(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】黒鉛化熱処理用線材および黒鉛鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231222BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20231222BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20231222BHJP
C21D 1/26 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/00 301M
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D1/26 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537369
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 KR2021019313
(87)【国際公開番号】W WO2022131864
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0178565
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ビョンガブ
(72)【発明者】
【氏名】パク,インギュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョルキ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,サンウ
(72)【発明者】
【氏名】イ,キホ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA02
4K032AA06
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA32
4K032AA35
4K032BA02
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CF02
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、黒鉛化熱処理時間を大幅に短縮しながらも、黒鉛化熱処理時に微細黒鉛粒が基地内に均一に分布する黒鉛化熱処理線材および黒鉛鋼を提供することである。
【解決手段】本発明の黒鉛化熱処理用線材は、重量%で、C:0.65~0.85%、Si:2.00~3.00%、Mn:0.15~0.35%、Ti:0.005~0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が-1以上1以下を満たし、微細組織は、面積分率で、フェライト40%以下、ベイナイトとマルテンサイトの合計5%以下および残部としてのパーライトを含むことを特徴とする。
式(1):100*([Mn]-0.25)2-(100*[N])2
上記式(1)中、[Mn]、[N]は、各合金元素の重量%を意味する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.65~0.85%、Si:2.00~3.00%、Mn:0.15~0.35%、Ti:0.002~0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が-1以上1以下を満たし、
微細組織は、面積分率で、フェライト40%以下、ベイナイトとマルテンサイトの合計5%以下および残部としてのパーライトを含むことを特徴とする黒鉛化熱処理用線材。
式(1):100*([Mn]-0.25)
2-(100*[N])
2
(上記式(1)中、[Mn]、[N]は、各合金元素の重量%を意味する。)
【請求項2】
下記式(2)の値が6以下を満たすことを特徴とする請求項1に記載の黒鉛化熱処理用線材。
式(2):100*[Ti]+10000*[B]
(上記式(2)中、[Ti]、[B]は、各合金元素の重量%を意味する。)
【請求項3】
重量%で、C:0.65~0.85%、Si:2.0~3.0%、Mn:0.15~0.35%、Ti:0.002~0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が-1以上1以下を満たし、
微細組織は、面積分率で、フェライト80%以上および残部としての黒鉛粒を含むことを特徴とする黒鉛鋼。
式(1):100*([Mn]-0.25)
2-(100*[N])
2
(上記式(1)中、[Mn]、[N]は、各合金元素の重量%を意味する。)
【請求項4】
下記式(2)の値が6以下を満たすことを特徴とする請求項3に記載の黒鉛鋼。
式(2):100*[Ti]+10000*[B]
(上記式(2)中、[Ti]、[B]は、各合金元素の重量%を意味する。)
【請求項5】
