(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-05
(54)【発明の名称】正極スラリー、正極板及び前記正極板を含む電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20231225BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231225BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231225BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231225BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231225BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/58
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516224
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 CN2021132451
(87)【国際公開番号】W WO2023092281
(87)【国際公開日】2023-06-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100159329
【氏名又は名称】三縄 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ ▲啓▼凡
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 明
(72)【発明者】
【氏名】尹 子伊
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲亞▼成
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲銅▼▲賢▼
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA02
5H050DA11
5H050EA23
5H050GA03
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA17
(57)【要約】
本発明は、ポリエーテルシロキサンを含む正極スラリーを提供し、前記ポリエーテルシロキサンは、少なくとも、
の構造ユニットを含み、ここで、Dは、メチル基又はエチル基であり、Aは、水素、ハロゲン又はハロゲン化アルキル基であり、Bは、水酸基、R、OR、又はROR’であり、ここで、R、R’は、それぞれ独立して、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、Eは、フェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基、エーテル化フェニル基又はハロゲン化フェニル基である。本出願に記載のポリエーテルシロキサンを添加して、正極板の塗布重量を向上させることによって、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極スラリーであって、正極活物質とポリエーテルシロキサンとを含み、
前記ポリエーテルシロキサンは、少なくとも、
【化1】
の構造ユニットを含み、
ここで、
Dは、メチル基又はエチル基であり、
Aは、水素、ハロゲン又はハロゲン化アルキル基であり、前記ハロゲンは、任意選択的に、フッ素、塩素又は臭素であり、前記Aは、任意選択的に、水素又はフルオロメチル基であり、
Bは、水酸基、R、OR、又はROR’であり、ここで、R、R’は、それぞれ独立して、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、任意選択的に、Bは、メチル基、エチル基又はエトキシメチル基であり、
Eは、フェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基、エーテル化フェニル基又はハロゲン化フェニル基であり、前記Eは、任意選択的に、フェニル基又はフルオロフェニル基である、ことを特徴とする正極スラリー。
【請求項2】
前記ポリエーテルシロキサンの数平均分子量範囲は、10,000~60,000であり、選択可能な範囲は、20,000~60,000である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の正極スラリー。
【請求項3】
構造ユニット(I)~構造ユニット(IV)の総モル量に対して、構造ユニット(I)のモル比率は0~75モル%であり、構造ユニット(II)のモル比率は0~70モル%であり、構造ユニット(III)のモル比率は5~65モル%であり、構造ユニット(IV)のモル比率は4~10モル%であり、ここで、構造ユニット(I)と構造ユニット(II)のモル比率は同時にゼロではない、ことを特徴とする請求項1に記載の正極スラリー。
【請求項4】
前記ポリエーテルシロキサンと前記正極活物質との重量比は、0.0005~0.030であり、選択可能な範囲は、0.001~0.02であり、さらに選択可能な範囲は、0.001~0.01であり、最も選択可能な範囲は、0.001~0.006である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の正極スラリー。
【請求項5】
前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケル酸リチウム又はそれらの混合物のうちの少なくとも一つから選択される、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の正極スラリー。
【請求項6】
前記正極スラリーの安定性因子は、0<V≦6であり、任意選択的に、0<V≦4であり、
ここで、V=(V2-V1)/V1×100%であり、
V1は、前記正極スラリーの初期粘度であり、
V2は、前記正極スラリーが製造されてから48時間後の粘度であり、ここで、
V1を測定する時に使用される前記正極スラリーとV2を測定する時に使用される前記正極スラリーは、同一ロットの正極スラリーである、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の正極スラリー。
【請求項7】
正極板であって、
正極集電体と、
前記正極集電体の少なくとも一つの表面に位置する正極膜層とを含み、前記正極膜層は、請求項1~6のいずれか一項に記載の正極スラリーで製造され、前記正極膜層は、単位面積あたりの極板における質量の範囲が13~45mg/cm
2であり、選択可能な範囲が20~43mg/cm
2であり、さらに選択可能な範囲が22~33mg/cm
2であり、最も選択可能な範囲が25~31mg/cm
2であり、前記質量は、極板の片面における正極膜層の質量である、正極板。
【請求項8】
前記正極板におけるリチウム元素とケイ素元素との重量比範囲は、60~3875であり、選択可能な範囲は、60~1950であり、さらに選択可能な範囲は、90~1950であり、最も選択可能な範囲は、380~1950である、ことを特徴とする請求項7に記載の正極板。
【請求項9】
前記正極膜層は、前記正極集電体に平行し且つ互いに積層される二つの副層を含み、ここで、前記正極集電体に最も近い副層におけるケイ素の重量含有量は、前記正極集電体から最も遠い副層におけるケイ素の重量含有量に対して、0~60の範囲であり、選択可能な範囲が0.1~30であり、さらに選択可能な範囲が0.1~9である、ことを特徴とする請求項8に記載の正極板。
【請求項10】
極板を中折りしてローラプレスする方式で極板の柔軟性を判定する場合、
前記正極板の極板破断長さは0であり、又は
前記正極板の極板破断長さは0より大きく且つ2mm以下である、ことを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項11】
前記正極板の接着力向上率Sの範囲は、2~50%であり、選択可能な範囲は、10~20%であり、
ここで、S=(S2-S1)/S1×100%であり、
S2は、前記正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、
S1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、ここで、
S1の測定時に使用される正極板は、S2の測定時に使用される前記正極板と同じであり、S1の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、S2の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異なる、ことを特徴とする請求項7~10のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項12】
前記正極板における前記正極膜の抵抗低下率Ωの範囲は、0~18%であり、選択可能な範囲は、6~15%であり、
ここで、Ω=(Ω1-Ω2)/Ω1×100%であり、
Ω2は、前記正極膜の抵抗であり、
Ω1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極膜の抵抗であり、
ここで、Ω1の測定時に使用される正極膜は、Ω2の測定時に使用される前記正極膜と同じであり、Ω1の測定時に使用される正極膜には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、Ω2の測定時に使用される前記正極膜には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異なる、ことを特徴とする請求項7~11のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項13】
二次電池であって、請求項7~12のいずれか一項に記載の正極板、又は、請求項1~6のいずれか一項に記載の正極スラリーで得られる正極板を含む、ことを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、リチウム電池技術分野に関し、特にポリエーテルシロキサンを含む正極板に関する。なお、本出願は、前記正極板を含む二次電池及び前記二次電池を含む電池パック、電池モジュールと電力消費装置にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の応用範囲が益々広くなることに伴い、リチウムイオン電池は、水力、火力、風力と太陽光発電所等のエネルギー貯蔵電源システム、及び電動ツール、電動自転車、電動オートバイク、電気自動車、軍事装備、航空宇宙等の複数の分野に広く応用されている。リチウムイオン電池が飛躍的な発展を遂げたため、そのエネルギー密度の向上とコストの削減に対してもより高い要求が求められている。
【0003】
現在、リチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させる有効な方式の一つは、正極板の塗布重量を向上させることである。しかしながら、一般的な方式で正極板の塗布重量を向上させることは、極板製造の歩留まりと潜在的安全リスクを低下させ、ひいてはリチウムイオン電池の製造が困難になることを招く。
【0004】
そのため、正極板にはまだ改善する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本出願は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、特定のポリエーテルシロキサンを含む正極スラリー及び前記正極スラリーを用いて製造された正極板を提供することである。
【0006】
そのため、本発明の第1の態様は、正極スラリーを提供し、それは、正極活物質とポリエーテルシロキサンとを含み、前記ポリエーテルシロキサンは、少なくとも、
【化1】
の構造ユニットを含み、
ここで、
Dは、メチル基又はエチル基であり、
Aは、水素、ハロゲン又はハロゲン化アルキル基であり、前記ハロゲンは、任意選択的に、フッ素、塩素又は臭素であり、前記Aは、任意選択的に、水素又はフルオロメチル基であり、
Bは、水酸基、R、OR、又はROR’であり、ここで、R、R’は、それぞれ独立して、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、任意選択的に、Bは、メチル基、エチル基又はエトキシメチル基であり、
Eは、フェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基、エーテル化フェニル基又はハロゲン化フェニル基であり、前記Eは、任意選択的に、フェニル基又はフルオロフェニル基である。
【0007】
