(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルスベクターを含む改善された医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20231222BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20231222BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231222BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20231222BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231222BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231222BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231222BHJP
A61K 38/37 20060101ALI20231222BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20231222BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231222BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
A61K35/76
A61P7/04
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/36
A61K48/00
A61K38/37
C12N15/864 100Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/35
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537242
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 US2021064222
(87)【国際公開番号】W WO2022133324
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508241200
【氏名又は名称】サンガモ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】コナー,ジェシカ アイリーン
(72)【発明者】
【氏名】クロフォード,リンジー アン
(72)【発明者】
【氏名】ダミッツ,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,ブレンダン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ホッジ,コディ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】キメル ザ セカンド,マイケル リーランド
(72)【発明者】
【氏名】クレシ ウィラード,ティハミ
(72)【発明者】
【氏名】ラムジー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ソーン,ダニエル ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,アンソニー リー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076CC14
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD38
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4C076FF63
4C076GG45
4C076GG50
4C084AA13
4C084DC15
4C084MA02
4C084MA05
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4C084MA66
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA10
4C084ZA531
4C084ZA532
4C087AA01
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4C087BC83
4C087MA02
4C087MA05
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA03
4C087NA05
4C087NA10
4C087ZA53
(57)【要約】
本発明は、組換えAAVおよび1つまたはそれ以上の医薬的に許容される賦形剤を含む組成物を提供する。前記組成物は、他のAAV組成物と比較して改善された安定性および半減期を有する
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター、
塩化ナトリウム(NaCl)、
塩化カリウム(KCl)、
リン酸二ナトリウム(Na
2HPO
4)、
リン酸一カリウム(KH
2PO
4)、
塩化マグネシウム(MgCl
2)、
ポリオール、および
ポロキサマー
を含む、医薬組成物であって、適宜、前記医薬組成物が、約0.1mM未満の塩化カルシウムを含み、約7.1~約7.5のpHである、医薬組成物。
【請求項2】
前記ポリオールが、ショ糖である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ポロキサマーが、ポロキサマー188である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が、約0.1~約2.0mMの塩化マグネシウムを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、約0.5mMまたはそれ以上の塩化マグネシウムを含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が、約1.4mMの塩化マグネシウムを含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、約1.3mM以上の塩化マグネシウムを含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が、約150~約200mM、適宜、約172mMの塩化ナトリウムを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物が、約2.5~約3.0mM、適宜、約2.7mMの塩化カリウムを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が、約5~約10mM、適宜、約8mMのリン酸二ナトリウムを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、約1.0~約2.0mM、適宜、約1.5mMのリン酸一カリウムを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物が、約0.5%~約2%(w/v)、適宜、約1%(w/v)のショ糖を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物が、約0.01%~約0.1%(w/v)、適宜、約0.05%(w/v)のポロキサマー188を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター、
約171.81mMの塩化ナトリウム、
約2.68mMの塩化カリウム、
約8.10mMのリン酸二ナトリウム、
約1.47mMのリン酸一カリウム、
約1.40mMの塩化マグネシウム、
約1.00%(w/v)のショ糖、および
約0.05%(w/v)のポロキサマー188
を含む、医薬組成物であって、適宜、前記医薬組成物が、約0.1mM未満の塩化カルシウムを含み、約7.1~約7.5のpHである、医薬組成物。
【請求項15】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター、
約172mMの塩化ナトリウム、
約2.68mMの塩化カリウム、
約8.10mMのリン酸二ナトリウム、
約1.47mMのリン酸一カリウム、
約0.49mMの塩化マグネシウム、
約1.00%(w/v)のショ糖、および
約0.05%(w/v)のポロキサマー188
を含む、医薬組成物であって、適宜、前記医薬組成物が、約0.1mM未満の塩化カルシウムを含み、約7.1~約7.5のpHである、医薬組成物。
【請求項16】
前記rAAVが、治療タンパク質のための発現カセットを含むゲノムを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記治療タンパク質が、ヒト第VIII因子ポリペプチドである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターであって、ヒト第VIII因子ポリペプチドの発現のための発現カセットを含むゲノムを含む、前記rAAVベクター、
約171.81mMの塩化ナトリウム、
約2.68mMの塩化カリウム、
約8.10mMのリン酸二ナトリウム、
約1.47mMのリン酸一カリウム、
約1.40mMの塩化マグネシウム、
約1.00%(w/v)のショ糖、および
約0.05%(w/v)のポロキサマー188
を含む、医薬組成物であって、適宜、前記医薬組成物が、約0.1mM未満の塩化カルシウムを含み、約7.1~約7.5のpHである、医薬組成物。
【請求項19】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターであって、ヒト第VIII因子ポリペプチド発現のための発現カセットを含むゲノムを含む、前記rAAV、
約172mMの塩化ナトリウム、
約2.68mMの塩化カリウム、
約8.10mMのリン酸二ナトリウム、
約1.47mMのリン酸一カリウム、
約0.49mMの塩化マグネシウム、
約1.00%(w/v)のショ糖、および
約0.05%(w/v)のポロキサマー188
を含む、医薬組成物であって、適宜、前記医薬組成物が、約0.1mM未満の塩化カルシウムを含み、約7.1~約7.5のpHである、医薬組成物。
【請求項20】
前記ヒト第VIII因子ポリペプチドが、配列番号1を含む、請求項17~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記rAAVのゲノムが、配列番号2または配列番号2のヌクレオチド131~5024を含む、請求項17~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記医薬組成物が、前記rAAVを、1mLあたり約1.0E+12~約1.0E+14ベクターゲノム(vg)、適宜、1mLあたり約1.0E+13~約5.0E+13vgで含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記医薬組成物が、1mLあたり約1.0E+13vgを含む、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記rAAVが、AAV6カプシドタンパク質を含み、適宜、AAV2の逆位末端配列(ITR)を含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
5~10mL、適宜、6.4mLの請求項1~24のいずれか1項に記載の組成物を含む、バイアル。
【請求項26】
