(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】分析物を検出する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20231222BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
G01N33/543 501P
G01N33/542 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536540
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 GB2021053301
(87)【国際公開番号】W WO2022129899
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521562740
【氏名又は名称】サイロス、ディアグノスティクス、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PSYROS DIAGNOSTICS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン、アンドリュー、ロス
(72)【発明者】
【氏名】ポール、ブレンダン、モナハン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリー、リチャーズ
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン、ジェーン、マクゲットリック
(57)【要約】
本発明は、試料中の分析物を検出する方法および該方法を実行するための装置を提供する。本発明の方法は以下の工程を含む。
(i)試料、レポーター試薬および予備活性化試薬を含む混合物を装置に提供する工程であって、前記装置が、光学要素および結合要素を有する基材を含み、前記光学要素および結合要素が前記基材の表面に結合されており、前記レポーター試薬が、電磁放射線の吸収により前記予備活性化試薬から反応性酸素種を生成することができ、前記光学要素が、前記反応性酸素種との反応により第1の光学状態から第2の光学状態に変化することができる前記工程、
(ii)前記結合要素によって、前記レポーター試薬の一部が前記分析物の濃度に比例して前記基材の表面に結合できるようにする工程、
(iii)前記レポーター試薬による吸収のために電磁放射線を前記装置に照射し、それによって前記基材上に前記第2の光学状態を有する光学要素の局所領域のセットを形成する工程であって、照射前に前記基材を重水素濃縮液と接触させ、かつ/または前記基材がその表面に重水素濃縮層を有する工程、
(iv)前記基材上の前記第2の光学状態を有する局所領域のセットを検出する工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の分析物を検出する方法であって、下記の工程:
(i)試料、レポーター試薬および予備活性化試薬を含む混合物を装置に提供する工程であって、前記装置が、光学要素および結合要素を有する基材を含み、前記光学要素および結合要素が前記基材の表面に結合されており、前記レポーター試薬が、電磁放射線の吸収により前記予備活性化試薬から反応性酸素種を生成することができ、前記光学要素が、前記反応性酸素種との反応により第1の光学状態から第2の光学状態に変化することができる前記工程;
(ii)前記結合要素によって、前記レポーター試薬の一部が前記分析物の濃度に比例して前記基材の表面に結合できるようにする工程;
(iii)前記レポーター試薬による吸収のために電磁放射線を前記装置に照射し、それによって前記基材上に前記第2の光学状態を有する光学要素の局所領域のセットを形成する工程であって、照射前に前記基材を重水素濃縮液と接触させ、かつ/または前記基材の表面に重水素濃縮層を設ける前記工程;および
(iv)前記基材上の前記第2の光学状態を有する局所領域のセットを検出する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記基材を重水素濃縮液と接触させ、該接触が、前記レポーター試薬の一部を結合させる前に前記試料を希釈すること、または前記レポーター試薬の一部を結合させた後に前記基材を重水素濃縮液で洗浄することにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記重水素濃縮液が酸化重水素を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材がその表面に重水素濃縮層を有し、前記重水素濃縮層が重水素濃縮タンパク質層または重水素濃縮多糖層等の重水素濃縮ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応性酸素種が一重項酸素である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基材上の前記第2の光学状態を有する局所領域のセットが、光学顕微鏡法を用いて検出される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の光学状態の光学要素が1つ以上の第1の波長の光を吸収し、前記第2の光学状態の光学要素が1つ以上の第2の波長の光を吸収し、前記第1および第2の波長が異なる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の光学状態の光学要素が蛍光であり、かつ前記第2の光学状態の光学要素が非蛍光であるか、または前記第1の光学状態の光学要素が非蛍光であり、かつ前記第2の光学状態の光学要素が蛍光である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の光学状態から前記第2の光学状態への変化が不可逆的である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(i)および(ii)が洗浄工程の非存在下で行われる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料が、重水素濃縮を除いて未処理である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記装置に1秒を超えて電磁放射線が照射される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
試料中の分析物を検出するための装置であって、
光学要素および結合要素を有する基材を含み、前記光学要素および結合要素が前記基材の表面に結合されており、前記光増感剤が、電磁放射線の吸収により前記予備活性化試薬から反応性酸素種を生成することができ、前記光学要素が、前記反応性酸素種との反応により第1の光学状態から第2の光学状態に変化することができ、前記基材がその表面に重水素濃縮層を有する、前記装置。
【請求項14】
カートリッジを含み、前記基材が該カートリッジ内に存在し、前記基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットを検出するための検出器をさらに含む、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
試料中の分析物を検出するためのシステムであって、
請求項13または14に記載の装置、および
前記試料を含む混合物を形成するためのレポーター試薬および予備活性化試薬
を含み、前記レポーター試薬が、電磁放射線の吸収により前記予備活性化試薬から反応性酸素種を生成することができる光増感剤を含む、前記システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析物を検出する方法、特に試料中の分析物の存在に起因する個々の結合事象を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、血漿、血清、組織等のヒト試料における生物学的に関連するパラメータの測定には多くの技術が利用可能である。一般的な方法は、対象となる標的に結合する捕捉試薬、およびある種の標識を有するレポーター試薬を用いることである。捕捉試薬は、マイクロタイタープレート、ビーズまたは膜等の固相に結合させることができる。試料が捕捉試薬と共にインキュベートされる場合、分析物は捕捉試薬に結合する。レポーター試薬も分析物に結合する。次いで、過剰なレポーターを(洗浄により)除去し、レポーター試薬の量を測定することで、試料中に存在する分析物の量の測定値が得られる。これらのタイプの結合アッセイがどのように実行され得るかについては、様々なバリエーションが存在する。例えば、分析物を最初に捕捉試薬に結合させ、次いでレポーターを別の工程で添加してもよく、または分析物を最初にレポーターに結合させ、次いで捕捉試薬に結合させてもよい。
【0003】
このタイプの結合アッセイでは、捕捉およびレポーターとして用いることができる試薬は多岐にわたり、核酸、炭水化物、抗原、ペプチド、タンパク質および抗体等が挙げられる。また、標的分析物も多岐にわたり、ペプチド、タンパク質、抗体、核酸、細胞、炭水化物、小分子、治療薬、乱用薬物、ステロイド、ホルモン、脂質等が挙げられる。
【0004】
抗体を用いるアッセイは、一般にイムノアッセイと呼ばれる。イムノアッセイには様々な形式がある。例えば、捕捉抗体を用いて分析物を捕捉し、レポーター抗体を用いて測定可能なシグナルを生成する場合、これは一般にサンドイッチイムノアッセイと呼ばれる。結合試薬を固相に付着させ、溶液中で、標的分析物と、同じく結合試薬に結合する標識試薬とを競合させる代替的な形式が知られている。分析対象物が存在しない場合、高レベルの標識試薬が結合するため、高いシグナルが得られる。分析物が存在する場合、結合部位の一部がブロックされるため、結合する標識試薬が少なくなり、シグナルが低減する。これらのアッセイは、一般に阻害アッセイまたは競合アッセイとして知られている。いくつかのタイプの競合アッセイが知られている。例えば、抗体を固相に結合させることができ、標識された分析物(または分析物の類似体)を抗体上の結合部位をめぐって競合させることができる。あるいは、分析物の類似体を固定化し、標識抗体をこの表面に結合させることもできる。試料中に分析物が存在する場合、分析物が溶液中の抗体に結合し、表面への結合が妨げられ、シグナルが低減する。
