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特表2024-500225安定細胞株において効率的な増殖を可能にする、アフリカ豚熱ワクチンにおけるゲノム欠失
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  • 特表-安定細胞株において効率的な増殖を可能にする、アフリカ豚熱ワクチンにおけるゲノム欠失 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-05
(54)【発明の名称】安定細胞株において効率的な増殖を可能にする、アフリカ豚熱ワクチンにおけるゲノム欠失
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20231225BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231225BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20231225BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231225BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20231225BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231225BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
A61K35/76
A61P31/20
A61P37/04
A61K39/12
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537619
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 US2021024124
(87)【国際公開番号】W WO2022139861
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】17/130,814
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515257782
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ レプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー オブ アグリカルチャー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】グラドゥー、 ダグラス ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ボルカ、 マヌエル ブイ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA51
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
アフリカ豚熱ウイルス(ASFV)の多様な株、例えば高病原性Georgia 2007単離体("ASFV-G")によって引き起こされるASFの防止のための組換えASFV弱毒化生ワクチンの構築に関する詳細を提供する。例示的なワクチンは、安定細胞株における産業的スケールの増殖を許容する複数遺伝子の欠失を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変ウイルスであって、該ウイルスのゲノムが、配列番号1に対して少なくとも95%の同一性を有するウイルスゲノムを含む、ウイルス。
【請求項2】
該ウイルスのゲノムが配列番号1を含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項3】
請求項1に記載の遺伝子改変ウイルスを含む、アフリカ豚熱ウイルス(ASFV)に対するワクチン組成物。
【請求項4】
該ASFVがASFV-Georgia 2007単離体(ASFV-G)である、請求項3に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
ASFVに対してブタを防御するための方法であって、臨床的ASFV疾患から前記ブタを防御するために有効な量の請求項1記載の遺伝子改変ウイルスを含む弱毒化生ワクチンをブタに投与する工程を含む、方法。
【請求項6】
該ASFVがASFV-Gである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
臨床的ASFV疾患から前記ブタを防御するために有効な量が、請求項1に記載の遺伝子改変ウイルスの102~106 HAD50を含むワクチンである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
以下の各ORF:MGF360-4L、MGF360-6L、X69R、MGF300-1L、MGF300-2R、MGF300-4L、MGF3608L、MGF360-9L、MGF360-10L、MGF360-11Lの欠失または部分的欠失を含む、組換えASFV突然変異体ウイルス。
【請求項9】
該ウイルスが、配列番号2に対して少なくとも95%の同一性を有するゲノム断片の欠失を含む、請求項8に記載の組換えウイルス。
【請求項10】
該突然変異体ASFVがASFV-Georgia単離体である、請求項8に記載の組換えウイルス。
【請求項11】
該突然変異体ASFVが、配列番号1に対して少なくとも99%の同一性を有するゲノムを含む、請求項8に記載の組換えウイルス。
【請求項12】
請求項8に記載の組換えウイルスを含む、ASFV-Gに対するワクチン組成物。
【請求項13】
ASFVに対してブタを防御するための方法であって、臨床的ASFV疾患から前記ブタを防御するために有効な量の請求項8記載の組換えウイルスを含む弱毒化生ワクチンをブタに投与する工程を含む、方法。
【請求項14】
該ASFVがASFV-Gである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
臨床的ASFV疾患から前記ブタを防御するために有効な量が、請求項8に記載の遺伝子改変ウイルスの102~106 HAD50を含むワクチンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
