(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】経心筋ジェット灌流デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/34 20060101AFI20231222BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20231222BHJP
A61M 5/145 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
A61B17/34
A61M25/00
A61M5/145
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537583
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 US2021063509
(87)【国際公開番号】W WO2022132896
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523227694
【氏名又は名称】エリック ウィリアム ブレイダー
【氏名又は名称原語表記】Eric William Brader
【住所又は居所原語表記】1612 Blackburn Heights Drive,Sewickley,Pennsylvania 15143 U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エリック ウィリアム ブレイダー
【テーマコード(参考)】
4C066
4C160
4C267
【Fターム(参考)】
4C066AA07
4C066BB01
4C066CC02
4C066DD07
4C066EE14
4C066FF01
4C160FF42
4C160FF49
4C160MM33
4C267AA02
4C267AA28
4C267CC19
(57)【要約】
【解決手段】 本発明は、心停止状態又は初期心臓停止時に、典型的には格納式トロカールを備えた14乃至18ゲージカニューレを使用して、2つの頸動脈、2つの椎骨動脈、及び脳を通る冷却血流を生成して脳又はその他の生体器官を冷却するのに十分な量の冷却生理食塩水又は凍結保護溶液を患者又は動物の心臓の左心室に直接注入するハードウェア及び方法に関する。一般に、十分な量の生理食塩水又は凍結保護液が、30%のベースライン総頸動脈血流を作るのに十分な高圧下で注入される。そのカニューレ機構は、調整された鋭利な先端部を有する格納式トロカールを備えており、その周囲の可撓性及び堅いシールド、ダイアフラム、ストップコックと共に、「現場」又は病院環境の何れでも使用するのに適した無菌の自己密閉システムを提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮的経心筋ジェット灌流デバイスであって、
処置を必要とする患者又は動物の心臓の左心室を穿孔及びカニュレーションするために協働するトロカール及びカニューレデバイスと、
流体リザーバと、
前記流体リザーバに充填されるある量の流体と、
検査用シリンジと、
を備えており、
協働する全ての要素は、前記トロカールが前進及び後退可能である無菌閉鎖システム内に収容される、経皮的経心筋ジェット灌流デバイス。
【請求項2】
協働する前記トロカールは、中実の切断先端部を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
協働する前記トロカールは、中実の切断先端部と前記中実の切断先端部に隣接する鳥の目開口の両方を有する、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記鳥の目開口は、前記トロカール内の中空チューブに繋がる、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記鳥の目開口は、協働する前記トロカールの溝に繋がり、前記溝は、前記カニューレと協働して流体チャネルを形成する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項6】
協働する前記トロカールは、前記カニューレを通して引き込むことができる、請求項3に記載のデバイス。
【請求項7】
協働する前記トロカールと前記カニューレとは、少なくとも1つのストップコック又はシリンジによって調節される、請求項3に記載のデバイス。
【請求項8】
前記カニューレは、関連するガイドワイヤを含む、請求項3に記載のデバイス。
【請求項9】
前記カニューレは、関連する吸引シリンジを含む、請求項3に記載のデバイス。
【請求項10】
前記カニューレは、関連するリザーバ及びポンプを含む、請求項3に記載のデバイス。
【請求項11】
前記ポンプは手動ポンプである、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記ポンプは電動ポンプである、請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
前記ポンプは、脈動流体流を提供するように構成されている、請求項10に記載のデバイス。
【請求項14】
前記ポンプは、毎分60乃至100パルスの脈動流体流を提供するように構成されている、請求項10に記載のデバイス。
【請求項15】
前記ポンプは、脈動流体流を提供するように構成されており、前記ポンプによって生成されるパルスは、前記脈動流の周期の30乃至50%が能動ポンピングを示すデューティーサイクルを有する、請求項10に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願との相互参照>
本特許出願は、以下の4件の米国仮特許出願の優先権を主張し、それら米国仮特許出願の各々は、参照により本明細書の一部となる:2020年12月16日に出願された米国仮特許出願第63/126,119号;2020年12月16日に出願された米国仮特許出願第63/126,130号;2020年12月30日に出願された米国仮特許出願第63/132,165号;及び2020年12月30日に出願された米国仮特許出願第63/132,192号。
【0002】
<発明の分野>
本発明は、脳の領域における組織代謝を阻害するための方法及び装置であり、より詳細には、局所的な治療的低体温又は全身的な治療的低体温の何れか、或いはそれら両方を誘発させるための方法及び装置である。
【背景技術】
【0003】
