(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-05
(54)【発明の名称】重鎖のみ抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231225BHJP
C12N 15/01 20060101ALI20231225BHJP
A01K 67/027 20240101ALI20231225BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20231225BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/01 Z ZNA
A01K67/027
C12N5/0781
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023560255
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 US2021072809
(87)【国際公開番号】W WO2022126113
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523220385
【氏名又は名称】トリアンニ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】ワブル,マティアス
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AA92Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
(57)【要約】
内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内で、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを組み込むことにより、B細胞が重鎖のみ抗体(HCAb)の多様なレパートリーを発現するマウスを生産する方法であって、前記Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内で、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを組み込むことにより、重鎖のみの抗体(HCAb)の多様なレパートリーをB細胞が発現するマウスを生産する方法であって、該Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、上記方法。
【請求項2】
マウスが、抗原で免疫化されると、抗原特異的B細胞を活性化し、多様な抗原特異的HCAbを分泌するプラズマ細胞へのそれらの分化を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Cγ遺伝子セグメントが、Eμメジャーイントロンエンハンサーの下流に、好ましくは、配列番号7を含む内因性Eμメジャーイントロンエンハンサーの下流に位置付けられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Cγ遺伝子セグメントが、Cγ1遺伝子セグメントを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
CH1ドメインの少なくとも一部が、BiPシャペロン結合ドメインを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
マウスが、不活性化または欠失した内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含み、好ましくは、マウスが、内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方における機能喪失突然変異、または内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方の欠失を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
内因性Cμ遺伝子セグメントが不活性である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
内因性Cμ遺伝子セグメントが、機能喪失突然変異、Cμ遺伝子セグメントの一部の欠失、または1つもしくは複数の停止コドンを導入する1つもしくは複数の突然変異によって不活性である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
免疫グロブリン重鎖遺伝子座が、ヒトV
H、DおよびJ
Hコード配列、ならびに前記V
H、DおよびJ
Hコード配列と作動可能に連結している発現制御配列を含み、好ましくは、該発現制御配列がマウスのものである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
V
H、DおよびJ
Hコード配列が、抗原を特異的に認識するVH結合部位を発現するVDJコード配列を形成するように組み換えられ、それにより、所定のB細胞において組み換えられたV
Hコード配列が得られ、該B細胞は、形質細胞へと分化すると、組み換えられたVHコード配列によってコードされる抗原特異的V
H結合ドメインを含むIgG型のHCAbを分泌することが可能である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
a)マウス胚性幹細胞を用意するステップと、
b)1つまたは複数の発現カセット内のCγ遺伝子セグメントを含む核酸配列を含む1つまたは複数のベクターを用意するステップと、
c)該1つまたは複数のベクターを該細胞に導入するステップと、
d)トランスジェニック細胞を選択するステップであって、b)の配列が、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、ターゲティングされた組み入れによって該細胞の細胞ゲノムに組み込まれており、Cμ遺伝子セグメントが場合により不活性である、ステップと、
e)該トランスジェニック細胞を利用して、該トランスジェニック細胞から誘導されたトランスジェニックマウスを作出するステップと
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の方法によって取得可能なマウスであって、その内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内に、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流のトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、マウス。
【請求項13】
少なくとも2つのV
H、2つのD、および2つのJ
HであるヒトV
H、DおよびJ
Hコード配列のレパートリーを含むVH重鎖遺伝子座を含む、請求項12に記載のマウス。
【請求項14】
内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方における機能喪失突然変異、または内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方の欠失を含む、請求項12または13に記載のマウス。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって取得可能なマウスに由来するIgG型の様々なHCAbを発現するB細胞レパートリー。
【請求項16】
VHドメインの異なる様々な抗原特異的HCAbを発現する、請求項15に記載のB細胞レパートリー。
【請求項17】
抗原特異的VHドメインを含む抗体を生産する方法であって、
a)抗原でマウスを免疫化するステップであって、該マウスが、免疫グロブリン重鎖遺伝子座内の内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、該Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含み、それにより、抗原特異的HCAbを発現する細胞のレパートリーをもたらす、ステップと、
b)レパートリーから、抗原特異的VHを含むIgG型のHCAbを発現する細胞を選択するステップと、
c)HCAbから抗原特異的VHをコードする核酸配列を決定するステップと、
d)抗原特異的VHを含むモノクローナル抗体を生産するステップと
を含む方法。
【請求項18】
B細胞レパートリーまたはVHを含む分子のレパートリーの生産のための方法における、請求項12~14のいずれか一項に記載のマウスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重鎖のみ抗体(HCAb)コンストラクト、HCAbを発現するトランスジェニックマウス、ならびにin vitroおよびin vivoでそれらを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、(i)多様な分子形態の抗原をターゲティングすることができる精緻な結合特性を呈し、(ii)望ましい薬物動態を有するため、処置されたヒトおよび動物において良好に忍容される生理学的分子であり、かつ(iii)感染因子を自然に撃退する強力な免疫学的特性に関連付けられることから、重要な生物学的医薬として出現した。さらに、体内に自然状態では存在しない事実上あらゆる異物に対する特異的抗体応答を容易に展開することができる抗体を実験室動物から迅速に単離するための確立された技術が存在する。
【0003】
抗体は、その最も基本的な形態では、同一の軽(L)鎖と各々が対になった、2つの同一の重(H)鎖から構成されている。H鎖およびL鎖の両方のN末端は、可変ドメイン(それぞれ、VHおよびVL)からなり、これらが合わさって、独特な抗原結合特異性を有する対になったH-L鎖をもたらす。抗体のVHおよびVLドメインをコードするエキソンは、生殖系列DNAには存在しない。代わりに、各VHエキソンが、H鎖遺伝子座(Igh)に存在するランダムに選択されたV、D、およびJ遺伝子セグメントの組換えによって生成される。同様に、個々のVLエキソンは、軽鎖遺伝子座(Igl)におけるランダムに選択されたVおよびJ遺伝子セグメントの染色体再構成によって産生される(マウスIgh遺伝子座、Iglカッパ遺伝子座(IgkまたはIgκ)およびIgラムダ遺伝子座(IglまたはIgλ、
図1)の概略図を参照されたい(Tonegawa、Nature、302:575、1983;Bassingら、Cell、109補遺:S45、2002)。マウスゲノムは、H鎖を発現することができる2つの対立遺伝子(各親から1つの対立遺伝子)、カッパ(κ)L鎖を発現することができる2つの対立遺伝子、およびラムダ(λ)L鎖を発現することができる2つの対立遺伝子を含む。H鎖遺伝子座には、複数のV、D、およびJ遺伝子セグメントがあり、また、両方のL鎖遺伝子座には、複数のVおよびJ遺伝子がある。各免疫グロブリン(Ig)遺伝子座のJ遺伝子の下流には、抗体の定常領域(C)をコードする1つまたは複数のエキソンが存在する。重鎖遺伝子座には、異なる抗体クラス(アイソタイプ)の発現のためのエキソンも存在する。マウスでは、コードされるアイソタイプは、IgM、IgD、IgG1、IgG2a/c、IgG2b、IgG3、IgE、およびIgAであり、ヒトでは、IgM、IgD、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgA1、およびIgA2である。
【0004】
胎児肝臓および成体骨髄におけるB細胞の発達中、H鎖V、D、およびJ遺伝子セグメントを含む2つの相同染色体のうちの1つでまず遺伝子再構成が起こる。pre-B細胞では、結果として生じたVHエキソンがその後、μH鎖の定常領域をコードするエキソンにRNAレベルでスプライスされる。pre-B細胞によって合成されるμH鎖のほとんどは、小胞体(ER)に保持され、μH鎖の部分的にアンフォールドしたCH1ドメインと常在性ERシャペロンBiPとの間の非共有結合性相互作用によって最終的に分解される(HaasおよびWabl、Nature、306:387~9、1983;Boleら、J Cell Biol.102:1558、1986)。しかしながら、ごく一部のμ鎖は、インバリアントなλ5およびVpreBタンパク質から構成されるサロゲート軽鎖複合体と会合し、BiPを置き換え、μH鎖/λ5/VpreB複合体が、Igα/βシグナル伝達分子と一緒に、preB細胞受容体(preBCR)としてERを出て、分泌経路を通って形質膜まで移動することを可能にする(Ubelhartら、Curr.Top.Microbiol.Immunol.393:3、2016)。
【0005】
その次に、1つのL鎖対立遺伝子において、機能的なL鎖が産生されるまでの時間でVJ再構成が起こり、その後、L鎖ポリペプチドが、BiPを完全に置き換え、μH鎖と会合して、抗原の完全に機能的なB細胞受容体(BCR)を形成することができ、それによって未成熟型B細胞が形成される。
【0006】
不完全にアセンブルされたIg分子の細胞表面発現または分泌を防止するERのクオリティコントロール機構はかなり厳密であり、したがって、HL、HHL、またはHHなどの分子は、完全なH2L2構造へのアセンブリによってレスキューされなければ、通常ERに保持され、分解される(この系は、主にIgH鎖の保持に重点を置くため、遊離L鎖がしばしば分泌され得る)。しかしながら、重鎖病(HCD)と呼ばれる稀なB細胞増殖性障害では、遊離したモノクローナルH鎖が分泌され得ることが数十年にわたって知られている(Franklinら、Am.J.Med.、37:332、1964)。HCDにおけるH鎖は切断されており、その後の構造研究は、CH1ドメインがほとんどの場合で欠失していることを示した(Corcosら、Blood、117:6991、2011)。機構的に、CH1欠失は、BiPとの抑制性相互作用からH鎖を自由にし、したがってその分泌を可能にし、また、L鎖とのジスルフィド結合による共有結合性会合を防止し、したがってHCDタンパク質はHH二量体である。重鎖のみ抗体(Heavy chain-only Abs;HCAb)は、疾患以外の状況でも見出されることがある。i)通常のラクダの血清IgGのおよそ75%はHCAbからなり、これは、CH1ドメインを欠いており、また、VLドメインとの効果的な会合を防止する構造的に改変されたVHドメインを有する(de los Riosら、Cur.Opin.Struct.Biol.、33:27、2015)。ii)κおよびλの両方のL鎖遺伝子座が不活性化されたマウスは、血清IgGを依然として生産するが、この抗体の生産には、B細胞DNAにおけるCH1ドメインをコードするエキソンの欠失をもたらす、クラススイッチ組換え(CSR)におけるエラーが必要である(Zouら、J.Exp.Med.、204:3271、2007)。
【0007】
HCAbは、安定性が高く、従来の免疫グロブリンよりも小さいため、治療薬として魅力的である。VL抗原結合部分によって妨げられない、この分子のVH抗原結合部分は、さもなければ従来の抗体がアクセスできない、ウイルスおよびG結合タンパク質受容体上の酵素活性部位およびエピトープを含む、タンパク質構造のポケット内のエピトープを認識することができる。例えば、内因性VH遺伝子がラクダVH遺伝子に置換され、CH1コードエキソンが欠失しているマウスから誘導されたラクダベースのHCAbは、そのような抗体の潜在的な供給源である。しかしながら、そのようなHCAbには、それらが治療薬として使用される可能性のあるヒトおよび他の動物においてラクダVHドメインが免疫原性であるという不利点がある。内因性VH遺伝子が、対応するヒトのものに置換されているマウスが存在し、κおよびλL鎖遺伝子座の不活性化と組み合わせて、HCAbの供給源となり得る。しかしながら、そのような抗体の生産は、免疫応答中のCSRにおける比較的低頻度のエラーに依存し、したがって効率的ではない。
【0008】
重(H)鎖および軽(L)鎖が対になった従来の抗体の結合部位の大きさは、ターゲットエピトープの溝または凹部に適合するには大きすぎる場合がある。HCAbの結合部位の幅の縮小は、「困難な」エピトープ、例えば、酵素の活性部位にアクセスするのに役立ち得る。別の使用において、HCAbは、二重特異性抗体の生産を容易にする。L鎖が存在しないことにより、特異性の喪失をもたらす「L鎖スクランブリング」が防止される。L鎖を伴わないH鎖からなる(ヒト)免疫グロブリンを生産するトランスジェニックマウスは、所望の抗原特異性を有するそのような抗体の発見に有用である。
【0009】
しかしながら、上述のように、軽鎖の非存在下では、自然状態の重鎖は形質細胞によって分泌されない。これは、H鎖のCH1ドメインがシャペロンタンパク質BiPに結合され、したがって小胞体の内腔に留められるためである。重鎖病におけるような、またはエンジニアリングによる、CH1の欠失は、ジスルフィド結合した二量体としてのH鎖の分泌を可能にする。
【0010】
アイソタイプスイッチ、アイソタイプ転換、またはクラススイッチ組換え(CSR)としても知られる免疫グロブリンクラススイッチは、B細胞による免疫グロブリンの生産を、アイソタイプIgMからアイソタイプIgGなど、1つのアイソタイプから別のものに変化させる生物学的機構である。このプロセスにおいて、抗体重鎖の定常領域部分は変化するが、重鎖の可変領域は同じ状態を保つ。可変領域が変化しないため、クラススイッチは抗原特異性に影響しない。その代わり、抗体は、同じ抗原への親和性を保持するが、そのFc領域を介して、異なるエフェクター分子と相互作用し得る。
【0011】
クラススイッチは、膜結合抗体分子(B細胞受容体、BCR)を介した成熟型B細胞の活性化後に起こり、様々なクラスの抗体を生成し、これらはすべて、V(D)J組換えのプロセスの結果として未成熟型B細胞によって発現される元の抗体と同じ可変ドメインをもつが、重鎖に異なる定常ドメインを有する。
【0012】
ナイーブ野生型成熟型B細胞は、野生型免疫グロブリン遺伝子座における最初の2つの重鎖セグメントであるIgM(Cμ)およびIgD(Cδ)の両方を生産する。抗原による活性化の後、これらのB細胞は増殖する。これらの活性化B細胞がCD40およびサイトカイン受容体(両方ともTヘルパー細胞によってモジュレートされる)を介して特定のシグナル伝達分子に遭遇すると、抗体クラススイッチが起こり、IgG、IgAまたはIgE抗体が生産される。クラススイッチ中、免疫グロブリン重鎖の定常領域は変化するが、可変領域、したがって抗原特異性は同じ状態を保つ。そのため、同じ活性化B細胞由来の異なる娘細胞が、異なるアイソタイプまたはサブタイプ(例えば、IgG1、IgG2など)の抗体を生産することができる。
【0013】
細胞培養下でHCAbを生産するための様々な免疫グロブリン修飾形態が想定され、エンジニアリングされ得るが、重鎖のみ(HCO)のトランスジェニックマウスの場合、Bリンパ球の発達を念頭に置く必要がある。B細胞は、造血幹細胞からpro-B、pre-Bおよび未成熟型B細胞への分化によって日々生成されている。修飾された免疫グロブリンがこの分化順序をサポートしなければ、B細胞は生成されない。
【0014】
ラマ、トランスジェニックマウスおよびラットにおけるHCO抗体の報告は、H鎖がL鎖と対にならないB細胞が発生し得ることを示した。しかしながら、CH1が欠失する必要があり、ラマでは、L鎖を伴わないH鎖は、カノニカルなVH領域のものとは異なるVH構造を有する。後者の事実は、すべてのヒトVHドメインがHCO B細胞の発達をサポートするとは限らないことを示した。
【0015】
WO2019018770A1は、VHドメインならびに免疫グロブリン定常ドメインCLおよびCH1からなる抗原結合部を含む単鎖VH抗体を開示する。
WO2014/141192A2は、重鎖のみ抗体およびそれを生産するトランスジェニック非ヒト動物の生成を開示する。そのような抗体では、CH1ドメインが欠如している。
【0016】
US8754287B2は、CH1ドメインが欠如した重鎖抗体を生産するマウス、およびCH1ドメインをコードする核酸を欠失させる生殖系列修飾を含むトランスジェニックマウスを開示する。
【0017】
VJCLノックアウトニワトリにおける会合した軽鎖をもたない重鎖のみ抗体の発現が、Schusserら(Eur.J.Immunol.、46:2137、2016)によって説明されている。
【0018】
Kleinら(Biochemistry、18:1473、1979)は、軽鎖の単離された可変ドメインおよび定常ドメインと、免疫グロブリンGのFd’フラグメントとの相互作用を説明している。
【0019】
WO2011/072204A1は、機能的なCμセグメントを含むトランスジェニックマウスを開示する。結果として、抗原受容体としてカノニカルなIgMを有する成熟型B細胞が正常に発達する。しかしながら、ゲノムの下流Cγセグメントでは、CH1ドメインが欠如している。免疫応答中に抗体のクラスが(所望の)γ鎖にスイッチすると、これらの鎖はL鎖と対になることができない。H鎖クラススイッチにおいて、VHは維持されるが、CHは交換される。これには2つの効果がある:(i)特異性がH鎖とL鎖の組み合わせによって定義された抗体をもつ細胞が、もはや刺激されず、死ぬことになり、(ii)不対VHは構造的に存続不可能であるため、特異性がH鎖によって主に定義された細胞が死ぬ可能性がある。したがって、このマウスでは、VHの選択が「延期される」、すなわち免疫応答中に起こる。
【0020】
WO2007096779A2は、クラス特異的重鎖のみ抗体の生産のためのトランスジェニックマウスの使用を説明しており、前記マウスは、複数の異種VH重鎖遺伝子座を含み、各VH重鎖遺伝子座は、1つまたは複数のV遺伝子セグメント、1つまたは複数のD遺伝子セグメント、1つまたは複数のJ遺伝子セグメント、および発現したときにCH1ドメインを含まない重鎖定常領域をコードする遺伝子セグメントを含む。
【0021】
WO2009013620A2は、ヒトVセグメントをマウス重鎖遺伝子座に組み込むことによる、完全にヒトの可溶性VHドメインの生産を説明しており、ここで、マウスV、DおよびJ遺伝子セグメントは、ヒト由来のV、DおよびJセグメントに置換され、免疫グロブリン重鎖エフェクター定常領域は、CH1を欠いている免疫グロブリン重鎖エフェクター定常領域に置換される。
【0022】
WO2015143414A2は、重鎖定常領域遺伝子配列の免疫グロブリン定常領域CH1遺伝子における欠失と、少なくとも1つの非再構成VL遺伝子セグメントおよび少なくとも1つの非再構成JL遺伝子セグメントによる1つまたはすべての内因性VH、DHおよびJH遺伝子セグメントの置換とを含むマウスを説明している。
【0023】
WO2019184014A1は、内因性Cμ遺伝子セグメントの代わりに免疫グロブリン遺伝子座に導入され、CH1ドメインの欠失(
図1参照)を含むトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含むマウスを説明している。EP2411408B1およびUS9353179B2は、ランダムに組み入れられたVHおよびVHH遺伝子座を含むトランスジェニックマウスを説明している。ランダムに組み入れられた免疫グロブリンの(および他の)遺伝子座の問題、すなわち挿入された導入遺伝子の非生理学的レベルの発現および不安定性(喪失または機能のサイレンシング)は、前世紀の80年代から記録されてきた。
【0024】
HCAbの安定な生産のための効率的で対費用効果の高い方法が必要とされている。より具体的には、抗原特異的HCAbを生産することが可能なトランスジェニック非ヒト動物が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
この概要は、以下の詳細な説明でさらに説明される特定の概念を簡略化された形態で紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の重要または本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、特許請求される主題の範囲を限定するために使用されることを意図したものでもない。特許請求される主題の他の特徴、詳細、用途、および利点は、添付の図面に示され、添付の特許請求の範囲で定義される態様を含め、以下の詳細な説明の記述から明らかとなるであろう。
【0026】
本発明の目的は、トランスジェニック動物においてか、in vitro細胞培養においてかを問わず、重鎖のみ抗体(HCAb)およびかかる様々なHCAbを発現するB細胞レパートリーを効率的かつ容易に生産するための手段、コンストラクト、および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この目的は、本件の特許請求の範囲の対象によって、また本明細書にさらに記載されるように解決される。
本発明によれば、内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内で、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを組み込むことにより、B細胞が重鎖のみ抗体(HCAb)の多様なレパートリーを発現するマウスを生産する方法が提供され、ここで、Cγ遺伝子セグメントは、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む。
【0028】
具体的には、前記マウスを抗原で免疫化すると、マウスは、多様な抗原特異的HCAbを分泌するB細胞レパートリーを発現する。具体的には、抗原でマウスを免疫化すると、抗原特異的B細胞が、抗原特異的HCAbを分泌する形質細胞へと分化する。