正極スラリーに柔軟性添加剤、即ち、本出願に記載のポリエーテルシロキサンを加えることによって、正極スラリーの安定性を向上させ、正極板の柔軟性を向上させるとともに、正極板における各物質の分散性を確保することによって、正極板の塗布重量を向上させることができる。
【0008】
本出願の任意の実施形態において、正極スラリーに前記ポリエーテルシロキサンを添加した後、得られたリチウムイオン電池は、エネルギー密度が向上した。
【0009】
任意の実施形態において、前記ポリエーテルシロキサンの数平均分子量の範囲は、10,000~60,000であり、選択可能な範囲は、20,000~60,000である。
【0010】
分子量の大きさは、正極板の加工性能に影響を与える。そのため、前記ポリエーテルシロキサンの数平均分子量は、上記範囲内に制御される必要がある。
【0011】
任意の実施形態において、本出願に記載のポリエーテルシロキサンでは、構造ユニット(I)~構造ユニット(IV)の総モル量に対して、構造ユニット(I)のモル比率は0~75モル%であり、構造ユニット(II)のモル比率は0~70モル%であり、構造ユニット(III)のモル比率は5~65モル%であり、構造ユニット(IV)のモル比率は4~10モル%であり、ここで、構造ユニット(I)と構造ユニット(II)のモル比率は同時にゼロではない。
【0012】
上記構造ユニット(I)~(IV)のモル比率は、得られたポリエーテルシロキサンと正極活物質、集電体などとの間に十分な水素結合と適切な量の共有結合が形成されることを確保し、さらに正極板の製造過程における安定性を確保するとともに正極板の柔軟性と様々な正極物質の分散性を確保することによって、電池のエネルギー密度を改善することができる。
【0013】
任意の実施形態において、前記ポリエーテルシロキサンと前記正極活物質との重量比は、0.0005~0.030であり、選択可能な範囲は、0.001~0.02であり、さらに選択可能な範囲は、0.001~0.01であり、最も選択可能な範囲は、0.001~0.006である。
【0014】
該比の値が小さすぎる場合、正極板は、高塗布重量の時に裂け、該比の値が大きすぎる場合、電池の性能に悪い影響を与える。
【0015】
任意の実施形態において、前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケル酸リチウム又はそれらの混合物のうちの少なくとも一つから選択される。
【0016】
本出願の発明者は、正極活物質がリン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケル酸リチウム又はそれらの混合物のうちの少なくとも一つである場合、前記ポリエーテルシロキサンの添加により、極板の柔軟性を改善し、極板の塗布重量を向上させるなどの効果をより良く実現することができることを発見した。
【0017】
任意の実施形態において、前記正極スラリーの安定性因子は、0<V≦6であり、任意選択的に、0<V≦4であり、ここで、V=(V2-V1)/V1×100%であり、
V1は、前記正極スラリーの初期粘度、即ち、製造されてから0時間後の粘度であり、
V2は、前記正極スラリーが製造されてから48時間後の粘度であり、ここで、
V1を測定する時に使用される前記正極スラリーとV2を測定する時に使用される前記正極スラリーは、同一ロットの正極スラリーである。
【0018】
正極スラリーが製造されてから48時間後の粘度が初期粘度に近いほど、スラリー粘度が安定していることを示す。安定性因子V≦6の場合、スラリー粘度が安定していると判定し、V>6の場合、スラリー粘度が不安定であると判定する。測定によると、本出願範囲内の前記ポリエーテルシロキサンを添加した後、前記正極スラリーの安定性因子は、いずれも0<V≦6であり、任意選択的に、0<V≦4であるのに対し、従来技術におけるいくつかの他のポリエーテルシロキサンを採用する場合、安定性因子は、基本的に6より大きい。
【0019】
本出願の第2の態様は、正極板を提供し、それは、
正極集電体と、
前記正極集電体の少なくとも一つの表面に位置する正極膜層とを含み、前記正極膜層は、本出願の第1の態様に記載の正極スラリーを含む。以上に記載したように、前記ポリエーテルシロキサンを添加することによって、本出願は、正極板における塗布重量の向上を許容する。これは、正極膜層の単位極板あたりの最大重量の増加の面でも表れる。いくつかの実施形態において、前記正極膜層の単位面積あたりの極板における質量の範囲は、13~45mg/cm2であり、選択可能な範囲は、20~43mg/cm2であり、さらに選択可能な範囲は、22~33mg/cm2であり、最も選択可能な範囲は、25~31mg/cm2であり、前記質量は、極板の片面における正極膜層の質量である。正極板における二つの表面にはいずれも正極膜層があれば、正極膜層の単位面積あたりの極板における質量範囲は上記範囲の2倍であり、即ち、範囲は、26~90mg/cm2であり、選択可能な範囲は、40~86mg/cm2であり、さらに選択可能な範囲は、44~66mg/cm2であり、最も選択可能な範囲は、50~62mg/cm2であり、前記質量は、極板の二つの表面における正極膜層の質量である。
【0020】
単位面積あたりの極板における正極膜層の重量が小さすぎる場合、極板の均一性は低く、単位面積あたりの極板における正極膜層の重量が大きすぎる場合、極板は塗布過程で裂け現象が発生し、生産し続けることが不可能になる。
【0021】
本出願に記載の正極板は、非常に優れた柔軟性を有するとともに、塗布重量が著しく向上した。そのため、前記正極板を二次電池に適用し、例えば、製造時に正極スラリーに直接加えて、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0022】
任意の実施形態において、前記正極板におけるリチウム元素とケイ素元素との重量比は、前記正極スラリーにおけるリチウム元素とケイ素元素との重量比に対応し、即ち、範囲は、60~3875であり、選択可能な範囲は、60~1950であり、さらに選択可能な範囲は、90~1950であり、最も選択可能な範囲は、380~1950である。
【0023】
任意の実施形態において、正極スラリー(又は正極板)では、ポリエーテルシロキサンのみがケイ素を含み、且つ活物質のみがリチウム元素を含む場合、リチウム元素とケイ素元素との重量比は、正極活物質と前記ポリエーテルシロキサンとの重量比に対応する。そのため、このような場合に対して、本出願は、リチウム元素とケイ素元素との重量比をさらに限定した。リチウム元素とケイ素元素との重量比が大きすぎる場合、正極板は、高塗布重量の時に裂け、該重量比が小さすぎる場合、電池性能に悪い影響を与える。
【0024】
任意の実施形態において、前記正極膜層は、前記正極集電体に平行し且つ互いに積層される二つの副層を含み、ここで、前記正極集電体に最も近い副層におけるケイ素の重量含有量は、前記正極集電体から最も遠い副層におけるケイ素の重量比に対して、0~60の範囲であり、選択可能な範囲が0.1~30であり、さらに選択可能な範囲が0.1~9である。
【0025】
塗布重量が23mg/cm2以上である(即ち、正極膜層の単位面積あたりの極板における質量が23mg/cm2以上である)場合、一回の厚い塗布に比べて、複数回に分けて塗布することは、柔軟性添加剤の材料コストを削減することができるとともに、ポリエーテルシロキサンが電気的性能に影響を与えることなくより良く機能することができる。
【0026】
任意の実施形態において、極板を中折りしてローラプレスする方式で極板の柔軟性を判定する場合、
前記正極板の極板破断長さは0であり、又は
前記正極板の極板破断長さは0より大きく且つ2mm以下である。
【0027】
本出願において、極板を中折りしてローラプレスする方式で極板の柔軟性を判定する方法は以下のとおりである。機械方向(TD)に垂直な方向に沿って、10cm×5cmの大きさの冷間プレスされた極板を量り取って中折りし、且つ2kgのハンドローラで三回ローラプレスし、極板の破断長さLを検査する。
【0028】
極板を中折りしてローラプレスする方式で極板の柔軟性レベルを判定する判断方法は以下のとおりである。
【0029】
L=0は折り目があるが光を透過せず、極板の柔軟性は一級であり、
0<L≦2mmは光透過性が弱く、極板の柔軟性は二級であり、
2mm<L≦10mmは光透過性が強いと定義され、柔軟性は三級であり、
10mm<L≦20mmはわずかに破断したと定義され、柔軟性は四級であり、
L>20mmは破断したと定義され、柔軟性は五級である。
【0030】
正極板の極板破断長さが0に近いほど、極板が柔軟性に優れていることを示し、極板破断の長さが大きいほど、極板が柔軟性に劣っていることを示す。
【0031】
正極板の製造において、冷間プレス過程により、正極板に形成された水素結合が破壊される。本出願に記載のポリエーテルシロキサンを添加した後、ポリエーテルシロキサンの柔軟性主鎖が伸び、冷間プレス圧力を低下させることによって、亀裂を減少させ、テープ切れのリスクを減少させることができるため、柔軟性を改善した。
【0032】
任意の実施形態において、前記正極板における正極膜層と正極集電体との間の接着力向上率Sの範囲は2~50%であり、選択可能な範囲は10~20%であり、ここで、S=(S2-S1)/S1×100%であり、
S2は、前記正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、
S1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、ここで、
S1の測定時に使用される正極板は、S2の測定時に使用される前記正極板と同じであり、S1の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、S2の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異なる。
【0033】
正極板における正極膜層と正極集電体との間の接着力が大きいほど、正極板における活物質と集電体との間の作用力が強いことを示し、逆に、極板における活物質と集電体との間の作用力が弱いことを示し、いくつかの場合に、活物質が集電体から脱膜し、電池セルを製造できなくなることを招く恐れがある。本出願において、ポリエーテルシロキサンの添加は、活物質と集電体との間の作用力を向上させることができる。
【0034】
任意の実施形態において、前記正極板における前記正極膜の抵抗低下率Ωは、0~18%の範囲であり、選択可能な範囲は、6~15%であり、ここで、Ω=(Ω1-Ω2)/Ω1×100%であり、
Ω2は、前記正極膜の抵抗であり、
Ω1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極膜の抵抗であり、
ここで、Ω1の測定時に使用される正極膜は、Ω2の測定時に使用される前記正極膜と同じであり、Ω1の測定時に使用される正極膜には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、Ω2の測定時に使用される前記正極膜には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異なる。
【0035】
極板の膜抵抗も、スラリーの分散性を反映することができる。分散性が高いほど、極板の膜抵抗Ωは小さくなる。本出願に記載の正極板は、ポリエーテルシロキサンを添加した後、膜抵抗が低下する。
【0036】
本出願の第3の態様は、二次電池を提供し、ここで、本出願の第2の態様に記載の正極板を含み、又は、本出願の第1の態様に記載の正極スラリーで正極板が製造される。本出願に記載の二次電池のエネルギー密度は明らかに向上した。なお、前記電池を製造する時、材料の総コストは削減された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本出願の正極板におけるポリエーテルシロキサンと正極板における他の物質との間の相互作用の原理概略図であり、ここで、ポリエーテルシロキサンは、本出願に記載のポリエーテルシロキサンである。
【
図2】従来技術に現れた、正極板が塗布過程で毛細管の張力により塗布裂けになる過程の概略図であり、ここで、活物質は正極活物質であり、且つ作用力は塗布過程での作用力であり、ここで、本出願に記載のポリエーテルシロキサンは使用されていない。
【
図3】本出願に記載の正極板が塗布過程で裂けない概略図であり、ここで、活物質は、正極活物質であり、作用力は塗布過程での作用力であり、且つここで、本出願に記載のポリエーテルシロキサンを使用した。
【
