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特表2023-554640慢性炎症状態において終末糖化産物受容体(RAGE)を標的とするための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-28
(54)【発明の名称】慢性炎症状態において終末糖化産物受容体(RAGE)を標的とするための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/12 20060101AFI20231221BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 31/21 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231221BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20231221BHJP
   A23G 3/42 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
A61K31/12
A61P29/00
A61K31/21
A61P43/00 121
A61P3/10
A61P9/00
A61P25/28
A61P35/00
A61P25/02
A61P27/02
A23L33/10
A23G3/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537120
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 US2021063676
(87)【国際公開番号】W WO2022133011
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】63/126,920
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501394435
【氏名又は名称】サミ-サビンサ グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】マジード ムハンメド
(72)【発明者】
【氏名】ナガブシャナム カリアナム
(72)【発明者】
【氏名】ムンドクール ラクシュミ
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B014GB06
4B014GB07
4B014GK12
4B014GL03
4B018LB01
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD08
4B018ME03
4B018ME06
4B018ME10
4B018ME14
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB14
4C206DB06
4C206DB56
4C206KA01
4C206KA04
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA16
4C206ZA20
4C206ZA21
4C206ZA33
4C206ZA36
4C206ZB11
4C206ZB26
4C206ZC35
4C206ZC42
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、慢性炎症状態の対象において終末糖化産物受容体(RAGE)発現の阻害に使用するための、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物及び方法を開示する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。本発明は、対象における慢性炎症状態の管理における上記組成物の使用の開示も含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性炎症状態の対象において終末糖化産物受容体(RAGE)発現の阻害に使用するための組成物であって、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、20~50質量%BDMC、10~25質量%デメトキシクルクミン(DMC)及び30~50質量%クルクミンを含み、組成物中の合計クルクミノイドが、20~95質量%の範囲である、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記組成物が、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
RAGE発現の阻害が、炎症マーカーの発現の低下、酸化的ストレスの低下、及び糖化レベルの緩和をもたらす、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
RAGE発現の前記阻害が、1~10μg/mLの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又はその併用によって得られる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
RAGE発現の阻害が、RAGE発現レベルの低下をもたらす50μg/kg~100mg/kgの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又はその併用による処置によって得られる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記炎症マーカーが、TNF-α、IL-6及びIL-1βからなる群から選択され、前記炎症マーカー発現の低下が、50μg/kg~100mg/kgの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又は併用による処置によって得られる、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記酸化的ストレスが、50μg/kg~100mg/kgの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又は併用による処置によって対象において低下する、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