シクロオレフィンコポリマーからなる、請求項25に記載のバイアル。
【請求項27】
前記バイアルが、所定位置に熱可塑性エラストマー共栓が付いた、請求項25または26に記載のバイアル。
【請求項28】
治療タンパク質を必要とする患者を治療する方法であって、請求項1~24のいずれか1項に記載の組成物を前記患者に投与することを特徴とする、方法。
【請求項29】
増加を必要とするヒト対象における第VIII因子の血清レベルを増加させる方法であって、請求項17~24のいずれか1項に記載の医薬組成物、または請求項25~27のいずれか1項に記載のバイアルの全含有量を、前記ヒト対象に静脈内に投与することを特徴とする、方法。
【請求項30】
前記ヒト対象が、血友病Aに罹っている、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
治療を必要とするヒト対象における血友病Aを治療する方法であって、請求項17~24のいずれか1項に記載の医薬組成物、または請求項25~27のいずれか1項に記載のバイアルの全含有量を、前記ヒト対象に静脈内に投与することを特徴とする、方法。
【請求項32】
請求項28~31のいずれか1項に記載の方法におけるヒト対象の治療薬の製造のための、請求項1~24のいずれか1項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項33】
請求項28~31のいずれか1項に記載の方法におけるヒト対象の治療に使用するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる2020年12月18日に提出の米国出願番号63/127,826からの優先権を請求する。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出され、その全が参照により本明細書に取り込まれる配列表を含む。ASCIIコピーは、2021年12月1日に作成され、025297_WO029_SL.txtとの名称で19,967バイトのサイズである。
【背景技術】
【0003】
遺伝子治療は、遺伝病を治療するための有望な方法である。これは、前記患者に対して欠陥遺伝子の健全なコピーを導入するか、または異常に機能している変異遺伝子を不活性にする。遺伝子治療研究の特に目的とされる遺伝子疾患は、血友病Aである。伝統的血友病とも呼ばれる血友病Aは、凝血プロセスが第VIII因子をコードする欠損または欠陥遺伝子により異常となるX連鎖遺伝病である。血友病A患者は、内部(例えば、関節および筋肉内)または外部(例えば、軽い切り傷、外傷、または歯科的処置による)で出血しうる。第VIII因子の正常な血漿レベルは、50%~100%の範囲である。軽度の血友病Aは、血液中で第VIII因子の6%~49%のレベルによって特徴付けられ;患者は、一般的に、重症の傷害、外傷、または外科的手術後にのみ出血する。中程度の血友病Aは、血液中で第VIII因子の1%~5%のレベルによって特徴付けられ;患者は、損傷後の出血エピソードを示す。重症の血友病Aは、血液中で第VIII因子の1%未満のレベルによって特徴付けられ;患者は、損傷後の出血を経験し、さらに、多くの場合、関節および筋肉における頻発する自然出血を示す。世界血友病連盟のウェブサイトも参照のこと。血友病Aは、一般に、補充第VIII因子を用いて(出血に応じて)必要に応じてか、または予防的に治療される。ある患者は、前記補充因子に対する同種抗体(阻害剤としても知られている)を生じてしまい、これにより治療が無効となる。現在の療法は、頻度の高い静脈内注射を要するために負担が大きく、発展途上国では供給源に限りもある。よって、遺伝子治療は、血友病Aの治療に有望な方法を提供する。
【0004】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)は、遺伝子治療における遺伝子送達のプラットフォームとして研究されてきた。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科ディペンドパルボウイルス属に属する小さい非エンベロープウイルスである。前記ウイルスは、3つのカプシドタンパク質-ウイルスタンパク質(VP)1、VP2、およびVP3から構築されたカプシドにパッケージされた単一鎖DNAゲノムから構成される。臨床使用のためのrAAV調製物の医薬組成物への製剤化は、課題であった。一般的に用いられるrAAV製剤は、長年または研究室で生じさせたストレス試験中に目視可能な沈殿物を形成することが観察されてきた。解決されずに残されてきたこれらの沈殿物は、患者の安全性に対するリスクを示す。いくつかのrAAV製剤で観察された物理的安定性の問題はまた、保存、輸送、および患者への投与に要する半減期に関する生成物の有効性に否定的な影響を及ぼしうる(例えば、Wright et al., Molecular Therapy (2005) 12(1):171-8; Croyle et al., Gene Therapy (2001) 8:1281-90を参照のこと)。よって、遺伝子治療の治療可能性が十分に発揮されるようなrAAVベクターのための改善された製剤を開発する必要性が存在している。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、臨床投与に適した安定なrAAVベクター製剤を提供する。ある態様において、本開示は、rAAVベクター、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、リン酸二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸一カリウム(KH2PO4)、塩化マグネシウム(MgCl2)、ポリオール(例えば、ショ糖)、およびポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)を含む医薬組成物であって、適宜、約0.1mM以下の塩化カルシウムを含み、約7.1~約7.5のpHである、医薬組成物を提供する。
【0006】
ある実施態様において、前記組成物は、約0.1~約2.0mM(例えば、約0.5mMまたはそれ以上、約1.3mMまたはそれ以上、あるいは約1.4mM)の塩化マグネシウムを含む。
【0007】
ある実施態様において、前記組成物は、約150~約200mM、適宜、約172mMの塩化ナトリウムを含む。
【0008】
ある実施態様において、前記組成物は、約2.5~約3.0mM、適宜、約2.7mMの塩化カリウムを含む。
【0009】
ある実施態様において、前記組成物は、約5~約10mM、適宜、約8mMのリン酸二ナトリウムを含む。
【0010】
ある実施態様において、前記組成物は、約1.0~約2.0mM、適宜、約1.5mMのリン酸一カリウムを含む。
【0011】
ある実施態様において、前記組成物は、約0.5%~約2%(w/v)、適宜、約1%(w/v)のショ糖を含む。
【0012】
ある実施態様において、前記組成物は、約0.01%~約0.1%(w/v)、適宜、約0.05%(w/v)のポロキサマー188を含む。
【0013】
特定の実施態様において、本開示は、rAAVベクター、約171.81mMの塩化ナトリウム、約2.68mMの塩化カリウム、約8.10mMのリン酸二ナトリウム、約1.47mMのリン酸一カリウム、約1.40mMの塩化マグネシウム、約1.00(w/v)%のショ糖、および約0.05(w/v)%のポロキサマー188を含む医薬組成物であって、適宜、約0.1mM未満の塩化カルシウムを含み、約7.1~約7.5のpHである、医薬組成物を提供する。
【0014】
他のある実施態様において、本開示は、rAAVベクター、約172mMの塩化ナトリウム、約2.68mMの塩化カリウム、約8.10mMのリン酸二ナトリウム、約1.47mMのリン酸一カリウム、約0.49mMの塩化マグネシウム、約1.00(w/v)%のショ糖、および約0.05(w/v)%のポロキサマー188を含む医薬組成物であって、適宜、約0.1mM未満の塩化カルシウムを含み、約7.1~約7.5のpHである、医薬組成物を提供する。
【0015】
ある実施態様において、本発明の組成物におけるrAAVには、治療タンパク質、例えば、ヒト第VIII因子ポリペプチド(例えば、配列番号1)のための発現カセットを含むゲノムが含まれる。特定の実施態様において、AAVゲノムには、配列番号2または配列番号2のヌクレオチド131~5,024が含まれる。
【0016】
ある実施態様において、前記組成物は、rAAVを1mLあたり約1.0E+12~約1.0E+14ベクターゲノム(vg)、適宜、1mLあたり約1.0E+13~約5.0E+13vg(例えば、1mLあたり約1.0E+13vg)で含む。
【0017】
ある実施態様において、前記rAAVは、(例えば、AAV6カプシドを有する)AAV6カプシドタンパク質を含む。ある実施態様において、前記AAVゲノムは、AAV2に由来する逆位末端配列(ITR)を含む。
【0018】
別の態様において、本開示は、5~10mL、適宜、6.4mLの本発明の組成物を含むバイアルを提供する。前記バイアルは、例えば、シクロオレフィンコポリマーから構成されていてもよく、および/または所定位置に熱可塑性エラストマー共栓が付いていてもよい。
【0019】
別の態様において、本開示は、治療タンパク質を必要とする患者を治療する方法であって、本発明の組成物を前記患者に投与することを特徴とする方法を提供する。ある実施態様において、本開示は、第VIII因子の血清レベルの増加を必要とするヒト対象(例えば、血友病Aに罹っているヒト対象)における第VIII因子の血清レベルを増加させる方法であって、rAAVがヒト第VIII因子ポリペプチドである治療組成物を、前記ヒト対象に静脈内投与することを特徴とする方法を提供する。このような治療方法で使用するための医薬組成物、およびこのような方法で使用するための医薬の製造のための前記組成物の使用もまた提供される。
【0020】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の詳細な説明で明らかである。しかしながら、詳細な説明は、本発明の実施態様および態様を示すが、例示として記載されるものであって、限定するものではないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の様々な変更および改変は、詳細な説明から当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは、SB-525を含む製剤の試料中で見出された粒子状物質の特徴付けを要約する。
【
図1B】
図1Bは、SB-525を含む製剤の試料中で見出された粒子状物質の特徴付けを要約する。
【
図1C】
図1Cは、SB-525を含む製剤の試料中で見出された粒子状物質の特徴付けを要約する。
【
図1D】
図1Dは、SB-525を含む製剤の試料中で見出された粒子状物質の特徴付けを要約する。
【
図1E】
図1Eは、SB-525を含む製剤の試料中で見出された粒子状物質の特徴付けを要約する。
【
図1F】
図1Fは、SB-525を含む製剤の試料中で見出された粒子状物質の特徴付けを要約する。
【
図2】
図2は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)による緩衝液交換のスキームを示す。
【
図3】
図3は、AAV6ベクター製剤の製剤化、充填、および最終工程を示す。
【
図4A】
図4Aは、複数回の凍結/解凍サイクル後のAAV6ベクター製剤のベクターゲノム(vg)力価および感染力価を示す。示されるエラーバーは、MADLSによる粒子濃度のN≧3試料測定からの±パーセンテージRSD、あるいはvg力価の±許容される試験変動、平均組織培養感染用量(TCID
50)、ELISA、およびSE-LCである。RSD:相対標準偏差。MADLS:多角度動的光散乱法。SE-LC:サイズ排除液体クロマトグラフィー。
