(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】液体適用音減衰組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20231222BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20231222BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20231222BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20231222BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20231222BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20231222BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20231222BHJP
C08L 3/02 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C08L33/04
C08L91/00
C08L33/08
C08L33/14
C08L23/06
C08L23/12
C08K3/26
C08L3/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533997
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 US2021059998
(87)【国際公開番号】W WO2022132383
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ロバートソン、イアン ディ.
(72)【発明者】
【氏名】レオナード、マイケル ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】ドラムライト、レイ イー.
(72)【発明者】
【氏名】ボーリング、ジェームズ シー.
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB04Y
4J002AE05X
4J002BB03X
4J002BB12X
4J002BG02W
4J002BG04W
4J002BG07W
4J002DE236
4J002FD016
4J002GH00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
本発明は、アクリルポリマー粒子の水性分散液と、パラフィンワックスと、グラファイト粒子と、増量剤粒子とを含む組成物に関する。本組成物は、液体適用音減衰用途のための吸水性の低いコーティングを作製するのに有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50nm~500nmの範囲内のz平均粒径、及び-25℃~30℃の範囲内の計算T
g値を有するアクリルポリマー粒子の水性分散液と、パラフィンワックスと、増量剤粒子と、レオロジー調整剤とを含む組成物であって、前記組成物の顔料の体積濃度が、40~70の範囲内であり、せん断条件下でないときに、前記組成物が、200,000cP~20,000,000cPの範囲内のブルックフィールド粘度を有する、組成物。
【請求項2】
前記アクリルポリマー粒子の濃度が、前記組成物の重量に基づいて、10~25重量%の範囲内であり、前記パラフィンワックスの濃度が、前記アクリルポリマー粒子の重量に基づいて、1~15%の範囲内である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アクリルポリマー粒子が、-10℃~20℃の範囲内の計算T
g値を有し、かつメチルメタクリレートと、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及び2-プロピルヘプチルアクリレートからなる群から選択される1つ以上のモノマーとの構造単位を含み、かつ1,000,000cP~10,000,000cPの範囲内のブルックフィールド粘度を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アクリルポリマー粒子が、ホスホエチルメタクリレートの構造単位を更に含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ポリエチレン又はポリプロピレンワックスの150~1500個の繰り返し単位を更に含み、前記パラフィンワックスに対する前記ポリエチレンワックス又は前記ポリプロピレンワックスの重量対重量比が、前記パラフィンワックスと、前記ポリエチレンワックス又は前記ポリプロピレンワックスとの重量に基づいて、5~35重量%の範囲内である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
