAM配列及びそれに近接した配列は、プロトスペーサー配列と呼ばれる。プロトスペーサー配列は、PAM配列を別にして、20個又はそれより少ない塩基配列で構成される。プロトスペーサー配列及び標的配列は、相補配列である。
【0182】
一例において、ミオスタチン遺伝子の標的配列は、配列識別番号:38~60から選択されてもよい[表4]。
【0183】
例えば、配列識別番号:38~43は、ウシ亜科動物のミオスタチン遺伝子の標的配列であってもよい。
【0184】
例えば、配列識別番号:42、配列識別番号:43、及び配列識別番号:45~48は、ブタのミオスタチン遺伝子の標的配列であってもよい。
【0185】
例えば、配列識別番号:49~55は、ヒトのミオスタチン遺伝子の標的配列であってもよい。
【0186】
例えば、配列識別番号:56~60は、マウスのミオスタチン遺伝子の標的配列であってもよい。
【0187】
【表4】
【0188】
一実施形態において、本願の組成物は、標的配列に相補的なガイド配列を含むガイドRNA又はガイドRNAをエンコードするDNA;及びCasタンパク質又はCasタンパク質をエンコードする核酸配列を含む。
【0189】
ガイドRNA又はガイドRNAをエンコードするDNA
【0190】
本願のガイドRNAは、上述の標的配列に相補的なガイド配列を含む。
【0191】
ガイドRNAは、標的配列に相補的に結合することができるガイド配列である第1の配列、及びCasタンパク質と相互作用することによって複合体を形成することに関与する第2の配列を含んでもよい。
【0192】
本願のガイドRNAの第1の配列は、設計された標的配列に相補的なプロトスペーサー配列と同じ配列であり、プロトスペーサー配列の中のT(チミン)の代わりにU(ウラシル)で構成されるRNA配列である。
【0193】
別の態様において、本願の第1の配列は、crRNAの一部であってもよく、第2の配列は、crRNAの別の一部及び/又はtracrRNAを含んでもよい。一例として、ガイドRNAは、crRNAのみで構成された第1及び第2の配列であってもよく、別の例として、ガイドRNAは、crRNA及びtracrRNAを含む第1及び第2の配列であってもよい。
【0194】
この場合において、第1の配列は、標的配列に従って決定されてもよく、第2の配列の一部は、Casタンパク質由来微生物の種類に従って決定されてもよい。
【0195】
例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネスに由来するCasタンパク質に結合するガイドRNAの場合、第1の配列は、crRNA配列の一部であってもよく、第2の配列はtracrRNAを含んでもよい。
【0196】
一実施形態において、ストレプトコッカス・ピオゲネスタンパク質を結合するガイドRNAの場合、第2の配列は、5'-GUUUUAGUCCCUGAAAAGGGACUAAAAUAAAGAGUUUGCGGGACUCUGCGGGGUUACAAUCCCCUAAAACCGCUUUU-3'(配列識別番号:61)を含んでもよい。
【0197】
一方、本願のガイドRNAは、第1の配列及び第2の配列が連結されている単一配列の形態であってもよい。代替的に、ガイドRNAは、crRNA及びtracrRNAでそれぞれ構成されていてもよい、第1の配列を含む配列、及び第2の配列の一部を含む配列からなる2個の別々の配列で構成されていてもよい。
【0198】
以下に、本願の一実施形態において使用することができるガイド配列の例を表に示す。[表5]に列挙されるガイド配列は、ミオスタチン遺伝子の標的配列に相補的に結合することができるRNA配列である。
【0199】
表5に列挙されるガイド配列はそれぞれ、表2における配列を標的とすることが可能なガイド配列である。
【0200】
本願のガイド配列は、配列識別番号:62~配列識別番号:84から選択される配列であってもよい。
【0201】
例えば、配列識別番号:62~68は、ウシ亜科動物のミオスタチン遺伝子の標的配列に相補的に結合することが可能なガイド配列である。
【0202】
例えば、配列識別番号:66、配列識別番号:67、及び配列識別番号:69~配列識別番号:72は、ブタのミオスタチン遺伝子の標的配列に相補的に結合することが可能なガイド配列である。
【0203】
例えば、配列識別番号:73~79は、ヒトミオスタチン遺伝子の標的配列に相補的に結合することが可能なガイド配列である。例えば、配列識別番号:80~配列識別番号:84は、マウスのミオスタチン遺伝子の標的配列に相補的に結合することが可能なガイド配列である。
【0204】
本開示の一実施形態において、上のガイド配列を含むガイドRNA及びCasタンパク質の複合体(リボ核タンパク質粒子(Ribonucleoprotein particle:RNP))の形態は、細胞又は胚に注入することができる。
【0205】
【表5】
【0206】
一方、別の態様において、本願は、ガイドRNAをエンコードするDNAを提供してもよい。この場合において、ガイドRNAをエンコードするDNA配列は、第1の配列、ガイド配列をエンコードする配列であり、配列識別番号:38~60によってそれぞれ表される標的配列と同一のDNA配列;及び第2の配列をエンコードするDNA配列を含む。
【0207】
Casタンパク質又はCasタンパク質をエンコードする核酸
【0208】
本願のCasタンパク質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9タンパク質、カンピロバクター・ジェジュニ由来のCas9タンパク質、ストレプトコッカス・サーモフィルス由来のCas9タンパク質、黄色ブドウ球菌由来のCas9タンパク質、ナイセリア・メニンギティディス由来のCas9タンパク質、及びCas12a(Cpf1)タンパク質からなる群から選択されてもよい。本願において、Casタンパク質は、野性型又はその変異体の形態であってもよい。
【0209】
本願において、Casタンパク質又はCasタンパク質をエンコードする核酸は、真核細胞の核への送達のために通常使用される要素、例えば、核局在化配列(nuclear localization sequence:NLS)を更に含んでもよい。
【0210】
一実施形態において、Casタンパク質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9タンパク質、黄色ブドウ球菌由来のCas9タンパク質、又はCas12a(Cpf1)タンパク質であってもよい。
【0211】
PAM配列は、Casタンパク質に応じて様々であってもよい。一実施形態において、SpCas9は、NGGのPAM配列を有する。一実施形態において、SaCas9は、NNGRR又はNNGRRTのPAM配列を有する。一実施形態において、Cas12a(Cpf1)は、TTTNのPAM配列を有する。Nは、A、T、G、又はCのうちのいずれか1つである。Rは、A又はGである。
【0212】
遺伝子操作のための組成物の形態
【0213】
本願のミオスタチンの遺伝子操作のための組成物は、ガイドRNA、又はガイドRNAをエンコードする核酸;及びCasタンパク質、又はCasタンパク質をエンコードする核酸を、それぞれ独立して、又は一緒に、含んでもよい。
