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特表2024-500151QT熱処理された高炭素熱延鋼板、高炭素冷延鋼板、QT熱処理された高炭素冷延鋼板及びこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】QT熱処理された高炭素熱延鋼板、高炭素冷延鋼板、QT熱処理された高炭素冷延鋼板及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231222BHJP
   C22C 38/26 20060101ALI20231222BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20231222BHJP
   C22C 38/22 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/26
C21D9/46 P
C21D9/46 Z
C22C38/00 302Z
C22C38/22
C22C38/00 301R
C21D9/46 S
C21D9/46 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537434
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 KR2021018729
(87)【国際公開番号】W WO2022139278
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0179284
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-ミ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ジェ-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ハク-ジュン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA08
4K037EA11
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA32
4K037EA33
4K037EB06
4K037EB08
4K037EB11
4K037EB12
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC02
4K037FC03
4K037FC04
4K037FC05
4K037FF02
4K037FF03
4K037FG00
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FJ07
4K037FK03
4K037FL01
4K037FL02
(57)【要約】
重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、炭化物の平均大きさが0.1~20μmであるQT熱処理された高炭素熱延鋼板、高炭素冷延鋼板、QT熱処理された高炭素冷延鋼板及びこれらの製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織は、面積%で、炭化物:0.1~20%、残部焼戻しマルテンサイトを含み、
前記炭化物は、平均大きさが0.1~20μmである、QT熱処理された高炭素熱延鋼板。
【請求項2】
前記熱延鋼板は、さらにV:0.8%以下(0%は除く)、Mo:2.5%以下(0%は除く)及びNb:1.5%以下(0%は除く)からなる群から選択された1種以上をさらに含む、請求項1に記載のQT熱処理された高炭素熱延鋼板。
【請求項3】
前記熱延鋼板は、350Hv以上の硬度を有する、請求項1に記載のQT熱処理された高炭素熱延鋼板。
【請求項4】
前記熱延鋼板は、QT前の再加熱温度が800℃のとき、摩耗減量が35mg以下であり、QT前の再加熱温度が850℃のとき、摩耗減量が27mg以下であり、QT前の再加熱温度が900℃のとき、摩耗減量が25mg以下である、請求項1に記載のQT熱処理された高炭素熱延鋼板。
【請求項5】
重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織は、面積%で、フェライト:20~99.9%、セメンタイト:10%以下、パーライト:50%以下及び炭化物:0.1~20%を含み、
前記炭化物は、平均大きさが0.1~20μmである、高炭素冷延鋼板。
【請求項6】
前記冷延鋼板は、さらにV:0.8%以下(0%は除く)、Mo:2.5%以下(0%は除く)及びNb:1.5%以下(0%は除く)からなる群から選択された1種以上をさらに含む、請求項5に記載の高炭素冷延鋼板。
【請求項7】
前記冷延鋼板は、350Hv以下の硬度を有する、請求項5に記載の高炭素冷延鋼板。
【請求項8】
重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織は、面積%で、炭化物:0.1~20%、残部焼戻しマルテンサイトを含み、
前記炭化物は、平均大きさが0.1~20μmである、QT熱処理された高炭素冷延鋼板。
【請求項9】
前記冷延鋼板は、さらにV:0.8%以下(0%は除く)、Mo:2.5%以下(0%は除く)及びNb:1.5%以下(0%は除く)からなる群から選択された1種以上をさらに含む、請求項8に記載のQT熱処理された高炭素冷延鋼板。