グリカンレベルの軽減が、50μg/kg~100mg/kgの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又は併用による処置によって得られる、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
慢性炎症状態が、II型真性糖尿病、心臓血管疾患、アルツハイマー病、がん、末梢神経障害、感覚消失及び失明からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記対象が哺乳動物である、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記組成物が、安定化剤、生体利用性エンハンサー並びに酸化防止剤、薬学的又は栄養補助的又は薬用化粧品的に許容される賦形剤及びエンハンサーを更に含み、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、グミ剤、散剤、懸濁剤、乳剤、チュアブル剤、キャンディ剤又は食用品の形態で経口投与される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
対象において慢性炎症状態の治療的管理に使用するための組成物であって、前記組成物が、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む、組成物。
【請求項14】
前記組成物が、20~50質量%BDMC、10~25質量%デメトキシクルクミン(DMC)及び30~50質量%クルクミンを含み、組成物中の合計クルクミノイドは、20~95質量%の範囲である、請求項13に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記組成物が、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む、請求項13に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
慢性炎症状態の前記治療的管理が、RAGEを阻害する、RAGE発現を緩和する、炎症マーカーの発現を低下させる、酸化的ストレスを低下させる、及び糖化レベルを緩和することによって得られる、請求項13に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
RAGEの前記阻害が、1~10μg/mLの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又はその併用によって得られる、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
RAGE発現の軽減が、RAGE発現レベルの低下をもたらす50μg/kg~100mg/kgの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又はその併用による処置によって得られる、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
前記炎症マーカーが、TNF-α、IL-6及びIL-1βからなる群から選択され、前記炎症マーカー発現の低下が、50μg/kg~100mg/kgの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又は併用による処置によって得られる、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
前記酸化的ストレスが、50μg/kg~100mg/kgの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又は併用による処置によって対象において低下する、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
グリカンレベルの軽減が、50μg/kg~100mg/kgの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又は併用による処置によって得られる、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
慢性炎症状態が、II型真性糖尿病、心臓血管疾患、アルツハイマー病、がん、末梢神経障害、感覚消失及び失明からなる群から選択される、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
前記組成物が、安定化剤、生体利用性エンハンサー並びに酸化防止剤、薬学的又は栄養補助的又は薬用化粧品的に許容される賦形剤及びエンハンサーを更に含み、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、グミ剤、散剤、懸濁剤、乳剤、チュアブル剤、キャンディ剤又は食用品の形態で経口投与される、請求項13に記載の使用のための組成物。
【請求項24】
前記対象が哺乳動物である、請求項13に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、2020年12月17日に出願の米国特許仮出願第63126920号の優先権を主張するPCT出願であり、当該仮出願の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を使用して慢性炎症状態の対象において終末糖化産物受容体(RAGE)発現を阻害するのに使用するための組成物及び方法に一般に関する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。本発明は、上の組成物を使用して対象において慢性炎症状態を治療的に管理するステップも含む。
【背景技術】
【0003】