引張強度が550MPa以下であることを特徴とする請求項3に記載の黒鉛鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品など多様な産業分野において応用できる黒鉛鋼に係り、より詳細には、黒鉛化熱処理時間が短く、切削性に優れた黒鉛化熱処理用線材および黒鉛鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
切削性が要求される小型機械部品などの素材としてPb、Bi、Sなどの切削性付与元素を添加した快削鋼が用いられてきた。最も代表的な快削鋼であるPb添加快削鋼は、切削作業時に有毒性フューム(fume)などの有害物質を排出するので、人体に非常に有害であり、鋼材のリサイクルにも非常に不利であるという問題がある。
【0003】
このような問題を有するPb快削鋼に取って代わるために、S、Bi、Te、Snなどを添加した快削鋼が提案されてきた。Sを添加したS快削鋼は、切削性がPb快削鋼に達しない。Biを添加したBi快削鋼は、製造時に亀裂の発生が容易で、生産が非常に難しい問題がある。TeおよびSnなどを添加した快削鋼も、熱間圧延時に亀裂の発生を引き起こす問題がある。
【0004】
Pb快削鋼に取って代わる鋼材として黒鉛鋼は、フェライト基地あるいはフェライトおよびパーライト基地の内部に黒鉛粒が存在する鋼である。黒鉛鋼は、基地組織内部の黒鉛粒が切削時にクラック供給源(source)として作用し、チップブレーカー(chip breaker)の役割をすると同時に、工具との摩擦を減らすことによって、切削性に優れている。
【0005】
しかしながら、黒鉛鋼は、準安定相のセメンタイトを分解し、黒鉛粒を析出させるための別途の黒鉛化熱処理が長時間必要な短所がある。これは、生産性の低下および費用増加だけでなく、長時間の黒鉛化熱処理過程で脱炭が起こり、最終製品の性能に悪影響を及ぼす弊害が発生する。
【0006】
また、黒鉛化熱処理を通じて黒鉛粒を析出したとしても、黒鉛粒が不規則な形状に不均一に分布する場合、切削時に物性が不均一で、チップ処理性や表面粗さが非常に悪くなり、工具寿命も短縮される問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許第1995-0006006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のような問題点を解決するために、本発明は、黒鉛化熱処理時間を大幅に短縮しながらも、黒鉛化熱処理時に微細黒鉛粒が基地内に均一に分布する黒鉛化熱処理線材および黒鉛鋼を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の黒鉛化熱処理用線材は、重量%で、C:0.65~0.85%、Si:2.00~3.00%、Mn:0.15~0.35%、Ti:0.002~0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が-1以上1以下を満たし、微細組織は、面積分率で、フェライト40%以下、ベイナイトとマルテンサイトの合計5%以下および残部としてのパーライトを含むことを特徴とする。
式(1):100*([Mn]-0.25)2-(100*[N])2
上記式(1)中、[Mn]、[N]は、各合金元素の重量%を意味する。
【0010】
本発明の各黒鉛化熱処理用線材は、下記式(2)の値が6以下を満たすことができる。
式(2):100*[Ti]+10000*[B]
上記式(2)中、[Ti]、[B]は、各合金元素の重量%を意味する。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明の黒鉛鋼は、重量%で、C:0.65~0.85%、Si:2.0~3.0%、Mn:0.15~0.35%、Ti:0.002~0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が-1以上1以下を満たし、微細組織は、面積分率で、フェライト80%以上および残部としての黒鉛粒を含むことを特徴とする。
式(1):100*([Mn]-0.25)2-(100*[N])2
上記式(1)中、[Mn]、[N]は、各合金元素の重量%を意味する。
本発明の各黒鉛鋼において、下記式(2)の値が6以下を満たすことができる。
式(2):100*[Ti]+10000*[B]
上記式(2)中、[Ti]、[B]は、各合金元素の重量%を意味する。
【0012】
本発明の各黒鉛鋼において、引張強度が550MPa以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明による黒鉛鋼は、自動車、家電/電子機器、産業機器など精密機械部品の素材に適用可能である。特に本発明は、合金組成の制御によって黒鉛化熱処理時間を大幅に短縮し、黒鉛鋼の製造費用を画期的に低減しながらも、基地組織内微細な黒鉛粒が均一に分布するようにして、優れた切削性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記目的を達成するための手段として、本発明の一例による黒鉛化熱処理用線材は、重量%で、C:0.65~0.85%、Si:2.00~3.00%、Mn:0.15~0.35%、Ti:0.002~0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が-1以上1以下を満たし、微細組織は、面積分率で、フェライト40%以下、ベイナイトとマルテンサイトの合計5%以下および残部としてのパーライトを含んでもよい。
