(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】クチナーゼとエステラーゼとの組み合わせによる、酵素を使用したポリウレタンリサイクル
(51)【国際特許分類】
C08J 11/10 20060101AFI20231222BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
C12N9/16 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534029
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2021085368
(87)【国際公開番号】W WO2022135987
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー, ティム
(72)【発明者】
【氏名】スレブニー, ヴァネッサ
(72)【発明者】
【氏名】ルートハンス, ニーナ, クリスティーナ, マリア
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA22
4F401AA26
4F401AC10
4F401AD01
4F401AD02
4F401BA13
4F401CA14
4F401CA49
4F401CA76
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4F401FA01Z
4F401FA06Z
4F401FA07Z
4F401FA08Z
4F401FA20Z
(57)【要約】
本発明は、全般的に、ポリウレタン(PU)、例えば多層包装におけるPU層を分解する分野に関する。例えば、本発明は、ポリウレタン(PU)を分解する方法であって、前記PUを、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルに供するステップを含む、方法に関する。PUは、包装に含まれる多層包装構造における、PUを主原料とする層であってもよい。注目すべきことに、本発明の主題により、多層包装材料中のPU含有層の効率的な選択的分解が可能になる。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン(PU)を分解する方法であって、前記PUを、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルに供するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のエステラーゼが、カルボキシルエステラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種のクチナーゼが、Thf_Cut1、Thc_Cut1、Thc_Cut2、BC_Cut-13、若しくはこれらの組み合わせからなる群から選択され、及び/又は、前記少なくとも1種のエステラーゼが、E3769、Est119、若しくはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種のクチナーゼ及び/または前記少なくとも1種のエステラーゼが、可溶性粗抽出物として使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種のクチナーゼ及び/又は前記少なくとも1種のエステラーゼが、ポリマー1mg当たり0.05μgのタンパク質、又はポリマー1mg当たり50μgのタンパク質、又はポリマー1mg当たり5μgのタンパク質の酵素添加量で使用され、前記少なくとも1種のクチナーゼ及び前記少なくとも1種のエステラーゼが、約10:1~1:10、例えば約5:1~1:5、更に例えば約2:1~1:2の範囲の単位比で使用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記PUが、20~50℃、例えば30~40℃の範囲の温度で、前記酵素カクテルに供される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記PUが、約6~9の範囲、例えば約6.5~8の範囲のpHで、前記酵素カクテルに供される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記PUが、少なくとも3日間、少なくとも10日間、又は少なくとも20日間、前記酵素カクテルに供される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記PUが包装中に存在し、前記包装が、少なくとも2層のポリマー層を備える多層包装構造を備え、前記ポリマー層が、PUを主原料とする層と、更なるPUを主原料とする層、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主原料とする層、ポリエチレン(PE)を主原料とする層、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1層とを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記PUが、PU系接着剤又はPU系コーティングの包装中に存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
多層包装における少なくとも1層のPUを主原料とする層を選択的に剥離するために使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記PUが、多層包装構造を備える包装中に存在し、前記多層包装構造が、リサイクル可能なベース層例えばPEを主原料とする層と、少なくとも1層のPUを主原料とする層とを備え、前記方法が、前記少なくとも1層のPUを主原料とする層を分解すること及び前記ベース層をリサイクルの流れに供することによって、前記多層包装材料をリサイクルするために使用される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、前記PU及び/又は前記PU含有材料を少なくとも1種のクチナーゼに供する前又は供する間に、前記PU及び/又は前記PU含有材料例えば前記PU含有包装の粒子径を小さくするステップを更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