タンパク質の非酵素的酸化及び糖化反応は、終末糖化産物(AGE)の形成をもたらす。進行性腎不全、アテローム性動脈硬化症、糖尿病及び加齢は、AGEが形成される状態のいくつかである。AGEは、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、変形性骨関節炎及び透析関連合併症などの炎症状態において増大し、慢性炎症性疾患との固有の関連が示唆されている。これら慢性炎症状態は、アテローム性動脈硬化症の加速及びその合併症のリスクを増大させうる。逆に、低酸素及び虚血性再灌流傷害は、AGEを急速に発生させ、炎症性疾患の合併症を更に増大させうる。高血糖又は糖尿病は、血流中の血中グルコースレベルの上昇をもたらし、終末糖化産物(AGE)の形成を促進する状態である。細胞は、グルコースに過度に曝露されるとグルコース誘導性炎症及び他の関連する病理学的障害を生じるが、その機序はまだ確立されていない。また、既存の仮説は、組織におけるAGEの沈着が臓器不全に至ることを示唆している(Lin et al. Curcumin inhibits gene expression of receptor for advanced glycation end-products (RAGE) in hepatic stellate cells in vitro by elevating PPARγ activity and attenuating oxidative stress, British Journal of Pharmacology 2212-2227 (2012))。AGEは多様な巨大分子であり、中でもカルボキシメチルリジン(CML)、カルボキシエチルリジン(CEL)、ペントシジン、グルコスパン、グリオキサールリジン二量体及びグリコール酸リジンアミドであり、タンパク質及び脂質の非酵素的糖化プロセスによって形成される。AGEは、受容体と相互作用することによって細胞性効果を誘導する。終末糖化産物受容体(RAGE)は、様々な内因性リガンドに結合する遍在性の膜貫通型受容体である。AGEとRAGEとの相互作用は、複雑な細胞内シグナル伝達カスケードを開始し、RAGE自体の上方調節と伴に活性酸素種(ROS)の産生、免疫炎症効果、細胞増殖又はアポトーシスをもたらす。いくつかの研究は、RAGE活性とがん、糖尿病、心臓血管疾患及び神経変性などの病的状態との相関を発見した。AGEは、良性で無反応性でもありうるが、いくつかの研究は、RAGE活性とがん、糖尿病、心臓血管疾患及び神経変性などの病的状態との相関を発見し、AGEは、II型真性糖尿病、心臓血管疾患、アルツハイマー病、がん、末梢神経障害、感覚消失及び失明などの慢性疾患における合併症の原因となる場合がある(Rehman et al. Effect of non-enzymatic glycosylation in the epigenetics of cancer, Semin Cancer Biol. Dec 2:S1044-579X(20) 30257 (2020);(Laura et al. The AGE-RAGE Axis: Implications for Age-Associated Arterial Diseases, Frontiers in Genetics, 8 , 1-10 (2017))。AGE-RAGE結合に起因する作用機序は、NADPHオキシダーゼの刺激を導き、活性酸素種(ROS)の産生を増大させ、それにより腫瘍壊死因子(TNF-α)、転写因子核因子-κB(NF-κB)の発現、サイトカインの放出、炎症性発現、及び細胞性シグナル伝達の活性化を調節する。RAGE活性化の間に生成されるROSは、タンパク質酸化の供給源であり、タンパク質カルボニル種を形成する。「一次タンパク質カルボニル化」反応において、他のアミノ酸の中でも、リジン、アルギニン、プロリン及びトレオニン残基の側鎖の直接酸化は、反応性カルボニル種(RCS)と呼ばれる、DNPHで検出可能なタンパク質産物を産生する(Suzuki et al. Protein carbonylation. Antioxid Redox Signal. 2010;12(3):323-325)。これに反して、糖の反応性カルボニルは、タンパク質、脂質又は核酸のアミノ基と結合してシッフ塩基を生成し、そのシッフ塩基は、アマドリ産物を再編成する。一連のゆっくりした反応において、アマドリ反応、シッフ塩基及びマイヤール反応は、AGEを最終的に形成する。アマドリ化合物は、スーパーオキサイドアニオン及び過酸化水素などのROSを放出しながら、反応性α-ジカルボニルを含む異なる終末糖化産物に更に分解しうる。シッフ塩基及びアマドリ付加物の酸化的分解によって並びにグルコース自己酸化の間に形成されるα-ジカルボニルは、ストレッカー型反応によってLysの酸化的脱アミノを生じ、3-デオキシグルコソン(3dg)及びメチルグリオキサル(Mg)の形成を導きうる(Ros et al. Protein Carbonylation (Principles, Analysis, and Biological Implications) Diversity of Protein Carbonylation Pathways., 48-8 (2017))。α-ジカルボニル化合物は、脂質過酸化、グルコースの自己酸化又はグルコース代謝の間にin vivoでも生成される。グリオキサール(GO)及びメチルグリオキサル(MGO)とタンパク質中のリジン及びアルギニン残基との反応は、カルボキシメチルリジン(CML)、カルボキシエチルリジン(CEL)及びアルグピリミジン(ArgP)などのAGEの形成を引き起こす。したがって、AGE、タンパク質カルボニルの形成、及びRAGEとそれらとの相互作用並びに下流の酸化的ストレス及び炎症は、密接に連関している。RCS及びAGEの定常状態レベルの増大は、カルボニルストレスを生じ、正常な代謝を妨げる。RCSは、特に活性酸素種(ROS)と比較すると、半減時間及び安定性が比較的高い遍在性の化合物である。RCSは、低い分子的嵩、非荷電構造及び比較的高い安定性のため、生体膜を横断し、末梢循環を通って拡散し、血液脳関門を横断することも可能である。メチルグリオキサル、グリオキサール、3-デオキシフルクトース、グルコソン及び3-デオキシグルコソンのような糖化誘導体RCSは、還元炭水化物より約20000倍反応性である。アルツハイマー病(AD)、関節リウマチ、糖尿病、敗血症、慢性腎不全及び呼吸窮迫症候群は、タンパク質カルボニル化が増大する状態のいくつかである(Isabella et al. Protein carbonyl groups as biomarkers of oxidative stress, 329(1), 23-38 (2003))。AGEの形成は、高血糖、酸化的ストレス、加齢及び炎症下で加速される(Laura et al. The AGE-RAGE Axis: Implications for Age-Associated Arterial Diseases, Frontiers in Genetics, 8 , 1-10 (2017))。