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特表2024-500049先天性GPI欠損症のバイオマーカーとしてのEMM抗原の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】先天性GPI欠損症のバイオマーカーとしてのEMM抗原の使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231222BHJP
   G01N 33/80 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/80
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533811
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2021084699
(87)【国際公開番号】W WO2022122785
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】20306520.6
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】515210293
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デ・アンティユ・エ・ドゥ・ラ・ギュイヤーヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DES ANTILLES ET DE LA GUYANE
(71)【出願人】
【識別番号】512217400
【氏名又は名称】エタブリスマン フランセ デュ サン
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ペイラール,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】アソウシ,スリム
(72)【発明者】
【氏名】エルミーヌ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】コリン-アロノヴィッセ,イヴ
(72)【発明者】
【氏名】デュヴァル,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ル・ヴァン・キム,カロリーヌ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA02
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)は、150種以上のタンパク質を細胞表面に係留する糖脂質である。GPI生合成に関わる数種の遺伝子の病原性バリアントが、先天性GPI欠損症(IGD)障害を引き起こす。ここで、本発明者らは、GPI修飾に関与する遺伝子であるPIGGのホモ接合性ヌル対立遺伝子が、珍しいEmm陰性の血液表現型の原因であることを報告した。GPIトランスアミダーゼ経路とGPIリモデリング経路の両方に欠陥があるK562細胞の一団を使用して、本発明者らは、その分子学的基礎が数十年間未解明のままであるEmm抗原が、遊離GPIによってのみ担持されること、そして、そのエピトープがGPI骨格の第2および第3のエタノールアミンから構成されることを実証する。重要なことに、本発明者らは、数人のIGD患者におけるEmm発現の減少が、GPI欠陥の指標となることを示す。概して、本発明者らの知見は、Emmを新規の血液型系として確立し、ヒトの遊離GPIの生物学的機能を理解する上で重要な意味を持つ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症のバイオマーカーとしてのEmm抗原の使用。
【請求項2】
対象における先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症を診断する方法であって、前記対象から得られた赤血球細胞の試料におけるEmm抗原の発現を検出することを含む、ここでEmm抗原の発現の変化を検出することが、前記対象が先天性GPI欠損症を患っていることを示す、方法。
【請求項3】
知的障害および/またはてんかんを特徴とする先天性GPI欠損症を診断するための、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
GPIアンカー型タンパク質の発現が対象の赤血球細胞において減少していない場合の先天性GPI欠損症を診断するための、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
血液細胞における少なくとも1つのGPI-APの発現が対象のGPI欠陥を反映しない場合の先天性GPI欠損症を診断するための、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
GPI-APが、CD59、CD55、FLAERおよびCD16からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
発作性夜間ヘモグロビン尿症を診断するための、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、医薬の分野に存する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