【0005】
アッセイには多くの形式が存在し、用いることができる標識の種類も数多く存在する。例えば、洗浄工程を用いることによって測定が行われる前に過剰な標識が除去されるという点で、アッセイは不均一系(heterogeneous)になり得る。過剰な標識の除去は、試料およびレポーターを流して捕捉領域を通過させることによっても行うことができる。このアプローチは、例えば、感染症検査や妊娠検査等の迅速検査に用いられるイムノクロマトグラフィーまたはラテラルフローストリップにおいて用いられる。あるいは、過剰なレポーターが除去されない均一系(homogeneous)アッセイも知られている。均一系アッセイは、捕捉とレポーターとが近接して何らかのシグナルを生成することに依存する傾向がある。均一系アッセイの一例は、溶液中で粒子が結合する凝集アッセイである。凝集した粒子は光の散乱を引き起こし、これは比濁法(turbidimetry)またはネフェロメトリー(nephelometry)によって測定することができる。粒子を用いた均一系アッセイのさらなる例は、以下でさらに詳細に説明する発光酸素チャネリングイムノアッセイ(LOCI)である。
【0006】
均一系アッセイの別の例は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)であり、捕捉試薬およびレポーター試薬がそれぞれドナー蛍光団およびアクセプター蛍光団であり、ドナーの励起によりアクセプターへのエネルギー移動が起こり、続いて発光が起こる。
【0007】
細胞物質を除去することなく全血で機能する均一系アッセイ形式の1つは、パイロ光学イムノアッセイである。捕捉抗体が焦電性ポリビニリデンPVDFセンサーにコーティングされており、カーボン粒子がレポーターとして用いられる。試料に光を照射することによりシグナルが発生し、粒子が局所的に加熱される。センサーに結合した粒子は焦電センサーにエネルギーを伝達し、電気シグナルとして検出される熱応力を引き起こす。結合する炭素が多いほど、シグナルは大きくなる。
【0008】
レポーター結合試薬に結合する標識は、色素、金粒子または染色されたラテックスミクロスフェア等の光を吸収する物質であり得る。原理的には、粒子が大きいほど、より多くの光を吸収し、より多くのシグナルを発生させることができる。しかしながら、以下に詳述するように、粒子標識をアッセイで用いるにはサイズ制限があり、実用的ではない。蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識および電気化学発光標識等の発光標識も知られている。発光標識は、特定の種類のアッセイ用に粒子中にカプセル化されている。シグナルの増幅は、酵素反応または触媒反応を用いて実行することもできる。酵素を用いて、基質をロイコ色素から有色形態、または蛍光形態または発光形態に変換することができる。基質を添加する前に洗浄工程を用いて過剰な酵素を除去し、それによってシグナルを分析物に特異的に結合した酵素によってのみ発生させるのが一般的である。
【0009】
シグナル伝達法として表面プラズモン共鳴を用いるアッセイ等、標識を用いないイムノアッセイも知られている。しかしながら、標識を用いないアッセイは、シグナルを増強するために標識を用いるアッセイの感度に欠ける傾向がある。
【0010】
イムノアッセイの分野に関するさらなる情報は、「The Immunoassay Handbook: 4th Edition: Theory and Applications of Ligand Binding, ELISA and Related Techniques」、Ed. D. Wild, Elsevier Science, 2013において見出すことができる。
【0011】
イムノアッセイを含むすべての結合アッセイには、確実に測定できる分析対象物の最小濃度と最大濃度という点で制限がある。
【0012】
シグナルの最大値は一般に、分析物に結合するために利用することができる捕捉抗体の総量やシグナルを発生するレポーター抗体の総量等の要因によって制限される。捕捉抗体が固相に固定化されている場合、固相の表面積によって検出の上限が制限される可能性がある。さらに、比色法等のいくつかのシグナル変換技術は、光が試料を通過する必要がある経路長に応じて飽和しがちであり得る。発光法は、より高いレベルの発光に対処するために検出器のゲインを減衰できるため、飽和する傾向が低減される。不均一系アッセイにおけるすべての抗体結合部位が分析物で満たされると、最大シグナルに達し、システムは飽和する。過剰な分析物は通常、レポーターを添加する前の洗浄工程で除去される。均一系アッセイでは、分析物の濃度が捕捉抗体および/またはレポーター抗体の有効濃度よりも高い、高用量フックとして知られる影響を受ける可能性がある。この場合、非常に高濃度では、捕捉およびレポーター上のすべての結合部位がブロックされ、アッセイシグナルが低減して、誤った結果が得られる可能性がある。
【0013】
低いレベルの検出は、様々な要因によって影響を受ける。一般に、すべてのアッセイは、用いられる抗体の品質(親和性や特異性)および関連分析物と抗体との交差反応性等の特性の影響を受ける。検出の下限は、システム設計のシグナル対ノイズ比に影響を与えるアッセイの設定および要因にも依存する。例えば、標準的な酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)では、捕捉抗体が96ウェルマイクロタイタープレートの表面にコーティングされ、次いで試料がウェル内でインキュベートされて分析対象物が捕捉される。ウェルが洗浄され、次いでレポーターが過剰に添加され、捕捉された分析物に結合させる。次いで、過剰なレポーターが洗い流され、酵素と反応することができる基質が添加され、活性型に変換される。例えば、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)等の無色のロイコ色素は、過酸化水素の存在下で西洋わさびペルオキシダーゼによって緑色の酸化型に変換することができる。分析物の存在量が非常に少ない(例えば、1ピコモル未満)場合、ウェルの表面に結合する酵素は非常に少量しか存在しない。ABTSは酵素と反応して緑色形態を生成し、次いで液体の大部分に拡散して、バックグラウンドのシグナルと区別できないほど希薄な溶液が生成される。基質の自動変換により、測定を妨げる色が生成される場合もある。同様に、蛍光等の他の検出方法も、試料または反応ウェル内の要素の干渉因子や自己蛍光の影響を受ける可能性がある。
【0014】
イムノアッセイにおけるもう1つの交絡因子(confounding factor)は、捕捉表面へのレポーター試薬の非特異的結合であり得る。例えば、上述したELISAアッセイでは、マイクロタイターウェルはタンパク質の層でコーティングされ、その一部はコーティングプロセス中に変性する可能性がある。アッセイ中にレポーターが捕捉表面の領域に結合することは珍しいことではない。このレポーターが基質を変化させて(turn over)全体のシグナルに寄与する場合、特異的に結合したレポーターに起因するシグナルと非特異的に結合したレポーターに起因するシグナルとを区別することはできない。非特異的結合は、元の試料中に存在する多くの要素によっても促進され得、最初のインキュベーション中に捕捉表面に結合し、捕捉層の表面特性を改変して、レポーターと結合することができる表面を作り出すことができる。レポーターの非特異的結合を最小限に抑えるには、抗体、界面活性剤、温度およびイオン強度を含む、アッセイ中に用いられるすべての試薬および反応条件を注意深く最適化する必要がある。
【0015】
一般に、従来のイムノアッセイの検出限界は、アッセイ方法にもよるが、約0.1ピコモル~1ナノモルである。従来のアプローチを用いて検出限界が非常に低いアッセイを開発するには、多くの場合、非特異的結合を低減し、シグナル対ノイズ比を最大化するための厳格な洗浄工程を伴う多大な最適化が必要である。さらに、シグナルがバックグラウンドに対して十分に高いことを保証するために、捕捉表面は、多くの場合、試料量に比べて小さい。
【0016】
シグナル対ノイズ比に関係する問題を回避し、検出限界を向上させるために用いられているアプローチの1つは、個々の結合事象を測定し、測定値が局所的な閾値を超えている場合、これらの結合事象を「オン」または「オフ」事象としてカウントすることである。このようにして、バックグラウンドのノイズの多くを除去することができる。オーディオシグナルや通信シグナルのデジタル化と類似することができる。これらのデジタルアッセイは、従来のアナログ法を用いては以前は達成できなかった検出限界に達することが示されている。例えば、低フェムトモル(10-15mol/L)、さらにはアトモル(10-18mol/L)の範囲の検出限界が報告されている。例えば、「Evaluation of highly sensitive immunoassay technologies for quantitative measurements of sub-pg/mL levels of cytokines in human serum」、Yeung et al., Journal of Immunological Methods, 2016, 437, 53および「Digital Detection of Biomarkers Assisted by Nanoparticles: Application to Diagnostics」、Trends in Biotechnology, 2015, 33, 343を参照されたい。
【0017】
アッセイで用いられる標識/レポーター(蛍光色素、色素等)の大部分は、そのサイズが可視光の回折限界を下回っているため、高倍率であっても広視野顕微鏡を用いて個々に見ることはできない。したがって、これらの標識の存在は、各標識を数えることによってではなく、バルク現象としてのみ測定することができる。対照的に、ラテックス粒子等の粒子標識は、特定のサイズを超える場合、理論的には、広視野光学顕微鏡で視覚化することができる。光学設定に応じて、粒子の直径が数百ナノメートル以上である場合、開口数および顕微鏡の種類に依存して粒子の視覚化を開始することができる。
【0018】