機械的処理によって前記粒子径を小さくし、平均直径が約5mm未満、約1mm未満、又は約0.5mm未満の直径の粒子にする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が密閉容器中で実施される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的に、ポリウレタン(PU)、例えば多層包装におけるPU層を分解する分野に関する。例えば、本発明は、ポリウレタン(PU)を分解する方法であって、前記PUを、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルに供するステップを含む方法に関する。PUは、包装に含まれる多層包装構造における、PUを主原料とする層であってもよい。注目すべきことに、本発明の主題により、多層包装材料中のPU含有層の効率的な選択的分解が可能になる。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの生産量は、過去60年間にわたって増加し続けており、2017年には3億4800万トンに達している(Plastics Europe,2018)。包装は、プラスチックを使用する主要部門であり、市場需要のほぼ40%を占めている(Plastics Europe,2018)。その大部分は使い捨てプラスチックからなり、寿命が短く、消費者が入手して程なくして廃棄物となる。プラスチックの蓄積は、不適切な廃棄、又は廃棄物の埋め立て地での堆積と併せて、プラスチックの高い分解耐性に起因する、現代の主要な環境問題であることは常識である。過去数年にわたり、埋め立て地でのプラスチック堆積を避けるための努力がなされている(Plastics Europe、2018年)。それでもなお、大量の包装用プラスチックが廃棄物となるため、排出される廃棄物の量と、プラスチックを生産するための資源消費とを同時に最小化する効率的なリサイクル技術が必要とされている。
【0003】
包装に使用されるポリマーは、炭素-炭素骨格を有するもの[例:ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)]、及びヘテロ原子骨格を有するもの[例:ポリエステル、ポリウレタン(PU)]の2種類に大別することができる。C-C結合を切断するのに高いエネルギーが必要とされるため、炭化水素は、分解に対して非常に耐性が高い(Microb Biotechnol,10(6),1308-1322)。一方、ポリエステル及びポリウレタンは加水分解可能なポリエステル結合を有するため、非生物的分解及び生物的分解に対して耐性が低い。
【0004】
最も一般的なポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)である(Plastics Europe,2018)。プラスチック包装は、通常、単一のポリマーで構成されていない。むしろ多くの場合、プラスチックの特定の用途に関連する一定の特性(弾性、親水性、耐久性又は水バリア性及びガスバリア性)を得るためには、異なるポリマーのブレンド又は異なるポリマーからなる多層が必要である(Process Biochemistry,59,58-64)。また、包装材料は、一般に、接着剤、コーティング、並びに可塑剤、安定剤及び着色剤などの添加剤を含有する(Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci,364(1526),2115-2126)。これにより、一部の包装材料のリサイクルは非常に困難である。
【0005】
現在のプラスチック廃棄物リサイクル技術は、主に熱機械的プロセスからなり、ケミカルリサイクルは産業化の初期段階にある。メカニカルリサイクルには清浄な廃棄物ストリームの投入が必要であるが、この投入は、汚染された複雑な包装構造物の場合、それぞれ事前の洗浄ステップ及び分離ステップを経ることで達成され得る。したがって、現在の多層包装リサイクル率は非常に低い。むしろ、多層包装は、ほとんど焼却されるか、埋め立て処分されている。更にメカニカルリサイクルプロセスでは、多くの場合、特性が低下し、及び食品用としての品質が限定された、劣化したプラスチックが得られるため、本来の価値や用途が失われる。そのため、これらの材料は、通常、より価値の低い二次製品に使用される。一方、ケミカルリサイクルプロセスでは、ポリマーのビルディングブロックを回収し、プラスチックの再製造に使用することができるよう、開発が進められている。しかしながら、このプロセスは経済的コスト及びエネルギーコストが高く、通常、極端な条件及び刺激の強い化学物質を必要とする。したがって、これらの技術は、複雑な多層プラスチック材料には理想的ではない(Process Biochemistry,59,58-64)。
【0006】
多層プラスチック包装の各構成要素を選択的に取り除き、リサイクルすることができる技術があれば、元の包装を再製造し、リサイクルを混合プラスチック包装廃棄物や材料へ拡大できる可能性がある。
【0007】
酵素は基質に対する選択性が高いため、リサイクルプロセスへ応用できる可能性が高い。酵素により、各層を選択的に分解して、その後の新しいプラスチック製造に使用することができる出発ビルディングブロック、又は付加価値のある化学物質にすることが可能になる。難分解性プラスチックの酵素分解及び微生物分解は、過去数年にわたり、特にPETを中心に研究が進んでいる(Microb Biotechnol,10(6),1302-1307)。プラスチックの酵素分解は困難であるが、プラスチック包装の製造に使用されるポリエステルを分解することができる酵素が存在する。しかしながら、酵素の分解効率は、様々なクラス及び種類の酵素によって異なり、実験を実施した条件が、分解の程度に大きく影響を与える。加えて、ポリマーの特性、例えば結晶化度及び組成も、分解速度に強い影響を与える。
