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▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ヒト血液細胞の選択的溶解
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20231225BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20231225BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20231225BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20231225BHJP
【FI】
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/6888 Z
C12Q1/689 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524449
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2021087443
(87)【国際公開番号】W WO2022136621
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】63/130,625
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】ラジーブ ドゥア
(72)【発明者】
【氏名】スラブ ドゥジェニー
(72)【発明者】
【氏名】シアオユン チャン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ07
4B063QQ08
4B063QR08
4B063QR62
4B063QR90
4B063QS14
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、細菌及び真菌等の微生物を含有する試料を、非イオン性洗浄剤を含有するpH9付近の緩衝液中でインキュベートすることによる、該試料中の真核細胞の特異的溶解のための方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含有するか又は含有すると思われる試料内の真核細胞の選択的溶解のための方法であって、前記方法が、
a)微生物を含有するか又は含有すると思われる真核細胞を含む試料を提供する工程、
b)非イオン性洗浄剤及び緩衝液を前記試料に添加して、9.0付近又はそれよりわずかに低いpHを有する溶液を得る工程であって、添加された前記洗浄剤及び緩衝液の体積と前記試料の体積との比が2:1~1:10である、溶液を得る工程、
c)前記真核細胞を溶解するのに十分に長い時間、前記溶液をインキュベートする工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記非イオン性洗浄剤が、0.1~5%(w/v%又はv/v%)の範囲内の濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非イオン性洗浄剤が約1% v/v%付近の濃度で存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記非イオン性洗浄剤がポリドカノールである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記真核細胞が動物細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記動物細胞が哺乳動物細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が哺乳動物血液試料である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物が、細菌又は真菌である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記緩衝液が炭酸ナトリウムである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
d)前記緩衝液を酸で中和して7.0付近のpHを得ることをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
e)前記微生物を溶解することをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
f)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを行うことによって前記微生物を検出することをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
