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特表2024-500116臓器または組織モデルの保管または培養のためのシステムおよびその使用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】臓器または組織モデルの保管または培養のためのシステムおよびその使用法
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
A01N1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536498
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 IB2021062190
(87)【国際公開番号】W WO2022137164
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20461600.7
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522029888
【氏名又は名称】ポルビオニツァ エスペー・ゾオ
【氏名又は名称原語表記】POLBIONICA SP. Z O.O.
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】フショラ ミハル
(72)【発明者】
【氏名】クラク マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ベルマン アンドジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ドブジャンスキ トマシュ
(72)【発明者】
【氏名】ザモラ イゴール
(72)【発明者】
【氏名】クビンキエヴィチ ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】シュチェギエルスキ マテウシュ
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011CA01
4H011CB05
4H011CC01
4H011CD04
4H011CD13
(57)【要約】
本システムは、摘出された臓器または組織モデルの機能を検証するとともにその取扱いを可能にするために設計されている。このシステムは、ドナーから摘出された臓器または組織モデル、ならびに/あるいは3Dおよび/または4Dのバイオプリンティング技術またはエレクトロスピニング技術などの他の技術を使用して作られた臓器または組織モデルを培養するために使用され得、臓器または組織モデル用のチャンバであって、内部の潅流液の温度を測定して調節するための手段が備わっているチャンバと、内部の潅流液の温度を測定して調節するための手段が備わっている潅流液容器と、潅流液のグルコース濃度を測定して潅流液にグルコースを投与するための手段と、潅流液のpHを測定して、潅流液のpHを調節する物質を投与するための手段と、潅流液の非接触混合のための手段と、潅流液の流れパラメータを測定して制御するための手段とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくはドナーから摘出され、好ましくは膵臓、肝臓、腎臓、肺、心臓、小腸、大腸、甲状腺、皮膚、脳から選択された臓器または組織モデル、あるいは、他の技術を使用して、好ましくは3Dバイオプリンティング技術、4Dバイオプリンティング技術および/またはエレクトロスピニング技術を使用して、好ましくは流動系または脈管系を伴ってプリントされた臓器および/または組織モデルの形態で作成された臓器または組織モデルを、保管または培養するためのシステムであって、
- 前記システムの動作中にチャンバ(2)内の潅流液の温度を測定して調節するための手段が備わっている、臓器または組織モデル用のチャンバ(2)であって、前記手段が好ましくは水ジャケットを備える潅流液の温度を測定して調節するための手段である、臓器または組織モデル用のチャンバ(2)と、
- 前記システムの動作中に容器(1)内の前記潅流液の温度を測定して調節するための手段を備え、好ましくは加熱冷却プレート(11)も備える、潅流液容器(1)であって、動作中に前記潅流液容器(1)から前記臓器チャンバ(2)へ前記潅流液を流すことができる少なくとも1つの第1のライン(17)と、動作中に前記臓器チャンバ(2)から前記潅流液容器(1)へ前記潅流液を流すことができる少なくとも1つの第2のライン(18)とによって前記臓器チャンバ(2)に接続されている潅流液容器(1)と、
- 前記潅流液のグルコース濃度を測定して前記潅流液にグルコースを投与するための手段(4)と、
- 前記潅流液のpHを測定して、前記潅流液の前記pHを調節する物質を投与するための手段(3)と、
- 前記潅流液の非接触混合のための手段と、
- 潅流液圧力および/または「体積の単位/時間の単位」で表現される潅流液出力を含む、前記潅流液の流れパラメータを測定して制御するための手段と、
- 前記潅流液の乳酸塩濃度、前記潅流液のナトリウムイオン濃度、前記潅流液の塩素イオン濃度、前記潅流液のカリウムイオン濃度、前記潅流液の酸素添加レベルから選択された1つまたは複数のパラメータを測定して制御するための任意選択の手段と、
を備える、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステムにおいて、
動作中は、前記臓器チャンバ(2)と前記潅流液容器(1)との間で前記潅流液を循環させるように構成された、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項2】
臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステムであって、前記臓器チャンバ(2)内の前記潅流液の温度、前記潅流液容器(1)内の前記潅流液の温度、前記潅流液のグルコース濃度、および前記潅流液のpHから選択された少なくとも1つのパラメータの測定値と、前記潅流液の圧力および/または「体積の単位/時間の単位」で表現される前記潅流液の出力、前記潅流液の乳酸塩濃度、前記潅流液のナトリウムイオン濃度、前記潅流液の塩素イオン濃度、前記潅流液のカリウムイオン濃度、および前記潅流液の酸素添加レベルを含む、前記潅流液の流れのパラメータの測定値とを取得するように構成され、かつプログラムされたシステム制御手段を備えるシステムにおいて、前記システム制御手段が、前記少なくとも1つのパラメータの所定の基準に基づく自動調節および/または手動調節用に、さらに構成され、かつプログラムされている、請求項1に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項3】
潅流液の酸素添加を測定して制御するための手段および/または前記潅流液から空気を除去するための手段をさらに備えるシステムであって、前記システム制御手段が、好ましくは、潅流液の酸素添加測定値を取得して、所定の基準を基に、潅流液の酸素添加を自動および/または手動で調節するように構成され、かつプログラムされる、請求項2に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項4】
好ましくは前記システムから除去された前記潅流液の重量の読取り値を基に、前記潅流液の損失を測定して補給するための手段(14)をさらに備えるシステムであって、前記システム制御手段が、好ましくは、所定の基準を基に、前記潅流液を自動および/または手動で補給するように構成され、かつプログラムされる、請求項1または2または3に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項5】
前記潅流液の非接触混合のための前記手段が、前記潅流液容器(1)を揺動させるための揺動機構(16)として設けられ、前記システム制御手段が、好ましくは前記潅流液容器(1)の揺動を自動および/または手動で調節するように構成され、かつプログラムされる、請求項1または2または3または4に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項6】
前記潅流液の酸素添加が、酸素供給器(5)回路を形成するために前記潅流液容器(1)に対して周辺に接続された酸素供給器(5)を用いて実行され、前記潅流液の非接触混合のための前記手段が、円筒状に設計された前記潅流液容器(1)の形態で設けられ、前記潅流液容器(1)の相対する側に、前記潅流液容器(1)の前記酸素供給器回路(5)の入口および出口を、前記潅流液容器(1)の円筒壁に対して接線的に配置することにより、前記システムの動作中に前記潅流液が混合される、請求項3または4に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項7】
前記潅流液のサンプルを採取するための手段(8)を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項8】
前記臓器チャンバ(2)が、前記システムの動作中に前記臓器チャンバ(2)の回転を可能にする回転機構(14)を備え、前記システム制御手段が、好ましくは前記臓器チャンバ(2)の回転を自動および/または手動で調節するように構成され、かつプログラムされ、前記システム制御手段が、好ましくは、前記臓器チャンバ(2)を、少なくとも2時間にわたって30分ごとに180°だけ、または少なくとも2時間にわたって15~60分ごとに90°だけ少なくとも4回、回転させるように構成され、かつプログラムされる、請求項1から7のいずれか一項に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項9】
前記臓器チャンバ(2)、前記潅流液容器(1)および/または前記潅流液の前記酸素添加を測定して制御するための前記手段が、温度を0~37℃に調節するための手段を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項10】
薬剤、栄養物質および/または潅流液成分を投与するための付加的手段をさらに備えるシステムであって、前記システム制御手段が、好ましくは、薬剤、栄養物質および/または潅流液成分を、所定の基準に基づいて自動および/または手動で投与するように構成され、かつプログラムされる、請求項1から9のいずれか一項に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項11】
前記潅流液容器(1)と前記臓器チャンバ(2)との間の前記第1のライン(17)に装着された気泡分離器(6)によって前記潅流液から空気が除去され、前記システムの動作中の、前記潅流液の、前記潅流液容器(1)と前記臓器チャンバ(2)との間の移動および反対方向の移動が、好ましくは蠕動ポンプである少なくとも1つのポンプ(9)によって実行される、請求項3から10のいずれか一項に記載の、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステム。
【請求項12】
ドナーから摘出された、あるいは、好ましくは3Dバイオプリンティング、4Dバイオプリンティングおよび/またはエレクトロスピニングを用いる他の技術によって作成された臓器または組織モデルを保管および/または培養するための、請求項1から11のいずれか一項に記載のシステムの使用法。
【請求項13】
3Dバイオプリントされた臓器を培養するために、請求項8に記載のシステムが使用され、
好ましくは、内皮細胞を用いた脈管系の定着の段階において前記回転機構(14)が使用される、請求項12に記載の使用法。
【請求項14】
臓器または組織モデルの疾患の状態または進行が、保管中および/または培養中に評価される、請求項12に記載の使用法。
【請求項15】
前記臓器または組織モデルの疾患の状態または進行に対する生物学的活性物質の効果が、保管中および/または培養中に分析される、請求項14に記載の使用法。
【請求項16】
