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特表2024-500008低分子量オリゴマー凝固助剤及び分散助剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】低分子量オリゴマー凝固助剤及び分散助剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/10 20060101AFI20231222BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20231222BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20231222BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20231222BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20231222BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231222BHJP
   C08F 279/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C08F20/10
C08L51/00
C08L33/04
C08L51/04
C08L33/12
C08L63/00 A
C08F279/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528468
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(85)【翻訳文提出日】2023-05-12
(86)【国際出願番号】 US2021059312
(87)【国際公開番号】W WO2022108861
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】63/115,222
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ルオ、プ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルス、モリス
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン、スティーブン シー.
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG033
4J002BG061
4J002BN142
4J002BN162
4J002CD001
4J002GT00
4J002HA09
4J026AA18
4J026AA68
4J026BA05
4J026BA07
4J026BA27
4J026BB04
4J026DA04
4J026DA15
4J026DB04
4J026DB15
4J026DB22
4J026DB25
4J026FA07
4J026GA09
4J026GA10
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA20
4J100JA15
(57)【要約】
多層ポリマーを分散させるための組成物は、連鎖移動剤の存在下で少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマーから調製されたオリゴマーを有する。オリゴマーは、2,500g/mol未満の数平均分子量を有する。オリゴマーと、多層ポリマー、例えば、アクリルコア-シェルポリマー又はメタクリレートブタジエンスチレンコアシェルポリマーとを含有する組成物、及び樹脂組成物も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル粒子を分散させるための組成物であって、
連鎖移動剤の存在下で少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマーから調製されたオリゴマーを含み、前記オリゴマーが2,500g/mol未満の数平均分子量を有する、組成物。
【請求項2】
前記オリゴマーが、2,000g/mol未満の数平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記オリゴマーが、1,750g/mol未満の数平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記オリゴマーが、25未満の重合度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記オリゴマーが、20未満の重合度を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマーが、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びブチル(メタ)アクリレートから選択されるモノマーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記連鎖移動剤が、メチル3-メルカプトプロピオネート、ブチル3-メルカプトプロピオネート、2-エチルヘキシルチオグリコレート、及びペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
