(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-28
(54)【発明の名称】遺伝子改変細胞追跡用ペプチドマーカー
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20231221BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20231221BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231221BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231221BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20231221BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231221BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231221BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231221BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z ZNA
C07K19/00
C07K16/18
C07K14/705
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
A61P43/00 105
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537498
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-16
(86)【国際出願番号】 US2021073057
(87)【国際公開番号】W WO2022140774
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522014792
【氏名又は名称】ネオジン セラピューティクス ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーステン リンネマン
(72)【発明者】
【氏名】トマス クイルマン
(72)【発明者】
【氏名】ギャビン エム.ベンドル
(72)【発明者】
【氏名】イェルン ダブリュ.ジェイ.ファン ヘイスト
(72)【発明者】
【氏名】シャンジュン コン
(72)【発明者】
【氏名】レーク ヨセフス エゲルモン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB261
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
(57)【要約】
注入した遺伝子改変細胞の管理を可能にするためには、遺伝子改変細胞が、そのような細胞を未改変細胞のプール中で検出するために使用可能なマーカーを発現していることが有用である。いくつかの態様は、TCR定常ドメインと、TCR定常ドメイン中に存在し、検出および同定が可能な配列を含む外因性アミノ酸変種を含む標識タンパク質に関する。他の態様は、TCR鎖に結合した抗体エピトープに関する。標識タンパク質と抗体エピトープはいずれも、遺伝子改変細胞を追跡するのに用いることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識タンパク質であって、
TCR定常ドメイン;および
TCR定常ドメイン中に存在し、検出および同定が可能な配列を含む外因性アミノ酸変種を含んでいる、標識タンパク質。
【請求項2】
前記TCR定常ドメインがTCRαまたはTCRβ定常ドメインを含む、請求項1の標識タンパク質。
【請求項3】
前記外因性アミノ酸変種が前記TCR定常ドメインの配列に変異を含み、必要に応じて、前記標識タンパク質がhuTRBC1-mur6またはhuTRBC2-mur6を含む、請求項1の標識タンパク質。
【請求項4】
前記TCR定常ドメインが一つの種に由来し、前記外因性アミノ酸変種が別の種に由来する、請求項1の標識タンパク質。
【請求項5】
前記TCR定常ドメインがヒトに由来し、前記外因性アミノ酸変種が非ヒト種に由来する、請求項4の標識タンパク質。
【請求項6】
前記非ヒト種がマウスである、請求項5の標識タンパク質。
【請求項7】
前記TCR定常ドメインが前記ヒトTRBC2遺伝子によってコードされている配列を含む、請求項3の標識タンパク質。
【請求項8】
前記外因性アミノ酸変種が前記マウスTCR Cβドメインの配列を含む、請求項3の標識タンパク質。
【請求項9】
前記変異が10のアミノ酸変異を含む、請求項3の標識タンパク質。
【請求項10】
前記変異が非連続的配列を形成する、請求項9の標識タンパク質。
【請求項11】
10のアミノ酸変異が、配列番号8の付番方法によって、K4R、F7T、Y37F、N106E、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113S、A114Pと番号づけられる、請求項9の標識タンパク質。
【請求項12】
前記変異が6のアミノ酸変異を含む、請求項3の標識タンパク質。
【請求項13】
6のアミノ酸変異がK4R、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113Sであり、必要に応じて前記標識タンパク質が配列番号27を含む、請求項12の標識タンパク質。
【請求項14】
前記外因性アミノ酸変種を抗体、ナノボディ、Fab断片またはダーピン(DARPin)によって検出および同定することが可能な、請求項1の標識タンパク質。
【請求項15】
前記外因性アミノ酸変種が抗マウスTCR Cβ抗体H57-597で検出および同定することが可能な、請求項1の標識タンパク質。
【請求項16】
そのような標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞の検出、単離または低減に用いられる標識タンパク質であって、請求項1~15のいずれか1項に記載の標識タンパク質を含む、標識タンパク質。
【請求項17】
前記遺伝子改変細胞が遺伝子改変T細胞を含む、請求項16の標識タンパク質。
【請求項18】
前記遺伝子改変T細胞が治療用TCR遺伝子の導入によって改変されたT細胞を含む、請求項17の標識タンパク質。
【請求項19】
治療用TCR遺伝子の導入によって改変された前記T細胞が癌の治療に用いられる、請求項18の標識タンパク質。
【請求項20】
治療用TCR遺伝子の導入によって改変された遺伝子改変T細胞の検出、単離または低減に用いられる標識タンパク質であって、ここで前記標識タンパク質が前記マウスTCR Cβドメインに由来し、そして、前記ヒトTCR Cβ2ドメイン中に存在するアミノ酸を変異させることによって前記ヒトTCR Cβ2ドメインに導入される、標識タンパク質。
【請求項21】
癌治療用新規TCR遺伝子で改変した細胞の検出、単離または低減に用いられる標識タンパク質であって、請求項1~20のいずれか1項に記載の標識タンパク質を含む、標識タンパク質。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか1項に記載の標識タンパク質を有する遺伝子改変細胞の検出、単離または低減に用いられるキットであって、前記標識タンパク質を認識する抗体を含む、キット。
【請求項23】
前記遺伝子改変細胞がT細胞を含む、前記請求項22のキット。
【請求項24】
前記T細胞が治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている、請求項23のキット。
【請求項25】
治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている前記T細胞が癌の治療に用いられる、請求項24のキット。
【請求項26】
そのような標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞への1つ以上の搭載物の標的化送達に用いられる標識タンパク質であって、請求項1~15のいずれか1項に記載の標識タンパク質を含む、標識タンパク質。
【請求項27】
1つ以上の搭載物の前記送達が、抗体、抗体模倣タンパク質または他の任意の抗原結合足場への接合によって達成される、請求項26の標識タンパク質。
【請求項28】
前記抗体が抗マウスTCR Cβ抗体H57-597である、請求項27の標識タンパク質。
【請求項29】
前記1つ以上の搭載物がタンパク質、小分子、核酸、リポソーム、またはナノ粒子である、請求項26の標識タンパク質。
【請求項30】
前記送達される搭載物がサイトカインである、請求項26の標識タンパク質。
【請求項31】
前記サイトカインがIL-1β、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-21、IL-23、IL-27、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、およびTNF-αの群から選択される、請求項30の標識タンパク質。
【請求項32】
前記サイトカインの配列が、その天然の受容体分子との相互作用を調節するように改変されている、請求項30の標識タンパク質。
【請求項33】
前記サイトカインがT細胞によって発現される受容体分子のアゴニストまたはアンタゴニストである、請求項30の標識タンパク質。
【請求項34】
前記搭載物がT細胞によって発現される受容体分子のアゴニストまたはアンタゴニストである、請求項26の標識タンパク質。
【請求項35】
前記アゴニストがCD27、CD28、CD137またはCD278に結合する、請求項34の標識タンパク質。
【請求項36】
前記アンタゴニストがTGF-β受容体、PD-1、CTLA-4、ビスタ(Vista)、ステロイド受容体またはA
1-、A
2A-、A
2B-もしくはA
3-アデノシン受容体に結合する、請求項34の標識タンパク質。
【請求項37】
前記搭載物が、T細胞の活性化、分化、増殖、生存またはエフェクター機能を調節する小分子である、請求項26の標識タンパク質。
【請求項38】
前記小分子が、TGF-β受容体、PD-1、CTLA-4、ビスタ、ステロイド受容体またはA
1-、A
2A-、A
2B-もしくはA
3-アデノシン受容体いずれかのシグナル伝達を阻害する、請求項37の標識タンパク質。
【請求項39】
前記搭載物が、T細胞の活性化、分化、増殖、生存またはエフェクター機能を調節する核酸である、請求項26の標識タンパク質。
【請求項40】
前記核酸がmiRNA、shRNAまたはsiRNAである、請求項39の標識タンパク質。
【請求項41】
前記搭載物が二重または三重特異性抗体である、請求項26の標識タンパク質。
【請求項42】
標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に1つ以上の搭載物を標的化送達するための方法であって、
前記1つ以上の搭載物と前記標識タンパク質に特異的に結合する結合剤とを含む複合体を得ること、および
前記遺伝子改変細胞と前記複合体とを接触させること
を含む、方法。
【請求項43】
前記結合剤が、抗体、抗体模倣タンパク質、または他の任意の抗原結合足場である、請求項42の方法。
【請求項44】
前記1つ以上の搭載物が、タンパク質、小分子、核酸、リポソーム、またはナノ粒子である、請求項42の方法。
【請求項45】
そのような抗体エピトープを発現している遺伝子改変細胞の検出に用いられる抗体エピトープであって、ここで前記抗体エピトープがTCR鎖またはキメラ抗原受容体(CAR)に結合している、抗体エピトープ。
【請求項46】
前記抗体エピトープが、TCR鎖のC末端もしくはN末端またはCARのC末端もしくはN末端に結合している、請求項45の抗体エピトープ。
【請求項47】
前記抗体エピトープが、TCR鎖またはCARに挿入される、請求項45の抗体エピトープ。
【請求項48】
前記遺伝子改変細胞がT細胞を含む、請求項45の抗体エピトープ。
【請求項49】
T細胞が、治療用TCRまたはCAR遺伝子の導入によって改変されている、請求項48の抗体エピトープ。
【請求項50】
治療用TCRまたはCAR遺伝子の導入によって改変されているT細胞が癌の治療に用いられる、請求項49の抗体エピトープ。
【請求項51】
前記抗体エピトープが、TCRαとTCRβ鎖を連結するために、またはCARと他の遺伝子によってコードされているタンパク質とを連結するために用いられる、請求項45の抗体エピトープ。
【請求項52】
2Aペプチド配列、HA.11エピトープタグ、FLAGエピトープタグ、Mycエピトープタグ、V5エピトープタグ、または2Aペプチドと同数までのアミノ酸を含有するペプチドを含む、請求項45の抗体エピトープ。
【請求項53】
前記2Aペプチドが、P2A、T2A、E2A、またはF2Aであり得る、請求項52の抗体エピトープ。
【請求項54】
2Aペプチド配列断片またはそれと少なくとも90%同一の配列を含み、前記2Aペプチド配列が全長2A配列ではない、請求項45の抗体エピトープ。
【請求項55】
前記ペプチド配列が、配列番号1(CGDVEENPG)またはそれと少なくとも75%同一の配列を含む、請求項54の抗体エピトープ。
【請求項56】
前記抗体エピトープが、モノクローナル抗2Aペプチド抗体3H4によって同定され得る、請求項54または55の抗体エピトープ。
【請求項57】
治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている遺伝子改変T細胞の検出に用いられる抗体エピトープであって、請求項45~56のいずれか1項に記載の抗体エピトープを含む、抗体エピトープ。
【請求項58】
癌治療用新規TCRまたはCAR遺伝子によって改変された細胞の検出に用いられる抗体エピトープであって、請求項45~56のいずれか1項に記載の抗体エピトープを含んでいる、抗体エピトープ。
【請求項59】
遺伝子改変細胞の検出に用いられるキットであって、請求項45~56のいずれか1項に記載の抗体エピトープを含んでいる、キット。
【請求項60】
前記遺伝子改変細胞がT細胞を含む、請求項59のキット。
【請求項61】
前記T細胞が、治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている、請求項60のキット。
【請求項62】
治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている前記T細胞が癌の治療に用いられる、請求項61のキット。
【請求項63】
2Aペプチド配列またはそれと少なくとも90%同一な配列を発現することが可能なヌクレオチド配列を含んでいる遺伝子構築物であって、ここで前記構築物が単一の読み取り枠から複数のタンパク質を発現するように構成されており、かつ、前記ヌクレオチド配列が前記遺伝子構築物の大きさを25アミノ酸より大きくしない、遺伝子構築物。
【請求項64】
前記2Aペプチド配列が、2Aペプチド配列断片またはそれと少なくとも90%同一の配列を含み、前記2Aペプチド配列が全長2A配列ではない、請求項63の遺伝子構築物。
【請求項65】
前記2Aペプチド配列が、配列番号2、配列番号3、配列番号6の配列、または配列番号2、配列番号3、もしくは配列番号6と少なくとも75%同一の配列を含む、請求項64の遺伝子構築物(配列番号2=EGRGSLLTCGDVEENPGP;配列番号3=ATNFSLLKQAGDVEENPGP;配列番号6=GDVEENPG)。
【請求項66】
請求項1~15のいずれか1項に記載の標識タンパク質、または請求項53~55のいずれか1項に記載の抗体エピトープ、または請求項63~65のいずれか1項に記載の遺伝子構築物を含んでいる、遺伝子改変細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
国外または国内の優先権を主張する全ての出願が、本出願とともに提出される出願データシートで特定されており、37CFR1.57に基づいて、それらは参照することにより本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表の参照
本出願は、電子形式の配列表とともに出願される。配列表は、2021年12月20日に作成され、サイズが57,943バイトの「NTBV.016WO.xml」と題するファイルとして提供される。電子形式の配列表に含まれる情報は、その全体が参照することにより本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
細胞治療とは、患者に生細胞を注入する、移植する、または埋め込むことで、例えば、免疫療法では細胞媒介免疫によって癌細胞と闘うT細胞を移植することで、あるいは病気組織を再生するために幹細胞を移植することで、薬効を得る治療法である。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に記載のいくつかの態様は、TCR定常ドメインと、TCR定常ドメインの中に存在し、検出および同定可能な配列を含む外因性アミノ酸変種とを含んでいる標識タンパク質に関する。
【0005】
いくつかの態様では、標識タンパク質を遺伝子改変細胞の検出、単離または低減に用いることが可能である。標識タンパク質すなわちタンパク質マーカーは、マーカーとして機能させることができ;このマーカーを見つけることによって、標識タンパク質を有する任意の細胞を、検出、単離、または低減することができる。標識タンパク質は、好適な抗体によって同定することが可能なエピトープペプチドを含む場合がある。
【0006】
本明細書に記載のいくつかの態様は、治療用TCR遺伝子の導入によって改変された遺伝子改変T細胞の検出、単離または低減に用いられる標識タンパク質に関し、ここでこの標識タンパク質はマウスTCR Cβドメインに由来し、そして、ヒトTCR Cβ2ドメイン中に存在するアミノ酸を変異させることによって、ヒトTCR Cβ2ドメインに導入される。