前記臓器または組織モデルの状態に対する薬物療法および/または遺伝子工学療法の効果が、保管中および/または培養中に評価される、請求項14に記載の使用法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動系または脈管系を有する臓器または組織モデルの保管または培養のためのシステムおよびその使用法に関する。このシステムは、それだけには限らないが、摘出された臓器または組織モデルの機能を検証するとともにその取扱いを可能にするために設計されている。このシステムは、ドナーから摘出された臓器または組織モデル、ならびに/あるいは3Dおよび/または4Dのバイオプリンティング技術またはエレクトロスピニング技術などの他の技術を使用して作られた臓器または組織モデルを培養するために使用され得る。このシステムは、摘出できない臓器または患者の体内で治療することができない臓器の流動培養のために使用され得る。「臓器流動系」という用語は、人工的に作成された臓器に関し、形成されたチャネルを有する系を表す。「臓器脈管系」という用語は、ドナーから摘出された、または人工的に作成された、内皮細胞を有する血管系を表す。「保管」という用語は、低温で低下された新陳代謝において、または細胞を用いた定着の前に、臓器または組織モデルを保存することに関する。「培養」という用語は、細胞が定着した臓器または組織モデルを、生体内の条件に相当する平熱の環境において保存することに関する。「組織モデル」という用語は、生体適合物質の中に懸濁された、付加的に脈管系を含有し得る、生細胞を含有している3次元構造を表す。
【背景技術】
【0002】
米国特許第9756851B2号は、摘出された臓器を、移植するまで生存可能に保つための構想、方法および装置を開示している。この臓器潅流装置は、臓器を保管するための保存チャンバを備える。潅流回路には、臓器に含酸素液体を供給するための第1のラインおよび使用済液体を臓器から放出するための第2のラインが備わっている。潅流装置は、一般に平熱の温度で臓器を保存するために潅流回路に対して機能的に接続された装置も備える。加えて、この装置は、潅流液の圧力を制御するための手段と、前記液体のうち少なくともいくらかに酸素を送り込むための酸素添加手段と、濾過手段と、前記液体のうち少なくともいくらかの流れを制御するための流れ制御手段とを含有している。
【0003】
特許文献WO1996029865A1は、血液または他の酸素運搬物質を使用して、平熱に近い温度で臓器を潅流することができる臓器潅流装置を説明している。この装置は、生理学的効率のオンライン測定を使用して、臓器の生存能力を評価することを可能にする。実施形態は、潅流の生理学的状態を特徴づけるために、コンピュータ制御の血液ポンプを使用する。この装置は、臓器の維持または再生を支援するために、失われた循環体積の補給を可能にする部分と、潅流液の栄養物質、薬剤および成分の注入を可能にする部分とを備える。この装置は、圧力、pHおよび温度を調節すること、尿、胆汁、膵管の分泌物または他の生理学的浸出物の生成速度を自動的に測定すること、血液または潅流液の流量、血管抵抗および臓器腫脹を判定することもできる。
【0004】
米国特許出願公開第2017339945A1号は、臓器潅流用の潅流モジュールに対して分離可能に接続するように構成された基本ユニットを備える、心臓、肝臓、腎臓および肺を含むグループから選択された多臓器の潅流のための装置を開示している。基本ユニットには、臓器を通して潅流液を循環させるように、臓器に潅流液供給源を接続するチューブと、チューブの中の潅流液の循環を駆動するようにチューブに接続された第1および第2のポンプと、臓器を通る潅流液の循環を制御するために第1および第2のポンプを制御するように構成されて接続されたコントローラとが備わっている。コントローラは、臓器潅流のために、臓器のタイプに基づいて選択された潅流パラメータに依拠して第1および第2のポンプを制御することができる。
【0005】
文献EP1879997A2は、潅流液に浸された臓器を支持するための臓器チャンバを有する携帯用臓器潅流装置を開示している。ポンプが、潅流液を、ポンプを含有している回路、潅流液を冷却するための熱交換器、潅流液に酸素を送り込むための酸素供給器、および臓器脈管系に対する液体の一定の供給を保証するための装置のまわりで循環させる。バイパス・チャネルが、過剰液体が臓器を迂回することを可能にする液体接続をもたらす。この装置は、酸素源と、センサと、電源と、センサから情報を受け取って制御手段に制御命令を与えるための制御ユニットとをさらに備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9756851B2号
【特許文献2】WO1996029865A1
【特許文献3】米国特許出願公開第2017339945A1号
【特許文献4】EP1879997A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
平熱状態を維持するための効率的な制御と、臓器および組織モデルの、効率的で、より自動的かつ正確な修復または培養のための液体の調整またはpH制御とを保証する、解決策が求められている。本発明の目的は、死亡したドナーから摘出された膵臓、肝臓、腎臓、肺、心臓、小腸、大腸、甲状腺、皮膚、脳など、あるいは、たとえば3Dおよび/または4Dのバイオプリンティング技術といった他の技術を使用して作成された、脈管系を伴ってプリントされた組織モデルなどの臓器の培養および保管のために適切な状態を提供することである。「生物工学的臓器」という用語は、細胞を用いて3Dおよび/または4Dの技術で直接プリントされた組織モデルと、後にそれぞれの細胞を定着させるだけの足場のみ(脈管系および組織モデル)との、両方に関する。「3Dバイオプリンティング」という用語は、添加物生産技術(層ごとの物質適用)を使用する、生細胞を含有している3次元構造の形成に関する。4Dバイオプリンティングでは、第4次元は時間であり、この技術は、前もって定義された対象物(形状)へと後に変換するように形成された物質の帯をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の態様では、好ましくはドナーから摘出され、好ましくは膵臓、肝臓、腎臓、肺、心臓、小腸、大腸、甲状腺、皮膚、脳から選択された臓器または組織モデル、あるいは、他の技術を使用して、好ましくは3Dバイオプリンティング技術、4Dバイオプリンティング技術および/またはエレクトロスピニング技術を使用して、好ましくは流動系または脈管系を伴ってプリントされた臓器および/または組織モデルの形態で作成された臓器または組織モデルを、保管または培養するためのシステムであって、