多層ポリマーと、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物とを含む、組成物。
【請求項9】
前記オリゴマー及び前記多層ポリマーの総重量に対して、2~98重量%の範囲の量の前記オリゴマーを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記多層ポリマーが、メタクリレートブタジエンスチレンコアシェルポリマーを含む、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
粉末である、請求項8~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
エポキシ樹脂及びメチルメタクリレート樹脂から選択される樹脂と、請求項8~11のいずれか一項に記載の組成物とを含む、樹脂組成物。
【請求項13】
前記オリゴマー及び前記多層ポリマーの総重量に対して、1~25重量%の範囲の量の前記オリゴマーを含む、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
樹脂組成物への多層ポリマーの分散を改善するためのプロセスであって、請求項8~11のいずれか一項に記載の粉末組成物を、エポキシ樹脂及びメチルメタクリレート樹脂から選択される樹脂を含む樹脂組成物に添加することを含み、前記樹脂組成物への前記多層ポリマーの前記分散が、前記オリゴマーを含有しない同様の樹脂組成物と比較して改善される、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般に組成物に関し、より具体的には、多層ポリマーを分散させるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多層(例えば、コア-シェル)ポリマー又はゴムは、(メタ)アクリル樹脂(例えば、メチルメタクリレート(MMA))及びエポキシ樹脂等の組成物の特性を改善するために使用される、一般的に使用されている可塑性用添加剤である。添加剤なしでは、このような樹脂は、脆すぎて使用できないことが多い。例えば、アクリル多層ポリマー及びメタクリレートブタジエンスチレン(MBS)コア-シェルポリマーは、プラスチック組成物の衝撃強度を実質的に改善するために樹脂に添加されることが多い。
【0003】
取り扱い及び加工が容易であることにより、多層ポリマーは、典型的には粉末の形態で供給され、組成物に添加される。これらの粉末化多層ポリマーは、従来の乳化重合によって調製され得、噴霧乾燥又は凝固によって所望の粉末サイズの粉末を製造するために分離され得る。プラスチック組成物に添加される場合、これらの凝集多層ポリマーは、プラスチック組成物全体に分散することが意図される。しかしながら、粉末化多層ポリマーは、所望のように分散しないことが多く、高い分散粘度を有する。
【0004】
樹脂組成物への多層ポリマーの分散を改善する試みがなされてきた。MBSコア-シェルポリマーについては、1つのアプローチは、シェルのレベルを増加させること、すなわち、シェルの比を、大部分がMMAから作製されるコアに対して増加させることである。MMAシェルレベルを増加させることによって分散性が改善されるが、MMAシェルレベルが高くなると凝固温度も高くなる。
【0005】
MBSコア-シェルポリマー、特に高いMMAシェルレベルで作製されたものを含む特定の多層ポリマーを単独で使用した場合も、凝固温度が高くなることがある。凝固温度が高いと、エネルギーコストがより高くなり、組成物を調製するためのサイクル時間も増加する。
【0006】
国際公開第2017/121749号には、(メタ)アクリルポリマー、多段階ポリマー、及びモノマーを含み、当該(メタ)アクリルポリマーが100,000g/mol未満の質量平均分子量Mwを有する、液体組成物が開示されている。(メタ)アクリルポリマーは、(メタ)アクリルポリマーの50重量%以上を構成する(メタ)アクリルモノマーを含むポリマーを本質的に含む。
【0007】
凝固温度を低下させながら良好な分散性を提供することができる添加剤が必要とされている。本発明は、これらの問題のうちの1つ以上に対処しようとするものである。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、コアシェル粒子を分散させるための組成物であって、連鎖移動剤の存在下で少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマーから調製されたオリゴマーを含み、当該オリゴマーが2,500g/mol未満の数平均分子量を有する、組成物を提供する。