【請求項10】
前記冷延鋼板は、350Hv以上の硬度を有する、請求項8に記載のQT熱処理された高炭素冷延鋼板。
【請求項11】
前記冷延鋼板は、QT前の再加熱温度が900℃のとき、摩耗減量が25mg以下である、請求項8に記載のQT熱処理された高炭素冷延鋼板。
【請求項12】
重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む熱延鋼板を用意する段階;
前記用意された熱延鋼板を740~1100℃で再加熱する段階;
前記再加熱された熱延鋼板を10℃/s以上の冷却速度で冷却する段階;及び
前記冷却された熱延鋼板を150~600℃で焼戻しする段階;を含む、QT熱処理された高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記熱延鋼板を用意する段階は、スラブを1100~1300℃で加熱する段階;及び前記加熱されたスラブを700~1100℃で熱間圧延する段階;を含む、請求項12に記載のQT熱処理された高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記用意された熱延鋼板は、パーライト、粒界にセメンタイトが一部析出したパーライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうち1種以上の微細組織を有する、請求項12に記載のQT熱処理された高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記用意された熱延鋼板は、200Hv以上の硬度を有する、請求項12に記載のQT熱処理された高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項16】
重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む熱延鋼板を用意する段階;及び
前記用意された熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;を含む、高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記熱延鋼板を用意する段階は、スラブを1100~1300℃で加熱する段階;及び前記加熱されたスラブを700~1100℃で熱間圧延する段階;を含む、請求項16に記載の高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項18】
前記用意された熱延鋼板は、パーライト、粒界にセメンタイトが一部析出したパーライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうち1種以上の微細組織を有する、請求項16に記載の高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項19】
前記用意された熱延鋼板は、200Hv以上の硬度を有する、請求項16に記載の高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項20】
前記冷間圧延前に、前記熱延鋼板を630~850℃で球状化焼鈍熱処理する段階をさらに含む、請求項16に記載の高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項21】
重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む熱延鋼板を用意する段階;
前記用意された熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;
前記冷延鋼板を740~1100℃で再加熱する段階;
前記再加熱された冷延鋼板を10℃/s以上の冷却速度で冷却する段階;及び
前記冷却された冷延鋼板を150~600℃で焼戻しする段階;を含む、QT熱処理された高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項22】
前記熱延鋼板を用意する段階は、スラブを1100~1300℃で加熱する段階;及び前記加熱されたスラブを700~1100℃で熱間圧延する段階;を含む、請求項21に記載のQT熱処理された高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項23】
前記用意された熱延鋼板は、パーライト、粒界にセメンタイトが一部析出したパーライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうち1種以上の微細組織を有する、請求項21に記載のQT熱処理された高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項24】
前記用意された熱延鋼板は、200Hv以上の硬度を有する、請求項21に記載のQT熱処理された高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項25】
