(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-05
(54)【発明の名称】レーザ測距のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/32 20200101AFI20231225BHJP
G01S 7/4915 20200101ALI20231225BHJP
【FI】
G01S17/32
G01S7/4915
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524209
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 IB2021061249
(87)【国際公開番号】W WO2022123404
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520188857
【氏名又は名称】ラファエル アドバンスド ディフェンス システムズ エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴルブチック,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】マーリン,アーロン
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AD01
5J084BA03
5J084BA23
5J084BB34
5J084CA09
(57)【要約】
少なくとも2本の部分的にコヒーレントなサブビームを有するコヒーレントビーム結合(CBC)システムによって照射された標的の距離を測定するための測距装置と方法である。上記測距装置は位相変調制御器と信号プロセッサとを含む。上記位相変調制御器はCBCシステムに1つまたは複数の光学位相変調信号を供給する。信号プロセッサは、CBCシステムまたは外部測距デバイスのいずれかによって提供され、および相対的に大きな不確かさを有する、標的距離の初期測定値とCBCシステムによって供給される時間変化する受信強度信号とを受信する。信号プロセッサは、強度信号の周波数成分を計算し、飛行時間の補正値に対応して回転された周波数成分を形成し、前記回転された周波数成分に依存して目的関数を計算し、目的関数の大域的最小値を求め、ならびに標的距離の、初期測定値の不確かさよりも小さな不確かさを有する補正された測定値を計算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本の部分的にコヒーレントなサブビームで標的を照射するコヒーレントビーム結合(CBC)システムとの通信状態にある、測距装置が提供され、前記測距装置は、
前記CBCシステムに少なくとも1つの光学位相変調信号を提供する位相変調制御器と、
信号プロセッサであって、前記CBCシステムから時間変化する受信強度信号を受信するように構成され、且つ、ある初期の不確かさを有する、標的距離の初期測定値を受信するように構成され、
前記信号プロセッサは、前記受信強度信号の周波数成分を計算するようにさらに構成され、飛行時間の補正に比例する角にわたって前記周波数成分を回転させることによって回転された周波数成分を形成するように構成され、回転された前記周波数成分に依存して目的関数を計算するように構成され、目的関数の大域的最小値を求めるように構成され、および標的距離の初期の不確かさよりも小さな不確かさを有する、補正された測定値を計算するように構成される、信号プロセッサとを含む、測距装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの光学位相変調信号は、正弦波周波数変調信号または線形周波数変調信号を含む、請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの光学位相変調信号は、10キロヘルツから100メガヘルツまでの範囲の値の帯域幅を有する、請求項1に記載の測距装置。
【請求項4】
前記周波数成分は、前記受信強度信号の基本調波周波数および二次調波周波数を含む、請求項1に記載の測距装置。
【請求項5】