【0009】
本発明はまた、多層ポリマーと、連鎖移動剤の存在下で少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマーから調製されたオリゴマーとを含む組成物であって、当該オリゴマーが、2,500g/mol未満の数平均分子量及びDSCによって測定したときに-10℃未満のTを有する、組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、多層ポリマーを分散させるための組成物を提供する。本発明者らは、予期外にも、低分子量オリゴマー添加剤が、エポキシ及びアルキル(メタ)アクリレートモノマー、例えば、メチルメタクリレート等の樹脂への多層ポリマーの分散を顕著に改善させ得ることを見出した。更に、オリゴマー添加剤は、凝固温度を顕著に改善することができる。
【0011】
本発明の一態様は、低分子量オリゴマーを含む多層ポリマーを分散させるための組成物に関する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「オリゴマー」は、オリゴマーが比較的少ししかモノマー単位を有しておらず、その長さがより短いことにより、鎖の絡み合いを、存在するとしても最小限しか有していないという点で、ポリマーと区別される。ポリマーは、フィルム及び繊維形成等のポリマー様特性を示し、1つ又はいくつかの単位の付加又は除去は、特性に対して無視できるほどの効果しか有していない。定量的には、本発明によるオリゴマーは、2,500g/mol未満の数平均分子量を有する。この定義は、Kobayashi S.,Mullen K.(eds)Encyclopedia of Polymeric Nanomaterials.Springer,Berlin,Heidelberg.https://doi.org/10.1007/978-3-642-36199-9_237-1におけるNaka K.(2014)Monomers,Oligomers,Polymers,and Macromolecules(Overview)によって提供される定義と一致し、そこでは、10,000g/molを超える分子量を有するものとしてポリマーが定義されている。
【0013】
好ましくは、オリゴマーは、2,500g/mol未満の数平均分子量Mを有する。より好ましくは、オリゴマーは、2,250g/mol未満、更により好ましくは2,000g/mol未満、例えば、1,900g/mol未満、1,800g/mol未満、1,750g/mol未満、1,700g/mol未満、又は1,650g/mol未満等の数平均分子量を有する。THF中での屈折率(RI)検出を伴うサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して、オリゴマーの分子量分布を求めた。ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)標準を使用して、オリゴマーの相対分子量データを求めた。試料をTHFに、約2mg/mLの濃度に希釈することによって、試料を二連で調製した。試料-溶媒混合物を、室温で2時間、メカニカルシェイカー上で振盪し、一晩静置し、次いで、GPC分析の前に0.45μmのPTFEフィルターを使用して濾過した。SEC分離は、アイソクラティックポンプ、マルチカラムサーモスタット、統合脱気装置、オートサンプラー、及び屈折率検出器からなるAgilent 1260 Infinity II Model(RTG-CVで)で実施した。Agilent GPC/SECソフトウェアバージョンA.02.01;Build 9.34851を使用してデータを処理した。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分離は、直列の2本のPLgelカラムMixed Dカラム(300×7.5mm ID)及びガードカラム(粒径5μm)で構成されるGPCカラムセットを使用して、1mL/分の流量でTHF中において行った。試料注入量は、100μLであった。
【0014】
オリゴマーは、連鎖移動剤の存在下で少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマーから調製される。オリゴマーは、例えば、連鎖移動剤の存在下でモノマーの乳化重合によって調製することができる。
【0015】
