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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-28
(54)【発明の名称】変圧器および変圧器構成
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/33 20060101AFI20231221BHJP
   H01F 27/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01F27/33
H01F27/02
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023545846
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2022053427
(87)【国際公開番号】W WO2022171829
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21156690.6
(32)【優先日】2021-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サフ,キラン・チャンドラ
(72)【発明者】
【氏名】デーンリード,アンデシュ
【テーマコード(参考)】
5E058
5E059
【Fターム(参考)】
5E058AA21
5E058AA25
5E058BB11
5E058DB02
5E059BB04
5E059BB24
(57)【要約】
各相巻線(110)がコイル軸の周りにコイルターン(120)を有する、少なくとも2つの相巻線(110)を備える変圧器(100)であって、少なくとも2つの相巻線(110)が、少なくとも第1のタイプの相巻線(110a)と第2のタイプの相巻線(110b)とを備え、第1のタイプの相巻線(110a)および第2のタイプの相巻線(110b)の各々が、少なくとも第1の巻線部(116a)と第2の巻線部(116b)とを備える複数の巻線部(116)を備え、第1のタイプの相巻線(110a)が、第1の巻線部剛性を有する第1の巻線部(116a)と、第2の巻線部剛性を有する第2の巻線部(116b)とを備え、第1のタイプの相巻線(110a)の第1の巻線部剛性と第2の巻線部剛性との間の剛性差が、主周波数において音響パワーが最小化されるようなものであることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相巻線(110)がコイル軸の周りにコイルターン(120)を有する、少なくとも2つの相巻線(110)を備える変圧器(100)であって、前記変圧器(100)が所定周波数で電圧を変換するように適合され、前記変圧器(100)が動作しているとき、前記変圧器(100)は、前記所定周波数に2を乗じた主周波数を有し振動モードを有する機械的負荷によって励起され、負荷モードと振動モードとの組み合わせが、前記変圧器(100)の振動をもたらし、前記変圧器(100)が1組の振動モードを有し、各振動モードが振動モード周波数を有し、前記1組の振動モードのうちの少なくとも1つの主寄与振動モードが、前記変圧器(100)が前記負荷によって励起されたときに前記振動モードのうち最大の音響パワーをもたらす振動モードであり、
前記少なくとも2つの相巻線(110)が、少なくとも第1のタイプの相巻線(110a)と第2のタイプの相巻線(110b)とを備え、前記第1のタイプの相巻線(110a)および前記第2のタイプの相巻線(110b)の各々が、少なくとも第1の巻線部(116a)と第2の巻線部(116b)とを備える複数の巻線部(116)を備え、
前記第1のタイプの相巻線(110a)が、第1の巻線部剛性を有する第1の巻線部(116a)と、第2の巻線部剛性を有する第2の巻線部(116b)とを備え、
前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第1の巻線部剛性と前記第2の巻線部剛性との間の剛性差が、前記主周波数において音響パワーが最小化されるようなものであることを特徴とする、変圧器(100)。
【請求項2】
前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第1の巻線部(116a)が、前記コイル軸に沿って見たときに第1の巻線部剛性を有し、前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第2の巻線部(116b)が、前記コイル軸に沿って見たときに第2の巻線部剛性を有し、前記第1の巻線部剛性が前記第2の巻線部剛性とは異なる、請求項1に記載の変圧器(100)。