AGEは、良性で無反応性でもありうるが、AGEは、II型真性糖尿病、心臓血管疾患、アルツハイマー病、がん、末梢神経障害、感覚消失及び失明などの慢性疾患における合併症の原因となる場合がある(Rehman et al. Effect of non-enzymatic glycosylation in the epigenetics of cancer, Semin Cancer Biol. Dec 2:S1044-579X(20) 30257 (2020))。糖化、RAGE発現及びタンパク質カルボニル化の減少は、酸化的及びカルボニルストレスを最終的に減少させることができ、慢性炎症状態に有益でありうる。RAGEは、いくつかの疾患に対する潜在的バイオマーカーとして、これら状態を管理するための阻害剤の開発にとって魅力的な標的である。RAGEの循環レベルの変化が、糖尿病合併症、心臓血管疾患及びアルツハイマー病の患者において同定されてきた。RAGEは、がん、心臓血管疾患及び神経変性の療法に対する潜在的標的として調査されてきた(Salvatore et al. Targeting the Receptor for Advanced Glycation End products (RAGE): A Medicinal Chemistry Perspective, 60(17), 7213-7232 (2017))。
【0004】
RAGEの役割をアテローム性動脈硬化症病変形成に関連付け、炎症誘発性経路を促進することにより、糖尿病媒介性アテローム性動脈硬化症を示唆する研究が多数存在する。研究では、糖尿病性RAGE-/-/apoE-/-マウスにおいて糖尿病とリンクするAGEの増大は、マクロファージ蓄積、サイトカイン及びケモカイン発現が減少した炎症応答とならんで有意に減少した(Paavonen et al. Receptor for Advanced Glycation End Products (RAGE) Deficiency Attenuates the Development of Atherosclerosis in Diabetes, Diabetes, 57, 2461-2469 (2008))。これは、中和抗体又は可溶性RAGEを使用したRAGE活性化の阻害を示す多数の研究によっても支持された(Park et al. Suppression of accelerated diabetic atherosclerosis by the soluble receptor for advanced glycation end products. Nat Med 4, 1025-1031 (1998);Bucciarelli et al. RAGE blockade stabilizes established atherosclerosis in diabetic apolipoprotein E-null mice. Circulation 106, 2827-2835 (2002);Sakaguchi et al. Central role of RAGE-dependent neointimal expansion in arterial restenosis. J Clin Invest 111, 959 -972 (2003))。
【0005】
実験的糖尿病性ラットにおいてRAGEシグナル伝達の効果の減弱、AGE蓄積の阻害及びRAGE発現、におけるクルクミンの役割が報告されている(Lin et al. Curcumin inhibits gene expression of receptor for advanced glycation end products (RAGE) in hepatic stellate cells in vitro by elevating PPARγ activity and attenuating oxidative stress, British Journal of Pharmacology 166, 2212-2227 (2012);Yu et al. Curcumin Alleviates Diabetic Cardiomyopathy in Experimental Diabetic Rats, PLOS One 7(12) 1-11))。しかし、市販のクルクミンは、3種のクルクミノイド、72~77%クルクミン、14~18%ジメトキシクルクミン及び3~5%ビスデメトキシクルクミンを含む。更に、クルクミンより大きい画分は、それを疎水性にし、そのため生体利用性及び吸収に影響を及ぼす(Pushpakumari et al. Enhancing the Absorption of Curcuminoids from Formulated Turmeric Extracts, 6(6) 2468-2476 (2015))。クルクミン、ビスデメトキシクルクミン及びデメトキシクルクミンの生物学的特性は、異なる疾患状態で変動し、最近では、特定の疾患症状の管理においてビスデメトキシクルクミン及びデメトキシクルクミンは、クルクミンと類似及びより優れた有効性を持つため多くの注目を集めている(Majeed et al., Reductive Metabolites of Curcuminoids, Nutriscience Publishers LLC, 2019)。RAGEを標的することに関連する薬理学的課題は、フィードフォワードループにおいて炎症性遺伝子の遺伝子発現を制御するだけでなく、RAGEの発現を誘導するNF-κB活性化を制御することにも関係する(Armando et al. Inhibition of RAGE Axis Signalling: A Pharmacological Challenge, Current Drug Targets, 20, 340-346, (2019))。RAGEに対して産生された遮断ペプチド及び抗体によって有望な結果が得られたが、治療用化合物としての制約のため、限定的な使用に直面した(Arumugam T et al. S100P-derived RAGE antagonistic peptide reduces tumor growth and metastasis. Clin Cancer Res. 18(16): 4356-64 (2012);Kokkola et al. Successful treatment of collagen-induced arthritis in mice and rats by targeting extracellular high mobility group box chromosomal protein 1 activity. Arthritis Rheum 48(7): 2052-8 (2003))。