血流感染症(BSI)による敗血症は、入院率の上昇を伴う生命を脅かす症状である。診断の遅延は多臓器不全及び死亡率の増加をもたらすことから、敗血症の適切かつ適時の検出が重要である。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、BSIによって誘発される敗血症において細菌性病原体を検出する迅速な方法を提供する。PCRベースの敗血症診断における最も重要な因子の1つは、血液中の病原体から生じる低レベルの核酸コピーを確実に増幅及び検出することである。これは、高い検出感度を達成するためにPCRを必要とする。
【0002】
分子診断は、血液等の試料中の微量の病原体(典型的には細菌)の迅速な検出を目的とする。しかしながら、血液は複雑なマトリックスであり、適応免疫系のための白血球(blood cells)(白血球(leukocytes))、酸素輸送のための赤血球(red blood cells)(赤血球(erythrocytes))、及び創傷治癒のための血小板(platelets)(血小板(thrombocytes))を含む。これは、大量の細胞物質を含有する全血等の試料中の病原体の直接検出を複雑にする。
【0003】
PCRベースの方法では、新鮮血液試料中の細菌の量は、そのような試料内に存在する細菌を更に培養することなく検出するのに理論的に十分に高い。しかしながら、微量の細菌の早期検出を可能にするためには、大量の血液が必要である。特に白血球中の大量のDNAは、DNAベースの検出方法におけるバックグラウンドを劇的に増加させる。また、ヘモグロビンからのヘムの存在は、DNAポリメラーゼの活性を強く低下させる。マイクロリットルのヒト血液は、約4,000~11,000個の白血球及び約150,000~400,000個の血小板を含有する。血液中のDNAの濃度は30~60μg/mlである。全血10mlの容量で約10~100,000個の細菌種の存在を検出することは極めて困難である。
【0004】
しかしながら、白血球及び血液中に浮遊する他のDNA断片の存在に起因する多量のヒトDNAは、敗血症診断のためのPCRベースの検出感度を妨げる。PCR反応自体を妨害することとは別に、哺乳動物DNAの量は試料の粘度を増加させる。さらに、溶解された哺乳動物細胞由来のタンパク質及び膜は、試料の濾過を妨げる複合体を形成する。これは、小型デバイスにとって特に問題である。既に大きな試料体積の更なる希釈は、許容できない長い操作工程をもたらす。
【0005】
Molysis(商標)(Molzym GmbH&Co.KG、ドイツ国ブレーメン)は、カオトロピック剤及び洗浄剤を使用して、哺乳動物細胞を選択的に溶解する。この溶解工程の後に、このカオトロピック剤/洗浄剤の影響を受けないDNaseによる消化が続く。Roche Diagnostics(LightCycler(登録商標)Septifast(商標))によって市販されているような代替アプローチは、ヒトDNAへの非特異的結合及びヒトDNAの増幅を防止するように特異的に設計されたPCRプライマー対に依存する。しかしながら、当技術分野では、細菌病原体からの核酸検出を損なうことなくヒトDNAを枯渇させる分析前緩衝液が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明に記載される方法は、細菌及び真菌がインタクトのままであり、溶解されない(死んでいる又は生きている)ままである間に、試料中の白血球及び赤血球の選択的溶解を可能にする。
【0007】
本発明の特定の好ましい態様は、添付の独立請求項及び従属請求項に記載されている。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴及び必要に応じて他の従属請求項の特徴と組み合わせることができる。
【0008】
本発明の一態様は、微生物を含有するか又は含有すると思われる試料内の真核細胞、特に動物細胞の選択的溶解のための方法に関する。この方法は、微生物を含有するか又は含有すると思われる真核細胞、特に動物細胞を含む試料を提供する工程、非イオン性洗浄剤及び緩衝液を試料に添加して、約9.0又はそれよりわずかに低いpHを有する溶液を得る工程であって、添加された界面活性剤及び添加された緩衝液の体積と試料の体積との比が2:1~1:10である、溶液を得る工程、並びに真核細胞、特に動物細胞を溶解するのに十分長い期間にわたって溶液をインキュベートする工程を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、非イオン性洗浄剤は、0.1~5%(w/v%又はv/v%)の範囲内の濃度で存在する。特定の実施形態では、非イオン性洗浄剤は、0.1~2%(w/v%又はv/v%)の範囲内の濃度で、特に0.1~1%(w/v%又はv/v%)の範囲内の濃度で存在する。特定の実施形態では、非イオン性洗浄剤は、1%(w/v%又はv/v%)付近の濃度で存在する。