前記信号プロセッサは、前記位相変調制御器に対して、前記少なくとも1つの光学位相変調信号の1つまたは複数の更新されたパラメーターを含むフィードバックを送る、請求項1に記載の測距装置。
【請求項6】
前記標的距離の初期測定値は、CBCシステムまたは外部測距デバイスによって提供される、請求項1に記載の測距装置。
【請求項7】
前記外部測距デバイスは、マイクロ波レーダ、ミリ波レーダ、および前方監視赤外線システムを含む群から選択される、請求項1に記載の測距装置。
【請求項8】
前記目的関数は、回転された前記周波数成分の絶対値に依存する、請求項1に記載の測距装置。
【請求項9】
前記目的関数は、絶対値和目的関数および/または平方和目的関数を含む、請求項1に記載の測距装置。
【請求項10】
前記標的距離の補正された測定値は、初期不確かさが少なくとも300の係数で割られた値に等しい不確かさを有する、請求項1に記載の測距装置。
【請求項11】
前記少なくとも2本の部分的にコヒーレントなサブビームは、値が1メートル以下であるコヒーレンス長を有する、請求項1に記載の測距装置。
【請求項12】
少なくとも2本の部分的にコヒーレントなレーザサブビームで標的を照射するコヒーレントビーム結合(CBC)システムで使用する測距方法であって、前記測距方法は、
(a)少なくとも2本の部分的にコヒーレントなレーザサブビームと光学位相変調器とを含むCBCシステムを提供する工程、
(b)前記CBCシステムに少なくとも1つの光学位相変調信号を送る工程、
(c)前記CBCシステムから時間変化する受信強度信号を受信し、および前記CBCシステムまたは外部測距デバイスのいずれかから標的距離の初期測定値を受信する工程、および
(d)前記初期測定値の不確かさよりも小さな不確かさを有する、標的距離の補正された測定値を計算する工程、を含む、測距方法。
【請求項13】
工程(d)が、
(e)前記強度信号の周波数成分を計算する工程、
(f)飛行時間の補正に比例する角にわたって前記周波数成分を回転させる工程、
(g)回転された前記周波数成分に依存して目的関数を計算する工程、および
(h)前記目的関数の大域的最小値を求める工程をさらに含む、請求項12に記載の測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ測距(laser range-finding)に関し、とりわけ、コヒーレントビーム結合(CBC)システムによって照射された標的への距離を正確に測定するための、装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁気的測距システムでは、標的への距離は、波源から標的、そして標的から受信器へと伝播する電磁波の飛行時間(TOF)を測定することによって見出される。上記波源は、一般的に、変調された信号を送信し、上記信号は、振幅または強度、変調を有する、パルス波または持続波であってよい。TOF測定精度は、主として変調帯域幅に依存し、典型的にはマイクロ波システムのものよりもレーザシステムのもののほうがはるかに高く、および、標的からの反射信号の信号対ノイズ比にも依存する。
【0003】
先行技術のコヒーレント検波に基づくレーザ測距システムでは、標的によって反射されたビームとレーザ源によって放射されたビームの遅延した部分との間の相対的な光学位相を測定するために、光学干渉が使用される。コヒーレント検波は、波源が、実質的に標的距離の因数であるコヒーレンス長を有することを必要とする。このことは、コヒーレント検波システムの有能出力と有効測定範囲を制限する。
【0004】
2015年のModern Applied Science, Vol. 9, No. 4に掲載の『Multi-Frequency Modulation Laser Range Finding System』と題されたChen Yuらによる論文は、多重周波数位相シフト(MFPS)法を使用する測距システムを提示する。この方法において、シードレーザ源の強度は、いくつかの周波数を有する信号によって経時的に変調される。座標回転角ソルバアルゴリズムを使用して、反射信号は復調され、TOF推定値が生成される。
【0005】
