(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】イヌ科動物における心臓疾患及び変性性僧帽弁疾患の診断
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20231222BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20231222BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533346
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 IB2021061594
(87)【国際公開番号】W WO2022130154
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】リー, チンホン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、特定の属及び種を含むマイクロバイオームを用いることによる、早期変性性僧帽弁疾患を含む、イヌ科動物における心臓疾患を診断するための方法に関する。一実施形態では、本方法は、フィーカリバクテリウム、ツリシバクター、ストレプトコッカス、大腸菌、ブラウティア、フソバクテリウム、及びC.ヒラノニスを含む糞便性細菌の、正規化した相対存在量を測定する工程と、糞便性細菌に基づいてディスバイオシス指数を計算する工程と、ディスバイオシス指数が-1.0より大きい場合に、イヌ科動物が心臓疾患を有すると判定する工程と、を含むことができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌ科動物における心臓疾患を診断する方法であって、
フィーカリバクテリウム、ツリシバクター、ストレプトコッカス、大腸菌、ブラウティア、フソバクテリウム、及びC.ヒラノニスを含む、糞便性細菌の、正規化した相対存在量を測定する工程と;
前記糞便性細菌に基づいてディスバイオシス指数を計算する工程と;
前記ディスバイオシス指数が-1.0より大きい場合に、前記イヌ科動物が心臓疾患を有すると判定する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ディスバイオシス指数が-1~0.5である場合に、前記イヌ科動物が早期変性性僧帽弁疾患を有すると更に判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ディスバイオシス指数が-1~-0.25である場合に、前記早期変性性僧帽弁疾患がB1であると更に判定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ディスバイオシス指数が-0.25~0.5である場合に、前記早期変性性僧帽弁疾患がB2であると更に判定する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ディスバイオシス指数が0.5より大きい場合に、前記イヌ科動物がうっ血性心不全を有すると更に判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
イヌ科動物における早期変性性僧帽弁疾患を診断する方法であって、
カテニバクテリウム・ミツオカイ、ブチリシコッカス・プリカエコルム、バクテロイデス・コプロコーラ、バクテロイデス・プレビウス、アロバクルム・ステルコリカニス、又はそれらの組合せからなる群から選択されるバイオマーカーの、正規化した相対存在量を測定する工程と;
前記カテニバクテリウム・ミツオカイの正規化した相対存在量が0.3~3である場合、前記ブチリシコッカス・プリカエコルムの正規化した相対存在量が0.14~0.35である場合、前記バクテロイデス・コプロコーラの正規化した相対存在量が0.6~1.3である場合、前記バクテロイデス・プレビウスの正規化した相対存在量が0.1~0.8である場合、又は前記アロバクルム・ステルコリカニスの正規化した相対存在量が0.1~1.5である場合に、前記イヌ科動物が早期変性性僧帽弁疾患を有すると判定する工程と、
を含む、方法。
【請求項7】
前記判定する工程が、少なくとも2つのバイオマーカーに基づくものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記判定する工程が、少なくとも3つのバイオマーカーに基づくものである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記判定する工程が、少なくとも4つのバイオマーカーに基づくものである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