【0010】
いくつかの実施形態では、非イオン性洗浄剤はポリドカノールである。いくつかの実施形態では、非イオン性洗浄剤は、0.1~2%(v/v%)、特に0.1~1%(v/v%)の濃度のポリドカノールである。いくつかの実施形態では、非イオン性洗浄剤は、1%(v/v%)付近の濃度のポリドカノールである。
【0011】
いくつかの実施形態では、真核細胞、特に動物細胞を溶解するのに十分長い時間は、30秒~10分、より具体的には1~8分、より具体的には2~6分である。
【0012】
いくつかの実施形態では、溶解は、15℃~30℃、より具体的には18℃~27℃、より具体的には20℃~25℃の温度で行うことができる。いくつかの実施形態では、溶解は室温付近又は室温で行うことができる。
【0013】
いくつかの態様では、動物細胞は哺乳動物細胞である。
【0014】
いくつかの態様において、試料は哺乳動物血液試料である。特定の実施形態では、哺乳動物血液試料は全血試料である。特定の実施形態では、哺乳動物血液試料は、血漿試料又は血小板調製物である。
【0015】
いくつかの実施形態では、微生物は細菌又は真菌である。
【0016】
特定の実施形態では、添加された洗浄剤及び緩衝液の体積と試料の体積との比は、2:1~1:5である。他の実施形態では、添加された洗浄剤及び緩衝液の体積と試料の体積との比は、1:1~1:10である。更に他の実施形態では、添加された洗浄剤及び緩衝液の体積と試料の体積との比は、1:1~1:5である。
【0017】
いくつかの実施形態では、最終溶液は、約8.5~9.0のpHを有する。特定の実施形態では、最終溶液は、約8.7~9.0のpHを有する。特定の実施形態では、最終溶液は約8.8~9.0のpHを有する。特定の実施形態では、最終溶液は約8.9~9.0のpHを有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、緩衝液はアルカリ性緩衝液である。ここで、アルカリ性緩衝液は、約9.0のpKa値を有し得る。特定の実施形態では、緩衝液は、炭酸ナトリウムである。特定の実施形態では、緩衝液は、本発明による比で試料と混合した場合に、最終溶液のpHが9.0付近又はわずかに低い十分な緩衝能を有する。特定の実施形態では、アルカリ緩衝液は9.0付近のpKaを有するため、最終溶液は約9.0又はそれよりわずかに低いpHを有し、特に最終溶液は約8.5~9.0、より具体的には約8.7~9.0、より具体的には約8.8~9.0、より具体的には8.9~9.0のpHを有する。
【0019】
特定の実施形態では、本方法は、「中和工程」を更に含み得る。いくつかの実施形態では、工程は、本開示による選択的溶解後に、約7~9のpHを得るために酸又は酸性緩衝液を添加することを含む。いくつかの実施形態では、緩衝液を中和する工程は、酸又は酸性緩衝液を添加して7.0付近のpHを得ることを含む。
【0020】
特定の実施形態では、上記の方法の後に微生物を溶解する工程が続く。特定の実施形態では、上記の方法の後に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを行うことによって微生物を検出する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明との関連で、「血液細胞」は、血液中に存在する哺乳動物細胞に関し、赤血球(red blood cells)(赤血球(erythrocytes))、白血球(blood cells)(白血球(leukocytes))及び血小板(platelets)(血小板(thrombocytes))を含む。
【0022】
本発明との関連で、「全血」は、抗凝固剤で潜在的に処置された、血漿及び細胞を含む未処理の血液に関する。
【0023】
「試料」は、細胞材料を含む水性懸濁液に関し、リンパ液、脳脊髄液、血液(全血及び血漿)、唾液等の体液を含むが、例えば、筋肉、脳、肝臓、又は他の組織等の均質化懸濁液の水性画分も含む。
【0024】
本発明における「真核生物」は、動物、特に血液を含有する動物等の真菌を除く任意の種類の真核生物に関し、甲殻類等の無脊椎動物及び脊椎動物を含む。脊椎動物は、冷血動物(魚類、爬虫類、両生類)及び温血動物(鳥類及び哺乳動物)の両方を含む。哺乳動物は、特に霊長類、より具体的にはヒトを含む。
【0025】
本発明において使用される場合、「選択的溶解」は、試料(例えば、血液)において、インタクトなままであるそのサンプル中の微生物細胞(例えば、細菌細胞)のパーセンテージが、インタクトなままである試料が収集される生物由来の真核細胞のパーセンテージと比較して有意に高い(例えば、2、5、10、20、50、100、250、500、又は1000倍以上)場合に得られる。
【0026】
