(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-04
(54)【発明の名称】ジオール及びアセタールを含む混合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/88 20060101AFI20231222BHJP
C07C 29/80 20060101ALI20231222BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C07C29/88
C07C29/80
C07C31/20 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538096
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2021087113
(87)【国際公開番号】W WO2022136446
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】102020000031979
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592081988
【氏名又は名称】ノバモント・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】NOVAMONT SOCIETA PER AZIONI
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】コッティ コメッティーニ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】カトレール,ロレンツォ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD11
4H006AD30
4H006FE11
4H006FG28
(57)【要約】
ジオールとアセタールの混合物を精製するための方法であって、相対するアルデヒド類/ケトン類及びジオール類の生成を伴う混合物の加水分解;並びに還元剤の添加による前記加水分解生成物中に存在する前記アルデヒド類/前記ケトン類を還元して、出発混合物中に存在するものと同じ種のジオールをもたらすことを含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のジオール及びその少なくとも一種のアセタールを含む混合物を精製するための方法であって、前記方法は以下のステップを含む:
(a)少なくとも一種のジオール及びその少なくとも一種のアセタールを含む前記混合物を加水分解し、対応するアルデヒド及び/又はケトン並びに相対するジオールを生成するステップ;
(b)ステップ(a)の加水分解生成物中に存在する前記アルデヒド及び/又は前記ケトンを、還元剤の添加によって還元し、出発混合物中に存在するものと同じ種のジオールを得るステップ。
【請求項2】
前記混合物が以下から選択されるジオールを含む、請求項1に記載の方法:
1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1.3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ジアンヒドロソルビトール、ジアンヒドロマンニトール、ジアンヒドロイジトール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンメタンジオール、ジアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール及びそれらの混合物。
【請求項3】
前記混合物が1,4-BDO(1,4-ブタンジオール)を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アセタールが主にHB-THFを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも一種のジオール及びその少なくとも一種のアセタールを含む前記混合物から、少なくとも一種のアセタールの濃縮画分を分離する予備ステップを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記濃縮画分は1000ppm以上のアセタール含有量を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記予備分離ステップが、蒸留によって行われる請求項5に記載の方法。
【請求項8】
加水分解ステップ(a)が、得られた水溶液の総重量に対して20重量%を超える量の水の存在下で実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物が1,4-BDOを含み、前記加水分解ステップ(a)が、得られた水溶液の総重量に対して50重量%を超える量の水の存在下で実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記加水分解がpH7以下、好ましくはpH3~7で行われる請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)における前記還元剤が錯体水素化物である請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(b)における前記還元剤が水素化ホウ素ナトリウムである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