ポリエチレンワックスの150~1500個の繰り返し単位を更に含み、前記パラフィンワックスに対する前記ポリエチレンワックスの重量対重量比が、前記パラフィンワックスと前記ポリエチレンワックスとの重量に基づいて、5~35重量%の範囲内である、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記増量剤粒子が炭酸カルシウム粒子である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
5PVCレベル未満の不透明化顔料を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリマー粒子が、10,000~40,000g/molの範囲内の数平均分子量を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
ジャガイモデンプンを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、液体適用音減衰用途に適した組成物に関し、より詳細には、優れた耐水性を有するコーティングを形成する組成物に関する。
【0002】
減衰材は、剛性構造物の振動を軽減して騒音を低減するために使用される。自動車では、2つの主要な振動制振技術、ビチューメンパッド及び水性ラテックスに由来する液性適用音減衰(liquid applied sound damping、LASD)コーティングが主流である。20世紀に広く使用された低コストの代替物であるビチューメンパッドは、比較的低い減衰性能を示し、手間のかかる手作業による適用を必要とする。一方、LASDコーティングは、ロボット噴霧技術によって迅速に適用され得るため、相当大きな市場シェアを得ている。更に、LASDコーティングは、より優れた減衰特性、環境、健康、及び安全性(environmental, health, and safety、EH&S)プロファイル、並びにより低い密度を示す。要するに、これらの利点により、自動車OEMが、現在のビチューメンパッドの騒音振動及びハーシュネス(noise vibration and harshness、NVH)管理にLASDを益々利用するようになった。国際公開第2018/062546(A1)号は、振動減衰用途に好適なポリマー粒子の水性分散体を記載している。ブリスタリングの抑制に改善がなされたと報告されているが、耐水性については記載がない。ビチューメンパッドと匹敵する優れた耐水性を有するLASDコーティングを開発することが当該技術分野において依然として必要とされている。耐水性LASDコーティングは、この技術の顧客による採用を容易にする可能性がある。更に、耐水性の改善により、LASDコーティングを、車両のホイールウェル内などの新しい適用領域に使用することができる。したがって、耐水性であり、優れた外観を示し、高い振動減衰性能を維持するLASDコーティングに配合することができるポリマー粒子の水性分散体を開発すれば、それは当該技術分野における進歩と言えるであろう。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、50nm~500nmの範囲内のz平均粒径、及び-25℃~30℃の範囲内の計算Tg値を有するアクリルポリマー粒子の水性分散液と、パラフィンワックスと、増量剤粒子と、及びレオロジー調整剤とを含む組成物であって、組成物の顔料の体積濃度が、40~70の範囲内であり、せん断条件下でないときに、組成物が、200,000cP~20,000,000cPの範囲のブルックフィールド粘度を有する組成物を提供することによって、当該技術分野におけるニーズに対処する。本発明の組成物は、LASD用途のためのコーティングにおいて、水の吸収を減少させるのに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0004】
本発明は、50nm~500nmの範囲内のz平均粒径、及び-25℃~30℃の範囲内の計算Tg値を有するアクリルポリマー粒子の水性分散液と、パラフィンワックスと、増量剤粒子と、及びレオロジー調整剤とを含む組成物であって、組成物の顔料の体積濃度は、40~70の範囲内であり、せん断条件下でないときに、その組成物は、200,000cP~20,000,000cPの範囲のブルックフィールド粘度を有する組成物である。
【0005】
本明細書で使用される場合、アクリルポリマー粒子(あるいは、アクリルラテックス粒子)という用語は、アクリルポリマー粒子又はスチレン-アクリルポリマー粒子を指す。ポリマー粒子は、好ましくは、周囲温度でフィルム形成性であり、したがって、ポリマー粒子は、フォックスの方程式によって計算されるTg値が、好ましくは、30℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは5℃以下であり、かつ-25℃以上、より好ましくは-10℃以上である。好ましくは、ポリマー粒子は、メチルメタクリレート(MMA、Tg=105℃)又はスチレン(STY、Tg=100℃)の構造単位と、エチルアクリレート(EA、Tg=-22℃)、ブチルアクリレート(BA、Tg=-54℃)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA、Tg=-70℃)、及び2-プロピルヘプチルアクリレート(2-PHA、Tg=-68℃)からなる群から選択される少なくとも1種のモノマーと、を含む。