低分子量オリゴマーは、10℃/分で示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合、75℃未満のガラス転移温度Tを有し得る。本発明によるオリゴマーは低分子量であるので、DSCによって測定された場合のオリゴマーのTは、Fox式[Bulletin of the American Physical Society 1,3 Page 123(1956)]を用いて計算されるTから非常に顕著に変動し得る。Fox式は、以下のようにTを計算する:
【0016】
【数1】
【0017】
Fox式中、w及びwは、反応容器に仕込まれたモノマーの重量に基づく2つのコモノマーの重量分率を指し、Tg(1)及びTg(2)は、ケルビン度で2つの対応するホモポリマーのガラス遷移温度を指す。3つ以上のモノマーが存在する場合、追加の項が追加される(w/Tg(n))。本発明の目的のためのホモポリマーのガラス遷移温度は、「Polymer Handbook」,edited by J.Brandrup and E.H.Immergut,Interscience Publishers,1966に報告されたものであるが、その刊行物に特定のホモポリマーのTgが報告されていない場合、ホモポリマーのTgは、DSCによって測定される。
【0018】
驚くべきことに、相対的に低いTを有するモノマー(例えば、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、又はブチルメタクリレート)と比較して、相対的に高いTを有するモノマー(例えば、メチルメタクリレートモノマー)から形成されたオリゴマーは、多層ポリマーと共に凝固した場合に、顕著な凝固温度の低下及び分散の改善を更に示すことが見出された。
【0019】
オリゴマーの調製において使用され得るアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、及び1,3-ブチレングリコールジメタクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「アルキル(メタ)アクリレート」は、アルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートの両方を指す。
【0020】
少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマーに加えて、追加のモノマーを使用してオリゴマーを調製することもできる。例えば、オリゴマーは、少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートモノマー及び追加のモノマーから調製され得る。追加のモノマーは、例えばスチレンモノマー及びアクリルアミドモノマー、例えばジメチルアクリルアミド及びジアセトンアクリルアミドなどから選択することができる。
【0021】
オリゴマーの重合度は、25未満である。好ましくは、重合度は、20未満である。本明細書で使用される場合、重合度は、末端連鎖移動剤残基が鎖1本当たり1つであると仮定して、反応混合物中の連鎖移動剤対モノマーのモル比に基づいて計算される。
【0022】
連鎖移動剤(CTA)は、アクリレート又はメタクリレートモノマーの重合において連鎖移動剤として有用であることが知られているか又は見出されている任意の化合物であり得る。例えば、チオール連鎖移動剤を使用することができる。このようなチオールCTAの例としては、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、メチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、テトラ-チオールチオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、アルキルチオグリコレート(例えば、2-エチルヘキシルチオグリコレート(EHTG)又はオクチルチオグリコレート)、メルカプトエタノール、メルカプトウンデカン酸、チオ乳酸、チオ酪酸、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオラクテート、ペンタエリスリトールテトラチオブチレート;メチル3-メルカプトプロピオネート(MMP)、ブチル3-メルカプトプロピオネート(BMP)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PETMP)、ジペンタエリスリトールヘキサ(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサチオグリコレート;トリペンタエリスリトールオクタ(3-メルカプトプロピオネート)、及びトリペンタエリスリトールオクタチオグリコレートが挙げられるが、これらに限定されない。多官能性チオールの使用は、ポリマーの分岐度を高めるための有用な方法である。任意選択で、連鎖移動剤は、2種類以上の化合物の混合物を含み得る。好ましくは、CTAは、MMP、BMP、PETMP、EHTG、又はそれらの混合物を含む。より好ましくは、CTAは、BMP又はその混合物を含む。
