(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-28
(54)【発明の名称】発泡気孔を有する非拘束型制振金属板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20231221BHJP
B62D 25/04 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
B32B15/08 D
B62D25/04 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537349
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 KR2021017830
(87)【国際公開番号】W WO2022139218
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0179434
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジン-テ
(72)【発明者】
【氏名】カン、 デ-ギュ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ヤン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジュン-ファン
【テーマコード(参考)】
3D203
4F100
【Fターム(参考)】
3D203CA07
3D203CA65
3D203CB24
4F100AA20C
4F100AB01A
4F100AB03A
4F100AK15C
4F100AK25B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA01C
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4F100DE04C
4F100DJ01C
4F100JH02
4F100YY00C
(57)【要約】
発泡気孔を有する非拘束型制振金属板が提供される。
本発明の非拘束型制振金属板は、金属板と、上記金属板上に形成されたアクリル系樹脂を含む有無機前処理層と、上記前処理層上に形成された発泡樹脂層と、を含み、上記発泡樹脂層は、自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:40~80%、可塑剤:5~40%、発泡剤:0.1~10%、オキシド系の架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、
前記金属板上に形成されたアクリル系樹脂を含む有無機前処理層と、
前記前処理層上に形成された発泡樹脂層と、を含み、
前記発泡樹脂層は、
自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:40~80%、可塑剤:5~40%、発泡剤:0.1~10%、オキシド系の架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含む、発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項2】
前記発泡剤は、粉末発泡剤又は発泡カプセルであることを特徴とする、請求項1に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項3】
前記粉末発泡剤は、アゾジカーボンアミド系の粉末発泡剤であることを特徴とする、請求項2に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項4】
前記発泡カプセルは、熱可塑性プラスチックセル構造の中に発泡剤が入っている直径1~20μmの発泡カプセルであることを特徴とする、請求項2に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項5】
前記発泡樹脂層は、その平均直径が5~100μmの発泡気孔を有することを特徴とする請求項1に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項6】
前記前処理層の厚さは、0.1~2μmの範囲を有することを特徴とする、請求項1に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項7】
前記発泡樹脂層の厚さは、5~200μmの範囲を有することを特徴とする、請求項1に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項8】
前記金属板は、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、及びアルミニウム板のうち選択された一つであることを特徴とする、請求項1に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項9】
