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特表2023-554588腎疾患における使用のためのデュアルTNFR1アンタゴニストおよびTNFR2アゴニスト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-28
(54)【発明の名称】腎疾患における使用のためのデュアルTNFR1アンタゴニストおよびTNFR2アゴニスト
(51)【国際特許分類】
   C07D 319/06 20060101AFI20231221BHJP
   A61K 31/357 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
C07D319/06 CSP
A61K31/357
A61P13/12
A61P3/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528450
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2021081482
(87)【国際公開番号】W WO2022101389
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】20207534.7
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523172844
【氏名又は名称】セロダス エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スタイネス,エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】スカースフェルド,トーベン,フランク
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA14
4C086GA14
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、腫瘍壊死因子受容体1(sTNFR1)を減少させることができ、腫瘍壊死因子受容体2(sTNFR2)を増加させることができる特定の2,4-ジフェニル1-1,3-ジオキサン、および糖尿病性腎症などの腎疾患を有する特定のサブ集団の処置におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎疾患に罹患している患者の集団の処置に使用するための、式(I)の化合物
【化1】
であって、前記処置される集団が、2.9ng/mL超のTNFR1および/またはACR300mg/g超の血清レベルを有することを特徴とする、化合物。
【請求項2】
前記腎疾患が糖尿病性腎症である、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
上昇したsTNFR1が4.3ng/mL超である、請求項1または2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
前記化合物が、0.16mg/kg~1.6mg/kg、好ましくは毎日0.3mg/kgまたは0.625mg/kgの範囲の1日用量として投与される、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
対象の血清または尿中のsTNF1Rおよび/またはACRを減少させるのに使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
血清または尿中のsTNFR1値が、4.3ng/mL未満、好ましくは2.9ng/mL未満に減少する、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の2,4-ジフェニル1-1,3-ジオキサンが腫瘍壊死因子受容体1(sTNFR1)を減少させることができ、腫瘍壊死因子受容体2(sTNFR2)を増加させることができるという知見に関する。したがって、sTNFR1を減少させ、sTNFR2を増加させるという混合プロファイルによって、そのような化合物を、腎疾患の処置、特に、TNFR1の炎症促進性経路が高度に上昇している腎疾患に罹患している特定の患者サブ集団の処置に使用するための有望な薬物候補にする。したがって、本発明は、2.9ng/mL超のsTNF1Rおよび/またはACR300mg/g超の血清レベルを有することを特徴とする患者のサブ集団において、腎疾患、特に糖尿病性腎症の処置に使用するための特定の2,4-ジフェニル1-1,3-ジオキサンに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性腎症は、糖尿病患者の腎臓の疾患または損傷を示すために使用される医学用語であり、最終的に慢性腎臓病(CKD)に至る。これは進行性疾患であり、1型または2型糖尿病のいずれかを長期間、例えば10~20年以上患っている人々においてより一般的である。糖尿病性腎症は比較的一般的であり、1型または2型糖尿病を有する人々の約40%が何らかのステージのCKDを発症すると推定されている。さらに、2019年現在、国際糖尿病連合は、世界中で4億6300万人が糖尿病に罹患していると推定した。CKDは5つのステージに分類することができ、ステージ5(腎不全または末期腎不全(ESRD))が最後であり、これは患者が定期的な透析または腎移植を必要とする場合である。ステージは、腎臓損傷の程度および糸球体濾過量(GFR)によって決定される。腎臓損傷の徴候は、血液、尿、腎生検または画像研究で見ることができ、アルブミン/クレアチニン比(ACR)の測定を含む。ステージ1:腎臓損傷は存在するが、90を超えるGFRを有する正常なまたは比較的高い腎機能を有する、ステージ2:腎臓損傷が腎機能のいくらかの喪失を伴って存在する;GFR60~89、ステージ3:腎機能の軽度~重度の喪失;GFR30~59、ステージ4:腎機能の重度の喪失;GFR15~29およびステージ5:腎不全;GFR15未満。
【0003】
最近の米国報告(U.S.Renal Data System Annual Data Report 2019,Centers for Medicare&Medicaid Services)によれば、2017年に124,500人の新しいESRD症例が登録され、746,557人を超える米国人がESRDの処置を受けており、症例の約39%が糖尿病性腎症に起因した。処置コストは驚くべきものである。2017年には、血液透析処置の費用は、米国では患者当たり年間平均91,795ドルであり、これは米国での年間総血液透析費用約280億ドルに達した。2017年には、CKD患者とESRD患者との両方に対するメディケアの総支出が1200億ドルを超えた。社会的に莫大な経済的費用とは別に、CKDまたはESRDに罹患した患者はまた、個人的に日常生活を著しく妨げられ、その疾患が重度の食事制限を必要とし、最後に非常に頻繁な透析を必要とするため、通常の仕事を維持することが非常に困難であることが多い。通常、各透析処置は約4時間継続し、週に3回行われる。
【0004】