- システムの動作中にチャンバ内の潅流液の温度を測定して調節するための手段が備わっている、臓器または組織モデル用のチャンバであって、前記手段が好ましくは水ジャケットを備える潅流液の温度を測定して調節するための手段である、臓器または組織モデル用のチャンバと、
- システムの動作中に容器内の潅流液の温度を測定して調節するための手段を備え、好ましくは加熱冷却プレートも備える、潅流液容器であって、動作中に潅流液容器から臓器チャンバへ潅流液を流すことができる少なくとも1つの第1のラインと、動作中に臓器チャンバから潅流液容器へ潅流液を流すことができる少なくとも1つの第2のラインとによって臓器チャンバに接続されている潅流液容器と、
- 潅流液のグルコース濃度を測定して潅流液にグルコースを投与するための手段と、
- 潅流液のpHを測定して、潅流液のpHを調節する物質を投与するための手段と、
- 潅流液の非接触混合のための手段と、
- 潅流液圧力および/または「体積の単位/時間の単位」で表現される潅流液出力を含む、潅流液の流れパラメータを測定して制御するための手段と、
- 潅流液の乳酸塩濃度、潅流液のナトリウムイオン濃度、潅流液の塩素イオン濃度、潅流液のカリウムイオン濃度、潅流液の酸素添加レベルから選択された1つまたは複数のパラメータを測定して制御するための任意選択の手段と
を備え、システムの動作中に、システムが、前記潅流液を、臓器チャンバと潅流液容器との間で循環させるように構成される、システムが提供される。
【0009】
潅流液の流れ出力は、「体積の単位/時間の単位」で表現される潅流液の流量を表す。「臓器チャンバ」という用語は、臓器または組織モデルの保管または培養に適するチャンバを表す。
【0010】
好ましくは、臓器または組織モデルを保管または培養するためのシステムに備わっているシステム制御手段は、臓器チャンバ内の潅流液の温度、潅流液容器内の潅流液の温度、潅流液のグルコース濃度、潅流液のpHから選択された、少なくとも1つのパラメータの測定値と、潅流液の圧力および/または「体積の単位/時間の単位」で表現される潅流液の出力、潅流液の乳酸塩濃度、潅流液のナトリウムイオン濃度、潅流液の塩素イオン濃度、潅流液のカリウムイオン濃度、酸素添加を含む、潅流液の流れのパラメータの測定値とを取得するように構成され、かつプログラムされており、このシステム制御手段は、臓器チャンバ内の潅流液の温度、潅流液容器内の潅流液の温度、潅流液のグルコース濃度、潅流液のpHから選択された少なくとも1つのパラメータと、潅流液の圧力および/または潅流液の出力、潅流液の乳酸塩濃度、潅流液のナトリウムイオン濃度、潅流液の塩素イオン濃度、および潅流液のカリウムイオン濃度、酸素添加を含む潅流液の流れのパラメータとの、所定の基準に基づく自動調節および/または手動調節用に、さらに構成され、かつプログラムされている。
【0011】
好ましくは、臓器または組織モデルの保管または培養のためのシステムは、潅流液の酸素添加の測定および制御のための手段および/または潅流液から空気を除去するための手段をさらに備え、システム制御手段は、好ましくは、潅流液の酸素添加測定値を取得して、所定の基準を基にした潅流液の酸素添加の自動および/または手動調節を行うように構成され、かつプログラムされる。
【0012】
臓器または組織モデルの保管または培養のためのシステムは、好ましくはシステムから除去された潅流液の重量の読取り値を基に、潅流液の損失および補給を測定するための手段を好ましくはさらに備え、システム制御手段は、好ましくは、所定の基準を基に、潅流液を自動および/または手動で補給するように構成され、かつプログラムされる。
【0013】
好ましくは、潅流液の非接触混合のための手段は、潅流液容器を揺動させるための揺動機構として設けられ、システム制御手段は、好ましくは潅流液容器の揺動を自動および/または手動で調節するように構成され、かつプログラムされる。
【0014】
好ましくは、潅流液の酸素添加は、酸素供給器回路を形成するために潅流液容器に対して周辺に接続された酸素供給器を用いて実行され、潅流液を混合するための手段は、円筒状に設計された潅流液容器の形態で提供され、酸素供給器回路の入口および出口を、潅流液容器の相対する側に、潅流液容器の円筒壁に対して接線的に配置することにより、システムの動作中に潅流液が混合される。
【0015】
好ましくは、システムは、潅流液のサンプルを採取するための手段を備える。
【0016】
好ましくは、臓器チャンバは、システムの動作中に臓器チャンバが回転することを可能にする回転機構を備え、システム制御手段は、好ましくは臓器チャンバの回転を自動および/または手動で調節するように構成され、かつプログラムされる。好ましくは、システム制御手段は、臓器チャンバを、少なくとも2時間にわたって30分ごとに180°だけ、または少なくとも2時間にわたって15~60分ごとに90°だけ少なくとも4回、回転させるように構成され、かつプログラムされる。
【0017】
好ましくは、臓器チャンバ、潅流液容器、および/または潅流液の酸素添加を測定して制御するための手段は、温度を0~37℃に調節するための手段を有する。
【0018】
好ましくは、システムは、薬剤、栄養物質および/または潅流液成分を投与するための付加的手段をさらに備え、システム制御手段は、好ましくは、薬剤、栄養物質および/または潅流液成分を、所定の基準に基づいて自動および/または手動で投与するように構成され、かつプログラムされる。
【0019】
好ましくは、潅流液容器と臓器チャンバとの間の第1のラインに装着された気泡分離器によって潅流液から空気が除去され、システムの動作中の、潅流液の、潅流液容器と臓器チャンバとの間の移動および反対方向の移動は、好ましくは蠕動ポンプである少なくとも1つのポンプによって実行される。
【0020】
第2の態様では、ドナーから摘出された、あるいは、好ましくは3Dバイオプリンティング、4Dバイオプリンティングおよび/またはエレクトロスピニングを用いる他の技術によって作成された、臓器または組織モデルを保管および/または培養するための本発明によるシステムの使用法が提供される。
【0021】
好ましくは、本発明によるシステムは、3Dバイオプリントされた臓器を培養するために使用され、好ましくは、内皮細胞を用いた脈管系の定着の段階において回転機構が使用される。