【0214】
本願のガイドRNAは、RNA、又はガイドRNAをエンコードするDNAの形態で、細胞に送達されてもよい。ガイドRNAは、独立したRNAの形態であってもよく、RNAはウイルスベクターに含まれるか、又はベクターにおいてエンコードされる。
【0215】
本願のCasタンパク質は、RNA、又はRNAをエンコードするDNAの形態で、細胞に送達され得る。Casタンパク質は、独立したRNAの形態であってもよく、RNAはウイルスベクターに含まれるか、又はベクターにおいてエンコードされる。
【0216】
この際、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルスベクターからなる群から選択されてもよい。
【0217】
一実施形態において、ガイドRNA及びCasタンパク質は、各RNA及びプロモーターをエンコードする配列を含むプラスミドDNAの形態で構成されていてもよく、プラスミドDNAは、タンパク質及びプロモーターをエンコードする配列を含む。
【0218】
別の実施形態において、ガイドRNA及びCasタンパク質は、1個のプラスミドDNA中に、RNA又はタンパク質及びプロモーターをエンコードする配列を含む形態で、構成されていてもよい。
【0219】
別の形態として、ガイドRNA及びCasタンパク質は、プラスミドDNAの代わりにウイルスベクターの形態で構成されていてもよい。
【0220】
別の実施形態において、ガイドRNA及びCasタンパク質は、mRNAの形態で構成されていてもよい。この際、ガイドRNAは、当技術分野で知られている任意のインビトロ転写システムを使用して、インビトロ転写によって調製されてもよい。
【0221】
本願のガイドRNA及びCasタンパク質は、好ましくは、ガイドRNA及びCasタンパク質が結合されているリボ核タンパク質(RNP)複合体の形態で構成されていてもよい。
【0222】
別の実施形態において、ガイドRNA及びCasタンパク質は、種々の形態で構成されていてもよい。例えば、ガイドRNAは、独立したRNAの形態で構成されていてもよく、Casタンパク質は、タンパク質及びプロモーターをエンコードする配列を含むベクターの形態で構成されていてもよい。
【0223】
更に、組成物は、様々な形態で構成されていてもよい。
したがって、当業者は、当技術分野で知られている方法を適切に使用することができるため、限定はない。
【0224】
人工改変ミオスタチン遺伝子を含む操作された細胞を製造するための方法
【0225】
本願において提供される本開示の別の態様は、上の組成物を使用して第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する操作された細胞を製造するための方法に関する。
【0226】
細胞は、胚細胞、体細胞、又は幹細胞であってもよい。
【0227】
ある特定の実施形態において、細胞としては、例えば、卵母細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、ケラチン生成細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、マクロファージ、単球、筋細胞、及びBリンパ球、Tリンパ球、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、胎児由来細胞、胎盤細胞、及び胚細胞が挙げられるが、これらに限定されない。更に、オリジンの様々な組織由来の成体幹細胞、例えば、脂肪、子宮、骨髄、筋肉、胎盤、臍帯血、又は皮膚(上皮)由来の組織由来幹細胞を使用することができる。非ヒト宿主の胚は一般に、2細胞期、4細胞期、8細胞期、16細胞期、32細胞期、64細胞期、中絶胚、又は胚盤胞を含む胚であり得る。
【0228】
好ましくは、細胞は胚細胞であってもよい。
【0229】
細胞は、動物に由来してもよい。
【0230】
動物は哺乳類を含む。
【0231】
哺乳類は有蹄類を含む。
【0232】
有蹄類は、ウシ亜科動物及びブタを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0233】
哺乳類はげっ歯類を含む。
【0234】
げっ歯類はマウスを含んでもよいが、それに限定されない。
【0235】
本願の人工改変ミオスタチン遺伝子を含む操作された細胞を製造するための方法は、細胞を組成物と接触させる段階を含んでもよい。接触させる段階は、インビボ又はエクスビボで実行されてもよい。
【0236】
例えば、これらに限定されないが、接触させる段階は、一過性トランスフェクション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、リン酸カルシウム沈殿、リポソーム媒介トランスフェクション、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、遺伝子銃、及び細胞に核酸を導入するための他の知られている方法によって、細胞に導入されてもよい。
【0237】
導入された組成物によって、インデル(インデル:挿入及び欠失)が細胞のゲノムにおいて生じる。
【0238】
「インデル」は、DNAのヌクレオチド配列の中間でいくつかのヌクレオチドが挿入される、又は欠失される変異に関する一般的な用語である。インデルは、組成物のガイドRNA-CRISPR複合体によって核酸(DNA、RNA)を切断し修復するプロセス中、標的配列に導入され得る。
【0239】
インデルの結果として、本願の操作された細胞は、組成物によって第2エクソンにおける12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する。
【0240】
更に、上述の人工改変ミオスタチン遺伝子を含む操作された細胞を製造するための方法によれば、本願の操作された細胞は、インフレーム欠失をもたらす遺伝子改変を有する。
【0241】
インフレーム欠失の効果を以下に説明する。
【0242】
インフレーム欠失の効果
【0243】
本願の第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する操作された細胞は、インフレーム欠失をもたらす遺伝子改変を有する。
【0244】
「インフレーム欠失」は、得られるタンパク質において対応するアミノ酸の欠失にいたり得る、対応するコドン全体の喪失をもたらすために、少なくとも3個のDNA塩基、通常、複数の3個の欠失を必要とする。
【0245】
本願は、ミオスタチン遺伝子の12個の塩基の欠失によって特徴付けられるため、欠失の形態はインフレーム欠失であり、フレームシフト改変は生じない。
【0246】
インフレーム欠失の結果として、タンパク質は、4個のアミノ酸が欠失されているタンパク質の形態であり、一般的なフレームシフト改変において生じ得る、他のアミノ酸への翻訳又は停止コドンの修正は生じない。換言すれば、4個のアミノ酸を別にした残りのアミノ酸は、ミオスタチン遺伝子における転写を介してタンパク質に正常に翻訳され得る。