【請求項3】
前記第1のタイプの相巻線(110a)が、前記コイルターン(120)の間に複数のスペーサ(130)を備え、前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第1の巻線部(116a)が、第1のタイプのスペーサを備え、前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第2の巻線部(116b)が、第2のタイプのスペーサを備え、前記第1のタイプのスペーサが前記第2のタイプのスペーサとは異なる、請求項1または2のいずれか1項に記載の変圧器(100)。
【請求項4】
前記第1のタイプのスペーサが第1の弾性率を有し、前記第2のタイプのスペーサが第2の弾性率を有し、前記第1の弾性率が前記第2の弾性率とは異なる、請求項3に記載の変圧器(100)。
【請求項5】
前記第1の巻線部(116a)が、前記第2の巻線部(116b)の半径方向内側に配置される、先行する請求項のいずれか1項に記載の変圧器(100)。
【請求項6】
前記第2のタイプの相巻線(110b)の前記第1の巻線部(116a)が、前記コイル軸に沿って見たときに前記第1の巻線部剛性を有し、前記第2のタイプの相巻線(110b)の前記第2の巻線部(116b)も、前記コイル軸に沿って見たときに前記第1の巻線部剛性を有する、請求項2に記載の変圧器(100)。
【請求項7】
前記変圧器(100)が、第2の軸(x)に沿って配置された3つの相巻線(110)を備え、1つの第1のタイプの相巻線(110a)が、2つの第2のタイプの相巻線(110b)の間の中央に配置される、請求項6に記載の変圧器(100)。
【請求項8】
前記変圧器(100)が、第2の軸(x)に沿って配置された3つの相巻線(110)を備え、1つの第2のタイプの相巻線(110b)が、2つの第1のタイプの相巻線(110a)の間の中央に配置される、請求項6に記載の変圧器(100)。
【請求項9】
先行する請求項のいずれか1項に記載の変圧器(100)を備える変圧器構成(300)であって、前記変圧器(100)が変圧器タンク(200)に封入される、変圧器構成(300)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、変圧器に関する。本開示はまた、そのような変圧器を備える変圧器構成に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
【0003】
【数1】
【0004】
より詳細には、機械的アセンブリ、この文脈では典型的には支持構造を有する巻線または1組のそのような巻線の運動方程式は、数値的アプローチでは一般的に
【0005】
【数2】
【0006】
【数3】
【0007】
【数4】
【0008】
【数5】
【0009】
【数6】
【0010】
【数7】
【0011】
米国特許第9020156号明細書は、圧電トランスデューサ/アクチュエータが変圧器のタンク壁に配置される減衰方法を開示している。それらは、固有振動数でタンク壁の著しい撓みの領域と位置合わせされる。壁の振動を測定および分析し、その後、圧電アクチュエータを制御して振動を吸収し、結果としてノイズレベルを低減する。しかしながら、変圧器ノイズの状況では、振動レベルが大幅に低減される程度まで減衰を加えることは困難である。
【0012】
さらに、共振周波数を変更する第2の一般的な方法は、必然的に励起周波数ωの近くに現れる新しい共振によって制御される共振現象をもたらす可能性がある。実際、変圧器ノイズの状況では、短絡事象中の巻線ダイナミクスにも注意を払うことが重要であり、ここでは、ネットワーク周波数の数サイクル(通常、50または60Hzであるが、これに限定されない)中の機械周波数コンテンツは、ネットワーク周波数とその2倍との間で変化する。後者は、上記の理論的背景において暗黙的に仮定された定常状態駆動周波数ωである。言い換えれば、共振をシフトすることは、一般に、変圧器システム全体の完全性を保証するために非常に慎重に実行されなければならない。JP2013183151には、2つの巻線が異なる共振周波数を有するように構成され、互いに補償するように配置される例が開示されている。
【0013】
最後に、巻線導体に作用する電磁力分布は、ノイズを制御する設計自由度が少ない既知のものと考えるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
概要
