(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-05
(54)【発明の名称】胎児の性別を迅速に判定するための方法、組成物、及び装置
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20231225BHJP
C12Q 1/6879 20180101ALI20231225BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20231225BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231225BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20231225BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12Q1/6879 Z
C12Q1/6844 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 B
C12N15/10 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537621
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 US2021063385
(87)【国際公開番号】W WO2022132816
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523228598
【氏名又は名称】ゲートウェイ・ゲノミクス・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ジェイコブ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA23
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4B063QX01
(57)【要約】
本開示は、胎児の性別を迅速且つ直接的に検出するための方法、組成物、及び装置を提供する。本開示はまた、生物学的サンプル(例えば、血液、子宮頸管粘液、又は尿)中の胎児核酸を検出するための方法、組成物、及び装置を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児の性別を判定するための方法であって、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸に対して等温増幅を実行し、標的核酸がサンプル中に存在する場合にレポーター分子を生成する工程;c)レポーター分子を検出する工程であって、レポーター分子の検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程;及びd)サンプル中の標的胎児核酸の存在の検出に基づいて胎児の性別を判定する工程を含む、方法。
【請求項2】
a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸に対して等温増幅を実行し、標的核酸がサンプル中に存在する場合にレポーター分子を生成する工程;及びc)レポーター分子を検出する工程であって、レポーター分子の検出が、サンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程を含む、方法。
【請求項3】
胎児の性別を判定するための方法であって、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプルをCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子と接触させる工程であって、1つ以上の標的胎児核酸がサンプル中に存在する場合、標識レポーターDNA分子が切断される工程;c)CRISPR/Casエフェクタータンパク質による標識レポーターDNA分子の切断によって生成されるシグナルを検出する工程であって、シグナルの検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程;並びにd)サンプル中の標的胎児核酸の存在の検出に基づいて胎児の性別を判定する工程を含む、方法。
【請求項4】
a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプルをCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子と接触させる工程であって、1つ以上の標的胎児核酸がサンプル中に存在する場合、標識レポーターDNA分子が切断される工程;並びにc)CRISPR/Casエフェクタータンパク質による標識レポーターDNA分子の切断によって生成されるシグナルを検出する工程であって、シグナルの検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程を含む、方法。
【請求項5】
胎児の性別を判定するための方法であって、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸に対して等温増幅を実行する工程;c)サンプルをCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子と接触させる工程であって、1つ以上の標的胎児核酸がサンプル中に存在する場合、標識レポーターDNA分子が切断される工程;d)CRISPR/Casエフェクタータンパク質による標識レポーターDNA分子の切断によって生成されるシグナルを検出する工程であって、シグナルの検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程;並びにe)サンプル中の標的胎児核酸の存在の検出に基づいて胎児の性別を判定する工程を含む、方法。
【請求項6】
a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸に対して等温増幅を実行する工程;c)サンプルをCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子と接触させる工程であって、1つ以上の標的胎児核酸がサンプル中に存在する場合、標識レポーターDNA分子が切断される工程;並びにd)CRISPR/Casエフェクタータンパク質による標識レポーターDNA分子の切断によって生成されるシグナルを検出する工程であって、シグナルの検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程を含む、方法。
【請求項7】
Y染色体上の1つ以上の標的胎児核酸配列の検出に基づいて胎児の性別を判定する工程を更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
標的胎児核酸が無細胞胎児DNAである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
標的核酸が単一コピー標的配列又は複数コピー標的配列である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
複数コピー標的配列がY染色体上の20箇所、30箇所、40箇所、50箇所、100箇所、又は1,000箇所を超える箇所に存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
サンプルが血液、血漿、血清、唾液、尿、及び/又は子宮頸管粘液である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
レポーター分子の検出が30分未満で検出される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
レポーター分子の検出が60分未満で検出される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
検出が電気化学チップ、グラフェン、電界効果トランジスタ、ナノポアセンス、SMRセンサー、ナノ動電チップ、又はマイクロアレイを用いて行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ループ媒介等温増幅(LAMP)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)、鎖置換増幅(SDA)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)、転写媒介増幅(TMA)、ニッキング酵素増幅反応(NEAR)、ローリングサークル増幅(RCA)、多重置換増幅(MDA)、ラミフィケーション(RAM)、環状ヘリカーゼ依存性増幅(cHDA)、単一プライマー等温増幅(SPIA)、RNA技術のシグナル媒介増幅(SMART)、自己持続配列複製(3SR)、ゲノム指数増幅反応(GEAR)、及び/又は等温多重置換増幅(IMDA)によってサンプル中の標的DNAを増幅する工程を更に含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
生物学的サンプルを保存剤組成物と接触させる工程を更に含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
生物学的サンプルを保護剤組成物と接触させる工程を更に含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
保護剤組成物がデキストラン、トレハロース、及び/又はプルランを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ガイドRNAが1つ以上のcrRNAを含む、請求項3から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
CRISPR/Casエフェクタータンパク質がCas9、Cas12a、Cas14a/b、及び/又はCas13a/bである、請求項3から19のいずれか一項に記載の方法。.
【請求項21】
保存剤組成物が抗凝固剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ヘパリン)、抗菌剤(例えば、イミダゾリジニル尿素)、糖、及び/又はアミノ酸を含む、請求項16から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
胎児核酸についてサンプルを豊富化する工程を更に含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
豊富化が、全血から血漿を分離することによって、生物学的サンプルから胎児核酸を選択的に捕捉することによって、及び/又は生物学的サンプル中の母体核酸を選択的に分解することによって達成される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
胎児核酸が無細胞胎児核酸又は胎児細胞由来のゲノム胎児核酸である、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
胎児核酸を単離、豊富化、及び/又は濃縮する工程を更に含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
胎児の性別が少なくとも90%の正確度で判定される、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
胎児の在胎期間が4週から20週の間である、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
サンプル容量が1ml未満である、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
保存剤が抗凝固剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ヘパリン)、抗菌剤(例えば、イミダゾリジニル尿素)、糖、及び/又はアミノ酸である、請求項14から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
生物学的サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸の存在を検出するための装置であって、ラテラルフローストリップ;検出可能な粒子又は標識を含む前記ラテラルフローストリップ上の検出領域;胎児核酸を含む母体の生物学的サンプルを含む流体サンプルを含み、前記検出領域が、毛細管流により2時間未満で流体サンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す視覚的比色シグナルを提供する、装置。
【請求項31】
CRISPR組成物、保存剤組成物、増幅組成物、及び/又は保護剤組成物を更に含む、請求項30に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、2020年12月15日に出願された米国仮特許出願第63/125395号の優先権の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
本開示は、胎児の性別を迅速且つ直接的に検出するための方法、組成物、及び装置を提供する。本開示はまた、生物学的サンプル(例えば、血液、子宮頸管粘液、又は尿)中の胎児核酸を検出するための方法、組成物、及び装置を提供する。
【背景技術】
【0003】
米国では毎年約400万人の出生がある。妊娠中の親の3分の2超が、妊娠してから現実的に可能な限り早く赤ちゃんの性別を知りたいと思っている。現在、典型的なヒトの妊娠期間である40週間の間に妊娠中の親に利用可能な胎児の性別を知るための選択肢は限られている。
【0004】
超音波イメージングは数十年にわたり安全に使用されており、妊娠18週から20週における胎児の性別を判定する上で非常に正確であると考えられている。羊水穿刺は、在胎期間15週から18週の間に胎児の性別を高い正確度で判定するために使用されうるが、流産のリスクがあり、ほとんどの女性には利用できない。最近では、非侵襲的出生前検査(NIPT)がハイリスクの妊娠に対して利用できるようになり、在胎期間11週から13週の間、平均15週において母体の血液から胎児の性別を判定する正確度が高くなっている(G. Allahbadia、(2015) J Obstet Gynaecol India.65(3):141~145)。NIPTの全ての方法が、訓練を受けたフレボトミストによって血液サンプルが採取され、専門の検査室において処理されることを必要とする。検査結果は一般的に、血液サンプルの採取から1又は2週間後に提供される。
【0005】
したがって、当技術分野では、サンプルが採取されたその日に、好ましくは数時間以内に、検査室でのサンプル処理を必要とせずに、胎児の性別を判定するのに有用な方法及びキットが必要とされている。更に、当技術分野では、生物学的サンプル中の胎児核酸を迅速且つ直接的に検出するための方法及び組成物が必要とされている。本開示は、胎児の性別を迅速に判定するための高い正確度で非侵襲的な方法を提供することにより、このニーズを満たす。本開示は更に、生物学的サンプルにおいて胎児核酸を検出し、胎児の性別を判定するための新規な方法、アッセイ、キット、及び組成物を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第8,030,000号
【特許文献2】米国特許第8,426,134号
【特許文献3】米国特許第8,945,845号
【特許文献4】米国特許第9,309,502号
【特許文献5】米国特許第9,663,820号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】G. Allahbadia、(2015) J Obstet Gynaecol India.65(3):141~145
【非特許文献2】Gennaro, A.R.編、(1990)「Remington's Pharmaceutical Sciences(第18版)」、Mack Publishing Co.
