(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-28
(54)【発明の名称】免疫媒介性疾患の治療のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20231221BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20231221BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20231221BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231221BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20231221BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20231221BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231221BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231221BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231221BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20231221BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231221BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20231221BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20231221BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231221BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20231221BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231221BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K38/20
A61K38/18
A61K35/17
A61K38/10
A61K38/16
A61P37/06
A61P37/02
A61P17/00
A61P21/04
A61P21/00
A61P1/00
A61P7/06
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P3/10
A61P43/00 121
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529922
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 US2021060612
(87)【国際公開番号】W WO2022115474
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523180458
【氏名又は名称】ジェネラル ナノセラピューティクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ホーウィッツ,デイビッド エー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB13
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4C076BB16
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4C084ZC35
4C084ZC75
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB43
4C087DA32
4C087MA52
4C087MA55
4C087MA66
4C087NA05
4C087ZA55
4C087ZA66
4C087ZA89
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB15
4C087ZC35
(57)【要約】
免疫媒介性障害の予防と治療のために、in vivoで複数の抑制性の調節性細胞集団を誘導し、増殖させる新規ナノ粒子プラットフォームを開発した。これらには、自己免疫疾患、移植片対宿主病、及び移植拒絶反応が含まれる。増殖される調節性細胞には、CD4+及びCD8+T細胞とNK細胞の両方が含まれる。ナノ粒子は、T細胞とNK細胞を標的とする人工抗原提示細胞(aAPC)として機能し、それらに、調節性細胞の生成、機能、増殖に必要な必須の刺激とサイトカインを提供する。これは、現在使用されている有毒な免疫抑制剤や生物学的薬剤を使用せずに達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における免疫媒介性障害の治療方法であって、(i)少なくとも1つの合成ポリマーナノ粒子、(ii)少なくとも1つの標的化薬、及び(iii)少なくとも1つの刺激剤を含む、寛容原性の人工抗原提示細胞(aAPC)組成物を、前記患者に投与することを含む、前記治療方法。
【請求項2】
患者における免疫媒介性障害の予防方法であって、(i)少なくとも1つの合成ポリマーナノ粒子、(ii)少なくとも1つの標的化薬、及び(iii)少なくとも1つの刺激剤を含む、寛容原性の人工抗原提示細胞(aAPC)組成物を、前記患者に投与することを含む、前記予防方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの標的化薬が、T細胞を標的とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの標的化薬が、NK細胞を標的とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの標的化薬が、T細胞及びNK細胞を標的とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの標的化薬が、NKT細胞を標的とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの標的化薬が、CD3を標的とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの標的化薬が、CD2を標的とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの標的化薬が、CD3及びCD2を標的とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの標的化薬が、局所環境でTGF-βを産生するように前記患者の細胞を誘導する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの標的化薬が抗体である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの標的化薬が、抗CD2抗体、抗CD3抗体、及びFcフラグメントが不活化されているかまたは存在しない抗CD3抗体からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの標的化薬がアプタマーである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記アプタマーが、TCR-CD3に結合する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの刺激剤が、サイトカインを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの刺激剤が、IL-2を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの刺激剤が封入されている、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、機能的調節性細胞の複数の集団となるように前記患者のリンパ球を誘導する、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記患者におけるCD4細胞及びCD8細胞の両方を、Foxp3+調節性T細胞になるように誘導する、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、調節性NK細胞を生成し、前記免疫媒介性障害を抑制する数まで増殖させる、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、1つ以上のリンパ球集団を生成し、前記免疫媒介性障害を抑制する数まで増殖させる、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記患者のNK細胞が、TGF-β産生調節性NK細胞になる、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記T細胞が、TGF-β産生調節性T細胞になる、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記サイトカインがTGF-βであり、前記TGF-βが、前記ナノ粒子に封入されるか、または前記ナノ粒子が、in vivoで前記局所環境において調節性細胞を誘導する、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記免疫媒介性障害が、全身性エリテマトーデス、尋常性天疱瘡、重症筋無力症、溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、グレーブス病、皮膚筋炎、及びシェーグレン症候群からなる群から選択される少なくとも1つの抗体媒介性自己免疫疾患である、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記免疫媒介性障害が、1型糖尿病、橋本病、多発性筋炎、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、及び強皮症からなる群から選択される少なくとも1つの細胞媒介性自己免疫疾患である、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫媒介性障害が移植関連疾患である、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記免疫媒介性障害が、外来臓器移植の拒絶反応である、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記免疫媒介性障害が移植片対宿主病である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記方法を、in vitroで実施する、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記方法を、in vivoで実施する、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記患者への投与が、非経口送達を使用する、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記非経口送達が静脈内である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記非経口送達が筋肉内である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記非経口送達が皮下である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記患者への投与が、経口送達を使用する、請求項1~31のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも1つの合成ポリマーナノ粒子が、グリシド、リポソーム、及びデンドリマーからなる群から選択される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記aAPCを、少なくとも1つのディフェンシンと組み合わせる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年11月27日に出願された米国特許出願第63/118,863号に対する優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本明細書では、治療のためのナノ粒子(NP)製剤の製造方法及び使用方法、ならびに抗体及び細胞媒介性自己免疫疾患、移植片対宿主病、及び固形臓器移植拒絶反応を含む免疫媒介性障害を治療するための組成物、特にナノ粒子製剤を記載する。
【背景技術】
【0003】
免疫媒介性疾患は、外来細胞または自己免疫細胞が身体の自己細胞を攻撃する場合に発症する。これらには、自己免疫疾患、移植片対宿主病、外来固形臓器移植の拒絶反応などが含まれる。自己免疫疾患は、通常は静止状態の自己反応性免疫細胞が活性化され、身体の自己細胞を攻撃する場合に発症する。身体の広範囲の部分に影響を与える自己免疫疾患は、80種類以上存在する。一般的な自己免疫疾患には、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、1型糖尿病、炎症性腸疾患、及び甲状腺疾患が含まれる。移植片対宿主病は、外来の造血幹細胞を血液悪性腫瘍の治療に使用する場合に発症する。外来固形臓器移植は、適切な免疫抑制がなければ拒絶される。異常な自己免疫疾患では、患者は適切な診断を受けるまでに何年も苦しむ可能性がある。これらの疾患のほとんどには治療法が存在しない。症状を軽減するために生涯にわたる治療が必要な場合もある。これらの疾患を合わせると、米国では2,400万人以上が罹患している。さらに800万人が自己抗体を有しており、自己免疫疾患を発症する可能性があることを示している。研究によると、これらの疾患は遺伝的要因と環境的要因の間の相互作用によって生じる可能性が高いことが示されている。性別、人種、及び民族の特徴は、自己免疫疾患を発症する可能性と関連している。自己免疫疾患は、人々が特定の環境にさらされた場合に、さらによく見られる。
【0004】
多くの自己免疫疾患は、同様の症状を有する。このため、医療提供者が自己免疫疾患を診断し、特定の自己免疫疾患を識別することが困難になる。多くの場合、最初の症状は、疲労、筋肉痛、及び微熱である。自己免疫疾患の典型的な徴候は炎症であり、発赤、熱、痛み、及び腫れを引き起こし得る。この疾患には、悪化する場合の再発、症状が改善または消失する場合の寛解が存在し得る。治療は、疾患によって異なるが、ほとんどの場合、重要な目標の1つは、炎症を軽減することである。医師は、免疫応答を低下させるコルチコステロイドまたは他の薬物を処方することがある。
【0005】
SLEなどの自己免疫疾患を治療するための組成物及び方法を開発することが緊急に必要とされている。したがって、本明細書の開示の目的は、慢性自己免疫疾患の治療のための組成物を提供し、狼瘡、移植片対宿主病、及び他の慢性免疫媒介性疾患の治療方法を提供することである。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、本開示は、(i)少なくとも1つの合成ポリマーナノ粒子、(ii)少なくとも1つの標的化薬、及び(iii)少なくとも1つの刺激剤を含む免疫寛容原性の人工抗原提示細胞(aAPC)組成物を患者に投与することを含む、患者における免疫媒介性障害の治療方法を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、T細胞を標的とする。
【0008】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、NK細胞を標的とする。
【0009】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、T細胞及びNK細胞を標的とする。
【0010】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、NKT細胞を標的とする。
【0011】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、CD3を標的とする。
【0012】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、CD2を標的とする。
【0013】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、CD3及びCD2を標的とする。
【0014】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、患者の細胞が局所環境でTGF-βを産生するように誘導する。
【0015】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は抗体である。
【0016】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、抗CD2抗体、抗CD3抗体、及び不活化されたかまたは欠失したFcフラグメントを有する抗CD3抗体からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである。
【0017】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬はアプタマーである。
【0018】
いくつかの実施形態では、アプタマーは、TCR-CD3に結合する。
【0019】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの刺激剤は、サイトカインを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの刺激剤は、IL-2を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの刺激剤は、封入される。
【0022】
いくつかの実施形態では、本方法は、患者のリンパ球が機能的調節細胞の複数の集団になるように誘導する。
【0023】
いくつかの実施形態では、本方法は、患者のCD4細胞とCD8細胞の両方がFoxp3+調節性T細胞になるよう誘導する。
【0024】
いくつかの実施形態では、本方法は、調節性NK細胞を生成し、免疫媒介性障害が抑制される数まで増殖させる。
【0025】
いくつかの実施形態では、本方法は、1つ以上のリンパ球集団を生成し、免疫媒介性障害が抑制される数まで増殖させる。
【0026】
いくつかの実施形態では、患者のNK細胞は、TGF-β産生調節性NK細胞になる。
【0027】
いくつかの実施形態では、T細胞は、TGF-β産生調節性T細胞となる。
【0028】
いくつかの実施形態では、サイトカインはTGF-βであり、TGF-βがナノ粒子に封入されるか、またはナノ粒子がin vivoで局所環境において調節性細胞を誘導する。
【0029】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は、全身性エリテマトーデス、尋常性天疱瘡、重症筋無力症、溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、グレーブス病、皮膚筋炎、及びシェーグレン症候群からなる群から選択される少なくとも1つの抗体媒介性自己免疫疾患である。
【0030】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は、1型糖尿病、橋本病、多発性筋炎、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、及び強皮症からなる群から選択される少なくとも1つの細胞媒介性自己免疫疾患である。
【0031】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は移植関連疾患である。
【0032】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は、外来臓器移植の拒絶反応である。
【0033】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は移植片対宿主病である。
【0034】
いくつかの実施形態では、本方法を、in vitroで実施する。
【0035】
いくつかの実施形態では、本方法を、in vivoで実施する。
【0036】
いくつかの実施形態では、患者への投与は、非経口送達を使用する。
【0037】
いくつかの実施形態では、非経口送達は静脈内送達である。
【0038】
いくつかの実施形態では、非経口送達は筋肉内である。
【0039】
いくつかの実施形態では、非経口送達は皮下である。
【0040】
いくつかの実施形態では、患者への投与に、経口送達を使用する。
【0041】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの合成ポリマーナノ粒子は、グリシド、リポソーム、及びデンドリマーからなる群から選択される。
【0042】
いくつかの実施形態では、aAPCを、少なくとも1つのディフェンシンと組み合わせる。
【0043】
別の態様では、本開示は、(i)少なくとも1つの合成ポリマーナノ粒子、(ii)少なくとも1つの標的化薬、及び(iii)少なくとも1つの刺激剤を含む寛容原性の人工抗原提示細胞(aAPC)組成物を患者に投与することを含む、患者における免疫媒介性障害の予防方法を提供する。
【0044】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、T細胞を標的とする。
【0045】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、NK細胞を標的とする。
【0046】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、T細胞及びNK細胞を標的とする。
【0047】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、NKT細胞を標的とする。
【0048】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、CD3を標的とする。
【0049】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、CD2を標的とする。
【0050】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、CD3及びCD2を標的とする。
【0051】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、患者の細胞が局所環境でTGF-βを産生するように誘導する。
【0052】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は抗体である。
【0053】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、抗CD2抗体、抗CD3抗体、及び不活性化または欠失したFcフラグメントを有する抗CD3抗体からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである。
【0054】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬はアプタマーである。
【0055】
いくつかの実施形態では、アプタマーは、TCR-CD3に結合する。
【0056】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの刺激剤は、サイトカインを含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの刺激剤は、IL-2を含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの刺激剤は、封入される。
【0059】
いくつかの実施形態では、本方法は、患者のリンパ球が機能的調節性細胞の複数の集団になるように誘導する。
【0060】
いくつかの実施形態では、本方法は、患者のCD4細胞とCD8細胞の両方がFoxp3+調節性T細胞になるように誘導する。
【0061】
いくつかの実施形態では、本方法は、調節性NK細胞を生成し、免疫媒介性障害が抑制される数まで増殖させる。
【0062】
いくつかの実施形態では、本方法は、1つ以上のリンパ球集団を生成し、免疫媒介性障害が抑制される数まで増殖させる。
【0063】
いくつかの実施形態では、患者のNK細胞は、TGF-β産生調節性NK細胞になる。
【0064】
いくつかの実施形態では、T細胞は、TGF-β産生調節性T細胞になる。
【0065】
いくつかの実施形態では、サイトカインはTGF-βであり、TGF-βがナノ粒子に封入されるか、またはナノ粒子がin vivoで局所環境において調節性細胞を誘導する。
【0066】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は、全身性エリテマトーデス、尋常性天疱瘡、重症筋無力症、溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、グレーブス病、皮膚筋炎、及びシェーグレン症候群からなる群から選択される少なくとも1つの抗体媒介性自己免疫疾患である。
【0067】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は、1型糖尿病、橋本病、多発性筋炎、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、及び強皮症からなる群から選択される少なくとも1つの細胞媒介性自己免疫疾患である。
【0068】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は移植関連疾患である。
【0069】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は、外来臓器移植の拒絶反応である。
【0070】
いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は移植片対宿主病である。
【0071】
いくつかの実施形態では、本方法をin vitroで実施する。
【0072】
いくつかの実施形態では、本方法をin vivoで実施する。
【0073】
いくつかの実施形態では、患者への投与に、非経口送達を使用する。
【0074】
いくつかの実施形態では、非経口送達は静脈内送達である。
【0075】
いくつかの実施形態では、非経口送達は筋肉内である。
【0076】
いくつかの実施形態では、非経口送達は皮下である。
【0077】
いくつかの実施形態では、患者への投与に、経口送達を使用する。
【0078】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの合成ポリマーナノ粒子は、グリシド、リポソーム、及びデンドリマーからなる群から選択される。
【0079】