CKDは、腎疾患の背後にある病因および病理が異なるという事実にもかかわらず、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、糸球体硬化症または高血圧性腎硬化症などの異なる腎疾患に起因し得る。糸球体腎炎は、糸球体(ボーマン嚢に囲まれた腎臓の小さな毛細血管)の炎症を指し、自己免疫応答または感染によって引き起こされる可能性があり、典型的には、ネフローゼ症候群または腎炎性症候群の一方または両方をもたらす。糸球体硬化症は、糸球体の瘢痕化または硬化を指し、病的肥満、HIV感染、先天性欠損、薬物乱用または遺伝的原因などのさまざまな病因から生じる可能性がある。高血圧性腎硬化症は、糸球体、尿細管および間質組織を含む腎臓組織の硬化および肥厚をもたらす過剰濾過を引き起こす慢性高血圧による腎臓の損傷を指す。糖尿病性腎症は、糖尿病に罹患している患者の腎臓の損傷を指す。糖尿病性腎症の病態生理学は、血行動態因子と代謝因子との間の相互作用を伴うと考えられている。血行動態因子には、全身および糸球体内の圧力の増加、ならびにレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の過剰活性化が含まれる。血糖の制御が不十分な糖尿病患者では濾過されたグルコースの負荷が高いため、近位尿細管のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)に上方制御があり、これはナトリウムとグルコースとを共輸送して循環に戻す。これにより、遠位尿細管の緻密斑への塩化ナトリウムの送達が減少する。緻密斑細胞は、塩化ナトリウムレベルの変化を感知し、レニンを放出し、RAASを過活性化することによって自己調節応答を誘発し、それによって血圧を上昇させる。さらに、代謝因子には、血糖の制御が不十分な糖尿病患者におけるより高い血糖濃度に起因する終末糖化産物(AGE)の形成が含まれる。形成されたAGE産物は、マクロファージ、内皮細胞、腎臓メサンギウム細胞および糸球体の足細胞を含む多くの細胞型に見られるシグナル伝達受容体であるRAGE受容体を活性化する。RAGE受容体の活性化は、細胞質の活性酸素種(ROS)の産生を増強する他、核因子κB(NF-kB)などの細胞内分子も刺激する。これらの因子は、足細胞傷害、酸化ストレス、炎症、および線維症をもたらし、また腎機能を低下させる。糖尿病性腎症は、通常、初期ステージで糸球体過剰濾過および腎肥大を伴うアルブミン尿を伴い、続いてアルブミンの尿含有量の増加およびGFRの漸減が起こり、しばしばESRDに至る悪化する経過を示す。糖尿病性腎症の現在の処置には、血圧を低下させるためのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、血糖の厳格な制御を維持するための血糖降下薬、ならびに運動および健康的な食事を含む生活習慣対策が含まれる。最近、エンパグリフロジン(ナトリウム依存性グルコース輸送体2阻害剤)による処置も腎機能を安定化することが示されている。
【0005】
現在、CKD、すなわち、クレアチニンに基づくeGFR(推定GFR)およびACR(アルブミン/クレアチニン比)、を診断するために2つの検査が使用されている。糸球体濾過量(GFR)は、糸球体毛細血管からボーマン嚢へと至る腎臓において単位時間当たりに濾過された体液の量を表す。クレアチニンクリアランスは、単位時間当たりにクレアチニンが排出される血漿の量であり、クレアチニンは糸球体を通して自由に濾過され、尿細管から再吸収されないため、GFRを近似するための有用な尺度である。ACRは、尿中のアルブミン対クレアチニン比の尺度である。アルブミンは、腎臓損傷を有する患者の尿中で検出される最初のタンパク質の1つであり、排泄されるタンパク質の最大の割合も構成する。アルブミンは、血液中に高濃度で存在する血漿タンパク質であり、腎臓が適切に機能している場合、尿中には実質的にアルブミンは存在しない。しかしながら、人の腎臓が損傷または病気になると、アルブミンおよび他のタンパク質を保存する能力を失うことが多い。
【0006】
糖尿病性腎症と診断された患者は、進行性の腎機能低下を有する。これは、個体間で大きく異なる速度ではあるが、ESRDに達するまでほぼ一定の線形速度で進行する。上述の現在用いられている診断方法、ACRおよびクレアチニンに基づくeGFRは、どの低下が「非常に速い」、「速い」、「中程度」、または「遅い」かを確実に区別することができない。したがって、尿アルブミン排泄の増加は、糖尿病性腎症疾患の進行の重要な決定因子であるが、最初は同様のACRおよび/またはeGFR値を有するにもかかわらず、一部の患者群が他の患者群と比較してより急速な進行性腎機能低下を有する理由の現象を完全に説明していない。
【0007】
腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー(TNFRSF)は、細胞外システインリッチドメインを介して腫瘍壊死因子(TNF)に結合する能力を特徴とするサイトカイン受容体のタンパク質スーパーファミリーである。このファミリーは、他の受容体の中でも腫瘍壊死因子受容体1(TNFR1)および腫瘍壊死因子受容体2(TNFR2)を含む。TNFR1およびTNFR2は、膜結合型受容体(mTNFR1およびmTNFR2)と可溶性形態(sTNFR1およびsTNFR2)との両方として存在し、全身性炎症に関与する炎症促進性サイトカインTNF-αの結合によって活性化される。したがって、血清または尿中で測定されるTNFR1/2のレベルは、可溶性形態(sTNFR1およびsTNFR2)である。TNF-αはまた、可溶性形態(sTNF-α)と膜結合形態(mTNF-α)との両方で存在する。mTNFR1はほぼすべての細胞で遍在的に発現されるが、mTNFR2は、主に制御性T細胞(Treg)上でより限定的な発現を示すことが実証されている。TNFRは、可溶性TNF-α(sTNF-α)および膜結合TNF-α(mTNF-α)に対して異なる親和性を有する。TNFR1は両方の形態に等しくよく結合するが、TNFR2は膜結合形態に対してより高い親和性を有する。
【0008】
近年では、糖尿病性腎症の初期および後期の両方の主な臨床的特徴が進行性腎機能低下の速度である(mL/分/1.73m/年で測定されるeGFRの傾き)1型および2型糖尿病における糖尿病性腎症の新しいモデルがA.Krolewskiおよび彼の共同研究者によって提案されている(Diabetes Care 2015;38:954-962およびKidney Int.2017 June;91(6):1300-1311)。Krolewskiらは、個体の腎機能低下速度は一定であるが、eGFRの傾きは、個体が最初に類似のACRおよび/またはGFR値を有していたとしても、sTNFR1の血清レベルに応じて、-72から-3.0ml/分/1.73m/年まで個体間で大きく異なることを見出した。Krolewskiらは、患者を「very fast(非常に速く)」、「fast(速く)」、「moderate(中程度に)」および「slow(遅く)」低下する例に分け、「fast(速く)」および「very fast(非常に速く)」低下する例が2~10年以内に正常なeGFRからESRDに減少したことを実証した(図1参照)。3年間の追跡調査内のESRDの最大累積リスクは、ACRおよびGFRなどの他のマーカーの値にかかわらず、ベースライン血清sTNFR1>4.3ng/mlを有する患者についてのものであることが分かった。結果を図1にまとめた。したがって、糖尿病性腎症を有する患者の高リスク群(「fast(速い)」腎機能低下群)は、腎機能低下がよりゆっくりと進行する糖尿病性腎症を有する他の患者群(「moderate(中程度に)」または「slow(遅く)」低下する例など)と区別される。したがって、これらの患者群(fast declinerおよびmoderate decliner)は、血清中のsTNF1R値が増加しているという特異的な生理学的および/または病理学的状態を特徴とする別個の患者群を構成する。上昇した血清sTNFR1が進行性腎機能低下の速度を決定するという知見は、TNF1Rの炎症誘発性経路が重要な役割を果たすこと、および新しい処置が、疾患の進行を遅らせるために少なくともTNFR1のアンタゴナイズ/減少を目指すべきであることを示唆している。
【0009】