培養された安定細胞株において104~107 HAD50/mLの力価でASFVを産生する方法であって、請求項1に記載のウイルスを前記培養された安定細胞株に接種する工程と;接種された細胞株を、ウイルス複製を可能にする条件下でインキュベーションする工程と;前記ウイルスを104~107 HAD50/mLの力価に増殖させる工程とを含む、方法。
【請求項17】
該安定細胞株が、ウシαvβ6インテグリンを発現するよう操作されたブタ胎性腎臓細胞株である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
該ASFVウイルスゲノムが、配列番号1に対して少なくとも99%の同一性を有するウイルスゲノムを含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
【0002】
本開示は、アフリカ豚熱ウイルス(ASFV:African Swine Fever Virus)の多様な株、例えば高病原性のGeorgia 2007単離体("ASFV-G")によって引き起こされるASFの防止のための組換えASFV弱毒化生ワクチンの構築に関する詳細を提供する。例示的なワクチンは、安定細胞株における効率的な増殖を生じる欠失を含み、ASFVワクチンの産業レベルの産生を可能にする。
【背景技術】
【0003】
背景
【0004】
アフリカ豚熱ウイルス(ASFV)株Georgia(ASFV-G)は、ウイルス科、アスファウイルスファミリーAsfarviridaeの唯一のメンバーであり、現在、中欧から中国および南アジアに渡って広がる広く連続した地理的領域に影響を及ぼしているパンデミック疾患の原因病原体である(Costard et al, Philos. Trans. R. Soc. London B Biol. Sci., (2009) 364:2683-96;O'Donnell et al, J. Virol., (2015a) 89:6048-56)。このパンデミックは重大な経済的損失を引き起こし、豚産業に打撃を与え、世界的なタンパク質入手可能性不足を誘発している(O'Donnell et al, (2015a)、上記)。ASFVは、非常に大きく複雑な構造で、150を超えるオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする180~190キロベースの二本鎖DNAゲノムを持つ。
【0005】
入手可能な市販のワクチンはないため、疾患管理はもっぱら、感染しやすい動物の地理的移動の管理および感染動物の殺処分に基づく(Costard et al、上記)。ウイルス病原性に関連する特定のウイルス遺伝子を欠失させる、病原性親ウイルスの遺伝子操作を通じた、弱毒化ウイルス株の開発に基づいて、有効な実験的ワクチンが得られている(O'Donnell et al, (2015a)、上記;O'Donnell et al, J. Virol., (2015b) 89:8556-66;O'Donnell et al, J. Virol., (2017) 91:e01760-16;Borca et al, J. Virol., (2020) 94:e02017-19)。天然宿主中のウイルス病原性プロセスにおけるウイルス遺伝子の機能を理解することは、遺伝子操作を用いた実験的ワクチンの合理的開発において、非常に重要な段階である。これらの実験的弱毒化生ワクチンは、ASFを管理する有効な対策の開発に向かう、圧倒的により進歩したアプローチを構成する。
【0006】
商業的に通用するASFワクチンを開発する際の主な技術的問題は、これらのウイルス株が、ブタマクロファージの初代培養でしか効率的に複製しないことであり、このことが産業レベルでの大規模産生を妨げている。この問題に取り組むため、本発明者らは、本明細書において、ブタマクロファージ中で複製する能力および家畜ブタに接種された際の完全な弱毒性を維持しながら、安定細胞株におけるASFVワクチンの増殖を可能にする突然変異を開示する。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、1つの実施形態において、ウイルスゲノムが配列番号1に対して少なくとも95%の同一性であるウイルスゲノムを有する、遺伝子改変ウイルスを提供する。特定の実施形態において、ウイルスゲノムは配列番号1と同一である。
【0008】
本明細書にさらに提供するのは、配列番号1に対して少なくとも95%の同一性であるウイルスゲノムを持つ遺伝子改変ウイルスを含む、アフリカ豚熱ウイルス(ASFV)に対するワクチン組成物である。特定の実施形態において、ASFVはASFV-Georgia 2007単離体(ASFV-G)である。
【0009】
本開示は、さらなる実施形態において、ASFVに対してブタを防御するための方法であって、臨床的ASFV疾患から前記ブタを防御するために有効な量の、配列番号1に対して少なくとも95%の同一性であるウイルスゲノムを持つ遺伝子改変ウイルスを含む弱毒化生ワクチンをブタに投与する工程を含む方法をさらに提供する。特定の実施形態において、ASFVはASFV-Gである。特定の実施形態において、ワクチン接種されたブタを臨床的ASFV疾患から防御するために有効な量は、配列番号1に対して少なくとも95%の同一性であるウイルスゲノムを持つ遺伝子改変ウイルスの102~106 HAD50を含むワクチンである。
【0010】
本開示によって提供されるさらなる実施形態は、ORFであるMGF360-4L、MGF360-6L、X69R、MGF300-1L、MGF300-2R、MGF300-4L、MGF3608L、MGF360-9L、MGF360-10L、MGF360-11Lの各々の欠失または部分的欠失を有する、組換えASFV突然変異体ウイルスである。特定の実施形態において、ウイルスは、配列番号2に対して少なくとも95%の同一性であるゲノム断片の欠失を含む。いくつかの実施形態において、突然変異体ASFVはASFV-Georgia単離体である。いくつかの実施形態において、突然変異体ASFVは、配列番号1に対して少なくとも99%の同一性であるゲノムを有する。こうしたウイルスはまた、ASFV-Gに対するワクチン組成物の一部であってもよい。
【0011】
本開示によって提供されるさらなる実施形態は、ASFVに対してブタを防御するための方法であって、臨床的ASFV疾患から前記ブタを防御するために有効な量の、ORF MGF360-4L、MGF360-6L、X69R、MGF300-1L、MGF300-2R、MGF300-4L、MGF3608L、MGF360-9L、MGF360-10L、MGF360-11Lの各々の欠失または部分的欠失を有する組換え体を含む弱毒化生ワクチンをブタに投与する工程を含む方法である。特定の実施形態において、ASFVはASFV-Gである。いくつかの実施形態において、接種されたブタを臨床的ASFV疾患から防御するために有効な量は、遺伝子改変ウイルスの102~106 HAD50を含むワクチンである。