HB-THF含量が400ppm以下であり、APHAカラーインデックスが25以下であることを特徴とし、有利には150℃以上の温度及び酸環境下でも安定である1,4-BDO組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明につながるプロジェクトは、欧州連合(EU)の研究・イノベーションプログラム「Horizon 2020」のバイオ基盤官民連携事業(Bio Based Industries Joint Undertaking Public-Private Partnership)の助成金を受けており、助成契約番号はNo.745012である。
【0002】
本発明は発酵及び/又は化学的手法によって生産されたジオール類を精製する方法に関するものであり、その回収率、収率及び品質を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ジオール類の例は1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1.3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ジアンヒドロソルビトール、ジアンヒドロマンニトール、ジアンヒドロイジトール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンメタンジオール、ジアルキレングリコール類及びポリアルキレングリコール類である。
【0004】
1,3-ブタンジオール(一般にBG、1,3-BG、1,3-BDO又は1,3-ブチレングリコールとして知られている)は、二つの立体異性体を持つ4炭素原子のジオールである:R-1,3-BDO及びS-1,3-BDO。このラセミ混合物は、例えば食品香料用の有機溶媒として、又はポリウレタン樹脂及びポリエステルの製造用試薬として、多くの工業的方法で一般的に使用されている。これらは毒性が低く、忍容性が高いため、化粧品産業におけるパーソナルケア製品に使用されることも多くなってきており、例えば、ヘア・バス製品、アイメイク、フェイスメイク、香水、パーソナルクレンジング、シェービング及びスキンケア製品へ配合されている。光学活性1,3-BDOは抗生物質、フェロモン、香料及び殺虫剤の成分としても広く使用されている。
【0005】
1,4-ブタンジオール(一般に1,4-BDO、1,4-BD又は1,4-ブチレングリコールとして知られている)は、例えば、ジアシッド-ジオールタイプのポリエステルのような様々なタイプの製品を製造するためのモノマーとして、又はγ-ブチロラクトン及びテトラヒドロフランのような化合物合成のための中間体として広く使用されている。これらの機械的特性及び加工特性のため、ジカルボン酸及びジオールに由来する繰り返し単位を含むポリエステルは、今日、フィルム、成形品、ブロー成形品及びファイバーなどの熱可塑性ポリマーが使用されるあらゆる分野において、広く使用されている。さらに、このようにして得られるポリエステルは、生分解性であること、特にEN13432に従う生分解性であることが好ましい。
【0006】
化石資源からのC2-C4短鎖ジオールの化学的製造は、数十年にわたって開発及び最適化されてきた。1,3-BDOは、従来、アセトアルデヒドの生成を伴うアセチレンの水和、それに続くアセトアルデヒドの3-ヒドロキシブチルアルデヒドへの変換、及び1,3-BDOへの還元を含む化学的方法によって製造されている。1,4-BDOは石油化学原料から様々な化学的方法によって合成可能である:アセチレンからホルムアルデヒドとのエチニル化により;ブタジエンからアセチル化又はハロゲン化により;プロピレンからエポキシ化又はオキシアセチル化により;n-ブタンから、無水マレイン酸の生成及びそれに続く様々な経路による水素化により。1,3-プロパンジオールは主にアクロレインの水和によって製造される。別の方法としては、エチレンオキシドをヒドロホルミル化して3-ヒドロキシプロピオンアルデヒドを得て、これを続いて水素化し1,3-プロパンジオールとする方法がある。
【0007】
化石資源の減少、石油価格の変動及び環境問題の高まりのため、生物学的方法によって再生可能な資源からC2-C4ジオールを製造することは、大きな関心を集めている。実際、1,4-BDOは、糖類やリグノセルロース系バイオマスなどの炭水化物のような再生可能な資源及び合成ガス(CO、CO2及び/又はH2)から、直接(WO2015/158716)、又は生物学的-コハク酸の生成(WO 2011/063055)及びそれに続く水素化を介して、又はポリヒドロキシアルカノエートの生成(WO2011/100601)を通じて、発酵法によって製造することができる。