【非特許文献3】Colowick, S.ら編、「Methods In Enzymology」、Academic Press, Inc.
【非特許文献4】「Handbook of Experimental Immunology(第I~IV巻)」(D.M. Weir及びC.C. Blackwell編、1986、Blackwell Scientific Publications)
【非特許文献5】Maniatis, T.ら編、(1989)「Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第2版)(第I~III巻)」、Cold Spring Harbor Laboratory Press
【非特許文献6】Ausubel, F. M.ら編、(1999)「Short Protocols in Molecular Biology(第4版)」、John Wiley & Sons
【非特許文献7】Reamら編、(1998)「Molecular Biology Techniques: An Intensive Laboratory Course」、Academic Press
【非特許文献8】「PCR (Introduction to Biotechniques Series)(第2版)」(Newton & Graham編、1997、Springer Verlag
【非特許文献9】Suら、Micromachines 2020、11、352
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、妊娠中の対象における胎児の性別を判定する方法であって、対象から生物学的サンプルを得る工程;及びサンプル中の胎児Y染色体核酸を検出し、それにより胎児の性別を判定する工程を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、妊娠中の対象における胎児の性別を判定する方法であって、対象から生物学的サンプルを得る工程;及びサンプル中の胎児Y染色体核酸を検出し、それにより胎児の性別を判定する工程を含む、方法を提供する。他の実施形態において、本開示は、胎児の性別を判定するための方法であって、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸に対して等温増幅を実行し、標的核酸がサンプル中に存在する場合にレポーター分子を生成する工程;c)レポーター分子を検出する工程であって、レポーター分子の検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程;及びd)サンプル中の標的胎児核酸の存在の検出に基づいて胎児の性別を判定する工程を含む、方法を提供する。更なる他の実施形態において、本開示は、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸に対して等温増幅を実行し、標的核酸がサンプル中に存在する場合にレポーター分子を生成する工程;及びc)レポーター分子を検出する工程であって、レポーター分子の検出が、サンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程を含む、方法を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、本開示は、胎児の性別を判定するための方法であって、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプルをCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子と接触させる工程であって、1つ以上の標的胎児核酸がサンプル中に存在する場合、標識レポーターDNA分子が切断される工程;c)CRISPR/Casエフェクタータンパク質による標識レポーターDNA分子の切断によって生成されるシグナルを検出する工程であって、シグナルの検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程;並びにd)サンプル中の標的胎児核酸の存在の検出に基づいて胎児の性別を判定する工程を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプルをCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子と接触させる工程であって、1つ以上の標的胎児核酸がサンプル中に存在する場合、標識レポーターDNA分子が切断される工程;並びにc)CRISPR/Casエフェクタータンパク質による標識レポーターDNA分子の切断によって生成されるシグナルを検出する工程であって、シグナルの検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程を含む、方法を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態において、本開示は、胎児の性別を判定するための方法であって、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸に対して等温増幅を実行する工程;c)サンプルをCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子と接触させる工程であって、1つ以上の標的胎児核酸がサンプル中に存在する場合、標識レポーターDNA分子が切断される工程;d)CRISPR/Casエフェクタータンパク質による標識レポーターDNA分子の切断によって生成されるシグナルを検出する工程であって、シグナルの検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程;並びにe)サンプル中の標的胎児核酸の存在の検出に基づいて胎児の性別を判定する工程を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、a)妊娠しているか又は妊娠している疑いのある対象から胎児核酸を含む生物学的サンプルを取得する工程;b)サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸に対して等温増幅を実行する工程;c)サンプルをCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子と接触させる工程であって、1つ以上の標的胎児核酸がサンプル中に存在する場合、標識レポーターDNA分子が切断される工程;並びにd)CRISPR/Casエフェクタータンパク質による標識レポーターDNA分子の切断によって生成されるシグナルを検出する工程であって、シグナルの検出がサンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す工程を含む、方法を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、Y染色体上の1つ以上の標的胎児核酸配列の検出に基づいて胎児の性別を判定する工程を更に含む。他の実施形態において、標的胎児核酸は無細胞胎児DNAである。更に他の実施形態において、標的核酸は単一コピー標的配列又は複数コピー標的配列である。他の実施形態において、複数コピー標的配列はY染色体上の20箇所、30箇所、40箇所、50箇所、100箇所、又は1,000箇所を超える箇所に存在する。特定の実施形態において、サンプルは血液、血漿、血清、唾液、尿、及び/又は子宮頸管粘液である。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、サンプル中の標的胎児核酸の量を決定する工程を更に含む。他の実施形態において、レポーター分子の検出は30分未満で検出される。更に他の実施形態において、レポーター分子の検出は60分未満で検出される。いくつかの実施形態において、検出は電気化学チップ、グラフェン電界効果トランジスタ、ナノポアセンス、SMRセンサー、ナノ動電(nanoelectrokinetic)チップ、又はマイクロアレイを用いて行われる。他の実施形態において、検出はスマートフォンを使用して完了される。
【0012】
特定の実施形態において、本開示の方法は、ループ媒介等温増幅(loop-mediated isothermal amplification; LAMP)、ヘリカーゼ依存性増幅(helicase-dependent amplification; HDA)、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(recombinase polymerase amplification; RPA)、鎖置換増幅(strand displacement amplification; SDA)、核酸配列に基づく増幅(nucleic acid sequence-based amplification; NASBA)、転写媒介増幅(transcription mediated amplification; TMA)、ニッキング酵素増幅反応(nicking enzyme amplification reaction; NEAR)、ローリングサークル増幅(rolling circle amplification; RCA)、多重置換増幅(multiple displacement amplification; MDA)、ラミフィケーション(Ramification; RAM)、環状ヘリカーゼ依存性増幅(circular helicase-dependent amplification; cHDA)、単一プライマー等温増幅(single primer isothermal amplification; SPIA)、RNA技術のシグナル媒介増幅(signal mediated amplification of RNA technology; SMART)、自己持続配列複製(self-sustained sequence replication; 3SR)、ゲノム指数増幅反応(genome exponential amplification reaction; GEAR)、及び/又は等温多重置換増幅(isothermal multiple displacement amplification; IMDA)によってサンプル中の標的DNAを増幅する工程を更に含む。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、生物学的サンプルを保存剤組成物と接触させる工程を更に含む。他の実施形態において、本開示の方法は、生物学的サンプルをCRISPR組成物と接触させる工程を更に含む。更なる他の実施形態において、本開示の方法は、生物学的サンプルを増幅組成物と接触させる工程を更に含む。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、生物学的サンプルを保護剤組成物と接触させる工程を更に含む。特定の実施形態において、保護組成物はデキストラン、トレハロース、及び/又はプルランを含む。他の実施形態において、CRISPR組成物はCRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及び標識レポーターDNA分子を含む。更に他の実施形態において、ガイドRNAは複数のcrRNAを含む。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエフェクタータンパク質はCas9、Cas12a、Cas14a/b、及び/又はCas13a/bである。