【0022】
好ましくは、臓器または組織モデルの疾患の状態または進行が、保管中および/または培養中に評価される。
【0023】
好ましくは、臓器または組織モデルの疾患の状態または進行に対する生物学的活性物質の効果が、保管中および/または培養中に分析される。
【0024】
好ましくは、臓器または組織モデルの状態に対する薬物療法および/または遺伝子工学療法の効果が、保管中および/または培養中に評価される。
【0025】
臓器または組織モデルを培養中に平熱状態に維持することは、臓器または組織モデルにとって生体内の状態に相当する最適な新陳代謝の状態をもたらすので必須であり、臓器の状態を評価することが可能になる。
【0026】
摘出された臓器を培養するための潅流液は、沈殿する傾向のある赤血球の濃縮物を制限なく含有している。好ましくは潅流液容器を揺動させる機構の形態である潅流液を混合するための非接触の手段、または容器の中で渦運動の誘導を可能にする容器構成を使用すると、潅流液の中の赤血球の分布が均一になる。こうすると、流動系を無菌に保つことや、他のタイプの混合器を使用するときに生じる赤血球の機械的損傷を緩和することも可能になる。潅流液を混合すると、潅流液を均一に加熱することや、液体の成分を絶え間なく混合することの助けになる。
【0027】
臓器チャンバを回転させるための回転機構は、3Dバイオプリンティング技術によって作成された臓器を培養するとき制限なく使用され、また、内皮細胞を用いた、バイオプリントされた脈管系の定着の段階において使用される。好ましくは、回転機構は、臓器チャンバを、少なくとも2時間にわたって30分ごとに180°だけ、または少なくとも2時間にわたって15~60分ごとに90°だけ少なくとも4回、回転させる。回転機構により、脈管系全体の定着が可能になる。回転は、細胞がチャネルの壁に「くっついて」重力で降下し得るように実行される。回転は、少なくとも2時間にわたって、たとえば36°といったより小さい角度で10回実行されてよく、または、たとえば少なくとも2時間にわたって、毎時1回転の速度で連続的に実行されてもよい。この回転機構を使用すると、定着させる細胞の、チャネル面にわたる均一な分布が保証される。
【0028】
本発明によるシステムは、
- 死亡したドナーから直接摘出された臓器と、
- 生体ドナーから摘出された臓器(たとえば家族またはクロスオーバ移植)と、
- 3D(および4D)バイオプリンティング技術でプリントされた臓器(脈管系を含む流動系を伴う臓器)と、
- 3D(および4D)バイオプリンティング技術でプリントされた、流動系(脈管系を含む)を伴う組織モデルと、
- エレクトロスピニング技術によって作成された臓器および組織モデル(脈管系を含む流動系を伴う臓器)と、
- 2つの方法(バイオプリンティングおよびエレクトロスピニング)を組み合わせて作成された臓器および組織モデルと、
- 飼育動物、実験動物および遺伝子組換え動物から摘出された臓器と、
- 遺伝子操作された臓器と、
- 組織工学や遺伝子工学の技術を使用して、身体外(実験室)の状況で作成された臓器と
の培養、保管および/または処置(再生を含む)のために使用され得る。
【0029】
本発明によるシステムで培養された臓器および組織モデルは、医療に使用され得、基礎研究ならびに研究開発業務のためにも使用され得る。なおまた、本発明によるシステムは、流動系を伴うモデルの作成を可能にする3D/4Dバイオプリンティング技術または他の技術(電場を使用して、溶融されたポリマーまたはその溶液からナノファイバを取得するものである、エレクトロスピニングを含む)によって作成された流動系(脈管系を含む)を伴う、形成された癌に的を絞った組織モデル、誘発された疾病単位、研究と個人専用医療との両方に使用される遺伝子工学療法の調査に適する組織モデルなどの組織モデルを培養するために使用され得る。
【0030】
システムは、生物学的活性物質の影響、すなわち毒性、効能を試験するため、特定の疾患段階の重症度を評価するため、ならびに薬剤および遺伝子工学療法の有効性を評価するために、臓器を、移植に先立って保管したり処置したりするために使用される装置になり得る。
【0031】
有利には、システムは、薬剤、活性物質の正確な用量、ならびに生物学的分析および化学分析のためのサンプリングの機能を有する。これらの機能により、このシステムは、臓器の保管/培養および処置に加えて、高度な研究を行うこと、移植のための臓器を用意すること、および臓器の機能的な状態を評価することが可能な多機能装置になる。したがって、このシステムは、移植プロシージャの有効性の改善に寄付し、(基礎研究段階と前臨床段階との両方において)高度な研究を行うことを可能にするはずである。
【0032】
本発明は図中の実施形態に示される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】ドナーから摘出された臓器ならびに他の技術を使用して作成された臓器または組織モデルの両方の培養を可能にするシステムの全体図である。
図2】例1のシステムにおける、豚の腎臓の2日間の培養中の、a)圧力(mm Hg)、b)流量(ml/min)、c)潅流液の損失(g)およびd)グルコース濃度(mg/ml)といった潅流液パラメータの変化を示すグラフである。
図3】例1の豚の腎臓の培養中の、a)pH、b)Naイオン濃度(mmol/l)、c)グルコース濃度(mg/dl)、d)pCO(kPA)、e)Kイオン濃度(mmol/l)、f)飽和(酸素添加)(%)、g)pO(kPA)、h)Clイオン濃度(mmol/l)およびi)乳酸塩濃度(mmol/l)といった潅流液パラメータの変化を示すグラフである。
図4】例1の豚の腎臓を培養するために使用されたシステムを示す図である。
図5】電子システム制御手段を示すブロック図である。
図6】例2の生物工学的膵臓臓器のジオメトリを示す図である。
図7】a)加熱冷却プレート温度(℃)(下のライン)および臓器チャンバ温度(℃)(上のライン)、b)動脈圧RR(mm Hg)、c)流量(ml/min)の監視を示すグラフである。
図8】生物工学的膵臓の、共振法を使用して取得された画像である。
