IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メディツィーニシェ・ホーホシューレ・ハノーファーの特許一覧

特表2024-500314内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術
<>
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図1
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図2
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図3
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図4
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図5
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図6
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図7
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図8
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図9
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図10
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図11
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図12
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図13
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図14
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図15
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図16
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図17
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図18
  • 特表-内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】内耳遺伝子治療のためのレンチウイルスベクター技術
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20231226BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231226BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20231226BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20231226BHJP
   C07K 14/145 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K35/76 ZNA
A61P27/16
C12N15/867 Z
C07K14/145
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534114
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2021084131
(87)【国際公開番号】W WO2022117797
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】20211616.6
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195668
【氏名又は名称】メディツィーニシェ・ホーホシューレ・ハノーファー
【氏名又は名称原語表記】Medizinische Hochschule Hannover
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】シャームバッハ,アクセル
(72)【発明者】
【氏名】モルガン,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ショット,ユリアーネ
(72)【発明者】
【氏名】ビュニング,ヒルデガルト
(72)【発明者】
【氏名】シュタッカー,ヒンリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルネッケ,アターナジア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA34
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA55
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA34
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA01
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、感音性難聴を処置するための遺伝子治療の分野に関する。特に、本発明は、感音性難聴の治療または予防に使用するための内耳の細胞で発現される受容体に結合することができるウイルスエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化された第3世代レンチウイルスベクターを含む組成物を開示し、ここで該組成物は、少なくとも10TU/mLのウイルス力価を有し、感音性難聴を患っているかまたは感音性難聴を患う危険がある対象の内耳に投与される。ウイルスエンベロープ糖タンパク質は、LDL受容体およびLDL-Rファミリーメンバー、SLC1A5受容体、Pit1/2受容体およびPIRYV-G受容体からなる群から選択される受容体に結合することができる。好ましくは、ウイルス糖タンパク質はMARAVーG、COCVーG、VSVーG、VSVーGtsまたはPIRYVーGであり、最も好ましくはMARAVーGである。レンチウイルスベクターは、例えばタンパク質コード遺伝子、miRNA、shRNA、lncRNAまたはsgRNAを含むカーゴ配列をさらに含み、ここで内耳の細胞における該カーゴ配列の発現は、少なくとも対象における感音性難聴の症状を軽減、除去または予防することができる。本発明はさらに、感音性難聴の処置を必要とする対象において感音性難聴を処置するための方法を開示する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における感音性難聴の処置における使用のための組成物であって、ここで該組成物は内耳の細胞で発現される受容体に結合することができるウイルスエンベロープ糖タンパク質で偽型化された第3世代レンチウイルスベクターを含み、該組成物は少なくとも10TU/mLの力価を有し、対象の内耳に投与される、組成物。
【請求項2】
レンチウイルスベクターが、LDL受容体およびLDL-Rファミリーメンバー、SLC1A5受容体、Pit1/2受容体およびPIRYV-G受容体からなる群から選択される受容体に結合することができるウイルスエンベロープ糖タンパク質で偽型化される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
レンチウイルスベクターが、LDL受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化されており、ウイルスエンベロープ糖タンパク質は、MARAV-G、COCV-G、VSV-GおよびVSV-Gtsを含む群から選択される、請求項1~2のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
ウイルスエンベロープ糖タンパク質がMARAV-Gである、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
ウイルスエンベロープ糖タンパク質がCOCV-Gである、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
該ウイルスエンベロープ糖タンパク質が、野生型VSV-GまたはVSV-GtsなどのVSV-Gである、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
レンチウイルスベクターが、タンパク質コード遺伝子、miRNA、shRNA、lncRNA、またはsgRNAを含む群から選択される核酸を含むカーゴ配列を含み、内耳の該細胞における該カーゴ配列の発現が、対象における感音性難聴の少なくとも症状を軽減または除去することができる、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
カーゴ配列が、MYO7A、GJB2、OTOF、ATOH1、SLC26A4、TMC1、TMPRSS3、GIPC3、USH1C、RDX、CLDN14、WHRN、ESPN、ILDR1、SERPINB6、KCNQ4、POU4F3、SIX1、CCDC50、MIR96、POU3F4、EYA1、KCNQ1、GJB6、STRC、TECTA、GJB3、PRPS1、CDH23、GRXCR2、CABP2、GRXCR1、SYNE4、COL11A2、LRTOMT、BSND、PJVK、CIB2、CEACAM16、TMIE、NARS2、LHFPL5、MARVELD2、SLC22A4、KARS、SLC26A5、TPRN、ELMOD3、GPSM2、COCH、ESRRB、ADCY1、EPS8L2、CD164、OTOA、S1PR2、LOXHD1、TSPEAR、EPS8、CDC14A、MSRB3、DCDC2、PNPT1、TMEM132E、FAM65B、MYO3A、CLIC5、HGF、USH2A、TBC1D24、MET、PCDH15、PTPRQ、OTOGL、MYO6、TNC、TRIOBP、BDP1、MYO15A、DI-APH1、MYH14、DFNA5、WFS1、EYA4、COL11A2、MYH9、ACTG1、SLC17A8、GRHL2、DSPP、P2RX2、MYO1A、GFI1、TYMP、GFI1B、BDNF、GDNF、NT-3、IGF1、IGF2、CNTF、ARTN、NRTN、ATP7B、MRP1、MRP2およびMDR1を含む群から選択される遺伝子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
レンチウイルスベクターが、HIV-1、HIV-2、SIV、FIVおよびEIAVを含む群から選択されるウイルスに由来し、好ましくは、レンチウイルスベクターはHIV-1に由来する、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物、
【請求項10】
レンチウイルスベクターが、
a)U3位置に構成的に活性な異種プロモーター、反復領域(R)およびU5領域を含む5’LTR、
b)プライマー結合部位(PBS)、スプライスドナー部位(SD)、パッケージングシグナル(ψ)、Rev応答要素、および所望によりスプライスアクセプター(SA)部位を含む5’UTR、
c)カーゴ配列に作動可能に連結された内部エンハンサー/プロモーター領域、
d)所望によりウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(PRE)を含むRNAプロセシング要素、および
e)欠失されたU3(SIN)領域、反復領域(R)およびU5領域を有する3’LTR
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
内耳の細胞が、支持細胞ならびに内有毛細胞および外有毛細胞、らせん神経節ニューロンおよびグリア細胞、血管条およびらせん靱帯の細胞、側壁線維細胞、I型およびII型前庭有毛細胞、前庭支持細胞および前庭神経節ニューロンを含むコルチ器の細胞からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
レンチウイルスベクター力価が、超遠心分離または、精密濾過、限外濾過、クロマトグラフィー、密度勾配超遠心分離、接線流精密濾過、および沈殿を含む他の精製方法(精製方法を含む)を使用して濃縮される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
組成物が、蝸牛インプラント経路、正円窓注射、卵円窓注射、管瘻造設術、蝸牛瘻造設術および内リンパ嚢への注射を含む群から選択される方法によって対象に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための組成物、
【請求項14】
レンチウイルスベクターが非組み込みレンチウイルスベクターである、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物の有効量を該対象に投与する工程を含む、感音性難聴の処置を必要とする対象において感音性難聴を処置するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感音性難聴を処置するための遺伝子治療の分野に関する。特に、本発明は、感音性難聴の処置または予防における使用のための内耳の細胞で発現される受容体に結合することができるウイルスエンベロープ糖タンパク質で偽型化された第3世代レンチウイルスベクターを含む組成物を開示し、ここで、この組成物は、少なくとも10TU/mLのウイルス力価を有し、感音性難聴を患っているかまたは感音性難聴を患う危険がある対象の内耳に投与される。ウイルスエンベロープ糖タンパク質は、LDL受容体(LDL-R)およびLDL-Rファミリーメンバー、SLC1A5受容体、Pit1/2受容体、およびPIRYV-G受容体からなる群から選択される受容体に結合することができる。好ましくは、ウイルス糖タンパク質は、MARAV-G、COCV-G、VSV-G、VSV-Gts、またはPIRYV-Gである。レンチウイルスベクターは、例えば、タンパク質コード遺伝子、miRNA、shRNA、lncRNAまたはsgRNAを含むカーゴ配列をさらに含み、ここで内耳の細胞における該カーゴ配列の発現は、対象において少なくとも感音性難聴の症状を軽減、排除または予防することができる。本発明はさらに、感音性難聴の処置を必要とする対象において感音性難聴を処置するための方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
およそ4億6,600万人が障害を伴う難聴に苦しんでおり、重大な社会的および経済的影響を及ぼしている(Blanc et al., 2020, rAAV-Mediated Cochlear Gene Therapy: Prospects and Challenges for Clinical Application. J. Clin Med. 9(2), 589)。 感音性難聴(SNHL)は、有毛細胞(HC)、らせん神経節ニューロン(SGN)、支持細胞、蓋膜および血管条などの内耳の構造の機能不全または変性によって引き起こされる。特に、HC(コルチ器に存在する内側および外側HC)およびSGNは、どちらも蝸牛の感覚上皮の一部であり、機械的振動から神経インパルスへの音響刺激の伝達および後者の脳の一次聴覚野への伝達において重要な役割を果たす。
【0003】
