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特表2024-500144遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用線材、部品およびその製造方法
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  • 特表-遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用線材、部品およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用線材、部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231222BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20231222BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20231222BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/14
C21D9/00 B
C21D8/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537383
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 KR2021018972
(87)【国際公開番号】W WO2022131749
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0178277
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヨンス
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソク-ファン
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョンシク
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ミョンス
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA16
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA02
4K032CC04
4K032CE02
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA08
4K042CA12
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DD02
4K042DE02
4K042DE06
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材、部品およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明による遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材は、重量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.0010~0.0040%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなることを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.0010~0.0040%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなることを特徴とする遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材。
【請求項2】
重量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.0010~0.0040%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、
体積分率で、残留オーステナイトを0.3~2.0%および残余の焼き戻しマルテンサイト組織を含むことを特徴とする遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用部品。
【請求項3】
前記残留オーステナイトは、
マルテンサイトラス境界で形成され、
厚さ100nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用部品。
【請求項4】
重量%で、C:0.15~0.3%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.0010~0.0040%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなる鋼材を880~980℃の温度範囲で仕上げ圧延する段階と、
830~930℃の温度範囲で巻き取る段階と、を含むことを特徴とする遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の高強度ボルト用線材を部品に成形する段階と、
870~940℃の温度範囲で加熱するオーステナイト化段階と、
50~80℃の温度範囲で焼入する段階と、