最近の知見は、膜結合受容体mTNFR1およびmTNFR2を介した細胞シグナル伝達ではなく、sTNFR1およびsTNFR2の可溶性循環レベルの重要性を指摘している。しかしながら、sTNFRの調節機構はまだ完全には理解されていない。いくつかの研究は、TNF-αが主な調節因子であることを示唆しており、というのも、このサイトカインが膜からのTNFRのシェディングを誘導するためである。また、尿中で、sTNFR排泄の増加は、活性化腎細胞におけるTNF-α発現の増加のマーカーとして解釈され得る細胞膜からのTNFRのシェディングの増加を反映する。血清中のsTNFRと尿中のsTNFRとの間に強い相関関係があることがさらに示されている。したがって、血清中の高レベルのsTNFRは、尿中の高レベルのsTNFRに対応し、逆もまた同様である。sTNFRの正確な生理学的役割は依然として不明であるが、I型糖尿病およびII型糖尿病の両方における腎機能の早期および後期の喪失の発症における、一般的な炎症ではなくTNFR媒介経路の特異的な関与が最近示唆された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
TNFR1を介したsTNF-αの結合は主に炎症誘発性経路を誘発するのに対して、TNFR2を介したmTNF-α結合は免疫調節および組織再生を誘発することが知られている。したがって、炎症性疾患の処置のための有望な治療戦略は、sTNF-α阻害剤/スカベンジャー、TNFR1アンタゴニストの投与によって、またはTNFR2シグナル伝達経路を損なわずにsTNFR1の血清レベルを減少させることによって、sTNF-α/TNFR1経路を選択的に遮断することであろう。別の有望な戦略は、TNFR2アゴニストに依存するか、またはsTNFR2の血清レベルを増加させることであり、制御性T細胞の増殖を促進し、組織再生を促進することができる。したがって、糖尿病性腎症などの腎疾患の将来の処置は、TNFR1を減少させるかまたはアンタゴナイズし、TNFR2を増加させるかまたはアゴナイズすることによってTNFRを調節することができる分子を同定することを目指すべきである。現在、本出願人の知る限りでは、TNFR1を減少させるかまたはアンタゴナイズすることによって作用し、同時にTNFR2を増加させるかまたはアゴナイズすることによって作用する既知の分子はない。したがって、TNFR1を減少させるかまたはアンタゴナイズし、TNF2Rを増加させるかまたはアゴナイズし、それによってsTNF1R経路を減少させ、sTNFR2経路を増加させることができる新しい治療法を見出すという当技術分野におけるアンメットニーズが存在する。特に、かかる化合物は、それらの腎症が数年の経過で不可逆的にESRDに発症する前に、高度に上昇したTNFR1を有し、腎疾患、特に糖尿病性腎症に罹患していることを特徴とする対象の特定のサブ集団を処置するのに価値があると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、(Z)-6-((2S,4S,5R)-2-(2-クロロフェニル)-4-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン-シス-5-イル)ヘキサ-4-エン酸またはその薬学的に許容され得る塩が、腫瘍壊死因子受容体1(TNFR1)を減少させるかまたはアンタゴナイズし、腫瘍壊死因子受容体2(TNFR2)を増加させるかまたはアゴナイズすることによって作用することを発見した。したがって、本発明者らは、本発明の化合物がプラセボ処置ラットと比較して糖尿病性腎症の動物モデルにおいてsTNFR1を減少させ、同時にsTNFR2を増加させることができ、それによってTNFR1の炎症誘発性経路を減少させ、TNFR2の組織再生媒介経路を増加させることを実証した。したがって、本発明による化合物は、TNFR1経路があまり顕著でない他の患者部分群と比較して高いレベルのsTNFR1を有することを特徴とする患者部分群における腎疾患、特に糖尿病性腎症の処置においてより有用である。さらに、驚くべきことに、ACR300mg/kg超を有する患者においてより良好な処置効果が観察されることが見出された。
【0012】
したがって、第1の態様では、本発明は、2.9ng/mL超の血清sTNFR1値および/またはACR300mg/kg超を有することを特徴とする患者群の腎疾患の処置に使用するための式(I)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関する。
【化1】
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】処置されていない(破線)、fast decliner群(4.3ng/mL超のTNFR1)のeGFR軌跡、moderate decliner群(2.9~4.3ng/mLのTNFR1)のeGFR軌跡およびslow decliner群(2.9ng/mL未満のTNFR1)のeGFR軌跡の概略図を示す。処置によってTNFR1値を低下させると(黒実線)、ESRDが延期されるようにeGFRの傾きが変化する(図は、A.Krolewskiら、Kidney Int.2017 June;91(6):1300-1311から引用したものである)。
図2】プラセボまたは化合物1による処置を受けたSham手術ラットおよびPx-UNx手術ラットにおけるベースライン値からのならびに4および7週間後の尿中TNFR1からクレアチニンへの変化(pg/mg)の測定を示す図である。用量1、3および10mg/kg(経口)のデータをプールした。値は平均±SEMを表す。この図は、Sham手術ラットが試験の7週間にわたってTNFR1レベルのわずかな低下を経験するのに対して、プラセボ(vehicle)を投与されたPx-UNx手術ラットは同じ期間にわたって急速に増加するTNFR1レベルを呈示することを示す。化合物1で処置したPx-UNx手術ラットもまた、7週間にわたってTNFR1レベルの上昇を呈示するが、プラセボ対照群よりも有意に低い。
図3】プラセボまたは化合物1による処置(3mg/kg(経口))を受けたSham手術ラットおよびPx-UNx手術ラットにおける4および7週間後のベースライン値からの尿中TNFR2からクレアチニンへの変化(pg/mg)の測定を示す図である。値は平均±SEMを表す。この図は、Sham手術ラットが研究の7週間にわたってTNFR2レベルのわずかな低下を経験するのに対して、プラセボ(vehicle)を投与したPx-UNx手術ラットは同じ期間にわたってTNFR2レベルの急速な低下を呈示することを示す。化合物1で処置したPx-UNx手術ラットは、減少したレベルのTNFR2を示すが、プラセボ対照群と比較してはるかに低い。
図4】膵臓の解剖学的マップを示す図である。90%の膵臓切除後の残部(残存膵臓)を図4の白色領域として定義する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本文脈において、「処置」という用語は、最も広い意味で予防、改善、または処置として理解されるべきである。したがって、処置はまた、予防的処置を含むことが意図される。したがって、腎疾患の処置は、ACRおよび/またはeGFRによって推定される腎機能の喪失の予防もしくは遅延、または腎機能の喪失を部分的に逆転させることを指し得る。
【0015】
本文脈において、「薬学的に許容され得る塩」という用語は、酸を塩に変換するために医薬品に使用される全ての種類の塩を指す。塩は、式(I)の化合物への塩基の付加によって形成され得る。典型的な例は、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,2nd Revised Edition P.Heinrich Stahl(Editor),Camille G.Wermuth(Editor)ISBN:978-3-906-39051-2 April 2011,388 Pagesに見出され得る。