イヌ科動物における早期変性性僧帽弁疾患を診断する方法であって、
カテニバクテリウム属細菌、プレボテラ属細菌、ブチリシコッカス属細菌、フィーカリバクテリウム属細菌、クロストリジウム属細菌、アロバキュラム属細菌、又はそれらの組合せからなる群から選択される細菌の、正規化した相対存在量を測定する工程と;
前記カテニバクテリウム属細菌の正規化した相対存在量が0.3~3である場合、前記プレボテラ属細菌の正規化した相対存在量が0.5~4である場合、前記ブチリシコッカス属細菌の正規化した相対存在量が0.14~0.4である場合、前記フィーカリバクテリウム属細菌の正規化した相対存在量が0.012~0.04である場合、前記クロストリジウム属細菌の正規化した相対存在量が2~4である場合、又は前記アロバキュラム属細菌の正規化した相対存在量が0.2~1.5である場合に、前記イヌ科動物が早期変性性僧帽弁疾患を有すると判定する工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記判定が、少なくとも2つの属に基づくものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記判定が、少なくとも3つの属に基づくものである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記判定が、少なくとも4つの属に基づくものである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
[0001]本出願は、2020年12月18日に出願された米国特許仮出願第63/127,247号の優先権を主張するものであり、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
[0002]イヌ科動物の変性性僧帽弁疾患(DMVD)は、僧帽弁逆流を引き起こし、及び一部のイヌでうっ血性心不全(CHF)を引き起こす、遅進行性の弁膜変性を特徴とする。早期段階のイヌは、典型的には長い発症前期間を有するが、CHFを有する段階まで進行すると、疾患がより急速に進行し、その平均生存期間は12ヶ月未満である。したがって、罹患したイヌの寿命を延ばすためには、発症前段階の早期に介入することが極めて重要である。近年では、イヌDMVDを分類するためのステージング体系が、American College of Veterinary Internal Medicine(ACVIM)により設立されたコンセンサス委員会によって採用されている。DMVDを発症するリスクがあるが、それ以外は健康であるイヌは、ステージAであるとみなされ;僧帽弁逆流による心雑音があるが、CHFの臨床的徴候はみられないイヌは、ステージBに分類され;CHFの明らかな臨床徴候を有するイヌは、ステージCに分類される。ステージBのイヌは、心室リモデリングの有無により、ステージB1又はB2に更に分けられる。
【0003】
[0003]現在、発症前早期のDMVDに有効であることが証明されている唯一の薬剤はピモバンデン(pimobanden)であり、これは、どの薬剤もそうであるように副作用を伴う。現在、DMVD診断のゴールドスタンダードは、心エコー検査であり、これは高価であるだけでなく、専門性の高い心臓専門獣医も必要とする。したがって、現在の方法及び治療の欠点を克服する有効な診断方法及び治療が尚も探求されている。
【発明の概要】
【0004】
[0004]本開示は、概して、イヌ科動物における心臓疾患及び変性性僧帽弁疾患(DMVD)の診断に関し、一態様では、早期DMVDの診断に関する。一実施形態では、イヌ科動物における心臓疾患を診断する方法は、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)、ツリシバクター(Turicibacter)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、大腸菌(E.Coli)、ブラウティア(Blautia)、フソバクテリウム(Fusobacterium)、及びC.ヒラノニス(C.hiranonis)を含む糞便性細菌の、正規化した相対存在量を測定する工程と、糞便性細菌に基づいてディスバイオシス指数を計算する工程と、ディスバイオシス指数が-1.0より大きい場合にイヌ科動物が心臓疾患を有すると判定する工程と、を含むことができる。