指向性エネルギーの応用において、システムは、距離測定値の必要精度と更新レートに厳しい制約を課す。典型的な必要条件は、少なくとも1キロメートルの標的距離において±1メートルの距離測定精度である。名目上の光速(c)を3x108メートル/秒に等しいと仮定すると、2方向(往復)の伝搬の標的TOFは、少なくとも(2×1000メートル/c)=6.67マイクロ秒(μsec)であり、および、必要なTOF測定精度は(2x±1メートル/c)=±6.67ナノ秒(nsec)である。さらに、標的が波源に対して半径方向に、例えば、100メートル/秒で移動している場合、必要な更新レートは1秒当たり1000測定を優に超過し得る。
【0006】
先行技術のレーザ測距計は、レーザ出力と、強度変調帯域幅と、標的距離に関し、上記の必要条件を満たすレーザコヒーレンス長との適切な組み合わせ、および、TOF測定精度と更新レートを達成することができない。
【0007】
CBCシステムにおいて、いくつかのレーザサブビームがシードレーザを増幅することによって形成され、および出射光束を形成するために同位相に結合される。ビーム導波器光学システムは、標的面に対して一点に照射しオーバーラップさせるようにビームを導光する。CBCシステムは出力的に拡張可能であり、数キロワットオーダーのレーザ出力が実証されてきた。照射の一部は標的から受信器望遠鏡の方向に反射され、光学的および電気的なハードウェア構成部品によって処理されて、時間変化する受信信号を形成する。受信信号は、サブビーム間の相対的位相を測定して制御するために、例えば、ループ式標的システム(Target-in-the-Loop/TIL System)において分析される。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、コヒーレントビーム結合(CBC)システムの少なくとも2本のサブビームによって照射された標的に対する正確な測距のための装置と方法を提供することによって、先行技術の限界を克服する。本発明は、電子ノイズの存在下においてさえ高いTOF測定精度と高いTOF測定値更新レートを達成するために、比較的低いコヒーレンス長を有するレーザサブビームの光学位相変調を利用する。
【0009】
本明細書で開示される発明特定事項の一態様によると、少なくとも2本の部分的にコヒーレントなサブビームで標的を照射するコヒーレントビーム結合(CBC)システムとの通信状態にある測距装置が提供され、該測距装置は、CBCシステムに少なくとも1つの光学位相変調信号を提供する位相変調制御器、および信号プロセッサであって、CBCシステムから時間変化する受信強度信号を受信し、且つ初期不確かさを有する標的距離の初期測定値を受信するように構成される、信号プロセッサを含む。信号プロセッサは、受信強度信号の周波数成分を計算するように構成され、飛行時間の補正に比例する角にわたって周波数成分を回転させることによって回転された周波数成分を形成するように構成され、回転された周波数成分に依存して目的関数を計算するように構成され、目的関数の大域的最小値を求めるように構成され、および、標的距離の、初期の不確かさよりも小さな不確かさを有する補正された測定値を計算するように構成される。
【0010】
いつくかの態様によると、少なくとも1つの光学位相変調信号は、正弦波周波数変調信号または線形周波数変調信号を含む。
【0011】
いつくかの態様によると、少なくとも1つの光学位相変調信号は、10キロヘルツから100メガヘルツまでの範囲の値の帯域幅を有する。
【0012】
いつくかの態様によると、周波数成分は、受信強度信号の基本および二次調波周波数を含む。
【0013】
いつくかの態様によると、信号プロセッサは、位相変調制御器に対して、少なくとも1つの光学位相変調信号の1つまたは複数の更新されたパラメーターを含むフィードバックを送る。
【0014】
いつくかの態様によると、標的距離の初期測定値は、CBCシステムまたは外部測距デバイスによって提供される。
【0015】
いつくかの態様によると、外部測距デバイスは、マイクロ波レーダ、ミリ波レーダ、および前方監視赤外線システムを含む群から選択される。
【0016】
いつくかの態様によると、目的関数は、回転された周波数成分の絶対値に依存する。
【0017】
いつくかの態様によると、目的関数は、絶対値和目的関数および/または平方和目的関数を含む。
【0018】