全身性低体温療法は、低酸素又は無酸素組織における神経機能低下を劇的に遅らせることができる。低体温療法は心停止時の脳損傷を防ぐことは古くから知られている。当初は代謝の低下に起因すると考えられていたが、酸素貯蔵が低体温心停止において早期に激減することから、虚血再灌流障害中における誘発事象の低体温阻害が、現在では低酸素障害の原因であると考えられている。故に、低体温が組織の酸素需要を減少させるとともに、心停止中と循環回復後の両方で起こる病理学的プロセスを抑制することが知られている。例えば、冷水中への不慮の水没と、これに伴って生じた相応の全身低体温とは、そうでなければ回復不能な脳損傷を負っていたであろう事故被害者の神経生存に一貫して寄与してきた。この現象を観察した結果、医療従事者は、患者の全身的な代謝とそれに関連する全体的な酸素要求量の両方を低下させて有害なプロセスを阻害するために、低酸素症及び無酸素症を引き起こす様々な外科的処置の過程で全身低体温を誘発させることとなった。
【0004】
特に、低体温療法は、手術を安全に行うために心停止を誘導する必要がある心臓及び神経の外科的処置で広く用いられてきた。低体温療法はまた、脳損傷を軽減するために、心停止後の自然循環回復後に用いられてきた。心停止前に誘発された低体温は、心停止後に誘発された低体温よりも効果的であるが、臨床試験は、場合によっては心停止後の低体温についても幾らかの利点を示しており、幾つかのEMSシステムは、本明細書での従来技術の心停止後低体温療法を採用している。心停止中に外部手段によって誘発された低体温は、ベンチトップ研究において肯定的な結果をもたらしており、心肺蘇生法(CPR)と並行した追加の治療として、既に今日、幾つかの施設において実施されている。CPRは心停止中に有益であるが、正常な血流の約10%しか生じず、これは、20分以上であることもある持続的なCPRの任意の期間にわたって脳損傷を防止するのに十分ではないことに留意すべきである。正常体温条件下では、通常の血流の約30%が脳損傷を予防するために必要であると考えられている。外部冷却が心停止及びCPR中に有益であり得る一方で、表面脳構造のみが外部冷却から利益を得る可能性があり、深部構造は正常体温のままであろうという一般的な意見の一致がある。心停止の患者が低体温症を患っている場合、典型的には冷水溺水シナリオにおいて、CPRが数時間にわたって実施された長期の心停止にもかかわらず、良好な神経学的転帰が得られた。結果として、冷却の迅速な誘導、特に脳の冷却の迅速な誘導は、正常体温条件でのCPRのための現在の20分間の障壁を延長する見込みを実証している。
【0005】
CPRと比較して結果を改善する現在の方法の1つは、心停止の治療における静脈動脈体外循環、即ち、VA ECMOの使用である。VA ECMOを早期に使用した最近の研究では、心停止の転帰が著しく改善し、神経学的転帰も改善している。このような患者においては、CPRは、正常な心拍出量及び組織灌流を模倣するVA ECMOデバイスからの血流で置き換えられる。VA ECMOが装着されると、患者は心臓カテーテル室に連れて行かれ、冠動脈の閉塞が開かれて(場合によってはステントが挿入される)、心臓は「再び自分の力で動く」ようになる。患者をVA ECMOに配置することは非常に技術的な手順であって、ベストハンドであっても、手術を行うのに10分を要し、このことは、ダウンタイムと、この治療を行うことができる施設への輸送時間とを厳しく制限する。VA ECMO処置を開始するために必要とされる時間はまた、僅か数分の遅延が神経学的転帰に著しく悪影響を及ぼし得ることから、比較的程度は低いが病院環境におけるVA ECMOの有用性を制限する。従って、VA ECMOは心停止患者を治療するための重要な技術であるが、VA ECMOそれ自体には、低体温が同様の状況で誘導された場合に達成するであろう利益と同様な「時間を稼ぐ」利益をもたらすものは何もない。
【0006】
現在、全身低体温は、院内環境においてそれほど困難なく誘発され得るが、現時点では、非院内環境における全身低体温の緊急誘発は困難であるか、又は実質的に不可能である。結果として、誘導された全身低体温は、そのような低体温症が提供し、既に広く知られて十分に確立されている有益な代謝阻害があるにもかかわらず、現在、例えば心肺蘇生法(CPR)のような入院前の緊急心停止ケアの一部を成していない。低体温療法が現在まで導入されていない同様の緊急処置には、重度のショック又は脳卒中の患者に施される入院前の緊急治療が含まれる。上述したように、心停止後の冷却は、医療補助者によって、コールドパックの場当たり的な適用と、冷たい静脈内輸液の変則的な注入とを介して行われることがあるが、これらは、任意の種類の制御された方法で適切な全身冷却を提供することができない。
【0007】
上記とは別に、誘導された局所的低体温は、様々な生理学的状態の非病院又は入院前治療に広く用いられてきた。ある種のコールドパックは、応急処置キットにおける標準的な機器であって、挫傷、虫刺され又は刺し傷、鼻血、捻挫などの場合に、末梢の血流と相応の腫れを減少させるために使用される。もちろん、頭部への冷湿布は、長い間、頭痛と発熱の標準的な症状緩和手段であった。しかしながら、これらの一般的な治療に加えて、局所的冷罨法のためのあまりよく知られていない3つの使用が、米国特許第2,438,643号、第3,175,558号及び第4,552,149号に記載されている。
【0008】
米国特許第2,438,643号は、塩水と、おがくずなどの吸収性材料とを収容する複数の防水区画を含んでおり、局所冷却麻酔で使用するためのパックを開示している。そのパックは、任意の適切な冷却デバイスで冷却されて、その後、局所用コールドパックとして使用され得る。そのパックは、冷凍保存される必要があることから、局所的低体温の誘発に使用できるのは冷凍保存が可能な場所に限られる。
【0009】
また、米国特許第4,552,149号は、冷却剤を含む冷媒依存コールドパックを開示しており、当該コールドパックは、より具体的には頭部冷却デバイスである。そのデバイスは、頭部の頂部を覆う冷却片からなる本体と、本体の周囲に放射状に配置されて、頭部の前部、側部及び後部を覆う複数の冷却片とを備える。この頭部冷却キャップは、脱毛が既知の副作用である薬物又は化学療法剤の投与中に脱毛を抑制するように設計されている。冷凍を必要とする全ての冷却パックと同様に、その頭部冷却デバイスは、病院及び家庭用途に最も適しており、従来の(電気)冷凍が一般的に利用可能ではない入院前の緊急治療での使用にはあまり適していない。
【0010】