【0029】
具体的には、抗原で免疫化されると、マウスは、抗原特異的B細胞を活性化し、多様な抗原特異的HCAbを分泌するプラズマ細胞へのそれらの分化を誘導する。
具体的には、内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内で、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを組み込むことにより、抗原で免疫化されると多様な抗原特異的HCAbを分泌するB細胞レパートリーを発現するマウスを生産する方法が提供され、ここで、Cγ遺伝子セグメントは、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む。
【0030】
野生型B細胞では、IgMおよびIgDが共発現されるが、これは成熟型B細胞では末梢(脾臓など)で起こり、骨髄で発達しているB細胞では起こらない。不活性化されたCμ遺伝子セグメントの下流に位置するCγ遺伝子セグメントは、B細胞の発達中に発現されない可能性がある。B細胞の発達にはIg重鎖が必要であるため、不活性化されたCμ遺伝子セグメントの下流にCγ遺伝子セグメントを含むマウスは、B細胞をまったく作らない可能性がある。Cγ遺伝子セグメントがCμ遺伝子セグメントの代わりにIg重鎖遺伝子座に導入された場合、ミスフォールドしたデルタ重鎖が小胞体(ER)に存在することになるため、軽鎖依存性であるIgDの共発現は、B細胞にとって有害となり得る。これによりERストレスが生じ、アンフォールドタンパク質応答(UPR)が活性化する可能性がある。UPRは、タンパク質の恒常性を回復させることを目的とし、回復されなければ、B細胞はアポトーシス細胞死を起こす。具体的には、Cμ遺伝子セグメントの内因性位置の上流にCγ遺伝子セグメントを位置付けることにより、pre-B細胞は、Cγ含有preBCRを発現する。これには、軽鎖なしで安定に発現され得るVH-Cγ重鎖の正の選択が生じるという著しい利点がある。軽鎖と二量化しない不安定であるバージョンのVH-Cγ重鎖を発現するPre-B細胞は、preBCRを形成することができず、したがって選択から除外され、IgG型の様々なHCAbを発現する改善されたB細胞レパートリーがもたらされる。
【0031】
具体的には、該マウスは、前記B細胞レパートリーを生産することが可能である、かかる組換え免疫グロブリン重鎖遺伝子座を含む細胞を含む。
具体的には、少なくとも欠失しているCH1ドメインの前記一部は、CH1ドメインの全部または一部、特に、CH1ドメインをコードするヌクレオチド配列全体の少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99%、または100%のうちのいずれか1つを含む。具体的には、Cγ遺伝子セグメントは、CH1をコードするヌクレオチド配列の少なくとも一部の欠失を含み、該一部はシャペロン結合ドメインであり、特に、前記一部は、BiPに結合された1つまたは複数のアミノ酸である。
【0032】
特定の実施形態において、本明細書に記載されるHCAbは、CH1ドメインを欠いており、特にIgG CH1ドメインを欠いている。特定の実施形態によれば、該マウスはCH1ドメインの一部を発現することが可能であり得るが、該一部は、CLドメインと対になることが可能である機能的なCH1ドメインを含まない。
【0033】
さらなる特定の実施形態によれば、本明細書に記載されるHCAbは、シャペロン結合ドメイン、特にBiPシャペロン結合ドメインが欠如したCH1ドメインを含む。具体的には、該マウスは、CH1ドメインの少なくともかかるシャペロン結合ドメインが欠失したHCAbを発現するようにエンジニアリングされる。
【0034】
本明細書に記載されるマウスの細胞によって分泌されるHCAbは、可溶性または膜結合型であり得る。CH1ドメインのすべてまたは少なくとも一部を欠失させることにより、発現されるHCAbは、重鎖のみ抗体コンストラクトの細胞表面発現または分泌を典型的に防止するERクオリティコントロール機構によって小胞体(ER)内に保持されない。具体的には、ERシャペロンBiPは、本発明のHCAbをER内に保持しない。
【0035】
具体的には、Cγ遺伝子セグメントは、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座内でEμメジャーイントロンエンハンサーの下流に、好ましくは、内因性マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座内でJコード配列の下流に位置する、具体的には配列番号7を含む、内因性マウスEμメジャーイントロンエンハンサーの下流に位置付けられる。
【0036】
本明細書に記載されるように、Cγ遺伝子セグメントは、突然変異していてもしていなくてもよいCμ遺伝子セグメントの上流に位置付けられる。具体的には、Cγ遺伝子セグメントは、野生型重鎖遺伝子座内でCμ遺伝子セグメントが置かれる位置の上流に位置付けられる。具体的には、Cγ遺伝子セグメントは、本明細書に記載されるマウスの免疫グロブリン重鎖遺伝子座内で、Cμ遺伝子セグメントの上流かつJH遺伝子セグメントの下流にある。
【0037】
ナイーブ野生型成熟型B細胞は、野生型免疫グロブリン遺伝子座における最初の2つの重鎖セグメントであるIgM(Cμ)およびIgD(Cδ)の両方を生産する。本明細書に記載されるように、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座内でCμ遺伝子セグメントの上流にCγ遺伝子セグメントを位置付けることにより、本明細書に記載されるマウスのナイーブ成熟型B細胞がIgG型のHCAbを生産し、抗原による活性化の後、これらのB細胞が増殖する。驚くべきことに、本明細書に記載される免疫グロブリン遺伝子座を含むB細胞は、正常に発達し、IgG型の膜結合型または可溶性HCAbを生産することができる。したがって、本発明は、IgG型の様々なHCAbを発現する改善されたB細胞レパートリーを提供する。
【0038】
具体的には、IgG型のHCAbは、IgGフレームワーク、特にヒトまたはマウスのフレームワークを含むVHドメイン、および/またはIgG抗体のものである抗体定常ドメインによって特徴付けられる。具体的には、IgG型のHCAbは、任意のIgGサブタイプ、例えば、マウスIgG1、IgG2a/c、IgG2b、もしくはIgG3サブタイプのいずれか、またはヒトIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4サブタイプのいずれかのものである。
【0039】
具体的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、内因性マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座内で、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流に組み入れられ、したがって、Cγ遺伝子セグメントが免疫グロブリン重鎖遺伝子座内でCμ遺伝子セグメントの下流に置かれる、野生型細胞におけるそれぞれの場所とは異なる場所にある。
【0040】
特定の実施形態において、トランスジェニックCγ遺伝子セグメント、具体的には、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失によって修飾され、内因性マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座内で、それが天然には見出されない場所、すなわち内因性Cμ遺伝子セグメントの上流に組み込まれたマウスCγ遺伝子セグメントは、内因性核酸配列から誘導される。
【0041】
異なる特定の態様によれば、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、合成核酸などの外因性核酸であり、内因性マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座内で内因性Cμ遺伝子セグメントの上流に組み入れられる。
【0042】
具体的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、哺乳動物由来のもの、好ましくは齧歯類由来のもの、最も好ましくはマウス由来のものである。
具体的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、ヒト由来のものである。
【0043】
具体的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、トランスジェニックCγ1、Cγ2a/c、Cγ2b、もしくはCγ3遺伝子セグメントを含むか、またはそれからなる。
【0044】
具体的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、トランスジェニックCγ1、Cγ2、Cγ3、もしくはCγ4遺伝子セグメントを含むか、またはそれからなる。
具体的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、トランスジェニックマウスまたはヒトのCγ1遺伝子セグメントである。
【0045】
具体的には、本明細書に記載されるマウスの内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、内因性マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座、特に、マウスゲノム内で内因性位置にあるものである。
【0046】
本明細書で提供される方法の特定の態様によれば、本明細書に記載されるマウスまたは本明細書に記載されるB細胞の免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるCμ遺伝子セグメントは、不活性である。具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、機能喪失突然変異、例えば、停止コドンの導入、またはCμ遺伝子セグメントをコードするヌクレオチド配列の一部の欠失により、不活性である。好ましくは、Cμ遺伝子セグメントは全体的に欠失するのではなく、その一部のみが欠失する。具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、CH1、CH2、CH3および/またはCH4ドメインの欠失によって不活性である。
【0047】
ある特定の場合では、遺伝子座が転写されるとき、VDJエキソンがCμ遺伝子セグメントにスプライスされる。これは、軽鎖依存性μ重鎖の生産をもたらし得る。具体的には、Cμ遺伝子セグメントを不活性にすることにより、本明細書に記載されるB細胞レパートリーの質がさらに改善される。
【0048】
具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、内因性Cμ遺伝子セグメントをコードするヌクレオチド配列全体、または前記配列の少なくとも約50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは99%のうちのいずれか1つであるその一部の欠失により、不活性である。
【0049】
具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、好ましくはそのCH1、CH2、CH3およびCH4ドメインのいずれか1つまたはすべてに、機能喪失突然変異、欠失、または不活性化突然変異、好ましくは停止コドンの導入を含む。好ましくは、Cμ遺伝子セグメントは、CH1、CH2およびCH3ドメインに停止コドンを含む。
【0050】
本明細書で提供される方法の特定の態様によれば、本明細書に記載されるマウスまたは本明細書に記載されるB細胞の免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるμスイッチ(S)領域は、不活性である。具体的には、本明細書に記載されるマウスの免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、内因性Igh遺伝子座内に典型的に存在するμスイッチ(S)領域をコードするヌクレオチド配列の機能喪失突然変異、欠失、または不活性化突然変異を含む。具体的には、機能的なS領域をもたないIgh遺伝子座は、アイソタイプスイッチを起こすことができない。
【0051】
具体的には、本明細書に記載されるB細胞がアイソタイプスイッチを起こした場合、軽鎖依存性重鎖アイソタイプIgG、IgAまたはIgEが生産される可能性がある。これは、本明細書に記載されるB細胞の死をもたらし得る。したがって、アイソタイプスイッチを防止することにより、B細胞レパートリーをさらに改善することができる。
【0052】
特定の実施形態において、さらなる重鎖アイソタイプのCHドメインが、好ましくは機能喪失突然変異、欠失、または不活性突然変異の導入により、不活性化される。具体的には、本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座の定常領域遺伝子セグメントは、好ましくはそれらのCH1、CH2、CH3およびCH4ドメインのいずれか1つまたはすべてに、機能喪失突然変異、欠失、または不活性化突然変異、好ましくは停止コドンの導入を含む。
【0053】
特定の態様によれば、本明細書に記載される方法に従って生産されたマウスは、不活性化または欠失した内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含む。具体的には、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスは、内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方における機能喪失突然変異、または内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方の欠失を含む。そのようなマウスは、軽鎖をもたないHCAbを発現することによって特徴付けられる。
【0054】
特定の実施形態において、本明細書に記載される方法に従って生産されたマウスの免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、ヒトVH、DおよびJHコード配列、ならびにVH、DおよびJHコード配列の発現を制御するように作動可能に連結している発現制御配列を含む。具体的には、発現制御配列はマウスのものである。
【0055】
本明細書で提供される方法の特定の態様では、B細胞の発達中に、本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座のVH、DおよびJHコード配列が、VH結合部位を発現するVDJコード配列を形成するように組み換わる。発達している各B細胞は、組換えおよびHCAbとしての発現のために、1つのVH、1つのD、および1つのJH遺伝子セグメントをランダムに選択する。成熟すると、マウスにおける数百万のB細胞の各々が、特定の抗原を認識し、その抗原に遭遇すれば活性化される。
【0056】
具体的には、VH、DおよびJHコード配列は、抗原を特異的に認識するVH結合部位を発現するVDJコード配列を形成するように組み換えられ、それにより、所定のB細胞において組み換えられたVHコード配列が得られ、このB細胞は、組み換えられたVHコード配列によってコードされる抗原特異的VH結合ドメインを含むIgG型のHCAbを分泌することが可能である。
【0057】
具体的には、VH、DおよびJHコード配列は、抗原を特異的に認識するVH結合部位を発現するVDJコード配列を形成するように組み換えられ、それにより、B細胞において組み換えられたVHコード配列が得られ、このB細胞の子孫は、組み換えられたVHコード配列によってコードされる抗原特異的VH結合ドメインを含むIgG型のHCAbを分泌することが可能である。
【0058】
具体的には、VH、DおよびJHコード配列は、抗原を特異的に認識するVH結合部位を発現するVDJコード配列を形成するように組み換えられ、それにより、B細胞において組み換えられたVHコード配列が得られ、このB細胞は、形質細胞、特にプラズマ細胞へと分化すると、組み換えられたVHコード配列によってコードされる抗原特異的VH結合ドメインを含むIgG型のHCAbを分泌することが可能である。
【0059】
本明細書で提供される方法の特定の態様では、本明細書に記載されるマウスが抗原で免疫化された後、その抗原を特異的に認識するVH結合部位を発現するB細胞は、活性化し、抗原特異的VH結合ドメインを含むIgG型のHCAbを分泌することが可能な形質細胞へと分化する。
【0060】
具体的には、本明細書に記載されるマウスのB細胞によって分泌されるHCAbは、抗原特異的VH結合ドメインと、CH1ドメインを欠いているかまたはCH1ドメインの一部のみを含むかもしくはそれからなるIgG定常領域とを含むか、またはそれらからなる。具体的には、CH1ドメインの前記一部は、シャペロン結合ドメインを欠いており、好ましくは、CH1ドメインからBiPシャペロン結合ドメインが欠如している。
【0061】
本明細書ではさらに、IgG型の様々なHCAbを発現するB細胞レパートリーが提供される。具体的には、B細胞レパートリーは、本明細書に記載される方法によって取得されたマウスに由来するIgG型の様々なHCAbを発現する。本明細書に記載されるマウスが前記B細胞レパートリーを含んでもよく、またはB細胞レパートリーがマウスから単離されてもよい。B細胞レパートリーは、B細胞のライブラリー、または前記B細胞レパートリーに由来する核酸分子のライブラリーの形態で提供され得る。それぞれのライブラリーは、抗原結合特性を発現する分子のスクリーニングを可能にするディスプレイ系を用いて提供され得る。具体的には、そのような核酸分子のライブラリーは、様々なHCAb、またはそのようなHCAbのVH結合部位を含むそれぞれの抗原結合分子をコードする。特定の態様によれば、そのような核酸分子のライブラリーは、VH抗原結合部位または結合特性の異なるVHドメインを含むかまたはそれからなる抗原結合分子のライブラリーを生産する方法において使用され得る。
【0062】
具体的には、本明細書に記載されるB細胞レパートリーは、その(VH)抗原結合部位の異なる様々なHCAbを発現することが可能であり、例えば、それにより、親和性成熟型もしくは別様に最適化された抗体バリアントの生産のような、抗体などの様々な抗原結合分子(この様々なものは、同じ抗原もしくはエピトープを認識する)の生産、または、ターゲット抗原(ただし、かかるターゲット抗原の様々なエピトープ)を特異的に認識する抗体の生産が可能になる。
【0063】
特定の態様によれば、本明細書に記載されるライブラリー、例えば、B細胞のライブラリー、または核酸分子もしくは抗原結合分子のそれぞれのライブラリーを好適にスクリーニングすることができ、ライブラリーメンバーを所望の構造特性または機能特性に従って選択して、選択されたライブラリーメンバーのVH結合部位を含む抗原結合分子を識別し、生産することができる。このような本明細書に記載されるライブラリーは、好適にスクリーニングすることができ、個々のライブラリーメンバーを所望の構造特性または機能特性に従って選択して、抗原結合分子、特に抗体生成物を生産することができる。
【0064】
具体的には、本明細書に記載されるB細胞レパートリーは、VHドメインの異なる抗原特異的様々なHCAbを発現することが可能である。
特定の態様において、本明細書に記載されるB細胞レパートリーは、抗体または抗体フラグメント、特に、本明細書に記載される様々なHCAbを発現し、この様々なものは、同じターゲット抗原またはエピトープを各々が特異的に認識する多様な抗体または抗体フラグメントを含む。具体的には、B細胞レパートリーは、本明細書に記載されるマウスが抗原で免疫化された後、抗原特異的抗体または抗体フラグメントを発現する。特定の態様によれば、同じターゲット抗原またはエピトープを認識する多様な抗体を含むかまたはカバーする抗体ライブラリーが本明細書で提供される。
【0065】
特定の態様において、本明細書に記載されるB細胞レパートリーは、抗体または抗体フラグメント、特に、本明細書に記載される様々なHCAbを発現し、この様々なものは、異なるターゲット抗原を認識する多様な抗体を含む。そのようなレパートリーは、各々に複数のエピトープがある多くの異なるターゲット抗原を有するウイルスまたは細菌などの複雑な多成分抗原による免疫化によって取得することができる。特定の態様によれば、異なるターゲット抗原を認識する多様な抗体を含むかまたはカバーする抗体ライブラリーが本明細書で提供される。
【0066】
特定の態様によれば、本発明は、いかなる軽鎖も欠いている様々な抗体または抗体フラグメントを発現するB細胞のレパートリーを提供する。具体的には、本発明は、同じターゲット抗原または異なるターゲット抗原を各々が特異的に認識する、本明細書に記載される様々なHCAbを発現するB細胞のレパートリーを提供する。具体的には、本明細書では、本明細書で提供される方法によって取得可能な、または取得された、B細胞レパートリーが提供される。具体的には、B細胞レパートリーは、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスによって発現される。
【0067】
具体的には、本明細書で言及される様々な抗原結合分子、例えば、本明細書に記載される様々なB細胞レパートリーまたはそれぞれのライブラリーは、様々な、少なくとも102、103、104、105または106個のうちのいずれか1つの抗原特異的分子、例えば抗体またはHCAbを含むか、またはカバーする。
【0068】
B細胞レパートリーの多様性は、例えば、B細胞レパートリーによって発現されるHCAbの多様性を示す、異なるVDJ構成の数を決定するディープシーケンシングなどによって決定することができる。
【0069】
本明細書に記載されるB細胞レパートリーは、本明細書に記載されるマウスによって生産されたB細胞における組み換えられたVH配列のシーケンシングによって取得可能な、または取得された、核酸配列のレパートリーとして提供され得る。そのようなシーケンシングは、次世代シーケンシング(NGS)などのディープシーケンシング法を使用して行われ得る。ディープシーケンシングは、ゲノム領域を複数回、時には数百回またはさらには数千回シーケンシングすることを指す。このNGSアプローチは、種々のVHドメインの核酸またはアミノ酸の配列を提供することを可能にする。
【0070】
特定の態様によれば、HCAbの抗体ライブラリーが提供され、ここで、
a)前記抗体をコードする遺伝子は、本明細書に記載されるB細胞レパートリーから誘導されるか、または
b)抗体は、哺乳動物のプラズマ細胞、好ましくは齧歯類由来のもの、特にマウス由来のものによって分泌される。
【0071】
具体的には、このライブラリーは、本明細書に記載されるB細胞レパートリーのB細胞から前記抗体レパートリーをコードする遺伝子をクローニングすることによって、または、種々の哺乳動物のプラズマ細胞に抗体を分泌させることによって取得可能である。具体的には、哺乳動物のプラズマ細胞によって分泌される抗体は、哺乳動物のプラズマ細胞の由来の種に特徴的なグリコシル化パターンによって特徴付けられる。
【0072】
したがって、本発明はさらに、本明細書に記載される抗体、特に本明細書に記載される抗体のレパートリーを、かかる抗体を発現および分泌する哺乳動物のプラズマ細胞をエンジニアリングすることによって生産する方法を提供する。
【0073】
具体的には、哺乳動物のプラズマ細胞は、齧歯類、好ましくはマウスに由来する。
本明細書に記載される抗体が、例えば、非マウス動物、もしくはヒト由来、またはそれらの任意の組み合わせ、例えば、それぞれのヒト抗体ドメインをコードするヒト核酸配列を含む、マウス以外の種のそれぞれの配列を1つまたは複数用いて調製され得ることは、十分に理解される。
【0074】
ヒト抗体定常ドメインの配列は、当技術分野で周知であり、The National Center for Biotechnology Information(NCBI)およびImmunoGeneTics(IMGT)を含む様々なデータベースから取得することができる。ヒトIgG1定常ドメインエキソンのCH1、CH2およびCH3-S(Sは、分泌型のγ1 HCをコードするCH3エキソンの3’部分)の例示的な配列は、配列番号16~18によって識別される。
【0075】
ヒト抗体ドメインの配列のいずれも例示にすぎないことは十分に理解される。代替的には、それぞれの異なる対立遺伝子のヒト抗体ドメインの配列を使用してもよい。
本明細書に記載されるそれぞれの抗体の構造において、それぞれの抗体ドメインが対になり連結するように機能的である限り、抗体ドメインをコードする動物もしくはヒト由来のヌクレオチド配列、または動物もしくはヒトのアミノ酸配列に代わるものとして、修飾された(人工)ヌクレオチド配列およびそれぞれのアミノ酸配列、例えば、少なくとも80%、85%、90%、または少なくとも95%のうちのいずれか1つの配列同一性を含むそれぞれの配列が使用され得る。
【0076】
特定の実施形態によれば、抗体は、宿主細胞において(in vitro)、または非ヒト動物宿主、特にマウスにおいて(in vivo)生産される。
本明細書に記載される例示的なHCAbの構造を
図3Bに示す。
【0077】