しかしながら、このサイズの粒子を標識として用いて、捕捉表面上の個々の結合事象(抗体-抗原相互作用等)をモニターすることは、様々な理由から非現実的である。例えば、このサイズの粒子は他のタイプの標識と比較して拡散が非常に遅く、平面での反応速度が損なわれる。また、このサイズの粒子は巨視的な浮力効果を示し始め、粒子の密度が粒子が含まれる媒体と大きく異なる場合には沈降または浮遊し、これにより、アッセイ形式に問題が生じる可能性もある。このサイズの粒子は特に表面に非特異的に結合する傾向があり、除去が困難な高いバックグラウンドを引き起こす。最後に、過剰な粒子を除去する必要があり、洗浄工程が必要になる。しかしながら、大きな粒子は液体の流れが存在するとせん断効果を受け始め、粒子にかかるせん断力が抗体-抗原相互作用の破断強度(約60~250pN)よりも大きくなり、粒子が洗い流されてしまう(「Rapid Femtomolar Bioassays in Complex Matrices Combining Microfluidics and Magnetoelectronics」、Mulvaney et al., Biosensors and Bioelectronics, 2007, 23, 191を参照されたい)。
【0019】
デジタルアッセイの例としては、Quanterix Single Molecule Array(SIMOA)システムおよびMerck Millipore Single Molecule Counting(SMC)システムが挙げられる。
【0020】
Quanterix SIMOAシステムは、抗体でコーティングされた常磁性ビーズを用いて、溶液から分析物を捕捉する。次いで、磁気ビーズを洗浄し、酵素で標識したレポーター抗体を添加する。ビーズの量は、ビーズごとに複数の分析物およびレポーターを有する可能性が最小限に抑えられるのに十分な量である。ビーズは再度洗浄され、次いで、ウェル当たり1つのビーズのみを保持できるマイクロウェルのアレイに充填される。マイクロウェルの容積はフェムトリットルスケールである。ビーズに酵素が結合している場合、ウェル内の蛍光基質が変化する。ウェルの寸法が小さいため、蛍光生成物が過度に拡散することが防止される。蛍光が閾値を超える場合、各ウェルは「オン」または「オフ」事象としてカウントされる。
【0021】
SMCシステムは、Merck Millipore社のErennaシステムおよびSMCxPROシステムにおいて用いられている。どちらのシステムでも基本的な測定手法は同じである。捕捉抗体でコーティングされた磁気ビーズは、サンドイッチアッセイにおいて標的分析物を捕捉するために用いられる。蛍光標識されたレポーター抗体も、分析物の存在下でビーズに結合する。ビーズは磁石で引き下げられ、過剰な蛍光タグ付きレポーターが洗い流される。次いで、溶出バッファーを添加してサンドイッチ複合体の解離を引き起こし、次いで測定容器に移す。次いで、共焦点蛍光顕微鏡を用いて蛍光タグの存在を測定し、少量の試料を順次調べて、蛍光タグが存在するかどうかを決定する。個々の測定のシグナルが閾値を超える場合、その測定の「オン」事象としてカウントされる。
【0022】
高感度イムノアッセイに関するいくつかの独立した学術レビューでは、イムノアッセイへのデジタルアプローチにより検出限界の前例のない改善が可能になることが強調されている(上述した参考文献Yeung and Cretichを参照されたい)。
【0023】
QuanterixおよびMerck Milliporeのシステムの検出限界は、アッセイで用いられる試料の量によって異なる。10マイクロリットルの血清または血漿試料の場合、理論上の限界は、1分子に相当する単一の結合事象の検出となる。しかしながら、モル濃度で言えば、これは試料1リットルあたり100,000分子、または1リットルあたり0.16×10-18モル(0.16アトモル)に相当する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、上述したQuanterixおよびMerck Milliporeのシステムは複雑で扱いにくく、それぞれ多くの洗浄工程および移送工程を必要とする。さらに、アッセイは細胞物質を含まない試料に対してのみ実行することができ、システムが提供する性能を達成するには高価な機器が必要である。したがって、よりシンプルでコスト効率の高い高感度システムが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
したがって、本発明は、試料中の分析物を検出する方法を提供し、この方法は下記の工程を含む:
(i)試料、レポーター試薬および予備活性化試薬を含む混合物を装置に提供する工程であって、前記装置が、光学要素および結合要素を有する基材を含み、前記光学要素および結合要素が前記基材の表面に結合されており、前記レポーター試薬が、電磁放射線の吸収により前記予備活性化試薬から反応性酸素種を生成することができ、前記光学要素が、前記反応性酸素種との反応により第1の光学状態から第2の光学状態に変化することができる前記工程;
(ii)前記結合要素によって、前記レポーター試薬の一部が前記分析物の濃度に比例して前記基材の表面に結合できるようにする工程;
(iii)前記レポーター試薬による吸収のために電磁放射線を前記装置に照射し、それによって前記基材上に前記第2の光学状態を有する光学要素の局所領域のセットを形成する工程であって、照射前に前記基材を重水素濃縮液と接触させ、かつ/または前記基材がその表面に重水素濃縮層を有する工程;および
(iv)前記基材上の前記第2の光学状態を有する局所領域のセットを検出する工程。
【0026】
したがって、本発明は、基材の表面近傍のレポーター試薬のみがシグナルを生じ、そのシグナルが第2の光学状態にある光学要素の局所領域である、試料中の分析物を検出する方法を提供する。検出されるのは、第2の光学状態にある光学要素の局所領域のセットである。シグナルは反応性酸素種と光学要素との反応によって生成され、重水素が豊富な環境により、画像化がより容易なより大きなシグナルが得られる。したがって、本発明は、分析物のデジタル検出を簡素化し、細胞物質を含む試料を含む様々な試料に対する均一系アッセイを容易にする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、試料中の分析物を検出するために用いられる(分析物の複合体または誘導体の検出を介してもよい)。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【
図1】
図1は、本発明で用いることができる様々な要素を示す。
【
図2】
図2は、分析物とのサンドイッチの形成を通じてレポーター試薬が基材の表面に結合する装置を示す。
【
図4】
図4は、重水素が豊富でない環境で照射が行われた後の装置を示す。
【
図5】
図5は、重水素が豊富な環境で照射が行われた後の装置を示す。
【
図6】
図6は、過剰な標識レポーターおよび細胞要素がアッセイ期間中に溶液中に存在する均一系アッセイフォーマットを示す。
【
図8】
図8は、本発明のために作製された基材およびウェルを示す。
【
図9】
図9は、
図8の基材およびウェルを用いて作製された試料チャンバを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1の構成要素は:分析物1;光増感剤2;捕捉抗体3;光増感剤を注入したラテックス粒子のレポーター抗体複合体4;蛍光色素5;漂白後の蛍光色素6;蛍光色素で標識されたストレプトアビジン7;蛍光色素で標識されたストレプトアビジン(漂白後)8;ビオチンで標識されたBSA9および赤血球10。
【0030】
本発明の方法の工程(i)は、試料、レポーター試薬および予備活性化試薬を含む混合物を装置に提供することを含み、装置は、光学要素および結合要素を有する基材12を含み、光学要素および結合要素は基材12の表面に結合されている。試料、レポーターおよび予備活性化試薬は、混合物を装置に添加する前に予め混合されてもよく;または、試料、レポーター試薬および予備活性化試薬を装置に連続的に添加して混合物を形成してもよい。混合物は追加の試薬を含んでもよいが、好ましくは、混合物は試料、レポーター試薬および予備活性化試薬からなる。
【0031】
本発明の基礎となる原理の説明の目的で、
図2は、照射前にレポーター試薬が分析物1を介して基材の表面に結合している装置を示す。この装置は、基材12、および溶解または懸濁した分析物を含む試料を保持するための試料チャンバ24とを有する。基材は、基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットの検出を可能にする任意の基材であってよい。好ましくは、基材は透明基材であり、より好ましくは基材はガラスである。基材12は通常、平面である。
【0032】
基材12は、蛍光色素で標識されたストレプトアビジン7およびビオチンで標識されたBSA9を介して基材12の表面に結合した捕捉抗体3を有する。蛍光色素は光学要素として機能し、捕捉抗体3は結合要素として機能する。ビオチンで標識されたBSAおよびストレプトアビジンは、光学要素および結合要素の基材12の表面への結合を促進する不活性高分子である。基材12を固定するために光学要素を基材12の表面に固定する必要があるため、このアプローチは光学要素が水溶性の場合に用いられる。
【0033】
光学要素および結合要素はこのように示されているが、光学要素および結合要素を基材12の表面近傍に保持する任意の技術が適用可能である。例えば、光学要素および結合要素は別個の試薬であってもよく、結合要素と光学要素とは結合していてもよい。
【0034】
光学要素はまた、基材12の表面にコーティングされたポリマー層内に封入されていてもよく、結合要素はポリマー層に結合していてもよい。ポリマーは、シリコーン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、または光学要素を封入するために用いることができる他の適切なポリマープラスチックであってもよい。このアプローチは、光学要素が水不溶性の場合に用いることができる。
【0035】
あるいは、ゲル、例えばヒドロゲルの層に光学要素を含浸させ、ゲル/ヒドロゲル層を基材12の表面にコーティングし、結合要素をゲル/ヒドロゲル層に結合させてもよい。
【0036】