図4】本出願のポリエーテルシロキサンを使用した後に、正極板における単位面積あたりの最大塗布重量が増加する概略図であり、ここで、正極材料は、正極活物質材料を表し、SPは、正極板に使用された導電剤を表し、PVDFは、正極板に使用された接着剤を表し、ここで、Xは、ポリエーテルシロキサンを含まない正極スラリーの最大塗布厚さを表し、Yは、同様な条件でポリエーテルシロキサンを含む正極スラリーの最大塗布厚さを表し、明らかに、YはXより大きい。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下では、図面を適当に参照しながら、本出願の正極スラリー、正極板、負極板、二次電池、電池モジュール、電池パック及び電気装置を具体的に開示した実施形態を詳細に説明する。しかし、必要のない詳細な説明を省略する場合がある。例えば、周知の事項に対する詳細な説明、実際に同じである構造に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に長くなることを回避し、当業者に容易に理解させるためである。なお、図面及び以下の説明は、当業者に本出願を十分に理解させるために提供するものであり、特許請求の範囲に記載された主題を限定するためのものではない。
【0039】
本出願に開示される「範囲」は、下限及び上限の形式で限定され、所定範囲は、特定の範囲の境界を限定する1つの下限と1つの上限を選定することによって限定される。このように限定される範囲は、端値を含んでもよく含まなくてもよく、任意に組み合わせてもよく、即ち、任意の下限と任意の上限とを組み合わせて1つの範囲を形成してもよい。例えば、特定のパラメータに対して60~120と80~110の範囲がリストアップされた場合、60~110と80~120の範囲として理解されることも想定できることである。なお、最小範囲値1と2がリストアップされる場合、及び最大範囲値3、4、及び5がリストアップされる場合、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4と2~6の範囲の全ては想定できるものである。本出願において、別段の記載がない限り、数値範囲「a~b」は、aないしbの間の全ての実数の組み合わせを表す短縮表現であり、ここで、aとbはいずれも実数である。例えば、数値範囲「0~5」は、本明細書で「0~5」の間の全ての実数がリストアップされていることを意味し、「0~5」はこれら数値の組み合わせの省略表示にすぎない。また、あるパラメータ≧2の整数であると記述している場合、このパラメータは例えば、整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などであることを開示していることに相当する。
【0040】
特に説明されていない限り、本出願の全ての実施形態及び選択可能な実施形態は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成してもよい。
【0041】
特に説明されていない限り、本出願の全ての技術的特徴及び選択可能な技術的特徴は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成してもよい。
【0042】
特に説明されていない限り、本出願の全てのステップは、順次行われてもよく、ランダムに行われてもよく、好ましくは、順次行われる。例えば、前記方法がステップ(a)と(b)とを含むことは、前記方法が順次行われるステップ(a)と(b)とを含んでもよく、順次行われるステップ(b)と(a)とを含んでもよいことを表す。例えば、以上に言及された前記方法がステップ(c)をさらに含むことは、ステップ(c)がいずれかの順で前記方法に追加されてもよいことを表し、例えば、前記方法は、ステップ(a)、(b)と(c)を含んでもよく、ステップ(a)、(c)と(b)を含んでもよく、ステップ(c)、(a)と(b)などを含んでもよい。
【0043】
特に説明されていない限り、本出願で言及した「含む」と「包含」は、開放型を表し、閉鎖型であってもよい。例えば、前記「含む」と「包含」は、リストアップされていない他の成分をさらに含み又は包含してもよく、リストアップされた成分のみを含み又は包含してもよいことを表してもよい。
【0044】
特に説明されていない限り、本出願において、用語「又は」は包括的である。例えば、「A又はB」という語句は、「A、B、又はAとBの両方」を表す。より具体的には、以下のいずれか一つの条件は、いずれも「A又はB」という条件を満たす。Aが真であり(又は存在し)且つBが偽であり(又は存在せず)、Aが偽であり(又は存在せず)且つBが真であり(又は存在し)、又はAとBがいずれも真である(又は存在する)。
【0045】
リチウムイオン電池にとっては、エネルギー密度を向上させることがトレンドとなっており、エネルギー密度を向上させる方式の一つは、正極板の塗布重量を向上させることである。しかしながら、本出願の発明者が発見したように、
図2に示すように、一般的な正極スラリーの塗布過程において、溶媒蒸発中又は溶媒蒸発後に、毛細管の張力の作用により、正極板は裂けるとともに、前記裂けがさらに伝播して大面積の裂けをもたらす。なお、この過程において、極板の縁部がカールする現象も伴っている。また、正極板は、硬く脆いため、冷間プレス過程にテープ切れになり、捲回過程に内輪が破断する。これに基づき、本出願の発明者は、柔軟性高分子材料のポリエーテルシロキサンを設計し合成し、該柔軟性材料の添加によって、塗布重量を向上させ、塗布質量を改善し、冷間プレスと捲回過程によるリスク問題を解消するとともに、電池製造に使用される材料の総コストを削減した。
【0046】
そのため、本出願の第1の態様は、正極スラリーを提供し、それは、正極活物質とポリエーテルシロキサンとを含み、前記ポリエーテルシロキサンは、少なくとも、
【化2】
の構造ユニットを含み、
ここで、
Dは、メチル基又はエチル基であり、
Aは、水素、ハロゲン又はハロゲン化アルキル基であり、前記ハロゲンは、任意選択的に、フッ素、塩素又は臭素であり、前記Aは、任意選択的に、水素又はフルオロメチル基であり、
Bは、水酸基、R、OR、又はROR’であり、ここで、R、R’は、それぞれ独立して、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、任意選択的に、Bは、メチル基、エチル基又はエトキシメチル基であり、
Eは、フェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基、エーテル化フェニル基又はハロゲン化フェニル基であり、前記Eは、任意選択的に、フェニル基又はフルオロフェニル基である。
【0047】
本出願に記載のポリエーテルシロキサンにおいて、構造ユニット(IV)は、末端基として存在する。
【0048】
任意選択的に、いくつかの実施形態において、前記ポリエーテルシロキサンは、
(a)置換されていないか又はハロゲン又はハロゲン化C1-8アルキル基で置換されたエチレンオキシドと、
(b)水酸基、ヒドロキシアルキル基、R、OR、又はROR’で置換されたエチレンオキシドであって、ここで、R、R’はそれぞれ独立してC1-8アルキル基であり、ここで、ヒドロキシアルキル基におけるアルキル基はC1-8アルキル基であるものと、
(c)ハロゲン化フェニル基、ハロゲン化アルキルフェニル基又はフェニル基で置換されたエチレンオキシドと、
(d)C1-8アルキル基又はC1-8アルケニル基で置換されたトリエトキシシラン又はトリメトキシシランとの成分を重合してなり、
ここで、成分(a)~(d)の総モル量に対して、成分(a)のモル比率は、0~75モル%であり、任意選択的に10~40モル%であり、成分(b)のモル比率は、0~70モル%であり、任意選択的に40~65モル%であり、成分(c)のモル比率は5~65モル%であり、成分(d)のモル比率は4~10モル%であり、
ここで、成分(a)と(b)は同時にゼロではない。
【0049】
いくつかの実施形態において、任意選択的に、成分(a)は、エチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンから選択される。
【0050】
いくつかの実施形態において、任意選択的に、成分(b)は、プロピレンオキシド、エチルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、ブチレンオキシド、1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシ-3-メチルブタン、グリシドールから選択される。
【0051】
いくつかの実施形態において、任意選択的に、成分(c)は、スチレンオキシド、フェニル基から選択される。
【0052】
いくつかの実施形態において、任意選択的に、成分(d)は、ビニルトリエトキシシランから選択される。
【0053】
本出願において、C1-8アルキル基は、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、前記1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、2,4-ジメチルペンチル、3-エチルペンチル、2,2,3-トリメチルブチル、2-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、4-メチルヘプチル、2,2-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、3-エチルヘキサン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,2,3,3-テトラメチルブタンから選択されてもよい。
【0054】
本出願において、C1-8アルケニル基は、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖のアルケニル基であり、それは、ビニル基、プロペニル基、アリル基、1-メチルプロパ-2-エン-1-イル、2-メチルプロパ-2-エン-1-イル、ブタ-2-エン-1-イル、ブタ-3-エン-1-イル、1-メチルブタ-3-エン-1-イルと1-メチルブタ-2-エン-1-イルなどを含んでもよいが、それらに限られない。
【0055】
本出願において、アルキル置換基は、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基であってもよく、それは、任意選択的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基から選択される。任意選択的に、前記アルキル置換は、モノ置換又はジ置換である。いくつかの実施形態において、アルキル基で置換されたフェニル基は、例えば、3,4-ジメチルフェニル、2-メチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、4-(2-メチルプロピル)フェニルから選択されてもよい。
【0056】
本出願において、ハロゲン化アルキル基におけるアルキル基は、任意選択的に、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、例えば、前記ハロゲン化アルキル基におけるアルキル基は、任意選択的に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、2,4-ジメチルペンチル、3-エチルペンチル、2,2,3-トリメチルブチル、2-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、4-メチルヘプチル、2,2-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、3-エチルヘキサン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,2,3,3-テトラメチルブタンから選択される。前記ハロゲン化アルキル基におけるハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選択されてもよい。
【0057】
本出願において、エーテル置換基は、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基であってもよく、任意選択的に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基又はブトキシ基から選択される。いくつかの実施形態において、エーテル化フェニル基は、例えば、4-メトキシフェニル、3-メトキシフェニルなどから選択されてもよい。
【0058】
本出願において、ハロゲン化アルキルフェニル基は、ハロゲン化アルキル基で置換されたフェニル基を指し、ここで、ハロゲン化アルキル基は、ハロゲンで置換されたアルキル基を指し、ここで、アルキル基はC1-8アルキル基である。
【0059】
本出願において、ハロゲン化フェニル基は、ハロゲンで置換されたフェニル基を代表する。本出願において、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選択されてもよい。いくつかの実施形態において、ハロゲン化フェニル基は、例えば、4-フルオロフェニル、2-フルオロフェニル、2,6-ジフルオロフェニル、4-(トリフルオロメチル)フェニル、4-クロロフェニル、3-クロロフェニル、4-ブロモフェニル、3-ブロモフェニル又は2-ブロモフェニルから選択されてもよい。
【0060】