【0247】
人工改変ミオスタチン遺伝子を含むトランスジェニック動物を製造するための方法
【0248】
本願において提供される本開示の別の態様は、操作された細胞を使用して動物を製造するための方法に関する。具体的には、本願は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する動物を製造するための方法に関する。
【0249】
任意の実施形態において、製造方法は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されたミオスタチン遺伝子を有する胚細胞を代理母に移入して、第2エクソンの12個の塩基対が欠失された人工改変ミオスタチン遺伝子を有するトランスジェニック動物を製造する段階によって実行される。
【0250】
別の実施形態において、製造方法は、動物の組織又は臓器に組成物を注入することによって、トランスジェニック組織又は臓器を有する動物を製造するための方法に関する。
【0251】
動物は哺乳類を含む。
【0252】
哺乳類は有蹄類を含む。
【0253】
有蹄類は、ウシ亜科動物及びブタを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0254】
哺乳類はげっ歯類を含む。
【0255】
げっ歯類はマウスを含んでもよいが、それに限定されない。
【0256】
操作された細胞を使用してトランスジェニック動物を製造するための方法
【0257】
本願の人工改変ミオスタチン遺伝子を含むトランスジェニック動物を製造するための方法
【0258】
一実施形態において、方法は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有する、上のステップにおいて生成された操作された細胞を代理母に移入する段階を備えてもよい。
【0259】
各段階の従来の説明は、当技術分野で知られているトランスジェニック動物を製造するための方法を参照することによって理解され得る。
【0260】
本願において、胚細胞は、細胞を組成物と接触させる段階を用いて完了する、上の「人工改変ミオスタチン遺伝子を含む操作された細胞を製造するための方法」の方法において説明される方法によって製造することができる。
【0261】
胚細胞は、インビトロ培養プロセスにおいて胚盤胞に発達してもよい。
【0262】
第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する動物は、代理母に胚盤胞を移入する段階によって製造することができる。
【0263】
本開示の一実施形態において、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有する胚は、移植されて、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有する動物、好ましくは、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有するウシ亜科動物(ウシ)を製造する。
【0264】
トランスジェニック動物は、キメラ又は相同トランスジェニック動物であってもよい。
【0265】
人工改変ミオスタチン遺伝子を含む本願のトランスジェニック動物を製造するための方法は、
別の具体例に関して、
上述の人工改変ミオスタチン遺伝子を含む操作された体細胞を得る段階;動物の卵子から核を除去することによって除核卵母細胞を調製する段階;操作された体細胞の核を除核卵母細胞にマイクロインジェクトし、融合する段階;融合された卵子を活性化する段階;及び活性化された卵子を代理母に移入する段階
を含んでもよい。
【0266】
各段階の従来の説明は、当技術分野で知られている従来の体細胞核移入技術を使用して、トランスジェニック動物を調製するための方法を参照することによって理解され得る。
【0267】
トランスジェニック動物は、SCNT(somatic cell nuclear transfer)(体細胞核移入)法を使用して、上の方法に従って、人工改変ミオスタチン遺伝子を有する体細胞又はその核を除核卵母細胞に移植することによって、調製することができる。トランスジェニック動物は、相同トランスジェニック動物であってもよい。
【0268】
別の実施形態において、相同トランスジェニック動物を製造するための方法として、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する第1のトランスジェニック動物は、互いと交配されて、相同トランスジェニック動物が製造されてもよい。
【0269】
交配によって得られたトランスジェニック動物は、第1のトランスジェニック動物の動物ゲノムに含まれるミオスタチン遺伝子の12個の塩基対が欠失されているものと同じミオスタチン遺伝子を含んでもよい。
【0270】
いくらかの組織がトランスジェニックである動物を製造するための方法
【0271】
本願のトランスジェニック動物は、動物のいくらかの組織において、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有する動物であってもよい。
【0272】
組織は、上皮組織、結合組織、又は筋肉組織であってもよいが、好ましくは、ミオスタチン遺伝子を含む筋肉組織であってもよい。
【0273】
方法は、動物の組織に上述の組成物を導入する段階を備えてもよい。
【0274】
動物の組織に組成物が導入される場合、動物は、組織特異的に操作されて、組織内に改変ミオスタチン遺伝子を有し得る。
【0275】
導入は、注入、インプランテーション、又は移植によって実行されてもよい。
【0276】
導入は、選択された投与経路:網膜下、皮下、皮内、眼球内、硝子体内、腫瘍内、リンパ節内、髄内、筋肉内、又は腹腔内よって実行されてもよい。
【0277】
本願のミオスタチントランスジェニック動物の使用
【0278】
向上した品種の動物
【0279】
第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する動物は、向上した品種の動物として使用することができる。向上した品種の動物は、ミオスタチン遺伝子の12個の塩基対が欠失されている、ウシ亜科動物、ブタ、マウス、又はラットであってもよいが、それらに限定されない。向上した品種の動物は、野性型動物と比較して発達した筋肉を有する向上した品種の動物であってもよい。向上した品種の動物は、野性型動物と比較して低減された脂肪を有する向上した品種の動物であってもよい。
【0280】
疾病モデル研究のための動物
【0281】
第2エクソンの12個の塩基対が欠失されている人工改変ミオスタチン遺伝子を有する動物は、疾病モデル研究動物として使用することができる。疾病モデル研究動物は、ミオスタチン遺伝子の12個の塩基対が欠失されている、ウシ亜科動物、ブタ、マウス、又はラットであってもよいが、それらに限定されない。疾病モデルは、筋萎縮、サルコペニア、及び筋原線維低下を含む調査であってもよいが、それらに限定されない。
【0282】
疾病耐性動物
【0283】