Emm陰性の珍しい血液表現型は、1973年に最初に記載されたが、依然として未知の遺伝学的基礎を有する最後の血液型の1つである(Emmは、現在、高頻度赤血球細胞抗原の901シリーズに含まれる)。抗Emmは、珍しく、そして、報告されている抗Emm抗体のうちの6つが輸血歴のない男性で発見されたことから天然に存在する抗体であると思われる。Emm陰性表現型は、劣性形質として遺伝すると考えられている。Emm抗原の正確な性質は、これまでのところ謎のままであるが、その発現が発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)患者由来の赤血球細胞(RBC)において強く減少しているので、Emm抗原は、RBC膜中のグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質(GPI-AP)上にあると推定されている。PNHは、PIGA遺伝子の体細胞変異によって引き起こされる後天性GPI欠損症であるが、ただし、それがPIGT遺伝子の体細胞変異とヘテロ接合性生殖細胞変異の組み合わせによって引き起こされる数人の患者は除く4、5。GPIは、補体阻害性糖タンパク質(CD59)を含む150種以上の異なるタンパク質を細胞表面につなぎ留める糖脂質であり、そして、PIGAおよびPIGTを含めたホスファチジルイノシトールグリカン(PIG)遺伝子と称される少なくとも22個の遺伝子がGPI-APの合成に関与する。GPI-APのアンカリングは、小胞体(ER)でのGPI前駆体の合成、GPIへのタンパク質付着、ならびにERおよびゴルジ体でのGPI-AP複合体のリモデリングを含む多工程プロセスである7~9。また、ERで合成されるGPI分子のいくつかが、細胞表面に輸送され、遊離の非結合GPIとして発現されることも知られている10。現在までに、PIG/PGAP(Post GPI Attachment to proteins)遺伝子の生殖細胞変異が、多発先天奇形-筋緊張低下-けいれん症候群(MCAHS)および高ホスファターゼ血症-精神遅滞症候群(HPMRS)/Mabry症候群を含む様々な先天性GPI欠損症(IGD)障害および表現型を引き起こすと報告されている11
【0003】
発明の概要:
本発明は、特許請求の範囲によって定義される。特に、本発明は、先天性GPI欠損症のバイオマーカーとしてのEmm抗原の使用に関する。
【0004】
発明の詳細な説明:
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)は、150種以上のタンパク質を細胞表面に係留する糖脂質である。GPI生合成に関わる数種の遺伝子の病原性バリアントが、先天性GPI欠損症(IGD)障害を引き起こす。ここで、本発明者らは、GPI修飾に関与する遺伝子であるPIGGのホモ接合性ヌル対立遺伝子が、珍しいEmm陰性の血液表現型の原因であることを報告した。GPIトランスアミダーゼ経路とGPIリモデリング経路の両方に欠陥があるK562細胞の一団を使用して、本発明者らは、その分子学的基礎が数十年間未解明のままであるEmm抗原が、遊離GPIによってのみ担持されること、そして、そのエピトープがGPI骨格の第2および第3のエタノールアミンから構成されることを実証する。重要なことに、本発明者らは、数人のIGD患者におけるEmm発現の減少が、GPI欠陥の指標となることを示す。概して、本発明者らの知見は、Emmを新規の血液型系として確立し、ヒトの遊離GPIの生物学的機能を理解する上で重要な意味を持つ。
【0005】
したがって、本発明は、先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症のバイオマーカーとしてのEmm抗原の使用に関する。
【0006】
特に、本発明は、対象における先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症を診断する方法であって、前記対象から得られた赤血球細胞の試料におけるEmm抗原の発現を検出することを含む、ここでEmm抗原の発現の変化を検出することが、前記対象が先天性GPI欠損症を患っていることを示す、方法に関する。
【0007】
本明細書において使用される場合、「グリコシルホスファチジルイノシトール」または「GPI」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、150種以上のタンパク質を細胞表面に係留する糖脂質のことを指し、そして、「GPIアンカー型タンパク質」または「GPI-Ap」と称されるこれらのタンパク質は、シグナル伝達経路において、酵素、接着分子、補体制御因子およびコレセプターとして多種多様な機能を果たす。それゆえ、GPI-APの表面レベルの低下または異常なGPI-AP構造は、グリコシルホスファチジルイノシトール欠損症を含む多様な症状(variable manifestations)をもたらし得る。
【0008】
本明細書において使用される場合、「先天性グリコシルホスファチジルイノシトール欠損症」または「先天性GPI欠損症」という用語は、GPI-APの表面レベルの低下または異常なGPI-AP構造を特徴とする臨床的かつ遺伝的に異質な病態の一群に関する。この用語はまた、「グリコシルホスファチジルイノシトール生合成欠陥」または「GPIBD」とも呼ばれる。完全なGPI欠損症は致死的であるものの、2006年以降、GPI機構を伴う障害がいくつか特定されており、これはハイポモルフィック変異によって引き起こされると考えられている(例えば、Chiyonobu, T., Inoue, N., Morimoto, M., Kinoshita, T., & Murakami, Y. (2014). Glycosylphosphatidylinositol (GPI) anchor deficiency caused by mutations in PIGW is associated with West syndrome and hyperphosphatasia with mental retardation syndrome. Journal of Medical Genetics, 51(3), 203-207を参照のこと)。前記障害について、その表現型は、高ホスファターゼ血症および知的障害(ID)によって特徴付けられ、これらの障害は、しばしば「高ホスファターゼ血症-知的障害(以前は「精神遅滞」)症候群」またはMabry症候群と呼ばれる。特に、本発明の方法は、知的障害および/またはてんかんを特徴とする先天性GPI欠損症を診断するのに特に適する。
【0009】
特に、本発明の方法は、GPIアンカー型タンパク質の発現が対象の赤血球細胞において減少している場合の先天性GPI欠損症を診断するのに特に適する。より特定すると、本発明の方法は、血液細胞におけるGPI-AP(例えば、CD59、CD55、FLAER、CD16など)の発現が対象のGPI欠陥を反映しない場合の先天性GPI欠損症を診断するのに特に適する。
【0010】
特に、本発明の方法はまた、発作性夜間ヘモグロビン尿症を診断するのに特に適する。
【0011】