VH抗原結合部は、VHドメインの3つのCDRループ、すなわち、VH-CDR1、VH-CDR2、およびVH-CDR3を具体的に含むか、またはそれらからなる。抗原結合部は、CDRループのうちの1つまたは複数の変異によって親和性成熟させ、それにより、ターゲット抗原に結合する親和性を最適化または増加させることができる。そのような変異は、例えば、in vivoプロセスによって、またはin vitro突然変異誘発技法によって、親和性成熟した抗原結合部位を得るための、CDR配列のいずれかまたは各々における1つまたは複数の点突然変異、例えば、1、2、3またはそれ以上の点突然変異によって得ることができる。
【0078】
具体的には、HCAbは、抗体定常ドメインCH2およびCH3に融合したVHドメインを各々が含む2つの同一の重鎖からなる分子である。具体的には、抗体定常ドメインは、IgG定常ドメインである。両方の重鎖のCH2ドメインおよびCH3ドメインが対になると、HCAbは、2つのVHドメインと、Fc領域とを含む。
【0079】
本明細書に記載されるHCAbのFc領域は、第1の定常領域免疫グロブリンドメインを除く抗体の定常領域を具体的に含む。「Fc領域」は、典型的には、IgG、IgA、またはIgDの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメインと、これらのドメインのN末端側の柔軟なヒンジ領域と、IgEおよびIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメインとを指す。具体的には、ヒンジは、IgG、IgA、またはIgD抗体のものである。
【0080】
IgG型のHCAbの場合、Fcは、Cγ免疫グロブリンドメインCH2およびCH3、ならびに場合によりFcドメインとVHアームの抗体ドメインとの間またはVHとCH2との間のヒンジ領域を具体的に含むか、またはそれらからなる。IgG型のHCAbのFc領域は、CH1ドメインを具体的に含まないか、またはシャペロン結合配列を欠いているCH1ドメインの一部を含む。Fc領域は、CH2またはCH3ドメインを、それぞれの天然に発生する抗体ドメインの人工バリアントの形態で、例えば、前記天然に発生する抗体ドメインとの少なくとも90%の配列同一性を有する形態で含んでもよい。
【0081】
特に、本明細書に記載されるFc領域は、CH2およびCH3ドメインの二量体を含むか、またはそれからなり、これらのドメインは、抗体重鎖(HC)の一部であり、第1のHCのCH2ドメインは、第2のHCのCH2と対になり、第1のHCのCH3ドメインは、第2のHCのCH3と対になる。そのような二量体は、ホモ二量体、すなわち、同じアミノ酸配列の2つのCH2-CH3ドメイン鎖から構成されたもの、またはヘテロ二量体、すなわち、各々が異なるアミノ酸配列を有する、例えば、Fcを安定化するために異なるCH3アミノ酸配列をもつ、2つのCH2-CH3ドメイン鎖から構成されたものであり得る。
【0082】
特定の態様において、HCAbは、Fc領域のCH2-CH3ドメイン鎖をVHドメインに接続するヒンジ領域を含む。具体的には、HCAbは、VHドメインと抗体定常ドメインとを接続するヒンジ領域を含む。具体的には、ヒンジ領域は、CH1ドメインのC末端をCH2ドメインのN末端に連結する従来の抗体重鎖ヒンジ領域に由来する。代替的には、ほぼ同じ長さをもつ任意の他の天然または人工のリンカーを使用してもよい。好適なヒンジ領域は、自然状態の(天然に発生する、例えば、ヒトまたはマウスの)IgGもしくはIgA重鎖ヒンジ領域、または、1つもしくは複数の、最大5つ以下の点突然変異を場合により含む、同じ長さ±1または2アミノ酸のそれらの機能的バリアントである。ヒンジ領域は、典型的に、例えば2つのHCを接続するように、HCAbにジスルフィド架橋を作るために、1つまたは複数のシステイン残基を含む。
【0083】
具体的には、HCAbに含まれる2つのHC(本明細書では第1および第2のHCとも呼ばれる)のアミノ酸配列は同一である。代替的には、2つのHCのアミノ酸配列は、例えば、VHドメインの抗原結合部位が異なるように、異なっている。
【0084】
例えば、第1のHCは、第1のVHを含み、第2のHCは、第2のVHを含む。第1および第2のVHは、同じ、または異なる抗原結合部位、例えば、2つの異なるターゲット抗原を特異的に認識するものを含み得る。したがって、HCAbは、単特異性、二価、または二重特異性であり得る。
【0085】
本明細書に記載されるマウスなどのトランスジェニック非ヒト動物によって生産される抗体は、天然抗体または自然抗体として一般的に理解される。そのような天然抗体は、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスによって生産されるような、抗原を特異的に認識する抗体のレパートリーから誘導され得る。
【0086】
特定の態様によれば、抗体または抗体のレパートリーは、in vivoで親和性成熟を起こし、例えば10-7M未満、例えば10-7から10-10Mの間のKDで特定のターゲット抗原に結合する高親和性抗体をもたらし得る。
【0087】
ランダム突然変異誘発および/またはライブラリー技法を用いるものなど、in vitro突然変異誘発法によって生産された親和性成熟型抗体は、例えば、KDが10-8M未満、例えば10-11M未満の、さらに高い親和性をもたらし得る。
【0088】
天然抗体は、有利なことに、VH-CDR配列の自然状態の立体構造によって特徴付けられる。そのような自然状態の立体構造は、抗原結合部位の天然に発生する一次構造、および/または完全長VHドメインの天然に発生する一次構造によって特徴付けられる。
【0089】
HCAbを生産する際、選択される抗体ドメインおよび/またはヒンジ領域は、ヒト、人工、または非ヒト動物由来のものであり得る。例えば、HCAbは、ヒトおよびマウスの配列を含むトランスジェニックマウスで生産される。
【0090】
特定の態様によれば、本明細書に記載されるHCAbは、薬学的調製物で好適に使用される濃度で、可溶性形態、例えば水溶性形態で提供される。本明細書で具体的に提供されるのは、本明細書に記載されるHCAbを、それを生産する動物の血清もしくは血液画分から単離された、または細胞培養画分から単離されたような単離形態で含む、可溶性調製物である。
【0091】
本明細書ではさらに、本明細書に記載される方法によって取得可能な、または取得されたマウスが提供される。具体的には、本明細書では、本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座を含むマウスが提供される。具体的には、本明細書に記載されるマウスは、その内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座内で内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、Cγ遺伝子セグメントは、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む。
【0092】
具体的には、本明細書に記載されるマウスは、そのゲノムに、修飾された免疫グロブリン対立遺伝子または他の導入遺伝子を含む。具体的には、本明細書に記載されるマウスは、その内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座に、少なくともトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、したがってトランスジェニック動物である。
【0093】
特定の実施形態において、本明細書に記載されるマウスは、ヒト免疫グロブリン領域をさらに含む。例えば、部分的または完全にヒトの抗体を創薬目的で作出するために、内因性マウス免疫グロブリン領域をヒト免疫グロブリン配列で置換するための多数の方法が開発されてきた。そのようなマウスの例としては、例えば、米国特許第7,145,056号、同第7,064,244号、同第7,041,871号、同第6,673,986号、同第6,596,541号、同第6,570,061号、同第6,162,963号、同第6,130,364号、同第6,091,001号、同第6,023,010号、同第5,593,598号、同第5,877,397号、同第5,874,299号、同第5,814,318号、同第5,789,650号、同第5,661,016号、同第5,612,205号、および同第5,591,669号に記載されているものが挙げられる。
【0094】
特定の態様によれば、本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、キメラ遺伝子セグメントを含む。具体的には、本明細書に記載されるマウスは、US2013/0219535に記載されているようなキメラ免疫グロブリンセグメント、特に、対応するマウスの非コード性の調節配列に埋め込まれたヒトIGH(VH、D、JH)コード配列を含む。ヒト免疫グロブリンコード配列およびマウス発現制御配列を含む免疫グロブリン遺伝子セグメントは、本明細書では、「キメラ免疫グロブリン遺伝子セグメント」とも呼ばれる。
【0095】
具体的には、そのようなトランスジェニックマウスは、部分的にヒトのものである導入された外因性免疫グロブリン領域を含むゲノムを有し、導入された領域は、ヒト可変領域コード配列と、マウス由来またはマウスの内因性ゲノムのものであり、キメラ免疫グロブリン遺伝子セグメントまたはキメラ免疫グロブリン遺伝子座の導入によってマウスゲノムにノックインされた、ヒト配列の発現を制御するマウス非コード性調節配列とを含む。特に、マウス配列、具体的にはマウスの非コード性の調節配列は、対応するマウス内因性配列、すなわち内因性野生型免疫グロブリン遺伝子座のものと同一の配列に基づく。
【0096】
ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の発現を目的とする、本明細書に記載されるマウス発現制御配列は、プロモーター、転写開始および停止配列、エンハンサーおよびアクチベーター配列、リボソーム結合部位からなる群から具体的に選択される。そのような発現制御配列の具体例は、プロモーター、5’非翻訳配列、リーダーペプチドのコード配列の間にあるイントロン、組換えシグナル配列(RSS)、およびスプライス部位を含み得る、コード配列をフランキングする配列である。
【0097】
具体的には、本明細書に記載されるマウスは、本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座内に、ヒトVH、DおよびJHコード配列、ならびにVH、DおよびJHコード配列の発現を制御するように作動可能に連結している発現制御配列を含むVH重鎖遺伝子座を含む。具体的には、VH重鎖遺伝子座はキメラであり、VH重鎖遺伝子座の発現制御配列は、マウスのものであり、好ましくは内因性発現制御配列である。
【0098】
具体的には、VH重鎖遺伝子座は、ヒトVH、DおよびJHコード配列のレパートリーを含む。具体的には、これは、少なくとも2、3、4、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、または120個のVHコード配列、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、または40個のDコード配列、および少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個のJHコード配列、具体的にはヒトのVH、DおよびJHコード配列である。具体的には、これは、最大120個のVHコード配列、最大40個のDコード配列、および最大20個のJHコード配列である。具体的には、VH重鎖遺伝子座は、ヒトVH、DおよびJHコード配列の完全なレパートリーを含む。
【0099】
具体的には、VH重鎖遺伝子座のVH、DおよびJHコード配列は、抗原を特異的に認識するVDJコード配列を形成するように組み換わり、組み換えられたVH重鎖遺伝子座を含むB細胞は、抗原特異的VH結合ドメインと、CH1ドメインを欠いているまたはCH1ドメインの少なくとも一部を欠いているIgG定常領域とを含むHCAbを発現する。
【0100】
具体的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、核酸コンストラクトに含まれる。
特定の実施形態において、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントは、少なくとも1つの免疫グロブリン遺伝子セグメントコード配列、特に、免疫グロブリン重鎖遺伝子座の少なくともJH遺伝子セグメントコード配列、好ましくは少なくともJH2-6遺伝子セグメントのコード配列を含む核酸コンストラクトに含まれる。
【0101】
具体的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントと、対応するマウスの非コード性の調節配列に埋め込まれたヒトIGHコード配列、好ましくは少なくともヒトIGH Jコード配列を含むキメラ免疫グロブリン遺伝子セグメントとを含む核酸コンストラクトが、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流で、かつマウスの内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座の少なくとも一部を置換する外因性核酸コンストラクトまたはエレメントとして、マウスゲノムに導入され得る。具体的には、この核酸コンストラクトは、ヒトIGH VH、DおよびJHコード配列を含む。
【0102】
具体的には、本明細書に記載されるような、トランスジェニックCγ遺伝子セグメントと、対応するマウスの非コード性の調節配列に埋め込まれたヒトIGHコード配列、好ましくは少なくともヒトIGH Jコード配列を含むキメラ免疫グロブリン遺伝子セグメントと、不活性Cμ遺伝子セグメントとを含む核酸コンストラクトが、内因性Cδ遺伝子セグメントの上流で、かつマウスの内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座の少なくとも一部を置換する外因性核酸コンストラクトまたはエレメントとして、マウスゲノムに導入され得る。具体的には、この核酸コンストラクトは、ヒトIGH VH、DおよびJHコード配列を含む。
【0103】
代替的には、トランスジェニックCγ遺伝子セグメント、そして場合により、不活性なCμ遺伝子セグメントは、マウスゲノム内の免疫グロブリン遺伝子座にノックインされる。
【0104】
別の好ましい態様では、本明細書に記載されるマウスのゲノム内容が改変されて、それらのB細胞が、細胞ごとに複数の機能的VHドメインを発現することが可能になり、すなわち、細胞が、WO2017035252A1に記載されているような二重特異性抗体を生産するようになる。
【0105】
具体的には、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスの免疫グロブリン重鎖遺伝子座内のCμ遺伝子セグメントは、不活性である。具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、機能喪失突然変異、Cμ遺伝子セグメントの欠失、または1つもしくは複数の停止コドンを導入する1つもしくは複数の突然変異によって不活性である。
【0106】
具体的には、本明細書に記載されるのは、Cμ遺伝子セグメントの5’側にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、本明細書に記載されるマウスの免疫グロブリン重鎖遺伝子座である。
【0107】
特定の実施形態において、Cμ遺伝子セグメントは、本明細書に記載されるマウスの免疫グロブリン重鎖遺伝子座の内因性遺伝子セグメントである。
特定の実施形態において、本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座のCμ遺伝子セグメントは、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座内の内因性Cμ遺伝子セグメントを置換し、かつ1つまたは複数の不活性化突然変異を含むトランスジェニック遺伝子セグメントである。
【0108】
具体的には、トランスジェニックCμ遺伝子セグメントは、Cμ遺伝子セグメントにおける、好ましくはCH1、CH2、CH3およびCH4ドメインのいずれか1つまたは複数における、機能喪失突然変異、またはCμ遺伝子セグメントの部分的な、例えば少なくとも40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは99%のうちのいずれか1つの欠失、または外因性停止コドンの導入によって不活性である。
【0109】
具体的には、本明細書に記載されるCμ遺伝子セグメントは、野生型マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるCμ遺伝子セグメントの天然の位置に位置する。
具体的には、本明細書に記載されるマウスは、本明細書に記載されるその内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座内の修飾を含む。
【0110】
具体的には、本明細書に記載される遺伝子座は、マウスに由来するが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列に欠失を含むCγ遺伝子セグメントのような、遺伝子座の調節エレメントと自然状態では関連しない、少なくとも1つの外因性エレメント、例えば、1つまたは複数の外因性重鎖領域を含む、組換え(例えば、「キメラ」)遺伝子座である。
【0111】
具体的には、好適な遺伝子ターゲティング技法、例えば、部位特異的リコンビナーゼ技法を用いる指向性相同組換え、またはCRISPR/Cas9技法により、遺伝子配列が免疫グロブリン重鎖遺伝子座に組み込まれるように、マウスが処置される。
【0112】
具体的には、内因性カッパおよび/またはラムダ遺伝子座が欠失する、もしくはサイレンシングされる、または別様に機能喪失の突然変異を起こすため、このマウスは前記内因性カッパおよび/またはラムダ遺伝子座を発現しない。
【0113】
特定の実施形態によれば、本明細書に記載される抗体を生産する方法は、マウスのB細胞レパートリーに含まれる抗原特異的B細胞によって抗原に対する免疫応答が誘発されるように、本明細書に記載されるマウスを該抗原で免疫化するステップをさらに含む。応答するB細胞は、最終的に、免疫化抗原に特異的なHCAbを分泌する形質細胞へと分化する。
【0114】
抗原は、アジュバントの有無にかかわらず、任意の簡便な手法でマウスに投与することができ、予め決定されたスケジュールに従って投与することができる。
本明細書で具体的に提供されるのは、抗原特異的抗体を生産する方法であって、
a)トランスジェニックマウスを抗原で免疫化するステップであって、前記マウスが、免疫グロブリン重鎖遺伝子座内の内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、ステップと、
b)抗原特異的VHおよびIgG定常領域を含むHCAbを発現させるステップと、
c)前記抗原特異的VHをコードする1つまたは複数の核酸配列を単離するステップと、
d)前記抗原特異的VHを含むモノクローナル抗体を生産するステップと
を含む方法である。
【0115】
具体的には、本明細書では、抗原特異的VHドメインを含む抗体を生産する方法であって、
a)抗原でマウスを免疫化するステップであって、前記マウスが、免疫グロブリン重鎖遺伝子座内の内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含み、それにより、抗原特異的HCAbを発現する細胞のレパートリーをもたらす、ステップと、
b)前記レパートリーから、抗原特異的VHを含むIgG型のHCAbを発現する細胞を選択するステップと、
c)前記HCAbから前記抗原特異的VHをコードする核酸配列を決定するステップと、
d)前記抗原特異的VHを含むモノクローナル抗体を生産するステップと
を含む方法が提供される。
【0116】
具体的には、本明細書に記載される方法に従って生産されるモノクローナル抗体は、完全長免疫グロブリン、その抗原結合性抗体フラグメント、または少なくとも可変重鎖(VH)抗体ドメインを含む任意の他の抗体コンストラクト、または単一のVHドメイン、例えば1つまたは複数の単一ドメイン抗体を含む抗体、Fab、F(ab’)、(Fab)2、scFv、Fd、Fv、または完全長抗体、例えば、IgG型(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、またはIgM抗体のいずれでもよい。特定の実施形態は、本明細書に記載されるHCAbなどの重鎖のみ抗体である。
【0117】
具体的には、前記抗原特異的VHをコードする核酸配列は、本明細書に記載されるマウスによって生産されたB細胞における組み換えられたVH配列のシーケンシングによって決定される。そのようなシーケンシングは、次世代シーケンシング(NGS)などのディープシーケンシング法を使用して行われ得る。
【0118】
モノクローナル抗体を作製する際、抗体生産細胞、例えば、脾臓および/またはリンパ節の細胞が、免疫化されたトランスジェニックマウスから単離され、ハイブリドーマの生産のための形質転換細胞株との細胞融合に使用され得るか、または抗体をコードするcDNAが、標準的な分子生物学技法によってクローニングされ、トランスフェクトされた細胞で発現される。モノクローナル抗体を作製するための手順は、当技術分野において十分に確立されている。
【0119】
具体的には、この方法は、ハイブリドーマを調製するステップと、抗体生産細胞、特にターゲット抗原を特異的に認識するものを生産し、スクリーニングするステップとをさらに含む。
【0120】
具体的には、本明細書では、抗原特異的VHドメインを含む抗体を生産する方法であって、
a)マウスを抗原で免疫化するステップであって、前記マウスが、免疫グロブリン重鎖遺伝子座内の内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、ステップと、
b)前記トランスジェニックマウスから脾臓および/またはリンパ節の細胞を単離するステップと、
c)前記脾臓および/またはリンパ節の細胞からハイブリドーマを生成するステップと、
d)抗原特異的ハイブリドーマを選択するステップと、
e)抗原特異的VHを含むIgG型のHCAbを前記ハイブリドーマから分泌させるステップと、
f)培養上清から前記モノクローナルHCAbを単離するステップと
を含む方法が提供される。
【0121】
特定の実施形態において、この方法は、前記ハイブリドーマから前記抗原特異的VHをコードする核酸配列を決定するステップと、前記抗原特異的VHを含む組換えモノクローナル抗体を生産するステップとを含む。
【0122】
具体的には、この方法は、細胞培養物中で、特異的抗体またはそのフラグメント、特に抗原結合性フラグメントを生産するために、免疫化されたマウスから核酸配列を単離するステップを含む。そのような抗体またはその抗原結合性フラグメントは、本明細書では、高度免疫抗体と理解される。
【0123】
本明細書ではさらに、本明細書に記載されるマウスまたは本明細書に記載されるそれぞれのB細胞レパートリーに由来する様々なVH結合部位を含む抗原結合分子のライブラリーの生産のための方法における、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスの使用が提供される。具体的には、VHドメインのレパートリー(例えばVHライブラリー)またはVHを含む分子のレパートリー(またはそれぞれのライブラリー)、特にHCAbのレパートリー(またはHCAbライブラリー)が本明細書で提供される。
【0124】
本明細書では、本明細書に記載されるマウスを生産するための方法であって、
a)マウス胚性幹細胞を用意するステップと、
b)1つまたは複数の発現カセット内の、本明細書に記載されるトランスジェニックCγ遺伝子セグメントと、場合により、本明細書に記載される不活性Cμ遺伝子セグメントとを含む核酸配列を含む、1つまたは複数のベクター(ターゲティングベクターとも呼ばれる)を用意するステップと、
c)前記1つまたは複数のベクターを細胞に導入するステップと、
d)トランスジェニック細胞を選択するステップであって、b)の配列が、内因性Cμ遺伝子セグメント(突然変異していてもしていなくてもよい)の上流の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座、または、ベクターが内因性のものを置換する不活性Cμを含む場合は、内因性Cδ遺伝子セグメントの上流のCμにおいて、ターゲティングされた組み入れによって前記細胞の細胞ゲノムに組み込まれている、ステップと、
e)前記トランスジェニック細胞を利用して、前記トランスジェニック細胞から誘導されたトランスジェニックマウスを作出するステップと
を含む方法も提供される。
【0125】
具体的には、内因性Cμ遺伝子セグメントは、好ましくは、機能喪失突然変異、Cμ遺伝子セグメントの欠失、または停止コドンを導入する突然変異によって不活性化される。
具体的には、このマウスは、本明細書に記載されるHCAbを発現する。具体的には、このマウスは、重鎖抗体のみを発現し、かつ/またはVLドメインを含む抗体コンストラクトを発現しない。
【0126】
具体的には、細胞ゲノムへの前記1つまたは複数のベクターの組み入れの成功を示す、1つのマーカーまたは複数のマーカーが使用される。具体的には、宿主における発現が可能であり、導入された核酸またはベクターを含む宿主の選択を容易にする選択マーカーが使用される。
【0127】