式(1):100*([Mn]-0.25)2-(100*[N])2
上記式(1)中、[Mn]、[N]は、各合金元素の重量%を意味する。
【0015】
以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかしながら、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形されてもよく、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0016】
本出願において使用する用語は、単に特定の例示を説明するために使用されるものである。したがって、単数の表現は、文脈上明らかに単数でなければならないものでない限り、複数の表現を含む。また、本出願において使用される「含む」または「具備する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、機能、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを明確に指すために使用されるものであり、他の特徴や段階、機能、構成要素またはこれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除するために使用されるものでないことに留意しなければならない。
【0017】
なお、別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有すると見なされるべきである。したがって、本明細書において明確に定義しない限り、特定の用語が過度に理想的または形式的な意味で解釈されるべきではない。例えば、本明細書において単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
【0018】
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造および物質許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味で使用され、本発明の理解を助けるために正確であるか、または、絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0019】
鋼材基地内に析出した黒鉛粒は、切削性を向上させる。具体的には、切削中に黒鉛粒は、固体潤滑剤として作用して切削工具の摩耗を抑制し、応力集中による亀裂開始点として作用して切削摩擦を低減し、切削粉が短く切れるようにし、切削性を向上させる。
【0020】
しかしながら、黒鉛化を行うためには、初期圧延組織のパーライト内セメンタイトを黒鉛化する熱処理が必要である。黒鉛粒を析出するためには、長時間の黒鉛化熱処理を行わなければならず、このような長時間の熱処理は、費用増加をもたらすだけでなく、熱処理中に脱炭を起こし、最終部品の性能に悪影響を及ぼす弊害が発生する。
【0021】
まず、本発明は、切削性を向上させながらも、長時間の黒鉛化熱処理を短縮するために、CとSiを多量で添加する。Cは、多いほど、黒鉛化熱処理後に黒鉛粒が多量形成され、そのため、切削性にさらに優れる。Siは、セメンタイトを不安定にして、セメンタイト分解を促進し、その結果、黒鉛化熱処理を短縮することができる。これらのうち、Siは、過剰添加される場合、切削工具の摩耗問題、製鋼難易度が上昇する問題があり、特に従来の中・高Cベースの黒鉛鋼では、冷間鍛造性を確保するために、Siが少量添加された。一方、本発明では、Siを2.0重量%以上で上向き添加し、黒鉛化をさらに促進する。
【0022】
また、本発明は、特に黒鉛粒の核生成先として作用するAlN、BN、TiN窒化物のうちTiN窒化物を主に活用する。BN、AlNは、析出温度が低いため、オーステナイトが形成された後、粒界に偏重して不均一に析出する。不均一に析出したBN、AlNは、黒鉛化熱処理時に黒鉛粒の生成核として作用するので、黒鉛粒の不均一な分布を引き起こす恐れがある。一方、TiNは、析出温度がAlNやBNより高いため、オーステナイト生成が完了する前に晶出するので、オーステナイト粒界および粒内に均一に分布する。換言すれば、TiNは、BN、AlNに比べて、微細組織内均一に分布し、その結果、TiNを核生成先にして形成された黒鉛粒は、微細組織内均一に分布し、黒鉛粒が偏重して成長するBN、AlNに比べて、黒鉛化をさらに促進することができる。また、均一に分布する黒鉛粒は、チップ処理性など切削性を向上させることができる。
【0023】