SNHLの現在の処置選択肢は、医療機器の使用に限定されている。これらは、物理機械的な音の増幅(補聴器)またはSGNの直接刺激(人工内耳)に基づいている。これらの処置選択肢は大部分の患者に利益をもたらすが、脳への信号伝達に関連する細胞タイプが損傷または変性しすぎている場合にはその使用が制限されるため、すべての患者に適用できるわけではない。さらに、補聴器および人工内耳では、影響を受けていない人に匹敵する聴力の質は得られず、人工内耳で達成される解決は、多くの場合最適以下にすぎない(Blanc et al., 2020)。SNHL症例の大部分は遺伝子異常によるものであるため、内耳の関連細胞型に欠損遺伝子のインタクトなコピーを提供する遺伝子治療は、現在の処置選択肢に代わる非常に魅力的な代替手段であり、場合によっては唯一の処置選択肢である。さらに、遺伝的保護は、薬物誘導性、例えば化学療法剤誘導性または抗生物質誘導性の聴器毒性によって引き起こされるものなどの後天性形態のSNHLの発生を防御または予防するための適切な手段であってもよい。細胞型特異的なタンパク質の発現は、細胞特異的なプロモーター、特定のウイルスサブタイプ、または両方の組み合わせを使用することによって達成されてもよい。
【0004】
現在、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルパー依存性ウイルスおよびレトロウイルスに由来するベクターが、蝸牛への標的遺伝子送達について試験されている(Izumikawa et al., 2005, Auditory hair cell replacement and hearing improvement by Atoh1 gene therapy in deaf mammals. Nature Medicine 11(3), 271-276, Tao et al., 2018, Delivery of Adeno-Associated Virus Vectors in Adult Mammalian Inner-Ear Cell Subtypes Without Auditory Dys-function. Human Gene Therapy 29(4), 492-506, Blanc et al., 2020)。特に、内耳へのマーカーおよび治療遺伝子のインビボ送達成功の最初の概念実証は、AAVベクター技術によって提供され、ATOH1を発現するアデノウイルスベクターを使用した初のヒト内耳遺伝子治療臨床試験が開始されている。内耳は内リンパおよび外リンパで満たされた密閉された器官系であるため、ベクター粒子の注入時に局所的に制限され、他の組織への拡散が予想されず、投与時にベクターがこの液体内に分布することが可能になり、それは遺伝子治療の標的として非常に適しているようである。さらに、処置される細胞の数が比較的少ないため、最小限のベクター量で大きな効果が得られることが期待される。それにもかかわらず、AAVおよびアデノウイルスベクターシステムは、制限されたコード容量(5kb未満)という制限に直面している。これは、SNHLで変異すると同定されたいくつかの遺伝子にとって小さすぎる (Dong et al., 1996, Quantitative Analysis of the Packaging Capacity of Recombinant Adeno-Associated Virus. Hu-man Gene Therapy 7, 2101-2112)。
【0005】
代替策として、科学者たちはレンチウイルスベクターに注目しており、これはすでに内耳関連以外の病気(免疫不全など)の臨床現場で十分に応用され、成功を収めている(Milone and O’Doherty, 2018, Clinical use of lentiviral vectors. Leukemia 32, 1529-1542)。レンチウイルスベクターは、インビトロおよびインビボでさまざまな細胞型への効率的な遺伝子送達を仲介することができ、10kb以上のカーゴ容量の増加から利益を得ることができる (Kumar et al., 2001, Systematic Determination of the Packaging Limit of Lentiviral Vectors. Human Gene Threapy 12, 1893-1905)。レンチウイルスは、非分裂細胞に形質導入する能力があるため、潜在的な遺伝子ベクターとしてさらに注目されるようになった(Schambach et al., 2013, Biosafety Fea-tures of Lentiviral Vectors, Human Gene Therapy)。
【0006】
Hashimotoらは、MYO7A遺伝子にヌル変異を持つshaker1マウスモデルにおいて、レンチウイルスベクターをアッシャー症候群の視覚症状の処置に使用してもよいことを実証した。アッシュアー症候群は、ヒトに難聴と視覚障害の組み合わせを引き起こす稀な遺伝性疾患であり、少なくとも11個の遺伝子のいずれか1つにおける突然変異によって発生する可能性があり、その中にはMYO7Aも含まれる。MYO7A欠損マウスは聴覚障害があり、網膜色素上皮(RPE)におけるメラノソームの局在化および運動性に欠陥があり、光受容細胞の繊毛に過剰なオプシンを示す。この研究の著者らは、HIV-1由来水疱性口内炎ウイルス(VSV)-G偽型の第3世代レンチウイルスベクターを使用して、全長ヒトMYO7AのcDNAをRPE細胞および光受容体細胞に送達することに成功した。当時、著者らは、少なくとも600bpのプロモーター配列に結合した6962bpのMYO7AcDNAが、網膜でウイルスベクターによってこれまでに発現された最大の導入遺伝子を構成していると主張した。この研究は、レンチウイルスベクターが目的の特定の細胞に大きな遺伝子を送達するのに適しているという原理の証明として役立った。しかしながら、この研究では、これらのレンチウイルスベクターが内耳の細胞にもうまく送達できるかどうかという問題には触れていない(Hashimoto et al., 2007, Lentiviral gene replace-ment therapy of retinas in a mouse model for Usher syndrome type 1B. Gene Therapy)。
【0007】
実際、内耳の感覚細胞へのレンチウイルスベクターの送達の成功は、アクセスできない場所および内耳の体液から血管系を隔てる血液迷路関門のために、これまでのところ克服できない課題となっている。
【0008】
1999年、Hanらは、蝸牛内灌流を介してモルモットの内耳の細胞に第2世代のHIVベースのGFP発現VSV-G偽型レンチウイルスベクターを送達することを試みた。これらのレンチウイルスベクター-GFP注入動物の蝸牛切片の分析により、ベクターが注入された外リンパ腔の周縁に隣接する細胞およびらせん靱帯の蛍光が明らかになり、蝸牛の基部から頂点まで強度が減少しながら蛍光が広がっていることが明らかになった。しかしながら重要なことは、感覚有毛細胞を含むコルチ器とらせん輪部にはGFPがまったく含まれていなかったことである。著者らは、蝸牛外植片をレンチウイルスベクター-GFPでインビトロ感染させた場合にのみ、らせん神経節神経、グリア細胞、および感覚有毛細胞を取り囲む支持細胞の形質導入を観察した。それにもかかわらず、感覚内耳細胞自体の形質導入は検出されなかった (Han et al., 1999, Transgene Expression in the Guinea Pig Cochlea Mediated by a Lentivirus-Derived Gene Transfer Vector. Human Gene Therapy)。
【発明の概要】
【0009】
同様に、Pietolaらは正円窓膜(RMW)を介して、第2世代の自己不活化型VSV-G偽型およびGFP発現レンチウイルスベクターをマウスの内耳に注射し、前庭階および鼓室階周囲の上皮細胞の蛍光を観察した。ここでも、コルチ器および蓋膜ではGFP発現は観察されなかった(Pietola et al., 2009, HOX-GFP and WOX-GFP lentivirus vectors for inner ear gene trans-fer. Acta Oto-Laryngologica)。
【0010】
Yan Weiらは、ラットの耳介後経路を介して蝸牛瘻造設術を介してEGFP発現レンチウイルスベクターを導入する実現可能性を試験した。著者らは、この送達戦略を使用して、血管条、コルチ器、らせん神経およびらせん神経節細胞の辺縁細胞におけるEGFP蛍光を初めて観察した。しかしながら、コルチ器内に位置する感覚有毛細胞のトランスフェクションの成功は報告されていない。実際、蝸牛瘻造設術を介した中央階への注射は、注射部位の外有毛細胞の喪失をもたらし、試験したラットの聴覚機能を著しく損なった(Yan Wei et al., 2013, Effect of lentiviruses carrying enhanced green fluorescent protein injected into the scala media through a cochleostomy in rats)。
【0011】
Panらは、ATOH1-eGFP導入遺伝子をカーゴとして保有するVSV-Gで偽型化された第3世代の自己不活化レンチウイルスベクターを、ラットの蝸牛正円窓を通して注入した。処置から30日後のミオシン7A陽性内耳細胞におけるeGFPシグナルを示す蛍光顕微鏡画像に基づいて、著者らは、ベクターが処置されたラットの蝸牛の毛と支持細胞の両方に感染することに成功したと結論付けた。さらに、開示されたレンチウイルスベクターによる遺伝子導入は、支持細胞の有毛細胞への部分分化をもたらしたことが示唆された(Pan et al., 2013, Lentivirus carrying the Atoh1 gene infects normal rat coch-lea. Neural Regen Res. 8(17), 1551-1559)。しかしながら、著者らは遺伝子導入効率に関する情報またはデータを提供していない。さらに、この研究で提示されたデータは内耳サンプルの選択されたセクションのみからのものであり、完全な内耳の全マウントは示されていない。したがって、報告されている形質導入の効率を適切に評価することはできない。また、著者らは、レンチウイルスベクター上清に使用された緩衝系に関する仕様を一切提供していない。
【0012】
まとめると、上記の研究で決定された内耳細胞タイプの形質導入率は、SNHLに対する遺伝子治療にレンチウイルスベクター技術を推奨するには十分ではなかった。内耳遺伝子治療におけるAAVベクター技術の使用は有望な結果をもたらしたが、レンチウイルスベクターに関する対応するデータの欠如により、これまで臨床試験でのテストが防がれてきた。したがって、先行技術文献は、蝸牛の感覚上皮の細胞、特に内有毛細胞と外有毛細胞の両方に確実に形質導入することができ、したがってSNHLの症状の処置のためのヒトの遺伝子治療において使用されてもよいレンチウイルスベクターシステムを教示していない。この問題は、本発明によって、特に特許請求の範囲の主題によって解決される。
【0013】
本発明は、対象における感音性難聴の処置における使用のための組成物を提供し、該組成物は、内耳の細胞で発現される受容体に結合することができるウイルスエンベロープ糖タンパク質で偽型化された第3世代レンチウイルスベクターを含み、該組成物は、少なくとも107TU/mLの力価を有し、対象の内耳に投与される。
【0014】
内耳は脊椎動物の耳の最も内側の部分を指し、音の検出および平衡感覚を担当する。哺乳類の内耳は、聴覚に必要な蝸牛および平衡感覚を司る前庭系を含む骨迷路からなる(図9参照)。蝸牛は、流体で満たされた3つの区画または鱗を含む、らせん状またはカタツムリ状の構造である。前庭階(前庭管)はNa+に富む外リンパおよびK+に乏しい外リンパで満たされており、楕円窓で終わる。鼓室階(鼓室管)も外リンパで満たされており、正円窓に隣接している。前庭階と鼓室階の間には、中央階(蝸牛管)がある。それは、Na+が少なく、K+が多い内リンパを含有する。中央階の外壁を形成する血管条は、濃度勾配に逆らってNa+およびK+を送り出し、蝸牛内電位として知られる内リンパと外リンパの間に電位を生成する。さらに、中央階は、中央階を鼓室階から隔てる基底膜の上に位置するコルチ器を含有する。コルチ器は、内有毛細胞および外有毛細胞として知られる機械感覚上皮細胞のほか、コルチ桿体およびさまざまな支持細胞からなる(Morgan et al., 2020, Gene therapy as a possible option to treat hereditary hearing loss. Medizinische Genetik)。
【0015】
音波が外耳に到達すると、空気圧が鼓膜(鼓膜)を押し、3つの小骨の槌骨、きぬた骨、あぶみ骨の機械的な動きを誘導し、その結果、振動が卵円窓に伝わる。楕円形の膜に加えられる圧力は、蝸牛内の外リンパおよび内リンパの動きを引き起こす。これらの内耳液の動きにより基底膜が曲がり、有毛細胞の上にある複数の不動毛が偏向する。その結果、機械的にゲートされたK+チャネルが開いて小さな陽イオンが侵入できるようになり、それによって有毛細胞の脱分極が引き起こされる。有毛細胞はその後、らせん神経節ニューロン(SGN)の受容体に結合する神経伝達物質を放出する。次に、SGNは蝸牛神経を介して脳に活動電位を発火させる (Morgan et al., 2020, Gene therapy as a possible option to treat hereditary hearing loss. Medizinische Genetik)。
【0016】
感音性難聴(SNHL)は、内耳、特に蝸牛または前庭蝸牛神経の欠陥に関連する難聴の一種である。SNHLは後天性の場合もあれば、遺伝的原因に起因する場合もある。最近の推定では、全SNHL症例の約80%が遺伝的要因により発生し、環境的原因によるものはわずか20%であることが示唆されている(Blanc et al., 2020)。500を超える症候性および非症候性の遺伝子座が、難聴の素因と関連していることが報告されている(ACMG Working Group on Update of Genetics Evaluation Guidelines for the Etiologic Diagnosis of Congenital Hearing Loss; for the Profession-al Practice and Guidelines Committee, 2014, American College of Medical Genetics and Ge-nomics guideline for the clinical evaluation and etiologic diagnosis of hearing loss. Genetics in Medicine 16, 347-355)。先進国で最も一般的な先天性難聴は、ギャップ結合ベータ2タンパク質(GJB2)をコードする遺伝子の変異から生じるコネキシン26難聴(GJB2関連難聴としても知られる)である (Cabanillas et al., 2018, Comprehensive ge-nomic diagnosis of non-syndromic and syndromic hereditary loss in Spanish patients. BMC Medical Genomics 11, 58)。他の症候群型の聴覚障害は、スティックラー症候群、ワールデンブルグ症候群、ペンドレッド症候群、または前述のアッシャー症候群を含む。風疹ウイルス、サイトメガロウイルス、またはトキソプラズマ・ゴンディの感染によって、先天性難聴が、発生してもよい。さらに、高齢化のプロセスは、特に工業化社会において、SNHLに大きく寄与することができる。加齢に伴う難聴または老人性難聴は、蝸牛または内耳または聴神経の関連構造の変性によって引き起こされ、遺伝的要因と環境的要因の組み合わせによって発生する。難聴を誘導する主な環境刺激は、継続的に大きな騒音にさらされることであり、これにより内耳の聴覚の感覚器官および神経器官が徐々に損傷を受ける。聴覚を損なってもよいその他の環境要因は、癌化学療法およびアミノグリコシド系抗生物質などの聴器毒性薬の使用を含む。
【0017】