【0012】
本明細書にさらに提供されるのは、培養安定細胞株において、104~107 HAD50/mLの力価でASFVを産生する方法であって、そのウイルスゲノムが配列番号1に対して少なくとも95%の同一性であるウイルスゲノムを有する遺伝子改変ウイルスを、培養された安定細胞株に接種する工程と;接種された細胞株を、ウイルス複製を可能にする条件下でインキュベーションする工程と;前記ウイルスを104~107 HAD50/mLの力価に増殖させる工程とを含む方法に関する実施形態である。いくつかの実施形態において、安定細胞株は、ウシαvβ6インテグリンを発現するよう操作されたブタ胎性腎臓細胞株である。特定の実施形態において、ASFVウイルスゲノムは、配列番号1に対して少なくとも99%の同一性であるウイルスゲノムを含む。
【0013】
参照による組み込み
本明細書に言及されるすべての刊行物、特許および特許出願は、各個々の刊行物、特許または特許出願が具体的ににかつ個別に参照により組み込まれると示されるのと同じ度合いで、本明細書に参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本特許出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面(複数可)を含む本特許または特許出願公報のコピーは、リクエストし必要な料金を支払えば当局によって提供されるであろう。
【0015】
本発明の新規特徴は、請求項において詳細に示される。本発明の特徴および利点は、以下の詳細な説明および付随する図面に表される。
【0016】
図1図1は、安定ブタ細胞株および初代ブタマクロファージ培養におけるASFV-G-ΔI177L/ΔLVR(上部)、ASFV-G-ΔI177L/ΔLVR p7(中央)およびASFV-G-ΔI177L/ΔLVR p11(下部)のin vitro増殖特性を示す、グラフで提示したデータを提供する。細胞培養を、ウイルスの各々に感染させ(MOI=0.01)、示されている感染後時点で、ウイルス収量を力価決定した。データは、3つの独立の実験からの結果の平均を示す。ウイルス検出感度は、≧1.8 log10 HAD50/mlであった。特定の時点での2つのウイルス間のウイルス収量の有意差(*)を、一貫した標準偏差を仮定せずに、Holm-Sidak法(α= 0.05)を用いて決定した。ソフトウェアGraphPad Prismバージョン8上ですべての計算を行った。TCID50、50%組織培養物感染用量。
【0017】
図2図2は、2つのウイルス、ASFV-G-ΔI177LΔLVRおよび親ASFV-G-ΔI177Lのゲノムの図示した比較を提供する。
【0018】
図3図3は、ASFVの細胞株適応突然変異体を構築する遺伝子欠失アプローチの模式図を提供する。ΔLVR、またはMGF300 1L、2R、4Lのみを欠失させるΔLVR中の部分的な欠失。示すドナープラスミドは、組換えウイルスを産生する標準法である相同組換えのテンプレートとして働く。
【発明を実施するための形態】
【0019】
高病原性アフリカ豚熱ウイルス(ASFV)株Georgia(ASFV-G)は、中欧からアジアおよび南アジアに至る連続した地理的領域を含む現在のパンデミックの原因病原体であり、甚大な経済的損失を引き起こしている。市販のワクチンはなく、遺伝子操作によって病原性親ウイルスから開発された生弱毒化株が、最も進歩した実験的ワクチンである。近年、本発明者らは、ASFV-GのゲノムからI177L遺伝子を欠失させることによってワクチン候補を開発した(米国特許出願第16/580,058号を参照されたい)。この突然変異株は、非常に安全で、ASFV-Gの曝露に対する防御を誘導することにおいて非常に効果的であることが示された。この突然変異体(および他の組換えASFVワクチン)を産業的製造に移行させることについての重要な技術的制限は、これらがブタマクロファージの初代培養でしか複製しないことである。本明細書において、本発明者らは、安定ブタ細胞株における効率的な増殖を可能にする、左可変領域(LVR)中の10.8 kbの欠失を含有する誘導体株(ASFV-G-ΔI177LΔLVR)の開発を提示する(米国特許第9,121,010号を参照されたい)。LVR中の欠失は、ゲノムの左端の10のウイルス遺伝子に影響を及ぼす。この欠失は、連続的な安定ブタ細胞株においてさらに30回を超える継代を行った後も安定なままであった。重要なことに、ASFV-G-ΔI177LΔLVRは、親ワクチンと同じレベルの弱毒化、免疫学的特性および病原性ASFV-Gの曝露に対する防御有効性を維持した。これは、合理的に設計された高有効性ASFワクチン候補が、ゲノム安定性を維持しながら安定細胞株中で増殖し、産業レベルでのASFVワクチン産生を可能にすることを示した最初の例である。
【0020】
本発明の好ましい実施形態を本明細書に示し、記載する。当業者には、こうした実施形態が、例のためにのみ提供されることが明らかであろう。本発明から逸脱することなく、当業者には多くの変動、変化、および置換が思い浮かぶであろう。本明細書に記載される本発明の実施形態の多様な代替物を、本発明の実施に使用してもよい。含まれる請求項が本発明の範囲を定義し、これらの請求項およびその同等物の範囲内の方法および構造が本発明に含まれることが意図される。
【0021】
本明細書で用いられる技術的および科学的用語は、別に定義されない限り、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書において、当業者に知られる多様な材料および方法論に言及される。組換えDNA技術の一般的な原理を示す標準的な参考文献には、Sambrook et al., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainview, N.Y., 1989;Kaufman et al., eds., “Handbook of Molecular and Cellular Methods in Biology and Medicine”, CRC Press, Boca Raton, 1995;およびMcPherson, ed., “Directed Mutagenesis: A Practical Approach”, IRL Press, Oxford, 1991が含まれる。
【0022】