400~600℃の温度範囲で焼き戻しをして、部品を得る段階と、を含むことを特徴とする遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、構造物の締結用ボルトなどに使用できる線材、部品およびこれを製造する方法に係り、より詳細には、遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用線材、部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、構造物の締結用ボルトなどの素材に使用される線材は、自動車の軽量化および構造物の小型化に伴い、高強度化が要求されている。一般的に、鋼材の強度増加のためには、金属の強化機構である冷間加工、結晶粒微細化、マルテンサイト強化および析出強化などを活用する。
【0003】
しかしながら、このような強化機構として活用された冷間加工、結晶粒界、マルテンサイトラス(lath)境界および微細析出物境界などは、鋼材内水素のトラップ部として作用し、また、遅れ破壊を劣化させる原因として作用する。このような理由で、引張強度1GPa以上の高強度ボルトでは、遅れ破壊が劣化する問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、従来、焼き戻しマルテンサイト(Tempered Martensite)組織を有する1GPa以上のボルト用鋼材は、Moを添加したCr-Mo合金鋼を使用していたが、ボルト製造工程技術の発展によるコスト低減ニーズに対応するためにCr-Mo鋼をCr-B鋼に置き換えようとする試みがあった。その結果、安全性に大きな影響がない構造物に使用されるボルトからCr-B鋼を活用してコスト低減を具現化し、その安全性を確認した後、自動車の一部締結用ボルトにもCr-B鋼が適用されている。
【0005】
ひいては、自動車業界では、極限までのコスト低減のためにCr-B鋼よりさらにコスト低減が可能なボルト用素材を開発するためのニーズがある。このようなニーズに対応するために、最近では、Crに比べて安価なMnを活用するMn-B鋼を1GPa以上の高強度ボルト用素材に適用するための技術開発が行われている。
【0006】
しかしながら、Mnは、Crに比べて鉄鋼の連続鋳造製造工程で合金元素偏析が激しいため、同じボルト熱処理工程でも偏差を誘発し、熱処理工程で発生する組織不均衡によって遅れ破壊抵抗性が劣化する技術的問題があり、Mn-B鋼を1GPa以上の高強度ボルトに適用しにくかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、合金組成および製造方法を通じて、Mn-B鋼の微細組織を制御することによって、コスト低減が可能であり、遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材、ボルトおよびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用線材は、重量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.0010~0.0040%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用部品は、重量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.0010~0.0040%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、体積分率で、残留オーステナイトを0.3~2.0%および残余の焼き戻しマルテンサイト組織を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用線材の製造方法は、重量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.0010~0.0040%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなる鋼材を880~980℃の温度範囲で仕上げ圧延する段階と、830~930℃の温度範囲で巻き取る段階とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用部品の製造方法は、遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材を部品に成形する段階と、870~940℃の温度範囲で加熱するオーステナイト化段階と、50~80℃の温度範囲で焼入する段階と、400~600℃の温度範囲で焼き戻しし、部品を得る段階とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本発明の遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用部品は、マルテンサイトラス境界に残留オーステナイトを形成させて、鋼材内部の水素拡散を遅延させることによって、遅れ破壊抵抗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】発明例3の残留オーステナイトの分率と厚さを示す透過電子顕微鏡写真(TEM)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書が実施形態のすべての要素を説明するものではなく、本発明の属する技術分野において一般的な内容または実施形態の間に重複する内容は省略する。
【0015】
また、任意の部分が或る構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0016】