米国特許第3,175,558号は、特に女性の会陰への分娩後適用のために設計された温熱治療パックを開示しており、これは吸熱反応の未反応成分を含んでいる。未反応成分は、壊れやすいバリア、徐放性カプセル、又は、それら両方によって隔離されており、その隔離は、コールドパックが必要とされるまで維持される。使用時に、反応物は、例えば、それらの間のもろいバリアを手で割ることによって混合されて、吸熱反応を開始し、コールドパックとその内容物の全体的な温度を低下させる。パックは、必要に応じて患者の上に配置され、身体によるパックの逆伝導加熱によって適用領域を冷却する。
【0011】
従来技術の幾つかのデバイスでは、デバイス内の流体の冷却は、水と硝酸アンモニウムの間の吸熱反応によって達成され、それらは通常、ペレットの単一集団として存在する。反応物の量と形態は一般的に、組織が凍って損傷するのを防止するために、氷点下に下がらない流体を生じるように選択される。組織の損傷は避けられるが、このような状況では患者の冷却は最適にならない。
【0012】
上述したように、局所冷却のための従来技術の特許及び技術は、現場での心停止又は重度のショックの救急処置におけるそれらの有効な使用を妨げる欠陥のみを有する。米国特許第4,750,493号及び米国特許第4,920,963号に開示された発明は、局所冷却パックが達成できるよりも効果的に全身冷却を行うことできる程度まで十分な頭部冷却を提供することによって、早期にこれらの欠点の幾つかに対処して克服した。そうであっても、それらに開示されているデバイスは、好ましい寸法が2’×2’×2’であるような比較的かさばるものであった。かなりの典型的な重量(25ポンド程度)とあいまって、それらデバイスは、最適な精度及び正確さで深部内部低体温を生じるための外部冷却適用の能力に対する固有の制限は言うまでもなく、それらが保管及び展開され得る面積について制限された。
【0013】
故に、医学界では、頭蓋及び頭蓋外領域の冷却のために制御された低体温を誘発することを可能にし、物理的プロファイルが限定的な携帯デバイスに対する要求が未対処のままである。加えて、凍結による組織損傷を同時に回避しながら、患者、特に脳組織を迅速且つ深く冷却することが依然として必要とされている。恐らく、そのような救急方法及びシステムは、救急医療の専門知識を有する者による訓練された使用を必要とするであろうが、最低でも、そのシステムは、単純で、展開が容易であり、「現場」と病院環境から離れていても監視が容易であるのが最も好ましいであろう。
【発明の概要】
【0014】
この未対処の要求を満たすために、本発明は、心停止状態又は初期心停止状態において、典型的には格納式トロカールを備えた14乃至18ゲージカニューレを使用して、2つの頸動脈、2つの椎骨動脈、及び脳を通る冷却血流を生成して脳を冷却するのに十分な量の冷却生理食塩水又は凍結保護溶液を、患者又は動物の心臓の左心室に直接注入することに関する。冷却された生理食塩水又は凍結保護溶液の注入が心臓の再始動を防止するので、本発明はまた、十分に確立された心臓/肺バイパスデバイスとして、動物又は患者への上述したVA ECMOの使用を含んでおり、当該デバイスは、呼吸と血行動態の両方の支援を提供し、現場だけでなくあらゆる医療現場で使用できる。VA ECMOと同等の任意の呼吸及び血行動態支援が、VA ECMOの代わりに使用されてもよい。通常、十分な生理食塩水又は凍結保護溶液が、30%のベースライン総頸動脈血流を生じるのに十分に高い圧力下で(一般的に同じ血流の10%のみを生成するCPRとは対照的に)注入され、平均的な身長体重の患者については、通常1乃至2リットルであり、事実上2リットルを超えることはない。皮膚を通して心臓の左心室に直接選択的に穿刺するために、調整された鋭利な先端部の格納可能なトロカールを備えたカニューレ機構は、周囲の柔軟な硬いシールドとストップコックと共に、「現場」又は病院環境での使用に適した無菌の自己密閉システムを提供し、VA ECMO又はより単純な電動ポンプや手動ポンプと組み合わせて、連続又は脈動的な液体注入を行う。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、本システムの特徴を示す概略図であって、限定ではないが、トロカール、ストップコック、ダイアフラム、可撓性シース、及び弾性シースを含んでおり、全ては閉じた滅菌アレイにある。
【0016】
【
図1B】
図1Bは、ストップコックを通って定位置にある本発明のトロカールの斜視図である。
【0017】
【
図2】
図2は、パイロット研究の結果を示す線グラフであって、左室輸液時と心肺蘇生時の血流をベースライン時と比較対照する。
【0018】
【
図3A】
図3Aは、本発明のトロカールの一実施形態の透視図である。切断先端部は中実であり、部分的な中空の中心が切断先端部付近の「鳥の目」開口で終端しており、トロカールは周囲のカニューレ内にぴったりと嵌められており、トロカールは周囲のカニューレ内を移動して前後に自由に通ることができる。
【0019】
【
図3B】
図3Bは、トロカールの切断先端部の別の幾何学的構成の透視図である。切断先端部は屋根型で中実であり、部分的な中空の中心が切断先端部付近の鳥の目開口で終端しており、トロカールは周囲のカニューレ内にぴったりと嵌められており、トロカールは周囲のカニューレ内を移動して前後に自由に通ることができる。
【0020】
【
図3C】
図3Cは、取り囲むカニューレにぴったりと嵌まっており、内部の中空中心ではなく外側溝が入れられているトロカールの斜視図である。
【0021】
【0022】
【
図3E】
図3Eは、周囲のカニューレ内に配置された外側溝を備えたトロカールの代替的構成の透視図である。
【0023】
【
図3F】
図3Fは、周囲のカニューレ内に位置する外側溝を備えたトロカールの別の構成の透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
直ぐ上で記載したように、本発明は、14乃至18ゲージのカテーテル又はその同等物を使用して、十分な量の冷却生理食塩水又は凍結保護液を心臓の左心室に直接注入して、頸動脈及び椎骨動脈の両方を通って脳内への冷却血液の流れを作り出して脳を冷却することに関する。冷却された生理食塩水又は凍結保護液のより長く且つ連続的な注入は、心停止又は重度のショックの救急処置の間など、必要とされるときに、より全身的な低体温を作り出すことができる。全身性低体温は、脳卒中の悪影響を改善するために、限られた時間であれば、大抵の場合適切である。冷やされた生理食塩水又は凍結保護液の注入により、低温に起因して心臓の再始動が妨げられるため、本発明は、VA ECMO(又はそれと同等のもの)、また、呼吸及び血行動態の両方の支援を提供して医療現場だけでなく現場でも使用でき、定評のある(当該技術分野で既知の)携帯型心臓/肺バイパスデバイスの使用も含む。VA ECMOと同等の任意の呼吸及び血行動態支援デバイス又はプロトコルが、本明細書に説明される発明概念に関連して代用されてよい。普通は、10乃至20%の総頸動脈血流しか生じないCPRとは対照的に、30%のベースライン総頸動脈血流を生じるのに十分高い圧力下で、十分な生理食塩水又は凍結保護液が注入される。以下に詳細に説明するように、皮膚を通して心臓の左心室に直接選択的に穿刺するために、調整された鋭利な先端部の格納可能なトロカールを備えたカニューレ機構は、周囲のシールドとストップコックと共に、「現場」又は病院環境での使用に適した無菌の自己密閉システムを提供する。