本発明の組成物は、遺伝的原因から生じたSNHLを効果的に処置するために使用されてもよい。本発明の組成物で処置される難聴は、例えば、MYO7A、GJB2、OTOF、ATOH1、SLC26A4、TMC1、TMPRSS3、GIPC3、USH1C、RDX、CLDN14、WHRN、ESPN、ILDR1、SERPINB6、KCNQ4、POU4F3、SIX1、CCDC50、MIR96、POU3F4、EYA1、KCNQ1、GJB6、STRC、TECTA、GJB3、PRPS1、CDH23、GRXCR2、CABP2、GRXCR1、SYNE4、COL11A2、LRTOMT、BSND、PJVK、CIB2、CEACAM16、TMIE、NARS2、LHFPL5、MARVELD2、SLC22A4、KARS、SLC26A5、TPRN、ELMOD3、GPSM2、COCH、ESRRB、ADCY1、EPS8L2、CD164、OTOA、S1PR2、LOXHD1、TSPEAR、EPS8、CDC14A、MSRB3、DCDC2、PNPT1、TMEM132E、FAM65B、MYO3A、CLIC5、HGF、USH2A、TBC1D24、MET、PCDH15、PTPRQ、OTOGL、MYO6、TNC、TRIOBP、BDP1、MYO15A、DIAPH1、MYH14、DFNA5、WFS1、EYA4、COL11A2、MYH9、ACTG1、SLC17A8、GRHL2、DSPP、P2RX2、MYO1A、GFI1、TYMPおよびGFI1Bを含む群から選択される遺伝子における突然変異によって引き起こされてもよい。したがって、本発明の組成物は、遺伝的に誘導された形態の難聴を患っている対象の少なくとも症状を効果的に改善し、さらには除去するのに適していてもよく、例えば、遺伝性難聴を患っていない健康な対象と同様のレベルに聴力を回復させてもよい。いくつかの実施形態において、組成物は、SNHLに関連する症状を改善または除去することはできないかもしれないが、少なくとも疾患の進行を有意に遅らせるか、さらには終結させることができる、すなわち、症状は時間が経っても悪化しない。
【0018】
本発明の組成物はまた、ハプロ不全または複合ヘテロ接合性変異を有する患者における難聴を処置または予防するために使用してもよい。
【0019】
しかしながら、本発明の組成物は、非遺伝性難聴、例えば難聴を患っている対象の少なくとも症状を、例えば騒音または聴器毒性のある薬物への曝露により損傷した有毛細胞または聴覚ニューロンの再生を刺激することによって、効果的に改善または完全に除去してもよい。あるいは、それは、病気の進行を少なくとも大幅に遅らせるかまたは進行を止めてもよい。組成物はまた、例えば、聴器毒性薬(例えば、利尿薬、非ステロイド性抗炎症薬、抗生物質、化学療法薬またはキニーネ)などの有害物質またはノイズから内耳の細胞を保護することによって、対象における感音性難聴を予防するのに使用するためのものであってもよい。予防は、将来起こり得る感音性難聴または感音性難聴を発症することの重症度を軽減することを含む。この組成物はまた、かかる有害物質によって損傷を受けた内耳細胞の生存を高めることにおける使用のためのものであってもよい。したがって、本発明の組成物は、例えば、BDNF、GDNF、NT-3、IGF1、IGF2、CNTF、ARTN、NRTN、ATP7B、MRP1、MRP2およびMDR1を含む群から選択される1つまたは複数の遺伝子の送達による、非遺伝的に誘導される難聴から保護することにおける使用のためのものであってもよい。特に、BDNF、GDNF、NT-3、IGF1、IGF2、CNTF、ARTN、および/またはNRTNは、再生を刺激するか生存率を高めてもよい。ATP7B、MRP1、MRP2、およびMDR1は、耳毒性薬による治療時の内耳細胞の損傷を予防してもよい。
【0020】
本発明は同様に、本発明による組成物の有効量を対象に投与する工程を含む、感音性難聴の処置または予防を必要とする対象において感音性難聴を処置または予防する方法を提供する。
【0021】
本発明の組成物は、第3世代レンチウイルスベクターを含む。「レンチウイルス」という用語は、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、シミアン免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、または馬伝染性貧血ウイルス(EIAV)を含むレトロウイルスの属を指す。他のレトロウイルスのゲノムと同様、レンチウイルスのゲノムは1本鎖(ss)ポジティブセンスRNAからなる。複製中に、レンチウイルスssRNAゲノムは、逆転写として知られるプロセスによって二本鎖(ds)DNAに変換される。逆転写されたレンチウイルスdsDNAは、その後宿主細胞のゲノムに組み込まれ、次に、組み込まれたレンチウイルス遺伝子を自身の遺伝子とともに複製および転写して、新しいウイルス粒子を生成する。
【0022】
したがって、本発明によるレンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、またはEIAVを含む群から選択されるレンチウイルスに由来してもよい。好ましい実施形態において、レンチウイルスベクターはHIV-1に由来する。
【0023】
HIV-1などのレンチウイルスのゲノムは、gag、pol、envという3つの主要な構造遺伝子を含む。gagはウイルスマトリックス(MA)、カプシド(CA)、およびヌクレオカプシド(NC)をコードしており、これらは集合的にウイルス粒子の集合および放出を促進する。pol遺伝子は、ウイルスの複製を制御するウイルス酵素プロテアーゼ(PR)、逆転写酵素(RT)、およびインテグラーゼ(IN)をコードする。HIV-1envはウイルス表面糖タンパク質gp160をコードしており、これはその後ウイルスの成熟中に切断されて表面タンパク質gp120および膜貫通タンパク質gp41を形成する。構造遺伝子gag、polおよびenvに加えて、HIV-1ゲノムはさらに2つの制御遺伝子tatおよびrev、ならびに4つのアクセサリー遺伝子vif、vpr、vpuおよびnefを含む。tatはウイルス転写に必要なトランスアクチベーターをコードするのに対し、revはウイルス転写物のスプライシングと輸出の両方を制御するタンパク質をコードする。4つのアクセサリー遺伝子はウイルス複製に必須ではないと考えられているが、ウイルス複製の効率を高めると考えられる (German Advisory Committee Blood (Arbeitskreis Blut), Subgroup ’Assessment of Pathogens Transmissible by Blood’, 2016, Human Immunodeficiency Virus (HIV). Transfus Med Hemother. 43(3), 203-222)。
【0024】
1996年に、Naldiniらは、インビボ遺伝子送達と非分裂細胞の安定した形質導入のためのHIVベースのベクターの使用を報告した (Naldini et al., 1996, In vivo gene delivery and stable trans-duction of nondividing cells by a lentiviral vector. Science 272(5259). 263-267)。 しかしながら、HIV-1由来のレンチウイルスベクターをインビボ遺伝子導入に使用すると、かなりの健康リスクが伴った。これらの生物学的安全性の懸念に応えるために、第1世代のレンチウイルスベクターシステムは、ウイルスゲノムを3つの別々のプラスミドに分割し、複製能力のあるウイルスの形成を回避した。最初のプラスミドは、宿主細胞のゲノムに組み込まれる実際のベクターをコードしていた。これは、適切なプロモーター配列に機能的に結合した目的の導入遺伝子と、ポリアデニル化、組み込み、逆転写の開始およびパッケージングに必要なシス要素(例えば、長末端反復配列、パッケージングシグナル、プライマー結合部位、ポリプリントラクトまたはRev応答要素)を含んでいた。パッケージングプラスミドとして知られる第2のプラスミドは、パッケージング、逆転写、ウイルスゲノムの組み込みに寄与するウイルスタンパク質をコードする遺伝子、すなわちgag、pol、調節遺伝子tatおよびrev、ならびに4つのアクセサリー遺伝子vif、vpu、vprおよびnefを含んでいた。第3のプラスミド(Envプラスミド)は、宿主細胞受容体結合のためのウイルス糖タンパク質を発現した。パッケージング遺伝子がウイルスゲノムの残りの部分から物理的に分離されているため、この分割ゲノム設計により、宿主細胞の感染後のウイルスの複製が予防された。
【0025】
レンチウイルスベクターの安全性をさらに向上させるために、重要な病原性因子を構成することが判明したすべてのアクセサリー遺伝子をパッケージングプラスミドから除去することにより、第2世代システムが確立された。
【0026】
第3世代のレンチウイルスベクターシステムを用いて、いわゆる自己不活化(SIN)ベクターが導入された。レンチウイルスベクターが宿主細胞のゲノムに組み込まれる場合、目的の遺伝子を含むプロウイルスの導入遺伝子カセットは、2つの長い末端反復配列(LTR)に隣接する。これらのLTRの存在は、潜在的に有害な複製能を有する組換え体の出現を促進してもよい。さらに、LTRに位置するウイルスのプロモーター/エンハンサー領域は、隣接する宿主遺伝子の発現を誘導し、腫瘍形成を引き起こしてもよい。さらに、これらのLTRのプロモーター/エンハンサー領域は、導入遺伝子や隣接遺伝子を駆動するプロモーターに転写を干渉する可能性がある。したがって、ウイルスRNAの生成に使用されたDNAからLTR(U3)内の特定の領域を欠失させることにより、ウイルス3’LTRのプロモーター/エンハンサー配列が除去された。U3領域の欠失により、LTRの転写活性が効果的に消失した。さらに、ウイルス転写を駆動する調節遺伝子であるtatはパッケージングプラスミドから欠失したが、第2の調節遺伝子revは別の別の第4のプラスミドから提供された (Zufferey et al., 1998, Self-Inactivating Len-tivirus Vector for Safe and Efficient in Vivo Gene Delivery. J Virol 72(12), 9873-9880; Scham-bach et al., 2013, Biosafety Features of Lentiviral Vectors. Human Gene Therapy 24, 132-142)。ウイルスゲノムmRNAを駆動する5’プロモーターがHIV由来ではなく、CMVまたはRSVプロモーターで置換されている場合、余分なtatプラスミドは省略できる。
【0027】
したがって、本発明によるレンチウイルスベクターは、分割パッケージング設計により複製不能であり、3’LTRのU3領域の欠失により自己不活化(SIN)する。さらに、それは、遺伝子vif、vpr、vpu、nef、および所望によりtatも欠如している。
【0028】
したがって、本発明によるレンチウイルスベクターは以下の特徴を含む:
a)U3位置に構成的に活性な異種プロモーター、反復領域(R)およびU5領域を含む5’LTR、
b)プライマー結合部位(PBS)、スプライスドナー部位(SD)、パッケージングシグナル(ψ)、Rev応答要素、および所望によりスプライスアクセプター(SA)部位を含む5’UTR、
c)カーゴ配列に作動可能に連結された内部エンハンサー/プロモーター領域、
d)所望によりウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(PRE)を含むRNAプロセシング要素、および
e)欠失された(SIN)U3領域、反復領域(R)およびU5領域を有する3’LTR。
【0029】
スプライスアクセプター部位は選択肢である。スプライスドナー部位は重要であるが、それを欠いているベクターは機能的である。ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(PRE)などのRNAプロセシング要素の存在は効率に寄与し、それらを持たないベクターは通常、高力価で生成されない。しかしながら、それらは濃縮されることはできる。
【0030】
適切な第3世代レンチウイルスベクターは、例えば当技術分野で知られており、および/または当業者によって調製することができる。本発明で使用することができる例示的なレンチウイルスベクターは、配列番号1の核酸配列を含む。レンチウイルスベクターはまた、配列番号1に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列を含んでもよい。また、それは、配列番号1からなってもよい。あるいは、レンチウイルス本発明によるベクターは、配列番号1とは異なるプロモーター領域、例えば、本明細書に教示される別の適切なプロモーターを含んでもよい。
【0031】
所望により、レンチウイルスベクターの5’LTRのU3位置にあるウイルスエンハンサー/プロモーター領域を異種プロモーターで置換して、ゲノムRNAの発現を増強し、レンチウイルスTatタンパク質の損失を補ってもよい。したがって、異種プロモーターは、好ましくは強力なプロモーター、すなわち、その制御下で遺伝子の構成的発現を駆動する。それは、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、HIVプロモーター(HIV-1またはHIV-2に由来しないレンチウイルスベクターが使用される場合)、または例えば、EF1a、PGK1、UBC、またはヒトβアクチンなどの真核生物プロモーターを含む群から選択されてもよい。また、それは、特定の刺激の存在下または非存在下、特にベクターの発現がパッケージング細胞にとって有毒である場合にのみ遺伝子発現を駆動する誘導性プロモーターであってもよい。それは、例えば、Tet制御プロモーターであってもよい、すなわちそれは、テトラサイクリンまたはその類似体、例えばドキシサイクリンの存在下でテトラサイクリントランスアクチベーター(tTA)タンパク質によって結合され得るテトラサイクリン応答要素(TRE)を含んでもよい。好ましくは、異種プロモーターは、RSVまたはCMVに由来する構成的に活性なプロモーターである。
【0032】
5’UTRパッケージングシグナル(ψ)は、組み立てるGagタンパク質のヌクレオカプシド(NC)と相互作用して、パッケージングを仲介する。さらに、最適なパッケージングには、トランス活性化応答要素(TAR)、U5、プライマー結合部位(PBS)、および群特異的抗原(Gag)が必要である。Revタンパク質は、Rev応答要素(RRE)を含むRNAのカプシド形成をさらに強化する。また、RREはウイルスゲノムのより高い発現を可能にし、異常なスプライス事象を抑制してもよい(Schambach et al., 2013)。5’UTRは、所望により、複数のスプライス部位をさらに含んでもよい。特に、レンチウイルスベクターは、5’UTRスプライスドナー(SD)部位、および所望によりスプライスアクセプター部位(SA)を含んでもよい。任意の実施形態において、5’UTRは、好ましくはRREの下流に、ポリプリントラクト(PPT)領域をさらに含んでもよい。PPT領域は逆転写の効率を高め、宿主細胞への侵入時にウイルス粒子のコーティングを剥がした後に形成されるレンチウイルス組み込み前複合体の核侵入を媒介しさえしてもよいと考えられている(Schambach et al.,2013)。
【0033】
内部プロモーター/エンハンサー領域は、好ましくは強力なプロモーターである、すなわち、その制御下でカーゴ配列の構成的発現を駆動する。それは、ウイルスプロモーター、細胞プロモーター、細胞特異的プロモーター、誘導性プロモーター、または合成プロモーターを含む群から選択されるプロモーターであってもよい。
【0034】
それは、例えば、CMV、脾臓病巣形成ウイルス(SFFV)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)、マウス胚性幹細胞ウイルス(MESV)、マウス白血病ウイルス(MLV)およびシミアンウイルス40(SV40)由来のプロモーターを含む群から選択されるウイルスプロモーターであってもよい。好ましくは、内部プロモーターはCMVまたはSFFVに由来するプロモーターであり、最も好ましくはCMVに由来するプロモーターである。別の好ましい実施形態において、プロモーターは、CAGプロモーター、すなわち、ニワトリβ-アクチンプロモーターおよびウサギβ-グロビンスプライスアクセプター部位に融合されたCMVエンハンサーからなる複合構築物であってもよい。あるいは、内部プロモーター/エンハンサー領域は、EF1a、PGK1およびUBCを含む群から選択される細胞プロモーターであってもよい。それはまた、細胞特異的な様式でカーゴ配列の発現を可能にするプロモーターであってもよい。それは、例えば、POU4F3、POU3F4、ATOH1、プレスチン、ペンドリンおよびMYO7Aを含む群から選択される有毛細胞特異的プロモーターまたは例えばMAP1B、SYNおよびNSEを含む群から選択されるSGN特異的プロモーターであってもよい。