【0007】
いくつかの態様では、癌治療用の新規TCR遺伝子によって改変された細胞を検出、単離または低減するための標識タンパク質であって、本明細書で提供する態様のいずれか1つの標識タンパク質を含む、標識タンパク質を提供する。
【0008】
いくつかの態様は、前述した態様のいずれか一つの標識タンパク質を有する遺伝子改変細胞を検出、単離または低減するために用いられる、その標識タンパク質を認識する抗体または結合剤を含む、キットに関する。
【0009】
いくつかの態様は、そのような標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に1つ以上の搭載物を標的化送達するために用いられる標識タンパク質であって、本明細書に記載の態様のいずれか一つの標識タンパク質を含む、標識タンパク質に関する。
【0010】
いくつかの態様は、標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に1つ以上の搭載物を標的化送達するための方法に関する。この方法は、a)1つ以上の搭載物と、標識タンパク質に特異的に結合する結合剤とを含む複合体を得ること、およびb)遺伝子改変細胞と複合体とを接触させること、を含む。
【0011】
いくつかの態様は、TCR鎖に挿入されるか、またはTCR鎖の一部を構成し得る抗体エピトープに関する。いくつかの態様においてエピトープは、そのような抗体エピトープを発現している遺伝子改変細胞を検出するために用いることができ、ここでこの抗体エピトープは、TCR鎖またはキメラ抗原受容体に結合されている。いくつかの態様において抗体エピトープは2Aペプチド配列、HA.11エピトープタグ、FLAGエピトープタグ、Mycエピトープタグ、またはV5エピトープタグを含む。いくつかの態様において抗体エピトープはTCR鎖の定常ドメインに挿入され、TCRの可変ドメインには挿入されない。いくつかの態様において抗体エピトープは、TCR鎖の1つ以上の位置でアミノ酸を変異させることによって導入されるが、TCR鎖に外因性の付加的なアミノ酸を付加することによっては導入されない。
【0012】
いくつかの態様は、治療用TCR遺伝子の導入によって改変された遺伝子改変T細胞を検出するために用いられる抗体エピトープであって、前述した態様のいずれか一つの抗体エピトープを含む、抗体エピトープに関する。
【0013】
いくつかの態様は、癌治療用の新規TCRまたはCAR遺伝子によって改変された細胞を検出するために用いられる抗体エピトープであって、前述した態様のいずれか一つの抗体エピトープを含む、抗体エピトープに関する。
【0014】
いくつかの態様は、前述した態様のいずれか一つの抗体エピトープを発現している遺伝子改変細胞を検出するために用いられるキットに関する。
【0015】
いくつかの態様は、2Aペプチド配列またはそれと少なくとも90%同一な配列を発現することが可能なヌクレオチド配列を含む遺伝子構築物に関し、ここでこの構築物は単一の読み取り枠から複数のタンパク質を発現するように構成されており、かつ、ヌクレオチド配列は遺伝子構築物の大きさを25アミノ酸より大きくしない。本明細書で使用する場合、関連するペプチドの文脈における「遺伝子」は、そのペプチド配列をコードしている核酸配列を指し、それ以上のものを指すものではない。
【0016】
いくつかの態様は、前述した態様のいずれか一つの標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に関する。
【0017】
本発明のこれらのおよび他の特徴、側面、および利点は、以下の説明および添付の特許請求の範囲を参照することにより、より深く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2A】抗体エピトープがTCR鎖のC末端に結合している抗体エピトープの模式図を示す。
【
図2B】抗体エピトープがTCR鎖のN末端に結合している抗体エピトープの模式図を示す。
【
図2C】抗体エピトープがTCR鎖に挿入されている抗体エピトープの模式図を示す。
【
図2D】抗体エピトープがTCRα鎖とTCRβ鎖を連結するために用いられている抗体エピトープの模式図を示す。TCRα鎖とTCRβ鎖の位置は入れ替えてもよい。
【
図3】種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示す。データは、全長マウスTrbc2配列を用いた場合には、TCRを発現させるのに外因性ポリAシグナルが有効であること、およびH57抗体によって、全長マウスTrbc2配列を発現している細胞を認識できることを示している。
【
図4】種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示す。データは、TCRの発現とH57抗体による認識を可能にするには、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基、ならびにFGループをヒトTRBC2配列に組み入れるだけで十分なことを示している。
【
図5】種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示す。データは、H57抗体による認識を可能にするには、マウスTrbc2 Aストランドに由来する6のアミノ酸残基とFGループが必要であることを示している。
【
図6】種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示す。データは、TCRの発現とH57抗体による認識を可能にするには、マウスTrbc2 Aストランドに由来する6のアミノ酸残基とFGループをヒトTRBC2配列に組み入れるだけで十分なことを示している。
【
図7】種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示す。データは、T2Aペプチド配列を含むNY-ESO-1 1G4 TCRを発現するように改変されたヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体によって検出できることを示している。
【
図8】種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示す。データは、T2Aペプチド配列を含むNY-ESO-1 1G4 TCRを発現するように改変されたヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体によって検出できること、そしてこの2Aペプチドの染色とTCR Vβ13.1の染色との間に相関があることを示している。
【
図9】CD19 CAR構築物を発現するようにレトロウイルスを介して形質導入したヒト初代T細胞のFACS分析を示す。データは、2Aペプチド配列を含むCD19 CAR構築物を発現するように改変されたヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体によって検出できること、そしてこの2Aペプチドの染色と同じ構築物中に存在する形質導入マーカータンパク質(Ly6G)の染色との間に相関があることを示している。
【
図10】2Aペプチド抗体3H4を産生するのに用いた免疫原の配列を示す(配列番号1)。
【
図11】T2Aペプチド配列を示す(配列番号2)。
【
図12】P2Aペプチド配列を示す(配列番号3)。
【
図13】H57抗体によって検出可能なマウスTCRエピトープを有するヒトTCR Cβ2ドメインの配列を示す(配列番号4)。
【
図14】3H4抗体によって検出可能なT2Aペプチドエピトープに連結されたヒトTCR Cβ2ドメインの配列を示す(配列番号5)。
【
図15】T2AまたはP2Aペプチド配列の断片を示す(配列番号6)。
【
図16】E2AまたはF2Aペプチド配列の断片を示す(配列番号7)。
【
図17】ヒトTCR Cβ2ドメインの配列を示す(配列番号8)。
【
図18】抗体を加えずに、またはH57、H57-IL2、もしくはH57-IL2vを加えてプレインキュベーションした後、標識したH57抗体で染色したhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRジャーカット細胞のFACS分析のヒストグラムを示す。本図における染色の減少は、プレインキュベーションによる抗体または融合タンパク質の結合を反映したものである。
【
図19】抗体を加えずに、またはH57、H57-IL2、もしくはH57-IL2vを加えてプレインキュベーションした後、標識したH57抗体で染色したhuTRBC2-Mur6 1G4 TCR初代T細胞のFACS分析のヒストグラムおよび拮抗濃度曲線を示す。本図における染色の減少は、プレインキュベーションによる抗体または融合タンパク質の結合を反映したものである。
【
図20】IL2を認識する標識抗体によって染色したhuTRBC2-Mur6 1G4 TCR初代T細胞のFACS分析のヒストグラムおよび結合濃度曲線を示す。
【
図21】IL2、H57-IL2、またはH57-IL2v融合タンパク質に応答して発現したCD25およびCD69によって測定した、刺激応答のFACSプロットを示す。
【
図22】IL2、H57-IL2、またはH57-IL2v融合タンパク質の濃度変化に応答したCD25およびCD69の発現を示す。
【
図23】IL2、H57-IL2、またはH57-IL2v融合タンパク質に応答したセルトレースバイオレット(cell trace violet)によって測定した増殖の増加を示すFACS分析のヒストグラムである。
【
図24】IL2、H57-IL2、またはH57-IL2v融合タンパク質の濃度変化に応答したセルトレースバイオレットによって測定した増殖の増加を示す。
【
図25】H57と、muTRBC2、huTRBC1-Mur6、およびhuTRBC2-Mur6 1G4を発現している細胞のヒトTCRβ定常ドメインに結合する抗体との結合に関するFACSプロットを示す。
【
図26A】muTRBC2、huTRBC2、およびhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRを発現している初代T細胞におけるIFN-γとIL2の増加を示す。標的細胞に負荷したNY-ESOペプチドの濃度変化に応じたIFN-γの濃度変化を示す。
【
図26B】muTRBC2、huTRBC2、およびhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRを発現している初代T細胞におけるIFN-γとIL2の増加を示す。最も高濃度のペプチド負荷した個々の実験においてマーカー(IFN-γ)を発現していた細胞の割合のドットプロットを示す。
【
図26C】muTRBC2、huTRBC2、およびhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRを発現している初代T細胞におけるIFN-γとIL2の増加を示す。標的細胞に負荷したNY-ESOペプチドの濃度変化に応じたIL2の濃度変化を示す。
【
図26D】muTRBC2、huTRBC2、およびhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRを発現している初代T細胞におけるIFN-γとIL2の増加を示す。最も高濃度のペプチド負荷した個々の実験においてマーカー(IL2)を発現していた細胞の割合のドットプロットを示す。
【
図27A】muTRBC2、huTRBC2、およびhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRを発現しているT細胞と共培養した間の標的細胞数の経時変化を示す。
【
図27B】最も長期間(72時間)共培養したときの個々の実験における、残存した関連細胞数のドットプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した発明の概要、および発明を実施するための形態、ならびに後述する特許請求の範囲において、本発明の特定の特徴に言及した。本明細書における本発明の開示は、そのような特定の特徴のすべての可能な組み合わせを含むと理解される。例えば、特定の特徴が本発明の特定の側面もしくは態様、または特定の請求項の文脈において開示される場合、その特徴はまた、可能な範囲で、本発明の他の特定の側面および態様と組み合わせて、および/または本発明の他の特定の側面および態様の文脈で、ならびに本発明一般において使用することが可能である。
【0020】
細胞治療には、患者に細胞を注入、あるいは移植する治療が含まれる。遺伝子改変T細胞はそのような材料の一つである。注入した遺伝子改変T細胞の管理を可能にするにあたっては、未改変細胞のプール中にあっても、遺伝子改変T細胞がそのようなT細胞を検出するのに使用可能なマーカーを発現することが有用である。そのようなマーカーは、製造工程においてうまく改変できたT細胞を単離するのに用いることができたり、あるいは、患者に投与された後に、それらのT細胞を追跡したり、または低減させたりできることが理想的である。さらに、そのようなマーカーは非免疫原性であり、また、治療用遺伝子構築物の天然の一部を構成するものでなくてはならない。そのようなマーカーは例えば、抗体がそれに結合可能なエピトープを形成することができるポリペプチドであり得る。
【0021】
本明細書に記載のいくつかの態様は、遺伝子改変細胞の検出、単離または低減に用いることが可能な標識タンパク質に関する。標識タンパク質すなわちタンパク質マーカーは、マーカーとして機能させることができ;このマーカーを見つけることで、標識タンパク質を含む任意の細胞を検出、単離または低減することができる。いくつかの態様において標識タンパク質は、TCR定常ドメインと、TCR定常ドメイン中に存在し、検出および同定が可能な配列を含む外因性アミノ酸変種とを含む。
【0022】
いくつかの態様は、そのような標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に1つ以上の搭載物を標的化送達するために用いられる標識タンパク質であって、本明細書に記載の態様のいずれか一つの標識タンパク質を含む、標識タンパク質に関する。
【0023】
いくつかの態様は、TCR鎖に挿入されるか、またはTCR鎖の一部を構成し得る抗体エピトープに関する。いくつかの態様においてエピトープは、そのような抗体エピトープを発現している遺伝子改変細胞の検出に使用可能であり、ここでこの抗体エピトープはTCR鎖またはキメラ抗原受容体に結合されている。
定義
【0024】
本明細書全体を通じて「含む」という用語、または「含まれる」もしくは「含んでいる」などの変形は、言及している要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を含むことを意味し、他の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を除外しないものと理解される。
【0025】
以下の用語および方法の説明は、本開示をより良く説明するため、および当業者が本開示を実施する際の指針とするために提供される。単数形の「1つ」、「1種」、および「この」は、文脈から明らかにそうでないと判断されない限り、1つまたは2つ以上を指す。例えば、「核酸分子を含んでいる」という用語は、単一のまたは複数の核酸分子を含むもので、「少なくとも1つの核酸分子を含んでいる」という句と同等であるとみなされる。「または」という用語は、文脈からそうではないことが明らかでない限り、記載された代替要素の単一の要素または2つ以上の要素の組合せを指す。本明細書で使用する場合、「含む」は「包含する」を意味する。したがって、「AまたはBを含んでいる」とは、追加の要素を排除することなく、「A、B、またはAおよびBを包含する」ことを意味する。特段の指定のない限り、本定義が他に存在し得る定義と異なる可能性がある場合には、本明細書で提供される定義が優先される。
【0026】
特段の記載のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で言及される全てのヒト遺伝子解析機構(HUGO Gene Nomenclature Committee(HGNC)の識別子(ID)は、その全体が参照により組み込まれる。本開示の実施または試験には、本明細書に記載の方法および材料と類似または同等のものを使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。材料、方法、および実施例は例示に過ぎず、限定することを意図していない。
【0027】
「T細胞受容体」または「TCR」とは、T細胞すなわちTリンパ球の表面に存在し、主要組織適合性複合体(MHC)分子にペプチドとして結合した抗原を認識する分子を意味する。TCRは2種類のタンパク質鎖から構成されている(つまり、ヘテロ二量体である)。ヒトの場合、95%のT細胞においてTCRはアルファ(α)鎖とベータ(β)鎖(それぞれTRAとTRBによってコードされている)から構成されているが、5%のT細胞ではTCRはガンマとデルタ(γ/δ)鎖(それぞれTRGとTRDによってコードされている)から構成されている。この比率は、個体発生時や疾患状態(白血病など)の過程で変化し、また、生物種によっても異なる。それぞれのTCR鎖は2つの細胞外ドメイン、可変(V)領域と定常(C)領域、から構成されている。定常領域は細胞膜に近接していて、膜貫通領域と短い細胞質尾部が続くもので、一方、可変領域はペプチド/MHC複合体に結合する。TCRα鎖およびTCRβ鎖の両方の可変領域は、CDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれる、3つの超可変相補性決定領域(CDR)を有する。いくつかの態様では、CDR3が主な抗原認識領域である。いくつかの態様では、TCRα鎖遺伝子はVおよびJを含み、TCRβ鎖遺伝子は、TCRの多様性に寄与するV、DおよびJ遺伝子セグメントを含む。TCRの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成して2本の鎖の間のリンクを形成している短い連結配列から構成される。