いつくかの態様によると、標的距離の補正された測定値は、初期不確かさが少なくとも300の係数で割られた値に等しい不確かさを有する。
【0019】
いつくかの態様によると、少なくとも2本の部分的にコヒーレントなサブビームは、値が1メートル以下であるコヒーレンス長を有する。
【0020】
本明細書で開示される発明特定事項の別の態様によると、少なくとも2本の部分的にコヒーレントなレーザサブビームで標的を照射するコヒーレントビーム結合(CBC)システムで使用するための測距方法が提供され、該方法は、
a)少なくとも2本の部分的にコヒーレントなレーザサブビームおよび1つの光学位相変調器を含むCBCシステムを提供する工程、
b)少なくとも1つの光学位相変調信号をCBCシステムに送る工程、
c)CBCシステムからの時間変化する受信強度信号を受信し、およびCBCシステムまたは外部測距デバイスのいずれかから標的距離の初期測定値を受信する工程、および
d)標的距離の、初期測定値よりの不確かさよりも小さな不確かさを有する、補正された測定値を計算する工程を含む。
【0021】
いつくかの態様によると、測距方法の工程d)は、
e)強度信号の周波数成分を計算する工程、
f)飛行時間の補正に比例する角にわたって周波数成分を回転させる工程、
g)回転された周波数成分に依存して目的関数を計算する工程、および
h)目的関数の大域的最小値を求める工程をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明は、添付の図面を参照して、ほんの一例として本明細書において記載される。同様または類似の要素を表示するために、類似する参照番号が図面において使用される。
【
図1】本発明による、典型的な測距装置の主要コンポーネントの図式表現である。
【
図2】ノイズがある場合とない場合の、例示的な目的関数F(δt)のプロットである。
【
図3】例示的なTOF測定値成功率対ノイズスペクトル密度のプロットである。
【
図4】本発明の原理による、例示的な測距方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、CBCシステムのサブビームによって照射された標的の正確な測距のための装置および方法である。本発明の原理および実際的使用は、図面および付随する記載を参照してより良く理解されよう。
【0024】
図1は、本発明による典型的な測距装置(100)の図式表現を示す。位相変調制御器(120)は、CBCシステム(10)の中の光学位相変調器(20)に少なくとも1つの時間変化する光学位相変調信号を送る。変調器(20)は、CBC照射源によって放射された、高パワーレーザ・サブビーム(15)の少なくとも1つに位相変調を適用する。
【0025】
レーザサブビーム(15)それぞれのコヒーレンス長は、典型的に約1メートル以下であり得る。それゆえ、コヒーレントな結合を確かなものにするために、ミリメートル精度でサブビーム源の間の光路差が調整されなければならない。先行技術との比較において、コヒーレント検波を使用する既存の高出力レーザ測距器は、少なくとも数メートルの、また場合によっては、数十または数百キロメートルオーダーの、レーザコヒーレンス長を典型的に必要とする。変調器(20)を出ると、サブビームの相対的な光学位相は、サブビームの光学経路に存在する電子ノイズ、音響振動、および熱変動によって引き起こされる付加的な位相シフトを含む。
【0026】
サブビーム(15)は、j=1~N(N≧2)で番号付けされ、ここでNは、サブビームの総数であり、未変調と変調済の両方のサブビームを含む。ビームが未変調の場合、j番目のサブビームの光学位相変調信号は0であり、サブビームが変調済の場合、非0であり、時間変化関数はmj(t)である。関数mj(t)は、距離測定値の必要精度に依存して、フーリエドメインにおける、キロヘルツ(kHz)からギガヘルツ(GHz)に及び得る帯域幅を有する。非限定的で例示的な光学位相変調信号は、線形の周波数変調(LFM)、または「チャープ」信号および正弦波信号を含む。後者は、
【0027】
【数1】
の形を有し、式中、j番目の変調されたサブビームについて、f
jが変調周波数であり、A
jは定数の変調振幅であり、およびB
jは定数の位相オフセットである。f
jの典型的な値は、10キロヘルツ(kHz)と100メガヘルツ(MHz)との間である。