更なる他の実施形態において、保存剤組成物は抗凝固剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ヘパリン)、抗菌剤(例えば、イミダゾリジニル尿素)、糖、及び/又はアミノ酸を含む。特定の実施形態において、増幅組成物は等温ポリメラーゼ、プライマー、及びプローブを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、胎児核酸についてサンプルを豊富化する工程を更に含む。特定の実施形態において、豊富化は全血から血漿を分離することによって、生物学的サンプルから胎児核酸を選択的に捕捉することによって、及び/又は生物学的サンプル中の母体核酸を選択的に分解することによって達成される。いくつかの実施形態において、Y染色体核酸は無細胞胎児核酸又は胎児細胞由来のゲノム胎児核酸である。いくつかの実施形態において、本開示の方法は胎児核酸を単離、豊富化、及び/又は濃縮する工程を更に含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、本開示は、生物学的サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸の存在を検出するための装置であって、ラテラルフローストリップ(lateral flow strip);検出可能な粒子又は標識を含む前記ラテラルフローストリップ上の検出領域;胎児核酸を含む母体の生物学的サンプルを含む流体サンプルを含み、前記検出領域が、毛細管流により2時間未満で流体サンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す視覚的比色シグナルを提供する、装置を提供する。いくつかの実施形態において、本開示の装置は、CRISPR組成物、保存剤組成物、増幅組成物、及び/又は保護剤組成物を更に含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、胎児の性別は少なくとも90%の正確度で判定される。他の実施形態において、胎児の在胎期間は4週から20週の間である。他の実施形態において、サンプルは血液、血漿、血清、唾液、尿、及び/又は子宮頸管粘液である。特定の実施形態において、サンプル容量は1ml未満である。他の実施形態において、生物学的サンプルは1時間以内、24時間以内、又は48時間以内に処理される。いくつかの実施形態において、保存剤は抗凝固剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ヘパリン)、抗菌剤(例えば、イミダゾリジニル尿素)、糖、及び/又はアミノ酸である。
【0016】
いくつかの実施形態において、本開示は、胎児の性別を判定するために妊娠中の対象から生物学的サンプルを採取するためのキットを提供し、本キットは、対象から静脈血又は毛細管血を得るための採血管、ランセット又は装置、及び説明書を含む。いくつかの実施形態において、本開示のキットは、汚染除去剤を更に含む。いくつかの実施形態において、汚染除去剤は、漂白剤、アルコールワイプ、グルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、及び/又はヨウ素である。他の実施形態において、説明書は、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、又は12週の在胎期間におけるサンプル採取について記載している。いくつかの実施形態において、本開示のキットは、CRISPR組成物、保存剤組成物、増幅組成物、及び/又は保護剤組成物を更に含む。いくつかの実施形態において、本開示のキットは、ラテラルフローストリップを更に含む。
【0017】
本開示の方法、組成物、装置、及びキットは、胎児の性別の判定に最適な感度、特異度及び正確度を提供する。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の特異度で胎児の性別を判定する。いくつかの態様において、本開示の方法、組成物、装置、及びキットは、少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の感度で胎児の性別を判定する。更に他の態様において、本開示の方法、組成物、装置、及びキットは、少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の正確度で胎児の性別を判定する。
【0018】
いくつかの実施形態において、本開示の方法、組成物、装置、及びキットの偽陽性率は、1%未満、2%未満、3%未満、4%未満、5%未満、6%未満、7%未満、8%未満、9%未満、10%未満、20%未満、又は25%未満である。
【0019】
本開示の方法、組成物、装置、及びキットの性能は、複数の集団において決定されている。いくつかの実施形態において、本開示の方法、組成物、装置、及びキットの性能は、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、及び/又は1,000人以上の妊娠中の対象の集団において決定されている。
【0020】
本開示の方法、組成物、装置、及びキットは、妊娠の様々な在胎期間において使用されうる。いくつかの実施形態において、胎児の在胎期間は、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、12週、20週、又は40週である。いくつかの実施形態において、胎児の在胎期間は、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日、31日、32日、33日、34日、35日、36日、37日、38日、39日、40日、41日、42日、49日、56日、63日、70日、77日、84日、180日、又は250日である。
【0021】
本開示は、妊娠中の対象由来の生物学的サンプル中におけるY染色体核酸を検出するための方法、組成物、装置、及びキットを提供する。
【0022】
他の実施形態において、本方法は、Y染色体DNAを検出する際に生成されるデータを解釈することを更に含む。いくつかの実施形態において、解釈は機械学習アルゴリズム、サイクル閾値(CT)アルゴリズム、又は人工知能を使用して実行される。
【0023】
いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは保存剤と接触させられる。いくつかの実施形態において、保存剤は抗凝固剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ヘパリン)、抗菌剤(例えば、イミダゾリジニル尿素)、糖、及び/又はアミノ酸である。他の実施形態において、保存剤は固体、液体、及び/又はゲルである。
【0024】
様々なタイプの生物学的サンプルが、本開示の方法、組成物、及びキットと共に使用され得る。いくつかの実施形態において、サンプルは血液、血漿、血清、唾液、尿、及び/又は子宮頸管粘液である。他の実施形態において、サンプルは母体の血液、母体の血漿、又は母体の血清である。更に他の実施形態において、対象から得られるサンプルの容量は10ul~10mlである。いくつかの実施形態において、Y染色体DNAを検出するために使用されるサンプルの容量は、微小容量である。特定の実施形態において、微小容量は約1,000ul、約900ul、約800ul、約700ul、約600ul、約500ul、約400ul、約300ul、約200ul、約150ul、約100ul、約50ul、約25ul、約10ulである。生物学的サンプルは、対象から採取された後いつでも処理され得る。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは1時間以内、24時間以内、又は48時間以内に処理される。他の実施形態において、生物学的サンプルは、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、又は少なくとも4週間処理されない。
【0025】
本開示の方法、装置、及びキットは、サンプルが採取される妊娠中の対象上の部位を汚染除去するための説明書を含みうる。特定の実施形態において、汚染除去は、採取部位に漂白剤を適用することによって、採取部位にアルコールワイプを適用することによって、採取部位を紫外線で処理することによって、採取部位にグルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、及び/若しくはヨウ素を適用することによって、採取部位にブラシ(例えば、爪ブラシ)を適用することによって行われる。
【0026】
本開示は更に、妊娠中の対象から生物学的サンプルを得るための装置及びキットを提供する。本装置及びキットは、採血管、ランセット、又は対象から静脈血又は毛細管血を採取するのに有用な装置、止血帯、包帯、アルコール綿棒、爪ブラシ若しくは皮膚ブラシ、及びキットを使用するための説明書を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、本キットは、汚染除去剤を更に含む。特定の実施形態において、汚染除去剤は、漂白剤、アルコールワイプ、グルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、及び/又はヨウ素である。他の実施形態において、静脈血又は毛細管血を得るための装置は、ランセット(例えば、BD Microtainer接触活性化ランセット)、シリンジ、及び/又はプッシュボタン式採血装置(例えば、Seventh Sense Biosystems社のTAP装置)である。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは、チューブ内に、カード上に、及び/又は綿棒上に採取される。
【0027】
本開示は、妊娠中の対象の生物学的サンプル中のY染色体DNAを検出するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、核酸プライマー及び/又はプローブのセットは、サンプル中のY染色体DNAを増幅及び/又は検出するために使用される。本開示の方法で使用されるプライマー及びプローブは、Y染色体上の1つ以上の標的又は標的領域(例えば、Y染色体上の遺伝子)を標的としうる。いくつかの実施形態において、Y染色体上の標的は、SRY、DYS、又はDAZである。いくつかの実施形態において、本方法はサンプル中のY染色体DNAを検出するために、Y染色体上の1つ以上の標的を使用する。他の実施形態において、標的はY染色体上の1つ以上の位置に存在するDNA配列である。
【0028】
本開示のキットは、様々な在胎期間においてサンプルを採取するための説明書を含む。いくつかの実施形態において、説明書は、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、12週、13週、14週、15週、16週、17週、18週、19週、20週、21週、22週、23週、24週、25週、30週、35週、又は40週の在胎期間におけるサンプル採取について記載している。いくつかの実施形態において、胎児の在胎期間は、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日、31日、32日、33日、34日、35日、36日、37日、38日、39日、40日、41日、42日、49日、56日、63日、70日、77日、84日、100日、150日、200日、又は250日である。
【0029】
