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特表2024-500266組織細胞内の構成要素の動きを調べる装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】組織細胞内の構成要素の動きを調べる装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/45 20060101AFI20231226BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01N21/45 A
G01N33/483 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518361
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(85)【翻訳文提出日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 US2021072340
(87)【国際公開番号】W WO2022104347
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】63/111,635
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523008417
【氏名又は名称】パーデュー リサーチ ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】Purdue Research Foundation
(71)【出願人】
【識別番号】323014373
【氏名又は名称】ノルテ,デイビッド,ディー
(71)【出願人】
【識別番号】323014384
【氏名又は名称】ジョン,クワン
(71)【出願人】
【識別番号】323014395
【氏名又は名称】ロペラ,マリア,ジョゼフ
(71)【出願人】
【識別番号】323014409
【氏名又は名称】トゥーレク,ジョン,ジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】ノルテ,デイビッド,ディー
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,クワン
(72)【発明者】
【氏名】ロペラ,マリア,ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】トゥーレク,ジョン,ジェイ
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045FA14
2G045FA15
2G045FA19
2G059AA05
2G059BB14
2G059EE02
2G059EE09
2G059FF01
2G059GG02
2G059JJ11
2G059JJ12
2G059JJ19
2G059KK04
(57)【要約】
組織細胞の内部を調べるための装置および方法が開示されている。実施態様は、対象試料で光を拡散散乱させることと、散乱された光から2つの交差光線を生成し、上記光から画像を生成するためにカメラを用いることと、を含む。いくつかの実施態様においてはフーリエレンズやフレネルバイプリズムを利用し、任意で、高コヒーレンス光源、遅延プレート(偏光回転体または光学平面でもよい)、および/または光線拡大器を含む。さらなる実施態様は、回折格子、空間フィルタ(2つの異なるサイズの開口を有していてもよい)、および、フーリエレンズを利用し、任意で上記空間フィルタが異なるサイズの開口を有していてもよい。いくつかの実施態様は、透明支持体を含み、上記透明支持体を介し、斜角において対象を照らすことを含む。さらなる実施態様は低コヒーレンス光源を利用し、および/または表面結合化学を用いて試料組織を固定化することを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象試料を支持するように構成され、適合された、対象試料支持体と;
光を生成するように構成され、適合された、光源と;
前記光源によって生成された前記光を前記対象試料で(off the target sample)拡散散乱させる手段と;
前記光が前記対象試料で拡散散乱された後に、2つの交差光線を前記光から生成する手段であって、前記光の焦点を検出面に合わせる、前記2つの交差光線を生成する手段と;
前記検出面に位置する撮影装置であって、前記撮影装置によって受容された光から画像を生成するように構成され、適合された撮影装置と、
を有する、対象試料を撮影するための装置。
【請求項2】
前記2つの交差光線を生成する手段が、フーリエレンズと、フレネルバイプリズムとを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記2つの交差光線を生成する手段が、光線分割回折格子と、空間フィルタと、フーリエレンズとを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記空間フィルタが、大きさが異なる2つの開口を有する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記対象試料支持体が、生体組織試料を支持するように構成され、適合されている、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記対象試料支持体が透明であり、前記拡散散乱する手段が前記対象試料支持体を介して前記対象試料に光を当てることを含み、後方散乱方向に対して斜角で、前記対象試料支持体に光を当てる、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記散乱手段が、光線拡大器を有する、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記光源が、短コヒーレンス光源である、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の装置。
【請求項9】
前記光源が、長コヒーレンス光源である、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の装置。
【請求項10】
偏光回転体が、前記交差光線のうちの1つの進路内に配置されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記2つの交差光線を生成する手段が、フーリエレンズと、フレネルバイプリズムとを有し;
前記対象試料支持体が透明であり、生体組織試料を支持するように構成され、適合されており、前記拡散散乱する手段が前記対象試料支持体を介して前記対象試料に光を当てることを含み、後方散乱方向に対して斜角で、前記対象試料支持体に光を当て;
前記散乱手段が光線拡大器を有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記光源が、長コヒーレンス光源である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
偏光回転体が、前記交差光線のうちの1つの進路内に配置されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記2つの交差光線を生成する手段が、光線分割回折格子と、大きさが異なる2つの開口を画定する空間フィルタと、フーリエレンズとを有し;
前記対象試料支持体が透明であり、生体組織試料を支持するように構成され、適合されており、前記拡散散乱する手段が前記対象試料支持体を介して前記対象試料に光を当てることを含み、後方散乱方向に対して斜角で、前記対象試料支持体に光を当て;
前記光源が、短コヒーレンス光源である、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
光を生成することと;
組織試料に向かって前記光を導くことと;
前記組織試料で前記光を反射させることと;
前記組織試料で反射させた光から、2つの光線を生成することと;
前記光線を撮影装置において交差させることと;
前記組織試料の細胞運動性に関する情報を生成することと;
を含む、組織試料を撮影する方法。
【請求項16】
前記光を反射させることが、前記組織試料で前記光を拡散散乱させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記2つの交差光線を生成することが、前記光にフーリエレンズおよびフレネルバイプリズムを通過させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記光を導くことが、前記組織試料で前記光を反射させる前に、前記光に光線拡大器を通過させることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記2つの交差光線を生成することが、前記光に光線分割器と、空間フィルタと、フーリエレンズと、を通過させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記2つの交差光線を生成することが、前記光に大きさが異なる2つの開口を通過させることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記試料の機械的な動きが前記情報の生成に影響を及ぼさないように、表面結合化学を用いて前記試料組織を固定化し、前記表面結合化学が前記組織の健康に非毒性であることをさらに含む、請求項15から請求項20までのいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項22】