いくつかの実施形態では、aAPCを、少なくとも1つのディフェンシンと組み合わせる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】IL-2及びTGF-βを含有する抗CD2及び抗CD4でコーティングされたナノ粒子(NP)が寛容原性の人工抗原提示細胞(aAPC)として機能したことを示す。これらは、親DBA2 T細胞を注射した後の(CD56/BL6×DBA2)F1ハイブリッドマウスにおいて、CD4+及びCD8+ Foxp3+ Tregを増加させ、狼瘡様症候群を予防した。これらのNP aAPCは、抗DNA産生を抑制し、重篤な腎疾患を予防した。しかしながら、NK細胞が枯渇すると、CD4+及びCD8+ Tregの増加が妨げられ、ループス腎炎の重症度が増加した。Aは、DBA/2c細胞の投与後に(C56/BL6×DBA2)F1マウスに投与された、IL-2及びTGF-βを含む寛容原性の抗CD2/4コーティングNP(寛容原性のNP aAPC)の処置スケジュール及び用量を示す。Bは、in vivoでのCD4+CD25+Foxp3+ Tregの増加を示す。Cは、CD8+Foxp3+ Tregの増加を示す。Dは、タンパク尿によって示される4週間での腎炎の発症を示す。寛容原性aAPCはタンパク尿を顕著に阻害した。しかしながら、抗アシアロGM1抗体でNK細胞を枯渇させると、CD4及びCD8 Tregの増加が阻害され、タンパク尿の量がNPを投与しなかった動物に比べて有意に増加した。記号はマウスの様々な群を表し(群あたりn=6)、エラーバーは平均値±SEMを示す。末梢CD4+ Treg(B)及びCD8+ Treg(C)の割合も、処置後の指定の時点で示す。空のNPとサイトカインを充填したNPの比較では、
*P<0.05及び
**P<0.05であり、NK細胞を枯渇させたマウス(抗アシアロGM1、a-asGM1)または枯渇させなかったマウスの間の§P<0.04である。Dは、
図2B~2Cのマウスについて示された時点でのタンパク尿を示す。空のNP対NP aAPC間では
*P<0.05であり、NK細胞を枯渇させたか(抗aGM1)、または枯渇させずに、サイトカイン充填NPで処置したマウス間の比較では、§P<0.05及び
**P<0.005である。NK細胞の枯渇により、循環CD4+及びCD8+ Tregの数が顕著に減少し、ナノ粒子で処置したマウスにおいて腎疾患が悪化した(
図1B~2C)。A~G(より具体的にはE~G)のパネルは、NK細胞の枯渇が血清抗dsDNA自己抗体レベルの増加と関連していることを示している。逆に、CD2(NK)標的化NPによる処置は、抗DNA自己抗体産生の抑制と関連している。抗アシアロGM1を投与することにより、NK細胞を枯渇させた。SLE誘導(時間0)の2週間後及び4週間後に、個々のマウスのモニタリング及び群の平均値を報告する。
*P<0.05、
**P<0.01。
【
図2】A~Bは、IL-2及びTGF-βを充填したCD2標的化NPでの処置後、狼瘡様疾患を有するBDF1マウスにおいて宿主NK細胞が数値的に増加することを示す。対照は、IL-2及びTGF-βを充填した非コーティングNP及び空の非コーティングNPであった。上の2つのパネル(A及びB)は処置ごとのNPの総量であり、下の2つのパネル(C及びD)は、各回のNPの用量である。A~Bは、NP aAPCの投与後4週間の間のNK細胞の増加を示す。Aは、各週におけるNK細胞の増加割合を、Bは、NK細胞の絶対数の増加を示す。記号は、所与のNP aAPCの総用量を示す。Bは、同じ処置を受けたマウスにおけるNK細胞の総数(平均+SE)を示す。空のNPで処置したSLE BDF1マウスとの比較におけるP値=
*<0.005、
**0.0005。C~Dは、個々のマウスへの各注射で投与したNPの用量を示す。記号は、未処置のBDF1マウス(「非SLE」、四角)、またはIL-2及びTGF-βが封入された様々な用量のNPで処置した狼瘡BDF1マウス(丸、非コーティングNP、三角 1mg、ひし形 2mg、逆三角 4mg)を示す。これらの増加は、統計的にも有意である。
【
図3】NP aAPCの投与後、宿主由来のNK細胞が顕著に増加したことを示す。IL-2を充填し、抗CD2抗体をコーティングしないまま(対照)か、またはコーティングしたNPでの処置後のフローサイトメトリーによるモニタリング。H-2マーカーの使用により、DBA/2ドナー(H-2Kb-)由来とBDF1レシピエント(H-2Kb+)由来のNK細胞(NK1.1+)を区別することができた。
【
図4】CD2(NK)標的化NPで処置したBDF1マウスのループス腎炎からの防御が、NK細胞及びTGF-βに依存することを示す。新規TGF-β依存性調節性NK細胞を記載する。Aは、NK細胞の枯渇が、BDF1マウスのタンパク尿を加速することを示している。0日目(SLEの誘導)から2週間、4日ごとに100ulの抗アシアロGM1を投与することによって、NK細胞を枯渇させた。マウス(各群n=6)をSLE誘導後8週間モニタリングした。データは、平均値+SEを示す。NK枯渇抗アシアロGM1の存在下または非存在下でNK細胞標的化NPを投与されたBDF1マウスの比較における4週目及び6週目、及び、空の非標的化NPを投与されたマウス対NK細胞枯渇マウスの比較における4週目で、
*P<0.01。Bは、抗TGF-β抗体、抗アシアロGM1抗体、またはその両方の組み合わせをBDF1狼瘡マウス(1群あたりn=6)に投与すると、抗CD2標的化NPによる処置に関連するNK細胞媒介の防御効果が無効になることを示している。腎機能は、血清クレアチニンによって評価した。これは、抗TGF-β抗体または対照(ctr)抗体による処置の2週間後に測定した。
*P<0.04。Cは、NK細胞の防御効果がTGF-β依存的であることを示している。抗CD2標的化aAPCによるマウスの処置後、NK細胞を単離した。一部をTGF-β siRNAで処理し、他をRNAスクランブル対照で処理した。各セットの2.5×10
6個のNK細胞を同系BDF1マウスに移入し、次いで狼瘡の発症を誘導した。移植後2週間で血清クレアチニンを測定した。
*P<0.01。aAPCを投与したマウス由来のNK細胞は、二次宿主において慢性腎疾患の発症を予防した。NK細胞のTGF-βメッセージをサイレンシングしたマウスにおいて血清クレアチンが増加したことは、これらのNK細胞の防御効果がTGF-β依存性であることを示している。
【
図5】aAPCがヒトTregを増殖させることもできることを示す。健康なボランティア由来のPBMCを、抗CD3/28ビーズと共に、0.2ビーズ/細胞の比率で5日間培養した。IL-2及びTGF-βが充填され、T細胞に対する抗体(抗CD3/28)でコーティングされていないか、またはそれらで修飾された100μg/mlのNPが、実験培養物に含まれていた。培地のみ、及びNPなし(非刺激)または充填されないままのNP(空)を含む培養物を、陰性対照とし、可溶性IL-2及びTGF-βの存在下での抗CD3/28を含む培養物を、陽性対照とした。これらのNPの添加は寛容原性のaAPCとして機能し、CD4+CD25hiCD127-FoxP3+ Treg(A)及びCD8+FoxP3+ Treg(B)を増加させた P<0.05。
【
図6】マウス細胞と同様に、IL-2を含有するNPのみが、CD4及びCD8 Tregを誘導することができることを示す。Tregを誘導するために、抗CD3及びCD28で修飾されたT細胞を標的としたNPと共にヒトPBMCを培養した。Aは、IL-2のみを封入したT細胞標的化NPが、CD4+及びCD8+ Tregの増殖を促進したことを示している。
*P<0.05。Bは、T細胞を標的とするこれらのaAPC NPによって誘導されたCD4+ Tregが、in vitroで、共培養したCD4+CD25- T細胞の増殖(左)及びIFN-γ産生(右)を抑制したことを示す。Treg:Teffの比率0:1(エフェクターT細胞のみで刺激)での比較において、
*P<0.05。
【
図7】T細胞標的化寛容原性aAPC NPがin vivoでヒトTregを増殖させることもできることを示すグラフである。免疫不全NOD/SCIDマウス(NSG)を、ヒトPBMCを導入することによってヒト化した。NP寛容原性aAPCの投与は、ヒトTregを増殖させ、GVHDを抑制した。NSGマウスを6匹ずつの2つの群に分けた。PBMCの移入後、黒丸はaAPC NPを投与したマウスを示し、白丸は空のNPを投与したマウスを示す。A及びBは、aAPCの移入後に、CD4及びCD8 Tregの両方が顕著に増加したことを示している。NPは最初の2週間に投与されたが、驚くべきことに、実験が50日目に終了した時点でも、CD4及びCD8 Tregの両方のレベルの増加が依然として検出可能であった(
*=p<0.5)。Cは、これらのマウスにおけるヒトB細胞活性のエビデンスを示している。空のNPを投与したマウスではヒトIgGレベルの顕著な上昇が認められたが、aAPCを投与したマウスでは観察されなかった(
*=p<0.5)。
【
図8】A~Cは、ヒトPBMCを移入してヒト化した後の免疫不全NOD/SCIDマウス(NSG)に、T細胞標的化寛容原性aAPC NPを投与することによって誘導し、増殖させたTregの防御効果を示すグラフである。A~Eは、ヒト抗マウスGVHDに対するaAPCの効果を示す。×印の線は、ヒトPBMCを投与しなかった対照マウスを示す。三角は空のNPSを投与されたマウスを示し、白丸はaAPC NPを投与されたマウスを示す。aAPC NPで防御されたマウスは、ヒトPBMCの移入後も体重が減少せず(A)、疾患スコアは減少し(B)、処置されたマウスは、NPを投与していないか、または空のNPを投与したマウスと比較して生存期間が延長された(C)。
*は、2つの群間の統計的に有意な結果を示す(p<0.05)。対照マウスは、対照と比較してGVHDの皮膚症状を発現した(D)。Eは、対照と比較した、肺、肝臓及び結腸における炎症性浸潤を示す。
【
図9】抗CD2及び抗CD3でコーティングされたNPがヒトTregを誘導するために、TGF-βを含む必要がないことを示す。それらは、TGF-βを局所環境に提供する。ヒトPBMC(0.5×105)/ウェルをU底プレートで5日間培養した。ビオチン化抗CD2、抗CD3、または両方の組み合わせ(2ul/ml)をPLGA NPの表面に結合させた。IL-2とTGF-βの両方を含むか、またはIL-2のみを含むこれらのNPの50ug/mlをPBMCに添加した。他の刺激の非存在下では、TGF-βを含むNPと含まないNPは、CD4regでは少なくとも2倍の増加、CD8regでは4倍の増加を誘導した(A及びB)。抗TGF-βを培養物に添加すると、この増加はなくなった。この結果から、Tregを誘導するためにIL-2とTGF-βの両方が必要であり、NPはTregを誘導するために必要な外来性TGF-βを誘導したことが示された。抗CD3は、T細胞によるこのサイトカインの産生を誘導することができ、抗CD2もNK細胞のTGF-β産生を誘導することができることが知られている。あるいは、局所環境内の酸性NPは、存在する潜在的なTGF-βを活性型に変換することができる。したがって、これらの研究は、TGF-βがNPに封入される必要がないというエビデンスを示している。
【
図10】IL-2のみを含む抗CD3(Fab’)2コーティングNPが、ヒトCD4及びCD8 Tregを誘導することができることを示す。末梢Tregは、主にナイーブT細胞から誘導されるため、磁気ビーズ(AutoMACSを介して)を使用してPBMCからCD45RO+細胞を除去した。これらの細胞を、IL-2を封入し、抗CD3 F(ab’)2(x軸)をコーティングするか、または何もコーティングしていない(対照、なし)NP 200μg/mlと共に、U底96ウェルプレートにおいて、5×105細胞/ウェルの濃度で、完全培地中で培養した。グラフは、5日間の培養後のCD4+及びCD8+ T細胞コンパートメント内のFoxP3+細胞数の増加を示している。
*P<0.01。
【
図11】IL-2を含有するリンパ球標的化NPのみが、免疫不全マウスをヒト抗マウス移植片対宿主病から防御することができるが、データはまた、防御がTGF-βの産生に依存していることを示している。パネルAは、ヒト抗マウスGVHDに対するIL-2及びTGF-βを充填したNPの投与による以前の防御効果を示す。xでラベルされた線の生存曲線は、空のNPを投与した対照を示す。黒丸の線は、IL-2及びTGF-β NPを投与した動物による生存率の増加を示す。アスタリスク付きの線は、alk5阻害剤によるTGF-βシグナル伝達の遮断が、NPの防御効果を無効にするだけでなく、生存期間も短縮することを示している。パネルBは、IL-2のみを含有するNPが、TGF-βシグナル伝達の阻害によって遮断される同様の防御効果を有することを示している。
【
図12】IL-2を充填した抗CD2(NK)標的化NPで処置した狼瘡様疾患のBDF1マウスの2週目及び4週目での抗DNA IgG(O.D.)を示す。この実験で使用した方法は、
図1で記載した方法と同じである。
【発明を実施するための形態】
【0081】
I.序論
全身性エリテマトーデス(「SLE」)は、遺伝的要因及び環境的要因が免疫恒常性の破壊の原因となる免疫調節障害である。SLEでは、通常は静止状態にある自己反応性T細胞及びB細胞が活性化され、SLEにおいて機能が損なわれた特殊な細胞である調節性T細胞(Treg)による抑制を含めて、末梢寛容機構による抑制がなされなくなる(Ferretti and La Cava,Overview of the pathogenesis of systemic lupus erythematosus,In:Tsokos(Ed.),Systemic lupus erythematosus.Basic,applied and clinical aspects.Cambridge:Academic Press;2016,55-62)。
【0082】
現在、SLE(及び他の自己免疫疾患)の治療には、炎症誘発性サイトカイン、エフェクター細胞、またはシグナル伝達経路を標的とする薬剤が含まれる(Wong et al.,Drugs Today(Barc),2011;47:289-302)。これらの薬剤は、疾患の進行を阻止することができるが、疾患を止めるために必要な補整的調節経路も標的とするため、寛解をもたらすことはほとんどない。SLEを治療する他の試みでは、免疫系を「リセット」して寛解を引き起こそうとした。例えば、リンパ系細胞の枯渇とそれに続く自家幹細胞移植は、SLEにおける疾患の寛解の延長をもたらすが、この戦略は術後の患者の死亡率と関連している(Burt et al.,JAMA,2006;295:527-35)。
【0083】
自己免疫疾患、特に1型糖尿病において、ex vivoで増殖させたCD4+ Treg細胞を使用する複数のアプローチが研究中である(Gitelman et al.,J Autoimmun,2016;71:78-87)が、大量のTreg細胞を調製するには技術的に煩雑な手順が必要であることに加えて、in vivoで機能的に安定した状態を保持する自家Treg細胞が必要であるといった欠点がある。調節性CD8細胞及びNK細胞、ならびに寛容原性抗原提示細胞の養子移入は、治療効果をもたらす可能性があるが、これらの細胞を利用する方法論は開発されていない。
【0084】
T細胞または抗原提示細胞(APC)を標的とするナノ粒子(NP)は、免疫寛容を誘導するために使用されている。寛容原性ペプチドまたはAPCを標的としたペプチドとラパマイシンを封入したポリマーNPは、TGF-β依存性のTreg誘導を介して自己免疫性糖尿病及び多発性硬化症の動物モデルにおける疾患を予防/逆転させた(Hunter et al.,ACS Nano,2014;25:2148-60;Maldonado et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2015;112:156-65)。Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIV(CaMK4)阻害剤の免疫抑制薬を、NPを介して送達することにより、マウスSLEが改善された(Look et al.,J Clin Invest,2013,123:1741-9;Otomo et al.,J Immunol,2015;195:5533-7;Maeda et al.,J Clin Invest,2018;128:3445-59)。
【0085】
MHCペプチドでコーティングされた酸化鉄NPは、IFN-γ産生Th1細胞をIL-10産生Tr1細胞に変換することができ、自己免疫疾患のマウスモデルに治療効果をもたらす(Clemente-Casares et al.,Nature,2016;530:434-40)。CD4+ Tregは、樹状細胞(DC)を誘導して寛容原性を獲得し、二次宿主を防御したが(Lan et al.,J Mol Cell Biol,2012;4:409-19)、その系には、複数の治療薬を送達することができないなどの制約があり、ヒトの自己免疫疾患で遭遇するMHCの多様性に適合するには、異なるMHC特異的ペプチドが必要となるであろう。また、酸化鉄の長期蓄積は有毒である。
【0086】
本出願は、確立された免疫媒介性障害を予防または治療する細胞となるように複数の免疫細胞集団を直接誘導するための方法及び組成物を提供する。T細胞は、抗原に直接反応できないため、未熟な細胞を抑制性の調節性細胞に完全に誘導することができる寛容原性の人工抗原提示細胞(aAPC)として機能するナノ粒子を投与する。T細胞とNK細胞の場合、IL-2とTGF-βを使用した継続的な刺激が必要である。aAPCは、T細胞受容体(TCR)刺激、IL-2、及びTGF-βの3つの要素すべてを提供する。現在、IL-2のみを封入することを使用することができることが見出された(
図9~11)。抗CD2及びCD3は、局所環境でT細胞に必要なTGF-βを誘導することができる。抗CD2は、NK細胞がTGF-βを産生するように誘導し、NK細胞がTGF-β依存性調節性細胞になるように誘導することもできる。
【0087】
IL-2を充填した抗CD3及び抗CD2コーティングNPは両方とも、調節性細胞の生成及び増殖に必要な刺激及びサイトカインを提供することができるが、機構は異なる可能性がある。NP aAPCを使用してこれらの細胞をin vivoで生成する方法は、免疫媒介性疾患の複数の適応症に対する安全で実用的な治療アプローチを提供する。
【0088】
T細胞は抗原刺激に直接応答することができず、この目的のために抗原提示細胞(APC)を必要とする。ナノ粒子は、寛容原性の人工抗原提示細胞またはaAPCとして機能する。以前に、Park et al(Mol Pharm,2011;8:143-52)は、PLGA NPを抗CD3及び抗CD28でコーティングし、NPにIL-2を充填して免疫原性aAPCを作製した。したがって、NPは、免疫原性aAPCまたは寛容原性aAPCのいずれかになるように製剤化することができる。
【0089】
NPは、APCを標的にしてTregを増殖させることができるが、NPはTregを直接誘導させ、または増殖させることもできる。T細胞の分化は、T細胞受容体の刺激の強さによって部分的に決定される。強い刺激は免疫原性であり、エフェクターT細胞を産生するが、同じ経路による弱い刺激は寛容原性であり、調節性T細胞を産生し得る。したがって、NPをコーティングする抗体の組成を変更すると、免疫原性aAPCを本明細書に記載の寛容原性aAPCに切り替えることができる。
【0090】
最も防御的なTregは、CD4+CD25+Foxp3+細胞である。これらのTregは、その誘導、適合性及び生存のために、継続的な刺激とサイトカインIL-2及びTGF-βを必要とする(Sakaguchi S et al.,Immunol Rev,2006;212:8-27)。SLEでは、これらのTregが機能不全になる。IL-2とTGF-βの産生も狼瘡では減少しており、この欠損がTreg機能不全に寄与している可能性がある。したがって、免疫細胞IL-2及びTGF-βをin vivoで提供する方法は、狼瘡におけるIL-2欠損を修正し、狼瘡における治療用Tregを誘導し、増殖させ得る。しかしながら、TGF-βには多面発現性の特性があり、有害な副作用を引き起こし得る。したがって、この効果のためには、局所環境において外来性TGF-βを誘導するナノ粒子を使用することが望ましい。
【0091】
CD4+及びCD8+調節性T(Treg)細胞の両方を増殖させ、in vivoでTGF-β依存性ナチュラルキラー(NK)調節性応答を誘導する寛容原性ナノ粒子プラットフォームが開発されている。これらの複数の調節性細胞集団は、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患や移植片対宿主病などの外来移植疾患を含む慢性免疫媒介性疾患を抑制する。
【0092】
本明細書に示すように、T細胞は抗原に直接応答することができない。これらは、陽性エフェクター細胞または陰性サプレッサー細胞または調節性細胞への分化を誘導するために、抗原提示細胞(APC)を必要とする。調節性細胞は、エフェクター細胞の活性を調節し、静止状態の自己反応性細胞が自己免疫を引き起こすのを予防する。ナノ粒子は、T細胞とナチュラルキラー(NK細胞)を標的とする寛容原性の人工抗原提示細胞(aAPC)となるように配合される。これらのaAPCを使用して、in vitro及びin vivoでCD4+及びCD8+ならびに調節性NK細胞を誘導及び増殖させる方法が開発されている。このプラットフォームは、サイトカインであるIL-2、TGF-β、ならびにこれらの調節性細胞集団の生成、機能、及び生存に不可欠な継続的な刺激を提供する。
【0093】
ナノ粒子は、放出用にIL-2を封入し、好ましくは、NPをコーティングする抗体を使用してCD2及び/またはCD3を発現する細胞を標的とする。抗CD2は、T細胞とNK細胞を標的とするが、抗CD3は、T細胞のみを標的とする。これらの抗体によって提供される免疫刺激、及びNPによって放出されるIL-2の効果は、T細胞及びNK細胞のTGF-βの産生を誘導するか、局所環境に存在する潜在的なTGF-βを活性化する。刺激と産生されたサイトカインの累積効果により、未分化のCD4+及びCD8+T細胞がTregに、NK細胞がTGF-β依存性調節性細胞になるように誘導し、これは、免疫媒介性疾患に対して治療効果を有する。
【0094】
in vivoで注射された抗CD3は、サイトカイン放出症候群を含む有毒な副作用を引き起こし得る。これらの副作用は、抗体のFc部分によって媒介される。この毒性を除去するために、治療特性を変えることなくこの抗体のFcフラグメントを除去することができる。
【0095】
いくつかの例では、IL-2のみを充填した抗CD3(Fab’)2または抗CD2コーティングNPが調節性細胞を誘導する能力を有することが示されている。NPが標的細胞にTGF-βの産生を誘導したことを示すために、一例として、TGF-βの抗体中和により、CD4+及びCD8+ Tregを誘導する能力が消失することを示す。別の例では、IL-2のみを含有する抗CD2コーティングNPが治療用のTGF-β依存性NK細胞を誘導することが示されている。TGF-βには多くの多面的効果があるため、このサイトカインを局所的に産生させるこの修飾は、治療薬として使用する場合、これらのNPの安全性を顕著に向上させるはずである。TGF-βをナノ粒子に封入する必要はない。
【0096】
この系の有効性は、全身性エリテマトーデス(「SLE」)動物モデルを使用して最初に示された。IL-2及びTGF-βを封入したポリ(乳酸-コ-グリコール)酸(PLGA)ナノ粒子(NP)を、最初に抗CD2/CD4抗体でコーティングし、DBA/2 T細胞を(C57BL/6×DBA/2)F1(BDF1)マウスに移入することによって、誘発される狼瘡様疾患のマウスに投与した。DBA/2 T細胞は、親B細胞を刺激して、致死性狼瘡様疾患を引き起こす抗体を産生する。NP投与後、Tregの末梢頻度をフローサイトメトリーによってex vivoでモニタリングした。疾患の進行は、ELISAにより血清抗dsDNA抗体を測定することによって評価した。腎炎は、タンパク尿及び腎組織病理として評価した。
【0097】
IL-2及びTGF-βを封入し、抗CD2/4抗体でコーティングしたNPでは、in vitroでCD4+及びCD8+ Foxp3+ Tregが誘導されたが、コーティングなしの場合は誘導されなかった。正常マウスにおけるin vivo研究により、狼瘡を有するBDF1マウスにおいて試験したCD4+及びCD8+ Tregを増殖させるためのNPの投与計画を決定した。IL-2及びTGFβを封入し、抗CD2/CD4抗体でコーティングしたNPの投与により、CD4+及びCD8+ Tregが増加し、抗DNA抗体の産生が顕著に抑制され、腎疾患が減少した。
【0098】
CD4+及びCD8+ Tregのみが治療に関与していたわけではない。TGF-β依存性調節性NK細胞も関与していた。抗CD2/4を結合させたNPで処置したマウスを抗アシアロGM1抗体で処置してNK細胞を枯渇させた。この処置は、NPによって誘導されるCD4+及びCD8+ Tregの数を減少させ、それらの治療効果を完全に消失させるだけでなく、自己免疫疾患の重症度も増加させた。抗DNA抗体の力価は未処置マウスよりも高く、腎疾患(タンパク尿)は未処置マウスよりも多かった。したがって、NPによって誘導されるCD4+及びCD8+ Foxp3+ Tregの増加に加えて、防御性NK細胞も明らかに誘導され、これらの細胞の枯渇は、NPの防御効果を完全に取り除き、狼瘡の症状を悪化させた。
【0099】
マウス細胞を用いた研究に加えて、IL-2及びTGF-βまたはIL-2単独を含有する寛容原性aAPCでは、in vitro及びin vivoで、ヒトT細胞がTregになるように誘導された。例としては、抗CD2、抗CD3、及び抗CD3+抗CD28(これは、追加の共刺激を提供した)でコーティングされたPLGA NPであった。これらの抗体でコーティングしたNPは、in vitroでCD4+及びCD8+ Foxp3+ Tregを誘導した。さらに、免疫不全マウスにヒトPBMCを輸血し、IL-2のみを封入したaAPCを3週間にわたって投与したところ、in vivoでCD4+及びCD8+ Foxp3+ Tregが顕著に増加し、それが5か月間持続し、これらの調節性細胞の防御効果により、これらのマウスのほとんどは、その後起こる致命的なヒト抗マウス移植片疾患から生き残ることができた。
【0100】
これらの結果は、ヒトの全身性自己免疫疾患におけるこの技術の用途を強調している。自己免疫疾患では、TCR刺激は自己抗原によるものである。SLE、1型糖尿病、及び多発性硬化症などの自己免疫疾患では、aAPC NPに組み込まれると寛容原性ペプチドに変換され得る病原性ペプチドが報告されている。同種幹細胞移植及び同種移植では、外来同種抗原が免疫原性抗原提示細胞によって処理され、T細胞に提示され、これがキラー細胞となり、移植片対宿主病や移植拒絶反応を引き起こす。このため、拒絶反応を媒介する免疫細胞を除去するために、移植前に有毒な免疫抑制剤を使用する。この有毒な前処理手順と、移植後の拒絶反応を防ぐために必要な免疫抑制薬を排除することが望ましいであろう。寛容原性aAPCがリンパ球に直接作用してTregを誘導することにより、これらの目的を達成することができる。
【0101】
同種異系臓器移植片の拒絶反応を回避するために、移植前にこれらのaAPCナノ粒子で処理すると、CD4 Treg、CD8 Treg、及びTGF-β依存性調節性NK細胞が生成される。これらは、未成熟な抗原提示樹状細胞と相互作用し、それらが寛容原性になるように誘導する。したがって、移植後、aAPCは、移植された外来同種抗原を処理する寛容原性樹状細胞をサポートし、移植を拒絶するキラーT細胞の代わりに移植の生存を促進する同種抗原特異的Tregを誘導する。したがって、本明細書に記載の方法は、同種幹細胞及び固形臓器移植に現在使用されている有毒なコルチコステロイド及び免疫抑制剤の使用を著しく削減または排除するであろう。NP aAPCは、GVHD及び固形臓器移植の適応症の治療または予防に使用することができる。
【0102】
II.定義