【0023】
イソシアネートは、既知の方法によって調製され得る。好ましくは、オリゴマーは、乳化重合によって調製される。
【0024】
本発明の更なる態様は、例えばコア-シェルポリマー等の多層ポリマーと、オリゴマーとを含む組成物に関する。好ましくは、多層ポリマーと、オリゴマーとを含む組成物を凝固させ、乾燥させて、粉末を形成する。
【0025】
多層ポリマーは、アクリルコア-シェルポリマー又はMBSコア-シェルポリマーを含み得る。アクリルコア-シェルポリマーとしては、例えば、ブチルアクリレートを含むコアと、メチルメタクリレートを含むシェルと、任意選択でコアとシェルとの間の1つ以上の中間層とを有するアクリルコア-シェルポリマーを挙げることができる。MBSコア-シェルポリマーは、例えば、グラフト化され、任意選択で架橋されているメチルメタクリレートシェルで被覆された架橋ブタジエンコアを含んでいてよい。MBSコア-シェルポリマーは、任意選択でコアとシェルとの間に中間層を含んでいてもよく、当該中間層は、コアとシェルとの間の高度に架橋された層、例えば、メチルメタクリレートモノマー及び1,3-ブチレングリコールジメタクリレートモノマーから作製された層である。組成物は、オリゴマーのエマルジョンと、多層ポリマーを含有するエマルジョンと、をブレンドすることによって調製することができ、又はオリゴマーは、凝固前に多層ポリマーエマルジョンの存在下で、in situで合成することもできる。
【0026】
好ましくは、本発明の、多層ポリマーと、オリゴマーとを含む組成物は、80℃未満、より好ましくは75℃未満、更により好ましくは70℃未満の凝固温度をもたらす。本明細書で使用される場合、「凝固温度」は、オリゴマーと、多層ポリマーとを含む組成物が凝固して、200マイクロメートルの平均粒径を有する凝固物をもたらす温度である。凝固温度は、異なるサイズの粒子の凝固温度を測定することによって、平均粒径について内挿又は外挿することができる。
【0027】
本発明のオリゴマーは凝固温度を低下させる。理論に束縛されるものではないが、オリゴマーは、コア-シェルポリマーを結合させて粉末粒にするための接着剤として作用し、したがって、コア-シェルポリマーのシェルをより硬くすることができ、また、シェル厚さを増加させることができ、これはまた、樹脂組成物に添加された場合に分散に有利に働く傾向があると考えられる。オリゴマーなしでは、シェルのコアに対する比の増加は、凝固温度によって制限される。組成物は、凝固前にオリゴマーエマルジョンとコア-シェルポリマーエマルジョンとを低温ブレンドすることによって調製することができる。次いで、得られた混合物を分離し、乾燥させて、コア-シェルポリマーと、オリゴマーとを含む粉末を形成することができる。
【0028】
オリゴマーは、粉末組成物の総重量に対して、1~98重量%の範囲の量で粉末組成物中に存在し得る。好ましくは、オリゴマーは、粉末組成物の総重量に対して、少なくとも2重量%、少なくとも3重量%、少なくとも4重量%、又は少なくとも5重量%の量で粉末組成物中に存在する。好ましくは、オリゴマーは、80重量%未満、60重量%未満、50重量%未満、40重量%未満、30重量%未満、又は20重量%未満の量で存在する。
【0029】
粉末は、好ましくは50~500マイクロメートルの範囲の平均粒径を有する。より好ましくは、粉末は、75~400マイクロメートル、例えば100~300マイクロメートルの範囲の平均粒径を有する。更により好ましくは、粉末は、150~250マイクロメートルの範囲の平均粒径を有する。本明細書で使用される場合、語句「平均粒径」又は「平均粒子サイズ」は、全ての可能な直径の算術平均であり、直径は、粒子の中心を通る任意の直線寸法である。オリゴマーの粒径は、Malvern Zetasizer Nano S90粒径分析器で測定した。
【0030】
本発明のオリゴマーはまた、エポキシ及びメチルメタクリレート樹脂等の液体樹脂組成物中で使用される場合、粘度を顕著に低下させ得る。
【0031】
本発明の別の態様は、本発明による粉末組成物を含むか、又はそれから調製された、樹脂組成物に関する。例えば、樹脂組成物は、例えばMBS又はアクリルコアシェルポリマー等の多層ポリマーと、オリゴマー添加剤とを含む、本発明の粉末とブレンドされるエポキシ樹脂又はメチルメタクリレート樹脂を含んでいてよい。
【0032】
多層ポリマーと、オリゴマー添加剤とを含む粉末は、樹脂組成物の総重量に対して、2~30重量%、好ましくは樹脂組成物の総重量に対して、5~25重量%の範囲の量で樹脂組成物に添加することができる。オリゴマー添加剤は、樹脂組成物の総重量に対して、0.5~10重量%、例えば、2~8重量%又は4~6重量%の範囲の量で樹脂組成物中に存在し得る。本発明による樹脂組成物は、オリゴマーを含有しない同様の樹脂組成物と比較して改善された分散を有する。本明細書で使用される場合、「改善された分散」は、樹脂組成物がより均質であり、目に見える粒子も粉末の凝集物も含有しないことを意味する。あるいは、液体樹脂組成物中で使用される場合、樹脂組成物は、オリゴマーを含有しない樹脂組成物と比較してより低い粘度を有する。