したがって、本開示の目的は、改良された変圧器を提供することである。より具体的には、本開示の目的は、適切に低いノイズ放射を有し、構築および組み立てに費用効果の高い変圧器を提供することである。本開示の別の目的は、変圧器タンク内に変圧器を備える変圧器構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示の第1の態様によれば、この目的は、少なくとも2つの相巻線を備える変圧器によって達成される。各相巻線は、コイル軸を中心とするコイルターンを有する。変圧器は、変圧器が動作しているときに、所定周波数で電圧を変換するように適合される。変圧器は、所定周波数に2を乗じた主周波数を有する機械的負荷によって励起され、振動モードを有する。負荷モードと振動モードとの組み合わせは、変圧器の振動をもたらす。変圧器は、1組の振動モードを有する。各振動モードは振動モード周波数を有し、1組の振動モードのうちの少なくとも1つの主寄与振動モードは、変圧器が負荷によって励起されたときに振動モードのうち最大の音響パワーをもたらす振動モードである。
【0016】
少なくとも2つの相巻線は、少なくとも第1のタイプの相巻線と第2のタイプの相巻線とを備える。第1のタイプの相巻線および第2のタイプの相巻線の各々は、少なくとも第1の巻線部と第2の巻線部とを備える複数の巻線部を備える。
【0017】
第1のタイプの相巻線は、第1の巻線部剛性を有する第1の巻線部と、第2の巻線部剛性を有する第2の巻線部とを備え、第1のタイプの相巻線の第1の巻線部剛性と第2の巻線部剛性との間の剛性差は、主周波数において音響パワーが最小化されるようなものである。
【0018】
明確にするために、本開示は、ノイズ最小化のための共振ωnの制御、または上記の背景の項で説明した他の古典的な手法のいずれについてもさらなる言及はしない。
【0019】
変圧器の振動モードは、負荷下での励起中に固有振動数で振動するときに変圧器が示す変形を表す。したがって、振動モードの組は、所定周波数の交流電流によって生成される振動電磁場によって励起されたときなど、動的負荷の下で変圧器がどのように挙動するかを示す。振動モードは、変圧器の音響パワー、例えば、振動中にどれだけの空気が変位されるか、およびその結果、機械的主周波数で変圧器によってどれだけ効率的にノイズが生成されるかを決定する。
【0020】
所定周波数は、例えば、50Hzまたは60Hzであってもよい。したがって、これらの周波数では、変圧器が動作している振動の対応する主周波数は、それぞれ100Hzまたは120Hzになる。
【0021】
【数8】
【0022】
本明細書に開示されるような変圧器を提供することによって、少なくとも1つの相巻線の弾性、すなわち剛性を変更することによって振動モードを変更することができる。異なる巻線部剛性の巻線部を提供することは、上述したように、主寄与振動モード形状を対称モード形状から非対称モード形状に変更する便利で費用効果の高い方法である。
【0023】
任意選択的に、第1のタイプの相巻線の第1の巻線部は、コイル軸に沿って見たときに第1の巻線部剛性を有し、第1のタイプの相巻線の第2の巻線部は、コイル軸に沿って見たときに第2の巻線部剛性を有する。第1の巻線部剛性は、第2の巻線部剛性とは異なる。
【0024】
任意選択的に、第1のタイプの相巻線は、コイルターンの間に複数のスペーサを備える。第1のタイプの相巻線の第1の巻線部は、第1のタイプのスペーサを備え、第1のタイプの相巻線の第2の巻線部は、第2のタイプのスペーサを備える。第1のタイプのスペーサは、第2のタイプのスペーサとは異なる。
【0025】
電磁負荷の対称的な力分布は、少なくとも1つの相巻線のコイル軸(第1の軸)に沿って大きな振動を励起することができる。したがって、少なくとも第1のタイプの相巻線のコイル軸に沿って、異なる剛性を有する異なる巻線部を配置することは、相巻線の振動モード形状に影響を与え、主機械周波数における変圧器の全体としてのノイズを低減する効率的な方法である。非限定的な例として、相巻線の剛性は、異なるスペーサ、CTCケーブル、および/または異なる剛性分布を有する巻線部を配置することによって変更することができる。
【0026】
任意選択的に、第1のタイプのスペーサは第1の弾性率を有し、第2のタイプのスペーサは第2の弾性率を有する。第1の弾性率は、第2の弾性率とは異なる。
【0027】
スペーサは、従来、コイルターンの間に相巻線の軸方向長さに沿って分布し、コイルターンを互いに分離し、電気的に絶縁する。コイルターンが振動すると、スペーサの弾性が相巻線および変圧器全体の弾性に影響を及ぼす。これにより、異なる巻線部に異なる弾性率のスペーサを設けることによって、変圧器の少なくとも1つの主寄与モードまたは対称モードのモード形状を変更することができる。弾性率は、例えば、スペーサに適切な材料を選択することによって選択することができる。選択可能/適用可能な材料の弾性率は、0.1GPa~120GPa、またはそれ以上の範囲である。
【0028】