【0028】
位相変調制御器(120)は、サブビームの光学位相変調のために必要な電圧と周波数とを提供する。例えば、Thorlabs(登録商標)LN81S-FCなどの、電気光学変調器の場合には、πだけ位相を変化させるのに必要な電圧は、ほぼ6Vである。この電圧を提供するために、制御器(120)は、例えば、デジタル-アナログ変換器(DAC)または電圧制御発振器(VCO)を使用して、デジタル信号をアナログ信号に変換し、必要な電圧レベルに到達するためのRF増幅器が後に続く場合がある。
【0029】
図1において、CBCビーム導波器(30)は、典型的に2~3マイクロラジアンのオーダーの高い角度精度でサブビームを導光し、その結果、サブビームは標的(45)の表面上でオーバーラップして単一のスポット(40)を形成する。大気を通って伝播するにつれ、サブビームは乱気流の領域(35)の中の動く空気塊によって引き起こされる時間変化する摂動などの、相対的位相差を蓄積する。従って、標的上に入射するサブビームの相対的な光学位相は、一般に自明ではない。
【0030】
標的の表面では、総計の時間変化複素電界U(t)は、U(t)=ΣUj(t)によって表わされる場合があり、式中の総和は、すべてのサブビーム(つまり、j=1からNまで)にわたる。j番目のサブビームの時間変化複素電界Uj(t)は、
【0031】
【0032】
ここで、ujは未知の正の振幅であり、i=√-1であり、「exp」は指数関数であり、「c」は光速であり、およびλは、典型的には可視または赤外線の光スペクトルに属するサブビームの波長である。関数Φj(t)は、乱気流および標的の動きのような物理的な影響に起因する未知の相対位相を表わす。これらの影響は、一般にkHz範囲以下の周波数帯域を有し、制御器(120)によって供給される光学位相変調信号mj(t)の、典型的にはMHz範囲にある、周波数帯域よりもかなり下にある。
【0033】
標的上に入射する照射の一部は反射ビーム(50)(reflected beam)を形成し、CBC受信器(55)によって検出される。数キロメートルの距離では、受信されるビームは、CBCシステムによって放出される照射パワーより9~12オーダー小さくなり得る。受信器(55)は、反射ビームのための入口開口部を備えた望遠鏡光学系、Thorlabs(登録商標)APD130Cなどの高ゲイン低ノイズの検出器を典型的に含む。
【0034】
受信強度信号I(t)は、|U(t)|2に比例し、および多くの相互変調積項を含む。mj(t)が周波数fjを備えた正弦波関数である場合、I(t)は、周波数fjを有する正弦波項、周波数2fjを有する二次高調波項、およびfj±fn(n≠j)などの周波数和と周波数差を伴うその他の項を含む。
【0035】
測距装置(100)は、信号I(t)を受信するように構成され、ならびに
図1においてブロック(130、140、150、160、および170)で表わされる信号処理アルゴリズムのシーケンスを実行することによって標的TOF情報を抽出するように構成される、リアルタイム式の信号プロセッサ(110)を含む。信号プロセッサ(110)は、典型的に、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または特定用途向けIC(ASIC)によって実装される。
【0036】
ブロック(130)は、いくつかのリアルタイム機能を有する。第1に、ブロック(130)は、典型的には、最も高い変調周波数より少なくとも10倍高い帯域幅を有するアナログ-デジタル変換器(ADC)を使用して、受信器(55)によって供給された受信強度信号I(t)をデジタル化する。
【0037】
第2に、ブロック(130)は、外部センサまたはCBCシステム(10)によって供給され得る標的距離の粗推定値R0を受信する。例えば、外部センサは、マイクロ波レーダ、ミリ波レーダ、または前方監視赤外線(FLIR)システムであり得る。代替的に、標的距離の粗推定値は、本発明の装置に類似するがより低い周波数(例えば、10~100kHz)を有する光学位相変調信号を用いる測距装置によって供給されてもよい。粗推定値R0の不確かさは±ΔRによって表示される。R0に基づいて、TOFの粗推定値は、±ΔT=±2ΔR/cの不確かさで、T0=2R0/cにより与えられる。