【0025】
直接の左心室穿刺は、以下のような理由から、冷生理食塩水の注入部位として最適である。左心室を使用する場合、脳血管系全体を灌流するのに必要な穿刺は1回のみである。左心室は厚く、通常、トロカール/14乃至18ゲージのカニューレなどの小さな直径の穿刺が生じたり、残されたりしても自動的に密閉される。漏出が生じたとしても、VA ECMO施行中に大動脈弁が機能していれば、出血が制限され、VA ECMOによって迅速な輸血と灌流が継続されるであろう。任意選択的に、任意選択のガイドワイヤの実施形態(
図1、モジュールF、G、及びH参照)を使用することにより、必要に応じて経皮閉鎖が可能になるであろう。心停止シナリオでは、左心室を見つけることは容易である。対照的に、個々の動脈は、より小さく、心停止状況において位置決め及び操作することがより困難であり、左心室よりもカニューレ挿入することがより困難であり、左心室ほど容易に自己密閉せず、大抵の場合プラークを有している。このプラークは、不注意でぶつけられて解放されて、致命的な塞栓形成を引き起こし得る。これらの理由から、左心室ではなく血管にカニューレを挿入しようとする試みは、冷却流体を注入するためには許容されない。左心室に高圧注入をすることによって、高圧流が生じるベンチュリ効果を介して更なる流れを取り込むことができる。左心室の厚い壁を考慮すると、これらの高い注入圧力は、任意の薄い壁の血管よりも良好に耐えられる。故に、他の静脈又は動脈ではなく、左心室への冷却流体の注射及び注入が、本技術の文脈においては好ましい。流体自体は、冷たい生理食塩水、冷たい保護液、或いは冷却を必要とする動物又は患者の循環系への注入に適した任意の冷たい溶液であってよい。
【0026】
より詳細には、脳及び全身低体温は、以下の手法及びハードウェアを用いて迅速且つ容易に達成することができる。通常、最初の切断と穿孔のために格納式トロカールを装着している小径カニューレ(14乃至18ゲージ)による経皮的左室カニュレーションは、冷却された心臓脳灌流(cardiocerebroplegia)液を左心室に高圧注入することで、心停止において保護的/治療的低体温状態を速やかに誘発することができる。パイロット研究は、この技術が短期間でベースラインの脳血流の30%を達成できることを示している(
図2)。そのため、脳は急速に冷却される。頸動脈内にカニューレを挿入することで同様の効果が得られると推測する人もいるが、前述のように、これは心室内注入よりも技術的にはるかに難しく、両方の頸動脈に挿入する必要があり、また、より小さなターゲットにカニューレを挿入しなければならず、これは、動脈硬化性プラークを破壊する危険性があり、患者に脳卒中を引き起こす可能性が高い。流体が左心室に導入されると、左心室内の圧力を増加させることによって順方向流が生じ、僧帽弁を閉鎖させ、大動脈弁を開放させる。高圧ジェットを使用することによって、循環系内の血液が取り込まれ、それによって灌流液の有効体積が増加する。左心室補助装置(LVAD)は、左室内にカニューレを開腹手術で移植し、心拍出量を半永久的/永久的に補充するものである。対照的に、本発明のデバイスは、脳と器官の保護を達成するための一時的(テンポラリー)な手段として設計されており、注入が完了した後にCPRが再開される可能性が高い。この方法で注入できる輸液は限られた量(一般に2リットル以下)だけである。何故ならば、流体をポンプに戻す再循環がなく、無期限に続けると患者内で容量過負荷が起こるからである。脳及び身体の温度の低下により、CPR血流は、正常体温の間は不十分であるが、組織、特に脆弱な脳物質を保存するのに十分になる。拍動流(以下で更に説明される)を利用することにより、左心室内のジェット間に患者自身の血液がより多く充填され、それにより灌流液の体積が増加し、一般的なCPRよりも効果的なレベルでの灌流が可能になると考えられる。冷たい心臓脳灌流液は、より多くの患者自身の血が各ジェットで冷却される必要があるので、比較的低い温度に保たれる。
【0027】
図に関連して以下でより詳細に説明されるように、より単純な経皮血管内デバイスとは対照的に、堅い、恐らくは金属製のトロカール/カニューレ挿入デバイスが、左心室に貫通するために必要とされる。これは、左心室腔にアクセスするために、左心室の壁を含む貫通される必要がある全ての組織層を横断するために強力な穿刺機構が必要とされるからである。より強くより堅いカニューレを使用することにより、挿入中と挿入後のよじれ及びクリンピングが防止される。(より可撓性が高く、より頑丈でないカニューレは、挿入後の移動と左心室に有害であり得る「カテーテルホイップ(catheter whip)」とをより受けやすい。)堅いカニューレはまた、左室流出路/大動脈弁に向かってジェットをより良好に方向付けることを可能にする。また、直径が小さいカニューレは、多くの場合、心室挿入路を閉じるための外科的処置を必要とすることなく左心室から除去され得ることが知られている。患者は通常、VA ECMOに配置されて、VA ECMOデバイスからの灌流は反対方向から大動脈を上昇するので、大動脈弁は、自発的な循環が回復されるまで、左心室内における持続的に開口路(laid-open tract)からの血液の損失を阻止する。脳及び全身の保存状態が達成されると考えられるので、現場で直ちに心臓を再始動させることは心配ない。偶発的な低体温症の場合の臨床データから、脳損傷がない場合のCPRの限界は数時間に延長され得るからである。あるエミュレーション、
図1A(モジュールF~G~Hを参照)では、ガイドワイヤが、穿刺部位から左心室内に延びる路内に挿入されてよい。ワイヤを固定することで、市販の栓部材をワイヤに通して、必要に応じて左心室路を塞ぐことができる。加えて、カニューレを再び挿入したい場合は、このワイヤに通すことができる。外側の部品が可鍛性を有する前処理されたシースで構成されており、折り畳み式/アコーディオン式のユニークな構造のワイヤは、管路内でのワイヤの紛失を防ぐことができる。無菌状態を維持するために、ワイヤの外側セグメントは簡単な滅菌帯(sterile dressing)で覆われてよい。