【
図4B】
図4Bは、複数回の凍結/解凍サイクル後のAAV6ベクター製剤のカプシド力価および粒子濃度を示す。示されるエラーバーは、MADLSによる粒子濃度のN≧3試料測定からの±パーセンテージRSD、あるいはvg力価の±許容される試験変動、平均組織培養感染用量(TCID
50)、ELISA、およびSE-LCである。
【
図4C】
図4Cは、凍結/解凍AAV6ベクター製剤試料の一般的な純度品質特性の結果を示す表である。
【
図4D】
図4Dは、凍結/解凍AAV6ベクター製剤試料の強度品質特性の結果を示す表である。
【
図5A】
図5Aは、周囲(25℃/60%RH)条件における6ヶ月間にわたるvgおよび感染力価を示す。RH:相対湿度。
【
図5B】
図5Bは、周囲(25℃/60%RH)条件下における6ヶ月間にわたるカプシド力価および粒子濃度を示す。
【
図5C】
図5Cは、周囲(25℃/60%RH)条件下でインキュベートした試料の一般的な純度品質特性の結果を示す表である。ND:データなし。NAA:利用できる分析なし。
【
図5D】
図5Dは、周囲(25℃/60%RH)条件下でインキュベートした試料の強度品質特性の結果を示す表である。
【
図6A】
図6Aは、ストレス(40℃/75%RH)条件下における3ヶ月間にわたるvgおよび感染力価を示す。
【
図6B】
図6Bは、ストレス(40℃/75%RH)条件下における7ヶ月間にわたるカプシド力価および粒子濃度を示す。
【
図6C-1】
図6Cは、ストレス(40℃/75%RH)条件下でインキュベートした試料の一般的な純度品質特性の結果を示す表である。
【
図6C-2】
図6Cは、ストレス(40℃/75%RH)条件下でインキュベートした試料の一般的な純度品質特性の結果を示す表である。
【
図6D-1】
図6Dは、ストレス(40℃/75%RH)条件下でインキュベートした試料の強度品質特性の結果を示す表である。
【
図6D-2】
図6Dは、ストレス(40℃/75%RH)条件下でインキュベートした試料の強度品質特性の結果を示す表である。
【
図7】
図7は、安定化試料に関連する品質特性および失敗基準を示す表である。
【
図8】
図8は、試料間製剤評価概要を示す表である。
【
図9】
図9は、一般的な純度品質特性の試験エンドポイント傾向線および製剤評価を示す表である。
【
図10-1】
図10は、目的の保存温度(-70℃)におけるSB-525製剤の長期間(24ヶ月)安定性を示す表である。
【
図10-2】
図10は、目的の保存温度(-70℃)におけるSB-525製剤の長期間(24ヶ月)安定性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
本開示は、AAVベクターおよび1つまたはそれ以上の医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。本発明のAAVベクター組成物は、ゲノムが目的のタンパク質(例えば、治療タンパク質)の発現カセットを保有するrAAVを含んでいてもよい。本発明者らは、予想外なことに、カルシウムを実質的に含まない(例えば、製剤中に添加されたカルシウムを含まない)AAVベクター製剤が、従来の組成物と比較して、改善された安定性および半減期を示すことを知見した。カルシウムは、典型的に、AAV組成物の安定性を改善するという従来の考え方によりこれまでの製剤に含まれてきた(例えば、Turnbull et al., Hum Gene Ther. (2000) 11(4):629-35; Cotmore et al., J Virol. (2010) 84(4):1945-56を参照のこと)。本発明者らは、本発明のAAVベクター組成物が、改善された外観(例えば、透明度および無色)、より安定なpH、および少ない凝集(凍結/解凍サイクルおよび促進された安定性条件下での製品の品質特性によって決定される)を有することを知見した。カルシウムを含まずに製剤化されたAAVベクター製品が良好な製品安定性を示すことから、カルシウムイオンは、製品の機能または安定性に必要とされない。
【0023】
I.組換えAAVの調製
本明細書に記載のウイルス調製物は、いずれかの公知の生成系、例えば、哺乳類細胞AAV生成系(例えば、293TまたはHEK293細胞に基づく系)および昆虫細胞AAV生成系(例えば、sf9昆虫細胞を基づく系および/またはバキュロウイルスのヘルパーベクターを用いた系)によって得られてもよい。前記ウイルス調製物は、細胞培養物を、不連続の塩化セシウム密度グラジエントなどの周知技術を用いて精製されてもよい(例えば、 Grieger, Mol Ther Methods Clin Dev. (2016) 3:16002を参照のこと)。
【0024】
本発明の組成物は、様々なAAVセロタイプ、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV8.2、AAV9、AAVrh10、AAV10、およびAAV11、ならびにこれらの変異型、ハイブリッド、キメラまたは偽型のうちのいずれかまたは組み合わせのAAVを含んでいてもよい。「偽型」または「クロスパッケージ」rAAVは、例えば、ウイルスの形質導入効率または指向性プロファイルを変化させるために、カプシドが、別のAAVセロタイプのカプシドで置換されている組換えAAVを意味する(例えば、Balaji et al., J Surg Res. (2013) 184(1):691-8を参照のこと)。「キメラ」または「ハイブリッド」rAAVは、カプシドが、異なるセロタイプに由来するカプシドタンパク質から構成されるか、および/またはカプシドタンパク質が、異なるセロタイプに由来する配列を有するキメラタンパク質である組換えAAVを意味する(例えば、セロタイプ1および2;例えば、Hauck et al., Mol Ther. (2003) 7(3):419-25を参照のこと。例えば、本発明の組成物は、ITRなどのゲノムが、AAV2などのあるセロタイプに由来するが、カプシドが、別のセロタイプ(例えば、AAV2/8、AAV2/5、AAV2/6、AAV2/9、またはAAV2/6/9)に由来する組換えAAVを含んでいてもよい。例えば、米国特許第7,198,951および9,585,971号を参照のこと。
【0025】
II.組換えAAVの製剤
精製されると、AAV調製物は、所望される成分を含む組成物を得るために、例えば、タンジェンシャルフロー濾過、通常のフロー濾過(攪拌式セルを使用)、ゲル濾過、透析、カラムクロマトグラフィー、および/または脱塩カラムを通した緩衝剤交換によって本明細書に記載されるように製剤化することができる。一例として、精製されたウイルス調製物は、まず限外濾過(UF)、続いて透析濾過(DF)によって所望される製剤化水溶液の10倍またはそれ以上の等価容量で濃縮されうる。下記の実施例も参照のこと。
【0026】
製剤の溶液は、等張化剤、安定化剤、界面活性剤、および緩衝剤を含んでいてもよい。緩衝剤には、例えば、酢酸塩、コハク酸塩(例えば、コハク酸二ナトリウム六水和物)、コハク酸、グルコン酸、クエン酸塩、ヒスチジン、酢酸、リン酸塩、リン酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、酒石酸、マレイン酸塩、マレイン酸、グリシン、乳酸塩、乳酸、炭酸水素塩、カルボン酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸、エデト酸塩、イミダゾール、トリス、およびこれらの混合物が含まれうる。ある実施態様において、製剤化溶液には、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムが、例えば、それぞれ、約150~200mM(例えば、約150mM、約155mM、約160mM、約165mM、約168mM、約170mM、約171mM、約171.1mM、約171.2mM、約171.3mM、約171.4mM、約171.5mM、約171.6mM、約171.7mM、約171.8mM、約171.9mM、または約172mM)および約2.5-3.0mM(例えば、約2.5mM、約2.6mM、約2.61mM、約2.61mM、約2.63mM、約2.64mM、約2.65mM、約2.66mM、約2.67mM、約2.68mM、約2.69mM、または約2.7mM、約2.8mM、約2.9mM、約3.0mM)で含まれる。
【0027】
製剤化溶液は、例えば、リン酸二ナトリウムおよび/またはリン酸一カリウムによってリン酸緩衝化されていてもよい。ある実施態様において、製剤化溶液中の総リン酸イオン濃度は、約8~12mM(例えば、約9.6mMまたは約9.57mM)である。ある実施態様において、製剤化溶液は、約5~10mM(例えば、約5mM、約6mM、約7mM、約7.9mM、約8mMもしくは約8.1mM、約8.2mM、約8.5mM、約9mM、または約10mM)のリン酸二ナトリウムおよび約1~2mM(例えば、約1mM、約1.2mM、約1.3mM、約1.45mM、約1.47mM、約1.48mM、約1.49mM、約1.5、約1.6mM、約1.7mM、約1.8mM、約1.9Mm、または約2mM)のリン酸一カリウムを含む。製剤は、約6.5~8.0(例えば、約7.1~7.5、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、または約7.5)のpHであってもよい。
【0028】
製剤化溶液は、マグネシウムを含んでいてもよいが、添加されたカルシウムを含まない。ある実施態様において、製剤化溶液は、約0.1~2.0mM(例えば、約0.5~約1.4mM、約0.1mM、約0.2mM、約0.3mM、約0.4mM、約0.42mM、約0.44mM、約0.45mM、約0.46mM、約0.47mM、約0.48mM、約0.49mM、約0.5、約0.55mM、または約0.6mM)の塩化マグネシウムを含む。製剤化溶液は、添加されたカルシウムを含まず、医薬組成物はAAV調製物から調製されるが、製剤化溶液は、AAV製造および精製プロセスで持ち越されている追跡量のカルシウムを有しうる。例えば、医薬組成物は、比色分析アッセイによって測定されると、約0.10mM未満(例えば、約0.09、0.07、0.05、0.03、または0.01mM未満)のカルシウムを含みうる。ある実施態様において、医薬組成物は、比色分析アッセイによって測定されると、検出できないカルシウムを含む。ある実施態様において、医薬組成物は、カルシウムを含まない(すなわち、0mMのカルシウム)。
【0029】
製剤化溶液は、ポリオール、例えば、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、エリトリトール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、キシリトール、グリセロール、ラクチトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イノシトール、フルクトース、グリコール、マンノース、ショ糖、ソルボース、キシロース、乳糖、マルトース、デキストラン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、可溶性デンプン、ヒドロキシエチルスターチ、水溶性グルカン、またはこれらの混合物を含んでいてもよい。ある実施態様において、製剤化溶液は、約0.5%~2%(例えば、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、または約1%)(w/v)ショ糖を含む。
【0030】