本出願に記載のポリエーテルシロキサンにおいて、構造ユニット(IV)(又は成分(d)で形成された構造ユニット)は、ポリマーの安定性、分散性を確保するとともに、ポリマーの強度を向上させることができ、構造ユニット(I)(又は成分(a)で形成された構造ユニット)は、ポリマーが正極粒子表面、導電性カーボン、アルミニウム箔と水素結合を形成する能力を向上させることができ、構造ユニット(II)(又は成分(b)で形成された構造ユニット)は、分子の分岐を延長し、前記ポリエーテルシロキサンが正極粒子表面、導電性カーボン、アルミニウム箔表面と共有結合を形成することを確保し、正極粒子が塗布過程に移動しないことを確保することができ、構造ユニット(III)(又は成分(c)で形成された構造ユニット)は、前記ポリエーテルシロキサンの剛性を向上させ、それに一定の強度と硬度を持たせることによって、ポリエーテルシロキサンの耐酸化性と耐電解液性を向上させることができるとともに、ベンゼン環が正極粒子表面と相互作用を形成し、ポリエーテルシロキサンの分散性を確保する。
【0061】
図1に示すように、本出願に記載のポリエーテルシロキサンは、長い主鎖の柔軟性鎖であり、それは、構造ユニット(I)(又は成分(a)で形成された構造ユニット)を介して正極活物質、正極集電体と水素結合を形成してもよいし、また構造ユニット(II)(又は成分(b)で形成された構造ユニット)を介して正極活物質、正極集電体と共有結合を形成してもよく、なお構造ユニット(III)(又は成分(c)で形成された構造ユニット)におけるベンゼン環を介して正極活物質粒子表面と相互作用してもよい。また、本出願に記載のポリエーテルシロキサンの間にも共有結合を形成してもよい。そのため、正極スラリーに本出願に記載のポリエーテルシロキサンを加えることによって、正極スラリーの安定性を向上させ、正極板の柔軟性を向上させるとともに、正極板における各物質の分散性を確保することによって、正極板の塗布重量を向上させることができる。
図3に示すように、前記ポリエーテルシロキサンを添加した後、本出願の正極スラリーは、塗布過程を通じて裂けていなかった。
図4に示すように、本出願のポリエーテルシロキサンを添加した後、正極板における最大塗布厚さ(重量)は明らかに向上した。
【0062】
本出願に記載のポリエーテルシロキサンは、当分野の一般的な技術手段で得られてもよいし、以下のステップで製造されてもよく、
ステップ(1)、アルキレンオキシド単量体にアルカリ性条件でポリエーテルを生成させ、ここで、任意選択的に、反応は反応釜内で行われ、任意選択的に、使用される溶媒は、ジメチルスルホキシド、アセトン、ジエチルエーテルのうちの一つ又は複数であり、任意選択的に、製造中に添加可能な塩基性物質は、例えば、NaOH、KOH、ジシクロヘキシルカルボジイミドであり、任意選択的に、該反応の反応温度範囲は80~160℃であり、反応時間範囲は3~7hであり、任意選択的に、反応過程において、撹拌速度範囲は1000~2000回転/分であり、任意選択的に、反応が終了した後、減圧蒸留精製ステップを行う。
【0063】
ステップ(2)、ステップ(1)におけるポリエーテルをシランカップリング剤と反応させてポリエーテルシロキサンを生成し、ここで、任意選択的に、反応は反応釜内で行われ、任意選択的に、シランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランのうちの一つを含み、任意選択的に、該反応の範囲温度範囲は60~130℃であり、任意選択的に、反応時間範囲は2~15hであり、任意選択的に、反応過程において撹拌し、撹拌時間範囲は、任意選択的に、1~10hであり、撹拌速度範囲は、任意選択的に、1000~2000r/minであり、任意選択的に、反応が終了した後、減圧蒸留精製ステップを行う。
【0064】
いくつかの実施形態において、本出願に記載の正極スラリーは、20~60℃でのpH範囲が約6~9である。前記pH値は、従来技術における一般的な手段によって測定することができる。
【0065】
本出願の任意の実施形態において、正極スラリーに前記ポリエーテルシロキサンを添加した後、得られたリチウムイオン電池は、エネルギー密度が明らかに向上した。また、正極板の改善により、電池セルの使用量を節約することができ、それによって電池製造に使用される材料の総コストを削減した。
【0066】
いくつかの実施形態において、前記ポリエーテルシロキサンの数平均分子量範囲は、10,000~60,000であり、選択可能な範囲は、20,000~60,000である。別のいくつかの実施形態において、前記ポリエーテルシロキサンの数平均分子量は、任意選択的に、10,000~50,000、20,000~50,000、20,000~30,000、又は20,000~40,000の範囲から選択される。
【0067】
分子量の大きさは、正極板の加工性能に影響を与える。分子量が小さい場合、正極板の柔軟性が明らかに改善されず、塗布中に裂ける現象が依然として発生するとともに、冷間プレステープ切れと捲回破断の問題が発生する可能性がある。分子量が小さすぎる場合、正極スラリーの安定性が低く、物理ゲル化現象が発生しやすいとともに、正極膜抵抗を劣化させ、電池性能にも悪い影響を与える。分子量が大きすぎる場合、ポリエーテルシロキサンの正極スラリーでの分散に不利である。そのため、前記ポリエーテルシロキサンの数平均分子量は、上記範囲内に制御される必要がある。
【0068】
いくつかの実施形態において、本出願に記載のポリエーテルシロキサンにおいて、構造ユニット(I)~構造ユニット(IV)の総モル量に対して、構造ユニット(I)のモル比率は0~75モル%であり、構造ユニット(II)のモル比率は0~70モル%であり、構造ユニット(III)のモル比率は5~65モル%であり、構造ユニット(IV)のモル比率は4~10モル%であり、ここで、構造ユニット(I)と構造ユニット(II)のモル比率は、同時にゼロではない。
【0069】
任意選択的に、構造ユニット(I)~構造ユニット(IV)の総モル量に対して、構造ユニット(I)のモル比率(又は成分(a)~(d)の総モル量に対して、成分(a)のモル比率)は、約0モル%、約5モル%、約10モル%、約15モル%、約17モル%、約20モル%、約25モル%、約26モル%、約27モル%、約28モル%、約29モル%、約30モル%、約31モル%、約32モル%、約35モル%、約40モル%、約45モル%、約50モル%、約55モル%、約60モル%、約65モル%、約70モル%、約72モル%又は約75モル%であってもよい。又は、構造ユニット(I)のモル比率は、上記いずれかの値からなるいずれかの範囲内にある。
【0070】
任意選択的に、構造ユニット(I)~構造ユニット(IV)の総モル量に対して、構造ユニット(II)のモル比率(又は成分(a)~(d)の総モル量に対して、成分(b)のモル比率)は、約0モル%、約5モル%、約10モル%、約15モル%、約17モル%、約20モル%、約25モル%、約30モル%、約31モル%、約35モル%、約40モル%、約43モル%、約45モル%、約50モル%、約53モル%、約54モル%、約55モル%、約56モル%、約58モル%、約60モル%、約63モル%、約65モル%又は約70モル%であってもよい。又は、構造ユニット(II)のモル比率は、上記いずれかの値からなるいずれかの範囲内にある。
【0071】
任意選択的に、構造ユニット(I)~構造ユニット(IV)の総モル量に対して、構造ユニット(III)のモル比率(又は成分(a)~(d)の総モル量に対して、成分(c)のモル比率)は、約5モル%、約6モル%、約7モル%、約10モル%、約11モル%、約15モル%、約20モル%、約24モル%、約25モル%、約26モル%、約30モル%、約31モル%、約35モル%、約40モル%、約45モル%、約50モル%、約55モル%、約59モル%、約60モル%又は約65モル%である。又は、構造ユニット(III)のモル比率、上記いずれかの値からなるいずれかの範囲内にある。
【0072】
任意選択的に、構造ユニット(I)~構造ユニット(IV)の総モル量に対して、構造ユニット(IV)のモル比率(又は成分(a)~(d)の総モル量に対して、成分(d)のモル比率)は、約4モル%、約5モル%、約6モル%、約7モル%、約8モル%、約9モル%、又は約10モル%である。又は、構造ユニット(IV)のモル比率は、上記いずれかの値からなるいずれかの範囲内にある。
【0073】
本出願において、「約」ある数値は、一つの範囲、即ち該数値の±3%の範囲を表す。
【0074】
上記構造ユニット(I)~(IV)(又は成分(a)-(d))のモル比率は、得られたポリエーテルシロキサンと正極活物質、集電体などとの間に十分な水素結合と適切な量の共有結合が形成されることを確保し、さらに正極板の製造過程における安定性を確保するとともに正極板の柔軟性と様々な正極物質の分散性を確保することによって、電池のエネルギー密度を改善することができる。
【0075】
いくつかの実施形態において、前記ポリエーテルシロキサンと前記正極活物質との重量比は、0.0005~0.030であり、選択可能な範囲は、0.001~0.02であり、さらに選択可能な範囲は、0.001~0.01であり、最も選択可能な範囲は、0.001~0.006である。
【0076】
ポリエーテルシロキサンと前記正極活物質との重量比が小さすぎる場合、正極板は、高塗布重量の時に裂け、該比が大きすぎる場合、電池性能に悪い影響を与える。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記正極スラリーにおけるリチウム元素とケイ素元素との重量比は、60~3875の範囲であり、選択可能な範囲が60~1950であり、さらに選択可能な範囲は、90~1950であり、最も選択可能な範囲は、380~1950である。
【0078】
いくつかの実施形態において、正極スラリーでは、ポリエーテルシロキサンのみがケイ素を含み、且つ活物質のみがリチウム元素を含み、このような場合に、リチウム元素とケイ素元素との重量比は、正極活物質と前記ポリエーテルシロキサンとの重量比を代表する。そのため、このような場合に対して、本出願は、リチウム元素とケイ素元素との重量比をさらに限定した。同様に、リチウム元素とケイ素元素との重量比が大きすぎる場合、正極板は、高塗布重量の時に裂け、該重量比が小さすぎる場合、電池性能に悪い影響を与える。
【0079】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケル酸リチウム又はそれらの混合物のうちの少なくとも一つから選択される。
【0080】
理論的には、二次電池の正極に対して、本出願は、当分野でよく知られている電池用の正極活物質を採用してもよい。一例として、正極活物質は、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩、リチウム遷移金属酸化物及びそれぞれの改質化合物のうちの少なくとも一つの材料を含んでもよい。しかし、本出願では、これらの材料に限定されず、さらに電池の正極活物質として使用可能な他の従来の物質を使用してもよい。これらの正極活物質は、一つのみを単独に使用してもよく、二つ以上を組み合わせて使用してもよい。ここで、リチウム遷移金属酸化物の例は、リチウムコバルト酸化物(例えば、LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(例えば、LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(例えば、LiMnO2、LiMn2O4)、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM333と略称されてもよい)、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523と略称されてもよい)、LiNi0.5Co0.25Mn0.25O2(NCM211と略称されてもよい)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622と略称されてもよい)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM811と略称されてもよい)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(例えば、LiNi0.85Co0.15Al0.05O2)及びその改質化合物などのうちの少なくとも一つを含んでもよいが、それらに限られない。オリビン構造のリチウム含有リン酸塩の例は、リン酸鉄リチウム(例えば、LiFePO4(LFPと略称されてもよい))、リン酸鉄リチウムと炭素との複合材料、リン酸マンガンリチウム(例えば、LiMnPO4)、リン酸マンガンリチウムと炭素との複合材料、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素との複合材料のうちの少なくとも一つを含んでもよいが、それらに限られない。
【0081】