【0008】
ポリマーの酵素分解効率を上げる努力がなされてきたが、ほとんどの研究は純粋な材料に対して行われたものである。これらの研究により、プラスチックの酵素分解に関する良好な初期知見が提供されるが、これらのプラスチックはポリマーが単離されておらず、添加剤が存在し得る実際の包装材料を代表するものではない。更に、実験条件、酵素の特性、ポリマーの特性が分解プロセスに及ぼす影響についての深い理解が欠けている。
【0009】
したがって、多層包装の選択的リサイクルプロセスを考案することは、非常に重要である。
【0010】
したがって、費用効率がよく、高品質の材料をもたらし、過酷な処理条件を必要としない、多層包装におけるPUベースの層を選択的に分解するために使用することができる利用可能なプロセスを有することが望ましい。
【0011】
本明細書における先行技術文献のいかなる参照も、かかる先行技術が周知であること、又は当分野で共通の全般的な認識の一部を形成していることを認めるものとみなされるべきではない。
【0012】
[発明の概要]
したがって、本発明の目的は、現在の技術水準を向上又は改善することであり、具体的には、当技術分野において、ポリウレタン、例えば、多層包装におけるポリウレタン層を効率的に分解する方法であって、層の事前分離を必要とせず、刺激の強い化学物質及び/若しくは過酷な条件を必要とせず、経済的及び環境的利点をもたらす、方法を提供すること、又は、少なくとも当技術分野で利用できる解決手段の有用な代替手段を提供することとした。
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の目的が独立請求項の主題によって達成され得ることを見出した。従属請求項は、本発明の着想を更に展開させるものである。
【0014】
したがって、本発明は、ポリウレタン(PU)を分解する方法であって、前記PUを、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルに供するステップを含む方法を提供する。
【0015】
本明細書で使用される場合、「含む/備える(comprises)」、「含んでいる/備えている(comprising)」という単語、及び類似の単語は、排他的又は網羅的な意味で解釈されるべきではない。換言すれば、これらは「含むが、これらに限定されない」ことを意味することを意図している。
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、クチナーゼ及びエステラーゼがPUの分解において相乗的に作用することを見出した。本発明者らは、E3769及びEst119からなる群から選択されるエステラーゼとの組み合わせにおいて、Thf_Cut1、Thc_Cut1、Thc_Cut2及びBC_Cut-13からなる群から選択されるクチナーゼを用いることで、特に有望な結果を得た。注目すべきことに、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルを使用して、多層包装中のPU含有層を選択的かつ効率的に分解することができた。例えば、PUを主原料とする層を備えるPE系多層包装構造の場合、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルを使用することにより、PUを主原料とする層を選択的に分解することができ、これにより、PUモノマーを回収し、多層包装構造のPEベースの骨格を遊離させ、PEリサイクルに供することができた。得られたPEが清浄な状態であるため、リサイクルされたPEを価値の高い用途にリサイクルすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の追加の特徴及び利点は、図面を参照して以下に記載の現在好ましい実施形態の説明において記載されており、この説明から明らかになる。
【
図1A】クチナーゼとエステラーゼとの酵素カクテルを使用した、約0.79mgの市販のポリウレタン接着剤材料Adcote 102Aの酵素分解の結果を示す。単一酵素E3769(三角)、Thc_Cut_1(丸)、Thf_Cut(ひし形)並びに組み合わせThc_cut+E3769(黒丸)及びThf_Cut+E3769(黒四角)の放出プロファイル。陰性対照では緩衝液のみをバイアルに添加し、陽性対照では1M NaOHを含有させた(黒四角、破線)。
【
図1B】クチナーゼとエステラーゼとの酵素カクテルを使用した、約0.79mgの市販のポリウレタン接着剤材料Adcote 102Aの酵素分解の結果を示す。24時間の反応時間及び1M NaOH添加後の組み合わせ酵素活性(白色)及び単一酵素活性(灰色及び黒色)の差を示す。陰性対照は、毎回、pH7の0.1M PBS緩衝液中ポリウレタンのみを用いて行った。各バーは、デュプリケートで行った反応から放出されたポリマー質量の平均パーセンテージを表す。反応は、37℃にて、0.2mLのPBS(pH7)中、酵素単独、及び各組み合わせ酵素(ポリマー1mgあたり合計51.2μg)について、タンパク質25.6μg/mgの酵素添加量で実施した。ポリマー放出は、取り込まれたプローブFDL(0.1重量%)の放出から間接的に推定した。
【
図2A】クチナーゼとエステラーゼとの酵素カクテルを使用した約0.79mgの市販のポリウレタンコーティング材料Adcote 17-3の酵素分解の結果を示す。このプロットは、組み合わせE3769+Thc_Cut1(黒ひし形)、BC-CUT-013+Est119(黒丸)、並びに酵素単独BC-CUT-013(ひし形)、E3769(四角)、Est119(丸)及びThc_Cut1(三角)について分解の程度を比較する。
【