前記光を導くことが、
透明支持体を用いて前記組織試料を支持することと;
前記光が前記組織試料に到達する前に、前記光が前記支持体を通過するように導くことと;
前記光を前記組織試料に向かって、前記透明支持体に対して斜角に導くことと;
を含む、請求項15から請求項20までのいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項23】
前記光を生成することが、長コヒーレンス光を生成することを含む、請求項15から請求項20までのいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項24】
前記2つの光線を生成することに後に、交差光線のうちの1つの偏光を回転させることをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記光を生成することが、短コヒーレンス光を生成することを含む、請求項15から請求項20までのいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項26】
前記光を反射させることが、前記組織試料で前記光を拡散散乱させることを含み;
前記2つの交差光線を生成することが、前記光にフーリエレンズおよびフレネルバイプリズムを通過させることを含み;
前記光を導くことが、
透明支持体を用いて前記組織試料を支持することと、
前記光が前記組織試料に到達する前に、前記光が前記支持体を通過するように導くことと、
前記光を前記組織試料に向かって、前記透明支持体に対して斜角に導くことと、を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
前記光を導くことが、前記組織試料で前記光を反射させることの前に、前記光に光線拡大器を通過させることを含み;
前記光を生成することが、長コヒーレンス光を生成することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記光を反射させることが、前記組織試料で前記光を拡散散乱させることを含み;
前記2つの交差光線を生成することが、前記光に光線分割器と、大きさが異なる2つの開口を画定する空間フィルタと、フーリエレンズとを通過させることを含み;
前記光を導くことが、
透明支持体を用いて前記組織試料を支持することと;
前記光が前記組織試料に到達する前に、前記光が前記支持体を通過するように導くことと;
前記光を前記組織試料に向かって、前記透明支持体に対して斜角に導くことと、を含み;
前記光を生成することが、短コヒーレンス光を生成することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項29】
光を生成する光源と;
対象試料を支持するように構成され、適合され、前記支持体によって保持される対象試料が前記光源からの光を受容し、反射させる場所に位置する対象試料支持体と;
前記対象試料から反射された光を受容し、フーリエレンズを通過する光を変換するために位置するフーリエレンズと;
前記フーリエレンズから出てくる、変換された光を受容するために位置するフレネルバイプリズムと;
前記フレネルバイプリズムから出てくる光を受容するために位置する撮影装置と;
を有する、装置。
【請求項30】
組織試料を撮影するための細胞運動性撮影装置であって、
照明光線を提供する照明光源と;
前記照明光線が前記組織試料に入射し、前記組織試料で散乱され、散乱された光線が物体光線を形成する場所に組織試料を支持するように構成された組織試料支持体と;
前記組織試料で散乱された後の物体光線を集め、前記物体光線を信号光線と、参照光線とに分割するために位置する波面分割素子と;
信号光線と、参照光線とを検出するために位置する検出器と;
を有する、撮影装置。
【請求項31】
前記波面分割素子が回折格子を有する、請求項30に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項32】
前記波面分割素子が、撮影面に位置する二開口不透明スクリーンを有する、請求項31または請求項32に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項33】
前記照明光源が、低コヒーレンス光源であり、前記装置が、前記不透明スクリーン内の開口の1つの上に位置する遅延プレートをさらに有する、請求項32に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項34】
前記波面分割素子の後に、前記参照光線が、開口を有する不透明面によって遮断される、請求項30、請求項31、または請求項33に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項35】
前記開口が、明るいスペックル(bright speckle)の場所に位置する、請求項34に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項36】
前記開口の大きさが可変である、請求項35に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項37】
前記波面分割素子の後にフーリエ変換レンズが位置し、前記検出器がフーリエ面に位置し、前記信号光線および前記参照光線間の、前記検出器における交差角度が、デジタル・ホログラフィ用の搬送波周波数を提供する、請求項30に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項38】
前記波面分割素子がフレネルバイプリズムである、請求項30に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項39】
前記組織試料に前記照明光線が入射する前に、前記照明光線を拡大するために配置された光線拡大器をさらに有する、請求項30または請求項38に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項40】
前記組織試料支持体が、前記照明光線の全部(full portion)が前記組織試料に入射する場所に前記組織試料を支持するように構成されている、請求項30または請求項38に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項41】
前記照明光源が、低コヒーレンス光源であり、前記装置がさらに、前記信号光線または前記参照光線のいずれか1つ内に配置された偏光回転体を有する、請求項30または請求項38に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項42】
前記照明光源が高コヒーレンス光源であり、前記装置がさらに、前記信号光線または前記参照光線のいずれか1つ内に配置された偏光回転体を有する、請求項30または請求項38に記載の細胞運動性撮影装置。
【請求項43】
組織試料を撮影するための運動性撮影装置であって、
照明光線を提供する照明光源と;
前記照明光線が前記組織試料に入射し、前記組織試料で散乱される場所に位置する組織試料を支持するように構成された組織試料支持体と;
前記組織試料で散乱された後の照明光線の進路内に位置するフレネルバイプリズムと;
前記フレネルバイプリズムを通過した後の照明光線を検出するために位置する検出器と;
を有する、撮影装置。
【請求項44】
前記照明光源が低コヒーレンス光源であり、前記装置がさらに、前記フレネルバイプリズムの半分の上に(on one half)位置する遅延プレートを有する、請求項43に記載の運動性撮影装置。
【請求項45】
前記照明光源が低コヒーレンス光源であり、前記装置がさらに、前記フレネルバイプリズムの半分の上に位置する偏光回転体を有する、請求項43に記載の運動性撮影装置。
【請求項46】
前記照明光源が高コヒーレンス光源であり、前記装置がさらに、前記フレネルバイプリズムの半分の上に位置する偏光回転体を有する、請求項43に記載の運動性撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2020年11月10日に出願された米国仮出願第63/111,635号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の権利
本発明は、全米科学財団(National Science Foundation)によって与えられた助成金1911357-CBETの下で政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示の実施態様は、光学的に散乱または混濁した材料および媒体内の動態を測定することを含む、組織細胞の構成要素に関する情報を決定することに関する。