製剤化溶液は、非イオンまたはイオン性親水性界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤の例は、ポリソルベート、ポロキサマー、トリトン、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オクチルグリコシドナトリウム、ラウリルスルホベタイン、ミリスチルスルホベタイン、リノレイルスルホベタイン、ステアリルスルホベタイン、ラウリルサルコシン、ミリスチルサルコシン、リノレイルサルコシン、ステアリルサルコシン、リノレイルベタイン、ミリスチルベタイン、セチルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、リノールアミドプロピルベタイン、ミリスタミドプロピルベタイン、パルミドプロピルベタイン、イソステアラミドプロピルベタイン、ミリスタミドプロピルジメチルアミン、パルミドプロピルジメチルアミン、イソステアラミドプロピルジメチルアミン、ココイルメチルタウリンナトリウム、オレオイルメチルタウリン二ナトリウム、ジヒドロキシプロピル PEG-5リノールアンモニウムクロリド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ソルビタンモノステアレート(例えば、Spans)、グリセロールの酸エステル、およびこれらの混合物である。ある実施態様において、界面活性剤は、ポリソルベート(PS)20、PS-21、PS-40、PS-60、PS-61、PS-65、PS-80、PS-81、PS-85、PEG-3350、ポロキサマー188、およびこれらの混合物であってもよい。ある実施態様において、製剤化溶液は、ポロキサマー188を約0.01%~0.1%(例えば、約0.01%、約0.02%、約0.03%、約0.04%、約0.05%、約0.06%、約0.07%、約0.08%、約0.09%、または約0.1%)(w/v)で含む。
【0031】
ある実施態様において、医薬組成物は、製剤F2またはF3中にAAVベクターを含む。F2およびF3の成分を下記表Aに示す。ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(カルシウムおよびマグネシウムを含む)は、細胞培養のために一般的に用いられる製剤である。F0は、別の従来のカルシウムを含有する製剤である。下記実施例に示されるように、F2およびF3は、AAVを製剤化するとDPBSおよびF0より優れている。
表A.製剤の比較
【表1】
【0032】
本明細書で用いられるように、製剤中の様々な成分の濃度は、小数点0、1、または2で表されうる。よって、例えば、F2において、NaCl、KCl、Na2HPO4、KH2PO4、MgCl2、およびショ糖の濃度は、それぞれ、171.80(または171.8もしくは172)mM、2.68(もしくは2.7)mM、8.10(または8.1もしくは8)mM、1.47(もしくは1.5)mM、0.49(もしくは0.5)mM、および1.00%(または1.0%もしくは1%)(w/v)として表されてもよい。F3において、NaCl、KCl、Na2HPO4、KH2PO4、MgCl2、およびショ糖の濃度は、それぞれ、171.80(または171.8もしくは172)mM、2.68(もしくは2.7)mM、8.10(または8.1もしくは8)mM、1.47(もしくは1.5)mM、1.40(または1.4)mM、および1.00%(または1.0%もしくは1%)(w/v)として表されてもよい。
【0033】
医薬組成物は、1つまたはそれ以上の保存剤、例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)、亜硫酸塩、ソルビン酸塩、安息香酸塩、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、および/またはパラベン(例えば、メチルパラベン)をさらに含んでいてもよい。ある実施態様において、医薬組成物は、添加される保存剤は含まれない。
【0034】
医薬組成物は、医薬組成物の有効性を高める他の試薬を含んでいてもよい。医薬組成物は、送達ベヒクル、例えば、リポソーム、ナノカプセル剤、微小粒子、ミクロスフェア、脂質粒子、および小胞を含みうる。
【0035】
III.典型的な組換えAAV
典型的な実施態様において、本開示は、第VIII因子遺伝子療法のためのrAAVベクターを含む改善された医薬組成物を提供する。PF-07055480/SB-525(または本明細書では、「SB-525」)と称されるrAAVベクターは、2/6シュードセロタイプのものであって、AAV6カプシドおよびAAV2逆位末端配列(ITR)を有する組換えゲノムを含む。SB-525のゲノムは、ヒト第VIII因子(FVIII)のBドメイン欠失(BDD)型をコードする発現カセットを保有する。例えば、WO2017/074526(配列番号37)を参照のこと。SB-525は、静脈内(IV)用量として投与され、血友病A患者における第VIII因子タンパク質の長期間の肝臓産生を提供するための肝臓特異性を有する。WO2020/028830を参照のこと。分泌型FVIIIタンパク質は、承認された組換え抗血友病因子(Refacto(登録商標)およびXyntha(登録商標))と同一のアミノ酸配列を有する。
【0036】
SB-525のゲノムは、ヒト第VIII因子BDD型のための発現カセットを含み、下記に示されるアミノ酸配列を有する:
【表2】
【0037】
配列番号1のシグナルペプチド部分は、上記ボックスで示され、タンパク質が分泌されるときに切り離される。
【0038】
SB-525ゲノムは、以下のヌクレオチド配列を含む:
【表3】
【表4】
【0039】
上記配列において、左側(5’)ITR(AAV2 ITR)は、ヌクレオチド1~130に及び、右側(3’)ITR(AAV2 ITR)は、ヌクレオチド5025~5132に及ぶ。両ITRをボックスで示す。
【0040】
IV.組換えAAV製剤の使用
本発明の医薬組成物は、使用のためのバイアル(例えば、予め処理されたガラスバイアルまたはCOPバイアル)および説明書を含む製品(例えば、キット)によって供給されうる。ある実施態様において、各バイアルは、0.5~50mL(例えば、1~10mL)中にAAVの1mLあたり約1E+11~1E+15vgを含む。ある実施態様において、各バイアルは、5E+12~1E+14/mL(例えば、1E+13vg/mL)を含む。ある実施態様において、各バイアルは、6mL中に6E+13vgを含む。
【0041】
前記組成物は、患者に1回またはそれ以上投与されてもよい。例えば、前記組成物は、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、または1年未満の間隔で患者に投与されてもよい。ある実施態様において、前記組成物は、2年、5年、7年、10年、または15年未満の間隔で患者に投与されてもよい。前記医薬組成物は、治療される疾患に適切な経路によりそれを必要とする患者に提供されてもよい。例えば、前記組成物は、静脈内注射、動脈内注射、脳内注射、腹腔内注射、門脈注射、または筋肉内注射により投与されてもよい。例えば、SB-525医薬組成物は、1E+11~1E+15vg/kg、例えば、1E+11~1E+14(例えば、1E+12~1E+14)vg/kgで血友病A患者に静脈内に提供されてもよい。ある実施態様において、SB-525医薬組成物は、5E+11、6E+11、7E+11、8E+11、9E+11、1E+12、2E+12、3E+12、4E+12、5E+12、6E+12、7E+12、8E+12、9E+12、1E+13、2E+13、3E+13、4E+13、5E+13、6E+13、7E+13、8E+13、9E+13、または1E+14vg/kgで血友病A患者に静脈内に提供されてもよい。ある実施態様において、SB-525組成物は、約6E+13vg/kgの用量で血友病A患者に静脈内に提供される。
【0042】
ある実施態様において、患者は、重度または中等度の血友病Aに罹っている。さらなるある実施態様において、患者は、阻害因子(第VIII因子に対する同種抗体)を有していない。ある実施態様において、患者は、AAV6に対する中和抗体を有していない。患者は、成人もしくは青年患者(≧12歳)または小児患者(<12歳)であってもよい。
【0043】
本明細書で他で定義されない限り、本開示に関して用いられる科学および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するべきである。例示の方法および材料が下記で記載されるが、本明細書に記載の方法および材料と同様または同等のものもまた本開示の実施または試験で用いることができる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先される。一般に、本明細書に記載される心臓病学、医学、医薬品化学および製薬化学、ならびに細胞生物学に関して用いられる命名法および技術は、当該技術分野で周知であり、一般に用いられるものである。酵素反応および精製技術は、製造業者の説明書に従って、当該技術分野で一般的に実施されるように、または本明細書に記載されるように行われる。さらに、他に文脈上必要とされない限り、単数形の用語は、複数形を含むべきであり、複数形の用語は単数形を含むべきである。本明細書および実施態様を通して、単語「有する(have)」および「含む(comprise)」、あるいは「(has)」、「(having)」、「(comprises)」または「(comprising)」などの変化形は、記載される整数または整数群を含むことを意味するが、他の整数または整数群を排除するものではないことが認められる。本明細書で記載の全ての刊行物および他の参考資料は、参照によりそれらの全体が取り込まれる。Although 多くの文献が本明細書で引用されるが、この引用は、これらの文献のいずれもが当該技術分野における技術常識の一部を形成することを認めるわけではない。本明細書で用いられるように、1つまたはそれ以上の目的の値に適用される用語「およそ」または「約」は、記載される参照値に類似する値を意味する。ある実施態様において、前記用語は、特に示されていないか、または文脈から明らかでない限り、記載される参照値のいずれかの方向(異常または以下)における10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ以下に入る値の範囲を意味する。
【0044】
本発明がより理解され得るために、下記の実施例が説明されている。これらの実施例は、単に例示を目的とするものであって、いずれの方法においても本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0045】
下記の実施例は、本発明者らが、現在のSB-525製剤が、生物学的製品の半減期および長期安定性を評価するための一般的な試験である凍結/解凍サイクリングにより沈殿物を形成することを知見した研究を記載する。本発明者らはまた、沈殿物が緩衝液製剤のみ(すなわち、活性のウイルスベクター成分を含まない緩衝液製剤)で形成されたことを知見した。よって、本発明者らは、この課題を解決する新規製剤を見出した。
【0046】
本研究において、SB-525ウイルス調製物は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に約1.0E+13vg/mLにて、CaCl2、MgCl2、35mM NaCl、1% ショ糖、および0.05% Kolliphor(登録商標)P188(ポロキサマー188)を加え、5mLで6mLのAseptic Technologiesクリスタルクローズドバイアルに密封して調製し、製剤化し、≦-65℃で保存した。安定性試験では、SB-525組成物を-0℃、5℃、および25℃で24ヶ月間安定性にかけた(表5)。非制御の凍結/解凍(F/T)の5サイクル(表1)および24時間攪拌(AG)(表2)も行った。製剤(DP)品質特性を表5~表8に従って分析した。
【0047】