前記オキシド系架橋剤は、ジクミルペルオキシドであることを特徴とする、請求項1に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項10】
前記球状のシリカは、平均直径1~30μmの範囲のサイズを有することを特徴とする、請求項1に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項11】
前記可塑剤は、ビス2エチルヘキシルアジペート(DEHA)、ジメチルアジペート(DMAD)、モノメチルアジペート(MMAD)、ジオクチルアジペート(DOA)、ジブチルセバケート(DBS)、ジブチルマレエート(DBM)、ジイソブチルマレエート(DIBM)及びトリメチルフェンタニルジイソブチレートのうち選択された一つであることを特徴とする、請求項1に記載の発泡気孔を有する非拘束型制振金属板。
【請求項12】
素地金属板を準備する段階と、
前記素地金属板上にアクリル系樹脂を含む有無機前処理溶液を塗布した後、60~150℃で硬化させて厚さ0.1~2μmの前処理層を形成する段階と、
前記形成された前処理層上に、自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:40~80%、可塑剤:5~40%、発泡剤:0.1~10%、オキシド系の架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含む発泡樹脂溶液を5~200μmの厚さで塗布した後、200~220℃の温度範囲で発泡させることにより発泡樹脂層を形成する段階と、を含む、発泡気孔を有する非拘束型制振金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡気孔を有する非拘束型制振金属板の製造に関し、より詳細には、金属板のコーティング塗膜に、発泡によって形成された気孔を用いて振動制御、騒音遮断の効果をもたせる発泡気孔を有する非拘束型制振金属板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に制振鋼板は、2枚の鋼板の間に樹脂を積層して製造される拘束型複合鋼板の形態と、1枚の鋼板に樹脂をコーティング又は積層した非拘束型形態の鋼板によって騒音や振動を遮断する役割を果たす非拘束型制振鋼板とに大別される。上記非拘束型の場合、2層の構造で製造工程が簡単である一方、拘束型に比べて相対的に制振の効果が低下し、制振鋼板としての性能に劣るため、ほとんどの制振鋼板は拘束型の構造を有している。
【0003】
すなわち、拘束型と非拘束型の制振効果を奏する形態には相違があり、拘束型の制振鋼板の場合は、鋼板に加わる外部の振動や騒音エネルギーを、鋼板の間に積層された樹脂のせん断変形によって熱エネルギーとして吸収し、振動や騒音を減少させる役割を果たす。これに対し、非拘束型の制振鋼板の場合には、鋼板に加わる外部の振動や騒音エネルギーを、鋼板にコーティングされた樹脂の伸縮変形によって振動エネルギーを熱エネルギーとして吸収し、振動や騒音を減少させる役割を果たす。
【0004】
このような制振鋼板は、冷蔵庫、洗濯機、空気清浄機のように、騒音が多く発生する家電製品の外板、自動車の騒音の主原因であるエンジン部分のオイルパン、ダッシュパネルなどのような自動車部品、精密機器、建築資材など、非常に多様な使用分野において活用可能である。
【0005】
ところが、従来の制振鋼板は、鋼板にポリエチレンのような熱可塑性高分子樹脂をサンドイッチパネルの形で挿入するか、又は液状の高分子樹脂を塗布して制振性能を実現していた。すなわち、代表的には、ポリエステル(特開昭51-93770号公報)、ポリアミド(特開昭56-159160号公報)、エチレン/α-オレフィン、架橋ポリオレフィン(特開昭59-152847号公報)等の高分子樹脂を利用して制振性能を確保することが知られているが、前述の騒音が多く発生する家電製品や自動車などの適用には限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、制振性能の向上のために単に高分子樹脂の粘弾性性質のみを利用するものではなく、発泡気孔の効果を活用して高分子樹脂の粘弾性性質と発泡気孔の振動/騒音の遮断効果を通じて、制振性能及び遮音性能を実現し、製品の振動/騒音を最小化することができる発泡気孔を有する非拘束型制振金属板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
なお、本発明で成し遂げようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に限定されず、言及していないさらに他の技術的課題は、以下の記載から本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に明確に理解されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、
金属板と、
上記金属板上に形成されたアクリル系樹脂を含む有無機前処理層と、
上記前処理層上に形成された発泡樹脂層と、を含み、
上記発泡樹脂層は、