【背景技術】
【0004】
組織細胞の構成要素の動きなど、組織細胞の構成要素に関する情報を決定するための現在のシステムは、フーリエ・ドメイン・デジタル・ホログラフィ(FDH)を含む。しかしながら、本開示の発明者らは、既存のシステムに必要とされる運動感度が、例えば、ドップラー周波数シフトの位相感応性測定を少なくとも10mHzまで下げることができるように、試料の高度な機械的安定性を必要とし、これは、これらのシステムを理想的な研究室の環境の外側の場所で使用することを困難または不可能にしていることを認識した。例えば、1階よりも上の階の建物の背景振動は、システムが不十分に作動するか、または全く作動しないことの原因となり得るため、本発明者らは、いくつかの現在のシステムは建物の1階で使用しなければならないことを認識した。本開示の発明者らはまた、極度の運動感度を有さない他のシステムは、組織試料のボリュメトリック画像撮影に適用可能ではないことを認識した。既存の方法論におけるこれらの欠点を考慮すると、組織細胞の構成要素の動きなど、構成要素に関する情報を決定するためのシステムおよび方法には問題があること、および、これらのシステムおよび方法における改善が必要であることを本開示の発明者らは認識した。本開示の特定の特徴は、これらおよび他の必要性に対処し、他の重要な利点を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の発明者らは、共通経路干渉計は環境の不安定性に敏感である、マイケルソンまたはマッハツェンダなどの従来の干渉計と比較して、超安定干渉縞を生成する利点を有することができることを認識した。さらに、細胞内動態のドップラー分光法は、10mHzまでの変動周波数を捕捉するために、位相感応性干渉検出のための極度な安定性を必要とするため、干渉測定を機械的かく乱から分離することは、生体力学的な撮影において重要となり得ることを発明者等は認識した。
【0006】
本開示の実施態様は、組織の生体力学的な撮像のための方法および装置と、結果的かつ非自明な方法における生体力学的な撮像プロセスを単純化することができる方法および装置と、を含む。一般に、生体力学的な撮像は、ミトコンドリア、核、および/または他の細胞内オルガネラの動きなど、細胞内の構成要素の動きを調べるための方法論である。本開示の例示的な実施態様は、電磁放射線(例えば、光)で細胞群/集合体に光を当て、細胞群から反射された放射線のドップラー・スペクトルを統計的に調べて、群/集合体内の細胞内の構成要素の動きを調べる。一群の細胞における運動を測定することができることは、例えば、一群の胚において、どの胚がより生存能力があるかや、体外受精により適しているかを決定することを助け、癌患者のための化学療法の選択を助けるために使用することができる。
【0007】
本開示のいくつかの実施態様は、組織細胞内の構成要素に関する情報を調べるための改善された装置および方法を提供し、いくつかの実施態様は、組織細胞内の構成要素の動きに関する情報を決定するための改善された装置および方法を提供する。
【0008】
本開示のさらなる実施態様は、格子および空間フィルタを使用する、共通経路の生体力学的な撮像システムおよび方法を含み、例えば、薬物スクリーニング分析に有用である、厚い生物組織(例えば、厚い生体組織)の安定な組織動態分光法(tissue dynamic spectroscopy, TDS)を可能にする。少なくとも1つの実施態様は、回折格子および/または空間開口を利用して、光学システムを通る共通の経路(同じまたは同様の光学経路であってもよい)を共有する、カメラ面において互いに干渉する信号および参照光線を生成する。
【0009】
さらなる実施態様は、組織細胞内の構成要素に関する情報を調べるためのフレネルバイプリズムの使用を含む。いくつかの実施態様は、光源として、短コヒーレンス光(数十ミクロンオーダー(または波長)またはそれ未満のなどの非常に短い距離に対して可干渉性(coherent)であり、低コヒーレンス光とも呼ばれる光)、および、長コヒーレンス光(数百ミクロンオーダー(または波長)またはそれ以上などの、より長い距離に対して可干渉性であり、高コヒーレンス光とも呼ばれる光)の両方を使用することができる。追加の実施態様は、フレネルバイプリズムを利用し、カメラ面で干渉する信号および参照波を生成する。
【0010】
さらに別の実施態様は、フレネルバイプリズムを使用し、動的対象からの光散乱によって生じる動的スペックルを変調する縞模様(fringe)を生成する、共通経路の生体力学的な撮影システムを含む。
【0011】
本開示のなおさらなる実施態様は、ホログラフィック回折格子を使用する共通経路干渉計と、低コヒーレンス源とともに使用される空間フィルタと、を含む。
【0012】
さらなる実施態様は、例えば、薬物スクリーニング分析のための組織動的分光法において、向上された干渉安定性を提供するために、格子および空間フィルタを使用する共通経路干渉計を含む。
【0013】
追加の実施態様は、フレネルバイプリズムを利用し、2つの交差光線を生成して、デジタル・ホログラムを生成する。追加の遅延素子が、深さ選択性を可能にする光学構成に組み込まれてもよい。
【0014】
本開示のなおさらなる実施態様は、細胞内運動によって引き起こされるドップラー周波数変動に対する感度を維持しながら、同相除去(common-mode rejection)を介し,機械的振動に対して向上された干渉安定性を実証する。
【0015】
本開示の実施態様は、3次元対象(ボリュメトリック対象とも呼ばれる)から散乱された低コヒーレンス光を使用して、例えば、光のいずれの部分が互いに干渉しできるかを制限することによって、対象の深さ内の構成要素部分の動きに関する情報を生成する。いくつかの実施態様で使用される方法論は、その表面座標の下の異なる深さからのデータの積層(一緒に合計されたコヒーレンス・ゲート光学部分の積層とも呼ばれる)によって表される、対象の表面上の各座標として視覚化されてもよく、「圧縮フライスルー」タイプの方法論と呼ばれる。実施態様は、高忠実度画像それ自体を生成するのではなく、代わりに、3次元対象内の構成要素の動きに関する統計情報(例えば、統計情報のマップ)を生成することができる。
【0016】
この発明の概要は、本明細書に含まれる詳細な説明および図面においてさらに詳細に説明される概念の選択を紹介するために提供される。この発明の概要は、特許請求される主題のいかなる主要または必須の特徴を特定することを意図するものではない。記載された特徴の一部または全部は、対応する独立請求項または従属請求項内に存在し得るが、特定の請求項に明示的に記載されていない限り、限定であると解釈されるべきではない。本明細書で説明される各実施態様は、必ずしも本明細書で説明されるすべての対象に対処するものではなく、各実施態様は必ずしも説明される各特徴を含まない。本開示の他の形態、実施態様、目的、利点、利益、特徴、および態様は、本明細書に含まれる詳細な説明および図面から当業者に明らかになるのであろう。さらに、この発明の概要の項ならびに本出願の他の場所で説明する様々な装置および方法は、多数の異なる組合せおよびサブコンビネーションとして表すことができる。全てのそのような有用で、新規で、かつ発明的な組み合わせおよびサブコンビネーションは、本明細書において企図され、これらの組み合わせの各々の明示的な表現は不要であることが認識される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本明細書に示される図のいくつかは、寸法を含んでもよく、または拡大縮小図から作成されてもよい。しかしながら、そのような寸法、または図内の相対的な縮尺は一例であり、限定するものとして解釈されるべきではない。
図1】本開示の少なくとも1つの実施態様による共通経路デジタル・ホログラフィ・システムの概略図である。
図2A】IP2画像面における小参照開口および大物体開口の画像、ならびにそれらの再構成された画像の描写であり、上記参照開口は、物体開口およびそれらの再構成された画像と同じサイズを有する。
図2B図1および図2に示された実施態様の解像度を推定するための、R/Rの4つの異なる比率の変調伝達関数の描写であり、挿入図は、R/R=20%のπ位相深さを有する傾斜エッジ位相対象の再構成のシミュレーションの描写である。
図3A】従来の生体力学的FDHを用いた場合(左図)と、対象試料に外部振動を付与しながら、本開示の一実施態様を用いた場合(CDH-右図)とに関し、DLD-1生体腫瘍スフェロイドの断面について、時間の関数としての、1つの空間次元に沿った反射の振幅をdBで比較した描写である。
図3B】システムが外部からの振動を受けた場合と、受けていない場合との結果を比較する、図3Aに対応するパワースペクトルの図である。
図3C】システムが外部からの振動を受けた場合と、受けていない場合との結果を比較する、緩やかに落下する紙のパワースペクトルの図である。
図3D】従来の生体力学的FDHを使用した場合と、図1(CDH)に示される本開示の実施態様を使用する場合とについての、動的試料(DLD-1)および静的試料(白い紙)のパワースペクトルの比較である。
図4】従来のFDHおよび図1(CDH)に示される本開示の実施態様の両方について、両方とも振動なしで、適用された薬物に対する反応の平均スペクトログラムの図式的な描写を含む。