【0035】
内部プロモーター/エンハンサーは、特にカーゴ配列の発現が細胞毒性を引き起こしてもよい場合には、誘導性プロモーターであってもよい。したがって、プロモーターは、TET誘導性プロモーター、Cumate誘導性プロモーター、電気感受性プロモーターおよび光遺伝学的スイッチを含む群から選択されてもよい。電気感受性プロモーターまたは光遺伝学的スイッチは、カーゴ配列の発現が蝸牛インプラントによって制御される場合に特に有用であってもよい。
【0036】
内部プロモーター/エンハンサー領域はまた、CAGおよびMNDを含む群から選択されるハイブリッドまたは合成プロモーターであってもよい。ハイブリッドプロモーターは、異なるプロモーター/エンハンサーからのいくつかの制御要素で構成され、これらが結合されて、目的の特徴を組み合わせた新しいプロモーターを構築する。対照的に、合成プロモーターは本質的に、最小限のプロモーターに融合された一連の転写因子結合部位からなる。カーゴ配列発現を駆動するために使用される好ましいハイブリッドプロモーターはCAGである。
【0037】
最後に、内部エンハンサー/プロモーター領域は、クロマチン開口要素、つまり、ハウスキーピング遺伝子プロモーターを包含するか、または再現可能で安定した導入遺伝子発現を与えるために異種プロモーターに作動可能に連結されたメチル化のないCpGアイランドからなるDNA配列を含んでもよい。
【0038】
本発明によるレンチウイルスベクターの3’UTRは、RNAプロセシング要素、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(PRE)を含んでもよい。PREはカーゴ配列の発現を最大10倍増強してもよく、高いウイルス力価に寄与する。また、mRNAの安定性および翻訳効率も向上し、隣接する細胞配列へのリードスルー転写が減少する (Schambach et al., 2013)。
【0039】
リードスルー転写をさらに予防するために、レンチウイルスベクターの3’末端は、3’末端のプロセシングおよび転写終結を改善するために3’U3領域に挿入できる上流配列要素(USE)を含んでもよい。好ましくは、USEは、SV40に由来するUSEの組換え直接反復である(2xSVUSE)。3’UTRは、所望により、ベクターmRNAの転写後ターゲティングを可能にするために、分化特異的細胞miRNAの標的部位をさらに含んでもよい。
【0040】
レンチウイルスベクターが宿主細胞の遺伝子内またはその隣にランダムまたは半ランダムに組み込まれると、ベクターは遺伝子の発現を調節不全にする突然変異原として作用してもよい。したがって、任意の実施形態において、レンチウイルスベクターの3’LTR内のU3領域の欠失によって生じた空間は、絶縁体配列を含んでもよい。絶縁体配列は調節因子遺伝子領域間の障壁を構成し、したがって隣接する癌原遺伝子、すなわち誤った発現が腫瘍形成を引き起こしてもよい細胞遺伝子のベクターによる調節不全を予防してもよい(Schambach et al., 2013)。
【0041】
本発明による組成物の生物学的安全性をさらに高めるために、Gag-Polをコードするパッケージングプラスミドは、インテグラーゼタンパク質をコードするpol領域に阻害性突然変異を含み、レンチウイルスベクターを組込み欠損にするように設計されてもよい。突然変異の可能性により、インテグラーゼ酵素の触媒コアにあるアミノ酸残基の3つ組(D64、D116、E152など)が変化してもよい。あるいは、アミノ酸の変化をインテグラーゼDNA結合部位に導入してもよい。ベクターの5’LTRU3領域の12塩基対(bp)領域または3’LTRU5領域の11bp領域内のヌクレオチドを変異させることによって行われる(Shaw and Cornetta, 2014, Design and Potential of Non-Integrating Lentiviral Vectors. Biomedi-cines 2(1), 14-35)。したがって、任意の実施形態において、本発明によるレンチウイルスベクターは、非組み込みレンチウイルスベクターである。
【0042】
本発明による使用のための組成物のレンチウイルスベクターは、カーゴ配列をさらに含み、内耳の細胞における該カーゴ配列の発現は、対象において内耳の感音性難聴の少なくとも症状を軽減、除去、または予防することができる。カーゴ配列は内部プロモーター/エンハンサー領域に作動可能に連結されている。それは、タンパク質コード遺伝子、miRNA、shRNA、またはlncRNAを含む群から選択される核酸を含む。
【0043】
好ましくは、カーゴ配列はタンパク質コード遺伝子であり、該遺伝子の減少したまたは誤った発現は、対象における感音性難聴の発症に関連する。したがって、カーゴ配列は、突然変異した場合にSNHLを駆動することが知られている任意の遺伝子のインタクトなコピーであってもよい。それは、例えば、MYO7A、GJB2、OTOF、ATOH1、SLC26A4、TMC1、TMPRSS3、GIPC3、USH1C、RDX、CLDN14、WHRN、ESPN、ILDR1、SERPINB6、KCNQ4、POU4F3、SIX1、CCDC50、MIR96、POU3F4、EYA1、KCNQ1、GJB6、STRC、TECTA、GJB3、PRPS1、CDH23、GRXCR2、CABP2、GRXCR1、SYNE4、COL11A2、LRTOMT、BSND、PJVK、CIB2、CEACAM16、TMIE、NARS2、LHFPL5、MARVELD2、SLC22A4、KARS、SLC26A5、TPRN、ELMOD3、GPSM2、COCH、ESRRB、ADCY1、EPS8L2、CD164、OTOA、S1PR2、LOXHD1、TSPEAR、EPS8、CDC14A、MSRB3、DCDC2、PNPT1、TMEM132E、FAM65B、MYO3A、CLIC5、HGF、USH2A、TBC1D24、MET、PCDH15、PTPRQ、OTOGL、MYO6、TNC、TRIOBP、BDP1、MYO15A、DIAPH1、MYH14、DFNA5、WFS1、EYA4、COL11A2、MYH9、ACTG1、SLC17A8、GRHL2、DSPP、P2RX2、MYO1A、GFI1、TYMP、またはGFI1Bなどの遺伝子であってもよい。
【0044】
遺伝子は、例えば、所定の細胞から聴覚に必要な細胞への分化転換を誘導する転写因子、またはいくつかの異なる転写因子の組み合わせであってもよい。例えば、内耳における1つ以上の転写因子の発現は、コルチ器内のグリア細胞の聴覚ニューロンへの分化を誘導してもよい。あるいは、例えばAtoh1、Gfi1、Pou4f3またはPou3f4などの1つまたは複数の転写因子の発現は、非感覚聴覚上皮細胞の新しい機能的有毛細胞への分化を誘導してもよい。同様に、転写因子Sox2、NeuroG1、またはNeuroD1の発現により、細胞のSGNへの分化が促進されてもよい。この目的のために、本発明の組成物は、成長因子、例えば、BDNF、GDNF、NT3、IGFなどの神経栄養因子をさらに含んでもよい。あるいは、カーゴ配列は該成長因子をコードしてもよい。
【0045】
特定の状況下では、例えば細胞毒性の発生により、一定時間後にカーゴ配列によってコードされる翻訳されたタンパク質を不活化することが有益であってもよい。したがって、コード配列は、不安定な分解または不安定化ドメインをさらにコードするように設計されてもよい。カーゴ配列は、例えば、目的のタンパク質に融合された急速に分解可能な大腸菌由来のジヒドロ葉酸レダクターゼ(ecDHFR)ドメインをコードしてもよい。ecDHFRドメインは、低分子抗生物質リガンドであるトリメトプリム(TMP)によって、可逆的かつ用量依存的に安定化できる。形質導入細胞からTMPを差し控えると、ecDHFRドメインの不安定性が目的の融合タンパク質に与えられ、融合タンパク質全体の急速な分解が引き起こされる(Iwamoto et al., 2010, A general chemical method to regulate protein stability in the mammalian central nervous system. Chem Biol. 17(9), 981-988)。 当業者は、他の不安定化ドメイン、例えば、過去に操作されており(例えば、DHFR、FRB、またはFKBP12に由来)、そしてカーゴ配列によってコードされるタンパク質の安定性を制御するために同様に使用されてもよいものを選択してもよい(Levy et al., 1999, Analysis of a conditional degradation signal in yeast and mammalian cells. Eur J Biochem. 259(1-2), 244-252; Stankunas et al., 2003, Conditional protein alleles using knockin mice and a chemical inducer of dimerization. Mol Cell. 12(6), 1615-1624)。
【0046】
カーゴ配列は、好ましくは、対象遺伝子から転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)からの逆転写を介して生成され、対象遺伝子に通常存在するイントロンを欠く相補的DNA(cDNA)である。あるいは、それは、カーゴ配列の長さがレンチウイルスベクターのパッケージング限界を超えないという条件で、イントロンおよび所望により調節領域を含む目的の完全な遺伝子であってもよい。あるいは、カーゴ配列は、合成的に操作されてもよく、例えば、対象における目的の遺伝子の効率的な発現を確実にするためにコドン最適化されてもよく、例えば、ヒト細胞での発現のためにコドン最適化されてもよい。カーゴ配列は、所望により、内部リボソーム侵入部位(IRES)、すなわち、5’キャップの非存在下でmRNA翻訳を媒介し、単一プロモーターの制御下で複数の遺伝子の共発現を可能にするRNA要素をさらに含んでもよい。
【0047】
別の実施形態において、カーゴ配列は、マイクロRNA、短いヘアピンRNA、または長い非コードRNAを含む群から選択される調節RNAに転写されてもよい。好ましくは、カーゴ配列は、マイクロRNA(miRNA)、すなわち、転写後に遺伝子発現をサイレンシングすることができる短い一本鎖20~25ntのRNA分子に加工される前に、もともとヘアピンステムループとして転写される調節RNA分子に転写される。内因的に転写されたmiRNAは、すべてのタンパク質コード遺伝子の60%以上を制御し、事実上すべての細胞経路を調節すると推定されている (Catalanotto et al., 2016, MicroRNA in Control of Gene Expression: An Overview of Nuclear Functions. International journal of molecular sciences, 17(10), 1712)。したがって、本発明によるカーゴ調節RNA、例えばmiRNAは、減少したまたは誤った発現が対象におけるSNHLの発症に関連するRNAであってもよい。あるいは、本発明によるカーゴ調節RNA、例えばmiR-NAは、上昇したまたは誤った発現が対象におけるSNHLの発症に関連する遺伝子を標的とするRNAであってもよい。
【0048】
さらに別の実施形態において、本発明のカーゴ配列は、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)に転写されてもよい。shRNAは、miRNAと同様に、RNA干渉を介して遺伝子発現を抑制できる合成RNA分子である。本発明によるカーゴshRNAは、上昇したまたは誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連する遺伝子を標的としてもよい。
【0049】
あるいは、カーゴ配列は長い非コードRNA(lncRNA)に転写されてもよい。LncRNAは200ntを超える非コード転写物であり、遺伝子の転写、スプライシング、翻訳、エピジェネティックな制御などのさまざまな機能を果たしてもよい。本発明によるカーゴlncRNAは、減少したまたは誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連するか、または該lncRNAが上昇したまたは誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連する遺伝子を調節してもよいlncRNAであってもよい。
【0050】
さらに別の実施形態において、カーゴ配列は、Cas、例えば、Cas9タンパク質をコードし、さらに、内耳細胞への効率的なCRISPR/Cas送達のためのシングルガイドRNA(sgRNA)を含んでもよい。クラスター化された規則的に間隔をあけた回文反復(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質(Cas)、たとえばCas9システムは、標的ゲノム編集に使用されてもよい。発現されたsgRNAは宿主細胞のDNA内の特定の配列を見つけて結合し、続いてCas酵素が隣接する特定のDNA領域に二本鎖または一本鎖の切断を導入する。これらの切断の修復は、挿入または欠失の導入により標的遺伝子のノックアウトを引き起こしてもよい。あるいは、システムを使用して、DNAのストレッチを切断部位、たとえば突然変異した遺伝子のインタクトなコピーに導入してもよい。
【0051】
一実施形態において、内耳の細胞におけるカーゴ配列の発現は、非遺伝的原因から生じる難聴を処置または予防してもよい。内耳の細胞におけるカーゴ配列の発現は、例えば、感染や大きな騒音、聴器毒性のある薬物、または機械的外傷への曝露による有毛細胞の損失を補ってもよい。カーゴ配列は、例えば、BDNF、GDNF、NT-3、IGF1、IGF2、CNTF、ARTN、およびNRTNを含む群から選択される1つまたは複数の遺伝子であってもよい。また、コルチ器における感覚有毛細胞の再生を通常妨げる遺伝子の発現を細胞特異的に抑制する制御RNA(例えば、miRNA)であってもよい。それは、例えば、有毛細胞および支持細胞を有糸分裂後の状態に維持することが報告されている網膜芽細胞腫遺伝子(Rb1)を標的とするmiRNAであってもよい。これまでの報告では、Rb1の標的欠失がインビボでの機能的有毛細胞の増殖を引き起こしてもよいことが実証されている(Sage et al., 2005, Proliferation of Functional Hair Cells in vivo in the missing of the reti-noblastoma Protein. Science 307(5712), 1056 -1058)。カーゴ配列はまた、例えば、細胞の感覚有毛細胞またはSGNへの分化転換を誘導する転写因子、成長因子、または有害物質、例えば耳毒性薬剤を能動的に輸送し、それによって危険物質、例えば内耳の細胞からの耳毒性薬物、例えば、ATP7B、MRP1、MRP2およびMDR1を含む群から選択される1つまたは複数の遺伝子を除去する分子薬剤ポンプ/トランスポーターをコードしてもよい。
【0052】