任意選択的に、第1の巻線部は、第2の巻線部の半径方向内側に配置される。
相巻線は、内側巻線および外側巻線を有してもよい。内側巻線は低電圧巻線であってもよく、外側巻線は高電圧巻線であってもよく、またはその逆であってもよい。有利には、相巻線の組み立ておよび製造を単純化するために、第1の巻線部は内側巻線であり得、第2の巻線部は外側巻線であり得、その結果、第1の巻線部は第2の巻線部の半径方向内側に配置される。このように、内側巻線全体が1種類の巻線部剛性を有し、外側巻線全体が異なる種類の巻線部剛性を有する。上記で開示したように、剛性が第2の巻線部とは異なる第1の巻線部を設けることにより、少なくとも1つの主寄与モードまたは対称モードの形状が非対称モードに向かって変更され、主周波数における振動およびノイズが低減される。
【0029】
任意選択的に、第2のタイプの相巻線の第1の巻線部は、コイル軸に沿って見たときに第1の巻線部剛性を有し、第2のタイプの相巻線の第2の巻線部は、コイル軸に沿って見たときに第1の巻線部剛性を有する。
【0030】
このように、第2のタイプの相巻線の第1の巻線部および第2の巻線部は、同じ巻線部剛性を有する。
【0031】
任意選択的に、変圧器は、軸xに沿って配置された3つの相巻線を備える。1つの第1のタイプの相巻線は、2つの第2のタイプの相巻線の間の中央に配置される。
【0032】
本開示による相巻線の上記の配置は、ノイズの特に効果的な低減を示している。
任意選択的に、変圧器は、軸xに沿って配置された3つの相巻線を備える。1つの第2のタイプの相巻線は、2つの第1のタイプの相巻線の間の中央に配置される。
【0033】
本開示による相巻線の上記の配置は、ノイズの特に効果的な低減を示している。
本開示の第2の態様によれば、上記で開示された変圧器を備える変圧器構成が提供され、変圧器は変圧器タンクに封入される。
【0034】
変圧器は、変圧器タンク内のオイルなどの電気絶縁媒体に浸漬されてもよい。本開示による少なくとも1つの相巻線を提供することによって、変圧器の主寄与モードまたは対称モードを変更して、変圧器構成の振動およびノイズを低減することができる。その結果、変圧器タンク内のそのような変圧器により、変圧器タンク壁が生成するノイズが少なくなる。
【0035】
図面の簡単な説明
本開示のさらなる目的および利点、ならびに特徴は、添付の図面を参照して、1つまたは複数の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】非対称振動モードにおける例示的な従来技術の変圧器の側面断面図である。
図2】対称振動モードにおける図1の従来技術の変圧器の側面断面図である。
図3図1および図2の従来技術の変圧器によって所定周波数で生成されたノイズパワーを示す図である。
図4】対称振動モードにおけるノイズ発生の概念を示す図である。
図5】非対称振動モードにおけるノイズ発生の概念を示す図である。
図6】本開示による例示的な変圧器の側面断面図である。
図7図6の変圧器のコイルターンおよびスペーサの詳細図である。
図8図6の例示的な変圧器の上面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の例示的な実施形態の詳細な説明
本開示は、実施形態の例を示す添付の図面を参照して以下でより詳細に開発される。本開示は、記載された実施形態の例に限定されると見なされるべきではなく、代わりに、添付の特許請求の範囲によって定義される。同様の番号は、説明全体を通して同様の要素を指す。
【0038】
図1および図2は、異なる振動モード下の例示的な従来技術の変圧器100’の側面断面図を示す。従来技術の変圧器100’は、第1の軸zに沿った第1の延長部と、第2の軸xに沿った第2の延長部と、第3の軸yに沿った第3の延長部(図示せず)とを有する。第1、第2および第3の軸は互いに垂直である。従来技術の変圧器100’がさらに例示され、3つの相巻線110’は、第2の軸(x)に沿って見たときに互いに距離を置いて配置されている。
【0039】
各相巻線は、第1の軸(z)に沿って第1の端部および反対側の第2の端部を有する。第1の端部および第2の端部には、第1の押さえ板112’および第2の押さえ板114’がそれぞれ設けられており、これらの2つの押さえ板の間に相巻線110’がクランプされている。変圧器100’が動作しているとき、電磁力および押さえ板間の相巻線のクランプは、負荷ノイズを発生させ、これは特に大型ユニットの場合、変圧器の全ノイズのかなりの部分である。
【0040】
変圧器100’を封入することができる変圧器タンク200’の対称運動(ピストン状の変位)は、対称振動がより多くの空気を変位させ、それによって非対称運動よりも効率的に音を放射するので、非対称運動と比較して遠距離場に著しいノイズを放射する。負荷下の相巻線110’は、通常、100Hzまたは120Hzの機械的主周波数(すなわち、50Hzまたは60Hzの所定の電気的動作(励起)周波数に2を乗じたもの)で振動する。