本明細書において使用される場合、赤血球としても知られる「赤血球細胞」または「RBC」という用語は、毛細血管網を介した代謝的に活性な細胞への酸素の運搬および該細胞からの二酸化炭素の除去を担っている高度に特殊化された細胞である。これらは、窪んだ円盤の形状であり、直径が平均で約8~10ミクロンである。RBCのいくつかの表現型マーカーが記載されており、典型的には、CD46、CD55、CD100、CD175s、CD117;CD29、CD31、CD35、CD36、CD44、CD45RB、CD47、CD59、CD81、CD99、CD108、CD147、CD164、CD222、CD235a、CD90、CD105、モノカルボン酸トランスポーター1(MCT1)およびCD233を含む。より特定すると、成熟RBCの表現型マーカーは、CD235a、Band3、RHタンパク質、GYPC/D、CD59、CD55、CD108、CD44、CD47、Glut1、およびMCT1を含む。
【0012】
本明細書において使用される場合、「Emm抗原」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、Daniels GL, Taliano V, Klein MT, McCreary J. Emm. A red cell antigen of very high frequency. Transfusion. 1987;27(4):319-321に記載されている抗原のことを指す。特に、実施例において実証しているように、そのエピトープは、遊離GPI骨格の第2および第3のエタノールアミンから構成される。いくつかの抗Emm抗体が先行技術に記載されている(例えば、Daniels GL, Taliano V, Klein MT, McCreary J. Emm. A red cell antigen of very high frequency. Transfusion. 1987;27(4):319-321を参照のこと)。
【0013】
典型的には、Emm抗原の発現の変化は、対照の参照レベル(例えば、健康な個体において測定される)と比較した前記発現の減少または増加からなる。
【0014】
赤血球細胞上のEmm抗原の発現を検出するための方法は、当技術分野において周知であり、典型的には、実施例に記載するようなイムノアッセイの使用を伴う。特に、細胞表面(すなわち、赤血球細胞表面)でのEmm抗原などの特定の表面マーカーの発現を検出するための標準的な方法は、当技術分野において周知である。典型的には、赤血球細胞表面でのEmmの発現レベルを測定することからなる工程は、対象から赤血球細胞の集団を収集すること、およびEmm抗原に対して指向される少なくとも1つの特異な結合パートナーを使用することからなることができ、ここで、前記赤血球細胞に、前記Emm抗原に対する前記結合パートナーが結合する。
【0015】
本明細書において使用される場合、「Emm抗原に対して指向される結合パートナー」という用語は、Emm抗原に高親和性で結合可能な任意の分子(天然か天然でないか問わず)のことを指す。前記結合パートナーとしては、抗体、アプタマーおよびペプチドが挙げられるが、それらに限定されない。
【0016】
結合パートナーは、前記Emm抗原に対して特異的に指向されるポリクローナルまたはモノクローナル、好ましくはモノクローナルであり得る、抗体であり得る。いくつかの実施態様では、結合パートナーは、アプタマーのセットであり得る。本発明のポリクローナル抗体またはその断片は、適切な抗原またはエピトープを、例えば、とりわけブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジおよびマウスから選択される宿主動物に投与することによる公知の方法に従って作製することができる。抗体産生を高めるために、当技術分野において公知の様々なアジュバントを使用することができる。本発明を実施する際に有用な抗体は、ポリクローナルであることができるが、モノクローナル抗体が好ましい。本発明のモノクローナル抗体またはその断片は、培養中の連続的な細胞株によって抗体分子の産生をもたらす任意の技術を使用して調製および単離することができる。産生および単離のための技術としては、元来のハイブリドーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術;およびEBV-ハイブリドーマ技術が挙げられるが、それらに限定されない。
【0017】
抗体またはアプタマーなどの本発明の結合パートナーは、検出可能な分子または物質、例えば、優先的には蛍光分子、または放射性分子、または当技術分野において公知の任意の他のラベルで標識されてよい。ラベルは、当技術分野において公知であり、一般的にシグナルを(直接的か間接的かのいずれかで)もたらす。
【0018】
本明細書において使用される場合、抗体またはアプタマーに関する「標識された」という用語は、検出可能な物質、例えば、フルオロフォア[例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリスリン(PE)またはインドシアニン(Cy5)])または放射性物質を抗体またはアプタマーにカップリングする(すなわち、物理的に連結する)ことによる抗体またはアプタマーの直接的な標識化、ならびに検出可能な物質との反応性によるプローブまたは抗体の間接的な標識化を包含することが意図される。
【0019】
好ましくは、Emm抗原に対する抗体は、フルオロフォアにすでにコンジュゲートされている(例えば、FITCコンジュゲートされているおよび/またはPEコンジュゲートされている)。前述のアッセイでは、結合パートナー(すなわち、抗体またはアプタマー)を固体支持体に結合させてもよい。固体表面は、Emm抗原に対する抗体が被覆されたマイクロタイトレーションプレートであることもできる。赤血球細胞試料のインキュベーション後、Emm結合パートナーに特異的に結合した赤血球細胞を、一般的な赤血球細胞マーカーに対する抗体で検出してもよい。あるいは、固体表面は、活性化ビーズ、磁気応答ビーズなどのビーズであってもよい。ビーズは、ガラス、プラスチック、ポリスチレンおよびアクリルを含むがそれらに限定されない種々の材料から製造されていてよい。加えて、ビーズは、好ましくは、蛍光標識される。いくつかの実施態様では、蛍光ビーズは、Becton Dickinson Biosciences(San Jose, California)から入手可能なTruCount(商標)チューブに含有されるものである。