第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する動物は、疾病耐性動物として使用することができる。疾病耐性動物は、ミオスタチン遺伝子の12個の塩基対が欠失されている、ウシ亜科動物、ブタ、マウス、又はラットであってもよいが、それらに限定されない。疾病は、筋萎縮、サルコペニア、及び筋原線維低下を含む調査であってもよいが、それらに限定されない。
【0284】
副産物の使用
【0285】
第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有するトランスジェニック動物の肉、臓器、皮膚、毛皮、及び体液が使用されてもよいが、それらに限定されない。トランスジェニック動物は、ミオスタチン遺伝子の12個の塩基対が欠失されている、ウシ亜科動物、ブタ、マウス、又はラットであってもよいが、それらに限定されない。トランスジェニック動物は、野性型動物と比較して低い脂肪含有量及び高い筋肉含有量を有してもよい。したがって、動物の副産物として、低い脂肪含有量及び高い筋肉含有量を有する高品質の食肉を得ることが可能である。
【0286】
本願の遺伝子操作のための組成物の使用
【0287】
本願において提供される本開示の別の態様は、本願の遺伝子操作のための組成物の使用に関する。
【0288】
上述の組成物は、筋肉量を増大させる目的で使用されてもよいが、それらに限定されない。
【0289】
この際、組成物が投与され得る対象は、ヒト及びサルなどの霊長類、マウス及びラットなどのげっ歯類、及びウシ亜科動物、ブタ、及びウマなどの有蹄類を含む哺乳類であってもよい。
【0290】
本願において提供される本開示の別の態様は、本願の遺伝子操作のための組成物を投与する段階を含む、投与された組織を筋肉増加させることが可能な方法を提供してもよい。
【0291】
組成物は、組成物が投与される対象の特定の身体箇所に投与されてもよい。
【0292】
特定の身体箇所は、筋成長を必要とする組織の周囲であってもよい。
【0293】
特定の身体箇所は、筋肉が、幼期の状態において発達していない組織の周囲であってもよい。
【0294】
投与は、注入、輸血、インプランテーション、又は移植によって実行されてもよい。
【0295】
投与は、選択された投与経路:皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内によって実行されてもよい。
【0296】
ミオスタチン遺伝子操作組成物の単回投与量(予め決められた望ましい効果を達成するための有効量)は、対象の体重の1キログラムごとに、10~10個の細胞/kg(体重)などの、10~10個の細胞など、上の数値範囲内の任意の整数値から選択されてもよいが、それらに限定されず、対象の年齢、健康、及び体重を考慮して、適切に投与されてもよい。
【0297】
本明細書において開示されるいくつかの実施形態の方法又は組成物によってミオスタチン遺伝子が人工的に操作される場合、筋肉の増大などの効果は、これによって得られてもよい。
【0298】
以下に、本願は、実施例によって更に詳細に説明される。
【0299】
これらの実施形態は、更に詳細に本願を説明することのみを意図するものであり、本願の範囲はこれら実施形態によって限定されないことは、本願が属する技術分野の当業者には明らかとなろう。
【0300】
[実施例]
【0301】
[実施例1]単一のガイドRNA(sgRNA)の設計
【0302】
CHOPCHOPソフトウェア(https://chopchop.cbu.uib.no/)によって、ミオスタチンの12個の塩基対のすべての一本鎖に相補的な配列を含むsgRNAを設計した。sgRNAは、上の相補的に結合する配列を含み、ミオスタチン遺伝子に関するCRISPR/SpCas9、CRISPR/SaCas9、又はCRISPR/Cpf1のPAM配列の中で使用される。実験において使用されるsgRNAを、表2のガイド配列のうちの少なくとも1つを含むように設計した。
【0303】
図1は、ミオスタチン遺伝子のプロトスペーサー配列のうちの1つを示す。
【0304】
図1の配列によって、配列の相補配列(標的配列)にガイドRNAを結合させることによって、ガイドRNAの結合配列は、配列において予測されてもよい。
【0305】
[実施例2]卵母細胞のインビトロ成熟
【0306】
卵巣を地域の屠殺場から採取し、2時間以内に実験室に送った。屠殺場から移送された卵巣を、18ゲージ針注射器で吸引して、直径が2~8mmの卵胞由来の卵丘卵母細胞複合体(cumulus-oocyte complex:COC)を得た。COCを、卵丘細胞の3つより多い層、及び均一に分布された細胞質によって取り囲まれているとして分類した。インビトロ成熟プロセス中、0.005AU/mLのFSH(Antrin、Teikoku、Cat.No.F2293)を含有する化学的に定義されたTCM-199培地、1μg/mLの17β-エストラジオール(Sigma-Aldrich、Cat.No.E4389)、100μMのシステアミン(Sigma-Aldrich、Cat.No.M6500)、及び10% FBS(Gibco(登録商標)、Cat.No.GIB-16000-044)において、38.5℃で5% COの湿気のある雰囲気中でCOCを培養した。
【0307】
[実施例3]精子精製、インビトロ受精、及び胚のインビトロ培養
【0308】
パーコール勾配法によって運動性精子を精製した。
15分間、1500rpmでのパーコール不連続勾配(45%~90%)における遠心分離によって、35℃で解凍した精液由来の精子をろ過した。45%パーコール溶液を作製するために、1mLの90%パーコールに1mLの体積のTALPを加えた。5分間、1500rpmで、精子ペレットを遠心機にかけ、3mLのTALPを加えることよって2回洗浄した。パーコール勾配法によって精製した運動性精子を受精のために使用した。成熟卵母細胞とともに、5% COの湿っている雰囲気中で、鉱油(Nidacon、Cat.No.NO-100)で被覆した45ulのIVF-TALP培地を用いて、1~2Хの10個の運動性精子/mLの精子を培養した。インビトロ受精の18時間後、卵丘細胞を接合子から除去した。5% O、5% CO、及び90% N 雰囲気中、38.5℃の温度で、2つのレベルの化学的に定義された鉱油によって保護された培地において、この接合子を培養した。接合子は、胚へと培養される。
【0309】
[実施例4]マイクロインジェクション
【0310】
マイクロインジェクション法を実行した場合、Cas9 mRNA及びsgRNAを4つの群に分割して、最も好適な濃度を見出した。(CB;TEのみマイクロインジェクション、RNA1X;Cas9 mRNA:100ng/μL、sgRNA:50ng/μL、RNA2X;Cas9 mRNA:200ng/μL、sgRNA:100ng/μL、RNA4X;Cas9 mRNA:400ng/μL、sgRNA:200ng/μL)。インビトロ受精の18時間後、GeneArt Precision gRNA Synthesis Kit(Thermofisher、Cat.No.A29377)によって、Cas9 mRNA(sigma-Aldrich、Cat.No.CAS9MRNA)及びsgRNAを合成し、マイクロインジェクター機器(Eppendorf、Femtojet(登録商標))を用いて接合子に注入した。マイクロインジェクションの7日後、着床前胚を回収し、ミオスタチン欠失を観察するか、又は代理母の子宮に着床させた。