単数の表現は、文脈上、明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明では、Mnの偏析による組織不均衡に起因して遅れ破壊抵抗性が相対的に劣るMn-B鋼に水素拡散速度の遅い残留オーステナイト組織を活用することによって、遅れ破壊抵抗性を確保することができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0019】
残留オーステナイトは、オーステナイトがマルテンサイトに相変態して形成されるラスとラス境界で、機械的に安定したオーステナイトがマルテンサイトラスに変態しなくて形成される。マルテンサイトラス境界で形成される残留オーステナイトは、面心立方格子(Face-Centered Cubic;FCC)構造であり、体心立方格子(Body-Centered Cubic lattice;BCC)または体心正方格子(Body-Centered Tetragonal;BCT)構造を有する焼き戻しマルテンサイト組織と比較して、水素の拡散速度が約10,000倍遅い。したがって、鋼中に流入した水素が残留オーステナイトに会ったとき、拡散速度が遅くなるので、遅れ破壊抵抗性が向上することができる。
【0020】
本発明の一実施形態による遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材は、重量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.0010~0.0040%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなる。
【0021】
以下、本発明の実施形態における合金成分元素含有量の数値限定理由について説明する。以下では、特段の言及がない限り、単位は、重量%である。
【0022】
炭素(C)の含有量は、0.15~0.30%である。
Cは、製品の強度を確保するために添加される元素である。炭素含有量が0.15%未満である場合、本発明において目標とする強度を確保することが難しく、0.30%を超過する場合、焼入(Quenching)の際にラスマルテンサイト(lath Martensite)境界で静水圧により形成される機械的安定性(mechanical stabilization)に優れた残留オーステナイトの形成を妨害することができる。また、C含有量が高い場合、ラスが厚くなり、残留オーステナイトの厚さも厚くなるので、厚くなった残留オーステナイトは、かえって水素が捕捉されるトラップ部として作用することもでき、遅れ破壊を劣化させることができる。したがって、本発明では、Cの含有量を0.15~0.30%に制限する。
【0023】
シリコン(Si)の含有量は、0.05~0.35%である。
Siは、鋼の脱酸のために有用であるだけでなく、固溶強化を通した強度確保にも効果的な元素である。Siの含有量が0.05%未満である場合、鋼の脱酸および固溶強化を通した強度確保が不十分であり、0.35%を超過する場合には、衝撃特性の劣化による遅れ破壊抵抗性が劣化することができる。したがって、本発明では、Siの含有量を0.05~0.35%に制限する。
【0024】
マンガン(Mn)の含有量は、0.95~1.35%である。
Mnは、硬化能を向上させる元素であり、基地組織内に置換型固溶体を形成し、固溶強化効果を奏する非常に有用な元素である。Mnの含有量が0.95%未満である場合、前述した固溶強化効果と硬化能が不十分であるので、本発明において目標とする強度確保が難しく、1.35%を超過する場合には、偏析によって製品間の熱処理性能の偏差を誘発することができる。したがって、本発明では、Mnの含有量を0.95~1.35%に制限する。
【0025】
リン(P)の含有量は、0.030%以下である(0%は除外)。
Pは、結晶粒界に偏析して靭性を低下させ、遅れ破壊抵抗性を減少させる元素である。したがって、本発明では、Pの上限を0.030%に制限する。
【0026】
硫黄(S)の含有量は、0.030%以下である(0%は除外)。
Sは、Pと同様に、結晶粒界に偏析して靭性を低下させるだけでなく、低融点硫化物を形成させて、熱間圧延を阻害する元素である。したがって、本発明では、Sの上限を0.030%に制限する。
【0027】
チタン(Ti)の含有量は、0.005~0.030%である。
Tiは、鋼中内に流入するNと結合してチタン炭窒化物を形成し、BがNと結合するのを防止する元素である。Tiの含有量が0.005%未満である場合、製鋼工程中に流入するNをチタン炭窒化物に形成するのに不十分であるので、前述したBの効果を活用しにくく、0.030%を超過する場合には、粗大な炭窒化物が形成され、遅れ破壊抵抗性が劣化することができる。したがって、本発明では、Tiの含有量を0.005~0.030%に制限する。
【0028】
ボロン(B)の含有量は、0.0010~0.0040%である。
Bは、硬化能を向上させる元素である。Bの含有量が0.0010%未満である場合、前述した硬化能向上効果を期待しにくく、0.0040%を超過する場合には、結晶粒界にFe23(CB)炭化物を形成させて、オーステナイト結晶粒界の脆性を誘発し、遅れ破壊抵抗性を劣化させる。したがって、本発明では、B含有量を0.0010~0.0040%に制限する。
【0029】
合金組成以外の残部は、Feである。本発明の遅れ破壊抵抗性が向上したボルト用線材は、通常、鋼の工業的生産過程で含まれ得るその他の不純物を含んでもよい。このような不純物は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者なら誰でも知ることができる内容であるから、本発明において特にその種類と含有量を制限しない。
【0030】