【0020】
本発明によれば、フローサイトメトリーの方法が、赤血球細胞表面でのEmm抗原のレベルを測定するための好ましい方法である。前記方法は、当技術分野において周知である。例えば、蛍光活性化セルソーティング(FACS)がそれゆえ使用されてよい。典型的には、赤血球細胞の表面でのEmm抗原のレベルを測定するために、以下の実施例に記載するようなFACS法を使用してよい。
【0021】
対象が先天性GPI欠損症と診断された場合、医師は最も正確な治療を処方することができる。特に、対象にHDCA阻害剤が投与される。本明細書において使用される場合、「HDAC阻害剤」という用語は、1つ以上のHDACのデアセチラーゼ機能を阻害可能な分子のことを指す。HDAC阻害剤は、当技術分野において周知であり、トリフルオロアセチルチオフェン-カルボキサミド、ツバシン、ツバスタチンA、WT 161、PCI-34051、MC1568、MC1575、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(ボリノスタットまたはSAHAとしても知られる)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、バルプロ酸、M344、スクリプタイド(Sriptaid)、トラポキシン、デプシペプチド(ロミデプシンとしても知られる)、MS275(エンチノスタット)、4-フェニルイミダゾール、MC1293、ドロキシノスタット、クルクミン、ベリノスタット(PXD101)、パノビノスタット(LBH589)、MGCD0103(モセチノスタット)、パルテノリドおよびジビノスタット(ITF2357)が挙げられるが、それらに限定されない。特に、発作の場合、患者に、抗てんかん薬が投与される。本明細書において使用される場合、「抗てんかん薬」または「AED」という用語は、一般に、発作の頻度または可能性を低下させる薬理学的物質を包含する。抗てんかん薬(AED)のセットを含め多くの薬物クラスがあり、多くの異なる作用機序が示されている。例えば、いくつかの薬物治療は、発作閾値を上昇させると考えられており、それにより、脳が発作を起こす可能性を低下させる。他の薬物治療は、神経の群発活性の広がりを停滞させ、発作活動の伝播または広がりを防止する傾向がある。ベンゾジアゼピン類などのいくつかのAEDは、GABA受容体を介して作用し、神経の活性を全体的に抑制する。しかしながら、他のAEDは、ニューロンのカルシウムチャネル、ニューロンのカリウムチャネル、ニューロンのNMDAチャネル、ニューロンのAMPAチャネル、ニューロンの代謝調節型チャネル、ニューロンのナトリウムチャネル、および/またはニューロンのカイナイトチャネルをモジュレートすることによって作用し得る。
【0022】
本発明は、以下の図面および実施例によってさらに例証される。しかしながら、これらの実施例および図面は、決して、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0023】
方法:
対象
すべてが抗Emmを有する3名のEmm陰性個体(P1、P2およびP3)の試料を、地元の倫理委員会(CPP Ile-de-France II)およびフランス研究省(ref. DC-2016-2872)による承認を受けた国立血液型リファレンスセンター(National Reference Center for Blood Group)(CNRGS, Paris, France)の凍結保存レアリファレンスマテリアルコレクションから得た。IGD患者は、Polywebを介して募集し、ネッケル病院(Paris, France)およびアンドレ・ミニョー病院(Versailles, France)から来た。参加者とその法定代理人の両方からインフォームドコンセントを得た。血液を研究目的に使用することに同意したフランス血液機構(Etablissement Francais du Sang)(EFS)の血液ドナー志願者のRBC試料を、Emm陽性対照として使用した。
【0024】
血清学的検査
標準的な赤血球凝集試験を抗Emm反応性の評価およびRBC型判定に使用した。抗Emmは、1986年に原著論文に記載された2名の親族でない男性(P1およびP3)から供給された。パパイン処理RBCに対する22℃での間接抗グロブリンゲル試験(ID-Card LISS/Coombs; DiaMed, Bio-Rad, headquartered in Hercules, CA, USA)によって、P1、P2およびP3血清は、それぞれ、3+(力価8、スコア35)、3+(力価128、スコア72)および3+(力価8、スコア35)で反応することが分かった。P2の血清試料由来のヒトポリクローナル抗Emmを3種のO型パパイン処理RBCのプールに吸着させ、続いて、Gamma ELU-KIT IIデバイス(Immucor Inc. Norcross, GA, USA)で酸溶出試験を行うことによって、抗Emm溶出液を調製した。Emm陽性およびEmm陰性RBCを使用して溶出液のEmm特異性をチェックし、ABO抗体の混入がないこともチェックした。P2からの溶出液の抗体クラスおよびサブクラスのフローサイトメトリーによる調査は、IgG3抗体と合致した。
【0025】
全エクソームシーケンシングおよびデータ解析