図9】例2の生物工学的膵臓の30時間の培養中の、a)pH、b)グルコース濃度(mmol/l)、c)乳酸塩濃度(mmol/l)、d)pO(kPA)、e)Naイオン濃度(mmol/l)、f)Kイオン濃度(mmol/l)といった潅流液パラメータの変化を示すグラフである。
図10】30時間後の潅流液の酸素添加における差を示す図である。サンプルAは、酸素を除去した液体であり、生物工学的臓器が配置されていたチャンバを出た後に採取されたものである。サンプルBは、酸素を豊富に含んだ液体であり、チャンバに入れる前に採取されたものである。
図11】可変濃度グルコース溶液を用いた刺激に続く、インシュリン濃度における差を示すグラフである。灰色のラインは、膵島にグルコースを挿入した刺激の制御を記録したものであり、黒色のラインは、生物工学的膵臓に膵島をプリントして、本発明によるシステム内に維持したものの記録である。
図12】3Dバイオプリンティング・プロセスで取得された生物工学的膵臓を培養するために例2において使用されたシステムを示す図である。
図13】例3による潅流液容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
例1-豚の腎臓の培養
本発明によるシステムの機能を最適化するとき、モデルとして豚の腎臓が使用された。この臓器は、
- 温阻血時間が最短化され、入手および摘出が容易である、
- 容易な接続のための血管新生、
- 臓器の新陳代謝が速く、システムの可能性を最大限に利用することが可能になる、
- 尿分泌物を基に臓器の機能を監視する可能性、
といった、多くの実用的な理由によって使用された。
【0035】
豚の腎臓は、食肉生産の技術的サイクルを中断して摘出された。豚を、電流によって気絶させた後に放血し、処理後に手術室へ直接搬送して腎臓を摘出した(温阻血時間<10min)。UW氷溶液(University of Wisconsin Solution)を用いて動脈の水洗を開始したとき、摘出が完了した。豚の放血中に、血液は無菌方式(ヘパリン添加)で保存された。
【0036】
本発明によるシステムにおける潅流液の組成および臓器培養の条件は以下の通りである。平熱状態での培養中に使用された潅流液の主要成分は、7:3の比の赤血球濃縮液を用いて強化された機械的潅流(Belzer MPS(登録商標)UW Machine Perfusion Solution)のための低カリウム液であり、およそ0.15のヘマトクリット値を得ることができた。加えて、MPS液体は、CaCl、アミノ酸濃縮物(Trimel N9 -1070 EC)、ビタミン、重炭酸ナトリウム(7.35~7.45のpHを得るため)、ヘパリン、抗生物質(PenStrep)、インシュリンおよびデキサメタゾンが補足された。この調査は、50mmHgと75mmHgとの平均潅流圧を比較した。システムの動脈枝における酸素分圧はおよそ50mmHgであり、酸素供給器を通る流量はおよそ3L/minであった。腎臓は48時間にわたって培養され、次いで、組織病理学的に評価された。グルコース濃度は、潅流液濃度を基にグルコースを持続的に注入することにより、100~150mg%に維持された。利尿に由来する損失は、リンゲル液を(1:1の比で)用いて自動的に補給された。培養された腎臓の生存能力が、臓器の上流および下流の尿生成、グルコース消費および血液飽和(酸素添加)を基に評価された。血管抵抗の増加によって潅流が減少した場合には、腎臓が、(必要に応じて)ウラピジル(エブランチル)を注入して処置された。図2および図3は、例1の豚の腎臓の培養中の、潅流液パラメータにおける変化を示す。
【0037】
豚の腎臓の培養のために使用されたシステム(図4)には、以下のものが備わっていた。
- システムの動作中にチャンバ2内の潅流液の温度を調節するための手段が備わっている密封された臓器チャンバ2。チャンバ2は、加熱ジャケットの形態の加熱冷却回路13を含有していた。チャンバ2には、臓器と、流入潅流液と、流出潅流液と、チャンバ2内のガスの圧力または体積を変化させるように設計された気泡分離器6である気泡トラップとの接続を可能にする、ポートが備わっていた。
- ペルチェ・モジュール27によって温度を調節する加熱冷却プレート11の形態で潅流液の温度を調節するための手段が備わっている潅流液容器1。潅流液容器1は、動作中に潅流液容器1から臓器チャンバ2へ潅流液を流すことができる少なくとも1つの第1のライン17と、動作中に臓器チャンバ2から潅流液容器1へ潅流液を流すことができる少なくとも1つの第2のライン18とによって、チャンバ2に接続されていた。
- 酸素供給器5、酸素添加-飽和センサ19、ならびに酸素供給器5を通る適切な圧力およびガス流量をもたらすガス混合シリンダ組立体および片落ち管である酸素添加装置を備える、潅流液の酸素添加を測定して制御するための手段。酸素供給器5は、酸素供給器5の温度センサ32、および酸素供給器5の加熱ジャケットの形態の加熱冷却回路12も備えていた。潅流液の酸素添加を測定して制御するための手段は、酸素供給器5の回路とも称される。
【0038】
潅流液の温度が、臓器チャンバ2および酸素供給器5の加熱冷却回路12および13によって調節されて、加熱または冷却の液体の流れが可能になり、潅流液容器1の加熱冷却回路、臓器チャンバ2の温度センサ30、潅流液容器1の温度センサ31、酸素供給器5の温度センサ32、ならびに調節システムおよびポンプ9が、好ましくは蒸留水である加熱または冷却の液体の流れをもたらし、加熱または冷却の液体は、臓器または潅流液と接触することなく、加熱装置からの熱を臓器チャンバ2の加熱ジャケットおよび酸素供給器5の加熱ジャケットに伝達するためにのみ使用された。
- 潅流液のグルコース濃度を測定して、潅流液にグルコースを投与するための手段4であって、酵素電極に基づくセンサ25と、電子的測定システムと、グルコース含有追加液を投与するためのポンプ9とを備える手段4。流動系における潅流液と直接接触する測定のために、特別に設計された使い捨ての酵素電極が使用された。グルコース濃度データがユーザのパネルに表示され、この読取り値に基づき、システム制御手段によって、グルコース含有追加液が、自動的に、またはオペレータが必要としたとき、投与された。
- 潅流液のpHを測定して、潅流液のpHを調節する物質を投与するための手段3であって、pH電極、電子的測定システムおよびpHを調節する物質を投与するためのポンプを備える手段3。