しかしながら、本出願の発明者は、正極活物質がリン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケル酸リチウム又はそれらの混合物のうちの少なくとも一つである場合、前記ポリエーテルシロキサンの添加により、極板の柔軟性を改善し、極板の塗布重量を向上させるなどの効果をより良く実現することができることを発見した。
【0082】
いくつかの実施形態において、前記正極スラリーの安定性因子は、0<V≦6であり、任意選択的に、0<V≦4であり、ここで、V=(V2-V1)/V1×100%であり、
V1は、前記正極スラリーの初期粘度、即ち、製造されてから0時間後の粘度であり、
V2は、前記正極スラリーが製造されてから48時間後の粘度であり、ここで、
V1を測定する時に使用される前記正極スラリーとV2を測定する時に使用される前記正極スラリーは、同一ロットの正極スラリーである。
【0083】
本出願において、前記粘度は、粘度計(例えば、型番がDVESLVTJ0であり、Brookfieldから購入した粘度計)によって室温(20~35℃)の範囲で測定される。正極スラリーが製造されてから48時間後の粘度が初期粘度に近いほど、スラリー粘度が安定していることを示す。安定性因子V≦6の場合、スラリー粘度が安定していると判定し、V>6の場合、スラリー粘度が不安定であると判定する。測定によると、本出願範囲内の前記ポリエーテルシロキサンを添加した後、前記正極スラリーの安定性因子は、いずれも0<V≦6であり、任意選択的に、0<V≦4であるのに対し、従来技術におけるいくつかの他のポリエーテルシロキサンを採用する場合、安定性因子は、基本的に6より大きい。
【0084】
本出願の第2の態様は、正極板を提供し、
正極集電体と、
前記正極集電体の少なくとも一つの表面に位置する正極膜層とを含み、前記正極膜層は、本出願の第1の態様に記載の正極スラリーを含む。以上に記載したように、本出願は、前記ポリエーテルシロキサンを添加することによって、正極板における塗布重量の向上を実現した。これは、正極膜層の単位極板あたりの最大重量の増加の面にも表れる。いくつかの実施形態において、前記正極膜層の単位面積あたりの極板における質量は、13~45mg/cm2の範囲であり、選択可能な範囲は、20~43mg/cm2であり、さらに選択可能な範囲は、22~33mg/cm2であり、最も選択可能な範囲は、25~31mg/cm2であり、前記質量は、極板の片面における正極膜層の質量である。正極板における二つの表面にはいずれも正極膜層があれば、正極膜層の単位面積あたりの極板における質量範囲は上記範囲の2倍であり、即ち、範囲は、26~90mg/cm2であり、選択可能な範囲は、40~86mg/cm2であり、さらに選択可能な範囲は、44~66mg/cm2であり、最も選択可能な範囲は、50~62mg/cm2であり、前記質量は、極板の二つの表面における正極膜層の質量である。
【0085】
いくつかの実施形態において、前記ポリエーテルシロキサンを添加することによって、本出願に記載の正極板の塗布重量(片面)は、最大45mg/cm2に達することができ、任意選択的に、最大23~45mg/cm2であってもよく、さらに任意選択的に、最大28~43mg/cm2であってもよい。
【0086】
単位面積あたりの極板における正極膜層の重量が小さすぎる場合、極板の均一性は低く、単位面積あたりの極板における正極膜層の重量が大きすぎる場合、極板は塗布過程で裂け現象が発生し、生産し続けることが不可能になる。本出願は、単位面積あたりの極板における正極膜層の重量を上記範囲内に限定し、該範囲内で最も高い効果を実現することを確保する。
【0087】
前記正極集電体は、その自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、正極膜層は、正極集電体の対向する二つの表面のいずれか一つ又は両者上に設けられている。
【0088】
本出願のリチウムイオン電池において、前記正極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、アルミニウム箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料基層と高分子材料基層の少なくとも一つの表面上に形成された金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することによって形成されてもよい。
【0089】
前記正極板において、正極活物質の正極膜層における質量含有量は、正極膜層に対して、90~97%である。該含有量は、EDSで測定してもよい。該質量含有量が小さすぎる場合、製造された電池は、エネルギー密度が低く、電池容量の需要を満たすことができなく、該質量含有量が大きすぎる場合、接着剤と導電剤が不足であり、電池性能が低くなることを招く。
【0090】
前記正極板において、正極膜層における接着剤の質量含有量は、正極膜層の総質量に対して、2~5%である。一例として、前記接着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体及び含フッ素アクリル酸エステル樹脂のうちの少なくとも一つを含んでもよい。従来の一般的な正極板において、特定の結晶化度又は類似している結晶化度の接着剤を使用し、塗布、乾燥成膜した後に脆く、応力作用で、極板は裂けやすいが、本出願の正極板において、このような結晶化度を同様に有する接着剤を使用し、極板は裂けない。
【0091】
いくつかの実施形態において、正極膜層は、任意選択的に、導電剤をさらに含む。一例として、前記導電剤は、超伝導性カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、およびカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0092】
いくつかの実施形態において、以下の方式で正極板を製造することができ、正極板を製造するための上記成分、例えば、正極活物質、本出願に記載のポリエーテルシロキサン添加剤、導電剤、接着剤といずれかの他の成分を溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に分散させて、正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経た後、正極板が得られる。
【0093】
本出願に記載の正極板は、非常に高い柔軟性を有するとともに、塗布重量が著しく改善され、例えば、正極塗布重量の約36%の向上を実現することができる。前記正極板を二次電池に適用し、例えば、製造時に正極スラリーに直接加えて、電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0094】
いくつかの実施形態において、前記正極板におけるリチウム元素とケイ素元素との重量比は、前記正極スラリーにおけるリチウム元素とケイ素元素との重量比に対応し、即ち、範囲は、60~3875であり、選択可能な範囲は、60~1950であり、さらに選択可能な範囲は、90~1950であり、最も選択可能な範囲は、380~1950である。前記リチウム元素とケイ素元素との重量比による効果は前述したとおりである。リチウム元素とケイ素元素の重量は、エネルギー分散スペクトル(EDS)又は誘導結合プラズマスペクトル(ICP)によって測定してもよい。
【0095】
いくつかの実施形態において、前記正極膜層は、前記正極集電体に平行し且つ互いに積層される二つの副層を含み、ここで、前記正極集電体に最も近い副層におけるケイ素の重量含有量は、前記正極集電体から最も遠い副層におけるケイ素の重量含有量に対して、0~60の範囲であり、選択可能な範囲が0.1~30であり、さらに選択可能な範囲が0.1~9である。
【0096】
任意選択的に、二つの副層を有する正極膜層を製造する場合、まず異なる量のポリエーテルシロキサンを含む二つの正極スラリーを製造し、そして一つのスラリーを集電体に塗布し、乾燥し、次にもう一つのスラリーを塗布し、乾燥する。
【0097】
前記二つの副層の厚さは、同様であってもよいし、異なってもよい。前記正極集電体に最も近い副層の厚さは、前記正極集電体から最も遠い副層の厚さより小さくてもよいし、大きくてもよい。例えば、二つの副層の厚さは、イオンミリング装置によって、SEMと組み合わせて断面を測定してもよく、製造された正極膜層を検出する場合、イオンミリング装置で断面に対して元素分析を行うとともにEDSと併用する方法によって、前記正極集電体に最も近い副層におけるケイ素含有量及び前記正極集電体から最も遠い副層におけるケイ素含有量を検出することができる。
【0098】
同様な含有量のポリエーテルシロキサンの条件で、正極板を製造する場合、正極スラリーに対する多層塗布により実現された単位面積あたりの極板における最大塗布重量は、単層塗布により実現された単位極板における最大塗布重量より大きい。例えば、正極集電体の一つの表面に正極スラリーを塗布する場合、一回の塗布重量が36mg/cm2である時、塗布過程において、毛細管の張力と応力の作用で、極板が裂けやすいため、36mg/cm2の塗布重量を使用できない。二次塗布を行う場合、二つの正極スラリーを製造し、ここで、各スラリーは、異なる量のポリエーテルシロキサンを含み、具体的には、各層におけるポリエーテルシロキサン含有量は、前記条件を満たす。第1層において、18mg/cm2の塗布重量で塗布し、塗布時に受けた毛細管の張力と応力の作用が小さいため、極板は裂けなく、そして、第1層を基礎として、続いて18mg/cm2の塗布重量で第2層を塗布する時、ポリエーテルシロキサンの作用で、極板が依然として裂けないため、36mg/cm2の塗布重量を使用することができる。そのため、二次塗布は、正極スラリーの単位面積あたりの極板における最大塗布重量を向上させ、さらに電池のエネルギー密度を向上させる。
【0099】
いくつかの実施形態において、極板を中折りしてローラプレスする方式で極板の柔軟性を判定する場合、
前記正極板の極板破断長さは0であり、又は
前記正極板の極板破断長さは0より大きく且つ2mm以下である。
【0100】
本出願において、極板を中折りしてローラプレスする方式で極板の柔軟性を判定する方法は以下のとおりである。機械方向(TD)に垂直な方向に沿って、10cm×5cmの大きさの冷間プレスされた極板を量り取って中折りし、且つ2kgのハンドローラで三回ローラプレスし、極板の破断長さLを検査する。
【0101】
柔軟性レベルの判断方法は以下のとおりである。
【0102】
L=0は折り目があるが光を透過せず、極板の柔軟性は一級であり、
0<L≦2mmは光透過性が弱く、極板の柔軟性は二級であり、
2mm<L≦10mmは光透過性が強いと定義され、柔軟性は三級であり、
10mm<L≦20mmはわずかに破断したと定義され、柔軟性は四級であり、
L>20mmは破断したと定義され、柔軟性は五級である。
【0103】
正極板の極板破断長さが0に近いほど、極板が柔軟性に優れていることを示し、極板破断の長さが大きいほど、極板が柔軟性に劣っていることを示す。
【0104】
正極板の製造において、冷間プレス過程により、正極板に形成された水素結合が破壊され、柔軟性主鎖が伸びる。しかし、本出願に記載のポリエーテルシロキサンを添加した後、冷間プレス圧力を低下させることによって、亀裂を減少させ、テープ切れのリスクを減少させることができるため、柔軟性を改善した。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記正極板における正極膜層と正極集電体との間の接着力向上率Sの範囲は2~50%であり、選択可能な範囲は10~20%であり、ここで、S=(S2-S1)/S1×100%であり、
S2は、前記正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、
S1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、ここで、
S1の測定時に使用される正極板は、S2の測定時に使用される前記正極板と同じであり、S1の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、S2の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異なる。
【0106】
本出願において、S1とS2の測定方法は以下のとおりである。
【0107】
機械方向(TD)に垂直な方向に沿って試験対象極板を量り取り、大きさが20mm(幅)×(100~160)mm(長さ)である試料を切り取り、専用の両面テープを鋼板に貼り付け、テープの大きさは20mm(幅)×(90~150)mm(長さ)である。切り取った極板試料を両面テープに貼り付けた後、2Kgのハンドローラで同一の方向に沿って三回ローリングする。引張機で極板の接着力を試験し、前記ポリエーテルシロキサンを含まない極板は、接着力がS1であり、前記ポリエーテルシロキサンを含む極板は、接着力がS2である。
【0108】