【0041】
図1および図2は、変圧器100’の矢印Mによって押さえ板112’、114’の移動を示す。明確にするために、矢印は、1つの相巻線110’に対してのみ示されている。実際には、従来技術の変圧器100’に関して、すべての相巻線110’は、例えば図1および図2に示すような3相変圧器100’の場合、互いに対して120°の位相シフトではあるが、同じ振動パターンを示す。
【0042】
図3は、変圧器100’の音響パワーが周波数と共にどのように変化するかを示す。横軸は、機械振動周波数を示す。曲線は、変圧器100’の構造の振動モードの重ね合わせを表す。変圧器100’の対象のモードは、音響パワーが最大であるピーク振幅で識別することができる。
【0043】
図4および図5は、それぞれ、対称および非対称の振動モードを示し、その発音特性をさらに説明する。図4は、変圧器タンク200’に作用する対称モードを概念的に示す。変圧器タンク200’を取り囲む空気などの一定量の媒体ΔV(正または負)が変位されることが分かる。この変位は、可聴遠距離場にノイズを放射し、これは騒がしいノイズとして知覚され得る。対照的に、図5に示す非対称振動モードは、他の部分が下に移動するにつれて変圧器タンク200’の一部を上に移動させ、理論的には、ゼロに等しい正味の体積変位ΔVをもたらす。このような非対称振動モードは、遠方では聞こえないノイズを近距離に放射する。言い換えれば、それは騒がしいノイズとして知覚されない。中心面Pを図4および図5に示す。図4の矢印Mは、中心面Pの両側に位置する変圧器タンク200’のすべての部分が、中心面Pに平行な方向の変位に対して同時に同じ方向にどのように変位するかを示している。図5では、非対称振動モードは、中心面Pの両側で反対方向をもたらす。
【0044】
図6は、本開示による例示的な変圧器100の側面断面図を示す。変圧器100は、少なくとも2つの相巻線110を備える。図示の例示的な変圧器は、3つの相巻線110を備える。各相巻線110は、コイル軸の周りにコイルターン120(図7)を有する。変圧器100は、変圧器100が動作しているときに、所定の周波数で電圧を変換するように適合される。変圧器100は、所定周波数に2を乗じた主周波数を有し振動モードを有する機械的負荷によって励起される。負荷モードと振動モードとの組み合わせは、変圧器100の振動をもたらす。変圧器100はさらに、1組の振動モードを有し、各振動モードは振動モード周波数を有し、1組の振動モードのうちの少なくとも1つの主寄与振動モードは、変圧器100が負荷によって励起されたときに振動モードのうち最大の音響パワーをもたらす振動モードである。
【0045】
少なくとも2つの相巻線110は、少なくとも第1のタイプの相巻線110aと第2のタイプの相巻線110bとを備え、第1のタイプの相巻線110aおよび第2のタイプの相巻線110bの各々は、少なくとも第1の巻線部116aと第2の巻線部116bとを備える複数の巻線部116を備える。第1のタイプの相巻線(110a)は、第1の巻線部剛性を有する第1の巻線部(116a)と、第2の巻線部剛性を有する第2の巻線部(116b)とを備える。第1のタイプの相巻線の第1の巻線部剛性と第2の巻線部剛性との間の剛性差は、主周波数において音響パワーが最小化されるようなものである。
【0046】
図7は、相巻線110のコイルターン120の拡大詳細図を示す。少なくとも1つの相巻線110は、コイルターン120の間に複数のスペーサ130を備える。スペーサは、従来、コイルターンの間に相巻線110の軸方向長さに沿って分布し、コイルターンを互いに分離し、電気的に絶縁する。
【0047】
変圧器100は、第1の軸zに沿って第1の延長部をさらに有する。コイル軸は、第1の軸zと平行である。変圧器100は、第2の軸xに沿った第2の延長部と、第3の軸y(図8参照)に沿った第3の延長部とを有する。第1、第2および第3の軸は互いに垂直であり、少なくとも2つの相巻線110の中心は、第2の軸xに沿って見たときに互いに距離を置いて位置している。変圧器100は第1の中心面Aを備え、これは第2の軸xおよび第3の軸yに沿って延在し、第1の軸zに沿って見たときに変圧器を半分に分割する。変圧器100は第2の中心面B(図8参照)を備え、これは、第2の軸xおよび第1の軸zに沿って延在し、第3の軸yに沿って見たときに変圧器100を半分に分割する。変圧器100は第3の中心面Cを備え、これは、第3の軸yおよび第1の軸zに沿って延在し、第2の軸xに沿って見たときに変圧器100を半分に分割する。
【0048】