自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:40~80%、可塑剤:5~40%、発泡剤:0.1~10%、オキシド系の架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含む発泡気孔を有する非拘束型制振金属板に関する。
【0009】
上記発泡剤は、粉末発泡剤又は発泡カプセルであってもよい。
【0010】
上記粉末発泡剤は、アゾジカーボンアミド系の粉末発泡剤であってもよい。
【0011】
上記発泡カプセルは、熱可塑性プラスチックセル構造の中に発泡剤が入っている直径1~20μmの発泡カプセルであってもよい。
【0012】
上記発泡樹脂層は、その平均直径が5~100μmの発泡気孔を有することができる。
【0013】
上記前処理層の厚さは0.1~2μmの範囲を有することができる。
【0014】
上記発泡樹脂層の厚さは5~200μmの範囲を有することができる。
【0015】
上記金属板は、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板及びアルミニウム板のうち選択された一つであってもよい。
【0016】
上記オキシド系架橋剤はジクミルペルオキシドであってもよい。
【0017】
上記球状のシリカは、平均直径1~30μmの範囲のサイズを有することができる。
【0018】
上記可塑剤は、ビス2エチルヘキシルアジペート(DEHA)、ジメチルアジペート(DMAD)、モノメチルアジペート(MMAD)、ジオクチルアジペート(DOA)、ジブチルセバケート(DBS)、ジブチルマレエート(DBM)、ジイソブチルマレエート(DIBM)及びトリメチルフェンタニルジイソブチレートのうち選択された一つであってもよい。
【0019】
また、本発明の他の側面は、
素地金属板を準備する段階と、
上記素地金属板上にアクリル系樹脂を含む有無機前処理溶液を塗布した後、60~150℃で硬化させて厚さ0.1~2μmの前処理層を形成する段階と、
上記形成された前処理層上に、自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:40~80%、可塑剤:5~40%、発泡剤:0.1~10%、オキシド系の架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含む発泡樹脂溶液を5~200μmの厚さで塗布した後、200~220℃の温度範囲で発泡させることにより発泡樹脂層を形成する段階と、を含む、発泡気孔を有する非拘束型制振金属板の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0020】
上述のような構成の本発明は、熱可塑性樹脂及び可塑剤を含む主樹脂に発泡剤を混合して発泡樹脂層を有する金属板に形成することにより、制振特性に優れた非拘束型制振鋼板を効果的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施例による非拘束型制振金属板の断面概略図である。
【
図2】本発明の一実施例による非拘束型制振金属板の制振性能を示す図である。
【
図3】本発明において発泡樹脂層に含有された発泡気孔粒子が制振性能に与える影響を示す図である。
【
図4】制振性能を測定するModal評価法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について説明する。
【0023】
本発明は、発泡気孔をコーティング塗膜に適用して金属板の制振性能を向上させる技術であって、具体的に、発泡気孔を騒音/振動発生源に露出させ、発生する騒音/振動が気孔から遮断されるように、金属板の制振性能を向上させることを特徴とする。
【0024】
このような本発明の非拘束型制振金属板は、
図1に示すように、金属板と、上記金属板上に形成されたアクリル系樹脂を含む有無機前処理層と、上記前処理層上に形成された発泡樹脂層と、を含み、上記発泡樹脂層は、自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:40~80%、可塑剤:5~40%、発泡剤:0.1~10%、オキシド系の架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含む。あるいは、上記粉末発泡剤の代わりに、熱可塑性プラスチックセル構造の中に発泡剤が入っている直径1~20μmの発泡カプセルを発泡剤として用いることもできる。
【0025】
まず、本発明の非拘束型制振金属板は、発泡樹脂層が形成される金属板を含む。本発明において、上記金属板は、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、及びアルミニウム板のうち選択された一つであってもよく、上記金属板の厚さは0.2~2.0mmであってもよい。
【0026】
本発明の制振金属板はさらに、上記金属板上に形成されたアクリル系樹脂を含む有無機前処理層を含む。
【0027】
本発明では、金属板の耐食性と、金属板と制振塗膜との塗膜密着性を強化するために、上記金属板上にアクリル系樹脂を含む有無機前処理層を形成する。