図2B】クチナーゼとエステラーゼとの酵素カクテルを使用した約0.79mgの市販のポリウレタンコーティング材料Adcote 17-3の酵素分解の結果を示す。24時間の反応時間及び塩基(1M NaOH)の添加後の、Thc_Cut1+E3769、BC-CUT-013+Est119(灰色及び黒色)の組み合わせ(白色)、及び酵素単独の活性の差を示す。陰性対照は、毎回、pH7の0.1M PBS緩衝液中ポリウレタンのみを用いて行った。各バーは、デュプリケートで行った反応から放出されたポリマー質量の平均パーセンテージを表す。反応は、37℃にて、0.2mL中、酵素単独、及び各組み合わせ酵素(ポリマー1mgあたり合計51.2μg)について、タンパク質25.6μg/mgの酵素添加量で実施した。ポリマー放出は、取り込まれたプローブFDL(0.1重量%)の放出から間接的に推定した。 したがって、本発明は、部分的には、ポリウレタン(PU)を分解する方法であって、PUを、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルに供するステップを含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
PUは、純粋な材料として提供されてもよく、PUを含む材料として提供されてもよい。
【0019】
本発明者らは、例えば、PUを含む材料がポリエステル含有ポリウレタン系ポリマーである場合に、非常に良好な結果を得た。例えば、本発明者らは、ポリエステルセグメントを有するポリウレタン系コーティング及び接着剤で、優れた結果を得た。
【0020】
本発明によれば、PUは、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルによって分解される。用語「分解」は、ポリマーをモノマーに変換するプロセスである解重合を含む。用語「分解」は、より一般的には、ポリマー鎖が酵素のうちの少なくとも1つによって切断され、モノマーには限らないが、より短いポリマー鎖が得られることを表す。このようなポリマー断片化は、例えば、エンド型酵素の活性によって、又はエキソ型酵素の不完全な活性によって達成することができる。本発明の一実施形態において、本発明の方法は、PU、例えば、包装中の少なくとも1層のPUを主原料とする層を解重合する方法であってもよい。
【0021】
クチナーゼは、クチンと水との反応を触媒して、クチンモノマーを生成する。クチナーゼは、セリンエステラーゼであり、通常セリンヒドロラーゼのSer-His-Asp三つ組み残基を含有する。
【0022】
少なくとも1種のクチナーゼは、真菌材料又は微生物材料由来のクチナーゼであってもよい。真菌材料又は微生物材料由来の酵素を使用することは、それらが天然に産生され得るという利点を有する。特に、酵素が真菌又は微生物によって分泌される酵素である場合、真菌又は微生物自体を、包装材料中の少なくとも1層のポリマー層を分解するために使用することができる。
【0023】
少なくとも1種のクチナーゼは、サーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)、サーモビフィダ・セルロシリティカ(Thermobifida cellulosilytica)又はサーモビフィダ・アルバ(Thermobifida alba)由来のクチナーゼであってもよい。
【0024】
サーモビフィダ属の生物は、土壌中に生息する好熱性生物であり、コンポストヒープ、腐葉土、堆肥の山又はキノコ生育培地などの加熱後有機物における植物細胞壁の主要な分解者である。サーモビフィダ属の生物の細胞外酵素は、耐熱性、広いpH範囲、高活性を有するため、研究されてきた。
【0025】
本発明者らは、少なくとも1種のクチナーゼがThf_Cut1、Thc_Cut1、Thc_Cut2、BC_Cut-13、又はそれらの組み合わせからなる群から選択された場合に、特に有望な結果を得た。これらのクチナーゼは、エステラーゼとのカクテルに使用した場合、他のクチナーゼよりもさらに良好な相乗的結果を生じた。
【0026】
Thf_Cut1(T.フスカ)、Thc_Cut1(T.セルロシリティカ)及びThc_Cut2(T.セルロシリティカ)及びメタゲノムクチナーゼBC-CUT-13は、Biocatalystから購入した。酵素BC-CUT-13は、それぞれサーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)CUT1及びサーモビフィダ・アルバ(Thermobifida alba)Est119由来のクエリーアミノ酸配列に対するメタゲノム検索を介して同定され、組換え大腸菌において産生された。
【0027】
エステラーゼは広範囲に存在し、基質特異性、タンパク質構造及び生物学的機能が異なるが、エステル基を酸基及びアルコール基に分割する加水分解酵素であるという点で共通している。カルボキシルエステラーゼは、エステル基をカルボキシレート基及びアルコール基に分割する。
【0028】
少なくとも1種のエステラーゼ、例えばカルボキシラーゼは、サーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)又はサーモビフィダ・セルロシリティカ(Thermobifida cellulosilytica)又はサーモビフィダ・アルバ(Thermobifida alba)由来のカルボキシラーゼであってもよい。
本発明者らは、少なくとも1種のエステラーゼが、Est119、E3769又はそれらの組み合わせからなる群から選択された場合に、特に有望な結果を得た。これらのエステラーゼは、クチナーゼとのカクテル中で使用した場合、他のエステラーゼよりもさらに良好な相乗的結果を生じた。
【0029】
Est119は、サーモビフィダ・アルバ(Thermobifida alba)由来のカルボキシルエステラーゼである。Est119は、Biocatalyst Ltd.UKから購入した。E3769は、Proteus(France)から購入した。
【0030】