各相巻線110は、コイル軸に沿って、すなわち第1の軸zと平行に、第1の端部および反対側の第2の端部を有することができる。第1の端部および第2の端部には、第1の押さえ板112および第2の押さえ板114がそれぞれ設けられており、これらの2つの押さえ板の間に相巻線110がクランプされている。
【0049】
変圧器100の機械振動の対称モードでは、中心面A、B、Cのうちの1つの両側に位置する変圧器100のすべての部分が、関連する中心面に平行な方向の変位に対して同時に同じ方向に変位する結果になる。変圧器100の機械振動の非対称モードでは、中心面A、B、Cのうちの1つの両側に位置する変圧器100のすべての部分が、関連する中心面に平行な方向の変位に対して同時に反対方向に変位する結果になる。
【0050】
モードスペクトルを使用して、異なる周波数に応答した構造の振動振幅を調べることができる。モードスペクトルを作成するための装置および方法は、当業者に知られている。変圧器タンク壁は、例えば、パルスハンマーによって振動させることができ、タンク壁の振動は、例えば、タンク壁の表面にわたって分布する加速度センサまたは圧電力トランスデューサによって測定することができる。これらの測定された信号をコンピュータシステムに転送することができ、そこでモーダル解析を実行し、そこからタンク壁の動的特性を数値的に決定する。
【0051】
【数9】
【0052】
この目的のために、および上述したように、本開示による変圧器100には、相巻線110の少なくとも1つに複数の巻線部116が設けられる。複数の巻線部は、少なくとも第1の巻線部116aおよび第2の巻線部116bを備え、第1の巻線部116aは第1の巻線部剛性を有し、第2の巻線部116bは第2の巻線部剛性を有する。
【0053】
図6の例示的な変圧器100の上面断面図である図8の例示的な実施形態では、各相巻線110は、内側巻線および外側巻線を有するように示されている。内側巻線は低電圧巻線であってもよく、外側巻線は高電圧巻線であってもよく、またはその逆であってもよい。第1の巻線部116aは、第2の巻線部116bの半径方向内側に配置されてもよい。図8の例示的な実施形態では、第1の巻線部116aは低電圧巻線であり得、第2の巻線部116bは高電圧巻線であり得る。
【0054】
本開示によれば、相巻線は、少なくとも2つの巻線部116を備える。したがって、2つより多い任意の数の巻線部116も本開示の範囲内である。
【0055】
ここで、巻線部116とは、相巻線110のコイルターンの一部を意味する。図8に例示するように、巻線部116は、内側または外側巻線の全体であり得る。あるいは、巻線部は、巻線の一部分など、第1の軸z(図示せず)に沿った長さが制限された巻線の一部であってもよい。巻線部はまた/あるいは、巻線の円周セクターに対する、コイル軸の周りの角度φによって制限される巻線のセクターであってもよい。
【0056】
巻線部116間に剛性差もしくは質量差、または剛性差および質量差を導入することは、機械振動の対称モードを崩し、代わりに、異なる巻線部を有する少なくとも1つの相巻線110を備える変圧器に非対称モードの振動を導入する。少なくとも1つの異なる相巻線の結果として、変圧器100全体の機械振動の対称モードが崩れる。
【0057】
変圧器タンク200に封入された本開示による変圧器100を備える、図6または図8に示すような変圧器構成300では、周囲に放出されるノイズが大幅に低減される。これは、変圧器100の機械振動の対称モードを崩した結果である。これにより、変圧器タンク200の対称モードも崩れ、音響パワーおよび変圧器タンク200から放射されるノイズが低減される。
【0058】
変圧器100の機械振動の対称モードを崩すために、第1のタイプの相巻線110aの第1の巻線部116aは、コイル軸zに沿って見たときに第1の巻線部剛性を有し得る。第1のタイプの相巻線110aの第2の巻線部116bは、コイル軸zに沿って見たときに第2の巻線部剛性を有し得る。前述のように、第1の巻線部剛性は、第2の巻線部剛性とは異なる。
【0059】
第1の巻線部116aには第1のスペーサ分布が設けられ、第2の巻線部116bには第2のスペーサ分布が設けられる。第1のスペーサ分布は、第2のスペーサ分布とは異なる。スペーサ130の材料の選択、および/またはスペーサ分布の密度は、機械振動の対称モードを崩すために使用され得る要因である。コイルターン120が振動すると、スペーサ130によってもたらされる弾性は、相巻線110および変圧器100全体の剛性に影響を及ぼし、それによって変圧器100、オイルおよび変圧器タンク200の振動モードに影響を及ぼす。
【0060】