MagnaPureシステム(Roche)を使用して白血球からゲノムDNAを抽出した。Sure Select Human All Exon Kit(Agilent Technologies)を用いてエクソーム捕捉を実施した。製造業者による推奨に従って、超音波処理装置(Covaris)で断片化された3μgのゲノムDNAから、Agilent Sure Select Human All Exon(58 Mb, V6)ライブラリーを調製した。バーコード化されたエクソームライブラリーを集め、HiSeq2500システム(Illumina Inc. San Diego, CA, USA)により配列決定し、ペアエンドリードを生成した。デマルチプレクシング後、Burrows-Wheeler Aligner(BWA)を用いて、配列をヒトゲノム参照(NCBI build 37, hg19 version)上にマッピングした。3名の発端者のエクソームライブラリーについて得られた平均カバレッジ深度は、>120倍であり、標的エクソン塩基の>=96%および>=94%が少なくとも15および30の独立したシーケンシングリードによってカバーされた(15倍で>=96%、30倍で>=94%)。Genome Analysis Toolkit(GATK)、SAMtools、およびPicard toolsを用いてバリアントコールを行った。単一ヌクレオチドバリアントは、GATK Unified Genotyperを用いてコールしたが、インデルは、GATK IndelGenotyper_v2を用いてコールした。リードカバレッジ23%およびPhredスケール品質20%を有するすべてのバリアントをフィルタアウトした。社内アノテーションソフトウェアプログラムであるPolyWebを用いて、すべてのバリアントをアノテーションして、フィルタリングした。
【0026】
細胞培養
K562細胞を、10%補体除去(56℃-30分)ウシ胎児血清および抗生物質(100ユニット/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシン)を補充したIMDM、25mM HEPESおよびGlutaMAX(Gibco)中、37℃、5%COを含有する加湿雰囲気下で培養した。本発明者らのK562細胞株の認証は、Eurofins MWGによって実施した。
【0027】
フローサイトメトリー
融解させたRBCまたはK562細胞をPBS(Gibco)中で3回洗浄し、次いで、0.5%ウシ血清アルブミンを補充した低イオン強度バッファーに再懸濁し、抗Emm溶出液(1:2)またはマウスモノクローナル抗CD59(1:100;BD Pharmingen)とインキュベートした。抗Emm標識は抗ヒトIgG-PE(1:100;Beckman Coulter)により明らかにし、抗CD59標識は抗マウスIgG-PE(1:100;Beckman Coulter)により明らかにした。FACSCantoIIフローサイトメーター(BD Bioscience)およびFlowJoソフトウェアを、それぞれデータ収集および解析に使用した。
【0028】
免疫蛍光共焦点顕微鏡検査
Foxp3/Transcription Factor Staining Buffer Set(eBioscience(商標))を製造業者の説明書に従って使用して、K562細胞を固定および透過処理した。簡単に述べると、5×10個の細胞をPBS中で洗浄し、1×Fix/Permバッファー中にて室温で30分間インキュベートし、1×Permバッファー中で2回洗浄した。次いで、細胞を、1×Permバッファー中で抗Emm抗体(1:2)と氷上で120分間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、Alexa Fluor 488コンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(Invitrogen)と氷上で60分間インキュベートした。1×Permバッファー中でのさらなる一連の洗浄後、試料(0.1×10個の細胞)をスライドガラス上にサイトスピンし、10μLのProLong(商標)Diamond Antifade Mountant with DAPI(Molecular Probes)を加えた後、ガラスを封止した。Zeiss LSM 700レーザー走査共焦点顕微鏡上で63×対物レンズを用いて観察を行った。
【0029】
ウエスタンブロット
SDSバッファー(Tris-HCl pH 6.8、5%SDS、0.2mM EDTA)中でホモジナイズおよび超音波処理することによって細胞溶解物を調製した。Pierce BCA Protein Assay Kitを使用してタンパク質の定量を実施した。試料を2×Tricine-SDSサンプルバッファー中で混合し、煮沸し、Novex(商標)16% Tricine Protein Gelsで分離した。次いで、試料をニトロセルロース膜上に転写し、ミルクを用いて室温で60分間ブロッキングし、5%BSAを含有するPBST中で希釈した抗CD59(1/500;Santa Cruz Biotechnology, sc-133170)、抗Emm(1:10)または抗アクチン(1:1000;Cell Signaling, #5125)で一晩プローブ反応を行った。ケミルミネッセンスキット(Clarity Western ECL Substrate, Bio-Rad)を使用して、免疫複合体を抗ヒトIgG HRP(Abliance)または抗マウスHRP(Jackson ImmunoResearch Laboratories)により明らかにした。
【0030】
CD59の免疫沈降
Emm陽性およびEmm陰性の対象由来のRBCゴーストを、PBS/BSA中でマウスモノクローナル抗CD59抗体(1:50;BD Pharmagen)と4℃で一晩インキュベートした。試料を、溶解バッファー(50mM Tris-HCl pH 8、150mM NaCl、0.5%Igepal、0.25%デオキシコール酸ナトリウムおよび0.0025%SDS)中、氷上で60分間溶解し、溶解物を遠心分離(4℃で15000gを15分間)によって清澄化した。UltraLink Immobilized Protein A/G(Pierce)を用いて免疫複合体を精製し、免疫沈降したタンパク質を2×Tricine-SDSサンプルバッファー中に95℃で5分間溶出させ、上記の通りウエスタンブロットによって分析した。
【0031】
CRISPR/Cas9によるK562におけるPIGA、PIGG、PIGN、PIGO、PIGSおよびMPPE1の破壊