【0016】
本文脈において、「sTNFR1」は可溶性TNF受容体1型を指す。sTNFR1は、本明細書に記載の手順に従って血清または尿中のいずれかで測定することができる。
【0017】
本文脈において、「sTNFR2」は可溶性TNF受容体2型を指す。sTNFR2は、本明細書に記載の手順に従って血清または尿中のいずれかで測定することができる。
【0018】
本発明によれば、sTNFR1およびsTNFR2は、Krolewski A.S.Diabetes Care 2015;38:954-962およびKrolewski A.Sら、Kidney Int.2017 June;91(6):1300-1311に記載の手順に従って血清または尿中で測定される。簡単に説明すると、全てのマーカーをイムノアッセイによって測定した。試料を解凍し、ボルテックスし、遠心分離し、上清中で測定を行った。sTNFR1およびsTNFR2を、製造業者のプロトコルに従ってELISA(それぞれDRT100、DRT200、および高感度イムノアッセイHS600B;R&D社(ミネソタ州ミネアポリス在))によって測定した。
【0019】
本明細書で使用される他の定義は以下のとおりである:
ACR:アルブミン/クレアチニン比
eGFR:推定GFR
ESRD:末期腎不全
GFR:糸球体濾過率
NA:正常アルブミン尿
MA:微量アルブミン尿
T1DMまたはT1D:1型(真性)糖尿病
T2DMまたはT2D:2型(真性)糖尿病
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、腎疾患、特に糖尿病性腎症の処置に使用するための(Z)-6-((2S,4S,5R)-2-(2-クロロフェニル)-4-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン-シス-5-イル)ヘキサ-4-エン酸またはその薬学的に許容され得る塩に関する。この化合物は、トロンボキサン受容体アンタゴニスト、トロンボキサンシンターゼ阻害剤および/またはPPARアゴニストであることが以前に示されている2,4-ジフェニル-1,3-ジオキサンのクラスに属する。したがって、このクラスの化合物は、グルコース取り込みに影響を及ぼし(例えば、国際公開第2007/138485号の実施例28を参照されたい)、トロンボキサン受容体をアンタゴナイズし(例えば、国際公開第2007/138485号の実施例29を参照されたい)、細胞増殖を阻害する(例えば、国際公開第2007/138485号の実施例30を参照されたい)ことが以前に示されている。したがって、以前に公開されたデータは、このクラスの化合物が抗高血糖剤、抗癌剤および/または抗凝固剤としての可能性を有し得ることを裏付けている。
【0021】
本発明者らはここで、驚くべきことに、(Z)-6-((2S,4S,5R)-2-(2-クロロフェニル)-4-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン-シス-5-イル)ヘキサ-4-エン酸またはその薬学的に許容され得る塩もまた、腫瘍壊死因子受容体1(TNFR1)の血清または尿中レベルを減少させ/アンタゴニストとして作用し、腫瘍壊死因子受容体2(TNFR2)の血清および尿中レベルを増加させ/アンタゴニストとして作用することを見出した。この知見により、本発明の化合物は、腎疾患、特に糖尿病性腎症の処置、より具体的には血清または尿中の上昇したsTNFR1レベルを有することを特徴とする腎疾患を有する患者の部分群における腎疾患の処置に有用となる。
【0022】
本発明者らは、驚くべきことに、化合物1が、プラセボを投与されたPx-UNx手術ラットと比較して、Px-UNx手術ラットにおいてsTNFR1のレベルを減少させることができることを見出した(図2を参照されたい)。さらに、本発明者らは、驚くべきことに、化合物1が、プラセボを投与されたPx-UNx手術ラットと比較して、Px-UNx手術ラットにおいてsTNFR2のレベルを増加させることができることを見出した(図3を参照されたい)。この知見が驚くべきものであったのは、トロンボキサン受容体拮抗薬、トロンボキサンシンターゼ阻害剤およびPPARアゴニストとしての化合物1は、これらの受容体とTNFR1との間に生物学的関連が存在しないことから、TNFR1のレベルを調節するとは予想されなかったからである。したがって、これらの新たな知見は、新たな臨床用途、すなわち、腎疾患に罹患しており、上昇したsTNFR1および/または減少したsTNFR2を有し、それによって腎機能の最も速い低下を特徴とする特定の部分群の処置のための使用をもたらした。
【0023】
したがって、第1の態様では、本発明は、2.9ng/mL超の血清sTNFR1値および/またはACR300mg/kg超を有することを特徴とする患者群の腎疾患の処置に使用するための式(I) の化合物またはその薬学的に許容され得る塩に関する。
【化2】
【0024】
腎疾患
本発明の一実施形態では、腎疾患は、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、糸球体硬化症または高血圧性腎硬化症からなる群から選択される。最も好ましい実施形態では、腎疾患は糖尿病性腎症である。
【0025】
患者群
上述のように、特定の腎疾患に罹患している患者を単一の均一な群と見なすことはできないが、例えばsTNFR1のレベルに基づいて部分群にさらに分けることができる。図1に例示するように、糖尿病性腎症を罹患している患者は、腎機能が低下する速度(eGFRの傾き)に応じて、「fast decliner」、「moderate decliner」または「slow decliner」のいずれかにさらに分類することができる。したがって、ACRおよびGFR値が類似しているために、糖尿病性腎症の同じステージ(1~5)に最初に分類された対象は、腎機能低下の速度が非常に異なるため、疾患の進行が完全に異なる可能性がある。腎機能が低下する速度は、sTNFR1の血清または尿中レベルによって決定され、sTNFR1とその炎症誘発性シグナル伝達経路とが疾患進行速度に果たす役割を強調している。Krolewskiらによれば、「fast decliner」は約2~10年以内にERSDに達し、4.3ng/mL超のTNFR1の血清を有することを特徴とした。「moderate decliner」は、約10~18年以内にERSDに達し、2.9~4.3ng/mLのTNFR1を有することを特徴とする。最後に、slow declinerは、20~45年以内にERSDに達し、血清中TNFR1レベルが2.9ng/mL未満(図4を参照されたい)であることを特徴とする。したがって、本発明による化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、2.9ng/mL超のsTNFR1の血清レベル、例えば2.9~4.3ng/mLのsTNFR1値、最も好ましくは4.3ng/mL超のsTNFR1の血清レベルを有することを特徴とする部分群の処置に特に有用である。したがって、本発明による化合物は、高レベルのsTNFR1が急速な疾患進行を引き起こすので、数年の経過でESRDを発症するかまたはベースラインeGFRの40%以上を失う高いリスクを有する群において糖尿病性腎症の進行を遅らせるのに特に有用である。したがって、好ましい実施形態では、処置は、2.9ng/mL超(すなわち、「moderate decliner」または「fast decliner」)のsTNFR1の血清レベルを有することを特徴とする腎疾患に罹患している患者の部分群で使用するためのものである。