好ましくは、内耳の細胞における本発明によるカーゴ配列の発現は、対象における感音性難聴の少なくとも症状を軽減、排除または予防することができる。本発明の文脈において、「症状を軽減する」とは、症状の重症度が軽減されてもよいことを意味する。組成物を投与すると、重度の聴覚障害を有する対象の状態は、投与前の聴力と比較して聴力が著しく改善される程度まで改善してもよい。別の実施形態において、感音性難聴の症状は、カーゴ配列の発現により対象において完全に除去されてさえよい、すなわち、SNHLに罹患している対象は、本発明による組成物の投与によりその聴力が完全に回復されてもよい。さらに別の実施形態において、カーゴ配列の発現は、対象におけるSNHLの症状を予防してもよく、例えば、前記症状の発生率または重症度を完全に予防または軽減してもよい。例えば、本発明による組成物は、SNHLの遅発性発症に関連する遺伝的欠損と診断された胎児に投与されてもよい。カーゴ配列の発現は遺伝的欠陥を補い、その後の人生におけるSNHLの出現を防いでもよい。SNHLの症状を予防することは、外部刺激の危険な影響から対象を保護することを指してもよい。予防することは、将来起こり得る感音性難聴または感音性難聴を発症することの重症度および/または発生率を軽減することを含む。感覚有毛細胞または聴覚神経細胞におけるカーゴ配列の発現は、例えば、癌患者の化学療法中に使用される特定の聴器毒性薬に対する耐性を与えてもよい。
【0053】
本発明によるレンチウイルスベクターは、内耳の細胞で発現される受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化される。
【0054】
偽型化という用語は、表面に外来ウイルスエンベロープタンパク質を保有するウイルスベクターの生成を指す。ウイルス表面糖タンパク質は、特定の細胞受容体と相互作用して膜融合を誘導することにより、ウイルスの宿主細胞への侵入を調節する。たとえば、天然のHIVエンベロープ糖タンパク質は、受容体CD4および共受容体CXCR4またはCCR5に特異的に結合し、HIVの潜在的な標的細胞をCD4+T細胞および単球に効果的に制限する。したがって、形質導入できる細胞の選択を変更または拡大するために、レンチウイルスベクターは通常、関連ウイルスおよび無関係ウイルスの両方の異種エンベロープ糖タンパク質で偽型化される。したがって、偽型化に使用される糖タンパク質の選択に応じて、ウイルスの指向性、つまりレンチウイルスが感染できる宿主細胞の範囲を拡張するかまたは目的の特定の細胞型に向けることができる。
【0055】
好ましくは、本発明の文脈において、レンチウイルスベクターは、LDL受容体およびLDL-Rファミリーメンバー、SLC1A5受容体、Pit1/2受容体およびPIRYV-G受容体からなる群から選択される受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質で偽型化される。
【0056】
最も好ましくは、該受容体は、LDL受容体またはLDL-Rファミリーメンバー、例えば、LDL受容体である。
【0057】
進化的に保存された低密度リポタンパク質(LDL)受容体は、コレステロールに富むLDLのエンドサイトーシスを媒介する細胞表面受容体である。これは、すべての有核細胞、特に循環からLDLの大部分を除去する肝臓の内部で遍在的に発現される。さらに、LDL受容体は、C型肝炎ウイルスを含むさまざまなウイルスの侵入部位として機能する(Agnello et al., 1999, Hepatitis C virus and other flaviviridae viruses enter cells via a low density lipoprotein receptor. Proc Natl Acad Sci 96(22), 12766-12771)。2013年に、Finkelshteinらは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)の主要な侵入口としてLDL受容体を特定し、これにより、VSVエンベロープ糖タンパク質G(VSV-G)で偽型化されたウイルスおよびウイルスベクターが非常に広い指向性を示した理由が説明された(Finkelshtein et al., 2013, LDL receptor and its family members serve as the cellular receptors for vesicular stomatitis virus. PNAS 110(18), 7306-7311)。LDL受容体ファミリーのメンバーであるメガリンは、蝸牛のさまざまな種類の細胞で発現されることが判明した。しかしながら、コルチ器のSGN、内有毛細胞、外有毛細胞または支持細胞ではメガリン発現の証拠は見つからなかった(Hosokawa et al., 2018, Immunohistochemical localization of megalin and cubilin in the human inner Ear. Brain Res. 1701, 153-160)。本発明者らは、予想外にも、LDL受容体が内耳細胞、例えば内有毛細胞および外有毛細胞、ならびにSGNにおいて発現されることを発見した。したがって、これらの細胞は、VSV-Gで偽型化されたウイルスによって形質導入され得る。
【0058】
LDL受容体またはLDL-Rファミリーメンバーに結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質は、例えばMARAV-G、COCV-G、VSV-GまたはVSV-Gtsであってもよい。
【0059】
レンチウイルスベクターは、最も一般的には水疱性口内炎ウイルスエンベロープ糖タンパク質(VSV-G)で偽型化される。広く発現されるLDL受容体および他のLDL受容体ファミリーのメンバーはVSVの侵入部位として機能するため、VSV-Gエンベロープはウイルスベクターに非常に幅広い指向性を与える。VSV-GがLDL受容体に結合すると、ビリオンはクラスリン媒介エンドサイトーシスを介して宿主細胞に取り込まれる。VSV-Gは、高い指向性を提供することに加えて、レンチウイルスベクターの安定性をさらに大幅に高め、これにより遠心分離によるウイルス力価の効率的な濃縮が可能になり、このことは、効果的なウイルス媒介遺伝子導入に不可欠なもう1つの特徴である。したがって、VSV-Gを使用したレンチウイルスベクターの偽型化により、広範囲の異なる細胞型への強力な形質導入が可能になる。本発明の組成物を使用して、発明者らは、聴覚有毛細胞様細胞株HEI-OC1および初代解離SGNにVSV-G偽型化レンチウイルスベクターを形質導入することができた。本発明者らは、内耳の前庭迷路にVSV-G偽型レンチウイルスベクターを注射することによって、MYO7A欠損シェーカー-1マウスモデルにおける進行性難聴をさらに予防することができた。その後の解析により、内有毛細胞、外有毛細胞およびSGNを含む蝸牛細胞へのレンチウイルスベクターによる形質導入が非常に効率的に成功したことが初めて明らかになった。したがって、一実施形態において、本発明のレンチウイルスベクターは、VSV-G、例えば、LDL受容体もしくはLDL-Rファミリーメンバーに結合できる野生型VSV-GまたはVSV-G誘導体で偽型化される。好ましくは、野生型VSV-Gは、インディアナVSV血清型に由来する糖タンパク質であり、配列番号21に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を有する。所望により、それは、配列番号20に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によりコードされる。また、それは、ニュージャージーVSV血清型に由来するものであってもよく、そして配列番号23に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。所望により、それは、配列番号22に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%配列同一性を有する核酸配列によってコードされる。インビボ投与時により高い粒子安定性を達成し、宿主の補体系による潜在的な認識を回避するには、配列番号3に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%配列同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい熱安定性で補体抵抗性VSV-G糖タンパク質(VSV-Gts)を、代わりに使用してもよい。それは、所望により、配列番号2に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%配列同一性を有し、かつLDL-RまたはLDL-Rファミリーメンバーに結合することができる核酸配列によってコードされてもよい。
【0060】
しかしながら、好ましい実施形態において、本発明によるレンチウイルスベクターは、COCV-G糖タンパク質、すなわち、コカルウイルス由来の糖タンパク質で偽型化される。COCV-Gは、LDL受容体に結合することができ、例えば配列番号5に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有してもよい。所望により、COCV-Gは、配列番号4に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。2010年に、Trobridgeらは、構成的VSV-G発現に関連する前述の細胞毒性だけでなく、ヒト血清補体によるVSV-G偽型ベクターの不活化を含む、VSV-G偽型レンチウイルスベクターの欠点のいくつかに取り組んでいる。この研究の著者らは、コカルウイルス由来のCOCV-G糖タンパク質で偽型化されたレンチウイルスベクターが、VSV-G偽型化ベクターと同じくらい高い力価で産生され、幅広い指向性および高い安定性の両方を示すことを実証した。重要なことに、COCV-Gによる偽型化はヒト血清によるウイルス不活化に対する耐性も付与する(Trobridge et al., 2010, Cocal-pseudotyped Lentiviral Vectors Resist Inactivation by Human Se-rum and Efficiently Transduce Primate Hematopoietic Repopulating Cells. Molecular Therapy 18(4), 725-733)。本発明者らは、COCV-Gで偽型化されたレンチウイルスベクターが、VSV-Gで偽型化されたベクターよりもさらに高い効率でマウス内耳由来有毛細胞様細胞株HEI-OC1に形質導入するという驚くべき発見を行った(図4)。
【0061】
特に好ましい実施形態において、LDL受容体に結合できる本発明のレンチウイルスベクターの偽型化に使用される糖タンパク質はMARAV-Gである。MARAV-Gは、例えば、配列番号7に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。所望により、それは、配列番号6に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。MARAV-Gは、マラバウイルス由来のエンベロープ糖タンパク質である。マラバウイルスは、ヒトとマウスの両方のがん細胞に対して広範な指向性を示すことで最もよく知られているラブドウイルスである。本発明者らは、MARAV-Gで偽型化されたレンチウイルスベクターの使用により、HEI-OC1細胞および解離した初代SGNの両方の予想外に効率的な形質導入が可能になることを示すことができた。実際、どちらの細胞型でも、MARAV-G偽型のレンチウイルスベクターは、VSV-GまたはCOCV-G偽型の対応物よりも大幅に優れたパフォーマンスを示した(図4および図7)。さらに、MARAV-G糖タンパク質で偽型化された本発明によるレンチウイルスベクターは、正常聴力マウスへのインビボ注射の際、VSV-GまたはCOCV-G-偽型ベクターよりも血管条内のより多くの層の細胞(すなわちより深い層も)に形質導入するようである(図12)。
【0062】
あるいは、本発明によるレンチウイルスベクターは、SLC1A5受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化されてもよい。SLC1A5は元々、Na+依存的にグルタミンをセリン、アスパラギンまたはスレオニンなどの他の中性アミノ酸と交換する中性アミノ酸トランスポーターとして同定された(Scalise et al., 2018, The Human SLC1A5 (ASCT2) Amino Acid Transporter: From Function to Structure and Role in Cell Biology. Front Cell Dev Biol.)。SLC1A5の発現は、肺、骨格筋、大腸、腎臓、精巣、T細胞、脳および脂肪組織について報告されている(Scaliseetal.,2018)。しかしながら、SLC1A5は、ネコ内在性ウイルス(RD114)およびヒヒ内在性ウイルス(BaEV)などのレトロウイルスの群による共通の侵入ポートとしても使用される(Marin et al., 2003, N-Linked Glycosylation and Sequence Changes in a Critical Negative Control Region of the ASCT1 and ASCT2 Neutral Amino Acid Transporters Determine Their Retroviral Receptor Functions. Journal of Virology 77(5), 2936-2945)。
【0063】
したがって、本発明のレンチウイルスベクターは、SLC1A5受容体に結合できるRD114糖タンパク質(GP)に由来するウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化されてもよい。かかる糖タンパク質は、配列番号9に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。所望により、それは、配列番号8に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。したがって、それはRD114GPであってもよい。適切なRD114GP誘導体は、例えば、細胞質内ドメインに両向性マウス白血病ウイルス(MLV-A)糖タンパク質の細胞質尾部(TRと称する)を含むように修飾されたRD114\TRであってもよい(Sandrin et al., 2002, Lentiviral vectors pseudotyped with a modified RD114 envelope glycopro-tein show increased stability in sera and augmented transduction of primary lymphocytes and CD34+ cells derived from human and nonhuman primates. Blood 100(3), 823-32)。それはまた、SLC1A5受容体に結合することができるBaEVGPに由来する糖タンパク質であってもよい。かかる糖タンパク質は、例えば、配列番号11に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。所望により、それは、配列番号10に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。したがって、それはBaEVGPであってもよい。適切なBaEVGP誘導体は、例えば、BaEV/TRまたはBaEV/Rlessであってもよい。後者は、その細胞質尾部にRペプチド配列の特異的な欠失を抱えている(Girard-Gagnepain et al., 2014, Baboon envelope pseudotyped LVs outperform VSV-G-LVs for gene transfer into early-cytokine-stimulated and resting HSCs. Blood 124(8), 1221-1231)。
【0064】