【0005】
[0005]別の実施形態では、イヌ科動物における早期DMVDを診断する方法は、カテニバクテリウム・ミツオカイ(Catenibacterium mitsuokai)、ブチリシコッカス・プリカエコルム(Butyricicoccus pullicaecorum)、バクテロイデス・コプロコーラ(Bacteroides coprocola)、バクテロイデス・プレビウス(Bacteroides plebeius)、アロバクルム・ステルコリカニス(Allobaculum stercoricanis)、又はこれらの組合せからなる群から選択されるバイオマーカーの、正規化した相対存在量を測定する工程と;カテニバクテリウム・ミツオカイの正規化した相対存在量が0.3~3である場合、ブチリシコッカス・プリカエコルムの正規化した相対存在量が0.14~0.35である場合、バクテロイデス・コプロコーラの正規化した相対存在量が0.6~1.3である場合、バクテロイデス・プレビウスの正規化した相対存在量が0.1~0.8である場合、又はアロバクルム・ステルコリカニスの正規化した相対存在量が0.1~1.5である場合に、イヌ科動物が早期DMVDを有すると判定する工程と、を含むことができる。
【0006】
[0006]更に別の実施形態では、イヌ科動物における早期DMVDを診断する方法は、属が、カテニバクテリウム(Catenibacterium)、プレボテラ(Prevotella)、ブチリシコッカス(Butyricicoccus)、フィーカリバクテリウム、クロストリジウム(Clostridium)、アロバキュラム(Allobaculum)、又はそれらの組合せからなる群から選択される、その属における細菌の、正規化した相対存在量を測定する工程と;カテニバクテリウム(Catenibacterium)属における細菌の正規化した相対存在量が0.3~3である場合、プレボテラ(Prevotella)属における細菌の正規化した相対存在量が0.5~4である場合、ブチリシコッカス(Butyricicoccus)属における細菌の正規化した相対存在量が0.14~0.4である場合、フィーカリバクテリウム属における細菌の正規化した相対存在量が0.012~0.04である場合、クロストリジウム属における細菌の正規化した相対存在量が2~4である場合、又はアロバキュラム(Allobaculum)属における細菌の正規化した相対存在量が0.2~1.5である場合に、イヌ科動物が早期DMVDを有すると判定する工程と、を含むことができる。
【0007】
[0007]更なる特徴及び利点が本明細書に記述されており、以下の発明を実施するための形態から明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
[0008]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「糞便性細菌又は細菌(a fecal bacteria or bacterium)」又は「糞便性細菌又は細菌(the fecal bacteria or bacterium)」に対する言及は、2つ以上のそのような細菌(bacteria)又は細菌(bacterium)を含む。「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈すべきである。本明細書で使用する場合、「例」及び「例えば」という用語は、特に用語の列挙が続くときには、単に例示的及び図示的に用いられるものであり、排他的又は包括的なものでない。
【0009】
[0009]本明細書で使用する「約」は、数値範囲内の数を指すものと理解され、例えば、参照する数字の-10%から+10%の範囲、-5%から+5%の範囲内、又は一態様では参照する数字の-1%から+1%の範囲内、具体的態様では参照する数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指す。更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数(integers)、整数(whole)又は分数、を含むものと理解されたい。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。
【0010】
[0010]本明細書で使用するとき、「の間/~」は、端点を含む。例えば、-1と0.5との間(-1~0.5)のディスバイオシス指数は、ディスバイオシスが-1又は0.5である場合を含む。