前記冷間圧延前に、前記熱延鋼板を630~850℃で球状化焼鈍熱処理する段階をさらに含む、請求項21に記載のQT熱処理された高炭素冷延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、QT熱処理された高炭素熱延鋼板、高炭素冷延鋼板、QT熱処理された高炭素冷延鋼板及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炭素鋼は、炭素を0.3%以上含有するか、約0.15%の炭素とその他の合金元素を一緒に含有した鋼材を意味する。一般的に、炭素含有量が増加するにつれて鋼材の硬度及び強度が増加するため、炭素は鋼材の物性を調節する上で最も経済的かつ効果的な元素として活用される。JIS規格では炭素含有量に応じて鋼種を区分し、現在、電炉で生産する鋼種の中で最も高い炭素含有量を有する鋼種はSK120であり、上記SK120の炭素含有量は1.15~1.25%である。
【0003】
上記SK120は、オーステナイト単相領域の高温で急速冷却熱処理によって微細組織をマルテンサイトに相変態させることで、さらに高い硬度を得ることができる。しかし、マルテンサイトは脆性が強いため、靭性確保のためにオーステナイト領域で再加熱を行った後、焼戻しを行う。通常、このような一連の熱処理過程をQT(Quenching-Tempering)と称する。
【0004】
しかし、上記SK120は、1.15~1.25%のCを含有することによりQT熱処理後の硬度と靭性に優れる利点はあるが、焼戻しマルテンサイト単相からなるため、耐摩耗性が低いという欠点がある。
【0005】
このような欠点を補うために、球状化焼鈍熱処理したSK120を活用してQT熱処理を行う際に、再加熱温度と時間を調節して一部のセメンタイトが残存するようにする方案が開発された。しかし、セメンタイトは硬度が1300Hvレベルで、母材である焼戻しマルテンサイトと硬度において大きな差がなく、優れた耐摩耗性を期待し難い。また、セメンタイトはQT熱処理過程中に再加熱温度区間で全て固溶されるため、高度な熱処理技術が必要であるという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面は、QT熱処理された高炭素熱延鋼板、高炭素冷延鋼板、QT熱処理された高炭素冷延鋼板及びこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、微細組織は、面積%で、炭化物:0.1~20%、残部焼戻しマルテンサイトを含み、上記炭化物は、平均大きさが0.1~20μmであるQT熱処理された高炭素熱延鋼板を提供する。
【0008】
本発明の他の実施形態は、重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、微細組織は、面積%で、フェライト:20~99.9%、セメンタイト:10%以下、パーライト:50%以下及び炭化物:0.1~20%を含み、上記炭化物は平均大きさが0.1~20μmである高炭素冷延鋼板を提供する。
【0009】
本発明のまた他の実施形態は、重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、微細組織は、面積%で、炭化物:0.1~20%、残部焼戻しマルテンサイトを含み、上記炭化物は平均大きさが0.1~20μmであるQT熱処理された高炭素冷延鋼板を提供する。
【0010】
本発明のまた他の実施形態は、重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む熱延鋼板を用意する段階;上記用意された熱延鋼板を740~1100℃で再加熱する段階;上記再加熱された熱延鋼板を10℃/s以上の冷却速度で冷却する段階;及び上記冷却された熱延鋼板を150~600℃で焼戻しする段階;を含むQT熱処理された高炭素熱延鋼板の製造方法を提供する。
【0011】
本発明のまた他の実施形態は、重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む熱延鋼板を用意する段階;及び上記用意された熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;を含む高炭素冷延鋼板の製造方法を提供する。
【0012】
本発明のまた他の実施形態は、重量%で、C:1.0~1.4%、Si:0.1~0.4%、Mn:0.1~0.8%、Cr:0.3~11%、W:0.05~2.5%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む熱延鋼板を用意する段階;上記用意された熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;上記冷延鋼板を740~1100℃で再加熱する段階;上記再加熱された冷延鋼板を10℃/s以上の冷却速度で冷却する段階;及び上記冷却された冷延鋼板を150~600℃で焼戻しする段階;を含むQT熱処理された高炭素冷延鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によると、QT熱処理された高炭素熱延鋼板、高炭素冷延鋼板、QT熱処理された高炭素冷延鋼板及びこれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の高炭素鋼について説明する。まず、本発明の高炭素鋼の合金組成について説明する。下記説明される合金組成の含有量は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0015】
C:1.0~1.4%