【0028】
「治療用TCR」または「治療用TCR遺伝子」という用語は、所望の機能、例えば、宿主の免疫系が病気と闘うことを促進できることなどの機能を仲介する、TCRαとTCRβ鎖の特定の組合せを指す場合がある。治療用TCR遺伝子は、ファージ、酵母、またはT細胞提示系によって組換えTCRライブラリーとして発現されるインビトロの変異型TCR鎖から選択することができる。治療用TCR遺伝子は、自己由来であっても同種異系であってもよい。
【0029】
「癌」という用語は、分化能の消失を伴う特徴的な退形成、速い増殖速度、周辺組織への浸潤、および転移能を示す悪性新生物を意味する。「癌」という用語は、対象における制御不能な細胞の増殖を特徴とする疾患を含むものとする。いくつかの態様では、「癌」および「腫瘍」という用語は同じ意味で用いられる。いくつかの態様において「腫瘍」という用語は、良性すなわち非悪性の増殖を指す。
【0030】
本明細書で使用する場合、「新生抗原」という用語は、腫瘍特異的なゲノム変異に由来する抗原を指す。例えば新生抗原は、腫瘍試料中で非同義一塩基変異に起因する変異型タンパク質が発現することによって、または変異誘発性のフレームシフトに起因する別の読み取り枠が発現することによって生じる場合がある。このため、新生抗原は病的状態に関連し得る。いくつかの態様において「変異型タンパク質」は、正規のアミノ酸配列の同じ位置にあるアミノ酸とは異なるアミノ酸を少なくとも1つの含むタンパク質を指す。いくつかの態様において変異型タンパク質は、正規のアミノ酸配列に対して、挿入、欠失、置換、読み取り枠シフトによって生じるアミノ酸の包含、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0031】
「抗体」は、少なくとも免疫グロブリン可変領域の軽鎖または重鎖のいずれかを含むポリペプチドであり、抗原のエピトープを特異的に認識して結合するものを指す。いくつかの態様において抗体は重鎖および軽鎖からなり、それぞれの鎖は、可変重(VH)領域および可変軽(VL)領域と呼ばれる可変領域を有する。VH領域およびVL領域は、共に、抗体によって認識される抗原に結合する役割を果たす。抗体という用語は、インタクトな免疫グロブリン、ならびにそのバリアントおよび部分、例えばFab'断片、F(ab)'2断片、およびインタクトな免疫グロブリンに由来する他の任意の分子を含む。
【0032】
「遺伝子改変細胞」とは、バイオテクノロジーを用いてその遺伝子構造を変化させた細胞のことである。このような変化には、改良されたもしくは新規の生物を生み出すための、種の中でのおよび種を越えた遺伝子の移動などがある。新しいDNAは、組換えDNA法を用いて目的の遺伝物質を単離し、コピーするか、またはDNAを人工的に合成することによって得られる。
【0033】
「遺伝子改変T細胞」とは、バイオテクノロジーを用いてその遺伝子構造を変化させたT細胞のことである。
【0034】
本明細書では、エピトープペプチド、エピトープタンパク質、および抗体エピトープは同じ意味で用いられる。個別に命名した特定のエピトープについては、この名称は、エピトープという語またはエピトープという語を含む句と置き換えて用いることもできる。「mur6」と命名したエピトープであれば、この名称は、文脈上適切であれば、huTRBC1-Mur6またはhuTRBC2-Mur6のいずれかを指す場合がある。
標識タンパク質に関する様々な態様
【0035】
本明細書に記載のいくつかの態様は、遺伝子改変細胞を検出、単離または低減するために用いることが可能な標識タンパク質に関する。標識タンパク質すなわちタンパク質マーカーはマーカーとして機能させることができ;このマーカーを見つけることで、標識タンパク質を含む任意の細胞を検出、単離または低減することができる。標識タンパク質は、好適な抗体によって同定することが可能なエピトープペプチドを含む場合がある。いくつかの態様では、標識タンパク質を細胞を刺激するのに用いることができる。いくつかの態様では標識タンパク質を、遺伝子改変T細胞の検出、単離または低減を可能にするためにT細胞に導入する。いくつかの態様では標識タンパク質を、改変T細胞を刺激できるように、T細胞に導入する。いくつかの態様では、サイトカイン、核酸および小分子などを含むがこれらには限定されない成分を送達するための「ハンドル」を作製するために、標識タンパク質をT細胞に導入する。いくつかの態様において標識タンパク質は刺激するためには用いられない。
【0036】
いくつかの態様の模式図を
図1に示す。いくつかの態様において
図1に示すTCR定常ドメインはTCRαまたはTCRβの定常ドメインであり得る。TCR定常ドメインの全長またはTCR定常ドメインの一部分のみを用いることができる。
【0037】
いくつかの態様において標識タンパク質は、TCR定常ドメインと、TCR定常ドメイン中に存在し、検出および同定が可能な配列を含む外因性アミノ酸変種とを含む。いくつかの態様においてアミノ酸変種は、TCRの特異性と感受性を保つために、TCR可変ドメインよりもTCR定常ドメインに導入される。いくつかの態様において抗体エピトープはTCR鎖の定常ドメインに挿入され、TCRの可変ドメインには挿入されない。いくつかの態様において抗体エピトープは、TCR鎖の1つ以上の位置でアミノ酸を変異させることによって導入されるが、TCR鎖に外因性の付加的なアミノ酸を付加することによっては導入されない。
【0038】
検出および同定することが可能とは、分子生物学的な技術またはその他の関連技術によって発見または同定することが可能であることを意味する。例えば、標識タンパク質が特定の抗体に結合し、次いで、フローサイトメトリー、IHC、免疫蛍光顕微鏡、ウェスタンブロット、およびELISAなどを含むがこれらには限定されない標準的な分子生物学的な技術によって検出および同定することが可能な場合、この標識タンパク質は検出および同定することが可能である。いくつかの態様では標識タンパク質は細胞表面に発現するので、細胞外抗体結合に利用できる。
【0039】
外因性アミノ酸変種とは、TCR定常ドメインの種に天然には見られないアミノ酸配列を指す。外因性アミノ酸変種は、別の種に由来するアミノ酸配列であっても、または人工の配列であってもよい。外因性アミノ酸変種はさらに、連続したアミノ酸配列であっても、または非連続的なアミノ酸配列であってもよい。例えば、いくつかの態様では、TCR定常ドメインがある種に由来し、および外因性アミノ酸変種が別の種に由来する。いくつかの態様では、TCR定常ドメインがヒトに由来し、外因性アミノ酸変種が非ヒト種に由来する。いくつかの態様において非ヒト種はマウスである。
【0040】
外因性アミノ酸変種は、TCR定常ドメインの特定のアミノ酸を変異させることによって作出可能である。例えば、ヒトTCR定常ドメインの特定のアミノ酸を変異させ、それによってヒトTCR定常ドメインのアミノ酸配列の一部をマウスTCRの配列に変化させることができる。この方法では、標識タンパク質を構成するアミノ酸の総数を天然のヒトTCR定常タンパク質と同数に維持しながら、マウスエピトープをヒトTCR定常ドメインに導入し、標識タンパク質を得ることができる。したがって、この手法の利点の一つとして、この方法では、標識タンパク質の大きさが天然のヒトTCR定常ドメインよりも大きくならないことが挙げられる。加えて、標識タンパク質はTCRβの定常ドメインに組み入れられるため、TCRそのものと同様の安定性と発現を有する。さらに、全長マウスTCR定常ドメインを使用するよりも、マウスTCR定常ドメインから選択したいくつかのアミノ酸を導入することで、標識タンパク質の免疫原性を下げられる可能性がある。いくつかの態様において変異は10のアミノ酸変異を含む。いくつかの態様において変異は6のアミノ酸変異を含む。いくつかの態様において変異は、2つのTCR定常ドメインのうちの1つにだけ導入される。
【0041】
外因性アミノ酸変種を他の方法によってTCR定常ドメインに導入することもできる。例えば、1つ目の種のTCR定常ドメインのアミノ酸配列の一部を、同数のアミノ酸を有する2つ目の種のTCR定常ドメインに挿入して、配列を置換することによって、標識タンパク質を作製することができる。この手法によっても、標識タンパク質の大きさは2つ目の種の天然のTCR定常ドメインよりも大きくならない。
【0042】
いくつかの態様においてTCR定常ドメインはヒトT細胞受容体β定常2(TRBC2)遺伝子によってコードされている配列を含む。いくつかの態様において外因性アミノ酸変種はマウスTCRβ鎖定常領域(TCR Cβドメイン)の配列を含む。いくつかの態様において外因性アミノ酸変種は、K4R、F7T、Y37F、N106E、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113S、A114Pの10のアミノ酸変異のうちの1つ以上を含む。いくつかの態様において外因性アミノ酸変種は、これらの変異のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10を含む。
【0043】
遺伝子改変細胞を単一細胞レベルで未改変細胞から速やかに識別するためには、改変細胞に特有のタンパク質マーカーを検出する抗体試薬が有用である。既に公表されている研究によって、ヒトTCR可変ドメインをマウスTCR定常ドメインに結合させたハイブリッドマウス化TCRが機能し、抗マウスTCR Cβ抗体H57によって検出可能であることが示されている(コーエン(Cohen)ら、米国癌学会誌(Cancer Res)、2006)。本明細書で使用する場合「H57」は、任意の抗体または、本明細書に記載の選択的結合特徴を保持し、かつ、少なくともH57の可変領域を有するその抗原結合断片を指し得る。この抗体はヒトTCR Cβドメインには結合しないため、マウス化TCRを発現している改変T細胞だけを同定することができる。このような全長TCR定常ドメインをマウス化することの欠点としては、導入されたTCR遺伝子の免疫原性が高まる可能性があること(デービス(Davis)ら、臨床癌研究(Clin Cancer Res)、2010)、およびこの方法では、治療用TCR遺伝子をヒトTCRαまたはTCRβの定常遺伝子座のエクソンにインフレームでノックインできないことが挙げられる。このような制限を克服するために、いくつかの態様では、ヒトTRBC2遺伝子の配列中の10のアミノ酸を入れ替えた(K4R、F7T、Y37F、N106E、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113S、A114P、ここで番号付けは、アンサンブルゲノムブラウザー(Ensembl genome browser)の遺伝子TRBC2(ENSG00000211772)に準ずる)「最小化」マウスエピトープ含有TCR Cβドメインを生成する。いくつかの態様においてこれら残基の番号付けは配列番号8における番号配置を参照する。したがって、「配列番号8内で番号付けされたように」という言及は、配列そのものではなく、配列番号8内でのアミノ酸の位置の付番方法を指す。これら10のアミノ酸のうち、K4とF7はTCR CβのAストランドの一部であり、Y37はTCR CβのBストランドの一部であり、そしてN106-A114はTCR CβのFGループの一部である(ササダ(Sasada)ら、実験医学雑誌(J Exp Med)、2002)。いくつかの態様では、ヒトTRBC2遺伝子配列中の6のアミノ酸を入れ替えた(K4R、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113S)「最小化」マウスエピトープ含有TCR Cβドメインを生成した(「huTRBC2-Mur6」)。これらのマウスエピトープ含有TCRβ鎖は全長ヒトTCRα鎖と効率的に対合し、TCR改変T細胞の検出、単離および低減を可能にするH57抗体によって、細胞表面で検出される。さらに、これらのマウスエピトープ含有TCRβ鎖は、治療用TCR遺伝子をヒトTCRαまたはTCRβ定常遺伝子座のエクソンにインフレームでノックインすることにも適合する。
【0044】
いくつかの態様において外因性アミノ酸変種は、抗体、ナノボディ、Fab断片またはダーピンによって検出および同定することができる。単一ドメイン抗体としても知られるナノボディは、単一の単量体可変抗体ドメインからなる抗体断片であり、抗体全体と同様に、特定の抗原に選択的に結合することができる。ダーピン(DARPin、設計されたアンキリンリピートタンパク質(designed ankyrin repeat proteins)の頭文字をとったもの)は、標識タンパク質との結合に高い特異性と高い親和性を典型的に示す遺伝子改変された抗体模倣タンパク質であり;ダーピンは、天然において高親和性のタンパク質間相互作用を仲介するタンパク質群である天然に生じるアンキリンタンパク質に由来する。いくつかの態様において外因性アミノ酸変種はある特定の抗体に結合し、そしてそのような抗体によって検出および同定することが可能な抗体エピトープを含む。エピトープは連続した配列であってもまたは非連続な配列であってもよい。いくつかの態様では、TRBC2の4番目および108-113番目はマウス由来である。いくつかの態様における標識タンパク質によるTCR改変T細胞の検出は、フローサイトメトリーによって検出可能な抗体染色に基づくものである。
【0045】
いくつかの態様において外因性アミノ酸変種は抗マウスTCR Cβ抗体H57によって検出および同定することができる。H57は、マウスTCR Cβドメインに特異的に結合するが、ヒトTCR Cβドメインには結合しない。ヒトTCR CβドメインにH57によって検出可能なマウスエピトープを導入すると、得られた標識タンパク質は、天然のヒトTCR Cβドメインを有するタンパク質から区別することができる。他種のTCRαまたはTCRβ定常ドメイン(それぞれTRACおよびTRBC)に存在する任意の抗体エピトープドメインを、例えばマウス抗ラットTCR αβ抗体R73によって検出可能な抗体エピトープを、同じような様式で用いてもよい。
【0046】
いくつかの態様では、ヒトTRACまたはTRBCのアミノ酸の標的突然変異を用いて人工の抗体エピトープを作製し、それに対する抗体を産生してもよい。
【0047】
いくつかの態様では標識タンパク質を提供する。標識タンパク質は、そのような標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞の検出、単離または低減に用いることができ、前述した任意の態様の標識タンパク質を含む。いくつかの態様において遺伝子改変細胞は遺伝子改変T細胞を含む。いくつかの態様において遺伝子改変T細胞は治療用TCR遺伝子の導入によって改変されたT細胞を含む。「治療用TCR遺伝子」という用語は、所望の機能、例えば、宿主の免疫系が病気と闘うことを促進できることなどの機能を仲介する、TCRα鎖とTCRβ鎖の特定の組合せを指す場合がある。
【0048】
現在利用可能な技術に基づくTCR改変T細胞を検出するための手法には様々な欠点がある。典型的なところでは、TCR改変T細胞中でのTCRタンパク質の発現が、MHC多量体またはTCR Vドメインに特異的な抗体によって検出されることが挙げられる(アルトマン(Altman)ら、サイエンス(Science)、2006;ファイント(Faint)ら、ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッド(J Immunol Methods)、1999)。加えて、TCR Cβドメイン特異的抗体は、パン(pan)-αβTCR抗体として(クローンIP26;ショバー(Schober)ら、ネイチャー・バイオメディカル・エンジニアリング(Nat Biomed Eng)、2019)、またはヒトTRBC1ドメイン(クローンJOVI-1;マシオシア(Maciocia)ら、ネイチャー・メディシン(Nat Med)、2017)もしくはマウスTrbc1/2ドメイン(クローンH57;モール(Mall)ら、米国癌学会誌、2016)を有するTCRを検出するために利用されてきている。しかしながら、MHC多量体は各TCRの特異性に対して特異的に生成する必要があり、HLAアレル拘束性によって特定のTCRには用いることができず;TCR Vドメイン特異的抗体は特定のTCR Vドメインにしか用いることができず;TCR Vドメイン特異的抗体とTCR Cβドメイン特異的抗体は、TCR改変T細胞が同じTCR VドメインまたはTCR Cβドメインを利用する他のT細胞のプール中に存在する時には利用できない。加えて、大きなマウスタンパク質配列によって免疫原性が高まる可能性があることから、全長のマウスTCR定常ドメインの利用は望ましくなく;さらに、全長のマウスTCR定常ドメインに基づく治療用TCR遺伝子構築物はヒトTCRαまたはTCRβ定常遺伝子座にインフレームで組み込むことができないため、効率的に発現させるためには外因性ポリAシグナルと共送達する必要がある。その結果、全長のマウスTCR定常ドメインに必要な遺伝子鋳型のサイズが大きくなり、部位特異的ノックインアプローチを利用した場合の遺伝子導入効率に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0049】
同様に、現在利用可能な技術に基づくTCR改変T細胞を単離するための手法にも様々な欠点がある。そのような手法は、何らかの抗体を使用する単離方法を利用している(例えば、フローサイトメトリーまたは磁気ビーズを使った単離を利用している)。もっとも一般的なところでは、TCR改変T細胞の単離は、MHC多量体に基づく試薬によって実施される(ナベル(Knabel)ら、ネイチャー・メディシン、2002)。前述したように、MHC多量体は各TCRの特異性に対して特異的に生成する必要があり、HLAアレル拘束性によって特定のTCRには用いることができない。他の単離方法としては、以下のものが挙げられる:
-TCR抗原結合ドメイン中に配置された抗体エピトープの利用(例えば、キーバック(Kieback)ら、米国科学アカデミー紀要、2008による記載がある)。アミノ酸の付加や修飾は、結合ドメインの構造を変化させる可能性があるため、TCR抗原の微細な特異性やTCRの感度に干渉することが想定される。従ってこの概念は、個々のTCRについて実現に向けた研究が必要であり、いくつかのTCRについては抗原結合に影響を与える可能性が高い。
-TCR VドメインまたはヒトTRBC1に特異的な抗体の利用。これもまた前述したように、このような試薬は特定のTCR Vドメインにしか利用できず、また、TCR改変T細胞が同じTCR VドメインまたはヒトTRBC1を利用する他のT細胞のプール中に存在する時には利用できない。
-治療用TCR遺伝子とともに発現される細胞表面マーカータンパク質の利用、例えば、切断型LNGFRまたはEGFRタンパク質の共発現の利用。しかしながら、このような細胞表面マーカーを含めると導入遺伝子のサイズが大きくなり、遺伝子改変の効率やその後の導入遺伝子の発現が損なわれるだけでなく、改変したT細胞の免疫原性が高まる可能性がある。
【0050】
加えて、現在利用可能な技術に基づくTCR改変T細胞を低減させるための手法にもまた、様々な欠点がある。TCR療法やCAR療法を含む養子T細胞療法のための「安全スイッチ」が数多く報告されており、報告されたシステムとしては、以下のものが挙げられる:
-TCR抗原結合ドメイン中に配置された抗体エピトープの利用(例えば、キーバックら、米国科学アカデミー紀要、2008による記載がある)。この概念は、個々のTCRについて試験する必要があり、一部のTCRについては抗原結合に影響を与える可能性が高い。
-単純ヘルペスウイルスTK(ボニーニ(Bonini)ら、サイエンス、1997;シセリ(Ciceri)ら、ランセット・オンコロジー(Lancet Oncol)、2009)または誘導性カスパーゼ9(ストラーソフ(Straathof)ら、ブラッド(Blood)、2005;ディスタシ(DiStasi)ら、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N Engl J Med)、2011)などの、インビボで選択的に活性化できるさらなる導入遺伝子の利用。しかしながら、このようなマーカーを含めると、細胞内に導入する必要がある導入遺伝子のサイズが大きくなり、遺伝子改変の効率とその後の導入遺伝子の発現が損なわれる可能性がある。
【0051】
現在利用可能な技術と比較して、本明細書で提供されるいくつかの態様は、以下に挙げる利点のうちの1つ以上を提供することができる:
1.免疫原性の低さ:いくつかの態様では、ヒトTRBCドメインに限られた数のアミノ酸変異を導入する。コーエンら、米国癌学会誌、2006に記載されているように、全長マウスTrbc2遺伝子は、ヒトTRBC2遺伝子と比較して、33の異なるアミノ酸を含んでいる。一方、いくつかの態様に記載するように、マウスエピトープ含有TRBC2遺伝子は、ヒトとは異なるマウス由来のアミノ酸を、10以下、例えば9つ、8つ、7つ、6つ、5つ、4つ、3つ、または2つだけ含む。
2.全ヒトTCRに対する広範かつ汎用的な有用性:TCR Vドメイン特異的抗体、MHC多量体またはTCRフレームワークの修飾などの代替技術とは異なり、本明細書に記載のいくつかの態様は、TCR Vドメインの使用、MHC拘束性および抗原特異性とは無関係に全てのTCRに利用することができる。
3.高い特異性での検出:いくつかの態様では、内在性TCR鎖を遺伝的にノックアウトしなくても、高い特異性でTCR改変T細胞を検出することができる。TCR Vドメイン特異的抗体やヒトTRBC1特異的抗体などの代替技術では内在性TCR鎖の大部分と特異的に反応してしまい、TCR改変T細胞の正確な検出および特異的な単離、または低減が妨げられる可能性がある。
4.ヒトTCR遺伝子座のエクソンに治療用TCR遺伝子をインフレームでノックインすることができる:例えば、ショバーら(ネイチャー・バイオメディカル・エンジニアリング、2019)によって記載されている、全長マウス化Trbc遺伝子を使った治療用TCR構築物のTCRα遺伝子座へのノックインでは、全長マウス化Trac遺伝子と、外因性転写終結因子としてのウシ成長ホルモン(Bovine Growth Hormone)のポリ(A)配列とを共送達する必要がある。対して、いくつかの態様において記載のマウスエピトープ含有TRBC2遺伝子を利用するTCRβ鎖は、全長ヒトTCRα鎖と効率的に対合できるため、TCRα遺伝子座エクソンへのインフレームでのノックインおよび内在性転写終結因子と適合する。このことは、治療用遺伝子構築物の大きさがおよそ500塩基対小さくなり、それによって遺伝子改変の工程における効率が高まることを意味している。
5.治療用TCR遺伝子カセットの大きさの実質的な増加を回避する:いくつかの態様は、選択したヒトTCR定常ドメインのいくつかのアミノ酸を、マウスの対応物に変異させることに基づいている。TCR改変T細胞の検出、単離および/または低減に用いられる代替技術には、付加的なタンパク質の利用が含まれる(例えば、切断型EGFR、切断型LNGFR、HSV-TKおよび誘導性カスパーゼ9)。それによって、送達される導入遺伝子の大きさが増大し、遺伝子改変の効率やそれに続く導入遺伝子の発現が損なわれる可能性がある。さらに、導入遺伝子に細胞表面で発現する付加的なタンパク質を含めることによって、改変T細胞の免疫原性が高まる可能性がある。
【0052】
いくつかの態様では、治療用TCR遺伝子の導入によって改変されたT細胞は癌の治療に用いられる。いくつかの態様において癌は固形癌である。治療用TCR遺伝子は、インビトロで変異され、ファージ、酵母またはT細胞提示系によって組換えTCRライブラリーとして発現されたTCR鎖から選択することができる。治療用TCR遺伝子とは、個別の患者ごとの癌生検に由来する新生抗原特異的TCR遺伝子をも指し得る。そのような新生抗原TCR遺伝子は、同定された後、遺伝子工学によって患者のT細胞に導入され、それによって、T細胞の抗原特異性が腫瘍新生抗原に向けられる。最終的に遺伝子改変T細胞は、癌を治療するために静脈内注入によって患者に戻される。これらの態様は、改変養子T細胞療法に適した全ての癌に適用できる。
【0053】
いくつかの態様では、治療用TCR遺伝子構築物中に標識タンパク質を入れるために、マウスエピトープをヒトTCR Cβドメインに導入して、遺伝子改変T細胞内に導入されたTCRを抗マウスTCR Cβ抗体H57によって検出できるようにする。H57は、クボ(Kubo)ら、米国免疫学会誌(J Immunol)、1989によって最初に報告された抗体である。いくつかの態様では、H57-597が用いられる。H57-597は、TCRβ鎖のC領域エピトープを指向するハムスターmAbである。H57-597抗体はγ/δTCRを有するT細胞とは交差反応しない。固定化されたまたは可溶性のH57-597抗体は、α/βTCRを有するT細胞を活性化し得る。本明細書に記載のいくつかの態様は、治療用TCR遺伝子の導入によって改変された遺伝子改変T細胞を検出、単離または低減するために用いられる標識タンパク質に関し、ここで標識タンパク質はマウスTCR Cβドメインに由来し、そしてヒトTCR Cβ2ドメイン中に存在するアミノ酸を変異させることによって、ヒトTCR Cβ2ドメインに導入される。
【0054】
いくつかの態様では、癌治療用の新規TCR遺伝子で改変された細胞を検出、単離または低減するための標識タンパク質であって、本明細書で提供する態様のいずれか一つの標識タンパク質を含む、標識タンパク質を提供する。
【0055】
いくつかの態様は、前述した態様のいずれか一つの標識タンパク質を有する遺伝子改変細胞を検出、単離または低減するために用いられる、その標識タンパク質を認識する抗体または結合剤を含む、キットに関する。いくつかの態様においてキットは、マウスエピトープ含有TCRβ鎖を発現しているT細胞を単離または低減するために使用可能な、H57抗体に結合した磁気ビーズを含む。いくつかの態様においてキットは、組織内の遺伝子改変細胞を検出するための染色剤を含む。いくつかの態様では、遺伝子改変細胞はT細胞を含む。いくつかの態様では、T細胞は治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている。いくつかの態様では、治療用TCR遺伝子の導入によって改変されたT細胞は癌の治療に用いられる。
標的化送達に用いる標識タンパク質に関する様々な態様
【0056】
いくつかの態様は、そのような標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に1つ以上の搭載物を標的化送達するために用いられる標識タンパク質であって、本明細書に記載の態様のいずれか一つの標識タンパク質を含む、標識タンパク質に関する。
【0057】
いくつかの態様において1つ以上の搭載物の送達は、抗体、抗体模倣タンパク質または他の任意の抗原結合足場への接合によって達成される。いくつかの態様において1つ以上の搭載物の送達は、H57抗体への接合によって達成される。
【0058】
いくつかの態様では、送達される搭載物はタンパク質、小分子、核酸、リポソーム、またはナノ粒子である。いくつかの態様において搭載物は二重または三重特異性抗体である。
【0059】
いくつかの態様において送達される搭載物はサイトカインである。いくつかの態様において送達される搭載物は、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-21、IL-23、IL-27、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、およびTNF-αの群から選択される。いくつかの態様においてサイトカインは、その配列が、その天然の受容体分子との相互作用を調節するように、改変されている。
【0060】
いくつかの態様において搭載物は、T細胞によって発現される受容体分子のアゴニストまたはアンタゴニストである。いくつかの態様においてアゴニストは、CD27、CD28、CD137またはCD278に結合する。いくつかの態様においてアンタゴニストは、TGF-β受容体、PD-1、CTLA-4、ビスタ(Vista)、ステロイド受容体またはA1-、A2A-、A2B-もしくはA3-アデノシン受容体に結合する。
【0061】
いくつかの態様において搭載物は、T細胞の活性化、分化、増殖、生存またはエフェクター機能を調節する小分子である。いくつかの態様において小分子は、TGF-β受容体、PD-1、CTLA-4、ビスタ、ステロイド受容体またはA1-、A2A-、A2B-もしくはA3-アデノシン受容体いずれかのシグナル伝達を阻害する。
【0062】
いくつかの態様において搭載物は、T細胞の活性化、分化、増殖、生存またはエフェクター機能を調節する核酸である。いくつかの態様において核酸は、miRNA、shRNAまたはsiRNAを含む。
【0063】
いくつかの態様は、標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に1つ以上の搭載物を標的化送達するための方法に関する。この方法は、a)1つ以上の搭載物と、標識タンパク質に特異的に結合する結合剤とを含む複合体を得ること、およびb)遺伝子改変細胞と複合体とを接触させること、を含む。
【0064】
いくつかの態様において結合剤は、抗体、抗体模倣タンパク質、または他の任意の抗原結合足場である。
【0065】
いくつかの態様において1つ以上の搭載物は、タンパク質、小分子、核酸、リポソーム、またはナノ粒子である。
【0066】
本明細書において認識されているように、現在利用可能な技術に基づく改変T細胞に搭載物を標的化送達するための手法には様々な欠点がある。ほとんどの手法が、細胞表面に存在する内在性マーカーに結合する抗体(例えばCD3eまたはPD-1)を用いて、マウスT細胞または非改変ヒトT細胞のいずれかを標的とするものである。いくつかの研究は、脂溶性のトレーサー蛍光色素であるDiDで標識したペグ化リポソームに抗Thy1.1F(ab')2断片を結合させて、蛍光リポソームを養子移植したマウスT細胞に標的化したことを報告している(チョン(Zheng)ら、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(J Control Release)、2013)。別の研究は、TGFβR1阻害剤であるSB525334を負荷したペグ化リポソームに抗Thy1.1F(ab')2断片を結合させて、TGFβ受容体阻害を養子移植したマウスT細胞に標的化させたことを報告している(チョンら、エー・シー・エス・ナノ(ACS Nano)、2017)。その他に、PLGAに基づくナノ粒子をペグ化し、TGFβR1阻害剤であるSD-208を負荷し、それに抗PD-1F(ab')2断片を結合させたものを使って、TGFβ受容体阻害をマウスT細胞に標的化させた報告もある(シュミット(Schmid)ら、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nat Commun)、2017)。他には、抗CD3εF(ab')2断片を、ピギーバック(piggyBac)逆方向反復と隣接しているCD19 CAR遺伝子をコードしているプラスミドと機能亢進性ピギーバックiPB7トランスポザーゼ遺伝子をコードしているプラスミドの2つのDNAプラスミドを負荷したナノ粒子に結合させ、これを使って、CAR DNA構築物をマウスT細胞に標的化させた記述もある(スミス(Smith)ら、ネイチャー・ナノテクノロジー(Nature Nanotech)、2017)。その他に、Foxo13A変異型転写因子をコードしているmRNAを負荷したナノ粒子に抗CD3ε抗体を結合させて、転写因子のmRNAをヒトT細胞に標的化させた報告もある(モフェット(Moffett)ら、ネイチャー・コミュニケーションズ、2017)。これ以外にも、TGFβR1阻害剤であるSB525334を負荷した両親媒性金ナノ粒子に抗CD8α VHHナノボディを結合させて、TGFβ受容体阻害をマウスT細胞に標的化させた報告がある(ヤング(Yang)ら、バイオマテリアルズ・サイエンス(Biomater Sci)、2019)。しかしながらこれらの技術は、養子T細胞療法に用いられる改変ヒトT細胞に搭載物を標的化送達するための解決策を提供するものではない。
【0067】
IL-2Rβγには結合するがIL-2Rαには結合しないように改変された変異型IL-2ポリペプチド(IL2v)に融合させた抗PD-1抗体を使用して、IL-2サイトカイン活性をヒトT細胞およびNK細胞に標的化することを可能にする技術もある(WO/2018/184964、2018)。他の研究は、抗CD8α抗体と、野生型マウスIFN-αよりもマウス細胞上での活性がおよそ100分の1に低下するように改変された変異型ヒトIFN-αとを融合させて、サイトカインであるI型インターフェロンの活性をマウスT細胞およびcDC1 DCへと標的化させたことについて記述している(ヒュッゲ(Huyghe)ら、エンボ・モレキュラー・メディシン(EMBO Mol Med)、2020)。その他にも、抗PD-1抗体と、活性が野生型遊離IL-21の1000分の1未満になるように改変された変異型IL-21ポリペプチドとを融合させて、サイトカインであるIL-21の活性をヒトT細胞へと標的化させた報告もある(シェン(Shen)ら、フロンティアーズ・イン・イムノロジー(Front Immunol)、2020)。しかしながらこれらの技術は、養子T細胞療法で用いられる改変ヒトT細胞にサイトカイン活性を標的化送達するための解決法を提供するものではない。
【0068】
いくつかの研究では、導入された切断型HER2マーカー遺伝子に結合するダーピンを使って、改変ヒトCAR T細胞を標的としている。これには、IL-2Rβγには結合するがIL-2Rαとは結合しないように改変されたネオ-2/15およびIL-2ならびにIL-15模倣物と、抗HER2ダーピンG3とを融合させたものを使って、サイトカインであるIL-2とIL-15を、形質導入マーカー遺伝子として切断型HER2を発現しているヒトCAR T細胞に標的化することが含まれる(リオン(Leung)ら、AACR2020、要旨番号2222、2020)。しかしながら、養子T細胞療法に用いられる改変ヒトT細胞には、治療用TCRまたはCAR遺伝子に加えてさらなるマーカー遺伝子を共導入することはないため、この方法は、養子T細胞療法に用いられる改変ヒトT細胞にサイトカイン活性を標的化送達するための解決策を提供するものではない。
【0069】
本明細書に記載のいくつかの態様は、前述した欠点のうちの1つ以上を克服し得る。本明細書に記載の種々の態様は、さらなるマーカー遺伝子の導入を必要とせずに、従って、治療用遺伝子カセットの大きさを増大することなく、遺伝子編集効率を最大化しながら、改変ヒトT細胞を標的とするものである。
【0070】
いくつかの態様においてTCR Cβドメインマウスエピトープの態様は、さらなるマーカー遺伝子を導入する必要がなく、従って、治療用遺伝子カセットの大きさを増大させることなく、遺伝子編集効率を補助しながら改変ヒトT細胞を標的とすることができるという点で、前述した技術とは異なる。
2Aペプチドエピトープに関する様々な態様
【0071】
いくつかの態様は、TCR鎖に挿入されるか、またはTCR鎖の一部を構成し得る抗体エピトープに関する。いくつかの態様においてエピトープは、そのような抗体エピトープを発現している遺伝子改変細胞を検出するために用いることができ、ここで抗体エピトープは、TCR鎖またはキメラ抗原受容体に結合されている。いくつかの態様において遺伝子改変細胞は、抗体エピトープを含有するペプチドをコードしているヌクレオチド構築物を含む。いくつかの態様において遺伝子改変細胞の検出は、フローサイトメトリーによって検出可能な抗体染色に基づくものである。抗体は、抗体エピトープに特異的に結合および認識し得る。
【0072】