本発明による黒鉛鋼は、黒鉛化熱処理用線材を黒鉛化熱処理することで用意する。本発明の一例による黒鉛化熱処理用線材は、重量%で、C:0.65~0.85%、Si:2.00~3.00%、Mn:0.15~0.35%、Ti:0.002~0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなることができる。
【0024】
以下、前記黒鉛化熱処理用線材の成分組成を限定した理由について具体的に説明する。黒鉛鋼合金組成の限定理由は、黒鉛化熱処理用線材と同一なので、便宜上省略する。
【0025】
Cの含有量は、0.65~0.85重量%である。
Cは、切削因子である黒鉛粒を構成する成分元素であり、C含有量が高まるほど黒鉛粒がさらに多く形成される。また、Cは、添加されるほどC活動度を高め、その結果、セメンタイト分解が促進され、黒鉛化熱処理を短縮することができる。C含有量が0.65重量%未満では、C活動度が劣り、切削性が低下する問題点がある。一方、C含有量が0.85重量%を超過すると、C活動度の増大効果が飽和するだけでなく、過剰形成された黒鉛粒により鋼材の靭性が低下し、その後、CD-Bar(cold drawn bar)を製造するために黒鉛鋼を伸線するとき、破断発生の恐れがある。したがって、本発明においてC含有量は、0.65~0.85重量%に制御される。
【0026】
Siの含有量は、2.00~3.00重量%である。
Siは、溶鋼の製造時に脱酸剤として必要な成分であり、鋼中のセメンタイトを不安定にして、炭素を黒鉛として析出させることができる黒鉛化促進元素であるから、積極的に添加する。Si含有量が2.00重量%未満なら、黒鉛化速度が急激に遅くなる恐れがある。一方、Si含有量が3.00重量%を超過すると、黒鉛化促進効果が飽和し、非金属介在物の増加による脆性誘発と熱間圧延時の脱炭現象を引き起こす恐れがある。したがって、本発明においてSi含有量は、2.00~3.00重量%に制御される。
【0027】
Mnの含有量は、0.15~0.35重量%である。
Mnは、鋼材の強度および衝撃特性を向上させ、鋼中Sと結合し、MnS介在物を形成し、切削性の向上に寄与するので、積極的に添加される。また、Mn含有量が少なすぎれば、MnSを形成しないSにより黒鉛化速度が阻害され、素材の脆性が誘発される問題がある。これを考慮して、本発明においてMnは、0.15重量%以上添加される。しかしながら、Mn含有量が多すぎれば、鋼材の強度および硬度が過度に増加し、工具の摩耗深さが低下する恐れがある。これを考慮して、本発明においてMn含有量は、0.35重量%以下に制御される。
【0028】
Tiの含有量は、0.002~0.1重量%以下である。
Tiは、B、Alなどのように窒化物であるTiNを形成し、黒鉛化を阻害する固溶窒素含有量を低減し、形成されたTiNは、黒鉛の核生成先として作用して黒鉛化時間を短縮する。黒鉛の核生成先として作用するBN、AlNは、析出温度が低いため、オーステナイトが形成された後、粒界に偏重して不均一に析出する。しかしながら、TiNは、析出温度がAlNやBNより高いため、オーステナイト生成が完了する前に晶出するので、オーステナイト粒界および粒内に均一に分布する。換言すれば、TiNは、BN、AlNに比べて、微細組織内均一に分布し、その結果、TiNを核生成先として形成された黒鉛粒は、微細組織内均一に分布し、黒鉛粒が偏重して成長するBN、AlNに比べて黒鉛化をさらに促進することができ、黒鉛鋼の切削性を向上させることができる。これを考慮して、本発明においてTiは、0.002重量%以上添加される。一方、Ti含有量が多すぎれば、TiNによる黒鉛化熱処理の短縮効果が飽和し、粗大な炭窒化物を形成し、かえって黒鉛化を低下させる恐れがある。これを考慮して、本発明においてTiは、0.1重量%以下に制御される。
【0029】
Nの含有量は、0.01重量%以下である。
Nは、Ti、B、Alと結合してTiN、BN、AlNなどの窒化物を生成する。これらのうちBN、AlNは、析出温度が低いため、主にオーステナイト粒界に偏重して不均一に析出する。不均一に析出したBN、AlNは、黒鉛化熱処理時に黒鉛粒の生成核として作用するので、黒鉛粒の不均一な分布を引き起こす恐れがある。したがって、TiNを主に析出させながらも、BN、AlNの形成は、最大限抑制するために、N含有量を適切に調節する必要がある。また、N含有量が多すぎて、窒化物形成元素と結合せず、固溶窒素として鋼中に存在すると、セメンタイトを安定化させて黒鉛化を阻害する問題点がある。これを考慮して、本発明においてN含有量は、0.01重量%以下に制御される。
【0030】
Bの含有量は、0.0005重量%以下である。
Bは、Nと結合してBNを生成し、生成されたBNは、黒鉛化熱処理時に黒鉛粒生成の核として作用する。しかしながら、上述したように、BNは、オーステナイトが形成された後、粒界に偏重して不均一に析出する。その結果、BNを核生成先として形成された黒鉛粒も、不均一に分布するので、切削性が低下する恐れがある。したがって、Bは、黒鉛粒の不均一な分布を防止するために、その上限を0.0005重量%に管理することが好ましい。
【0031】
Pの含有量は、0.05重量%以下である。