本発明の方法の工程(ii)は、結合要素によって、分析物の濃度に比例してレポーター試薬の一部を基材の表面に結合させることを含む。この工程は、装置を一定時間、例えば10分間放置することによって達成することができる。
【0037】
図2において、捕捉抗体3は、蛍光色素7で標識されたストレプトアビジンおよびビオチンで標識されたBSA9を介して基材12の表面に結合している。光増感剤が注入されたラテックス粒子の抗体複合体4は、レポーター試薬として機能する。
【0038】
レポーター試薬は、分析物1を介して基材12の表面に結合していることが示されている。このように、分析物が存在する場合、レポーター試薬は、分析物の濃度に比例して、
図6を参照して以下で説明するように「サンドイッチ」複合体と呼ばれる形態で基材の表面に結合する。
【0039】
ここまでのすべての工程は光のない場所で行われる。本発明の方法の工程(iii)は、レポーター試薬による吸収のために電磁放射線を装置を照射し、それによって基材12上に第2の光学状態を有する光学要素の局所領域のセットを形成することを含む。本発明の方法の工程(iii)は、重水素が豊富な環境を提供することをさらに含み、照射前に基材を重水素濃縮液と接触させ、かつ/または基材がその表面に重水素濃縮層を有する。
【0040】
したがって、本発明は、装置が電磁放射線で照射され、この放射線がレポーター試薬の光増感剤によって吸収される方法を提供する。次いで、レポーター試薬は、予備活性化試薬から反応性酸素種を生成し、これが光学要素と反応し、第1の光学状態から第2の光学状態に変化し、それによって、基材12上の第2の光学状態を有する光学要素の局所領域のセットを形成する。
【0041】
図3は、
図2の装置が、光源13によって電磁放射線(一般に「光」と呼ばれる)、好ましくは可視光で照射される様子を示す。光源は、ラテックス粒子4に注入された光増感剤を励起するために適切な波長の光で試料チャンバ24に光を照射する。波長は光増感剤に依存するが、好ましい波長は680nmである。通常、装置は少なくとも30秒間照射される。好ましくは、装置は、1秒を超えて、より好ましくは少なくとも2秒間、より好ましくは少なくとも5秒間、より好ましくは少なくとも10秒間、より好ましくは少なくとも15秒間、より好ましくは少なくとも20秒間、より好ましくは少なくとも25秒間、最も好ましくは少なくとも30秒間電磁放射線で照射される。これにより、基材の表面に不可逆的な光学的変化が確実に存在することになり、長寿命の結合事象と一時的な結合事象とを区別できるようになる。
【0042】
図4は、照射後の
図3の装置を示し、基材は照射前に重水素濃縮液と接触していない。光増感剤が注入されたラテックス粒子4の光増感剤によって生成された反応性酸素種は、蛍光色素で標識されたストレプトアビジン7の色素光学要素と反応して、色素を蛍光状態から非蛍光状態に変化させる。蛍光状態で蛍光色素で標識されたストレプトアビジン7は、非蛍光状態で蛍光色素で標識されたストレプトアビジン8になる。レポーター試薬に近接する色素のみが、第1の光学状態から第2の光学状態に変化する。
【0043】
図5は、照射後の
図3の装置を示し、基材は照射前に重水素濃縮液と接触している。光増感剤が注入されたラテックス粒子3の光増感剤によって生成された反応性酸素種は、蛍光色素で標識されたストレプトアビジン7の色素光学要素と反応して、色素を蛍光状態から非蛍光状態に変化させる。蛍光状態で蛍光色素で標識されたストレプトアビジン7は、非蛍光状態で蛍光色素で標識されたストレプトアビジン8になる。
図4と比較すると、レポーター試薬からはるかに離れたところにある色素は、第1の光学状態から第2の光学状態に変化する。
【0044】
色素については蛍光状態から非蛍光状態に変化することが示されているが、他の光学要素は別の変化を起こす。一つの実施形態において、色素は非蛍光状態から蛍光状態に変化する。別の実施形態において、第1の光学状態の光学要素は1つ以上の第1の波長の光を吸収し、第2の光学状態の光学要素は1つ以上の第2の波長の光を吸収し、第1の波長および第2の波長は異なる。光は可視光であることが好ましい。第1の波長および第2の波長は異なる。この実施形態において、光学要素は色の変化を受ける。
【0045】
代替の第1および第2の光学状態としては、光偏光、蛍光寿命、屈折率、光散乱(ラマン散乱を含む)および他の光学的効果の変化が挙げられる。
【0046】
図6は、照射後に全血試料および過剰なレポーター試薬が存在する装置を示している。全血試料は、赤血球10等の追加の成分も含む。好ましくは、基材12は試料チャンバー24の上部を形成し、赤血球10が基材12から沈降できるようにする。
【0047】
レポーター試薬の一部は、分析物1と捕捉抗体3とのサンドイッチ複合体によって基材12の表面に結合する。したがって、試料は、溶液中で結合したレポーター試薬および未結合のレポーター試薬を含む。試料チャンバ24の深さは、レポーター試薬の拡散経路長を最小限に抑え、平衡が迅速に達成されるように設計される。通常、試料チャンバーの深さは50~200μmである。
【0048】
本発明を用いる典型的なサンドイッチイムノアッセイにおいて、基材12は、蛍光色素で標識されたストレプトアビジン7およびビオチンで標識されたBSA9を介して基材12の表面に結合した捕捉抗体3を有する。色素は光学要素として機能し、抗体は結合要素として機能する。光学要素および結合要素はこのように示されているが、上述したように光学要素および結合要素を基材12の表面に近接して保持するための任意の技術が適用可能である。
【0049】
本発明において、試料チャンバー24は、分析物1を含む試料で満たされる。光増感剤が注入されたラテックス粒子の抗体複合体4等のレポーター試薬も試料チャンバー24に添加される。全血試料が用いられる場合、試料には、赤血球10等の追加の成分が含まれていてもよい。全血および血漿試料には当然、予備活性化試薬として機能する溶存酸素が含まれている。
【0050】
次いで、平衡が達成される。光増感剤が注入されたラテックス粒子の抗体複合体4は、捕捉抗体3によって分析物1の濃度に比例して基材12の表面に結合する。光増感剤が注入されたラテックス粒子の抗体複合体4は、レポーター試薬として機能する。光増感剤が注入されたラテックス粒子の抗体複合体4が過剰に含まれているため、すべての分析物1がサンドイッチ複合体を形成する。したがって、レポーター試薬の一部は、結合要素によって分析物1の濃度に比例して基材12の表面に結合する。したがって、試料には、結合したレポーター試薬および溶液中に遊離した未結合のレポーター試薬が含まれる。
【0051】
レポーター試薬は、第1の光学状態から第2の光学状態への完全な変換を達成するために、照射期間全体にわたって基材12の表面に永久的に結合しなければならない。照射期間全体を通じて基材12の表面に永久的に結合しないレポーター試薬は、第1の光学状態から第2の光学状態への光学要素の変化の低減を引き起こし、結果としてシグナルが小さくなる。溶液中の非結合レポーター試薬は、光学要素を第1の光学状態から第2の光学状態に変化させることはない。
【0052】
これは、洗浄工程の必要性を排除するという点で、他のデジタルアッセイ法と比較して大きな利点をもたらす。このようにして、本発明は均一系アッセイとして実行することができる。従来のアッセイでは、非結合レポーター試薬が結合レポーター試薬によって生成されるシグナルを妨害するため、測定を行う前に未結合レポーター試薬を結合レポーター試薬から分離する必要がある。しかしながら、本発明により提供される局所的な表面変化により、結合レポーター試薬と非結合レポーター試薬とを区別することができる。実際、基材12の表面に近接するレポーター試薬(すなわち、結合)とバルク溶液中のレポーター試薬(すなわち、非結合)とを区別できる能力は、本発明の特別な利点である。好ましくは、工程(i)および(ii)は洗浄工程を行わずに行われ、すなわち、工程(i)および(ii)において基材から試料を除去することなく本発明の方法が実行される。
【0053】
結合レポーター試薬部分の光増感剤は光学要素と間接的に相互作用して、追加の試薬を介して変化を引き起こし、すなわち、光増感剤が励起されてこのエネルギーを追加の要素に伝達し、次いで追加の要素がこのエネルギーを光学要素に伝達する。
【0054】
好ましい実施形態において、光増感剤による吸収は、混合物中に存在する予備活性化試薬と相互作用して反応性酸素種を生成するためのものであり、活性化試薬は光学要素と反応して光学要素を第1の光学状態から第2の光学状態に変化させるためのものである。
【0055】
予備活性化試薬は試料中に存在してもよいし、予備活性化試薬を追加の試薬として試料とレポーター試薬との混合物に添加してもよい。予備活性化試薬は、三重項酸素としても知られる基底状態酸素であってもよい。予備活性化試薬は、電磁放射線の照射後に光増感剤と相互作用して反応性酸素種を生成することができる任意の試薬であり得る。好ましい実施形態において、予備活性化試薬は三重項酸素である。別の好ましい実施形態において、活性化剤試薬は反応性酸素種である。好ましくは、反応性酸素種は、ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシド、過酸化物、有機過酸化物、ペルオキシ亜硝酸塩、一重項酸素およびそれらの混合物から選択される。より好ましくは、反応性酸素種は一重項酸素である。
【0056】
光増感剤は光を吸収して励起状態を生成し、試料中およびレポーター試薬の近傍に存在する酸素と項間交差(ISC)を受けて一重項酸素を生成すると考えられている。次いで、以下で説明するように、一重項酸素は光学要素と反応し続ける。特に好ましい実施形態において、予備活性化試薬は三重項酸素であり、活性化試薬は一重項酸素である。
【0057】