【0006】
用語「構造単位」は、重合後の列挙されたモノマーの残部を記載するために、本明細書で使用されるものである。例えば、MMAの構造単位は、以下に示したとおりである:
【0007】
【化1】
[式中、点線は、構造単位のポリマー骨格への結合点を表す]。
【0008】
ポリマー粒子は、例えばカルボン酸モノマー及びリン含有酸モノマーなどのエチレン性不飽和酸モノマーの構造単位を、好ましくは0.1重量%から、より好ましくは0.2重量%から、最も好ましくは0.3重量%から、6重量%まで、より好ましくは4重量%まで、最も好ましくは3重量%までの量で含む。好適なカルボン酸モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びイタコン酸が挙げられる。好適なリン含有酸モノマーの例としては、アルコールが重合可能なビニル基若しくはオレフィン基を含むか、又はそれらで置換されるアルコールのホスホネート及び二水素ホスフェートエステルが挙げられる。好ましい二水素ホスフェートエステルは、ホスホエチルメタクリレート(phosphoethyl methacrylate、PEM)及びホスホプロピルメタクリレートを含むヒドロキシアルキルアクリレート又はメタクリレートのリン酸塩である。
【0009】
ポリマー粒子の濃度は、組成物の重量に基づいて、好ましくは10~25重量%の範囲内である。アクリルポリマー粒子は、動的光散乱によって測定して、80nm~250nmの範囲内のz平均粒径を有することが好ましい。一態様では、アクリルポリマーは、以下に詳述されるゲル浸透クロマトグラフィによって測定される10,000~40,000g/molの範囲内の数平均分子量を有する。
【0010】
パラフィンワックスは、10~40個のエチレン繰り返し単位:
(CH2CH2)n
(上式中、nは10~40である)を有するポリエチレンである。パラフィンワックスの濃度は、ポリマー粒子の重量を基準として、好ましくは1重量%から、より好ましくは2重量%から、最も好ましくは3重量%から、そして好ましくは15重量%まで、更に好ましくは10重量%までの範囲内にある。好適なパラフィンワックスの市販されているものの例としては、マイケム(Michem)エマルジョン47950、マイケムルーブ723、及びAquacerエマルジョン593が挙げられ、これらは非イオン性界面活性剤で安定化されたパラフィンワックス水性エマルジョンである。
【0011】
組成物は、より高分子量の(150~1500の繰り返し単位)ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)ワックスを更に含んでもよい。上記のより高分子量のPE又はPPが使用される場合、その濃度は、パラフィンワックスと、より高分子量のポリエチレン又はポリプロピレンワックスとの重量に基づいて、好ましくは5~35重量%の範囲内である。パラフィンワックス/PEブレンドエマルジョンの市販されているものの例としては、マイケム62330及びマイケム66035パラフィンワックス/PEワックスブレンドエマルジョンが挙げられる。
【0012】
組成物は、典型的には1μm~50μmの範囲内の中位径平均(D50)粒径を有する増量剤粒子を更に含む。当該技術分野において充填剤とも呼ばれる好適な増量剤の例としては、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カオリン、クレー、タルク、グラファイト、雲母、珪藻土、ガラス粉末、繊維又は微小球、水酸化アルミニウム、パーライト、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、カルシウム二水和物、ロックウール、珪灰石、ゼオライト、セラミック及び熱可塑性微小球、ポリマー繊維、及び架橋ゴム粒子が挙げられる。組成物の顔料の体積濃度(PVC)は、40から、好ましくは50から、そして70まで、好ましくは65までの範囲内にある。PVCは、以下の式を使用して計算される:
【0013】
【数1】
上式において、顔料は、二酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムなどの不透明化顔料を指し、バインダー固形分は、不透明化顔料と増量剤粒子とを一体に結合するポリマー粒子の水性分散液からのポリマーの寄与を指す。組成物は、好ましくは5PVC未満、より好ましくは0PVCの不透明化顔料を含む。組成物は、有利なことには、例えば、レオロジー調整剤、消泡剤、界面活性剤、及びジャガイモデンプンなどの、他の添加剤を含む。
【0014】
以下の実施例が示すように、本発明の組成物から生じるコーティングは、感水性の顕著な減少を示し、これはLASD用途において特に関心を呼ぶものである。
【0015】
ポリマー粒子のMnを測定するゲル浸透クロマトグラフィ法