試験において、例えば、広東艾瑞斯一緒テクノロジー株式会社から購入した2Kgのハンドローラを使用することができ、ローラ幅が45mmであり、ローラ直径が83mmであり、ゴム厚さが6mmであり、ゴム硬度がHS80±5である。
【0109】
試験において、例えば、米国INSTRONから購入する、型番が336である引張機を使用することができる。
【0110】
正極板における正極膜層と正極集電体との間の接着力が大きいほど、正極板における活物質と集電体との間の作用力が強いことを示し、逆に、極板における活物質と集電体との間の作用力が弱いことを示し、いくつかの場合に、活物質が集電体から脱膜し、電池セルを製造できなくなることを招く恐れがある。本出願において、ポリエーテルシロキサンの添加は、活物質と集電体との間の作用力を向上させることができる。
【0111】
いくつかの実施形態において、前記正極板における前記正極膜の抵抗低下率Ωは、0~18%の範囲であり、選択可能な範囲は、6~15%であり、ここで、Ω=(Ω1-Ω2)/Ω1×100%であり、
Ω2は、前記正極膜の抵抗であり、
Ω1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極膜の抵抗であり、
ここで、Ω1の測定時に使用される正極膜は、Ω2の測定時に使用される前記正極膜と同じであり、Ω1の測定時に使用される正極膜には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、Ω2の測定時に使用される前記正極膜には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異なる。
【0112】
本出願において、Ω2、Ω1の測定は、元能テクノロジー廈門株式会社から購入する、型番がBER1100である膜抵抗計を使用し、具体的な測定方法は以下のとおりである。
【0113】
機械引張(MD)方向に沿って、面積が4cm×25cm(縦方向)である極板を取り、試験極板の集電体をプローブの中間に置き、まず運行ボタンを押し、そして切換弁を下に押し、15S後に一つのデータを自動的に収集し、別の点に変える時に試験方法は以上のとおりであり、20個の点で試験したまで行い、それぞれ得られた20個の点の抵抗を平均して、それぞれΩ2、Ω1の値を得る。
【0114】
極板の膜抵抗は、スラリーの分散性を反映することができる。分散性が高いほど、極板の膜抵抗Ωは小さくなる。本出願に記載の正極板は、ポリエーテルシロキサンを添加し後、膜抵抗が低下し、一般的な正極板の膜抵抗に比べて、約0~18%低下し、任意選択的に、約6~15%低下し、これは、ポリエーテルシロキサンを添加した後に製造された正極板における各物質の分散性が改善されたことを意味する。
【0115】
本出願の第3の態様は、二次電池を提供し、ここで、本出願の第2の態様に記載の正極板を含み、又は、本出願の第1の態様に記載の正極スラリーで正極板が製造される。本出願に記載の二次電池のエネルギー密度は明らかに向上した。なお、前記電池を製造する時、材料の総コストは削減された。
【0116】
以下では、本出願の二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置を説明する。
【0117】
二次電池
通常、二次電池は、正極板と、負極板と、電解質と、セパレータとを含む。電池の充放電過程において、活性イオンは正極板と負極板との間に往復してインターカレーションやデインターカレーションをする。電解質は、正極板と負極板との間でイオンを伝導する役割を果たす。セパレータは、正極板と負極板との間に設けられ、主に正負極の短絡を防止する役割を果たすとともに、イオンを通過させることができる。
【0118】
[正極板]
本出願の第2の態様に記載の正極板を採用し、又は本出願の第1の態様に記載の正極スラリーで正極板が製造される。
【0119】
[負極板]
負極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面上に設けられた負極膜層とを含み、前記負極膜層は、負極活物質を含む。
【0120】
例として、負極集電体は、その自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、負極膜層は、負極集電体の対向する二つの表面のいずれか一方又は両方に設置される。
【0121】
いくつかの実施形態において、前記負極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、銅箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料基層と高分子材料基材の少なくとも一つの表面上に形成された金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することによって形成されてもよい。
【0122】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、当分野でよく知られている電池用の負極活物質を採用してもよい。一例として、負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料及びチタン酸リチウムのうちの少なくとも一つを含んでもよい。前記シリコン系材料は、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭素複合体、シリコン窒素複合体及びシリコン合金のうちの少なくとも一つから選択されてもよい。前記スズ系材料は、スズ単体、スズ酸化物及びスズ合金のうちの少なくとも一つから選択されてもよい。しかし、本出願では、これらの材料に限定されず、さらに電池の負極活物質として使用可能な他の従来の材料を使用してもよい。これらの負極活物質は、一つのみを単独に使用してもよく、二つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0123】
いくつかの実施形態において、負極膜層は、任意選択的に、接着剤をさらに含む。前記接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)及びカルボキシメチルキトサン(CMCS)のうちの少なくとも一つから選択されてもよい。
【0124】
いくつかの実施形態において、負極膜層は、任意選択的に、導電剤をさらに含む。導電剤は、超伝導性カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つから選択されてもよい。
【0125】
いくつかの実施形態において、負極膜層は、任意選択的に、他の助剤、例えば、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))などをさらに含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、以下の方式で負極板を製造することができ、負極板を製造するための上記成分、例えば、負極活物質、導電剤、接着剤といずれかの他の成分を溶媒(例えば、脱イオン水)に分散させて、負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経た後、負極板が得られる。
【0127】
[電解質]
電解質は、正極板と負極板との間でイオンを伝導する役割を果たす。本出願は、電解質の種類を具体的に限定せず、需要に応じて選択することができる。例えば、電解質は、固体電解質及び液体電解質(即ち電解液)のうちの少なくとも一つから選択されてもよい。
【0128】
いくつかの実施形態では、前記電解質は、電解液を採用する。前記電解液は、電解質塩と溶媒とを含む。
【0129】
いくつかの実施例において、電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、リチウムヘキサフルオロアルセネート(LiAsF6)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiDFOB)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート(LiDFOP)及びリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート(LiTFOP)のうちの一つ又は複数から選択されてもよい。
【0130】
いくつかの実施形態において、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ぎ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、メチルエチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)から選択された一つ又は複数であってもよい。
【0131】
いくつかの実施形態において、前記電解液には、任意選択的に、添加剤がさらに含まれる。例えば、添加剤は、負極被膜形成添加剤を含んでいてもよいし、正極被膜形成添加剤を含んでいてもよいし、電池の何らかの性能を改善できる添加剤、例えば、電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温性能を改善する添加剤、電池の低温性能を改善する添加剤などを含んでいてもよい。
【0132】
[セパレータ]
いくつかの実施形態において、二次電池は、セパレータをさらに含む。セパレータは正極板と負極板との間に設置され、隔離の効果を果たす。本出願では、セパレータの種類に対して特に制限することはなく、よく知られている、良好な化学的安定性と機械的安定性を有するいずれかの多孔質構造のセパレータを選択してもよい。
【0133】
いくつかの実施の形態において、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンのうちの少なくとも一つから選択されてもよい。セパレータは、単層薄膜であってもよく、多層複合薄膜であってもよく、特に制限はない。セパレータが多層複合薄膜である場合、各層の材料は同じであってもよく、異なってもよく、特に制限はない。
【0134】
[外装体]
いくつかの実施形態において、二次電池は、正極板、負極板及び電解質をパッケージングするための外装体を含んでもよい。一例として、正極板、負極板及びセパレータは、積層又は捲回によって積層構造電池セル又は捲回構造電池セルを形成することができ、電池セルは、外装体内にパッケージングされ、電解質は、電池セル内に浸漬される電解液を採用してもよい。二次電池における電池セルの数は、一つ又は数個であってもよく、需要に応じて調整してもよい。
【0135】
一つの実施形態において、本出願は、電極アセンブリを提供する。いくつかの実施形態において、正極板と負極板とセパレータは、捲回プロセス又は積層プロセスによって電極アセンブリを製造してもよい。この外装は、上記電極アセンブリと電解質のパッケージングに用いられてもよい。
【0136】
いくつかの実施形態において、二次電池の外装体は、軟包装、例えば袋式軟包装であってもよい。軟包装の材質は、プラスチックであってもよく、例えば、ポリプロプレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)などのうちの1種または複数種を含むことができる。いくつかの実施形態において、二次電池の外装は、硬質プラスチックシェル、アルミニウムシェル、スチールシェルなどの硬質シェルであってもよい。
【0137】
二次電池の製造方法
一つの実施形態において、本出願は、二次電池の製造方法を提供し、ここで、本出願に記載の負極板又は本出願に記載の方法に基づいて製造された負極板を使用する。
【0138】
二次電池の製造は、本出願の負極板、正極板と電解質を組み立てて二次電池を形成するステップをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態において、正極板、セパレータ、負極板を順番に捲回又は積層し、セパレータが正極板と負極板との間に介在して隔離の役割を果たし、電池セルを得てもよく、電池セルを外装体に入れ、電解液を注入し且つ封口して、二次電池を得る。
【0139】
いくつかの実施形態において、二次電池の製造は、正極板を製造するステップをさらに含んでもよい。例として、正極活物質、導電剤、接着剤を溶媒(例えば、N-メチルピロリドン、NMPと略称される)に分散させて、均一な正極スラリーを形成してもよく、正極スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経た後、正極板が得られる。
【0140】
いくつかの実施形態において、二次電池の製造は、本出願に記載の方法に基づいて負極板を製造するステップを含む。
【0141】
本出願では、二次電池の形状に対して特に制限することはなく、それは、円柱状、四角形又は他のいずれかの形状であってもよい。
【0142】
いくつかの実施形態において、本出願は、電力消費装置、電池モジュール又は電池パックを提供し、ここで、前記電力消費装置、電池モジュール又は電池パックは、本出願に記載の二次電池又は本出願に記載の方法に基づいて製造された二次電池を含む。