図2A~2Dに示すように、いくつかの態様において抗体エピトープはTCR鎖のC末端またはN末端に結合されており、ここでTCR鎖は定常鎖または可変鎖のいずれであってもよい。他の態様では、抗体エピトープはTCR鎖に挿入される。いくつかの態様では、抗体エピトープはTCRαとTCRβ鎖とを連結するのに用いられる。いくつかの態様では、抗体エピトープの配置はTCR鎖を発現させる順番に依存する。いくつかの態様には、抗体エピトープ配列を有するタンパク質をコードしている、TCR以外の遺伝子が含まれ得る。例としては、例えばT細胞の機能を調節するために二番目の導入遺伝子に融合される、キメラ抗原受容体(CAR)導入遺伝子が挙げられる。いくつかの態様には、2つ以上の抗体エピトープが含まれ得る。いくつかの態様は、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10の抗体エピトープを有する場合があり、ここでそれぞれの抗体エピトープは、同じであってもまたは異なっていてもよい。これらの態様においては、エピトープを特異的に検出できる抗体がある限り、いかなる抗体エピトープをも用いることができる。いくつかの態様において用いられる抗体はフローサイトメトリーでの使用に適合するものである。いくつかの態様では、抗体エピトープはTCR定常ドメインのC末端に結合されるため、細胞内部に局在する。これによって抗体エピトープが抗体媒介性免疫応答を利用できないため、免疫原性が低下する。いくつかの態様において抗体エピトープは、TCRの特異性と感受性への干渉を回避するために、TCR定常ドメインに結合される。
【0073】
いくつかの態様において遺伝子改変細胞はT細胞を含む。いくつかの態様においてT細胞は、治療用TCRまたはCAR遺伝子の導入によって改変されている。いくつかの態様において治療用TCRまたはCAR遺伝子の導入によって改変されているT細胞は癌の治療に用いられる。「治療用TCR遺伝子」という用語は、所望される機能、例えば、宿主の免疫系が疾患と戦うのを促進できるなどの機能を媒介する、TCRα鎖とTCRβ鎖の特定の組み合わせを指す場合がある。
【0074】
いくつかの態様において抗体エピトープは2Aペプチド配列、HA.11エピトープタグ、FLAGエピトープタグ、Mycエピトープタグ、またはV5エピトープタグを含む。これらのエピトープタグは、フローサイトメトリー適合性の抗体を使って、特異的に検出することができる。いくつかの態様において抗体エピトープは、2Aペプチドと同数までのアミノ酸を含有するペプチドを含む。当業者であれば、2Aペプチドと同数までのアミノ酸を含む限り、いかなるエピトープタグをも抗体エピトープの作製に用いてもよいことを理解する。
【0075】
2Aペプチド、または2A自己切断型ペプチドとは、ウイルスに由来する、18~22アミノ酸長のペプチドである。生命科学の研究では、2Aペプチドファミリーのうちの4つのメンバーが用いられることが多く、それらは、P2A、T2A、E2A、またはF2Aである。P2Aはブタテッショウウイルス(porcine teschovirus)-1 2Aに由来し;T2Aはゾセア・アシグナ(thosea asigna)ウイルス2Aに由来し;E2Aはウマ鼻炎A(equine rhinitis A)ウイルスに由来し;F2Aは口蹄疫(foot-and-mouth disease)ウイルス18に由来する。
【0076】
いくつかの態様において2Aペプチドは、P2A、T2A、E2A、またはF2Aであってよい。いくつかの態様では2Aペプチドは2つの目的を有する:1つ目は、2つのタンパク質配列の発現を結びつけられるようにすることで;2つ目は、その2つのタンパク質配列のうちの少なくとも1つを検出できるようにするため、である。本明細書で使用する「遺伝子」とは、2Aペプチドなどのペプチドのうちの1つをコードすることに関して用いられる場合、そのペプチド(例えば2Aペプチド)をコードするヌクレオチド配列を指す。これは、天然に生じる遺伝子の配列を指すことを意図するものではなく、関連するペプチドをコードする核酸配列の省略表現を意味する。
【0077】
いくつかの態様において抗体エピトープは、2Aペプチド配列断片またはそれと少なくとも90%同一の配列を含み、ここで2Aペプチド配列は全長2A配列ではない。
【0078】
いくつかの態様においてペプチド配列は配列番号1の配列(CGDVEENPG)を含む。いくつかの態様においてペプチド配列は配列番号6の配列(GDVEENPG)を含む。いくつかの態様においてペプチド配列は配列番号7の配列(GDVESNPG)を含む。いくつかの態様においてペプチド配列は、配列番号1と少なくとも75%同一の配列を含む。
【0079】
いくつかの態様において抗体エピトープはモノクローナル抗2Aペプチド抗体3H4によって同定することができる。3H4は、近年、ノバス・バイオロジカルズ(Novus Biologicals)によって開発された抗体であり、ウェスタンブロット法(ユー(Yu)ら、バイラシズ(Viruses)、2020)、免疫沈降、および免疫組織染色/免疫蛍光法に用いることができる。
【0080】
いくつかの態様は、治療用TCR遺伝子の導入によって改変された遺伝子改変T細胞の検出に用いる抗体エピトープであって、前述した態様のいずれか一つの抗体エピトープを含む、抗体エピトープに関する。
【0081】
いくつかの態様は、癌治療用の新規TCRまたはCAR遺伝子で改変された細胞を検出するための抗体エピトープであって、前述した態様のいずれか一つの抗体エピトープを含む、抗体エピトープに関する。
【0082】
いくつかの態様は、前述した態様のいずれか一つの抗体エピトープを発現している遺伝子改変細胞を検出するために用いられるキットに関する。いくつかの態様において遺伝子改変細胞はT細胞を含む。いくつかの態様においてT細胞は治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている。いくつかの態様において、治療用TCR遺伝子の導入によって改変されているT細胞は癌の治療に用いられる。いくつかの態様においてキットは、抗体エピトープに特異的に結合する抗体または結合剤を含む。いくつかの態様において抗体または結合剤は、蛍光または検出可能なマーカーを含む場合がある。
【0083】
いくつかの態様は、2Aペプチド配列またはそれと少なくとも90%同一な配列を発現することが可能な遺伝子を含む遺伝子構築物に関し、ここで構築物は、単一の読み取り枠から複数のタンパク質を発現するように構成されており、かつ、遺伝子は遺伝子構築物の大きさを25アミノ酸より大きくしない。
【0084】
いくつかの態様において2Aペプチド配列は、2Aペプチド配列断片またはそれと少なくとも90%同一な配列を含む。この2Aペプチド配列は全長2A配列ではない。いくつかの態様において2Aペプチド配列は、配列番号2、配列番号3、配列番号6の配列、または配列番号2、配列番号3、もしくは配列番号6と少なくとも75%同一の配列を含む(配列番号2=EGRGSLLTCGDVEENPGP;配列番号3=ATNFSLLKQAGDVEENPGP;配列番号6=GDVEENPG)。
【0085】
遺伝子改変T細胞を用いる細胞治療では、それらT細胞の抗原特異性を再指示(リダイレクト)する必要がある。T細胞の抗原特異性を再指示するためには、外因性のTCRα鎖配列とTCRβ鎖配列の両方を導入する必要がある。従って遺伝子改変効率を最大化するためには、治療用TCR遺伝子構築物は、2つのTCR遺伝子を同時に容易に発現するものでなくてはならない。このことを達成する方法の一つが、2つのタンパク質を単一の読み取り枠から等モル比で共発現させることができる2A自己切断型ペプチド配列の利用である(リャン(Ryan)およびドリュー(Drew)、エンボ・ジャーナル(EMBO J)、1994)。注目すべきことに、2Aペプチドに基づくTCR導入遺伝子は、IRESに基づくTCR導入遺伝子よりも高い発現と機能性を示し(ライセガン(Leisegang)ら、ジャーナル・オブ・モレキュラー・メディシン(J Mol Med)、2008)、これは、導入したTCR鎖の対合性が高いためだろうと考えられている。
【0086】
いくつかの態様では、治療用TCR遺伝子構築物中で、TCR CαドメインまたはTCR Cβドメイン(発現の順序による)に共有結合させた介在性エピトープ(例えばマーカーまたは標識)配列、例えば2Aペプチド配列を使用して、TCRα鎖とTCRβ鎖が共発現される。通常、哺乳類細胞中には2Aペプチド配列は存在しないため、そのようなペプチドは、遺伝子改変T細胞を追跡するためのタンパク質マーカーとしても機能し得る。改変T細胞を未改変T細胞から区別するためには、単一細胞レベルで改変T細胞を検出することが可能な抗体試薬を用いることができる。モノクローナル抗2Aペプチド抗体3H4を使って治療用TCR遺伝子を検出することが可能な、フローサイトメトリーに基づく染色手順が開発されている。2AペプチドマーカーはTCRβ鎖の細胞内ドメインに共有結合しているため、この染色手順を膜透過性細胞において実施することが重要である。これら2Aペプチド結合型TCRβ鎖により、3H4抗体を使って効率的にTCR改変T細胞を検出することが可能になり、野生型T細胞に由来するバックグラウンドシグナルも非常に低く抑えられる。さらに、これらの2Aペプチド結合型TCRβ鎖は、治療用TCR遺伝子をヒトTCR遺伝子座のエクソンにインフレームでノックインするのにも適合する。
【0087】
現在利用可能な技術と比較して、TCR改変T細胞を検出、単離または低減するための、本明細書の様々な態様で記載の抗体エピトープに基づくタンパク質マーカーは、以下のような利点を有する:(a)治療用遺伝子構築物の大きさを25アミノ酸より大きくしない、(b)免疫原性を最小限に抑えられる、(c)TCRの抗原特異性に応じた最適化の必要なしに、全ての治療用TCR遺伝子に用いることができる、および(d)全長ヒトTCR定常ドメインの利用と適合する。細胞内に局在することから、このマーカーは検出には適しているが、治療用TCRを発現するように改変されたT細胞を単離する、または低減させるためには適していない。
【0088】
より具体的には、2Aペプチドエピトープを含む抗体エピトープに関する、現在利用可能な技術を上回る利点としては、いくつかの態様において、以下のうちの1つ以上が挙げられ得る:
1.免疫原性の低さ:本開示の発明では、代替技術、例えば全長マウスTCR定常ドメインなどと比較して、限られた数のアミノ酸変異だけを導入する。注目すべきは、2Aペプチド配列はウイルスに由来するが、免疫適格性の個体では、免疫応答を誘導しないようである(アーバー(Arber)ら、ジーン・セラピー(Gene Ther)、2013)。
2.全ヒトTCRに対する広範かつ汎用的な有用性:TCRの抗原特異性に応じた最適化の必要なしに、全ての治療用TCR遺伝子に用いることができる。
3.高い特異性での検出:詳細は実施例3および4で見ることができる。
4.ヒトTCR遺伝子座のエクソンに治療用TCR遺伝子をインフレームでノックインすることができる。
5.治療用TCR遺伝子カセットの実質的な増加を回避する:2Aペプチドは小さいため、2Aペプチドを付加しても導入遺伝子の大きさは実質的に変化しない。より大きな導入遺伝子を使用すると、通常、組み込み効率が下がり、遺伝子を送達する最中のDNA毒性が上がるため、このことは重要である。
【0089】
いくつかの態様は、前述した態様のいずれか一つの標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に関する。いくつかの態様は、前述した態様のいずれか一つの抗体エピトープを発現している遺伝子改変細胞に関する。いくつかの態様は、前述した態様のいずれか一つの遺伝子構築物を含んでいる遺伝子改変細胞に関する。
【0090】
標識タンパク質または抗体エピトープは、任意の好適な細胞に導入することができる。好適な細胞としては、これらに限定するものではないが、哺乳類細胞、昆虫細胞、酵母、および細菌が挙げられる。いくつかの態様では好適な担体として、ウイルス、酵母、細菌、およびファージが挙げられる。本開示では、簡略化のために全体を通じて「細胞」という用語を用いるが、本明細書では、このような「細胞」の開示は全て、様々な形態のT細胞(例えば不死化T細胞)、酵母および細菌だけでなく、より広く、ウイルスやファージを含む任意の担体にも用いられ得ることを意図している。従って、本明細書で使用される「細胞」(コンビナトリアルライブラリーを導入してもよい細胞に関連する)についての開示は、真核細胞、原核細胞を含む場合があり、また、ウイルスやファージを担体として用いることができる選択肢も指す。細胞は、細胞株であっても、不死化細胞であっても、または初代細胞であってもよい。いくつかの態様において細胞は、ヒト細胞であるか、またはヒト細胞由来である。いくつかの態様では、細胞の集団は不死化T細胞または初代T細胞を含む。いくつかの態様において細胞は、その細胞の機能特性の内在的な発現またはバックグラウンドの発現を抑制するまたは除去するために改変、例えば遺伝子改変、される。いくつかの態様において細胞は、標識タンパク質または抗体エピトープが導入された時に、その細胞の機能特性を示す能力が向上するように改変、例えば遺伝子改変、される。いくつかの態様において細胞は、培地での集団の成長および/または維持が促進されるように改変、例えば遺伝子改変、される。いくつかの態様において細胞集団は、細胞に少なくとも1つの機能特性を付与する内在性ポリペプチドを含まない。いくつかの態様において細胞は、CD4、CD8およびCD28のうちの1つ以上の発現を、導入するまたは増強するまたは除去するまたは抑制するように遺伝子改変される。いくつかの態様において遺伝子改変細胞はT細胞である。
【0091】
本明細書に記載の様々な態様を裏付けるいくつかのデータを
図3~9に示す。これらの態様や他の態様では、表1に挙げた配列が有用であろう。
図10~17にも、以下の表から種々の配列を示した。
【0092】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【0093】
図3は、種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示している。huTRBC1は全長ヒトTRBC1配列を;muTrbc2はポリAシグナルを除去した全長マウスTrbc2配列を;muTrbc2-BGHpAはBGHのポリAシグナルを付加した全長マウスTrbc2配列を;huTRBC1-muFGは、マウスTrbc2のFGループ(推定H57結合エピトープ;ワン(Wang)ら、エンボ・ジャーナル、1998)を組み込んだヒトTRBC1配列を示す。ヒト初代CD3
+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPとTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの5日後に細胞を回収し、APC抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号109212、バイオレジェンド(BioLegend))とPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)との共染色によって分析した。このデータは、全長マウスTrbc2配列を使用した場合、TCRの発現にポリAシグナルが有用であること、およびH57抗体によって全長マウスTrbc2配列を発現している細胞を認識できることを示している。しかしながら、ヒトTRBC1配列にマウスTrbc2のFGループを組み込んでも、TCRを発現させることはできるが、H57抗体による認識には十分でなかった。
【0094】
図4は、種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示している。huTRBC1は全長ヒトTRBC1配列を;muTrbc2-BGHpAはBGHポリAシグナルを付加した全長マウスTrbc2配列を;huTRBC2-muABFGはマウスTrbc2 AとBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループ(推定H57結合エピトープ;ワンら、エンボ・ジャーナル、1998およびササダら、実験医学雑誌、2002)を組み込んだヒトTRBC2配列を示す。ヒト初代CD3
+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPとTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの5日後に細胞を回収し、APC抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号109212、バイオレジェンド)とPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)との共染色によって分析した。このデータは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループをヒトTRBC2配列に組み込むだけで、TCRの発現とH57抗体による認識が可能になることを示している(アミノ酸変異はK4R、F7T、Y37F、N106E、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113S、A114Pとなっている)。
【0095】