【0033】
あるいは、多層ポリマー及びオリゴマー添加剤の粉末組成物を、多層ポリマーを含みオリゴマー添加剤を含まない別の粉末と組み合わせてもよい。例えば、多層ポリマーと、オリゴマー添加剤とを含む粉末組成物は、得られる樹脂組成物中のオリゴマー添加剤の総量を調整するために別の粉末とブレンドされるオリゴマー添加剤を比較的多量に含んでいてよい。したがって、粉末組成物中に存在するオリゴマー添加剤の割合がより高くなる場合があり、オリゴマー添加剤を含まない第2の粉末を使用することによって調整することができる。
【0034】
本発明は更に、多層ポリマーの分散を改善するためのプロセスであって、多層ポリマーと、オリゴマー添加剤とを含む粉末組成物を樹脂組成物に添加することを含み、多層ポリマーの分散が、オリゴマー添加剤を含まない粉末組成物で作製された同様の組成物と比較して改善される、プロセスに関する。
【実施例
【0035】
表1の配合に基づいて従来の乳化重合によって、本発明によるオリゴマーを調製した。オリゴマーは、非常に低いTを有していた。オリゴマー1を以下のプロセスによって形成した。メカニカルスターラー、温度計、コンデンサー、及び電熱マントルを備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、脱イオン水1497.02g、Sequestrene0.094g、及びラウリル硫酸ナトリウム界面活性剤の28%水溶液10.27gを仕込んだ。反応器の内容物を80℃に加熱した。別個の容器内で、ブチル3-メルカプトプロピオネート125g、メチルメタクリレート112.5g、ブチルアクリレート1012.5g、ラウリル硫酸ナトリウムの28%水溶液56.70g、及び脱イオン水275.65gをブレンドし、撹拌して、モノマーエマルジョン混合物を形成した。モノマーエマルジョン混合物79.12gを反応器に添加し、続いて、t-ブチルハイドロパーオキシドの2.5%水溶液100g及びホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムの2.5%水溶液100gをそれぞれ1.11g/分の流量で同時に供給した。15分後、残りのモノマーエマルジョン混合物を33.41g/分の流量で添加した。供給の終了時に、反応器を40℃に冷却し、濾過したところ、凝塊は観察されなかった。ポリマー固形分含有量は38.2%であると測定され、エマルジョンラテックス粒径は105nmであると測定された。
【0036】
【表1】

測定されたMは、目標Mの±10%以内であった。
【0037】
表1に従って生成したオリゴマーエマルジョンをMBSコア-シェルポリマーエマルジョンと低温ブレンドし、分離し、乾燥させて、粉末を形成した。MBSコア-シェルポリマーは、72重量%のブタジエンコア及び28重量%のメチルメタクリレートシェルを含み、重量パーセントは、MBSコア-シェルポリマーの総重量に基づく。MBSコア-シェルポリマーを調製するために、撹拌機及びいくつかの入口ポートを備えたステンレス鋼オートクレーブに、6300部の脱イオン水、170部の60nmポリマープリフォーム、及び4部のオレイン酸カリウムを仕込んだ。反応器を排気した後、3200部のブタジエン、4部のジビニルベンゼン、37部のジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、11部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、及び30部の追加のオレイン酸カリウムを添加し、圧力が低下しなくなるまで混合物を65℃で反応させた。次いで、反応容器を排気して、あらゆる残存する揮発性物質を除去した。
【0038】
上記で調製した固形分約34%のゴムラテックス2000部に、10部の脱イオン水に溶解した0.59部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、及び6部の脱イオン水中0.51部の70%活性強度tert-ブチルハイドロパーオキシドを添加し、続いて、181部のメチルメタクリレート、3.8部のスチレン、3.2部のジビニルベンゼンのモノマー混合物を1時間かけて添加した。モノマー混合物供給の終了後、5部の脱イオン水に溶解した0.3部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、及び3部の脱イオン水中0.25部の70%活性強度tert-ブチルハイドロパーオキシドを添加し、続いて、46.9gのMMA及び11.7gのBAのモノマー混合物を20分かけて添加した。供給完了の5分後に、5部の脱イオン水に溶解した0.3部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、及び3部の脱イオン水中0.25部の70%活性強度tert-ブチルハイドロパーオキシドを添加した。供給終了の30分後に、脱イオン水72部に溶解した0.36部のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、及び42部の脱イオン水に溶解した0.3部の70%活性強度tert-ブチルハイドロパーオキシドを180分かけて添加し、反応を完了させた。得られた多段階ポリマーラテックスは、約38%の固形分を有していた。