【0143】
いくつかの実施の形態では、二次電池を電池モジュールに組み立てもよく、電池モジュールに含まれる二次電池の数は一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者は電池モジュールの応用と容量に基づいて選択してもよい。
【0144】
いくつかの実施形態において、上記電池モジュールは、さらに電池パックに組み立てられてもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者は電池パックの応用と容量に基づいて選択してもよい。
【0145】
また、本出願は、本出願による二次電池、電池モジュール、または電池パックのうちの少なくとも一つを含む電力消費装置をさらに提供する。前記二次電池、電池モジュール、又は電池パックは、前記電力消費装置の電源として用いられてもよいし、前記電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられてもよい。前記電力消費装置は、移動体設備(例えば携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気列車、船舶と衛星、エネルギー貯蔵システムなどを含んでもよいが、それらに限らない。別の例としての装置は、携帯電話、タブレットコンピュータ、ノートパソコンなどであってもよい。この装置は、一般に軽量化が求められており、二次電池を電源として採用することができる。前記電力消費装置として、その使用上の需要に応じて二次電池、電池モジュール又は電池パックを選択してもよい。
【0146】
そのため、本出願は、本出願に記載の二次電池を含む電池モジュールを提供する。
【0147】
なお、本出願は、上記電池モジュールを含む電池パックをさらに提供する。
【0148】
本出願は、本出願に記載の二次電池、上記電池モジュール又は上記電池パックのうちの少なくとも一つを含む電力消費装置をさらに提供する。
【0149】
<実施例>
以下では、実施例によって本出願を詳細に説明し、該説明は制限性のあるものではない。
【0150】
<実施例1>
(ステップ1、ポリエーテルシロキサンの製造)
1)前駆体1、前駆体2、前駆体3(具体的なタイプと使用量は表1を参照されたい)にアルカリ性条件でポリエーテルを生成させ、ポリエーテルの数平均分子量が2w(即ち20000)に達した時、反応を停止し、
2)ステップ1)で製造されたポリエーテルをシランカップリング剤(具体的なタイプと使用量は表1を参照されたい)と反応させてポリエーテルシロキサンを生成し、反応が完了した後、濾過、透析を経て、数平均分子量が1w~3w(即ち10000~30000)であるポリエーテルシロキサンを切り取る。
【0151】
(ステップ2、正極スラリーの製造)
正極活物質(リン酸鉄リチウム)、導電剤(導電性カーボンブラックSuper P)、接着剤PVDFを30min混合する。そして、得られた混合物をNMPに加え、且つ180min撹拌してそれを均一に分散させる。最後に、ステップ1で製造されたポリエーテルシロキサン(具体的な使用量は表2を参照されたい)を加え、次に60min十分に撹拌し、均一な正極スラリーを形成する。
【0152】
(ステップ3、正極板の製造)
正極スラリーを正極集電体アルミニウム箔の表面に塗布し、塗布した後に乾燥、冷間プレスを経た後、正極板を得る。一連の正極板性能試験(主に極板が破断するか否かを試験し、本明細書に記載の正極板破断長さ試験方法を参照されたく、破断しない時に、塗布の最大重量は単位面積あたりの最大塗布重量である)により、単位面積あたりの最大塗布重量が30mg/cm2であることが分かった。
【0153】
(ステップ4、負極板の製造)
負極活物質(黒鉛)、導電剤(Super P)、接着剤(SBR)、増稠剤(CMC)を96.2:0.8:1.8:1.2の質量比で適量の脱イオン水に十分に撹拌して混合し、均一な負極スラリーを形成する。この負極スラリーを負極集電体銅箔の二つの表面に塗布し、乾燥、冷間プレスを経た後、負極板を得る。
【0154】
(ステップ5、電解液の製造)
エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:1:1に従って混合し、続いて、LiPF6を上記溶液に均一に溶解し、電解液を得て、ここで、LiPF6の濃度が1mol/Lであった。
【0155】
(ステップ6、セパレータ)
ポリエチレン(PE)フィルムを採用する。
【0156】
(ステップ7、二次電池の製造)
上記正極板、セパレータ、負極板を順番に積層し、捲回を経た後、電極アセンブリを得て、電極アセンブリを外装体に装入し、上記電解液を添加し、パッケージング、静置、化成、エイジングなどのプロセスを経た後、実施例1の二次電池を得る。前記外装体は、長さ×幅×高さが148mm×28.5mm×97.5mmのハードケースを選択する。
【0157】
<実施例2~19及び比較例1>
実施例1に類似して行われ、異なる点は、表1、表2に示すような原料と使用量を使用し、ポリエーテルシロキサンが表4~表6に示すような数平均分子量範囲を選択することであり、ここで、比較例1ではポリエーテルシロキサンを使用しない。
【0158】
<実施例21>
ステップ1、4~7の製造過程は、実施例1を参照されたく、ポリエーテルシロキサンは、表7に示すような数平均分子量範囲を選択する。ステップ2~3の製造過程は以下のように変更される。
【0159】
(ステップ2、正極スラリーの製造)
3134.63gの正極活物質(リン酸鉄リチウム)、32.5gの導電剤(Super P)、81.25gの接着剤PVDFを30min混合する。そして、得られた混合物を1750gのNMP溶媒に加え、且つ180min撹拌してそれを均一に分散させる。最後に、ステップ1で製造されたポリエーテルシロキサンを1.63g加え、次に60min十分に撹拌し、均一な正極スラリー1を形成する。
【0160】
3131.38gの正極活物質(リン酸鉄リチウム)、32.5gの導電剤(Super P)、81.25gの接着剤PVDFを30min混合する。そして、得られた混合物を1750gのNMP溶媒に加え、且つ180min撹拌してそれを均一に分散させる。最後に、ステップ1で製造されたポリエーテルシロキサンを14.63g加え、次に60min十分に撹拌し、均一な正極スラリー2を形成する。
【0161】
(ステップ3、正極板の製造)
ステップ2における正極スラリー1を正極集電体アルミニウム箔の表面塗布し、乾燥を経た後、正極スラリー2を乾燥されたスラリー1の表面に塗布し、正極スラリー1と正極スラリー2の塗布厚さを一致するように維持する。一連の正極板性能試験(主に極板が破断するか否かを試験し、本明細書に記載の正極板破断長さ試験方法を参照されたく、破断しない時に、塗布の最大重量は単位面積あたりの最大塗布重量である)により、総単位面積塗布重量が31mg/cm2であることが分かった。
【0162】
<実施例20>
実施例21との区別は、正極スラリー1にはポリエーテルシロキサンが含まれていないことであり、他の製造過程は実施例21に類似しており、具体的な方法パラメータは表1、表3を参照されたく、ポリエーテルシロキサンは、表7に示すような数平均分子量範囲を選択する。
【0163】
<実施例22~26>
製造過程は実施例21に類似しており、異なる点は、表1、表3に示すような原料と使用量を使用し、ポリエーテルシロキサンが表8に示すような数平均分子量範囲を選択することである。
【0164】
本出願では、全ての実施例と比較例における正極板において、いずれも正極スラリーを正極集電体の二つの表面に塗布し、即ち、両面塗布である。
【0165】
実施例1~26の製造に使用される物質と使用量は、表1~3を参照されたい。
【表1】
【表2】
【0166】
正極スラリーの製造において、実施例1と実施例13~実施例19では、いずれも32.5gの導電剤super P、81.25gの接着剤PVDFと1750gの溶媒NMPを使用した。正極スラリーの製造において、実施例1~12に使用される物質と使用量は実施例1と同様である。
【表3】
【0167】
IV.正極スラリーと正極板の性能評価
<スラリーパラメータの試験>
1.正極スラリーの安定性
以下の方法によって正極スラリーの安定性を評価し、
正極スラリーの安定性因子は、Vと表記され、V=(V2-V1)/V1であり、ここで、
V1は、新鮮な正極スラリーの初期粘度であり、
V2は、上記新鮮な正極スラリーが製造されてから48時間後の粘度である。
【0168】
上記新鮮な正極スラリーと48時間放置した後の粘度を、DVESLVTJ0粘度計(メーカーはBrookfieldである)によって室温(20~35℃)で測定し、且つ、V≦6の場合、スラリー粘度が安定していると判定し、V>6の場合、スラリー粘度が不安定であると判定するように規定する。
【0169】
2.正極スラリーにおけるリチウム元素とケイ素元素との重量比
正極スラリーにおけるケイ素元素とリチウム元素との重量比及び正極スラリーにおけるポリエーテルシロキサンと正極活物質との重量比の試験方法は以下のとおりである。
【0170】
本試験は計器Thermo Fisher Scientific ICAP7400を採用し、
一定の重量の上記スラリーを取って乾燥し、得られた乾燥粉末に対してICP-OES(プラズマ発光分光計)試験を行い、正極スラリーにおけるケイ素元素とリチウム元素との重量比を得て、前記ケイ素元素とリチウム元素との重量比により、スラリーにおけるポリエーテルシロキサンと正極活物質との重量比をさらに推定する。
【0171】
前記正極スラリーにおけるケイ素元素とリチウム元素との重量比及び正極スラリーにおけるポリエーテルシロキサンと正極活物質との重量比は、前記正極板におけるケイ素元素とリチウム元素との重量比及び正極板におけるポリエーテルシロキサンと正極活物質との重量比に相当する。
【0172】
<正極板パラメータの試験>
1.正極板破断長さの試験
極板を中折りしてローラプレスする方式で極板の柔軟性を判定し、即ち機械方向(TD)に垂直な方向に沿って、10cm×5cmの冷間プレスされた極板を量り取って中折りし、且つ2kgのハンドローラで三回ローラプレスし、極板の破断長さLを検査する。
【0173】
以下の方法に基づいて柔軟性レベルを判断し、
L=0は折り目があるが光を透過せず、極板の柔軟性は一級であり、
0<L≦2mmは光透過性が弱く、極板の柔軟性は二級であり、
2mm<L≦10mmは光透過性が強いと定義され、柔軟性は三級であり、
10mm<L≦20mmはわずかに破断したと定義され、柔軟性は四級であり、
L>20mmは破断したと定義され、柔軟性は五級である。
【0174】
2.正極スラリー接着力向上率試験
以下の方法によって正極板の接着力向上率を評価し、
正極板の接着力向上率は、Sと表記され、S=(S2-S1)/S1×100%であり、ここで、
S2は、本出願の正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、
S1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、ここで、
S1の測定時に使用される正極板は、S2の測定時に使用される前記正極板と同じであり、S1の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、S2の測定時に使用される前記正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異なる。
【0175】
本試験に使用される2Kg加圧ローラは、広東艾瑞斯一緒テクノロジー株式会社から購入され、ローラ幅が45mmであり、ローラ直径が83mmであり、被覆ゴム厚度が6mmであり、被覆ゴム硬度がHS80±5である。
【0176】
本試験は、米国INSTRONから購入した、型番が336である引張機を使用する。
【0177】
S1とS2の測定方法は以下のとおりである。
【0178】
機械方向(TD)に垂直な方向に沿って試験対象極板を量り取り、大きさが20mm(幅)×100~160mm(長さ)である試料を切り取り、専用の両面テープを鋼板に貼り付け、テープの大きさは20mm(幅)×90~150mm(長さ)である。切り取った極板試料を両面テープに貼り付けた後、2Kgの加圧ローラで同一の方向に沿って三回ローリングする。引張機で極板の接着力を試験し、前記ポリエーテルシロキサンを含まない極板は、接着力がS1であり、前記ポリエーテルシロキサンを含む極板は、接着力がS2である。
【0179】
3.正極板の抵抗低下率
正極板の抵抗低下率は、Ωと表記され、Ω=(Ω1-Ω2)/Ω1×100%であり、ここで、
Ω2は、本出願の正極板の抵抗であり、
Ω1は、ポリエーテルシロキサンを含まない正極板の抵抗であり、
ここで、Ω1の測定時に使用される正極板は、ポリエーテルシロキサンを含まない以外、他の特徴がΩ2の測定時に使用される正極板と同様である。
【0180】
Ω2、Ω1の測定方法は以下のとおりである。