本開示の方法、組成物、装置、及びキットは、妊娠中の対象に由来する生物学的サンプル中の極少量のY染色体DNAを検出するために使用され得る。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、サンプル中の約1から0.1ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.9ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.8ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.7ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.6ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.5ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.4ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.3ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.2ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.1ゲノム当量のcffDNAを検出し得る。いくつかの実施形態において、生物学的サンプル中の胎児画分は、約4%、約3%、約2%、約1%、又は1%未満である。
【0030】
本開示のこれら及び他の実施形態は、本明細書の開示に照らして当業者には容易に想起され、そのような実施形態は全て具体的に企図される。
【0031】
本開示の限定のそれぞれは、本開示の様々な実施形態を包含し得る。したがって、任意の1つの要素又は要素の組み合わせを伴う本開示の限定のそれぞれは、本開示の各態様に含まれ得ることが前もって考慮されている。本開示は、その応用において、以下の説明に記載されている構造の詳細及び成分の配置に限定されない。本開示は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で実施又は実行され得る。また、本明細書で使用される表現及び用語は、説明を目的としたものであり、限定を課すものと見なされるべきではない。本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」、又は「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」及びそれらのバリエーションの使用は、その後に列挙される項目及びその等価物、並びに追加の項目を包含することを意味する。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数形への参照を含むことに留意しなければならない。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコール、細胞株、アッセイ、及び試薬に限定されず、これらは変動してもよいことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、本開示の特定の実施形態を説明することを意図しており、添付の特許請求の範囲に記載される本開示の範囲を限定することを決して意図していないことも理解されたい。
【0033】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数形への参照を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「核酸」への言及は、複数のそのような核酸を含み、「組成物」への言及は、1つ以上の組成物及び当業者に公知のその等価物等への言及となる。
【0034】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的な用語は、本開示に照らして読んだ場合に、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中で記述されるものと類似若しくは等価なあらゆる方法及び材料が、本開示の実施若しくは試験のために使用されうるものの、好ましい方法、装置及び材料がこれから記述される。本明細書で引用される全ての刊行物は、本開示に関連して使用されうる刊行物において報告されている方法論、試薬、及びツールを説明及び開示する目的で、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる部分も、本開示が、先の開示によりそのような開示に先行する資格がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0035】
本開示の実施は、特に断らない限り、当業者の技術の範囲内で、化学、生化学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学及び薬学の従来的な方法を利用するであろう。そのような技術は、文献中に十分に説明されている。例えば、Gennaro, A.R.編、(1990)「Remington's Pharmaceutical Sciences(第18版)」、Mack Publishing Co.; Colowick, S.ら編、「Methods In Enzymology」、Academic Press, Inc.;「Handbook of Experimental Immunology(第I~IV巻)」(D.M. Weir及びC.C. Blackwell編、1986、Blackwell Scientific Publications); Maniatis, T.ら編、(1989)「Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第2版)(第I~III巻)」、Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F. M.ら編、(1999)「Short Protocols in Molecular Biology(第4版)」、John Wiley & Sons; Reamら編、(1998)「Molecular Biology Techniques: An Intensive Laboratory Course」、Academic Press;「PCR (Introduction to Biotechniques Series)(第2版)」(Newton & Graham編、1997、Springer Verlagを参照されたい。
【0036】
本開示は、生物学的サンプル中の胎児核酸の迅速且つ直接的な検出と、胎児の性別の決定のための方法及び組成物を提供する。特に、本発明者らは、妊娠中の対象由来の生物学的サンプル中における胎児核酸の存在を検出する迅速な胎児性別検査を開発した。本開示は、母体サンプル(例えば、母体血液)中に存在する胎児核酸が、対象における胎児の性別を判定するための迅速検査で検出されうることを実証している。
【0037】
本開示は、妊娠中の対象における胎児の性別を判定するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、本方法は、対象における胎児の性別を少なくとも99%の正確度で判定する。
【0038】
本開示はまた、本明細書に記載の方法において使用するための組成物を提供する。そのような組成物は、化合物、プライマー、プローブ、抗凝固剤、細胞固定剤、プロテアーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、タンパク質、DNA若しくはRNA保存剤を含む保存剤を含みうる。
【0039】
本開示は更に、妊娠中の対象から生物学的サンプルを採取するためのキット、又は対象における胎児の性別を判定するためのキットを提供する。これらの実施形態において、本キットは、採血管、ランセット、又は対象から静脈血又は毛細管血を採取するのに有用な装置、止血帯、包帯、アルコール綿棒、爪ブラシ若しくは皮膚ブラシ、及びキットを使用するための説明書を含んでいてもよい。
【0040】
本明細書において、各セクションの見出しは整理の目的のみに使用されており、本明細書に記載される主題をいかなる意味においても限定するものとして解釈されるべきものではない。
【0041】
生物学的サンプル
本開示は、妊娠中の対象における胎児の性別を判定するための方法、組成物、及びキットを提供する。一般に、本開示の方法は、妊娠中の対象から得られた生物学的サンプル中におけるY染色体DNAの検出を含む。胎児核酸を含む生物学的サンプルは、妊娠中の対象から得られうる。対象から得られる生物学的サンプルは、典型的には血液であるが、分析される核酸を含む体液、組織又は細胞由来の任意のサンプルであり得る。生物学的サンプルは、全血、血清、血漿、尿、子宮頸部スワブ、唾液、口腔スワブ、及び/又は羊水を含みうるが、これらに限定はされない。
【0042】
いくつかの実施形態において、本開示の生物学的サンプルは血液から取得され得る。いくつかの実施形態では、約0.01~10mLの血液が対象から得られる。他の実施形態では、約10~50mLの血液が対象から得られる。いくつかの実施形態では、一滴の血液が対象から採取される。血液は、腕、脚、指、又は中心静脈カテーテルを介してアクセス可能な血液を含む、身体の任意の適切な領域から取得され得る。いくつかの実施形態では、ランセットを使用して指から血液が採取される。他の実施形態では、血液は静脈穿刺によって腕から採取される。更に他の実施形態では、血液は採血装置(例えば、Seventh Sense Biosystems社(マサチューセッツ州)のTAP採血装置)を使用して腕から採取される。いくつかの実施形態では、血液は治療又は活動後に採取される。例えば、血液は健康診断の後に採取され得る。また、サンプル中に存在する胎児核酸の量を増やすために、採取のタイミングが調整され得る。例えば、血液は運動後又はオレンジジュースを飲んだ後に採取され得る。
【0043】
血液は、その後の検査のためにサンプルを保存又は調製するために、採取後に様々な成分と混合されてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、血液は、採取後に抗凝固剤、細胞固定剤、プロテアーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、タンパク質、DNA、又はRNA保存剤により処理される。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルはバッファー組成物と共にインキュベートされる。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは細胞安定化剤組成物と共にインキュベートされる。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは保存剤組成物と共にインキュベートされる。いくつかの実施形態において、保存剤は抗凝固剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ヘパリン)、抗菌剤(例えば、イミダゾリジニル尿素)、糖、及び/又はアミノ酸である。他の実施形態において、保存剤は固体、液体、及び/又はゲルである。いくつかの実施形態において、血液は、EDTA、EGTA、又はヘパリン等の抗凝固剤を含む真空採取管を使用する静脈穿刺によって採取される。また、血液は、ヘパリンをコーティングした注射器及び皮下注射針を使用して採取されてもよい。血液はまた、それに含まれる胎児核酸のその後の分析に有用となる成分と組み合わせられてもよい。
【0044】