【0028】
本発明のデバイスはまた、最適な位置決めを検証するための複数の特徴を有する。超音波デバイスが利用可能である場合、臨床医が超音波利用に熟練していれば、この手段によって最適位置を確認することができる。カニューレ位置の確認を可能にするために、トロカールは、左心室が穿刺された後に左心室からの血液の吸引を可能にするように構成される必要がある。これにより、カニューレ挿入が「盲目的に(blindly)」、即ち、超音波又は他の撮像誘導を伴わずに行われる場合に、適切な配置が確認されるであろう。典型的なトロカールは中実構造であるが、本発明のトロカールは中空であるか、又は、以下でより詳細に説明するように血流を可能にするサイドチャネルが取り付けられている(しかしながら、トロカールはその切断先端部で中実でなければならない)。トロカールの切断先端部における中実性の必要は、トロカールが、先端部の中央が空洞になっているIVカテーテルのスタイレット(本質的に中空のトロカール)のように構成されている場合、切断先端部が穿刺された組織のコアリング(coring)を生じ得るという点にある。このコアリングがその後、本注入が開始された後で塞栓形成を生じる可能性がある。また、トロカールの先端部が完全に中空になっていると、現在のカニューレの位置を確認するために左心室から血液を吸引しようとする際にも邪魔になる可能性がある。従って、本発明のトロカールのための切断形状(「鉛筆の先」や六角形など)の幾つかの実施形態が考えられる。これらは全て、様々な幾何学的形状の中実又は主として中実の鋭利なトロカール先端部を必要とするが、トロカールの中央部分(先端部自体ではない)は、切断先端部付近の「鳥の目」から始まる中空であろう。鳥の目は、トロカール/鳥の目/カニューレが実際に左心室内に正しく配置されていることを施術者に確信させるために、流体(血液を含む)の流れを「引く(pulled back)」ことができる導管を形成する。超音波を利用している場合には、左心室内に生成される流れを視覚化することによって、判明した位置決めを更に検証又は最適化することができる。図に関連して更に説明されるように、最初の配置後にトロカールを完全に除去するのではなく、トロカールは、密閉されたシステム内に後退させられて、左心室の位置を確立するために鳥の目を通して血液/体液を引くことにより、外部汚染や偶発的な空気の導入を引き起こすことなく、トロカールを再挿入してカニューレの位置を「吸引(aspiration)」で再確認できるようにする。加えて、中空の中心を含む代わりに、トロカールには、左心室からの吸引を可能にするような方法で外側に溝を有益に付けることができ、トロカールがそのぴったりとフィットするカニューレ内の所定の位置にあると、溝は事実上中空の通路を形成する。実用上の理由から、主にトロカールのゲージが狭いことに起因して、中空トロカールよりも溝付きトロカールを構築する方が一般に容易且つ強固である。このような溝付きトロカールは、カニューレ又はカテーテルが配置されてトロカールを除去する前に流体をサンプリング又は更に注入することが望まれる他の医療分野に適用されてよい。溝付きトロカールは、閉塞具(obturator)が挿入手技で使用される場合、即ち、閉塞具が、基本的に先端部が丸いトロカールである場合にも使用できる。特に、カニューレの先端部が脳の脳室空間内にあるかどうかを判定するために除去と閉塞具交換が繰り返し必要であることことから、大脳脳室内カテーテルの挿入は、本発明の溝付きトロカールの用途であり得る。構築されており、以下に説明されるように、トロカールは、左心室内にカニューレをうまく配置できた時点で引き抜くことができ、また、本発明のデバイスの無菌領域内に収容されて、患者、操作者、又は傍観者の不注意による針刺しから保護するために針は被覆される。トロカールをデバイスから完全に取り外したい場合は、これもまた、トロカールが通されているストップコックの配置を考慮すれば選択肢となる。透明な被覆部材は前述のストップコックから容易に引き裂かれるであろう。トロカールの先端部が最初に挿入されるダイアフラムは自己封止ポリマー製であってよく、また、そのようにすべきである。追加のポート(D)(
図1A参照)が存在しており、必要に応じて、注入プロセス中にカニューレ位置を再確認する目的で繰り返し吸引することを可能にする。
【0029】
デバイスは、最適には、心臓‐脳灌流リザーバ/ポンプ(
図1、符号A~E、I、及びJ)と関連して使用するための完全に密閉された経皮経心筋カニューレ/トロカールデバイス(percutaneous transmyocardial cannula/trocar device)と、左心室内の挿入路をマークするための任意選択的なセルディンガー型ワイヤ機能(
図1、符号F、G、及びH)とから構成される。これらの特徴は全て、添付の図面に関連して更に開示され、説明される。
【0030】
ここで
図1を参照すると、モジュールAは、本発明の主カニューレ10を含む。それは、モジュールBに示されており、主カニューレ10と共に使用されるように設計された特別設計のトロカールを使用して挿入される。主カニューレ10は、14乃至18ゲージ又は同等のカテーテルサイズ範囲にある。主カニューレは、カニューレ継手コネクタ14を介してカニューレ継手12に接続される。カニューレ継手コネクタは、通常、ねじ式の雄/雌コネクタであるが、流体密封された無菌システムを同様に維持できる任意のコネクタ(スナップイン、圧入など)であってよい。カニューレ継手コネクタ14に隣接して、遠位のストップコック16がある。遠位ストップコック16は遠位のストップコック剛性ハウジング18に直接接続されており、このハウジングはチューブの遠位端でストップコックに接続された中空チューブであるのに対し、中空チューブの近位端は剛性ハウジングダイアフラム20で完全に覆われている(硬質であるのはハウジングであって、ダイアフラム20自体は可撓性であり、通常は自己密封透過性を有する)。剛性ハウジングダイアフラム20は、可撓性を有する弾力性ポリマーで形成されており、このポリマーは、本発明のトロカールによって破る(穿刺する)ことができるが、トロカールの引き込み時に最適に自己密封される。
図1Aに示すように、トロカール22は既に剛性ハウジングダイアフラム20を通って押し込まれており、トロカール切断先端部24は遠位ストップコック16の直ぐ近位の位置に示されている。ここでトロカール切断先端部24は完全に覆われており、操作者、患者又は傍観者を刺すことはできない。
【0031】