図5は、種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示している。huTRBC2は全長のヒトTRBC2配列を;huTRBC2-muABFGは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループ(推定H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2配列を;muABFG R4Kは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(R4K)ヒトTRBC2配列を;muABFG T7Fは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(T7F)ヒトTRBC2配列を;muABFG F37Yは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(F37Y)ヒトTRBC2配列を;muABFG E106Nは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(E106N)ヒトTRBC2配列を;muABFG K108Eは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(K108E)ヒトTRBC2配列を;muABFG P110Tは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(P110T)ヒトTRBC2配列を;muABFG E111Qは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(E111Q)ヒトTRBC2配列を;muABFG G112Dは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(G112D)ヒトTRBC2配列を;muABFG S113Rは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(S113R)ヒトTRBC2配列を;muABFG P114Aは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(P114A)ヒトTRBC2配列を示す。ヒト初代CD3
+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPとTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの5日後に細胞を回収し、APC抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号109212、バイオレジェンド)とPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)との共染色によって分析した。データは、H57抗体による認識を可能にするためには、マウスTrbc2のAストランドに由来する6のアミノ酸残基とFGループが必要なことを示している(アミノ酸はR4、K108、P110、E111、G112、およびS113となっている)。
【0096】
図6は、種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示している。huTRBC2は全長のヒトTRBC2配列を;huTRBC2-mu10は、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループ(推定H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2配列を;huTRBC2-mu6は、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループ(同定された最小H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2配列を;huTRBC2-mu7は、マウスTrbc2のAストランドに由来する7つのアミノ酸残基とFGループ(同定された最小H57結合エピトープ+T7)を組み込んだヒトTRBC2配列を示す。ヒト初代CD3
+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの6日後に細胞を回収し、APC抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号109212、バイオレジェンド)とPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)との共染色によって分析した。データは、ヒトTRBC2配列に、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループを組み込むだけで、TCRの発現とH57抗体による認識が可能になることを示している(アミノ酸変異は、K4R、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113Sとなっている)。
【0097】
図7は、種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示している。模擬エレクトロポレーションはエレクトロポレーションを行っていない細胞を;TRAC RNPはTRAC RNPのみをエレクトロポレーションした細胞を;TRAC RNP+環状修復鋳型は、TRAC RNPと環状修復鋳型をエレクトロポレーションした細胞を;TRAC RNP+直鎖状修復鋳型は、TRAC RNPと直鎖状修復鋳型をエレクトロポレーションした細胞を示す。ヒト初代CD3
+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの10日後に細胞を回収し、透過処理した後に、非抱合型マウス抗2Aペプチド抗体(クローン3H4、カタログ番号NBP2-59627、ノバス・バイオロジカルズ(Novus Biologicals))とBV421ラット抗マウスIgG1抗体(クローンA85-1、カタログ番号562580、BDバイオサイエンス(BD Biosciences))を使った染色により、FACS分析を行った。全ての染色において、BD透過/洗浄(Perm/Wash)緩衝液(1倍)を使用した。データは、T2Aペプチド配列を含むNY-ESO-1 1G4 TCRを発現するように改変したヒト初代T細胞を、抗2Aペプチド抗体で検出できることを示している。
【0098】
図8は、種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を示している。模擬エレクトロポレーションはエレクトロポレーションを行っていない細胞を;TRAC RNPはTRAC RNPのみをエレクトロポレーションした細胞を;TRAC RNP+環状修復鋳型は、TRAC RNPと環状修復鋳型をエレクトロポレーションした細胞を;TRAC RNP+直鎖状修復鋳型は、TRAC RNPと直鎖状修復鋳型をエレクトロポレーションした細胞示す。ヒト初代CD3
+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化した後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの11日後に細胞を回収し、透過処理した後、非抱合型マウス抗2Aペプチド抗体(クローン3H4、カタログ番号NBP2-59627、ノバス・バイオロジカルズ)、BV421ラット抗マウスIgG1抗体(クローンA85-1、カタログ番号562580、BDバイオサイエンス)およびPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)を使った染色によるFACS分析を行った。全ての染色において、BD透過/洗浄緩衝液(1倍)を使用した。データは、T2Aペプチド配列を含むNY-ESO-1 1G4 TCRを発現するように改変したヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体で検出できること、およびこの2Aペプチドの染色とTCR Vβ13.1の染色との間に相関があることを示している。
【0099】
図9は、CD19 CAR構築物を発現するようにレトロウイルスを介して形質導入したヒト初代T細胞のFACS分析を示している。模擬形質導入は形質転換されていない細胞を;Ly6G-Puroは、Ly6G-P2A-Puro構築物を有するレトロウイルスで形質転換した細胞を;1
st Gen CAR-Ly6G-Puroは、1
st Gen CD19 CAR-T2A-Ly6G-P2A-Puro構築物を有するレトロウイルスで形質転換した細胞を;2
nd Gen CAR-Ly6G-Puroは、2
nd Gen CD19 CAR-T2A-Ly6G-P2A-Puro構築物を有するレトロウイルスで形質転換した細胞を示す。ヒト初代CD3
+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、前述したようにレトロウイルスを感染させた。形質導入の14日後に細胞を回収し、透過処理した後、非抱合型マウス抗2Aペプチド抗体(クローン3H4、カタログ番号NBP2-59627、ノバス・バイオロジカルズ)、BV421ラット抗マウスIgG1抗体(クローンA85-1、カタログ番号562580、BDバイオサイエンス)およびPE/ダズル(Dazzle)594抗Ly6G抗体(クローン1A8、カタログ番号127647、バイオレジェンド)を使った染色によるFACS分析を行った。全ての染色において、BD透過/洗浄緩衝液(1倍)を使用した。データは、2Aペプチド配列を含むCD19 CAR構築物を発現するように改変されたヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体によって検出できること、およびこの2Aペプチドの染色と同じ構築物中に含まれる形質導入マーカータンパク質(Ly6G)の染色との間に相関が見られることを示している。
【0100】
本明細書において、2つ以上の定義されたステップを含む方法に言及する場合、これら定義されたステップは、いかなる順序で実施しても、または同時に実施してもよい(文脈からその可能性が排除される場合を除く)。また方法には、定義されたいずれかのステップの前に、定義された2つのステップの間に、または定義された全てのステップの後に実施される(文脈からその可能性が排除される場合を除く)、1つ以上の他のステップを含めてもよい。
【0101】
いくつかの態様では、以下のアレンジメントのうちのいずれかが想定される。
1.標識タンパク質であって、
TCR定常ドメイン;および
TCR定常ドメイン中に存在し、検出および同定が可能な配列を含む外因性アミノ酸変種を含んでいる、標識タンパク質。
2.該TCR定常ドメインがTCRαまたはTCRβ定常ドメインを含む、アレンジメント1の標識タンパク質。
3.該外因性アミノ酸変種が該TCR定常ドメインの配列に変異を含み、必要に応じて、該標識タンパク質がhuTRBC1-mur6またはhuTRBC2-mur6を含む、アレンジメント1の標識タンパク質。
4.該TCR定常ドメインが一つの種に由来し、該外因性アミノ酸変種が別の種に由来する、アレンジメント1の標識タンパク質。
5.該TCR定常ドメインがヒトに由来し、該外因性アミノ酸変種が非ヒト種に由来する、アレンジメント4の標識タンパク質。
6.該非ヒト種がマウスである、アレンジメント5の標識タンパク質。
7.該TCR定常ドメインが該ヒトTRBC2遺伝子によってコードされている配列を含む、アレンジメント3の標識タンパク質。
8.該外因性アミノ酸変種が該マウスTCR Cβドメインの配列を含む、アレンジメント3の標識タンパク質。
9.該変異が10のアミノ酸変異を含む、アレンジメント3の標識タンパク質。
10.該変異が非連続的配列を形成する、アレンジメント9の標識タンパク質。
11.10のアミノ酸変異が、配列番号8の付番方法によって、K4R、F7T、Y37F、N106E、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113S、A114Pと番号づけられる、アレンジメント9の標識タンパク質。
12.該変異が6のアミノ酸変異を含む、アレンジメント3の標識タンパク質。
13.6のアミノ酸変異がK4R、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113Sであり、必要に応じて該標識タンパク質が配列番号27を含む、アレンジメント12の標識タンパク質。
14.該外因性アミノ酸変種を抗体、ナノボディ、Fab断片またはダーピン(DARPin)によって検出および同定することが可能な、アレンジメント1の標識タンパク質。
15.該外因性アミノ酸変種が抗マウスTCR Cβ抗体H57-597で検出および同定することが可能な、アレンジメント1の標識タンパク質。
16.そのような標識タンパク質を発現している該遺伝子改変細胞の検出、単離または低減に用いられる標識タンパク質であって、アレンジメント1~15のいずれか1つに記載の標識タンパク質を含む、標識タンパク質。
17.該遺伝子改変細胞が遺伝子改変T細胞を含む、アレンジメント16の標識タンパク質。
18.該遺伝子改変T細胞が治療用TCR遺伝子の導入によって改変されたT細胞を含む、アレンジメント17の標識タンパク質。
19.治療用TCR遺伝子の導入によって改変された該T細胞が癌の治療に用いられる、アレンジメント18の標識タンパク質。
20.治療用TCR遺伝子の導入によって改変された遺伝子改変T細胞の検出、単離または低減に用いられる標識タンパク質であって、ここで該標識タンパク質が該マウスTCR Cβドメインに由来し、そして、該ヒトTCR Cβ2ドメイン中に存在するアミノ酸を変異させることによって該ヒトTCR Cβ2ドメインに導入される、標識タンパク質。
21.該癌治療用新規TCR遺伝子で改変した細胞の検出、単離または低減に用いられる標識タンパク質であって、アレンジメント1~20のいずれか1つに記載の標識タンパク質を含む、標識タンパク質。
22.アレンジメント1~21のいずれか1つに記載の標識タンパク質を有する遺伝子改変細胞の検出、単離または低減に用いられるキットであって、該標識タンパク質を認識する抗体を含む、キット。
23.該遺伝子改変細胞がT細胞を含む、アレンジメント22のキット。
24.該T細胞が治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている、アレンジメント23のキット。
25.治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている該T細胞が癌の治療に用いられる、アレンジメント24のキット。
26.そのような標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞への1つ以上の搭載物の標的化送達に用いられる標識タンパク質であって、アレンジメント1~15のいずれか1つに記載の標識タンパク質を含む、標識タンパク質。
27.1つ以上の搭載物の該送達が、抗体、抗体模倣タンパク質または他の任意の抗原結合足場への接合によって達成される、アレンジメント26の標識タンパク質。
28.該抗体が抗マウスTCR Cβ抗体H57-597である、アレンジメント27の標識タンパク質。
29.該1つ以上の搭載物がタンパク質、小分子、核酸、リポソーム、またはナノ粒子である、アレンジメント26の標識タンパク質。
30.該送達される搭載物がサイトカインである、アレンジメント26の標識タンパク質。
31.該サイトカインがIL-1β、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-21、IL-23、IL-27、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、およびTNF-αの群から選択される、アレンジメント30の標識タンパク質。
32.該サイトカインの配列が、その天然の受容体分子との相互作用を調節するように改変されている、アレンジメント30の標識タンパク質。
33.該サイトカインがT細胞によって発現される受容体分子のアゴニストまたはアンタゴニストである、アレンジメント30の標識タンパク質。
34.該搭載物がT細胞によって発現される受容体分子のアゴニストまたはアンタゴニストである、アレンジメント26の標識タンパク質。
35.該アゴニストがCD27、CD28、CD137またはCD278に結合する、アレンジメント34の標識タンパク質。
36.該アンタゴニストがTGF-β受容体、PD-1、CTLA-4、ビスタ(Vista)、ステロイド受容体またはA1-、A2A-、A2B-もしくはA3-アデノシン受容体に結合する、アレンジメント34の標識タンパク質。
37.該搭載物が、T細胞の活性化、分化、増殖、生存またはエフェクター機能を調節する小分子である、アレンジメント26の標識タンパク質。
38.該小分子が、TGF-β受容体、PD-1、CTLA-4、ビスタ、ステロイド受容体またはA1-、A2A-、A2B-もしくはA3-アデノシン受容体いずれかのシグナル伝達を阻害する、アレンジメント37の標識タンパク質。
39.該搭載物が、T細胞の活性化、分化、増殖、生存またはエフェクター機能を調節する核酸である、アレンジメント26の標識タンパク質。
40.該核酸がmiRNA、shRNAまたはsiRNAである、アレンジメント39の標識タンパク質。
41.該搭載物が二重または三重特異性抗体である、アレンジメント26の標識タンパク質。
42.標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞に1つ以上の搭載物を標的化送達するための方法であって、
該1つ以上の搭載物と該標識タンパク質に特異的に結合する結合剤とを含む複合体を得ること、および
該遺伝子改変細胞と該複合体とを接触させること
を含む、方法。
43.該結合剤が、抗体、抗体模倣タンパク質、または他の任意の抗原結合足場である、アレンジメント42の方法。
44.該1つ以上の搭載物が、タンパク質、小分子、核酸、リポソーム、またはナノ粒子である、アレンジメント42の方法。
45.そのような抗体エピトープを発現している遺伝子改変細胞の検出に用いられる抗体エピトープであって、ここで該抗体エピトープがTCR鎖またはキメラ抗原受容体(CAR)に結合している、抗体エピトープ。
46.該抗体エピトープが、TCR鎖のC末端もしくはN末端またはCARのC末端もしくはN末端に結合している、アレンジメント45の抗体エピトープ。
47.該抗体エピトープが、TCR鎖またはCARに挿入される、アレンジメント45の抗体エピトープ。
48.該遺伝子改変細胞がT細胞を含む、アレンジメント45の抗体エピトープ。