特許出願WO2015/158716は、1,4-BDOの合成のための代謝経路を少なくとも1つ有する微生物による培養液中での発酵を含む1,4-BDOの製造方法を記載しており、前記培養液はグルコース及びスクロースの混合物を含む。同様に、WO2010/127319には再生可能な資源から1,3-BDOを製造するための発酵法が記載されている。1,3-プロパンジオールは、例えば、米国特許US2008/176302に記載されているように、大腸菌の遺伝子組み換え株を用いてグルコースから、又は、クロストリジウム属に属する細菌を利用してグリセロールから(WO2020/030775)、発酵法によって製造することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、化学及び再生可能な資源からジオールを製造する方法では、合成方法に直接由来する、及び/又はその後の精製方法の間にも起こる可能性のある分解反応に由来する副生成物を含む不純物が、一般的に生成される。こうした不純物の除去は、例えば化粧品産業及びジアシッド-ジオールポリエステルの合成などで、ジオールの使用を保証するため必要である。これらの分野では純度が高いほど、より多くのモノマーが求められる。
不純物には、通常、アルデヒド、ヘミアセタール及びアセタールなどの化合物が含まれており、これらは生成されるジオールの着色及び経時的な不安定性を引き起こすため、除去されなければならない。
【0009】
例えば、マレイン酸誘導体の触媒による水素化のように化学原料から1,4-BDOを製造する方法では、得られる1,4-BDOは通常、4-ヒドロキシブチルアルデヒド、その環状ヘミアセタール2-ヒドロキシテトラヒドロフラン及び環状アセタール2-(4-ヒドロキシブトキシ)テトラヒドロフラン(HB-THF)を含む。発酵によって得られる1,4-BDOの製造方法では、最も一般的に存在する不純物のひとつが、アセタールHB-THFである。
したがって、ジオールの製造方法におけるアセタール類の生成は、一般的な反応である。この反応は精製工程で起こることもある。このような精製工程は、通常、蒸留中に起こるような高温及び脱水条件下での操作を含む。
1,4-BDOを精製する方法では、例えば、HB-THFは1,4-BDOの酸化によって生成される可能性があり、そのような酸化は、蒸留操作が従来実施される条件下で起こる可能性があるため、蒸留そのものが、最終製品中のHB-THF量の増加をもたらす可能性がある。1,4-BDOの精製方法における蒸留操作の間、HB-THFは通常、純粋な1,4-BDOの沸点以下の沸点を有する不純物(アルコール類、アルデヒド類及びアセタール類を含む)を含む軽質留分とともに除去される。しかし、HB-THFは1,4-BDOと非常に近い沸点を持ち、共沸物を形成するため、この除去はとくに困難である。これらの二つの化合物を効率的に分離することは困難であるため、高純度の1,4-BDOを得て、大量のHB-THFを除去するためには、前記の蒸留操作は多くの分離段階を要し、結果として軽質留分中の1,4-BDO自体のいくらかが除去され、結果として製品の損失となって工場の生産性が低下する。したがって、所望レベルの製品純度及び生産性との間の妥協点を見いだす必要がある。
【0010】
特許出願US 2016/0244387は、錯体水素化物での処理を含む1,4-BDOの精製方法について記載しており、錯体水素化物は精製対象の1,4-BDO組成物に添加される。しかしながら、この処理ではアルデヒドをアルコールに還元できる一方で、HB-THFがアセタールの場合は還元剤の存在下で反応しないため、最終製品からHB-THFを完全に除去することはできない。実際にこの方法の実施例では、60%までしかHB-THFを除去できず、これは蒸留操作によって除去されるものである。代替可能な蒸留方法として、例えば、特許EP0891315B1にて報告されている方法があり、HB-THF含量を低減した1,4-BDOを得ることができる触媒による水素化方法が記載されている。しかしながら、この方法は非常に複雑で高価である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を克服するために、比較的簡単な方法で、製品の相当な損失を伴わず、少なくとも1種のジオール類及びその少なくとも1種のアセタール類を含む混合物を精製し、同時にAPHAカラーインデックスが25以下であり、高温及び酸環境下でも安定な高純度の製品を得ることができることが、驚くべきことに発見された。
実際に、少なくとも1種のジオール類及びその少なくとも1種のアセタール類を含む混合物を、少なくとも一回の加水分解操作及びそれに続く還元剤による処理によって精製できる方法が特定されている。この方法は、ジオール類を高効率で精製し、より高い純度及び安定性を特徴とする製品を得て、同時にアセタール類に変換されたジオール類を回収してその損失を最小限にすることが可能である。
【0012】
本発明による方法では、アセタール類は加水分解を受け、対応するアルデヒド類及び/又はケトン類及び対応するアルコール類が生成される。前記アセタール類の加水分解後に得られる前記アルデヒド類及び/又は前記ケトン類は、その後還元剤で処理することによりアルコール類に還元される。前記アセタールの加水分解後並びに/若しくは、前記アルデヒド類及び/又は前記ケトン類の還元後に得られる前記アルコール類は、主に、出発混合物中に存在するものと同じ種のジオール類からなる。