また、TTP488、アゼリラゴン、ピオグリタゾン、PPARγアゴニストなど、いくつかの小分子もRAGEシグナル伝達を遮断する(Salvatore et al. Targeting the Receptor for Advanced Glycation End products (RAGE): A Medicinal Chemistry Perspective, 60(17), 7213-7232 (2017);Burstein et al. Effect of TTP488 in patients with mild to moderate Alzheimer's disease. BMC Neurol.14, 12 (2014);Burstein et al. Development of azeliragon, an oral small molecule antagonist of the receptor for advanced glycation end products, for the potential slowing of loss of cognition in mild Alzheimer's disease, J Prev Alzheimers Dis 5(2): 149-54 (2018))。RAGEを標的することに関連する複雑さ及び臨床試験において化合物リストが非常に限られることを考慮すると、RAGEを標的する新規手段、特に安全で、毒性が少ない手段が必要である。
【0006】
発明の目的
20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を使用して、慢性炎症状態の対象においてRAGE発現を阻害するのに使用するための組成物及び方法を開示することが、本発明の主要な目的である。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。
本発明のなお別の主要な目的において、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を用いて、慢性炎症状態の対象においてRAGEを治療的に管理するために使用する組成物及び方法を開示する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を使用して慢性炎症状態の対象においてRAGE発現を阻害するのに使用するための方法及び組成物を包含することによって、背景に記載した前述の問題を広く解決する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。
本発明の第1の態様は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を用いて慢性炎症状態の対象においてRAGE発現を阻害するのに使用するための組成物に関する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。
本発明の更に別の態様において、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を用いて対象において慢性炎症状態を治療的に管理するのに使用するための組成物を包含する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。
本発明の別の態様において、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を用いて慢性炎症状態の対象においてRAGE発現を阻害する方法を包含する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。
本発明の別の態様は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を対象に投与する、前記対象において慢性炎症状態を処置する方法を包含する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。
本発明のより広い範囲の適用は、下記の詳細な説明から明らかになろう。しかしながら、以下の詳細な説明及び特定の例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、本発明に対する制約と解釈されるべきでないことは理解されるべきであり、使用する試料の濃度範囲の変更、クルクミノイド誘導体/類似体、BAP、実験条件、哺乳動物の選択など、様々な変更及び修飾を行うことは当業技術者の範囲内であり、この詳細な説明から本発明の精神及び範囲の十分範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】膵臓におけるRAGE発現に対する、AC3、BAP及びその併用の効果を示す図である。*P<0.05。
図2】膵臓における抗糖化効果に対する、AC3、BAP及びその併用の効果を示す図である。*P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0009】
選択した定義
別途指定がない限り、本出願に使用される用語は全て、先行技術において公知である通常の意味を保有する。本発明で使用される他の特定の少数の定義が以下で説明され、本明細書全体に適用される。別途指定がない限り、請求項は、より広い定義を提供する。
【0010】
本出願において、試料へのどんな言及も、開示された治療的効果をもたらす以下の薬剤のうちの1種又は組み合わせのいずれかを指す。本薬剤は、少なくとも20質量%のBDMCを含むクルクミノイド組成物のことを指す濃縮BDMC組成物を含む。より具体的には、AC3は、本発明に使用される好ましいクルクミノイドであり、クルクミノイドへのいずれの言及もAC3であり、AC3は、20~50質量%ビスデメトキシクルクミン、10~25質量%デメトキシクルクミン及び30~50質量%クルクミンであり、BAPとは、β-アミリンパルミチン酸のことを指す。C3複合体へのいずれの言及も、75~81%クルクミン、15~19%デメトキシクルクミン、及び2.2~6.5%ビスデメトキシクルクミンである。また、クルクミノイドとは、開示される例によってBDMC、DMC又はAC3のいずれかのことを指す。