図1Aについて理解すべき重要なことは、直線状に連結されたトロカール基部26、トロカール22及びトロカール切断先端部24(全て長く連続した構造を示している)は、
図1Aに示されているよりも遥かに長く、それ故に、モジュールBにおける図の破断部分であることである。トロカール22は、主カニューレ10内を通る際に、カニューレ遠位先端部11から出て、胸部の皮膚から始まって心臓の左心室内の位置まで患者の組織を横断するための刃先として機能するように延びるのに十分な長さである必要がある。トロカール22と連係する主カニューレ10とを位置決めした後、トロカール22は、
図1Aに示す位置に後退させることができ、そこでは、トロカール22は邪魔にならないが、以下で更に説明するように、依然として無菌の閉鎖環境内に収容されたままである。
【0032】
図1Aの予め組み立てられた構造体、特に、セグメントA及びセグメントBに示される主カニューレ10及びその関連構造体の滅菌(事前滅菌)は、場合によっては可撓性シース29によって主に行われる。可撓性シース29は、任意の可撓性ポリマー材料から作られてよく、概して、
図1Aに示されるものよりもはるかに長く、恐らく4乃至12インチ以上、最大で約20乃至24又は30インチである。可撓性シース29は、トロカール22が主カニューレ10を通ってカニューレ遠位先端部11から出ることを可能にしているが、これを可能にするのに十分な緩みが可撓性シースに存在するからである。更に、可撓性シース29内の閉鎖環境に影響を及ぼすことなくトロカールを後退させることができる。
図1Aに示すように、可撓性シース29は、(当該分野で公知の手段によって作られた無菌野において)遠位ストップコック剛性ハウジングの遠位端と近位ストップコックとの間の領域に延びて囲むが、可撓性シース内部が(トロカール22自体の切断端によってダイアフラム20内に導入される裂け目以外の)裂け目なしに密閉されて維持される限り、可撓性シースは、実際には、遠位ストップコック剛性ハウジングの近位端からトロカールコネクタ28まで延びるだけでよい。このようにして、トロカール22が患者に挿入され、後に引っ込められ、その後患者に再挿入される必要がある場合、挿入部位の無菌野は、終始、特に必要に応じて遠位ストップコック16を選択的に閉じる際には維持されている。
【0033】
トロカール基部26は、
図1Aではトロカールコネクタ28にてしっかりと固定されているが、遠位ストップコック16が開配置にある場合、トロカール22は、トロカール22の長さに沿って他のどこでも、主カニューレ10を通って前方(遠位)及び後方(近位)に自由に通過することができる。
【0034】
主カニューレ10への流体の流れは、最終的に、流体シリンジ32、又はその機能的若しくは構造的な等価物(手動ポンプ、ハンドポンプ、又は他の流体注入デバイス)を通して導入される。主カニューレ10が所定の位置に配置されている間、近位ストップコック30は閉位置に保たれる。冷液注入を開始する場合、近位ストップコックは手動で開かれて、液体がシステムに導入される間、開状態に維持される必要がある。
【0035】
主カニューレ10の配置の間、特に現場で、治療する患者の左心室にトロカール切断先端部24及び主カニューレ10を配置するための超音波の誘導がない場合に、カニューレの配置が正しいことを確認する方法が必要である。(当然ながら、主カニューレ10を配置するために、超音波検査又は蛍光透視誘導を使用してもよいが、現場ではそのような誘導を利用できない場合がある)。カニューレ遠位先端部11の正しい配置を確認する1つの方法は、吸引ストップコック40を開いて吸引シリンジ36を「引き(pull back)」、左心室内で所定の位置にあるカニューレ先端部11からの血液の戻り(及び関連する左心室血液供給)があることを確認することである。この戻りは、トロカールがまだ最初に挿入された位置にある間に最もよく戻り、鳥の目35を通してトロカール22に、そして吸引シリンジ36に血液が引かれ、そこから血液の戻りを見ることができる。当然のことながら、トロカールの引き込み後でも、カニューレ先端部11から吸引シリンジ36に血液が戻るのを確認することができる。吸引シリンジ36の利点は、カニューレ遠位先端部11が心臓の左心室の空洞内で正しい位置に実際にあることを、簡単且つ機械的に確認することである。当然のことながら、吸引シリンジ36には、その吸引カニューレ38が取り付けられており、当該吸引カニューレ38は、吸引ストップコック40に相互接続されている。トロカール22を患者内に最初に配置した後、それに伴ってカニューレ遠位先端部11は左心室内にあり、システム内で最初に開位置にある唯一のストップコックは吸引ストップコック40であり、血液の戻りを確認するために使用者が「引く」ことを可能にする。血液の戻りが確認されると、吸引ストップコック40が閉じられ、遠位ストップコック16及び近位ストップコック30の両方が開かれて、冷たい流体が流体シリンジ32から主カニューレ10に入り、そこから患者の左心室に入ることを可能にする(モジュールCのリザーバとそれに接続されたポンプとによって補助される場合もある)。
【0036】
図1Aに示す任意選択的機能はモジュールF-G-Hであって、配置補助のためのセルディンガーワイヤ(Seldinger wire)を提供する。セルディンガーワイヤは当該分野で知られているが、本発明のようなシステムで使用されたことはない。(トロカール22だけでなく)主カニューレ10全体を引き抜きたいが、後でカニューレを再挿入したい場合には、挿入路を維持するために、セルディンガーワイヤをカニューレに沿って左心室内に挿入することができる。セルディンガーワイヤは、注入カニューレを通って前進することを可能にする可撓性の着脱自在なフランジを有する。注入カニューレの先端部から出ると、フランジが広がって、ワイヤが患者内で行方不明になることを防止する。即ち、モジュールGに示された展開された構造がワイヤを患者内の定位置に保持するので、ワイヤは、不注意に引き抜かれず、抜け出ない。このモジュールGのオプションは、必要に応じて、最初のカニューレ以外の別のカテーテル又はカニューレの再挿入を可能にするか、或いは、所望又は必要に応じて左心室壁閉鎖デバイスの導入を容易にする。
【0037】