【0011】
[0011]本明細書で表されている全ての百分率は、別段の記述がない限り、乾物ベースでの組成物の重量基準である。当業者であれば、「乾物ベース」という用語が、組成物中の全ての自由水分が除かれた後に組成物中の原材料の濃度又はパーセンテージが測定又は特定されること、を意味していることは理解されるであろう。pHについての参照がなされる場合には、値は標準的な装置により25℃にて測定されるpHに相当する。「量」は、参照された成分の、組成物1回分当たりの総量若しくは組成物の別個の単位当たりの総量であってよく、及び/又は参照された成分の、乾燥重量による重量%であり得る。更に、「量」は、ゼロを含み;例えば、化合物の量の記述は、ゼロを除外する範囲を伴わない限り、化合物が存在することを必ずしも意味しない。
【0012】
[0012]本明細書で使用するとき、「正規化した相対存在量」は、各微生物の量であって、各サンプルにおいてそれぞれのカウントをとり、総シークエンスカウント(total sequence count)で除算して、平方根で変換することによって計算された量を指す。
【0013】
[0013]本明細書で使用するとき、「早期変性性僧帽弁疾患」は、変性性僧帽弁疾患のステージBを指す。
【0014】
[0014]本明細書で使用するとき、「ステージA」は、変性性僧帽弁疾患を発症するリスクがあるが、それ以外は健康な心臓を有するイヌを指す。
【0015】
[0015]本明細書で使用するとき、「ステージB」は、僧帽弁逆流に起因する心雑音があるが、うっ血性心不全の臨床的徴候を有さないイヌを指す。「ステージB」は、ステージB1(心室リモデリングなし)及びステージB2(心室リモデリングあり)を含む。
【0016】
[0016]本明細書で使用するとき、「ステージC」は、うっ血性心不全を有するイヌを指す。
【0017】
[0017]本明細書で使用するとき、「変性性僧帽弁疾患」、「DMVD」、「慢性弁膜疾患」、「CVD」、「粘液腫様僧帽弁疾患」、及び「MMVD」は、互換的に使用可能であり、僧帽弁逆流及び/又はうっ血性心不全(CHF)を引き起こす進行性弁膜変性を指し、ステージA、ステージB、及びステージCを含む。
【0018】
[0018]本明細書で使用するとき、「ディスバイオシス指数」又は「DI」は、“A Dysbiosis Index to Assess Microbial Changes in Fecal Samples of Dogs with Chronic Inflammatory Enteropathy” by AlShawaqfeh et al,FEMS Microbiology Ecology,vol.93,no.11,pp 1-8(2017)(doi:0.1093/femsec/fix136)に開示されているように、各クラスの平均(プロトタイプ)に対する試験サンプルの近さ(l2-正規化)を測定した単一の数値として定量化される。上記の論文で考察されているように、DIは、(試験サンプル重心と健常クラス重心との間のユークリッド距離)と、(試験クラス重心と罹患クラス重心との間のユークリッド距離)との間の差として定義される。DIは以下のように数学的に計算される:テキストサンプルzのDIは次のように定義される:
【0019】
【数1】
式中、
【数2】
及び
【数3】
は、それぞれ、トレーニングセットにおける罹患サンプル及び健常サンプルの重心を表す。
【0020】
[0019]本明細書で開示される方法には、本明細書において具体的に開示されない任意の工程が存在しない場合がある。したがって、「を含む」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている工程「を本質的に含む」実施形態、及び特定されている工程「を含む」実施形態の開示を含む。別途記載のない限り及び直接的に明言のない限り、本明細書に開示される任意の実施形態を、本明細書に開示される任意の他の実施形態と組み合わせることもできる。
【0021】
[0020]別途記載のない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語、並びにいかなる略語も、本発明の属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同様の意味を有する。本明細書に記載のものに類似又は等価の任意の組成物、方法、製品、又はその他の手法若しくは材料を本発明の実施に使用できるが、好ましい組成物、方法、製品、又はその他の手法若しくは材料が本明細書に記載される。