対象から得られる生物学的サンプルの容量は、10ul~10mlでありうる。いくつかの実施形態において、Y染色体DNAを検出するために使用されるサンプルの容量は、微小容量である。特定の実施形態において、微小容量は約1,000ul、約900ul、約800ul、約700ul、約600ul、約500ul、約400ul、約300ul、約200ul、約150ul、約100ul、約50ul、約25ul、約10ulである。血液サンプルは典型的には、血液中に存在する酵素による核酸の有意な分解を防ぐために、採取時から数時間以内に処理される。本開示の方法は、対象から採取してから数か月後まで、生物学的サンプルを処理することを可能とする。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは、1秒以内、30秒以内、1分以内、10分以内、30分以内、1時間以内、2時間以内、12時間以内、24時間以内、又は48時間以内に処理される。
【0045】
生物学的サンプルは、非母体又は非胎児由来の汚染DNA(例えば、他人からの接触DNA)を含まないものであるべきである。本開示の様々な方法では、胎児が男か女かを判定するために、生物学的サンプル中のY染色体DNAの有無が使用される。汚染されたY染色体DNA(すなわち、非胎児Y染色体DNA)は、本開示の胎児性分析において偽陽性の結果を生じる可能性がある。いくつかの態様において、母体血液は、一般的に汚染されたY染色体DNAを含まない身体上の部位から採取される。いくつかの実施形態において、採血部位は上腕である。TAP血液検体採取装置は、母体の血液サンプルを採取するために使用される。TAP採血装置は、毛細管現象と真空抽出という2つのメカニズムの組み合わせを用いる使い捨て型の滅菌採血輸送装置である。本装置は、視覚的な充填量表示ウインドウを備えた統合リザーバから成る。本装置は、約100~500μLの毛細管全血を採取して収容するように設計されている。内部流体経路は、ヘパリンリチウム、EDTA、EGTA、又はその他の抗凝固剤及び/若しくは保存剤でコーティングされている。本装置の上部には、ボタンと充填量表示ウインドウが含まれている。装置の基部には、ハイドロゲル粘着剤の層を覆う剥離ライナーが含まれている。ハイドロゲル粘着剤は皮膚に密着し、使用中に装置を所定の位置に保持する。TAP装置は、皮膚を穿刺するためのマイクロニードルのアレイを含む。マイクロニードルはバネによって作動し、装置上のボタン又はレバーを押すと解放される。本装置は、トレイ及びホイルパウチ中の滅菌状態で提供される。細胞を安定化し、核酸を保存するために、場合により、保存剤又は細胞安定化剤がTAP装置において使用され得る。いくつかの実施形態において、TAPデバイス内の保存剤は、検査プロセス中における血液サンプルの有意なゲノムDNA汚染を防止する。いくつかの実施形態において、保存剤を含むTAP装置は、検査工程中の採血後における血液サンプルの細胞溶解及び/又はDNase及びRNase活性による無細胞核酸分解を実質的に防止する。
【0046】
いくつかの実施形態において、血液試料は、血液の細胞画分から血漿画分を分離するために更に処理される。血漿から細胞を排除するために、免疫学的捕捉及び濾過を利用する分離方法が使用されうる(Suら、Micromachines 2020、11、352)。この方法では、赤血球は分離マトリクス中にコーティングされた抗体によって捕捉及び固定化することができ、残りの細胞は市販の血漿精製膜によってサンプルから完全に除去され得る。ヘマトクリット(Hct)値65%の抗凝固処理全血サンプル400uLが、1つのピペットのみを用いて本装置によって5分で分離され得る。未処理の血液サンプルから最大97%の血漿を回収でき、分離効率は100%である。別の方法では、全血から血漿を生成するために高度に非対称な膜が使用される。膜の高度に非対称な性質は、血液の細胞成分(赤血球、白血球、及び血小板)が溶解することなく大きな細孔中に捕捉される一方、血漿が膜の下流側にある小さな細孔へと流れ落ちることを可能とする(例えば、VIVID血漿分離膜、PALL社)。迅速な分離プロセスは、従来的な遠心分離血漿と同様なHPLC及びSDS PAGEプロファイルの血漿を2分未満でもたらす。
【0047】
妊娠中の対象
本開示は、妊娠中の対象における胎児の性別の判定のための方法、組成物、及びキットを提供する。妊娠は、自然受胎(すなわち、自然妊娠)の結果であっても、生殖補助医療(例えば、体外受精)の使用による結果であってもよい。いくつかの実施形態において、妊娠中の対象は、妊娠するために生殖補助医療(ART)を利用している。いくつかの態様において、生殖補助医療は、体外受精、不妊治療薬(例えば、クロミフェン)の使用、排卵誘発、凍結保存、及び/又は細胞質内精子注入である。いくつかの実施形態において、妊娠中の対象はハイリスク妊娠である。他の実施形態において、妊娠中の対象は、伴性劣性疾患又は障害の保因者である。
【0048】
本開示は、妊娠中の様々な時点で胎児の性別を判定するのに有用な方法、組成物、及びキットを提供する。在胎期間は、女性の最終月経期間(LMP)の開始時から測定される妊娠の期間、又は利用可能な場合は、より正確な方法によって推定された対応する在胎期間である。そのような方法は、(体外受精で可能であるように)受精からの既知の期間に14日を加えること、又は産科超音波検査によるものを含む。いくつかの実施形態において、胎児の在胎期間は、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、12週、13週、14週、15週、16週、17週、18週、19週、20週、21週、22週、23週、24週、25週、30週、35週、又は40週である。いくつかの実施形態において、胎児の在胎期間は、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日、31日、32日、33日、34日、35日、36日、37日、38日、39日、40日、41日、42日、49日、56日、63日、70日、77日、84日、100日、150日、200日、又は250日である。
【0049】
検査性能
本開示の方法、組成物、及びキットは、妊娠中の対象における胎児の性別を判定するための検査に使用されうる。胎児性別検査の性能は、検査の感度、特異度、ROC曲線下面積(AUC)、正確度、陽性的中率(PPV)、及び陰性的中率(NPV)を決定することにより評価され得る。本明細書で開示されるのは、妊娠中の対象における胎児の性別を判定するための検査である。
【0050】
検査の性能は、感度に基づいていてもよい。本開示の検査の感度は、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%でありうる。検査の性能は、特異度に基づいていてもよい。本開示の検査の特異度は、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%でありうる。検査の性能は、ROC曲線下面積(AUC)に基づいていてもよい。本開示の検査のAUCは、少なくとも約0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、又は0.95でありうる。検査の性能は、正確度に基づいていてもよい。本開示の検査の正確度は、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%でありうる。
【0051】
本開示の方法、組成物、及びキットの性能は、複数の集団において決定されている。いくつかの実施形態において、本開示の方法、組成物、及びキットの性能は、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、及び/又は1,000人以上の妊娠中の対象の集団において決定されている。特定の態様において、本開示の検査の正確度は、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、及び/又は1,000人以上の妊娠中の対象の集団において決定されている。特定の態様において、本開示の検査の感度は、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、及び/又は1,000人以上の妊娠中の対象の集団において決定されている。特定の態様において、本開示の検査の特異度は、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、及び/又は1,000人以上の妊娠中の対象の集団において決定されている。
【0052】
サンプル中の核酸の任意選択的な増幅
本開示は、生物学的サンプルから核酸を増幅するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、本開示の検査の感度は、検出を核酸増幅と組み合わせることによって高められ得る。いくつかの実施形態において、サンプル中の核酸は、CRISPR組成物と接触する前に増幅される。他の実施形態において、サンプル中の核酸は、CRISPR組成物との接触と同時に増幅される。例えば、いくつかの実施形態において、検査は、増幅されたサンプルをCRISPR組成物と接触させる前に、(例えば、サンプルを増幅組成物と接触させることにより)サンプルの核酸を増幅させることを含む。いくつかの実施形態において、検査は、サンプルをCRISPR組成物と接触させるのと同じ時(同時)に、サンプルを増幅組成物と接触させることを含む。
【0053】
いくつかの実施形態において、核酸は、増幅された核酸をCRISPR組成物と接触させる前に、(例えば、増幅組成物との接触によって)増幅される。場合によっては、CRISPR組成物との接触前に、増幅が10秒以上(例えば、30秒以上、45秒以上、1分以上、2分以上、3分以上、4分以上、5分以上、7.5分以上、10分以上等)生じる。場合によっては、CRISPR組成物との接触前に、増幅が2分以上(例えば、3分以上、4分以上、5分以上、7.5分以上、10分以上等)生じる。場合によっては、10秒から60分の範囲の時間(例えば、10秒から40分、10秒から30分、10秒から20分、10秒から15分、10秒から10分、10秒から5分、30秒から40分、30秒から30分、30秒から20分、30秒から15分、30秒から10分、30秒から5分、1分から40分、1分から30分、1分から20分、1分から15分、1分から10分、1分から5分、2分から40分、2分から30分、2分から20分、2分から15分、2分から10分、2分から5分、5分から40分、5分から30分、5分から20分、5分から15分、又は5分から10分)にわたって増幅が生じる。場合によっては、5分から15分の範囲の時間にわたって増幅が生じる。場合によっては、7分から12分の範囲の時間にわたって増幅が生じる。
【0054】
いくつかの実施形態において、サンプルは、CRISPR組成物との接触と同時に増幅組成物と接触させられる。いくつかの実施形態において、CRISPR組成物は、接触の時には不活性であり、サンプル中の核酸が増幅されると活性化される。
【0055】
いくつかの実施形態において、増幅は等温増幅である。「等温増幅」という用語は、単一の温度でのインキュベーションを使用可能であり、それによりサーマルサイクラーの必要性をなくすことができる核酸(例えば、DNA)増幅法(例えば、酵素連鎖反応を使用)を指し示す。等温増幅は、増幅反応中の標的核酸の熱変性に依存しない核酸増幅の一形態であり、それゆえ、複数回の急激な温度変化を必要としない場合がある。したがって、等温核酸増幅法は、検査室環境の内又は外で実行され得る。逆転写工程と組み合わせることにより、これらの増幅方法はRNAを等温増幅するために使用され得る。
【0056】