- 潅流液容器1の揺動機構16の形態で設けられた、潅流液の非接触混合のための手段。揺動機構16が潅流液容器1を揺動させた。
- 2つの気泡分離器6である潅流液気泡トラップを備える、潅流液から空気を除去するための手段。気泡トラップのうち1つは酸素供給器5の回路に配置されており、(上記で説明された)もう1つの気泡トラップは臓器チャンバ2の直前に配置されていた。
- システムの動作中に潅流液容器1から臓器チャンバ2に流れる潅流液の圧力を含む潅流液の流れパラメータを測定して制御するための手段。潅流液の流れパラメータを測定して制御するための手段は、電気機械式膜圧力センサ7、電子制御システムおよび蠕動ポンプ9を備えるものであった。圧力は非接触方式で測定された。潅流液は可撓性膜によってセンサ7から分離された。潅流圧は、潅流オペレータによって、システム制御手段を使用してユーザ・パネル上で設定された。システム制御手段は、設定圧力を達成するように流量を自動的に選択した。許容可能な最大流量も、ユーザ・パネル上で予め設定された。
- 伸びセンサに基づくおもり、電子的測定システムおよび投与ポンプ9を備える、潅流液の損失を測定して補給するための手段14。追加される液の量は操作盤に表示され、設定に依拠して、装置のオペレータが、システム制御手段を使用して、それを自動または手動で満たすことができる。
- パラメータの測定値を取得するように構成され、かつプログラムされたシステム制御手段であって、パラメータには、臓器チャンバ2内の潅流液の温度、潅流液容器1内の潅流液の温度、潅流液のグルコース濃度、潅流液のpHから選択された少なくとも1つのパラメータと、潅流液の圧力および/または「体積の単位/時間の単位」で表現される潅流液の出力、潅流液の乳酸塩濃度、潅流液のナトリウムイオン濃度、潅流液の塩素イオン濃度、潅流液のカリウムイオン濃度、潅流液の酸素添加、ならびに臓器チャンバ内の潅流液の温度、潅流液容器内の潅流液の温度、潅流液のグルコース濃度、潅流液のpHから選択された少なくとも1つのパラメータの所定の基準に基づく、自動および/または手動の調節を含む、潅流液の流れのパラメータと、潅流液の圧力および/または潅流液の出力、潅流液の乳酸塩濃度、潅流液のナトリウムイオン濃度、潅流液の塩素イオン濃度、潅流液のカリウムイオン濃度、および潅流液の酸素添加を含む、潅流液の流れのパラメータとが含まれる、システム制御手段。
【0039】
システム制御手段の主コントローラは、マイクロプロセッサ21に基づき、装置のすべての周辺装置を制御することによってリアルタイム動作を保証する第1の部分と、パラメータの観測および入力を可能にするグラフィカル・インターフェース(GUI)を担う第2のプロセッサ20との2つの部分から成るものであった。
【0040】
TECコントローラ23は、ペルチェ・モジュール27を制御して潅流液温度を0~37℃に維持するように設計されており、臓器を平熱状態と低体温状態との両方で取り扱うことを可能にする。ファン28は、ラジエータ温度を制御してペルチェ・モジュールの高温側と低温側との間の温度差を20℃以下にするように使用された。
【0041】
コントローラ22は、ペルチェ・モジュール27の温度測定値と、潅流液加熱冷却プレート11の温度測定値と、臓器チャンバ2の水ジャケット内の温度測定値と、潅流液容器1内の温度測定値とを記録した。
【0042】
いくつかの蠕動ポンプ9が使用され、第1のものは、主潅流液の循環のために使用され、伸び式圧力センサ7によって制御される一定の液圧を維持するように制御された。さらに3つのポンプ9が、医薬物質を投与するために使用された。薬剤を特定の流量(ml/min)で投与することが可能であった。
【0043】
本発明によるシステムの制御パネルは、ウェブ・ブラウザのレベルからアクセスされ得、そのため、インターネットにアクセス可能な携帯電話、タブレット・コンピュータまたはラップトップ・コンピュータなどの任意の装置を用いて開かれ得る。
【0044】
制御パネルにより、加熱冷却プレート11の温度、温度制御用PIDコントローラのパラメータ、圧力制御のオン/オフ切換え、事前設定の潅流液圧力(mmHg)、潅流液の最小流量および最大流量(出力)、各ステップ・モータ29の事前設定の速度(ml/min)、潅流液混合機構の電源投入、潅流液混合速度の設定、といったパラメータの設定が可能になった。制御パネルにより、潅流液のpH、潅流液のグルコース濃度、加熱冷却プレート11の温度などの測定されたパラメータを監視することも可能になった。図5は電子システム制御手段のブロック図である。
【0045】
例2-バイオプリンティング技術を用いて取得された臓器の培養
3Dバイオプリンティングを使用して実施される試験を行うために、生物工学的膵臓臓器が使用された。この臓器は、膵島を含有し基部バイオインクで作製された足場と脈管バイオインクで作製された管系とを備えるものであった(図6)。管系は1次導管から成り、これは、螺旋状に配置された3つの2次導管に分岐してから1つの放出導管に合流するものであった。この臓器の幾何学的パラメータを記述すると、
- 全体のモデルの外形寸法は32mm×40mm×17.5mmであった。
- 1つの2次導管の長さは340mmであった。
- 2次導管の合計長さは1020mmであった。
- 1次導管の直径は1.5mmであった。
- 2次導管の直径は1mmであった。
- 膵島のための足場体積は20.5mlであった。
- 管の体積はおよそ0.9mlであった。
【0046】
培養プロセスは制御された温度条件において行われ、臓器チャンバ2の温度は37~39℃であり、液体を加熱するための加熱冷却プレート11の温度は36.5~37℃であった。試験の全体を通じて、流量レベルおよび圧力レベルも監視された(図7)。
【0047】
臓器チャンバ2に生物工学的臓器を接続してパラメータ(圧力、流量、温度)を監視するやり方は、生物工学的臓器のプリントされた脈管系の構造および機能に影響を及ぼさないものであった。このことは共振法によって確認された(図8)。
【0048】
臓器チャンバ2における生物工学的臓器のインキュベーション中に、酸素添加、pH、グルコース濃度、乳酸塩濃度、ナトリウムイオン、カリウムイオンといった潅流液のパラメータがリアルタイムで監視された(図9)。