【0013】
従って、本発明の第一の目的は、少なくとも1種のジオール類及びその少なくとも1種のアセタール類を含む混合物を精製するための方法である。前記方法は以下のステップを含む:
(a)少なくとも1種のジオール類及びその少なくとも1種のアセタール類を含む混合物を加水分解し、その結果相対するアルデヒド類及び/又はケトン類と相対するジオール類とを生成するステップ;
(b)ステップ(a)の加水分解生成物中に存在する前記アルデヒド類及び/又は前記ケトン類を、還元剤の添加によって還元し、出発混合物中に存在するものと同じ種のジオール類を得るステップ。
一つの態様によると、ステップ(a)の加水分解では主にアルデヒド類が生成される。別の態様によると、ステップ(a)の加水分解では主にケトン類が生成される。
【0014】
本発明の混合物は、以下から選択される少なくとも1種のジオールを含む:1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ジアンヒドロソルビトール、ジアンヒドロマンニトール、ジアンヒドロイジトール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンメタンジオール、ジアルキレングリコール類、ポリアルキレングリコール類及びそれらの混合物。より好ましくは、混合物は、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ジアンヒドロソルビトール、ジアンヒドロマンニトール、ジアンヒドロイジトール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンメタンジオール、ジアルキレングリコール類及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種のジオールを含む。より好ましくは、混合物は1,4-BDO、1,3-BDO及びそれらの混合物から選択されるジオールを含む。さらにより好ましくは、混合物は1,4-BDOを含む。
本発明の方法は、1,4-BDOが1,3-BDOとともに混合物中に存在する場合であっても、1,4-BDO及びその少なくとも一つのアセタールを含む混合物を精製するために使用することができる。前記1,4-BDO及び1,3-BDOの混合物は、例えばイタリアの特許出願102020000013243に記載の方法によって得ることができる。
好ましい実施形態によれば、本発明の混合物中のジオールは1,4-BDOを含み、そのアセタールは主にHB-THFを含む。
【0015】
本発明の方法は、水、塩類及び還元剤を除去する簡単な操作を伴って、より高い純度のモノマーがより求められる重合工程での使用に特に適した高純度のジオール類を得ることを可能にするため、特に有利である。
【0016】
従って、本発明の第二の目的は、1,4-BDO組成物であって、好ましくは前記の少なくとも1種のジオール類及びその少なくとも1種のアセタール類を含む混合物を精製するための方法によって得られ、前記1,4-BDO組成物は400ppm以下、好ましくは300ppm以下、さらにより好ましくは200ppm以下のHB-THF含量を有し、25以下、好ましくは15以下、さらにより好ましく10以下のAPHAカラーインデックスによって特徴づけられ、150℃以上、より好ましくは180℃以上の温度下及び酸環境下でも有利に安定である1,4-BDO組成物である。前記組成物は本発明の方法によって得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明による方法をより詳細に記載する。
加水分解ステップ(a)は、水溶液の総重量に対して20重量%以上、好ましくは30重量%以上の量の水存在下で実施される。混合物が1,4-BDOを含む本発明の態様によれば、水の量は、水溶液の総重量に対して、有利には50重量%以上、例えば50~99重量%であり、好ましくは55~95重量%、より好ましくは75~99重量%である。混合物が主に1,3-BDOを含む本発明の態様によると、水の量は、水溶液の総重量に対して、有利には70重量%以下、例えば20~50重量%であり、好ましくは25~40重量%である。大量の水は加水分解反応を促進するが、その後すべての水は除去されなければならず、除去コストを伴う。
有利には、前記加水分解はpH7以下、好ましくはpH3~7、より好ましくはpH4~5で実施されることができる。このようなpH値は酸、好ましくは、例えばオルトリン酸、硫酸及び塩酸から選択され得る強無機酸の添加によっても得てもよい。
前記加水分解は、好ましくは25~170℃、より好ましくは50~100℃、さらに好ましくは70~95℃の温度で、1~240分、好ましくは5~120分、さらに好ましくは15~40分の時間、溶液を攪拌し続けることによって実施される。
【0018】