選択マーカーの例としては、例えば、抗菌剤(例えば、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、またはクロラムフェニコール)または抗ウイルス剤(例えばガンシクロビル)に対する抵抗性を付与するタンパク質、宿主細胞に栄養上の利点のような代謝的利点を付与するタンパク質、および細胞に機能または表現型に関する利点(例えば、細胞分裂)を付与するタンパク質が挙げられる。
【0128】
特定の実施形態において、ガンシクロビルでの負の選択のための単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、および/またはターゲティングベクターがゲノムに組み入れられた細胞の選択のためのピューロマイシン抵抗性遺伝子が使用される。
【0129】
具体的には、核酸配列を真核細胞に組み込むことが可能な手段によってコード核酸配列が細胞に挿入されるように、ベクターが導入され、ここで、核酸配列は、細胞内に一過性に存在してもよいが、細胞のゲノム(特に染色体)内に組み込まれるまたは安定に組み入れられるのが好ましい。
【0130】
具体的には、前記1つまたは複数のベクターは、ターゲティングされた組換えの任意の方法によって、例えば、相同組換えまたは部位特異的組換え技法によって、ターゲット部位で前記マウス細胞の細胞ゲノムに組み入れられる。具体的には、ターゲティングされた組換えのために、CRISPR/Cas9ゲノム編集系が使用され得る(Heら、Nuc.Acids Res.、44:e85、2016)。
【0131】
特定の実施形態によれば、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスを生成するための方法であって、
a)内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座の内因性Cδ遺伝子セグメントの5’側の位置にターゲット部位を含むマウス細胞を用意するステップと、
b)1つまたは複数の発現カセット内の、CH1ドメインをコードするヌクレオチド配列の欠失を含むCγ遺伝子セグメントと、場合により、少なくとも1つの不活性化突然変異を含むCμ遺伝子セグメントとを含む核酸配列であって、前記ターゲット部位と相同のDNA配列によってフランキングされた核酸配列、および細胞ゲノムへのベクターのターゲティングされた相同組換えについて選択するための1つまたは複数のマーカーを含む、1つまたは複数のベクターを用意するステップと、
c)前記1つまたは複数のベクターを前記マウス細胞に導入するステップと、
d)前記マウス細胞のゲノムに前記核酸配列を組み込み、前記核酸配列が前記ターゲット部位で前記細胞の細胞ゲノムに組み入れられたトランスジェニック細胞を選択するステップと、
e)前記トランスジェニック細胞を利用して、前記トランスジェニック細胞を含むトランスジェニックマウスを作出するステップと
を含む方法が提供される。
【0132】
具体的には、相同性ターゲティングベクターまたは「ターゲティングベクター」を使用することができ、これは、宿主細胞における相同性による組換え、特に相同組換えを使用して内因性免疫グロブリン領域を修飾するために使用される、ターゲティング配列と、部位特異的組換え部位と、場合により選択マーカー遺伝子とをコードする核酸を含むベクターである。具体例において、相同性ターゲティングベクターは、部位特異的組換え部位をさらに含んでもよく、宿主細胞ゲノムの特定の領域に部位特異的組換え部位を導入するために使用され得る。
【0133】
具体的には、宿主細胞のトランスフェクションの際に宿主細胞ゲノムと組み換わるターゲティングベクターが使用され、生産的VDJ再構成の後、コードされた抗体が発現され、形質膜に挿入され、かつ/または宿主細胞によって分泌される。具体的には、ベクターは、抗体コード配列に作動可能に連結した、エンハンサーまたはプロモーターのような1つまたは複数の外因性または異種の調節エレメントを含み、この調節エレメントは、前記抗体コード配列と自然状態では関連しない。
【0134】
別の特定の実施形態によれば、本明細書に記載されるマウスを生成するための方法であって、
a)マウス細胞を用意し、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座の内因性Cμ遺伝子セグメントの5’および3’の位置で部位特異的リコンビナーゼの認識配列によってフランキングされた2つのリコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)ターゲット部位を組み入れるステップと、
b)1つまたは複数の発現カセット内の、CH1ドメインの少なくとも一部または全部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含むCγ遺伝子セグメントと、場合により、少なくとも1つの不活性化突然変異を含むCμ遺伝子セグメントとを含む核酸配列であって、部位特異的リコンビナーゼのためのさらなる認識部位によってフランキングされた核酸配列、およびマウスゲノムへのベクターのターゲティングされた組み入れについて選択するための1つまたは複数のマーカーを含む、1つまたは複数のベクターを用意するステップであって、さらなる認識部位が前記RMCEターゲット部位と組み換わることが可能である、用意するステップと、
c)前記マウス細胞に、前記1つまたは複数のベクター、ならびに前記RCMEターゲット部位およびさらなる認識部位を認識する部位特異的リコンビナーゼを導入するステップと、
d)前記マウス細胞のゲノムに前記核酸配列を組み込み、前記核酸配列が前記RMCEターゲット部位で前記細胞の細胞ゲノムに組み入れられたトランスジェニック細胞を選択するステップと、
e)前記トランスジェニック細胞を利用して、前記トランスジェニック細胞を含むトランスジェニックマウスを作出するステップと
を含む方法が提供される。
【0135】
具体的には、部位特異的リコンビナーゼのための前記認識部位はいずれも、リコンビナーゼがその認識部位のうちの2つの間のDNA配列を切除することが可能な、リコンビナーゼ認識部位(例えば、Cre/lox、Flp-FRTなど)である。
【0136】
特定の態様によれば、本明細書では、重鎖のみ抗体を生産するための方法であって、
a)マウスにおいて組換え免疫グロブリン重鎖遺伝子座を発現させるステップであって、該遺伝子座が、
i)VH、DおよびJH遺伝子セグメントの各々を1つまたは複数含む、好ましくは、マウス調節配列に埋め込まれたヒトVH、DおよびJHコード配列を含む、可変重鎖領域、
ii)免疫グロブリン重鎖遺伝子座内のCμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含む定常重鎖領域であって、Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部または全部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含み、場合により、Cμ遺伝子セグメントが不活性である、定常重鎖領域、ならびに
iii)連結領域であって、本明細書に記載されるHCAbを発現するようにエンジニアリングされ位置付けられた領域
を含み、
マウスが内因性カッパおよび/またはラムダ遺伝子座を発現しない、発現させるステップと、
b)前記HCAbである抗体を生産するステップと
を含む方法が提供される。
【0137】
特定の実施形態によれば、本明細書に記載される抗体は、好適な生産宿主細胞株を用いた細胞培養物中で生産される。具体的には、生産には、細菌、酵母、植物、昆虫、または哺乳動物の細胞培養が用いられる。具体的には、宿主細胞は、本明細書に記載される抗体をコードするそれぞれの核酸分子の導入の際に使用される。特に、BHK、CHO、HeLa、HEK293、MDCK、NIH3T3、NS0、PER.C6、SP2/0またはVERO細胞の哺乳動物宿主細胞は、いずれも有利に使用される。
【0138】
特定の態様によれば、本発明は、少なくともVH結合部位もしくはそれぞれのVHドメインを含む抗体などの抗原結合分子、例えば少なくともVH結合部位を含むHCAb抗体もしくはそのフラグメントのライブラリー、または前記ライブラリーをコードもしくは発現する核酸配列のライブラリーを生産するための、本明細書に記載されるマウスの使用を提供する。
【0139】
本明細書に記載されるトランスジェニック細胞は、例えば、B細胞から抗体をコードする遺伝子をクローニングすることにより、または、例えばUS20170226162A1に記載されているような、形質細胞膜で抗体を発現するエンジニアリングされたマウスにおいて明確な特異性をもつ形質細胞を選択することにより、目的の抗体を識別するための発現ライブラリーを生産するために使用され得る。したがって、本発明は、形質細胞によって発現される抗原特異的抗体の識別のための細胞技術を使用して生産された抗体ライブラリーも含む。
【0140】
特定の実施形態には、本明細書に記載される遺伝子修飾マウスのエンジニアリングされた部分に由来する免疫グロブリン重鎖遺伝子から転写される免疫グロブリンタンパク質の一部または全体、および遺伝子修飾マウスの細胞から誘導されるエンジニアリングされた免疫グロブリンタンパク質の一部または全体が含まれる。
【0141】
本発明のこれらおよび他の態様、目的、および特徴は、以下にさらに詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【
図1】マウス生殖系列Igh遺伝子座(上)[V(IghV)、D(IghD)、J(IghJ)、およびC(IghC)遺伝子セグメントを含む;異なるIg H鎖アイソタイプをコードするために複数のIghCエキソンがある]、Igκ遺伝子座(Igk、中央)[V(IgkV)、J(IgkJ)、およびC(IgkC)遺伝子セグメントを含む]、およびIgλ遺伝子座(下)[V(IglV)、J(IglJ)、およびC(IglC)遺伝子セグメントを含む]を示す。また、(1)VDJ再構成における遠位VH遺伝子セグメントの利用を確実にするためのIghルーピングに重要なシス調節配列であるPAIRエレメント、(2)Adam6a雄性稔性有効化遺伝子、(3)Igh遺伝子座の秩序だった系統特異的再構成を調節する部位を含む遺伝子間制御領域1(IGCR1)、(4)重鎖、κおよびλ軽鎖のイントロンエンハンサーであるEμ、iEκおよびEλ2-4、(5)κおよびλ軽鎖3’エンハンサーである3’Eκ、EλおよびEλ3-1、(6)μスイッチ領域であるSμ、ならびに(7)アイソタイプスイッチを制御するシス作用性エレメントである3’調節領域(3’RR)も示されている。
【
図2】HCO抗体の生産のために相同組換えによってIghmの上流の内因性マウスIgh遺伝子座にマウスIghg1ΔCH1遺伝子カセットを導入するためのターゲティングベクター。この図および
図3において、「内因性マウスIgh遺伝子座」は、WablおよびKilleenによるUS20130219535A1に記載されている部分的にヒトのIGH遺伝子座を含むES細胞にある。
【
図3】(A)重鎖(HCO)抗体(ΔCH1 HCO IgG1)をコードするように、
図2に示したベクターでターゲティングされる内因性マウスIgh遺伝子座を示す。C
H1エキソンの欠失を有するマウスCγ1遺伝子が、EμとIghmとの間のマウスIgh遺伝子座に挿入され、停止コドン(アステリスクによって示されるTGA)が、μ重鎖(HC)のC
H1、C
H2およびC
H3ドメインをコードするエキソンの各々に挿入された。野生型マウスでは、発達しているB細胞における生産的VDJ
H組換えの後に、軽鎖(LC)依存性μHCが生産される。ここで示される突然変異したIgh遺伝子座では、代わりにLC非依存性ΔC
H1γ1 HCが生産される。膜貫通(M)分泌(S)型の両方のIgG1 HCO抗体が、この修飾されたIgh遺伝子座によってコードされる。選択的スプライシングにより、M1およびM2エキソンを含むγ1m転写産物、ならびにC
H3エキソンの3’末端に位置するSエキソンを含むγ1sが生産される。C
H1欠失により、HCは、サロゲートまたは従来の(κまたはλ)LCと会合する必要なしに、形質膜に移動することができる(γ1m)、または分泌されることができる(γ1s)。Cμにおける3つの停止コドンは、VDJ
HエキソンがCγ1ΔC
H1ではなくCμに直接スプライスされる場合にLC依存性μHCの発現を防止する。(B)は、可変(V
H)、C
H2、C
H3、およびMドメインを含むが、C
H1ドメインが欠如している、膜貫通型のIgG1 HCO抗体タンパク質の概略図である。HCは、非共有結合性相互作用および鎖間ジスルフィド結合(V
HドメインとC
H2ドメインとの間に位置する横線によって示される)によって結び付けられた二量体として存在し、そのMドメインによって形質膜に挿入される。分泌型のIgG1 HCO抗体(図示せず)では、Mドメインが欠如しており、その代わり、タンパク質のCOOH末端に短い分泌性(S)ドメインがある。これは、B細胞活性化および形質芽球/形質細胞への分化の後に発現される。
【
図4】TRN11/2/5およびTRN34/29/30マウスの骨髄におけるB細胞の発達を示す。TRN11/2/5マウスでは、内因性V
H、V
κおよびV
λ遺伝子座が、マウス調節配列によってフランキングされたヒトV
H、V
κおよびV
λ遺伝子座コード配列でそれぞれ置換されている。TRN34/29/30マウスでは、V
H、DおよびJ
H遺伝子セグメントはTRN11と同一であるが、Igh遺伝子座の残りは、
図3に示されるように、IgG1 HCO抗体をコードするように修飾されている。V
κおよびV
λ遺伝子座は、それぞれ、TRN29およびTRN30対立遺伝子で不活性化されている。示されているCD抗原に特異的な蛍光コンジュゲートモノクローナル抗体(mAb)により、骨髄細胞を染色し、フローサイトメトリーによって分析した。フロープロット中の数字は、所定のゲートでの細胞のパーセンテージを示す。B細胞の発達段階も示されている。成熟型再循環Bとは、骨髄で生成され、末梢で、例えば脾臓でその成熟を完了し、血流を介して骨髄(BM)に再循環したB細胞である。
【
図5】TRN11/2/5およびTRN34/29/30マウスの脾臓におけるB細胞の分化を示す。示されているCD抗原に特異的な蛍光コンジュゲートmAbで脾臓細胞を染色し、フローサイトメトリーによって分析した。フロープロット中の数字は、所定のゲートでの細胞のパーセンテージを示す。B細胞の発達段階も示されている。Fo.Bは濾胞B細胞、MZ Bは辺縁帯B細胞、Tは移行期、Matは成熟型である。
【
図6】TRN11/2/5およびTRN34/29/30マウスの脾臓辺縁帯および濾胞B細胞における表面IgG1発現。MZ(上)およびFo.(下)のB細胞でゲーティングした脾臓細胞を、γ1 HCの細胞表面発現について分析した。
【
図7】TRN11/2/5およびTRN34/29/30マウスのリンパ節におけるB細胞の分化および表面IgG1発現を示す。示されているCD抗原およびγ1 HCに特異的な蛍光コンジュゲートmAbでリンパ節細胞を染色し、フローサイトメトリーによって分析した。フロープロット中の数字は、所定のゲートでの細胞のパーセンテージを示す。
【
図8】TRN11/2/5およびTRN34/29/30マウスの腹膜腔におけるB細胞の分化および表面IgG1発現を示す。示されているCD抗原およびγ1 HCに特異的な蛍光コンジュゲートmAbで腹膜腔細胞を染色し、フローサイトメトリーによって分析した。フロープロット中の数字は、所定のゲートでの細胞のパーセンテージを示す。
【
図9】未免疫化TRN11/2/5(白抜きの丸)およびTRN34/29/30 HCO(黒塗りの丸)マウスにおける血清IgG1およびIgMを検出するためのELISAアッセイを示す。光学密度がY軸に、血清希釈度がX軸に示されている。標準化(白抜きの四角)のために、100μg/mlのモノクローナルIgG1(左)およびIgM(右)を同じく連続的に希釈した。
【
図10】未免疫化TRN11/2/5(白抜きの丸)およびTRN34/29/30 HCO(黒塗りの丸)マウスにおける血清IgG2b、IgG2cおよびIgG3を検出するためのELISAアッセイを示す。光学密度がY軸に、血清希釈度がX軸に示されている。標準化(白抜きの四角)のために、100μg/mlのモノクローナルIgG2b(左)、IgG2c(中央)およびIgG3(右)を同じく連続的に希釈した。
【
図11-1】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【
図11-2】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【
図11-3】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【
図11-4】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【
図11-5】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【
図11-6】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【
図11-7】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【
図11-8】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【
図11-9】本明細書で言及されるヌクレオチド配列。
【発明を実施するための形態】
【0143】
別段の記載または定義がない限り、本明細書で使用される用語はすべて、当業者にとって明らかである、当技術分野における通常の意味を有する。例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」(第2版)、第1~3巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Lewin、「Genes IV」、Oxford University Press、New York、(1990)、およびJanewayら、「Immunobiology」(第5版、またはより最近の版)、Garland Science、New York、2001など、標準的教本が参照される。
【0144】
本明細書で使用される「含む(comprise)」、「含む(contain)」、「有する(have)」、および「含む(include)」という用語は、同義に使用される場合があり、さらなるメンバーまたは部分または要素を許容する、制限のない定義として理解されるものとする。「からなる(consisting)」は、「からなる」の定義の特徴のさらなる要素を含まない、最も近い定義とみなされる。したがって、「含む(comprising)」はより広く、「からなる」の定義を含む。
【0145】
本明細書で使用される「約」という用語は、所定の値と同じ値、またはそれと±5%異なる値を指す。
本発明者らは、先行技術の限界を克服するとともに、免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Cμ遺伝子セグメントの5’側でのトランスジェニックCγ遺伝子セグメントのターゲティングされた組み入れによってトランスジェニックマウスを生成することで、B細胞により発現され、形質細胞により分泌される重鎖のみ抗体(HCAb)を効率的に生産できることを示した。これらはその後、例えば、確立されたハイブリドーマ技術などを使用して、HCAbまたはその抗原結合性フラグメントの信頼できる供給源を生成するために使用され得る。
【0146】
本明細書で提供される、本明細書でHCAbと呼ばれる抗体コンストラクト、ならびに本明細書に記載されるレパートリーおよびライブラリーは、人工コンストラクトである。例えば、単離された核酸配列、アミノ酸配列、発現コンストラクト、形質転換された宿主細胞、トランスジェニック動物、および組換え抗体に具体的に言及する、本発明の物質、方法、および使用は、「人工」または合成のものであり、したがって、「天然産物」とも、「自然の法則」の結果ともみなされないことは、十分に理解される。
【0147】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、免疫グロブリンの重鎖および/または軽鎖の定常および/または可変ドメインとして理解される、様々な組み合わせまたは構成における抗体ドメインからなるか、またはそれらを含む、ポリペプチドまたはタンパク質を指すものとする。ポリペプチドは、ループ配列によって接続された抗体ドメイン構造の少なくとも2つのベータストランドからなるベータバレル構造を含む場合、抗体ドメインとして理解される。抗体ドメインは、自然状態の構造のものでもよく、または、抗原結合特性もしくは任意の他の特性、例えば安定性もしくは機能特性、例えば、Fc受容体、Fcμ、Fcα/μ、Fcα、Fcε、および/もしくはFcγ受容体(例えば、マウスのFcRn、FcγRI、FcγRIIB、FcγRIII、もしくはFcγRIV)、もしくは高分子Ig受容体(pIgR)への結合などを改変するように、突然変異誘発もしくは誘導体化によって修飾されてもよい。
【0148】
本明細書では、「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、交換可能に使用される。
本明細書で使用される「抗体」という用語は、特にVHドメインのものである抗原結合部位を含む抗体コンストラクトを具体的に指すものとする。特定の実施形態は、例えば1つまたは複数の他の可変ドメインおよび/または定常抗体ドメインと組み合わせられた(または融合した)、単一の可変抗体ドメインとしてのVHを含むか、またはそれからなり、場合により1つまたは複数の連結配列またはヒンジ領域を含む抗体、例えば、1つまたは2つの単鎖から構成され、各単鎖が、定常ドメインに連結した可変重鎖領域(すなわちVH)を含むか、またはそれからなる重鎖抗体に言及する。
【0149】
本明細書で言及される特定の抗体は、完全長抗体もしくはその抗原結合性抗体フラグメント、または、少なくとも可変重鎖(VH)抗体ドメイン、もしくは単一のVHドメインを含むか、もしくはそれからなる任意の他の抗体コンストラクト、例えば、1つまたは複数の単一ドメイン抗体、Fab、F(ab’)、(Fab)2、scFv、Fd、Fvを含むか、またはそれからなる抗体であり得る。例示的な抗体は、本明細書にさらに記載されるHCAbのいずれかを含むか、またはそれからなる。本明細書に記載される抗体は、ある特定の免疫グロブリン型のものであり得る。特定の抗体は、IgG型(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、もしくはIgM型、またはそれらに対応するマウスのIgG1、IgG2a/c、IgG2b、IgG3、IgA、IgD、IgEもしくはIgMのものである、抗体定常ドメイン、特に重鎖定常ドメインを含む。好ましくは、本明細書に記載される抗体は、IgG型(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ)のものである定常抗体ドメインを含む。
【0150】
それに従って、抗体は、典型的に、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドを含むタンパク質(またはタンパク質複合体)として理解される。認識されている免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、ならびに免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖(LC)はカッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖(HC)はガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類され、これにより、免疫グロブリンクラスのIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEがそれぞれ定義される。
【0151】
典型的なIgG抗体構造では、HCまたはLCは各々、結合部位ドメインの対を作るように互いに接続された少なくとも2つのドメインを含む。特定の場合では、重鎖は、LC定常ドメインを組み込んでも、依然として、例えば、軽鎖可変ドメインまたは領域を欠いているHCとみなされ得る。
【0152】
抗体のHCは、抗体の1つまたは2つの抗原結合アームをFc部分に接続するヒンジ領域を含み得る。ヒンジ領域は、免疫グロブリンの、例えばIgG1もしくはIgG3の、天然に発生する重鎖ヒンジ領域でもよく、または天然に発生するものとほぼ同じ長さ(±20%、または±10%)である複数の連続したアミノ酸を含むか、もしくはそれからなる人工ヒンジ領域でもよい。好ましいヒンジ領域は、1つまたは複数の、例えば、2、3、または4つのシステイン残基を含み、これらは別のヒンジ領域とのジスルフィド架橋を形成することができ、それによって二量体コンストラクトが得られる。
【0153】
本明細書に記載される抗体は、短縮された、または例えば連結配列もしくはリンカーを使用して拡張された、1つまたは複数の抗体ドメインを含み得る。そのような連結は、具体的には、組換え融合または化学的連結による。特定の連結は、1つのドメインのC末端を別のドメインのN末端に連結することによるもの、例えば、末端領域の1つまたは複数のアミノ酸残基が、ドメインサイズを短縮するように欠失する、またはドメインの柔軟性を増加させるように拡張されるものであり得る。
【0154】
具体的には、短縮されたドメイン配列は、少なくとも1、2、3、4、または5、最大6、7、8、9、または10個のアミノ酸を欠失させるような、C末端および/またはN末端領域の欠失を含む。
【0155】