Cは、鋼の強度と硬度の向上に最も大きな影響を与える合金元素である。Cは、オーステナイトを安定的に形成する元素であり、原子の大きさが小さいため、固溶状態で存在する場合、固溶強化の効果を有する。一方、Cはフェライト組織内では固溶限界量が低いため、炭化物を形成させる合金元素と会合して析出物を形成するか、Feと結合してセメンタイト(Fe3C)を形成することで強化効果を奏する。Cは、拡散速度が速いため、高温で短時間維持させるだけでも再分配が速く起こる。したがって、マルテンサイトの硬度を増加させる上で最も大きな影響力を与え、同時に鋼材の耐摩耗性を増加させる。上記Cが1.0%未満で添加される場合には、上記言及した強度及び耐摩耗性の向上効果が十分でない。一方、上記Cが1.4%を超過する場合には、オーステナイト結晶粒界で初析セメンタイトが形成されて、靭性が低下することがある。したがって、上記Cの含有量は1.0~1.4%の範囲を有することが好ましい。上記Cの含有量の下限は1.05%であることがより好ましい。上記Cの含有量の上限は1.35%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましい。
【0016】
Si:0.1~0.4%
Siは、フェライトを安定して形成する元素であり、フェライトに固溶して強度を向上させる。上記Siが0.1%未満の場合には、上記固溶強化効果が十分でなく、0.4%を超過する場合には熱間加工性と靭性が低下する。したがって、上記Siの含有量は0.1~0.4%の範囲を有することが好ましい。上記Siの含有量の上限は0.35%であることがより好ましい。
【0017】
Mn:0.1~0.8%
Mnは、脱酸及び脱硫剤として鋼の清浄性を向上する効果がある。また、冷却レベルを考慮して硬化能を確保するために添加する。上記Mnが0.1%未満の場合には上記効果が不十分であり、0.8%を超過する場合には、厚さ中心部に偏析層を形成して加工性を低下させる。したがって、上記Mnの含有量は0.1~0.8%の範囲を有することが好ましい。上記Mnの含有量の上限は0.7%であることがより好ましく、0.6%であることがさらに好ましい。
【0018】
Cr:0.3~11%
Crは、フェライト安定化元素であり、基地組織に固溶して硬化能を確保する元素である。また、上記Crは、Cと結合して硬質のCr炭化物を形成するため、硬度と耐摩耗性を向上させる効果がある。上記Crが0.3%未満の場合には、上記効果が不十分であり、11%を超過する場合には、過度の硬化能と粗大なCr炭化物の形成により靭性が低下するおそれがある。したがって、上記Crの含有量は0.3~11%の範囲を有することが好ましい。上記Crの含有量の上限は10.5%であることがより好ましい。
【0019】
W:0.05~2.5%
Wは、Cと結合して2300~2800Hvの硬質炭化物を形成することで耐摩耗性を向上させる。上記効果のためには、Wが0.05%以上添加されることが好ましい。但し、上記Wが2.5%を超過する場合には、過度の硬化能により脆性を誘発するおそれがある。したがって、上記Wの含有量は0.05~2.5%の範囲を有することが好ましい。上記Wの含有量の上限は2.45%以下であることがより好ましく、2.35%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
P:0.03%以下
Pは、製鋼過程でろ過できなかった不純物であり、可能な限り少なく含有されるほど清浄度と加工性が向上する。但し、本発明では経済性を考慮して、その上限を0.03%で管理する。
【0021】
S:0.03%以下
Sは、製鋼過程でろ過できなかった不純物であり、可能な限り少なく含有されるほど清浄度と加工性が向上する。但し、本発明では経済性を考慮して、その上限を0.03%で管理する。
【0022】
Al:0.02%以下
Alは、通常的に製鋼過程において脱酸剤として用いる元素であり、清浄度を確保するために添加する。但し、本発明ではその効果と経済性を考慮して0.02%以下で管理する。
【0023】
上述した鋼組成以外に、残りはFe及び不可避不純物を含み得る。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程で意図せずに混入されることができるものであり、これを全面排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。なお、本発明は、上述した鋼組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0024】
一方、本発明は、上述した合金組成以外に、V:0.8%以下(0%は除く)、Mo:2.5%以下(0%は除く)及びNb:1.5%以下(0%は除く)からなる群から選択された1種以上をさらに含むことができる。
【0025】
V:0.8%以下(0%は除く)
Vは、Cと結合して約2300Hvの硬質炭化物を形成することで耐摩耗性を向上させる。但し、Vが0.8%を超過する場合には、粗大なV含有の炭化物により脆性が生じる欠点が発生する可能性がある。したがって、上記Vの含有量は0.8%以下の範囲を有することが好ましい。上記Vの含有量の下限は0.01%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。上記Vの含有量の上限は0.7%であることがより好ましい。
【0026】
Mo:2.5%以下(0%は除く)
Moは、単独またはV、Nbなどの元素と共にCと結合して硬質炭化物を形成して、耐摩耗性を向上させる。また、Crと同様に硬化能を向上させる効果もある。但し、上記Moが2.5%を超過する場合には、過度の硬化能により脆性を誘発するおそれがある。したがって、上記Moの含有量は2.5%以下であることが好ましい。上記Moの含有量の下限は0.1%であることがより好ましく、0.2%であることがさらに好ましい。上記Moの含有量の上限は2.4%であることがより好ましい。