本発明のレンチウイルスベクターは、Pit1/2受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化されてもよい。Pit1およびPit2はナトリウム依存性リン酸輸送体であり、正常な細胞機能を確保するためにリン酸輸送において重要な役割を果たす。Pit1およびPit2は、それぞれテナガザル白血病ウイルス(GALV)および両指向性マウス白血病ウイルス(A-MuLV)の受容体としても機能する(Leverett et al., 1998, Entry of amphotropic murine leukemia virus is influenced by residues in the putative second extracellular domain of its receptor, Pit2. J Virol. 72(6), 4956-61)。 したがって、ウイルスエンベロープ糖タンパク質はGALVに由来してもよい。GALVGPは、Pit1/2受容体に結合することができ、例えば、配列番号13に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。所望により、それは、配列番号12に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。あるいは、ウイルス糖タンパク質は、A-MuLV/Amphoに由来してもよい。かかるAmphoGPは、Pit1/2受容体に結合することができ、そして例えば配列番号15に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。所望により、それは配列番号14に対して少なくとも80%、好ましくは80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。それはまた、Pit1/2受容体に結合することができ、そして配列番号17に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する10A1 MLVに由来する糖タンパク質で偽型化されてもよい。したがって、糖タンパク質は、所望により、配列番号16に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。
【0065】
あるいは、本発明のレンチウイルスベクターは、配列番号19に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するPIRYV-Gで偽型化されてもよい。所望により、それは、配列番号18に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも90%、少なくとも99%または100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされてもよい。したがって、糖タンパク質は、宿主細胞への侵入を媒介することができる。PIRYV-Gは、VSV、MARAVおよびCOCVと同様に、ベシキュロウイルス属に属するPiryウイルスに由来する。COCV-Gと同様に、PIRYV-Gは、VSV-Gよりも哺乳類血清による補体媒介不活化に対してより耐性があることが示された (Tijani et al., 2018, Lentivector Producer Cell Lines with Stably Expressed Vesiculovirus Enve-lopes. Mol Ther Methods Clin Dev. 10, 303-312)。しかしながら、Piryウイルスの宿主細胞への侵入を促進する細胞表面受容体は現在知られていない。
【0066】
所望により、レンチウイルスベクターは、2種類以上の異種糖タンパク質で偽型化されてもよい。それは、例えば、VSV-GおよびCOCV-Gなど、同じ受容体タンパク質を標的とする2つの異なる糖タンパク質で偽型化されてもよい。あるいは、レンチウイルスベクターは、少なくとも2つ、すなわち2つ、3つまたは4つの異なる受容体タンパク質に結合する糖タンパク質の混合物を用いて偽型化されてもよい。それは、例えば、LDL受容体に結合するCOCV-GおよびSLC1A5に結合するRD114によって同時に偽型化されてもよい。
【0067】
本発明の組成物は、好ましくは少なくとも4つの異なる発現プラスミドを提供することを含むプロセスにおいて、レンチウイルスベクターをパッケージングすることによって得ることができる。レンチウイルス粒子は、例えばSchambach et al.,2006によって開示されるように、上述のレンチウイルスベクターゲノム自体をコードするベクタープラスミド、GagおよびPolをコードするパッケージングプラスミド、Revをコードするプラスミド、および本明細書で言及されるエンベロープ糖タンパク質の少なくとも1つをコードするプラスミドから提供されてもよい (Equal potency of gammaretroviral and lentiviral SIN vectors for expression of O6-methylguanine-DNA methyltransferase in hematopoietic cells. Mol. Ther. 13(2), 391-400)。ベクタープラスミドは、例えば、配列番号24の核酸配列を含むか、それに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有してもよい。必要に応じて、異なるプロモーターおよび/またはエンハンサーおよび/または抵抗要素を使用してもよい。パッケージングプラスミドは、例えば、配列番号25の核酸配列を含むか、それに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有してもよい。異なるプロモーターを使用してもよい。Revをコードするプラスミドは、例えば、配列番号26の核酸配列を含むか、それに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有してもよい。Envをコードするプラスミドは、例えば、配列番号27の核酸配列を含むか、それに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有してもよい。異なるプロモーターを使用してもよい。適切なプロモーターまたは他の機能要素は、例えば本明細書で教示される。
【0068】
レンチウイルスベクターの分割ゲノム設計はレンチウイルスベクターの複製を効果的に予防するため、レンチウイルスベクターは単一のパッケージング細胞内で異なるウイルス成分を共発現することによって生成する必要がある。したがって、少なくとも4つの異なる発現プラスミドがパッケージング細胞に共トランスフェクトされ、十分に高い力価でレンチウイルスベクターが生成される。パッケージング細胞は、HEK293T細胞、HEK293細胞、NIH3T3細胞、HeLa細胞、HT1080細胞、COS-1細胞、およびAGE1.CR細胞を含む群から選択されてもよい。好ましくは、パッケージング細胞はヒト細胞であり、最も好ましくはHEK293TまたはHEK293細胞である。Gag/Polコードパッケージング構築物、Envプラスミド、Revプラスミドおよびベクタープラスミドの比は、10~20:1~10:5~10:5:10、好ましくは13~16:1~7:6~8:6~8であってもよい。特に、Envをコードするプラスミドの量は、レンチウイルスベクター偽型化用の糖タンパク質の選択に応じて大幅に変化してもよい。生成されたレンチウイルス粒子を含む培地は、25~40時間、例えばパッケージング細胞のトランスフェクション後30~36時間に採取されてもよい。所望により、新たに生成されたレンチウイルス粒子の2回目の採取は、40~60時間、例えばトランスフェクション後48~54時間に実施されてもよい。好ましくは、レンチウイルス粒子を含む培地は、孔径0.22μmのフィルターを使用して濾過される。その後の採取から得られたウイルス粒子を含む培地をプールし、所望により、例えば-80℃で保存してもよい。
【0069】
本発明によるHEK293T細胞などの単一パッケージング細胞における複数のプラスミドの同時発現により、高力価でのレンチウイルス粒子の産生が可能になる。内耳はかなり小さく、アクセスが困難な非常に奥まった器官であるため、本発明による組成物の少量のみを対象に適用することができる(ヒトについては最大約20μL、マウスについては約1μL)。しかしながら、遺伝子導入の効率、ひいては遺伝子発現の効率は、標的細胞当たりに送達されるベクター粒子の総数に大きく依存する(Zhangetal.,2001)。したがって、本発明の組成物は、内耳細胞の効果的な形質導入を促進するために十分な量のレンチウイルス粒子を送達するのに十分な高いウイルス力価を有する必要がある。組成物のウイルス力価は、機能力価として最も正確に提供される。つまり、実際に標的細胞に感染したウイルス粒子の数を表する。したがって、感染力価も指定される。一般にmLあたりの形質導入単位(TU/mL)として表され、細胞の形質導入後に、PCRベースの方法またはフローサイトメトリーなどによって評価できる。本組成物の最終ウイルス力価は、少なくとも106TU/mL、好ましくは少なくとも107TU/mL、最も好ましくは少なくとも108TU/mLの大きさでなければならない。それはさらに高くてもよく、例えば、少なくとも109TU/mL、さらには少なくとも1010TU/mLであってもよい。
【0070】
上述の大きさの機能力価に到達するために、本発明による組成物のレンチウイルスベクター力価は、パッケージング細胞からレンチウイルス粒子を採取した後、例えば超遠心分離を使用してさらに濃縮されてもよい。好ましい実施形態において、レンチウイルスベクター力価は超遠心分離を使用して濃縮され、ウイルスベクター粒子は少なくとも10,000×gで少なくとも1時間、少なくとも1.5時間、または好ましくは少なくとも2時間、少なくとも2.5時間、少なくとも3時間、少なくとも3.5時間、または少なくとも4時間遠心分離される(Zhangetal.,2001)。遠心分離の速度および時間は、ウイルスベクター粒子のそれぞれの偽型によって異なる。VSV-G偽型化レンチウイルスベクター粒子は、例えば、82,740×gで2時間遠心分離されてもよい。対照的に、RD114、GALV、またはBaEVで偽型化されたベクター粒子は、約13,238×gで遠心分離してもよいが、より長時間、例えば少なくとも4時間、好ましくは一晩遠心分離することができる。超遠心分離を使用すると、本発明の組成物のウイルス力価を少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも150倍、少なくとも200倍、少なくとも250倍、またはさらに少なくとも300倍まで濃縮することが可能である。しかしながら、超遠心分離はレンチウイルスベクターの採取に非常に効果的であることが証明されているが、この方法にはいくつかの欠点がある。通常、かかる速度で使用されてもよいローターの容積容量は小さく、大量の高遠心分離を達成するのは困難である。したがって、β-力価ウイルスベクターの作成は非常に時間がかかる(Zhang et al., 2001)。超遠心分離ではさらに、ウイルスエンベロープの偽型化などにより、ウイルス粒子が十分な安定性を示す必要がある。したがって、別の実施形態において、ウイルス力価は、精密濾過、限外濾過、クロマトグラフィー、密度勾配超遠心分離、接線流精密濾過、または沈殿などの、当技術分野で公知の他の適切な精製方法によって濃縮されてもよい。
【0071】
超遠心分離または最新技術の他の適切な方法を実行することによって本発明のレンチウイルス粒子を濃縮した後、ウイルス粒子は、適切な媒体中で再構成されなければならない。培地は生理学的塩濃度、好ましくは生理学的pHを有していなければならない。本発明者らは、予想外にも、リン酸緩衝食塩水(PBS)と4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)との規定の混合物が、ウイルス粒子の再構成および安定化に特に有益な媒体を構成することを発見した。したがって、ウイルス粒子は、好ましくは、PBS(pH7.2~7.4)および1~50mM、例えば、1~10mM、20~30mM、30~40mM、40~50mM、または好ましくは10~20mMのHEPESを含む培地中で再懸濁される。本発明者らは、凍結融解を繰り返した後でも、HEPESの添加が本発明のレンチウイルス粒子の安定性を維持するのに有利であることを発見した。好ましくは、濃縮ウイルス粒子を再構成するために使用される培地は、内耳細胞に対する外部の生物学的刺激を避けるために、血清、ホルモンまたはサイトカインを含まない。所望により、培地は血清または血液であってもよい。それはまた、内耳のリンパ液、例えば、外リンパまたは内リンパであってもよい。
【0072】
本発明の組成物は、約4℃の温度で最長1~4週間、例えば、1週間、2週間、3週間または4週間保存されてもよい。好ましくは、組成物は冷凍状態で、最も好ましくは約-80℃で保存される。凍結される場合、組成物は、対象に投与される前に、少なくとも6ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも24ヶ月、または少なくとも36ヶ月保存されてもよい。
【0073】
好ましくは、本発明によるレンチウイルスベクターによって形質導入される内耳の細胞は、内有毛細胞および外有毛細胞、らせん神経節ニューロンおよびグリア細胞、血管条およびらせん靱帯の細胞および側壁線維細胞を含むコルチ器の細胞からなる群から選択される細胞である。好ましくは、細胞は有毛細胞またはらせん神経節ニューロンである。有毛細胞は聴覚に必要な感覚細胞を構成し、コルチ器内に位置している。それらは1列の内有毛細胞に配置され、その後3列の外有毛細胞が続く。有毛細胞は、頂端の修飾、いわゆる不動毛を有し、これは中央階を満たす液体、内リンパと接触し、かつさまざまな支持細胞と噛み合う。鳥類または爬虫類などとは異なり、哺乳類は損傷したり失われた有毛細胞を自然に再生することができない。したがって、有毛細胞の変性は、処置せずに放置すると永久的な難聴につながってもよい。
【0074】
らせん神経節ニューロン(SGN)は、蝸牛の中心軸であるモディオラス内に位置している。それらの樹状突起は有毛細胞の基部とシナプスを形成し、その軸索は前庭蝸牛神経としても知られる第8脳神経につながっている。SGNは、音を知覚すると活動電位を発火させる聴覚系の最初のニューロンである。グリア細胞は、電気インパルスを生成せず、神経系の支持細胞として機能する非神経細胞である。グリア細胞は、特定の転写因子の人工発現を通じて一次聴覚ニューロン(PAN)に再プログラムされる可能性がある(Meas et al., 2018, Reprogramming Glia Into Neurons in the Peripheral Auditory System as a Solution for Sensorineural Hearing Loss: Lessons From the Central Nervous System. Front Mol Neurosci. 11: 77)。したがって、グリア細胞は、末梢聴覚系におけるニューロンの損失を補うレンチウイルス遺伝子導入の魅力的な標的となる。血管条は上皮細胞からなり、中央階の外壁を形成する。さらに、それは、中央階の内リンパを生成する。らせん靱帯は、膜状のスカラー媒体を蝸牛のらせん管に固定する。
【0075】
本発明に従って形質導入される内耳細胞は、あるいは、I型およびII型前庭有毛細胞、前庭支持細胞、および前庭神経節ニューロンであってもよい。前庭系は、平衡感覚および空間的定位の感覚を促進する内耳の感覚系である。協調的な動きのために。したがって、本発明による組成物は、前庭障害に関連する症状を軽減するのにも適していてもよい。
【0076】