リンカーによるドメインの拡張は、ドメイン間の自然状態の結合部を含むように、自然状態ではドメインに隣接して位置付けられる、免疫グロブリンドメインのN末端またはC末端領域に由来するアミノ酸配列によるものであり得る。代替的には、リンカーは、ヒンジ領域に由来するアミノ酸配列を含み得る。しかしながら、リンカーは、例えば複数のGlyおよびSerアミノ酸に富んだ、またはそれらからなる、人工配列でもよい。
【0156】
本明細書に記載される「抗原結合分子」という用語は、抗体の少なくとも抗原結合部位を含む抗体を含むか、またはそれからなる、あらゆるタンパク質またはタンパク質複合体(例えば、複合体形態に結合した複数のポリペプチド鎖からなる)を指す。さらに、抗原結合分子は、抗体部分と融合または複合した1つまたは複数のエレメントをさらに含み、それにより、融合タンパク質などの抗体誘導体をもたらしてもよい。
【0157】
「抗原結合部位」または「結合部位」という用語は、抗体のうち、抗原結合に関与する部分を指す。天然抗体の抗原結合部位は、重(「H」)鎖および/もしくは軽(「L」)鎖のN末端可変(「V」)領域、またはそれらの可変ドメインのアミノ酸残基によって形成される。重鎖(また、場合により軽鎖)のV領域内の3つの可変性の高い区間は、「超可変領域」と呼ばれ、フレームワーク領域として知られるより保存されたフランキング区間の間に介在する。抗原結合部位は、結合するエピトープまたは抗原の三次元表面に相補的である表面を提供し、超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」と呼ばれる。CDRに組み込まれた結合部位は、本明細書では、「CDR結合部位」とも呼ばれる。
【0158】
具体的には、本明細書に記載されるHCAbの抗原結合部位は、重(「H」)鎖のN末端可変(「V」)領域のアミノ酸残基によって形成される。
「CDR領域」という用語またはそれぞれの配列は、抗原との結合相互作用が可能な可変構造を含む、VHドメインなどの可変抗体ドメインの可変抗原結合領域を指す。CDR領域を含む抗体ドメインは、それ自体で使用されてもよく、または、より大きなタンパク様コンストラクト内に組み入れられ、それにより、そのようなコンストラクトのうちの結合機能を有する特異的領域を形成してもよい。可変構造は、免疫グロブリンなどの結合タンパク質の天然レパートリーから、具体的には抗体または免疫グロブリン様分子から誘導され得る。可変構造は、ランダム化技法、特に本明細書に記載されるものによって生産されてもよい。これらには、抗体可変ドメインの突然変異誘発されたCDRループ領域、特に免疫グロブリンのCDRループが含まれる。
【0159】
典型的に、特定のCDR構造をもつ抗原結合部位を有する抗体は、ターゲット抗原に特異的に結合する、すなわち、一対のVHドメインのCDRループを介してかかるターゲット抗原を特異的に認識することができる。
【0160】
HC抗体において、抗原結合部位は、VH-CDR1、VH-CDR2、およびVH-CDR3ループのみからなる特定のCDR構造によって特徴付けられる。このような抗原結合部位は、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスなどの動物によって生産される場合、自然状態である、または自然状態の構造および/もしくは立体構造のものであると理解される。抗原結合部位は、例えば、新しい構造を合成する組換え技法によってエンジニアリングされるため、人工的に生産され得るが、それぞれの抗体をコードするそれぞれの遺伝子をトランスジェニック非ヒト動物に組み込むと、自然状態の立体構造を有する新しい合成抗体の生産がもたらされる。
【0161】
親和性成熟の任意のin vivoまたはin vitro技法によって、そのような自然状態の立体構造をさらに親和性成熟することにより、自然状態の立体構造によって特徴付けられ、そのターゲット抗原に特異的に結合する高い親和性によってさらに特徴付けられる、人工抗原結合部位を含むポリクローナルおよび/またはモノクローナル抗体を生産することができる。
【0162】
「抗体」という用語は、ヒト、マウス、ウサギ、およびラットを含む哺乳動物、またはニワトリなどの鳥類のような動物由来の抗体に当てはまるものとし、この用語は、動物由来の配列、例えば、マウス配列に基づく組換え抗体を具体的に含むものとする。
【0163】
「抗体」という用語はさらに、完全にヒトの抗体に当てはまる。
免疫グロブリンに関して使用される「完全にヒト」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列から誘導される可変および定常領域を有する抗体を含むと理解される。ヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでランダムもしくは部位特異的な突然変異誘発によって、またはin vivoで体細胞突然変異によって導入された突然変異)を、例えばCDRに含み得る。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンもしくは抗体ライブラリーから、または1つもしくは複数のヒト免疫グロブリンについてトランスジェニックな動物から単離された抗体を含む。
【0164】
ヒト免疫グロブリンは、好ましくは、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4およびIgMからなる群から選択または誘導される。
マウス免疫グロブリンは、好ましくは、IgA、IgD、IgE、IgG1、IgG2A、IgG2B、IgG2C、IgG3およびIgMからなる群から選択または誘導される。
【0165】
「抗体」という用語はさらに、マウスおよびヒト由来の配列など、異なる種に由来する混合配列を有するキメラ抗体に当てはまる。
具体的には、「抗体」という用語は、ヒトの抗原結合領域と、マウスなどの非ヒトの定常領域またはフレームワーク配列とを含む、マウスなどのトランスジェニック非ヒト動物によって生産される抗体に当てはまる。
【0166】
免疫グロブリンまたは抗体に関して使用される「キメラ」という用語は、抗体鎖の1つの部分が、特定の種から誘導された、または特定のクラスに属する免疫グロブリンにおいて対応する配列と相同であり、鎖の残りのセグメントが、別の種またはクラスの対応する配列と相同である分子を指す。典型的に、可変領域は、1つの哺乳動物種から誘導された免疫グロブリンの可変領域を模倣し、定常部分は、別のものから誘導された免疫グロブリンの配列と相同である。一例において、可変領域は、例えば非ヒト細胞調製物から誘導された定常領域と組み合わせて、ヒト宿主生物由来の容易に利用可能なB細胞を使用して、現在知られている供給源から誘導され得る。具体的には、キメラ抗体または抗体フラグメントは、例えば、ヒト可変領域コード配列(またはそれぞれの可変抗体ドメイン)と、マウス定常領域コード配列(またはそれぞれの定常領域抗体ドメイン)とを含む、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスなどのトランスジェニックマウスによって生産され得る。
【0167】
「抗体」という用語はさらに、モノクローナル抗体、具体的には組換え抗体に当てはまり、この用語には、ヒトを含む哺乳動物などの動物に由来し、異なる由来の遺伝子または配列を含む抗体、例えば、キメラ、ヒト化抗体、またはハイブリドーマ由来抗体のような、組換え手段によって調製、発現、作出、または単離される、あらゆるタイプの抗体および抗体構造が含まれる。さらなる例は、抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から単離された抗体、または抗体もしくは抗体ドメインの組換えコンビナトリアルライブラリーから単離された抗体、または他のDNA配列への抗体遺伝子配列のスプライシングを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作出、もしくは単離された抗体を指す。
【0168】
「抗体」という用語は、新規または既存の(本明細書では「親」と呼ばれる)分子、例えば天然に発生する免疫グロブリンの機能的に活性なバリアントを含むと理解される。さらに、この用語は抗体バリアントを含み、そのような分子の誘導体も同様に含むことが理解される。誘導体は、1つもしくは複数の抗体の任意の組み合わせ、および/または融合タンパク質であり、ここで、抗体のいずれかのドメイン、例えば、VHドメインの抗原結合部位を含む抗体ドメイン、またはVHドメインは、他の抗体、例えばCDRループを含む結合構造、受容体ポリペプチドなどの1つまたは複数の他のタンパク質だけでなく、他のリガンド、酵素、毒素などにも任意の位置で融合していてよい。本明細書に記載される抗体は、具体的には、単離されたポリペプチドとして、または、例えば組換え、融合、もしくはコンジュゲーション技法により、他のペプチドもしくはポリペプチドとの複合分子として使用され得る。
【0169】
抗体の誘導体は、例えば共有結合性カップリング、静電相互作用、ジスルフィド結合などの様々な化学的技法により、他の物質との会合または結合によって取得することもできる。抗体に結合する他の物質は、脂質、炭水化物、核酸、有機および無機分子、またはそれらの任意の組み合わせ(例えば、PEG、プロドラッグ、または薬物)であり得る。誘導体には、同じアミノ酸配列を有するが、非天然のまたは化学修飾されたアミノ酸から全面的または部分的に作製された抗体も含まれ得る。特定の実施形態において、抗体は、生物学的に許容されるコンパウンドとの特異的相互作用を可能にする追加のタグを含む誘導体である。本発明において使用可能なタグに関しては、ターゲットへの免疫グロブリンの結合に対する悪影響がないか、または許容できる限り、特に限定されない。好適なタグの例としては、Hisタグ、Mycタグ、FLAGタグ、Strepタグ、カルモジュリンタグ、GSTタグ、MBPタグ、およびSタグが挙げられる。別の特定の実施形態において、抗体は、標識を含む誘導体である。本明細書で使用される「標識」という用語は、「標識された」抗体を生成するために抗体に直接的または間接的にコンジュゲートされる検出可能なコンパウンドまたは組成物を指す。標識は、単独で検出可能なもの、例えば、放射性同位体標識もしくは蛍光標識でもよく、または、酵素標識の場合は、検出可能な基質コンパウンドの化学的改変を触媒してもよい。
【0170】
抗体の誘導体は、例えば、親抗原結合(例えば、CDR)またはフレームワーク(FR)配列などの親抗体または抗体配列から誘導されるもの、例えば、in silicoまたは組換えエンジニアリングによって、あるいは化学的誘導体化または合成によって取得される突然変異体またはバリアントなどである。
【0171】
「バリアント」という用語は、機能的に活性なバリアントを具体的に包含するものとする。本明細書に記載される抗体の機能的バリアントは、抗原結合の特異性に関して特に機能的である。
【0172】
「バリアント」という用語は、特に、特定の抗体のアミノ酸配列もしくは領域において欠失、交換、挿入もしくは欠失の導入を行うための、あるいは、例えば、改善された抗体安定性、向上したエフェクター機能もしくは半減期をエンジニアリングするように定常ドメインのアミノ酸配列を化学的に誘導体化するための、または、例えば当技術分野で利用可能な親和性成熟技法によって抗原結合特性をモジュレートするように可変ドメインのアミノ酸配列を化学的に誘導体化するための、突然変異誘発法によって取得されるような、突然変異抗体または抗体のフラグメントなどの抗体を具体的に指すものとする。例えばランダム化技法によって得られる所望の位置での点突然変異、またはHCAbエンジニアリングに使用されるドメイン欠失を含め、公知の突然変異誘発法のいずれを用いてもよい。場合によっては、例えば、可能なアミノ酸のいずれか、または抗体配列をランダム化するための好ましいアミノ酸の選択のいずれかにより、位置がランダムに選択される。「突然変異誘発」という用語は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列を改変するための、当技術分野で認識されているあらゆる技法を指す。好ましいタイプの突然変異誘発としては、エラープローンPCR突然変異誘発、飽和突然変異誘発、または他の部位指向性突然変異誘発が挙げられる。
【0173】
抗原が細胞表面で、または細胞内で、またはLuminexなどのマイクロビーズ上で発現される場合、抗原結合に関する抗体の機能的活性は、典型的に、ELISAアッセイ、BIAcoreアッセイ、Octet BLIアッセイ、またはフローサイトメトリーベースのアッセイで決定される。
【0174】
機能的に活性なバリアントは、例えば、親抗体、例えば、IgG1構造のような免疫グロブリンの特定の自然状態の構造を有するモノクローナル抗体の配列を変化させて、ターゲット抗原の認識における特異性は同じだが親構造とは異なる構造を有するバリアントを取得すること、例えば、抗体ドメインのいずれかを修飾して特定の突然変異を導入すること、または親分子のフラグメントを生産することによって、取得することができる。
【0175】
特定の機能的に活性なバリアントは、1つまたは複数の機能的に活性なCDRバリアントまたは親抗体を含み、その各々が、親CDR配列における少なくとも1つの点突然変異を含み、親CDR配列との少なくとも60%の配列同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。
【0176】
特定のバリアントは、例えば、親CDR配列がヒトフレームワーク配列に組み込まれ、場合により、親CDR配列の各々の1、2、3、または4つのアミノ酸残基が、親またはヒト化抗体の安定性、特異性および親和性を改善するために点突然変異を導入することによってさらに突然変異していてもよい、親抗体の機能的に活性なバリアントである。
【0177】
具体的には、抗体は、親抗体のCDR配列のいずれかの機能的に活性なCDRバリアントを含むことができ、ここで、機能的に活性なCDRバリアントは、
a)親CDR配列における1、2、もしくは3つの点突然変異(好ましくは、CDR配列の各々における点突然変異の数は0、1、2、または3のいずれかである)、および/または
b)親CDR配列の4つのC末端アミノ酸位置もしくは4つのN末端アミノ酸位置、もしくは4つの中心アミノ酸位置のいずれかにおける1もしくは2つの点突然変異、および/または
c)親CDR配列との少なくとも60%の配列同一性
のうちの少なくとも1つを含み、好ましくは、機能的に活性なバリアント抗体は、本明細書に記載される機能的に活性なCDRバリアントのうちの少なくとも1つを含む。具体的には、機能的に活性なCDRバリアントのうちの1つまたは複数を含む機能的に活性なバリアント抗体は、親抗体と同じエピトープに結合する特異性を有する。
【0178】
特定の態様によれば、点突然変異は、1つまたは複数のアミノ酸のアミノ酸置換、欠失および/または挿入のいずれかである。
抗体配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を実現するために、必要に応じて、CLUSTALW(Chennaら、Nucleic Acids Res.、31:3497、2003)などの当技術分野で周知の方法に従って配列をアラインし、ギャップを導入した後、保存的置換を配列同一性の一部として考慮せずに、特定のポリペプチド配列内のアミノ酸残基と同一である候補配列内のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを実現するために必要なあらゆるアルゴリズムを含め、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
【0179】
抗体バリアントは、機能的であり、かつ、例えば特定のターゲットに結合し、様々な機能特性を有する機能的均等物となり得る、例えばグリコエンジニアリングによって生産された、特定のグリコシル化パターンを有する相同体、類似体、フラグメント、修飾形態、またはバリアントを含むと具体的に理解される。抗体は、グリコシル化型でも非グリコシル化型でもよい。例えば、本明細書に記載される組換え抗体は、その抗体を発現する宿主細胞によって決定される分子の特定のグリコシル化を可能にする適切な哺乳動物細胞において、または非グリコシル化型タンパク質をもたらすグリコシル化機序が欠如した原核細胞において発現され得る。
【0180】
抗体ドメインの、特に定常抗体ドメインの「ベータシート」または「ベータストランド」は、本明細書では、次のように理解される。抗体ドメインは、典型的には、少なくとも2つまたは3つの主鎖水素結合によって側面で接続されて、全体的にねじれたプリーツ状シートを形成する、少なくとも2つのベータストランドからなる。ベータストランドは、典型的に3~10アミノ酸長の一続きのアミノ酸の区間であり、そのような拡張された立体構造をとり、少なくとも1つの他のストランドとの主鎖水素結合に関与し、これによりベータシートが形成される。ベータシートでは、大半のベータストランドが、他のストランドに隣接して配置され、近隣のものと共に、1つのストランドの主鎖のN-H基が隣接したストランドの主鎖のC=O基と水素結合を確立した広範な水素結合ネットワークを形成する。
【0181】
CL(Cκ、Cλ)、CH1、CH2またはCH3ドメインなどの抗体定常ドメインの構造は、いくつかが短いアルファヘリックス区間を含む、ループによって接続されたベータストランドからなる、可変ドメインのものと同様である。様々なFc結晶構造のx線結晶構造解析のB因子から分かるように、フレームワークは大部分が強固であり、ループは比較的柔軟である。抗体定常ドメインは、典型的に、ベータシートを形成する7つのベータストランド(A-B-C-D-E-F-G)を有し、これらのベータストランドはループを介して連結されており、3つのループがドメインのN末端先端に位置しており(A-B、C-D、E-F)、さらに3つのループがドメインのN末端先端に位置している(B-C、D-E、F-G)。ドメインの「ループ領域」は、ベータストランドの領域間に位置するタンパク質の部分を指す(例えば、各CH3ドメインが、N末端からC末端の方向にAからGの7つのベータシートを含む)。
【0182】
ある特定の実施形態において、抗体ドメインは、動物(ヒトを含む)に由来するような野生型アミノ酸配列を含んでもよく、または、突然変異を含む人工のものでもよく、例えば、1つまたは複数のベータストランドの少なくとも一部分が、例えば、2つの抗体ドメインのベータシート領域を接続するようなドメイン間ジスルフィド架橋などの別のドメインとの対形成を促進する突然変異、ノブおよび/もしくはホール突然変異、または鎖交換を含むように、異種配列で置換されていてもよい。
【0183】
特定のドメイン突然変異には、追加のドメイン間または鎖間のジスルフィド架橋を形成して、
a)追加のドメイン内ジスルフィド結合によって抗体ドメインを安定化すること、および/または
c)追加の鎖間ジスルフィド架橋によって抗体ドメインの2つの鎖を安定化すること
が可能である、新しい(追加の)アミノ酸残基、例えば、Cys残基の組み込みが含まれ得る。
【0184】
ジスルフィド結合は通常、2つのシステインもしくはチオールを生じる他のアミノ酸のチオール基の酸化から、またはアミノ酸側鎖のS原子を連結することにより人工ジスルフィド架橋を形成するアミノ酸類似体のチオール基の酸化から形成される。具体的には、システインを(追加のアミノ酸またはアミノ酸置換として)一対のドメインの間に挿入して追加のシステイン修飾を保証し、それにより、ジスルフィド結合形成によって安定化されたドメイン対を作ることができる。
【0185】
抗体は、抗体ライブラリーの各結合部位でCDR配列をフォールドすることによって形成された抗原結合部位をまずスクリーニングし、特異的バインダーを選択することによって生産され得る。次のステップとして、選択されたライブラリーメンバーは、完全長免疫グロブリンまたはその抗原結合性フラグメントなど、あらゆる種類の抗体コンストラクトをエンジニアリングするために使用され得る、CDR配列(または、抗原結合およびさらには表現型特性をモジュレートするようにさらに修飾され得る親CDR配列)の供給源となり得る。
【0186】
抗体のライブラリー(例えば、同じターゲット抗原を認識する特異的抗体コンストラクトのレパートリーを含むもの、または、ある特定の動物もしくは種族、例えば、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスによって生産される抗体のナイーブライブラリーであって、異なるターゲット抗原を認識する抗体のレパートリーを含むライブラリー)は、選択されたディスプレイ系または格納容器において各抗体が適切に提示される抗体(例えば、本明細書に記載されるHCAb)のセットまたはコレクションを指す。
【0187】
特定のディスプレイ系は、本明細書に記載されるHCAbなどの抗体のような所定のタンパク質を、そのコード核酸、例えば、そのコードmRNA、cDNAまたは遺伝子とカップリングする。したがって、ライブラリーの各メンバーは、それで提示される抗体をコードする核酸を含む。ディスプレイ系は、限定されるものではないが、細胞、ファージなどのウイルス、リボソーム、酵母などの真核細胞、プラスミドを含むDNA、およびmRNAを包含する。
【0188】
このような目的には、例えば、多様な抗体配列を作出するための多数の個々のライブラリーメンバーを含む、または、例えば機能的に活性なライブラリーメンバーが濃縮もしくは安定化されている予め選択されたライブラリーを用いる、あらゆる抗体遺伝子多様性ライブラリーが使用され得る。例えば、ディスプレイ系は、ある特定のターゲットに結合するライブラリーメンバーが濃縮されていてもよい。
【0189】
ライブラリーは、例えば、鎖シャッフリング方法を含む周知の技法によって構築することができる。重鎖シャッフリングでは、ファージ抗体ライブラリー形質転換体を作出するために、例えばヒトVH遺伝子レパートリーを含むベクターに抗体がクローニングされる。さらなる方法は、抗体のCDRの部位指向性突然変異誘発、または、NNKコドンを含む突然変異誘発オリゴヌクレオチドの適用による、ターゲティングされる残基の完全ランダム化、もしくは、ターゲティングされるアミノ酸残基をコードする位置のオリゴヌクレオチドが、元のヌクレオチド塩基に偏った混合物を含む、倹約突然変異誘発を使用した、ターゲティングされる残基の部分的ランダム化のいずれかを使用する、CDRの一部もしくは全体がランダム化されるCDRランダム化を含む。代替的には、PCR反応において、dNTP類似体の適用、エラープローンポリメラーゼ、またはMn2+イオンの添加を用いるエラープローンPCRを使用して、ライブラリーを構築することができる。
【0190】
ヒト抗体ライブラリー構築の設計をコードする遺伝子の製造のためには、様々な技法が利用可能である。部分的に重なるフラグメントに配列を分割し、その後これらを合成オリゴヌクレオチドとして調製する、完全に合成のアプローチによってDNAを生産することが可能である。これらのオリゴヌクレオチドは、一緒に混合され、まず約100℃に加熱してから周囲温度にゆっくりと冷却することによって互いにアニーリングされる。このアニーリングステップの後、合成的にアセンブルされた遺伝子を直接クローニングしてもよく、クローニング前にPCRによって増幅してもよい。これは、大きなシングルポットのヒトライブラリーが望まれ、構築プロセスのために膨大な資源が利用可能である場合に特に望ましい。
【0191】
特定の方法は、直接バインダー選択および内在化ファージ抗体選択のために、ファージ、ファージミド、および/または酵母ライブラリーを用いる。ライブラリーインサートの生成のために、Kunkel法(Kunkel、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、82:488、1985)またはDpnI法[Weinerら、Gene 151:119、1994)など、部位指向性突然変異誘発のためのさらなる方法が用いられ得る。
【0192】
「抗原特異的ライブラリー」は、特定の抗原への特異性を有する抗体の存在について精査された、ポリヌクレオチド(またはそのようなポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド)のライブラリーを指す。そのようなライブラリーは、任意の抗原群または特定の抗原に対する特異性を有する抗体配列に制限されているか、または別様にそれらが偏在するもしくは濃縮されている場合がある。例示的な抗原特異的ライブラリーは、抗体「最適化ライブラリー」(例えば、「成熟ライブラリー」または「親和性成熟ライブラリー」など)である。
【0193】
本明細書に記載される特定の実施形態は、抗原で免疫化される前の免疫前ライブラリーを含むかまたはそれを発現するマウスに基づく。免疫前ライブラリーは、天然に発生する配列が抗原選択を受ける前の、そのような天然に発生する抗体配列と同様の配列多様性を有するナイーブライブラリーであり得る。免疫前ライブラリーは、免疫前レパートリーを反映もしくは模倣するように設計および調製することができ、かつ/または、V、D、およびJ遺伝子のコレクション、ならびに重鎖配列(例えば、公に知られている生殖系列配列)の他の大規模データベースの情報を受けた合理的設計に基づいて設計および調製することができる。本発明のある特定の実施形態において、ヒトまたは非ヒトレパートリーに見出される可能性のあるV、D、およびJの多様性、ならびに接合部多様性(すなわち、N1およびN2)を表すカセットが、一本鎖または二本鎖DNAオリゴヌクレオチドとしてde novo合成される。
【0194】