実施例1:凍結/解凍サイクリングおよび攪拌試験
材料と方法
SB-525は、下記成分:0.90mM CaCl2、0.49mM MgCl2、2.68mM KCl、1.47mM KH2PO4、172mM NaCl、8.10mM Na2HPO4、1%(w/v)ショ糖、0.05%(w/v) ポロキサマー188(pH7.36)を含む製剤化緩衝液中で1.0E+13vg/mL(公称上)にて供した。23個のバイアルを-70℃、11個を5℃、および8個を25℃で保存した。
【0048】
凍結/解凍(F/T)サイクリング試験では、試料を、表1で示されるように、3サイクルまたは5サイクルの非制御のF/Tで周期させた。
表1.DP非制御F/T周期
【表5】
【0049】
攪拌試験では、試料を表2で示されるように室温で攪拌した。
表2.DP攪拌設定
【表6】
【0050】
-70℃、5℃、25℃それぞれで保存したバイアルを、(i)外観(液体)、pH、動的光散乱法(DLS)、および高精度液中パーティクルカウンター(HIAC);(ii)vg同一性(qPCR)、vg力価(qPCR)、カプシド力価(ELISA)、カプシド同一性(ELISA)、および感染力価(TCID50);(iii)インビトロFVIII活性(生物アッセイ);または(iv)UV260/280、還元CE-SDS、SEC力価_260/280について分析した。
【0051】
F/T周期にかけた試料を、(i)外観(液体)、pH、モル浸透圧濃度、DLS、HIAC;(ii)vg力価(qPCR)、カプシド力価および同一性(ELISA)、還元SDS-PAGE、および感染力価(TCID50);または(iii)UV260/280、SEC力価_260/280、RP-HPLC、インビトロFVIII活性(生物アッセイ)、および還元CE-SDSについて分析した。
【0052】
24時間攪拌(AG)にかけた試料を、(i)外観(液体)、pH、モル浸透圧濃度、DLS、およびHIAC;(ii)vg力価(qPCR)、カプシド力価および同一性(ELISA)、還元SDS-PAGE、感染力価(TCID50);または(iii)UV260/280、SEC力価_260/280、RP-HPLC、インビトロFVIII活性(生物アッセイ)、および還元CE-SDSについて分析した。
【0053】
結果
SB-525のDP安定性、非制御F/Tの5サイクル、および24時間攪拌群からの結果を以下に記載する。
【0054】
下記表3で示されるように、試料を1ヶ月間まで試験条件で保存した場合、色、透明度、pH、流体力学半径(DLSによって測定)、vg力価、カプシド力価、カプシド純度(SDS-PAGEによって測定)、感染力価、UV260/280(空:全カプシド比率の代替測定)、および生物学的活性(相対%効力)においてあまり変化がなかった。5℃および25℃で目視可能な粒子に変化があった。全ての試料を凍結し、T
ゼロ(T
0)で白く不透明に見えた。
表3.安定性結果
【表7】
【表8】
【0055】
表4で示されるように、全ての保存条件で1ヶ月後にカプシド純度にあまり変化がなかった。
表4.カプシド純度の安定性結果
【表9】
【0056】
表5で示されるように、全ての保存条件で1ヶ月後の高分子種(HMWS)の凝集または形成はあまりなかった(NMT:未満;LOQ:定量の限界)。
表5.1ヶ月後のSEC力価安定性結果
目的、加速、およびストレス保存条件
【表10】
【0057】
表6で示されるように、全ての保存条件で1か月後に(HIACによる)肉眼で見えない粒子はあまり増加していなかった。全ての時点において、≧10μmおよび≧25μmの範囲に関して(許容基準は、1容器あたり>10μmで6,000粒子未満および1容器当たり>25μmで600粒子である)、USP<787>標準以下の粒子を示した。
表6.HIAC安定性の結果
【表11】
【0058】
表7で示されるように、F/T/AGストレスにより色、透明度、pH、流体力学半径(DLSにより測定)、vg力価、カプシド力価、感染力価、UV260/280(空:全カプシド比率の代替測定)、カプシド純度(RP-HPLCにより測定)、および生物学的活性(相対%効力)においてあまり変化がなかった。F/Tにおいて目視可能な粒子に変化があった。
表7.サイクル非制御F/Tおよび24時間AGの結果
【表12】
【0059】
表8で示されるように、F/T/AGストレスによる還元CE-SDSにおいてあまり変化がなかった。
表8.5サイクル非制御F/Tおよび24時間AGのCE-SDS還元の結果
【表13】
【0060】
表9で示されるように、F/T/AGストレスにより攪拌/HMWS製剤にあまり変化がなかった。
表9.5サイクル非制御F/Tおよび24時間AGのSEC力価の結果
【表14】
【0061】
表10で示されるように、F/Tにより(HIACによる)目視不可能な粒子が顕著に増加した。F/Tによる粒子は、≧10μmおよび≧25μmの範囲に関して、USP<787>標準以上であったが;AGによる粒子は、≧10μmおよび≧25μmの範囲に関して、USP<787>標準以下であった。
表10.5サイクル非制御F/Tおよび24時間AGのHIAC結果
【表15】
【0062】
上記結果により、SB-525試料は、-70℃、5℃、または25℃で1ヶ月まで保存した場合、色、透明度、pH、流体力学半径(動的光散乱法により測定)、vg力価、カプシド力価、感染力価、空:全カプシド比(UV260/280により測定)、生物学的活性(相対%効力)、カプシド純度(SDS-PAGE、還元CE-SDSおよびRP-HPLCにより測定)、またはウイルス粒子力価においてあまり変化を示さなかったことが示される。また、F/TもしくはAGストレスのいずれにより色、透明度、pH、流体力学半径(動的光散乱法により測定)、vg力価、カプシド力価、感染力価、空:全カプシド比(UV260/280により測定)、生物学的活性(相対%効力)、カプシド純度(SDS-PAGE、還元CE-SDS、RP-HPLCにより測定)、またはウイルス粒子力価においてあまり変化がなかった。しかしながら、F/Tにより(HIACによる)目視不可能な粒子において顕著に増加し、5℃および25℃の保存1ヶ月後に目視可能な粒子が増加した。前記試験は、これらの結果により1ヶ月で終了した。
【0063】
実施例2:F/T後のDPバイアルにおける粒子状物質の特徴付け
SB-525製剤の上記安定性試験からの試料(粒子状物質が観察された)を単離および同定のためにさらに分析した。
【0064】
5凍結/解凍サイクルを経た製剤試料(「5F/T後のDP」)および25℃で1ヶ月間保存させた試料(25℃で1M後のDP)を分析した。粒子状物質を0.8μmの金フィルター上で単離した。次いで、これを、前記フィルター上でKeyence VHX6000デジタル顕微鏡を150xの倍率で用いて部分リング照明下で画像化した。続いて、該フィルターをフーリエ変換赤外(FTIR)顕微鏡に移し、スペクトルを前記物質について得た。FTIRスペクトルを、公知のスペクトルに関するKnowItAllデータベースと比較した。25℃で1M後のDP試料の一部もまた、該フィルターからガラススライドに削ぎ落し、Nikon Eclipse ME600偏光顕微鏡を用いて直線偏光および直交ポラー下で画像化した。前記金フィルターの一部を切り取り、EDSモジュールを搭載したJEOL6000SEMで分析した。前記試料もまた、ラマン顕微鏡解析により分析した。
【0065】
全ての試料について、デジタルイメージングにより、半結晶物に見える白色の固形物が示された。直交ポラー下において、「5F/T後のDP」試料では、複屈折が示されず、このことは、アモルファス物質または等方晶のいずれかであることが示す。SEM/EDS分析により、大部分が酸素、リンおよびカルシウムであることが示された。FTIR分析により、前記物質が塩として同定されたが、さらなる同定が必要であった。ラマン顕微鏡により、リン酸カルシウムのピーク特性を検出できたが、このことは、全ての試料における白色粒子状物質がリン酸カルシウムであることを示す。
図1A-Fは、粒子特徴付け試験の概要である。
【0066】
実施例3:SB-525の再製剤化
この実施例は、上記で見られた沈殿物の問題を回避できる新規SB-525製剤を試験する実験を記載する。これらの実験により、(1)カルシウムを除去し、(2)カルシウムおよびマグネシウムを除去し、または(3)ショ糖を8.5%まで増加させて再製剤化した場合のSB-525DPの短期安定性を評価した。これらの変更により、粒子の発生を、(1)粒子の供給源を除去することにより、(2)MgCl2の溶解性の懸念により二価陽イオンの両方を除去することにより、または(3)凍結/解凍ストレスに対する製剤の安定性を増加させることにより、それぞれ防ぐことが記載される。2つのパイロットバッチは、表面積対体積(SA/V)充填について最悪の場合の条件を追跡するために、6mLのATバイアルに2.5mLで緩衝液交換し、充填させた。充填/最終化後、バイアルを5非制御凍結/解凍サイクル(周囲に対して≦-65℃)にかけ、続いて、≦-65℃(意図した保存)、2-8℃(ストレス;液体保存)、25℃(加速;液体保存)、および40℃(攻撃的/強制的分解条件;液体保存)で安定性にかけた。これらの条件は、製剤間の差異が明確となることを予測して選択した。
【0067】
SB-525ウイルスを、清澄化したバルクハーベストから精製し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(CaCl2、MgCl2、35mM NaCl、1% ショ糖、および0.05% Kolliphor(登録商標)P188(ポロキサマー188)を含む)中に約1.0E+13vg/mLで製剤化し、バイアルに充填し、≦-65℃で保存した。
【0068】
材料および方法
SB-525製剤化バルク原薬には、0.90mM CaCl2、0.49mM MgCl2、2.68mM KCl、1.47mM KH2PO4、172mM NaCl、8.10mM Na2HPO4、1%(w/v) ショ糖、0.05%(w/v) ポロキサマー188中でSB-525(1.0E+13vg/mL(公称上))が含まれ(pH7.0~7.6)、滅菌濾過し、125mLのHDPEボトル中において≦-65℃で保存した。Na2HPO4(リン酸ナトリウム,二塩基,無水)、KH2PO4(リン酸二水素カリウム)、CaCl2(塩化カルシウム二水和物)、およびMgCl2(塩化マグネシウム六水和物)の供給元は、JT BakerまたはFischerであった。ポロキサマー188の供給元は、BASFであった。保存バイアルは、一次包装施栓、シクロオレフィンコポリマー(COC)の所定位置熱可塑性エラストマー栓および黄色の蓋を備えたバイアルである6mLのAseptic Technologies(AT)クローズドクリスタルバイアル(Aseptic Technologies;cat#VIA-060000)であった。DP充填前に、製剤化されたバルク原薬(FBDS)を125mLの高密度ポリエチレン(HDPE)ボトルに充填し、≦-65℃で凍結した。次いで、ボトル周囲温度で融解し、緩衝液交換し、濾過し、6mLのATバイアルにAseptic Technologies M1ユニットを用いてDP充填した。1つのパイロットバッチ物質を、合計10交換体積において、50kDaのフィルターユニットを用いて約40psiの圧力でTFFにより緩衝液交換した。次のパイロットバッチを、合計10交換体積において、50kDaのNMW PESフィルター上でアミコン攪拌式セルを用いて約40psiで緩衝液交換した。これらの2つの交換方法は、これまで、AAVについてあまり物質を喪失し、または吸収することなく用いられてきた。
【0069】
前記ATバイアルを、約1.0E+13vg/mLの目標で2.5mL充填し、≦-65℃から周囲条件に非制御の速度で凍結/解凍を5回繰り返し、次いで非GMP保存ユニット中で安定性にかけた。バイアルを表11に概略される安定性実施(pull)スケジュールにかけ、表12に記載の方法によって試験した。試験した製剤を表13に概略する。