【0039】
凝固物1を調製するために、クォートサイズのフラスコに、41.8%の固形分含有量を有するオリゴマー1エマルジョン25.4g、37.4%の固形分含有量を有するMBSコアシェルポリマーエマルジョン534.6g、続いて、脱イオン水139gを添加した。混合物を、63℃に加熱した。
【0040】
4.51gのオレイン酸カリウム、2.45gのBNX(登録商標)DLTDP、2.45gのブチル化ヒドロキシトルエン、0.6gのIrganox 245、及び16.8gの脱イオン水を250mLのプラスチック容器に添加することによって、抗酸化エマルジョン調製物を調製した。混合物を、10000rpmで10分間、均質化した。
【0041】
組成物を凝固させるために、3.6gの3%塩酸水溶液、0.67gの0.05%塩化カルシウム水溶液、及び1309.1gの脱イオン水を3リットルのビーカーに添加した。ビーカーの内容物を500rpmで撹拌しながら63℃に加熱した。内容物が63℃に達すると、上記の予熱したエマルジョンを30~45秒かけてゆっくりビーカーに添加した。これにより、混合物が水相と固体ポリマー相とに相分離した。3%塩酸水溶液70.7gを添加して、凝固を完了させた。次いで、5%水酸化ナトリウム水溶液63gを用いて、ビーカーの内容物をpH7.0に中和した。次いで、混合物を90℃に加熱し、30分間90℃で保持した。保持後、混合物を冷却し、脱水し、ブフナー漏斗内で洗浄した。濾液の導電率が30μS/m未満になるまで試料を脱イオン水で洗浄し、次いで脱水した。試料を真空オーブンにて40℃で一晩乾燥させた。粉末の粒径をMalvern Mastersizer2000で測定した。
【0042】
オリゴマーを、MBSコアシェルポリマー及びオリゴマーの総重量に対して、5重量%の量で添加した。表2に示すように、オリゴマーの添加によって、組成物の凝固温度が顕著に低下した。
【0043】
【表2】

生成された実際の粒径での凝固温度。
【0044】
凝固したMBSコア-シェル/オリゴマーの分散性を試験するために、凝固した組成物をエポキシ樹脂(Olin Corporationから入手可能なD.E.R.(商標)-331エポキシ樹脂)又はメチルメタクリレートモノマーのいずれかに添加した。
【0045】
MMA分散液を調製するために、12gのポリマーを、38gのメチルメタクリレートを収容する混合カップに室温でゆっくりと添加した。得られた混合物を、スパチュラを用いて手で混合し、次いで、1600rpmのミキサーで60秒間撹拌した。得られた分散液を、分散液の品質を目視検査するためにLenetaチャート上に広げた。BrookfieldモデルDV-I+粘度計を用いて5rpmの剪断速度で、分散液の粘度を測定した。
【0046】
エポキシ分散液を調製するために、249gのD.E.R.を収容する樹脂ケトルを使用した。331エポキシ樹脂を60℃に加熱した。1800rpmの撹拌速度で、51gのポリマー粉末をケトルに添加した。ケトルの内容物を90分間撹拌し、次いで、室温まで冷却した。得られた分散液を、分散液の品質を目視検査するために広げた。BrookfieldモデルDV-II粘度計で、室温において0.3rpmの剪断速度で、分散液の粘度を測定した。
【0047】
【表3】
【0048】
本発明によるオリゴマーを組み込んだ各実施例において、最終組成物は、顕著に改善された粘度及び外観を有していた。比較例1は分散が不良であり、試料は未分散の粒及び高粘度を有していた。本発明による実施例は、粒のない優れた分散を示し、低粘度を有することに加えて、MBSラテックスの形成における凝固温度が低下した。
【0049】
オリゴマーの組成の効果を判定するために、別の実験セットを実施した。表4に従って一連のオリゴマーを調製した。これらのオリゴマーを、表1に上述したものと同様に調製した。
【0050】
【表4】

測定されたMは、目標Mの±10%以内であった。
【0051】
表5は、Fox式を用いて計算されたガラス転移温度及びDSCを使用して実験的に求められたガラス転移温度、並びにTの計算値とTの測定値との間の差(Fox-DSC)を示している。Tの計算値とTの測定値との間の実質的な差は、添加剤のオリゴマー性を示す。
【0052】
【表5】
【0053】