本発明を実施する際に、当業者に知られる任意の適切な材料および/または方法が利用され得る。本発明を実施するための材料および/または方法を記載する。以下の説明および実施例に言及される材料、試薬等は、別に示されない限り、市販の供給源から得られうる。本発明は、ASFVの遺伝子改変株を産生するための方法を解説し、そのためのツールを記載する。
【0023】
本明細書および請求項で使用される際、単数形「a」、「an」および「the」の使用には、文脈が明らかに別に示さない限り、複数形の対象物が包含される。
【0024】
本明細書で使用される際、単離された、精製された、または生物学的に純粋なという用語は、言及される物質に天然状態では通常付随する構成要素を実質的にまたは本質的に伴わないその物質を指す。
【0025】
用語「約」は、記載された値のプラスまたはマイナス10パーセントと定義される。例えば、約1.0gとは、具体的に言及されていてもいなくても、0.9g~1.1gおよびその範囲内のすべての値を意味する。
【0026】
用語「本質的に・・・からなる核酸」およびその文法的な変形は、参照核酸配列との核酸残基の違いが20個以下であり、かつ、参照核酸配列の機能を実行する核酸を意味する。こうしたバリアントは、参照核酸配列より短いまたは長い配列を含むか、特定の位に異なる残基を有するか、またはその組み合わせである。
【0027】
用語「アジュバント」は、抗原に対する免疫反応を非特異的に増進させる物質またはビヒクルを意味する。アジュバントには、抗原が吸着するミネラル(ミョウバン、水酸化アルミニウム、またはリン酸アルミニウム)の懸濁物;またはミネラルオイル中に抗原溶液が乳化されている油中水エマルジョン(例えばフロイントの不完全アジュバント)、時に、抗原性をさらに増進させるために死菌マイコバクテリアが含まれているもの(フロイントの完全アジュバント)が含まれ得る。免疫刺激性オリゴヌクレオチドもまたアジュバントとして用いられうる(例えば、米国特許第6,194,388号;第6,207,646号;第6,214,806号;第6,218,371号;第6,239,116号;第6,339,068号;第6,406,705号;および第6,429,199号を参照されたい)。アジュバントにはまた、生物学的分子、例えば共刺激分子も含まれる。
【0028】
用語「投与する」/「投与」は、任意の有効な経路により療法剤などの物質を被験体に提供する任意の方法を意味する。投与の例示的な経路には、限定されるわけではないが、注射(例えば皮下、筋内、皮内、腹腔内、および静脈内)、経口、管内、舌下、直腸、経皮、鼻内、膣および吸入経路が含まれる。
【0029】
用語「コード配列」および「コード領域」は、本明細書で用いられる際、RNA、タンパク質、あるいはRNAもしくはタンパク質の任意の部分の合成のための遺伝情報をコードする、RNAおよびDNA両方を含む、ヌクレオチド配列および核酸配列を指す。
【0030】
本明細書に提供される組成物の「有効量」という用語は、それについて有効量が表現されるところの特定の機能を実行可能である組成物の量を指す。必要とされる正確な量は、認識される変数、例えば関与する組成物およびプロセスに応じて、組成物ごとおよび機能ごとに多様であり得る。有効量は、1回以上の適用で送達され得る。従って、正確な量を明記することは不可能であるが、適切な「有効量」は、ルーチンの実験を通じて、当業者によって決定されうる。
【0031】
用語「I117L」、「ASFV I117L」、および「ゲノムI117L」は同義であり、177アミノ酸のタンパク質をコードし、配列番号3のヌクレオチド175473~176006位のリバース鎖上に位置するASFV-GオープンリーディングフレームI117Lを指す。
【0032】
本発明の文脈において、用語「細胞株適応突然変異」は、ORF MGF360-4L、MGF360-6L、X69R、MGF300-1L、MGF300-2R、MGF300-4L、MGF3608L、MGF360-9L、MGF360-10L、MGF360-11Lの完全なまたは部分的な欠失を生じるASFVゲノムの改変を指す(図2)。特定の実施形態において、この用語は、配列番号2として開示されるASFV-Gゲノム配列の欠失を指す。
【0033】
本発明の文脈において、用語「非機能的ゲノム性」MGF360-4L、MGF360-6L、X69R、MGF300-1L、MGF300-2R、MGF300-4L、MGF3608L、MGF360-9L、MGF360-10L、またはMGF360-11Lは、ASFVのゲノム中に位置する改変された遺伝子またはORFを指し、ASFV遺伝子のこうした改変が、非改変の機能的ASFV遺伝子と比較して、遺伝子産物をまったく生じないかあるいは生物学的に非機能性である遺伝子産物を生じるものである。こうした改変には、限定されるわけではないが、コード配列の完全なまたは部分的な欠失、オープンリーディングフレームの破壊(例えばシフト突然変異の挿入またはナンセンスコドンの挿入)、上流または下流制御エレメントの改変、および/またはこうしたASFV遺伝子(複数可)の機能性発現を不活性化するかまたはノックアウトする、現在知られるかまたは考えられうる任意の他の方法が含まれうる。
【0034】
用語「ASFV-G-ΔI177LΔLVR」は、本開示の特定の実施形態を記述するために用いられ、すなわちそれは配列番号1のゲノム配列を有するワクチン/ウイルスである。用語「ASFV-G ΔI177L」は、「ASFV-G-ΔI177LΔLVR」の親株であるが「細胞株適応突然変異」を欠くものを指すよう用いられる。
【0035】
用語「免疫する」は、ワクチン接種によるなどして、被験体が感染性疾患から防御されるようにすることを意味する。
【0036】
本発明の目的のため、パーセンテージとして表される2つの関連するヌクレオチドまたはアミノ酸配列の「配列同一性」は、2つの最適にアラインメントされた配列中で同一残基を有する位の数(x100)を、比較される位の数によって割ったもの指す。ギャップ、すなわちアラインメント中の1つの配列中に残基が存在するがもう一方には存在しない位は、非同一残基を持つ位と見なされる。2つの配列のアラインメントは、NeedlemanおよびWunschのアルゴリズム(Needleman and Wunsch, J Mol Biol, (1970) 48:3, 443-53)によって行われる。50のギャップ生成ペナルティおよび3のギャップ伸長ペナルティを伴うデフォルトスコアリングマトリックスを用いて、Wisconsin Packageバージョン10.1(Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin, USA)の一部であるGAPなどの標準ソフトウェアプログラムを用い、コンピュータ補助配列アラインメントを好適に行い得る。
【0037】