【0038】
第3に、ブロック(130)はI(t)の直交位相と同相周波数成分(しばしば「I-Q成分」または「直交成分」と呼ばれる)を以下のように計算する。
【0039】
【数3】
上記の積分は、任意の所与の周波数fについて、時間間隔|t-T
0|≦Wにわたり評価される。正弦波周波数変調の場合には、大きな絶対値を有する周波数成分は、一般に基本周波数f
jに対応するもの、およびその二次調波周波数2f
jに対応するものである。正弦波でない、さらに一般の変調関数の場合、方程式3および方程式4は、信号処理の当業者に周知のように、ヒルベルト変換で置き換えられる場合がある。典型的には、積分時間、2Wは、I(t)の信号対ノイズ比に依存し、および約10~100μ秒のオーダーである。C(f)およびS(f)の計算値が方程式1の位相オフセットB
jを更新するために、および更新されたパラメーターを変調制御器(120)にフィードバックするために使用されて、それにより標的におけるサブビームのコヒーレントな結合が可能となる場合がある。
【0040】
ブロック(140)は増分の位相角(2πfδt)にわたって周波数成分C(f)とS(f)を回転させ、ここでδtはまだ決定されていないTOF補正値である。回転された周波数成分は、以下の式、
【0041】
【0042】
ブロック(150)は目的関数F(δt)を計算する。目的関数は、式
【0043】
【数5】
によって定義され、式中、総和はサブビームのすべて、j=1からNにわたる。指数「p」は、正整数または0より大きい分数値であり得る。p=1のとき、関数Fは「絶対値和」目的関数と呼ばれ、p=2のとき、それは「平方和」目的関数と呼ばれる。
【0044】
関数F(δt)は一般に多くの局所的最小値を有するが、δtが真の目標TOFからT0を引いた値に等しいとき、大域的最小値が得られる。物理的に、一次高調波の直交成分を伴うCC項と二次高調波の同相成分を伴うSS項との両方が小さな振幅である時、Fの大域的最小値が生じる。
【0045】
一般に、方程式7の目的関数は、fjの基本および二次高調波に加え、他の周波数の組み合わせを備えた項を含めるように拡張される場合がある。しかしながら、シミュレーション結果は、方程式7の目的関数が、追加の項がなくとも、非常に高精度の距離推定を与えることを示す。
【0046】
ブロック(160)は、初期TOF推定値T0の不確かさに対応して、区間|δt|≦ΔTにわたる、目的関数F(δt)の大域的最小値を求める。F(δt)の局所的最小値の1つを選ぶことがないように、上記区間は密な間隔の点のグリッドに分割され、そのΔt値は、例えば、1n秒以下に区切られ、Fの数値は方程式7を使用して計算される。大域的最小値に対応する点(δtmin、Fmin)が選択され、および値δt*=δtminがTOF補正の測定値として選ばれる。
【0047】
受信強度信号I(t)中のノイズの存在下において、TOF測定の精度は積分によって改善される場合がある。積分の1つの方法は、目的関数{Fk(δt),k=1~K}の集合を形成することであり、式中、各FkはN個のサブビームの異なる部分集合に対応するか、または方程式3と方程式4における異なる積分時間区間に対応する。K個の目的関数Fkを合計することによって得られる目的関数Fは、大域的最小点、および対応する測定されたTOF補正値δt*=δtminを見つけるために使用される。
【0048】
積分の第2の方法は、点(δtmin、Fmin)の近傍のいくつかの点にスプライン曲線をフィッティングし、次に、フィッティングされたスプライン曲線がその最小値を持つTOF補正値を見つけることである。近傍の点からのデータを結合することにより、測定されるTOF補正の精度は全般的に改善される。
【0049】
ブロック(170)は、以下の式
R*=R0+cδt*/2 (方程式8)
によって与えられる標的距離R*の補正された値を計算する。
R*の更新レートは、積分時間2Wと目的関数Fを最小化するための演算時間に依存し、例えば、5kHzから50kHzの間である。
【0050】
図2および