酵素は純粋な形態で使用してもよい。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、酵素が粗抽出物として、例えば真菌材料及び/又は微生物材料からの粗抽出物としても使用することができることを見出した。粗抽出物を使用すると、コストのかかる酵素精製が不要になるという利点がある。したがって、本発明によれば、少なくとも1種のエステラーゼ及び/又は少なくとも1種のクチナーゼは、粗抽出物として使用してもよい。有利には、少なくとも1種のエステラーゼ及び/又は少なくとも1種のクチナーゼは、水溶性粗抽出物として使用してもよい。
【0031】
使用される酵素の量は、本発明の方法における分解ステップの成功において重要ではない。しかしながら、使用される酵素の量は、分解速度において重要である。本発明者らは、ポリマー1mgあたり少なくともタンパク質約30μg、ポリマー1mgあたり少なくともタンパク質約0.05μg、又はポリマー1mgあたり少なくともタンパク質約5μgの酵素濃度で分解が実施された場合に、良好な結果を得た。
【0032】
例えば、本発明の方法において、少なくとも1種のクチナーゼ及び/又は少なくとも1種のエステラーゼは、ポリマー1mg当たり0.05μgタンパク質、又はポリマー1mg当たり50μgタンパク質、又はポリマー1mg当たり5μgタンパク質の酵素添加量で使用され得る。
【0033】
本発明者らは、最適な相乗作用を達成するためにクチナーゼとエステラーゼの比を調整することを推奨する。正確な最適比は、使用される具体的な酵素によって異なるが、一般に、本発明者らは、少なくとも1種のクチナーゼ及び少なくとも1種のエステラーゼを、約10:1~1:10、例えば約5:1~1:5、さらに例えば約2:1~1:2の範囲の単位比で使用することを推奨する。それらの実験において、本発明者らは、少なくとも1種のクチナーゼと少なくとも1種のエステラーゼとの単位比が約1:1である場合に非常に良好な結果を得た。
【0034】
特に、本発明の枠組みにおいて使用されるクチナーゼ及び/又はエステラーゼが好熱性生物から得られる場合、クチナーゼ及び/又はエステラーゼは一定の熱安定性も示す。したがって、分解は、高温で、例えば30~40℃、35~45℃又は40~50℃の範囲の温度で行うことができる。高温での分解は、著しく速く進行する。予想される反応速度の増加は、van-’t-Hoffに従って推定することができる。
【0035】
しかしながら、反応温度を上昇させることにより、例えば、エネルギー使用量増加のためのコストが必要となる。したがって、分解を周囲温度で行うことが好ましい場合がある。これは特に、必要な反応時間が重要でない場合に当てはまる。周囲温度は、例えば、地理的な位置や季節によって異なる場合がある。周囲温度は、例えば、約0~30℃、例えば約5~25℃の範囲の温度を意味し得る。
【0036】
したがって、例えば、本発明の枠組みにおいて、PUは、20~50℃、例えば30~40℃の範囲の温度で、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとの酵素カクテルに供されてもよい。本発明者らは、約37℃の温度で非常に良好な結果を得た。
【0037】
本発明者らは、異なるpH値での反応を更に試験した。本発明の方法は、分解を中性から弱アルカリ性の条件で実施した場合に、最も効果的であることが判明した。6~9の範囲のpHで良好な結果が得られた。例えば、PUは、約6~9の範囲、例えば約6.5~8の範囲のpHで、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとの酵素カクテルに供されてもよい。
【0038】
したがって、約7~9の範囲のpH、好ましくは約7.5~8.5の範囲のpH、例えば約8.2のpHで分解が実施されることが好ましい場合がある。
【0039】
本発明者らは、PUを少なくとも3日間、少なくとも10日間、又は少なくとも20日間、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとの酵素カクテルに供した場合に、良好な結果を得た。
【0040】
本発明の方法を用いると、PUの部分的な分解又は完全な分解さえも可能であると思われる。本発明者らは、対応するレポーター分子の放出からこれを結論付ける。例えば、本発明の方法を用いると、PUを少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも55重量%分解することが可能であると思われる。この分解は、一部分において、モノマー又はモノマー混合物の生成をもたらした。したがって、本発明の方法を用いると、少なくとも1層のポリマー層の分解は、分解されたポリマーの少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも55重量%のモノマー、又はモノマー混合物の生成をもたらす。
【0041】
本発明の方法は、特に、包装リサイクルへの適用に適している。したがって、本発明の枠組みにおいて、PUは包装中に存在してもよい。
【0042】
多層包装構造は、現在の産業、例えば食品産業において頻繁に使用されている。ここで、多層包装は多くの場合、食品アイテムに一定のバリア特性、強度及び保存安定性を与えるために使用される。このような多層包装材料は、例えば、積層又は共押出によって製造することができる。更に、ナノテクノロジー、UV処理、及びプラズマ処理に基づく技術が、多層包装の性能を向上させるために使用される。Compr Rev Food Sci Food Saf. 2020;19:1156-1186は、食品用途のための多層包装における最近の進歩を概説している。
【0043】
包装が多層包装材料を含む場合、多層包装材料は、少なくとも2層のポリマー層を備えてもよい。
【0044】
ポリマー層は、PUを主原料とする層と、更なるPUを主原料とする層、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主原料とする層、ポリエチレン(PE)を主原料とする層、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1層とを含んでもよい。
【0045】
PUを主原料とする層は、PU系接着剤又はPU系コーティングであってもよい。