トロカール22を再び参照すると、トロカール22が患者に完全に挿入された位置にある状態で、トロカールの先端部(そのトロカール切断先端部24は、符号Iのモジュールにおいて装填(伸長)位置で描かれている)が用いられて、左心室にうまく入るように最適化された向きで胸壁が穿刺される。上述したように、トロカールは特別な中空又は溝付きトロカールであり、少なくとも1つの鳥の目孔があるので、トロカールは遠位先端部まで中空(又は溝付き)ではない。カニューレ/トロカールが左心室内にあると考えられることを確認した後、近位ストップコック30を開き、トロカールをドップラーモード(利用可能な場合)の超音波と共にフラッシュして、左心室内の位置決め及び良好なフラッシュを検証する。蛍光透視法を用いる場合、IV造影剤がフラッシュシリンジ内に含まれ、又は、ドップラーの場合は生理食塩水であるが、上に述べたように、吸引シリンジ36は、蛍光透視又はドップラー誘導が利用可能でない場合において、確認のために血液を引くために使用されることができる。解剖学的ランドマークのみを使用して、(最適ではないにせよ)盲目的に左心室に挿入することが可能だからである。主カニューレ10は、トロカール22と同様に鋼で構成されるのが最良であるが、同等の材料を代用してよい。複数の強靭な組織層がトロカール/カニューレデバイスによって貫通される必要があることを考慮すると、鋼鉄製のカニューレでは「アコーディオン」が生じないのに対し、プラスチック製のカニューレでは「アコーディオン」が生じる可能性がある。十分な強度を持つプラスチック製カニューレには、必要に応じて超音波検査又は蛍光透視用のマーキング材を含めることができるが、鋼鉄製の方が超音波検査又は蛍光透視観察で観察しやすい。カニューレ/トロカールが左心室内の適切な位置にあるとみなされた後、カニューレは、符号Jの取付デバイスによって皮膚に取り付けられてよく、当該デバイスはまた穿刺部位の無菌状態を保存する。最初のジェット灌流後、カニューレを即座に又は速やかに取り外すことが予想される場合には、モジュールJは必ずしも必要とされない。その後、トロカールは、可撓性シース29で限定された長さまで引き抜かれる。必要であると考えられる場合、トロカール22は、可撓性シース29を引き裂き、システム内への空気漏れを防止するために図示されたストップコックを閉じることによって、システムから完全に取り外すことができる。
【0038】
ジェット灌流を開始する準備ができたら、近位ストップコック30をオンにして、位置の最終確認として追加のフラッシングを行うことができる。近位ストップコック30を閉位置にし、モジュールC-心臓‐脳灌流リザーバ及びポンプを開位置にして(ストップコック46を含む)、冷たい心臓‐脳灌流溶液が、恐らく又は通常(必ずしもそうではないが)、動力ポンプ、機械式ポンプ、又は手動ポンプで高圧注入される。言い換えると、流体ポンピングは、電動モータによって、又は現場使用モダリティであれば任意の手動モードのポンピングによって達成することができる(
図1A、モジュールC)。リザーバは、約2リットルの容量を必要とする。トロカール22を引っ込めた可撓性シース29は、ジェット灌流開始後、特に遠位ストップコック16が閉じている場合に、ベンチュリ効果によって空気がシステムに入るのを防止する。
【0039】
一部を上述したように、モジュールG及びHは、モジュールFと同様に、任意選択的な変更であり、透明な気密ラッパー内に含まれる標準的なガイドワイヤに対する追加の特徴を示す。ガイドワイヤを所定の位置に保持する一方でカニューレを除去することを望む場合、ガイドワイヤは、標準的な方法で進められ、装着されたフランジGは、カニューレデバイスモジュールA内におけるガイドワイヤの近位先端部の脱落を防止するであろう。カニューレデバイスモジュールAを取り外すと、皮膚上の穿刺部位において、現在引っ込めているカニューレの遠位側にワイヤを手動で固定することができる。カニューレを完全に除去するには、フランジGが、ガイドワイヤの特別設計近位モジュールHから取り外されるであろう。これにより、カニューレモジュールAにガイドワイヤを通すことができ、その結果、ジェット灌流デバイスが部位から完全に除去され得る。患者内でのガイドワイヤの紛失を防ぐため、ガイドワイヤ近位部は通常、「記憶性」を持つ可鍛性物質で特別に構成されて、提案された任意選択の折り曲げポイントを近位ガイドワイヤ内に有する。これらの複数の折り曲げポイントは、一旦折り曲げられると、ガイドワイヤが穿刺部位を通って患者の体内で喪失することを防止し、さもなければ容易に回収されないだろう。
【0040】
滅菌帯が、無菌性を維持するためにガイドワイヤの外部に被せられてよい。このガイドワイヤ配置は、幾つかの目的を果たす。第一に、灌流カニューレを再挿入したい場合には、このガイドワイヤを使用してそのようにすることができるだろう。折り曲げポイントをまっすぐにし、カテーテルをガイドワイヤに通して所定の位置に戻すことができる。加えて、左心室の穿刺は、穿刺部位における持続的な出血をもたらし得る。非侵襲的VSD閉鎖に使用されるような穿刺封止デバイスの経皮的挿入物は、このようなガイドワイヤに通されて、漏出した穿刺部位を非手術的に閉鎖するのに使用できるだろう。
【0041】
図1Aの図は、「脳灌流」溶液の左心室高圧「ジェット」注入のための完全閉鎖システムを示しており、主に脳を標的とするが、主にVA ECMOへのブリッジとして他の臓器を停止状態に保つ場合にも有益である。図は、完全に具体化されたデバイスの構成要素を示す。これは閉じたシステムであるが、その理由は、左心室内にいつでも空気が入ることができると、重要な臓器、特に冠動脈/心臓や脳への気泡塞栓を引き起こし、破滅的な結果をもたらす可能性があるからである。本発明のデバイスはまた、注入流体の漏出と左心室への潜在的な空気進入とを生じる高圧注入中の係合解除を防止するために、高い注入圧耐性を有する閉じたシステムである。システムはまた、無菌状態を維持するために閉じている。添付のデータ(
図2)は、動物モデルで16乃至18ゲージのカテーテル(試験に使用)を通して左心室に圧注入すると、脳への血流が良好になり、迅速な脳灌流が実用になることを示している。急速な心臓‐脳灌流では、左心室への注入によって心臓が急速に冷却されるため、脳だけでなく他の臓器、特に心臓も保護される。上述したように、心臓は、脳に供給する個々の動脈を通して注入しようとするよりも、遥かに容易にアクセスされる。また、上述したように、危険な状態にある人は、動脈硬化性疾患を有する可能性が高く、針を刺すとプラークから破片が上流から脳に流れ込み、修復不可能な損傷を引き起こす可能性が高いであろう。右頸動脈、左頸動脈、左椎骨動脈、右椎骨動脈の4つの動脈が脳に血液を供給する。左心室に注入すると、4本の動脈全てが脳灌流液による脳の灌流に関与する。加えて、左心室の小径穿刺は圧倒的に自己密封性が高いことが知られている。小径の穿刺デバイスを使用することによって、不完全な挿入技術による組織損傷の可能性が最小限に抑えられる。高圧注入の利用は、心血管系内に存在する血液を同伴させて重要臓器を灌流することを助ける。極度に冷たい注入液を使用することにより、その結果混合する血液と注入液は、混合後に治療温度の低温に達する。