本明細書における免疫応答とは、外来抗原または自己抗原に対する宿主応答を意味する。本明細書で使用する用語「異常な免疫応答」または「免疫媒介性障害」は同じ意味であり、免疫系が自己と非自己を区別できないこと、または宿主を外来抗原から防御できないことを意味する。言い換えれば、異常な免疫応答または免疫媒介性障害とは、患者の症状を引き起こす不適切に調節された免疫応答である。「不適切に調節される」とは、不適切に誘発され、不適切に抑制され、及び/または応答性がないことを意味する。異常な免疫応答には、生物自身の組織に対する抗体の産生、IL-2、IL-10、及びTGF-βの産生障害、TNF-α、及びIFN-γの過剰な産生によって引き起こされる組織損傷及び炎症、ならびに細胞傷害性及び非細胞傷害性の作用機序によって引き起こされる組織損傷が含まれるが、これらに限定されない。これらすべての事象において、病的な免疫細胞は、通常であればこの病的な細胞をネガティブに制御して働きを抑える他の免疫細胞による制御を逃れる。したがって、好ましい実施形態では、本発明は、特定の免疫細胞を標的とし、それらを抑制性の調節性細胞となるように誘導し、その数を増加させる配合ナノ粒子を使用する。これらの調節性細胞は免疫系を「リセット」し、病的な免疫細胞の活動を停止させる。T細胞が調節性細胞になるように誘導する調節性組成物には、継続的な刺激を提供する薬剤、ならびにサイトカインIL-2及びTGF-βが含まれる。
【0103】
本明細書に記載の「インターロイキン-2」(IL-2)は、免疫系におけるサイトカインシグナル伝達分子の一種であるインターロイキンである。これは、免疫を担当する白血球(白血球、多くの場合リンパ球)の活動を調節する15.5~16kDaのタンパク質である。IL-2は、微生物感染に対する体の自然な応答の一部であり、異物(「非自己」)と「自己」を識別する。IL-2は、リンパ球が発現するIL-2受容体に結合することによってその効果を媒介する。IL-2の主な供給源は、活性化CD4+T細胞と活性化CD8+T細胞である。IL-2はサイトカインファミリーのメンバーであり、各メンバーは4つのαヘリックスバンドルを有し、このファミリーには、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、及びIL-21も含まれる。IL-2は、主にT細胞に対する直接的な影響を介して、免疫系の主要な機能である寛容性及び免疫性において重要な役割を果たしている。T細胞が成熟する胸腺では、特定の未成熟T細胞から調節性T細胞への分化を促進することにより、自己免疫疾患が予防され、調節性T細胞は、体内の正常な健康な細胞を攻撃するように抗原刺激されている他のT細胞を抑制する。IL-2はまた、最初のT細胞が抗原によって刺激された場合に、T細胞のエフェクターT細胞とメモリーT細胞への分化を促進し、体が感染症と戦うのを支援する。他の極性サイトカインと共に、IL-2は、ナイーブCD4+T細胞からTh1及びTh2リンパ球への分化を刺激するが、一方でTh17及び濾胞性Thリンパ球への分化を妨げる。その発現と分泌は厳密に制御されており、免疫応答の増強及び抑制における一時的な正及び負のフィードバックループの一部として機能する。IL-2は、抗原によって選択されたT細胞クローンの数と機能の増大に依存するT細胞免疫記憶の発達におけるその役割を通じて、細胞媒介性免疫の持続において重要な役割を果たす。
【0104】
IL-2は、α(CD25)、β(CD122)及びγ(CD132)と呼ばれる3本の鎖からなる複合体であるIL-2受容体を介してシグナルを伝達する。γ鎖はすべてのファミリーメンバーで共有されている。IL-2受容体(IL-2R)αサブユニットは、低い親和性(Kd約10-8M)でIL-2に結合する。IL-2とCD25の相互作用は、単独では細胞内鎖が短いためシグナル伝達を引き起こさないが、IL-2R親和性を100倍増加させる能力がある(β及びγサブユニットに結合した場合)。IL-2Rのβ及びγサブユニットのヘテロ二量体化は、T細胞におけるシグナル伝達に不可欠である。IL-2は、中親和性二量体CD122/CD132 IL-2R(Kd約10-9M)または高親和性三量体CD25/CD122/CD132 IL-2R(Kd約10-11M)のいずれかを介してシグナル伝達することができる。二量体IL-2Rは、メモリーCD8+T細胞及びNK細胞によって発現されるが、調節性T細胞及び活性化T細胞は、高レベルの三量体IL-2Rを発現する。非Tregの刺激を最小限に抑えるIL-2のバリアントを含む、様々な形態のIL-2を本開示において使用してもよい。
【0105】
多面発現性ポリペプチドである「トランスフォーミング成長因子β」(TGF-β)は、胚発生、成体幹細胞分化、免疫調節、創傷治癒、及び炎症を含む複数の生物学的プロセスを調節する。TGF-βファミリーメンバーは、プレプロペプチド前駆体として合成され、その後プロセシングされて、ホモ二量体またはヘテロ二量体として分泌される。このファミリーのほとんどのリガンドは、膜貫通セリン/スレオニンキナーゼ受容体及びSmadタンパク質を介してシグナルを伝達し、細胞機能を調節する。TGF-βシグナル伝達経路の特定の構成要素の変化は、がん、自己免疫疾患、組織線維症、及び心血管病理などの広範な病理に寄与し得る。TGF-βは、様々な程度の構造的相同性と細胞機能に対する重要な効果を有する、密接に関連したポリペプチドのファミリーに属している。トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)ファミリーのメンバーは、I型及びII型二重特異性キナーゼ受容体のヘテロ四量体複合体を介してシグナルを伝達する。受容体の活性化と安定性は、リン酸化、ユビキチン化、SUMO化、NEDD化などの翻訳後修飾、ならびに細胞表面及び細胞質内の他のタンパク質との相互作用によって制御される。TGF-β受容体の活性化は、核に移行して転写因子として機能するSmad複合体の形成を介したシグナル伝達、ならびにErk1/2、JNK、及びp38MAPキナーゼ経路、ならびにSrcチロシンキナーゼ、ホスファチジルイノシトール3’-キナーゼ、及びRho GTPアーゼなどの非Smad経路を介したシグナル伝達を誘導する。TGF-βファミリーメンバーの結合は、2つのI型受容体と2つのII型受容体のヘテロ四量体複合体の集合を誘導する。ヒトI型受容体は7つ、II型受容体は5つ存在し、TGF-βファミリーの個々のメンバーは、I型受容体とII型受容体の特徴的な組み合わせに結合する。これらの受容体は、かなり小さなシステインに富んだ細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、膜近傍ドメイン、及びキナーゼドメインを有し、しかしながら、BMP II型受容体を除き、チロシンキナーゼ受容体とは対照的に、キナーゼドメインのカルボキシ末端部分は非常に短い。I型及びII型受容体のリガンド誘導性オリゴマー化は、グリシン及びセリン残基が豊富な膜近傍ドメイン(GSドメイン)領域におけるI型受容体のII型受容体リン酸化を促進し、そのキナーゼの活性化を引き起こす。活性化されたI型セリン/スレオニンキナーゼ受容体は、受容体によって活性化された(R)-Smadファミリーのメンバーをリン酸化し、したがって、TGF-β、アクチビン、及びnodalは一般に、Smad2及び3のリン酸化を誘導するが、BMPは一般に、Smad1、5をリン酸化する。活性化されたR-Smadは、次いで共通メディエーターSmad4と三量体複合体を形成し、核に移行して他の転写因子、コアクチベーター、及びコリプレッサーと協働して特定の遺伝子の発現を制御する。Erk1/2、JNK、及びp38MAPキナーゼ経路、チロシンキナーゼSrc、ホスファチジルイノシトール-3’(PI3)-キナーゼ、ならびにRho GTPアーゼなどのTGF-βファミリーのメンバーによって活性化される非Smadシグナル伝達経路も存在する。
【0106】
本明細書で使用する場合、用語「生体適合性」及び「生物学的に適合」とは、一般に、その代謝産物または分解産物と共に、レシピエントに対して一般に非毒性であり、レシピエントにいかなる重大な悪影響も引き起こさない材料を指す。一般的に言えば、生体適合性材料とは、患者に投与した場合に重大な炎症反応や免疫反応を誘発しない材料である。
【0107】
本明細書で使用する場合、用語「生分解性ポリマー」とは、一般に、生理的条件下での酵素作用及び/または加水分解によって分解または侵食され、より小さな単位または化学種となり、対象によって、代謝、排除、または排泄され得るポリマーを指す。分解時間は、ポリマー組成、多孔性などの形態、粒子寸法、及び環境の関数である。
【0108】
本明細書で使用する場合、用語「両親媒性」とは、分子が親水性部分と疎水性部分の両方を有する特性を指す。多くの場合、両親媒性化合物は、疎水性部分に共有結合した親水性部分を有する。いくつかの形態では、親水性部分は水に可溶性であるが、疎水性部分は水に不溶性である。さらに、親水性部分及び疎水性部分は、形式的な正電荷または形式的な負電荷を有していてもよい。しかしながら、全体としては、親水性または疎水性のいずれかである。両親媒性化合物は、両親媒性ポリマーとすることができ、それにより、親水性部分は親水性ポリマーであり得、疎水性部分が疎水性ポリマーであり得る。
【0109】
本明細書で使用する場合、用語「平均粒径」または「平均粒度」は、粒子の集団における粒子の統計的平均粒子径(直径)を指す。本質的に球形の粒子の直径は、物理的直径または流体力学的直径を指し得る。非球形粒子の直径は、流体力学的直径を優先的に参照してもよい。本明細書で使用する場合、非球形粒子の直径は、粒子の表面上の2点間の最大直線距離を指し得る。平均粒径は、動的光散乱などの当技術分野で公知の方法を使用して測定することができる。
【0110】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容される」とは、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症がなく、合理的なベネフィット/リスク比に見合った、ヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに適した化合物、担体、賦形剤、組成物、及び/または剤形を指す。
【0111】
本明細書で使用する場合、用語「封入された」及び「組み込まれた」とは、1つ以上の薬剤、または他の材料に関して使用する場合、ポリマー組成物に組み込まれることとして当技術分野で認識される。特定の実施形態では、これらの用語には、所望の用途においてそのような薬剤の放出、例えば徐放、を可能にする組成物にそのような薬剤を組み込むか、製剤化するか、または他の方法で含めることが含まれる。これらの用語は、薬剤または他の材料をポリマー粒子に組み込む任意の方法を意図しており、例えば、そのようなポリマーの単量体への結合(共有結合、イオン結合、または他の結合相互作用による)、物理的混合、薬剤をポリマーのコーティング層に包み込むこと、及びそのような単量体を重合の一部にしてポリマー製剤を取得すること、ポリマーマトリックス全体に分散させること、(共有結合または他の結合相互作用によって)ポリマーマトリックスの表面に付加すること、ポリマーマトリックスの内部に封入することなどが含まれる。用語「共組み込み」または「共封入」とは、対象の組成物中に複数の活性薬剤または他の材料と、少なくとも1つの他の薬剤または他の材料を組み込むことを指す。
【0112】
本明細書で使用する場合、用語「阻害する」及び「低減する」とは、活性、発現、または症状を低減または低下させることを指す。これは、活性、発現、または症状の完全な阻害または低下、または部分的な阻害または低下であり得る。阻害または低減は、対照または標準レベルと比較することができる。
【0113】
本明細書で使用する場合、用語「治療」または「治療すること」とは、疾患の1つ以上の症状を治療するために組成物を対象または系に投与することを指す。対象への組成物の投与の効果は、限定されないが、病態の特定の症状の停止、病態の症状の軽減または予防、病態の重症度の軽減、病態の完全な除去、特定の事象または特性の発現または進行の安定化または遅延、あるいは特定の事象または特性が発生する可能性の最小化であり得る。
【0114】
本明細書で使用する場合、用語「予防する」、「予防すること」、「予防」、及び「予防的治療」とは、特定の有害な病態、障害、または疾患を発症するリスクがあるか、感受性があるか、または罹りやすく、したがって、症状及び/またはその根本的な原因の発生の予防に関連する、臨床的に無症候性の個体への薬剤または組成物の投与を指す。
【0115】
本明細書で使用する場合、用語「薬剤」とは、体内で局所的及び/または全身的に作用する生理学的または薬理学的に活性な物質を指す。活性薬剤は、疾患または障害の治療(例えば、治療薬)、予防(例えば、予防薬)、栄養補給(例えば、栄養補助食品)、または診断(例えば、診断薬)のために患者に投与される物質である。この用語には、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝産物、及び類似体を含むがこれらに限定されない、薬剤の薬学的に許容される薬理学的に活性な誘導体も包含される。
【0116】
本明細書で使用する用語「小分子」とは、一般に、分子量が約2000g/mol未満、約1500g/mol未満、または約1000g/mol未満の有機分子を指す。
【0117】
本明細書で使用する用語「免疫調節薬」とは、抗原に対する免疫応答を調節するが、抗原ではないか、または抗原に由来しない薬剤を指す。本明細書で使用する場合、「調節する」とは、免疫応答を誘導、増強、抑制、寛容化、指示、または再指示することを指す。
【0118】
本明細書で使用する用語「有効量」及び「治療有効量」は、本明細書に記載のナノ粒子、治療薬、及び医薬組成物に適用される場合、同じ意味で使用され、所望の治療結果をもたらすために必要な量を指す。例えば、有効量とは、組成物及び/または治療薬、または医薬組成物の投与対象の疾患の症状を治療、治癒、または軽減するのに有効なレベルである。求められる特定の治療目標に対する有効量は、治療しようとする疾患及びその重症度及び/または発症/進行の段階、使用する特定の化合物及び/または抗腫瘍薬、または医薬組成物のバイオアベイラビリティ及び活性、投与経路または投与方法及び対象における導入部位を含む様々な要因によって異なる。
【0119】
本明細書における値の範囲の記載は、本明細書に別段の記載がない限り、その範囲内にあるそれぞれの個別の値を個別に参照する簡略的な方法として機能することを単に意図しており、それぞれの個別の値は、あたかも本明細書中に個別に記載されているかのように本明細書に援用される。
【0120】
用語「約」の使用は、およそ±10%の範囲で記載された値を上回るか下回る値を記述することを意図している。
【0121】
III.製剤
A.ナノ粒子
本開示で使用するナノ粒子は、約40nm~約500nm、約60~約450nm、約100nm~約400nm、約100nm~約350nm、約100nm~約300nm、例えば、約150nm、約200nm、約250nm、約300nm、または約350nmの平均直径を有する。粒径は、任意の適切な方法で測定してもよい。適切な方法としては、動的光散乱(DLS)、極低温透過電子顕微鏡(cryo-TEM)、X線小角散乱(SAXS)、または中性子線小角散乱(SANS)が挙げられる。
【0122】
1.合成ポリマーナノ粒子
ナノ粒子のポリマーマトリックスは、1つ以上のポリマー、コポリマー、またはブレンド及びデンドリマーから形成され得る。ポリマーマトリックスの組成と形態を変えることにより、様々な放出制御特性を達成することができ、1つ以上の活性薬剤の適度の一定用量を長期間にわたって送達することができる。好ましくは、ポリマーマトリックスは生分解性である。ポリマーマトリックスは、1日~1年、より好ましくは1日~26週間、より好ましくは1日~20週間、最も好ましくは1日~4週間の期間内に分解するように選択することができる。いくつかの態様では、ポリマーマトリックスは、数時間~5週間、より好ましくは1日~3週間、より好ましくは1日~15日、最も好ましくは1日~7日の期間内に分解するように選択することができる。
【0123】
一般に、合成ポリマーが好ましいが、天然ポリマーを使用してもよい。代表的なポリマーとして、ポリヒドロキシ酸(ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸))、ポリ3-ヒドロキシ酪酸またはポリ4-ヒドロキシ酪酸などのポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン、ポリ(オルトエステル)、ポリ無水物、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリ(グリコリド-コ-カプロラクトン)、チロシンポリカーボネートなどのポリカーボネート、ポリアミド(合成ポリアミド及び天然ポリアミドを含む)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(PEG)及びプルロニック(ポリエチレンオキシドポリプロピレングリコールブロックコポリマー)などのポリ(アルキレンオキシド)、ポリアクリル酸、ならびにそれらの誘導体、コポリマー、及びブレンドが挙げられる。
【0124】
本明細書で使用する場合、「誘導体」には、当業者によって日常的に行われる、上記のポリマー主鎖に対する、化学基の置換、付加及び他の修飾を有するポリマーが含まれる。タンパク質、例えば、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、プロラミン、例えば、ゼイン、ならびに多糖類、例えば、アルギン酸塩及びペクチンを含む天然ポリマーもポリマーマトリックスに組み込まれ得る。特定の場合では、ポリマーマトリックスが天然ポリマーを含む場合、天然ポリマーは、加水分解によって分解する生体ポリマーである。
【0125】
いくつかの実施形態では、コア粒子のポリマーマトリックスは、1つ以上の架橋性ポリマーを含み得る。架橋性ポリマーは、粒子形成後にポリマーマトリックスを架橋することができる1つ以上の光重合性基を含み得る。適切な光重合性基の例としては、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、及びアクリルアミド基が挙げられる。光重合性基は、存在する場合、架橋性ポリマーの主鎖内、架橋性ポリマーの1つ以上の側鎖内、架橋性ポリマーの1つ以上の末端、またはそれらの組み合わせに組み込まれ得る。
【0126】
コア粒子のポリマーマトリックスは、特定の用途に有効な薬物放出速度を含む特性を有する粒子が形成されるように、様々な分子量を有するポリマーから形成され得る。
【0127】
いくつかの実施形態では、ポリマーマトリックスは、脂肪族ポリエステル、または1つ以上の脂肪族ポリエステルセグメントを含むブロックコポリマーから形成される。好ましくは、ポリエステルまたはポリエステルセグメントは、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)PGA、またはポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)である。ポリエステルセグメントの分解速度、及び多くの場合、対応する薬物放出速度は、数日(純粋なPGAの場合)~数か月(純粋なPLAの場合)まで変化する可能性があり、これは、ポリエステルセグメント内のPLA対PGAの比率を変動させることにより、容易に操作することができる。さらに、PGA、PLA、及びPLGAは、ヒトに対して安全に使用することができることが確立されており、これらの材料は、薬物送達系を含むヒトの臨床用途で30年以上使用されている。
【0128】
好ましい天然ポリマーの例としては、タンパク質、例えば、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、及びプロラミン、例えばゼイン、ならびに多糖類、例えば、アルギン酸塩、キトサン、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、セルロース誘導体、及びポリヒドロキシアルカノエート、例えば、ポリヒドロキシ酪酸が挙げられる。粒子のin vivo安定性は、ポリエチレングリコール(PEG)と共重合したポリ(ラクチド-コ-グリコリド)などのポリマーを使用することにより、製造中に調整することができる。PEGが外表面に露出している場合、PEGの親水性によりこれらの物質が循環する時間が長くなる可能性がある。
【0129】
好ましい非生分解性ポリマーの例としては、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド、コポリマー及びそれらの混合物が挙げられる。好ましい生分解性ポリマーの例としては、ポリエステルまたはポリエステルセグメント、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)PGA、またはポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)が挙げられる。
【0130】
2.脂質ベースのナノ粒子
リポソームは、水性区画によって分離された同心のリン脂質二重層からなる球状小胞である。リポソームは細胞表面に付着し、分子膜を形成する。脂質小胞は、1つ(単層)または複数(多層)のリン脂質二重層で区切られた1つ以上の水性コンパートメントを含む。リポソームは、様々な化学療法剤の薬物担体として広く研究されている(このテーマに関しては何千もの科学論文が発表されている)。
【0131】
リポソームは、1つ以上の脂質を含有する。脂質は、生理学的pHで中性、アニオン性、またはカチオン性脂質であり得る。好適な中性及びアニオン性脂質としては、ステロール及び脂質、例えば、コレステロール、リン脂質、リゾ脂質、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、またはペグ化脂質が挙げられるが、これらに限定されない。中性及びアニオン性脂質には、1,2-ジアシル-グリセロ-3-ホスホコリンを含むが、これに限定されるホスファチジルコリン(PC)(卵PC、ダイズPCなど)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール(PI)、糖脂質、スフィンゴリン脂質、例えば、スフィンゴミエリン及びスフィンゴ糖脂質(1-セラミジルグルコシドとしても知られる)、例えば、セラミドガラクトピラノシド、ガングリオシド及びセレブロシド、カルボン酸基を含む脂肪酸、ステロール、例えば、コレステロール、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(1,2-ジオレイルホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジヘキサデシルホスホエタノールアミン(DHPE)、1,2-ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、及び1,2-ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)を含むが、これに限定されない)が含まれるが、これらに限定されない。脂質には、脂質の様々な天然(例えば、組織由来L-α-ホスファチジル、卵黄、心臓、脳、肝臓、ダイズ)及び/または合成(例えば、飽和及び不飽和1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジヘプタノイル-SN-グリセロ-3-ホスホコリン)誘導体も含まれる。一実施形態では、リポソームは、ホスファジチルコリン(PC)頭部基、好ましくはスフィンゴミエリンを含む。好ましい実施形態では、リポソームは、DPPCを含む。好ましい実施形態では、リポソームは、中性脂質、好ましくは1,2-ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)を含む。
【0132】
リポソームは、通常、水性コアを有する。水性コアは、水、または水とアルコールの混合物を含有し得る。好適なアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール(イソプロパノールなど)、ブタノール(n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールなど)、ペンタノール(アミルアルコール、イソブチルカルビノールなど)、ヘキサノール(1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノールなど)、ヘプタノール(1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、及び4-ヘプタノールなど)、またはオクタノール(1-オクタノールなど)またはその組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
3.デンドリマー様粒子
本明細書で使用する用語「デンドリマー」は、内部コア、この開始コアに規則的に結合した繰り返しユニットの内部層(または「世代」)、及び最も外側の世代に結合した末端基の外部表面を有する分子アーキテクチャを含むが、これらに限定されない。デンドリマーの例としては、PAMAM、ポリエステル、ポリリジン、及びPPIが挙げられるが、これらに限定されない。PAMAMデンドリマーは、カルボキシル、アミン、及びヒドロキシル末端を有することができ、第1世代PAMAMデンドリマー、第2世代PAMAMデンドリマー、第3世代PAMAMデンドリマー、第4世代PAMAMデンドリマー、第5世代PAMAMデンドリマー、第6世代PAMAMデンドリマー、第7世代PAMAMデンドリマー、第8世代PAMAMデンドリマー、第9世代PAMAMデンドリマー、または第10世代PAMAMデンドリマーを含む、任意の世代のデンドリマーであり得る。使用に適したデンドリマーとしては、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリエステル、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)、及び/または芳香族ポリエーテルデンドリマーが挙げられるが、これらに限定されない。デンドリマー複合体の各デンドリマーは、他のデンドリマーと同様の化学的性質を有していてもよく、または異なる化学的性質を有していてもよい(例えば、第1のデンドリマーはPAMAMデンドリマーを含み得るが、第2のデンドリマーはPOPAMデンドリマーを含み得る)。いくつかの実施形態では、第1または第2のデンドリマーは、追加の薬剤をさらに含んでいてもよい。マルチアームPEGポリマーは、スルフヒドリルまたはチオピリジン末端基を有する少なくとも2つの分枝を有するポリエチレングリコールを含むが、ただし、実施形態はこのクラスに限定されず、スクシンイミジルまたはマレイミド末端などの他の末端基を有するPEGポリマーを使用することができる。分子量10kDa~80kDaのPEGポリマーを使用することができる。
【0134】
デンドリマー複合体は、複数のデンドリマーを含む。例えば、デンドリマー複合体は、第3のデンドリマーを含むことができ、その場合、第3のデンドリマーは、少なくとも1つの他のデンドリマーと複合体を形成している。さらに、第3の薬剤が、第3のデンドリマーと複合体を形成することができる。別の実施形態では、第1及び第2のデンドリマーが、それぞれ第3のデンドリマーと複合体を形成し、第1及び第2のデンドリマーがPAMAMデンドリマーであり、第3のデンドリマーがPOPAMデンドリマーである。本発明の趣旨から逸脱することなく、追加のデンドリマーを組み込むことができる。複数のデンドリマーを使用する場合、複数の薬剤を組み込むこともできる。これは、互いに複合体を形成するデンドリマーの数によって制限されない。
【0135】
本明細書で使用する場合、用語「PAMAMデンドリマー」とは、アミドアミンビルディングブロックを有する、異なるコアを含み得るポリ(アミドアミン)デンドリマーを意味する。それらの製造方法は当業者に公知であり、一般に、中央の開始コアの周りに樹状β-アラニンユニットの同心円状のシェル(世代)を生成する2段階反復反応シーケンスを含む。このPAMAMコアシェルアーキテクチャは、付加されたシェル(世代)に応じて直径が線形に成長する。一方、表面基は、樹状分枝の計算に従って、各世代において指数関数的に増幅する。これらは、世代G0~10において、5つの異なるコア型及び10個の表面官能基で利用可能である。デンドリマー分枝ポリマーは、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリグリセロール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリシン、またはポリエチレングリコール(PEG)、ポリペプチドデンドリマーからなり得る。デンドリマーは、胆汁酸塩を含む複数の用途に応用されている理想的な両親媒性界面活性剤でもある。デンドリマーと胆汁酸塩の凝集体も一種の混合ミセルであり、親水性の頭部と疎水性の尾部を備えた従来の界面活性剤とは異なる特性を有する。いくつかの実施形態では、デンドリマーは、WO2009/046446に記載されているように、ナノ粒子の形態である。