【0049】
パラメータを制御すると、潅流液の組成を監視すること、また、必要に応じてその品質を改善することが可能になり、生物工学的臓器を最適の培養状態/インキュベーション状態に維持することが可能になった。なおまた、システムにおいて使用される潅流液は、生物学的酸素運搬体である赤血球が補足された。試験中(30時間後)に潅流液サンプルが採取され、潅流液酸素添加における明瞭な差を示していた(図10)。サンプルAは、酸素を除去した液体であり、生物工学的臓器が配置されていたチャンバ2を出た後に採取されたものである。サンプルBは、酸素を豊富に含んだ液体であり、チャンバ2に入れる前に採取されたものである。
【0050】
生物工学的臓器の機能性を評価するための試験も実行され、この試験は、上記で説明された基本パラメータの制御以外に、設定された時点においてサンプルを採取して、可変濃度のグルコース溶液を用いた刺激の後のインシュリン濃度を評価することも包含するものであった(図11)。生物工学的臓器の結果は、生物工学的臓器としてプリントされて単離した膵島と3Dバイオプリンティング・プロセスを受けていない膵島との間に差異がなかった。
【0051】
生物工学的臓器の培養のために使用されたシステム(図12)には、以下のものが備わっていた。
- 装置の動作中にチャンバ2内の潅流液の温度を調節するための手段が備わっている密封された可動の臓器チャンバ2。チャンバ2は、加熱ジャケットの形態の加熱冷却回路13と、臓器チャンバ2を回転させるための回転機構15と、チャンバ2の回転駆動機構を含有していた。チャンバ2には、臓器と、流入潅流液と、流出潅流液と、チャンバ2内のガスの圧力または体積を変化させるように設計された気泡分離器6との接続を可能にする、ポートが備わっていた。
- ペルチェ・モジュール27によって温度を調節する加熱冷却プレート11の形態で潅流液の温度を調節するための手段が備わっている潅流液容器1。潅流液容器1は、動作中に潅流液容器1から臓器チャンバ2へ潅流液を流すことができる少なくとも1つの第1のライン17と、動作中に臓器チャンバ2から潅流液容器1へ潅流液を流すことができる少なくとも1つの第2のライン18とによって、チャンバ2に接続されていた。
【0052】
潅流液の温度は、臓器チャンバ2および潅流液容器1の加熱冷却回路と、臓器チャンバ2の温度センサ30と、潅流液容器1の温度センサ31と、加熱または冷却の液体を流す制御システムおよびポンプ9とによって調節された。臓器チャンバ2は、加熱または冷却の液体の流れを可能にする加熱冷却回路13を有するものであった。
- 潅流液のグルコース濃度を測定して、潅流液にグルコースを投与するための手段4であって、酵素電極に基づくセンサ25と、電子的測定システムと、グルコース含有液を投与するためのポンプ9とを備える手段4。流動系における潅流液と直接接触する測定のために、特別に設計された使い捨ての酵素電極が使用された。グルコース濃度データがユーザのパネルに表示され、この読取り値に基づき、システム制御手段によって、追加液が、自動的に、またはオペレータが必要としたとき、投与された。
- pH電極、電子的測定システムおよびpHを調節する物質を投与するためのポンプ9を備える、潅流液のpHを測定して、潅流液のpHを調節する物質を投与するための手段3。
- 潅流液容器1の揺動機構16の形態で設けられた、潅流液の非接触混合のための手段。揺動機構16が潅流液容器1を揺動させた。
- 臓器チャンバ2の直前に配置された気泡分離器6である潅流液気泡トラップを備える、潅流液から空気を除去するための手段。
- システムの動作中に、潅流液容器1から臓器チャンバ2に流れる潅流液の圧力を含む潅流液の流れパラメータを測定して制御するための手段。潅流液の流れパラメータを測定して制御するための手段は、電気機械式膜圧力センサ7、電子制御システムおよび蠕動ポンプ9を備えるものであった。圧力は非接触方式で測定された。潅流液は可撓性膜によってセンサ7から分離された。潅流圧は、潅流オペレータによって、システム制御手段を使用してユーザ・パネル上で設定された。システム制御手段は、設定圧力を達成するように流量を自動的に選択した。許容可能な最大流量も、ユーザ・パネル上で予め設定された。
- 例1のものに対応したシステム制御システム。このシステム制御手段は、臓器チャンバ2の回転の制御をさらに可能にした。
【0053】
例3
例1の豚の腎臓を培養するために使用された、この腎臓に対応するシステムの潅流液容器1には、揺動機構16およびペルチェ・モジュール27を使用する加熱機構が備わっていなかった。容器1は円筒状の形状であり、下部にポートが配置されていた(図13)。酸素供給器5の回路の潅流液の入口および出口を、潅流液容器1の相対する側に、円筒壁に対して接線的に配置して、容器1に渦運動を導入することにより、潅流液の非接触混合が実現された。酸素供給器5の回路の入口および出口における液体の流量は、0~2L/minに設定された。潅流液の加熱または冷却は、水ジャケット33を使用して行われた。潅流液容器1は、3Dプリンティング技術で作成された。
【符号の説明】
【0054】
1 潅流液容器
2 臓器チャンバ
3 pHを測定するための手段
4 グルコース濃度を測定するための手段
5 酸素供給器
6 気泡分離器
7 潅流液の圧力センサ
8 潅流液のサンプルを採取するための手段
9 蠕動ポンプ
10 薬剤、栄養物質および/または潅流液成分用の容器
11 加熱冷却プレート
12 酸素供給器の加熱冷却回路
13 臓器チャンバの加熱冷却回路
14 潅流液の損失を測定するための手段
15 臓器チャンバを回転させるための回転機構
16 潅流液容器の揺動機構
17 第1のライン
18 第2のライン
19 酸素添加/飽和センサ
20 GUIプロセッサ
21 リアルタイム・マイクロプロセッサ
22 TECコントローラ
23 ステップ・モータ・コントローラ
24 温度測定システム
25 グルコース・センサ
26 液体レベル・センサ
27 ペルチェ・モジュール
28 ファン
29 ステップ・モータ
30 臓器チャンバの温度センサ
31 潅流液容器の温度センサ
32 酸素供給器の温度センサ
33 例3の潅流液容器の水ジャケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】