図5】本開示の実施態様において使用される、フレネルバイプリズムの屈折によって引き起こされる撓み計算の描写である。
図6】本開示の実施態様におけるレンズのf/#と、カメラサイズ(チップサイズ)との関係を示す図である。
図7】本開示の少なくとも1つの追加の実施態様によるデジタル・ホログラフィ・システムの概略図である。
図8】本開示の少なくとも1つのさらなる実施態様によるデジタル・ホログラフィ・システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の原理の理解を促進する目的で、ここで、1つまたは複数の実施態様が参照され、これらの実施態様は図面に示されている場合もあり、示されていない場合もあり、それを説明するために特定の文体が使用される。それにもかかわらず、本開示の範囲のいかなる限定も意図されないことが理解され、記載または図示された実施態様の任意の変更およびさらなる改良、ならびに本明細書に図示された本開示の原理の任意のさらなる適用は、本開示が関連する当業者に通常想起されるように期待される。本開示の少なくとも1つの実施態様は非常に詳細に示されるが、いくつかの特徴または特徴のいくつかの組合せは、明確にするために示されない場合があることが、関連技術の当業者には明らかであろう。
【0019】
本明細書内の「発明」へのいかなる言及も、別段の記載がない限り、すべての実施態様に必ず含まれる特徴を含む単一の実施態様を伴わない、発明のファミリーの実施態様への言及である。さらに、いくつかの実施態様によって提供される利益または利点への言及があり得るが、他の実施態様はそれらの同じ利益または利点を含まなくてもよく、または異なる利益または利点を含んでもよい。本明細書に記載される任意の利益または利点は、特許請求の範囲のいずれかに限定されると解釈されるべきではない。
【0020】
同様に、本発明のいくつかの実施態様に関連する「目的(object)」に関して議論することができ、さらに他の実施態様は、それらの同じ目的に関連しなくてもよく、またはさらに異なる目的を含んでもよいことが理解される。本明細書で使用される任意の利点、目的、または類似の語は、特許請求の範囲のいずれかに限定するものとして解釈されるべきではない。「好ましくは」などの選好を示す単語の使用は少なくとも1つの実施態様に存在するが、いくつかの実施態様では任意である特徴および態様を指す。
【0021】
特定の量(空間次元、温度、圧力、時間、力、耐性、電流、電圧、濃度、波長、周波数、熱伝達係数、無次元パラメータなど)が、本明細書で明示的または暗示的に使用されることがあり、そのような特定の量は例としてのみ提示され、別段の指示がない限り、近似値である。物質の特定の組成(存在する場合)に関する考察は、例としてのみ提示され、別段の指示がない限り、物質の他の組成、特に同様の特性を有する、物質の他の組成の適用性を制限するものではない。
【0022】
本明細書で使用される場合、低コヒーレンス光とは、数十ミクロンオーダー(または波長)またはそれ以下など、非常に短い距離に対して可干渉性であり得る光を指す。低コヒーレンス光は、典型的には発光ダイオード(LED)およびスーパールミネセント・ダイオード(SLD)によって生成される。レーザは、典型的には高い量の可干渉性を有する光を生成し、典型的には、低コヒーレンス光源ではない。
【0023】
図1には、本開示の一実施態様による、反射モード運転100(回折格子組織動的分光法システムとも呼ばれ得る)を有する共通経路干渉計が示されている。干渉計100は、光源110(例えば、スーパールミネッセント・ダイオード)、鏡120、顕微鏡対物レンズ130、1つ以上のレンズ(例えば、140、142、144、および146)、回折格子150、空間フィルタ160、および撮影装置170(例えば、CMOSカメラなどのカメラ)を含む。回折格子150は、フーリエ面(FP1)に位置し、撮影装置170は別のフーリエ面(FP2)に位置し、空間フィルタ160は撮影面(IP2)に位置する。図1に示すように、焦点距離f1およびf2の組み合わせを使用し、様々な構成要素が配置されている。少なくとも1つの例示的な実施態様では、f1=10cmおよびf2=15cmである。例示的な一実施態様では、スーパールミネッセント・ダイオード100は、840nmの中心波長と、スーパーラム(Superlum(登録商標))S840-B-I-20スーパールミネッセント・ダイオードなどの、10μmの短いコヒーレンス長とを有する。
【0024】
上記構成要素の配置により、光源110からのプローブ光線112は、対象190に向けられ、後方散乱方向124に対して斜角(例えば、34°の斜角)で、対象190に光を当てる。細胞内輸送は、到来波ベクトル126の方向に対して等方性である。平均ドップラー周波数シフトはゼロであるが、散乱光におけるドップラー周波数シフトは、ドップラー揺らぎスペクトルに特徴付けられる時間的な揺らぎを生成する。そのようなスペクトルは、典型的には細胞構成要素の動きの平均速度に関連する特徴的な周波数を有し、対象の特性および健康状態に関連し得る、追加の他のスペクトル特徴を有する。対象190で反射された光からの揺らぎスペクトルの最も可能性が高い周波数成分(典型的には、ニー(knee)周波数と呼ばれる)は、対象190に存在する散乱体の集合体内の最大ドップラー周波数シフトを表し、最大は180°の後方散乱角度にある。対象190を照明する光がわずかに角度を付けられると、光線分割器の必要性がなくなり、顕微鏡対物レンズ130によって収集される光の強度が増加する。
【0025】
顕微鏡対物レンズ130は、対象190から散乱された光を集光する。例示的な一実施態様では、顕微鏡対物レンズ130は、30.5mmの長い作動距離および0.26の開口数を有する10X顕微鏡対物レンズである。顕微鏡対物レンズ130を離れた後、上記光は鏡122で反射されてもよく、これは共通経路干渉計100の全高を低減するのに役立つ。
【0026】
顕微鏡対物レンズ130を出る光は、その後、レンズを使用して拡大されてもよい。例えば、顕微鏡対物レンズ130を出る光は、レンズ140およびレンズ142を通過してもよく、例えば、3:2の割合で光を拡大してもよい。
【0027】
次いで、光は、ホログラフィック透過格子であってもよく、第1のフーリエ面(FP1)に配置されてもよい回折格子150に遭遇する。回折格子150は、光を高効率で、同一の+1および-1の回折次数に分割する。一実施態様において回折格子150の位相格子(ホロオア社(HOLO/OR LTD))は、73%の透過効率(部分的に急冷されたゼロ次元で)および2.01°の光線分離角度を有する。高効率ホログラフィック回折格子の使用は、参照を形成するために正反射および低効率回折格子に高強度に依存するのとは対照的に、本開示の実施態様において、生物学的または混濁した対象からの拡散散乱光を参照として使用することを可能にする。
【0028】
次いで、回折格子150を出る光は、別のレンズ(例えば、レンズ144)によって、空間フィルタ160が位置する第2の撮影面(IP2)に変換される。空間フィルタ160は、光の第1の回折次数のみが空間フィルタ160を通過することを可能にするように構成される。他の回折次数は、空間フィルタによって遮断される。少なくとも1つの実施態様では、空間フィルタ160が小参照開口162(例えば、直径0.6mmの開口)および大物体開口164(例えば、直径3.0mmの開口)を含む。2つの開口162および164は、横方向に分離される。いくつかの実施態様において互いに最も近い隣接する開口のエッジ間の距離(言い換えれば、2つの開口のエッジ間の不透明材料の距離)は、使用される画像検出器に許容される最小縞模様間隔よりも大きい干渉格子を生成するように選択される。最小縞模様間隔は、スペックルにわたって3つの縞模様があり、縞模様にわたって3つの画素があり、その結果、スペックルにわたって9つの画素があると仮定して計算することができる。本開示の実施態様で使用されるカメラの場合、2つの開口162と164との間の横方向の間隔は、約5.3mmである。大物体開口164を通過する光(+1回折次数の光)は物体波を生成し、一方、小参照開口162を通過する光(-1回折次数の光)は参照波を生成する。いくつかの実施態様において対象190の位置は、少なくとも1つの明るいスペックルが小開口162内で観察されるまで、水平面内でわずかにシフトされ、これは小開口が、撮影装置170で物体光線と交差する参照光線内に充分な強度を提供することを保証するのを助け、性能を最適化するのを助けるのに役立つ。
【0029】
レンズ146は、光に対して光学的なフーリエ変換を実行することができるフーリエレンズであってもよい。フーリエ変換が実行された後、参照波および物体波は同じ経路を共有し、撮影装置170が位置する第2のフーリエ平面(FP2)において安定した干渉縞を生成する。撮影装置170は、ホログラムの形態であってもよい光パターンを記録する。一実施態様において撮影装置170(例えば、バスラ―社(Basler)のacA1920-155umのようなCMOSカメラ)は、800×800画素の大きさと、25フレーム/秒で12ビットの深さと、フレーム当たり10ミリ秒の露光時間とを有するホログラムを記録する。