【0136】
4.粒子の作製方法
ナノ粒子を調製するための一般的な技術としては、溶媒蒸発、溶媒除去、自己組織化、噴霧乾燥、転相、コアセルベーション、及び低温キャスティングが挙げられるが、これらに限定されない。粒子配合の好適な方法を以下に簡潔に述べる。pH調整剤、崩壊剤、保存剤、及び抗酸化剤を含む薬学的に許容される賦形剤を、粒子形成中に、任意選択で粒子に組み込むことができる。
【0137】
A.溶媒蒸発
本方法では、薬物(またはポリマーマトリックス及び1つ以上の薬物)を塩化メチレンなどの揮発性有機溶媒に溶解する。次いで、薬物を含有する有機溶液を、ポリ(ビニルアルコール)などの界面活性剤を含有する水溶液に懸濁する。得られるエマルジョンを、有機溶媒の大部分が蒸発して固体ナノ粒子が残るまで撹拌する。得られるナノ粒子を水で洗浄し、凍結乾燥機で一晩乾燥させる。この方法により、異なる径及び形態のナノ粒子が得られる。
【0138】
特定のポリ無水物などの不安定なポリマーを含む薬剤は、水が存在することにより、製造プロセス中に分解する可能性がある。これらのポリマーの場合、完全に無水の有機溶媒中で実施する以下の2つの方法を使用することができる。
【0139】
B.溶媒除去
溶媒除去を使用して、加水分解的に不安定な薬物から粒子を調製することもできる。本方法では、薬物(またはポリマーマトリックス及び1つ以上の薬物)を塩化メチレンなどの揮発性有機溶媒に分散または溶解する。次いで、この混合物を有機油(シリコン油など)中で撹拌することによって懸濁して、エマルジョンを形成する。エマルジョンから固体粒子が形成され、その後、これを上清から単離することができる。この技術で生成される球体の外部形態は、薬物の性質に大きく依存する。
【0140】
C.噴霧乾燥
本方法では、薬物(またはポリマーマトリックス及び1つ以上の薬物)を塩化メチレンなどの有機溶媒に溶解する。溶液を、圧縮ガス流によって駆動される微粉化ノズルを通してポンプ輸送し、得られるエアロゾルを、空気の加熱サイクロン内で懸濁し、微小液滴から溶媒を蒸発させて粒子を形成させる。本方法を使用して、0.1~10ミクロンの範囲の粒子を取得することができる。
【0141】
D.転相
転相を使用して薬物から粒子を形成することができる。本方法では、薬物(またはポリマーマトリックス及び1つ以上の薬物)を「良好な」溶媒に溶解し、その溶液を強力な非溶媒に注ぎ、好ましい条件下で薬物が自発的にマイクロ粒子またはナノ粒子を生成するようにする。本方法は、例えば、約100ナノメートル~約10ミクロンを含む広範囲の径の(一般的に狭い粒度分布を有する)ナノ粒子を生成するために使用することができる。
【0142】
E.コアセルベーション
コアセルベーションを使用した粒子形成技術は、当技術分野で、例えば、GB-B-929 406、GB-B-929 40 1、ならびに米国特許第3,266,987号、同第4,794,000号、及び同第4,460,563号において公知である。コアセルベーションは、薬物(またはポリマーマトリックス及び1つ以上の薬物)溶液を2つの非混和性液相に分離することを含む。1つの相は、高濃度の薬物を含む高密度コアセルベート相であり、第2の相は、低濃度の薬物を含む。高密度コアセルベート相内で、薬物はナノスケールまたはマイクロスケールの液滴を形成し、それが硬化して粒子になる。コアセルベーションは、温度変化、非溶媒の添加、微量塩の添加(単純コアセルベーション)、または別のポリマーの添加によるポリマー間複合体の形成(複合コアセルベーション)によって誘発され得る。
【0143】
F.自己組織化
自己組織化のためのナノ粒子を形成するために、数多くの方法及び材料が使用されている。例えば、Gu,et al.,では、自己組織化によるPLGA-PEG/PLGA混合ナノ粒子の形成について記載している。Proc Natl Acad Sci USA.2008 Feb 19;105(7):2586-2591を参照のこと。NPは、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)、及び活性薬剤の末端間結合からなる両親媒性トリブロックコポリマーの自己組織化によって、製剤化された。
【0144】
PEG-PLGAブロックコポリマーを使用して粒子を調製することができる。様々な種類のブロックコポリマーを合成することができるが、最も一般的に合成されるブロックコポリマーは、AB、BAB、またはABAブロック構造を有し、AとBは、それぞれPEGブロックとPLGAブロックを表す。これらのコポリマーを製造するための合成方法は十分に確立されており、多くのブロックコポリマーがAkina(http://www.akinainc.com)及びPolysciences,Inc(http://www.polysciences.com)などの企業から市販されている。低分子量及び/または高PEG/PLGA比を有するブロックコポリマーは水溶性であるが、高分子量及び/または低PEG/PLGA比を有するブロックコポリマーは水に不溶性である。ブロックコポリマーは、裸のPLGAよりも親水性が高く、タンパク質などの親水性高分子の送達により適していると考えられている。
【0145】
PEG-PLGAブロックコポリマーは、それらの両親媒性の性質により、水性媒体中に分散すると、それらは自己組織化してミセル形態になる。PEGは親水性コロナとして機能し、一方、PLGAは疎水性コアとして機能する。ポリマーミセルには、パクリタキセルなどの水性疎水性薬物を組み込むことができる。ポリマーミセルは、薬物の血中滞留時間を延長し、全身毒性を軽減し、薬物を作用部位に導くことができる。
【0146】
ナノ沈殿は、ナノ粒子を調製するための別の方法である。ポリ(エチレングリコール)-ポリ(ラクチド-コ-グリコール酸)(PEG-PLGA)両親媒性コポリマーがナノ粒子へ自己組織化する特性、及びその多用途な構造により、ナノ沈殿はその調製に最適な方法の1つとなっている。
【0147】
IV.標的化薬
本開示のナノ粒子は、少なくとも1つの標的化薬と組み合わせてもよい。いくつかの実施形態では、標的化薬は、CD2を対象とする。いくつかの実施形態では、標的化薬は、CD3を対象とする。いくつかの実施形態では、複数の標的化薬を使用してもよい。いくつかの実施形態では、標的化薬は、CD2及びCD3を対象とする。いくつかの実施形態では、標的化薬は、T細胞を対象とする。いくつかの実施形態では、標的化薬は、NK細胞を対象とする。いくつかの実施形態では、標的化薬は、T細胞及びNK細胞を標的とする。いくつかの実施形態では、標的化薬は、NKT細胞を標的とする。いくつかの実施形態では、T細胞を対象とする標的化薬は、T細胞の表面上の受容体を標的とする。いくつかの実施形態では、NK細胞を対象とする標的化薬は、NK細胞の表面上の受容体を標的とする。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの標的化薬は、抗CD2抗体、抗CD3抗体、及び不活化されたかまたは欠失したFcフラグメントを有する抗CD3抗体からなる群から選択される少なくとも1つのメンバーである。抗CD2及び抗CD3は、NKT細胞も標的とすることができる。いくつかの実施形態では、CD3を標的とすることにより、NKT細胞が調節性T細胞になるように誘導される。いくつかの実施形態では、CD3を標的とすることにより、NKT細胞がFoxp3+調節性T細胞になるように誘導される。
【0148】
ナノ粒子は、T細胞及びNK細胞上で発現するCD2を標的とするか、またはT細胞上で発現するCD3を標的とする。CD2とCD3は両方とも、リンパ球の活性化を誘導し、分化に影響を与え得るシグナル伝達受容体である。Tregは、誘導のために刺激を必要とし、機能と生存のためには継続的な刺激を必要とする。標的化部分は、核酸(例えば、アプタマー)、ポリペプチド(例えば、抗体)、糖タンパク質、小分子、炭水化物、脂質などであってもよい。例えば、標的化部分は、一般にポリペプチドなどの特定の標的に結合するオリゴヌクレオチド(例えば、DNA、RNA、またはその類似体もしくは誘導体)であるアプタマーであってもよい。一般に、アプタマーの標的化機能は、アプタマーの三次元構造に基づいている。いくつかの実施形態では、標的化部分は、抗体または抗体断片などのポリペプチドである。
【0149】
好ましい一実施形態では、粒子は、CD2を発現するナチュラルキラー(「NK」)細胞を標的とする。別の好ましい実施形態では、粒子は、CD3を発現するT細胞を標的とする。通常、標的化分子は、T細胞などの生物学的に機能的な細胞クラスに特異的な表面マーカーを利用する。例えば、T細胞は、多くの細胞表面マーカー、例えばCD2(膜貫通分子であり、T細胞の活性化、TまたはNKを介した細胞溶解、活性化した末梢T細胞のアポトーシス、及びT細胞によるサイトカイン産生において重要な役割を果たす免疫グロブリンスーパー遺伝子ファミリーメンバーである)を発現する。CD3は、T細胞受容体のシグナル伝達成分であり、抗原提示細胞が発現するペプチド/MHC複合体を認識する。分子を標的とすることにより、標的細胞または組織内にナノ粒子または他の送達ビヒクルが内部移行する可能性がある。例えば、いくつかの実施形態では、ナノ粒子または他の送達ビヒクルは、エンドサイトーシスを媒介することができる細胞表面受容体を標的とすることができる。したがって、いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、レクチン媒介エンドサイトーシスを介して標的化され得る。
【0150】
いくつかの実施形態では、標的化薬は、標的に特異的に結合できることに加えて、刺激剤としても作用する。例えば、CD2またはCD3を標的とすることにより、TFG-βの産生を刺激することができる。いくつかの実施形態では、CD3を標的とすることにより、細胞表面上でCD3を発現する細胞の増殖及び/または分化が刺激され得る。
【0151】
A.抗体
いくつかの実施形態では、ナノ粒子を、1つ以上の抗体が含まれるように修飾する。細胞表面の1つ以上のエピトープ、他のリガンド、またはアクセサリー分子に直接結合することによって機能する抗体を、ナノ粒子に直接または間接的に結合させることができる。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、T細胞の表面上に発現する受容体などの特定の細胞型の表面の受容体に対する親和性を有する。抗体は、抗体結合ナノ粒子の細胞取り込み、もしくは抗体結合ナノ粒子の細胞内移行、またはその両方を可能にし、増強し、あるいは媒介する細胞表面の1つ以上の標的受容体に結合し得る。
【0152】
任意の特異的抗体を使用してナノ粒子を修飾することができる。例えば、抗体には、標的細胞上のエピトープに結合する抗原結合部位が含まれ得る。「標的」細胞への抗体の結合により、1つ以上の異なる機構を介して、標的細胞タンパク質による会合したナノ粒子の取り込みが増強または誘導され得る。
【0153】
いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合断片は、エピトープに特異的に結合する。エピトープは線状エピトープであり得る。エピトープは、1つの細胞型に特異的であることも、複数の異なる細胞型で発現することもできる。抗体またはその抗原結合断片は、標的細胞の表面の3次元表面特徴、形状、または三次構造を含む立体構造エピトープに結合することができる。
【0154】
任意のクラスの全免疫グロブリン、その断片、及び少なくとも抗体の抗原結合可変ドメインを含む合成タンパク質を含む、様々なタイプの抗体及び抗体断片を使用して、ナノ粒子を標的とすることができる。抗体は、IgG抗体、例えばIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプなどであり得る。抗体は、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、単鎖可変領域(scFv)、ダイアボディ、トリアボディなどを含む、抗原結合断片の形態であり得る。
【0155】
抗体は、天然の抗体、例えば、哺乳動物、例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマ、ニワトリ、ハムスター、ヒトなどから単離及び/または精製された抗体であり得る。あるいは、抗体は、遺伝子改変された抗体、例えば、ヒト化抗体であり得る。抗体は、ポリクローナル、またはモノクローナル(mAb)であり得る。モノクローナル抗体には、重鎖及び/または軽鎖の一部が、特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または相同であり、一方、鎖(複数可)の残りの部分が、別の種に由来するか、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体、ならびにそのような抗体の断片(標的抗原に特異的に結合し、及び/または所望の生物学的活性を示す限り)の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体が含まれる(米国特許第4,816,567号、及びMorrison,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))。組換え手段、例えばアミノ酸の欠失、付加、及び/または置換によって抗体を改変して、所望の機能を媒介する抗体の有効性を高めることもできる。置換は保存的置換であり得る。例えば、抗体の定常領域内の少なくとも1つのアミノ酸を、異なる残基で置換することができる(例えば、米国特許第5,624,821号、米国特許第6,194,551号、WO9958572、及びAngal,et al.,Mol.Immunol.30:105-08(1993)を参照のこと)。いくつかの場合では、補体依存性細胞傷害性などの望ましくない活性を軽減するために変更が加えられる。抗体は、少なくとも2つの異なる抗原エピトープに対する結合特異性を有する二重特異性抗体であり得る。いくつかの実施形態では、エピトープは同じ抗原に由来する。いくつかの実施形態では、エピトープは、2つの異なる抗原に由来する。二重特異性抗体には、二重特異性抗体断片が含まれ得る(例えば、Hollinger,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,90:6444-48(1993);Gruber,et al.,J.Immunol.,152:5368(1994)を参照のこと)。
【0156】
好ましい実施形態では、標的化薬は、CD3及び/またはCD2発現細胞を認識及び/または結合する抗体またはその抗原結合断片である。CD2及びCD3抗体は、当技術分野で公知である(例えば、Abcamカタログ番号1E78.G4(抗CD2)ab5690(抗CD3)及びR&D Systemsカタログ番号MAB18561(抗CD2)、MAB100(抗CD3)。いくつかの実施形態では、標的化薬は、CD3またはCD2の細胞外部分を標的とする。CD3及びCD2のドメイン、ならびにこれらのドメインに対応する核酸またはタンパク質配列は、当技術分野で公知である。ヒトCD3及びCD2の核酸配列及びタンパク質配列は、当技術分野で公知である。例えば、表1に示す配列を参照されたい(これらは参照により本明細書に援用される)。
【表1】
【0157】
ナノ粒子を特定のエピトープ(例えば、標的抗原の特定のドメイン)に標的化する抗体は、当技術分野で公知の任意の手段によって生成することができる。抗体の生成及び産生のための例示的な説明には、Delves,Antibody Production:Essential Techniques(Wiley,1997);Shephard,et al.,Monoclonal Antibodies(Oxford University Press,2000);Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(Academic Press,1993);及びCurrent Protocols in Immunology(John Wiley & Sons,最新版)が挙げられる。インタクトなIg分子の断片は、酵素消化及び組換え手段を含む当技術分野で周知の方法を使用して生成することができる。
【0158】
B.アプタマー
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のナノ粒子または他の送達ビヒクルを、1つ以上の種類の細胞、組織、臓器、または微小環境への優先的な標的化に寄与し得るアプタマーと複合体化させるか、またはアプタマーを組み込む。いくつかの実施形態では、アプタマーは、ナノ粒子または他の送達ビヒクルの、細胞内への内在化を増強することができる(例えば、アプタマーが細胞表面マーカーに結合する場合)。
【0159】
アプタマーは、膜貫通タンパク質、糖及び核酸を含む様々な生体分子を高い親和性及び特異性で認識する、明確に定義された3次元構造に折り畳まれる短い一本鎖DNAまたはRNAオリゴヌクレオチド(6~26kDa)である(Yu B,et al.,Mol Membr Biol.,27(7):286-98(2010))。ナイーブアプタマープール(標的に対してまだ選択されていない)の高い配列と立体構造の多様性により、標的に結合するアプタマーが発見される可能性が高くなる。アプタマーは、好ましくは、特異的な方式で標的分子と相互作用する。通常、アプタマーは、長さが15~50塩基の範囲の小さな核酸であり、ステムループやGカルテットなどの定義された二次及び三次構造に折り畳まれる。アプタマーは、ATPやテオフィリンなどの小分子だけでなく、逆転写酵素やトロンビンなどの大きな分子にも結合することができる。アプタマーは、10-12M未満のKdで標的分子に非常に強固に結合することができる。アプタマーは、10-6、10-8、10-10、または10-12未満のKdで標的分子に結合することが好ましい。アプタマーは、非常に高い特異性で標的分子に結合することができる。例えば、標的分子と、分子上の単一位置のみが異なる別の分子との間で、結合親和性において10,000倍を超える差を有するアプタマーが単離されている。アプタマーは、バックグラウンド結合分子でのKdに比べて、少なくとも10、100、1000、10,000、または100,000倍低い、標的分子でのKdを有することが好ましい。ポリペプチドなどの分子の比較を行う場合、バックグラウンド分子は、異なるポリペプチドであることが好ましい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体の代わりに、TCR-CD3に結合するアプタマーを使用する。本開示で使用してもよいアプタマーの例は、Zumrut HE,et al Ann Biochem 512:1-7,2016,DOI 10.1016/jに記載されており、参照により本明細書に援用される。
【0160】
いくつかの実施形態では、アプタマーは、限定されないが、CD2またはCD3などの細胞表面タンパク質または膜貫通タンパク質に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、1つ以上のアプタマーは、限定されないが、CD2またはCD3などの細胞表面タンパク質及び/または膜貫通タンパク質に特異的に結合する。
【0161】
好ましい標的化薬は、同じ結合特異性を有する抗体、ヒト化抗体、またはそれらの抗体断片である。これらは、粒子の表面、または粒子を形成するポリマーに結合しているため、標的化薬は、粒子の表面に出現する。
【0162】
好適な架橋剤を、以下の表1及び2に開示する。他の好適な架橋剤としては、アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン、及びビオチンが挙げられる。
【0163】
連続マトリックス中の添加剤の任意の好適な化学修飾を使用して、粒子を官能化してもよい。一例は、銅を含まないクリックケミストリーであり、これを用いて、粒子の表面を官能化して、リンカー、ペプチド、抗体、及び蛍光レポーター分子または放射性標識レポーター分子などの任意の目的のリガンドまたは部分と結合させることができる。
【0164】
好ましい実施形態では、係留部分を含む粒子及び/または係留された粒子は、係留部分をコア粒子に、係留された粒子をコア粒子に、係留部分を係留された粒子に、または係留部分及び係留された粒子をコア粒子に連結するための結合部分を表面上に有し得る。結合部分は、タンパク質、ペプチド、または小分子もしくは短いポリマーであってもよい。結合部分は架橋剤であってもよい。架橋剤は、化学反応性、スペーサー長、及び材質によって分類される。
【表2】
【表3】
【0165】
V.刺激剤
ポリマーナノ粒子は、CD4+及び/またはCD8+ Treg細胞の増殖及び/または機能を誘導または増加させることができる1つ以上の刺激剤を含む。ナノ粒子はまた、例えば、in vivoまたはex vivoで、防御性NK細胞の集団を誘導または増加させ得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の刺激剤を、送達するために、ナノ粒子内に充填するか、封入するか、またはナノ粒子の表面に直接的または間接的に(例えば、共有結合または非共有結合で)結合させる。好ましい実施形態では、刺激剤は、免疫調節薬、成長因子またはサイトカインである。いくつかの実施形態では、刺激剤はIL-2である。いくつかの実施形態では、刺激剤はTGF-βである。いくつかの実施形態では、刺激剤は、IL-2及びTGF-βである。IL-2及びTGF-βは、CD4及び他のT細胞がTregになるように誘導するのに必要である(Chen W et al.J Exp Med 198:1875-86,2003)。いくつかの実施形態では、刺激剤は治療剤である。いくつかの実施形態では、刺激剤は予防剤である。いくつかの実施形態では、刺激剤を、他の活性薬剤として本明細書のC節の下に記載する。
【0166】
好ましい実施形態では、ナノ粒子は、IL-2と組み合わせてTGF-βを含有する。最も好ましい実施形態では、IL-2のみがナノ粒子に充填されるか、またはナノ粒子によって封入される。最も好ましい実施形態では、IL-2は、Tregを刺激するが、非Tregは刺激しないように修飾されている(Spangler JB et al.J Immunol 201:2094-2106、2018)。CD2及び/またはCD3リガンドを標的とするナノ粒子は、Tregの誘導に必要なTGF-βを誘導する。
【0167】
図7~12に示す実験は、aAPCがヒトTregを誘導することを示す。これらは、in vitro及びin vivoでaAPC NPを使用して、ヒトT細胞が抑制性のCD4及びCD8 Tregになるようにも誘導され得ることを示している。
【0168】
A.TGF-β
トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)スーパーファミリーは、増殖、分化、遊走、及び生存を含む多面的な細胞機能を調節する多面発現性サイトカインのファミリーである。TGF-βスーパーファミリーは、モデルトランスフォーミング成長因子βファミリー及び他のファミリー、例えば、骨形成タンパク質(BMP)、成長分化因子(GDF)、アクチビン(ACT)、インヒビン(INH)、及びグリア由来神経栄養因子(GDNF)を含む、大規模かつ継続的に拡張されている調節性ポリペプチドの群である(Wan Y.and Flavell R.,Immunol.Rev.,220:199-213(2007))。
【0169】
モデルTGF-βファミリーには、3つのアイソフォーム、TGF-β1、TGF-β2、及びTGF-β3が含まれる。これらのアイソフォームは、同様の機能を共有する一方で、空間的及び時間的に依存して、示差的に発現する。免疫系では、TGF-β1が主に発現するアイソフォームである。TGF-βは、不活性型であるプレプロTGF-β前駆体として合成される。活性型TGF-βを遊離させ、細胞表面結合型または可溶型のいずれかにおいてその機能を発揮できるようにするには、追加の刺激が必要である(Wan Y.and Flavell R;2007))。
【0170】
形質転換された腫瘍細胞の増殖因子として同定されたTGF-βは、実際、上皮細胞や線維芽細胞などの非形質転換細胞の増殖を阻害する。TGF-βは、T細胞などの適応免疫成分と、ナチュラルキラー(NK)細胞などの自然免疫成分を制御する。TGF-βは、Tヘルパー17細胞(Th17)または調節性T細胞(Treg)系統の分化を濃度依存的な様式で促進することができる。TGF-βは、炎症細胞の機能の阻害とTreg細胞の機能の促進という2つの手段を通じて免疫応答を抑制する(Wan Y.and Flavell R;2007))。後者に関しては、TGF-βは、Foxp3の発現を誘導することにより、Treg細胞の生成を促進し、免疫応答を阻害する。初期の研究で、ヒトCD8+T細胞が抑制活性を獲得するにはTGF-βが必要かつ十分であることが示された。
【0171】
TGF-β1のタンパク質配列、mRNA配列、及び遺伝子配列は、当技術分野で公知である。
【0172】
例えば、ヒトTGF-β1のタンパク質配列は以下の通りである:
MPPSGLRLLLLLLPLLWLLVLTPGRPAAGLSTCKTIDMELVKRKRIEAIRGQILSKLRLA
SPPSQGEVPPGPLPEAVLALYNSTRDRVAGESAEPEPEPEADYYAKEVTRVLMVETHNEI
YDKFKQSTHSIYMFFNTSELREAVPEPVLLSRAELRLLRLKLKVEQHVELYQKYSNNSWR
YLSNRLLAPSDSPEWLSFDVTGVVRQWLSRGGEIEGFRLSAHCSCDSRDNTLQVDINGFT
TGRRGDLATIHGMNRPFLLLMATPLERAQHLQSSRHRRALDTNYCFSSTEKNCCVRQLYI
DFRKDLGWKWIHEPKGYHANFCLGPCPYIWSLDTQYSKVLALYNQHNPGASAAPCCVPQ
ALEPLPIVYYVGRKPKVEQLSNMIVRSCKCS(配列番号1、UniProt ID番号P01137)。
【0173】
ヒトTGF-β1の例示的なmRNA配列(cDNAとして示される)は以下のとおりである:
ATGCCGCCCTCCGGGCTGCGGCTGCTGCTGCTGCTGCTACCGCTGCTGTGGCTACTGGTGCTGACGCCTGGCCGGCCGGCCGCGGGACTATCCACCTGCAAGACTATCGACATGGAGCTGGTGAAGCGGAAGCGCATCGAGGCCATCCGCGGCCAGATCCTGTCCAAGCTGCGGCTCGCCAGCCCCCCGAGCCAGGGGGAGGTGCCGCCCGGCCCGCTGCCCGAGGCCGTGCTCGCCCTGTACAACAGCACCCGCGACCGGGTGGCCGGGGAGAGTGCAGAACCGGAGCCCGAGCCTGAGGCCGACTACTACGCCAAGGAGGTCACCCGCGTGCTAATGGTGGAAACCCACAACGAAATCTATGACAAGTTCAAGCAGAGTACACACAGCATATATATGTTCTTCAACACATCAGAGCTCCGAGAAGCGGTACCTGAACCCGTGTTGCTCTCCCGGGCAGAGCTGCGTCTGCTGAGGCTCAAGTTAAAAGTGGAGCAGCACGTGGAGCTGTACCAGAAATACAGCAACAATTCCTGGCGATACCTCAGCAACCGGCTGCTGGCACCCAGCGACTCGCCAGAGTGGTTATCTTTTGATGTCACCGGAGTTGTGCGGCAGTGGTTGAGCCGTGGAGGGGAAATTGAGGGCTTTCGCCTTAGCGCCCACTGCTCCTGTGACAGCAGGGATAACACACTGCAAGTGGACATCAACGGGTTCACTACCGGCCGCCGAGGTGACCTGGCCACCATTCATGGCATGAACCGGCCTTTCCTGCTTCTCATGGCCACCCCGCTGGAGAGGGCCCAGCATCTGCAAAGCTCCCGGCACCGCCGAGCCCTGGACACCAACTATTGCTTCAGCTCCACGGAGAAGAACTGCTGCGTGCGGCAGCTGTACATTGACTTCCGCAAGGACCTCGGCTGGAAGTGGATCCACGAGCCCAAGGGCTACCATGCCAACTTCTGCCTCGGGCCCTGCCCCTACATTTGGAGCCTGGACACGCAGTACAGCAAGGTCCTGGCCCTGTACAACCAGCATAACCCGGGCGCCTCGGCGGCGCCGTGCTGCGTGCCGCAGGCGCTGGAGCCGCTGCCCATCGTGTACTACGTGGGCCGCAAGCCCAAGGTGGAGCAGCTGTCCAACATGATCGTGCGCTCCTGCAAGTGCAGCTGA(配列番号2;GenBank:BC000125.1;Homo sapiens TGFB1 mRNA,complete cds)