治療的に管理する又は管理とは、本発明に開示される状態を効果的に改善する状態のことを指す。本明細書における対照に対するいずれの言及も、包含される実験及び例に対する糖尿病対照、無処置対照、メトホルミン対照のことを指す。
【0011】
本発明は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を用いて、慢性炎症状態の対象においてRAGE発現を阻害するのに使用するための方法及び組成物を一般に包含する。本発明は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を用いて対象において慢性炎症状態を治療的に管理するのに使用するための組成物も包含する。更に、本発明は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を対象に投与する、前記対象において慢性炎症状態を処置する方法であって、組成物が20~50質量% BDMC、10~25質量%デメトキシクルクミン(DMC)及び30~50質量%クルクミンを含み、組成物中の合計クルクミノイドが、20~95質量%の範囲である組成物を包含する。組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。関連する態様において、対象は哺乳動物である。
【0012】
最も好ましい実施形態において、本発明は、慢性炎症状態の対象においてRAGE発現の阻害に使用するための組成物を開示し、組成物は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む。本実施形態の別の態様において、組成物は、20~50質量% BDMC、10~25質量%デメトキシクルクミン(DMC)及び30~50質量%クルクミンを含み、組成物中の合計クルクミノイドは、20~95質量%の範囲である。本実施形態の関連する態様において、組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。関連する態様において、対象は哺乳動物である。
【0013】
本発明の別の最も好ましい実施形態において、本発明は、対象において慢性炎症状態を治療的に管理するのに使用するための組成物を開示し、組成物は、20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む。本実施形態の別の態様において、組成物は、20~50質量% BDMC、10~25質量%デメトキシクルクミン(DMC)及び30~50質量%クルクミンを含み、組成物中の合計クルクミノイドは、20~95質量%の範囲である。本実施形態の関連する態様において、組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。関連する態様において、対象は哺乳動物である。
本発明の最も好ましい別の実施形態において、本発明は、(a)慢性炎症状態の対象を同定するステップと;(b)20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を前記対象に投与するステップとを含む、慢性炎症状態の対象においてRAGE発現を阻害する方法を開示する。本実施形態の別の態様において、組成物は、20~50質量% BDMC、10~25質量%デメトキシクルクミン(DMC)及び30~50質量%クルクミンを含み、組成物中の合計クルクミノイドは、20~95質量%の範囲である。本実施形態の関連する態様において、組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。関連する態様において、対象は哺乳動物である。
【0014】
本発明の最も好ましいなお別の実施形態において、本発明は、(a)慢性炎症状態の対象を同定するステップと;(b)20質量%以上存在する濃縮ビスデメトキシクルクミン(BDMC)を含む組成物を前記対象に投与するステップとを含む、対象において慢性炎症状態を処置する方法を開示する。本実施形態の別の態様において、組成物は、20~50質量% BDMC、10~25質量%デメトキシクルクミン(DMC)及び30~50質量%クルクミンを含み、組成物中の合計クルクミノイドは、20~95質量%の範囲である。本実施形態の関連する態様において、組成物は、β-アミリンパルミチン酸(BAP)を更に含む。関連する態様において、対象は哺乳動物である。
【0015】
本発明の関連する実施形態において、慢性炎症状態の対象におけるRAGE発現の阻害は、炎症マーカーの発現を低下させ、酸化的ストレスを低下させ、糖化レベルを緩和することによって得られる。本実施形態の更なる態様において、RAGEの阻害は、1~10μg/mL、好ましくは2~8μg/mL、好ましくは4~6μg/mLの範囲から選択されるクルクミノイド、BAP又はその併用によって得られる(実施例1、表1~表3)。本実施形態の関連する別の態様において、RAGE発現の軽減は、RAGE発現の低下をもたらすクルクミノイド、BAP又はその併用によって得られる。RAGE発現は、糖尿病ラットにおいて増大した。BAPは、膵臓RAGE発現に効果が無かったが、AC3は、発現を30.3%減少させた。併用は、発現をそれぞれ44.6%及び76.7%減少させた。メトホルミンは、6.9%減少に有効であった(図1、実施例3)。本発明の本実施形態の関連する態様において、炎症マーカー(TNF-α、IL6、IL-1β)の発現の低下は、クルクミノイド、BAP又は併用による処置によって得られる。併用は、糖尿病対照と比較して1/20~1/50の低下を示し、その効果は、個々の処置と比較して、100mg/kgクルクミノイドと200μg/kg BAPを使用した場合に一層顕著であった(表5、実施例3)。本発明の本実施形態の別の態様において、対象において酸化的ストレスが低下し、クルクミノイド、BAP又はその併用によって得られた。BAPによる、糖尿病対照より1/2の低下と比較して、併用の効果は、1/3~1/4の低下とより優れていた(表6、実施例4)。本発明の本実施形態の別の態様において、グリカンレベルの軽減は、クルクミノイド、BAP又は併用による処置によって得られる。タンパク質カルボニル化による効果は、クルクミノイド又はBAPのいずれかが個々に使用された場合、高血糖対照より1/6~1/10に阻害され、併用は、1/20の変化をもたらした(図2、実施例5)。関連する態様において、対象は哺乳動物である。
【0016】