本発明の一実施形態による遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用部品は、重量%で、C:0.15~0.3%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.03%、B:0.001~0.004%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、体積分率で、残留オーステナイトを0.3~2.0%および残余の焼き戻しマルテンサイト組織を含む。
【0031】
残留オーステナイト組織分率が0.3%未満である場合、水素拡散を遅延させる障害物の役割を期待しにくく、2.0%を超過する場合、残留オーステナイトがラス境界だけでなく、オーステナイト結晶粒界などに厚く形成され、水素拡散を遅延させにくく、これによって、遅れ破壊抵抗性改善効果を低減することができる。
【0032】
また、本発明による高強度ボルト用部品の残留オーステナイトは、マルテンサイトラス境界で形成され、厚さ100nm以下を満たすことができる。残留オーステナイトの厚さが100nmを超過する場合、残留オーステナイトが水素が集積されるトラップ部として作用し、かえって水素による遅れ破壊クラックの開始点として作用することができる。したがって、本発明では、残留オーステナイトの厚さが100nm以下となるように管理することが好ましい。
【0033】
次に、本発明の一実施形態による遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材および部品の製造方法について説明する。
【0034】
本発明による遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材および部品は、多様な方法で製造することができ、その製造方法は、特に制限されない。ただし、一実施形態として次のような方法によって製造することができる。
【0035】
本発明による遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用線材は、重量%で、C:0.15~0.3%、Si:0.05~0.35%、Mn:0.95~1.35%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.005~0.030%、B:0.001~0.004%を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなる鋼材を880~980℃の温度範囲で仕上げ圧延する段階と、830~930℃の温度範囲で巻き取る段階とを含む。
【0036】
まず、前述した合金組成を満たす鋼材を用意し、880~980℃の温度で仕上げ線材圧延する。その後、圧延した線材を830~930℃でコイル形状に巻き取る。
【0037】
この際、線材圧延温度が880℃未満であるか、または巻取温度が830℃未満である場合、表面層が準二相域であるから、相変態による表面フェライト脱炭層を形成することができ、ボルトの熱処理時にも表面にフェライト脱炭層を形成し、遅れ破壊抵抗性を劣化させることができる。なお、線材の仕上げ圧延温度が980℃を超過したりまたは巻取温度が930℃を超過する場合、拡散によって脱炭が加速化し、表面にフェライト脱炭層を形成することができる。
【0038】
次に、巻き取られた線材は、目的に合うように、伸線-球状化熱処理-皮膜-ボルト成形が行われ得る。
【0039】
その後、加工した線材は、オーステナイト化(austenitizing)した後、焼入し、焼き戻しして、最終ボルト用部品に製造することができる。
【0040】
本発明の一実施形態によるボルト用部品の製造方法は、前記加工した線材を870~940℃の温度範囲で加熱するオーステナイト化段階と、50~80℃の温度範囲で焼入する段階と、400~600℃の温度範囲で焼き戻しをして、ボルト用部品を得る段階とを含む。
【0041】
この際、オーステナイト化熱処理は、870~940℃の温度範囲で行われ得る。熱処理温度が870℃未満の場合、オーステナイト逆変態が十分に起こらないので、焼入後にマルテンサイト組織が不均一に形成され、靭性が劣化することができる。なお、熱処理温度が940℃を超過する場合、オーステナイト結晶粒度が粗大になり、焼入の際にマルテンサイトラスの長さが長く、安定的に形成され、ラス境界で残留オーステナイトが本発明において目標とする形状より低く形成される。
【0042】
また、焼入する段階は、50~80℃の温度範囲で行われ得る。焼入冷媒の温度が50℃未満の場合、ボルトのねじ山で熱変形による微細な焼入割れ(Quenching Crack)が発生することがあり、遅れ破壊を誘発することができ、80℃を超過する場合、十分な焼入が行われず、ラスに機械的安定残留オーステナイトの他に旧オーステナイト結晶粒界に残留オーステナイトが形成され、かえって水素の捕捉部として作用し、遅れ破壊を誘発することができる。
【0043】
また、焼き戻しする段階は、400~600℃の温度範囲で行われ得、最終製品の用途および目的に合うように、強度および靭性を付与することができる。焼き戻し温度が400℃未満の場合、焼き戻しによる脆性を誘発することができ、600℃を超過する場合、本発明において意図する強度を具現化し難い。
【0044】
本発明によって製造した遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用部品は、体積分率で、残留オーステナイト0.3~2.0%および残余の焼き戻しマルテンサイト組織を含む微細組織を含む。
【0045】
本発明の一実施形態による遅れ破壊抵抗性が向上した高強度ボルト用部品は、残留オーステナイトがマルテンサイトラス境界で形成され、厚さ100nm以下を満たす。
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0047】
実施例