別の実施形態において、内耳の細胞は、ベッチャー細胞、クラウディウス細胞、ダイター細胞、ヘンセン細胞または柱状細胞を含む群から選択される支持細胞であってもよい。ベッチャー細胞は、蝸牛の下回転の基底膜上に位置し、そこで微絨毛を細胞間空間に突き出し、分泌機能と吸収機能の両方を実行する。クラウディウス細胞はベッチャー細胞のすぐ上に位置し、内リンパと直接接触している。隣接するクラウディウス細胞間の密着結合の形成により、中央階からの内リンパの漏出が予防される。ダイター細胞は最大5列に配置され、蝸牛の基底膜上に直接位置する。それらは、内耳の網様層まで伸びる長い頂端細胞の伸長を形成する。高いヘンセン細胞は、コルチ器内のダイター細胞の外側の列に隣接して位置しており、そこでイオン代謝を媒介していてもよい。ヘンセン細胞は、有毛細胞を再生する能力を保持していると考えられているため、遺伝子治療の特に興味深い標的である(Malgrange et al., 2002, Epithelial supporting cells can differentiate into outer hair cells and De-iters’ cells in the cultured organ of Corti. Cellular and Molecular Life Sciences. 59, 1744-1757)。例えば、カーゴ核酸はヘンセン細胞による有毛細胞の再生を刺激してもよい。柱細胞は外側柱細胞および内側柱細胞に分けることができる。どちらのタイプも、多数の架橋微小管およびアクチンフィラメントを形成する。柱細胞は、外側の細胞が自立しており、その基部と頂点でのみ隣接する細胞と接触しているため、その名前が付けられた。
【0077】
本発明の組成物は、内耳の細胞に物質を送達するのに適した任意の方法によって対象に投与されてもよい。組成物を対象に送達するための方法は、例えば、蝸牛インプラント経路、正円窓注射、卵円窓注射、管瘻造設術、蝸牛瘻造設術、ならびに内リンパ嚢への注射を含む群から選択される方法であってよい。正円窓注射の場合、長い針を外耳を通して挿入し、鼓膜に穴を開け、中耳の内壁に位置する正円窓を通して鼓室階に本発明の組成物を注入する。楕円窓注入は、楕円窓を通して前庭階へ組成物を注入することを含む。あるいは、組成物は、内リンパ管を介して内リンパを含む中央階に接続された小さな袋である内リンパ嚢、つまりコルチ器を収容する区画に注射されてもよい。しかしながら、内リンパ嚢への注射には、後部窩プレートの大幅な減圧を伴う乳様突起切除術が必要である。したがって、内リンパ嚢への注射にはリスクが伴う(Blanc et al.,2020)。蝸牛瘻造設術は、ウイルスベクターを蝸牛に直接注入する方法である。前述したように、蝸牛への直接注射は、感覚有毛細胞に機械的損傷を与え、聴覚機能の低下を引き起こすリスクを抱えている。管瘻造設術中、前庭器官の半規管の1つに穴が開けられ、組成物が前庭迷路に直接注入される。内耳の細胞、例えば感覚有毛細胞への機械的損傷は、本発明の文脈において、特にヒト患者の処置においては避けるべきである。したがって、注入される組成物の量および注入に伴う圧力は最小限に抑えられるべきである。したがって、本発明により達成できる高力価および高効率は、ヒトの処置にとって特に重要である。
【0078】
本発明者らは、管瘻造設術を介したマウス内耳への組成物の送達により、感覚有毛細胞およびSGNの効果的な形質導入がもたらされることを実証することができた。したがって、本発明による対象がマウスまたはモルモットもしくはラットなどの別のげっ歯類である場合、本発明の組成物は、好ましくは管瘻造設術を介して、特に後半規管に注射することによって投与される。管瘻造設術は手術中に中耳を邪魔せず、有毛細胞の損傷を予防するため、ヒトの内耳へのベクター送達にも適していてもよい (Blanc et al., 2020)。それにもかかわらず、この方法には、膜迷路が開くリスクおよび、線維化組織による術後の管の閉塞のリスクが伴う。例えばロボット支援の助けを借りて使用される外科技術が改善されると、この方法に関連するリスクの一部が大幅に軽減されてもよい(Blanc et al., 2020)。管瘻造設術のために行われる外科手術は、人工内耳手術の手術に似ている(Blanc et al., 2020)。
【0079】
人工内耳は、内耳に外科的に挿入される装置である。従来の人工内耳は、外部部品および内部部品からなる。外部部分はマイク、サウンドプロセッサーおよびバッテリーで構成される。移植された内部部分は、外部部分が受け取った信号を一連の電極を介して蝸牛に送り、SGNを直接刺激することで、音を知覚するための感覚有毛細胞の必要性を回避する。インプラントはさらに、本発明の組成物からなるリザーバチャンバ、ならびに蝸牛内への標的送達のためにリザーバチャンバから電極の先端まで組成物を輸送する薬物送達チャネルを備えていてもよい。インプラントは、所望により、組成物の持続放出を可能にするように設計されてもよい。内耳に薬物を送達できる数種類の蝸牛インプラントおよび他の聴覚補綴物が開発されており、本発明の組成物を対象に投与するのに適していてもよい(Hendricks et al., 2008, Localized Cell and Drug Delivery for Auditory Prostheses. Hear Res. 242(1-2), 117-131)。好ましくは、対象がヒトである場合、組成物は蝸牛インプラントを使用して投与される。さらなる実施形態において、人工内耳はまた、例えば、細胞の感覚有毛細胞またはSGNへの分化転換を支援し得る成長因子、例えば、BDNF、GDNF、NT3またはIGFなどの神経栄養因子を送達してもよい。
【0080】
本発明による組成物は、既知のポンプ-カテーテルシステムまたは正円窓膜拡散を含む他の適切な方法によって対象に投与されてもよく、後者は、例えば、正円窓膜の部分消化のためのコラゲナーゼの使用を含む。本発明の組成物は、全身経路を介して対象に投与する際に使用するためのものであることも可能である。局所麻酔下での組成物の静脈内注射は、本明細書で論じた他の方法に代わる非外傷的で簡単な代替手段となる。全身経路による投与は、マウスの内耳へのAAVの送達にすでに適用され成功している(Shibata et al., 2017, Intravenous rAAV2/9 injection for murine cochlear gene delivery. Sci. Rep. 7, 9609)。しかしながら、本発明による組成物の全身送達は、オフターゲット形質導入の危険性を抱えており、非常に高い組成物量およびウイルス力価を必要とする。
【0081】
本発明者らは、本発明の組成物を使用すると、高い形質導入効率または形質導入速度が得られることを示している。したがって、好ましくは、本発明の組成物は、らせん神経節ニューロンおよび有毛細胞において少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%のウイルス形質導入効率を有する。例えば、形質導入効率は、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%であってもよい。
【0082】
処置される対象は、ヒトまたは非ヒト動物、好ましくは脊椎動物、例えば、ヒト、霊長類、イヌ、ネコ、ラット、モルモットまたはマウスなどの哺乳動物であり得る。好ましくは、対象はヒト、例えば感音性難聴を患っているかまたは感音性難聴を発症する危険性のあるヒトである。
【0083】
特に、本発明は以下の実施形態を提供する:
1.対象における感音性難聴の処置または予防における使用のための組成物であって、該組成物が少なくとも107TU/mLの力価を有し、内耳の細胞において発現される受容体に結合可能なウイルスエンベロープ糖タンパク質で偽型化された第3世代レンチウイルスベクターを含み、該組成物が対象の内耳に投与される、組成物。
2.レンチウイルスベクターが、LDL受容体およびLDL-Rファミリーメンバー、SLC1A5受容体、Pit1/2受容体およびPIRYV-G受容体からなる群から選択される受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化される、実施形態1に記載の使用のための組成物。
3.レンチウイルスベクターが、LDL受容体またはLDL-Rファミリーメンバー、所望によりLDL受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質で偽型化される、実施形態1~2のいずれかに記載の使用のための組成物。
4.ウイルスエンベロープ糖タンパク質が、MARAV-G、COCV-G、VSV-GおよびVSV-Gtsを含む群から選択される、実施形態1または3のいずれかに記載の使用のための組成物。
5.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がMARAV-Gである、実施形態4に記載の使用のための組成物。
6.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がCOCV-Gである、実施形態4に記載の使用のための組成物。
7.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がVSV-Gである、実施形態6に記載の使用のための組成物。
8.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がVSV-Gtsである、実施形態4に記載の使用のための組成物。
9.レンチウイルスベクターが、SLC1A5受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化される、実施形態1~2のいずれかに記載の使用のための組成物。
10.ウイルスエンベロープ糖タンパク質が、RD114GPおよびその誘導体、ならびにBaEVGPおよびその誘導体からなる群から選択される、実施形態1または9のいずれかに記載の使用のための組成物。
11.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がRD114GPである、実施形態10に記載の使用のための組成物。
12.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がRD114GPに由来する、実施形態10に記載の使用のための組成物。
13.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がBaEVGPである、実施形態10に記載の使用のための組成物。
14.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がBaEVGPに由来する、実施形態10に記載の使用のための組成物。
15.レンチウイルスベクターが、Pit1/2受容体に結合できるウイルスエンベロープ糖タンパク質で偽型化される、実施形態1~2のいずれかに記載の組成物。
16.ウイルスエンベロープ糖タンパク質が、GALVおよび10A1 MLVからなる群から選択されるウイルスに由来する、実施形態1または15のいずれかに記載の使用のための組成物。
17.ウイルスエンベロープ糖タンパク質がGALVに由来する、実施形態16に記載の使用のための組成物。
18.ウイルスエンベロープ糖タンパク質が10A1 MLVに由来する、実施形態16に記載の使用のための組成物。
19.レンチウイルスベクターが、PIRYV-G受容体に結合できるPIRYV-Gで偽型化される、実施形態1~2のいずれかに記載の使用のための組成物。
20.レンチウイルスベクターが、タンパク質コード遺伝子、miRNA、shRNA、lncRNAおよびsgRNAからなる群から選択される核酸を含むカーゴ配列を含み、内耳の細胞における該カーゴ配列の発現が、対象における感音性難聴の少なくとも症状を軽減、排除または予防することができる、実施形態1~19のいずれかに記載の使用のための組成物。
21.カーゴ配列がタンパク質コード遺伝子であり、該遺伝子の減少したまたは誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連する、実施形態20に記載の使用のための組成物。
22.カーゴ配列が、BDNF、GDNF、NT3、IGFなどの神経栄養因子を含む群から選択される成長因子をコードするタンパク質コード遺伝子である、実施形態20または21のいずれかに記載の使用のための組成物。
23.カーゴ配列が、タンパク質コード遺伝子であり、該遺伝子の発現が、所望により、有害物質から内耳細胞を保護することによって、または有害物質によって損傷を受けた内耳細胞の生存を増加させることによって、対象における感音性難聴の非遺伝的原因を補償してもよく、有害物質が、騒音薬物および聴器毒性薬物を含む群から選択される、実施形態20~22のいずれかに記載の使用のための組成物。
24.カーゴ配列がmiRNAであり、該miRNAの減少したまたは誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連するか、または該miRNAがその発現の上昇または誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連する遺伝子を標的とする、実施形態20に記載の使用のための組成物。
25.カーゴ配列がshRNAであり、該shRNAが上昇したまたは誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連する遺伝子を標的とする、実施形態20に記載の使用のための組成物。
26.カーゴ配列がlncRNAであり、該lncRNAの減少したまたは誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連するか、または該lncRNAが上昇したまたは誤った発現が対象における感音性難聴の発症に関連する遺伝子を調節する、実施形態20に記載の使用のための組成物。
27.カーゴ配列がCas9タンパク質をコードし、内耳の細胞へのCRISPR/Cas9送達のためのシングルガイドRNAをさらに含む、実施形態20に記載の使用のための組成物。
28.難聴が、MYO7A、GJB2、OTOF、ATOH1、SLC26A4、TMC1、TMPRSS3、GIPC3、USH1C、RDX、CLDN14、WHRN、ESPN、ILDR1、SERPINB6、KCNQ4、POU4F3、SIX1、CCDC50、MIR96、POU3F4、EYA1、KCNQ1、GJB6、STRC、TECTA、GJB3、PRPS1、CDH23、GRXCR2、CABP2、GRXCR1、SYNE4、COL11A2、LRTOMT、BSND、PJVK、CIB2、CEACAM16、TMIE、NARS2、LHFPL5、MARVELD2、SLC22A4、KARS、SLC26A5、TPRN、ELMOD3、GPSM2、COCH、ESRRB、ADCY1、EPS8L2、CD164、OTOA、S1PR2、LOXHD1、TSPEAR、EPS8、CDC14A、MSRB3、DCDC2、PNPT1、TMEM132E、FAM65B、MYO3A、CLIC5、HGF、USH2A、TBC1D24、MET、PCDH15、PTPRQ、OTOGL、MYO6、TNC、TRIOBP、BDP1、MYO15A、DI-APH1、MYH14、DFNA5、WFS1、EYA4、COL11A2、MYH9、ACTG1、SLC17A8、GRHL2、DSPP、P2RX2、MYO1A、GFI1、TYMPおよびGFI1Bからなる群から選択される遺伝子の変異によって引き起こされる、実施形態1~27のいずれかに記載の使用のための組成物。
29.カーゴ配列が、MYO7A、GJB2、OTOFATOH1、SLC26A4、TMC1、TMPRSS3、GIPC3、USH1C、RDX、CLDN14、WHRN、ESPN、ILDR1、SERPINB6、KCNQ4、POU4F3、SIX1、CCDC50、MIR96、POU3F4、EYA1、KCNQ1、GJB6、STRC、TECTA、GJB3、PRPS1、CDH23、GRXCR2、CABP2、GRXCR1、SYNE4、COL11A2、LRTOMT、BSND、PJVK、CIB2、CEACAM16、TMIE、NARS2、LHFPL5、MARVELD2、SLC22A4、KARS、SLC26A5、TPRN、ELMOD3、GPSM2、COCH、ESRRB、ADCY1、EPS8L2、CD164、OTOA、S1PR2、LOXHD1、TSPEAR、EPS8、CDC14A、MSRB3、DCDC2、PNPT1、TMEM132E、FAM65B、MYO3A、CLIC5、HGF、USH2A、TBC1D24、MET、PCDH15、PTPRQ、OTOGL、MYO6、TNC、TRIOBP、BDP1、MYO15A、DI-APH1、MYH14、DFNA5、WFS1、EYA4、COL11A2、MYH9、ACTG1、SLC17A8、GRHL2、DSPP、P2RX2、MYO1A、GFI1、TYMP、GFI1B、BDNF、GDNF、NT-3、IGF1、IGF2、CNTF、ARTN、NRTN、ATP7B、MRP1、MRP2およびMDR1からなる群から選択される遺伝子である、実施形態1~21のいずれかに記載の使用のための組成物。