表11.カプシド純度安定性スケジュール
【表16】
表12.分析試験
【表17】
表13.製剤
【表18】
【0070】
結果
製剤の特徴付け
正しい製剤が達成されたことを確認するために、SB-525DP製剤を、オスモル濃度、P188濃度、ショ糖濃度、およびカプシド比および純度(還元CGEによる)について調べるために試験した。M05-M08についてのこれらの試験結果を下記表14に示す。カプシド純度および比は、rCGEによって測定されるように、あまり相違は示されなかった。オスモル濃度は、ショ糖レベルに応じて予測される範囲内である。M05-M08試料は、P188の正しい濃度を示した。さらに、カルシウムおよびマグネシウムの濃度は、CEDEXにより全ての製剤について予測される範囲内であることが確認された。
表14.製剤の特徴付け
【表19】
【0071】
ベクターゲノム力価(vg/mL)
M05-M08のベクターゲノム力価の結果を下記の表15で示す。≦-65℃および2~8℃条件では、4週間の保存後にあまり変化は見られなかった。40℃で3日間の後、Ca/Mgを含まない製剤は、ベクターゲノム力価が減少傾向であることが示された。この結果は、実験上のばらつきの範囲内と考えられるが、この製剤のvp力価およびUV260/280の結果と一致する。
表15.ゲノム力価(vg/mL)
【表20】
【0072】
目視外観
全ての製剤は、それぞれ色度および透明度標準であるB9色およびオパールエッセンス参照1と同等もしくはそれ以下を示し、全ての時点および条件について白黒背景に対する外観検査に使用した(例えば、Ph. Eur. 7.0, 20201, 20202 (01/2008);Millipore Sigma色度参照溶液Bを参照のこと)。目視外観の結果により、「コントロール」製剤(M05)のみが、25℃で1週間以上の間、または40℃で3日間またはそれ以上置いた場合に数えきれないほど多い(TMTC)白色薄片状粒子を示したことが示される。M06およびM07製剤は、TMTC目視可能な粒子をわずかに示したが;これらの試料の粒子状態全てが繊維状粒子であった。これらの粒子は本試験では同定しなかったが、繊維状粒子は、リン酸カルシウムの特徴である薄片状粒子に対して、外因性粒子(例えば、フィルター粒子)の特徴が強い。また、繊維状/外因性粒子の外観は、DPが厳密に管理された環境条件下で生成されない研究室での開発試験では無視できる。
【0073】
累積目視不可能な粒子
HIACによる目視不可能な累積粒子分析により、目視不可能な粒子数が顕著な製剤は「コントロール」製剤のみでことが示され、これにより、攻撃的な安定性条件(より高い温度でより長期間)で増加する傾向にあることが示された。他の製剤(M06-M08)では、時間または条件に関わらずわずかな粒子数のみが示された。
【0074】
機能的生物アッセイ(効力)
機能的FVIII生物アッセイ結果を下記表16に示す。結果は、試料が≦-65℃または2-8℃のいずれかの条件で維持した場合に効力にあまり変化がないことが示された。25℃では、4週間後の全ての製剤(M05-M08)で効力が減少する傾向にあった。40℃では、3日後のCa/Mgを含まない製剤で効力が顕著に減少した。
表16.機能的生物アッセイ(相対効力)
【表21】
【0075】
SEC
SEC結果を下記に示す。凝集割合の結果を下記表17に示す。≦-65℃、2~8℃、または25℃の安定性条件で凝集にあまり傾向は見られなかった。40℃では、Ca/Mgを含まない製剤について、1ヶ月後に7%未満のHMWSと凝集が増加傾向にあった。「カルシウムを含まない」製剤では、40℃で1ヶ月後に約3%のHMWSが示された。他の製剤では、≦-65℃または2~8℃で5週間、25℃で4週間、および40℃で1週間まで置いた場合に凝集にあまり増加は示されなかった。
表17.SECによる凝集の濃度(%HMWS)
【表22】
【0076】
ウイルス粒子の結果を下記表18に示す。≦-65℃、2~8℃、または25℃の条件で維持した全ての製剤でウイルス粒子力価にあまり変化が示されなかった。しかしながら、40℃では、3日および1週間後にCa/Mgを含まない製剤の粒子力価に顕著な減少があった。他の製剤(M05-M06、M08)では、≦-65℃または2-8℃で5週間、25℃で4週間、および40℃で1週間まで維持した場合にウイルス粒子力価にあまり減少は示されなかった。
表18.SECによるウイルス粒子力価(vp/mL)
【表23】
【0077】
UV260/280比の結果を下記表19に示す。UV260/280比について、40℃で維持した場合にCa/Mgを含まない製剤について減少傾向にあった。UV260/280は、空/全粒子比の代替測定と考えられている。他の製剤(M05、M06、およびM08)では、示されるように、いずれの条件または時点でもUV260/280比に全く変化が示されなかった。
表19.SECによるUV260/280比
【表24】
【0078】
pH
下記表20に示されるように、全ての製剤についていずれかの条件および時点においてpHに変化はあまりなかった。
表20.pH
【表25】
【0079】
質量分析による特徴付け(脱アミド化)
質量分析により決定される脱アミド化の結果を表21に示す。低温で保存した試料は5週間の試験期間で製剤間にあまり差異を示すことが予測されないことから、40℃で保存した試料のみをとして本試験で用いた。
【0080】
結果は、全ての製剤のT
0としてコントロール製剤のT
0を用いて示した。全ての脱アミド化部位について、AAV VP1におけるN57GおよびN94Hのホットスポットは、40℃で3週間にて脱アミド化の最も顕著に増加を示した2つである。他の部位でも脱アミド化の増加が示されたが、非常に少ない程度であった(示さず)。これらの2つのホットスポットは、導入効率に影響を与えることが予測されるため、特に重要である。Ca/Mgを含まない製剤により、脱アミド化に最も顕著な増加が示された。他の製剤(M05、M06、およびM08)全てにおいても、40℃で3日および3週間後に同様のレベルの脱アミド化の増加が示された。
表21.質量分析法による脱アミド化(40℃における%)
【表26】
【0081】
結論
現在のSB-525製剤における3つの可能な変更を施した製剤を評価した:カルシウムを含まない製剤、カルシウムもマグネシウムも含まない製剤、およびショ糖を高濃度で含む製剤。実施例1および2は、特に、凍結/解凍サイクリング、続いて25℃で1週間以上または40℃で3日間またはそれ以上のいずれかで安定性にかけた後に、緩衝液と製剤の両方で見られる非常に多くの白色薄片状粒子のランダムな発生を示す。前記粒子をリン酸カルシウムと同定した。
【0082】
本明細書の結果により、塩化カルシウムは、意図した保存条件またはストレス保存条件で製剤安定性のために必須ではない賦形剤であることが示される。また、「カルシウムを含まない」および「高ショ糖」製剤について40℃で2週間まで、25℃で4週間、ならびに5℃および-70℃で5週間までの間であまり相違が見られなかった。しかしながら、製剤からのカルシウムおよびマグネシウムの両方の除去は、特に40℃で維持した場合、vgおよびvp力価のより大きな減少ならびにより高い脱アミド化および凝集を示すことを含む、製剤品質特性に変化を生じさせることが観察された。さらに、5週間を通して、従来の(コントロール)製剤のみが白色薄片状粒子を示し続けたことがわかった。
【0083】
実施例4:SB-525のさらなる再製剤化
粒子の発生を防止するために、この実施例では、製剤に対して3タイプの変化を試験した:(1)FTストレスに対する安定性を増加させるために、ショ糖濃度を1%から5~10%に増加させること、(2)粒子の供給源を除去し、可能性のある溶解性問題を防止するために、二価陽イオンを除去すること、および(3)製剤のイオン強度を変化させるために、NaClを増加させること。
【0084】
より具体的には、この実施例の実験では、従来の(コントロール)製剤と比較して数種類の変化のうちの1つに対して再製剤化した場合のSB-525緩衝液の安定性を評価した;すなわち、172mM NaCl、8.10mM Na2HPO4、2.68mM KCl、1.47mM KH2PO4、0.90mM CaCl2、0.49mM MgCl2、1%(w/v)ショ糖、および0.05%(w/v) ポロキサマー188、pH7.0~7.6。製剤を6mLのATバイアル内に5mLで充填し、5非制御F/Tサイクル(周囲に対して≦-65℃)にかけ、続いて2-8℃(加速;液体保存)および25℃(ストレス;液体保存)で熱安定性にかけて、粒子形成に対する様々な緩衝液を評価した。
【0085】
試験設計
試験した製剤を、表22に示されるように、塩化およびリン酸化ナトリウムおよびカリウムを水に加え、続いてショ糖を加えることにより製剤化した。必要に応じて、塩化マグネシウム、続いて塩化カルシウムを別の50mL溶液中で調製し、より多い溶液に移す。次いで、ポロキサマー188を該溶液に加えた。次に、該製剤を適量にし、pHを試験し、0.22μmのPESフィルターに通して濾過した。
表22.製剤
【表27】
【0086】
これらの製剤によりATバイアルを5mLで充填し、5非制御凍結/解凍サイクルにかけ、5℃または25℃のいずれかで安定性にかけた。安定性実施スケジュールを表23で概略する。前記表において、Xは、外観(液体)を示し;Aは、オスモル濃度(凝固点降下)、導電率、粘度、および密度を示し;Bは、HIACによる光遮蔽法を示し;Cは、P188濃度を示し;ならびにDは、pHを示す。
表23.安定性スケジュール 0139-M03~-M08
【表28】
【0087】
製剤特性
SB-525緩衝液製剤を、導電率、オスモル濃度、密度、および粘度を決定するために試験した。P188濃度もまた、5℃保存の2.5週間、および25℃の5日間で測定した。これらの試験の結果を下記表24に示す。M03-M09についての導電率、オスモル濃度、密度、および粘度の結果は全て予想どおりであり-ショ糖のより多い量は、より高いオスモル濃度、密度、および粘度を生じ;より多いNaClは、より高いオスモル濃度および導電率を生じた。P188濃度の結果は、結果の各セットについての方法のばらつきの範囲内であり、正しいP188濃度が製剤化中に達成されたことを確認した。
表24.製剤の特徴付け
【表29】
【0088】
pH
下記表25で示されるように、FTサイクリング中にいずれの製剤についてもpHにあまり変化は見られなかった。
表25.pH結果
【表30】
【0089】
目視外観
全ての試料は、試験した各条件および時点においてB9色およびオパールエッセンス参照1と同等もしくはそれ以下を示した。目視外観の結果により、コントロール製剤(M09)のみで5℃および25℃の5日間から8週間までで数えきれないほど多い(TMTC)白色薄片状粒子が常に示された。5%のショ糖製剤は、TMTC目視可能な粒子のランダムな発生を示した。多くの試料もまた、1~5個の繊維状粒子を示した。これらの粒子は本試験では同定しなかったが、繊維状粒子は、リン酸カルシウムの特徴である薄片状粒子に対して、外因性粒子(例えば、フィルター粒子)の特徴が強い。また、繊維状/外因性粒子の外観は、DPが厳密に管理された環境条件下で生成されない研究室での開発試験では無視できる。
【0090】
目視不可能な粒子数
HIACによる目視不可能な粒子分析により、顕著で一定の目視不可能な粒子数を示す製剤は、コントロール製剤(M09)のみであることが示され、このことは、より高い安定性条件(25℃)で保存を続けることにより悪化した。他の製剤(M03-M08)では、時間または条件に関わらず粒子数はあまり示されず、全体的な傾向が示されなかった。
【0091】
結論