【0028】
本発明では、このような前処理層の厚さを0.1~2μmの範囲に制御することが好ましい。もし上記前処理層の厚さが0.1μm未満の場合、後述するポリビニルクロライド制振樹脂層との密着性が不足するのに対し、2μmを超える場合には、過剰な塗膜層により経済的に有利でないためである。
【0029】
そして、本発明の制振金属板は、上記前処理層上に形成された発泡樹脂層を含み、上記発泡樹脂層は、自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:40~80%、可塑剤:5~40%、発泡剤:0.1~10%、オキシド系の架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含んで形成されている。以下において、「%」は、特に断らない限り「重量」を意味する。
【0030】
まず、本発明の発泡樹脂層は、自体重量%で、高分子樹脂として熱可塑性ポリビニルクロライドを40~80%の範囲で含み、このとき、その含量は、作業性と塗膜の厚さに応じて調節することができる。もし上記ポリビニルクロライド樹脂の含量が40%未満であると、樹脂含量が不足して制振性能の効果が低下する可能性があるのに対し、80%を超えると、粘度が高くなり過ぎて作業性に不利である可能性がある。
【0031】
一方、ポリビニルクロライド樹脂を用いる場合、溶液の柔軟性と作業性のために可塑剤を必ず含む必要があり、本発明の発泡樹脂層は5~40%の範囲内で可塑剤を含むことができる。もし上記可塑剤の含量が5%未満であると、ポリビニルクロライド溶液の粘度が高すぎて作業性が低下するという問題点があり、一方、40%を超える場合には、粘度が過度に低くなったり、塗膜がソフトになり過ぎて制振鋼板塗膜としての保持が困難になる可能性がある。
【0032】
本発明では、上記可塑剤として、ビス2エチルヘキシルアジペート(DEHA)、ジメチルアジペート(DMAD)、モノメチルアジペート(MMAD)、ジオクチルアジペート(DOA)、ジブチルセバケート(DBS)、ジブチルマレエート(DBM)、ジイソブチルマレエート(DIBM)、トリメチルフェンタニルジイソブチレートなどが使用可能であり、特にその種類に限定されない。
【0033】
また、本発明の発泡樹脂層は、塗膜が発泡する場合、塗膜の硬度が弱くなることがあるため、塗膜の硬度向上のために球状のシリカを1~10%の範囲で含むことができる。もし球状のシリカ含量が1%未満であると、塗膜の硬度向上効果を期待し難く、10%を超えると、塗膜が過度に硬くなって加工時に問題点が生じる可能性があり、経済的にも不利となるおそれがある。
【0034】
本発明は、このような球状のシリカのサイズに特に制限はないが、好ましくは、その平均直径を1~30μmの範囲に制限する。もし、上記シリカの平均直径が1μm未満の場合、溶液の粘度上昇を起こしたり、硬度の向上に役立たない。一方、30μmを超えると、溶液の安定性が低下したり、発泡気孔の形成に制約が生じるおそれがある。
【0035】
そして、本発明の発泡樹脂層は、発泡によって分子樹脂に気孔を形成するために、発泡剤を含み、このとき、粉末形態の発泡剤を使用するか、又はカプセル型の発泡剤を使用することもできる。
【0036】
上記粉末形態の発泡剤を用いる場合、その発泡剤の含量を0.1~10%の範囲に管理することが好ましい。もし上記発泡剤の含量が0.1%未満である場合、発泡剤の量が少なすぎて制振性能と遮音性能の機能発現が難しく、発泡剤の含量が10%を超える場合には、溶液製造時に溶液の粘度上昇によりコーティング作業の困難、及び溶液の価格上昇により経済的に問題が生じる可能性がある。
【0037】
このとき、粉末発泡剤の気孔形成温度は、コーティング塗膜の硬化温度に準じる200~210℃で発泡が行われる発泡剤を使用することができる。本発明において、このような粉末形態の発泡剤を用いる場合、通常、アゾジカーボンアミド系の粉末発泡剤を使用するが、これに限定されるものではない。
【0038】
一方、上述した粉末発泡剤を用いた発泡の場合、密閉された空間において、一定温度以上で発泡剤が分解して発生するガスにより高分子樹脂が発泡する現象を利用するが、コーティング製品のように、発泡すべき高分子樹脂及び溶液が、オープンされた空間では、発生したガスがコーティング樹脂の内部において保持されず、気泡を形成できずに全て消滅するため、コーティング製品の場合は使用が困難である。したがって、発泡ガスが発生して気泡を形成する際、その気孔を保持するために、ジクミルペルオキシドのようなオキシド系の架橋剤を添加し、生成されたガスが気孔を形成できるようにしなければならない。
【0039】
あるいは、本発明では、上記発泡剤として発泡カプセルを用いることができ、その一例として、熱可塑性プラスチックセル構造の中に発泡剤が入っている直径1~20μmの発泡カプセル0.1~10%を用いることもできる。発泡カプセル形態の場合、発泡剤自体が気孔を形成できる1~20μmの発泡カプセルを活用して気孔を形成する。すなわち、本発明の気孔は、塗膜を発泡させるのではなく、発泡カプセルの発泡によって塗膜に気孔を形成する方法を採択することができる。使用されたカプセル発泡剤は、1~20μmのサイズの球状の熱可塑性プラスチックセル構造の中に発泡剤が入っている形態であって、熱を受けると、まず発泡カプセルの外部のセルが軟化し、中にある発泡剤が気化して内部圧力が高くなり、マイクロカプセル全体が膨張して気孔を形成する機構である。