CRISPR/Cas9技術による遺伝子編集を過去に記載されている通り実施した12、13。pSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)発現ベクターをAddgeneから購入した(プラスミド#48139)。各遺伝子に対して、3つのRNAガイドをCRISPRdirect:http://crispr.dbcls.jp/により選択した14。オリゴヌクレオチドを、BbsIで線形化したPX459プラスミドにライゲーションした。各クローニングガイド配列の完全性を、PX459プラスミドシーケンシングプライマーを用いたサンガーシーケンシングによってチェックした。得られたプラスミドをNucleoBond Xtra Midi Plus EF(Macheray-Nagel)を用いて精製した。Nucleofector II(キットV-T-016プログラム-Lonza)を使用して、5マイクログラムのプラスミドを10個のK-562細胞にエレクトロポーションした。エレクトロポーションの48時間前に、細胞を150,000個の細胞/mLの密度で播種した。生存率は、トランスフェクション当日、>95%であった。トランスフェクションの24時間後、トランスフェクトしたK562細胞を、培養培地中でピューロマイシン(3~4日の間、3~5μg/mL)と共に選択が行われるまで成長させた。次いで、細胞をピューロマイシンなしで成長させた。トランスフェクションの15日後、T7エンドヌクレアーゼI酵素(New England Biolabs)を使用して標的エクソンにおけるINDELイベントの発生を評価した。K562 WT細胞は、ガイドRNA-ガイドなしでCas9ヌクレアーゼのみトランスフェクトしたK562細胞に相当する。
【0032】
プラスミド構築および細胞トランスフェクション
ヒトPIGG WT cDNAを、pcDNA3.1(+)-C-eGFPベクター(GeneScriptによって提供される)において得て、pCEP4ベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。PIGG H216Y変異体cDNAを得るために、Agilent QuikChange部位特異的変異導入キットを製造業者の説明書に従って使用した。
【0033】
K562 PIGG KO細胞に、Amaxa(登録商標)Cell Line Nucleofector(登録商標)Kit V(Lonza)を製造業者の説明書に従って使用して、5μgのpCEP4-Empty、pCEP4-hPIGGWTまたはpCEP4-hPIGGH214Yをトランスフェクトした。ハイグロマイシンB(0.2mg/mL、Invitrogen)による選択の10日後、安定したトランスフェクタントを得た。
【0034】
脂質吸着
Emm陽性およびEmm陰性の対象由来の融解させたRBCを、1%メタノールを含有するPBS中、ブタ脳極性脂質抽出物(Avanti)0.5mgと120分間インキュベートした。PBS中で3回洗浄した後、Emm抗原の表面レベルをフローサイトメトリーによって解析した。
【0035】
結果
PIGGは、Emm血液型の基礎をなす
Emm血液型抗原の分子学的基礎を特定するために、3名の親族でないEmm陰性非PNH発端者(P1、P2およびP3)由来のゲノムDNAで全エクソームシーケンシングを実施した。バリアント-フィルタリング戦略は、共通遺伝子PIGG(GenBank:NM_001127178)の3つの変異の特定へと導いた。発端者1は、ホモ接合性バリアントc.640C>T;(p.His214Tyr)を保有し(データ示さず)、これは、公開データベースおよび社内データベース(イマジン研究所、Polyweb)には存在しない。発端者2は、イントロン5のスプライスドナー部位の+1位でのG欠失についてホモ接合性であった(c.901+1delG)(データ示さず)。スプライス変異は、gnomADにおいて、対立遺伝子頻度が9/248268で、ヘテロ接合状態でのみ報告されている。発端者3は、エクソン6が除去された4kbの欠失を保有する(データ示さず)。PIGGは、GPIの第2のマンノース上の側鎖修飾の付加に関与する、983個のアミノ酸タンパク質であるGPIエタノールアミンリン酸(EtNP)トランスフェラーゼ2(ホスファチジルイノシトールグリカンアンカー生合成クラスGとしても知られる)をコードする15。特異的な抗Emm抗体溶出液を用いたEmm陰性RBCのフローサイトメトリー解析により、PIGGが変異したRBCにおいてEmm抗原が存在しないことが確認された一方で、GPI-AP CD59は正常に発現していた(データ示さず)。次に、Emm発現がPIGGによって制御されることを立証するために、本発明者らは、CRISPR-Cas9アプローチを使用し、K562細胞においてこの遺伝子を不活化した。注目すべきことに、フローサイトメトリー解析は、PIGGノックアウト細胞におけるEmm発現の強い減少とCD59の正常な発現を明らかにした(データ示さず)。加えて、P1発端者において見いだされたp.His214Tyrバリアントを有するPIGG cDNAは、これらの細胞においてEmmの表面存在量を救済できなかったが、野生型(WT)PIGGの過剰発現は、それが可能であった(データ示さず)。GPI生合成は、ER膜上で行われるが、非透過処理のWT細胞およびPIGG欠損細胞の免疫蛍光染色は、Emm抗原の細胞表面発現を確認した(データ示さず)。これらの結果は、PIGG遺伝子がEmm血液型抗原の基礎をなすことを示す。
【0036】
Emm抗原は、遊離GPIに相当する
Emm抗原は、PIGA遺伝子の体細胞ヌル変異によって引き起こされるPNH III型細胞において発現されないことから、本発明者らは、PIGA欠損K562細胞においてEmm発現を調べた。予想通り、これらの細胞は、CD59およびEmm抗原を喪失しており(データ示さず)、このことから、Emm発現がGPIに関連することが確認される。次に、Emm抗原がGPI骨格によって担持されるかまたはGPIに付着しているタンパク質によって担持されるかを検討するために、本発明者らは、タンパク質へのGPI付着を担っているGPI-トランスアミダーゼ複合体の主要タンパク質であるPIGSを不活化した16。興味深いことに、フローサイトメトリー解析は、K562細胞におけるPIGSのノックアウトが、Emm発現を強く増加させ、そして、予想通り、CD59発現を無効にすることを示した(データ示さず)。したがって、透過処理した細胞の免疫蛍光染色は、Emmの細胞内局在がPIGS不活化後に細胞表面にシフトしたことを示し(データ示さず)、このことは、Emmが、GPIに付着しているタンパク質によって担持されないことを示している。
【0037】