【0030】
顕微鏡対物レンズ130およびレンズ140によって拡大された散乱波場は、撮影面IP1においてU(x、y)と示される。0.5のデューティ・サイクルおよびπ位相深さを有する理想的な二相格子の場合、格子の透過関数は、以下の式で示される。
【0031】
【数1】
【0032】
ここで、mは回折次数であり、∧は格子の周期である。回折効率は、mのすべての偶数の値について消失し、+1次元および-1次元のそれぞれについて最大約40.5%を有する。レンズ142および144の4f撮影システムにおいて、IP2における空間フィルタの後の波Ua(x、y)は、以下の式で示される。
【0033】
【数2】
【0034】
最後のレンズ146は、フーリエ変換を行い、カメラ面FP2での参照波U(x´、y´)および物体波U(x´、y´)は、以下のように表すことができる。
【0035】
【数3】
【0036】
ホログラムの再構成は、逆フーリエ変換によって実行され、0次元の項および2つの共役回折項からなる。1つの回折項は、(2x、0)において以下のように再構成される。
【0037】
【数4】
【0038】
干渉計100の再構成画像の解像度および位相感度は、共通経路デジタル・ホログラフィ(CDH)について計算され、式4における
【0039】
【数5】
【0040】
の参照波項によって決定される。一方、フーリエ・ドメイン・デジタル・ホログラフィ(FDH)においてこの項は、面参照波に置き換えられ、再構成された画像の品質は主に物体波FT[U]によって決定される。したがって、FDHにおける空間解像度は、CDHに対するものよりも高くなり得る。
【0041】
干渉法は数百ナノメートルまでの変位に対してそのような高い感度を有するので、プレート内の生体試料の機械的安定性は従来のFDHにとって必須である。本明細書に記載される共通経路システムは、従来のFDHシステムよりも試料変位に対する感度が著しく低いが、いくつかの実施態様においてはカメラによる画像記録の時間中に試料が著しくシフトしないように、試料を固定化させることが非常に有用であり、時には必要である。試料固定化を達成するために本開示の実施態様においては、RPMI-1640基礎培地中の1%低ゲル温度アガロース内において試料を固定化する。次いで、固定化された試料に、10%の熱不活性化ウシ胎児血清(アトランタ・バイオロジカルズ社(Atlanta Biologicals))、ペニシリン(100IU)、および/またはストレプトマイシン(100μg/mL)を含有するRPMI-1640で覆われてもよい。いくつかの実施態様において試料は、例えば、試料プレートの底部を被覆するポリ-D-リシンに基づいた非毒性表面化学に試料を付着させることなどによって、寒天なしで固定化される。
【0042】
図2Aは、CDHを用いた対象画像の再構成の例を示す。デジタル・ホログラムは、カメラ面において記録され、2次元高速フーリエ変換(FFT)を用いて数値変換された。対象190は、狭い矩形の切り欠き(スリット)が紙に対して斜角に向けられた、無光沢の白い紙である。図は、撮影面IP2(小参照開口162および大物体開口164)における2つのタイプの開口の参照光線および物体光線の画像を示し、それらの再構成された画像は、FFTの後に示されている。式5によって特定されるように、小参照開口162(例えば、直径0.6mm)を使用するときの1次元画像は、IP2における対象画像に類似するが、物体開口164の一次元画像は物体の自己相関であり、言い換えると、それは画像自体ではなく、それ自身と自己相関した画像である。したがって、少なくとも1つの実施態様において参照開口の大きさは、変調伝達関数および画像明度を測定し、両方が許容可能である妥協点を見つけることなどによって、生体力学的な撮影のために最適化され、これは生体力学的な撮影用途のための許容可能な解像度を維持しながら、処理量を最大化することができる。
【0043】
いくつかの実施態様において式5は、空間周波数の関数として入力変調(M)によって除算される出力変調(M)として定義される、撮像システムの変調伝達関数(MTF)を測定することなどによって、参照開口の最適サイズを推定するために使用される。シミュレーション用の対象画像として、π位相の深さ、および2度の傾斜角度の垂直ナイフエッジ位相対象を用いてシミュレーションを行い、図2(b)に示すように、比R/Rを0.01から0.4まで変化させることにより得られた再構成画像を用いた、線像分布関数のフーリエ変換からMTFを評価することができる。
【0044】
これらの実施態様では、大参照開口164(100%サイズ比)の再構成画像は、対象画像の自己相関であり、位相情報を有さない。しかしながら、図2Bのグラフに示されるように、小参照開口162のような、撮影面IP2においてより小さな直径を有する参照開口は、ピンホールのように作用することができ、FP2における参照波を平面波により類似させ、空間解像度を増加させる。しかしながら、小さすぎる直径の参照開口は、FP2における光学フルエンスを制限し、これは、生体力学的な撮像における信号対雑音比および感度を低下させる。したがって、いくつかの実施態様では、大物体開口164のサイズに対して20%の割合を有する小参照開口162を使用して、比較的良好な性能が達成される。この構成を用いて、空間解像度は、図2Bにおいて、1mm当たり8.5線対(lp/mm)であると推定される。より小さい参照開口は、より高い出力の光源または、より高い感度のカメラが使用される場合、解像度および位相感度を増加させるために用いることができる。小参照開口162が、大物体開口164に対して5%または10%のサイズ比を有する実施態様では、図2Bの解像度がそれぞれ33lp/mmまたは17lp/mmを達成することができる。
【0045】
干渉計100の実施態様を利用する少なくとも1つの実験では、生体DLD-1(ヒト結腸腺癌)スフェロイドを対象190組織試料として使用した。腫瘍スフェロイドを、直径300~600μmのスフェロイドが形成されるまで、7~14日間、回転バイオリアクタ中で培養し、次いで、96ウェルプレート中、低ゲル温度アガロースで固定化した。外部振動に対する安定性を調べるために、CDHモードとFDHモードの両方、かつ、外部振動有りの場合と無しの場合とにおいて、新鮮な腫瘍スフェロイドの生体力学的な撮像を行った。外部振動は、光学システム100を支持する光学テーブル支持体に調整可能に結合されたモータを駆動することによって生成された。モータの速度は、ホログラムで観察される干渉縞に顕著に影響を及ぼすまで増加され、1つの実験では約6000rpmで生じた。ホログラムは、直径約300μmの新鮮な腫瘍スフェロイドを撮影しながら、毎秒25フレームのフレームレートで82秒間記録した。外部振動を伴うFDHモードおよびCDHモードにおける断面(横位置対時間)を測定し、図3Aに示す。従来のマッハツェンダ構成におけるFDHの断面では、全強度は経時的に変動したが、干渉計100システムでは各画素での強度が細胞内運動のみによって経時的に変動し(テーブル振動によるものではなく)、全強度は安定していた。この実験を用いて、干渉計100システムは非共通経路FDHシステムよりも、外部振動に対してより安定であり、生物学的運動に対してより敏感であることが実証された。
【0046】
図3Aには、FDHシステム(左図)およびCDH干渉計100(右図)の両方について、時間(縦軸)の関数としての、1つの空間次元(水平軸)に沿った反射の振幅をdBで示す線プロットが示されている。
【0047】
変動パワースペクトルは図3Bに示されるように、上記フレームレートで実行される多数の画像再構成の時系列の時間的FFTを実行することによって取得することができる。マーカーのない2つの線プロットは、2つのシステム(FDHおよび干渉計100(CDH))のパワースペクトルであり、マーカーを有する2つのプロットは、振動のない2つのシステムのパワースペクトルである。干渉計100(CDH)を利用するシステムは、FDHシステムよりも外部振動に対してより安定であることが分かる。
【0048】
外部振動の影響を別の(定量的である)方法で比較するために、1つの周波数における相対偏差を、振動がある場合とない場合とのスペクトル密度の値の絶対差を、振動が無い場合のスペクトル密度の値で割ったものとして定義した。高周波振動源を用いた3つの帯域(0.1Hz未満、0.1Hzと1Hzの間、1Hzより高い)における相対偏差の平均は、FDHについてはそれぞれ4.6%、3.1%、および80%であると測定されたが、干渉計100については3つの帯域における平均がそれぞれ1.8%、2.5%、および2.4%であると測定された。FDHにおけるパワースペクトルはまた、特に高周波数帯域においてかなりのノイズを有し、干渉計100のパワースペクトルは、全ての周波数帯域について比較的滑らかであった。これらの曲線は、低周波数(0.1Hz)においてはニーを、中間周波数においてはべき乗則ロールオフを、ナイキスト周波数(高周波数)の近くでは床を有する、生体組織からの典型的なスペクトル形状を示す。低周波雑音のシミュレーションをするために、ゆっくりな位相変調源として、ゆっくり落下する紙対象(水が蒸発している間に、水が満たされた井戸の表面上に浮いている紙片であった)を使用した。図3Cに示されるように、FDHパワースペクトルは、2つの異なる紙速度に対して0.23Hzおよび0.29Hzでピークを示すが、干渉計100(CDH)についてはピークを示さない。この情報を使用すると、干渉計100(CDH)は、同相除去(common-mode rejection)のため、全体的な位相ドリフトに対する一般的な非感受性を示すことが分かり、これは、干渉計100(CDH)が外部の機械的外乱に対して安定であるように見える、少なくとも1つの理由である。