「最適化ライブラリー」または「成熟ライブラリー」は、抗原への特異性を有する抗体配列の存在についてナイーブライブラリーまたは免疫前ライブラリーなどのライブラリーを精査することで識別される、抗体配列の少なくとも1つの特徴を向上させるまたは改善するように設計されたライブラリーを指す。そのような成熟ライブラリーは、最初の(親)抗体との関連で導入された多様性を有するライブラリーを生成するために、in vitroまたはin vivoでさらに突然変異誘発するように設計されたライブラリーに、ナイーブライブラリーの精査から取得または識別された1つもしくは複数のCDR、1つもしくは複数の抗原結合領域、1つもしくは複数のVH領域、および/または1つもしくは複数の重鎖に対応する核酸配列を組み込むことにより、生成され得る。
【0195】
アレイ技術の別の例として、B細胞のアレイ内の手動またはコンピュータでアドレス指定できる位置で、本明細書に記載される抗体コンストラクトをコードする遺伝子をもたらすB細胞クローニングを使用することができる。ロボット工学または手動の方法を使用してこのアレイを操作し、ある特定のタイプの抗体を発現する細胞、および/または、ある特定のターゲットを特異的に認識するものだけを再配置することができる。
【0196】
ある特定の実施形態において、例えば、抗体を生産するように遺伝子エンジニアリングされた本明細書に記載されるマウスなどの好適に免疫化された非ヒトトランスジェニック動物からのB細胞クローニング、または哺乳動物細胞発現ライブラリーが使用されるか、あるいは、安定に形質転換された哺乳動物細胞の大集団が、抗体およびタンパク質エンジニアリングの標準的方法およびロボットツールによって生成される。個々のクローンは、好適なインキュベータ内のプレート上に配置されたアドレス指定できるウェル内、かつ/または、例えば液体窒素中で細胞懸濁液を凍結して-135℃で貯蔵することを含み得る長期貯蔵条件下、もしくは貯蔵された細胞株の回復を可能にする他の許容される条件下で、生存可能な状態に保たれる。
【0197】
抗体に関して本明細書で使用される「レパートリー」という用語は、多様なターゲットエピトープまたは抗原特異性によって特徴付けられるバリアントなどのバリアントのコレクションを指すものとする。典型的に、抗体の構造(「足場」とも呼ばれる)は、そのようなレパートリーにおいて同じであるが、様々な異なるCDR配列がある。
【0198】
当技術分野において周知であるように、ある特定の結合特性および親和性を有するタンパク質の識別および単離のために使用され得るディスプレイおよび選択技術には、例えば、細胞を用いる方法および細胞を用いない方法、特に可動ディスプレイ系などのディスプレイ技術を含め、様々なものがある。細胞系の中では、ファージディスプレイ、ウイルスディスプレイ、酵母または他の真核細胞ディスプレイ、例えば哺乳動物または昆虫細胞ディスプレイが使用され得る。可動系は、in vitroディスプレイ系などの可溶性フォーマットにおけるディスプレイ系に関し、それらの中には、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ、または核酸ディスプレイがある。
【0199】
ターゲットに結合することができる抗原結合構造を提示するライブラリーメンバーについてのライブラリーのスクリーニングは、任意の好適な方法によって行うことができる。スクリーニングステップは、1ラウンドまたは数ラウンドの選択を含み得る。
【0200】
ターゲット抗原に結合することができる抗体を識別するために好適な任意のスクリーニング方法を使用することができる。特に、選択のラウンドは、前記抗原またはそのエピトープに結合する抗体を選択するために前記ターゲットの存在下でライブラリーをインキュベートすることを含み得る。
【0201】
所望の構造をもつ抗体が識別されたら、例えば、ハイブリドーマ技法または組換えDNA技術を含む、当技術分野で周知の方法により、そのような抗体を生産することができる。
【0202】
ハイブリドーマ法では、本明細書に記載されるマウスなどの適切な非ヒト宿主動物を免疫化して、免疫化のために使用された抗原に特異的に結合する抗体を生産するまたは生産することが可能なリンパ球を活性化させる。代替的には、リンパ球をin vitroで免疫化してもよい。その後、ポリエチレングリコールなどの好適な融合剤を使用し、リンパ球をプラズマ細胞腫細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞を形成する。
【0203】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の生産についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって生産されたモノクローナル抗体の結合特異性は、フローサイトメトリー、免疫沈降、または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのin vitro結合アッセイによって決定される。
【0204】
別の具体例によれば、組換えモノクローナル抗体は、必要な抗体鎖をコードするDNAを単離し、周知の組換え発現ベクター、例えば、本明細書に記載される抗体配列をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドまたは発現カセットを使用して、発現のためにコード配列を組換え宿主細胞にトランスフェクトすることによって生産され得る。組換え宿主細胞は、原核細胞および真核細胞であり得る。
【0205】
特定の態様によれば、コードヌクレオチド配列は、抗体をヒト化するため、または抗体の親和性もしくは他の特徴を改善するための遺伝子操作に使用され得る。例えば、定常領域は、ヒト定常領域に類似するようにエンジニアリングされ得る。ターゲット抗原へのより高い親和性が得られるように抗体配列を遺伝子操作することが望ましい場合がある。当業者には、1つまたは複数のアミノ酸変化を抗体に加えても、ターゲット(エピトープまたは抗原)に対するその結合能力が維持され得ることが明らかであろう。
【0206】
様々な手段による抗体分子の生産は、一般に十分に理解されている。抗体の生産に関係する様々な技法は、例えば、Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、(2014)に記載されている。
【0207】
モノクローナル抗体は、例えば、培養下の連続細胞株によって抗体分子を生産する任意の方法を使用して生産することができる。モノクローナル抗体を調製するための好適な方法の例としては、Kohlerら(Nature 256:495、1975)のハイブリドーマ法、およびヒトB細胞ハイブリドーマ法[Kozbor、J.Immunol.133:3001、1984;およびBrodeurら、1987、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、LB Schook編(Marcel Dekker,Inc.、New York)、51~63ページ]が挙げられる。
【0208】
「B細胞」という用語は、液性免疫応答において(T細胞が司る細胞媒介性免疫応答とは対照的に)大きな役割を果たすリンパ球の一種を指す。B細胞の主な機能は、抗原に対する抗体を作ること、具体的には、特定の抗原に特異的な細胞表面抗体(BCR複合体を形成する)を発現し、抗原提示細胞(APC)の役割を果たし、最終的には抗原相互作用による活性化後に抗体分泌形質細胞およびメモリーB細胞へと発達することである。B細胞は、適応免疫系の必須の構成要素である。具体的には、B細胞は、抗原に曝露されると活性化し、プラズマ細胞とも呼ばれる形質細胞、およびメモリー細胞などの免疫グロブリン発現B細胞バリアントへと分化する。
【0209】
本明細書では「B細胞レパートリー」とも呼ばれる、B細胞に関して本明細書で使用される「レパートリー」という用語は、多様なターゲットエピトープまたは抗原特異性を含む免疫グロブリンの発現によって特徴付けられる、B細胞バリアントなどのバリアントのコレクションを指すものとする。
【0210】
本明細書で使用される「ターゲット」という用語は、エピトープまたは抗原を指すものとする。
本明細書で使用される「抗原」という用語は、動物の免疫系または抗体のライブラリーへの抗原の曝露の結果として抗体の結合部位(少なくとも1つのパラトープ)によって認識されることが示されている抗原およびターゲット分子のすべてを特に含むものとする。具体的には、本明細書に記載される抗体によってターゲティングされる好ましい抗原は、免疫学的もしくは治療的に重要であることが既に証明されている、または重要となることが可能である分子、特に、臨床有効性が試験されたものである。
【0211】
「抗原」という用語は、ターゲット分子の全体、またはかかる分子のフラグメント、特に、ターゲットのポリペプチドまたは炭水化物構造などの部分構造を説明するために使用される。そのような部分構造(B細胞エピトープ、T細胞エピトープなど、「エピトープ」と呼ばれることが多い)は、免疫学的に重要であり得る、すなわち、同じく天然抗体またはモノクローナル抗体によって認識可能である。
【0212】
本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、抗原と特異的抗体との間の界面に存在する分子構造を特に指すものとし、エピトープと相互作用する抗体表面は、「パラトープ」と呼ばれる。化学的には、エピトープは、炭水化物の配列もしくは構造、不連続エピトープ内のペプチド配列もしくは配列セット、脂肪酸、またはオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドから構成され得る。抗原性分子は、有機、生化学、または無機の物質である場合、「ハプテン」と呼ばれる。エピトープまたはハプテンは、上記物質の誘導体または任意の組み合わせからなり得る。エピトープがポリペプチドである場合、通常、少なくとも3アミノ酸、好ましくは8~50アミノ酸、より好ましくは約10~20アミノ酸がペプチドに含まれる。エピトープは、線状エピトープまたは不連続エピトープのいずれかであり得る。線状エピトープは、ポリペプチドまたは炭水化物鎖の一次配列の単一のセグメントから構成される。線状エピトープは、連続的でも、部分的に重なってもよい。不連続エピトープは、三次構造を形成するようにポリペプチドをフォールドすることによってまとめられたアミノ酸または炭水化物から構成され、アミノ酸は、必ずしも線状配列において互いに隣接しているとは限らない。具体的には、エピトープは、診断上重要な分子の少なくとも一部であり、すなわち、サンプル中のエピトープの非存在または存在は、疾患、または患者の健康状態、または製造におけるプロセスステータス、または環境および食物のステータスのいずれかに、質的または量的に相関する。エピトープは、治療上重要な分子、すなわち、疾患の過程を変化させる、特異的結合ドメインによってターゲティングすることができる分子の少なくとも一部である場合もある。
【0213】
本明細書で使用される場合、「特異性」または「特異的結合」という用語は、分子の不均質集団における目的の同族リガンドを決定する結合反応を指す。したがって、特定の条件(例えば、免疫アッセイ条件)下で、抗体がその特定のターゲットに結合し、サンプル中に存在する他の分子に有意な量で結合することはない。特異的結合とは、結合が、選択されたターゲット同一性、高、中、または低の結合親和性またはアビディティに関して選択的であることを意味する。選択的結合は通常、結合定数または結合動態が、サンプル中の競合ターゲットと少なくとも10倍異なる場合に実現され、好ましくは、この差異は、少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも1000倍である。
【0214】
特異的結合は、同様の抗原、または異なる種の同じ抗原(類似体)との特定の交差反応性を除外しない。例えば、結合実体は、好ましくは、前臨床動物実験を容易にするように、ヒトターゲットに類似する齧歯類または霊長類のターゲットとも交差反応し得る。
【0215】
本明細書で使用される「遺伝子座」という用語は、DNAコード配列、あるいは、DNAのうち、発現産物、すなわち、宿主生物のゲノムの一部などのゲノム配列、または、例えば定義された制限部位もしくは相同性領域のようなターゲット部位で組み入れられるベクターの一部をコードするセグメントを指す。
【0216】
制限部位は、発現カセットが適切なリーディングフレームに挿入されることを確実にするように設計され得る。典型的に、外来(本明細書では外因性ともいう)DNAは、ベクターDNAの1つまたは複数の制限部位で挿入され、その後、ベクターにより、伝染性ベクターDNAと併せて宿主細胞内に運搬される。
【0217】
典型的に、遺伝子座は、本明細書に記載される少なくとも1つの遺伝子または1つもしくは複数の遺伝子セグメントを包含する。「遺伝子座」という用語は、遺伝子が活発に転写されること、またはインタクトであることを含意しない。不活性化された遺伝子が包含され得る。
【0218】
本明細書で使用される「免疫グロブリン重鎖遺伝子座」という用語は、1つまたは複数の重鎖定常領域に操作可能に連結された、1つまたは複数のV遺伝子セグメント、1つまたは複数のD遺伝子セグメント、および1つまたは複数のJ遺伝子セグメントを含むVHドメインをコードする遺伝子座に関する。好ましくは、本明細書で言及される免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、少なくとも1つのトランスジェニック核酸配列、具体的には本明細書に記載されるCγ遺伝子セグメントを含む、内因性マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座である。免疫グロブリン重鎖遺伝子座のV、DおよびJ遺伝子セグメントは、それぞれ、VH、DおよびJHコード配列、ならびにそれぞれのVH、DおよびJHコード配列の発現を制御するように作動可能に連結している発現制御配列を含む。特定の実施形態によれば、VH、DおよびJHコード配列はヒトのものであり、VH重鎖遺伝子座の発現制御配列はマウスの、好ましくは内因性発現制御配列であり、したがって、キメラV、DおよびJ遺伝子セグメントがもたらされる。
【0219】
V遺伝子セグメントの複雑性は、遺伝子座に存在するV遺伝子セグメントの数を増加させることによって、または異なるV遺伝子セグメントを各々が含む異なる遺伝子座を使用することによって高めることができる。
【0220】
好ましくは、免疫グロブリン重鎖遺伝子座の可変領域は、任意の脊椎動物種または本明細書に記載されるキメラから誘導された5~120(10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、または120)またはそれ以上の異なるV遺伝子セグメントを含む。
【0221】
好ましくは、免疫グロブリン重鎖遺伝子座の可変領域は、2~40(2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30または40)またはそれ以上のD遺伝子セグメントを含む。D遺伝子セグメントは、任意の脊椎動物種から誘導されてもよく、本明細書に記載されるようなキメラでもよい。
【0222】
好ましくは、免疫グロブリン重鎖遺伝子座の可変領域は、2~20(2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18または20)またはそれ以上のJ遺伝子セグメントを含む。J遺伝子セグメントは、任意の脊椎動物種から誘導されてもよく、本明細書に記載されるようなキメラでもよい。
【0223】
V遺伝子セグメントは、DNAレベルでD遺伝子セグメント、J遺伝子セグメントと組み換わって機能的なVDJエキソンを形成することが可能でなければならない。転写およびRNAスプライシング後、VDJエキソンおよび重鎖定常(エフェクター)領域(いくつかのエキソンを含み得る)が、mRNA転写産物において隣接し、翻訳のために機能的になり、本発明によれば、核酸が発現されると重鎖のみ抗体を生成する。
【0224】
操作上、重鎖定常領域は、B細胞でVDJエキソンと共に発現されることが可能な、天然に発生する、またはエンジニアリングされた遺伝子セグメントによってコードされる。
抗体は、アイソタイプまたはクラスとして知られる異なる様々な形態で生じ得る。有胎盤哺乳動物には、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMとして知られる5つの抗体アイソタイプがある。これらは各々、免疫グロブリン(抗体と交換可能に使用されることがある名称)を表す接頭辞「Ig」を用いて名付けられ、生物学的特性、機能的位置、および様々な抗原に対処する能力において異なる。抗体アイソタイプの異なる接尾辞は、抗体が含む異なるタイプの重鎖を意味し、各重鎖クラスがアルファベット順にα(アルファ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)、ε(イプシロン)、およびμ(ミュー)と名付けられる。これにより、それぞれIgA、IgG、IgD、IgE、およびIgMとなる。
【0225】
本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座の重鎖定常領域は、IgG型の重鎖のみ抗体の生成が起こり得るように、機能的CH1ドメインなしで発現される、本明細書に記載されるトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを少なくとも含む。各重鎖定常領域は、Cδ、Cμ、CεおよびCα遺伝子セグメントからなる群から選択される、1つまたは複数の追加の重鎖定常領域遺伝子セグメントを含んでもよい。重鎖定常領域遺伝子セグメントは、好ましいクラスまたは必要とされる抗体クラスの混合に応じて選択される。
【0226】
例えば、CH1ドメインの全部または一部の欠失を含むトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含む異種免疫グロブリン重鎖遺伝子座の全部または一部の発現により、エンジニアリングされたIgh遺伝子座に存在するIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4アイソタイプに依存して、場合によりいくつかまたはすべてのIgGアイソタイプが生産される。
【0227】
代替的には、選択された抗体混合物が取得され得る。例えば、重鎖定常領域がCαおよびCμ遺伝子セグメントを含む場合、IgAおよびIgMがさらに取得され得る。
具体的には、本明細書に記載されるCγ遺伝子セグメントは、CH1ドメインの全部または一部をコードするヌクレオチド配列の欠失、例えばCH1エキソンの欠失を含む。そのような欠失は、CH1ドメインからその機能性を奪う限り、CH1ドメインをコードするヌクレオチド配列の部分的欠失であり得る。好ましくは、部分的欠失は、シャペロン結合ドメイン、特にBiPシャペロン結合ドメインを除去または不活性化する。
【0228】
場合により、異種重鎖遺伝子座は、Cμ欠損性であるか、または不活性のCμ遺伝子セグメントを含む。具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、Cμ遺伝子セグメントをコードするヌクレオチド配列の少なくとも一部の、機能喪失突然変異、例えば、停止コドンの導入、または欠失により、不活性である。具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、CH1、CH2、CH3および/またはCH4ドメインの欠失によって不活性である。
【0229】
具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、Cμ遺伝子セグメントをコードするヌクレオチド配列全体、または前記配列の少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは99%のうちのいずれか1つの欠失により、不活性である。
【0230】
具体的には、Cμ遺伝子セグメントは、そのCH1、CH2、CH3およびCH4ドメインのいずれか1つまたはすべてに、機能喪失突然変異、欠失、または不活性化突然変異、好ましくは停止コドンの導入を含む。好ましくは、Cμ遺伝子セグメントは、CH1、CH2およびCH3ドメインに停止コドンを含む。
【0231】
具体例において、ヒトにおける治療用途のために使用されるHCAbの誘導のために、この遺伝子座に存在するVDJコード配列は、場合により修飾されているヒト生殖系列配列から誘導され、定常領域は、宿主動物が齧歯類、例えばマウスである場合、齧歯類由来であり得る。可溶性ヒトVH結合ドメインおよび齧歯類定常エフェクター領域を含む選択された重鎖のみ抗体をその後クローニングし、齧歯類エフェクター領域を、任意選択のヒト定常エフェクター領域、または代替的なVH融合タンパク質、VHドメイン抗体複合体などを誘導するために使用される可溶性VHドメインによって置換してもよい。
【0232】
別の具体例によれば、重鎖のみ抗体が獣医学または別の目的で使用される場合、V、DおよびJコード配列は、意図される目的に最も適した脊椎動物または哺乳動物から誘導されることが好ましい。例えば、V遺伝子セグメントならびにDおよびJ遺伝子セグメントは、獣医学、産業、農業、診断、または試薬の用途など、意図される使用に応じて、他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ、ウマなど)から誘導されてもよい。
【0233】
「重鎖定常領域エキソン」(「CHエキソン」)は、天然に発生する脊椎動物の、特に哺乳動物の、CHエキソンの配列を含む。これは、クラスに固有の様式で異なる。例えば、IgGおよびIgAは、天然にCH4ドメインを欠いている。「CHエキソン」という用語は、CHエキソンが、重鎖定常領域の構成要素であるときに、本明細書で定義されるような機能的なHCAbを形成することができる限り、その誘導体、相同体およびフラグメントもその範囲内に含む。
【0234】
本明細書に記載される特定の実施形態において、トランスジェニックマウスの内因性カッパおよびラムダ軽鎖遺伝子座は、内因性κおよび/もしくはλ軽鎖遺伝子座またはそれらの一部の機能喪失突然変異または欠失のような、1つまたは複数の修飾によって非機能的である。
【0235】
例示的な好適な修飾は、次のように理解される。カッパ鎖遺伝子座を不活性化するためには、Cκから最も遠いVκ遺伝子セグメントであるVκ2-137と、Cκに最も近いJκであるJκ5との間の3.2Mbゲノム領域の全体を、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)ストラテジーによって欠失させる。これは、Vκ2-137の上流およびJκ5の下流に適切なターゲティング配列を挿入した後、間にあるゲノム領域をin vitroでCreによって欠失させることによって行われる。同様のストラテジーを使用することで、ラムダ鎖遺伝子座が不活性化される。マウスラムダV遺伝子セグメント(IglV)を含む194Kb領域全体が、RMCEによって欠失する。この場合、IglV2の上流およびIglV1の下流に適切なターゲティング配列を挿入した後、間にあるゲノム領域をin vitroでCreによって欠失させる。
【0236】
遺伝子座は、本明細書にさらに記載されるように、抗体をコードするエキソンを発現するまたは含むようにエンジニアリングされ得る。
組換え遺伝子座は、部位特異的編集および/または組換えのための様々な従来技法を使用して作出することができる。好ましくは、修飾された遺伝子座は、遺伝子セグメントを含む一片のDNA(ここでは「ドナーDNA」と呼ばれる)を、宿主生物の重鎖遺伝子座などの非ヒト動物免疫グロブリン遺伝子座の修飾バージョン(ここでは「アクセプター対立遺伝子」と呼ばれる)に挿入することによって生成される。アクセプター対立遺伝子は、Creリコンビナーゼなどの部位特異的DNAリコンビナーゼのための認識部位(loxP部位およびloxP部位の突然変異バージョン)を含み得る。ドナーDNAは、同じCreリコンビナーゼ認識部位によって(例えば、片側にloxP部位があり、反対側にloxP部位の突然変異バージョンがあるように、5’末端と3’末端との両方で)フランキングされていてもよい。Creリコンビナーゼは、アクセプター対立遺伝子へのドナーDNAの挿入を触媒するために使用され得る。
【0237】
代替的な実施形態において、遺伝子セグメントは、相同組換えだけではないにせよ、主に相同組換えによって、免疫グロブリン遺伝子座に導入される。そのような実施形態では、抗体コード遺伝子セグメントを含む核酸配列をフランキングするゲノムターゲティング相同性アーム(すなわち、5’末端と3’末端との両方にある、ターゲット配列と相同でありハイブリダイズすることが可能なヌクレオチド配列)から構成されるターゲティング配列またはベクターが用いられる。これらのゲノム相同性アームは、免疫グロブリン重鎖をコードするDNAなどのDNAを免疫グロブリン遺伝子座に挿入することを容易にする。ターゲティング配列は、細胞のゲノムにおける、修飾される免疫グロブリン遺伝子座の領域をフランキングする、またはそれに隣接して発生するDNA配列と相同である配列を指す。フランキングまたは隣接配列は、宿主細胞のゲノムにおいて、遺伝子座自体の中、またはコード配列の上流もしくは下流にあり得る。ターゲティング配列は、細胞ゲノムに挿入される配列、例えば組換え部位の配列が、ベクターのターゲティング配列によってフランキングされるように、細胞トランスフェクションに使用される組換えDNAベクターに挿入される。
【0238】