【0027】
Nb:1.5%以下(0%は除く)
Nbは、Cと結合して硬質炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。但し、Nbの析出温度は約1300℃として高温であるため、多量添加する場合、粗大炭化物を形成して靭性を低下させるおそれがあるため、1.5%以下に添加することが好ましい。したがって、上記Nbの含有量は1.5%以下であることが好ましい。上記Nbの含有量の下限は、0.05%であることがより好ましく、0.1%であることがさらに好ましい。上記Nbの含有量の上限は1.2%であることがより好ましい。
【0028】
以下、本発明のQT熱処理された高炭素熱延鋼板について説明する。
【0029】
本発明のQT熱処理された高炭素熱延鋼板の微細組織は、面積%で、炭化物:0.1~20%、残部に焼戻しマルテンサイトを含むことが好ましい。本発明は、基地組織として焼戻しマルテンサイトを含むことで、優れた耐摩耗性だけでなく、衝撃による抵抗性を確保することができる。また、本発明は、炭化物を適正分率確保することで耐摩耗性を増大させる。上記炭化物の分率が0.1%未満の場合には、硬質炭化物による耐摩耗性の確保を期待し難いという欠点があり、20%超過である場合、脆性によって素材が容易に破壊されるという欠点がある。上記炭化物分率の下限は0.2%であることがより好ましく、0.5%であることがさらに好ましい。上記炭化物分率の上限は18%であることがより好ましく、16%であることがさらに好ましい。一方、本発明では上記炭化物の種類について特に限定されず、例えば、W、V、Mo及びNbが1種以上含まれた単独または複合炭化物であることができる。一方、本発明のQT熱処理された高炭素熱延鋼板の微細組織は、製造工程上、不可避にフェライト、パーライト、ベイナイト及び残留オーステナイトのうち1種以上を合計量で10%未満含むことができる。上記フェライト、パーライト、ベイナイト及び残留オーステナイトのうち、1種以上の合計量が10%以上である場合には硬度が低下することがある。上記フェライト、パーライト、ベイナイト及び残留オーステナイトのうち1種以上の合計量は、7%以下であることがより好ましく、5%であることがさらに好ましい。
【0030】
上記炭化物は、平均サイズが0.1~20μmであることができる。上記炭化物のサイズが0.1μm未満の場合には硬度向上の効果が僅かであり、20μmを超過する場合には鋼材の脆性を誘発することがある。上記炭化物の平均サイズの下限は0.3μmであることがより好ましく、0.5μmであることがさらに好ましい。上記炭化物の平均サイズの上限は17μmであることがより好ましく、15μmであることがさらに好ましい。
【0031】
上記のように提供される本発明の一実施形態によるQT熱処理された高炭素熱延鋼板は、350Hv以上の硬度を有することができる。また、ASTM G99方法で耐摩耗性テストを行ったとき、上記QT熱処理された高炭素熱延鋼板はQT前の再加熱温度が800℃のとき、摩耗減量が35mg以下であり、QT前の再加熱温度が850℃のとき、摩耗減量が27mg以下であり、QT前の再加熱温度が900℃のとき、摩耗減量が25mg以下であることができる。これにより、優れた硬度と耐摩耗性を同時に確保することができる。
【0032】
以下、本発明の高炭素冷延鋼板について説明する。
【0033】
本発明の高炭素冷延鋼板の微細組織は、面積%で、フェライト:20~99.9%、セメンタイト:10%以下、パーライト:50%以下及び炭化物:0.1~20%を含むことができる。上記フェライトが20%未満の場合には低硬度特性を確保できず、冷間圧延などの加工性が劣るという欠点があり、99.9%を超過する場合にはセメンタイトまたは硬質炭化物を確保できず、QT熱処理後の耐摩耗性が低下するという欠点がある。上記フェライト分率の下限は30%であることがより好ましく、40%であることがさらに好ましい。上記フェライト分率の上限は99.8%であることがより好ましく、99.5%であることがさらに好ましい。上記セメンタイトが20%を超過する場合には、素材の脆性を誘発して加工が難しいという欠点がある。上記セメンタイト分率の下限は0.1%であることがより好ましく、0.3%であることがさらに好ましい。上記セメンタイト分率の上限は8%であることがより好ましく、7%であることがさらに好ましい。上記パーライトが50%を超過する場合には、低硬度特性を確保できず、冷間圧延などの加工性が劣るという欠点がある。上記パーライト分率の下限は1%であることがより好ましく、5%であることがさらに好ましい。上記パーライト分率の上限は40%であることがより好ましく、30%であることがさらに好ましい。上記炭化物の分率が0.1%未満の場合には、硬質炭化物による耐摩耗性確保を期待し難いという欠点があり、20%超過の場合、脆性によって素材が容易に破壊されるという欠点がある。上記炭化物分率の下限は0.2%であることがより好ましく、0.5%であることがさらに好ましい。上記炭化物分率の上限は18%であることがより好ましく、16%であることがさらに好ましい。
【0034】