【0049】
図3Dは、動的DLD-1スフェロイドのパワースペクトルと、FDHおよび干渉計100(CDH)を利用した静止した白い紙のパワースペクトルとを、ほぼ同じ後方散乱明度で比較している。静止した紙のスペクトル密度と比較して、FDHにおける白色雑音は干渉計100(CDH)におけるそれよりも2.2倍高く、これは外部振動に対する安定性の差によると思われる。干渉計100(CDH)における検出帯域幅(DBW)は、FDHシステムにおけるものよりも4.2倍高く、一方、FDHにおける生体試料のダイナミックレンジ(DR)は、FDHにおけるより効率的な光子収集のため、干渉計100(CDH)におけるものよりも3.2倍高い。したがって、干渉計100(CDH)システムは、細胞内運動からの干渉ドップラー周波数シフトによって引き起こされるスペックルスケール位相変動に敏感なままでありながら、全体的な位相ドリフトに敏感ではないように見える。
【0050】
干渉計100(CDH)システムが組織動的分光法(tissue-dynamic spectroscopy)の有効なモダリティであるかどうかを調べるために、図4に示すように、FDHモードと干渉計100(CDH)モードの両方で、薬物摂動に応答した細胞内の動態における時間変化を追跡する組織応答スペクトログラムを取得した。この比較を行う際に、FDHシステムは、干渉計100(CDH)に対して最高の安定性を達成するために、最大の振動絶縁で動作された。時間の関数としての変動パワースペクトルにおける平均ベースラインスペクトルに対するスペクトル変化から、スペクトログラムを生成した。投薬前ベースラインの6回の測定後、投薬後応答は、処理によって引き起こされたシグネチャを捕捉し、1時間ごとに15回測定した。細胞骨格(ノコダゾールおよびパクリタキセル)および代謝性(ヨード酢酸)薬物を使用し、0.1%のキャリアのジメチルスルホキシド(DMSO)(薬物溶解性のため)を含む培地を陰性対照として使用した。ノコダゾールは、微小管の重合を阻害することによって微小管を破壊するが、パクリタキセルは脱重合を防止することによって微小管を安定化する。ヨード酢酸は、ATPの供給を介して癌細胞の急速な増殖に寄与する解糖を阻害する。
【0051】
FDHおよび干渉計100(CDH)システムにおける陰性対照のスペクトログラムは、連続的に増殖する組織試料において典型的に見られる、わずかな経時的変化を伴う比較的小さい応答性を示した。FDHシステムを利用するヨード酢酸に応答する平均スペクトログラムは、細胞活性の全体的な阻害を示した。干渉計100(CDH)を使用すると、組織応答は、低周波数での干渉計100(CDH)におけるより強い赤色シフトを除いて、FDHシステムのそれに近くなった。ノコダゾールに対する応答は、FDHと干渉計100(CDH)との間のわずかな差を伴って、低周波数および高周波数の増強および中周波数での抑制を示した。パクリタキセルに対する反応性は、やや弱い反応性を除いて、ノコダゾールの反応性とほぼ一致した。したがって、薬物に対する組織応答性は、干渉計100(CDH)とFDHとの間で機能的に同等であるように見えたが、干渉計100(CDH)システムは環境の影響に対する安定性という追加の利点を有し、そのより低い解像度にもかかわらず、臨床現場(point-of-care)での用途においてFDHシステムよりも高い柔軟性を有し得る。
【0052】
図4は、FDHおよび本開示の実施態様(CDH)の使用における0.1%DMSO、ヨード酢酸、ノコダゾール、およびパクリタキセルに対する薬物応答性を反映する、平均スペクトログラム(3回反復)を示す。t=0の時点で、上記薬物を投与した。スペクトログラムに見られるように、本開示の実施態様(CDH)の性能は、FDHの性能と機能的に同等である。
【0053】
共通経路ホログラフィ構成を使用して干渉安定性の向上を達成することは、生体力学的性能に対するいくつかの性能トレードオフをもたらし得る。例えば、共通経路システムを利用する場合、空間解像度とカメラ上のホログラフィック縞模様コントラストとの間でトレードオフが生じる可能性がある。例えば、腫瘍スフェロイドを撮影する場合、参照開口を画像開口の20%に制限することによって公称性能を達成することができ、これは、撮影解像度を約100ミクロンに制限し得る。この解像度は、腫瘍中の特定の個々の細胞を撮影するには不十分であり得るが、それにもかかわらず、腫瘍を横切る細胞内動態の空間マップを生成する生体力学的な撮影の組織動態分光撮影(TDSI)モードと適合する。起こり得る他のトレードオフには、深さ測距のための独立したz制御の損失を挙げることができる。一方、低コヒーレンス光源は、同じ光路長を共有する光を選択的に干渉する自己コヒーレンス・ゲートの条件を生成することができ、これは、デジタル・カメラ上に、増大する深さで、連続するコヒーレンス・ゲートで制御されたホログラムを重ね合わせる「圧縮されたフライスルー」を生成することができる。ドップラー・スペクトルが対象の全ての深さにわたって平均化され、減少した消光係数μ´に伴って減衰する、減少する指数関数によって重み付け(weight)されるとき、これは、上述のように、例えば100ミクロンの横方向空間解像度で、対象内部の深さ(例えば、対象内部の約200ミクロンの深さ)までドップラー情報を選択的に重み付けすることができる。中程度の量の多重散乱を有する厚い試料への生体力学的な撮影は、例えば、ドップラー周波数シフトが各散乱事象と共に蓄積し、細胞内運動に対する感度性を高めることができるため、動的感度を高めることができる。したがって、従来の生体力学的な撮像の20ミクロンのボクセルサイズは、本開示の実施態様による共通経路システムにおいて、約100ミクロンのボクセルサイズと交換することができ、一方、優れた機械的安定性を獲得し、組織動態用途のための完全なスペクトル・ダイナミック・レンジを維持する。
【0054】
図1に示される干渉計100の代替の実施態様は、撮影面IP2に位置する不透明な空間フィルタ160内の開口(参照開口162または物体開口164)のうちの1つの経路に配置された遅延プレートを含む。この遅延プレートは、(n-1)dによって与えられる経路遅延を生成する光学平面でもよく、ここでnはプレートの屈折率であり、dはプレートの厚さである。この遅延の典型的な値は、100ミクロン~300ミクロンである。
【0055】
光学プレート単独では、この小さい遅延を提供するには薄すぎる場合があり、したがって、代替の実施態様においては2つの光学平面が使用され、小さな厚さ差が100ミクロン~300ミクロンの差分遅延を与えるように選択されてもよい。これらの実施態様は、信号光線と参照光線との間に遅延を生成する。遅延が試料厚さの一部であるように設計されている場合、半透明なボリュメトリック対象の内部の異なる深さから散乱された光子から干渉を生成することができる。光源が低コヒーレンス光源(例えば、スーパールミネッセント・ダイオード)である場合、各深さは、他方を参照し、遅延プレートの厚さによって設定される有効深さゲートを生成する。遅延プレートおよび低コヒーレンス源の両方が一緒に使用される実施態様は、特に良好に機能することができる。
【0056】
図1に示す干渉計100のさらに別の実施態様では、45°を超えて90°まで偏光を回転させる偏光回転体である波長板を用いた深さ選択を依然として提供しつつ、長コヒーレンス光源が使用される。90°回転された偏光は、干渉縞を生じない傾向があり、デジタル・ホログラフィには不適切である傾向がある。しかしながら、上述の干渉計100の実施態様では、対象が生体組織(例えば、腫瘍生検、バイオリアクタ内で成長した組織構造、または胚などの他の生体対象)であり、これはボリュメトリック散乱性が高い半透明試料である傾向がある。多数の光散乱がこれらの試料において生じ、約100ミクロンを超える深さから組織内に散乱された光子の偏光をランダムに回転させる。ここで、信号光線と参照光線との間の交差偏光は、対象試料の内部からの異なる深さから来る光子を妨害し、これは、組織試料の内部に100~300ミクロンの間に位置するコヒーレンス・ゲートを効果的に生成する。この深さ選択性は、生体組織における酸素の輸送長を超えることができ、抗癌剤の開発に有用である、生体試料の低酸素領域の選択的な撮影を可能にするため、生体力学的な撮影にとって重要であり得る。これらのシステムおよび方法を利用する実施態様は、深い光子と浅い光子との間の光路差に対してさえも干渉を可能にするため、長コヒーレンス光源と共に使用された場合でさえも、コヒーレンス・ゲートをもたらす。この動作は、光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)における一般的な知識とは異なり、深さゲートは、低コヒーレンス源でのみ発生する。さらに、前述の実施態様を利用すると、例えば、信号アームおよび参照アームの両方のためのランダムに回転された光子が、100ミクロンから300ミクロンの間の深さから生じ、依然として干渉し得るため、偏光回転を伴う低コヒーレンス源を保持することが可能である。低コヒーレンス源と高コヒーレンス源との間で変換または切り替えることができる実施態様においては、単に光源を変更することによって、および、装置または方法の任意の他の態様を変更することなく、深さ選択性を変更することができる。