【0046】
層は、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、又は少なくとも約99重量%のPU、PE、又はPETをそれぞれ含有する場合、PU、PE、又はPETを主成分とすると考えられる。
【0047】
ポリマー層はまた、PU層と、更なるPU層、ポリエチレンテレフタレート(PET)層、ポリエチレン(PE)層、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1層と、を含んでもよい。
【0048】
PU層は、食品包装において頻繁に使用される。PU層は、通常、高い伸びを有し、本質的に強く、柔軟で、可塑剤を含まず、時間の経過と共に脆くならない柔軟なフィルムである。それらは脂肪及び加水分解に対して耐性である。それらは高温に耐えることができ、微生物による攻撃に対して優れた耐性を示す。
【0049】
PET層も、食品包装において頻繁に使用される。PET層は透明であり、非常に良好な寸法安定性及び引張強度を有し、広い温度範囲にわたって安定である。PET層は水を吸収せず、UV耐性を有し、良好なガスバリア性をもたらす。更に、PETへの高品質な印刷が容易である。しかしながら、PETフィルムの水分バリア性は中程度にすぎない。
【0050】
ポリエチレン(PE)は、プラスチックポリマーであり、現在では比較的容易に機械的にリサイクルすることができる。PE熱可塑性樹脂は、興味深いことに、それらの融点で液体になり、高温下で分解し始めない。そのため、かかる熱可塑性プラスチックは、融点まで加熱し、冷却し、再度加熱しても、大きく劣化しない。PEは、熱によって液化すると、押出成形や射出成形が可能となり、したがって、リサイクルして新たな用途に使用することができる。しかしながら、例えば、多層包装材料において、PE層が他のプラスチック層と組み合わされている場合、PEをリサイクルするには問題がある。
【0051】
本発明に記載される方法の1つの利点は、PE層からPU層を選択的に剥離するために使用できることである。したがって、本発明の方法は、多層包装における少なくとも1層のPUを主原料とする層を選択的に剥離するために使用され得る。
【0052】
本発明者らは、本発明の枠組みにおいて使用される酵素カクテルでPUを主原料とする層を分解させることができることを示すことができた。例えば、本発明者らは、市販のポリウレタンを、本発明の枠組みにおいて使用されるクチナーゼで分解することができることを示した。
【0053】
本発明の方法において、PUは、多層包装構造を備える包装中に存在してもよく、多層包装構造は、リサイクル可能なベース層、例えばPEを主原料とする層と、少なくとも1層のPUを主原料とする層とを備え、本方法は、少なくとも1層のPUを主原料とする層を分解すること及びベース層をリサイクルの流れに供することによって、多層包装構造をリサイクルするために使用される。得られたPUモノマーも、同様に回収してリサイクルすることができる。
【0054】
多くの多層包装構造は、PEを主原料とする層と、PETを主原料とする層と、PUを主成分とすると層を備える。本発明者らは、少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルが、PUベースの層を分解するために使用され得ることを示した。PETを生分解するためのクチナーゼの使用は、例えば、Nature Scientific Reports (2019)9:16038から公知である。したがって、一実施形態では、本発明は、少なくとも1層のPUを主原料とする層と、PETを主原料とする少なくとも1層の層とを備える多層包装構造を分解する方法であって、多層包装構造を少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルに供するステップを含む、方法に関する。
【0055】
本発明の方法の更なる実施形態では、包装は、少なくとも3層のポリマー層を備える多層包装構造を備え、ポリマー層は、少なくとも1層のPUを主原料とする層と、PETを主原料とする少なくとも1層の層と、PEを主原料とする少なくとも1層の層とを備え、方法は、多層包装構造を少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルに供し、PEを主原料とする層を更なるリサイクルに供するステップを含む。生成された、PUを主原料とする層及び/又はPETを主原料とする層のビルディングブロックは、再利用のために回収されてもよい。
【0056】
提示された発明の範囲において、本発明者らは、4層以上のポリマー層で構成される多層包装への適用も提案する。例えば、酸素バリアに使用されるEVOH及びBVOHなどのポリビニルアルコール(PVHO)は、通常、PU層、PET層及びPE層に加えて見られ、本発明において記載されるように少なくとも1種のクチナーゼと少なくとも1種のリパーゼとを含む酵素カクテルに供される場合、PE以外の多層から放出される。
【0057】
例えば、食品産業では、多くの包装は4~5層を含む。1つの典型的な例は、構造PET/PU/EVOH/PU/PEを有する多層包装材料である。本発明の一実施形態では、本発明の方法を使用して、構造PET/PU/EVOH/PU/PEを含むか又はそれからなる多層包装材料を分解することができる。任意選択的に、そのようなパッケージング材料は、例えばAlOxコーティングを用いて金属化、例えばアルミニウム化されてもよい。
【0058】
本発明者らは更に、包装、例えば多層包装構造の表面積対体積比が増加した場合、分解速度及び/又は完全性を著しく増加させることができることを提案する。例えば、包装を酵素カクテルに供する前に、包装を機械的に処理し、粒子径を小さくして平均直径が約5mm未満、約1mm未満、又は約0.5mm未満の直径の粒子にしてもよい。通常、機械的処理は、例えば細断であってもよい。したがって、本発明の方法は、PU及び/又はPU含有材料を少なくとも1種のエステラーゼと少なくとも1種のクチナーゼとを含む酵素カクテルに供する前又は供する間に、PU及び/又はPU含有材料例えばPU含有包装の粒子径を小さくするステップを更に含んでもよい。機械的処理によって粒子径を小さくし、平均直径が約5mm未満、約1mm未満、又は約0.5mm未満の直径の粒子にしてもよい。