【0174】
TGF-β1の遺伝子配列は、ヒト染色体19q13.2、NCBI参照配列:NG_013364.1上のDNA配列の一部として存在する。TGF-β1と同様に、TGF-β2及びTGF-β3のタンパク質配列、mRNA配列、及び遺伝子配列は、当技術分野で公知である。TGF-β1の上記の配列及びそのバリアント(例えば、天然のバリアント)、類似体、または誘導体、ならびにTGF-β2及びTGF-β3のバリアント(例えば、天然のバリアント)、類似体、または誘導体のいずれも、組成物、製剤、及び方法に従ってTGF-β分子を提供する際に使用することができる。さらに、組換えヒトTGF-βタンパク質は、複数のベンダーから市販されている。例えば、組換えヒトTGF-β1は、Peprotech(カタログ番号100-21)及びAbcam(カタログ番号ab50036)から入手可能である。
【0175】
B.IL-2
好ましい実施形態では、ナノ粒子は、TGF-βと組み合わせてIL-2を含有する。インターロイキン-2(IL-2)は、免疫刺激機能と免疫調節機能の両方を備えているため、免疫応答の制御と末梢自己寛容の維持において重要な役割を果たす。IL-2シグナルは、分化、免疫応答、及び恒常性維持の間に様々なリンパ球サブセットに影響を与える。IL-2は、主にT細胞増殖因子として作用し、T細胞の増殖と生存、ならびにエフェクターT細胞とメモリーT細胞の生成に不可欠である。例えば、IL-2による刺激は、調節性T(TReg)細胞の維持と、抗原媒介活性化後のCD4+T細胞から規定のエフェクターT細胞サブセットへの分化に重要である。
【0176】
IL-2は、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、及びIL-21を含む、構造的に関連するサイトカインファミリーに属する、15~16KDaの4つのαヘリックスバンドルのサイトカインである。IL-2サイトカインは、複数の免疫学的効果を示し、様々な形態のIL-2受容体(IL-2R)、特に単量体、二量体、及び三量体に結合することによって作用する。IL-2Rα(CD25)、IL-2Rβ(CD122)、及びIL-2Rγ(CD132)サブユニットの会合により、三量体の高親和性IL-2Rαβγが生じる。CD25は、IL-2への高い親和性結合を与え、一方、βサブユニットとγサブユニット(ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、マクロファージ、及び休止期CD4+及びCD8+T細胞で発現する)は、シグナル伝達を媒介する。CD25の発現は、免疫抑制性の調節性T細胞(Treg)の増殖に必須であると思われる一方で、細胞溶解性のCD8+T及びNK細胞は、CD25の非存在下でIL-2に応答して、IL-2Rβγ結合によって、増殖し、標的細胞を殺傷することができる(Mortara L.,et al.,Front.Immunol.,9:2905(2018))。IL-2と単量体IL-2R(IL-2Rα(CD25))の相互作用はシグナルを誘導しないが、二量体(IL-2Rβ(CD122)及びIL-2Rγ(CD132))ならびに三量体(IL-2Rαβγ)のIL-2Rはいずれも、IL-2に結合すると下流のシグナル伝達を引き起こす(Arenas-Ramirez N.,et al.,Trends Immunol.,36(12):763-777(2015))。調節性T細胞は、IL-2Rαβγ複合体を介してIL-2に効率的に応答することができる(Mortara L.,et al.,2018)。
【0177】
IL-2Rが誘発されると、IL-2媒介シグナル伝達が、以下を含む3つの主要な経路を介して起こる:(i)ヤヌスキナーゼ(JAK)-シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)、(ii)ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)-AKT、及び(iii)マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)(Arenas-Ramirez N.,et al.,2015)。
【0178】
IL-2は、低用量(例えば、ヒトでは1日1回、1.5×106~3×106IU)でもTregを刺激することができる。低用量のIL-2は、自己免疫疾患及び慢性炎症性疾患、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、1型糖尿病、及びクリオグロブリン血症性血管炎、ならびに移植片拒絶反応及び慢性移植片対宿主病の治療に適していると提案されており、これは、これらの病態が、多くの場合、IL-2シグナル伝達の低下、及びエフェクターT細胞に対するTregの相対的な欠損を特徴とすることが報告されているためである(Arenas-Ramirez N.,et al.,2015)。逆に、高用量のIL-2は、エフェクターT細胞及びNK細胞を含む抗腫瘍細胞傷害性リンパ球を刺激することから、高用量のIL-2(例えば、ヒトにおいて、6×105~7.2×105IU/kg体重、1日3回、1サイクルあたり最大14回投与)が、転移がんに対する免疫療法に使用されている(Arenas-Ramirez N.,et al.,2015)。IL-2がエフェクターT細胞を刺激する可能性を回避するために、IL-2は、Tregのみを刺激するように改変されている(Spangler JB et al.J Immunol 201:2094-2106,2018)。
【0179】
IL-2のタンパク質配列、mRNA配列、及び遺伝子配列は、当技術分野で公知である。
【0180】
例えば、ヒトIL-2のタンパク質配列は、以下のとおりである:
MYRMQLLSCIALSLALVTNSAPTSSSTKKTQLQLEHLLLDLQMILNGINNYKNPKLTRML
TFKFYMPKKATELKHLQCLEEELKPLEEVLNLAQSKNFHLRPRDLISNINVIVLELKGSE
TTFMCEYADETATIVEFLNRWITFCQSIISTLT(配列番号3;UniProt ID番号P60568)。
【0181】
ヒトIL-2の例示的なmRNA配列(cDNAとして示される)は以下のとおりである:
ATGTACAGGATGCAACTCCTGTCTTGCATTGCACTAAGTCTTGCACTTGTCACAAACAGTGCACCTACTTCAAGTTCTACAAAGAAAACACAGCTACAACTGGAGCATTTACTGCTGGATTTACAGATGATTTTGAATGGAATTAATAATTACAAGAATCCCAAACTCACCAGGATGCTCACATTTAAGTTTTACATGCCCAAGAAGGCCACAGAACTGAAACATCTTCAGTGTCTAGAAGAAGAACTCAAACCTCTGGAGGAAGTGCTAAATTTAGCTCAAAGCAAAAACTTTCACTTAAGACCCAGGGACTTAATCAGCAATATCAACGTAATAGTTCTGGAACTAAAGGGATCTGAAACAACATTCATGTGTGAATATGCTGATGAGACAGCAACCATTGTAGAATTTCTGAACAGATGGATTACCTTTTGTCAAAGCATCATCTCAACACTAACTTGA(配列番号4;GenBank:S77834.1;Homo sapiens IL-2 mRNA,complete cds)
【0182】
IL-2の遺伝子配列は、ヒト染色体4q27(NCBI参照配列:NG_016779.1)上のDNA配列の一部として存在し得る。
【0183】
上記の配列及びそのバリアント(例えば、天然のバリアント)、類似体、または誘導体のいずれも、組成物、製剤、及び方法に従って、IL-2分子を提供する際に使用することができる。さらに、組換えヒトIL-2タンパク質は複数の販売業者から市販されており、組成物、製剤及び方法に従って使用することができる。例えば、組換えヒトIL-2は、Peprotech(カタログ番号200-02)から、PROLEUKIN(登録商標)(アルデスロイキン)として入手可能である。
【0184】
C.他の活性薬剤
自己抗原ペプチド:抗原特異的調節性細胞を誘導するaAPCの特異性を高めるために、SLE、1型糖尿病、多発性硬化症、及び他の自己免疫疾患の発症に関与する病原性ペプチドが同定されている。これらを、NPに結合させるか、または封入することができる。タンパク質抗原またはペプチド抗原、及び持続性の抗原特異的免疫寛容を誘導する寛容原性免疫調節薬であるラパマイシンを担持する合成生分解性ナノ粒子は、多発性硬化症のマウスモデルを治療するために使用されている(Maldonado RA et al.Proc Nat Acad Sci 112:156-65,2015)。SLEでは、これらのペプチドは、アポトーシス細胞由来のヌクレオソーム内の5つの重要な自己エピトープを含み、これらは、ヒストン(H)領域のH122-42、H382-105、H3115-135、H416-39、及びH471-94に存在する。これらのペプチドは、SLEを有する患者及び様々なマウス系統の自己免疫T細胞及びB細胞によって認識され、すべての主要なMHC分子がこれらのエピトープに無差別に結合する(Datta SK Ann NY Acad Sci 987:79-90,2003)。SLE T細胞によって認識されるもう1つのペプチドは、複数のBWF1 IgG抗体のVH領域由来のT細胞刺激アミノ酸配列をDNAへ定義するアルゴリズムに基づいて構築された人工ペプチド(「コンセンサス」ペプチド[pCONS])である。(Hahn BH Arthritis Rheum 44:438-441,2001)。1型糖尿病では、単一または複数の病原性膵臓ペプチドには、島細胞ペプチド、インスリンペプチド、及びプロインスリンペプチドが含まれる。これらには、GAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)ペプチドが含まれる(Roep BO et al.Lancet 7:65-74,2019)。
【0185】
ディフェンシン:ディフェンシンは、植物及び動物の自然免疫系のペプチド成分である。それらは、α、β、及びθのサブグループに分類され得る。RTD-1と呼ばれるθディフェンシンは、非常に強力な抗炎症性及び寛容原性特性を有する小さな環状の10アミノ酸ペプチドであり、aAPCに充填または封入することができる(Selsted ME et al,Nature Immunol 6:552-557,2005)。
【0186】
組成物(例えば、TGF-β及び/またはIL-2が充填されたナノ粒子または他の送達ビヒクルを含む)は、1つ以上の追加の薬剤を含み得る。追加の薬剤には、免疫抑制剤及び抗炎症剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0187】
抗炎症剤は、非ステロイド系、ステロイド系、またはそれらの組み合わせであり得る。代表的なステロイド系抗炎症薬として、グルココルチコイド、プロゲスチン、ミネラルコルチコイド、コルチコステロイド、及びデキサメタゾンが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な非ステロイド系抗炎症薬として、限定されないが、ケトロラック、ネパフェナク、ジクロフェナク、オキシカム(ピロキシカム、イソキシカム、テノキシカム、スドキシカムなど)及びサリチル酸塩(アスピリン、ジサルシド、ベノリレート、トリリセート、サファプリン、ソルプリン、ジフルニサール、フェンドサルなど)が挙げられる。
【0188】
免疫抑制剤としては、メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェニレート、及びラパマイシンが挙げられる。
【0189】
VI.使用方法
本開示は、免疫媒介性障害を治療及び予防するための方法及び組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、免疫媒介性障害を予防する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、免疫媒介性障害を治療する。
【0190】
いくつかの実施形態では、使用方法は、TGF-β依存性機構を介してBDF1マウスにおける狼瘡様疾患を抑制するNK細胞の増殖を誘導するための、IL-2を充填したCD2標的化NPを含む。
【0191】
全身性自己免疫疾患における病原性自己抗体の産生を抑制するために、いくつかの戦略が設計されている。現在のところ、ほとんどのアプローチは、病原性エフェクター細胞とそれらを制御する通常の細胞の両方に広範な影響を与える薬物または生物学的薬剤によるものであるが、発明者らのアプローチは、調節性細胞を選択的に誘導し、増殖させる方法によるものである。SLEにおける寛容誘発アプローチの使用は、一般に、免疫細胞のex vivo条件調整または循環Tregプールのin vivoでの増殖のいずれかを介して、免疫調節性適応免疫細胞の誘導に焦点を当ててきた。最初のアプローチでは、in vivoでT細胞を標的とするために、抗CD4及び/またはCD2でコーティングされ、寛容原性サイトカインを含有するNPを使用した。これらのNPは、CD4及びCD8 Tregを誘導し、マウスの狼瘡様疾患を予防した。これらの研究では、疾患からの防御に寄与する追加の免疫細胞集団の関与が予想外に観察された。これらは、細胞表面CD2も発現するNK細胞であった。狼瘡様疾患を発症したマウスからNK細胞を枯渇させると、NP aAPCの防御効果が消失した。これらのマウスでは、CD4及びCD8 Tregの増殖が抑制され、抗DNA産生が増加し、これらのマウスは対照よりも重度の腎疾患を発症した(
図1及び4を参照のこと)。NK細胞では、CD2は、細胞活性化のためにCD16と相乗的に作用し、この分子は、抗体応答の制御に重要であり、NK細胞は、ヘルパーT細胞レベルとB細胞レベルの両方で調節することができる。NK細胞は、IFN-γ、TNF-β、GM-CSFなどのサイトカインを産生することも知られており、TGF-βの主要なリンパ球供給源である(TGF-βの不活性前駆体とNK細胞によって自発的に産生される活性TGF-βの両方である)。抗CD2/抗CD16抗体刺激後、NK細胞は、大量のTGF-β及びIL-10を産生し、抗CD2抗体単独は、TGF-β産生を増加させ(SLEでは減少する)、自己抗体産生のNK細胞媒介抑制を促進する。TGF-βシグナル伝達の阻害により、NK細胞媒介性防御効果が消失する養子移入実験で示されたように、抗CD2抗体は、TGF-β依存性機構を介してNK細胞の自己抗体産生が抑制されるように誘導した(
図11を参照のこと)。
【0192】
CD2に関するほとんどの研究は、T細胞上でのこの分子の発現に焦点を当てている。例えば、多発性硬化症に罹患している自己免疫対象において抗CD2抗体を使用することにより、良性の急性免疫抑制が同定されたが、これはレシピエントのT細胞に対する影響としてのみ調査された。同様に、CD2特異的融合タンパク質アレファセプトは、自己免疫性糖尿病患者において免疫抑制活性を発揮することが判明し、その発見は、CD4+及びCD8+セントラルメモリーT細胞(Tcm)とエフェクターメモリーT細胞(Tem)の枯渇に起因するとされたが、NK細胞では調査は行われなかった。もう一つの考察は、抗CD2抗体によるNK細胞のライゲーションは、免疫細胞のバイスタンダー動員において長期持続活性を有するサイトカイン濃度の局所的増加を促進する可能性があるということである。これに関連して、NPは、内在性潜在型TGF-βの活性型への変換を促進する可能性がある局所的な酸性微小環境を作り出し、その結果、局所的な貯蔵量(環境内及び/またはNP内)が枯渇した後でもTGF-β活性を増強する。
【0193】
組成物及び製剤は、ex vivoまたはin vivoでのナイーブCD4細胞からTregへの分化を誘導する方法、ex vivoまたはin vivoでCD4+及び/またはCD8+ Treg細胞の増殖及び/または機能を誘導または増加させる方法、及び/またはNK細胞の集団を誘導または増加させる方法で使用するための医薬組成物(例えば、薬学的に許容される緩衝液、担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせた上記の組成物または製剤のいずれか)として調製され得る。
【0194】
組成物及び製剤は、炎症性疾患または障害、自己免疫疾患または障害の治療、移植片寛容の誘導または増加、移植片拒絶反応の治療、ならびにT細胞、NK細胞、抗原提示細胞、またはそれらの組み合わせの活性を調節することによって軽減または改善され得る症状を伴うアレルギー及び他の病気の治療に有用な治療的免疫抑制戦略に使用することができる。いくつかの実施形態では、本方法は、組成物を投与した対象における抗DNA抗体(例えば、抗dsDNA自己抗体)産生を減少させるか、または腎疾患を軽減することができる。
【0195】
治療方法は、1つ以上の薬剤(例えば、IL-2、TGF-β)を、対象における1つ以上の標的化された細胞または組織に送達するナノ粒子を含有する有効量の医薬組成物を対象(例えば、ヒト患者)に投与することを含み得る。例えば、自己免疫疾患または障害(例えば、SLE)を有する対象を、IL-2及びTGF-βを送達し、抗CD2抗体及び/または抗CD3抗体またはその抗原結合断片で標的化されたナノ粒子を含有する、有効量の医薬組成物を対象に投与することによって治療することができる。
【0196】
本方法は、最初に、細胞内にまたは細胞の微小環境に薬剤を送達するために、TGF-β、IL-2、及び任意選択で1つ以上の他の薬剤を充填した、CD2及び/またはCD4を標的化したナノ粒子(または別の送達ビヒクル)を用いた。最近では、本方法は、CD2及び/またはCD3を標的としたナノ粒子を用いている。本方法は、通常、薬剤を担持した粒子を1つ以上の細胞と接触させることを含む。この接触はin vivoでもex vivoでも行うことができる。治療方法に使用する場合、組成物及び製剤を、治療的または予防的に対象に投与することができる。
【0197】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、患者のリンパ球が機能的調節細胞の複数の集団になるように誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、患者のリンパ球がFoxp3+調節性T細胞になるように誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、患者のリンパ球が非Foxp3+調節性T細胞になるように誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、患者のCD4及びCD8細胞がFoxp3+調節性T細胞となるように誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、患者のCD4細胞及びCD8細胞が非Foxp3+調節性T細胞になるように誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、患者のNK細胞が非Foxp3+調節性T細胞になるように誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、患者のNKT細胞がFoxp3+調節性T細胞になるように誘導する。非Foxp3+調節性T細胞の例には、IL-10及びTGF-βを産生するTr1細胞、及びTGF-βのみを産生するTreg3細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、調節性NK細胞を生成し、免疫媒介性障害を抑制する数まで増殖させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、患者のNK細胞がTGF-β産生調節性NK細胞になるように誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、T細胞がTGF-β産生調節性T細胞になるように誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、NKT細胞の数を減少させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、ヘルパーT細胞の数を減少させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、Th1細胞の数を減少させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、Th2細胞の数を減少させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、Th17細胞の数を減少させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、FTH(濾胞性ヘルパーT)細胞の数を減少させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、ヘルパーT細胞の機能を低下させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、Th1細胞の機能を低下させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、Th2細胞の機能を低下させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、Th17細胞の機能を低下させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、FTH(濾胞性ヘルパーT)細胞の機能を低下させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、IgGの産生を減少させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、IgGレベルを低下させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、自己抗体の産生を減少させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、自己抗体レベルを低下させる。細胞機能及び/または表現型の変化を測定するために使用されるアッセイの例としては、フローサイトメトリー、CYTOFマスサイトメトリー、ELISA、及びDNAまたはRNA分析が挙げられるが、これらに限定されない。これら及び他のアッセイは、TGF-β及び/またはIL-2及び/または任意選択で1つ以上の他の薬剤を充填したCD2及び/またはCD3標的化ナノ粒子で処置することによる細胞型または機能の変化を判定するために使用され得る。
【0198】
A.免疫媒介性障害の予防及び治療
治療を受ける対象は、免疫媒介性の障害、または病態に罹患していてもよい。免疫媒介性障害のいくつかの例としては、糖尿病、自己免疫疾患などの免疫系障害、炎症性疾患、移植片対宿主病(GVHD)、1つ以上のアレルギー、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、組成物及び方法は、糖尿病、自己免疫疾患などの免疫系障害、炎症性疾患、移植片対宿主病(GVHD)、1つ以上のアレルギー、またはそれらの組み合わせの1つ以上の症状を治療するために使用することができる。いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は自己免疫疾患である。いくつかの実施形態では、組成物及び方法は、抗体媒介性障害である自己免疫疾患を治療するために使用することができる。抗体媒介性障害である自己免疫疾患には、全身性エリテマトーデス、尋常性天疱瘡、重症筋無力症、溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、グレーブス病、皮膚筋炎、及びシェーグレン症候群などが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は細胞媒介性自己免疫疾患である。細胞媒介性自己免疫障害の例には、1型糖尿病、橋本病、多発性筋炎、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、及び強皮症が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は移植関連疾患である。いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は移植片対宿主病(GVHD)である。いくつかの実施形態では、免疫媒介性障害は、外来臓器移植の拒絶反応である。いくつかの実施形態では、本発明の方法及び組成物を、免疫媒介性障害を治療するために使用してもよい。いくつかの実施形態では、本方法及び組成物を、治療的に投与する。いくつかの実施形態では、本発明の方法及び組成物を、免疫媒介性障害を予防するために使用してもよい。いくつかの実施形態では、本方法及び組成物を予防的に投与する。SLE、関節リウマチ、及び1型糖尿病などの自己免疫疾患では、臨床疾患が発症する何年も前に自己抗体が出現することが判明している。一部の患者では、これらの抗体の数と量によって疾患の臨床発症を予測する。これらの患者にaAPCを投与すると、臨床疾患の発症を予防できる可能性がある。
【0199】
1.自己免疫疾患
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、自己免疫性及び炎症性の疾患または障害を治療または予防するために使用することができる。
【0200】