本発明で使用される場合、「微生物」は、典型的には病原体として、試料が収集された生物中に存在する細菌(グラム陽性及びグラム陰性細菌、並びに細菌胞子)並びに酵母及びカビ等の単細胞真菌に関する。
【0027】
本発明の第1の態様は、細菌等の微生物を含有するか又は含有すると思われる試料内の真核細胞、特に動物細胞の選択的溶解のための方法に関する。本方法の目的は、試料中の微量の細菌(すなわち、試料1ml当たり10000、1000、100未満又は更に少ない微生物)を検出するために試験の感度を高めることである。本発明の背景技術で説明したように、試料中の真核細胞、特に動物細胞からのDNAはPCRに基づく検出方法を妨害し、このDNAはタンパク質及び膜と共に凝集体を形成し、これは溶解後の粘度を増加させ、溶解した試料の濾過に劇的な影響を与える。この課題を解決するため、真核細胞、特に動物細胞を選択的に溶解し、それによって微生物のかなりの部分(すなわち、20%超、40%超、60%超、80%超、90%超、又は95%超)が生存したままであるか、又は処置によって死滅した場合、細胞壁内に細菌DNAを依然として含む。本発明に記載の方法では、上述の問題に対処する。
【0028】
本発明に記載の方法は、微生物、特に細菌からのDNAの検出が、DNAを含む他の細胞、特に微生物が病原体として存在する宿主からの細胞の存在によって損なわれる任意の種類の試料に特に適用可能である。
【0029】
ここで、哺乳動物血液試料中の微量の細菌の存在を調べる実施形態について、本発明に記載の方法を更に説明する。
【0030】
血液試料は、全血、又は血漿若しくは血小板調製物等の処理画分として保存することができる。典型的には、本発明に記載の方法は、新たに単離された全血に対して行われる。そのような試料は、一般に、凝固を回避するために、例えばヘパリン、EDTA又はクエン酸塩で処置される。
【0031】
あるいは、この方法は、洗浄剤及び緩衝液を含むチューブ内で静脈から直接血液を採取することによって新鮮な血液に対して行われる。
【0032】
したがって、新鮮血液試料又は保存試料には、緩衝液及び非イオン性洗浄剤が補充される。緩衝液の選択及びその濃度は、提供される血液試料の緩衝能を補償し、9.0付近又はそれよりわずかに低いpH、特に約8.5~9.0のpHを得るために選択される。特に、緩衝液及びその濃度は、約8.7~9.0のpH、より具体的には約8.8~9.0、より具体的には8.9~9.0のpHを得るために選択される。同様に、緩衝液は、最大で試料体積の200%、150%、100%、50%、20%又は10%の緩衝液体積が試料に添加されて必要なpH変化が得られるように十分に濃縮される。特に、緩衝液は洗浄剤を含み、添加された洗浄剤及び緩衝液の体積と試料の体積との比が2:1~1:10で添加される。さらに、添加された洗浄剤及び緩衝液の体積と試料の体積との比は、2:1~1:5、1:1~1:10、又は1:1~1:5であり得る。
【0033】
本発明との関連で、適切な緩衝液は、典型的には9.0付近のpKaを有し、上記pH範囲の最適な緩衝能力を有する炭酸塩緩衝液を含む。
【0034】
適切な洗浄剤は非イオン性洗浄剤であり、一方では真核細胞、特に動物細胞に対する溶解効果を有し、他方ではDNA及びタンパク質に対する可溶化効果を有する。特定の実施形態では、非イオン性洗浄剤はポリドカノール(polidocanol)であり、ポリドカノール(polydocanol)とも称される。ポリドカノールは、分子あたり平均約9個のエチレンオキシド基を有するポリエチレングリコールモノドデシルエーテルの混合物からなる化学化合物又は組成物に関する。ポリドカノールは、ラウリルアルコールをエチレンオキシドと反応させる(エトキシル化)製造方法の結果として、分子式(C24O)n1226O又はHO(CH2CH2O)n(CH211CH3によって記載することができ、式中、nは約又は正確に9であり、すなわち、エチレングリコール部分の数の中央値は約又は正確に9である。核酸の精製のためのポリドカノールの使用は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,192,958号に開示されている。
【0035】
洗浄剤の最も有効な濃度は、洗浄剤ごとに異なるが、典型的には、0.1~5%、特に0.1~2%、より詳しくは0.1~1%の範囲内である。洗浄剤(固体又は液体)に応じて、%はそれぞれw/v%又はv/v%を指す。特定の一実施形態では、ヒト血液細胞の選択的溶解のための緩衝液は、1000mM炭酸ナトリウム(Na2CO3)/1%ポリドカノール、pH9.0である。
【0036】
緩衝液及び洗浄剤の存在下での血液試料のインキュベーションは、10分以内、好ましくは30秒~10分、より好ましくは約1~3、1~5、1~8、2~6又は1~10分、10~30℃の温度、より好ましくは室温付近で行われる。
【0037】
本発明による方法は、30℃未満の温度で、10分未満で選択的溶解が得られるという利点を有する。したがって、本方法は、一般に、試料を加熱する必要なしに周囲温度で実施することができる。