【0059】
本発明の方法による1つの利点は、制御された条件下、例えばバイオリアクターなどの密閉容器中で実施することができることである。分解プロセスの条件が比較的穏やかであるため、極端な条件に耐えられるバイオリアクターは必要なく、このことは本発明の方法の費用対効果に寄与することができる。密閉容器を使用することは、例えば温度及び撹拌などの反応及びプロセスパラメータを正確に制御することができるという利点を有する。
【0060】
当業者は、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明の方法について説明した特徴は、組み合わせてもよい。更に、本発明の異なる実施形態について記載された特徴を組み合わせてもよい。
【0061】
本発明を実施例によって説明してきたが、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、変更及び改変を加えることができることが理解されるべきである。
【0062】
更に、既知の均等物が特定の特徴に対して存在する場合、かかる均等物は、本明細書で具体的に言及されているかのように組み込まれる。本発明の更なる利点及び特徴は、図及び非限定的な実施例から明らかである。
【実施例】
【0063】
実施例1:Adcote 102A及びAdcote 17-3に対するエステラーゼ及びクチナーゼの組み合わせの酵素分解
材料及び方法
材料及び化学物質
ポリウレタン材料Adcote 102A (36% w/w)、Adcote 17-3(75%w/w)及び共反応物F(75%w/w)は、幸いなことに、Dow Chemicalsから提供された。グリセロール、K2HPO4、KH2PO4、フルオレセイン、フルオレセインジラウレート、NaOH及び酢酸エチルは、全てSigmaから購入した。
【0064】
LC-HRMSによる分解生成物の分析に基づいて、以下のモノマー内容物を確認することができた(表1参照)。全ての材料は、フタル酸及びジエチレングリコールを含有する。Adcote 17-3はまた、二酸成分として両方のセバシン酸を含有する。コーティングについては、ネオ-ペンチル-ジプロパノールを検出することができた。共反応物Fは、イソシアネート末端ポリオール系分岐状プレポリマーを含有することが、複数の特許に記載されている。イソシアネート成分は、トルエンジイソシアネートであることが判明している(Wu et al, 2019, US20190284456A1)。
【0065】
表1:以下の表は、試験した3つの材料(Adcote 102A及びAdcote 17-3)、それらの調製、及びLC-MSによって同定された成分を列挙する。
【0066】
【0067】
Thf_Cut1(T.フスカ)、Est119(T.アルバ)、Thc_Cut2 (T.セルロシリティカ)及びThc_Cut1(T.セルロシリティカ)並びにメタゲノムクチナーゼBC-CUT-013は、Biocatalystから購入した。
【0068】
エステラーゼE3769は、Proteus(France)から購入した。これらの酵素は全て、未精製の粗抽出物として使用したが、これは、このような提案された廃棄物用途にはコストがかかりすぎる精製酵素よりも、工業的に適切で安価な調製物である。
【0069】
表2:試験した酵素、それらの種類、略記、由来生物、産生生物、品質及び供給元のリスト。
【0070】
【0071】
実験中の取り扱いを容易にするために、全ての酵素を、40%(w/v)グリセロールによりタンパク質1mg/mLのストック溶液に希釈した。
【0072】
受領したポリウレタン材料を酢酸エチルで希釈して、2.5倍(ポリエステル成分)及び5倍(共反応物)のストック溶液(w/w)を調製した。接着剤Adcote 102Aについては、共反応物を4.5:100(w/w)の比でポリマーと混合しなければならなかった。
【0073】
ポリウレタンコーティングした96ウェルプレートの準備
Zumsteinらによって確立された間接蛍光アッセイ(Zumstein,M.T.,et al.(2017)Environmental Science & Technology 51(13):7476-7485)は、標的ポリマーマトリックス(接着剤又はコーティング)中の均質な埋め込みレポーター分子(フルオレセインジラウレート、FDL)の放出が、同じポリマー材料の分解度に直接相関するという仮定に基づく。材料が分解された場合のみ、FDLはポリマーマトリックスから放出され、次いでエステラーゼ活性酵素によってラウレート及びフルオレセインに加水分解され得、このフルオレセイン分子を蛍光定量することができる(521nm/494nm)。1パーセント(%)のポリマー分解は、元々埋め込まれていたレポーター分子の1%放出として定義され、この場合、ポリマーマトリックスと酵素への影響を最小限に抑えながら高い検出限界に達する最適量である0.1重量%の組み込みFDLに相当する。
【0074】
このストック溶液を使用して、ポリマー2.3%(w/w)及びFDL0.0023%(w/w)を酢酸エチル中に含有するキャスティング溶液を調製した。これは、FDL:ポリマー比1:1000に対応する。
【0075】
ウェルあたり0.79mgのポリマーについて、キャスティング溶液40μLを耐溶剤性96ウェルプレート(Greiner 655219,Greiner Bio-One)に移し、その後、室温で1週間放置して硬化させた。
【0076】
Adcote 102A及び17-3に対する10種類の酵素の組み合わせの酵素活性スクリーニング
反応は、0.1カリウム-リン酸緩衝生理食塩水(pH7)200μL中で、単一酵素反応についてはポリマー1mgあたりタンパク質25.6μgの酵素添加量で、組み合わせについて各酵素についてそれぞれ1:1(ポリマー1mgあたり合計タンパク質51.2μg)で実施した。加水分解により、酵素に悪影響を及ぼす可能性がある酸が形成されるので、pH安定性を確保するために緩衝液が選択された。Henderson-Hasselbalchの式に従って、K2HPO4及びKH2PO4を混合することによって、緩衝液を調製した。