従来、一重項酸素は、発光酸素チャネリングイムノアッセイ(LOCI)のイムノアッセイにおいて用いられてきた。LOCIイムノアッセイは、ドナービーズおよびアクセプタービーズを用いる均一系の非デジタルアッセイである。ドナービーズは680nmでの照射により一重項酸素を生成し、アクセプタービーズは一重項酸素によって活性化されると化学発光シグナルを生成する。ドナービーズとアクセプタービーズとの結合は、抗体-抗原結合によって促進される。反応混合物は通常、0.5~1.0秒間照射され、次いで、発光シグナルが0.5~1.0秒間測定される。重要なのは、測定はすべての未結合のドナービーズおよびアクセプタービーズの存在下で行われることである。ビーズが空間的に分離されているため、バックグラウンドシグナルが最小限に抑えられ;しかしながら、LOCIアッセイでは測定時間が短いため、長時間の結合事象と一時的な結合事象とを区別することができない。互いに近接した非結合ビーズも、不要なバックグラウンドシグナルを生成する可能性がある。LOCIアッセイは、例えばインターロイキン-6(IL-6)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)について、最も感度が高いアッセイで約1~5pg/mLの検出限界を達成することができる。本発明は、シグナルを検出するために、「ドナー」粒子、レポーター試薬が溶液中の粒子にではなく、基材12の表面に近接している必要があり、また、照射期間中もそこに残存する必要がある。したがって、本発明は、LOCIアッセイよりも感度が高く、低濃度の分析物を検出することができる。
【0058】
一つの実施形態において、基材は、照射前に重水素濃縮液と接触される。重水素濃縮液を提供する任意の方法が本発明での使用に適切であり得る。重水素濃縮液は、分析前に試料と重水素濃縮液とを接触させることによって提供され得る。例えば、試料は、照射前に重水素が豊富な液体で希釈または洗浄されてもよい。重水素濃縮液は、好ましくは酸化重水素を含み、重水素濃縮緩衝液であってもよい。酸化重水素を用いることは法外なコストではない。
【0059】
別の実施形態において、基材はその表面に重水素濃縮層を有する。基材の表面に重水素濃縮層を設ける任意の方法が、本発明での使用に適切であり得る。この層は、重水素化液、例えば酸化重水素とのプロトン交換によって重水素濃縮されてもよく、重水素が豊富な出発材料を用いて層が合成されてもよい。
【0060】
重水素濃縮層は、重水素濃縮タンパク質または重水素濃縮多糖類等の重水素濃縮ポリマーを含んでもよい。重水素濃縮ポリマーは、重水素濃縮ゲル、特にヒドロゲルの形態であり得る。好ましくは、重水素濃縮層は、重水素濃縮タンパク質層、または重水素濃縮多糖層を含む。
【0061】
この層は、重水素が豊富でない出発物質の水素-重水素交換によって調製することができる。あるいは、重水素濃縮多糖類または重水素濃縮タンパク質は、生合成によって調製することもできる。別の実施形態において、重水素濃縮層は重水素濃縮ゲルを含んでもよく、ゲルは重水素が豊富な出発材料を用いて合成される。別の実施形態において、重水素濃縮層はヒドロゲルを含んでもよく、固相および/または液相は重水素濃縮されてもよい。重水素濃縮固相は、重水素が豊富な出発物質から調製されてもよく、または液相は重水素濃縮液を含んでもよい。好ましくは、重水素濃縮液も酸化重水素である。
【0062】
さらなる実施形態において、基材は、照射前に重水素濃縮液と接触され、基材はその表面に重水素濃縮層を有する。
【0063】
重水素交換は、共有結合した水素原子が重水素原子に置換されるよく知られた化学反応である。これは交換可能な陽子に最も簡単に適用することができる。交換可能な水素原子は通常、ヒドロキシル基またはアミノ基に結合したものであるが、チオールも重水素交換の標的になり得る。これらは通常、D2Oを用いて導入される。分子内の交換不可能な水素原子も重水素で置換することができるが、これには重水素化された出発物質が必要である。
【0064】
基材の表面は通常、重水素化ポリマーを用いることによって重水素濃縮される。重水素交換は、特にアミノ基やヒドロキシル基を含むタンパク質や多糖類にも用いることができる。しかしながら、これらの交換可能な重水素原子は、基材と試料とが接触するとバルク溶液に失われる可能性があるため、基材の要素には予め重水素化された出発物質を用いることが好ましい。
【0065】
重水素濃縮が試料の処理または洗浄工程を用いて実行される場合、重水素交換が好ましいアプローチである。
【0066】
反応性酸素種は、生成されると、その生成源から到達できる最大距離がある。したがって、反応性酸素種と基材の表面に取り付けられた光学要素との反応により、レポーター試薬を中心とする局所領域が形成されることになる。
【0067】
レポーター分子からの距離の関数としての反応性酸素種の濃度は、放射状拡散、反応性酸素種の寿命、および反応性酸素種の二分子反応速度の3つの要因によって支配されると考えられている。
【0068】
反応性酸素種の二分子反応は、反応性酸素種が光学要素の分子と反応し、光学要素を第1の光学状態から第2の光学状態に変化させるという点で生産的であり得る。
【0069】
反応性酸素種の二分子反応は、反応性酸素種が光学要素ではない分子と反応し、その結果として反応性酸素種の消光をもたらすという点で非生産的な場合もある。非生産的な反応の例は、反応性酸素種と反応性水素原子、例えばNHまたはOH官能基の水素原子との反応である。一重項酸素等の反応性酸素種は、タンパク質のヒスチジン残基等の芳香族基との付加物を形成することも知られている。
【0070】
レポーター試薬の周囲の活性水素原子の有効濃度を低減させると、反応性酸素種の生産的反応に対する非生産的反応の比率が低減することが判明した。このようにして、結合レポーター試薬の領域内のより多くの光学要素分子が第1の光学状態から第2の光学状態に変化し、その結果、より大きなシグナルコントラストがもたらされる。さらに、光学要素を第1の光学状態から第2の光学状態に変換するのにかかる時間が短縮される。
【0071】
レポーター試薬の周囲の活性水素原子の有効濃度を低減させると、反応性酸素種がレポーター試薬からさらに遠くに移動し、その結果、第2の光学状態にある光学要素の局所領域が大きくなる。より大きな局所領域は、単純な光学的方法を用いて簡単に視覚化することができる。
【0072】
本発明は、混合物の重水素濃縮類似体、または装置の構成要素の重水素濃縮類似体を用いることによって、レポーター試薬の周囲の反応性水素原子の有効濃度を低減する方法を提供する。水素を重水素に置換する際の動的同位体効果により、反応性酸素種との反応速度が低下すると考えられている。
【0073】
レポーター試薬の周囲の反応性水素原子の有効濃度を低減するための追加のアプローチは本発明を実施するのに適しており、反応性水素の低い材料を用いて、例えば多糖類またはタンパク質で形成された層の代わりに不活性ポリマーを用いて装置の構成要素を調製する等である。
【0074】
反応性酸素種の非生産反応を減少させるための他のアプローチも、本発明の方法および装置に含まれ得る。
【0075】
したがって、本発明は、反応性酸素種が生成される重水素が豊富な環境を提供する。このようにして、反応性酸素種は重水素が豊富でない環境よりもレポーター試薬からさらに拡散するため、より大きなシグナルが生成される。一つの実施形態において、より大きなシグナルがレポーター試薬によって生成される。別の実施形態において、より小さいレポーター試薬粒子を用いて同じサイズのシグナルが生成される。さらに、特定のサイズのシグナルをより迅速に生成したり、より低い強度の電磁放射を用いて光増感剤を刺激したりすることもできる。
【0076】
大きなシグナルを生成する利点は、小さなシグナルよりも検出しやすいことにある。標準的な光学顕微鏡の場合、レンズの選択(レンズの開口数および倍率を含む)および測定波長がシステムの分解能および被写界深度を規定する。暗いスポットを測定するには、可能な限り最低倍率のレンズを用いることが好ましい。倍率が低いレンズは、深い被写界深度、および広い視野を有する。これにより、表面上でレンズの焦点を合わせることが容易になり、また、レンズまたは基材を相互に移動させることなく、より多くの表面積を視覚化することも可能になる。これにより、機器の複雑さおよびコストが軽減される。
【0077】
試料とレポーターとは装置に提供される前に混合されてもよいが、インキュベーションおよび結合は通常、混合せずに少量で実行される。したがって、より小さい粒子はより迅速に基材表面に拡散するので、レポーター試薬がより小さい粒子を含むことは有利である。さらに、粒子が小さいほど立体的な拘束が少なく、回転エネルギーが大きいため、基材表面に拡散する際の結合速度が高くなる。結合速度が大きいほど、より短い時間枠でアッセイを実行することができるため、診療現場での(point-of-care)用途に特に有益である。さらに、結合速度がより大きいと、より高感度なアッセイが可能になる。
【0078】
したがって、本発明の方法は、本発明の工程(iii)で形成されるシグナルの検出を容易にする。
【0079】
好ましい実施形態において、光学要素は色素である。好ましくは、光学要素は、以下の色素の一つおよびその混合物から選択される:
【化1】
【0080】
色素(1)~(5)は既知であり、酸化ストレス下での細胞内の反応性酸素種の形成をモニターするための細胞プローブとして用いられる。しかしながら、これらの色素が標準的なイムノアッセイまたはデジタルイムノアッセイで用いられることは知られていない。色素(6)は一般的な蛍光色素である。色素(7)および(8)は、一重項酸素と特異的に反応することが知られているが、イムノアッセイでの使用については知られていない。Alexafluor色素、BODIPY色素、ローダミン色素、テキサスレッド、オレゴングリーン、カスケードイエロー、パシフィックブルー等を含む、本発明における使用に適した市販の他の蛍光色素が広範囲に存在する。さらなる例については、Thermo Fisher Scientific社のThe Molecular Probes Handbookを参照されたい。
【0081】
色素一重項酸素センサーグリーン(SOSG)(1)は一重項酸素と反応して、弱い蛍光形態から強い蛍光形態に変換される。一重項酸素はアントラセニル基と反応してエンドペルオキシドを形成する。好ましい実施形態において、光学要素はSOSGである。
【0082】
色素ホウ素ジピロメテン581/591(BODIPY581/591)(2)は、一重項酸素やヒドロキシルラジカル等の反応性酸素種と反応し、蛍光励起/発光最大値の浅色シフトを引き起こす。
【0083】
色素(3)~(5)は同じコア構造を共有しており、一重項酸素を含む一般的な酸化剤と反応して蛍光形態に変換される。したがって、これらの色素はロイコ状態から蛍光状態に変換され得る。
【0084】
色素(6)は一重項酸素と反応して、蛍光形態から非蛍光形態に変換されることがわかっている。驚くべきことに、フルオレセインを用いると、光増感剤の近傍の蛍光を完全に除去して、蛍光基材に暗い非蛍光領域を創出できることが見出された。色素(7)および(8)はUVで蛍光を発し、一重項酸素と反応してエンドペルオキシドを生成し、非蛍光生成物を生成する。