GPC試料を、ポリマー固形分に基づいて、5mg/mLの濃度で、THF中において調製した。試料溶液を、室温で一晩フラットベッドシェーカー上に保持し、次いでGPC分析の前に0.45μmのPTFEフィルター(Whatman濾紙)を通して濾過した。GPC機器の構成は、Agilent 1200シリーズHPLCシステム(脱気器、ポンプ、オートサンプラー)、及びWyatt T-rEX屈折率検出器からなる。ポリマー分離は、1つのTOSOH TSKゲルGMHxl-L及び1つのTOSOH TSKゲルG5000Hxlカラム(各々9μmのスチレンジビニルベンゼンゲルを充填、各々の寸法は、内径7.5mm×30cm)からなるカラムセットで、THFを移動相として1mL/分の流速で使用して実施され、注入量は、40μLであった。
【0016】
Astra7ソフトウェア(Wyatt Technology社製)を、データ取得及び処理に使用した。Mn及びMwを、以下の表1に示すように、ポリスチレン標準(Agilent Technology社製)に基づく、従来のキャリブレーション法を使用して計算した:
【0017】
【0018】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ポリスチレンの検量線及び試料溶出プロファイルに基づいて、以下の式によって取得した:
【0019】
【数2】
上式中、ポリスチレン検量線に基づいて、h
iは、第iの体積増分でのGPC曲線の高さであり、M
iは、第iの保持体積で溶出された種の分子量である。
【0020】
パラフィンワックスか、又はパラフィンワックスとポリエチレンとのブレンドを含有するコーティング配合物を、表2に示した成分から列挙した順序で調製した。成分を一般的な撹拌機で10分間混合し、次いで一晩平衡化させた。ワックスは、バインダー固形分の重量に基づいて6.4重量%の量で添加した。ワックスなしで調製した比較例(表3)は、同じ配合を使用したが、ワックス固形物を追加のバインダー固形分で置き換えた。バインダーは、約21,000g/molのMnを有する50.5%固体分の、BA=55、MMA=42、PEM=3の比率のラテックスを指す。(PEMは60%の活性を有する。)密度は、乾燥密度を指す。TERGITOL、TAMOL、及びACRYSOLは、The Dow Chemical Company又はその関連会社の商標である。Expancel 031 WUF 40は、Expancel 031 WUF 40熱可塑性微小球を指す。
【0021】
【0022】
【0023】
水吸収試験
コーティングを、アルミニウムパネル上に塗布し、4×100×80mmの試料を得た。次いで、試料を室温で30分間放置し、続いて150℃で30分間焼成した。試料を室温まで冷却し、秤量して、それらの総質量を決定した。次いで、試料を10cmの水に48時間浸漬し、再度秤量した。水の吸収を、浸漬試料と未浸漬試料との間の質量差のパーセンテージとして報告した。
【0024】
表4は、パラフィンワックスを含むコーティング及びそれを含まないコーティングについての吸水率(%WPU、2日後に試験した3枚のパネルの平均値)を示す。ML190は、マイケムルーブ190ポリエチレンワックスエマルジョンを指す。Aquacer593は、Aquacer593ポリプロピレンワックスエマルジョンを指す。ML723は、マイケムルーブ723パラフィンワックスエマルジョンを指す。Aquacer497は、Aquacer497パラフィンワックスエマルジョンを指す。ME62330は、マイケム62330パラフィンワックス/PEワックスブレンドエマルジョンを指し、ML270Rは、マイケムルーブ270Rパラフィンワックス/PEワックスブレンドエマルジョンを指す。
【0025】
ブルックフィールド粘度は、1,000,000~10,000,000センチポアズ(cP)の粘度を有するコーティングについて、ブルックフィールドヘリパススタンド及びT字バータイプのT-Eスピンドルを備えたブルックフィールドRV DV-I+粘度計を使用して、25℃で測定した。ブルックフィールドT字バータイプT-C及びタイプT-Fスピンドルを、200,000~1,000,000cPの粘度及び10,000,000~20,000,000cPの粘度に対して、それぞれ使用することができる。スピンドルの回転速度は0.5rpmであり、スピンドルは、測定が行われる前に120秒間(すなわち、非せん断条件下で)運転される。スタンドは、回転中にスピンドルがコーティング内に降りて移動することを可能にし、高粘性材料の適切な測定を確実に実施するようにする。粘度は、センチポアズ(cP)×104で測定される。表4は、様々なコーティングについての吸水データを示す。
【0026】
【0027】
データは、PEワックスを含有する配合物から調製されたコーティングの吸水性(比較例2)と、ワックスを含有しない配合物から調製されたコーティングの吸水性(比較例1)との間に差がないことを示している。対照的に、水吸収の実質的な減少が、パラフィンワックスを含有する配合物から調製されたコーティング(実施例1及び実施例2)と、パラフィンワックスとポリエチレンワックスとのブレンドを含有する配合物から調整されたコーティング(実施例3及び実施例4)で見られた。
【国際調査報告】