【0181】
本試験は、元能テクノロジー廈門株式会社から購入した、型番がBER1100である膜抵抗計を使用する。
【0182】
機械引張(MD)方向に沿って、面積が4cm×25cm(縦方向)である極板を取り、試験極板の集電体をプローブの中間に置き、まずソフトウエアにおける運行ボタンを押し、そして切換弁を下に押し、15S後に一つのデータを自動的に収集し、別の点に変える時に試験方法は以上のとおりであり、20個の点で試験したまで行い、それぞれ得られた20個の点の抵抗を平均して、それぞれΩ2、Ω1の値を得る。
【0183】
4.単位面積あたりの最大塗布重量試験
空白のアルミニウム箔と塗布過程で乾燥された正極板(この正極板の正極集電体の両面にはいずれもコーティングがある)を用意し、面積が1540.25mm2の小円板をそれぞれ15個トリミングし、極板小円板の平均質量から空アルミニウム箔小円板の平均質量を差し引いて2で除すれば、単位面積あたりの塗布重量が得られる。前記「片面」は、集電体の一つの表面のみで塗布することを指し、本出願に記載の「副層」の層数とは同一の概念ではない。表中の単位面積あたりの最大塗布重量は片面重量を指す。
【0184】
本出願の表実施例における塗布重量のデータは、いずれも片面の単位面積あたりの最大塗布重量のデータを指し、極板性能と電池性能は、いずれも最大塗布重量で測定される。
【0185】
単位面積あたりの最大塗布重量は、極板塗布中及び塗布後、正極板破断長さ試験を経て、極板が裂けず、破断しないように維持する場合の最大塗布重量を指す。
【0186】
5.正極膜層に含まれる二つの副層の間のケイ素含有量の比
断面のイオンミリングとEDS試験により、正極膜層の二つの副層におけるケイ素含有量を得て、比較する。
【0187】
<電池関連性能試験>
1.エネルギー密度測定
実施例と比較例で製造された電池を計量し、電池全体の質量を得て、電池に対して容量化成を行った後、25℃で電池を10min静置した後に100%SOCになるまで0.33C充電を行い、小電流で脱分極した後に10min静置し、次に0%SOCになるまで0.33放電を行い、得られた容量は電池の0.33C容量である。電池を30min静置した後、100%SOCになるまで充電し、次に30min静置した後、0.01C定電流放電を30min行い、電圧は、安定した過程があり、この安定値は充放電プラトーであり、即ちプラトー電圧が得られ、最後に、電池の重量エネルギー密度を計算し、即ち電池質量エネルギー密度=電池容量×放電プラトー電圧/電池全体の重量であり、基本単位はWh/kg(ワット時/キログラム)である。
【0188】
2.直流抵抗(Direct Current Resistance、略称DCR)の測定
25℃で電池に対して容量試験を行い、容量試験方法は上記のとおりである。そして定電圧0.05C充電を行い、60min静置し、50%SOCになるまで0.33C放電し、60min静置し、20%SOCになるまで0.33C放電し、60min静置し、0%SOCになるまで0.33C放電し、0%SOCの開放電圧を試験し、30sのDCRデータを整理する。
【0189】
測定結果は表4~7を参照されたく、ここで、表中の「/」は、この項目がないか、添加されていないか、検出されなかったことを代表する。
【0190】
表4~7において、「(I)/(II)/(III)/(IV)」は、構造ユニット(I)モル量/構造ユニット(II)モル量/構造ユニット(3)モル量/構造ユニット(IV)モル量を表し、ここで、構造ユニット(I)モル量は、各実施例における前駆体1のモル量に対応し、構造ユニット(II)モル量は、各実施例における前駆体2のモル量に対応し、構造ユニット(3)モル量は、各実施例における前駆体3のモル量に対応し、構造ユニット(IV)モル量は、各実施例におけるシランカップリング剤のモル量に対応する。
【0191】
【0192】
(データ分析)
表4から分かったように、比較例1に比べて、実施例に対応する正極スラリーにおいて、ポリエーテルシロキサンを添加した後、単位面積あたりの最大塗布重量は36.4%向上し、エネルギー密度は6.5%向上し、DCRは著しく低下し、電池性能は著しく改善された。
【0193】
【0194】
(データ分析)
表5から分かったように、ポリエーテルシロキサンの分子量は、単位面積あたりの塗布重量と電池エネルギー密度に影響を与える。ポリエーテルシロキサンの分子量<1wの場合(例えば、実施例6)、正極スラリーの安定性が低く、物理ゲル化現象が発生しやすく、正極板に裂ける現象が発生し、正極板の極板破断長さが長く、対応する電池のエネルギー密度が低く、ポリエーテルシロキサンの分子量>7wの場合(例えば、実施例7)、ポリエーテルシロキサンの間が架橋しやすいため、対応する正極スラリーの安定性が低く、正極板抵抗が大きくなり、対応する電池のDCRが大きくなる。
【0195】
【0196】
(データ分析)
表6から分かったように、ポリエーテルシロキサンと正極活物質との重量比<0.0005の場合(例えば、実施例18)、正極板の最大塗布重量が22mg/cm2であり、対応する電池のエネルギー密度が低くなり、この塗布重量を超えると、正極板はひどく裂け、ポリエーテルシロキサンと正極活物質との重量比>0.03の場合(例えば、実施例19)、正極板の膜抵抗が劣化し、電池阻抗DCRが高くなる。
【0197】
【0198】
(データ分析)
表7から分かったように、実施例1に対応する正極板の単位面積での最大塗布重量は30mg/cm2であり、実施例20~実施例26には及ばず、対応するエネルギー密度も実施例20~実施例26には及ばない。さらに、実施例20~実施例26を比較して分かったように、正極集電体に最も近い副層におけるケイ素の重量含有量が、正極集電体から最も遠い副層におけるケイ素の重量含有量に対して>60(実施例26)である場合、正極集電体に最も近い副層でのポリエーテルシロキサンの過剰な分布は、スラリーの安定性と極板の膜抵抗に影響を与え、対応する電池DCRが増大する。
【0199】
説明すべきこととして、本出願は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は例に過ぎず、本出願の技術案の範囲内で、技術思想と実質的に同一の構成を有し、同様な作用と効果を奏する実施形態は、いずれも本出願の技術範囲内に含まれるものとする。なお、本出願の主旨から逸脱しない範囲内で、実施形態に対して当業者が想到し得る様々な変形を実施し、実施形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される他の形態も、本出願の範囲内に含まれるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極スラリーであって、正極活物質とポリエーテルシロキサンとを含み、
前記ポリエーテルシロキサンは、少なくとも、
【化1】
の構造ユニットを含み、
ここで、
Dは、メチル基又はエチル基であり、
Aは、水素、ハロゲン又はハロゲン化アルキル基であり、前記ハロゲンは、任意選択的に、フッ素、塩素又は臭素であり、前記Aは、任意選択的に、水素又はフルオロメチル基であり、
Bは、水酸基、R、OR、又はROR’であり、ここで、R、R’は、それぞれ独立して、1~8個の炭素を含む直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、任意選択的に、Bは、メチル基、エチル基又はエトキシメチル基であり、
Eは、フェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基、エーテル化フェニル基又はハロゲン化フェニル基であり、前記Eは、任意選択的に、フェニル基又はフルオロフェニル基であ
る正極スラリー。
【請求項2】
前記ポリエーテルシロキサンの数平均分子量範囲は、10,000~60,000であり、選択可能な範囲は、20,000~60,000であ
る請求項
1に記載の正極スラリー。
【請求項3】
構造ユニット(I)~構造ユニット(IV)の総モル量に対して、構造ユニット(I)のモル比率は0~75モル%であり、構造ユニット(II)のモル比率は0~70モル%であり、構造ユニット(III)のモル比率は5~65モル%であり、構造ユニット(IV)のモル比率は4~10モル%であり、ここで、構造ユニット(I)と構造ユニット(II)のモル比率は同時にゼロではな
い請求項1に記載の正極スラリー。
【請求項4】
前記ポリエーテルシロキサンと前記正極活物質との重量比は、0.0005~0.030であり、選択可能な範囲は、0.001~0.02であり、さらに選択可能な範囲は、0.001~0.01であり、最も選択可能な範囲は、0.001~0.006であ
る請求項1~3のいずれか一項に記載の正極スラリー。
【請求項5】
前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケル酸リチウム又はそれらの混合物のうちの少なくとも一つから選択され
る請求項1~4のいずれか一項に記載の正極スラリー。
【請求項6】
前記正極スラリーの安定性因子は、0<V≦6であり、任意選択的に、0<V≦4であり、
ここで、V=(V2-V1)/V1×100%であり、
V1は、前記正極スラリーの初期粘度であり、
V2は、前記正極スラリーが製造されてから48時間後の粘度であり、ここで、
V1を測定する時に使用される前記正極スラリーとV2を測定する時に使用される前記正極スラリーは、同一ロットの正極スラリーであ
る請求項1~5のいずれか一項に記載の正極スラリー。
【請求項7】
正極板であって、
正極集電体と、
前記正極集電体の少なくとも一つの表面に位置する正極膜層とを含み、前記正極膜層は、請求項1~6のいずれか一項に記載の正極スラリーで製造され、前記正極膜層は、単位面積あたりの極板における質量の範囲が13~45mg/cm
2であり、選択可能な範囲が20~43mg/cm
2であり、さらに選択可能な範囲が22~33mg/cm
2であり、最も選択可能な範囲が25~31mg/cm
2であり、前記質量は、極板の片面における正極膜層の質量である、正極板。
【請求項8】
前記正極板におけるリチウム元素とケイ素元素との重量比範囲は、60~3875であり、選択可能な範囲は、60~1950であり、さらに選択可能な範囲は、90~1950であり、最も選択可能な範囲は、380~1950であ
る請求項7に記載の正極板。
【請求項9】
前記正極膜層は、前記正極集電体に平行し且つ互いに積層される二つの副層を含み、ここで、前記正極集電体に最も近い副層におけるケイ素の重量含有量は、前記正極集電体から最も遠い副層におけるケイ素の重量含有量に対して、0~60の範囲であり、選択可能な範囲が0.1~30であり、さらに選択可能な範囲が0.1~9であ
る請求項8に記載の正極板。
【請求項10】
極板を中折りしてローラプレスする方式で極板の柔軟性を判定する場合、
前記正極板の極板破断長さは0であり、又は
前記正極板の極板破断長さは0より大きく且つ2mm以下であ
る請求項7~9のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項11】
前記正極板の接着力向上率Sの範囲は、2~50%であり、選択可能な範囲は、10~20%であり、
ここで、S=(S2-S1)/S1×100%であり、
S2は、前記正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、
S1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極板の正極膜層と正極集電体との間の接着力であり、ここで、
S1の測定時に使用される正極板は、S2の測定時に使用される前記正極板と同じであり、S1の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、S2の測定時に使用される正極板には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異な
る請求項7~10のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項12】
前記正極板における前記正極膜の抵抗低下率Ωの範囲は、0~18%であり、選択可能な範囲は、6~15%であり、
ここで、Ω=(Ω1-Ω2)/Ω1×100%であり、
Ω2は、前記正極膜の抵抗であり、
Ω1は、前記ポリエーテルシロキサンを含まない正極膜の抵抗であり、
ここで、Ω1の測定時に使用される正極膜は、Ω2の測定時に使用される前記正極膜と同じであり、Ω1の測定時に使用される正極膜には前記ポリエーテルシロキサンが含まれていないのに対し、Ω2の測定時に使用される前記正極膜には前記ポリエーテルシロキサンが含まれている点のみで異な
る請求項7~11のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項13】
二次電池であって、請求項7~12のいずれか一項に記載の正極板、又は、請求項1~6のいずれか一項に記載の正極スラリーで得られる正極板を含
む二次電池。
【国際調査報告】