【0038】
任意に、溶解後、中和工程において酸又は酸性緩衝液を添加することによって、溶解された試料のpHを中性値(すなわち、7.0付近のpH)にする。中性pHで溶解した試料は、細菌細胞を更に溶解することなく、溶解した試料の流体特性を劇的に変化させることなく、長期間(最大1、2、6、12、又は更には24時間)保存できることがわかった。
【0039】
一般に、本発明による方法は、典型的には遠心分離又は濾過によって実施される、インタクトの細菌細胞を試料から分離する工程を含む。
【0040】
本発明による装置について、好ましい実施形態、特定の構造及び構成、並びに材料を本明細書で検討したが、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更又は修正を行うことができることを理解されたい。
【実施例1】
【0041】
本発明は、細菌病原体からの核酸検出を損なうことなくヒト細胞及びDNAを枯渇させる新規緩衝液を記載する。緩衝液の製剤は、1000mM Na2CO3/1%ポリドカノール、pH9.0である。既存の文献では、pH9.5以上の炭酸塩/非イオン性洗浄剤緩衝液は、ヒトDNAを枯渇させるためのヒト細胞の選択的溶解を示した。驚くべきことに、本発明は、pH9.0でヒトDNAを枯渇させる。pH9.5以上で作用する炭酸塩/非イオン性洗浄剤と比較して、本発明は、敗血症のためにRNAベースのPCR検出を特異的に使用するプロトコルに利点を有する。RNAは、特に塩基性pH条件下で分解する傾向がある。したがって、pH9.5以上の炭酸塩/非イオン性洗浄剤と比較して、本緩衝系におけるより低いpH9.0は、RNA分解のリスクを最小限に抑えるのに役立つ。この傾向は、1000mM Na2CO3/1%ポリドカノール、pH9.0緩衝液を1000mM Na2CO3/1%ポリドカノール、pH9.6緩衝液と性能を比較した場合に観察される(表2及び表3)。さらに、pH9.0緩衝液中での炭酸塩のより高い安定性を観察することができる。
【0042】
実施例1:ヒトDNAを除去するための事前分析
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)菌株をLB培地中で対数期まで増殖させ、1000CFU/mLに相当する適切な体積を新たに収集したヒト全血に添加した。添加された細菌を含有する血液を、選択された緩衝液(表2)と1:1の比で合わせ、混合し、室温で10分間保持して、ヒトクロマチンを断片化させた。インキュベーション工程後、等量の中和緩衝液(1M Tris-HCL、pH4.5)を添加し、試料を3220gで15分間遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを、1%β-メルカプトエタノールを含有する1mLのcobas(登録商標)PCR培地(4.2MグアニジンHCL、50mM Tris-HCL、pH7.5)に再懸濁した。試料を細胞溶解のためにMagNa Lyser機器(Roche Diagnostics)に移し、それを最高速度で70秒間実施した。溶解した試料をcobas(登録商標)6800システムにロードし、標準的なcobas(登録商標)アッセイワークフローを使用して、全核酸を50μLの溶出緩衝液中で単離した。
【0043】
実施例2:逆転写PCRアッセイ
アッセイは、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)特異的tuf標的に対して2つのプライマー及び1つのプローブ、並びにヒトβ-グロビン標的に対して2つのプライマー及び1つのプローブを含む。プライマー及びプローブの配列を表1に示す。反応は、Lightcycler(登録商標)480装置(Roche Diagnostics)で、ウラシル-DNA N-グリコシラーゼインキュベーション工程(50℃で120秒間、94℃で5秒間)、プレPCR工程(1サイクル:55℃120秒、60℃360秒、65℃240秒)、95℃で5秒間及び55℃で30秒間の5サイクル(各サイクルの最後の1回目の測定)、続いて91℃で5秒間及び58℃で25秒間の45サイクル(各サイクルの最後の2回目の測定)からなる温度プロファイルを使用して行い、冷却工程(40℃で120秒間)で終了した。リアルタイムPCRアッセイ混合物は、100~300nMのプライマー及び50~200nMのプローブを含有する15μLのcobas(登録商標)PCRジェネリックマスターミックス、3mMの10μLのMn2+、及び25μLの全核酸鋳型からなった。カスタム最適化アルゴリズム試験フレームワーク(ATF)ソフトウェアを使用して、PCRアッセイのサイクル閾値(Ct)値を計算した。
【表1】
【0044】
実施例3:実験結果
【表2】
【表3】
【配列表】
2024500211000001.app
【国際調査報告】