図3は、本発明による、測距装置と方法の優れたノイズ頑強性を例示するプロットを示す。プロットは、ノイズの存在下における、レーザ光線と光検出のデジタル・シミュレーションに基づく。シミュレーションにおいて、信号I(t)は1ナノ・ワット(nW)の平均出力を有する。I(t)中のノイズは、ホワイトおよびガウスであり、ある可変ノイズスペクトル密度を有し、平方根ヘルツ当たりのピコワット(pW/√Hz)の単位で測定される。初期の距離測定値R
0は、±ΔT=±2ΔR/c=±2マイクロセカンド(μ秒)の粗TOF不確かさに対応して、±ΔR=±300メートルの不確かさを有する。プロトタイプの装置では、サブビームの8つの群がある。各群は、それぞれが異なる周波数での正弦波光学位相変調を有する4本のサブビームからなる(N=4)。8つの群のそれぞれは、目的関数F
kと合計された目的関数F=ΣF
k、を生成し、大域的最小点と関連するTOF補正値δt
*を見つけるために使用される。
【0051】
図2は、μ秒単位で、TOF補正値に対する、ノイズがある場合とない場合の、目的関数F(δt)の例示的なプロットを示す。実線の曲線と破線の曲線は、受信強度信号、I(t)の、ノイズがない場合とノイズがある場合にそれぞれ対応する。信号積分時間は、2W=16マイクロ秒であり、破線の曲線のノイズスペクトル密度は2pW/√Hzに等しく、および値p=1が方程式7の中で使用される。矢印(220)と矢印(230)は、ノイズがある場合とノイズがない場合の、Fの大域的最小点をそれぞれ示す。大域的最小点がδtのほとんど同じ値において生じ、TOF補正の測定値におけるノイズの影響が、この場合、非常に小さいことを示す。ノイズレベルが上昇するにつれ、測定精度は低下し、および非常に高いノイズレベルでは、多くの局所的最小値の存在は、正確な大域的最小値を確認することにおける困難さと測定の失敗につながる場合がある。
【0052】
図3は、例示的な距離測定成功率対ノイズスペクトル密度のプロットをpW/√Hzの単位で示す。測定の成功は、±300メートルの初期距離不確かさに対して、方程式8によって与えられる補正された距離の測定値が真の標的距離の±1メートル内にあるシミュレーションの試行として定義される。これは少なくとも300:1の不確かさ改善度を表わす。
図3によると、1.0pW/√Hzより下のノイズスペクトル密度では、成功率は97%以上であると見られる。
【0053】
繰り返しのシミュレーションは、絶対値和の目的関数(方程式7においてp=1)は、不確かさ改善度と成功率の点で、平方和(p=2)目的関数よりも、全般的によりよい距離補正測定値をもたらすことを示す。
【0054】
図4は、本発明の原則による、例示的な測距方法のブロック図である。該方法は、
工程410:CBCシステムに少なくとも2本の部分的にコヒーレントなレーザサブビームと1つの光学位相変調器とを提供する工程、
工程420:CBCシステムに少なくとも1つの光学位相変調信号を送る工程、
工程430:CBCシステムから受信強度信号I(t)を受信し、および、CBCシステムまたは外部測距デバイスのいずれかから標的距離の初期測定値を受信する、工程、および
工程440:方程式8を使用して、不確かさが初期測定より小さい標的距離の補正された測定値を計算する工程を含む。
【0055】
方法の例示的な実施例では、工程440は以下の付加的な工程を含む場合がある。工程442:方程式3と方程式4を使用して、強度信号の周波数成分を計算する工程、
工程444:方程式5と方程式6を使用して、TOF補正δtの分だけ周波数成分C(f)とS(f)を回転させる工程、
工程446:方程式7を使用して、回転された周波数成分に依存して目的関数F(δt)を計算する工程、および
工程448:大域的最小値F(δt)に対応するδt*を決定する工程。
【0056】
上の記載は、単に例として役立つように意図され、多くの他の実施形態は、添付された請求項に規定されるような本発明の範囲内で可能であることが理解されるだろう。例えば、信号プロセッサ(110)によって実行されるアルゴリズムは、FPGA、ASIC、およびプログラム可能な信号プロセッサの1つ以上の組み合わせによって実装され得る。あるいは、信号処理のいくつかまたはすべては、CBCシステムに委託される場合がある。さらに、本発明の装置と方法の他の多くの構成は、
図1と
図4それぞれに明示的に示されるものに加え、本明細書に開示される原理に基づいて、レーザ測距の当業者にとって即座に明白であろう。
【国際調査報告】