【0085】
好ましくは、第1および第2の光学状態の一方にある場合の光学要素は蛍光であり、第1および第2の光学状態の他方にある場合の光学要素は非蛍光である。一つの実施形態において、第1の光学状態にある場合の光学要素は非蛍光であり、第2の光学状態にある場合の光学要素は蛍光である。しかしながら、より好ましくは、第1の光学状態にある場合の光学要素は蛍光であり、第2の光学状態にある場合の光学要素は非蛍光である。
【0086】
別の好ましい実施形態において、第1の光学状態にある場合、光学要素は1つ以上の波長で蛍光を発し、第2の光学状態にある場合、光学要素は1つ以上の他の波長で蛍光を発する。この実施形態において、光学要素は、その蛍光励起/発光最大値をシフトする。
【0087】
好ましくは、第1の光学状態から第2の光学状態への変化は不可逆的である。これにより、後続の基材の走査が可能になり、光学状態の変化が生じた領域を特定することができる。
【0088】
本発明の方法の工程(iv)は、基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットを検出することを含む。
【0089】
第2の光学状態を有する光学要素は、基材上に局所領域のセットを形成する。有利なことに、第2の光学状態を有する局所領域は、個々の結合事象として数えることができる。したがって、本発明はデジタルアッセイを実施するのに適している。しかしながら、多数の結合事象が存在し、光学要素の大部分が第2の光学状態にある場合は、バルク変化を検出することができる。
【0090】
好ましい実施形態において、基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットは、基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセット内の局所領域をカウントすることによって、または第2の光学状態を有する局所領域のセットを測定することによって検出される。基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットをバルク特性として測定することによって検出される。より好ましくは、基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットは、基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセット内の局所領域をカウントすることによって検出される。
【0091】
第2の光学状態を有する局所領域は、第1および第2の光学状態に応じて、バックグラウンドシグナルに対応するか、または一時的な結合事象に対応する閾値を超える必要がある場合がある。例えば、試料にはバックグラウンドの自家蛍光が含まれている可能性があるが、これが閾値を超えていない場合、アッセイのデジタル的な性質に起因してシグナルが影響を受けることはない。コンピュータソフトウェアを用いて、局所領域の存在を検出し、閾値を超える局所領域と閾値を下回る局所領域とを区別することができる。
【0092】
さらに、光増感剤の照射前に基材の表面をスキャンして表面の2D画像を取得し、照射後にスキャンして、照射前の画像は、照射後の画像からバックグラウンドを差し引いて、アーチファクト、汚染物質および表面または試料自体の自家蛍光が低減される。したがって、好ましい実施形態において、本発明の方法は、装置に電磁放射線を照射する前に検出される基材上の第2の光学状態を有する任意の要素を、工程(iv)において検出される基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットから差し引く工程をさらに含む。このようにして、バックグラウンドを差し引いた画像には、基材の光学特性の変化(蛍光強度の変化等)のみが表示される。
【0093】
基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットは、通常、基材上の離散領域である。しかしながら、一部の局所領域はその形態により検出から除外される場合がある。個々の結合事象に対応する局所領域は均一な円形である傾向があるが、一部の局所領域はアーチファクトに対応して形状が不均一になる場合がある。さらに、一部の局所領域は、粒子が凝集した他の局所領域よりも大きくなる場合がある。したがって、好ましい実施形態において、基材上の第2の光学状態を有する均一な円形の局所領域のみが検出される。
【0094】
基材上の局所領域のセットは、単純な光学手段を用いて検出することができる。検出に適した光学配置を
図7に示す。
図7の構成要素は:対物レンズ14;ダイクロイックミラー15;放射フィルター16;光検出器/カメラ17;マイクロプロセッサー18;データ出力19;励起フィルター20;光源(LED/レーザー)21である。好ましい実施形態において、基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットは、光学顕微鏡を用いて検出される。より好ましくは、基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットは、広視野顕微鏡を用いて検出される。広視野顕微鏡は、一度に1つの焦点のみを照明して記録する共焦点顕微鏡等のより複雑な技術と比較して、試料全体を同時に照明して画像化する最も単純な形式の顕微鏡である。共焦点顕微鏡の利点は、焦点外のヘイズの除去によりコントラストが向上すること、および試料の深さ全体にわたる画像のスタックを取得できることにある。光活性化局所化顕微鏡法(PALMまたはFPALM)や確率的光学再構成顕微鏡法(STORM)等の超解像度顕微鏡法も知られている。これらの方法は、単純な広視野法に比べて複雑さおよびコストが増大する。
【0095】
色素(1)および(3)~(5)を用いる場合、光学要素が第2の光学状態に変換される基材の表面に蛍光局所領域(または結合事象が多数ある場合は蛍光の増大)が観察される。この蛍光を検出するために、基材を色素の励起波長で照明し、基材の表面を走査して発光させることができる。
【0096】
色素(2)を用いる場合、610nmでの蛍光発光の減少または515nmでの蛍光発光の増大が測定されるか、または両方の波長がモニターされる。
【0097】
色素(6)~(8)を用いる場合、光学要素が第2の光学状態に変換される基材の表面に暗い局所領域(または結合事象が多数ある場合は暗い画像)が観察される。これらの暗いスポットまたは画像を検出するために、各蛍光色素分子の検出に適した励起フィルターおよび発光フィルター(例えば、フルオレセインは490nmの励起と520nmの発光で検出され得る)を用いて、光源(例えばLED)および光検出器(光電子増倍管やCCD等のカメラ)を備えた広視野蛍光顕微鏡を用いることができる。
【0098】
結合事象が発生する場合、光増感剤は基材の近傍に存在する。すなわち、光増感剤は基材の表面の十分近傍に存在し、光学要素と相互作用して、装置の照射時に光学要素を第1の光学状態から第2の光学状態に変換する。しかしながら、光増感剤と基材の表面との間の実際の距離は、光増感剤のサイズや性質、結合要素のサイズや性質、レポーター試薬や分析物、および試料媒体の性質等の多くの変数に依存する。
【0099】
結合要素は、試料中の分析物の濃度に比例してレポーター試薬を結合できる結合部位を有する。分析物の濃度を意味のある測定値で測定するには、結合が分析物の濃度に依存する必要があるため、比例性はアッセイの機能にとって重要である。結合は、実行されるアッセイの種類に応じて、分析物の濃度に直接的に比例する場合もあれば、間接的に比例する場合もある。非競合アッセイ、例えば免疫測定アッセイの場合、結合は分析物の濃度に直接的に比例するが、競合アッセイの場合、結合は分析物の濃度に間接的に比例する。
【0100】
競合アッセイの特定の種類の1つは、分析物に対する抗体が基材上に固定化され、分析物の標識された類似体が試料に導入されるというものである。分析物と分析物の標識された類似体とは、表面上の抗体をめぐって「競合」する。分析物が存在しない場合、標識された類似体は可能な最大速度で結合する。しかしながら、分析物の存在下では、基材上の抗体に分析物が集中し、類似体の結合速度が低下する。
【0101】
結合要素は、分析物、または分析物の複合体もしくは誘導体に結合するように適合され得、この場合、レポーター試薬は、分析物、または分析物の複合体もしくは誘導体の存在下で結合要素に結合する。この場合、結合要素は、分析物または分析物の複合体もしくは誘導体の存在下でレポーター試薬に結合できる結合部位を有する。しかしながら、結合は依然として分析物の濃度に比例する。
【0102】
あるいは、結合要素自体が分析物の類似体であってもよく、レポーター試薬が結合要素に直接的に結合する(共有結合的または非共有結合的な相互作用のいずれかを介して基材の表面に結合しているため、類似体である)。この場合、結合要素は、レポーター試薬の結合に関して、未結合の分析物、または未結合の分析物の複合体もしくは誘導体と競合することになる。したがって、結合要素は単にレポーター試薬に結合することができる。
【0103】
レポーター試薬の結合要素への(直接的な、または分析物/複合体もしくは分析物の誘導体によって媒介された)結合の程度を測定することにより、試料中の分析物の濃度が測定される。
【0104】
アッセイにはレポーター試薬の存在も必要である。本発明のレポーター試薬は光増感剤を含む。電磁放射線を吸収すると、光増感剤は予備活性化試薬と反応して反応性酸素種を生成する。この反応性酸素種は光学要素と相互作用し続ける。この相互作用により、光学要素が第1の光学状態から第2の光学状態に変化する。
【0105】
したがって、光増感剤は、このように電磁放射線と相互作用することができる任意の材料で構成することができる。適切な光増感剤は、PDT試薬として光線力学療法(PDT)において知られている。PDT試薬は、癌治療や皮膚科において照射時に細胞を破壊するために用いられる(Shafirstein et al., Cancers, 2017, 9, 12; Wan and Lin, Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology, 2014, 7, 145)。