【0311】
マイクロインジェクション法を図2に例示する。
【0312】
図5において、Cas9 mRNA及びsgRNAを4つの群に分割することによる実験の結果を概略的に例示する。
【0313】
上の結果から、RNA1X及びRNA2Xの両方において、胚盤胞の割合は野性型のそれと同様であった。改変率を見てみると、RNA2X群は、他のRNA1X及びRNA4X群より著しく高い改変率を示した。したがって、RNA2Xの濃度は最も好適であることが決定され、次いで、RNA2X群において使用されるCas9 mRNA:200ng/μl及びsgRNA:100ng/μlの濃度を用いて実験を行った。
【0314】
図3及び4において、マイクロインジェクション後の胚のミオスタチン改変を観察した。
【0315】
図3は、T7E1アッセイを実行することによって胚のミオスタチンを改変する場合、野性型と違い、ポジティブコントロールと同じに、530bpの下のもう1つのバンドを観察することを示す。上の結果として、ミオスタチン遺伝子は胚において改変されることを確認することができる。
【0316】
図4は、サンガーシーケンシングを実行することによって得られる胚のミオスタチン改変された形態の結果を示す図である。
【0317】
上の結果からわかるように、胚において、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンの1、2、3、10、及び12個の塩基対は欠失され、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンの1個の塩基対が挿入された。
【0318】
このようにして、動物と違い、胚は、インデルの結果として、様々な改変された形態、ならびに第2エクソンのミオスタチン遺伝子の12個のみの塩基対が欠失されている形態を有することができることを確認した。しかしながら、本願の操作された細胞は、第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているミオスタチン遺伝子を有する操作された細胞のみを指す。
【0319】
[実施例5]胚移入及び妊娠診断
【0320】
胚盤胞を20%FBSで補ったPBS中に保管した。非外科的手法によって、7日目頃に子宮頚部法によって各代理母の子宮に胚盤胞を移入した(発情=0日目=融合日)。発情50日後に直腸検査、及び超音波によって代理母を調べて、胚生存及び妊娠を観察した。その後、直腸検査及び超音波によって、妊娠したウシを定期的に確かめた。
【0321】
出産後、図6のウシNo.17の成長プロセスにおける外見の変化を確認するために、出産後1か月から年齢の4か月まで1か月の間隔で外見の変化を撮影した。
【0322】
上の写真に見ることができるように、ウシNo.17は、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているウシであり、筋発達は目視で分かり、3か月後の筋発達の外見はより顕著である。
【0323】
[実施例6]T7E1アッセイ
【0324】
DNA抽出キット(DNeasy Blood & Tissueキット、Qiagen、Cat.No.69504)を使用して、トランスジェニック初代細胞から得られるゲノムDNAを抽出した。PRIMER3ソフトウェアによってMSTNプライマーを設計した。PCR条件は、35~40サイクルの間、5分間94℃、20秒間94℃、30秒間57℃、35秒間72℃、及び5分間72℃であった。
【0325】
図7において、実施例5において生まれたウシの中のウシNo.17のミオスタチン遺伝子の12個の塩基対の結果を、T7E1アッセイによって確認した。
【0326】
上の結果によって、T7E1アッセイの結果として、野性型と違い、ウシNo.17は場所が異なる切断バンドを有し、結果として、ウシ17は改変ミオスタチン遺伝子を有することを確認した。
【0327】
[実施例7]リアルタイムPCRによる遺伝子発現
【0328】
RNeasy(登録商標)Mini Kit(Qiagen、Cat.No.74106)を使用して、全RNAを初代培養細胞から抽出し、RNA(Takara、Cat.639543)を使用して、1μgのRNA to cDNA EcoDry(商標)Premix(OligodT)から相補的DNAを合成した。QuantStudio 3(Applied Biosystems、モデル番号A28132)においてSYBR Green法を使用して、遺伝子発現解析を実行し、GAPDHによって、相対サイクル閾(cycle threshold:CT)値を正規化した。上の実施例において使用されるプライマーは、配列識別番号:87~配列識別番号:90に列挙される。
【0329】
【表6】
【0330】
[実施例8]MSTNオフターゲット効果の分析
【0331】
Cas-OFFinderソフトウェア、Cas9 RNA由来エンドヌクレアーゼの潜在的なオフターゲット部位を検索する高速で応用のきくアルゴリズムを使用して、3頭のMSTN変異子ウシにおけるCRISPR/Cas9に起因する潜在的なオフターゲット効果を精査した。実験において使用されるMSTN標的部位において、ミスマッチの数を3に設定し、ウシの遺伝子全体を標的とする5個の塩基配列を見出した。5個の塩基配列のそれぞれを標的とするプライマーを、配列識別番号:89~配列識別番号:100と名付け、プライマーの場所によるオフターゲット効果をT7E1分析によって確認した。
【0332】
図8において、以下の潜在的オフターゲット効果の位置に関してプライマー配列としてT7E1アッセイを実行した。
【0333】
結果からわかるように、ポジティブコントロールと違い、オフターゲット効果を確認するための先端が切れたバンドは5つの位置すべてで同定されなかった。したがって、結果として、潜在的オフターゲット位置上でのCRISPR/Cas9のオフターゲット効果はないこと、及び本願の一実施形態において使用されるガイドRNA及びCas9 mRNAは標的特異的に作用することを確認した。
【0334】
【表7】
【0335】
[実施例9]標的ディープシーケンシング
【0336】
最初に、製造元のプロトコルに従ってKAPA HiFi HotStart DNAポリメラーゼ(Roche、Cat.No.#KK2502)を使用して、抽出したゲノムDNAから約500bpのサイズに標的部位を増幅した。次いで、最大230bpまでのサイズにアンプリコンを再増幅し、次いで、TruSeq HTダブルインデックスプライマーを使用して、アンプリコンを増幅して、各試料にIlluminaシーケンシングプラットフォームのためのアダプター及びインデックス配列を加えた。この調査において使用されるプライマーを配列識別番号:101及び配列識別番号:102に列記する。PCR Refining Kit(MGmed)を使用して、プールされたPCRアンプルレコンを精製し、MiniSeq(Illumina)において、ペアエンドシーケンシングシステム(2x150bp)を用いて配列決定した。Cas-Analyzerを使用して、ディープシーケンシングデータにおけるインデル率を定量化した。