【0040】
そして、本発明において、上記発泡カプセルの気孔形成温度は、コーティング塗膜の硬化温度に準じる160~220℃で発泡が行われる発泡剤を制限なく用いることができ、例えば、通常のアゾジカーボンアミド系の発泡剤を用いることもできる。
【0041】
本発明では、上記架橋剤の添加量を1~4%の範囲に制限することが好ましい。もし、その添加量が1%未満であると、架橋剤としての役割が困難であり、4%を超えると、架橋度の増加により、発泡セルが形成される前に架橋される部分が発生して発泡率の低下を招くことがある。
【0042】
一方、本発明では、このとき、通常使用される発泡助剤であるZnOは使用しない。その理由は、発泡助剤を添加すると、発泡剤のガス発生温度を下げることがあり、ZnO添加時のガス発生温度が140~160℃となるが、本発明の場合のように、オープンされた空間で行われる発泡条件では、発生したガスが気孔の形成前に全て抜けないように高温でガス発生が起こるようにする必要があるためである。
【0043】
また、本発明において、上記発泡樹脂層の厚さは5~200μmの範囲に制御することが好ましい。もし、発泡樹脂層の厚さが5μm未満の場合、制振性能の効果が低下し、200μmを超えると、制振性能や遮音性能は良好であるものの、成形加工時に厚い塗膜のため、成形において困難が発生し、経済性に問題が生じる可能性がある。そして、上記発泡樹脂層は、その平均直径が5~100μmの発泡気孔を有することが好ましい。もし、上記発泡気孔の平均直径が5μm未満の場合、気孔のサイズが小さすぎて気孔の効果が得られにくく、100μmを超えると、塗膜内における気孔のサイズが大きすぎて塗膜の靭性が低下し、加工時に塗膜の物性が低下するという問題が生じる可能性がある。
【0044】
その他、本発明の発泡樹脂層は、湿潤剤、消泡剤、酸化防止剤などのような添加剤を通常のレベルで含むことができる。
【0045】
次に、本発明の非拘束型制振金属板の製造方法について説明する。
【0046】
本発明の非拘束型制振金属板の製造方法は、素地金属板を準備する段階と、上記素地金属板上にアクリル系樹脂を含む有無機前処理溶液を塗布した後、60~150℃で硬化させて厚さ0.1~2μmの前処理層を形成する段階と、上記形成された前処理層上に、自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:40~80%、可塑剤:5~40%、発泡剤:0.1~10%、オキシド系の架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含む発泡樹脂溶液を5~200μmの厚さで塗布した後、200~220℃の温度範囲で発泡させることにより発泡樹脂層を形成する段階と、を含む。
【0047】
まず、本発明では、素地金属板を準備し、このような素地金属板としては、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、及びアルミニウム板のうち選択された一つを用いることができる。
【0048】
そして、本発明では、素地金属板上にアクリル系樹脂を含む有無機前処理溶液を塗布した後、硬化させて厚さ0.1~2μmの前処理層を形成する。このとき、本発明では、上記硬化時の硬化温度を60~150℃に制限することが好ましい。もし上記硬化温度が60℃未満であると、塗膜の未硬化が発生する可能性があり、150℃を超えると、過硬化により塗膜の脆性が大きくなり、塗膜物性に問題がある。
【0049】
その後、本発明では、上記前処理層上に、上述したような組成の制振樹脂溶液(発泡樹脂溶液)を厚さ5~200μmで塗布した後、これを発泡させてその表面に発泡樹脂層が形成された制振鋼板を製造することができる。
【0050】
このとき、上記制振樹脂溶液は、各組成物を混合した後、高速攪拌機で混合して均一に分散させて製造することができる。
【0051】
そして、本発明では、上記発泡温度を200~220℃の範囲に制限することが好ましい。もし上記発泡温度が200℃未満であると、発泡剤の多くの部分に未発泡が発生して発泡効率が低下し、220℃を超えると、過発泡が発生し、発泡した気泡が消滅するという問題がある。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明する。
【0053】
(実施例1)
0.8Tの冷延鋼板を設けた。次いで、上記冷延鋼板の表面にアクリル系樹脂を含む有無機前処理溶液を厚さ1.0μmでコーティングして前処理層を形成した。その後、上記前処理層上に発泡樹脂溶液を塗布して厚さ80μmの発泡樹脂層を形成した。このとき、発泡樹脂溶液は、自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:60~80%、DEHAの可塑剤:5~40%、ジクミルペルオキシドの架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含み、ここに、アゾジカーボンアミド系の粉末発泡剤を下記表1及び表2のように、含量を異ならせてそれぞれ添加し、発泡樹脂層を有する制振鋼板を製造した。