【0106】
電磁放射線を照射すると、PDT試薬は励起三重項状態に促進される。この励起三重項状態は、いわゆるタイプIプロセスで細胞成分と直接的に相互作用するか、いわゆるタイプIIプロセスで酸素と相互作用することができる。タイプIプロセスおよびタイプIIプロセスは両方とも、反応性酸素種の形成を引き起こし得る。タイプIIプロセスでは、主な生成物は項間交差メカニズムによる一重項酸素である。
【0107】
一重項酸素は、反応性の高い酸素の励起状態である。崩壊する前に、ディールス・アルダー型反応やエン反応を含む様々な反応が起こり得る。また、硫黄含有化合物および窒素含有化合物との一般的な酸化反応も受ける。一重項酸素の無差別な反応性が、一重項酸素が光力学療法に用いられる理由の1つである。
【0108】
ポルフィリン、クロリン(例えば、ピロフェオホルビド-a)、フタロシアニンおよび他の多環芳香族種を含む広範囲の光増感剤化合物が知られている(例えば、Antibody-Directed Phototherapy, Pye et al., Antibodies, 2013, 2, 270を参照されたい)。
【0109】
一つの実施形態において、光増感剤は、ポルフィリン、クロリン、フタロシアニンおよび他の多環芳香族種から選択される。光増感剤は、共有結合を介してレポーター試薬に直接的に結合することができる。あるいは、多数の光増感剤を粒子、例えばポリスチレンラテックス粒子内にカプセル化することができ、抗体をその粒子に結合させることができる。粒子を用いる利点は、より多くの光増感剤をレポーター試薬に結合できることにある。さらに、多くの光増感剤は多芳香族種であり、水性媒体への溶解度が低い。それらをコロイド粒子にカプセル化することで、溶解性の問題を回避することができる。ポリスチレンラテックス粒子は、直径10ナノメートル以上の幅広いサイズで入手することができる。
【0110】
結合要素およびレポーター試薬の性質は分析物の性質に依存するが、それらは抗体であることが好ましい。本発明は、イムノアッセイに特に適用可能である。特に好ましい実施形態において、結合要素は分析物または分析物の複合体もしくは誘導体に対して生じた抗体であり、レポーター試薬は分析物または分析物の複合体もしくは誘導体に対して生じた抗体を含む。原理的には、各試薬に単一の分子を用いることができるが、実際には、結合要素およびレポーター試薬は分子の集合である。「抗体」という用語は、好ましくは、その範囲内に、Fabフラグメント、単鎖可変フラグメント(scFv)および組換え結合フラグメントを包含する。
【0111】
抗体抗原反応の代替として、結合要素、レポーター試薬および分析物は、第1および第2の核酸であってもよく、第1および第2の核酸は相補的であるか、試薬はアビジンまたはその誘導体を含み、分析物はビオチンまたはビオチンを含み、またはその逆である。結合要素およびレポーター試薬はアプタマーであってもよい。このシステムは生物学的アッセイに限定されず、例えば水中の重金属の検出にも適用することができる。また、システムは必ずしも液体に限定されず、任意の液体システム、例えば、空気中の酵素、細胞およびウイルス等の検出に用いることができる。
【0112】
観察可能な最大シグナルは、表面に結合する光増感剤をモニターするときに達成できる最大シグナルである。基材への粒子の結合は、分析物およびレポーター試薬の拡散速度によって支配され、さらにこれらの要素の流体力学的半径および試料の粘度/温度によって主に支配される。
【0113】
本発明で用いられる装置は、測定システムの構成要素の自然変動、測定される試料の変動、および測定中の環境条件の変動を補正するコントロールをさらに備えていてもよい。これは、試料を基材の表面の試薬にさらすことによって達成される。異なる試薬は通常、基材の表面の異なる領域に配置され、これらの領域は異なる試薬でコーティングされている。これらのコントロールは、「ネガティブ」コントロールおよび「ポジティブ」コントロールと定義され、これは、ネガティブコントロールは分析物の非存在下で予想されるシグナルに近似する必要があり、ポジティブコントロールは分析物がシステムを飽和したときに予想されるシグナルに近似する必要があるという意味である。
【0114】
これらのコントロールを用いて検出を達成するために、本発明の装置は、好ましくは、結合要素、ネガティブコントロール試薬およびポジティブコントロール試薬を含み、これらはそれぞれ上述したように基材の表面に付着される。
【0115】
結合要素については上述した通りである。
【0116】
ネガティブコントロール試薬は、アッセイ条件下で結合要素よりもレポーター試薬に対する親和性が低い。したがって、ネガティブコントロール試薬はネガティブコントロールを提供する。アッセイ条件下で親和性を考慮することが重要である。その理由は、非競合アッセイの場合、レポーター試薬に対する結合要素の親和性が、分析物または分析物の複合体もしくは誘導体の存在によって媒介されるためである。したがって、分析物または分析物の複合体もしくは誘導体が存在しない場合、結合要素もネガティブコントロール試薬もレポーター試薬に対する親和性を有さない。しかしながら、分析物または分析物の複合体もしくは誘導体の存在下では、ネガティブコントロール試薬は、結合要素よりもレポーター試薬に対して低い親和性を有する。
【0117】
さらに、結合要素が分析物または分析物の複合体もしくは誘導体に結合する実施形態において、ネガティブコントロール試薬は、分析物、または用いられる場合には分析物の複合体もしくは誘導体に対して、結合要素よりも低い親和性を有することが好ましい。ネガティブコントロール試薬は、好ましくはタンパク質であり、より好ましくは抗体である。ネガティブコントロール試薬は通常、結合要素と類似の化学的および物理的特性を有するが、アッセイ条件下ではレポーター試薬に対して親和性をほとんどまたはまったく示さない。特に好ましい実施形態において、ネガティブコントロール試薬は、アッセイ条件下でレポーター試薬に対して実質的に親和性を有さない。好ましくは、ネガティブコントロール試薬は、分析物または分析物の複合体もしくは誘導体に対して実質的に親和性を示さない。すなわち、レポーター試薬、または該当する場合には分析物または分析物の複合体もしくは誘導体のネガティブコントロール試薬への結合は、非特異的である。このようにして、ネガティブコントロール試薬は、結合要素へのレポーター試薬の非特異的結合を補正することができる。さらに、ネガティブコントロールへのレポーターの結合が閾値を超えている場合、エラーコードがトリガーされ、測定が中止される可能性がある。
【0118】
ポジティブコントロール試薬はレポーター試薬に結合し、試料中の分析物、または用いられる場合には分析物の複合体もしくは誘導体の濃度による影響が結合要素と比較して少ないレポーター試薬に対する親和性を有し、そのためポジティブコントロールを提供する。好ましくは、ポジティブコントロール試薬は、分析物または分析物の複合体もしくは誘導体の濃度とは実質的に独立したレポーター試薬に対する親和性を有する。より好ましくは、ポジティブコントロール試薬は、アッセイ条件下で結合要素よりもレポーター試薬に対して高い親和性を有する。このようにして、ポジティブコントロール試薬はシステム内で予想される最大シグナルを測定する。
【0119】
本発明により実施されるアッセイのダイナミックレンジを増大させ、同時に精度を向上させるためには、結合要素を基材上の複数の位置に有することが好ましい。これらの位置は、各位置での結合要素の濃度を変えることによって、異なる感度に調整することができる。各位置には、様々なダイナミックレンジのコントロールとして機能する独自のネガティブコントロール試薬およびポジティブコントロール試薬が存在していてもよい。これは、システムを構成する個々の要素の濃度に特に敏感な競合アッセイに特に当てはまる。
【0120】
上記の説明では、光増感剤を活性化する前にアッセイが平衡に達するようにしているが、経時的に光増感剤を不連続な時間照射し、平衡に達する前に反応の過程で結合事象が起こるのをモニターすることによって、結合事象の動態をモニターすることもできる。
【0121】
分析物は巨大分子または小分子であってもよい。巨大分子は、典型的には、タンパク質ベースのホルモン等のタンパク質であり、ウイルス、細菌、細胞(例えば、赤血球)またはプリオン等のより大きな粒子の一部であってもよい。小分子は薬物であり得る。
【0122】
本明細書で用いられる「小分子」という用語は当該技術分野の用語であり、タンパク質および核酸等の高分子と区別するために用いられる。小分子は、イムノアッセイの分野では「ハプテン」と呼ばれることが多く、タンパク質等の大きな担体分子に結合すると免疫応答を誘発することができる小分子であり、ホルモンおよび合成薬物等の分子が含まれる。このタイプの小分子は、通常、分子量が2,000以下であり、多くの場合1,000以下、さらには500以下である。結合要素は、分析物自体に結合するように適合され得るが、分析物は、結合要素に結合する前に化学反応または最初の複合体形成事象を受けてもよい。例えば、分析物はアッセイ条件のpHでプロトン化/脱プロトン化され得る。したがって、結合要素に結合する分析物は、分析物自体または分析物の誘導体であり得;両方とも本発明の範囲内に包含される。
【0123】
好ましい実施形態において、本発明を用いて、同じ試料中の複数の分析物の存在を同時に検出することができる。各分析物の測定のために、基材上の異なる位置で異なる結合要素を用いることができる。サンドイッチアッセイおよび競合アッセイは並行して実行することができ、アッセイでは上記と同じネガティブコントロールおよびポジティブコントロールを用いてもよく、測定される分析物ごとに個別のコントロールを用いてもよい。
【0124】
目的の分析物を含むことが疑われる試料は、一般に、流体試料、例えば液体試料であり、通常は、体液、例えば血液、血漿、唾液、血清、眼内液、脳脊髄液または尿等の生物学的試料である。試料には懸濁粒子が含まれていてもよく、全血であってもよい。好ましい実施形態において、試料は未処理であり、より好ましくは未処理の液体である。未処理とは、試料/液体が、レポーター試薬および他のアッセイ要素と混合される前に、濾過、希釈または他の前処理工程によって前処理されていないことを意味する。しかしながら、重水素濃縮混合物を提供するために試料を処理すること、例えば、重水素濃縮液による希釈、または重水素濃縮液とのインキュベーションは本発明の範囲内である。本発明の利点は、アッセイの結果に過度の影響を与えることなく、懸濁粒子を含む試料に対してアッセイを実行できることである。好ましくは、試料は重水素濃縮を除いて未処理である。