治療または予防することができる例示的な自己免疫性/炎症性の疾患または障害としては、アカラシア、アジソン病、成人スチル病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性血管浮腫、自己免疫性自律神経失調症、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性心筋炎、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性蕁麻疹、軸索及び神経ニューロン障害(AMAN)、Balo病、ベーチェット病、良性粘膜類天疱瘡、水疱性類天疱瘡、キャッスルマン病(CD)、セリアック病、シャーガス病、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、慢性再発性多巣性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群(CSS)または好酸球性肉芽腫症(EGPA)、瘢痕性天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、CREST症候群、クローン病、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、本態性混合型クリオグロブリン血症、エバンス症候群、線維筋痛症、線維化性肺胞炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、巨細胞性心筋炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、多発血管炎を伴う肉芽腫症、グレーブス病、ギラン-バレー症候群、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HSP)、妊娠性疱疹または妊娠性類天疱瘡(PG)、化膿性汗腺炎(HS)(反対型ざ瘡)、低ガンマグロブリン血症、IgA腎症、IgG4関連硬化性疾患、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、封入体筋炎(IBM)、間質性膀胱炎(IC)、若年性関節炎、若年性糖尿病(1型糖尿病)、若年性筋炎(JM)、川崎病、ランバート・イートン症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、苔癬硬化症、木質性結膜炎、線状IgA病(LAD)、狼瘡、慢性ライム病、メニエール病、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、混合性結合組織病(MCTD)、ムーレン潰瘍、ミュシャ・ハーベルマン病、多巣性運動神経障害(MMN)またはMMNCB、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、新生児ループス、視床神経筋炎、好中球症、眼部瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ(PR)、PANDAS、傍腫瘍性小脳変性症(PCD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、顔面半側萎縮症、毛様体扁平部炎(周辺性ブドウ膜炎)、パーソネージ・ターナー症候群、天疱瘡、末梢神経障害、静脈周囲性脳脊髄炎、悪性貧血(PA)、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、多腺症候群I型、II、III型、リウマチ性多発筋痛、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、プロゲステロン皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、赤芽球癆(PRCA)、壊疽性膿皮症、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、再発性多発性軟骨炎、下肢静止不能症候群(RLS)、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、精子及び精巣自己免疫、スティフパーソン症候群(SPS)、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎(SO)、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、トロサ・ハント症候群(THS)、横断性脊髄炎、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎(UC)、未分化結合組織病(UCTD)、ブドウ膜炎、血管炎、白斑、フォークト・小柳・原田症候群、及びウェゲナー肉芽腫症(または多発血管炎性肉芽腫症(GPA))が挙げられるが、これらに限定されない。
a.I型糖尿病
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を、I型糖尿病を治療または予防するために使用することができる。いくつかの実施形態では、インスリン産生細胞を対象に移植することができ、その後、移植拒絶反応を軽減または阻害するための1つ以上の薬剤(例えば、TGF-β及びIL-2)を含む有効量の組成物を対象に投与することができる。いくつかの実施形態では、膵島抗原を、寛容誘発剤と共にナノ粒子または他の送達ビヒクル内に一緒に封入することができ、インスリン産生細胞に対する寛容を誘導するために使用することができる。好ましくは、インスリン産生細胞は、β細胞または島細胞である。いくつかの実施形態では、インスリン産生細胞は、インスリンを産生するように改変された組換え細胞である。
【0201】
2.移植関連疾患
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を、移植関連疾患を治療または予防するために使用することができる。移植関連疾患の例としては、移植片対宿主病(GVHD)(例えば、骨髄移植に起因するものなど)、移植片移植拒絶反応、慢性拒絶反応、及び固形臓器、皮膚、膵島、筋肉、肝細胞、ニューロンを含む、組織または細胞の同種または異種移植に関連する免疫障害が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の組成物及び方法を、臓器移植の急性拒絶反応を治療または予防するために、及び臓器移植の慢性拒絶反応を逆転させるために使用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を、臓器移植の急性拒絶反応を治療するために使用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を、臓器移植の急性拒絶反応を予防するために使用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を、臓器移植の慢性拒絶反応を治療するために使用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を、臓器移植の慢性拒絶反応を予防するために使用することができる。好ましい実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、固形臓器移植の拒絶反応の治療に有用である。好ましい実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、幹細胞移植に関連する合併症の治療に有用である。好ましい実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、幹細胞移植に関連する合併症の予防に有用である。好ましい実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、同種異系造血幹細胞移植に関連する合併症の治療に有用である。好ましい実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、同種異系造血幹細胞移植に関連する合併症の予防に有用である。GVHDは、同種造血幹細胞移植に関連する主要な合併症であり、移植された骨髄内の機能的な免疫細胞がレシピエントを「異物」と認識し、免疫学的攻撃を開始する。好ましい実施形態では、必要とする対象に、移植片対宿主病(GVHD)の1つ以上の症状を治療または緩和するために有効量の組成物を投与することによって、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、GVHDに関連する1つ以上の症状を緩和する。好ましい実施形態では、必要とする対象に、移植片対宿主病(GVHD)の1つ以上の症状を予防するために有効量の組成物を投与することによって、本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、GVHDに関連する1つ以上の症状を緩和する。
【0202】
a.移植片対宿主病
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を、移植片対宿主病を予防または治療するために使用することができる。移植片関連疾患の例としては、移植片対宿主病(GVHD)(例えば、骨髄移植に起因するものなど)が挙げられる。好ましい実施形態では、必要とする対象に、移植片対宿主病(GVHD)に関連する1つ以上の症状を緩和するために有効量の組成物を投与することによって、本組成物を使用して、GVHDの1つ以上の症状を予防、治療、または緩和するために、。GVHDは、ドナー組織(移植片)に存在する免疫細胞が宿主自身の組織を攻撃する場合に、幹細胞移植後の患者に発生する免疫病態である。GVHDは、同種造血幹細胞移植に関連する主要な合併症であり、移植された骨髄内の機能的な免疫細胞がレシピエントを「異物」と認識し、免疫学的攻撃を開始する。特定の状況下では輸血でも発生し得る。GVHDの症状には、皮膚の発疹、皮膚の色や質感の変化、下痢、吐き気、肝機能の異常、皮膚の黄変、感染症に対する感受性の増加、ドライアイ、眼の炎症、及び口の過敏または口渇症などが含まれるが、これらに限定されない。
【0203】
b.移植片拒絶反応
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法を、移植片拒絶反応を予防または治療するために使用することができる。固形臓器、皮膚、膵島、筋肉、肝細胞、ニューロンなどの組織または細胞の同種または異種移植片を含む外来組織の移植には、急性及び慢性の移植片拒絶反応を回避または治療するために有毒な免疫抑制剤の慢性投与が必要である。近年、同種異系幹細胞と臓器移植片の組み合わせにより、免疫抑制剤を中止した後に、移植片の混合キメラ現象、寛容性、及び生存が生じ得る(Duran-Struuck R,Sykes M.et al. Transplantation 101:274-83,2017)。ナノ粒子は、免疫抑制剤を低用量で送達するために使用されている。好ましい実施形態では、組成物及び方法を、現在の薬剤の毒性を伴わずに、急性及び慢性の移植片拒絶反応を予防するために使用することができる。これらの方法は、IL-2及びTGF-βを提供して、Tregを誘導し、維持する。ここで、ナノ粒子にはIL-2とTGF-βの両方が含まれる。ナノ粒子の一部は、標的リンパ球に結合するだけでなく、抗原提示細胞によって貪食される。ナノ粒子に封入されたTGF-βは、これらのAPCが寛容原性になるように誘導する(Kosiewicz MM & Alard P.Immunologic Res.30:155-70,2006)。臓器提供者に適合するペプチドMHC抗原の皮下注射を移植前及び移植後継続的に追加すると、移植片拒絶反応を予防し、重度の有毒な副作用を伴う免疫抑制剤の使用を回避するために必要な、同種抗原特異的Tregを維持するために必要なT細胞受容体刺激が提供される。
【0204】
B.有効量
医薬組成物の有効量または治療有効量は、疾患または障害の1つ以上の症状を予防、治療、抑制もしくは緩和するのに十分な、さもなければ所望の薬理学的及び/または生理学的効果、例えば、SLEなどの疾患または障害の根底にある病態生理学的メカニズムの1つ以上の軽減、阻害、または逆転を提供するのに十分な用量であり得る。
【0205】
いくつかの実施形態では、医薬組成物(例えば、IL-2±TGF-β及びIL-2を充填した抗CD2または抗CD3コーティングナノ粒子を含有する)の投与は、自己免疫疾患もしくは障害、炎症性疾患もしくは障害、またはアレルギーの1つ以上の症状を予防、治療、または緩和する。したがって、投与量は、レシピエントにおいて所望の効果を達成するのに有効な量として表すことができる。例えば、いくつかの実施形態では、医薬組成物の量は、発疹、吐き気、炎症、下痢、またはそれらの組み合わせを予防、軽減、または緩和するのに有効な量である。いくつかの実施形態では、医薬組成物の量は、対象においてナイーブCD4細胞からTregへの分化を誘導するのに有効である。いくつかの実施形態では、医薬組成物の量は、対象におけるCD4+及び/またはCD8+Foxp3+ Treg細胞の増殖及び/または機能を誘導または増加させるのに有効な量である。いくつかの実施形態では、医薬組成物の量は、抗DNA抗体(例えば、抗dsDNA自己抗体)の産生を低減または抑制し、及び/または腎疾患を低減するのに有効である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法または組成物は、SLEの1つ以上の症状を軽減する。例えば、医薬組成物の量は、タンパク尿の重症度を予防、遅延、もしくは軽減するか、抗核自己抗体(ANA)の産生を減少させるか、異常なリンパ増殖を減少させるか、糸球体腎炎を予防、遅延、もしくは軽減するか、血中尿素濃度の上昇を軽減、予防、もしくは遅延させるか、またはそれらの組み合わせに有効である。これらの効果は、乾癬や関節リウマチなどの複数の自己免疫疾患の治療にも望ましい。
【0206】
必要とされる医薬組成物の有効量は、対象の種、年齢、体重及び全身状態、治療する障害の重症度、及びその投与様式に応じて、対象ごとに異なるであろう。したがって、すべての医薬組成物について正確な量を特定することは不可能である。しかしながら、当業者であれば、本明細書の教示を踏まえて日常的な実験のみを使用して、適切な量を決定することができる。例えば、医薬組成物を投与するための有効な用量及びスケジュールは経験的に決定することができ、そのような決定を行うことは当業者の技術の範囲内である。いくつかの形態では、組成物の投与の用量範囲は、対象が罹患している疾患または障害の1つ以上の症状の軽減または緩和をもたらすのに十分な量である。
【0207】
用量は、望ましくない交差反応、アナフィラキシー反応などの有害な副作用を引き起こすほど多量であるべきではない。一般に、用量は、患者の年齢、状態、性別、投与経路、他の薬剤がレジメンに含まれるかどうか、治療する疾患の種類、段階、及び部位によって異なる。禁忌があった場合には、個々の医師が投与量を調整することができる。治療に使用する組成物の有効用量は、特定の治療の過程で増加または減少し得ることも理解されるであろう。診断アッセイの結果から、用量の変更を行うことができ、明らかになる。
【0208】
用量は変動させることができ、1日または数日間にわたって、毎日1回以上の用量の投与で投与することができる。特定のクラスの医薬品の適切な用量に関するガイダンスは文献に記載されている。最適な投与スケジュールは、対象または患者の体内の薬物蓄積の測定値から計算することができる。当業者であれば、最適な用量、投与方法、及び反復率を容易に決定することができる。最適な用量は、個々の医薬組成物の相対的な効力に応じて変化し得、一般に、in vitro及びin vivo動物モデルにおいて有効であることが判明したEC50に基づいて推定することができる。
【0209】
一般に、毎日0.001~10mg/kg体重の用量レベルを哺乳動物に投与する。一般に、静脈内注射または注入の場合、用量はより少なくてもよい。一般に、個体に投与するナノ粒子に結合した活性薬剤の総量は、同じ望ましいまたは意図された効果のために投与されなければならない非結合の活性薬剤の量よりも少ないであろう。特定の患者に対する最適な用量及び治療レジメンは、当業者であれば、疾患の徴候について患者をモニタリングし、それに応じて治療を調整することによって容易に決定することができる。いくつかの実施形態では、単位用量は、静脈内注射用の単位剤形である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子中のIL-2の総量は、標準的な(非ナノ粒子)IL-2非経口注射によって投与される用量の1000倍少ない。いくつかの実施形態では、単位用量は、経口投与用の単位剤形である。いくつかの実施形態では、単位用量は、吸入用の単位剤形である。
【0210】
治療は、1つ以上の所望の治療目標、例えば、治療開始時と比較した疾患の1つ以上の症状の軽減を達成するのに十分な時間継続することができる。治療は、所望の期間継続することができ、患者の治療(例えば、抗炎症治療)の進行をモニタリングするための既知の任意の手段を使用して治療の進行をモニタリングすることができる。いくつかの実施形態では、投与を、治療中、毎日、または毎週、または週の一部ごとに行う。いくつかの実施形態では、治療レジメンを、最長2、3、4もしくは5日、週、または月にわたって、または最長6か月にわたって、または6か月を超えて、例えば最長1年、2年、3年、または最長5年にわたって実施する。
本明細書に記載の方法による医薬組成物の特定の用量の投与の有効性は、疾患、障害、及び/または病態(例えば、SLE)の治療を必要とする対象の状態の評価に有用であることが知られている、病歴、徴候、症状、及び客観的な臨床検査の特定の特徴を評価することによって判定することができる。これらの徴候、症状、及び客観的な臨床検査は、そのような患者を治療する医師、または当技術分野で実験を行う研究者には知られているように、治療または予防する特定の疾患または病態に応じて様々に異なる。例えば、適切な対照群との比較、及び/または一般集団または特定の個体における疾患の正常な進行に関する知識に基づいた場合、(1)対象の身体状態が改善されていることが示され、(2)疾患または病態の進行が安定化、遅延、または逆転することが示され、または(3)疾患または病態を治療するための他の薬剤の必要性が低下または不要になる場合、特定の治療レジメンは有効であるとみなされる。いくつかの実施形態では、有効性は、治療後の特定の時点(例えば、1~5日、週または月)における生活の質スコアの尺度として評価される。
【0211】
C.投与様式
組成物(例えば、TGF-β及びIL-2、またはIL-2のみを1つ以上の追加の薬剤とともに充填した抗CD2及び/またはCD3でコーティングされたナノ粒子を含有する)のいずれかを、薬学的に許容される緩衝剤、担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて治療的に使用することができる。本明細書に記載の組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせた1つ以上の化合物からなる医薬組成物に都合よく製剤化することができる。例えば、E.W.Martin Mack Pub.Co.,Easton,PAによるRemington’s Pharmaceutical Sciences最新版を参照のこと。これは、本明細書に記載の治療薬の製剤の調製と併せて使用することができ、参照により本明細書に援用される、典型的な担体及び医薬組成物を調製する従来の方法を開示している。これらは、最も典型的に、組成物をヒトに投与するための標準的な担体であろう。一態様では、ヒト及び非ヒトの場合、これらには、滅菌水、生理食塩水、及び生理学的pHの緩衝溶液などの溶液が含まれる。他の治療薬は、当業者によって使用される標準的な手順に従って投与することができる。
【0212】
本明細書に記載の医薬組成物には、選択した活性薬剤(複数可)に加えて、これらに限定されないが、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、保存剤、界面活性剤などを含めることができる。
【0213】
1つ以上の薬剤を充填したナノ粒子を含有する医薬組成物は、局所治療が望まれるのか全身治療が望まれるのか、及び治療する領域に応じて、複数の方法で対象に投与することができる。したがって、例えば、医薬組成物は、膣内、直腸内、鼻腔内、経口、吸入により、または非経口的に、例えば、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、直腸内、動脈内、リンパ内、静脈内、くも膜下腔内、及び気管内経路で、対象に投与することができる。
【0214】
非経口投与を使用する場合、それは一般に注射によって特徴付けられる。注射剤は、液体溶液または懸濁液、注射前の液体中の溶液もしくは懸濁液に適した固体形態、またはエマルジョンのいずれかとして、従来の形態で調製することができる。非経口投与の別のアプローチには、一定の用量が維持されるような徐放または持続放出系の使用が含まれる。例えば、参照により本明細書に援用される米国特許第3,610,795号を参照のこと。好適な非経口投与経路には、血管内投与(例えば、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入及び血管系へのカテーテル注入)、組織周囲及び組織内注射(例えば、眼内注射、網膜内注射、または網膜下注射)、皮下注入(浸透圧ポンプなどによる)を含む皮下注射または沈着、カテーテルまたは他の配置装置(例えば、多孔質、非多孔質、またはゼラチン状材料を含むインプラント)による直接塗布が含まれる。
【0215】
非経口投与用の製剤には、緩衝液、希釈剤、及び他の適切な添加剤を含むこともできる無菌の水性または非水性溶液、懸濁液、及びエマルジョンが含まれる。非水溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。水性担体には、生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液が含まれる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、ブドウ糖リンゲル液、ブドウ糖及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または固定油が含まれる。静脈内ビヒクルには、液体及び栄養補給剤、電解質補給剤(リンゲルブドウ糖をベースにしたものなど)などが含まれる。防腐剤及び他の添加剤、例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガスなども存在させることができる。
【0216】
医薬組成物(例えば、TGF-β及びIL-2またはIL-2のみ、任意選択で1つ以上の追加の薬剤を充填した抗CD2及び/またはCD3でコーティングされたナノ粒子を含む)の投与は、局所化するか(すなわち、特定の領域、生理学的な系、組織、臓器、もしくは細胞型)または全身性とすることができる。
【0217】
いくつかの好ましい実施形態では、本開示の医薬組成物を、非経口送達によって投与する。いくつかの好ましい実施形態では、非経口送達は静脈内送達である。いくつかの好ましい実施形態では、非経口送達は筋肉内である。いくつかの好ましい実施形態では、非経口送達は皮下である。いくつかの好ましい実施形態では、本開示の医薬組成物を経口送達によって投与する。
【0218】
D.併用療法
いくつかの実施形態では、組成物及び製剤を、1つ以上の治療薬、診断薬、及び/または予防薬と組み合わせて、それを必要とする対象に投与する。例えば、IL-2またはIL-2とTGF-βを充填した抗CD2及び/または抗CD3でコーティングされたナノ粒子を使用して、1つ以上の治療薬、診断薬、及び/または予防薬と組み合わせて、有効量のTGF-β及びIL-2を送達することができる。あるいは、IL-2のみを充填した抗CD2及び/または抗CD3でコーティングされたナノ粒子を、1つ以上の診断薬及び/または予防薬と併用して局所的にTGF-βを産生することができる。一つの好ましい実施形態は、寛容原性aAPC NPと、炎症誘発性サイトカイン、メタロプロテイナーゼ及び/または炎症性マクロファージを抑制する抗炎症剤との組み合わせである。
【0219】
用語「組み合わせ」または「組み合わせた」は、2つ以上の薬剤の共投与、同時投与、または連続投与のいずれかを指すために使用される。したがって、組み合わせは、一緒に(例えば、混合物として)、別々ではあるが同時に(例えば、同じ対象に別々の静脈ラインを介して)、または連続的に(例えば、化合物または薬剤の1つを最初に投与し、続いて第2のものを投与する)のいずれかで投与することができる。追加の治療薬、診断薬、及び/または予防薬は、対象に局所的または全身的に投与することができ、あるいは装置上または装置内にコーティングまたは組み込むことができる。
【0220】
追加の薬剤は、治療する疾患または障害に基づいて選択することができ、抗体、ステロイド系及び非ステロイド系抗炎症薬、TNF-α遮断薬、免疫抑制薬、サイトカイン、ケモカイン、ディフェンシン、及び/または成長因子が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、追加の治療薬、診断薬、及び/または予防薬は、Tregの活性または産生を増加させる薬剤である。
【0221】
いくつかの実施形態では、本開示は、ディフェンシンとの併用治療を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、RTD-1との併用治療を提供する(Tongaonker P et al.Physical Genomics 51:657-67,2019)。いくつかの実施形態では、プレバイオティクスをナノ粒子に封入して、併用治療を提供してもよい。
【0222】
好ましい実施形態では、治療薬、診断薬、及び/または予防薬は、治療する対象が罹患している疾患または障害の治療に臨床的に使用される薬剤から選択される。例えば、治療を必要とする対象におけるSLEの1つ以上の症状を治療するために、本方法は、組成物の併用投与(例えば、IL-2及びTGF-β、ならびにSLEを治療するために使用する1つ以上の薬剤、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、ナブメトン、セレコキシブ、コルチコステロイド、シクロホスファミド、メトトレキサート、アザチオプリン、ベリムマブ、及び抗マラリア薬(例えば、ヒドロキシクロロキン及びクロロキン)を充填した、抗CD2及び/または抗CD3でコーティングされたナノ粒子)を提供する。あるいは、局所的にTGF-βを産生する、IL-2のみを充填した抗CD2及び/または抗CD3でコーティングされたナノ粒子を、狼瘡を治療するために上記で使用される薬剤の1つ以上と併用することができる。
【0223】
VII.キット
上述の組成物及び他の材料は、方法を実施するか、または方法の実施を補助するのに有用なキットとして、任意の好適な組み合わせで一緒にパッケージすることができる。所与のキット内の構成要素が、方法において一緒に使用されるように設計され、適合していることは有用である。キットには、例えば、組成物の用量の供給物が含まれ得る。活性薬剤は、単独で(例えば、凍結乾燥して)、または医薬組成物中に供給され得る。活性薬剤は、単位用量で存在することも、投与前に希釈する必要があるストックで存在することもできる。いくつかの実施形態では、キットは、薬学的に許容される担体の供給物を含む。キットはまた、構造、機械、器具(例えば、投与用)などの製造物、及び提供される医薬組成物と共に使用するための組成物、化合物、材料などを含み得る。好ましい実施形態では、キットは、活性薬剤または組成物を投与するための器具、例えば注射器を含む。キットは、上記の使用において組成物を投与するための印刷された説明書を含み得る。例えば、キットは、IL-2±TGF-β、IL-2、1つ以上の追加の薬剤、またはそれらの組み合わせを充填した、抗CD2及び/または抗CD3でコーティングされたナノ粒子の1つ以上の用量単位、ならびに使用説明書を含み得る。
【0224】
本開示は、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに理解されるであろう。これらは、DBA/2マウスから(C57BL/6×DBA/2)F1(BDF1)への脾細胞の移入によって誘発される狼瘡様疾患を発症したマウスが、T細胞に標的化されたIL-2とTGF-βを充填したNPで処置することにより、狼瘡疾患の発現が有意に減少し、生存率が増加したことを示している。NPによって付与される防御効果は、T細胞のみに起因するものではなく、NPがCD2+細胞を標的とすることから、追加の免疫細胞も関与する。NPによるBDF1マウスの狼瘡様疾患の抑制に主に寄与するのは、NK細胞とこれらの細胞によって産生されるTGF-βである。研究ではまた、IL-2のみを含有するNPを使用してex vivoでNK細胞の増殖を誘導することができ、その後、自己免疫疾患患者の治療に使用することができることも示されている(NK細胞がTGF-βを産生)。前述の実施例では、抗CD2抗体を使用してCD8+細胞を標的としているが、これは、CD2がin vivoで効果を有し、抗CD2抗体がCD3刺激後にFoxp3+ Tregを誘導する能力を有するためであり(Ochando et al.,J Immunol,2005;174:6993-7005)、これは、抗CD2抗体及びCD2特異的融合タンパク質アレファセプトが自己免疫疾患の患者において免疫抑制効果を有するという見解と一致している(Hafler et al.,J Immunol,1988;141:131-8;Rigby et al.,J Clin Invest,2015;125:3285-96)。