【0057】
図5は、本開示の実施態様において使用されるフレネルバイプリズム(例えば、フレネルバイプリズム246)の光学特性を示す。入射した平行レーザ光線312は、交差角度Θで交差する2つの平行光線313および314に分割される。2つの光線間の重複領域Lには、次式で与えられる縞間隔Λを有する干渉縞が存在する。
【0058】
【数6】
【0059】
ここで、λは光源の波長である。デジタル・ホログラフィの場合、縞模様間隔Λは、縞模様当たり少なくとも3つのカメラ画素、および、スペックル当たり少なくとも3つの縞模様が存在する「9の法則」に従うべきである。現在のデジタル・カメラは、5ミクロンの典型的な画素サイズを有し、15ミクロンの縞模様間隔をもたらし、設計角度Θ<0.028をもたらす。フレネルバイプリズムの頂角の半分は、角度315(Θ)である。ΘとΘとの間の関連性は、次式で表される。
【0060】
【数7】
【0061】
屈折率n=1.55の場合、頂角は2Θ=175°である。
【0062】
本開示の実施態様で使用されるデジタル・ホログラフィの所望の交差角度は、Θ=0.02radであり、これは175°のフレネル頂角で達成される。
【0063】
図6は、カメラチップのサイズと、有孔レンズまでの距離との関係を示す。撮影装置(例えば、カメラ)の開口371を干渉縞で満たし、光子の両方の最高個数を捕捉し、干渉縞でデータを完全に変調することが望ましい。本開示の実施態様のデジタル・ホログラフィと連動する公称構成(nominal configuration)は、L=f=15cmをもたらす。さらに、3ミリメートルの開口直径372(D)もまた、最適なスペックルサイズを達成するであろう。
【0064】
図7は、本開示の実施態様による、フーリエ・ドメイン・フレネルバイプリズムの生体力学的な撮像システム200(フレネルバイプリズム組織動態分光システムとも呼ばれ得る)を描写する。照明源210は、低コヒーレンス源(例えば、スーパールミネッセント・ダイオード)または高コヒーレンス源(例えば、レーザ)のいずれかであってもよい。いくつかの実施態様は、赤色であるか、または、電磁スペクトルの不可視近赤外部分にある照明源210を利用する。照明源210は、動態(生きている)対象290を照明する。対象照明は、対象290を支持する透明スライド292の下から光線212が入射する倒立顕微鏡構成であってもよい。対象照明はまた、試料全体の照準を助けることができ、また、光の拡散散乱を強化することを助けることもできる、光線拡大器219も利用することができる。後方散乱光212は、フーリエ面FP上に情報を投影するレンズ240(L1)によって収集されてもよい。レンズ240(L1)は、対象から焦点距離f1に位置決めされてもよい。いくつかの実施態様では、鏡220を使用して光の方向を変えることができる。第2のレンズ242(L2)(例えば、フーリエ変換レンズ)は、中間フーリエ面を中間撮影面IP上に結画像するために使用されてもよく、レンズL1の下流のフーリエ面FPから焦点距離f2に配置されてもよい。第3のレンズ244(L3)(フーリエ変換レンズであってもよい)は、CCDカメラチップまたはCMOSカメラチップなどの画素アレイチップであってもよい、最終フーリエ面上の撮像装置270上に光信号を変換することができる。レンズ244(L3)の後の光は、図5からの交差角度216で交差する光路の2つの半分を生成する光学素子246(フレネルバイプリズムであってもよい)によって遮断されてもよい。レンズ246の下流の重複光線は、画像検出器270上のスペックルパターンを変調する干渉縞を生成する。画像検出器270の表面(画素アレイであってもよい)は、撮像システムのフーリエ面に配置される。画像は、カメラからのデータのデジタル・フーリエ変換を実行することによって再構成することができる。縞模様は、対象のコヒーレンス・セクションを表す2つのコヒーレント側波帯を生成する。フーリエ変換レンズの直後のフレネルバイプリズムの使用は、画像忠実度が撮像装置の所望される特徴であるデジタル・ホログラフィック撮像における一般的な知識に反する。本実施態様におけるフレネルバイプリズムの配置は、1対1の画像ではなく、再構成後の対象の自己相関マップを作成する。通常の撮像の場合、これは望ましくないが、生体力学的な撮像および組織動態分光法の場合、この実施態様は振動環境においてさえも低ノイズ測定のための例外的な安定性を提供しつつ、細胞内運動に対して高い感度をもたらす。
【0065】
撮像システム200は、薄い試料を撮像するため、または深さ情報が望まれないときに厚い試料を撮像するために有用である。しかしながら、多くの用途は、空間的に異種である動的対象を使用し、キー情報は深さ情報によって搬送される。深さ情報を抽出するために、図7に示される撮像システム200は、フレネルバイプリズム246の半分に遅延プレート380を導入することによって、図8に示される撮像システム300の構成に修正してもよい。いくつかの実施態様において遅延プレート380は光学面であり、他の実施態様において遅延プレート380は偏光回転子である。例えばスーパールミネッセント・ダイオードなどの低コヒーレンス源200を利用する実施態様は、深さに対して選択的であってもよく、言い換えれば、ユーザが異なる深さで結果を解釈することを可能にする。
【0066】
遅延プレート380が光学面である撮像システム300の実施態様では、部分的に重複する2つの虚像391が生成される。2つの虚像391間のオフセットは、光学面の厚さによって決まり、オフセットは(n-1)dに等しいとして決定することができ、ここで、nは光学面の屈折率であり、dは光学面の厚さである。光源が低いコヒーレンスを有する場合、干渉縞は、重複領域から発生する。
【0067】
いくつかの実施態様においては2つの光学プレートが使用され、(n-1)Δdの正味の差分遅延を生成するように調整され得るわずかな厚さ差Δdがあり、その結果、正味の遅延は100ミクロンと300ミクロンとの間で調整可能である。干渉縞は2つの虚像間の重複領域から散乱された光子に対して発生し、それは、低減された深さ範囲からの光子を選択的に位置づける。
【0068】
遅延プレート380が偏光回転子である図8の実施態様では、対象内のより深いところからの多重散乱事象は、対象試料(例えば、動的対象試料)がボリュメトリックであり、高度に散乱しているとき、対象試料が組織生検またはバイオリアクタ内で成長した組織構造であるときのように、直交偏光を有する少なくともいくつかの光子を生成することができる。したがって、フレネルバイプリズムで偏光を90度回転させることによって、これらの実施態様は、より深い光子が浅い光子と干渉するときに、干渉縞を生成する。これは、重複領域のみから来る干渉縞を有する虚像の同じ二重像を効果的に生成する。したがって、これらの実施態様は、例えば、多重散乱された干渉光子であり、それ故低コヒーレンス光源のコヒーレンス長の外側であり得る、より長い経路長を有するため、短コヒーレンス光源で動作できるだけでなく、長コヒーレンス光源でも動作することもできる。したがって、これらの実施態様は、部分的な深さ選択を依然として提供しながら、長コヒーレンス光源の使用を可能にする。交差偏光は干渉縞を生じないことがよく知られており、深さ選択は低コヒーレンス源からのみ得られることが知られているため、これは従来の知見とは対照的である。長コヒーレンス光源を有する実施態様を使用するときに実現され得る利点は、長コヒーレンス光源が短コヒーレンス光源よりも安価であり、高強度である傾向があり、半透明な試料(少量の光のみを反射する試料)の調査をより容易にすることである。発生する試料からのボリュメトリック散乱は深さの選択性を高めるため、この構成を短コヒーレンス源と共に使用することも可能であることは、注目に値する。
【0069】
図1に示されるものと同様の(例えば、2つの数字が同じ)または同じ参照番号を有する図7および8に示される要素は、同様の(または同じ)機能を果たすことができ、同様の(または同一の)方法で製造することができ、それらの機能または特徴を有することができないと記載されない限り、または当業者がそれらの機能または特徴を有することができないと認識しない限り、他の図における要素と同様の(または同じ)特徴(および任意の特徴)を有する。
【0070】
本開示の異なる実施態様の様々な形態が、以下の様にX1、X2、X3、X4およびX5段落に示される。
【0071】
X1.本開示の実施態様の一態様によれば、対象試料を撮影するための装置が開示されており、上記装置は、対象試料を支持するように構成され、適合された、対象試料支持体と;光を生成するように構成され、適合された、光源と;前記光源によって生成された前記光を前記対象試料で(off the target sample)拡散散乱させる手段と;前記光が前記対象試料で拡散散乱された後に、2つの交差光線を前記光から生成する手段であって、前記光の焦点を検出面に合わせる、前記2つの交差光線を生成する手段と;前記検出面に位置する撮影装置であって、前記撮影装置によって受容された光から画像を生成するように構成され、適合された撮影装置と、を有する。