【0077】
長鎖フルオレセインジエステルの安定性はpH8.5を超えると大きく低下するため、アッセイの陽性対照反応として、FDL担持ポリマーサンプルを1M水酸化ナトリウム(NaOH)溶液にさらした。(Guilbault,G.G.,& Kramer,D.N.(1966),14(1),28-40)。加えて、ポリエステル中のエステル結合、及びポリウレタン中に存在するウレタン結合は、Matuszakら(Matuszak,M.L.,Frisch,K.C.,& Reegen,S.L.(1973),Journal of Polymer Science:Polymer Chemistry Edition,11(7),1683-1690)による研究で報告されているように、高pHで加水分解することができる。したがって、1M NaOHの塩基性溶液を、間接FDLアッセイの陽性対照として使用する。
【0078】
陰性対照として、FDL担持ポリマーサンプルを、酵素又はNaOHを含まない各緩衝液にさらした。FDLの漏出は、無視できると判断された。全てのプレートを37℃、250rpmでインキュベートし、0時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間及び24時間後にプレートリーダーで494nm/521nmで測定した。
【0079】
0.03125μM~5μMのフルオレセイン検量線を使用して、FDL放出を計算した。24時間後、1M NaOHで反応を停止させ、全てのプレートを-20℃で保存した。
【0080】
結果及び考察
本発明者らは、驚くべきことに、クチナーゼとエステラーゼとを組み合わせると、分解収率が大幅に改善され得ることを見出した。いくつかの酵素の組み合わせ(1:1)を間接FDLアッセイ法で試験し、そのうちの2つの組み合わせは、単一酵素のみを使用した場合と比較して、材料Adcote 102Aに対して優れた活性を示し、2つは材料Adcote 17-3に対して優れた活性を示すことを同定することができた(
図1~2参照)。
【0081】
図1A~
図1Bに示されるように、PU接着剤Adcote 102Aに対しThc_Cut1とE3769とを1:1(mg/mg)の比で組み合わせた場合、分解効率は2.2%から34.3%に約16倍向上した。
【0082】
同様に、コーティングAdcote 17-3についての分解の程度は、Thf_Cut+E3769及びEst119+BC-CUT-013の組み合わせについて、それぞれ4.6倍及び2.1倍増加した(
図2A~
図2B参照)。エステラーゼとクチナーゼとを組み合わせることによる市販のポリエステルベースのポリウレタンについてのこの増大した分解能力は、本発明者らの知る限り、先行技術によってこれまで記載されていない。
【0083】
異なる酵素の種類の組み合わせが、セルロースのような複雑な基質の分解効率の向上をもたらす(例えば、セルラーゼ及びモノオキシゲナーゼ)ことが報告されているが、ポリエステル(Barth,M.et al.2015.Biochemical Engineering Journal,93,222-228)及びポリウレタンに関する研究はほとんどない。ポリウレタンは、エステラーゼ及びアミダーゼ(Magnin, A., et al. 2019. Waste Management, 85, 141-150)又はエステラーゼ及びプロテアーゼ(Ozsagiroglu, et al. 2012. Polish Journal of Environmental Studies 21.6: 1777-1782)などの異なるタイプの酵素を組み合わせることによる酵素カクテルに供されてきたが、前者で検出できたのはマイナービルディングブロックの放出のみであり、更にはより高い質量の放出は検出できず、後者は競合的(負の)効果が見出されたのみであった。したがって、本発明は、PU系ポリマーの分解を劇的に向上させる、PU系コーティングに対する効果的な酵素の新規な組み合わせを提供する。
【0084】
本発明者らは、本発明におけるクチナーゼ(例えばThc-Cut2)及びエステラーゼ(例えばEst119)の使用による劇的な分解増加は、例えば、一方の酵素による阻害性分解生成物を除去して他方の酵素の活性を高めることを可能にする、基質特異性の補完による、又は、酵素の組み合わせによって、相補的なエンド活性及びエキソ活性が導入され、若しくは様々なポリマー位置でより広い加水分解を可能にする相補的な切断部位が導入され、それによってより速く、より広範囲のPU分解がもたらされる、相乗効果に基づくものであると仮定している。
【0085】
本発明者らは、Thc_Cut2及びE3769についての
図2Bにおいて、2種類の個々の酵素による分解の合計を酵素カクテルによる分解度と比較して4.6倍の分解ゲインを示し、すなわち、その酵素の組合せが本当の意味で相乗的ゲインを表すことを指摘する。注目すべきことに、例えば、他の酵素の組み合わせは、効果を示さないこと、又は負の効果さえ示すことが判明し、したがって、単一の分解活性は、組み合わせと同じかそれ以上であった(データ不掲載)。
【0086】
積層体及びポリウレタンコーティングされた包装のリサイクルでは、ポリウレタン層の選択的分解が、層を分離し、その後の個々のリサイクルを可能にする鍵となる。更に、ポリウレタンの酵素分解研究のほとんどは、特注のPUポリマーに対して行われており、工業的に関連する市販のPUポリマー及び配合物に対しては行われていない。これは、特に保護された市販の配合物では、化学組成がはるかに複雑で多様であり、酵素分解プロセスの分析が複雑になるためであり得る。
【0087】
この酵素の組み合わせは、多層材料のより効率的かつより迅速な脱コーティング又は剥離プロセスにおいて使用することができ、必要とされる単一酵素成分がはるかに少なく、それによって経済的コスト及び環境への影響が低減される。
【国際調査報告】