上記炭化物は平均サイズが0.1~20μmであることができる。上記炭化物のサイズが0.1μm未満の場合には、硬度向上の効果が僅かであり、20μmを超過する場合には、鋼材の脆性を誘発することがある。上記炭化物の平均サイズの下限は0.3μmであることがより好ましく、0.5μmであることがさらに好ましい。上記炭化物の平均サイズの上限は17μmであることがより好ましく、15μmであることがさらに好ましい。
【0035】
上記のように提供される本発明の一実施形態による高炭素冷延鋼板は、350Hv以下の硬度を有することができる。このように低い硬度を確保することで高い成形性を確保することができ、これにより、後工程である部品成形を円滑にすることができる。
【0036】
以下、本発明のQT熱処理された高炭素冷延鋼板について説明する。
【0037】
本発明のQT熱処理された高炭素冷延鋼板の微細組織は、面積%で、炭化物:0.1~20%、残部に焼戻しマルテンサイトを含むことが好ましい。本発明は、基地組織として焼戻しマルテンサイトを含むことで、優れた耐摩耗性だけでなく、衝撃による抵抗性を確保することができる。また、本発明は、炭化物を適正分率確保することで耐摩耗性を増大させる。上記炭化物の分率が0.1%未満の場合には、硬質炭化物による耐摩耗性の確保を期待し難いという欠点があり、20%超過である場合、脆性によって素材が容易に破壊されるという欠点がある。上記炭化物分率の下限は0.2%であることがより好ましく、0.5%であることがさらに好ましい。上記炭化物分率の上限は18%であることがより好ましく、16%であることがさらに好ましい。一方、本発明では上記炭化物の種類について特に限定されず、例えば、W、V、Mo及びNbが1種以上含まれた単独または複合炭化物であることができる。一方、本発明のQT熱処理された高炭素熱延鋼板の微細組織は、製造工程上、不可避にフェライト、パーライト、ベイナイト及び残留オーステナイトのうち1種以上を合計量で10%未満含むことができる。上記フェライト、パーライト、ベイナイト及び残留オーステナイトのうち、1種以上の合計量が10%以上である場合には、硬度が低下することがある。上記フェライト、パーライト、ベイナイト及び残留オーステナイトのうち1種以上の合計量は、7%以下であることがより好ましく、5%であることがさらに好ましい。
【0038】
上記炭化物の平均サイズは0.1~20μmであることができる。上記炭化物のサイズが0.1μm未満の場合には、硬度向上の効果が僅かであり、20μmを超過する場合には鋼材の脆性を誘発することがある。上記炭化物の平均サイズの下限は0.3μmであることがより好ましく、0.5μmであることがさらに好ましい。上記炭化物の平均サイズの上限は17μmであることがより好ましく、15μmであることがさらに好ましい。
【0039】
上記のように提供される本発明の一実施形態によるQT熱処理された高炭素冷延鋼板は、350Hv以上の硬度を有することができる。また、ASTM G99方法で耐摩耗性テストを行ったとき、上記QT熱処理された高炭素冷延鋼板は、QT前の再加熱温度が900℃のとき、摩耗減量が25mg以下であることができる。これにより、優れた硬度と耐摩耗性を同時に確保することができる。
【0040】
以下、本発明の一実施形態によるQT熱処理された高炭素熱延鋼板の製造方法について説明する。
【0041】
まず、上述した合金組成を有する熱延鋼板を用意する。上記熱延鋼板を用意する段階は、スラブを1100~1300℃で加熱する段階;及び上記加熱されたスラブを700~1100℃で熱間圧延する段階;を含むことができる。上記スラブの加熱温度が1100℃未満の場合には熟熱度が低くて圧延が難しくなることがあり、1300℃を超過する場合には高温酸化が発生するか、炉内温度偏差の発生有無により局部的にスラブが溶融することがあるという欠点がある。上記熱間圧延温度が700℃未満の場合には、素材の強度が高くて熱間圧延の負荷が大きくなるという欠点があり、1100℃を超過する場合には高温酸化により表面品質が劣化することがある。
【0042】
このように用意された熱延鋼板は、パーライト、粒界にセメンタイトが一部析出したパーライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうち1種以上の微細組織を有することができる。また、上記用意された熱延鋼板は、200Hv以上の硬度を有することができる。
【0043】
この後、上記熱延鋼板を740~1100℃で再加熱する。上記熱延鋼板の再加熱温度が740℃未満の場合にはオーステナイトを確保できず、急冷後のマルテンサイト変態が発生しないという欠点があり、1100℃を超過する場合には結晶粒が過度に成長して所望の物性を確保できないことがある。上記熱延鋼板再加熱温度の下限は800℃であることがより好ましい。上記熱延鋼板再加熱温度の上限は1050℃であることがより好ましい。
【0044】
この後、上記再加熱された熱延鋼板を10℃/s以上の冷却速度で冷却する。上記冷却速度が10℃未満の場合には、再加熱後の冷却過程でフェライト、パーライトなどの低硬度微細組織が生成されるという欠点がある。上記冷却速度は40℃以上であることがより好ましく、90℃/s以上であることがより好ましく、100℃/s以上であることが最も好ましい。一方、本発明では、上記冷却速度が速いほど好ましいため、その上限については特に限定しない。但し、設計上の限界で200℃/sを超過することは困難であることがある。
【0045】