この実施例は、従来の(コントロール)SB-525製剤とのいくつかの製剤の差異における凍結/解凍ストレスおよび熱安定性の効果を評価した。7つの異なる製剤をATクリスタルクローズドバイアルに充填し、凍結/解凍サイクルにかけ、5℃および25℃で8週間保存した。全ての試験条件を通して、コントロール製剤のみが常に白色薄片状粒子を示し続けた。
【0092】
FTサイクル後、いずれの製剤も目視可能な粒子形成もpH変化もあまり示さず、それゆえ、全ての製剤を8週間にわたる5℃および25℃における短期間安定性にかけた。安定性にかけたことにより、一定して目視可能な粒子を顕著に発生することが示されたのは、コントロール製剤(M09)のみであった。前記粒子の結果が同等であったため(すなわち、目視可能な粒子があまり発生しないため)、「200mM NaCl」(M03)、「5% ショ糖」(M04)、および「10% ショ糖」(M06)製剤を続く再製剤化試験において選択しなかった。特に、「5% ショ糖」製剤(M04)では、白色薄片状粒子のいくらかの形成が示され、このことは、このショ糖濃度がFTストレスによる粒子の発生を防止するために十分ではない可能性を示し、および「10% ショ糖」(M06)がその高い粘度による製造課題を導入してしまうことを示す。よって、これらの結果に基づくと、「8.5% ショ糖」(M05)、「カルシウムを含まない」(M07)、および「カルシウムおよびマグネシウムを含まない」(M08)製剤は、有望でありうる。
【0093】
実施例5:SB-525の最終製剤
SB-525(PF-07055480)原薬(DS)の組成および説明を表26に示す。前記製剤は、7.3±0.3の最終pHであった。賦形剤濃度は、塩基緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水)を加えることにより全体として、または部分的に得た。DS濃度の目標は、DS目標の50-250%のDS範囲で1.0E+13vg/mL(0.5E+13~2.5E+13vg/mL)であった。
表26.SB-525原薬製剤の説明
【表31】
【0094】
SB-525(PF-07055480)製剤の組成および説明を表27に示す。前記DPは、7.3±0.3の最終pHであった。賦形剤濃度は、塩基緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水)を加えることにより全体として、または部分的に得た。DP濃度の目標は、DP目標の30-300%のDP範囲で1.0E+13vg/mL(0.3E+13~3.0E+13vg/mL)であった。
表27.SB-525原薬製剤の説明
【表32】
【0095】
容器および充填体積
濾過した原薬を無菌高密度ポリエチレン(HDPE)ボトル中に包装した。該DPを、所定位置に熱可塑性エラストマー共栓が付いたAT10mLのシクロオレフィンコポリマー(COC)バイアル(Aseptic Technologies VIA-101800)に充填した。DSおよびDPを-60℃~-90℃で保存した。各バイアルには、6.4E+13(公称上、6.0E+13)vgのSB-525AAVとともに、6.4mLのDP(目的の抽出可能な体積6mL)が含まれた。
【0096】
DPの特徴付け
SB-525DPの粘度、オスモル濃度、密度、および導電率を測定した。密度は1.0106g/mL(20℃)であった。粘度は1.112cP(20℃)であった。オスモル濃度は374mOsm/kgであった。導電率は17.80mS/cm(20℃)であった。
【0097】
実施例6:AAV6ウイルスベクター原薬製剤
下記実施例6~8は、様々な濃度の二価陽イオン塩を含むAAV2/6ウイルスベクター製剤を評価するために行ったさらなる再製剤化および加速安定性試験を記載する。前記実施例と同様に、ウイルスベクターは、AAV6カプシドおよび組換えゲノム(AAV2 ITRを含む)を有する。ここでのウイルスベクターは、アルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)をコードする導入遺伝子を保有する。この導入遺伝子は、IDUAが欠失している患者、例えば、ハーラー症候群(リソソーム蓄積症)としても公知のムコ多糖症I型(MPS-I)の患者の助けとなる。AAVゲノムは、US2020/0246486の表5における配列番号28として示される。ウイルスゲノムは、AAVカプシド内に位置し、前記製剤に曝露されないため、実施例6~8での観察は、これまでの実施例のように、他の導入遺伝子を保有するAAV6ベクターに適用できると予測される。
【0098】
この試験はまた、凍結/解凍サイクル後に沈殿を形成しない新たな製剤を特定するために行った。様々な濃度の二価陽イオン塩を含む4つのAAV6ウイルスベクター原薬製剤の安定性を評価した。
【0099】
試験した製剤には、様々な濃度の二価陽イオン塩(Ca2+およびMg2+)を含有させた。上記に記載されるように、従来のAAV6製剤ならびに製剤緩衝液(AAV6を含まない)は全て、複数回の凍結/解凍サイクル後に少量の目視可能な沈殿物の形成が見られた。沈殿した粒子は、リン酸カルシウム塩から構成されることを決定した。製剤が一般的な使用中に凍結/解凍サイクルを経るため、塩沈殿の可能性は、患者の安全性に対するリスクおよび製剤品質に対するリスクとなりうる。下記実施例6-8に示される試験は、このような沈殿の問題を有さない改善された製剤を見つけ出すことが目的であった。
【0100】
この試験において、AAV6ウイルスベクター製剤の試料は、タンジェンシャルフロー濾過により異なる原薬製剤として調製し、試料を高濃度「スパイク緩衝液」でスパイクした。次いで、再製剤化した試料を様々な加速させた安定性条件下でインキュベートし、試料の品質特性をインキュベート後に測定した。品質特性の結果を適切に公知の方法変動性を考慮しつつ評価した。当該試験期間の異常値と傾向の結果を4つの製剤各々について特定した。合格(Pass)、中間(Neutral)、または失敗(Fail)のスコアを、各試験エンドポイントでの結果に基づいて各品質特性および製剤について割り当てた。最終的に、各4つの製剤の全体の品質特性安定性スコアを相互に比較した。試験を下記で詳細に記載する。
【0101】
試料調製
本明細書で調製したAAV6製剤には、下記表1に記載されるように、製剤化緩衝液F0中に懸濁させた約1.0E+13vg/mLのAAV6ドナーベクターを含ませた。緩衝液F0は、二価陽イオンのカルシウム(CaCl2として)およびマグネシウム(MgCl2として)、さらなる量の約35mMの塩化ナトリウムを含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水の方法に基づき、1%w/v ショ糖および0.05%w/v ポロキサマー188に製剤化させた。
【0102】
前記AAV6物質を別の緩衝液製剤に移すために、
図2に示されるように、タンジェンシャルフロー濾過による緩衝液交換を行った。簡単に説明すると、緩衝液F0中に製剤化したAAV6製剤の数個のバイアルを融解し、単一の限外濾過/透析濾過(UF/DF)リザーバーに移した。まず限外濾過を行って該物質を約2xに濃縮した。次いで、濃縮した物質を、少なくとも10x同等体積の製剤緩衝液F1で透析濾過した。
図2で「A」とラベルされた回収した中間体物質を、製剤緩衝液F1中で懸濁して約2.0E+13vgコピー/mLが含まれるはずである。
【0103】
次に、前記中間体UF/DF生成物「A」を3つに分割し、3つの異なる緩衝液に製剤化した。3つのさらなる製剤緩衝液(F1、F2、およびF3;表28)は、塩化ナトリウム、ショ糖、およびポロキサマー188(例えば、Pluronic(登録商標)F-68)をさらに加えたダルベッコリン酸緩衝生理食塩水から調製した。これらの3つの緩衝液には、カルシウムが含まれず、代わりに異なる量のマグネシウムを含ませた。緩衝液F1には、カルシウム成分もマグネシウム成分も含ませず、緩衝液F2には、F0と等価モル濃度のマグネシウムを含ませ、および緩衝液F3には、緩衝液F0から除いたカルシウムのモルの割合を占めるさらなる量のマグネシウムを含ませた。
表28.製剤緩衝液の組成
【表33】
【0104】
試料調製を簡便にし、異なる緩衝液の調製を可能にするために、緩衝液F2およびF3の6倍高い濃度の「スパイク緩衝液」を調製した。
図3で示されるように、これらのF2およびF3「6x濃度」緩衝液は、F1と1:5の比率で混合して緩衝液F2およびF3のそれぞれの目的の組成物を生成した。
【0105】
これらの製剤緩衝液を調製するために、各乾燥成分の重量を、マイクロバランスを用いて量りとった。前記成分を混合し、注射用脱イオン水に溶解させた。続いて、これらの緩衝液を、必要であれば、0.1M NaOHまたは0.1M HCIで目的のpH範囲に滴定した。最終的に、これらの緩衝液をショ糖およびポロキサマー188と所望される濃度で製剤化した。
【0106】
調製した原薬製剤の組成を、確認のためにいくつかの半定量的測定で測定し、それらの結果を表29に記載する。市販の比色分析アッセイを用いてCa
2+(Bio Vision Cat#K380-250)およびMg
2+(Bio Vision Cat#K385-l00)の濃度を測定した。両方の比色分析アッセイにおいて、前記試料濃度は、測定のダイナミック線形範囲内であり、調べたシグナルと算出された濃度は、理論上の試料組成と傾向が一致していた。決定的なことに、製剤F1、F2、およびF3全てのカルシウムシグナルがアッセイネガティブコントロールと一致した。よって、これらの試料には、カルシウムが含まれておらず、TFF試料の調製工程はF0出発物質中に存在するカルシウムを除去するのに効果的にあった。マグネシウム測定により、also confirmed Mg
2+もTFFにより除去され、F2およびF3中で適切な濃度で添加されたことも確認された。
表29.製剤化した原薬の実験上測定したパラメータ
【表34】
【0107】
qPCRもまた、vg力価を測定するために行い、多角度動的光散乱法(MADLS)を、粒子濃度を測定するために行った。再度、これらの結果は、試料の調製から予測される範囲であり、緩衝液交換と製剤化工程が意図されたとおりに行われたことを示す。
【0108】
バルク製剤化した生成物を濾過し、0.5mL/バイアルで2mLの環化オレフィンポリマー(COP)バイアル(West Pharma/Daikyo CZ Cat#19550057)に充填した。
【0109】
試料インキュベーション
バイアルに入れた製剤を下記に記載の様々な条件でインキュベートした。凍結/解凍サイクリングは、表30に記載の実施日に行った。
表30.凍結/解凍サイクリング試料の実施日
【表35】
【0110】
試料を「加速下、ストレス」条件(40℃/75% 相対湿度(RH))または「加速下、周囲」条件(25℃/60% RH)にそれらの実施日のD3、D7、2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、または6ヶ月にかけた。試料を2~8℃で保存し、それらの実施時の24時間以内に分析した。
【0111】
全ての実施済み試料を、目的の試料を試験するために、ポリカルボネートフリップトップ遠心分離チューブに一定分量で分注した。一定分量を。2ヶ月未満で積極的に試験する間は2~8℃で保存した。実施日から合理的な時間内に試験しない場合、該一定分量を試験が行われ得るまで≦-65℃で保存した。全ての保存試料および試験後の残りの材料を長期間保存のために≦-65℃で保存した。
【0112】
実施例7:AAV6原薬製剤の試験
試料は、表31に記載の品質特性を含む試験を行った。略語を下記に示す:DLS、動的光散乱法;MADLS、多角度動的光散乱法;HMWS、高分子量種;SE-LC、サイズ排除液体クロマトグラフィー;およびAEX-LC、陰イオン交換液体クロマトグラフィー。溶液の外観を、それらが清澄であり、無色であり、および粒子状物を含まないことを確認するために評価した。濁り、曇り、または目視可能な粒子を含む溶液は、評価基準に適合しなかった。