挿入または欠失のようなゲノム内の遺伝子変化を達成するために相同組換えが用いられる多くの事例において、さらなる修飾には、所望の結果が達成され得る可能性を高めるために、エンジニアリングされた部位特異的エンドヌクレアーゼの使用が必要となる。そのようなエンドヌクレアーゼは、ターゲットゲノム内のユニーク配列に対して高度に特異的になるようにエンジニアリングすることができるため、また、それらが認識する部位で二本鎖DNA切断を引き起こすため、有用である。二本鎖切断は、切断のごく近辺のDNAとのターゲティング相同性を有するターゲティングベクターによる相同組換えを促進する。したがって、ターゲティングベクターと、ベクターによってターゲティングされる領域内またはその近くのDNAを切断する部位特異的エンドヌクレアーゼとの組み合わせは、典型的に、ターゲティングベクター単独の使用よりも大幅に高い相同組換え効率をもたらす。さらに、1つまたは複数の部位特異的エンドヌクレアーゼと、一方のアームが欠失させる領域の片側をターゲティングし、他方のアームが反対側をターゲティングする、2つのターゲティング相同性アームから構成されるターゲティングベクターとを使用することにより、ゲノム欠失の作出を容易にすることが可能である。
【0239】
部位特異的組換えは、リコンビナーゼ認識に必要とされる短い特異的DNA配列だけが組換えの起こる部位であるという点で、一般的な相同組換えとは異なる。部位特異的組換えには、部位を認識し、これらの部位での組換えを触媒するために、特殊化されたリコンビナーゼが必要である。バクテリオファージおよび酵母から誘導された複数の部位特異的組換え系(各々、リコンビナーゼおよび特異的同族ターゲット部位を含む)が、DNA組み入れの目的で真核細胞において機能することが示されており、したがって、本明細書に記載される使用に適用可能である。これらは、バクテリオファージP1 Cre/lox、酵母FLP-FRT系、および部位特異的リコンビナーゼのチロシンファミリーのDre系を含む。このような系および使用方法は、先行技術で十分に説明されている。リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)の手順は、野生型および突然変異体loxP(またはFRTなど)の部位の組み合わせを、適切なリコンビナーゼ(例えば、CreまたはFlp)、ならびに負および/または正の選択と併せて使用することによって容易になる。RMCEは、用いられる部位が互いに同一である場合および/または選択の非存在下で起こるが、挿入反応ではなく切除が優先されるためにプロセスの効率は低下し、(正の選択を取り入れない場合)適切に突然変異した細胞が濃縮されない。
【0240】
バクテリオファージラムダIntインテグラーゼ、HK2022インテグラーゼなどの他のチロシンファミリー系、およびバクテリオファージphiC31、R4Tp901インテグラーゼなどの別個のセリンリコンビナーゼファミリーに属するさらなる系が、それぞれの組換え部位を使用して哺乳動物細胞で機能することが知られており、本明細書に記載される使用に同じく適用可能である。
【0241】
本明細書に記載される方法は、同じリコンビナーゼを利用するが部位間の組換えを促進しない部位特異的組換え部位を具体的に利用する。例えば、loxP部位および突然変異型loxP部位が宿主のゲノムに組み入れられ得るが、宿主へのCreの導入は、2つの部位の組換えを引き起こさない。むしろ、loxP部位は別のloxP部位と組み換わり、突然変異型部位は、別の同様の突然変異型loxP部位だけと組み換わる。
【0242】
リコンビナーゼ媒介カセット交換を容易にするためには、2つのクラスのバリアントリコンビナーゼ部位が利用可能である。一方は、部位の8bpスペーサー領域内に突然変異を保有し、他方は、13bp逆方向反復に突然変異を有する。
【0243】
lox511(Hoessら、Nucleic Acids Res.、14:2287、1986)、lox5171およびlox2272(LeeおよびSaito、Gene、216:55、1998)、m2、m3、m7、およびmil(Langerら、Nucleic Acids Res.、30:3067、2002)などのスペーサー突然変異体は、それら自体とは容易に組み換わるが、野生型部位との組換え率は著しく低下する。この類の突然変異体部位をリコンビナーゼ媒介カセット交換によるDNA挿入のために使用することの例は、BaerおよびBode、Curr.Opin.Biotechnol.、12:473、2001に見出すことができる。
【0244】
逆方向反復突然変異体は、第2のクラスのバリアントリコンビナーゼ部位を表す。例えば、loxP部位は、左逆方向反復(LE突然変異体)または右逆方向反復(RE突然変異体)に改変された塩基を含み得る。LE突然変異体のlox71は、野生型配列からTACCGに変化した5bpを左逆方向反復の5’末端に有する(Araki、Nucleic Acids Res.、25:868、1997)。同様に、RE突然変異体のlox66では、最も3’側の5塩基がCGGTAに変化している。逆方向反復突然変異体は、プラスミドインサートを染色体DNAに組み入れるために使用され得る。例えば、LE突然変異体は、「ターゲット」染色体loxP部位として使用することができ、これに「ドナー」RE突然変異体が組み換わる。組換え後、RE部位を含んでいたDNAのドナー部分は、片側に二重突然変異体部位(LEおよびREの両方の逆方向反復突然変異を含む)、反対側に野生型部位がフランキングするようにゲノム内に挿入された状態で見出される(LeeおよびSadowski、Prog.Nucleic Acid Res.Mol.Biol.、80:1、2005)。二重突然変異体は、Creリコンビナーゼによって認識されないように野生型部位と十分に異なり、挿入されたセグメントは、したがって、2つの部位間のCreによる組換えによって切除できない。
【0245】
ある特定の態様において、部位特異的組換え部位は、コード核酸領域または調節配列ではなく、イントロンまたは遺伝子間領域に導入され得る。これにより、動物細胞のゲノムに部位特異的組換え部位を挿入する際に、適切な遺伝子発現に必要な調節配列またはコード領域を意図せず破壊することが回避され得る。
【0246】
部位特異的組換え部位の導入は、従来の相同組換え技法によって実現され得る。そのような技法は、例えば、SambrookおよびRussell(2001)Molecular cloning:a laboratory manual、第3版(Cold Spring Harbor、N.Y.:Cold Spring Harbor Laboratory Press)、およびNagy、(2003)Manipulating the mouse embryo:a laboratory manual、第3版(Cold Spring Harbor、N.Y.:Cold Spring Harbor Laboratory Press)などの参考文献に記載されている。
【0247】
ゲノムへの特異的組換えは、当技術分野で知られる正または負の選択のために設計されたベクターを使用して容易にすることができる。置換反応を受けた細胞の識別を容易にするために、適切な遺伝子マーカー系を用い、例えば、選択培地の使用によって細胞を選択することができる。しかしながら、ゲノム配列が、置換間隔の2つの端点またはそれらの近隣に外来性核酸配列を実質的に含まないことを確実にするためには、置換された核酸を含む細胞の選択後にマーカー系/遺伝子が除去され得ることが望ましい。
【0248】
リコンビナーゼは、精製されたタンパク質として用意されてもよく、リコンビナーゼ活性をもたらすために細胞内で一過性に発現されるコンストラクトから発現されてもよい。代替的には、マーカー遺伝子および関連する組換え部位が欠如した子孫を生産するために、前記リコンビナーゼを発現する動物と交配され得るトランスジェニック動物を生成するように、細胞を使用してもよい。
【0249】
本明細書では、遺伝子に関する「内因性」という用語は、遺伝子が細胞にとって自然であること、すなわち、遺伝子が非修飾型細胞のゲノム内の特定の遺伝子座に存在することを示す。内因性遺伝子は、野生型細胞の該遺伝子座に存在する(天然に見られるような)野生型遺伝子であり得る。内因性遺伝子は、ゲノム内で野生型遺伝子と同じ遺伝子座に存在する場合、修飾された内因性遺伝子でもよい。そのような修飾された内因性遺伝子の一例は、その配列内に欠失を含む、または外来核酸が挿入される遺伝子である。内因性遺伝子は、核ゲノム、ミトコンドリアゲノムなどに存在し得る。具体的には、本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、本明細書に記載される修飾を含む内因性マウス免疫グロブリン遺伝子座である。
【0250】
本明細書に記載される免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含む。特定の実施形態において、内因性Cμ遺伝子セグメントは不活性になるように修飾されるが、Cμ遺伝子セグメントはその遺伝子座内で野生型マウスと同じ位置に存在する。
【0251】
代替的な実施形態において、遺伝子セグメントは、CRISPR/Cas9技術によって、この系で典型的に使用される相同配列依存的修復によってではなく、非相同末端結合アプローチ(例えば、Heら、Nuc.Acids Res.、44:e85、2016を参照されたい)を使用して、免疫グロブリン遺伝子座に導入される。
【0252】
本発明との関連において、「異種」という用語は、本明細書に記載されるようなヌクレオチド配列もしくは遺伝子座が、それが存在する哺乳動物にとって内因性ではないこと、または内因性遺伝子座が、内因性配列の置換もしくは除去によって修飾されていることを意味する。
【0253】
本明細書では、核酸エレメント、例えば、免疫グロブリン遺伝子セグメントなどの核酸コンストラクト、または遺伝子などの非コードもしくはコード遺伝子配列、または遺伝子座に関する「トランスジェニック」という用語は、それぞれ、遺伝子、遺伝子セグメント、および遺伝子座が、細胞にとって自然ではない(すなわち、同じ種の野生型細胞において細胞ゲノム内の同じ位置で自然に発生しない)こと、または組換え細胞を生産するための細胞にとって外来であること、すなわち、野生型細胞ではない修飾型(組換え)細胞のゲノムに核酸エレメントが存在することを示す。トランスジェニック遺伝子セグメントは、野生型細胞におけるそれぞれの遺伝子座または位置とは異なる遺伝子座または位置に存在する(したがって天然では同じ遺伝子座に見られない)野生型遺伝子セグメントであり得る。トランスジェニック遺伝子セグメントは、野生型遺伝子または生物に見られるもの以外のゲノム内の異なる遺伝子座に存在する場合、(修飾型または未修飾型)内因性コード配列または遺伝子を含み得る。そのようなトランスジェニック核酸エレメントの一例は、修飾された内因性のもの、例えば、CH1ドメインに欠失または修飾を含む本明細書に記載されるCγ遺伝子セグメントであり、この遺伝子セグメントは、内因性マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座内で、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流に組み入れられ、したがって、Cγ遺伝子セグメントが免疫グロブリン重鎖遺伝子座内でCμ遺伝子セグメントの下流に置かれる、野生型細胞におけるそれぞれの場所とは異なる場所にある。
【0254】
「導入遺伝子」という用語は、本明細書では、細胞、特に宿主動物の細胞のゲノムに人工的に挿入された、またはその前の遺伝物質を表現するために使用される。本明細書で使用される「導入遺伝子」という用語は、例えば、CH1ドメインに欠失を含む本明細書に記載されるCγ遺伝子セグメントのような、宿主のゲノムに導入され組み込まれ得る発現コンストラクトおよび/またはターゲティングベクターに含まれる核酸などの核酸分子またはエレメントを指す。これにより、宿主生物(マウスなど)が「トランスジェニック」宿主としてエンジニアリングされる。
【0255】
「組換え」という用語は、宿主細胞において天然に発生しないポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。組換えまたはトランスジェニック分子は、天然に発生しないようなかたちで一緒に連結された2つ以上の天然に発生する配列を含み得る。組換えまたはトランスジェニック細胞は、組換えポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含む。細胞がトランスジェニックまたは組換え核酸を受けた場合、その核酸は細胞にとって「外因性」である。
【0256】
「組換え」という用語は、「遺伝子エンジニアリングによって調製されること、またはその結果」を具体的に意味する。代替的には、「エンジニアリングされた」という用語が使用される。例えば、それぞれの親配列をエンジニアリングしてエンジニアリングされた抗体またはドメインをもたらすことによってバリアントを生産するように、抗体または抗体ドメインが修飾され得る。組換え宿主は、発現ベクターもしくはターゲティングベクターを具体的に含むか、または、特に、宿主にとって外来のヌクレオチド配列を用いて、組換え核酸配列を含むように遺伝子エンジニアリングされている。組換えタンパク質は、それぞれの組換え核酸を宿主において発現させることによって生産される。本明細書で使用される「組換え抗体」という用語は、免疫グロブリン、特に、以下のような、組換え手段によって調製、発現、作出、または単離された抗体を含む。
【0257】
a)ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックもしくは染色体導入型(transchromosomal)である動物(例えば、マウスなどの非ヒト動物)またはそれから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、
b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えば、トランスフェクトーマから単離された抗体、
c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離された抗体、および
d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列などを他のDNA配列にスプライシングすることを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作出、または単離された抗体。このような組換え抗体は、例えば抗体成熟中に発生する再構成および突然変異を含むようにエンジニアリングされた抗体を含む。
【0258】
諸実施形態のある特定の態様において、本発明のトランスジェニック動物は、ヒト免疫グロブリン領域をさらに含む。例えば、部分的または完全にヒトの抗体を創薬目的で作出するために、内因性マウス免疫グロブリン領域をヒト免疫グロブリン配列で置換するための多数の方法が開発されてきた。そのようなマウスの例としては、例えば、米国特許第7,145,056号、同第7,064,244号、同第7,041,871号、同第6,673,986号、同第6,596,541号、同第6,570,061号、同第6,162,963号、同第6,130,364号、同第6,091,001号、同第6,023,010号、同第5,593,598号、同第5,877,397号、同第5,874,299号、同第5,814,318号、同第5,789,650号、同第5,661,016号、同第5,612,205号、および同第5,591,669号に記載されているものが挙げられる。
【0259】
本明細書で使用される場合、「キメラ免疫グロブリン遺伝子セグメント」という用語は、ヒト免疫グロブリン遺伝子セグメントコード配列、特にヒトIGH(VH、DおよびJH)コード配列、およびマウス発現制御配列を含む免疫グロブリン遺伝子セグメントを指すために使用される。そのようなキメラ遺伝子セグメントを含むマウスは、部分的にヒトのものである導入された外因性免疫グロブリン領域を含むゲノムを有し、導入された領域は、ヒト可変領域コード配列と、マウス由来またはマウスの内因性ゲノムのものであり、キメラ免疫グロブリン遺伝子セグメントまたはキメラ免疫グロブリン遺伝子座の導入によってマウスゲノムにノックインされた、ヒト配列の発現を制御するマウス非コード性調節配列とを含む。特に、マウス配列、具体的にはマウスの非コード性の調節配列は、対応するマウス内因性配列、すなわち内因性野生型免疫グロブリン遺伝子座のものと同一の配列に基づく。
【0260】
ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の発現を目的とする、本明細書に記載されるマウス発現制御配列は、プロモーター、転写開始および停止配列、エンハンサーおよびアクチベーター配列、またはリボソーム結合部位からなる群から具体的に選択される。そのような発現制御配列の具体例は、プロモーター、5’非翻訳配列、リーダーペプチドのコード配列の間にあるイントロン、組換えシグナル配列(RSS)、およびスプライス部位を含み得る、コード配列をフランキングする配列である。
【0261】
特に好ましい態様において、本明細書に記載されるトランスジェニックマウスは、WablおよびKilleenによって米国公開第2013/0219535号に記載されたようなキメラ免疫グロブリンセグメントを含む。そのようなトランスジェニックマウスは、導入された部分的にヒトの免疫グロブリン領域を含むゲノムを有し、導入された領域は、ヒト可変領域コード配列と、マウスの内因性ゲノムに基づく非コード可変配列とを含む。具体的には、本発明のトランスジェニック細胞およびマウスは、内因性免疫グロブリン領域の一部または全部が除去されたゲノムを有する。
【0262】
別の好ましい態様では、本明細書に記載されるマウスのゲノム内容が改変されて、それらのB細胞が、細胞ごとに複数の機能的VHドメインを発現することが可能になり、すなわち、細胞が、WO2017035252A1に記載されているような二重特異性抗体を生産するようになる。
【0263】
本明細書で使用される「ベクター」は、好適な宿主生物における、クローニングされた組換えヌクレオチド配列の、すなわち組換え遺伝子の転写、およびそれらのmRNAの翻訳に必要とされるDNA配列と定義される。ベクターには、自己複製するか否かにかかわらず、細胞を形質転換、形質導入、またはトランスフェクトするために使用され得る、プラスミドおよびウイルス、ならびにあらゆるDNAまたはRNA分子が含まれる。ベクターは、自律的に複製するヌクレオチド配列、およびゲノムに組み入れられるヌクレオチド配列を含み得る。発現ベクターは、宿主細胞における自律複製起点またはゲノム組み入れ部位、1つまたは複数の選択マーカー(例えば、アミノ酸合成遺伝子、またはピューロマイシン、Zeocin(商標)、カナマイシン、G418、もしくはハイグロマイシンなどの抗生物質に対する抵抗性を付与する遺伝子)、複数の制限酵素切断部位、好適なプロモーター配列、および転写ターミネータをさらに含んでもよく、これらの構成要素は一緒に作動可能に連結している。
【0264】
一般的なタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは通常、追加の(外来)DNAを容易に受け入れることができ、かつ好適な宿主細胞に容易に導入され得る、二本鎖DNAの自己完結型分子である。プラスミドは、多くの場合、コードDNAおよびプロモーターDNAを含み、外来DNAを挿入するのに好適な1つまたは複数の制限部位を有する。具体的には、「プラスミド」という用語は、宿主を形質転換し、導入された配列の発現(例えば、転写および翻訳)を促進するために、DNAまたはRNA配列(例えば、外来遺伝子)を宿主細胞に導入することのできる輸送手段を指す。
【0265】
本明細書で使用される「宿主細胞」という用語は、本明細書に記載される抗体などの特定の組換えタンパク質を生産するために形質転換される初代対象細胞、およびそのあらゆる子孫を指すものとする。すべての子孫が親細胞と厳密に同一であるとは限らないが(意図的もしくは偶発的な突然変異、または環境における差異のため)、元々形質転換された細胞と同じ機能性を子孫が保持する限り、そのような改変された子孫がこれらの用語に含まれることを理解されたい。「宿主細胞株」という用語は、組換え遺伝子を発現させて組換え抗体などの組換えポリペプチドを生産するために使用される宿主細胞の細胞株を指す。本明細書で使用される「細胞株」という用語は、長期間にわたって増殖する能力を獲得した特定の細胞型の確立されたクローンを指す。そのような宿主細胞または宿主細胞株は、組換えポリペプチドを生産するために、細胞培養下で維持され、かつ/または培養され得る。
【0266】
核酸、抗体または他のコンパウンドに関して本明細書で使用される「単離された」または「単離」という用語は、「実質的に純粋な」形態で存在するように、それが天然では関連するであろう環境から十分に分離されたコンパウンドを指すものとする。「単離された」は、他のコンパウンドもしくは物質との人工もしくは合成の混合物、または基礎的活性に干渉せず、例えば不完全な精製のために存在し得る不純物の存在の排除を必ずしも意味しない。特に、本明細書に記載される単離された核酸分子は、化学合成されたものを含むことも意図している。
【0267】
本明細書に記載される核酸に関して、「単離された核酸」という用語が使用されることがある。この用語は、DNAに適用される場合、その由来である生物の天然に発生するゲノムにおいてそれがすぐ隣接している配列から分離されたDNA分子を指す。例えば、「単離された核酸」は、プラスミドもしくはウイルスベクターなどのベクターに挿入された、または原核細胞もしくは真核細胞もしくは宿主生物のゲノムDNAに組み入れられたDNA分子を含み得る。RNAに適用される場合、「単離された核酸」という用語は、上記で定義したような単離されたDNA分子によってコードされるRNA分子を主に指す。代替的には、この用語は、天然状態(すなわち、細胞または組織内)では関連するであろう他の核酸から十分に分離されたRNA分子を指し得る。「単離された核酸」は(DNAにせよRNAにせよ)、さらに、生物学的手段または合成手段によって直接生産され、その生産中に存在する他の構成要素から分離された分子を表し得る。
【0268】
単離された抗体などのポリペプチドまたはタンパク質に関して、「単離された」という用語は、それらの天然環境、またはそれらが調製される環境、例えば、かかる調製がin vitroもしくはin vivoで行われる組換えDNA技術による場合は細胞培養下で、それらと共に見出される他のコンパウンドのような、それらが天然に関連している物質を含まない、または実質的に含まないコンパウンドを具体的に指すものとする。単離されたコンパウンドは、希釈剤またはアジュバントと共に製剤しても、実用目的のために単離することができ、例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、診断または治療で使用される場合、薬学的に許容される担体または賦形剤と混合することができる。
【0269】
本明細書に記載される抗体は、特に、異なるターゲット抗原に対するものであり、かつ/または抗体ドメインの異なる構造的構成を含む、他の抗体を実質的に含まない、単離された形態で提供される。それでも、単離された抗体は、単離された抗体と、例えば、異なる特異性を有するモノクローナル抗体または抗体フラグメントのような少なくとも1つの他の抗体との組み合わせを含む、複合調製物に含まれ得る。
【0270】
具体的には、本明細書に記載される抗体は、実質的に純粋な形態で提供される。本明細書で使用される「実質的に純粋」または「精製された」という用語は、核酸分子または抗体などのコンパウンドの少なくとも50%(w/w)、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、または95%のうちのいずれか1つを含む調製物を指すものとする。純度は、コンパウンドに適切な方法(例えば、クロマトグラフィー法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC分析など)によって測定される。
【0271】
「部位特異的組換え」は、次の3つの事象のいずれかを含む、2つの適合する組換え部位間の組換えのプロセスを指す:
a)組換え部位によってフランキングされた、予め選択された核酸の欠失、
b)組換え部位によってフランキングされた、予め選択された核酸のヌクレオチド配列の反転、および
c)異なる核酸分子上にある組換え部位に近接した核酸領域の相互交換。核酸セグメントのこの相互交換は、核酸分子の一方または両方が環状である場合に組み入れ事象をもたらすことを理解されたい。
【0272】
前述の説明は、以下の実施例を参照するとより十分に理解されるであろう。しかしながら、かかる実施例は、本発明の1つまたは複数の実施形態を行う方法を代表するものにすぎず、本発明の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0273】
実施例1
重鎖のみ(HCO)抗体の生産のためにIghmの上流の内因性マウスIgh遺伝子座にマウスIghg1ΔCH1遺伝子カセットを導入するための相同組換えの使用。
【0274】
HCO抗体(またはHCAb)の生成のためにIghg1ΔCH1遺伝子カセットを導入するための例示的な方法が、
図2および3に示されている。
相同組換えターゲティングベクター(
図2)の2つの必須構成要素は、修飾される内因性遺伝子座の領域をフランキングする相同DNAセグメントとの配列同一性を共有する、短い相同性アーム(SHA)および長い相同性アーム(LHA)である。この場合、SHAは、対応するマウスJh非コード配列によってフランキングされたヒトJH2-JH6遺伝子セグメントからなる(配列番号2)。LHAは、5’イントロンで開始して3’イントロンで終結するIghm遺伝子の全体からなる(配列番号12)。5’末端から始まるターゲティングベクターの他の特筆すべき特徴には、次のものが含まれる。1)ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(Pgk)により駆動され、polyA部位(pA)を含む単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子である、Pgk_TK_pA(配列番号1)。このエレメントは、ターゲティングベクターを組み入れた、しかし相同組換えによらない、細胞に対するガンシクロビルでの負の選択のために使用される。相同組換え中、SHAの5’側(すなわちLHAの3’側)の非相同DNAが排除される(