第1のスペーサ分布は、第1のタイプのスペーサを備えてもよく、第2のスペーサ分布は、第2のタイプのスペーサを備えてもよい。第1のタイプのスペーサは、第2のタイプのスペーサとは異なる。第1のタイプのスペーサは、例えば、第1の弾性率を有することができ、第2のタイプのスペーサは、第2の弾性率を有することができる。第1の弾性率は、第2の弾性率と少なくとも3GPa、またはより好ましくは少なくとも5GPa、例えば少なくとも10GPa異なる。
【0061】
したがって、異なる弾性率のスペーサ130を設けることによって、変圧器の主寄与モードまたは対称モードを変更することができる。弾性率は、例えば、スペーサ130に適切な材料を選択することによって選択することができる。選択可能/適用可能な材料の弾性率は、0.1GPa~120GPa、またはそれ以上の範囲である。
【0062】
あるいは、第1のスペーサ分布は、コイル軸の周りの方向に互いに第1の距離を置いて配置されたスペーサを備えてもよく、第2のスペーサ分布は、コイル軸の周りの方向に互いに第2の距離を置いて配置されたスペーサを備えてもよい。第1の距離は、第2の距離とは異なる。例えば第1の巻線部におけるスペーサ間の距離を第2の巻線部よりも小さくすることにより、第1の巻線部の剛性は、第2の巻線部よりも高くなり得る。これは、第2の巻線部と比較して、第1の巻線部におけるコイルターン120の単位長さ当たりのスペーサの数が多いことを意味する。
【0063】
任意選択的に、第1のタイプのスペーサは、コイル軸に沿って見たときに第1の剛性を有するように構造的に成形され得、第2のタイプのスペーサは、コイル軸に沿って見たときに第2の剛性を有するように成形され、第1の剛性は第2の剛性とは異なる。スペーサ130は、従来のスペーサと比較して剛性を高める、または低減する構造形状を有することができる。したがって、第1のタイプのスペーサおよび第2のタイプのスペーサは、同じ材料であってもよいが、少なくとも第1の巻線部および第2の巻線部に異なる剛性を提供するために、異なる形状が設けられてもよい。一例として、中空スペーサ130は、中実スペーサ130と比較して低い剛性を提供し得る。
【0064】
変圧器100の相巻線110の少なくとも1つは、異なる巻線部剛性を有する異なる巻線部116を備えないことが有利である。これにより、少なくとも1つの相巻線は単一のタイプのスペーサを有することができ、これにより製造が簡単になる。また、シミュレーションは、すべての相巻線が異なる巻線部剛性を有するわけではない場合に、より良好な結果が達成されることを示している。
【0065】
言い換えれば、例示的な実施形態では、第2のタイプの相巻線110bの第1の巻線部116aは、コイル軸に沿って見たときに第1の巻線部剛性を有することができ、第2のタイプの相巻線110bの第2の巻線部116bも、コイル軸に沿って見たときに第1の巻線部剛性を有することができる。このように、第2のタイプの相巻線110bは、第1の巻線部116aと第2の巻線部116bの両方において、同じ巻線部剛性を有する。第2のタイプの巻線110bの巻線部剛性は、第1の巻線部116bの巻線部剛性と同じである。
【0066】
2つの例示的な実施形態は、特に著しいノイズ低減をもたらす。第1の例示的な実施形態では、変圧器100は、第2の軸xに沿って配置された3つの相巻線110を備える。1つの第2のタイプの相巻線110bは、2つの第1のタイプの相巻線110aの間の中央に配置される。
【0067】
第2の例示的な実施形態では、図6および図8に示すように、変圧器100は、第2の軸xに沿って配置された3つの相巻線110を備え、1つの第1のタイプの相巻線110aは、2つの第2のタイプの相巻線110bの間の中央に配置される。
【0068】
以下の表1は、図6および図8に示す第2の例示的な実施形態の変圧器100および変圧器構成300のシミュレーション結果を示す。変圧器は、100Hzの機械的主周波数で動作する。この例では、スペーサ130の剛性/弾性のみが主寄与モードに影響を及ぼすように適合される。図から分かるように、すべての低電圧巻線、例えば内側巻線のスペーサ130は、同じ弾性率を有する。両側の相巻線110の高電圧巻線も、低電圧巻線と同じ弾性率のスペーサを有する。中間の相巻線110の高電圧巻線のみに、他の巻線とは弾性率の異なるスペーサ130が配置されている。
【0069】
4列目は、異なる弾性率の結果としてのシミュレートされた放射音響パワーを示す。公称設計の対応する変圧器100および変圧器構成300の音響パワーは80.2dBであり、これは最も低い70.1dBのシミュレートされた音響パワーよりも10.1dB高い。したがって、シミュレーションは、従来技術を超える本開示による変圧器100および変圧器構成300の大幅な改善を示す。
【0070】
【表1】
【0071】
第1の例示的な実施形態においても同様のノイズ低減が得られるが、詳細な説明は省略する。