【0022】
[0021]本明細書において引用又は参照される全ての特許、特許出願、刊行物、及びその他の参考文献は、参照により、法によって許容される範囲で本明細書に援用される。これらの参照文献についての論考は、その参照文献においてなされる主張を要約することを意図するにすぎない。このような特許、特許出願、刊行物、若しくは参考文献、又はこれらの任意の部分が、本発明の関連する先行技術についてのものであるとの了解はなされず、かつこのような特許、特許出願、刊行物、及びその他の参考文献の正確性及び適切性について異議申し立てをする権利は明確に保有される。
【0023】
実施形態
[0022]本発明者は、ディスバイオシス指数と、特定の属及び種と、を含む特定のマイクロバイオームに基づいて、心臓疾患を診断できることを発見した。更に、本発明者は、本マイクロバイオームを使用して、早期変性性僧帽弁疾患を診断することができることを発見した。このような方法は、診断するのが困難であり得ることに加えて費用がかかり得る各種状態について、安価且つ効率的な診断を可能にする。
【0024】
[0023]一実施形態では、イヌ科動物における心臓疾患を診断する方法は、フィーカリバクテリウム、ツリシバクター、ストレプトコッカス、大腸菌、ブラウティア、フソバクテリウム、及びC.ヒラノニスを含む糞便性細菌の正規化した相対存在量を測定する工程と、糞便性細菌に基づいてディスバイオシス指数を計算する工程と、ディスバイオシス指数が-1.0より大きい場合に、イヌ科動物が心臓疾患を有すると判定する工程と、を含むことができる。
【0025】
[0024]概して、ディスバイオシス指数が-1.0より大きい場合に、イヌ科動物はDMVDを有すると診断され得る。しかしながら、一態様では、判定する工程はまた、ディスバイオシス指数が-1~0.5である場合に、イヌ科動物が早期DMVDを有すると判定する工程を含むことができる。加えて、別の態様では、本方法は、ディスバイオシス指数が-1~-0.25である場合に、イヌ科動物が早期DMVD B1を有すると更に判定することができる。更に別の態様では、本方法は、ディスバイオシス指数が-0.25~0.5である場合に、イヌ科動物が早期DMVD B2を有すると更に判定することができる。更に別の態様では、本方法は、ディスバイオシス指数が0.5より大きい場合に、イヌ科動物がうっ血性心不全を有すると更に判定することができる。
【0026】
[0025]別の実施形態では、イヌ科動物における早期DMVDを診断する方法は、カテニバクテリウム・ミツオカイ、ブチリシコッカス・プリカエコルム、バクテロイデス・コプロコーラ、バクテロイデス・プレビウス、アロバクルム・ステルコリカニス、又はこれらの組合せからなる群から選択されるバイオマーカーの、正規化した相対存在量を測定する工程と、カテニバクテリウム・ミツオカイの正規化した相対存在量が0.3~3である場合、ブチリシコッカス・プリカエコルムの正規化した相対存在量が0.14~0.35である場合、バクテロイデス・コプロコーラの正規化した相対存在量が0.6~1.3である場合、バクテロイデス・プレビウスの正規化した相対存在量が0.1~0.8である場合、又はアロバクルム・ステルコリカニスの正規化した相対存在量が0.1~1.5である場合に、イヌ科動物が早期DMVDを有すると判定する工程と、を含むことができる。
【0027】
[0026]概して、イヌ科動物は、特定の正規化した相対存在量を有する、本明細書で論じられる様々なバイオマーカー、すなわち細菌を用いて、早期DMVDを有すると診断することができる。しかしながら、一態様では、診断は、少なくとも2つのバイオマーカーに基づくことができる。別の態様では、診断は、少なくとも3つのバイオマーカーに基づくことができる。更に別の態様では、診断は、少なくとも4つのバイオマーカーに基づくことができる。更に別の態様では、診断は、5つのバイオマーカーの全てに基づくことができる。
【0028】
[0027]更に別の実施形態では、イヌ科動物における早期DMVDを診断する方法は、属が、カテニバクテリウム、プレボテラ、ブチリシコッカス、フィーカリバクテリウム、クロストリジウム、アロバキュラム、又はそれらの組合せからなる群から選択される、その属における細菌の、正規化した相対存在量を測定する工程と;カテニバクテリウム属における細菌の正規化した相対存在量が0.3~3である場合、プレボテラ属における細菌の正規化した相対存在量が0.5~4である場合、ブチリシコッカス属における細菌の正規化した相対存在量が0.14~0.4である場合、フィーカリバクテリウム属における細菌の正規化した相対存在量が0.012~0.04である場合、クロストリジウム属における細菌の正規化した相対存在量が2~4である場合、又はアロバキュラム属における細菌の正規化した相対存在量が0.2~1.5である場合に、イヌ科動物が早期DMVDを有すると判定する工程と、を含むことができる。