49.T細胞が、治療用TCRまたはCAR遺伝子の導入によって改変されている、アレンジメント48の抗体エピトープ。
50.治療用TCRまたはCAR遺伝子の導入によって改変されているT細胞が癌の治療に用いられる、アレンジメント49の抗体エピトープ。
51.該抗体エピトープが、TCRαとTCRβ鎖を連結するために、またはCARと他の遺伝子によってコードされているタンパク質とを連結するために用いられる、アレンジメント45の抗体エピトープ。
52.2Aペプチド配列、HA.11エピトープタグ、FLAGエピトープタグ、Mycエピトープタグ、V5エピトープタグ、または該2Aペプチドと同数までのアミノ酸を含有するペプチドを含む、アレンジメント45の抗体エピトープ。
53.該2Aペプチドが、P2A、T2A、E2A、またはF2Aであり得る、アレンジメント52の抗体エピトープ。
54.2Aペプチド配列断片またはそれと少なくとも90%同一の配列を含み、該2Aペプチド配列が全長2A配列ではない、アレンジメント45の抗体エピトープ。
55.該ペプチド配列が、配列番号1(CGDVEENPG)またはそれと少なくとも75%同一の配列を含む、アレンジメント54の抗体エピトープ。
56.該抗体エピトープが、モノクローナル抗2Aペプチド抗体3H4によって同定され得る、アレンジメント54または55の抗体エピトープ。
57.治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている遺伝子改変T細胞の検出に用いられる抗体エピトープであって、アレンジメント45~56のいずれか1つに記載の抗体エピトープを含む、抗体エピトープ。
58.癌治療用新規TCRまたはCAR遺伝子によって改変された細胞の検出に用いられる抗体エピトープであって、アレンジメント45~56のいずれか1つに記載の抗体エピトープを含んでいる、抗体エピトープ。
59.遺伝子改変細胞の検出に用いられるキットであって、アレンジメント45~56のいずれか1つに記載の抗体エピトープを含んでいる、キット。
60.該遺伝子改変細胞がT細胞を含む、アレンジメント59のキット。
61.該T細胞が、治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている、アレンジメント60のキット。
62.治療用TCR遺伝子の導入によって改変されている該T細胞が癌の治療に用いられる、アレンジメント61のキット。
63.2Aペプチド配列またはそれと少なくとも90%同一な配列を発現することが可能なヌクレオチド配列を含んでいる遺伝子構築物であって、ここで該構築物が単一の読み取り枠から複数のタンパク質を発現するように構成されており、かつ、該ヌクレオチド配列が該遺伝子構築物の大きさを25アミノ酸より大きくしない、遺伝子構築物。
64.該2Aペプチド配列が、2Aペプチド配列断片またはそれと少なくとも90%同一の配列を含み、該2Aペプチド配列が全長2A配列ではない、アレンジメント63の遺伝子構築物。
65.該2Aペプチド配列が、配列番号2、配列番号3、配列番号6の配列、または配列番号2、配列番号3、もしくは配列番号6と少なくとも75%同一の配列を含む、アレンジメント64の遺伝子構築物(配列番号2=EGRGSLLTCGDVEENPGP;配列番号3=ATNFSLLKQAGDVEENPGP;配列番号6=GDVEENPG)。
66.アレンジメント1~15のいずれか1つに記載の標識タンパク質、またはアレンジメント53~55のいずれか1つに記載の抗体エピトープ、またはアレンジメント63~65のいずれか1つに記載の遺伝子構築物を含んでいる、遺伝子改変細胞。
【実施例】
【0102】
実施例1
本実施例では、ヒトTRBC2配列にマウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループを組み込むだけで、TCRの発現とH57抗体による認識が可能になることを示す。
【0103】
種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を行った。ヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの5日後に細胞を回収し、APC抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号109212、バイオレジェンド)とPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)との共染色によって分析した後、FACS分析を行った。
【0104】
結果を
図3に表す:huTRBC1は全長ヒトTRBC1配列を;muTrbc2はポリAシグナルを除去した全長マウスTrbc2配列を;muTrbc2-BGHpAはBGHのポリAシグナルを付加した全長マウスTrbc2配列を;huTRBC1-muFGはマウスTrbc2のFGループを組み込んだヒトTRBC1配列を示す。
【0105】
このデータは、全長マウスTrbc2配列を使用した場合、TCRの発現にポリAシグナルが有用であること、およびH57抗体によって全長マウスTrbc2配列を発現している細胞を認識できることを示している。しかしながら、ヒトTRBC1配列にマウスTrbc2FGループを組み込んでも、TCRを発現させることはできるが、H57抗体による認識には十分でなかった。
【0106】
次に、ヒトTRBC2配列に、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループを組み込んで試験した。同様に、ヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの5日後に細胞を回収し、APC抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号109212、バイオレジェンド)とPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)との共染色によって分析した後、FACS分析を行った。
【0107】
結果を
図4に表す:huTRBC1は全長ヒトTRBC1配列を;muTrbc2-BGHpAはBGHのポリAシグナルを付加した全長マウスTrbc2配列を;huTRBC2-muABFGは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループを組み込んだヒトTRBC2配列を示す。
【0108】
このデータは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループをヒトTRBC2配列に組み込むだけで、TCRの発現とH57抗体による認識が可能になることを示している(アミノ酸変異はK4R、F7T、Y37F、N106E、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113S、A114Pとなっている)。
【0109】
実施例2
本実施例では、ヒトTRBC2配列に、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループを組み込むだけで、TCRの発現とH57抗体による認識が可能になることを示す。
【0110】
種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を行った。ヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの5日後に細胞を回収し、APC抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号109212、バイオレジェンド)とPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)との共染色によって分析した後、FACS分析を行った。
【0111】
結果を
図5に表す:huTRBC2は全長のヒトTRBC2配列を;huTRBC2-muABFGはマウスTrbc2のAとBストランドに由来する10のアミノ酸とFGループ(推定H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2配列を;muABFG R4Kは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(R4K)ヒトTRBC2配列を;muABFG T7Fは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(T7F)ヒトTRBC2配列を;muABFG F37Yは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(F37Y)ヒトTRBC2配列を;muABFG E106Nは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(E106N)ヒトTRBC2配列を;muABFG K108Eは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(K108E)ヒトTRBC2配列を;muABFG P110Tは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(P110T)ヒトTRBC2配列を;muABFG E111Qは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(E111Q)ヒトTRBC2配列を;muABFG G112Dは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(G112D)ヒトTRBC2配列を;muABFG S113Rは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(S113R)ヒトTRBC2配列を;muABFG P114Aは、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する9のアミノ酸残基とFGループを組み込み、最小H57結合エピトープを位置付けるために1つのアミノ酸残基をヒト対応物のものに戻した(P114A)ヒトTRBC2配列を示す。このデータは、H57抗体による認識を可能にするためには、マウスTrbc2のAストランドに由来する6のアミノ酸残基とFGループが必要なことを示している(アミノ酸はR4、K108、P110、E111、G112、およびS113となっている)。
【0112】
次に、ヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの6日後に細胞を回収し、APC抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号109212、バイオレジェンド)とPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)との共染色によって分析した後、FACS分析を行った。
【0113】
結果を
図6に表す:huTRBC2は全長のヒトTRBC2配列を;huTRBC2-mu10は、マウスTrbc2のAおよびBストランドに由来する10のアミノ酸残基とFGループ(推定H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2配列を;huTRBC2-mu6は、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループ(同定された最小H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2配列を;huTRBC2-mu7は、マウスTrbc2のAストランドに由来する7つのアミノ酸残基とFGループ(同定された最小H57結合エピトープ+T7)を組み込んだヒトTRBC2配列を示す。このデータは、ヒトTRBC2配列に、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループを組み込むだけで、TCRの発現とH57抗体による認識が可能になることを示している(アミノ酸変異は、K4R、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113Sとなっている)。
【0114】
実施例3
本実施例では、T2Aペプチド配列を含むNY-ESO-1 1G4 TCRを発現するように改変されたヒト初代T細胞を、抗2Aペプチド抗体で検出できることを示す。
【0115】
種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を行った。ヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの10日後に細胞を回収し、透過処理した後に、非抱合型マウス抗2Aペプチド抗体(クローン3H4、カタログ番号NBP2-59627、ノバス・バイオロジカルズ)とBV421ラット抗マウスIgG1抗体(クローンA85-1、カタログ番号562580、BDバイオサイエンス)を使った染色により、FACS分析を行った。全ての染色において、BD透過/洗浄緩衝液(1倍)を使用した。次いで、FACS分析を行った。
【0116】
結果を
図7に表す:模擬エレクトロポレーションはエレクトロポレーションを行っていない細胞を;TRAC RNPはTRAC RNPのみをエレクトロポレーションした細胞を;TRAC RNP+環状修復鋳型は、TRAC RNPと環状修復鋳型をエレクトロポレーションした細胞を;TRAC RNP+直鎖状修復鋳型は、TRAC RNPと直鎖状修復鋳型をエレクトロポレーションした細胞を示す。このデータは、T2Aペプチド配列を含むNY-ESO-1 1G4 TCRを発現するように改変したヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体で検出できることを示している。
【0117】
実施例4
本実施例は、T2Aペプチド配列を含むNY-ESO-1 1G4 TCRを発現するように改変したヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体で検出できること、およびこの2Aペプチドの染色とTCR Vβ13.1の染色との間に相関があることを示す。
【0118】
種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を行った。ヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導する修復鋳型をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの11日後に細胞を回収し、透過処理した後に、非抱合型マウス抗2Aペプチド抗体(クローン3H4、カタログ番号NBP2-59627、ノバス・バイオロジカルズ)、BV421ラット抗マウスIgG1抗体(クローンA85-1、カタログ番号562580、BDバイオサイエンス)およびPE-Cy7抗ヒトTCR Vβ13.1抗体(クローンH131、カタログ番号362406、バイオレジェンド)を使った染色によるFACS分析を行った。全ての染色において、BD透過/洗浄緩衝液(1倍)を使用した。次いで、FACS分析を行った。
【0119】
結果を
図8に表す:模擬エレクトロポレーションはエレクトロポレーションを行っていない細胞を;TRAC RNPはTRAC RNPのみをエレクトロポレーションした細胞を;TRAC RNP+環状修復鋳型は、TRAC RNPと環状修復鋳型をエレクトロポレーションした細胞を;TRAC RNP+直鎖状修復鋳型は、TRAC RNPと直鎖状修復鋳型をエレクトロポレーションした細胞を示す。このデータは、T2Aペプチド配列を含むNY-ESO-1 1G4 TCRを発現するように改変したヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体で検出できること、およびこの2Aペプチドの染色とTCR Vβ13.1の染色との間に相関があることを示している。
【0120】
実施例5
本実施例では、2Aペプチド配列を含むCD19 CAR構築物を発現するように改変されたヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体によって検出できること、およびこの2Aペプチドの染色と同じ構築物中に含まれる形質導入マーカータンパク質(Ly6G)の染色との間に相関が見られることを示す。
【0121】
CD19 CAR構築物を発現するようにレトロウイルスを介して形質導入したヒト初代T細胞のFACS分析を行った。ヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズで2日間活性化し、その後、前述したようにレトロウイルスを感染させた。形質導入の14日後に細胞を回収し、透過処理した後、非抱合型マウス抗2Aペプチド抗体(クローン3H4、カタログ番号NBP2-59627、ノバス・バイオロジカルズ)、BV421ラット抗マウスIgG1抗体(クローンA85-1、カタログ番号562580、BDバイオサイエンス)およびPE/ダズル594抗Ly6G抗体(クローン1A8、カタログ番号127647、バイオレジェンド)を使った染色によるFACS分析を行った。全ての染色において、BD透過/洗浄緩衝液(1倍)を使用した。次いで、FACS分析を行った。
【0122】
結果を
図9に表す:模擬形質導入は形質転換されていない細胞を;Ly6G-Puroは、Ly6G-P2A-Puro構築物を有するレトロウイルスで形質転換した細胞を;1
st Gen CAR-Ly6G-Puroは、1
st Gen CD19 CAR-T2A-Ly6G-P2A-Puro構築物を有するレトロウイルスで形質転換した細胞を;2
nd Gen CAR-Ly6G-Puroは、2