好ましい実施形態では、処置は、2.9~4.3ng/mL(すなわち、「moderate decliner」)のsTNFR1値の血清レベルを有することを特徴とする腎疾患に罹患している患者の部分群で使用するためのものである。より好ましい実施形態では、処置は、4.3ng/mL超(すなわち、「fast decliner」)のsTNFR1の血清レベルを有することを特徴とする腎疾患に罹患しているヒト対象のサブ集団で使用するためのものである。特に、本発明は、糖尿病性腎症の処置に有用である。したがって、さらにより好ましい実施形態では、処置は、2.9~4.3ng/mL(すなわち、「moderate decliner」)のsTNFR1の血清レベルを有することを特徴とする糖尿病性腎症に罹患してる患者の部分群で使用するためのものである。最も好ましい実施形態では、処置は、4.3ng/mL超(すなわち、「fast decliner」)のsTNFR1の血清レベルを有することを特徴とする糖尿病性腎症に罹患している患者の部分群で使用するためのものである。上述のように、糖尿病性腎症は、1型糖尿病および2型糖尿病の両方の長期合併症として起こり得る。したがって、特定の実施形態では、臨床症状は、1型糖尿病の長期合併症としての糖尿病性腎症である。さらに別の特定の実施形態では、臨床症状は、2型糖尿病の長期合併症としての糖尿病性腎症である。
【0026】
TNFR1値を低下させると、eGFRの傾きが減少して、ESRDの発症が延期される。図1には、「fast decliner部分群」(破線)における患者のeGFRの傾きを、「moderate decliner部分群」(実線)におけるeGFRの傾きに対応するeGFRの傾きにシフトさせ、それによってESRDの発症を約5年延期する様子を示している。最良の臨床結果を得るためには、腎疾患の処置を可能な限り早期に開始することが好ましいことになる。したがって、本発明の一実施形態では、処置は、腎疾患に罹患しており、腎不全(15未満のGFRを有するステージ5)および2.9ng/mL超、最も好ましくは4.3ng/mL超のsTNFR1の血清レベルを有する患者の部分群で使用するためのものである。好ましい実施形態では、処置は、腎疾患に罹患しており、腎機能の重度の喪失(15~29未満のGFRを有するステージ4)および2.9ng/mL超、最も好ましくは4.3ng/mL超のsTNFR1の血清レベルを有するヒト対象の部分群で使用するためのものである。より好ましい実施形態では、処置は、腎疾患に罹患しており、腎機能の軽度~重度の喪失(30~59未満のGFRを有するステージ3)および2.9ng/mL超、最も好ましくは4.3ng/mL超のsTNFR1の血清レベルを有する患者の部分群で使用するためのものである。さらにより好ましい実施形態では、処置は、腎疾患に罹患しており、腎機能のいくらかの喪失(60~89未満のGFRを有するステージ2)および2.9ng/mL超、最も好ましくは4.3ng/mL超のsTNFR1の血清レベルを有する患者の部分群で使用するためのものである。最も好ましい実施形態では、処置は、腎疾患に罹患しており、腎臓損傷は存在するが腎機能は正常(90を上回るGFRを有するステージ1)であり、2.9ng/mL超、最も好ましくは4.3ng/mL超のsTNFR1の血清レベルを有する患者の部分群で使用するためのものである。上記実施形態のいずれにおいても、腎疾患は、好ましくは糖尿病性腎症として選択される。
【0027】
別の非常に好ましい実施形態では、式(I)の化合物が、90ml/分を上回る正常糸球体濾過量(GFR)、1.9gアルブミン/gクレアチニンを超えるACRおよび2.9ng/mLを超える、最も好ましくは4.3ng/mLを超えるsTNFR1の血清レベルを有することを特徴とする患者の部分群における糖尿病性腎症の処置に使用するためのものである。
【0028】
別の非常に好ましい実施形態では、式(I)の化合物が、90ml/分を上回る正常糸球体濾過量(GFR)、300mgアルブミン/gクレアチニンを超えるACRおよび2.9ng/mLを超える、最も好ましくは4.3ng/mLを超えるsTNFR1の血清レベルを有することを特徴とする患者の部分群における糖尿病性腎症の処置に使用するためのものである。
【0029】
用量
本発明者らは、最初に、糖尿病性腎症の手術誘発動物(ラット)モデルにおいて化合物1を試験した(Secher Tら、Diabetes 2018 Jul;67(Supplement 1))。このモデルでは、Krolewskiらの知見と同様に、「fast decliner」の尿中で循環TNFR1の上昇レベルを観察することができる。ラット研究において、本発明者らは、驚くべきことに、7週間の全処置期間にわたってプラセボ処置と比較して化合物1によるTNFR1のレベルの低下を見出した(図2を参照されたい)。
【0030】
化合物1の1、3および10mg/kgの3つの活性用量を、49日間にわたって90%の膵臓切除されたおよび一側性腎摘出されたラットに1日1回経口投与した。対照群にはプラセボを投与し、別の対照群には、腎臓または膵臓の機能に影響を及ぼすことなく(Shamモデル)、90%膵臓切除術(Px)および一側性腎摘出術(UNx)を模倣する手術を行った。Sham群にはプラセボも投与した。ラット研究からの結論は、化合物1が全処置期間にわたって尿中のsTNFR1のレベルを減少させたというものであった(図2を参照されたい)。図2から分かるように、Sham手術ラットは、研究の7週間にわたってsTNFR1レベルのわずかな低下を経験するが、プラセボ(vehicle)を投与されたPx-UNx手術ラットは、同じ期間にわたってsTNFR1レベルの急速な増加を呈示する。化合物1で処置したラットおよびPx-UNxで手術したラットもまた、7週間にわたってTNFR1レベルの増加を示すが、プラセボ対照群よりも有意に低い。ラットモデルにおける1日用量をヒトにおける等価用量に変換することができる(Guidance for Industry:Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers,2005)。したがって、1mg/kgの1日用量は、70kgの患者に対して0.16mg/kgまたは11.2mgのヒト1日用量に対応する。同様に、3mg/kgの1日用量は、70kgの患者に対して0.48mg/kgまたは33.6mgのヒト1日用量に対応する。最後に、10mg/kgの1日用量は、70kgの患者に対して1.6mg/kgまたは112.7mgのヒト1日用量に対応する。実施例1に見られるように、投与量レベル間の統計学的に有意な差(1、3または10mg)は観察されなかった。これは、最低用量で既に完全な効力が得られており、したがって動物モデルにおいて1mg/kgよりもさらに低い1日用量が尿中のsTNFR1を低下させるのに十分であることを示唆している。
【0031】
したがって、動物研究に基づいて、上述の用量変換をヒト用量に適用すると、同等に治療有効な1日用量は、0.16mg/kg~1.6mg/kgの範囲にあることが示された。しかしながら、全ての用量が等しく有効であることが分かったので、動物モデルからのデータは、0.16mg/kgの化合物1よりもさらに低い1日用量がsTNFR1を減少させるのに有効であることを示唆している。これは、より高い用量が必要とされる(トロンボキサン受容体またはトロンボキサンシンテターゼをアンタゴナイズすることによって)凝固系に及ぼす影響が最小限である患者においてsTNFR1が減少し得ることを効果的に意味する。
【0032】