表31.評価した製剤の品質特性
【表36】
【0113】
初回試料
全ての開始製剤化製剤試料からの品質特性の結果を表32および表33に示す。結果を、全体、純度、および強度の品質特性カテゴリーによってグループ化した。
表32.開始(t
0)試料における全体および純度の品質特性結果
【表37】
表33.開始(t
0)試料における濃度の品質特性結果
【表38】
【0114】
開始の感染力価の結果は、F3では、他の開始試料と比較して大抵低かった。これはまた、他の試料より顕著に高いvg/TCID比を示した。このことは、主に、TCID50アッセイのばらつきによるものであった。他の結果のいずれもあまり影響されていないようであった。
【0115】
凍結/解凍サイクル試料
4つの異なる製剤の凍結/解凍サイクリングによる試験結果を
図4A~Dに示す。データにより、凍結/解凍サイクリングは、4つの製剤全てにおいて、溶液pH、モノマーカプシドサイズ、試料サイズ分布、または全カプシド含量に影響を与えず、HMWSまたは可溶性凝集物の量もあまり生じなかったことが示される。しかしながら、凍結/解凍サイクリングにより、開始F0コントロール製剤において目視外観が失敗した。5xF/Tサイクル後、小さい白色薄片の沈殿物が見られ、これらは以前に観察されたリン酸カルシウム沈殿物の特徴を有していた。これらの沈殿物は、製剤F1、F2、またはF3で検出されなかった。前記データはまた、凍結/解凍サイクリングが、試験方法の変動性も考慮すると、いずれの製剤強度特性にあまり影響を与えないことも示す。
【0116】
25℃/60% RH(周囲)加速下の試料
4つの異なる製剤の周囲条件(25℃/60% RH)インキュベーションによる試験結果を
図5A-Dに示す。前記データは、外観およびpHが25℃条件によって影響を受けなかったことを示す。試料サイズ分布は、広がっているように見え、多分散度(PDI)が増加し、モノマーピーク平均サイズは、インキュベーション時間が長くなるにつれ少し増加した。高分子量種(HMWS)もまた、インキュベーション時間とともに形成され始めた。一般に、これらのHMWSは、DLSよりSE-LCによってより簡易に検出された。全および空カプシドの電荷分離は、25℃でインキュベーションの1~2ヶ月後に喪失されているようであり、それゆえ、全カプシド%は、AEX-LCによって測定できなかった。カプシド力価およびモノマー濃度は、25℃条件によって影響を受けず、vg力価も影響されているように見えなかった。TCID
50は、F0、F1、およびF2について3ヶ月および6ヶ月の時点で減少したが、同一の結果はF3で観察されなかった。
【0117】
40℃/75% RHストレス下の試料
4つの異なる製剤のストレス条件(40℃/75% RH)インキュベーションによる試験結果を
図6A~Dに示す。前記データは、40℃/75% RH条件が、いくつかの製剤品質特性に著しく大きな影響を与えたことを示す。粒子サイズ分布は、大幅に広がり、HMWSが形成されていた。SE-LCは、DLSよりより少量のHMWSの検出について感度が高いようであるが、大量のHMWS(可能性のある高分子量種)が存在する場合、これらの粒子は、SE-LCによって検出されなかった可能性がある。高分子量種は、濾過されたか、または前記検出器に到達するためにLCカラムを通過しなかった可能性がある。
【0118】
40℃で3ヶ月後、全ての溶液は、恐らく大きい不溶性凝集物またはHMWSの形成により、濁って見え始めた。溶液pHは、影響を受けていないようであった。TCID50は、40℃/75% RHにおける1ヶ月後の全ての試料で大幅に減少し、F3で見られた開始から最も少ない減少だった。
【0119】
実施例8:試験エンドポイント測定
試料内分析を各製剤について行った。各製剤内において、各品質特性についての各試験エンドポイント結果を、
図7に記載されるように、許容および失敗基準に対してスコア化した。目的の安定性試験エンドポイントは以下のとおりである:1サイクルあたり≦-65℃で12時間未満および周囲温度で6時間未満の10x凍結/解凍サイクル、25℃/60% RHで3ヶ月、および40℃/75% RHで1ヶ月。各試験エンドポイントにおいて、
図7に記載される品質特性は、公知の樹立された方法の変動性、ならびにこの試験で得られた全てのデータの全体的な評価に基づいて決定した。
【0120】
各製剤の試料間分析または相対評価を行うために、各品質特性についての各エンドポイントスコアを製剤ごとに比較した。1つの品質特性を考慮する場合、全体の合格(Pass)、中間(Neutral)、または失敗(Fail)スコアを、4つの考慮する製剤全体の相対エンドポイントスコアを全体として比較することにより各製剤について割り当てた。例えば、全てのエンドポイント結果が、所定の製剤について合格した許容基準を示した場合、全体の合格スコアを、その製剤についてのその品質特性について割り当てた。中間および失敗エンドポイント条件の数は、その製剤についての全体の品質特性スコアを割り当てる際に考慮した。外観などの一定の品質特性について、1つの失敗エンドポイントスコアで、その製剤についての全体の失敗をスコア化するのに十分である。モノマー濃度などの他の品質特性については、40℃条件での1つの失敗エンドポイントが全ての製剤(F3を除く)に適用された;よって、この失敗エンドポイントは十分にスコア化されなかった。TCID50の結果には、情報のみが含まれ、スコアは割り当てられなかった。
【0121】
これらの試料間分析スコアを
図8および
図9に示す。各製剤についての全ての全品質特性スコアの概要図を表34に示し、製剤F0をコントロールとして用いる。
表34.試料間の製剤評価概要
【表39】
【0122】
加速した安定性試験の期間中の全体の品質特性スコアは、製剤F3およびF2が、F0およびF1より優れていることを示す。製剤F3は、最も優れているようであり、8つの全体の合格品質特性スコアと2つの中間スコアであった。製剤F2もまた、十分に優れていた。F0は、外観についての全体の失敗スコアを示し、この製剤を改善するという最初の目的が確認された。F1は、最も多い凝集物を示し、検出されたHMWSが最も多いようであった。
【0123】
実施例9:長期温度試験
製剤緩衝液中に1.00E+13vg/mLで供されたSB-525(PF-07055480)製剤の安定性を長期の温度で試験した。製剤化緩衝液には、以下の成分が含有された:0.49mM MgCl2、2.68mM KCl、1.47mM KH2PO4、172mM NaCl、8.10mM Na2HPO4、1%(w/v)ショ糖、0.05%(w/v)ポロキサマー188(pH7.4)。
【0124】
前記製剤を含むバイアルを、(i)-70℃で0日間(T0)、(ii)-150℃で3日間(T3日間)、および(iii)-150℃で14日間(T14日間)保存した。続いて、製剤試料を(i)外観(液体)、(ii)還元CE-SDS、(iii)SEC力価_260/280、および(iv)インビトロFVIII活性(生物アッセイ)について分析した。製剤緩衝液試料もまた、(i)容器完全性について分析した。
【0125】
下記表35で示されるように、試料を-150℃で14日間までの保存を含む試験条件で保存した場合、色、透明度、還元CE-SDS、SEC力価_260/280(空:全カプシド比の代替測定)、または生物学的活性(相対%効力)にあまり変化はなかった。容器完全性について-150℃で14日間の保存後に影響は見られなかった。
表35.安定性結果
【表40】
【0126】
実施例10:輸送想定および長期温度試験
衝撃、気圧、落下、および振動などの想定される輸送条件下でのSB-525製剤の安定性を試験した。SB-525製剤を、下記成分を含む製剤化緩衝液中で1.00E+13vg/mLで供した:0.49mM MgCl2、2.68mM KCl、1.47mM KH2PO4、172mM NaCl、8.10mM Na2HPO4、1%(w/v)ショ糖、0.05%(w/v)ポロキサマー188(pH7.4)。
【0127】
前記製剤を含む試験試料バイアルを、最悪の場合のグローバル輸送プロファイルを用いて、同時に適用される輸送危険(例えば、衝撃、気圧、落下、および振動)にかけた。コントロール試料バイアルは、同時に適用される輸送危険にかけなかった。刺激の一部として、試験バイアルを-35℃で40時間、その後、-70℃でさらに40時間保った。刺激後、コントロールおよび試験製剤バイアルを-70℃で保存し、0日目(T0)、6ヶ月目(T6ヶ月)、および10ヶ月目(T10ヶ月)で試験した。製剤緩衝液バイアルを-70℃で保存し、T0で試験した。製剤試料を、(i)外観(液体)、(ii)還元CE-SDS、(iii)SEC力価_260/280、および(iv)インビトロFVIII活性(生物アッセイ)について分析した。製剤緩衝液試料を(i)容器完全性について分析した。
【0128】
下記表36で示されるように、試料を前記試験条件で10ヶ月まで保存した場合、色、透明度、還元CE-SDS、SEC力価_260/280(空:全カプシド比の代替測定)、または生物学的活性(相対%効力)にあまり変化はなかった。T
0で容器完全性に影響はなかった。
表36.安定性の結果
【表41】
【0129】
実施例11:製剤安定性データ-24ヶ月
この試験の目的は、目的の保存温度(-70℃)におけるSB-525製剤の長期間(24ヶ月)安定性を設定することであった。この試験において、SB-525製剤(DP)は、Sf9昆虫細胞から精製し、8.10mM Na2HPO4、1.47mM KH2PO4、0.49mM MgCl2、2.68mM KCl、172mM NaCl、1%(w/v)ショ糖、および0.05%(w/v)ポロキサマーP188(pH7.3±0.3)中で目的の1.00E+13ベクターvg/mLで製剤化した。続いて、前記DPを6.4mLで10mLのAseptic Technologies(AT)クリスタルクローズドバイアルに充填し、-60℃~-90℃で保存した。
【0130】
5サイクルの非制御F/Tおよび24時間攪拌を含むDP安定性試験による結果を
図10に示す。前記データにより、-70℃で24ヶ月、5℃で12ヶ月、および25℃/60% RHで3ヶ月までに、色、透明度、pH、目視不可能な累積粒子状物質、カプシド純度およびVP比(R-CGEによる)、%HMMSおよびUV260/280(SEC-HPLCによる)、ならびにカプシド力価においてみられる明確な傾向がなかったことが示される。5℃で12ヶ月の試料では、形態上、自然および非制御の実験条件(すなわち、オープンラボ空間)での試験において外来物であるように見える溶液中の「1つの長い繊維状粒子」が記録された;他の全ての試料では、「目視可能な粒子が基本的に含まれない」ことが記録された。5サイクルの非制御F/Tまたは24時間攪拌後にこれらの品質特性に変化がないことが観察された。
【0131】
試験した全ての時点および条件について、ゲノム力価および感染したウイルス力価ならびに感染比についての結果の変動性は、予測した測定変動性の範囲内であり、明らかな傾向は示されなかった。感度と正確な安定性を示す方法であるインビトロ相対効力の結果は、24ヶ月後に目的の保存条件(-70℃)で効力がわずかに減少傾向を示したが、これらの結果は、臨床的な安定性許容基準の範囲内である。25℃/60% RHで3ヶ月および5℃で12ヶ月の効力において安定性を示す減少傾向もまた見られた。
【0132】
また、容器完全性(CCIT)を、有効化したヘッドスペースアナライザーにより目的の保存条件(-70℃)で18ヶ月目に試験し、結果を記録した。6つの条件付きバイアルをこの解析に用いた。P188濃度もまた、-70℃で18ヶ月、5℃で12ヶ月、および25℃/60% RHで3ヶ月までで安定であった。-70℃で24ヶ月においてP188濃度のわずかな減少が見られた。
【配列表】
【国際調査報告】