【0337】
標的ディープシーケンシングの結果は、図9~13において確認することができる。
【0338】
図9は、本願の改変ミオスタチン遺伝子を含む操作された胚を代理母に移入することによって生まれた17頭のウシ及び野性型ウシの標的ディープシーケンシングの結果を示す。これらの結果からわかるように、野性型ウシと違い、ウシNo.6、No.14、及びNo.17のインデル率は10.45%、45.4%、及び99.98%であったことがわかる。
【0339】
更に詳細な図9の結果の列挙の結果を、図10~13において確認することができる。
【0340】
図10を参照すると、野性型ウシにおいて、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンの塩基対は改変されていないことが確認された。灰色の枠はPAM配列を表す。下線を引いた配列は、プロトスペーサー配列である。灰色の枠及び下線は、図10~13において、全く同様に使用される。
【0341】
図11において、No.6のウシミオスタチン遺伝子の第2エクソンの塩基対の中の12個の塩基対は欠失されていることが確認された。インデル率を確認すると、12個の塩基対は10.45%で欠失されており、読み取りの結果を確認することができた。
【0342】
図12において、図11におけるのと同じ形態で、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンの塩基対の中の12個の塩基対が決定されていることが、ウシNo.14においてわかる。ウシNo.14のインデル率は45.4%であった。
【0343】
図13において、ウシミオスタチン遺伝子17番の第2エクソンの塩基対の中の12個の塩基対が欠失されていることが確認された。ウシNo.17のインデル率は99.98%であると確認された。
【0344】
上の結果によって、本願において、ミオスタチンの第2エクソンの改変誘導後に生まれたウシの標的ディープシーケンシングにより、ミオスタチンの第2エクソンの塩基は改変されていないことが確認された。しかしながら、改変が確認された3頭のウシすべてにおいて、第2エクソンの12個のみの塩基対が欠失されているのがわかることが確認された。
【0345】
【表8】
【0346】
[実施例10]初代細胞の培養
【0347】
生検パンチを用いてウシの耳の皮膚由来の初代細胞を得た。滅菌した外科用メスを用いてウシから得た耳介を小片に切断し、複数回洗浄し、コラゲナーゼ(Collagenase type I、Gibco(登録商標)、Cat.No.17-017)で補ったHANKの平衡塩類溶液(Gibco(登録商標)、Cat.No.14175095)において、4~18時間、38℃で培養した。一晩後、分散した細胞を、DMEM(Gibco(登録商標)、Cat.No.21068028)培地において複数回洗浄し、10%胎仔血清(Gibco(登録商標)、Cat.No.GIB-11150-059)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco(登録商標)、Cat.No.GIB-11150-059)で補った。
Cat.no.15140148)、1%非必須アミノ酸(Gibco(登録商標)、Cat.No.11140050)、及び100mm β-メルカプトエタノール(Sigma-aldrich、Cat.No.M3418)。
【0348】
上の実施例のプロセス中にT7E1アッセイを実行した図7において、初代細胞の培養後にそれを実行した。
【0349】
図14において、本願において生まれたウシNo.14及びNo.17の初代細胞を培養した後、野性型ウシ及びウシNo.14及びNo.17におけるミオスタチンmRNA発現の量を比較し、図式化した。
【0350】
上の結果からわかるように、ウシNo.14及びNo.17の初代細胞におけるミオスタチンmRNA発現の量は、ウシNo.14の場合、60%より多く、ウシNo.17の場合、80%、低減された。
【0351】
したがって、野性型ウシと比較して、本願のミオスタチン遺伝子の第2エクソンの12個の塩基対が欠失されているウシにおいて、ミオスタチンmRNA発現は低減されることが確認された。
【0352】
[実施例11]MSTNノックアウトウシの生殖細胞系伝達
【0353】
実験方法
【0354】
1)ドナー管理及び卵子採取(卵子吸引(Ovum Pick Up;OPU))
【0355】
膣内プロゲステロン器具(Repro360、Cue-mate)を用いて着床された、ランダムな発情周期のMSTN変異ドナーウシに2.0mgのエストラジオールベンゾアートを筋肉内注入した。4及び5日目に、12時間毎に、4投与量(57、57、43及び43mg)に分割した200mgのFSH(Kawasaki Pharm、Antonin R-10)をドナーに与えた。
OPUに先立って、7日目にP4器具を即時に除去した。
【0356】
OPUのために、ドナーウシをウシ用クラッシュから抑制した。5mLの2%リドカイン(Daihan、DAIHAN Lidocaine、韓国)を用いて硬膜外麻酔を行った。卵巣を経直腸的な操作によって固定し、超音波デバイスのプローブ上にとどめた。訓練を受けたOPU技術者が、卵胞吸引ガイド(WTA、カタログ番号10283)付きの7.5MHz経直腸トランスデューサープローブと接続された超音波デバイス(Esaote、MyLab One)を使用して、OPU手技を実行した。18G OPUネジ山付きニードル(WTA、カタログ番号17927)を使用して、卵胞穿刺を行い、50mL管に卵胞液を採取した。実体顕微鏡下で卵胞液由来の卵母細胞を採取し、インビトロ受精のために使用した。残りのわずかの卵胞断片を初代培養のために使用した。
【0357】
2)精液採取
【0358】
電気射精を使用して、MSTN変異雄ウシから精液を採取した。
(雄ウシ毎に3回)。精液採取前、包皮を切り、清浄な水で開口部を洗浄し、次いで、清浄なペーパータオルで乾燥させて汚染を最小限にした。3つの腹側電極が約1cmの間隔をあけた、直径6.5cmの直腸プローブが結合された、手動制御の電気射精器ElectroJac6(Ideal(登録商標)Instruments Neogen Corporation、米国、ミシガン州、Lansing)を使用して、電気射精を行い、腹腔の方に向けて電極を直腸に完全に挿入した。雄ウシが射精するまで電気刺激の数を増加させた。各刺激を8~10秒継続し、次の刺激が適用される前に約2.0秒間一時停止した。精液分泌が不透明になったとき、採取管を陰茎上に配置して精液を採取した。射出された精液を、30分以内に25℃で実験室に移送した。
【0359】
3)精液の凍結保存及び解凍
【0360】