この知見を確認するために、次いで、本発明者らは、抗Emm抗体を、作製したKO K562細胞株のウエスタンブロット分析に使用した。興味深いことに、180~10kDaの領域でGPI-APに対応する特異的なバンドは検出されなかったが、WT K562細胞では10kDaマーカーの下に特異的なバンドが出現し、PIGGおよびPIGA KO細胞では出現しなかった(データ示さず)。フローサイトメトリーデータによれば、Emmバンドの強度は、PIGS KO細胞において増強された(データ示さず)。これらの結果は、Emm抗原が、非結合GPI(遊離GPI)によって担持されることを示しており、このことは、極性脂質抽出物(おそらく非結合GPI糖脂質を含有する)とインキュベーションした際のEmm陰性および対照RBCのEmm標識の増加によってさらに裏付けられた(データ示さず)。加えて、PIGGはEmm発現の基礎をなすので、本発明者らは、抗Emmが、遊離GPIの第2のマンノース上のEtNPを認識すると結論付ける。しかしながら、PIGGによって転移されるこのEtNPは、GPIがタンパク質に付着した後にホスホジエステラーゼPGAP5(MPPE1遺伝子によってコードされる)によって除去され、ほとんどの成熟GPI-APに存在しない(データ示さず)。GPI-AP中のEtNP2の存在がEmm発現の増加を招くのかどうかを判定するために(データ示さず)、本発明者らは、PGAP5欠損細胞(MPPE1 KO細胞)を作製し、抗Emmを用いてこれらを分析した。フローサイトメトリーおよび免疫蛍光分析は、PGAP5不活化がEmmの発現を増加させないが、GPI-APは正常に発現することを示した(データ示さず)。CD59およびEmmの正常発現は、ウエスタンブロット分析によって確認されたが、このことは、Emmバンドの移動プロファイルが未変化のままであることも示している(データ示さず)。
【0038】
最後に、Emm陰性および対照RBC由来のCD59の免疫沈降を実施した。予想通り、Emm抗原は、Emm陽性RBC由来のCD59と共沈降しなかった(データ示さず)。これらのすべてのデータは、抗Emmが、GPI-AP中の第2のEtNPを認識しないことを示し、Emm抗原が、遊離GPIによって担持されることを確認した。
【0039】
Emmエピトープは、遊離GPIの第2および第3のEtNPから構成される
GPIのコア骨格は、3つのEtNP、3つのマンノース(Man)、1つのN-アセチル化されていないグルコサミン、およびイノシトールリン脂質によって形成される。各マンノースは、1つのEtNP基によって修飾される。EtNPのMan1、Man2およびMan3への転移は、それぞれ、3つのEtNPトランスフェラーゼPIGN、PIGGおよびPIGOによって触媒される(データ示さず)15、17、18。EtNP2に加え、EtNP1および/またはEtNP3も、抗Emmによって認識される遊離GPIエピトープの一部であるかどうかを判定するために、本発明者らは、PIGNおよびPIGO KO細胞を作製した。フローサイトメトリー解析は、WT K562細胞におけるPIGNのノックアウトが、細胞表面抗Emm染色を弱く増加させる一方で、PIGOの不活化は、Emmの発現を完全に無効にすることを示した(データ示さず)。フローサイトメトリー結果は、抗Emmを用いた細胞溶解物のウエスタンブロット分析によって確認された(データ示さず)。概して、本発明者らは、Emmエピトープが、遊離GPIの第2および第3のEtNPから構成されることを実証する。
【0040】
Emm抗原の表面発現は、IGD患者由来のRBCにおいて変化する
重要なことに、Emm抗原の発現レベルは、GPI生合成に関与するいくつかの遺伝子の制御下にあり、このことは、PIG遺伝子の機能喪失型変異が、弱いEmm血液表現型と関連し得ることを示唆している。この点は、少なくとも21個のPIG遺伝子の生殖細胞変異によって引き起こされるIGDを有する患者由来の細胞を分析するのに非常に重要である。IGD患者では、血液細胞におけるGPI-APの発現レベルは、遺伝子欠陥の指標となることはほとんどなく、臨床表現型の重症度と相関しなかった19。この知見は、PIGGの病原性His214Tyr変異によって潜在的に引き起こされる知的障害および筋緊張低下を患っていても(データ示さず)、P1発端者由来のRBCでCD59が正常発現された(データ示さず)ことによって確認される。それに反して、Emm陰性表現型(データ示さず)は、GPI生合成の欠陥を示した。したがって、本発明者らは、IGDに関与する他のPIG遺伝子の病原性変異が、RBC表面でのEmm抗原の低発現と関連するかどうかを調査することにした。IGD患者は、パリのネッケル病院で臨床的検討を行い、Polywebインターフェースを介してイマジン研究所のエクソームデータベースから選択した(データ示さず)。PIGN患者は、4歳で重度のてんかん発作により突然死した女児であった。彼女は、全般的発達遅延を有し、難治性てんかん、重度の筋緊張低下および筋萎縮症を患っていた。エクソームシーケンシングは、PIGN遺伝子の病原性変異c.284G>A(p.Arg95Gln)を特定した(データ示さず)。この変異は、MCAHSを有する患者で過去に記載されている20。彼女のRBCのフローサイトメトリー解析は、対照RBCの場合と比較して、CD59の正常な発現レベルおよびEmm発現のわずかな増加を示した(データ示さず)。これらのRBCにおけるEmm発現の増加は、PIGN欠損K562細胞株と一致する(データ示さず)。PIGO患者は、知的障害、脳萎縮症、筋緊張低下および遅延性精神運動発達を患っているエジプト人の血縁親の10歳の息子である(データ示さず)。PIGOのc.23T>C(p.Leu8Pro)バリアントは、別のIGD患者で報告されている(ClinVarデータベース、rs755191263)。興味深いことに、この患者由来のRBCのフローサイトメトリー解析は、Emm発現の強い減少を示した一方で、CD59発現は、無関係の対照の場合と比較してわずかに低下した(データ示さず)。最後に、PIGA患者は、不応性てんかんおよび重度の発達遅延(言語発達および運動能力の遅延を含む)を患っている6歳の男児である;彼は、寝たきりで、アイコンタクトができない(データ示さず)。この患者は、母性病原性変異c.241C>T(p.Arg81Cys)を保有し、これは、MCAHSを有する別の患者で報告された21。フローサイトメトリー解析は、PIGAの生殖細胞変異c.241C>Tがこの患者の異常な発達の原因であるが、この変異が成熟RBCにおけるEmmおよびCD59発現に深刻な影響を及ぼさないことを示した(データ示さず)。まとめると、PIGGおよびPIGO遺伝子の病原性バリアントから生じる臨床的特徴は、RBCにおけるEmmの発現変化によって裏付けられた一方で、GPI-APの発現は変化しなかった。