対応するアルデヒド類及び/又はケトン類及び対応するアルコール類は、加水分解ステップ(a)を通じて、前記アセタール類から生成される。1,4-BDO及びその少なくとも1種のアセタール(典型的にはHB-THF)を含む混合物を精製する方法では、例えば4-ヒドロキシブタナール及び1,4-BDOが、HB-THFの加水分解によって生成される。
【0019】
ステップ(a)の最後に得られた加水分解生成物は、ステップ(b)で還元処理を受ける。前記ステップ(b)では、加水分解生成物中に存在する前記アルデヒド類及び/又は前記ケトン類は、還元剤の添加によってアルコール類に還元され、出発混合物中に存在するものと同じ種のジオールが得られる。
前記還元剤は、好ましくは錯体水素化物である。錯体水素化物は、例えばAdvanced Organic Chemistry, J. March, 4th edition J Wiley & Sons, 1992, pages 910-917に規定されているものである。錯体水素化物の例としては、BH3、AlH3、LiBH4、NaBH4、KBH4、LiAlH4、NaAlH4、KAlH4、前記水素化物の一部の水素がアルキレート、アルコキシレート及びアシレートなどの形態のアニオンで置換されたもの、並びにEt3SiHのようなSi水素化物が挙げられる。前記水素化物は、ハロゲン化塩、硫酸塩、リン酸塩又はカルボン酸塩の形のLi、La及びCeの塩類を例とするアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物のような添加剤を含んでいてもよい。水素化ホウ素ナトリウム及び水素化ホウ素カリウムが好ましい。特に好ましいのは、水素化ホウ素ナトリウム(式NaBH4で、一般に水素化ホウ素ナトリウム又はテトラヒドロホウ酸ナトリウムとしても知られる)であり、例えば、Rohm and Haas社から「BorolTM溶液」の名称で、又は、Dow Chemical Company社から「VenPureTM溶液」の名称で販売されているアルカリ水溶液の形である。これらは、25~40重量%のNaOH及び10~12.5重量%のNaBH4の水溶液の形である。
前記錯体水素化物は、有利には、ステップ(a)の加水分解生成物中に存在するカルボニル化合物のほぼ化学量論比、又はわずかに過剰量が使用される。このようなカルボニル化合物は、例えば、ASTM規格 E411の方法で定量してもよい。
ステップ(a)の終わりに得られた前記加水分解生成物は、還元ステップ(b)において、好ましくは25~170℃、より好ましくは50~120℃、さらに好ましくは60~90℃の温度で、1~60分、好ましくは2~30分、さらに好ましくは3~15分の時間、攪拌され続ける。ステップ(b)の最後に、出発混合物中に存在するものと同じ種のジオール類が得られる。
本発明の方法のステップ(b)において、又は任意に続くステップにおいて、塩基性のpHを使用することで、存在するいずれのエステルの加水分解も促進され、ジオールの回収率が増す。
【0020】
本発明の方法はまた、加水分解ステップ(a)を受ける、少なくとも一種のジオール及びその少なくとも一種のアセタールを含む前記混合物中の前記アセタール含量が特に高い場合にも有利に適用され得る。実際、加水分解ステップ(a)の前に、少なくとも一種のジオール及びその少なくとも一種のアセタールを含む混合物から、少なくとも一種のアセタールの濃縮画分を分離することが特に有利である。濃縮画分とは、1000ppm以上、好ましくは9000ppm以上のアセタール類含量を有する画分として定義される。
【0021】
したがって、好ましい実施形態では、本発明は、少なくとも一種のジオール及びその少なくとも一種のアセタールを含む混合物を精製する方法に関するものであり、前記方法は、前記混合物から、少なくとも一種のアセタールの濃縮画分を分離する予備ステップと、それに続く以下のステップとを含む:
(a)少なくとも一種のアセタールを含む前記濃縮画分を加水分解し、相対するアルデヒド類及び/又はケトン類及び相対するジオール類を生成するステップ;
(b)還元剤の添加によって、ステップ(a)の加水分解生成物中に存在するアルデヒド類及び/又はケトン類を還元し、出発混合物中に存在するものと同じ種のジオールを得るステップ。
【0022】
濃縮画分に分離された前記アセタール類は、加水分解を受けて相対するアルデヒド類及び/又はケトン類及び相対するアルコール類が生成される。アセタール類の加水分解後に得られた、或いは少なくとも一種以上のアセタールの濃縮画分と共に取り出された前記アルデヒド類及び/又は前記ケトン類は、その後に還元剤で処理することでアルコール類に還元される。
前記アセタール類の加水分解及び/又は前記アルデヒド類及び/又は前記ケトン類の還元によって得られる、或いは少なくとも一種のアセタールの濃縮画分と共に分離されるアルコール類は、出発混合物中に存在するものと同じ種のジオール類から主になる。
この方法によって、前記ジオール類を高効率で精製し、より高い純度及び安定性で特徴づけられる製品を得ることが可能となると同時に、アセタール類に変換された前記ジオール類及び少なくとも一種のアセタールの前記濃縮画分と一緒に分離されたジオール類の双方を回収して損失を最小化することが可能になる。少なくとも一種のアセタールの前記濃縮画分は予備の分離ステップを経て得ることができ、好ましくは蒸留、分別晶析及び蒸発などの当業者に公知の技術によって実施される。