実施例および比較例の冷間圧造(CHQ)用部品の遅れ破壊抵抗性の評価は、線材を最終ボルトに製造した後、ボルトを降伏強度の締結力で構造物に締結した後、5%塩酸+95%蒸留水溶液に10分間浸漬し、応力集中部であるねじ山にクラックの有無を観察する遅れ破壊シミュレーションで進めた。
【0048】
ボルト用部品の微細組織として残留オーステナイトの体積分率と厚さは、透過電子顕微鏡(TEM)で5枚を撮影した平均体積分率と最大厚さを測定して示した。X線回折(XRD)法を活用する場合、2.0%以下の低い分率の残留オーステナイトを観察できないので、透過電子顕微鏡法を使用して残留オーステナイトを観察した。
【0049】
下記表1の合金組成を満たす発明例1~9、比較例1~7の線材を本発明による製造条件で製造して、最終試験用ボルトを得た。
【0050】
具体的には、880~980℃で仕上げ線材圧延し、次に、830~930℃でコイル形状に巻き取り、巻き取られた線材を870~940℃でオーステナイト化した後、50~80℃の冷媒に焼入し、1050±12MPaの引張強度を確保するために、400~600℃の温度で焼き戻しをして、最終ボルト試験片を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
発明例1~9は、残留オーステナイト(γ)の分率と厚さを本発明が提案する0.3~2.0%の残留オーステナイト分率および100nm以下の厚さ条件を満たしていて、遅れ破壊クラックが発生しなかった。比較例1は、Cの含有量が0.14%であり、本発明において提案するCの下限である0.15%を満たしておらず、残留オーステナイトが形成されず、残留オーステナイトが水素の拡散障害物として作用せず、遅れ破壊クラックが発生した。
【0053】
比較例2は、Cの含有量が0.32%であり、本発明において提案するCの上限である0.30%を超過して、残留オーステナイトの厚さが100nmを超過し、100nmを超過する残留オーステナイトは、かえって水素が捕捉されるトラップ部として作用し、遅れ破壊クラックを誘発した。
【0054】
比較例3は、Si含有量が0.44%であり、本発明において提案するSiの上限である0.35%を超過し、遅れ破壊クラックを誘発した。
【0055】
比較例4は、Mnの含有量が0.85%であり、本発明において提案するMnの下限である0.95%に達せず、十分な焼入が行われず、残留オーステナイトが形成されず、これによって、遅れ破壊が発生した。
【0056】
比較例5は、Mnの含有量が1.40%であり、本発明において提案するMnの上限である1.35%を超過し、残留オーステナイト分率が高く、遅れ破壊クラックが発生した。比較例5は、残留オーステナイトの厚さが本発明において提案する残留オーステナイトの厚さである100nm以下を満たしたが、残留オーステナイト分率が2.2%であり、本発明において提案する残留オーステナイト分率の上限である2.0%を超過し、降伏強度でボルトを締結するとき、変態誘起マルテンサイトが形成され、遅れ破壊抵抗性が劣化するように導き出された。
【0057】
比較例6は、Pの含有量が0.031%であり、本発明において提案するPの上限である0.030%を超過し、Pが旧オーステナイト結晶粒界に偏析して結晶粒界の結合エネルギーを劣化させて、遅れ破壊クラックを発生させた。
【0058】
比較例7は、Bの含有量が0.0004%であり、本発明において提案するBの下限である0.001%に達せず、十分な焼入が行われず、残留オーステナイトが0.3%未満で形成され、遅れ破壊が発生した。
【0059】
次に、本発明による前記表1の発明例3の合金組成を満たす発明例3、比較例8-1~8-4を下記表2のような製造条件で製造して、最終ボルト試験片を得た。
【0060】
【表2】
【0061】
本発明による仕上げ圧延温度、巻取温度およびオーステナイト化温度を満たす発明例3は、本発明において提案する残留オーステナイト分率および厚さを満たしていて、遅れ破壊クラックが発生しなかった。図1は、発明例3の残留オーステナイトの分率と厚さを示す透過電子顕微鏡写真(TEM)であり、図1より、本発明によって製造した発明例3は、マルテンサイトラス境界に残留オーステナイトが形成されたことを確認することができた。比較例8-1は、仕上げ圧延温度が本発明において提案する上限である980℃を超過し、巻取温度も上限である930℃を超過し、線材において旧オーステナイト結晶粒径が最終ボルトの旧オーステナイト結晶粒径を粗大にし、残留オーステナイト分率が0.3%に達せず、遅れ破壊が発生した。
【0062】
比較例8-2は、仕上げ圧延温度が本発明において提案する下限である880℃に達せず、巻取温度も下限である830℃に達せず、線材において旧オーステナイト結晶粒径が最終ボルトの旧オーステナイト結晶粒径を小さくして、残留オーステナイト分率が2.0%を超過し、遅れ破壊が発生した。
【0063】
比較例8-3は、オーステナイト化熱処理温度が950℃であり、本発明において提案する上限である940℃より高いため、最終ボルトの旧オーステナイト結晶粒径を大きくして、残留オーステナイト分率が0.3%未満で形成され、遅れ破壊が発生した。
【0064】
比較例8-4は、オーステナイト化熱処理温度が860℃であり、本発明において提案する下限である870℃より低いため、最終ボルトの旧オーステナイト結晶粒径を小さくして、残留オーステナイト分率が2.0%を超過し、遅れ破壊が発生した。
【0065】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者なら、下記に記載する請求範囲の概念と範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解できる。

図1
【国際調査報告】