【0029】
[0028]概して、イヌ科動物は、特定の正規化した相対存在量を有する、本明細書で論じられる様々な属における細菌を用いて、早期DMVDを有すると診断することができる。しかしながら、一態様では、診断は、少なくとも2つの属に基づくことができる。別の態様では、診断は、少なくとも3つの属に基づくことができる。更に別の態様では、診断は、少なくとも4つの属に基づくことができる。別の態様では、診断は、少なくとも5つの属に基づくことができる。更に別の態様では、診断は、6つのバイオマーカーの全てに基づくことができる。
【実施例】
【0030】
[0029]以下の非限定的な実施例は、本開示の実施形態の例示である。
【0031】
実施例1-イヌ科動物のDMVD試験
[0030]心雑音及び併発した全身性疾患を有しない7歳以上の臨床的に健康なイヌを、対照として前向き登録した(A群、N=29)。B1群(N=34)、B2群(N=25)、及びC/D群(N=25)についてそれぞれ、左心尖部収縮期雑音、肥厚及び逸脱した僧帽弁尖及び僧帽弁逆流の心エコー(エコー)診断、並びにステージB1、ステージB2、ステージC、又はステージDのDMVDと一致する病歴及び身体診察を有する、7歳以上のイヌのコホートを検討した。糖尿病、がん、若しくは腎不全を含む重篤な併発全身性疾患を有する任意のイヌ、又は任意の先天性心臓疾患を有するイヌは除外した。嘔吐又は下痢などの胃腸病の徴候を有するイヌ、及び30日以内に抗生物質を受けたイヌもまた除外した。糞便サンプルをこれらのイヌから得た。
【0032】
前臨床DMVDのイヌを用いた食餌介入試験
[0031]前臨床DMVDを有し、且つ体重が15キログラム未満であるイヌを、本試験に含めるために検討した。イヌを、2つの食餌群、すなわち、対照食餌(CON、N=9)、及び心臓保護ブレンドを添加した食餌(CPB、N=10)に無作為に割り当てた。かかる2つの食餌は既に詳細に記載されている。イヌに、割り当てた食餌を唯一の栄養源として6ヶ月間与えた。臨床測定値及び糞便サンプルを、ベースライン、3ヶ月目、及び6ヶ月目に採取した。
【0033】
糞便DNA抽出及びメタゲノム配列決定
[0032]糞便ゲノムDNA(投入-450~600ng)を、375bpインサートを標的とするCovaris LE220装置にて断片化した。自動化されたIlluminaライブラリを、SciClone NGSプラットフォーム(Perkin Elmer)でKAPA Hyper PCRフリーライブラリ調製キット (KAPA Biosystems/Roche)により作製した。断片化したゲノムDNAを、AMPure XPビーズによりSciClone装置でサイズ選別して、DNA断片の分布を狭めて、ライブラリの平均挿入が350~375bpであることを確保した。以下の例外を除き、Perkin Elmerによって提供された製造元プロトコルに従った:ライゲーション後、ライブラリを、0.7×AMPureビーズ/サンプル比で2回精製して、あらゆる残留アダプタを除去した。最終ライブラリのアリコートを1:5に希釈し、Caliper GX装置(Perkin Elmer)で定量した。各ライブラリの濃度を、製造業者のプロトコル(KAPA Biosystems/Roche)に従ってKAPA library Quantification Kitを使用しqPCRによって正確に測定して、Illumina NovaSeq6000装置に適切なクラスタ数を生成した。ライブラリをプールし、XPワークフローを用い、製造業者のプロトコルに従って150×10×10×150の配列決定レシピを処理し、0.1のNovaSeq6000 S4フローセルで実行した。およそ5Gbのペアエンド配列を各サンプルについて生成した。
【0034】
ディスバイオシス指数