好ましい態様によると、少なくとも一種のアセタールの濃縮画分の分離は、蒸留によって起こる。前記の蒸留による少なくとも一種のアセタールの濃縮画分は、前記混合物中に主に存在する一種又は二種以上のジオールに対応して、重質留分又は軽質留分になりうる。
【0023】
「軽質留分」とは、蒸留塔の塔頂から取り出される留分を指し、典型的には、純粋なジオールの沸点以下の沸点を有する化合物(いわゆる「軽質化合物」)の混合物を含む。ジオールが1,4-BDOを含む場合、軽質化合物の例は以下の通りである:4-ヒドロキシブタナール、4-ヒドロキシブチルアセテート、2-(4-ヒドロキシブトキシ)-テトラヒドロフラン(HB-THF)、γ-ブチロラクトン、4-ヒドロキシブチルアセテート及び1,4-ブタンジオールジアセテート。
「重質留分」とは、蒸留塔の底部から取り出される留分を指し、典型的には、純粋なジオールよりも沸点の高い化合物(いわゆる「重質化合物」)の混合物を含む。ジオールが1,4-BDOを含む場合、重質化合物の例は分解プロセスを経た可能性がある有機化合物、2-ピロリドン及び1,4-ヘキサンジオールなどである。
ジオールが1,4-BDOを含む場合、少なくとも一種のアセタールの濃縮画分は、有利には軽質留分であり、好ましくは50~250℃、より好ましくは100~170℃の温度で、5~200mbar、より好ましくは20~80mbarの塔頂圧力で実施される蒸留操作によって、1,4-BDO及びその少なくとも一種のアセタールを含む前記混合物から分離される。この応用では、蒸留塔の運転圧力は絶対ミリバール(mbar)で測定されると理解される。1mbarは100パスカルに相当する。
少なくとも一種のジオール及びその少なくとも一種のアセタールを含む前記混合物は、ジオール類の精製方法、好ましくは溶媒及び重質化合物を除去するために通常実施される事前の蒸留操作から得られる可能性がある。したがって、本発明による方法は、蒸留操作を含むジオール類の精製方法に有利に適用される。
【0024】
少なくとも一種のジオール及びその少なくとも一種のアセタールを含む前記混合物から、前記濃縮画分を分離するステップの前に、本発明による精製方法は、有利には、前記ジオールを含む混合物から、溶媒、好ましくは水を除去し、重質化合物を含む画分(いわゆる重質留分)を除去するための、1回又は2回以上の予備蒸留操作を含んでもよい。ステップ(b)の最後に、本発明の方法では、出発混合物中に存在するもののと同じ種類のジオール類であって、アセタール類の加水分解及び/又はアルデヒド及び/又はケトン類の還元の後に存在するか又は生成されるジオール類を得ることが可能である。このジオールは、そうでなければ、アセタール類と一緒に除去される結果、製品の損失を生じるものである。
【0025】
出発混合物が、再生可能な資源から出発する合成方法に由来するジオール類を含む場合、有利には、本発明の方法によって得られるジオール類は、本発明の方法のステップ(a)及び(b)で導入された水、塩類及び還元剤を除くこと、重合工程での使用に適した高純度のジオール類を得ること、及び製造工場の製造量を高めることを目的として、固液分離及び/又は濃縮及び/又は蒸留の更なる任意付加操作に供することができる。
前記分離操作は、例えばデカンテーション、遠心分離、濾過、精密濾過、ナノ濾過、限界濾過、イオン交換、浸透、他の適切な固液分離技術及びそれらの組み合わせの1つ以上によって実施可能である。前記濃縮操作は、例えば、蒸発及び/又は逆浸透から選択することができる。
【0026】
ステップ(b)の最後に得られる水溶液は、例えば、特許出願 WO2019/102030に記載のイオン交換樹脂による処理を1回又は2回以上受けることができる。前記樹脂は、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂であってよい。カチオン交換樹脂は、一般に、強酸(例えば、スルホン酸基)又は弱酸(例えばカルボン酸基)由来の樹脂からなる群から選択され、好ましくはスルホン酸基から選択される官能基を含む。カチオン交換樹脂の非限定的な例としては、例えば、商品名DOWEX(R)88又はDOWEX(R)88MBとして市販されている樹脂が挙げられる。アニオン交換樹脂は、一般に強塩基(例えば、第4級アミン基)又は弱塩基(第3級アミン基)由来の樹脂からなる群から選択され、好ましくは第4級アミン基から選択される官能基を含む。アニオン交換樹脂の非限定的な例としては、例えば商品名DOWEX(R)22として市販されている樹脂が挙げられる。
カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂での連続するステップの順序は特に限定されない。カチオン交換樹脂の一回以上の通過は、アニオン交換樹脂の一回以上の通過に先行してもよいし、後続してもよい。好ましくは、カチオン交換樹脂の一回以上の通過は、アニオン交換樹脂の一回以上の通過に先行する。ステップ(b)の最後、又はイオン交換樹脂を通過した後若しくは前記樹脂を通る異なる通過の間に得られる水溶液は、当業者に公知の技術を使用して濃縮操作を経てもよい。イオン交換樹脂の通過後及び濃縮後に得られる水溶液は、蒸留を経てもよい。