精液試料を、それらが60%又はそれより高い一般的な運動性を示した場合、凍結保存のために使用した。精液試料を、37℃でOptixcell(登録商標)(IMV Technologies)を用いて増量した。増量した精液を、3時間、4℃で平衡化し、次いで、0.5mLのストロー中に配置した。液体窒素より5cm上の高さの専用のラックに、満たしたストローを配置し、15分間、液体窒素蒸気に暴露させて、次いで、液体窒素(-196℃)を満たした極低温槽中に配置した。凍結保存精子を、37℃の水浴中で45秒間、解凍した。
【0361】
4)精子運動性アッセイ
【0362】
精子運動性を分析及び定量化するために、製造元の指示に従って、IVOS-II CASA(Computer Assisted Sperm Analysis Program)システムを使用した。簡潔には、IVFのために使用されるのと同じプロトコルを使用して、凍結した精液を解凍し、インキュベートし、精製した。次いで、精子分析チャンバー(Leja slide)に3μlの精子を充填し、CASAによって分析した。3つの異なる雄ウシからの凍結したストローを使用した。技術的エラーを排除するために、各精液を3回分析し、統計的評価のためにCASA結果の平均値を使用した。
【0363】
5)インビトロ受精及び培養
【0364】
前に説明されるようにパーコール勾配法を使用して、運動性精子を選択した。簡潔には、15分間、1680rpmでのパーコール不連続勾配(45%~90%)での遠心分離によって、35℃で凍結して解凍したF0雄ウシ由来の精液をろ過した。45%パーコール溶液を生成するために、1mLの受精能獲得-タイロードのアルブミン乳酸ピルビン酸(Tyrode's albumin lactate pyruvate:TALP)培地を1mLの90%パーコールに加えた。精子ペレットを3mLの体積-TALP培地で2回洗浄し、5分間、1680rpmで遠心機にかけた。洗浄した運動性精子をIVFのために使用した。5%の湿気のある雰囲気中で、鉱油(Nidacon、カタログ番号NO-100)で被覆した50μLのIVF-TALP培地において、18時間、成熟卵母細胞とともに精子(1~2×10個の精子/mL)を培養した。38.5℃のCOでの共インキュベーションの18時間後、推定接合子から卵丘細胞を除去した。38.5℃で、5%O、5%CO、及び90%Nの雰囲気中で、鉱油で被覆した2段階化学的に定義された培地において接合子を培養した。
【0365】
実験結果
【0366】
1)MSTN変異雌ウシの生殖細胞系伝達
【0367】
OPUを実行した後、全45個の卵母細胞を採取した(n=3)。野性型凍結解凍精液とのインビトロ受精後、45個の卵母細胞を培養し、5個の胚盤胞(12.5±10.9%)を形成させた(図15のa)。選択された胚盤胞を5つのレシピエントに移入した。直腸検査及び超音波によって、1つのレシピエントにおいて妊娠を確認した(図15のb)。更に、OPU中に得られた卵胞液を培養することによってMSTN変異を確認した(図16)。T7E1アッセイ及びサンガーシーケンシングにより、残りの胚及び卵胞液由来細胞の両方において、F0雌におけるのと同じ変異を確認した(図17及び18)。これらの結果により、OPU手技を使用する、MSTN変異ウシにおける生殖細胞系伝達の成功が実証される。
【0368】
図15は、MSTN変異雌の生殖細胞系伝達の結果を示し、MSTN変異ウシ卵母細胞に由来するMSTN変異胚盤胞の製造(a)、及び30日目の超音波機器を使用する妊娠診断の代表的な写真(b)を示す。
【0369】
図16は、OPUプロセスによって得られる卵胞液に由来する体細胞の画像である((a):MSTN変異雌、(b):野性型)。
【0370】
図17は、MSTN変異雌胚盤胞の、T7E1アッセイの結果(a)及びシーケンシングデータ(b)(M:マーカー;WT:野性型;1:MSTN変異雌;N:ネガティブコントロール群;P:T7E1ポジティブコントロール群)を示す。
【0371】
図18は、卵胞液の体細胞からの、T7E1アッセイの結果(a)及びシーケンシングデータ(b)(1:MSTN変異雌(野性型でない);2:MSTN変異雌(野性型でない))を示す。
【0372】
2)MSTN変異雄の生殖細胞系伝達
【0373】
電気射精によって、10.5%変異を有する雄ウシ(F0)から精液を採取した。インビトロ受精のために試料を凍結し、精子運動性のために解凍した。CASAは、F0及び野性型試料の間で、前進細胞(%)、VCL、ALH、及びBCFにおける有意な相違を示した。しかしながら、LIN及びSTRは、F0及び野性型試料の間で有意な相違を示さなかった(図19)。更に、精液試料がインビトロ受精のために使用される場合、胚の発達及びコンピテンスに対する有害な影響は示されていない。屠殺場から採取した卵母細胞を、凍結解凍した精液を用いて受精させ、培養して胚盤胞に発達させた。全335個の卵母細胞(複製数=3)を使用した。それらの中で、261個の卵母細胞(78.9±10.8%)が分割され、166個の胚盤胞(50.5±6.8%)を形成(図20)させた。全細胞数は、81.3±20.6(n=20)であった。117個の胚盤胞において変異を分析し、15個の胚盤胞がMSTN変異を示した(12.7±3.1%)(図21)。
【0374】
図19は、Computer Assisted Semen AnalysisによるMSTN雄創始者由来の精液の概要を示す。
【0375】
図20は、MSTN変異雄ウシからの生殖細胞系移入の検証された結果としての、代表的な胚盤胞(MSTN変異雄ウシ精液を用いて受精させた、インビトロで製造される胚盤胞)の写真を示す。
【0376】
図21は、インビトロで受精させたMSTN変異雄ウシの精液由来の胚盤胞におけるMSTN遺伝子の変異率を示す(1~6:ランダムに選択された胚盤胞)。上のパネル(a)はT7E1の結果を示し、下のパネル(b)はMSTN標的部位のシーケンシングの結果を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17a
図17b
図18a
図18b
図19
図20
図21
【配列表】
2023554545000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-08-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムにおいて人工改変されたミオスタチン遺伝子を備える操作されたウシ亜科動物細胞であって、
前記ゲノム上でミオスタチン遺伝子の第2エクソン領域における配列識別番号:16によって表される核酸配列を有し、
性型細胞より少ない前記ミオスタチン遺伝子のmRNAを発現させ、野性型ミオスタチンタンパク質におけるロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの連続した4個のアミノ酸が欠失されている配列識別番号:30によって表される改変ミオスタチンタンパク質を発現させる、
操作されたウシ亜科動物細胞。
【請求項2】
前記操作されたウシ亜科動物細胞は、胚細胞、幹細胞、及び体細胞から選択される、
請求項に記載の操作されたウシ亜科動物細胞。
【請求項3】