この後、上記冷却された熱延鋼板を150~600℃で焼戻しする。上記焼戻し温度が150℃未満の場合には、転位回復が不十分であり、焼戻し効果がないという欠点があり、600℃を超過する場合には、相変態が発生する可能性があるという欠点がある。上記焼戻し温度の下限は170℃であることがより好ましく、190℃であることがさらに好ましい。上記焼戻し温度の下限の上限は500℃であることがより好ましく、450℃であることがさらに好ましく、380℃であることが最も好ましい。
【0046】
以下、本発明の高炭素冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0047】
まず、上述した合金組成を有する熱延鋼板を用意する。上記熱延鋼板を用意する段階は、スラブを1100~1300℃で加熱する段階;及び上記加熱されたスラブを700~1100℃で熱間圧延する段階;を含むことができる。上記スラブの加熱温度が1100℃未満の場合には熟熱度が低くて圧延が難しくなることがあり、1300℃を超過する場合には高温酸化が発生するか、炉内温度偏差の発生有無により局部的にスラブが溶融することがあるという欠点がある。上記熱間圧延温度が700℃未満の場合には素材の強度が高くて熱間圧延負荷が大きくなるという欠点があり、1100℃を超過する場合には高温酸化によって表面品質が劣化することがある。
【0048】
このように用意された熱延鋼板は、パーライト、粒界にセメンタイトが一部析出したパーライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうち1種以上の微細組織を有することができる。また、上記用意された熱延鋼板は、200Hv以上の硬度を有することができる。
【0049】
一方、上記用意された熱延鋼板を630~850℃で球状化焼鈍熱処理する工程をさらに含むことができる。上記球状化焼鈍熱処理は、熱延鋼板の高い強度により冷間圧延工程の実施が不可能であるか、設備上の欠陥発生を抑制しようとするものである。すなわち、上記球状化焼鈍熱処理は、特に強度の高いセメンタイトの球状化を介して強度を低下させて冷間圧延工程が円滑に行われるようにするためのものである。上記球状化焼鈍熱処理温度が630℃未満の場合には、球状化に要する時間が過度に長くなって経済性が低下するという欠点があり、800℃を超過する場合には熱処理過程中にパーライトが生成して強度または硬度低下効果が僅かであることがある。上記球状化焼鈍熱処理温度の下限は、650℃であることがより好ましく、670℃であることがさらに好ましい。上記球状化焼鈍熱処理温度の上限は830℃であることがより好ましく、810℃であることがさらに好ましい。
【0050】
この後、上記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る。上記冷間圧延工程は、当技術分野で通常行われる方法によって実行されることができる。したがって、本発明では、目的とする厚さの冷延鋼板が得られるものであれば、上記冷間圧延工程について特に限定しない。
【0051】
一方、上記高炭素冷延鋼板の製造方法は、上述した球状化焼鈍熱処理及び冷間圧延工程を1回又は2回以上行うことを含むことができる。
【0052】
以下、本発明の一実施形態によるQT熱処理された高炭素冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0053】
まず、上述した合金組成を有する熱延鋼板を用意する。上記熱延鋼板を用意する段階は、スラブを1100~1300℃で加熱する段階;及び上記加熱されたスラブを700~1100℃で熱間圧延する段階;を含むことができる。上記スラブの加熱温度が1100℃未満の場合には、熟熱度が低くて圧延が難しくなることがあり、1300℃を超過する場合には高温酸化が発生するか、炉内温度偏差の発生有無によって局部的にスラブが溶融することがあるという欠点がある。上記熱間圧延温度が700℃未満の場合には、素材の強度が高くて熱間圧延負荷が大きくなるという欠点があり、1100℃を超過する場合には高温酸化により表面品質が劣化することがある。
【0054】
このように用意された熱延鋼板は、パーライト、粒界にセメンタイトが一部析出したパーライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうち1種以上の微細組織を有することができる。また、上記用意された熱延鋼板は、200Hv以上の硬度を有することができる。
【0055】
一方、上記用意された熱延鋼板を630~850℃で球状化焼鈍熱処理する工程をさらに含むことができる。上記球状化焼鈍熱処理は、熱延鋼板の高い強度により冷間圧延工程の実施が不可能であるか、設備上の欠陥発生を抑制しようとするものである。すなわち、上記球状化焼鈍熱処理は、特に強度の高いセメンタイトの球状化を通じて強度を低下させて冷間圧延工程が円滑に行われるようにするためのものである。上記球状化焼鈍熱処理温度が630℃未満の場合には、球状化に要する時間が過度に長くなって経済性が低下するという欠点があり、800℃を超過する場合には熱処理過程中にパーライトが生成して強度または硬度低下効果が僅かであることがある。上記球状化焼鈍熱処理温度の下限は、650℃であることがより好ましく、670℃であることがさらに好ましい。上記球状化焼鈍熱処理温度の上限は830℃であることがより好ましく、810℃であることがさらに好ましい。
【0056】
この後、上記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る。上記冷間圧延工程は、当技術分野で通常行われる方法によって実行されることができる。したがって、本発明では、目的とする厚さの冷延鋼板が得られるものであれば、上記冷間圧延工程について特に限定しない。