表4に従って生成したオリゴマーであるオリゴマー3~10をMBSコア-シェルポリマーエマルジョンと低温ブレンドし、分離し、乾燥させて、粉末を形成した。MBSコア-シェルポリマーは、77重量%のブタジエンコア及び23重量%のメチルメタクリレートシェルを含んでおり、重量パーセントは、MBSコア-シェルポリマーの総重量に基づく。オリゴマーを、MBSコアシェルポリマー及びオリゴマーの総重量に対して、5重量%の量で添加した。表6に示すように、オリゴマーの添加によって、組成物の凝固温度が顕著に低下した。
【0054】
【表6】

粒径は、形成された粒子の実際の平均粒径の測定値である。
【0055】
組成物の総重量に対して17重量%の濃度の凝固粉末である凝固物3~10を、エポキシ(D.E.R.(商標)-331エポキシ樹脂)中に分散させ、観察結果を表7に報告する。
【0056】
【表7】
【0057】
表6及び表7に見られるように、本発明によるオリゴマーは、分散の改善及び凝固温度の低下の両方をもたらした。
【0058】
本明細書の文脈により別段の指示がない限り、全ての量、比率、及びパーセンテージは重量によるものであり、全ての試験方法は、本開示の出願日現在のものである。冠詞「a」、「an」、及び「the」は各々、1以上を指す。添付の特許請求の範囲は、「発明を実施するための形態」を表現するために、かつそこに記載される特定の化合物、組成物、又は方法に限定されず、添付の特許請求の範囲の範疇の特定の実施形態間で異なり得ることを理解されたい。様々な実施形態の特定の特徴又は態様を説明するための本明細書に依拠する任意のマーカッシュグループに関して、全ての他のマーカッシュメンバーから独立したそれぞれのマーカッシュグループの各メンバーから異なる、特別な、かつ/又は予期しない結果が得られる可能性がある。マーカッシュ群の各々の要素は、個々にかつ又は組み合わされて依拠とされ得、添付の特許請求の範囲内で、特定の実施形態に適切な根拠を提供し得る。
【0059】
更に、本発明の様々な実施形態を説明する際に依拠とされる任意の範囲及び部分範囲は、独立して及び包括的に、添付の特許請求の範囲内に入り、本明細書にその中の全部及び/又は一部の値が明記されていなくても、そのような値を包含する全範囲を説明及び想到するものと理解される。当業者であれば、列挙された範囲及び部分範囲が、本発明の様々な実施形態を十分に説明し、可能にし、そのような範囲及び部分範囲は、更に関連性がある2等分、3等分、4等分、5等分などに描かれ得ることを容易に認識する。単なる一例として、「0.1~0.9」の範囲は、更に、下方の3分の1、すなわち、0.1~0.3、中央の3分の1、すなわち、0.4~0.6、及び上方の3分の1、すなわち、0.7~0.9に描かれ得、これらは、個々に及び包括的に、添付の特許請求の範囲内であり、そして添付の特許請求の範囲内の具体的な実施形態に、個々に及び/又は包括的に依拠され得、そして十分なサポートを提供している。更に、範囲を定義する、又は修飾する言葉、例えば「少なくとも」、「超」「未満」「以下」などに関して、そのような言葉は、部分範囲及び/又は上限若しくは下限を含むと理解されるべきである。別の例として、「少なくとも10」の範囲は、少なくとも10~35の部分範囲、少なくとも10~25の部分範囲、25~35の部分範囲などを本質的に含み、そして各々の部分範囲は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に、個々に及び/又は包括的に依拠され得、そして十分なサポートを提供している。最終的に、開示した範囲内の個々の数は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に、依拠され得、そして十分なサポートを提供している。例えば、「1~9」の範囲は、様々な個々の整数、例えば3、並びに、小数点(又は分数)を含む個々の数、例えば4.1を含み、これは、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に、依拠され得、そして十分なサポートを提供している。
【0060】
本明細書で使用される「組成物」という用語は、組成物を構成する材料、並びに組成物の材料から形成された反応生成物及び分解生成物を含む。
【0061】
「含む」という用語及びその派生語は、それらが本明細書において開示されているかどうかにかかわらず、任意の追加の成分、工程、又は手順の存在を排除することを意図するものではない。あらゆる疑いを回避するために、「含む」という用語の使用を通じて本明細書において特許請求される全ての組成物は、矛盾する記述がない限り、ポリマー性であるかどうかにかかわらず、任意の追加の添加剤、補助剤、又は化合物を含み得る。対照的に、「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、操作性に必須ではないものを除き、あらゆる以降の記述の範囲からあらゆる他の成分、工程、又は手順を除外する。「からなる(consisting of)」という用語は、具体的に描写又は列記されていないあらゆる成分、工程、又は手順を除外する。
【国際調査報告】