等温増幅法の例は、ループ媒介等温増幅(LAMP)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)、鎖置換増幅(SDA)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)、転写媒介増幅(TMA)、ニッキング酵素増幅反応(NEAR)、ローリングサークル増幅(RCA)、多重置換増幅(MDA)、ラミフィケーション(RAM)、環状ヘリカーゼ依存性増幅(cHDA)、単一プライマー等温増幅(SPIA)、RNA技術のシグナル媒介増幅(SMART)、自己持続配列複製(3SR)、ゲノム指数増幅反応(GEAR)、及び等温多重置換増幅(IMDA)を含むが、これらに限定はされない。
【0057】
いくつかの実施形態では、増幅はリコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)である(例えば、米国特許第8,030,000号;第8,426,134号;第8,945,845号;第9,309,502号;及び第9,663,820号を参照;これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)は、2つの対向するプライマーを使い(PCRとよく似ている)、リコンビナーゼ、一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)、及び鎖置換ポリメラーゼという3つの酵素を使用する。リコンビナーゼは、二重鎖DNA中の相同配列とオリゴヌクレオチドプライマーとを対にし、SSBは、置換されたDNA鎖に結合してプライマーが置換されるのを防ぎ、鎖置換ポリメラーゼは、プライマーが標的DNAに結合したところでDNA合成を開始する。逆転写酵素をRPA反応に加えることで、cDNAを生成するための別の工程を必要とせずに、DNAと同様にRNAの検出も容易にすることができる。RPA反応の成分の一例は、以下の通りである(例えば、米国特許第8,030,000号;第8,426,134号;第8,945,845号;第9,309,502号;第9,663,820号を参照):50mMのTris pH 8.4、80mMの酢酸カリウム、10mMの酢酸マグネシウム、2mMのDTT、5%のPEG化合物(Carbowax-20M)、3mMのATP、30mMのホスホクレアチン、100ng/μlのクレアチンキナーゼ、420ng/μlのgp32、140ng/μlのUvsX、35ng/μlのUvsY、2000MのdNTPs、300nMの各オリゴヌクレオチド、35ng/μlのBsuポリメラーゼ、及び核酸含有サンプル)。
【0058】
いくつかの実施形態において、増幅はループ媒介増幅(LAMP)である。LAMPは、鎖置換能力を有する耐熱性ポリメラーゼと、4つ以上の特異的に設計されたプライマーのセットを使用する。各プライマーは、自己プライミングと更なるポリメラーゼ伸長を促進するために、一旦置換されるとヘアピン状に折り返されるヘアピン末端を持つように設計されている。LAMP反応では、反応は等温条件下で進行するが、二本鎖標的の場合には最初に熱変性工程が必要とされる。更に、増幅は、様々な長さの生成物のラダー状のパターンをもたらす。いくつかの実施形態において、増幅は鎖置換増幅(SDA)である。SDAは、標的DNAの未修飾鎖にニックを入れる制限エンドヌクレアーゼの能力と、ニックの3'末端を伸長させて下流のDNA鎖を置き換えるエキソヌクレアーゼ欠損DNAポリメラーゼの能力を組み合わせたものである。
【0059】
核酸
本開示は、妊娠中の対象から得られた生物学的サンプル中の核酸を検出するための方法、組成物、検査、及びキットを提供する。いくつかの実施形態において、核酸は、無細胞胎児核酸(例えば、cffDNA)である。いくつかの実施形態において、核酸は、胎児細胞由来のゲノム胎児核酸(例えば、gfDNA)である。他の実施形態において、核酸は胎児RNAである。いくつかの実施形態において、DNA及び/又はRNAは、メチル化DNA及び/又はメチル化RNAである。いくつかの実施形態において、本開示の核酸の配列は、約15ヌクレオチドからY染色体上の配列の全長までの範囲の長さでありうる。本開示の一実施形態において、核酸配列は、少なくとも約15ヌクレオチドの長さである。別の実施形態において、核酸配列は、少なくとも約20ヌクレオチドの長さである。更なる実施形態において、核酸配列は、少なくとも約25ヌクレオチドの長さである。別の実施形態において、核酸配列は、約15ヌクレオチドから約500ヌクレオチドの間の長さである。他の実施形態において、核酸標的配列は、約15ヌクレオチドから約450ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約400ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約350ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約300ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約250ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約200ヌクレオチドの間の長さである。いくつかの実施形態において、プローブは、少なくとも15ヌクレオチドの長さである。いくつかの実施形態において、核酸配列は、少なくとも15ヌクレオチドの長さである。いくつかの実施形態において、核酸配列は、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも75ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチド、少なくとも125ヌクレオチド、少なくとも150ヌクレオチド、少なくとも200ヌクレオチド、少なくとも225ヌクレオチド、少なくとも250ヌクレオチド、少なくとも275ヌクレオチド、少なくとも300ヌクレオチド、少なくとも325ヌクレオチド、少なくとも350ヌクレオチド、少なくとも375ヌクレオチドの長さである。
【0060】
一実施形態において、本開示の装置によって検出される核酸は、Y染色体から選択される1つ以上の標的配列である。いくつかの実施形態において、標的配列は、Y染色体上の複数の位置に存在する。特定の実施形態において、標的配列は、Y染色体上の2、3、4、5、6、7、8、9、10、約15、約20、約25、約50、約75、約100、約150、約200、約300、約400、約500、約750、約1,000箇所に存在する。本開示のアッセイの感度は、Y染色体上の複数の位置に存在する標的配列を検出及び/又は増幅することによって高められ得る。目的の標的配列に相当する標的核酸の検出及び/又は定量を可能にするために、標識がプローブ又はプライマーポリヌクレオチドに結合又は組み込まれていてもよい。
【0061】
Y染色体上の複数の標的配列の検出は、別々に、又は1つの検査サンプルで同時に実施されうる。いくつかの実施形態において、Y染色体上の標的核酸は、SRY、DYS、及び/又はDAZである。本開示において参照される標的配列の組み合わせから成るアッセイが構築されてもよい。そのようなパネルは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、又はそれ以上の標的配列を使用して構築されうる。単一の標的配列又はより大きなY染色体標的パネルを含む標的配列のサブセットの検出は、様々な状況においてアッセイの感度又は特異度を最適化するための本開示内に記載の方法と共に実施され得る。Y染色体上の標的配列と常染色体由来の対照配列との比率が、胎児の性別を判定するために使用されてもよい。
【0062】
CRISPR/Cas組成物
生物学的サンプル中の核酸の存在を検出するために、CRISPR/Cas系、組成物、及び化学が、本開示の方法において使用されてもよい。CRISPR/Cas系は、2つのクラスに分類することができ、それぞれがいくつかのタイプ及びサブタイプから成っている(その全体が参照により本明細書に組み込まれるMakarovaら、2020)。CRISPR/Casのクラス1系は、複数のエフェクタータンパク質の複合体を含み、ここで、各タンパク質はCRISPRプロセスにおいて単一の機能を実行する。クラス2のCRISPR/Cas系は、CRISPRプロセス内において複数の機能を有する単一のエフェクタータンパク質によって特徴付けられる。クラス2系は、そのシンプルさと高い効率の組み合わせのために、生物工学及びCRISPR診断において最もよく使用されている。クラス2系は、CRISPRセンシングにおいて一般的に使用される3つのタイプ(タイプII、V、及びVI)に細分化され得る。
【0063】
クラス2のCRISPR/Cas系は、RNA配列と結合してリボ核タンパク質(RNP)監視複合体を形成する単一のマルチドメインタンパク質によって特徴付けられる。このRNA配列は、ガイドRNA(gRNA)と呼ばれる。gRNAは、標的DNAに対する特異性及び選択性を規定するcrRNAと呼ばれるカスタマイズ可能な成分と、二次構造を含む非コードRNA部分から成る。この非コード部分は、gRNAとエフェクタータンパク質の間の広範な水素結合接触と芳香族スタッキングによって、gRNAとエフェクタータンパク質の間の結合を促進する(ChenとDoudna、2017;Slaymakerら、2019;これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。結晶学によって確認されているように、gRNAとタンパク質の間の相互作用は、エフェクタータンパク質の構造変化を誘導する(Nishimasuら、2014;Slaymakerら、2019;Yamanoら、2016;これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。これらの構造変化は、エフェクタータンパク質を「活性化」して、RNP監視複合体の形成を誘導し、これは核酸をスキャンして、そのcrRNAに相補的な配列を標的とした酵素分解を行う。
【0064】
1つ以上のcnRNAが、本開示の方法において使用され得る。いくつかの実施形態では、単一のcrRNA、2つのcrRNA、3つのcrRNA、4つのcrRNA、5つのcrRNA、6つのcrRNA、7つのcrRNA、8つのcrRNA、9つのcrRNA、10個のcrRNA、又は10を超えるcrRNAが、本開示の方法において使用される。
【0065】
常温保存可能な保護組成物
本開示により、常温保存可能な保護組成物が提供される。いくつかの実施形態において、本組成物は、核酸を増幅及び/又は検出するために使用される試薬であり、室温で安定である。そのような保護組成物は、本開示で使用される他の組成物の保存寿命を延ばすのに役立つ。いくつかの実施形態において、保護剤は2%のトレハロース、10%のプルランを含む。いくつかの実施形態において、2%トレハロース、10%プルランは、1:1の容量比でCRISPR組成物と混合される。特定の実施形態では、混合物は加熱乾燥されて、小さなフィルムシートとなる。他の実施形態において、CRISPR組成物は、フリーズドライ及び/又は凍結乾燥される。他の実施形態において、保護試薬は、トレハロース及びデキストランを含む。いくつかの実施形態において、保護試薬は、約10%のトレハロース、約20%のトレハロース、約30%のトレハロース、約40%のトレハロース、約50%のトレハロース、約80%のトレハロース、又は約90%のトレハロースを含む。他の実施形態において、保護試薬は、約10%のデキストラン、約20%のデキストラン、約30%のデキストラン、約40%のデキストラン、約50%のデキストラン、約80%のデキストラン、又は約90%のデキストランを含む。