【0041】
考察:
この研究における主な知見は、遊離の非結合GPIが、RBC表面で発現され、Emm血液抗原を担持することである。これまで、GPIは、YT、DO、CROM、JMH、CD59およびKANNOを含む6つの他の血液型系の発現に関与するとされている2、22、23。しかしながら、Emmは、GPI骨格によって担持される唯一の抗原であり、GPIに結合しているタンパク質には担持されない。GPIは、ERにおいて合成されるが、哺乳動物細胞ならびにトキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)および熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)などの寄生虫において、細胞表面にいくつかのGPI前駆体の存在が報告されている24、25。マラリア原虫(Plasmodium)の遊離GPIは、高免疫原性であり、マラリア流行地域の住民に寄生虫特異的IgG反応を誘発する25。一貫して、本発明者らの新たに特徴付けた抗遊離GPIである抗Emmは、すべてのEmm陰性患者において天然に存在する抗体として記載されることが多かった。加えて、抗Emmは、3つのEtNPを含有するGPI前駆体を認識するが、第2および第3のEtNPだけがそのエピトープに含まれる。PIGGによって転移される第2のEtNPは、PGAP5によって除去される成熟GPI-APに存在しない一過性の側鎖である(データ示さず)。PGAP5欠損細胞におけるEmmの正常な表面発現は、抗Emmが、遊離GPIに特異的であるという事実と合致する。概して、本発明者らは、遊離GPIが、ヒトの赤血球細胞表面で発現され、細胞膜の正常な構成要素であるという明確な証明を提供する。ヒト細胞における遊離GPIの生理学的役割についてほとんど知られていないが、本発明者らは、最近、PIGT変異を有するPNH患者における遊離GPIの病理学的効果を報告している。PIGT欠損は、NLRP3インフラマソームおよび補体の活性化を増強する非結合遊離GPIの異常な蓄積をもたらす。PIGA-PNHとPIGT-PNHは共にGPI-AP欠損を特徴とするが、これらは、異なる分子変化を呈する。PIGSと同じく、PIGTは、ERにおいてGPIがタンパク質に付着する際に関与するGPIトランスアミダーゼである16。PIGAは、GPI生合成の最初の工程に必要とされる;それゆえ、PIGA欠損細胞ではGPI前駆体は生成されない(データ示さず)。一貫して、Emm抗原(遊離GPI)は、PIGS KO細胞において高発現されるが(データ示さず)、PIGA-PNH RBCには存在しない。概して、抗Emmは、GPI欠陥を検出するための新しい有用なツールとして現れ、Emmの表現型判定を、PNH疾患の診断のためのGPI-AP分析に関連付けることができる。
【0042】
GPIの生合成障害は、いくつかの異なる遺伝的機序によって引き起こされる。PNH疾患では、GPI欠損症は、造血幹細胞(HSC)において起こるPIGAの体細胞ヌルまたはほぼヌル変異によって引き起こされる。それに反して、PIGAおよび他のPIG遺伝子の生殖細胞変異は、IGDを引き起こす26。PIGAのヌル生殖細胞変異は、胚致死性であると考えられており27、このことは、本発明者らの患者において見いだされたp.Arg81Cysが、残存機能を有することを示唆している(データ示さず)。過去の知見28と合致して、本発明者らのPIGA-IGD患者由来のRBCにおけるCD59発現は、強く影響を受けることはなく、このことは、血管内溶血および赤血球の障害が存在しないことと一致する。IGD患者におけるGPI-AP欠陥は、しばしば、赤血球よりも顆粒球に対してより顕著であり、このことは、PIG遺伝子の生殖細胞変異の影響が組織特異的であることを示唆している。この知見に沿って、異なる哺乳動物組織および細胞株の間でGPI構造に多くの違いが見いだされ、このことから、GPIアンカーが組織特異的な様式で制御され得ることが示唆される。実際に、IGDの最も目立つ臨床症状は、発作、発達遅延/知的障害、脳萎縮症および筋緊張低下を含めた神経学的症状である11。おそらく、GPI-APの部分的な低下は、hiPSCモデルにおいて実証されたように、造血よりもニューロンの発達においてより耐容性が低い29。一方で、Emm陰性患者に見いだされるPIGGのホモ接合性ヌル対立遺伝子は、胚致死性を引き起こすことはないが、IGDを引き起こす(データ示さず)。興味深いことに、これらの変異は、遊離GPIの完全な欠如をもたらし、RBCとPIGG KO細胞の両方でGPI-APの発現変化はない(データ示さず)。加えて、本発明者らは、PIGO-IGD患者におけるGPI欠陥が、RBCにおけるEmmの発現変化によっても検出される一方で、GPI-APの発現は変化しないことを示した。これらの知見は、PIGGとPIGOの両遺伝子がEmmのエピトープ構造に関与していることと一致する(データ示さず)。この病理におけるRBC表面でのEmm発現の関連性を立証するために、他のPIG変異を有するIGD患者でのさらなる分析が必要である。
【0043】
結論として、本発明者らは、Emm抗原がRBC表面の遊離GPIによって担持されるという遺伝子と細胞の両方に関する証拠を提供し、Emmを新規のヒト血液型系として確立する。抗Emmが天然に存在することは、数多くの微生物で報告されている遊離GPIの高免疫原性と合致し30、31、いくつかの感染性因子に対する防御にこの抗体が潜在的役割を果たすことを示唆している。これらの知見は、ヒトの遊離GPIの生物学的機能およびGPIの細胞内移動を理解する上で重要な意味を持つ。GPI-AP発現研究と比較したEmm表現型判定アプローチの臨床的意義を評価するために、IGDおよびPNH患者でのパイロット研究が必要であろう。
【0044】
参考文献:
本出願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が関係する技術分野の最新技術を記載している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【0045】
【表1】



【国際調査報告】