句「高いパーセントで同一」または「高パーセント同一性」、およびその文法的変形は、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドの文脈において、配列比較アルゴリズムを用いてまたは視覚的検査によって測定された際、最大対応となるように比較されアラインメントされた場合に少なくとも約80%の同一性、少なくとも約81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のヌクレオチドまたはアミノ酸同一性を有する2つ以上の配列またはサブ配列を指す。1つの例示的な実施形態において、配列は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の全長に渡って高パーセントで同一である。
【0038】
用語「ブタ(swine)」は、一般的に、イノシシ科(Suidae)の任意のメンバーを指し、これには、家畜および野生のブタ(pig)、雄ブタ(hog)および成熟雄ブタ(boar)が含まれる。
【0039】
「ワクチン」は、本明細書において、それが送達された動物において防御反応を提供可能であるが深刻な疾患を引き起こすことができない生物学的剤と定義される。ワクチン投与は、疾患からの免疫を生じる。従って、ワクチンは、疾患を引き起こす病原体(例えばASFV)に対する抗体産生または細胞性免疫を刺激する。免疫とは本明細書において、非ワクチン接種群と比較して、ブタ集団におけるワクチン接種後の、致死性および臨床症状に対する有意により高いレベルの防御の誘導と定義される。特に、本発明記載のワクチンは、疾患の臨床症状および致死性の発展に対して、ワクチン接種された動物の大部分を防御する。本開示のワクチンは、典型的には、遺伝子操作された(組換え)突然変異体ウイルスワクチンである。
【0040】
本開示の文脈において、用語「その複製において非不全」は、in vitroおよび/またはin vivoで複製可能であり、および/またはウイルス子孫を産生可能である非天然存在組換えASFVを指すが、ただしこうした複製および/またはウイルス子孫産生非改変親株に比較して減少したレベルで起こってもよい。従って、こうしたASFVが、in vitroでは(例えば細胞培養では)その複製において非不全であるが、哺乳動物におけるin vivoでは、こうしたASFVがその複製において少なくとも部分的に損なわれており、例えば検出限界未満の複製および/またはウイルス子孫産生をもたらす場合でありうる。
【0041】
本明細書において用いられる際、用語「最少用量」または「最少有効用量」は、レシピエントに対する毒性が存在しないかまたは最小限にしか存在しないことを示すが、なお所望の結果(例えば防御免疫)の産生を生じる、用量を指す。
【0042】
ウイルス/ワクチン
【0043】
本明細書に提供するのは、親ASFV-GゲノムのI117L遺伝子の一部の組換え欠失(米国特許出願第16/580,058号に記載される)およびおよそ9kbゲノム領域の欠失から生じる、新規突然変異体ASFV-Gウイルス(配列番号1)である。特定の組換え突然変異体ASFV-GΔI177Lのゲノムヌクレオチド配列(配列番号1)が本明細書に記載され、これは親ASFV-Gをコードするゲノムヌクレオチド配列とは異なる。
【0044】
ASFV-Gの例示的な突然変異体株(配列番号1)は、細胞株適応突然変異が存在する組換えワクチンの種類の代表であり、これらには、限定なしに、欠失突然変異体、ナンセンス突然変異体、挿入突然変異体、フレームシフト突然変異体、ならびに、突然変異内の多様なORFの欠失、非機能性、および非発現を生じる他の突然変異体(配列番号2)が含まれる。本明細書に開示される一つの例示的なウイルスはまた、非機能性I117L ORFを有するが、想定される他の組換えウイルスには、他のORF(それぞれのタンパク質の非発現または非翻訳を生じるこれらのORFの制御エレメントを含む)中の突然変異体が含まれる。こうした変異体は、ASFV-G野生型ゲノムバックグラウンド(配列番号3)中にあってもよい。
【0045】
ターゲットタンパク質の機能的発現を排除するか、あるいはターゲットタンパク質の発現を減少させるかもしくはその活性を減少させるよう意図される改変は、ターゲットタンパク質をコードするDNAまたは遺伝子の突然変異を伴ってもよく、こうした突然変異には、限定されるわけではないが、ターゲット遺伝子座のオープンリーディングフレーム、転写制御因子、例えばターゲット遺伝子座のプロモーター、およびオープンリーディングフレームの5'または3'に位置する任意の他の制御核酸配列を含む、ターゲット遺伝子のすべてまたは一部の欠失、オープンリーディングフレーム中の未成熟停止コドンの挿入、ならびにリーディングフレームをシフトさせ、翻訳の未成熟な終結を導く挿入または欠失が含まれる。当業者に知られる任意の技術を用いてこうした欠失突然変異を達成し得る。ターゲットタンパク質のレベル減少またはターゲットタンパク質の活性減少もまた、ターゲットタンパク質をコードするDNAまたは遺伝子中の点突然変異または挿入で達成されうる。開示されるヌクレオチド配列および遺伝子の突然変異、挿入、および欠失変異体は、当業者に周知の方法によって容易に調製されうる。ターゲットタンパク質のレベル減少および/または活性減少を達成するために用いられる技術には、CRISPR/Cas、TALEN、およびZn-フィンガーヌクレアーゼが含まれうる。本明細書に開示される特定のものと機能的に同等である突然変異、挿入、および欠失突然変異を作製することは、当技術分野で訓練を受けた当業者の技量範囲に十分入ることである。
【0046】
ASFV-G中に欠失突然変異を生成するために用いられた本明細書記載のアプローチは、天然存在および組換え株を含めて、ASFVの異なる単離体(例えばアジア、欧州またはアフリカで循環している単離株)において使用可能である。こうしたアプローチは、当該技術分野に知られる方法論に応じて多様であってもよく、例えば、限定されるわけではないが、蛍光タンパク質、色素原基質とともに使用されうる酵素、例えばβ-グルクロニダーゼまたはβ-ガラクトシダーゼ、および薬剤選択マーカーなど、精製によって組換えウイルスを選択しうる異なる選択マーカーを用いるものがある。こうしたアプローチはまた、本明細書記載のより大きな突然変異内の任意の個々のORFに対する任意の突然変異を生成するために用いられ得る。例えば、そのORFによって産生される非機能性タンパク質を生じる、MGF360-4L、MGF360-6L、X69R、MGF300-1L、MGF300-2R、MGF300-4L、MGF3608L、MGF360-9L、MGF360-10L、またはMGF360-11Lより選択される任意の単一のORF、ならびにこれらのORFの発現および翻訳を調節する制御エレメントに対する突然変異。本明細書におけるすべての使用に関して、これらのORFについて利用される命名法は、これらのASFV ORFについての標準名を利用するものとして当業者には認識されるであろう。