【0066】
いくつかの実施形態において、保護組成物は、増幅組成物及び/又は検出組成物を更に含む。いくつかの実施形態において、保護組成物は、サンプル採取に先立ちサンプル容器中に存在する。他の実施形態において、保護組成物は、サンプル採取後に生物学的サンプルに添加される。いくつかの実施形態において、検出試薬は、生物学的サンプルを採取するために使用される容器の蓋に沈着している。
【0067】
検出方法及び装置
本開示は、生物学的サンプル中の胎児核酸を迅速に検出するための方法を提供する。例えば、蛍光検出法、比色検出法、又は電子検出法を含む、複数の検出方法が使用されうる。
【0068】
具体的に企図される電子的検出方法は、電気化学チップ;グラフェン効果トランジスタ;ナノポアセンサー;電気化学発光;SMRセンサー;ナノ動電学チップ;及びマイクロアレイを含む。
【0069】
標的核酸がサンプル中で検出されたことを指し示すシグナルを検出するために、スマートフォンが、本開示の装置と組み合わせて使用されうる。一実施形態では、RGB画像が1時間にわたって30秒ごとに取得され、画像がソフトウェアを使用してオフラインで分析される。いくつかの実施形態において、RGB画像は更にグレースケール画像へとデモザイク処理される。いくつかの実施形態では、飽和したピクセル又は2つの大きく異なる緑色のサブモザイク値を示すピクセルは除外される。他の実施形態では、長方形の画像関心領域(ROI)が、検出ゾーン内に描かれ、ROI内のレポーターシグナルが、ピクセル値を使用することによって決定される。
【0070】
生物学的サンプル中の核酸を検出するために、ラテラルフローアッセイ(LFA)又はラテラルフローストリップが、本開示の方法及び装置において使用されうる。LFAプラットフォームは、標的配列認識要素としてCasエフェクタータンパク質を組み込むように適合されうる。いくつかの実施形態では、市販の汎用テストストリップ、HybriDetect-Universal Lateral Flow Assay Kitが使用されうる。このディップスティックは、もともとタンパク質、抗体、又は遺伝子アンプリコンの定性的、更には定量的な迅速検査用に設計されたものであるが、いくつかのLFAベースのCRISPRセンシング方法において機能するように適合されている(Baiら、2019;Changら、2019;Gootenbergら、2018;Kaminskiら、2020;Mukamaら、2020b;Sullivanら、2019;Tsouら、2019)。このプラットフォームは、ストレプトアビジンのラインと抗FITCコーティングAuNPを捕捉できる抗体のラインを提供する。一本鎖レポーターヌクレオチドの5'末端と3'末端の両方をビオチンとFITCで二重に標識することにより、テストラインの強度が、Casエフェクタータンパク質によって行われたコラテラル切断(collateral cleavage)の量の尺度となり得る。較正により、コラテラル切断活性は、もとのサンプル中に存在する標的配列濃度に関連付けられ得る。この方法では、標的配列の増幅を行わずに、フェムトモル(10-15M)の濃度が1時間以内に測定され得ることが示されている。いくつかの実施形態では、アトモル(10-18M)、更にはゼプトモル(10-21M)濃度のLODまで更に下げるために、等温増幅がCRISPR化学検出に先だって実行される。
【0071】
Y染色体の検出
本開示は、妊娠中の対象から得られた生物学的サンプル中のY染色体核酸を検出するための方法、組成物、検査、及びキットを提供する。いくつかの実施形態において、Y染色体核酸は、無細胞胎児核酸(例えば、cffDNA)である。いくつかの実施形態において、Y染色体核酸は、胎児細胞由来のゲノム胎児核酸(例えば、gfDNA)である。いくつかの実施形態において、Y染色体核酸は胎盤由来である。
【0072】
本開示は、生物学的サンプル中のY染色体核酸を検出するための組成物を提供する。いくつかの実施形態において、本組成物は、Y染色体上の少なくとも1つの標的配列を増幅及び検出することができるプライマー及び/又はプローブである。プローブセットは、1つ以上のポリヌクレオチドプローブを含んでいてもよい。個々のポリヌクレオチドプローブは、標的配列のヌクレオチド配列又はその相補配列に由来するヌクレオチド配列を含む。ポリヌクレオチドプローブのヌクレオチド配列は、標的配列に対応するか、又は相補的であるように設計される。ポリヌクレオチドプローブは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件又は、より低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下で、標的配列の領域に特異的にハイブリダイズすることができる。ポリヌクレオチドプローブ配列の選択及びそれらの一意性の決定は、例えば、ヒトゲノム配列、UniGene、dbEST又はNCBIの非冗長データベースのような、遺伝子配列データベースに対する問題のポリヌクレオチド配列のBLASTN検索に基づき、当該分野で公知の技術を用いてin silicoで実施されうる。本開示の一実施形態において、ポリヌクレオチドプローブは、プローブセット内の標的配列に由来する標的mRNAの領域に相補的である。また、クロスハイブリダイズしない、又は非特異的にハイブリダイズしないと思われるプローブ配列を選択するために、コンピュータープログラムも使用され得る。
【0073】
本開示のポリヌクレオチド標的配列は、約15ヌクレオチドからY染色体上の標的配列の全長までの範囲の長さでありうる。本開示の一実施形態において、ポリヌクレオチド標的配列は、少なくとも約15ヌクレオチドの長さである。別の実施形態において、ポリヌクレオチド標的配列は、少なくとも約20ヌクレオチドの長さである。更なる実施形態において、ポリヌクレオチド標的配列は、少なくとも約25ヌクレオチドの長さである。別の実施形態において、ポリヌクレオチド標的配列は、約15ヌクレオチドから約500ヌクレオチドの間の長さである。他の実施形態において、ポリヌクレオチド標的配列は、約15ヌクレオチドから約450ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約400ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約350ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約300ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約250ヌクレオチド、約15ヌクレオチドから約200ヌクレオチドの間の長さである。いくつかの実施形態において、プローブは、少なくとも15ヌクレオチドの長さである。いくつかの実施形態において、標的配列は、少なくとも15ヌクレオチドの長さである。いくつかの実施形態において、標的配列は、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも75ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチド、少なくとも125ヌクレオチド、少なくとも150ヌクレオチド、少なくとも200ヌクレオチド、少なくとも225ヌクレオチド、少なくとも250ヌクレオチド、少なくとも275ヌクレオチド、少なくとも300ヌクレオチド、少なくとも325ヌクレオチド、少なくとも350ヌクレオチド、少なくとも375ヌクレオチドの長さである。
【0074】
本開示は更に、Y染色体上の標的配列を増幅することができるプライマー及びプライマー対を提供する。プライマーセットのヌクレオチド配列は、in silicoにおける応用のため、及びプライマーセットの1つ以上の標的配列の増幅のための適切なプライマーの設計のための基礎として、コンピューター可読媒体中に提供されてもよい。
【0075】
標的配列のヌクレオチド配列に基づくプライマーは、標的配列の増幅に使用するために設計され得る。一実施形態において、プライマー又はプライマー対は、増幅反応において使用される場合、Y染色体から選択される標的の核酸配列の少なくとも一部を特異的に増幅する。いくつかの実施形態において、標的配列は、Y染色体上の複数の位置に存在する。特定の実施形態において、標的配列は、Y染色体上の2、3、4、5、6、7、8、9、10、約15、約20、約25、約50、約75、約100、約150、約200、約300、約400、約500、約750、約1,000箇所に存在する。本開示のアッセイの感度は、Y染色体上の複数の位置に存在する標的配列を検出及び/又は増幅することによって高められ得る。本開示の方法では、複数のプライマー対が使用され得る。例えば、二重又は多重増幅アッセイが、本開示のアッセイの検出限界を高めるために使用されうる。目的の標的配列に相当する標的ポリヌクレオチドの検出及び/又は定量を可能にするために、標識が、プローブ又はプライマーポリヌクレオチドに結合又は組み込まれていてもよい。
【0076】
Y染色体上の複数の標的配列の分析は、1つの検査サンプルで別々に、又は同時に実施されうる。いくつかの実施形態において、Y染色体上の標的は、SRY、DYS、及び/又はDAZである。本開示において参照される標的配列の組み合わせから成るアッセイが構築されてもよい。そのようなパネルは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、又はそれ以上の標的配列を使用して構築されうる。単一の標的配列又はより大きなY染色体標的パネルを含む標的配列のサブセットの分析は、様々な状況においてアッセイの感度又は特異度を最適化するための本開示内に記載の方法と共に実施され得る。Y染色体上の標的配列と常染色体由来の対照配列との比率が、胎児の性別を判定するための本開示のアルゴリズムにおいて使用されてもよい。
【0077】
本開示の方法、組成物、及びキットは、妊娠中の対象に由来する生物学的サンプル中の極少量のY染色体DNAを検出するために使用され得る。いくつかの実施形態において、本開示の方法は、サンプル中の約1から0.1ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.9ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.8ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.7ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.6ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.5ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.4ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.3ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.2ゲノム当量のcffDNA、サンプル中の約0.1ゲノム当量のcffDNAを検出し得る。他の実施形態において、本開示の方法は、Y染色体DNAの単一コピーを検出することができる。
【0078】
他の実施形態において、本開示の方法は、Y染色体DNAを検出する際に生成されるデータを解釈することを更に含む。いくつかの実施形態において、解釈は機械学習アルゴリズム、サイクル閾値(CT)アルゴリズム、又は人工知能を使用して実行される。