[0033]DMVDのイヌの4つの群:A群(N=31)、B1群(N=35)、B2群(N=25)、及びC/D群(N=30)由来の糞便DNAサンプルで、全細菌、フィーカリバクテリウム、ツリシバクター、大腸菌(Escherichia coli)、ストレプトコッカス、ブラウティア、フソバクテリウム、及びクロストリジウム・ヒラノニス(Clostridium hiranonis)を含む8つの細菌群の存在量を評価した。qPCRプライマーセット、プロトコル、及びディスバイオシス指数(DI)のための方法は、AlShawaqfeh et al.FEMS Microbiology Ecology,vol.93,no.11,pp 1-8 (2017)に以前に記載されている。陰性DIは共生関係(normobiosis)を示し、一方で、陽性DIはディスバイオシスを示す。有益な細菌であるC.ヒラノニスの基準範囲(reference interval)は5.1~7.1であった。
【0035】
バイオインフォマティクス解析
[0034]fastQCを使用して配列の品質を評価した。PEARを使用して、デフォルト設定でペアエンド配列を一緒にスティッチングした。Trimmomaticを使用して低品質の配列を除外し、一方でBowtie2を実行して、イヌ科動物(CanFam3.1)又はPhiX基準ゲノムにマッピングされたコンタミネーション配列を選別から除外した。低品質の配列を4塩基幅のスライディングウィンドウでスキャンし、塩基当たりの平均品質スコアが20未満に低下した場合に除外した。50塩基未満の配列もまた除外した。MetaPhlAn 2.0を使用して系統発生解析を行い、HUMAN 2.0を使用してUniRef90遺伝子ファミリーの存在量及びMetaCycパスウェイを計算した。
【0036】
統計解析
[0035]横断研究のために、クラスカル・ウォリス検定を用いて多群比較を行った。重要な分類群に対してDunnの多重比較を行った。食餌介入試験のために、ベースラインに対する3ヶ月及び6ヶ月の時点での変化を、各分類群について計算した。次いで、群平均間(CPB対CON)の差を計算した。正の数はCONからのCPBの増加を示し、一方、負の数は減少を示す。
【0037】
結果
[0036]表1は、イヌ科動物のDMVDの4つのステージを指すA群、B1群、B2群、及びC/D群間で異なる存在量を有する細菌種を提示する。表2は、3ヶ月及び6ヶ月の時点でのCPB細菌存在量とCON細菌存在量との間の変化を提示する。これらは、計算した平均値を使用してベースライン値に対して正規化した。23の細菌種はDMVDのイヌの4つの群間で変化した(表1)。群間で、DMVDの重症度と共に存在量が減少した7種の細菌、B.プレベイウ(B.plebeiu)、A.ステルコリカニス、E.ビフォルメ(E.biforme)、B.コプロコーラ(B.coprocola)、B.プルリコラム、C.ミツオカ、及びP.コプリ(P.copri)は、CPB給餌イヌではCON給餌イヌと比較して存在量が増加したが、一方で、CPB給餌イヌではCON給餌イヌと比較してバクテロイデス・ブルガトゥス(Bacteroides vulgatus)の存在量が減少した(表2)。
【0038】
【0039】
【0040】
[0037]表3は、イヌ科動物のDMVDの4つのステージを指すA群、B1群、B2群、及びC/D群間で異なる存在量を有する細菌属を提示する。表3は、3ヶ月及び6ヶ月の時点でのCPB細菌存在量とCON細菌存在量との間の変化を提示する。これらは、計算した平均値を使用してベースライン値に対して正規化した。3つの細菌属、プレボテラ、カテニバクテリウム、及びアロバキュラムは、DMVD重症度と共に存在量が減少したが(表3)、それらの存在量は、CPB食餌を与えたイヌではCON食餌と比較して増加した(表4)。
【0041】
【0042】
【0043】
[0038]A群の健康なイヌのDI(logDNA/糞便1グラム)は-1.48であったが、B1群及びB2群の前臨床DMVDのイヌでは、それぞれ、-0.6、-0.07に増加し、うっ血性心不全を有するC/D群のイヌでは1.47に増加した。したがって、DIはイヌにおけるDMVDの初期指標として使用することができる(表5)。加えて、一次胆汁酸を二次胆汁酸に変換する有益な細菌であるクロストリジウム・ヒラノニスの存在量は、健康なイヌでは基準範囲内であったが、DMVDを有するイヌでは範囲外であった(表5)。
【0044】
【0045】
[0039]本明細書で述べる現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。そのような変更及び修正は、本主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、なされ得る。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
【国際調査報告】