【0125】
好ましい実施形態において、試料は全血である。全血の成分が本発明の検出方法を妨げないことは驚くべきことである。試料ごとに異なる細胞成分による予測不可能な光の散乱に起因して、血液の血漿または血清成分の蛍光を測定するために血液から赤血球を除去することは通常行われることである。しかしながら、本発明では、蛍光が基材上で測定され、個々の結合事象が測定できるため、測定は全血で行うことができる。
【0126】
試料は通常、マイクロリットルのオーダー(例えば、1~100μL、好ましくは1~10μL)である。液体試料を保持するために、基材は、1つ以上の側壁、上面および下面を有する試料チャンバー内に配置されることが好ましい。したがって、本発明で用いられる装置は、分析物を含む試料を基材と接触させて保持するためのチャンバーをさらに備えることが好ましい。
【0127】
バックグラウンド干渉の潜在的な追加の原因は、レポーター試薬や試料の細胞成分を含む浮遊粒子が基材の表面に沈降することである。この干渉源は、基材をバルク溶液の上、例えば反応チャンバーの上面に配置することによって減少させることができる。したがって、沈降が発生しても基材に干渉することはない。好ましくは、基材は、図に示すように上面を形成する。好ましくは、基材は実質的に平面である。より好ましくは、基材は平面である。「実質的に平面」とは、例えば、撮像時に基材全体が単一の焦点範囲または視野内に留まるように、基材が本発明において機能を維持する点までのみ平面性から逸脱することを意味する。明らかに、光学要素および結合要素はチャンバーの内面にあり、試料との接触が可能である。この変形例および他の変形例は本発明の範囲に包含される。
【0128】
試料は、例えば毛細管チャネル内部の表面張力によって単純に保持され得る。
【0129】
レポーター試薬および任意に1つ以上の追加の試薬は、好ましくは、本発明で用いられる装置に組み込まれたチャンバー内に保管される。
【0130】
本発明は、診療現場での(POC)試験において特に有用である。POC試験は、ケア時点またはその近くでの診断試験、すなわちベッドサイド試験として定義される。POC試験により、便利で迅速な検査が可能になり、意思決定とトリアージの向上が可能になると同時に、事故や救急治療、病床等の病院リソースをより適切に割り当てることができる。これは、診療現場で試料が採取され、次いで試験のために研究室に送られる従来の試験とは対照的である。このような試験では、結果が出るまでに数時間から数日かかることが多く、その間、必要な情報が得られないまま治療を続けなければならない。POC試験では、試験キットとポータブル機器とを組み合わせて用いることがよくある。
【0131】
本発明は、通常は存在量が非常に少ない分析物の濃度または存在/非存在をモニターするのに特に有用である。潜在的な適用としては、心臓病(例えば、高感度トロポニン)、感染症(例えば、C型肝炎コア抗原)、老化/認知症(例えば、アルツハイマー病マーカーであるアミロイドβおよびリン酸化τ、神経フィラメント軽鎖)、サイトカインおよび腫瘍学(例えば、循環腫瘍マーカー)における測定バイオマーカーが挙げられる。
【0132】
本発明はまた、試料中の分析物を検出するための装置を提供し、この装置は、光学要素および結合要素を有する基材を含み、光学要素および結合要素は基材の表面に結合されており、光増感剤が、電磁放射線の吸収により予備活性化試薬から反応性酸素種を生成することができ、光学要素が、反応性酸素種との反応により第1の光学状態から第2の光学状態に変化することができ、基材がその表面に重水素濃縮層を有する。
【0133】
装置の特徴は、本発明において用いられる装置について上述した通りである。
【0134】
好ましい実施形態において、装置は、試料およびレポーター試薬の混合物を保持するためのチャンバーをさらに含む。
【0135】
本発明の装置は、電磁放射線を生成するように適合された放射線源、および第2の光学状態の光学要素を検出するように適合され、それにより基材に対する光増感剤の位置の正確な決定を可能にする検出器を含んでもよい。
【0136】
本発明の装置は、別個のリーダー(reader)とともに用いられるカートリッジの形態であってもよい。リーダーには放射線源および検出器が組み込まれていてもよい。リーダーは、携帯型リーダーであることが好ましい。好ましくは、装置はカートリッジを含み、基材はカートリッジ内にあり、装置は基材上の第2の光学状態を有する局所領域のセットを検出するための検出器をさらに含む。本発明はまた、本明細書で定義されるような基材および光学要素および結合要素を含むカートリッジを提供することもできる。カートリッジは、使い捨てカートリッジであることが好ましい。
【0137】
本発明はまた、試料中の分析物を検出するためのシステムであって:本発明の装置;および試料を含む混合物を形成するためのレポーター試薬および予備活性化試薬を含み、レポーター試薬が、電磁放射線の吸収により予備活性化試薬から反応性酸素種を生成することができ、光学要素が、反応性酸素種との反応により第1の光学状態から第2の光学状態に変化することができ、照射前に基材を重水素濃縮液と接触させることができる。
【0138】
好ましくは、レポーター試薬の光増感剤は、電磁放射線を吸収して混合物中に存在する予備活性化試薬と相互作用して反応性酸素種を生成することができ、反応性酸素種は光学要素と反応して、光学要素を第1の光学状態から第2の光学状態に変化させることができる。
【0139】
好ましい実施形態において、本発明のシステムは実質的に上記の特徴からなる。「実質的に」とは、アッセイを実行するために他の特徴が必要ないことを意味する。
【実施例】
【0140】
本発明を以下の実施例を参照して説明するが、これらは限定するものではない。
【0141】
材料
ビオチン化ウシ血清アルブミン(BSA)およびフルオレセイン標識ストレプトアビジンを、当技術分野で知られている技術に従って調製した。これらの材料は市販もされている。抗TSH抗体5407(Medix Biochemica社製)を、Perkin Elmer社から入手可能なプロトコルを用いて、アルデヒドでコーティングされたAlphascreenドナービーズ(Perkin Elmer社のカタログ番号6762013)に結合させた。これらのプロトコルには、シアノ水素化ホウ素の存在下でビーズと抗体とを一晩インキュベートし、次いで、(カルボキシメトキシ)アミンを添加して反応を停止することが含まれていた。過剰な抗体を遠心分離および洗浄工程によって除去した。
【0142】
実施例1
シラン化ガラスカバースリップ
50mLの30%過酸化水素溶液を150mLの濃硫酸に添加することによって、新鮮なピラニア溶液を調製した。次いで、22mm×22mmのカバースリップ23(Brand、カタログ番号470055)をステンレス鋼ラックに載せ、ピラニア溶液に30分間浸漬し、続いて脱イオン水で3回、次いでイソプロパノールで3回リンスした。次いで、カバースリップを、新鮮な%ジクロロ(メチル)フェニルシラン(Merck、カタログ番号440116)のイソプロパノール溶液に2分間浸漬した。次いで、それらをイソプロパノールで3回洗浄し、100℃のオーブンで1時間乾燥させた。
【0143】
実施例2
基材表面の準備
直径6mmの穴が切り取られた、厚さ200μmの感圧接着剤(PSA)22の1cm×1cmの正方形片を、実施例1に記載のシラン化カバースリップ23に取り付けて、
図8に示すように浅いウェル24を作製した。次いで、50μLのビオチン化BSA(40mMリン酸緩衝液中10μg/mL)をウェルに入れ、2時間インキュベートした後、洗浄緩衝液(40mMリン酸、2%スクロース、0.9%NaCl、0.03%BSA)で洗い流した。次いで、30μLのフルオレセイン標識ストレプトアビジン(40mMリン酸、2%スクロース、0.9%NaCl、0.03%BSA中10μg/mL)をウェルに添加し、60分間インキュベートした後、洗浄緩衝液で3回洗浄した。次いで、ビオチン化された5409抗TSH抗体(40mMリン酸緩衝液、2%スクロース、0.9%NaCl、0.03%BSA中20μg/mL)30μLを30分間インキュベートし、洗浄緩衝液で3回洗浄し、次いで室温の空気中で乾燥させた。
【0144】
次いで、剥離ライナーをPSAから除去し、基材を裏返し、
図9のプロフィールに示すように、反応チャンバーを形成するためにドリルで開けられた2つの小さな穴26を備えたアクリルシート25に取り付けた。
【0145】
実施例3
光増感剤ビーズの表面への結合
抗TSH抗体でコーティングされた200nmのAlphascreenドナービーズ(固形分0.5%)を、0.5%BSAおよび0.05%Tween-20を含むリン酸緩衝液中のTSH(100μg/mL)溶液中に500分の1で希釈した。この混合物8μLをピペットで穴の1つを介して反応チャンバーに入れ、暗所で30分間インキュベートした。30分後、チャンバーをリン酸緩衝液で3回洗浄した。
【0146】
実施例4
非重水素化環境での漂白領域の生成
実施例3の反応チャンバーを、カバーガラスの表面上に焦点を合わせた全光出力15mWの狭い円錐角680nmのLEDを用いて1分間照明した。次いで、水銀放電電球を備えたEuromex iScope落射蛍光顕微鏡と、開口数0.85の60X空気レンズに取り付けられたフルオレセイン励起/発光フィルターセットを用いたGXCam HiChrome METカメラ(1080×1920ピクセル)で表面を画像化した。
図7に光学配置を示す。表面の一部の代表的な画像を
図10に示す。それぞれの暗いスポットは、表面上で結合事象が発生した場所を表す。この画像のスポットのおおよその直径は0.4μmである。
【0147】
実施例5
重水素化環境における漂白領域の生成
第2の反応チャンバーを、3回の最後の洗浄を、リン酸緩衝剤錠剤を酸化重水素に溶解することによって調製された重水素化リン酸緩衝液中で行ったこと以外は実施例3と同様に準備した。実施例4と同じ方法で表面を画像化した。表面の代表的な画像を
図11に示す。この実施例では、暗点は約2倍の直径を有し、平均0.8μmである。
【国際調査報告】