【0027】
前記蒸留操作は、不純物の含有量が異なるジオール類を効率的に精製するために、適切に蒸留システムの規模を調整して実施することができる。蒸留操作の回数及び各操作における蒸留塔の数は特に限定されない。蒸留操作の各操作は、異なるタイプ及び構成の蒸留塔を採用する先行技術で公知の技術に従い、独立して実施することができる。例えば、蒸留塔は不規則充填部、規則充填部、フラット充填部、不規則充填及び規則充填部、不規則充填及びフラット充填部、又は規則充填及びフラット充填部を含んでいてもよい。充填塔、有利には構造充填塔が好ましい。
各蒸留操作は単一の蒸留塔又は連続した蒸留塔で実施してもよく、例えば、蒸留塔や付帯設備の数を最小化するための垂直バッフルの挿入若しくは製造品の側方採取を備えて各蒸留塔から三以上のストリームを得ることができるより統合された構成で実施してもよい。
【0028】
本発明の蒸留操作は、好ましくは、化合物の高温への暴露を低減する、又は最小化することによって実施される。実際、生成物及びその中の不純物の双方とも蒸留中の加熱によって熱的又は化学的分解を受ける可能性がある。蒸留塔を減圧(大気圧未満)又は真空で操作することは、蒸留塔内の混合物の沸点を下げ、蒸留塔をより低温で稼働させることができるため好ましい。当業者であれば、使用する蒸留塔のタイプに合わせて、方法の各段階における操作条件を調整することができる。減圧を達成するために、蒸留塔の一部又は全部に共通の減圧システムを用いてもよいし、各蒸留塔に独自の減圧システムを設けてもよい。蒸留塔の圧力は塔頂若しくはコンデンサー、塔底若しくはベース、又はその間の任意の場所で測定することができる。本発明の方法の異なる蒸留塔は、異なる圧力で操作してもよい。
【0029】
一つの実施形態によると、ステップ(b)の最後に得られる水溶液は蒸発及びイオン交換処理に供される。最初の混合物が1,4-BDOを含む場合、これらの操作の最後には、HB-THF含量が400ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは180ppm以下の1,4-BDOを得ることが可能である。このようにして得られる1,4-BDOはまた、有利には25以下、好ましくは10以下のAPHAカラーインデックスによって特徴づけられ、さらに有利には、150℃以上、好ましくは180℃以上の温度及び酸環境でも安定である。これらの特性により、前記1,4-BDOは、例えば、98%以上、好ましくはさらに99%以上のBDOの純度及び、ポリエステルの合成工程中に分解が防止されるような安定性が要求される、ジアシッド-ジオールタイプのポリエステルの合成における使用に適する。
【0030】
前記1,4-BDOは例えばWO2015/158716に記載の方法によって実施される発酵法によって製造してもよく、この場合、1,4-BDOは、1,4-BDOを合成するための少なくとも一つの代謝経路を持つ一つ以上の微生物の存在下で、少なくとも一つの糖類、好ましくはグルコースと任意成分であるグルコース以外の一つ以上の糖類とから合成される。発酵法による糖類の1,4-BDOへの変換は、通常100%未満である。なぜなら、当該ジオールに加えて、微生物が1,4-BDOを生産するために利用する代謝経路の中間生成物(副産物)もまた生産され、発酵培地中に集積する可能性があるためである。
さらに、発酵が終了すると、発酵培地中に存在する細胞性バイオマスを含む生物又は細胞は、例えば熱的手段によって不活性化又は死滅させられ、その残渣及び細胞代謝産物が発酵培地中に放出される。したがって、前記の発酵法から得られ、発酵培地中に存在する1,4-BDOは、通常、発酵培地から、微生物、細胞残渣、未反応の糖類、副産物、ミネラル塩、代謝産物及び前記微生物によって同化も代謝もされなかった培地の成分を含む1または2以上の要素を除去するために、固液分離操作に供され、その結果1,4-BDOを含む混合物が得られる。前記分離操作は、特許出願WO2019/102030及びイタリアの特許出願102020000013243に記載されているように、デカンテーション、遠心分離、濾過、精密濾過、ナノ濾過、限外濾過、イオン交換、浸透、その他の適切な固液分離技術及びそれらの組み合わせから選択される1つ以上の操作によって実施され得る。分離に加えて、1,4-BDOを含む発酵培地又は混合物は、溶媒(例えば水)の含量を変化させるように設計した濃縮操作を経てもよい。このような操作は、例えば蒸発及び逆浸透から選択される。上記の分離及び濃縮操作に続いて、1,4-BDOを含む混合物は本発明の方法を経る前に一回以上の蒸留操作に供してもよい。
【0031】
以下の実施例は、本発明を非限定的な目的で説明する。
【実施例】
【0032】
測定方法
APHAカラーインデックス
APHAカラーインデックスは、ASTM規格D1209-05に従い、熱安定性試験の前後に分光測色法で測定した。
【0033】
熱安定性試験
熱安定性試験は、開放ガラスフラスコに入れた試料50gを375rpmで攪拌し続け、大気との空気交換が可能な状態で内部温度が200℃に到達するまで加熱することにより実施した。この温度に達したら、試料は攪拌せずに200℃で2時間保持した。冷却後すぐに、ASTM規格D1209-05に従い、試料のAPHAカラーを分光測色法で測定することで熱安定性を評価した。