【0072】
X2.本開示の実施態様の他の態様によれば、組織試料を撮影する方法が開示されており、上記方法は、光を生成することと;組織試料に向かって前記光を導くことと;前記組織試料で前記光を反射させることと;前記組織試料で反射させた光から、2つの光線を生成することと;前記光線を撮影装置において交差させることと;前記組織試料の細胞運動性に関する情報を生成することと;を含む。
【0073】
X3.本開示の実施態様のさらなる他の態様によれば、装置が開示されており、上記装置は、光を生成する光源と;対象試料を支持するように構成され、適合され、前記支持体によって保持される対象試料が前記光源からの光を受容し、反射させる場所に位置する対象試料支持体と;前記対象試料から反射された光を受容し、フーリエレンズを通過する光を変換するために位置するフーリエレンズと;前記フーリエレンズから出てくる、変換された光を受容するために位置するフレネルバイプリズムと;前記フレネルバイプリズムから出てくる光を受容するために位置する撮影装置と;を有する。
【0074】
X4.本開示の実施態様のさらなる他の態様によれば、組織試料を撮影するための細胞運動性撮影装置が開示されており、上記撮影装置は、照明光線を提供する照明光源と;前記照明光線が前記組織試料に入射し、前記組織試料で散乱され、散乱された光線が物体光線を形成する場所に組織試料を支持するように構成された組織試料支持体と;前記組織試料で散乱された後の物体光線を集め、前記物体光線を信号光線と、参照光線とに分割するために位置する波面分割素子と;信号光線と、参照光線とを検出するために位置する検出器と;を有する。
【0075】
X5.本開示の実施態様の他の態様によれば、組織試料を撮影するための運動性撮影装置が開示されており、上記撮影装置は、照明光線を提供する照明光源と;前記照明光線が前記組織試料に入射し、前記組織試料で散乱される場所に位置する組織試料を支持するように構成された組織試料支持体と;前記組織試料で散乱された後の照明光線の進路内に位置するフレネルバイプリズムと;前記フレネルバイプリズムを通過した後の照明光線を検出するために位置する検出器と;を有する。
【0076】
さらなる他の実施態様は、前述のX1、X2、X3、X4またはX5のいずれかに記載の特徴を有し、以下と組み合わされる。
(i)前述のX1、X2、X3、X4またはX5の1つ以上、
(ii)下記の形態の1つ以上、または
(iii)前述のX1、X2、X3、X4またはX5の1つ以上、および、下記の形態の1つ以上:
【0077】
前記2つの交差光線を生成する手段が、フーリエレンズと、フレネルバイプリズムとを有する。
【0078】
前記2つの交差光線を生成する手段が、光線分割回折格子と、空間フィルタと、フーリエレンズとを有する。
【0079】
前記空間フィルタが、大きさが異なる2つの開口を有する。
【0080】
前記対象試料支持体が、生体組織試料を支持するように構成され、適合されている。
【0081】
前記対象試料支持体が透明であり、前記拡散散乱する手段が前記対象試料支持体を介して前記対象試料に光を当てることを含み、後方散乱方向に対して斜角で、前記対象試料支持体に光を当てる。
【0082】
前記散乱手段が、光線拡大器を有する。
【0083】
前記光源が、短コヒーレンス光源である。
【0084】
前記光源が、長コヒーレンス光源である。
【0085】
偏光回転体が、前記交差光線のうちの1つの進路内に配置されている。
【0086】
前記光を反射させることが、前記組織試料で前記光を拡散散乱させることを含む。
【0087】
2つの交差光線を生成することが、前記光にフーリエレンズおよびフレネルバイプリズムを通過させることを含む。
【0088】
前記光を導くことが、前記組織試料で前記光を反射させる前に、前記光に光線拡大器を通過させることを含む。
【0089】
2つの交差光線を生成することが、前記光に光線分割器と、空間フィルタと、フーリエレンズと、を通過させることを含む。
【0090】
2つの交差光線を生成することが、前記光に大きさが異なる2つの開口を通過させることを含む。
【0091】
前記試料の機械的な動きが前記情報の生成に影響を及ぼさないように、表面結合化学を用いて前記試料組織を固定化し、前記表面結合化学が前記組織の健康に非毒性である。
【0092】
透明支持体を用いて前記組織試料を支持する。
【0093】
前記光が前記組織試料に到達する前に、前記光が前記支持体を通過するように導く。
【0094】
前記光を前記組織試料に向かって、前記透明支持体に対して斜角に導く。
【0095】
光を生成することが、長コヒーレンス光を生成することを含む。
【0096】
光を生成することが、短コヒーレンス光を生成することを含む。
【0097】
前記2つの光線を生成することに後に、交差光線のうちの1つの偏光を回転させる。
【0098】
前記波面分割素子が回折格子を有する。
【0099】
前記波面分割素子が、撮影面に位置する二開口不透明スクリーンを有する。
【0100】
前記照明光源が、低コヒーレンス光源である。
【0101】
前記照明光源が、高コヒーレンス光源である。
【0102】
遅延プレートが、前記不透明スクリーン内の開口の1つの上に位置する。
【0103】
前記波面分割素子の後に、前記参照光線が、開口を有する不透明面によって遮断される。
【0104】
前記開口が、明るいスペックル(bright speckle)の場所に位置する。
【0105】
前記開口の大きさが可変である。
【0106】
前記波面分割素子の後にフーリエ変換レンズが位置する。
【0107】
前記検出器がフーリエ面に位置する。
【0108】
前記信号光線および前記参照光線間の、前記検出器における交差角度が、デジタル・ホログラフィ用の搬送波周波数を提供する。
【0109】
前記波面分割素子がフレネルバイプリズムである。
【0110】
前記組織試料に前記照明光線が入射する前に、前記照明光線を拡大するために光線拡大器が配置されている。
【0111】
前記組織試料支持体が、前記照明光線の全部(full portion)が前記組織試料に入射する場所に前記組織試料を支持するように構成されている。
【0112】
偏光回転体が、前記信号光線または前記参照光線のいずれか1つ内に配置されている。
【0113】
遅延プレートが、前記フレネルバイプリズムの半分の上に(on one half)位置する。
【0114】
偏光回転体が、前記フレネルバイプリズムの半分の上に位置する。
【0115】
本明細書で使用され得る参照システムは概して、様々な方向(例えば、上方、下方、前方および後方)を指すことができ、それらは、単に、読者が本開示の様々な実施態様を理解するのを助けるために提供され、限定として解釈されるべきではない。他の参照システムは、投射体が銃器を出るときの発射体の動きの方向を、上、下、後方、または任意の他の方向として参照するなど、様々な実施態様を説明するために使用され得る。
【0116】
使用を明確にするため、および、ここに公衆に通知を提供するために、「A、B、・・・およびNのうちの少なくとも1つ」または「A、B、・・・Nのうちの少なくとも1つ、または、その組み合わせ」または「A、B、・・・および/またはN」という表現は最も広い意味で本出願人によって定義され、本出願人によってそれとは反対に明示的に主張されない限り、上述または後述のいかなる他の暗示された定義よりも優先され、A、B、・・・およびNを含む群から選択される1つまたは複数の要素を意味する。言い換えれば、上記表現は、任意の1つの要素を単独で、または、組み合わせで、1つの要素と、列挙されていない追加の要素も含んでもよい1つまたは複数の他の要素との組み合わせを含む、要素A、B、・・・またはNの1つまたは複数の任意の組み合わせを意味する。
【0117】
本開示の実施例、1つまたは複数の代表的な実施態様および具体的な形態が、図面および前述の説明において詳細に図示および説明されてきたが、それらは例示的であり、制限的または限定的ではないと見なされるべきである。一実施態様における特定の特徴の説明は、それらの特定の特徴が必ずしもその一実施態様に限定されることを暗示するものではない。一実施態様の特徴の一部または全部は、特に明記しない限り、他の実施態様の特徴の一部または全部と組み合わせて使用または適用することができる。1つまたは複数の例示的な実施態様が示され、説明されており、本開示の趣旨に含まれるすべての変更および修正が保護されることが望まれる。
【0118】
要素番号
表1および表2は、要素番号と、要素番号によって表される部材および/または特徴を説明するために使用される少なくとも1つの用語とを含む。本明細書に開示される実施態様のいずれも、これらの説明に限定されず、同様の部材および/または特徴を説明するために明細書または特許請求の範囲において他の用語が使用されてもよく、これらの要素番号は、本開示のその全体を読んで検討する当業者によって理解される他の用語によって説明できることが理解されるであろう。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】