前記人工改変されたミオスタチンタンパク質は、野性型ウシ亜科動物細胞における成熟ミオスタチンの同じ配列である配列識別番号:34によって表される成熟ミオスタチンを含む、
請求項1または2に記載の操作されたウシ亜科動物細胞。
【請求項4】
前記配列識別番号:16は、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンをエンコードする前記核酸配列から核酸の12個の塩基対が欠失されている配列であり、
前記12個の塩基対は、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序で連続した4個のアミノ酸のための領域に対応する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の操作されたウシ亜科動物細胞。
【請求項5】
前記核酸の12個の塩基対は、配列識別番号:28又は29からなる、
請求項4に記載の操作されたウシ亜科動物細胞。
【請求項6】
ゲノムにおいて人工改変されたミオスタチン遺伝子を備えるトランスジェニックウシ亜科動物であって、
前記トランスジェニックウシ亜科動物は、前記ゲノム上でミオスタチン遺伝子の第2エクソン領域における配列識別番号:16によって表される核酸配列を有し、
前記トランスジェニックウシ亜科動物は、野性型ウシ亜科動物より少ない前記ミオスタチン遺伝子のmRNAを発現させ、野性型ミオスタチンタンパク質におけるロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの連続した4個のアミノ酸が欠失されている配列識別番号:30によって表される改変ミオスタチンタンパク質を発現させる、
トランスジェニックウシ亜科動物。
【請求項7】
前記改変ミオスタチンタンパク質は、野性型ウシ亜科動物における成熟ミオスタチンの同じ配列である配列識別番号:34によって表される前記成熟ミオスタチンを含む、
請求項6に記載のトランスジェニックウシ亜科動物。
【請求項8】
前記配列識別番号:16は、ミオスタチン遺伝子の第2エクソンをエンコードする前記核酸配列から核酸の12個の塩基対が欠失されている配列であり、
前記12個の塩基対は、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、及びチロシンの順序で連続した4個のアミノ酸のための領域に対応する、
請求項6または7に記載のトランスジェニックウシ亜科動物。
【請求項9】
前記核酸の12個の塩基対は、配列識別番号:28又は29からなる、
請求項8に記載のトランスジェニックウシ亜科動物。
【請求項10】
前記トランスジェニックウシ亜科動物は、野性型ウシ亜科動物と比較して増大した筋肉量を有する、
請求項6から9のいずれか一項に記載のトランスジェニックウシ亜科動物。
【請求項11】
配列識別番号:64によって表される配列を有するガイドRNA;又はそれをエンコードする核酸配列;及び
ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9)タンパク質又はそれをエンコードする核酸
を備え、
前記ガイドRNAは、前記SpCas9タンパク質と複合体を形成することが可能である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の操作されたウシ亜科動物細胞を製造するための組成物。
【請求項12】
記ガイドRNAをエンコードするDNA、及び前記SpCasタンパク質をエンコードするDNAを含むプラスミドベクターを備える、
請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記ガイドRNAをエンコードするDNA、及び前記SpCasタンパク質をエンコードするDNAを含むウイルスベクターを備え
前記ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルスベクターからなる群から選択される少なくとも1つである、
請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
記ガイドRNA及び前記SpCasタンパク質の複合体であるRNP(リボ核タンパク質)において形成される、
請求項11から13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項6から10のいずれか一項に記載のトランスジェニックウシ亜科動物を製造するための方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の操作されたウシ亜科動物細胞を代理母に移入する段階;
を備え
製造された前記トランスジェニックウシ亜科動物は、野性型ウシ亜科動物より少ない前記ミオスタチン遺伝子のmRNAを発現させる、
方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0302
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0302】
CHOPCHOPソフトウェア(https://chopchop.cbu.uib.no/)によって、ミオスタチンの12個の塩基対のすべての一本鎖に相補的な配列を含むsgRNAを設計した。sgRNAは、上の相補的に結合する配列を含み、ミオスタチン遺伝子に関するCRISPR/SpCas9、CRISPR/SaCas9、又はCRISPR/Cpf1のPAM配列の中で使用される。実験において使用されるsgRNAを、表のガイド配列のうちの少なくとも1つを含むように設計した。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0303
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0303】
図1は、ミオスタチン遺伝子のプロトスペーサー配列のうちの1つを示す。図1によって示した配列において下線を引いた配列は、表5のガイド配列の中の配列識別番号:64に対応し、U(ウラシル)がT(チミン)で置換されている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0328
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0328】
RNeasy(登録商標)Mini Kit(Qiagen、Cat.No.74106)を使用して、全RNAを初代培養細胞から抽出し、RNA(Takara、Cat.639543)を使用して、1μgのRNA to cDNA EcoDry(商標)Premix(OligodT)から相補的DNAを合成した。QuantStudio 3(Applied Biosystems、モデル番号A28132)においてSYBR Green法を使用して、遺伝子発現解析を実行し、GAPDHによって、相対サイクル閾(cycle threshold:CT)値を正規化した。上の実施例において使用されるプライマーは、配列識別番号:85~配列識別番号:88に列挙される。
【国際調査報告】