【0034】
酸環境下での安定性試験
酸環境下での安定性試験は、2mlバイアル瓶中の試料0.5mlに、37%塩酸を0.5ml加えて激しく振とうして行った。前記試料は室温で24時間保管し、その発色を確認した。試験結果は発色がない場合(例えば、UV及び/又は可視領域での反射率が90%以上)は陽性と見なされ、黄色から褐色に変色した場合(例えば約496nmでの反射率<90%)は陰性と見なされ、不安定であると示唆された。
【0035】
不純物の定量
不純物含有量の分析は、揮発性生成物の分析に適したカラム(例えばZebron ZB-624 30m x 0.32mm x 1.40μmカラム)及びシングル四重極質量分析計を備えたガスクロマトグラフを用い、以下の操作条件で実施した:
オーブン温度プログラム:50℃(5分)-240℃(10℃/分)-240℃(5分)
注入量:1μl(ホットニードル注入-予熱時間2")
スプリット比1:10のスプリット注入
インジェクター温度:270℃
キャリアガス:He、1.2ml/分
トランスファーライン:250℃
イオン源温度:250℃
イオン化モード:EI
フルスキャン取り込み:33~650amu、溶媒待ち時間5分、BDOが検出器に達する15.75~16.75分の間フィラメント電流オフ
存在する化学種は、内部標準を使用し、各不純物の応答係数を1とみなして定量した。
【0036】
カルボニル化合物の定量
カルボニル基を有する不純物の含有量分析は、ASTM規格E411(2,4-ジニトロフェニルヒドラジンを用いた微量カルボニル化合物の標準試験法)を用い、試薬溶液の調製にメタノールの代わりにエタノールを使用して、4-ヒドロキシブタナール標準物質で検量線を作成して実施した。
【0037】
実施例1
ステップ(a)
93.9重量%の1,4-BDO及び10230ppmのHB-THFを含む混合物を、80℃に予熱した水で7重量%に希釈した。pH4.5の前記水溶液を80℃で1時間攪拌した。
ステップ(b)
加水分解ステップ(a)の最後に得られた前記水溶液中に存在するカルボニル基を有する化合物の含量を、ASTM法により前記の通り定量した。有機画分に対して、8130ppmのVenpureTM溶液(NaBH4 12.03重量%、NaOH 39.32重量%及び水48.65重量%)、すなわち、カルボニル基の化学量論的含量をわずかに超える量、を前記水溶液に添加した。前記水溶液を、70℃で30分間攪拌した。
ステップ(b)の最後に得られた水溶液を、存在する水を除去するために、20mbarの圧力下で70℃に加熱して濃縮した。その後、前記濃縮水溶液を500mlのガラスフラスコ中で33mbarの圧力下で、内部温度を約138℃に到達させ、分留した。分留の最後に、初留分、1,4-BDOを含む中留分、及び後留分が得られた。 HB-THF及び1,4-BDO含量、APHAカラーインデックス並びに、前記中留分(蒸留した前記濃縮水溶液の約80重量%に相当する留分)から得られた1,4-BDOの熱安定性及び酸安定性試験の結果を表1に報告する。
【0038】
比較例2
実施例1と同じ混合物を、ステップ(a)及び(b)の加水分解及び還元ステップを実施することなく、実施例1に記載した条件で直接分留に供した。
HB-THF及び1,4-BDO含量、APHAカラーインデックス並びに、中留分(蒸留した濃縮水溶液の約80重量%に相当する留分)から得られた1,4-BDOの熱安定性及び酸安定性試験の結果を表1に報告する。
【0039】
比較例3
実施例1と同じ混合物を、加水分解ステップ(a)は実施せずに、実施例1の条件下で還元ステップ(b)に供した。その後、実施例1に記載の条件で分留を行った。
HB-THF及び1,4-BDO含量、APHAカラーインデックス並びに、中留分(蒸留した濃縮水溶液の約80重量%に相当する留分)から得られた1,4-BDOの熱安定性及び酸安定性試験の結果を表1に報告する。
【0040】
【0041】
1,4-BDOの重量%は、上記の方法で定量した不純物の百分率和を100から差し引くことで算出した。これらの実施例は加水分解ステップ及び還元ステップを特徴とする本発明の方法(実施例1)を用いることで、還元ステップのみ(比較例3)よりも、高い効率でHB-THFアセタールを除去できることを明確に示している。
さらに、軽質留分の加水分解も還元も行わなかった比較例2では、アセタールの除去がないだけではなく、おそらく還元されなかったアルデヒド類から、分留によってさらなるHB-THFが生成した。
【0042】
したがって、本発明の方法では、より高い純度を特徴とする1,4-BDO(実施例1では98.7%、比較例2及び3ではそれぞれ97.7%及び96.9%)を、より多量に回収することが可能になる。さらに、本発明の方法で得られたBDOは、有利には、異なる条件下で評価されたAPHAカラーインデックスの値によって示されるように、高温及び酸環境にさらされた後でさえ、安定である。一方、比較例2及び3で得られたBDOは、25以下のAPHAカラーインデックスによって特徴付けられるが、高温及び酸環境にさらされた場合、安定ではない。
【国際調査報告】