【0047】
他のASFV株および遺伝子型における突然変異もまた、本開示によって含まれる。配列番号2に対して、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を示す核酸配列中の合成突然変異を含むASFV株が、本発明に含まれる。配列番号1に対して95%、96%、97%、98%、または99%、あるいはそれより高い同一性を持つ全ゲノムを含むASFV株もまた、本発明に含まれる。
【0048】
本開示は、他の組換え突然変異と細胞株適応突然変異の組み合わせをさらに意図する。こうしたものとして、本明細書に開示されるように改変されうるのは、野生型ウイルスだけではなく、他の遺伝子またはゲノム領域中に非天然存在突然変異を含有する株もまた改変されうる(例えば米国特許第9,814,771号を参照されたい)。
【0049】
本開示は、こうした合理的に設計された生きた弱毒化ASFV-G突然変異体を免疫原性組成物内に取り入れて、ASFV-Gに曝露された際に動物、例えばブタを臨床的ASF疾患から防御するために有効なワクチンを産生可能であることを提供する。従って、本発明の1つの目的は、有効量の合理的に設計された弱毒化生ワクチンを投与することによって、ASFV-Gに対して動物を防御するための方法を提供することである。別の実施形態において、本開示は、動物、好ましくはイノシシ科(Suidae)(例えば家畜ブタ(Sus scrofa domesticus)、野生ブタ(wild pig)(Sus scrofa scrofa)、イボイノシシ(warthog)(Potamochoerus porcus)、カワイノシシ(bushpig)(Potamochoerus larvatus)、モリイノシシ(giant forest hog)(Hylochoerus meinertzhageni)ならびに野生化ブタ(feral pig))において、防御免疫反応を誘発するための方法を提供する。こうした方法は、典型的には、こうした動物に、本明細書記載の1つ以上のASFV免疫原性組成物およびワクチンを投与する工程を含むであろう。
【0050】
本明細書開示の免疫原性組成物の免疫原的に有効な量は、多数のパラメータに基づいて変動し得る。しかし、一般的に、筋内適用のための投薬単位あたりの有効量は、約102 50%血球吸着用量("HAD50")~10 HAD50であり得る。本発明の方法論を実施する際、1つ、2つ、またはそれより多い投薬単位を利用してもよい。投薬単位は、所望の体積または質量に適応するように当業者によって容易に改変されうる。投薬単位パラメータに関わらず、本明細書開示の免疫原性組成物は、免疫反応を産生するために有効な量で投与され得る。
【0051】
本明細書開示のワクチンにおける活性成分の投薬レベルは、被験体において、または適用ごとに、所望の結果を達成させるために当業者によって変動されうる。こうしたものとして、選択される投薬レベルは、限定されるわけではないが、剤形、他の治療との組み合わせ、あらかじめ存在する状態の重症度、およびアジュバントの存在または非存在を含む、多様な要因に依存しうる。好ましい実施形態では、最少用量の免疫原組成物が投与される。最少用量の決定は、十分に当業者の能力範囲内である。
【0052】
本発明のワクチンは、市販の弱毒化生ASFVワクチンのために用いられる慣用法によって調製可能である。特定の実施形態において、感受性基質(substrate)に、本明細書開示のASFV突然変異体を接種し、ウイルスが所望の力価に複製されるまで増殖させ、その後、ASFV含有物質を採取する。その後、採取された材料を、免疫原特性を持つワクチン調製物へと製剤し得る。本明細書提供の組換えウイルスの複製を支持可能であるすべての基質が本発明において使用可能であり、これには、ブタ末梢血マクロファージまたは感染ブタ由来の血液の初代培養が含まれる。
【0053】
安定細胞株におけるウイルス複製および産生
【0054】
本開示の細胞株適応突然変異を含有する本明細書提供のワクチンは、突然変異を欠くウイルスに比較して、安定細胞株で増加した速度で複製し、増殖する。ASFV-G-I117Lは、ブタマクロファージにおいて増殖して力価を4~5 log増加させうる(3~5日間に渡る)が、試験した安定細胞株においては増殖不能であった。適応突然変異をワクチンに加えると、このワクチンは、マクロファージ中の親ワクチンに匹敵する速度で増殖可能であり、ワクチン力価を4~5 log(3~6日間に渡る)増加させた。
【0055】
配合物および投与
【0056】
本明細書提供のワクチンは、生存形態の、上に定義されるような組換えウイルスの1つ、およびこうした組成物に通例用いられる、医薬的に許容される担体または希釈剤を含む。担体には、安定化剤、保存剤および緩衝剤が含まれる。適切な安定化剤には、例えばSPGA(スクロース、ホスフェート、グルタメートおよびアルブミン)、炭水化物(ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、デキストラン、グルタメート、およびグルコース)、タンパク質(粉乳、血清、アルブミン、カゼイン)、またはその分解産物が含まれる。適切な緩衝剤には、例えばアルカリ金属リン酸塩が含まれる。利用可能な保存剤には、限定されるわけではないが、チメロサール、メルチオレートおよびゲンタマイシンが含まれる。希釈剤には、水、水性緩衝剤(例えば緩衝生理食塩水)、アルコールおよびポリオール(例えばグリセロール)が含まれる。
【0057】
いくつかの場合、本発明のワクチンはまた、1つ以上のアジュバントを含有するかまたは含み、こうしたアジュバントには、免疫原性組成物によって誘導されるレシピエントにおける免疫反応を増進させる免疫原性組成配合物中に含まれる任意の物質が含まれる。いくつかの場合、こうしたアジュバントには、組換えウイルスとともに含まれるタンパク質、他の構成要素が含まれてもよい。他のアジュバントが免疫原性組成物の追加の構成要素として含まれてもよく、これには、アルミニウム塩(ミョウバン)、油エマルジョン、サポニン、免疫刺激複合体(ISCOM)、リポソーム、マイクロ粒子、非イオン性ブロックコポリマー、誘導体化多糖、サイトカイン、および多種多様な細菌誘導体などのカテゴリーが含まれる。当該技術分野に知られる任意の適切なアジュバントを、本明細書開示の本発明を実施する際に利用し得る。アジュバントの選択に影響を及ぼす要因には、動物種、特定の病原体、抗原、免疫化の経路、および必要な免疫のタイプが含まれ、当業者によって容易に決定されうる。