【0042】
再度
図1を参照すると、モジュールAは注入カニューレであり、モジュールBはトロカールであり、モジュールCは注入リザーバ及び注入ポンプデバイスであり、モジュールDは、注入カニューレ位置確認デバイスである。モジュールEは、ワイヤ挿入モジュールであり、モジュールFは、滅菌トロカール引き込みモジュールであり、モジュールGは、トロカール位置検証モジュールであり、モジュールHは、前述の任意選択的なガイドワイヤハードウェアを提供する。以上のことから明らかなように、本発明のカニューレデバイスは、トロカールが注入カニューレ内に完全に伸ばされた状態で、左胸部又は上腹部を通して左心室内に経皮的に挿入される。トロカールは中空のトロカールであって先端部が鳥のサイズであるため、一旦先端部が血管構造内に入ると、トロカールが正しい位置にあるならば、モジュールGで描かれているシリンジで吸引することにより、鳥の目を通して血液が戻ることになる。
【0043】
以下の簡略化した概要は、上記の全てを概説する。シリンジは、通常の生理食塩水などの一般的に使用される静脈注射用溶液、又は心臓灌流溶液(開心術について当該分野で知られているものなど)の何れかで部分的に充填されるだろう。本発明の文脈において、「脳心灌流溶液」は、従来技術の心臓灌流溶液を含むがこれに限定されない任意の溶液であり、冷却することができ、本発明の低体温療法治療を必要とする動物や患者の循環システムに導入するのに適合性がある。ドップラーモードで超音波を使用することで、中空トロカールに注入することによって生成される流れを、鳥の目を通って左心室に出る流れと共に検出することによって、左心室内の良好な位置を検証することができる。注入カニューレ及びトロカールの先端部はまた、左心室内の注入カニューレ及びトロカールの位置を確認するために追加的又は代替的に使用できる特別なエコー源性材料(echogenic materials)から構成されてよい。連続トロカール引き込みモジュールは、プロセスを可視化するために透明なプラスチックで構成されるが、指定された長さはまた、完全に後退してもトロカールの先端部が、システムから出て穿刺の問題の可能性を引き起こさず、注入カニューレシステムの未使用部分内に残ることを可能にする。それはまた、医療提供者のための安全機能である。無菌状態を維持することによって、必要に応じてトロカールを注入カニューレに再挿入して、カニューレを再配置することができる。トロカールと注入カニューレは共に堅い固体金属構造体である。これは、高圧注入をより良く許容し、カテーテルホイップを減少させる。プラスチック製カテーテルは、このようなデバイスで剪断されることが知られているので、トロカールの再導入を安全に行うことができない。トロカールの先端部は、中空ではないので組織コアがトロカール内に生成されず、また、任意の注入処置中に不注意で閉塞されない。カテーテル位置が左心室と引き込まれたトロカール内で確認されると、高圧下での注入が開始され得る。その後、種々の溶液が、現在のデータ及び実務によって注入されてよく、そのような流体もまた冷却されるべきである。モジュールCは、注入リザーバ及び注入デバイスである。溶液を冷却する種々の手段が使用され、適切に断熱されて冷却が維持されてよい。電動注入ポンプが使用されてよく、高圧静脈注入におけるような空気圧デバイスが使用されてよく、又は、機械的ピストンデバイスが更に組み込まれてよい。更に、トロカール引き込み後に注入カニューレの位置を確認したい場合はモジュールDを用いて血液を吸引するか、又は、溶液を注入してドップラーでカニューレの位置を確認することができる。モジュールGはワイヤガイドであって、カニューレを下って左心室内に挿入され、注入カニューレを全て引き抜きたい場合に挿入路を維持する。ワイヤは、注入カニューレを通って前進することを可能にする可撓性の着脱自在なフランジを有する。注入カニューレの先端部から出ると、プランジが広がって、ワイヤが患者内で行方不明になるのを防止する。このオプションは、フランジの除去時に、別のカテーテル又はカニューレのセルディンガー手法による再挿入を可能にするか、或いは、ワイヤの「蛇腹状(accordioned)」外側部分の再直線化時に左心室壁閉鎖デバイスの導入を容易にする。
【0044】
次に
図1Bを参照すると、トロカール22の代替的実施形態は、トロカールシリンジ27の内部プランジャ部分に取り付けられたトロカール基部26を有しており、その結果、トロカールは、可撓性シース29の適応力に必ずしも依存するのではなく、トロカールシリンジ27を介して伸長され、引き込まれる。トロカール22は、
図1Aと同様に、遠位ストップコック16(開位置にある)を通り、同様にカニューレ継手コネクタ14の中空中心を通り、そこからカニューレ遠位先端部(図示せず)を通ってカニューレ遠位先端部まで延びる。
【0045】
切断先端部形状と、トロカール先端部付近に繋がるチャネルがトロカール内の中空内部管であるか、協働するカニューレ内に中空流体管を形成するトロカール内の溝であるかの両方とについて、
図3A~
図3Fは、隣接するカニューレと組み合わせたトロカールの様々な実施形態を示す。これらの図の全てにおいて、トロカール/カニューレの組合せ300は、トロカール322と、トロカール322が何れかの方向で往来できる関連したカニューレ324と、トロカール切断先端部326と、トロカール中空中心330又はトロカール溝332の何れかとを有する。
図3A及び
図3Bは、鳥の目開口328を含む。それらの構造及びそれらの機能の全ては、上述されている。
【0046】
一定流量で流体をシステムに注入することは可能であるが、低温流体の好ましい注入は、60乃至100パルス/分などの脈動注入である。この脈動注入は、手動で行うこと、或いは、手動又はコンピューター制御の電動又はその他のポンプを用いて行うことも可能である(
図1AのモジュールCを参照)。脈動流が導入される場合、脈動時間の約30乃至50%が実際の流体注入となり、「回復」のバランスがとれるだろう。故に、毎分60パルスの脈動流注入の場合、約0.3乃至0.5秒が流体注入となって、残りは回復期間となって、その間に左心室は、収縮と再充填又はさもなければ平衡化を行うであろう。脈動流は、患者内の体液の流れに冷たい体液をより速く混合させることによって冷却を促進するが、途切れることのない直接の流れは、混合をあまり促進しないと考えられる。
【0047】
本発明を詳細に説明してきたが、本発明は、添付の特許請求の範囲に記載されている限りにおいてのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】