【実施例】
【0225】
VIII.実施例
実施例1.標的化ナノ粒子の調製及び特性評価。
材料及び方法:ポリ(乳酸-コ-グリコール酸(PLGA))NPを、McHugh et al.,Biomaterials,2015;59:172-81に記載されているように調製した。簡潔に述べると、60mgのPLGA(Durect、Cupertino、CA)をガラス試験管中で3mlのクロロホルムに溶解した。2.5μgのTGF-β(PeproTech、Cranbury、NJ)の存在下または非存在下で、担体フリーの1.25μgのIL-2を含有する水溶液200μlを滴加すると、一次エマルジョンが得られ、これを超音波処理し、4mlの4.7%ポリビニルアルコール(PVA)及び0.625mg/mlのアビジン-パルミチン酸複合体を含有し、連続的にボルテックスされたガラス試験管へ滴加した。得られた二重エマルジョンを氷浴中で超音波処理し、その後、200mlの0.25%ポリ酢酸ビニル(PVA)を含有するビーカーに移した。粒子を室温で3時間撹拌して硬化させ、その後、18,000gでペレット化し、Milli-Q水へ再懸濁するサイクルにより、3回洗浄した。洗浄したNPを液体窒素中で急速冷凍し、凍結乾燥することで、使用するまで-20℃で長期保存できるようにした。NP調製物を、物理的特性、封入品質、及び放出速度について検査した。Malvern Zetasizer Nanoによる動的光散乱を使用して粒度を定量化した。NPは、245.3±2.2nmの流体力学直径を有し、多分散性指数が低いことが判明したが、これは、比較的狭い粒度分布を有する均一なNP集団であることを示している。ジメチルスルホキシド(DMSO)中でNPを破壊した後、BD OptEIA ELISAキットにより、また、上清を分析することによって、サイトカインの封入及び放出をチェックした。細胞標的化については、NPをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、1mgのNPに対して5~10μgの比率で、ビオチン化抗CD2抗体(クローンRM2-5、Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)と共に、使用前に10分間インキュベートした。
【0226】
最初に、抗CD4抗体でNPをコーティングすることによってCD4+T細胞を標的とし、また、CD2を介したIL-2及びTGF-βによるex vivoでのCD8+ Tregの誘導が報告されていることから(Horwitz,DA et al.,Arthritis Rheumatol,2019;71:632-640)、抗CD2抗体でコーティングすることによってCD8+T細胞を標的としたNPを使用して、in vivoでのTreg誘導のためのT細胞へのIL-2及びTGF-βの標的送達の治療効果を調べた。CD4regは強力な抑制効果を有するが、単独及びCD4+ Tregとの併用の両方でのSLEにおけるCD8+ Tregの防御効果(Dinesh et al.,Autoimmun Rev,2010;9:560-8;Hahn et al.,J Immunol,2005;175:7728-37)。
【0227】
標的化のために、リン酸緩衝食塩水(PBS)中でNPを標的濃度で新たに調製し、使用の10分前に1mgのNPに対して抗体2μgの濃度比で、ビオチン化した標的化抗体と反応させた。Malvern Zetasizer Nanoによる動的光散乱(DLS)を使用して、NPの粒度を定量化した。サイトカインの封入と放出を、DMSO中で粒子を破壊した後に、または放出試験アリコートの上清分析によって、BD OPTEIA(商標)ELISAキットによって測定した。放出アッセイでは、PBS中のPLURONIC F127の1wt/v%溶液を放出緩衝液として使用して、放出されたサイトカインの安定化を促進し、チューブ表面への結合及び捕捉/検出抗体の結合能力の損失を防止する。放出アッセイは、放出緩衝液中の粒子の1mg/mlアリコートを使用して実施した。各時点で、アリコートを微量遠心分離機で遠心分離し、上清を粒子ペレットから単離した。次いで、ペレットを次の時点まで新鮮な放出緩衝液中に再懸濁した。上清試料は研究の終了まで凍結し、その時点でELISA分析を実施した。
【0228】
結果:
サイトカイン封入NPを、McHugh et al.,Biomaterials,2015;59:172-81及びPark et al.,Mol Pharm,2011;8:143-52に記載されているように、物理的特性、封入品質、及び放出速度の検査を通じて特性評価した。動的光散乱により、NPは、245.3+2.2nmの平均±SDの流体力学的直径を有し、多分散性指数が低いことが判明したが(平均±SD:0.06±0.01)、これは、比較的狭い粒度分布を有する均一なNP集団であることを示している。DMSOを使用してNPを破壊した後、ELISAによってサイトカインの封入を測定した。サイトカイン標準を使用して標準曲線を作成したが、すべてのウェルに、5%容量/容量のDMSO及び適切な濃度の空のNPが含まれるように補充した。本方法を使用して、NPには、平均±SDで、NP1mgあたり7.4±0.4ngのTGF-β及び1.9±0.1ngのIL-2が含まれていることがわかった。TGF-βについては、封入効率(%)は17.8±1.1であった。IL-2については9.1±0.4であった。
【0229】
TGF-β及びIL-2を充填したNPからの両サイトカインの放出、及びIL2のみを含有するNPからのこのサイトカインの放出は、最初の24時間の間にバースト放出を示し、その後、試験した14日間の経過にわたって、より緩やかでより持続的な放出特性を示した。
【0230】
実施例2.IL-2及びTGF-βを含有するナノ粒子を用いたマウスにおけるin vitroでのCD4+及びCD8+ Treg細胞の誘導条件
材料及び方法:T細胞増殖のために、12週齢のBALB/cマウス脾細胞から選別したCD3+T細胞(磁気ビーズでネガティブ選択した)を、プレートに結合させた抗CD3抗体(1μg/ml)及び可溶性抗CD28抗体(1μg/ml)(BD Biosciences)の非存在下(対照)または存在下で、72時間、完全RPMI培地(100ユニット/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及び10%熱不活化ウシ胎仔血清)中で、96ウェルプレート(Corning)において、2×105細胞/ウェルの濃度で37℃にて培養した。Treg細胞は、転写因子Foxp3を発現する細胞として定義した。
【0231】
GraphPad Prismソフトウェアバージョン5.0を使用して、統計解析を実施した。パラメトリック検定は、独立t検定を使用して行い、ノンパラメトリック検定は、データが正規分布していない場合に使用した。0.05未満のP値を有意であるとみなした。
【0232】
結果:
CD4+及びCD8+ Treg細胞を同時に誘導するために、IL-2及びTGF-βを封入したPLGA NPを、McHugh et al.,Biomaterials,2015;59:172-81で使用されていた量で使用した。in vitroでTreg細胞を誘導するIL-2及びTGF-βを傍分泌的にT細胞に送達するために、抗CD2/CD4抗体でコーティングされたスカラー用量のNPを、培養物中のマウス精製CD3+細胞に添加した。50μg/mlのNPによる抗CD3/CD28抗体刺激は、CD4+及びCD8+ Foxp3+ Treg細胞の出現頻度の有意な増加を促進した。この刺激は、Tregを最大限に増加させるために必要であった。
【0233】
実施例3:IL-2及びTGF-βを含有するナノ粒子を用いた、マウスにおける治療用CD4+及びCD8+ Treg細胞のin vivo誘導のためのin vivo条件の確立。
材料及び方法:
マウス:C57Bl/6、DBA/2、及びBALB/cマウス(DO11.10、H2dを含む)は、Jackson Laboratoryから購入した。マウスをモニタリングして、フローサイトメトリーにより循環Tregの出現頻度を測定した。血清試料は、眼窩後採血によって採取した。マウスは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の特定の病原体フリーの施設で飼育した。実験は、Institutional Animal Research Committeeによって承認された。
【0234】
フローサイトメトリー:上記のように実施した。末梢血単核球(PBMC)または脾細胞を標準手順に従って単離し、単一の細胞懸濁液を、蛍光色素をコンジュゲートした抗体の組み合わせを使用した表現型分析に使用した。Fcブロッキング後、CD4、CD8、CD25、CD19、CD11b、CD11c、及びGr-1に対する蛍光標識抗マウス抗体(すべてBD Biosciences製)またはアイソタイプ対照抗体を染色に使用し、その後、FACS Caliburフローサイトメーター(BD Biosciences)でデータ取得し、続いてFLOWJO(登録商標)ソフトウェア(Tree Star)を使用して分析した。FoxP3の細胞内染色では、まず細胞表面マーカーの発現について細胞を染色し、その後、固定/透過処理を行い、eBioscience FoxP3染色キットを使用して、製造元の説明書に従ってFoxP3を染色した。
【0235】
8~10週齢のBDF1マウス由来のPBMSを、B細胞(CD19+)顆粒球(Grl)、単球(CD11b+)、樹状細胞(CD11c+)、及びCD3+T細胞(さらにCD8+細胞及びCD4+細胞として分類される)としてゲーティングした。
【0236】
抗原性刺激に対するin vitro T細胞応答を、オボアルブミン323-339ペプチド(OVA323-339、ThermoFisher Scientific)の存在下で実施した。DO11.10マウス由来の脾細胞を、IL-2及びTGF-βを封入したNP(抗CD2/CD4抗体でコーティングされているか、またはコーティングされていない)の存在下または非存在下で、10μg/mlのOVA323-339と共に培養した。Tomtec Harvester 96上で細胞を回収する前の最後の16時間に3H-チミジンを添加した。刺激指数は、抗原刺激したウェルの1分あたりの平均カウント数(cpm)/培地のみのウェルの平均cpmとして計算した。これらの研究は、寛容原性NPが従来の抗原に対するT細胞応答を変化させるかどうかを調べるために実施した。
【0237】
統計解析は、前述のように実施した。
【0238】
結果:
NPの総量(すべてIL-2及びTGFβを封入する)を一定に保持し、抗CD2/CD4でコーティングされたNPでの処置を、抗CD2抗体のみまたは抗CD4抗体のみでコーティングされたNPでの処置と比較した。充填投与の後、最初の12日間は3日または6日ごとに1.5mgのNPを注射した。1週間後、両群のマウスにさらに1.5mgのNPを投与した。21日目の循環PBMC中のTreg細胞の分析により、3日ごとにNPを投与された動物のみがTreg細胞の有意な増加を示したことが明らかになった。
【0239】
抗CD4抗体でコーティングされたNPは、CD4+CD25+FoxP3+細胞を増殖させたが、抗CD2/CD4によるNPコーティングはこの効果を増強した。重要なことに、NP上に抗CD2抗体及び抗CD4抗体を独立してコーティングすることはTreg細胞の増殖に効果的ではないため、コーティング抗体は同じNPに結合させる(共コーティングする)必要がある。
【0240】
抗CD2抗体でコーティングされたNPもCD4+細胞におけるFoxP3発現を増強したが、抗CD2/CD4でコーティングされたNPとは異なり、本実験ではCD25発現を有意に増加させることができなかった。しかしながら、抗CD2抗体でコーティングされたNPは、CD8+Foxp3+細胞を有意に増殖させ、抗CD2抗体でコーティングされたNPによって誘導されたCD8+Foxp3+細胞の割合は、抗CD2/CD4でコーティングされたNPから誘導された細胞の割合よりも高かった。これは、共コーティングされた系における抗CD2抗体のNPごとのコーティングが低下し、CD4+T細胞への競合結合が増加したためである可能性がある。Treg細胞の増殖のためのこの処置は、抗原刺激に対するT細胞全体の応答性に影響を与えなかったが、これは、CD2またはCD4共受容体へのNPの結合がT細胞受容体を介した活性化を妨げないことを示している。
【0241】
実施例4:IL-2及びTGF-βを含有するナノ粒子を用いた、狼瘡を有するBDF1マウスにおけるin vivo研究。
材料及び方法
フローサイトメトリー及び統計解析は、前述のように実施した。
【0242】
マウス:雌C57Bl/6マウス及び雄DBA/2マウスを、(C57Bl/6×DBA/2)F1(BDF1)マウスを生成するために飼育した。Zheng et al.,J Immunol,2004;172:1531-9に従って、8週齢で親DBA/2細胞の移入によってBDF1マウスに疾患の発症を誘発した。レシピエントマウスでは、宿主の主要組織適合性複合体(MHC)抗原の認識により、リンパ球過形成と抗二本鎖DNA(抗dsDNA)抗体の産生亢進が引き起こされ、その後、免疫複合体糸球体腎炎が引き起こされる。DBA/2細胞の移入後、BDF1マウスに、対照としてビヒクル、またはIL-2及びTGF-βを封入し、コーティングしないまま(対照)とするか、または抗CD2及び抗CD4抗体(BD Biosciences)でコーティングしたPLGA NPを腹腔内(IP)注射した。マウスを隔週でモニタリングして、フローサイトメトリーによって循環Treg細胞の出現頻度を測定した。血清試料を眼窩後採血によって採取した。タンパク尿を、ALBUSTIX(登録商標)ストリップ(Siemens)を使用して測定した。マウスは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の特定の病原体フリーの施設で飼育した。実験は、Institutional Animal Research Committeeによって承認された。
【0243】
抗二本鎖DNA抗体のELISA:抗二本鎖DNA(抗dsDNA)抗体レベルのELISA測定は、Alpha Diagnostics Internationalのキットを使用し、製造元の説明書に従って実施した。光学密度(O.D.)は、450nmで測定した。
【0244】
組織学:Lourenco et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2016;113:10637-42に従って、腎臓切片(厚さ4μm)をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。糸球体活動スコア及び尿細管間質活動スコアによる病理学的変化の評価では、0~3のスケールを使用して切片を盲検法でスコア付けした(0=病変なし、1=糸球体の<30%に病変あり、2=糸球体の30~60%に病変あり、及び3=糸球体の>60%に病変あり)。糸球体活動スコアには、糸球体の増殖、核崩壊、フィブリノイド壊死、炎症細胞、細胞性半月体、及びヒアリン沈着物が含まれる。尿細管間質活性スコアには、間質炎症、尿細管細胞壊死及び/または平坦化、ならびに尿細管内腔の上皮細胞またはマクロファージが含まれる。生のスコアを平均して各特徴の平均スコアを取得し、平均スコアを合計して平均スコアを取得し、そこから複合腎生検スコアを取得した(Ferrera et al.,Arthritis Rheum,2007;56:1945-53)。間接的な免疫蛍光研究では、切片を冷アセトンで5分間固定し、洗浄し、2%ウシ血清アルブミン(BSA)で1時間ブロッキングした後、ウサギ抗マウスIgG(Fisher Scientific)で染色した。
【0245】
結果:狼瘡を有するBDF1マウスにおいて治療プロトコルに従った場合、IL-2及びTGF-βを封入した抗CD2/CD4抗体でコーティングされたNPでの処置により、循環CD4+及びCD8+ Treg細胞の数が増加した。合計量7.5mgのNPを使用した場合、狼瘡疾患の症状に対する防御が観察された。
【0246】
BDF1マウスでは、DBA/2細胞の移入後の疾患の発症は急速であり、移入後2週間までに抗DNA自己抗体が出現し、6週間までに免疫複合体糸球体腎炎によるタンパク尿が出現する(Via et al.,Immunol Today,1988;9:207-13;Rus et al.,J Immunol,1995;155:2396-406;Zheng et al.,J Immunol,2004;172:1531-9)。マウスには、19日間にわたって7.5mgの抗CD2/4コーティングされたNPを投与した。スケジュールを
図1A)に示す。これらのNPは、CD4及びCD8 Tregを顕著に増加させた(
図1B~1C)。この用量スケジュールは、CD4+ Treg細胞の約2倍の増加、及びCD8+ Treg細胞の約4倍の増加と関連していたが、他の免疫細胞集団の出現頻度の変化とは関連しておらず、2週目及び4週目での抗dsDNA自己抗体の産生における統計的に有意な減少(
図1E(p<0.05)及びタンパク尿の減少(
図2C)p<0.05と関連していた。
【0247】
IL-2/TGF-βを封入した7.5mgのNPによってBDF1マウスを処置したところ、非コンジュゲートNPを投与したBDF1マウスと比較して、循環免疫細胞の複数の集団の出現頻度に有意な変化は生じなかった。
【0248】
CD4+及びCD8+ Foxp3発現Treg細胞の増殖、ならびに抗DNA自己抗体及びタンパク尿の発症からマウスを防御するために、NPは標的化される必要があった。同等の用量で投与したIL-2及びTGF-βを含有する非コーティングNPには、これらの影響はまったくなかった。IL-2及びTGF-βを封入したT細胞標的化NPで処置したマウスにおけるタンパク尿の減少は、糸球体の保存とIgG沈降の減少を示す腎臓の組織病理学的変化に反映されていた。逆に、対照マウス(非標的化NPで処置したマウスを含む)は、ループス腎炎に特徴的な糸球体細胞過形成及び増殖性変化、ならびに腎疾患スコアの悪化に関連するIgG沈降を示した。
【0249】
要約すると、マウスにおける狼瘡発現を抑制するのに十分なほどin vivoでCD4+及びCD8+ Treg細胞の両方を増殖させることができるNPを開発した。抗CD2/CD4抗体でコーティングすると、NPは、CD4+及びCD8+T細胞の両方に結合して、両方の細胞型を、狼瘡を有していないマウスにおいて、及び狼瘡を有するBDF1マウスにおいて、in vivoで増殖させることができ、その結果、抗dsDNA自己抗体レベルが、後者では免疫複合体糸球体腎炎が低下する。
【0250】
いくつかの寛容誘発戦略では、抗DNAを含む病原性自己抗体の産生を抑制するループスTreg細胞の能力を増強する。これらには、Treg細胞の誘導及び増殖、またはCD4+及びCD8+ Tregの両方を誘導する寛容原性ペプチドの投与が含まれる(Zheng et al.,2005;La Cavaet et al.,J Immunol,2004;173:3542-8;Singh et al.,J Immunol,2007;178:7649-57;Kang et al.,J Immunol,2005;174:3247-55;Sharabi et al.,J Immunol,2008;181:3243-51;Scalapino et al.,PLoS One,2009;24:e6031)。ヒトSLEにおけるCD8+ Tregの機能改善が疾患の寛解と関連していることは知られているが、SLEにおけるCD8+ Tregの免疫療法の可能性は十分に検討されていない(Suzuki et al.,J Immunol,2012;189:2118-30;Zhang et al.,J Immunol,2009;183:6346-58)。IL-2及びTGF-βは、CD8+細胞がTregになるように誘導することができ(Hirokawa et al.,J Exp Med,1994;180:1937)、ヒト化マウスにおいて防御活性を有する(Horwitz et al.,Clin Immunol,2013;149:450-63)。BDF1マウスの狼瘡様疾患を抑制するために、ex vivoで誘導されたCD4+及びCD8+ Tregの両方を、IL-2及びTGF-βと併用した場合、その治療効果は、マウスをCD4+ Treg単独で処置した場合よりもはるかに強力であり、ループス自己免疫の抑制におけるCD8+ Tregの重要な役割を示している(Zheng et al. J Immunol,2004;172:1531-9)。
【0251】
機構的に、観察された抗CD2抗体と抗CD4抗体の相互作用は、相互に排他的ではない2つの可能性を示している:1)標的細胞へナノスケール試薬と共に抗体を投与することにより、多価性がもたらされ(すなわち、標的に抗体の複数のコピーが結合することにより、結合力が増加し、したがって薬理学的効果が高まる)、2)IL-2及びTGF-βの標的化された近位放出により、Tregの局所的増殖が促進される。これに関連して、NPから放出される封入剤は、標的細胞からナノスケールの距離内で最も効果的である。
【0252】
細胞界面の「平坦化」は、粒子との相互作用について以前に数学的にモデル化されており、細胞-粒子界面におけるサイトカイン蓄積の大きさが有意に増大することが示されている(Labowsky et al.,Nanomedicine,2015;11:1019-28;Labowsky et al.,Chem Eng Sci,2012;74:114-123;Steenblock et al.,J Biol Chem,2011;286:34883-92)。この「放出後のパラクリン作用」現象は、抗CD2及び抗CD4抗体を介した標的化、したがってライゲーションにより、粒子とT細胞をナノスケールのリガンド受容体距離内に近づけ、高い有効性で細胞に作用することができるサイトカインの局所濃度を増加させることができることを示唆している(McHugh et al.,Biomaterials,2015;59:172-81)。この現象は人工抗原提示の系で検証されており、NPに封入されたIL-2が1000倍高濃度の可溶性IL-2と同等のT細胞刺激効果を有することが示された。さらに、NPは、内在性の潜在型TGF-βを活性型に変換することができる局所的な酸性微小環境を作り出し、これにより、NP内のTGF-β貯蔵量が枯渇した後でも、Tregの増殖を延長する際にIL-2を増強する可能性がある。総合すると、これらの特徴は、微量の用量で局所レベルでサイトカインを送達し、高用量に関連する毒性を軽減し、その一方で高い生物活性を維持する、ナノ粒子送達系の使用における利点を示す。
【0253】
CD2はNK細胞でも発現するため、狼瘡様症候群の重症度に対するNK細胞枯渇の影響を測定した。記号は、マウスの様々な群を表す(群あたりn=6)。エラーバーは、平均値±SEMを示す。
図1Bは、処置後の指定の時点での末梢CD4+ Treg(
図1B)及びCD8+ Treg(
図1C)の割合を示す。
図1B及び1Cは、NK細胞の枯渇により、IL-2及びTGF-βを充填し、抗CD2/CD4抗体で修飾されたNPによって誘導されるCD4+及びCD8+ Tregの増殖が減少することを示している。空のNPとサイトカインを充填したNPの比較において、
*P<0.05及び
**P<0.05、NK細胞を枯渇させたマウス(抗アシアロGM1、a-asGM1)または枯渇させなかったマウスの比較において、§P<0.04。これらの研究により、NK細胞がCD4及びCD8 Tregの増加をサポートし、寛容原性NPの防御効果に密接に関与していることが明らかになった。
図1Dは、
図1B~Cのマウスについて示された時点でのタンパク尿を示す。NK細胞の枯渇は、NPの防御効果を消失させるだけでなく、腎疾患を有意に悪化させた(NK細胞を枯渇させたサイトカイン充填NPで処置したマウス(aaGM1)と枯渇させなかったマウスとの比較にいて、
**P<0.005)。これらの結果は、NK細胞が、BDF1マウスにおけるNPの寛容原性活性を調節することを示している。
【0254】
要約すると、抗CD2/4でコーティングされたNPの治療効果はNK細胞に依存していた。NK細胞の枯渇は、Tregの増加とその防御効果を阻害するだけでなく、疾患の重症度も増加させた。これらの結果は、防御的なNK細胞の役割に関するさらなる研究を促した。NKは、細胞傷害特性に加えて免疫調節特性も有する)。NK細胞は、細胞表面に高レベルのCD2分子を発現する。抗CD2は、NK細胞を刺激してTGF-βを産生させ(Ohtsutka and Horwitz,J Immunol 160:2539-45,1998)、TGF-βを介したB細胞による抗体産生を阻害することができる。抗CD2でコーティングされたaAPCは、可溶性抗CD2よりもはるかに持続的な効果を有する可能性がある。したがって、これらのaAPCは、強力な抑制性の調節性NK細胞を誘導し、維持させる可能性がある。
【0255】
実施例5:BDF1マウスをループス腎炎から防御する際の、標的化寛容原性人工抗原提示ナノ粒子(aAPC)によって誘導されるTGF-β依存性NK細胞の役割。
材料及び方法:
BDF1マウスは、前述の実施例と同じである。
【0256】
NPを、コーティングされないまま(対照)とするか、または実施例4に示される実験の継続として、ビオチン化抗CD2抗体及びビオチン化抗CD4抗体で修飾した(クローンGK1.5、Thermo Fisher Scientific)。当初、それらにはIL-2とTGF-βが充填されていた。しかしながら、抗CD2がNK細胞によるTGF-βの産生を誘導することができるため、後の実験では抗CD2のみをコーティングし、IL-2のみを充填したNPを使用した。
【0257】
標準プロトコルに従って、1×108個のDBA/2脾細胞をBDF1マウスに移入することにより、8週齢において、狼瘡様疾患を誘発した。DBA/2脾細胞の移植後、個々のBDF1マウスにビヒクル(対照として)またはIL-2/TGF-βもしくはIL-2を充填した1mg PLGA NPを腹腔内(i.p.)注射により投与した。以前と同様に、NP投与のプロトコルは、以下のとおりであった:0日目、3日目、6日目、9日目、12日目、及び19日目。
【0258】
一連の実験において、100μlのNK枯渇抗アシアロGM1または対照ウサギ血清(Wako Chemicals,Richmond,VA)を4日間隔でマウスに腹腔内投与した。FITC標識抗NK1.1抗体(クローンPK136、Thermo Fisher Scientific)を使用したフローサイトメトリーによって、90%を上回るNK枯渇の効力が評価された。循環免疫細胞のフローサイトメトリー、ならびに血清抗dsDNA抗体(Alpha Diagnostic Intl.,San Antonio,TX)及びクレアチニン(Abcam,Cambridge,MA)のELISA測定を含む分析のために、眼窩後採血によって得られた血液を使用して週ごとにマウスをモニタリングした。タンパク尿は、Albustixストリップ(Siemens Diagnostics,Irvington,NJ)を使用して測定した。一連の実験では、100μgの抗TGF-μg抗体(クローン1D11.16.8、TGF-βの3つのアイソフォームすべてに対する中和抗体(15.2時間の循環中半減期を有する))または同量のアイソタイプ対照抗体(クローンP3.6.2.8.1)(いずれもNovus Biologicals,Centennial,CO)を、0日目から2週間にわたって、個々のマウスに1日おきに腹腔内投与した。マウスを用いたすべての実験は、Institutional Animal Research Committeeによって承認された。
【0259】