【0058】
本開示の免疫原性組成物はまた、組換えウイルスに加えて担体も含んでもよい。本明細書提供の免疫原性組成物を実施する際に利用される担体は、当該技術分野に知られる任意のものであってもよく、液体、固体、半固体、またはゲルであってもよい。製剤のタイプは、抗原投与の経路に応じて改変され得る。好ましくは、担体はレシピエントに対して非毒性である。当業者は、家禽などのレシピエント動物への適用のため、こうした担体を容易に選択可能である。
【0059】
本明細書提供のワクチンは、筋内、皮下、鼻内または注射によって、ASFVの病原性株による負荷に対して動物を防御するために有効な量で、投与され得る。ワクチンを、経口で、直接経口接種を通じて、飲料水中に投薬して、または餌送達系を通じて、投与してもよい。組換えウイルスの有効量は、当業者によって考慮されるパラメータに従って変動し得る。有効量は、任意の既知の方法または本明細書の実施例に提供される指針に従って、当業者により、必要に応じて実験的に決定され得る。
【0060】
本発明を一般的に記載してきたが、本発明は、ある特定の実施例を参照することによってよりよく理解されるであろう。実施例は本発明をさらに例示するために本明細書に含まれるのであり、請求項によって定義される本発明の範囲を限定することは意図していない。
【実施例
【0061】
実施例1
【0062】
細胞培養およびウイルス
【0063】
ブタマクロファージの初代培養を、以前記載された方法(O’Donnell et al, (2015b)、上記)に従って、ブタ血液から調製した。ウイルス力価決定のための96ウェルプレート中のマクロファージ培養の調製もまた、以前記載されたように(O’Donnell et al, (2015b)、上記)行った。
【0064】
ブタ上皮細胞(PEC)は、ウシαvβ6インテグリンを発現するように操作されたブタ胎性腎臓細胞株である親LFPKαvβ6細胞株(米国特許第9,121,010号)から60回を超える継代の後に得られた細胞サブクローンである。細胞培養を、10%熱不活化ウシ胎児血清(HI-FBS;Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)および1%抗生物質・抗真菌剤(Thermo Fisher Scientific)を含むDMEM培地(Life Technologies, Grand Island, NY)を用いた培養中、37℃、5% CO2下で継代した。
【0065】
以下に記載されるように、弱毒化生ワクチン候補株ASFV-G-ΔI177L(米国特許出願第16/580,058号)の連続継代後に、ASFV-G-ΔI177LΔLVR(配列番号1)を生成した。
【0066】
初代ブタマクロファージおよび安定ブタ細胞培養において、ASFV-G-ΔI177L(親株)およびASFV-G-ΔI177LΔLVR(配列番号1)の間の比較増殖曲線を行った。あらかじめ形成された単層を、24ウェルプレート中で調製し、0.01のMOI(初代ブタマクロファージ細胞培養においてあらかじめ決定されたHAD50に基づく)で感染させた。37℃、5% CO2下で1時間吸着させた後、接種物を取り除き、細胞をPBSで2回リンスした。次いで、単層をマクロファージ培地でリンスし、37℃、5% CO2下で、2、24、48、72、および96時間、インキュベーションした。感染後の適切な時点で、細胞を<-70℃で凍結し、融解した溶解物を用いて、初代ブタマクロファージ細胞培養において、HAD50/mlによって力価を決定した。すべての試料を同時に実験し、アッセイ間変動を回避した。
【0067】
96ウェルプレート中の初代ブタマクロファージ細胞培養上で、ウイルス力価決定を行った。マクロファージ培地を用いてウイルス希釈および培養を行った。血球吸着(HA)によってウイルスの存在を評価し、ReedおよびMuenchの方法(Reed & Muench, Am. J. Hygiene, (1938), 27:493-497)によってウイルス力価を計算した。動物曝露実験に用いられるASFV Georgia(ASFV-G)は、ジョージア共和国トビリシのLaboratory of the Ministry of Agriculture(LMA)のNino Vepkhvadze氏の厚意により提供されたフィールド単離体である。ASFV DNAを感染細胞から抽出し、以前記載されたように定量化した。ウイルスゲノムの全長配列を、以前記載されたように(Borca et al, Sci. Rep., (2018), 8:3154)、Illumina NextSeq 500シーケンサーを用いて決定した。
【0068】
実施例2
【0069】
細胞株突然変異および適応。
【0070】
ASFV-G-ΔI177Lは、ブタ起源の市販の細胞株を含め、本発明者らの実験室で試験した30を超える細胞株において有意には複製しなかった。大部分の場合、ASFV-G-ΔI177Lゲノム中に存在する組換えRFPの発現による蛍光の細胞内発現の存在によって立証されるように、最初の複製ステップのみが認められ、検出されるウイルス収量は微量であるかまたは存在しなかった(データは示していない)。
【0071】
ASFV-G-ΔI177Lは、安定ブタ細胞株細胞において6回連続継代した後、明らかな細胞変性効果が起きていることを示した。MOI 10を用いてASFV-G-ΔI177Lの最初の継代を行った。6回の継代までに、ASFV-G-ΔI177L収量は、およそ105HAD50/mlの力価に達した。さらなる連続継代によって、およそ107 HAD50/mlのウイルス収量に達した(図1)。
【0072】
ASFV-G-ΔI177Lの継代に付随するゲノム変化(ASFV-G-ΔI177LΔLVR)の評価を、次世代シーケンシング(NGS)によって、6回の継代後に得られたウイルスにおいて行った。親ウイルスに比較して、ウイルスゲノムの16818~27660位の間で欠失が起こり、10842bpの欠失を生じた。このゲノム改変は、以下の遺伝子:MGF360-6L、X69R、MGF300-1L、MGF300-1L、MGF300-2R、MGF300-4L、MGF360-8L、MGF360-9L、およびMGF360-10Lを完全に欠失させる。さらに、該ゲノム改変はまた、MGF 360-4L遺伝子のN末端部分、およびMGF360-11L遺伝子のC末端部分の欠失も引き起こす(図2)。この欠失は、新規ハイブリッドタンパク質、MGF360-4l/11Lの生成を生じる。リバースコード鎖上にあるこの生じたORFは、592nt MGF-360-4Lと組み合わされたMGF-360-11Lの839ntを有する。生じたORFは、新規476アミノ酸タンパク質(配列番号4)をコードする1432ntによって構成される。