図2)。この例において、ベクターが相同組換えによって組み入れられる場合、HSV-TK遺伝子が欠失する。相同組換えによってベクターを組み入れなかった細胞はすべて、HSV-TK遺伝子を保持し、殺傷される。2)T3バクテリオファージRNAポリメラーゼのためのT3プロモーター(配列番号3)。このDNA依存性RNAポリメラーゼは、T3ファージプロモーターに対して高度に特異的である。この99KD酵素は、in vitro RNA合成を触媒し、少数のB細胞またはハイブリドーマからのVDJ再構成の迅速なクローニングを可能にする。3)強力なCAGプロモーターによって駆動され、polyA部位を含むピューロマイシン抵抗性遺伝子である、CAG_PuroR_pA(配列番号5)。このエレメントは、ピューロマイシン抵抗性に基づく、ターゲティングベクターを組み入れた細胞の正の選択のために使用される。4)相同組換えによってターゲティングベクターをゲノムに安定に組み入れた細胞は、ガンシクロビルおよびピューロマイシンの両方に対して抵抗性をもつことに留意されたい。5)CAG_PuroR_pAエレメントは、適切にターゲティングされたES細胞クローンの識別後に、Flpリコンビナーゼを供給することによって、このエレメントをin vitroまたはin vivoで除去するために使用することのできる、FRT部位(配列番号4および配列番号6)によってフランキングされていることに留意されたい。Eμエンハンサー(配列番号7)は、遺伝子座の転写を促進するために、Ighg1ΔCH1遺伝子カセットの上流に含まれている。このターゲティングベクターでは、これに、Ighg1 5’イントロンの部分の配列(配列番号8)、Ighg1ヒンジ5’イントロンの部分の配列(配列番号9)、Ighg1ΔCH1遺伝子(配列番号10)、およびヒト成長ホルモン1ポリアデニル化シグナル配列(hGH1 pA、配列番号11)が続く。すぐ下流にはLHA(配列番号12)がある。これは、Ighm 5’イントロンの部分の配列(配列番号13)と、3’UTRを含むIghm遺伝子(配列番号14)とから構成され、これに、Ighm 3’イントロンの部分の配列(配列番号15)が続く。VDJ
HエキソンがIghg1ΔCH1遺伝子ではなくCμに直接スプライスされる場合にLC依存性μHCの発現を防止するために、停止コドン(TGA)をCH1、CH2およびCH3 Ighmエキソンに導入した。このターゲティングベクターでは、内因性Igh遺伝子座に存在するμスイッチ(S)領域が欠如しているため、ターゲティングされる遺伝子座でもS領域が欠如し、したがってアイソタイプスイッチを起こすことができない。ターゲティングベクターは、電気穿孔によってES細胞に導入する。ガンシクロビルおよびピューロマイシンを補った培地で細胞を増殖させる。その後、生存している単離ES細胞クローンを、新しく導入されたIghg1ΔCH1遺伝子カセットの5’および3’で内部に位置するプライマーを用い、広く用いられている遺伝子ターゲティングストラテジーを使用したゲノムPCRにより、遺伝子ターゲティングの成功についてモニターする。SHAの5’側をフランキングするDNA配列にマッピングするプローブと、LHAの3’側をフランキングするDNA配列にマッピングする第2のプローブと、ベクター内のゲノム同一性の2つのアーム間の新規DNA内をマッピングする第3のプローブとを使用したゲノムサザンブロットにより、ターゲティングカセットの適切な組み入れをさらに検証する(正しくターゲティングされた遺伝子座の構造は、
図3に示され、以降、HCO遺伝子座と呼ばれる)。
【0275】
マウスES細胞で生じる、最も一般的に生じる染色体異常を区別するように設計されたin situ蛍光ハイブリダイゼーション手順を使用して、PCRおよびサザンブロットで検証されたES細胞のクローンの核型を分析する。そのような異常を有するクローンは、さらなる使用から除外する。PCRおよびサザンブロットデータに基づいて予想される正しいゲノム構造を有すると判断され、核型分析に基づいて検出可能な染色体異常を有しないES細胞クローンを、さらなる使用のために選択する。
【0276】
標準的な手順に従い、適切にターゲティングされたIghg1ΔCH1遺伝子カセットをマウス重鎖遺伝子座内に有するES細胞クローンを系統DBA/2由来のマウス胚盤胞にミクロ注入して、部分的にES細胞から誘導されたキメラマウスを作出する。外被に対するES細胞から誘導された寄与のレベルが最も高い雄キメラマウスを、雌マウスとの交配のために選択する。ここで選択される雌マウスは、その生殖系列にFlpリコンビナーゼをコードする導入遺伝子を有するC57B1/6NTac系統のものである。これらの交配からの子を、Ighg1ΔCH1遺伝子カセットの存在、およびFRTにフランキングされたピューロマイシン抵抗性遺伝子の喪失について分析する。(
図3)TRN0034またはTRN34と呼ばれる、正しくターゲティングされたマウスを使用して、マウスのコロニーを確立する。
【0277】
実施例2
HCOマウスの骨髄(BM)におけるB細胞の発達。
先行技術では(例えば、WO2011/072204A1を参照されたい)、機能的な軽鎖を欠き、CH1ドメインを欠いた組換えCγ遺伝子セグメントの上流の機能的なCμ遺伝子セグメントを有するマウスにおいて、IgG型のHCAbが生産される。これらのマウスにおけるHCAbの生産には、大きな不利点がある。機能的なCμ遺伝子セグメントがあれば、抗原BCRとしてカノニカルなIgMを有する成熟型B細胞が正常に発達する。しかしながら、免疫応答中に抗体のクラスが(所望の)γ鎖にスイッチし、これらの鎖は、L鎖が欠如しているため、それと対になることができない。これには2つの効果がある:
(i)特異性がH鎖とL鎖の組み合わせによって定義された抗体をもつ細胞が、もはや刺激されず、死ぬことになり、
(ii)不対VHは構造的に存続不可能であるため、特異性がH鎖によって主に定義された細胞が死ぬ可能性がある。
【0278】
したがって、先行技術のこのようなマウスでは、VH選択が「延期される」、すなわち免疫応答中に起こる。
トランスジェニックCγ1遺伝子セグメントをCμ遺伝子セグメント上流の内因性免疫グロブリン遺伝子座に組み入れることにより、VH選択は「前倒しされる」、すなわち個体発生中に起こる。
【0279】
このようなマウスにおいてB細胞が正常に発達することを示すために、
図4に示すCD抗原に特異的なmAbで骨髄細胞の表面を染色し、フローサイトメトリーによって分析した。対照TRN11/2/5マウスでは、WablおよびKilleenによる同時係属出願の米国公開第20130219535号A1に記載されているように、内因性V
H、V
κおよびV
λ遺伝子座が、マウス調節配列によってフランキングされたヒトV
H、V
κおよびV
λ遺伝子座コード配列でそれぞれ置換されている。TRN34/29/30マウスでは、V
H、DおよびJ
H遺伝子セグメントはTRN11と同一であるが、Igh遺伝子座の残りは、
図3に示されるように、IgG1 HCO抗体をコードするように修飾されている。V
κおよびV
λ遺伝子座は、それぞれ、TRN29およびTRN30対立遺伝子で不活性化されている。フロープロット中の数字は、所定のゲートでの細胞のパーセンテージを示す。
【0280】
TRN11/2/5マウスの遺伝子構造:
- マウス調節配列によってフランキングされたヒトVH、VκおよびVλ遺伝子座コード配列でそれぞれ置換された、内因性VH、VκおよびVλ遺伝子座
TRN34/29/30マウスの遺伝子構造:
- HCO遺伝子座:Ighg1ΔCH1および停止コドン(TGA)を、CH1、CH2およびCH3 Ighmエキソンに導入した、
- キメラVH遺伝子座:内因性VH遺伝子座を置換する、マウス調節配列によってフランキングされたヒトVH、VκおよびVλ遺伝子座コード配列、ならびに
- 不活性化されたVκおよびVλ遺伝子座。
【0281】
B細胞の発達段階も示されている。成熟型再循環Bは、骨髄で生成され、末梢で、例えば脾臓でその成熟を完了し、血流を介して骨髄(BM)に再循環したB細胞を示す。
初期B系統細胞(B220+CD23-)の頻度は、両マウス系統で同一であるが、HCOマウスでは、対照と比較して、pro-B細胞の頻度は増加し、それらの子孫のpre-B細胞の頻度は減少する(下のパネル)。この減少は、末梢における移行期および成熟型のB細胞(
図5、7、8)、ならびにBMにおける成熟型再循環B細胞(上のパネル)における対応する減少をもたらす。pro-B細胞およびpre-B細胞の頻度の変化については、いくつかの説明が考えられる。通常、pre-B細胞は、サロゲート軽鎖およびCD79A/Bと会合し、低レベルで細胞表面に発現されるμHCを合成する。これにより、未成熟型B細胞段階を示すV→J再構成および軽鎖遺伝子の発現の前に増殖するよう細胞にシグナルが送られる。HCOマウスのγ1 HCはSLCと会合せず、CD79A/Bと共に細胞表面に発現される。このようなpre-B細胞は、野生型(WT)と同程度まで増殖しない可能性があり、LC遺伝子再構成の必要がないため、より迅速に未成熟型B細胞へと分化してBMを離れる可能性がある。pro-B細胞の増加は、pro-Bからpre-Bへの発達ステップにおける障害があり得ることを示唆する。
【0282】
いずれにせよ、予想されるすべての発達段階のB系統細胞がHCOマウスに存在する。
実施例3
HCOマウスの末梢におけるB細胞の分化および細胞表面IgG1発現。
【0283】
示されているCD抗原に特異的な蛍光コンジュゲートmAbにより、実施例3と同じマウス由来の脾臓細胞を染色し、フローサイトメトリーによって分析した(
図5)。フロープロット中の数字は、所定のゲートでの細胞のパーセンテージを示す。BMにおけるpre-B細胞および成熟型再循環B細胞の頻度の低減に基づいて予期されたように(
図4)、HCOマウスの脾臓中のすべてのB細胞サブセットが全体的に減少した。分析されたサブセットには、全B、B1、B2、移行期1および2(T1およびT2)、濾胞(Fo.)B、ならびに辺縁帯(MZ)Bが含まれた。数は低減したにせよ、予想されるすべての分化段階の細胞がHCOマウスに存在した。
【0284】
多数の脾臓MZ(80%)およびFo.B(91%)細胞が細胞表面でγ1 HCを発現し(
図6)、HCO遺伝子座がin vivoで機能的であることを示した。
リンパ節では(LN、
図7)、全B細胞(上のパネル)および成熟型Fo.B細胞(中央パネル)が低減した。脾臓B細胞と同様に、HCOマウスのLN B細胞の89%が、γ1 HCを細胞表面に発現した(下のパネル)。
【0285】
腹膜腔では(
図8)、全B細胞(上のパネル)、Fo.B細胞、およびB1 B細胞(中央パネル)が低減した。脾臓およびLN B細胞と同様に、HCOマウスの腹膜B細胞のほとんどが、γ1 HCを細胞表面に発現した(下のパネル)。
【0286】
まとめると、HCOマウスのBMおよび末梢では、すべてのB細胞の発達段階およびサブセットの頻度は低減したが(BMのpro-B細胞を除く)、すべてのB細胞の発達段階およびサブセットが存在し、γ1 HCO遺伝子座はin vivoで正常に機能している。
【0287】
実施例4
HCOマウスにおける血清免疫グロブリン(Ig)のレベル
図9は、未免疫化TRN11/2/5(白抜きの丸)およびTRN34/29/30 HCO(黒塗りの丸)マウスにおける血清IgG1およびIgMを検出するためのELISAアッセイの結果を示す。光学密度がY軸に、血清希釈度がX軸に示されている。標準化(白抜きの四角)のために、100μg/mlのモノクローナルIgG1(左)およびIgM(右)を同じく連続的に希釈した。TRN34/29/30 HCOマウスの血清では、対照TRN11/2/5血清中のIgG1(重鎖および軽鎖を含む)をわずかに下回る、有意なレベルの重鎖のみのIgG1が検出された。これに対し、HCOマウスにおけるIgMはバックグラウンドレベルであった。同様のELISAアッセイを使用して、血清IgG2b、IgG2cおよびIgG3を検出した(
図10)。TRN34/29/30 HCOマウスでは、3つすべてのIgアイソタイプが検出不可能であった。
【0288】
これらの結果は、TRN34/29/30 HCOマウスでは、3つの停止コドンがμHCオープンリーディングフレームに存在するため、B細胞がIgM分泌形質細胞に分化できないことを示す。これらの結果は、HCOマウスではμスイッチ領域がIgh遺伝子座から欠失しているため、これらのマウスではIgG2b、IgG2cまたはIgG3へのアイソタイプスイッチがないことも示す。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内で、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを組み込むことにより、重鎖のみの抗体(HCAb)の多様なレパートリーをB細胞が発現するマウスを生産する方法であって、該Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含み、該内因性Cμ遺伝子セグメントが、機能喪失突然変異、Cμ遺伝子セグメントの一部の欠失、または1つもしくは複数の停止コドンを導入する1つもしくは複数の突然変異によって不活性である、上記方法。
【請求項2】
マウスが、抗原で免疫化されると、抗原特異的B細胞を活性化し、多様な抗原特異的HCAbを分泌するプラズマ細胞へのそれらの分化を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Cγ遺伝子セグメントが、Eμメジャーイントロンエンハンサーの下流に、好ましくは、配列番号7を含む内因性Eμメジャーイントロンエンハンサーの下流に位置付けられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Cγ遺伝子セグメントが、Cγ1遺伝子セグメントを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
CH1ドメインの少なくとも一部が、BiPシャペロン結合ドメインを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
マウスが、不活性化または欠失した内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含み、好ましくは、マウスが、内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方における機能喪失突然変異、または内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方の欠失を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
免疫グロブリン重鎖遺伝子座が、ヒトV
H、DおよびJ
Hコード配列、ならびに前記V
H、DおよびJ
Hコード配列と作動可能に連結している発現制御配列を含み、好ましくは、該発現制御配列がマウスのものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
V
H、DおよびJ
Hコード配列が、抗原を特異的に認識するVH結合部位を発現するVDJコード配列を形成するように組み換えられ、それにより、所定のB細胞において組み換えられたV
Hコード配列が得られ、該B細胞は、形質細胞へと分化すると、組み換えられたVHコード配列によってコードされる抗原特異的V
H結合ドメインを含むIgG型のHCAbを分泌することが可能である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
a)マウス胚性幹細胞を用意するステップと、
b)1つまたは複数の発現カセット内のCγ遺伝子セグメントを含む核酸配列を含む1つまたは複数のベクターを用意するステップと、
c)該1つまたは複数のベクターを該細胞に導入するステップと、
d)トランスジェニック細胞を選択するステップであって、b)の配列が、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、ターゲティングされた組み入れによって該細胞の細胞ゲノムに組み込まれており、Cμ遺伝子セグメントが場合により不活性である、ステップと、
e)該トランスジェニック細胞を利用して、該トランスジェニック細胞から誘導されたトランスジェニックマウスを作出するステップと
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によって取得可能なマウスであって、その内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内に、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流のトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、マウス。
【請求項11】
少なくとも2つのV
H、2つのD、および2つのJ
HであるヒトV
H、DおよびJ
Hコード配列のレパートリーを含むVH重鎖遺伝子座を含む、請求項10に記載のマウス。
【請求項12】
内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方における機能喪失突然変異、または内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方の欠失を含む、請求項10または11に記載のマウス。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によって取得可能なマウスに由来するIgG型の様々なHCAbを発現するB細胞レパートリー。
【請求項14】
VHドメインの異なる様々な抗原特異的HCAbを発現する、請求項13に記載のB細胞レパートリー。
【請求項15】
抗原特異的VHドメインを含む抗体を生産する方法であって、
a)抗原でマウスを免疫化するステップであって、該マウスが、免疫グロブリン重鎖遺伝子座内の内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、該Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含み、それにより、抗原特異的HCAbを発現する細胞のレパートリーをもたらす、ステップと、
b)レパートリーから、抗原特異的VHを含むIgG型のHCAbを発現する細胞を選択するステップと、
c)HCAbから抗原特異的VHをコードする核酸配列を決定するステップと、
d)抗原特異的VHを含むモノクローナル抗体を生産するステップと
を含む方法。
【請求項16】
B細胞レパートリーまたはVHを含む分子のレパートリーの生産のための方法における、請求項10~12のいずれか一項に記載のマウスの使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0288
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0288】
これらの結果は、TRN34/29/30 HCOマウスでは、3つの停止コドンがμHCオープンリーディングフレームに存在するため、B細胞がIgM分泌形質細胞に分化できないことを示す。これらの結果は、HCOマウスではμスイッチ領域がIgh遺伝子座から欠失しているため、これらのマウスではIgG2b、IgG2cまたはIgG3へのアイソタイプスイッチがないことも示す。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内で、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを組み込むことにより、重鎖のみの抗体(HCAb)の多様なレパートリーをB細胞が発現するマウスを生産する方法であって、該Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、上記方法。
[態様2]マウスが、抗原で免疫化されると、抗原特異的B細胞を活性化し、多様な抗原特異的HCAbを分泌するプラズマ細胞へのそれらの分化を誘導する、態様1に記載の方法。
[態様3]Cγ遺伝子セグメントが、Eμメジャーイントロンエンハンサーの下流に、好ましくは、配列番号7を含む内因性Eμメジャーイントロンエンハンサーの下流に位置付けられる、態様1または2に記載の方法。
[態様4]Cγ遺伝子セグメントが、Cγ1遺伝子セグメントを含む、態様1~3のいずれか一に記載の方法。
[態様5]CH1ドメインの少なくとも一部が、BiPシャペロン結合ドメインを含む、態様1~4のいずれか一に記載の方法。
[態様6]マウスが、不活性化または欠失した内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子座を含み、好ましくは、マウスが、内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方における機能喪失突然変異、または内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方の欠失を含む、態様1~5のいずれか一に記載の方法。
[態様7]内因性Cμ遺伝子セグメントが不活性である、態様1~6のいずれか一に記載の方法。
[態様8]内因性Cμ遺伝子セグメントが、機能喪失突然変異、Cμ遺伝子セグメントの一部の欠失、または1つもしくは複数の停止コドンを導入する1つもしくは複数の突然変異によって不活性である、態様1~7のいずれか一に記載の方法。
[態様9]免疫グロブリン重鎖遺伝子座が、ヒトVH、DおよびJHコード配列、ならびに前記VH、DおよびJHコード配列と作動可能に連結している発現制御配列を含み、好ましくは、該発現制御配列がマウスのものである、態様1~8のいずれか一に記載の方法。
[態様10]VH、DおよびJHコード配列が、抗原を特異的に認識するVH結合部位を発現するVDJコード配列を形成するように組み換えられ、それにより、所定のB細胞において組み換えられたVHコード配列が得られ、該B細胞は、形質細胞へと分化すると、組み換えられたVHコード配列によってコードされる抗原特異的VH結合ドメインを含むIgG型のHCAbを分泌することが可能である、態様9に記載の方法。
[態様11]a)マウス胚性幹細胞を用意するステップと、
b)1つまたは複数の発現カセット内のCγ遺伝子セグメントを含む核酸配列を含む1つまたは複数のベクターを用意するステップと、
c)該1つまたは複数のベクターを該細胞に導入するステップと、
d)トランスジェニック細胞を選択するステップであって、b)の配列が、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、ターゲティングされた組み入れによって該細胞の細胞ゲノムに組み込まれており、Cμ遺伝子セグメントが場合により不活性である、ステップと、
e)該トランスジェニック細胞を利用して、該トランスジェニック細胞から誘導されたトランスジェニックマウスを作出するステップと
を含む、態様1~10のいずれか一に記載の方法。
[態様12]態様1~11のいずれかに記載の方法によって取得可能なマウスであって、その内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内に、内因性Cμ遺伝子セグメントの上流のトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含む、マウス。
[態様13]少なくとも2つのVH、2つのD、および2つのJHであるヒトVH、DおよびJHコード配列のレパートリーを含むVH重鎖遺伝子座を含む、態様12に記載のマウス。
[態様14]内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方における機能喪失突然変異、または内因性カッパもしくはラムダ軽鎖遺伝子座のいずれかもしくは両方の欠失を含む、態様12または13に記載のマウス。
[態様15]態様1~11のいずれか一に記載の方法によって取得可能なマウスに由来するIgG型の様々なHCAbを発現するB細胞レパートリー。
[態様16]VHドメインの異なる様々な抗原特異的HCAbを発現する、態様15に記載のB細胞レパートリー。
[態様17]抗原特異的VHドメインを含む抗体を生産する方法であって、
a)抗原でマウスを免疫化するステップであって、該マウスが、免疫グロブリン重鎖遺伝子座内の内因性Cμ遺伝子セグメントの上流にトランスジェニックCγ遺伝子セグメントを含み、該Cγ遺伝子セグメントが、CH1ドメインの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列の欠失を含み、それにより、抗原特異的HCAbを発現する細胞のレパートリーをもたらす、ステップと、
b)レパートリーから、抗原特異的VHを含むIgG型のHCAbを発現する細胞を選択するステップと、
c)HCAbから抗原特異的VHをコードする核酸配列を決定するステップと、
d)抗原特異的VHを含むモノクローナル抗体を生産するステップと
を含む方法。
[態様18]B細胞レパートリーまたはVHを含む分子のレパートリーの生産のための方法における、態様12~14のいずれか一に記載のマウスの使用。
【国際調査報告】