【0079】
キット及び装置
本開示の別の態様は、妊娠中の対象から生物学的サンプルを採取するための、又は妊娠中の対象由来の生物学的サンプル中のY染色体核酸を検出するためのキットを包含する。異なる成分を有する様々なキットが本開示によって企図される。一般的に言えば、本キットは、妊娠中の対象由来の生物学的サンプル中においてY染色体を検出するための手段を含む。別の実施形態では、本キットは、生物学的サンプルを採取するための手段及びキット内容物の使用説明書を含む。特定の実施形態において、本キットは、生物学的サンプル中の胎児核酸を豊富化又は単離するための手段を含む。更なる態様において、胎児核酸を豊富化又は単離するための手段は、生物学的サンプルから胎児核酸を豊富化又は単離するために必要な試薬を含む。
【0080】
本開示のキットは、サンプルが採取される妊娠中の対象上の部位を汚染除去するための説明書を含みうる。特定の実施形態において、汚染除去は、採取部位に漂白剤を適用することによって、採取部位にアルコールワイプを適用することによって、採取部位を紫外線で処理することによって、採取部位にグルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、及び/若しくはヨウ素を適用することによって、採取部位にブラシ(例えば、爪ブラシ)を適用することによって行われる。
【0081】
本開示は更に、妊娠中の対象から生物学的サンプルを得るためのキットを提供する。本キットは、採血管、ランセット、又は対象から静脈血若しくは毛細管血を採取するのに有用な装置、止血帯、包帯、アルコール綿棒、爪ブラシ若しくは皮膚ブラシ、及びキットを使用するための説明書を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、本キットは、汚染除去剤を更に含む。特定の実施形態において、汚染除去剤は、漂白剤、アルコールワイプ、グルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、及び/又はヨウ素である。他の実施形態において、静脈血又は毛細管血を得るための装置は、ランセット(例えば、BD Microtainer接触活性化ランセット)、シリンジ、及び/又はプッシュボタン式採血装置(例えば、TAP装置)である。いくつかの実施形態において、生物学的サンプルは、チューブ内に、カード上に、及び/又は綿棒上に採取される。
【0082】
本開示の方法及びキットは、サンプル採取のための最小の在胎期間又は在胎期間の範囲を提供する説明書を含み得る。いくつかの実施形態において、最小の在胎期間は、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、12週、13週、14週、15週、16週、17週、18週、19週、20週、21週、22週、23週、24週、25週、30週、35週、又は40週である。いくつかの実施形態において、在胎期間は、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日、31日、32日、33日、34日、35日、36日、37日、38日、39日、40日、41日、42日、49日、56日、63日、70日、77日、84日、100日、150日、200日、又は250日である。
【0083】
本開示は、生物学的サンプル中の1つ以上の標的胎児核酸の存在を検出するための装置であって、ラテラルフローストリップ;検出可能な粒子又は標識を含む前記ラテラルフローストリップ上の検出領域;胎児核酸を含む母体の生物学的サンプルを含む流体サンプルを含み、前記検出領域が、毛細管流により2時間未満で流体サンプル中の標的胎児核酸の存在を指し示す視覚的比色シグナルを提供する、装置を提供する。いくつかの実施形態において、本開示の装置は、CRISPR組成物、保存剤組成物、増幅組成物、及び/又は保護剤組成物を更に含む。本開示の装置は、汚染除去剤を更に含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、汚染除去剤は、漂白剤、アルコールワイプ、グルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、及び/又はヨウ素である。
【0084】
本開示のこれら及び他の実施形態は、本明細書の開示に鑑み、当業者には容易に想起されるであろう。
【実施例】
【0085】
本開示は、本開示の純粋な例示であることが意図される以下の実施例を参照することによって更に理解されるであろう。これらの例は、特許請求の範囲に記載の開示を例示するためにのみ提供されている。本開示は、例示された実施形態によって範囲が限定されるものではなく、それらは、本開示の単一の態様の例示としてのみ意図されている。機能的に等価なあらゆる方法が、本開示の範囲内にある。本明細書に記載されたものに加えて、前の記述から本開示の様々な修正が当業者にとって明らかとなるであろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲内におさまることが意図されている。
【0086】
(実施例1)
母体血液からの胎児性別の迅速な判定
母体の血液からの胎児の性別の迅速な判定は、以下のようにして行われる。ビオチン標識プライマー、FAM標識プローブ、及び等温DNAポリメラーゼ酵素を含む増幅組成物を含む採血装置中に250ulの血液サンプルが妊婦から採取される。Y染色体上の標的核酸の等温増幅は、サンプルを39℃で20分間温めることによって実施される。約5~10ulのサンプルが、100ulのフローストリップバッファーを含むチューブへと移される。ビオチン及びFAM標識増幅産物を検出するように設計されたカスタムラテラルフローストリップが、チューブ内の溶液中に入れられる。溶液は、ラテラルフローストリップの上に向かって流れ、サンプルがY染色体上の標的核酸を含む場合には、5から15分以内にストリップ上のテストゾーンに赤いバンドが形成される。陽性のテストバンドは、胎児の性別が男であることを指し示した。5から15分後にテストゾーンにバンドが見えない場合には、Y染色体上の標的核酸はサンプル中に存在せず、胎児の性別は女である。これらの結果は、本開示の胎児性別検査が、60分未満で胎児の性別を正確に判定できることを示している。
【0087】
別の一連の実験では、母体の血液からの胎児の性別の迅速な判定は、以下のようにして行われる。CRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及びFAMビオチン標識レポーターDNA分子を含むCRISPR組成物を含む採血装置中に250ulの血液サンプルが妊婦から採取される。サンプルとCRISPR組成物が、37℃で45分間インキュベートされる。標識レポーターDNA分子のCRISPR誘導性の切断は、Y染色体DNAがサンプル中に存在する場合にのみ生じる。次に、約10ulのサンプルが、100ulのフローストリップバッファーを含むチューブへと移される。ビオチン及びFAM標識増幅産物を検出するように設計されたカスタムラテラルフローストリップが、チューブ内の溶液中に入れられる。溶液は、ラテラルフローストリップの上に向かって流れ、サンプルがY染色体上の標的核酸を含む場合には、5から15分以内にストリップ上のテストゾーンに赤いバンドが形成される。陽性のテストバンドは、胎児の性別が男であることを指し示す。5から15分後にテストゾーンにバンドが見えない場合には、Y染色体上の標的核酸はサンプル中に存在せず、胎児の性別は女である。これらの結果は、本開示の胎児性別検査が、60分未満で胎児の性別を正確に判定できることを示している。
【0088】
別の一連の実験では、母体の血液からの胎児の性別の迅速な判定は、以下のようにして行われる。プライマー及び等温DNAポリメラーゼ酵素を含む増幅組成物と、CRISPR/Casエフェクタータンパク質、ガイドRNA、及びFAMビオチン標識レポーターDNA分子を含むCRISPR組成物とを含む採血装置中に250ulの血液サンプルが妊婦から採取される。Y染色体上の標的核酸の等温増幅は、サンプルを37℃で30分間温めることによって実施される。増幅の際、標識レポーターDNA分子のCRISPR誘導性の切断は、Y染色体DNAがサンプル中に存在する場合にのみ生じる。次に、約10ulのサンプルが、100ulのフローストリップバッファーを含むチューブへと移される。ビオチン及びFAM標識増幅産物を検出するように設計されたカスタムラテラルフローストリップが、チューブ内の溶液中に入れられる。溶液は、ラテラルフローストリップの上に向かって流れ、サンプルがY染色体上の標的核酸を含む場合には、5から15分以内にストリップ上のテストゾーンに赤いバンドが形成される。陽性のテストバンドは、胎児の性別が男であることを指し示した。5から15分後にテストゾーンにバンドが見えない場合には、Y染色体上の標的核酸はサンプル中に存在せず、胎児の性別は女である。これらの結果は、本開示の胎児性別検査が、60分未満で胎児の性別を正確に判定できることを示している。
【0089】
(実施例2)
等温増幅を使用した妊娠8週目の母体血液からの胎児の性別の迅速な判定
母体の血液からの胎児の性別の迅速な判定は、等温増幅法を用いて以下のようにして行われた。妊娠約8から9週の妊婦から、静脈血が採取された。血液サンプルは、採取から約24~72時間後に処理され、検査された。
【0090】
3mlのSneakPeek採血管(Gateway Genomics社、カリフォルニア州)を用いて、全参加者の腕から3ミリリットル(3ml)の母体血液を採取した。血液サンプルは、処理のために臨床検査機関に郵送された。全血から血漿を分離するために、母体血液サンプルは1,600gで15分間遠心分離された。次に、MagMAX Cell-Free DNA Isolation Kit(ThermoFisher社)を使用し、製造業者の指示に従って、100ulの血漿サンプルからcfDNAが単離された。
【0091】
単離された無細胞DNA(5ul)は、96ウェルプレートに分注され、製造業者の推奨に従い、プライマーと蛍光標識プローブを含めて最終RPA反応容量が1ウェル当たり50ulとなるようにして、Twist Exo Liquid Kit(TwistDx)試薬との反応に付された。男性の無細胞DNAは、Y染色体上のマルチコピーの標的配列を使用して検出された。Y染色体上の標的核酸の等温増幅は、サンプルを37℃で40分間温めることによって実施された。各ウェルからの蛍光が、30秒ごとに40分間測定され、蛍光シグナルが増幅プロット上に記録された。男児を妊娠している妊婦からのサンプルは、15から25分以内に蛍光シグナルの指数関数的な上昇を示した。女児を妊娠している妊婦からのサンプルは、蛍光強度に有意な変化を示さなかった。
【0092】
これらの結果は、本開示の方法及び組成物が、母体の血液からの胎児の性別の迅速な判定に有用であることを示した。これらの結果は、本開示の方法及び組成物が、母体血液サンプル中の胎児の性別を判定するための核酸の等温増幅を行うために有用であることを更に示した。これらの結果は、本開示の胎児性別検査が、60分未満で胎児の性別を正確に判定できることを示した。
【0093】
本明細書に示され、記載されたものに加えて、前の記述から本開示の様々な修正が当業者にとって明らかになるであろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲内におさまることが意図されている。本明細書で引用されている文献は全て、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】