【0057】
この後、上記冷延鋼板を740~1100℃で再加熱する。上記冷延鋼板の再加熱温度が740℃未満の場合にはオーステナイトを確保できず、急冷後にマルテンサイト変態が発生しないという欠点があり、1100℃を超過する場合には結晶粒が過度に成長して所望の物性を確保できないことがある。上記冷延鋼板再加熱温度の下限は800℃であることがより好ましい。上記冷延鋼板再加熱温度の上限は1050℃であることがより好ましい。
【0058】
この後、上記再加熱された冷延鋼板を10℃/s以上の冷却速度で冷却する。上記冷却速度が10℃未満の場合には、再加熱後の冷却過程でフェライト、パーライトなどの低硬度微細組織が生成されるという欠点がある。上記冷却速度は40℃以上であることがより好ましく、90℃/s以上であることがより好ましく、100℃/s以上であることが最も好ましい。一方、本発明では、上記冷却速度が速いほど好ましいため、その上限については特に限定しない。但し、設計上の限界で200℃/sを超過することは困難であることがある。
【0059】
この後、上記冷却された冷延鋼板を150~600℃で焼戻しする。上記焼戻し温度が150℃未満の場合には、転位回復が不十分であり、焼戻し効果がないという欠点があり、600℃を超過する場合には、相変態が発生する可能性があるという欠点がある。上記焼戻し温度の下限は170℃であることがより好ましく、190℃であることがさらに好ましい。上記焼戻し温度の下限の上限は500℃であることがより好ましく、450℃であることがさらに好ましく、380℃であることが最も好ましい。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明をより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0061】
(実施例1)
下記表1の合金組成を有するスラブを1200℃で加熱した後、900℃で熱間圧延して熱延鋼板を得て、この熱延鋼板について硬度を測定して下記表1に併せて示した。このように得られた熱延鋼板をそれぞれ800℃、850℃及び900℃で再加熱した後、80℃/sの冷却速度で冷却し、200℃で焼戻ししてQT熱処理された熱延鋼板を製造した。
【0062】
上記のように製造されたQT熱処理された熱延鋼板について微細組織、硬度及び耐摩耗性を測定した後、その結果を下記表2に記載した。
【0063】
微細組織の分率は、熱力学的な特性に基づいたThermoCalcソフトウェアを活用して計算した。
【0064】
炭化物の大きさは、FE-SEM走査電子顕微鏡を活用して観察した。具体的には、サンドペーパーを用いて試験片を#400~#2000まで研磨した後、1μmのダイヤモンド研磨剤で最終研磨を行い、2%nital etchantで処理した後、この後、イメージ分析プログラムを活用して観察した。
【0065】
硬度は、ビッカース硬度計を活用して測定した。このとき、10kgの測定荷重で5回繰り返しテストを行って平均値を計算した。
【0066】
耐摩耗性評価はASTM G99方法によってBall-on-diskテストを行った。この時、直径:31mm、厚さ:5mmのディスク(Disk)形態に加工した試験片と直径:12.7mmのSiCボール(Ball)を常温で3600秒間50Nの力と1000rpmの速度で摩擦させてテストを行った。耐摩耗性は、試験片の摩耗前の重量から摩耗後の重量を引いた値、すなわち摩耗減量で表し、摩耗減量が小さいほど耐摩耗性に優れることを示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
上記表1及び表2から分かるように、本発明が提案する条件を満たす発明鋼1~15の場合には、本発明が得ようとする微細組織と炭化物の大きさを確保することによって優れた硬度と耐摩耗性を有することが分かる。
【0070】
一方、本発明が提案するW含有量の条件を満たさない従来鋼や比較鋼1~4の場合には、本発明が得ようとする炭化物の大きさを確保できなかったため、硬度と耐摩耗性が低いレベルであることが分かる。
【0071】
(実施例2)
上記実施例1に記載の表1の合金組成を有するスラブを1200℃で加熱した後、900℃で熱間圧延して熱延鋼板を得て、この熱延鋼板に対して770℃で球状化焼鈍熱処理した後、冷間圧延して冷延鋼板を製造した。また、この冷延鋼板に対して900℃で再加熱し、40℃/sの冷却速度で冷却した後、210℃で焼戻しを行ってQT熱処理された冷延鋼板を製造した。
【0072】
上記のように製造された冷延鋼板について微細組織と硬度を測定した後、その結果を下記表3に記載した。また、上記のように製造されたQT熱処理された冷延鋼板について微細組織、硬度及び耐摩耗性を測定した後、その結果を下記表4に記載した。
【0073】
微細組織、硬度及び耐摩耗性は、実施例1と同様の方法を用いて測定した。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
上記表3及び表4から分かるように、本発明が提案する条件を満たす発明鋼1~15の場合には、本発明が得ようとする微細組織と炭化物の大きさを確保することによって優れた硬度と耐摩耗性を有することが分かる。
【0077】
一方、本発明が提案するW含有量の条件を満たさない従来鋼や比較鋼1~4の場合には、本発明が得ようとする炭化物の大きさを確保できなかったため、硬度と耐摩耗性が低いレベルであることが分かる。
【国際調査報告】