【0072】
開示された実施形態の変更および他の実施形態は、前述の説明および関連する図面に提示された教示の利益を有する当業者には思い浮かぶであろう。したがって、実施形態は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、変更および他の実施形態は、本開示の範囲内に含まれることが意図されていることを理解されたい。本明細書では特定の用語が使用されている場合があるが、それらは一般的かつ説明的な意味でのみ使用され、限定の目的で使用されているものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相巻線(110)がコイル軸の周りにコイルターン(120)を有する、少なくとも2つの相巻線(110)を備える変圧器(100)であって、前記変圧器(100)が所定周波数で電圧を変換するように適合され、前記変圧器(100)が動作しているとき、前記変圧器(100)は、前記所定周波数に2を乗じた主周波数を有し振動モードを有する機械的負荷によって励起され、負荷モードと振動モードとの組み合わせが、前記変圧器(100)の振動をもたらし、前記変圧器(100)が1組の振動モードを有し、各振動モードが振動モード周波数を有し、前記1組の振動モードのうちの少なくとも1つの主寄与振動モードが、前記変圧器(100)が前記負荷によって励起されたときに前記振動モードのうち最大の音響パワーをもたらす振動モードであり、
前記少なくとも2つの相巻線(110)が、少なくとも第1のタイプの相巻線(110a)と第2のタイプの相巻線(110b)とを備え、前記第1のタイプの相巻線(110a)および前記第2のタイプの相巻線(110b)の各々が、少なくとも第1の巻線部(116a)と第2の巻線部(116b)とを備える複数の巻線部(116)を備え、
前記第1のタイプの相巻線(110a)が、第1の巻線部剛性を有する第1の巻線部(116a)と、第2の巻線部剛性を有する第2の巻線部(116b)とを備え、
前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第1の巻線部剛性と前記第2の巻線部剛性との間の剛性差が、前記主周波数において音響パワーが最小化されるようなものであり、
前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第1の巻線部(116a)が、前記コイル軸に沿って見たときに第1の巻線部剛性を有し、前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第2の巻線部(116b)が、前記コイル軸に沿って見たときに第2の巻線部剛性を有し、前記第1の巻線部剛性が前記第2の巻線部剛性とは異なり、
前記第2のタイプの相巻線(110b)の前記第1の巻線部(116b)が、前記コイル軸に沿って見たときに前記第1の巻線部剛性を有し、前記第2のタイプの相巻線(110b)の前記第2の巻線部(116b)も、前記コイル軸に沿って見たときに前記第1の巻線部剛性を有し、
前記変圧器(100)が第2の軸(x)に沿って配置された3つの相巻線(110)を備え、1つの第1のタイプの相巻線(110a)が、2つの第2のタイプの相巻線(110b)の間の中央に配置されるか、または、前記変圧器(100)が第2の軸(x)に沿って配置された3つの相巻線(110)を備え、1つの第2のタイプの相巻線(110b)が、2つの第1のタイプの相巻線(110a)の間の中央に配置される、ことを特徴とする、変圧器(100)。
【請求項2】
前記第1のタイプの相巻線(110a)が、前記コイルターン(120)の間に複数のスペーサ(130)を備え、前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第1の巻線部(116a)が、第1のタイプのスペーサを備え、前記第1のタイプの相巻線(110a)の前記第2の巻線部(116b)が、第2のタイプのスペーサを備え、前記第1のタイプのスペーサが前記第2のタイプのスペーサとは異なる、請求項1に記載の変圧器(100)。
【請求項3】
前記第1のタイプのスペーサが第1の弾性率を有し、前記第2のタイプのスペーサが第2の弾性率を有し、前記第1の弾性率が前記第2の弾性率とは異なる、請求項に記載の変圧器(100)。
【請求項4】
前記第1の巻線部(116a)が、前記第2の巻線部(116b)の半径方向内側に配置される、先行する請求項のいずれか1項に記載の変圧器(100)。
【請求項5】
先行する請求項のいずれか1項に記載の変圧器(100)を備える変圧器構成(300)であって、前記変圧器(100)が変圧器タンク(200)に封入される、変圧器構成(300)。
【国際調査報告】