【0054】
上記のようにして製造された各制振鋼板について、発泡剤の含量による損失係数(Loss factor)と遮音率を評価し、その結果をそれぞれ表2及び表3に示した。
【0055】
制振性能は、材料に振動が加わったときに、振動エネルギーを熱エネルギーに変換させる能力を表す量である。
図2は、本発明の一実施例による制振鋼板の制振性能を示す図であり、
図3は、本発明において、発泡樹脂層に含有された発泡気孔粒子が制振性能に及ぼす影響を示す図である。
【0056】
このような制振性能の表示量としては、内部摩擦と同じ意味の損失係数(η)を使用する。ここで、損失係数ηは、振動系が有する全振動エネルギーをE、1サイクル振動中に熱エネルギーに変換して放散されるエネルギーをΔEとするとき、下記関係式1により定義される。
【0057】
[関係式1]
η=ΔE/2πE(η≦1)
【0058】
一方、損失係数の測定方法として、
図4のモーダル(Modal)評価法を用い、モーダル評価法は振動テストの一形態であって、試験片にハンマーを用いたimpact test方法であり、試験片にimpact後に発生する振動特性を用いてloss factorを測定することで制振性能を測定する方法である。このとき、1khz以下の低周波領域と1khz以上の高周波領域の損失係数(Loss factor)の値を測定した。ちなみに、損失係数の値は大きいほど制振性能に優れる。
【0059】
また、内部振動による騒音遮断の効果を確認するために、遮音試験により遮音率を測定した。遮音試験とは、空間を分離する部材として使用される材料がどれだけ音をよく遮断できるかを評価する試験であって、性能を評価しようとする試料を2つの空間の間に置いて、両方における音源の大きさを測定して調べる。両方の空間で測定した音の強さにより、入射音のエネルギーに対する透過音エネルギーの比である透過率を計算する。表現単位は、下記関係式2のように、透過率の逆数を常用対数とした値である透過損失(Transmission Loss、以下、TL)で表す。このとき、1khz以下の低周波領域と1khz以上の高周波領域の遮音率を測定した。
【0060】
[関係式2]
TL(透過損失)=10log(1/τ)
ここで、τは透過率を示す。
【0061】
【0062】
【0063】
上記表1-2に示すように、アクリル系樹脂を含む有無機前処理層が形成された冷延鋼板上に、本発明の範囲を満たす発泡剤の粉末含量を含む発明例1-5の発泡樹脂層の場合、このような発泡剤を含まない従来例に比べて優れた損失係数と透過損失を示すことが確認できる。
【0064】
これに対し、発泡剤の含量が過小である比較例1は、既存の塗装鋼板と比較したとき、発泡の効果を期待し難い。そして、発泡剤の含量が過剰な比較例2は、発明例4-5に比べて、発泡気孔形成の飽和により、追加の添加による向上した効果を期待し難いだけでなく、過剰な発泡によりコーティング塗膜がソフトになったり、経済的にも不利になる可能性がある。
【0065】
(実施例2)
0.8Tの冷延鋼板を設けた。次いで、上記冷延鋼板の表面にアクリル系樹脂を含む有無機前処理溶液を厚さ1.0μmでコーティングして前処理層を形成した。その後、上記前処理層上に発泡樹脂溶液を塗布して厚さ80μmの発泡樹脂層を形成した。このとき、発泡樹脂溶液は、自体重量%で、熱可塑性ポリビニルクロライド樹脂:60~80%、DEHAの可塑剤:5~40%、ジクミルペルオキシドの架橋剤:1~4%、球状のシリカ:1~10%を含み、ここに熱可塑性樹脂タイプのカプセル発泡剤を、下記表3及び表4のように、含量を異ならせてそれぞれ添加し、発泡樹脂層を有する制振鋼板を製造した。
【0066】
【0067】
【0068】
上記表3-4に示すように、アクリル系樹脂を含む有無機前処理層が形成された冷延鋼板上に、本発明の範囲を満たすカプセル発泡剤の含量を含む発明例6-10の発泡樹脂層の場合、このような発泡剤を含まない従来例に比べて優れた損失係数と透過損失を示すことが確認できる。
【0069】
これに対し、発泡剤の含量が過小である比較例3は、既存の塗装鋼板と比較したとき、発泡の効果を期待し難かった。そして、発泡剤の含量が過剰な比較例4は、発明例6-10に比べて、発泡気孔形成の飽和により、追加の添加による向上した効果を期待し難いだけでなく、過剰な発泡によりコーティング塗膜がソフトになったり、経済的にも不利であった。
【0070】
上述したように、本発明の詳細な説明では、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の範疇から逸脱しない範囲内で様々な変形が可能であることは勿論である。したがって、本発明の権利範囲は、説明された実施例に限定して定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、これと均等なものによって定められるべきである。
【国際調査報告】