したがって、好ましい実施形態では、式(I)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、1.6mg/kg未満、好ましくは0.48mg/kg未満、さらにより好ましくは0.16mg/kg未満の1日用量、例えば0.01~1.6mg/kg、より好ましくは0.05~0.48mg/kg、より好ましくは0.1~0.16mg/kgの範囲の1日用量に相当する治療有効用量で患者に投与される。本発明の別の実施形態では、式(I)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、0.16mg/kg~1.6mg/kgの範囲の1日用量として患者に投与される。本発明の別の好ましい実施形態では、式(I)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、0.3mg/kg~0.625mg/kgの範囲の1日用量として患者に投与される。本発明のさらに別の実施形態では、式(I)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、0.3mg/kgまたは0.625mg/kgの1日用量として患者に投与される。
【0033】
投与レジメン
投与レジメンは、本明細書に記載されるような1日1回の用量を含み得るか、または薬物の有効治療血漿濃度に達するように複数のより少ない1日用量に分割され得る。より少ない複数の用量の利点は、狭い治療ウィンドウまたは短い半減期を有する薬物に必要であり得る血漿薬物濃度の変動が少ないことである。より複雑な投与レジメンの欠点は、最適でない患者コンプライアンスであり得る。一実施形態では、投与レジメンは、本明細書に記載される1日1回用量を含む。別の実施形態では、投与レジメンは、各用量が1日1回用量の半分のサイズである2回の1日用量を含む。好ましくは、患者コンプライアンスの理由から、1日1回の用量が好ましい。
【0034】
したがって、本発明の一実施形態では、2.9ng/mL超、最も好ましくは4.3ng/mL超のsTNFR1の血清レベルを有することを特徴とする糖尿病性腎症患者の集団の処置に使用するための式(I)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩が提供され、ここで、前述の患者は、処置が必要な限り(すなわち、上昇したsTNFR1レベルが尿または血清中に存在する限り)、「用量」のセクションで上述した1日用量を投与される。上記のような腎機能の喪失の進行性の性質のために、処置期間は、いくつかの実施形態では、数週間、数ヶ月または数年間続くことがあり、最も好ましくは処置は慢性処置である。
【0035】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤または血糖降下薬などの糖尿病性腎症の処置に使用される1つ以上の追加の薬剤と一緒に投与され得る。
【0036】
薬学的に許容され得る塩
式(I)の化合物は、遊離カルボン酸またはその薬学的に許容され得る塩基付加塩として使用され得る。塩形成は、酸性薬物および塩基性薬物の両方の溶解度および溶解速度を改善する周知の有効な方法である。したがって、好ましい実施形態では、式(I)の化合物は塩である。適切な塩としては、限定されないが、式(I)の化合物のナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む塩が挙げられる。他の塩としては、式(I)の酸を適切なアミンと反応させることによって形成される適切なアンモニウム塩を挙げることができる。適切な塩の例は、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,2nd Revised Edition P.Heinrich Stahl(Editor),Camille G.Wermuth(Editor)ISBN:978-3-906-39051-2 April 2011 388 Pagesに見出すことができる。本発明の最も好ましい実施形態では、塩は、以下に示すtert-ブチルアンモニウム塩(化合物1)である。
【化3】
【0037】
TNFR1の減少
本発明者らは、式(I)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩が、上記のように有効な治療用量を投与することによって、糖尿病性腎症の動物モデルにおいて血清または尿中のsTNF1Rを減少できることを見出した。血清または尿sTNFR1レベルの減少は、疾患の進行を遅らせ、腎機能を改善する。sTNFR1の減少量は、処置された対象における初期sTNFR1レベル、有効治療用量および処置期間に依存する。したがって、本発明の一実施形態では、血清中のsTNFR1値は4.3ng/ml未満に減少し、好ましくは血清中のsTNFR1値は2.9ng/ml未満に減少し、より好ましくは血清中のsTNFR1値は1.0ng/mL未満に減少する。
【0038】
本発明の第2の態様では、慢性腎臓病(CKD)もしくは末期腎不全(ESRD)またはその両方を発症するリスクが高い、腎疾患、好ましくは糖尿病性腎症と診断されたヒト対象の処置方法が提供され、該方法は、
1.正常アルブミン尿(NA)、微量アルブミン尿(MA)、マクロアルブミン尿またはタンパク尿(PT)を有するヒト対象から血清または尿試料を得ることと、
2.対象試料中のsTNFR1のレベルを測定する(例えば、TNFR1抗体を用いる)ことと、
3.sTNFR1の対象試料レベルをsTNFR1の参照試料レベルと比較することと、
4.対象試料レベルと参照レベルとの比較に基づいて、対象がCKDもしくはESRDまたはその両方を発症するリスクの増加を有するかどうかを決定するステップであって、少なくとも2.9ng/mlのレベルでの対象血清試料中のsTNFR1の存在が、対象がCKD、ESRDまたはその両方を発症するリスクの増加を有することを示すことと、
5.CKD、ESRDまたはその両方を発症するリスクの増加を有するとしてポイント4)で特定された任意の対象に治療有効量の式Iの化合物を投与することと、
6.必要に応じて、TNFR1のレベルの低下について特定された対象をモニタリングし続けることと
を含む。
【実施例
【0039】
バイオマーカーの検出方法
以下の実施例では、sTNFR1およびsTNFR2を、R&D Systems社からの市販のELISAキットマウス/ラットTNFRI/TNFRII Quantikine ELISAキットを製造業者のプロトコルに従って使用して測定した。しかしながら、本発明による関連する集団群を決定するためにヒトにおいてsTNFR1およびsTNFR2を測定する目的で、Krolewski A.S.Diabetes Care 2015;38:954-962およびA.S.ら、Kidney Int.2017 June;91(6):1300-1311に記載される方法を使用することが望ましい。
【0040】
実施例1-糖尿病性腎症ラットモデル
外科的処置
膵臓切除術および一側性腎摘出術(下記参照)を、単一の外科的処置(Secher Tら、Diabetes 2018 Jul;67(Supplement 1))の間に行った。動物を、数日間連続した手術日にランダムな方法で手術した。ケージにグリッドを設置した一晩完全に絶食させた後、ラットをイソフルラン麻酔下で膵臓切除および一側性腎摘出した。術前に鎮痛剤、抗生物質および補液を投与した。手術の1日前から1日後までラットに食物を与えず、手術2日目からラットに自由に摂食させた。
【0041】
膵臓切除術(PX)
手短に言えば、90%膵臓切除術は、歯科用アプリケータを用いて緩やかに擦過することにより、尾部の完全な部分、体部および膵頭の一部を除去して行われる。胃、脾臓および腸の主要な血管は無傷のままであり、したがって他の器官は損なわれない。残部(残留膵臓)は、図4に示されるような解剖学的マップに従って白色領域として定義される。
【0042】
一側性腎摘出術(UNx)
簡単に説明すると、右腎臓を訪れ、右尿管、腎動脈および腎静脈を特定し、縫合糸で結紮する。その後、右腎臓を除去する。