本発明の関連する実施形態において、対象における治療的効果は、50μg/kg~100mg/kgの範囲のクルクミノイド、BAPによる処置によって得られる。より好ましくは1~100mg/kg、より好ましくは50~100mg/kg、最も好ましくは100mg/kgクルクミノイドである。BAPは、50~200μg/kgの範囲、より好ましくは50μg/kg、最も好ましくは50μg/kg又は200μg/kgのいずれかから選択される。クルクミノイドとBAPの併用は、50μg/kg~100mg/kgの範囲、より好ましくは50μg/kg又は200μg/kgのいずれかのBAPと100mg/kgクルクミノイドから選択される。本発明の関連する実施形態において、慢性炎症状態は、II型真性糖尿病、心臓血管疾患、アルツハイマー病、がん、末梢神経障害、感覚消失及び失明からなる群から選択される。関連する態様において、対象は哺乳動物である。
【0017】
本発明の関連する別の実施形態において、組成物は、安定化剤、生体利用性エンハンサー並びに酸化防止剤、薬学的又は栄養補助的又は薬用化粧品的に許容される賦形剤及びエンハンサーを更に含み、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、グミ剤、散剤、懸濁剤、乳剤、チュアブル剤、キャンディ剤又は食用品の形態で経口投与されるように適切に処方されている(実施例7)。投与に適した製剤を考え出すことは、当技術に熟達した者の十分範囲内である。
本発明の別の実施形態において、AC3、C3、又は個々のクルクミノイド組成物を使用するDPP4(ジペプチジルペプチダーゼ4)、α-グルコシダーゼ、及び抗糖化の阻害を開示する(表7~表10)。
本発明の他の修正及び変更は、前述の開示及び教示から当業技術者にとって明らかであろう。このように、本発明の特定の実施形態しか、本明細書には特に記述されていないが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、多数の修正が行われてもよいことは明らかであろう。
【実施例
【0018】
(実施例1)
抗糖化-in vitroで終末糖化産物を防止する方策
糖化とは、タンパク質、脂質又は核酸のアミノ基と糖のアルデヒド若しくはケト基とが関係する非酵素的グリコシル化反応であり、終末糖化産物(AGE)の形成をもたらす(Yamagishi et al. Pathologic role of dietary advanced glycation end products in cardiometabolic disorders, and therapeutic intervention, Nutrition, 32(2), 157-65 (2016))。糖の反応性カルボニルは、タンパク質、脂質又は核酸のアミノ基と結合してシッフ塩基を生成し、そのシッフ塩基は、アマドリ産物を再編成する。一連のゆっくりした反応において、アマドリ反応、シッフ塩基及びマイヤール反応は、AGEを最終的に形成する。in vivoで糖化は緩慢であるが、糖化産物の効果は持続的である。AGEの形成を防止する試験物質の効果を、in vitroで評価した。
【0019】
前に記述した通り、抗糖化活性を評価した(Sero et al. Tuning a 96-Well Microtiter Plate Fluorescence-Based Assay to Identify AGE Inhibitors in Crude Plant Extracts)。簡潔には、96ウェル黒色マイクロプレートにおいて様々な試料濃度の10μLを、25mg/mLウシ血清アルブミン40μL及び150mg/mL D-リボース50μLに添加した。D-リボースと緩衝液を対照として用いた。混合物を含有するプレートを37℃で24時間インキュベートした。糖化産物を、BMG FLUOstar Optimaマイクロプレートリーダーを使用して390/460nmのEx/Emで蛍光強度を測定することによって検出した。AGEの形成[タンパク質(BSA)と糖(リボース)の間の非酵素反応]を、濃度依存的様式でAC3によって阻害した(表1)。BAPは、AGE形成の弱い阻害剤であった(表1)。AC3とBAPの併用は、in vitroで糖化の阻害を相乗的に増大させる可能性がある(表2)。
【0020】
【表1】

【表2】
【0021】
(実施例2)
糖尿病の例を利用する生理的状態におけるAGE及びRAGEの阻害。
AGEとRAGEの相互作用効果及びその病理学的帰結を研究するために、食餌誘導性糖尿病をモデルとして使用した。
ウィスターラット(150g)に高脂肪及びフルクトース食餌(HFFD)与えて2型糖尿病(T2D)を誘導した。HFFDは、空腹時高血糖、食事前後の高インスリン血症、インスリン抵抗性、耐糖能異常及び脂質異常症を含めた長期代謝障害に関連する糖尿病の発症を誘導する。HFFDの動物は、線維症、炎症、高レプチン血症及び内皮細胞機能不全を伴う肝臓脂肪症など、T2Dに関連する合併症を示す。
【0022】
ラットに、HFFDとともにAC3(100mg/kg)、BAP(200μg/kg)、BAP+AC3(200μg+100mg/kg)、BAP+AC3(50μg+100mg/kg)及び陽性対照として100mg/kgメトホルミンを90日間同時投与した(表3)。器官を、実験の終わりに採取して、RAGE発現、酸化的ストレス及び炎症に対する補助剤の効果を評価した。
【表3】
【0023】
(実施例3)
膵臓におけるRAGE発現
DNAを、trizol法を使用して膵臓試料から抽出した。膵臓組織を液体窒素中でホモジナイズし、続いてtrizol抽出及びDNAse処理して、あらゆる微量のDNAを除去した。第1鎖cDNAを、オリゴdTプライマー及びSuperscript III逆転写酵素[cDNA合成キット、Invitrogen(商標)]を使用してRNA試料から調製した。定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)を、製造業者の指示にしたがってライトサイクラー96を使用して、SYBR Green I蛍光色素を用いて実行した[Light Cycler(登録商標)FastStart DNA Master SYBR Green I、Roche]。分析に使用したプライマーを、表4に提供する。ベータアクチン遺伝子を、ハウスキーピング遺伝子として使用した。各試験試料中の標的遺伝子の遺伝子発現を、比較Ct(ΔΔCt)法を使用する相対定量によって決定した。
【0024】