Pは、不可避に含有される不純物である。Pは、鋼材内粒界を脆弱にして、切削性の向上を助ける。しかしながら、Pは、相当な固溶強化効果によってフェライトの硬度を増加させ、鋼材の靭性および遅れ破壊抵抗性を減少させ、表面欠陥の発生を促進する。したがって、P含有量は、可能な限り、低く管理されることが好ましい。本発明においてPの上限は、0.05重量%に管理される。
【0032】
Sの含有量は、0.05重量%以下である。
Sは、不可避に含有される不純物である。Sは、MnSを形成し、切削性の向上効果がある。しかしながら、Sは、単独で鋼材内存在する場合、Cの黒鉛化を大きく阻害するだけでなく、結晶粒界に偏析して靭性を低下させ、低融点硫化物を形成させて、熱間圧延性を阻害する。また、MnSは、切削性の向上効果があるが、圧延後に延伸したMnSにより機械的異方性が現れる恐れがある。したがって、S含有量は、可能な限り、低く管理されることが好ましい。本発明においてSの上限は、0.05重量%に管理される。
【0033】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者なら誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書において言及しない。
【0034】
本発明の一例による黒鉛化熱処理用線材は、前述した合金組成を満たしながらも、下記式(1)の値が-1以上1以下を満たすことができる。
【0035】
式(1):100*([Mn]-0.25)2-(100*[N])2
【0036】
上記式(1)中、[Mn]、[N]は、各合金元素の重量%を意味する。
【0037】
前述した式(1)の値が-1未満なら、切削性が低下したり、黒鉛化熱処理時間が長くなったりする問題点がある。反対に、式(1)の値が1を超過すると、鋼材の強度と硬度が増加して切削性が低下し、黒鉛化熱処理時間が長くなる問題点がある。
【0038】
また、本発明の一例による黒鉛化熱処理用線材は、前述した合金組成を満たしながらも、下記式(2)の値が6以下を満たすことができる。
【0039】
式(2):100*[Ti]+10000*[B]
【0040】
上記式(2)中、[Ti]、[B]は、各合金元素の重量%を意味する。
【0041】
TiおよびBの含有量が増加して、式(2)の値が6を超過すると、晶出するTiNのサイズが大きくなって、黒鉛粒生成核としての役割を行うことが難しく、黒鉛化熱処理時間が長くなる問題点がある。また、結晶粒界に沿って生成されたBNが黒鉛粒生成核として作用して黒鉛粒が不均一に生成される。その結果、切削性が劣化する。
【0042】
本発明の一例による黒鉛化熱処理用線材の微細組織は、面積分率で、フェライト:40%以下、ベイナイト、マルテンサイトの合計:5%以下および残部としてのパーライトを含んでもよい。
【0043】
本発明による黒鉛鋼は、黒鉛化熱処理用線材を黒鉛化熱処理することで用意し、黒鉛鋼の微細組織は、フェライトおよび残部としての黒鉛を含むことが好ましい。パーライトが残存すると、鋼材の硬度が増加し、その結果、切削時に工具摩耗問題が発生し、切削性が低下する。一例によれば、黒鉛鋼の微細組織は、面積分率で、フェライト80%以上および残部としての黒鉛粒を含んでもよい。
【0044】
また、本発明の一例によれば、黒鉛化熱処理した黒鉛鋼の引張強度が550MPa以下であってもよい。
【0045】
本発明によれば、黒鉛化熱処理時間を画期的に減縮することができる。黒鉛化熱処理用線材は、730~770℃で6時間以下で黒鉛化熱処理し、黒鉛鋼として用意し、この際、黒鉛鋼の黒鉛化率は99%以上であってもよい。ここで、黒鉛化率とは、鋼に添加された炭素含有量に対して黒鉛状態で存在する炭素含有量の比を意味し、下記式(3)によって定義され、黒鉛化率が99%以上というのは、添加された炭素がほぼ全部黒鉛を生成するのに消耗したという意味である。式(3)において、フェライト内固溶炭素量および微細炭化物はきわめて少ないので、考慮しない。黒鉛化率が99%以上というのは、換言すれば、未分解のパーライトが鋼中に存在せず、フェライトと残部としての黒鉛粒で構成されたことを意味する。
【0046】
式(3):黒鉛化率(%)=(1-残部としてのパーライト炭素含有量/鋼中炭素含有量)*100
【0047】
以下、本発明による黒鉛鋼の製造方法について詳細に説明する。
【0048】
以上で説明した本発明の黒鉛鋼は、多様な方法で製造することができ、その製造方法は、特に制限されないが、本発明の一例による黒鉛鋼の製造方法は、前述した合金組成を満たす鋼材を熱間圧延する段階と、730~770℃で6時間以下で黒鉛化熱処理する段階と、を含んでもよい。
【0049】
熱間圧延する段階は、前述した合金組成を満たすインゴットを鋳造した後、1100~1300℃で5~10時間均質化熱処理し、1000~1100℃で熱間圧延することを含んでもよい。熱間圧延した後には、8℃以下で空冷して、黒鉛化熱処理用線材を製造することができる。
【0050】