nd Gen CD19 CAR-T2A-Ly6G-P2A-Puro構築物を有するレトロウイルスで形質転換した細胞を示す。このデータは、2Aペプチド配列を含むCD19 CAR構築物を発現するように改変されたヒト初代T細胞を抗2Aペプチド抗体によって検出できること、およびこの2Aペプチドの染色と同じ構築物中に含まれる形質導入マーカータンパク質(Ly6G)の染色との間に相関が見られることを示している。
【0123】
実施例6
本実施例では、そのような標識タンパク質を発現している遺伝子改変細胞への1つ以上の搭載物の標的化送達に用いることができる標識タンパク質を示す。1つ以上の搭載物の送達は、H57抗体への接合によって達成される。
【0124】
IL2vのN末端をH57 IgG FcドメインのC末端に、必要に応じて(G4S)3リンカーペプチドを介して、融合させる。Fcドメインには1つ以上のアミノ酸置換が含まれており、これによってFc受容体への結合が弱まる。置換は、L234A、L235AおよびP329Gとなっている(ヒトIgG1 Fcドメインに基づくLALAPG)。
【0125】
ヒトTRBC2-Mur6 1G4 TCRを発現するように改変したTCRノックアウトCD8高発現ジャーカット細胞のFACS分析を行った。FACS分析は、内在性TRAC遺伝子座にhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞についても実施した。huTRBC2-mur6発現細胞を、種々の濃度のH57抗体と、またはH57-IL2もしくはH57-IL2vイムノサイトカインと共に30分間プレインキュベーションした。次いで、APC抗マウスTCR-Cβ抗体(クローンH57-597、カタログ番号553174、BDバイオサイエンス)およびFITC抗ヒトIL2抗体(クローン5344.111、カタログ番号340448、BDバイオサイエンス)による染色を使って、細胞のFACS分析を行った。染色は、2%FBS含有PBS中で行った。
【0126】
図18は、huTRBC2-Mur6 1G4ジャーカット細胞では、20ng/mLのH57、ならびにH57-IL2およびH57-IL2vによってhuTRBC2-Mur6とAPC抗マウスTCR-Cβ抗体との結合が阻害されることを示している。
図19は、H57、ならびにH57-IL2およびH57-IL2vが、ヒト初代huTRBC2-Mur6 1G4 TCR T細胞におけるhuTRBC2-Mur6とAPC抗マウスTCR-Cβ抗体との結合を阻害することを示している。
図20に見られるように、H57-IL2またはH57-IL2vと共にインキュベーションしたhuTRBC2-Mur6 1G4 T細胞はFITC抗ヒトIL2抗体で強く染色され、このことは、これらの細胞表面にIL2が存在することを表している。Mur6エピトープを発現していないヒト初代huTRBC2 1G4 T細胞をH57-IL2やH57-IL2vと共にインキュベーションした時にもIL2の染色が見られたことから、イムノサイトカインによるIL2のMur6特異的標的化が示唆される。これらのデータは併せて、H57-IL2抗体-およびH57-IL2抗体-サイトカイン融合タンパクによるhuTRBC2-Mur6定常ドメイン発現1G4 TCR改変細胞へのサイトカインの標的化送達を、Mur6エピトープを使って媒介できることを示している。
【0127】
実施例7
本実施例では、T細胞の増殖に対するH57-IL2v複合体の刺激能をインビトロで評価する。
【0128】
実施例6のH57-IL2v複合体を、前もってPHAと共に一晩活性化させておいたCFSE標識初代ヒトT細胞に添加し、その後、細胞をさらに4日間培養する。対照としては、無関係な抗体-IL2v複合体を用いる。4日後、CFSEの希釈度を測定すること、ならびにフローサイトメトリーを使ってT細胞におけるCD25の発現上昇を測定することで、T細胞の増殖に対するH57-IL2v複合体の刺激能を評価する。
【0129】
CFSEの代替物を用いた実験では、内在性TRAC遺伝子座にhuTRBC2 1G4 TCRまたはhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRをノックインし、セルトレースバイオレット(Celltrace Violet、CTV)で標識した初代ヒトT細胞に、実施例6のH57-IL2およびH57-IL2v複合体を添加し、その後、細胞をさらに4日間培養した。対照としては、非標的化組換え体のIL-2を用いる。翌日、T細胞活性化マーカーであるCD69とCD25の発現を測定することで、H57-IL2およびH57-IL2v複合体の刺激能を評価した。PE抗ヒトCD69抗体(クローンFN50、カタログ番号557050、BDバイオサイエンス)とBV711抗ヒトCD25抗体(クローン2A3、カタログ番号563159、BDバイオサイエンス)との共染色によって、FACS分析を行った。4日間培養した後、CTVの希釈度を測定し、フローサイトメトリーを使ってT細胞数を計数することで、T細胞の増殖に対するH57-IL2およびH57-IL2v複合体の刺激能を評価した。染色は全て、2%FBS含有PBS中で実施した。
【0130】
図21は、huTRBC2 1G4 TCRまたはhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRをノックインした初代ヒトT細胞を、1nMのIL2、H57-IL2およびH57-IL2vと共に1日間インキュベーションした後の、T細胞活性化マーカーであるCD69およびCD25の発現を表すドットプロットである。
図22Aおよび22Bのグラフは、(イムノ)サイトカインの濃度を変えた場合のCD69発現T細胞の割合(
図22A)およびCD25高発現T細胞の割合(
図22B)を示している。これらの結果は、H57-IL2およびH57-IL2v複合体が、huTRBC2-Mur6 1G4 TCR発現T細胞を強くかつ特異的に刺激することを示している。
【0131】
図23のヒストグラムは、huTRBC2 1G4 TCRまたはhuTRBC2-Mur6 1G4 TCRをノックインした初代ヒトT細胞を1nMのIL2、H57-IL2およびH57-IL2vと4日間インキュベーションした後のT細胞におけるCTVの希釈度を示している。さらに
図24は、CTVのFACS測定から、それぞれの(イムノ)サイトカイン濃度に対して、全細胞の平均蛍光強度を未分裂細胞の平均蛍光強度で除算し、その対数の二乗(2log of MFI
undivided/MFI
all cells)として算出した平均増殖周期を示す。これらの結果は、huTRBC2-Mur6 1G4 TCR発現T細胞では、H57-IL2およびH57-IL2vを使ったmur6の標的化によってT細胞の増殖が特異的に促進されることを示している。これらのデータは併せて、1G4 TCR改変T細胞にMur6エピトープがあることで、H57-IL2およびH57-IL2vイムノサイトカインによる特定のサイトカインの標的化が可能になり、それによって、エピトープ特異的なT細胞刺激が誘導されることを示している。
【0132】
実施例8
本実施例では、H57-IL2v複合体がインビボでどのようにして腫瘍の増殖や腫瘍内のT細胞の蓄積に影響をおよぼすかを示す。
【0133】
ここではNSGマウスを用いる。NSGマウス(NOD重症複合免疫不全ガンママウス)は、ジャクソン・ラボラトリー(Jackson Laboratory)によって開発・販売されている研究用免疫不全マウスの商標で、NOD系統もここに含まれる。NSGマウスにNY-ESO-1+A375メラノーマ細胞を皮下移植し、次いで、NY-ESO-1 TCR発現初代ヒトT細胞を投与する。その後毎週、マウスにH57-IL2v複合体または溶媒対照を注入する。その後、腫瘍の増殖および腫瘍内のT細胞の蓄積に及ぼす影響を経時的に測定する。
【0134】
実施例9
本実施例では、ヒトTRBC1またはTRBC2配列にマウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループを組み込むだけで、TCRの発現とH57抗体による認識が可能になることを示す。
【0135】
種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1特異的1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を行った。3人の健常提供者(BC45、BC46、およびBC48)由来のヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズ(カタログ番号40203D、(ThermoFisher Scientific)サーモフィッシャーサイエンティフィック)で2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導するDNA修復鋳型を、ならびに内在性TCRβ鎖のノックアウトを先導するTRBC RNPをエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの5日後に1G4 TCR改変T細胞を回収し、PE抗マウスTCR Cβ鎖抗体(クローンH57-597、カタログ番号553172、BDバイオサイエンス)とブリリアント・バイオレット(Brilliant Violet)421抗ヒトTCR Cβ鎖抗体(クローンIP26、カタログ番号306722、バイオレジェンド)との共染色によるFACS分析を行った。
【0136】
結果を
図25に表す:muTrbc2は全長マウスTrbc2定常ドメイン配列を付加した1G4 TCRを示し;huTRBC1-Mur6は、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループ(同定された最小H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC1定常ドメイン配列を付加した1G4 TCRを示し;huTRBC2-Mur6は、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループ(同定された最小H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2定常ドメイン配列を付加した1G4 TCRを示す。このデータは、ヒトTRBC1またはTRBC2配列に、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループを組み込むだけで、TCRの発現とH57抗体による認識が可能になることを示している(アミノ酸変異はそれぞれ、huTRBC1-Mur6はN4R、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113S、およびhuTRBC2-Mur6はK4R、E108K、T110P、Q111E、D112G、R113Sとなっている)。
【0137】
実施例10
本実施例では、ヒトTRBC2配列にマウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループを組み込んでも、T細胞のサイトカイン産生として測定されるTCRの機能が干渉されないことを示す。
【0138】
種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1特異的1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞のFACS分析を行った。3人の健常提供者(BC20、BC93、およびBC97)由来のヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズ(カタログ番号40203D、サーモフィッシャーサイエンティフィック)で2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導するDNA修復鋳型を、ならびに内在性TCRβ鎖のノックアウトを先導するTRBC RNPをエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの12日後に1G4 TCR改変T細胞を回収し、101~107pg/mLの範囲の様々な濃度のNY-ESO-1ペプチド(SLLMWITQC)を負荷しておいたJY標的細胞と共培養した。4時間共培養した後、ゴルジプラグ(GolgiPlug)タンパク質輸送阻害剤(カタログ番号555028、BDバイオサイエンス)を添加し、細胞をさらに16時間、共培養した。次いで細胞を回収し、透過処理した後に、PE抗ヒトIFN-γ抗体(クローン25723.11、カタログ番号340452、BDバイオサイエンス)とFITC抗ヒトIL-2抗体(クローン5344.111、カタログ番号340448、BDバイオサイエンス)との共染色によるFACS分析を行った。全ての染色において、BD透過/洗浄緩衝液(1倍;カタログ番号555028、BDバイオサイエンス)を使用した。
【0139】
結果を
図26A~26Dに表す:huTRBC2-Mur6は、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループ(同定された最小H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2定常ドメイン配列を付加した1G4 TCRを示し;huTRBC2は、全長ヒトTRBC2定常ドメイン配列を付加した1G4 TCRを示し;muTrbc2は、全長マウスTrbc2定常ドメイン配列を付加した1G4 TCRを示し;未エレクトロポレーションは、改変していないT細胞を示す。
図26Aは、異なる用量のペプチドに応じた、1人の代表的な健常提供者(BC93)に由来するT細胞のIFN-γの産生を示す。符号は、各用量のペプチドにつき3回の技術的反復を行って算出したIFN-γ陽性T細胞の割合(%)の幾何平均を;エラーバーは幾何的な標準偏差を示す。
図26Bは、試験した内の最も高用量のペプチド(107pg/mL)に応じた、3人の健常提供者に由来するT細胞のIFN-γ産生のまとめを示す。符号は、各提供者由来のT細胞について3回の技術的反復を行って算出したIFN-γ陽性T細胞の割合(%)を、線はその幾何平均を示している。
図26Cは、異なる用量のペプチドに応じた、1人の代表的な健常提供者(BC97)に由来するT細胞のIL-2の産生を示す。符号は、各用量のペプチドにつき3回の技術的反復を行って算出したIL-2陽性T細胞の割合(%)の幾何平均を;エラーバーは幾何的な標準偏差を示す。
図26Dは、試験した内の最も高用量のペプチド(107pg/mL)に応じた、3人の健常提供者に由来するT細胞のIL-2産生のまとめである。符号は、各提供者由来のT細胞について3回の技術的反復を行って算出したIL-2陽性T細胞の割合(%)を、線はその幾何平均を示している。これらのデータは併せて、huTRBC2-Mur6定常ドメインを発現している1G4 TCR改変T細胞は、huTRBC2またはmuTrbc2定常ドメインを発現している1G4 TCR改変T細胞と同等のサイトカイン産生を媒介できることを示しており、このことから、ヒトTRBC2にMur6エピトープを組み込んでもTCRの機能は損なわれないことが示唆される。
【0140】
実施例11
本実施例では、ヒトTRBC2配列にマウスTrbc2 Aストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループを組み込んでも、T細胞の標的細胞死滅として測定されるTCRの機能が干渉されないことを示す。
【0141】
種々の修復鋳型を使って内在性TRAC遺伝子座にNY-ESO-1特異的1G4 TCRをノックインしたヒト初代T細胞について、インキュサイト(IncuCyte)を使った生細胞の分析を行った。3人の健常提供者(BC20、BC93、およびBC97)由来のヒト初代CD3+T細胞を選択し、抗CD3/CD28ビーズ(カタログ番号40203D、サーモフィッシャーサイエンティフィック)で2日間活性化し、その後、TRAC RNPおよびTCRのノックインを先導するDNA修復鋳型を、ならびに内在性TCRβ鎖のノックアウトを先導するTRBC RNPをエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの12日後に1G4 TCR改変T細胞を回収し、そしてインキュサイトS3生細胞解析システム(サートリウス(Sartorius))内でNY-ESO-1+A375-GFP+腫瘍細胞と共培養して、生存しているGFP+腫瘍細胞を2時間毎に、合計72時間、定量した。
【0142】
結果を
図27Aおよび27Bに表す:huTRBC2-Mur6は、マウスTrbc2のAストランドに由来する6つのアミノ酸残基とFGループ(同定された最小H57結合エピトープ)を組み込んだヒトTRBC2定常ドメイン配列を含む1G4 TCRを示し;huTRBC2は、全長ヒトTRBC2定常ドメイン配列を含む1G4 TCRを示し;muTrbc2は、全長マウスTrbc2定常ドメイン配列を含む1G4 TCRを示し;未エレクトロポレーションは、改変していないT細胞を示す。
図27Aでは、1人の代表的な健常提供者(BC97)由来のT細胞による、A375-GFP+腫瘍細胞死滅の動態を示している。符号は、それぞれの時点につき3回の技術的反復を行って算出した生存腫瘍細胞数の幾何平均を;エラーバーは幾何的な標準偏差を示す。
図27Bは、試験した最終時点(72時間目)における、3人の健常提供者に由来するT細胞の相対A375-GFP+腫瘍細胞死滅のまとめである。符号は、各提供者由来のT細胞について3回の技術的反復を行って算出した生存腫瘍細胞数を示し;線はその幾何平均を示している。相対腫瘍細胞数を算出するために、データを、100%に設定した未エレクトロポレーションT細胞の幾何平均に対して標準化した。これらのデータは併せて、huTRBC2-Mur6定常ドメインを発現している1G4 TCR改変T細胞が、huTRBC2またはmuTrbc2定常ドメインを発現している1G4 TCR改変T細胞と同等の標的細胞死滅を媒介できることを示ており、このことから、ヒトTRBC2にMur6エピトープを組み込んでもTCRの機能は損なわれないことが示唆される。
【配列表】
【国際調査報告】