フローサイトメトリー:末梢血単核球(PBMC)または脾細胞を標準手順に従って単離し、単一細胞懸濁液を赤血球溶解後の表現型分析に使用した。Fcブロッキング後、NK1.1(FITC標識)またはH-2Kb/H-2Db(PE標識)に対する抗マウス抗体(クローン28-8-6、Biolegend,San Diego,CA)、またはアイソタイプ対照抗体を染色に使用した。FACSCalibur(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences,San Jose,CA)でデータ取得した後、FlowJo(商標)ソフトウェア(BD,Franklin Lakes,NJ)を使用してデータ解析を実施した。
【0260】
siRNAトランスフェクション及びリアルタイムPCR:siRNAトランスフェクションのプロトコル。簡潔に述べると、autoMACS(Miltenyi Biotec,Auburn,CA)のNK Cell Isolationキットを使用して単離した未処理のNK細胞を、12ウェルプレートで10%ウシ胎仔血清を含有する完全培地に播種し、その24時間後に、陽性対照としてGAPDH siRNAと、マウス、ラット、またはヒトの遺伝子配列と有意な配列類似性を有しない陰性対照siRNAも含むSilencer siRNA Transfection IIキットを使用して、マウスTgfb1に対するSilencer Select siRNA(Thermo Fisher Scientific)を移入した(Silencer siRNA Transfection IIキット)。siPORTアミン形質移入薬をOptiMEM(登録商標)培地(Thermo Fisher Scientific)で希釈し、追加の対照として単独で使用するか、インキュベート前に10nMのsiRNA(Tgfb1または対照)と室温で30分間混合した。選別されたNK細胞をsiRNA複合体でトランスフェクトした後、BDF1マウスに移入した。養子移入の前にsiRNAトランスフェクションの効率を制御するために、少量のアリコートを、全RNAの単離のためにTRIzol(商標)試薬(Thermo Fisher Scientific)で溶解した。100ngのRNAを、記載されているプライマーとプローブの組み合わせを使用して、Thermo Fisher ScientificのワンステップRT-PCR試薬と共に使用した。相対定量のために、全RNAを使用して各プライマー及びプローブセットの標準曲線を作成した。GAPDHは、各実験セットで内在性対照として使用した。すべての試料は、2つ組で実行した。
【0261】
統計解析:統計解析は、GraphPad Prismソフトウェア(バージョン5.0)を使用して実施した。パラメトリック検定は、スチューデントt検定を使用して実施し、ノンパラメトリック検定は、データが正規分布していない場合に使用した。0.05未満のP値を、有意であるとみなした。
【0262】
結果
NK細胞は、ナノ粒子で処置したBDF1狼瘡マウスにおいて増殖し、宿主由来である
【0263】
図2A~2Dは、IL-2及びTGF-βを充填したCD2標的化NPでの処置後、狼瘡様疾患を有するBDF1においてNK細胞が用量依存的増殖を示すことを実証している。対照は、IL-2及びTGF-βを充填した非コーティングNP及び空の非コーティングNPであった。
図3Aは、個々の未処置BDF1マウス(「非SLE」、四角)、またはIL-2及びTGF-βを封入した異なる用量のNPで処置した狼瘡BDF1マウス(丸 空のNP、三角 5mg、菱形 10mg、逆三角 20mg)におけるPBMC中の循環NK細胞の割合を示す。
図2B及び2Dは、同じ処置を受けたマウスにおけるNK細胞の総数を、平均+SEと共に示す。空のNPで処置したSLE BDF1マウスとの比較におけるP=
*<0.005、
**0.0005。
【0264】
図3は、NPでの処置後にBDF1狼瘡マウスにおいて増殖するNK細胞が宿主由来であることを示す(H-2Kb+)。増殖したNK細胞集団が宿主(BDF1マウス)に由来するのか、ドナー(DBA/2 マウス)に由来するのかを理解するために、フローサイトメトリーを使用して、増殖したNK細胞上のH-2分子の表面発現を評価した。レシピエントBDF1狼瘡マウスの親のハプロタイプは、H-2b(C57BL/6)及びH-2d(DBA/2)であるため、DBA/2マウスから移入されたH-2d脾細胞は、抗H-2b抗体で染色されない。したがって、H-2b NK細胞は、宿主由来のもののみでなければならない。フローサイトメトリー分析からは、NP投与により2週間でH-2b(宿主)NK細胞の数が増加し、4週間でさらに増加したことが示された(
図2)。NPを投与しなかったBDF1マウスでは、循環 H-2b細胞の増加も、H-2dドナーNK細胞の増加もなかった。したがって、NP処置BDF1狼瘡マウスにおけるNK細胞の増殖は、宿主由来NK細胞の(相対及び絶対)数の増加の結果であった。
【0265】
NP媒介性のNK細胞の増殖は、BDF1マウスにおける抗dsDNA抗体の抑制及び狼瘡の疾患症状の軽減と関連する。
【0266】
狼瘡の病因における自己抗体の中心的な役割、及びNK細胞がin vitro及びin vivoでのB細胞の抗体産生を抑制することができるという発見があったことから、BDF1狼瘡マウスにおける自己抗体レベルに対するNK細胞の考えられる影響を調べた。さらに、抗CD2抗体がNK細胞によるTGF-βの産生を誘導することから、NK細胞によるこのサイトカインの産生がNPに封入されたサイトカインの代わりとなる可能性について評価した。IL-2のみを含有するNPを用いた実験では、NK細胞は、NPを投与したBDF1狼瘡マウスの自己抗体の血清レベルに顕著な影響を与えた(
図2A~2C)。
【0267】
図1E~1Gは、BDF1狼瘡マウスにおけるNK細胞の枯渇が、IL-2を充填したCD2(NK)標的化NPの防御効果を無効化し、また、血清抗dsDNA自己抗体レベルの増加と関連していたことを示す。
図1E~1Gは、IL-2を充填したCD2(NK)標的化NPによるBDF1マウスの処置が抗DNA自己抗体の抑制と関連していることを示す。抗アシアロGM1の投与によるこれらのマウスからのNK細胞の枯渇は、NPの防御効果を無効化するだけでなく、血清抗dsDNA自己抗体のレベルの増加にも関連している。記号:丸 NPSなしだがPBMCあり、四角 空の非標的化NP、三角 NK標的化NPS、ならびに黒三角 NK標的化NPS及び抗アシアロGM1(抗dsDNAレベル(吸光度)に対してプロットした)。個々のマウス及び群の平均値のモニタリング結果を、SLEの誘導(時間0)後の0週目(
図1E)、2週目(
図1F)、及び4週目(
図1G)に報告する。
*P<0.05、
**P<0.01。
【0268】
図4Aは、CD2(NK)標的化NPで処置したBDF1マウスのループス腎炎からの防御がNK細胞に依存することを示す。
図4Aは、NK細胞の枯渇がBDF1狼瘡マウスのタンパク尿を加速することを示している。0日目(SLEの誘導)から2週間にわたって、4日ごとに100μlの抗アシアロGM1を投与することにより、NK細胞を枯渇させた。マウス(群あたりn=6)をSLEの誘導後8週間モニタリングした。データは、平均値+SEを示す;NK枯渇抗アシアロGM1の存在下または非存在下で、NK細胞に標的化されたNPを投与したBDF1マウスの4週目と6週目における比較、及び空の非標的NPを投与したマウスとNK細胞を枯渇させたマウスの4週目における比較で、
*P<0.01。
【0269】
BDF1狼瘡マウスにおける腎臓の症状に対して有益な効果を有するTGF-β依存性NK細胞の同定
【0270】
NK細胞は、2つの主要な群に分けることができる。ほとんどはキラー細胞であるが、主にサイトカインを産生するサブセットも存在する。ほとんどは大量のインターフェロンγ(IFN-γ)を産生するが、一部にはIL-10またはTGF-βを産生するものが記載されている。TGF-βがBDF1狼瘡マウスにおける自己免疫応答の抑制に寄与するかどうかを調べるために、BDF1マウスにおけるループス腎炎に対するTGF-β阻害の効果を試験した。これらの実験での読み取り値は、血清クレアチニンレベルの測定であった。血清クレアチニンの増加は、腎臓損傷の早期指標であり、腎不全及びループス腎炎における末期腎疾患への進行を反映している。抗TGF-β抗体と共にNK標的化NPを投与したBDF1狼瘡マウスと、無関係な対照抗体を投与したマウスとの比較により、TGF-βの阻害が血清クレアチニンレベルの有意な増加と関連していることが示された(
図4B)。NK細胞の関与する役割は、抗アシアロGM1でNK細胞を枯渇させたBDF1狼瘡マウスにおける血清クレアチニンの上昇の発見によって確認された(
図4B)。抗アシアロGM1抗体と抗TGF-β抗体の組み合わせが血清クレアチニンレベルに影響を及ぼさなかったという発見は、共通のメカニズムを示唆していた(
図4B)。
【0271】
NK細胞がBDF1マウスを腎疾患から防御するTGF-βの供給源である可能性を試験するために、マウスをNK標的化NPで処理し、次いでループス腎炎を発症しているマウスへの養子移入のために選別した。一部のNK細胞のTGF-β産生能力は、siRNA技術によって無効化された。対照では、スクランブルsiRNAを転写させた。TGF-βが十分な2.5×10
6個のNK細胞をBDF1狼瘡マウスに養子移入すると、血清クレアチニンレベルは上昇せず、マウスは腎疾患から防御された(
図4C)。同数のGF-β欠損(TGF-β siRNA)NK細胞を投与したBDF1マウスには防御は存在しなかった(
図4C)。まとめると、これらの結果は、BDF1マウスにおけるNK細胞の疾患防御効果がTGF-β依存性であることを示している。
【0272】
実施例6:aAPCによるヒトCD4+及びCD8+ Tregの誘導のための条件の確立
材料及び方法
PLGAナノ粒子の調製:ポリ乳酸-コ-グリコール酸(PLGA)ナノ粒子(NP)を上記のように調製した。調製後、物理的特性、封入品質、及び放出速度の検査を通じて、NPを特性評価した。動的光散乱により、NPは、245±2nmの平均±SD流体力学的直径を有し、多分散性指数が低いことが判明し、これは、比較的狭い粒度分布を有する均一なNP集団であることを示している。DMSOを使用してNPを破壊した後、ELISAによってサイトカインの封入を測定し、また、サイトカイン標準を使用して標準曲線を作成したが、すべてのウェルに、5%容量/容量のDMSO及び適切な濃度の空のNPが含まれるように補充した。NPには、平均±SDで、NP1mgあたり7.4±0.4ngのTGF-β及び1.9±0.1ngのIL-2が含まれていた。細胞標的化については、PBSで希釈したNPを、使用前に、関連するビオチン化標的化抗体(抗CD4、抗CD8、またはCD3)と共に、2μg抗体/mg NPの濃度比で、10分間インキュベートした。
【0273】
ヒト末梢血単核球(PBMC)の単離:ヒトPBMCを、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心分離によって健康な成人ボランティアのヘパリン添加静脈血から調製し、移入実験のために新鮮に使用するか、またはU底ウェルプレートにおいて、完全AIM V(商標)培地(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)中で、0.5×106/ウェルの濃度で、5日間培養した。ヒト献血者が関与するすべてのプロトコルは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のIRBによって承認された。いくつかの実験では、PBMCを、抗ヒトCD3/CD28 DYNABEADS(登録商標)(Thermo Fisher Scientific)またはIL-2(100U/ml)及びTGF-β(5ng/ml)または抗TGF-β(1D11)(すべてR&D Systems,Minneapolis,MN製)と共に培養した。in vitro抑制アッセイは、標準プロトコルに従って実施した。Miltenyi Biotec CD4+CD25+CD127dim/- Regulatory T Cell IsolationキットIIを使用して、製造元の説明書に従って、ネガティブ選択によって純度>95%に単離されたCD4+CD25- T細胞は、同じキットを使用して単離されたTreg(陽性画分)との3日間の共培養においてレスポンダー細胞とした。培養上清を、ELISA(R&D Systems)によりIFN-γ含有量について分析した。分析の16時間前に3H-チミジン(1μCi/ウェル)を添加した後、液体シンチレーションカウンターで増殖を評価した。
【0274】
フローサイトメトリー:ヒトPBMCまたは磁気ビーズで選別された細胞を、以下のFITC、PE、PerCPまたはAPCをコンジュゲートした抗ヒト抗体を用いて、標準手順に従って染色した:CD4(RPA-T4)、CD8(RPA-T8)、CD25(MEM-181)、CD127(eBioRDR5)、FoxP3(PCH101)、またはアイソタイプ対照。すべての抗体は、Thermo Fisher Scientificから入手した。FACSCalibur(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences,San Jose,CA)においてデータを取得し、FlowJo(商標)ソフトウェア(BD,Franklin Lakes,NJ)を使用して分析した。
【0275】
マウス:ヒト-マウス異種移植片対宿主病(GvHD)モデル。この疾患は、ヒトPBMCの移入後にレシピエントNOD/scid/IL2r共通γ鎖-/-(NSG)マウスにおいて発症する。NSGマウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から購入し、マイクロアイソレーターケージ内で特定の病原体フリー条件下で飼育し、オートクレーブ処理した餌と滅菌水を自由摂取させた。107個の新鮮なヒトPBMCをインスリン注射器内で200μlのPBSに再懸濁し、8~12週齢の個々の無調整NSGマウスに、尾静脈を介して静脈内注射した。マウスには、抗CD3(OKT3、Thermo Fisher Scientific)で修飾された1.5mgのIL-2/TGF-βを充填したNPの静脈内投与(個別に)も行い、これは、ヒトPBMCを移入した日に開始した:0、3、6、9、12日目。対照マウスには、上記のNP処置マウスと同じ条件下で、コーティングされていない空のNPまたはPBSを投与した。実験は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のInstitutional Animal Committeeのガイドラインに従って実施した。無気力及び/または毛づくろいの欠如、運動性の低下または多呼吸と併発して前かがみの姿勢を発症した動物を安楽死させ、殺処分時に生存のエンドポイントを記録した。以下の5つのパラメータのそれぞれを、存在しない場合は0、存在する場合は1として評価する検証済みのスコアリングシステムを使用して疾患をモニタリングした:1)初期体重の>10%を超える体重減少、2)前かがみの姿勢、3)皮膚病変(斑状脱毛症)、4)毛並みの悪化、5)下痢。死亡したマウスは、実験終了までに合計スコア5の判定を受けた。末梢血(PBMCを分離するためのフローサイトメトリー用)及び血漿を0日目、4日目、14日目及び50日目に採取した。ヒトIgGの血漿濃度をELISA(Thermo Fisher Scientific)によって測定した。組織学的評価のために、PBMCの移入後50日目に、肺、肝臓、及び結腸を回収した。組織をホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、切片をヘマトキシリン/エオシンで染色した。
【0276】
統計解析:統計解析は、GraphPad Prismソフトウェアバージョン5.0を使用して実施した。パラメトリック検定は、スチューデントt検定を使用して実施し、ノンパラメトリック検定は、データが正規分布していない場合に使用した。動物のカプランマイヤー生存曲線の差異をログランク検定によって解析した。0.05未満のP値を有意であるとみなした。
【0277】
結果:aAPC NPによるヒトT細胞へのサイトカインのパラクリン送達は、機能的Tregの誘導及び増殖をもたらす
【0278】
NPが、T細胞共受容体CD4またはCD8の関与なしに、すなわち、TCR刺激の存在下でヒトT細胞に寛容原性サイトカインを送達する寛容原性aAPCとして作用することによって、寛容原性T細胞プログラムを誘導できるかどうかを調査した。寛容原性サイトカインを充填し、抗CD3/28抗体でコーティングされたNPは、CD4+(
図5A)及びCD8+ヒトTreg(
図5B)をin vitroで効率的に増殖させ、NPがヒトT細胞からTregへの分化を誘導可能な無細胞aAPCとして作用し得ることが示された。
【0279】
NPによるT細胞へのIL-2及びTGF-βの送達により、ヒトT細胞からTregへの分化が可能になることが判明したため、プロセスに対するTGF-βの相対的な寄与を、NPを介したTreg増殖におけるその役割を評価することによって評価した。抗TGF-β抗体または無関係の対照抗体を含む並行培養物において、IL-2/TGF-βを充填し、抗CD3/28で修飾したNPと共にインキュベートしたヒトPBMCから誘導され、増殖させたTregの数を比較した。
【0280】
図6Aは、TGF-βをナノ粒子に封入する必要がなかったというさらなるエビデンスを示す。IL-2のみを充填したNPは、CD4+及びCD8+ Foxp3+ Tregを誘導した。エフェクターT細胞の増殖及び炎症促進性サイトカインの産生をin vitroで抑制する能力によって示されるように、aAPC NPで誘導されたTregは機能性であった(
図6B)。
【0281】
実施例7:ヒト抗マウス移植片対宿主病からヒト化NSGマウスを防御するaAPC NPによるin vivoでのTregの誘導。
in vitroでのTregの抑制活性は、in vivoでの抑制活性と相関しない可能性がある。同種移植片拒絶におけるTregの既知の防御効果を利用して、aAPC NPの免疫療法の可能性をヒト抗マウスGvHDのマウスモデルで試験した。
【0282】
材料及び方法
免疫不全NOD SCID(NSG)マウスをこれらの実験にも使用した。NSGマウスを6匹ずつの2つの群に分けた。両方の群に107個のヒトPBMCを静脈内投与した。ヒトT細胞は、致死的なヒト抗マウス移植片対宿主病を引き起こす。マウスの一方の群には、IL-2及びTGF-βを含有し、抗CD3で修飾されたaAPC NP(黒丸)を投与し、もう一方の群には空のNP(白丸)を投与した。これらは、ヒトPBMCの移植日から開始して0、3、6、9、12日目に投与した。
【0283】
結果:
図7A~7Cは、IL-2を封入したT細胞標的化NPを投与したマウスが、CD4+(
図7A)及びCD8+ Treg(
図7B)の両方のin vivo増殖を有し、空のNPのみを投与した対照マウスとは異なり、ヒトIgGが増加しなかった(
図7C)ことを示している。
【0284】
図8A~8Cは、aAPC-NP処置マウスの有効性を示す。aAPC NPで防御されたマウスは、NPを投与しなかったマウスまたは空のNPを投与したマウスと比較して、ヒトPBMCの移植後に体重が減少せず(
図8A)、疾患スコアが減少し(
図8B)、生存期間が延長された(
図8C)。aAPCを投与したマウスは、GVHDの皮膚症状を発症しなかった(
図8D)。最後に、aAPC NPを投与したNSGマウスの肺、肝臓、及び結腸の組織病理学は、対照マウスと比較して有意な防御を示した(
図8E)。
【0285】
実施例8:外来固形臓器移植の拒絶反応を予防するaAPC NPによるin vivoでのTregの誘導。
材料及び方法
PLGAナノ粒子の調製:実施例6と同じ
【0286】
ヒト末梢血単核球(PBMC)の単離:実施例6と同じ
【0287】
フローサイトメトリー:実施例6と同じ
【0288】
結果:慢性腎不全に罹患している49歳の男性が、ハプロタイプ一致の兄弟から腎臓を移植された。移植前に行われた混合リンパ球反応により、レシピエントのCD4+T細胞がドナーの非T細胞の存在下で増殖したことが明らかになった。移植の3日前に、IL-2を充填し、抗CD2コーティングされたPLGA NPを投与した。移植当日にもう1回投与し、この投与を3週間にわたって3日ごとに繰り返した。移植当日、手術に伴う炎症反応を最小限に抑えるために50mgのソルメドロールを投与した。その後、ステロイドを数日間で減薬し、週の終わりに中止した。NPの投与後、末梢血中のCD4+及びCD8+ Foxp3+ Treg及びNK細胞の数が有意に増加した。移植された腎臓は移植後も完全に機能し、その後の血清クレアチニンの上昇は最小限にとどまり、正常に戻った。拒絶反応エピソードを治療するために、共刺激分子遮断薬やシロリムスを導入する必要はなかった。移植後にレシピエントのCD4+T細胞をin vitroでドナーの非T細胞で刺激したところ、増殖応答は認められなかった。しかしながら、レスポンダー細胞からCD4+CD25+ Tregを枯渇させると、増殖応答が戻った。血清クレアチニンの上昇を予防するために必要な継続的な刺激とサイトカインを提供するには、毎週~隔週での皮下NPが必要であった。
【0289】
実施例9.ヒトCD4及びCD8 Tregの生成に必要なTGF-βを局所環境において誘導する、IL-2のみを含有するナノ粒子寛容原性抗原提示細胞(aAPCa)
材料及び方法
ヒト末梢血単核球(0.5×106/ウェル)をU底96ウェルプレートで培養した。細胞を、IL-2またはIL-2とTGF-β(50ug/ml)を含有し、抗CD2、抗CD3、または抗CD2/3 NPでコーティングされたNPで刺激した。一部のウェルには、抗TGF-β LAP 10ug/mlが含まれていた。対照は、刺激されていないPBMCであった。細胞を5日間培養し、CD25及びFoxp3について染色されたCD4及びCD8細胞の割合を測定した。
【0290】
統計解析は、GraphPad Prismソフトウェアバージョン5.0を使用して実施した。
結果:抗CD2、抗CD3、または両方の組み合わせのいずれかでコーティングされたNPは、CD4及びCD8+細胞によって発現されるCD25とFoxp3を増加させた。IL-2のみを含有するNPは、IL-2及びTGF-βを含有するNPよりもFoxp3を増加させた。しかしながら、抗TGF-βの添加によりこの効果は無効化された。グラフは、4回の別々の実験の平均を示している。NPの添加に起因するFoxp3の増加は、抗TGF-βの効果p<0.05と同様に、有意であった p<0.05(
図9A、9B)。IL-2のみを封入した抗CD3(Fab’)2修飾NPもTregを誘導することができた。
図10A、10Bは、これらのaAPCがCD4及びCD8Tregを顕著に増加させたことを示している(
*p<0.01)。したがって、IL-2のみを充填した抗CD2修飾NPと抗CD3修飾NPは両方とも、CD4及びCD8 Foxp3+ Tregの生成に必要なTGF-βを局所環境において誘導することができる。
【0291】
これらの実施例は、PLGA NPが、機能的ヒトTreg及びマウスTregのin vitro及びin vivo増殖のための無細胞aAPCとして使用することができることを実証している。APCがMHC/抗原複合体を介してTCRに結合し、Tリンパ球に共刺激シグナルを提供すると、細胞の分化と機能の活性化が起こる。合成プラットフォームとして使用される、aAPCによるこのプロセスの複製によって、APCとT細胞の間の自然な相互作用を再現することができ、T細胞へのシグナル伝達と、T細胞へのIL-2のパラクリン送達(aAPCと同様の)を含む適応免疫応答の開始が可能になる。寛容原性免疫応答を促進するためにペイロードを封入したaAPCを使用すると、有意な免疫療法の潜在的効果が得られる。PLGAが生体適合性であり、臨床現場で良好な安全特性を示しているという事実からは、このアプローチの臨床への急速な技術移転の可能性がさらに想定される。
【0292】
aAPC NPを用いたヒトTregの増殖には、標的化されていない作用を担うサイトカインによる全身処理によるTregのin vivo誘導に伴う有害な影響を制限するという利点があったが、これらのNPは、抗原特異性の構成要素を含んでいなかった。抗CD28抗体と共にペプチド/MHCを発現する常磁性鉄-デキストランNPとは異なり、ポリクローナル及び非抗原特異的Tregの誘導は、SLEなどの病態において有利である可能性があり、その場合、慢性的な全身性自己免疫応答が複数の自己抗原を標的にしなければならず、ポリクローナルTregが疾患を抑制する。
【0293】
この戦略は、Tregベースのアプローチの治療的使用に関して複数の用途を有し得る。一般に、十分な数のTregをin vivoに注入する前に、末梢血中を循環する少数のTregをex vivoで増殖させる必要がある。これには、多大なコストと特定の技術要件が伴う。さらに、ex vivoで増殖させたTregは時間の経過とともに不安定になる可能性があるため、患者に対して繰り返しの治療が必要になることがよくある。さらに、自己免疫患者の慢性炎症は、エフェクターT細胞に移入されたTregの表現型の逆転を促進し、時間の経過と共にTregの効力が低下する可能性がある。その代わりに、aAPC NPは、ヒト化マウスで示されているように、長期にわたる有効性を伴う持続的なTreg活性を提供することができ、自己免疫環境における炎症誘発性応答を抑制するヒトTregのin vivoでの増殖のための新規免疫療法様式を表している。
【0294】
まとめると、すべての免疫媒介性障害は、組織損傷を引き起こす異常な免疫細胞を特徴とする。これらの細胞は、それらを抑制するはずの調節性細胞の制御から逃れている。記載されている新規無細胞抗原提示細胞ナノ粒子は、in vivoで、T細胞、またはT細胞とNK細胞を標的とする無細胞抗原提示細胞(aAPC)として機能する。aAPCは、それらに刺激とサイトカインを提供し、細胞が機能的な調節性細胞になるように誘導する。これらのaAPCを継続的に使用すると、これらの調節性細胞が増殖し、異常な免疫細胞の制御を取り戻す数に達することが可能になる。この戦略は、免疫系を「リセット」して免疫障害を終結させる。さらに、この新規アプローチにより、重篤な副作用を伴う現在の免疫抑制剤や生物学的薬剤の使用が回避される。
【0295】
実施例10:外来臓器移植の拒絶反応を予防または治療するための、IL-2及びTGF-βを含有するナノ粒子
MHC不適合外来臓器の移植の2週間前に、レシピエントに、IL-2及びTGF-βを含有し、抗CD2で修飾されたナノ粒子を3日ごとに投与し、ドナーと適合するMHCペプチドを皮下注射する。これらの手順により、ドナーとレシピエントの間の混合リンパ球反応で示され得る同種異系抗原特異的Tregが生成される。レシピエントのT細胞は、ドナーAPCの存在下では増殖しない。Tregの存在は、ドナーPBMCのCD25+細胞を枯渇させることによって示される。この除去により、レシピエントT細胞がドナーAPCに応答できるようになる。このドナーの同種抗原に対するT細胞の非応答性についてのエビデンスによれば、臓器移植片は最小限の免疫抑制でレシピエントにおいて生存するはずである。移植後、皮下MHCペプチドを繰り返し投与すると、寛容を維持する同種抗原特異的Tregの数が増加する(Zheng SG et al.International Immunol.18:279-89)2006。免疫抑制剤の併用は必要ない。臓器移植後の血清IL-2受容体の毎週の測定では、移植拒絶反応が発生している場合は増加が示され、さらなるナノ粒子及びMHCペプチド治療の必要性が示される(Rasool R.Int.J.Organ Transplantation Med 6:8-13,2015)。
【0296】
他に定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、開示された発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識し、または確認することができるであろう。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【国際調査報告】