その後、黒鉛化熱処理用線材は、730~770℃で6時間以下で黒鉛化熱処理し、黒鉛鋼として用意することができる。本発明によれば、黒鉛化熱処理用線材を黒鉛化熱処理し、鋼内セメンタイトを黒鉛化する必要がある。黒鉛化を迅速にするためには、等温変態曲線でノーズ(nose)に該当する温度領域で熱処理することが好ましい。好ましい黒鉛化熱処理温度の範囲は、730~770℃であり、この温度区間で6時間以下の等温熱処理を通じて鋼材内すべてのパーライトにあるセメンタイトを完全に黒鉛化することができる。
【0051】
上述したような本発明の黒鉛鋼は、自動車、家電/電子機器、産業機器など精密機械部品の素材に適用可能である。特に本発明は、合金組成の制御によって黒鉛化熱処理時間を大幅に短縮し、黒鉛鋼の製造費用を画期的に低減しながらも、基地組織内微細な黒鉛粒が均一に分布するようにして、優れた切削性を確保することができる。
【0052】
本発明による黒鉛鋼は、伸線加工、冷間鍛造、切削加工などによって自動車、家電/電子機器、産業機器など精密機械部品に製造することができる。また、場合によっては、切削加工後に表面硬度を確保するために、Q/T(quenching and tempering)熱処理を行うことができる。
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意すべきである。本発明の権利範囲は、特許請求範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
【0054】
{実施例}
下記表1の成分組成を有するインゴット(ingot)を鋳造し、1250℃で6時間均質化熱処理した後、熱間圧延および空冷して、黒鉛化熱処理用線材を製造した。熱間圧延の際、仕上げ温度は、1000℃とした。
【0055】
表1の「式(1)」、「式(2)」は、前述した式(1)、式(2)に合金組成含有量を代入して導き出した値である。
【0056】
【0057】
その後、表1の黒鉛化熱処理用線材を750℃で4時間黒鉛化熱処理し、黒鉛鋼に製造した。ただし、比較例8、9は、黒鉛化熱処理温度をそれぞれ711℃、803℃とし、黒鉛化熱処理した。表2の黒鉛化熱処理用線材組織は、黒鉛化熱処理前の黒鉛化熱処理用線材の微細組織を意味する。表2の黒鉛鋼組織は、黒鉛化熱処理後の黒鉛鋼の微細組織を意味する。
【0058】
表2の工具の摩耗深さは、直径25mmの各発明例、比較例の黒鉛鋼200個を直径15mmとなるまで切削加工した後、加工前後の工具のブレード深さを比較することによって、摩耗程度を求めた。この際、切削速度を100mm/min、移送速度を0.1mm/rev、切削深さを1.0mmとし、切削油を用いて切削加工した。
【0059】
【表2】
(F:ferrite、P:Pearlite、G:Graphite)
【0060】
表1および表2の結果を参照すると、発明例1~9は、黒鉛化熱処理後に、パーライトがないため、4時間の短時間の黒鉛化熱処理だけでも黒鉛化率が99%以上であり、引張強度が550MPa以下であり、工具の摩耗深さが200mm以下であり、切削性に優れていた。
【0061】
一方、比較例1~7は、本発明と同じ黒鉛化熱処理条件で黒鉛化熱処理したが、パーライト組織が残存していて、黒鉛化が完了せず、引張強度が550MPaを超過し、工具の摩耗深さが200mmを超過し、切削性が悪かった。
【0062】
より具体的には、比較例1は、C含有量が低いため、黒鉛化駆動力が低く、黒鉛化を完了しなかった。比較例2は、Si含有量が高いため、非金属介在物の増加による脆性誘発と熱間圧延時の脱炭現象を引き起こした。比較例3は、MnS介在物を形成し、残存するMnが黒鉛化を阻害し、黒鉛化を完了しなかった。比較例4は、MnSを形成するMnが少ないため、MnSを形成せず、残存するSが黒鉛化を阻害し、黒鉛化を完了しなかった。比較例5は、N含有量が高いため、TiN、AlN、BNなどの窒化物を形成し、残存するNが黒鉛化を阻害し、黒鉛化を完了しなかった。比較例7は、B含有量が多すぎて、結晶粒界にBNがほとんど析出し、黒鉛化を阻害した。
【0063】
特に比較例3~5の場合、本発明が限定する式(1)の値の範囲を満たしていないので、黒鉛化を完了せず、切削性が劣化した。
【0064】
また、比較例6、7は、本発明が限定する式(2)の値の範囲を満たしていないので、晶出するTiNサイズが非常に大きくなって、黒鉛化を完了しなかった。また、結晶粒界に沿って生成されたBNが黒鉛粒生成核として作用して、黒鉛粒が不均一に生成された。その結果、切削性が劣化した。
【0065】
比較例8、9は、本発明が限定する黒鉛化熱処理温度を満たしていない。その結果、黒鉛化熱処理温度が非常に低い比較例8は、黒鉛化熱処理時にパーライトが完全に黒鉛化しなかった。一方、黒鉛化熱処理温度が非常に高い比較例9は、オーステナイトに相変態し、冷却時に再びパーライトが形成された。
【0066】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、本明細書に記載する請求範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明による黒鉛化熱処理用線材および黒鉛鋼は、黒鉛化熱処理時間を大幅に短縮しながらも、黒鉛化熱処理時に微細黒鉛粒が基地内に均一に分布するので、産業上の利用可能性がある。
【国際調査報告】