【0073】
ASFV-G-ΔI177LΔLVRのゲノム安定性を、継代20回および継代30回後に得られたウイルス集団において、さらに評価した。驚くべきことに、NGS分析によって、6回の継代後に得られたウイルスのゲノムと比較した際、大きなさらなるゲノム変化はないことが示された。この結果は、ASFV-G-ΔI177LΔLVRのウイルスゲノムが、安定ブタ細胞株細胞における連続継代で安定なままであることを示す。
【0074】
初代ブタマクロファージにおけるASFV-G-ΔI177LΔLVRの複製
【0075】
aptASFV-G-ΔI177Lを開発することのゴールは、それをワクチン株として用いることである。従って、ブタにおける感染中、ASFVにターゲティングされる主な細胞であるブタマクロファージにおいて複製する能力を評価することが重要である。次いで、多段階増殖曲線で、ASFV-G-ΔI177LΔLVRのin vitro増殖特性を初代ブタマクロファージ細胞において評価した。PECにおけるASFV-G-ΔI177LΔLVRの2つの異なる継代である、6回目および12回目の継代を試験した。細胞培養を、0.01の感染多重度(MOI)で感染させ、感染2時間後、および続く6~8日間にわたり24時間ごとに、試料を収集した。結果は、どちらのASFV-G-ΔI177LΔLVR株も、親ASFV-G-ΔI177Lのものと比較して、類似の増殖動力学を示すことを示した(図1)。従って、ASFV-G-ΔI177LΔLVRが安定ブタ細胞株細胞において増殖する能力は、ASFV-G-ΔI177LΔLVRが初代ブタマクロファージ細胞培養においてin vitroで複製する能力に影響しない。
【0076】
実施例3
【0077】
動物実験
【0078】
プラムアイランド動物疾病センター(PIADC)の動物施設において、米国農務省および米国国土安全保障省のPIADC施設動物実験委員会によって認可されたプロトコル(プロトコル番号225.04-16-R、09-07-16)に従い、バイオセイフティレベル3-Agriculture(3-AG)条件下で、動物実験を行った。
【0079】
ASFV-G-ΔI177LΔLVRのゲノム変化が、親ウイルスASFV-G-ΔI177Lの弱毒化表現型に何らかの改変を生じたかどうかを評価するため、80~90ポンドのブタの群に筋内(IM)経由で、高用量である106血球吸着用量(HAD50)を接種し、28日間の期間に渡って、動物の臨床的発展を観察した。接種された5匹の動物は、いかなるASF関連徴候も示さず、全観察期間中、臨床的に正常なままであり、ASFV-G-ΔI177LΔLVRが完全に弱毒化されたままであることを示した(表1)。従って、ASFV-G-ΔI177LΔLVRは、親ウイルスの完全弱毒化表現型を維持する。
表1. 異なる用量のASFV-G-ΔI177LΔLVRによる感染後のブタ生存および発熱反応
【表1】
【0080】
親ASFV-Gでの曝露に対するASFV-G-ΔI177Lの防御有効性
【0081】
ASFV-G-ΔI177LΔLVR感染が、高病原性親ウイルスASFV-Gでの曝露に対する防御を誘導する能力を評価するために、ASFV-G-ΔI177LΔLVRに感染したすべての動物を、28日後、IM経路でASFV-Gの102 HAD50に曝露した。5匹のナイーブ動物のさらなる群を偽接種対照群として曝露した。すべての偽接種動物は、曝露の3~4日後(dpc)までに疾患関連徴候を示し始め、その後の数時間で、迅速に疾患重症度が増加し;ほぼ5 dpcで動物を安楽死させた(表2)。一方、ASFV-G-ΔI177LΔLVRに感染させた動物群は、臨床的に健康なままであり、21日間の観察期間中、疾患のいかなる有意な徴候も示さなかった。従って、ASFV-G-ΔI177LΔLVR処置動物は、高病原性親ウイルスに曝露された際、臨床疾患に対して防御される。
【0082】
ASFV-G-ΔI177LΔLVRが親病原性ASFV-Gの曝露に対してブタを防御する有効性を定量化するために、3群のブタに、それぞれ102、104、または106 HAD50いずれかのASFV-G-ΔI177LΔLVRをIM接種した。すべての動物は、102 HAD50の親病原性ASFV-GにIM曝露される前の28日間の期間、臨床的に正常なままであった。動物を21日間観察した。すべての動物は、曝露後、いかなるASF臨床関連徴候も示さず、臨床的に正常なままであった(表2)。従って、ASFV-G-ΔI177LΔLVR有効性は、ASFV-G-ΔI177Lに関して報告されたもの(米国特許出願第16/580,058号)に匹敵する。
表2. 親ASFV-Gウイルスに曝露された、ASFV-G-ΔI177LΔLVR感染動物におけるブタ生存および発熱反応
【表2】
【0083】
実施例4
【0084】
組換えウイルス構築
【0085】
1つ以上の遺伝子を欠く組換えASFVは、本発明者らおよび他の実験室で産生されてきた。欠失のためにターゲティングされる領域の両側に同一DNA(典型的には1000bp)の隣接アームを含有し、これらの2つのアームの間に、組換えASFVの選択を可能にするレポーターカセット(すなわちGFP、RFP)がある、ドナープラスミドを作製する。このプラスミドをウイルス感染細胞内に導入すると、ASFV DNAに対するドナープラスミドの交換が可能になる。これは、相同DNAアーム中で特異的に起こる。この例は、個々の遺伝子I177L、9GL、UKの欠失(O’Donnell et al, (2015b)、上記;O’Donnell et al, (2017)、上記;Borca et al; (2020)、上記)または複数のMGF遺伝子の欠失(O’Donnell et al, (2015a)、上記)である。図3は、これがどのように実行可能であり、4A中のASFV-GゲノムにΔLVRの正確な欠失、および3つの遺伝子MGF3001L、2R、4のみを欠失させるΔLVR領域中の部分的欠失を作製しうるかの模式図を示す。同じ方法論を適用して、細胞株適応突然変異領域(配列番号2)中の任意の遺伝子または任意の遺伝子群、あるいはゲノムの他の部分を欠失させることができる。本明細書に記載されるように、または当該技術分野に知られる任意の手段によって、組換えウイルスの選択およびスクリーニングを行い得る。
【0086】
例示する実施形態の詳細に関連して本発明を記述してきたが、これらの詳細は、付随する請求項に定義されるような本発明の範囲を制限するとは意図されない。独占的所有または特権を請求する本開示の実施形態を以下の特許請求の範囲に定義する。
図1
図2
図3
【配列表】
2024500225000001.app
【国際調査報告】