【0043】
シャム手術
シャム手術は、Px-UNx外科処置を可能な限り最良に模倣するように行われる。簡単に説明すると、麻酔および鎮痛ならびに腹腔の開放および閉鎖は、上記のように行われる。腹腔を開いた後、膵臓および右腎臓は露出されるが、触れられず無傷のままである。
【0044】
尿サンプリング
ラットを午後から翌朝まで16時間代謝ケージに個別に入れた。研究群の無作為化されたサブセットを数日間にわたってケージに入れた(ケージがラットよりも少なかったため)。ラットに飼料および水を自由に与えた。可能であれば、ケージエンリッチメント(igloo社、着座用のプラスチックスティック)を含めた。全尿量を記録し、尿を-80℃で保存した。凍結前に数本の0.5mlエッペンドルフチューブに大量に分注した。
【0045】
尿アッセイ
尿試料を分析まで-80℃で保存した。製造業者の説明書に従って市販のELISAキット(R&D Systems社マウス/ラットTNFRI/TNFRII Quantikine ELISAキット)を使用して、ラット尿中のsTNFR1を測定した。尿中クレアチニンは、Cobas(商標)C-501自動分析装置のCREP2キット(Roche Diagnostics社、ドイツ)を製造者の説明書に従って使用して測定した。尿中アルブミンは、Bethyl Laboratories社ラットアルブミンELISAを製造者の説明書に従って使用して測定した。尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を計算した。
【0046】
試験計画
5つの群の雄Sprague-Dawleyラットを試験に含めた。すなわち、化合物1を投与した3つの外科的に処置した群、プラセボ(vehicle)を投与した1つの群およびプラセボも投与した1つのシャム手術群。各群を以下の表1にまとめる。
【表1】
【0047】
結果
ベースラインならびに個々の群1~5についての4週間および7週間でのクレアチニンの尿中濃度(pg/mg)について補正したsTNFR1の尿中濃度は、表2に示される通りであった。
【表2】
【0048】
表2は、pg prでsTNFR1値を示す(0、4および7週目の群1~5のクレアチニン1mgあたり)。
【0049】
表2から分かるように、3つの処置群の補正されたsTNFR1値は、4週間および7週間の両方でプラセボ群の値より一貫して低く、化合物1の処置効果を示している。しかしながら、この時点で投与量レベル間の統計学的に有意な差(1、3または10mg)は観察されなかった。これは、最低用量で既に完全な有効性が得られており、したがって、1mg/kgよりも低い用量でさえ尿中のsTNFR1を低下させるのに十分であることを示唆している。したがって、表3に示す以下のデータセットに到達するために投与量データをプールすることを決定した:
【表3】
【0050】
表3に示されるデータを、ベースライン値に対するsTNFR1濃度の変化としてプロットした(図2を参照されたい)。図2から分かるように、Sham手術ラットは、研究の7週間にわたってTNFR1レベルのわずかな低下を経験するが、プラセボ(vehicle)を投与されたPx-UNx手術ラットは、同じ期間にわたってsTNFR1レベルの急速な増加を示す。化合物1で処置したラットおよびPx-UNxで手術したラットも、7週間にわたってsTNFR1レベルの上昇を示すが、プラセボ対照群より有意に低い。このデータは、sTNFR1の減少における化合物1の効果を実証している。
【0051】
同様に、クレアチニンの尿中濃度(pg/mg)について補正したsTNFR2の尿中濃度を、ベースライン時ならびに群3の4および7週間後に測定した。データを表4にまとめる:
【表4】
【0052】
表4は、pg prでTNFR1値を示す(0、4および7週目の群3のクレアチニン1mgあたり)。表4に示されるデータを、ベースライン値に対するTNFR2濃度の変化としてプロットした(図3を参照されたい)。図3から分かるように、群3(処置群)のTNFR2値の変化は、群2(プラセボ)と比較してあまり顕著ではない。これは、sTNFR2経路がプラセボ群と比較して無傷のままであり、組織再生の増加の有益な効果をもたらすことを示す。
【0053】
実施例2
糖尿病性腎症の患者において、化合物1を用いた臨床第2相試験を行った。患者を、マクロアルブミン尿(300mg/g超のACR)または微量アルブミン尿(ACR30~300mg/g)のいずれかを有する2つの異なる部分群に分け、各部分群を毎日0.3mgの化合物1/kgまたは毎日0.625mgの化合物1/kgで4週間処置した。各部分群において2つの用量間の統計学的な有意差は観察されず、データをプールした。これは、最低用量で既に完全な有効性が得られており、したがって、毎日0.3mg/kgよりも低い用量でさえACRを改善するのに十分であることを示唆している。ベースラインから両部分群においてACRの統計学的に有意な減少が観察された。データを以下の表5にまとめる:
【表5】
【0054】
表5は、化合物1が両方の患者群においてACRを改善するのに有効であったことを示す。しかしながら、マクロアルブミン尿症(ACR300mg/g超)の部分群は、ACR低下が(20.9%)であった微量アルブミン尿症(ACR30~300mg/g)の部分群と比較して、ACRの統計学的に有意に高い低下(26.2%)を示した。この観察結果は、上昇したTNFR1が上昇したACRと相関することが以前に示されていることから、化合物1がTNFR1を低下させるかまたはアンタゴナイズすることができるという知見とよく一致している。したがって、結論として、化合物1は、マクロアルブミン尿症(ACR300mg/g超)を有する部分群において最も良好に機能した。
【0055】
実施例3-(Z)-6-(-2-(2-クロロフェニル)-4-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン-5-イル)ヘキサ-4-エン酸の合成
【0056】
ステップ1:シス/トランス混合物としてのラセミ体2-メトキシ-パラコン酸の合成:
20Lの二重ジャケット付きガラス反応器に、260gのo-メトキシベンズアルデヒド、286gの無水コハク酸、572gの無水塩化亜鉛および2600mlの無水ジクロロメタン(DCM)を投入した。混合物を撹拌し、2℃まで冷却した。533mlの量のトリエチルアミンを30分間にわたって添加した。次いで、混合物を周囲温度で24時間撹拌した。1690mlの量の2M HClを加えた後、2600mlの酢酸エチルを加えた。混合物を5分間激しく撹拌した。水相を酢酸エチル2000mlで抽出した。合わせた有機抽出物を650mlの飽和ブラインで洗浄し、続いて3×2600mlの飽和重炭酸ナトリウムで洗浄した。次いで、合わせた水性抽出物を酢酸エチルで洗浄した。水性抽出物を、濃塩酸(concentrated HCl)を用いてpH2に酸性化した。黄色油が分離した。2000mlの酢酸エチルを用いて混合物を2回抽出した。有機相を1000mlのブラインで4回洗浄し、45℃の加熱浴温度を用いてBuchi R220ロータリーエバポレーターで蒸発させた。残りの残渣にトルエン4000mlを添加した。混合物を110℃に加熱した。トルエン1Lを留去した。残りを室温に冷却し、48時間放置し、その間に純粋な2-メトキシパラコン酸が結晶化した。結晶性物質を回収し、濾過し、一定重量になるまで真空オーブン中45℃で真空乾燥させた。
【0057】
収率:220g(49%)。シス/トランス比:46/54。
【0058】
ステップ2:シス-およびトランス-ラセミ体メトキシ-パラコン酸の全トランス-2-メトキシ-パラコン酸への変換:
メトキシパラコン酸1020gを、濃硫酸1729mlと水2570mlとの混合物に添加した。混合物を室温で18時間撹拌した。33:64のシス/トランス比が得られた。次いで、混合物を60℃に2.5時間加熱した。11:89のシス/トランス比が得られた(HPLCによる分析)。次いで、混合物を室温に冷却し、続いて濾過した。固体物質を酢酸エチルに再溶解し、水およびブラインで洗浄した。有機層をMgSO上で乾燥させ、蒸発させた。6:94のシス/トランス比が観察された。固体物質を熱トルエンから再結晶した。得られた結晶性物質を真空中40℃で48時間乾燥させた。収率:855g(84%)。シス/トランス比:8/92。融点:132~133℃。H-NMR(CDCl3,300MHz):2.9(2H,d),3.4(1H,m),3.83(3H,s)5.85(1H,d),6.8-7.4(4H,m)
【0059】
ステップ3:ラセミ体メトキシパラコン酸のエステル化:
メトキシパラコン酸193gをTHF600mlに溶解した。混合物にCDI145g(899mmol、1.1当量)を添加し、混合物を10分間撹拌した。65mlの量の無水エタノール(またはメチルエステルを作製するためのメタノール)を添加し、完了するまで混合物を撹拌した(約120分)。粗反応混合物を、酢酸エチルおよび飽和重炭酸ナトリウムを使用して抽出した。有機相を0.5N HClおよびブラインで洗浄した。蒸発後、188gの量の所望のエチルエステルが得られた。
【0060】
ステップ4:ラセミ体メトキシ-パラコン酸、エチルエステルの還元:
ラセミ体ラクトールの調製:5℃のトルエン700ml中エチルエステル105g(397mmol)に3当量のDIBAL-H(1.19mol、1.19Lの1M溶液)を添加した。混合物を室温で60分間撹拌し、メタノールでクエンチした。酢酸エチル(2.5L)および水(700ml)を添加した。相分離後、水相を再びEtOAcで抽出した。次いで有機層をブラインで洗浄し、濾過し、蒸発させた。油性残渣をクロロホルム/ヘキサンから再結晶した。固体を濾過し、真空中で乾燥させた。収率:53g(237mmol、59%)。
【0061】
ステップ5:ラセミ体ラクトンを用いるウィッティヒ反応-ラセミ体ジオールの合成:
カルボキシプロピルトリフェニルホスホニウムブロミド191g、無水トルエン1000mlおよびカリウムt-ブトキシド100gの量を80℃で30分間混合した。混合物を室温に冷却した。180mlの無水THFに予め溶解した25gの量の精製ラセミ体ラクトール(114.5mmol)をゆっくりと添加した。反応を60分間継続した。粗反応混合物を氷水1500mlに注ぎ入れ、酢酸エチル300mlを添加した。水相を酢酸エチル300mlで再抽出した。次いで水相を2N HClで酸性化し、300mlの酢酸エチルを使用して3回抽出した。形成した固体を濾別した。有機相を蒸発させた。蒸発した残渣にジエチルエーテル500mlを加えた。フラスコを10分間旋回させ、固体を濾別した。濾液を飽和重炭酸ナトリウム溶液で3回抽出した。次いで水相を2M HClを用いてpH4に酸性化した。次いで水相を200mlの酢酸エチルを用いて3回抽出した。有機相を合わせ、MgSO4上で乾燥させ、蒸発させて材料45gを得た。
【0062】
カラムクロマトグラフィー:
ラセミ体ジオールをシリカゲル(35cmのカラム長、4cmの直径)で精製した。ラセミジオールを最小限の酢酸エチルに溶解し、カラムに適用した。1Lの酢酸エチル(60%)/ヘキサン(40%)をメスシリンダーに加えた。300mlのEtOAc/ヘキサンをシリンダーから取り出し、カラムに添加した。シリンダー中の残りの700mlのEtOAc/ヘキサンを酢酸エチルを用いて1Lに希釈した。次いで、300mlの新しいEtOAc/ヘキサン溶液をカラムに添加し、カラムを通過させた。シリンダー中の残りの700mlのEtOAc/ヘキサンを、酢酸エチルを用いて再び1Lに希釈した。次いで、300mlの新しいEtOAc/ヘキサン溶液をカラムに添加し、カラムを通過させた。シリンダー中の残りの700LのEtOAc/ヘキサンを酢酸エチルを用いて1Lにもう一度希釈した。次いで、300mlの新しいEtOAc/ヘキサン溶液をカラムに添加し、カラムを通過させた。純粋な分画のラセミ体ジオールを回収し、蒸発させて26gの純粋なラセミ体ジオールを得た。収量:26g(88.3mmol、79%)。
【0063】
ステップ6:ラセミ体ジオールのラセミ体アセトニドへの変換:
精製ジオール26g(88mmol)をジメトキシプロパン260mlおよびp-TsOH26mgと混合した。混合物を周囲温度で一晩撹拌した。トリエチルアミン3滴を添加し、混合物を蒸発させた。残りの残渣にヘキサン150mlを加え、一晩撹拌した。固体を濾別し、乾燥させて、25g(75mmol)のラセミ体アセトニドを得た。収率:85%
【0064】
ステップ7:ラセミ体アセトニドの脱メチル化:
水素化ナトリウムおよびエタンチオールの懸濁液を、375mlのDMPU中のNaH21.5gの混合物に16.7gのエタンチオールを添加することによって調製した。懸濁液を80℃に加熱し、周囲温度まで冷却した。15gのラセミ体アセトニドをDMPU75mlに溶解し、EtSH/NaHの懸濁液に添加した。混合物を130℃で2時間加熱した。次いで、反応混合物を氷水に注ぎ入れ、DCMで抽出した。水層を2N HClを用いて酸性化し、酢酸エチルで抽出した。有機層をブラインで洗浄し、蒸発乾固した。収量:16.5g(粗製)。
【0065】
ステップ8:ラセミ体最終化合物の調製:
28mmolの脱メチル化ラセミ体アセトニドを15mlの2-クロロベンズアルデヒド、0.5gのp-TsOH、および60mlのトルエンと混合した。混合物を24時間撹拌し、蒸発させた。粗反応混合物を、Biotage Horizon(登録商標)クロマトグラフィー装置を用いるシリカゲルクロマトグラフィーを使用して精製した。混合物をDCM(19)/メタノール(1)を用いて精製して、蒸発後に6.5gの固体を得た。収率:6.5g(16.7mmol、59%)
【0066】
キラルクロマトグラフィー
ステップ8の生成物の各エナンチオマー、すなわち化合物(Z)-6-((2S,4S,5R)-2-(2-クロロフェニル)-4-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン-5-イル)ヘキサ-4-エン酸(エナンチオマー1)および(Z)-6-((2R,4R,5S)-2-(2-クロロフェニル)-4-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキサン-5-イル)ヘキサ-4-エン酸(エナンチオマー2(以下のキラルカラムでの溶出による))を以下の条件下でキラルクロマトグラフィーによって単離した:
カラム:250×4.6mm Chiralpak AD-H 5mm
移動相:80/20/0.1n-ヘプタン/エタノール/トリフルオロ酢酸
流速:1ml/分
検出:230nmのUV
温度:25℃
サンプルを80/20 n-ヘプタン/エタノールに溶解した。エナンチオマー1を最初にキラルカラムで溶出し、エナンチオマー2を2番目にキラルカラムで溶出する。
【0067】
塩への変換
上記で得られたエナンチオピュア(エナンチオマー1)酸(452.23mg、1.12mmol)を室温でIPA(2ml)に溶解した。溶液を50℃に加熱し、t-ブチルアミンを添加した。1時間後に結晶性物質が析出した。IPAの体積を23mlに増加させ、物質を加熱しながら再溶解し、48時間かけて室温に冷却した。結晶性白色物質が収率34%で得られた。この物質の特性評価により、95.4%の化学純度を有するIPA溶媒和物として特定された。回折測定により、IPA溶媒和物としての化合物のt-ブチルアンモニウム塩の形成が示される。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】