RAGE発現は、糖尿病ラットにおいて増大した。BAPは、膵臓RAGE発現に効果が無かったが、AC3は、発現を30.3%減少させた。併用は、発現をそれぞれ44.6%及び76.7%減少させた。メトホルミンは、6.9%減少に有効であった(図1)。
【0025】
【表4】

【表5】

【0026】
炎症性サイトカインの発現は、対照と比較して糖尿病性ラットにおいて増大を示した。200ug/kgのBAPは、膵臓においてサイトカイン発現を減少させるのに有効でなかった、一方でAC3は最小限の活性があった。それらの併用は、炎症性サイトカインの発現レベルを減少させるのに非常に有効であった(表5)(p<0.05)。
【0027】
(実施例4)
酸化的ストレスの評価
組織中の酸化的ストレスのレベルを、ヒドロキシル、ペルオキシル及び他の活性酸素種(ROS)活性を測定する2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセテート(DCFDA)発蛍光性色素を使用することによって推定した。簡潔には、組織ホモジェネートのアリコート(10μL)を、終濃度10mMになるDCFDAエタノール溶液150μLと混合した。暗所において室温で30分間インキュベーションした後、蛍光を488及び520nmの励起及び発光波長で測定した。蛍光が高いほど、酸化的ストレスは高い。酸化的ストレスは対象において低下し、クルクミノイド、BAP又はその併用によって得られる。BAPによる、糖尿病対照より1/2の低下と比較して、併用の効果は、1/3~1/4の低下とより優れていた(表6)。
【0028】
【表6】
【0029】
(実施例5)
膵臓におけるタンパク質カルボニル化及びAGE-タンパク質カルボニル化
タンパク質のカルボニル化は、酸化的ストレス関連反応による、タンパク質におけるアルデヒド、ケトン又はラクタムなどの反応性カルボニル部分の導入と定義される。したがって、用語「カルボニルストレス」は、反応性カルボニル種の産生又は細胞代謝の妨害によるそれの異常な蓄積について記述するものと示唆される。他の酸化的修飾と比較して、タンパク質カルボニルは固有の安定性を有し、より長期間血液中を循環することができ、広範な下流の機能的帰結を有する。糖尿病の様な慢性疾患、肺疾患、腎不全及びアルツハイマー病は、カルボニル化タンパク質の帰結の一部である。AGEは別として、高血糖はタンパク質カルボニル化を増大させうる。糖尿病において、高血糖を伴う活性酸素種(ROS)レベルの増大は、グルコースの酸化から得られるグリオキサール及びメチルグリオキサル(MG)などの反応性カルボニル含有中間体の形成をもたらす。したがって、タンパク質カルボニル化合物を減らすことが、慢性疾患を管理する新規の機序として追求されている。
【0030】
タンパク質カルボニル(PC)の蛍光定量的NBDH(7-ヒドラジノ-4-ニトロベンゾ-2,1,3-オキサジアゾール)アッセイ
本アッセイは、ヒドラゾン形成を介するNBDHとカルボニルとの反応に基づき、高度に蛍光性の産物を形成する(Vidal et la., 2014)。すべてのタンパク質含有試料又は生体試料をPBS中に2倍希釈した。希釈したタンパク質試料100μLを、黒色96ウェルマイクロプレートに入れた。そこへ、NBDH溶液[PBS中に200μM NBDH、1M HClを用いて(pH7.4)にした]100μLを添加し、穏やかに振盪しながら37℃で20分間インキュベートした。蛍光を、480nmで励起し、560nmで測定した。タンパク質カルボニル化による効果は、クルクミノイド又はBAPのいずれかが個々に使用された場合、高血糖対照より1/6~1/10に阻害され、併用は、1/20の変化をもたらした(図2)。AC3とBAPの併用は、個々の処置より大きな効果を示した。
【0031】
(実施例6)
DPP4、α-グルコシダーゼ及び糖化に対する活性
ビスデメトキシクルクミン(AC3)組成物は、DPP4酵素(表7)、α-グルコシダーゼ酵素(表8)を阻害する効果により高血糖に対する管理を呈し、個々のクルクミノイド、C3複合体、AC3複合体は、用量依存的様式で抗糖化及び抗DPP4の効果を呈する。AC3複合体は、抗糖化に対して個々のクルクミノイドより優れた阻害剤であり(表9)、クルクミンは、DPP4に対してAC3と同程度に有効であった(表10)。
【0032】
【表7】

【表8】

【表9】

【表10】
【0033】
(実施例7)
AC3及びβ-アミリンパルミチン酸を含有する製剤
組成物は、薬学的/栄養補助的に許容可能な賦形剤、アジュバント、希釈剤、安定化剤、分散可能なゴム、生体利用性エンハンサー又は担体とともに処方され、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、グミ剤、散剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤、キャンディ剤若しくは食用品の形態で経口投与される。
【0034】
関連する態様において、生体利用性エンハンサーは、ピペリン[BioPerine(登録商標)]、ケルセチン、ニンニク抽出物、ショウガ抽出物及びナリンギンの群から選択される。関連する別の態様において、安定化剤は、ロスマリン酸、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、メタ重亜硫酸ナトリウム、没食子酸プロピル、システイン、アスコルビン酸及びトコフェロールからなる群から選択される。更に関連する別の態様において、分散可能なゴムは、寒天、アルギン酸塩、カラギーナン、アラビアゴム、グアーガム、ローカストビーンガム、こんにゃくゴム、キサンタンガム及びペクチンからなる群から選択される。
【0035】
表11~表15は、ビスデメトキシクルクミンを含有する機能性食品製剤の実例を提供する
【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】

上の製剤は、単なる実例であり、前記目的を意図する上の活性成分を含有するあらゆる製剤が、同等と見なされることになる。
【0036】
本発明の他の修正及び変更は、前述の開示及び教示から当業技術者にとって明らかであろう。このように、本発明の特定の実施形態しか、本明細書には特に記述されていないが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、多数の修正が行われてもよいことは明らかであり、添付の特許請求の範囲と組み合わせてのみ解釈されるべきである。
図1
図2
【配列表】
2023554640000001.app
【国際調査報告】