30.レンチウイルスベクターが、HIV-1、HIV-2、SIV、FIVまたはEIAVを含む群から選択されるウイルスに由来する、実施形態1~29のいずれかに記載の使用のための組成物。
31.レンチウイルスベクターがHIV-1に由来する、実施形態30に記載の使用のための組成物。
32.レンチウイルスベクターがHIV-2に由来する、実施形態30に記載の使用のための組成物。
33.レンチウイルスベクターがSIVに由来する、実施形態30に記載の使用のための組成物。
34.レンチウイルスベクターがFIVに由来する、実施形態30に記載の使用のための組成物。
35.レンチウイルスベクターがEIAVに由来する、実施形態30に記載の使用のための組成物。
36.少なくとも4つの異なる発現プラスミドを提供することを含むプロセスにおいてレンチウイルスベクターをパッケージングすることにより得られる、実施形態1~35のいずれかに記載の組成物。
37.少なくとも4つの異なる発現プラスミドをパッケージング細胞に共トランスフェクトしてレンチウイルスベクター粒子を産生する方法から得ることができる、実施形態36に記載の組成物であって、ここで該パッケージング細胞は、レンチウイルスベクター、好ましくはヒト細胞株を産生するためのHEK293T細胞、HEK293細胞、NIH3T3細胞、HeLa細胞、HT1080細胞、COS-1細胞およびAGE1.CR細胞を含む群から選択される、組成物。
38.Gag/Polパッケージング構築物、Envプラスミド、Revプラスミドおよびベクタープラスミドの比が7~16:1~7:3~8:4~10である、実施形態36または37のいずれかに記載の組成物。
39.レンチウイルスベクターが、スプリットパッケージング設計により複製不能であり、3’LTRのU3領域の欠失により自己不活化する、実施形態1~38のいずれかに記載の使用のための組成物。
40.レンチウイルスベクターが遺伝子vif、vpr、vpu、nef、および所望によりtatを欠く、実施形態1~39のいずれかに記載の使用のための組成物。
41.レンチウイルスベクターが、
a)U3位置、反復領域(R)、およびU5領域に構成的に活性な異種プロモーターを含む5’LTR、
b)プライマー結合部位(PBS)、スプライスドナー部位(SD)、パッケージングシグナル(ψ)、Rev応答要素、および所望によりスプライスアクセプター(SA)部位を含む5’UTR、
c)カーゴ配列に作動可能に連結された内部エンハンサー/プロモーター領域、
d)所望によりウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(PRE)を含むRNAプロセシング要素、および
e)欠失(SIN)U3領域、反復領域(R)およびU5領域を含む3’LTR
を含む、実施形態1~40のいずれかに記載の使用のための組成物。
42.5’LTRのU3位置の異種プロモーターが、RSVプロモーター、CMVプロモーター、HIVプロモーター、真核生物プロモーター、およびTet-制御プロモーターを含む群から選択される、実施形態41に記載の使用のための組成物。
43.内部エンハンサー/プロモーター領域が、ウイルスプロモーター、細胞プロモーター、細胞特異的プロモーター、誘導性プロモーター、ハイブリッドプロモーター、および合成プロモーターを含む群から選択される、実施形態41に記載の使用のための組成物。
44.内部エンハンサー/プロモーター領域が、SFFV、MPSV、MND、MESV、CMV、MLVおよびSV40を含む群から選択されるウイルスプロモーターである、実施形態41または43のいずれかに記載の使用のための組成物。
45.内部エンハンサー/プロモーター領域がEF1a、PGK1、およびUBCを含む群から選択される細胞プロモーターである、実施形態41または43のいずれかに記載の組成物。
46.内部エンハンサー/プロモーター領域が、POU4F3、POU3F4、ATOH1、プレスチン、ペンドリンおよびMYO7Aを含む群から選択される有毛細胞特異的プロモーターおよび/またはエンハンサーである、実施形態41または43のいずれかに記載の使用のための組成物。
47.内部エンハンサー/プロモーター領域が、TET誘導性プロモーター、Cumate誘導性プロモーター、電気感受性プロモーター、および光遺伝学的スイッチからなる群から選択される誘導性プロモーターである、実施形態41または43のいずれかに記載の組成物。
48.内部エンハンサー/プロモーター領域がハイブリッドプロモーターCAGである、実施形態41または43のいずれかに記載の使用のための組成物。
49.内部エンハンサー/プロモーター領域が合成プロモーターである、実施形態41または43のいずれかに記載の使用のための組成物。
50.内部エンハンサー/プロモーター領域がクロマチン開口要素を含む、実施形態41に記載の使用のための組成物。
51.レンチウイルスベクターが非組み込みレンチウイルスベクターである、実施形態1~50のいずれかに記載の使用のための組成物。
52.内耳の細胞が、支持細胞ならびに内有毛細胞および外有毛細胞、らせん神経節ニューロンおよびグリア細胞、血管条およびらせん靱帯の細胞、側壁線維細胞、I型およびII型前庭有毛細胞、前庭支持細胞および前庭神経節ニューロンを含むコルチ器の細胞からなる群から選択される細胞である、実施形態1~51のいずれかに記載の使用のための組成物。
53.内耳の細胞が有毛細胞である、実施形態52に記載の使用のための組成物。
54.内耳の細胞がらせん神経節ニューロンである、実施形態52に記載の使用のための組成物。
55.内耳の細胞がグリア細胞である、実施形態52に記載の使用のための組成物。
56.内耳の細胞が血管条の細胞である、実施形態52に記載の使用のための組成物。
57.内耳の細胞がらせん靱帯の細胞である、実施形態52に記載の使用のための組成物。
58.内耳の細胞が側壁線維細胞である、実施形態52に記載の使用のための組成物。
59.内耳の細胞がI型またはII型前庭有毛細胞である、実施形態52に記載の使用のための組成物。
60.内耳の細胞が前庭支持細胞である、実施形態52に記載の使用のための組成物。
61.内耳の細胞が前庭神経節ニューロンである、実施形態52に記載の使用のための組成物。
62.内耳の細胞が、ベッチャー細胞、クラウディウス細胞、ダイター細胞、ヘンセン細胞または柱細胞からなる群から選択される支持細胞である、実施形態1~51のいずれかに記載の使用のための組成物。
63.内耳の細胞がベッチャー細胞である、実施形態62に記載の使用のための組成物。
64.内耳の細胞がクラウディウス細胞である、実施形態62に記載の使用のための組成物。
65.内耳の細胞がダイター細胞である、実施形態62に記載の使用のための組成物。
66.内耳の細胞がヘンセン細胞である、実施形態62に記載の使用のための組成物。
67.内耳の細胞が柱細胞である、実施形態62に記載の使用のための組成物。
68.レンチウイルスベクター力価が、超遠心分離または、精製方法、精密濾過、限外濾過、クロマトグラフィー、密度勾配超遠心分離、接線流精密濾過、または沈殿を含む他の精製方法を使用して濃縮される、実施形態1~67のいずれかに記載の使用のための組成物。。
69.10~20mMのHEPESを有するPBSを含む群から選択される生理的塩濃度およびpHを有するバッファーを含む、実施形態1~68のいずれかに記載の使用のための組成物。
70.医薬組成物が、蝸牛インプラント経路、正円窓注射、卵円窓注射、管瘻造設術、蝸牛瘻造設術ならびに内リンパ嚢への注射を含む群から選択される方法によって対象に投与される、実施形態1~69のいずれかに記載の使用のための組成物。
71.組成物が、前庭迷路の半規管の1つへの注射によって内耳の細胞に送達され(管瘻造設術)、好ましくは、対象はマウスである、実施形態1~70のいずれかに記載の使用のための組成物。
72.らせん神経節ニューロンにおけるウイルス形質導入効率が少なくとも10%、所望により少なくとも30%である、実施形態1~71のいずれかに記載の使用のための組成物。
73.対象がヒト、霊長類、イヌ、ネコ、ラット、モルモットまたはマウスである、実施形態1~72のいずれかに記載の使用のための組成物。
74.対象がヒトである、実施形態1~73のいずれかに記載の使用のための組成物。
75.対象における感音性難聴を処置するための、実施形態1~74のいずれかに記載の組成物。
76.対象における感音性難聴を予防するための、実施形態1~74のいずれかに記載の組成物。
77.感音性難聴の処置を必要とする対象において感音性難聴を処置するための方法であって、実施形態1~76のいずれかに記載の組成物の有効量を該対象に投与する工程を含む方法。
78.感音性難聴の予防を必要とする対象において感音性難聴を予防するための方法であって、実施形態1~76のいずれかに記載の組成物の有効量を該対象に投与する工程を含む方法。
【0084】
要約すると、本発明は、対象における感音性難聴の治療に使用するための、第三世代レンチウイルスベクターを含む組成物を教示す。本発明者らは、最新のレンチウイルスベクターの生成と、最適化された生産プロトコールおよび定義された粒子安定化培地でのウイルスベクターの再構成を組み合わせることにより、初めて、内耳機能の矯正または内耳機能の進行性喪失からの保護をもたらすのに十分に高い効率で、マウスの内耳に感覚有毛細胞およびSGNを形質導入することができた。そうすることで、本発明は、レンチウイルスベクターが、ヒト患者の感音性難聴を治療するための遺伝子治療に首尾よく適用される可能性を有することを実証する。
【0085】
本発明全体を通じて、「約」という用語は「+/-10%」として理解されることが意図される。「約」が範囲に関する場合、範囲の下限と上限の両方を指す。「A」は、明示的に言及されていない限り、「1つ以上」を意味することを意図している。
【0086】
本明細書で引用したすべての文献は、完全に本明細書に組み込まれる。本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】分割パッケージング設計および自己不活化ベクター構造を有する第3世代レンチウイルスベクター(LV)システム(A)LV構造の概略図。SIN:自己不活化;LTR:長い末端反復、ΔU3:自己不活化欠失を有する固有の3’領域;R:反復領域;U5:固有の5’領域;PBS:プライマー結合部位;RRE:Rev応答要素;cPPT:中央ポリプリン管;Prom.:プロモーター;GOI:目的の遺伝子;PPT:ポリプリン管;PRE:転写後調節要素。(B)ゲノムベクター情報および必要なすべての構造および酵素(Gag-Pol、Env、およびRev)成分を提供する4つの発現プラスミドをパッケージング細胞、例えば293T細胞に一時的に共トランスフェクトし、ベクター粒子を生成する。
【0088】
図2】VSV-Gで偽型化されたLVによるHEI-OC1およびSV-k1細胞株への効率的な形質導入。(A、B)HEI-OC1(蝸牛HC様条件的形質転換細胞株)にdTomatoレポータータンパク質をコードするLV調製物を形質導入し、フローサイトメトリーで分析した。(A)HEI-OC1細胞で8つの異なる感染多重度(MOI)をテストした。分析は形質導入後6日目に実施された。n=3の独立したベクトルバッチ。バーは平均形質導入効率を表す。(B)HEI-OC1細胞における発現動態解析。形質導入に成功したレポーター陽性細胞の大部分は、分析の最終時点(56日)まで安定に維持された。n=2の独立したベクトルバッチ。(C)8つの異なる感染多重度(MOI)を血管条細胞株SV-k1でテストした。分析は形質導入後6日目に実施された。n=3の独立したベクトルバッチ。バーは平均の形質導入効率を表す。(D)SV-k1細胞における発現動態解析。形質導入に成功したレポーター陽性細胞の大部分は、分析の最終時点(56日)まで安定に維持された。n=2の独立したベクトルバッチ(三角形および四角形は別個のバッチを示す)。NTC、非形質導入対照。
【0089】
図3】選択されたエンベロープ糖タンパク質は効率的にLVを偽型化する。dTomatoレポーターをエンコードするLVをパッケージ化するために、各疑似タイプで複数のバッチが生成された。力価は、RNA抽出およびそれに続くqRT-PCRによって上清1ミリリットルあたりに存在する粒子の数として評価された。記号は異なるバッチを示す。バーは、1mlあたりの粒子の平均数を表する。IND、インディアナ株;ts、温度安定性および補体耐性変異体;NJ、ニュージャージー株。
【0090】
図4】dTomatoレポータータンパク質をコードし、異なるエンベロープタンパク質で偽型化されたLVは、異なる効率で聴覚細胞株HEI-OC1に形質導入する。フローサイトメトリーによって分析を実行し、(A)dTomato陽性細胞の割合およびdTomato陽性細胞の集団内のdTomatoの平均蛍光強度(MFI)を決定した。(B)dTomatoの相対発現の計算では、形質導入効率(dTomato陽性細胞の割合)と発現レベル(MFI)という2つの関連パラメーターを細胞あたりの組み込みベクターコピー数の相関関係として組み合わせる。
【0091】
図5】偽型VSV-G、VSV-Gts、VSV-GNJ、COCV-G、およびMARAV-Gは細胞侵入にLDL受容体(LDL-R)を使用するが、PIRYV-G媒介の細胞侵入にはLDL-Rは関与しない。可溶性LDL-Rタンパク質(sLDLR、0.5または2.5/5μg/ml)を、さまざまな偽型でパッケージ化されたdTomatoレポータータンパク質をコードするLVで形質導入する前に、HEI-OC1細胞に添加した。可溶性LDL-Rの存在下または非存在下でのベクター粒子の細胞侵入をフローサイトメトリーによってモニタリングして、dTomato陽性細胞のパーセンテージを決定した。値は、それぞれの「sLDLRなし」対照に対して正規化された。IND、インディアナ株;ts、温度安定性および補体耐性変異体;NJ、ニュージャージー株。
【0092】
図6】VSV-Gで偽型化されたLV調製物による解離した初代SGNの効率的な形質導入。(A)ラットSGNを抽出、解離し、インビトロ培養に播種し、EGFPマーカー遺伝子を保有するLVをさまざまな感染多重度(MOI)で形質導入した。フローサイトメトリーにより、効率的な形質導入が明らかになり、1という低いMOIですでに20%を超えるEGFP陽性細胞が得られている。(B)EGFPレポーターを発現するLVで形質導入されたSGN培養物。上:明視野;下:EGFPチャネル。(C)dTomatoレポーター遺伝子を発現するLVで形質導入されたSGNの免疫細胞化学。神経フィラメント:SGNのマーカー。
【0093】
図7】dTomatoレポータータンパク質をコードし、異なるエンベロープタンパク質で偽型化されたLVは、初代解離SGN培養物に異なる効率で形質導入する。分析はフローサイトメトリーによって実行され、(A)dTomato陽性細胞の集団内のdTomato陽性細胞の割合およびdTomatoの平均蛍光強度(MFI)を決定し、(B)dTomatoの相対発現を計算した。2つの関連パラメーターである形質導入効率(dTomato陽性細胞の割合)と発現レベル(MFI)を組み合わせて、細胞あたりの組み込まれたベクターコピー数の相関関係を示す。(LVを偽型するために使用される各エンベロープタンパク質についてn=3)。
【0094】
図8】VSV-G偽型LV調製物によるコルチ外植片の一次器官の効率的な形質導入。ラットのコルチ器を外植し、インビトロで培養した。これらの培養物に(A)EGFP発現LVまたは(B)dTomato発現LVを形質導入すると、外植片全体で高い形質導入効率が得られた。
【0095】
図9】内耳の構造および管瘻造設術。(A)内耳は、三半規管および蝸牛を含む迷路を含有する。ウイルス粒子は、後半規管に開けられた穴を通る管瘻造設術を介して投与できる。(B)蝸牛の断面図。コルチ器(ブラックボックス)は、鼓室階と中央階を隔てる膜である基底膜上に位置する。(C)コルチ器は内有毛細胞および外有毛細胞を含有する。らせん神経節ニューロン(SGN)は、生成された電気信号を脳に投影する。
【0096】
図10】インビボLV注射時のSGNおよびHCの効率的な形質導入。dTomatoレポータータンパク質をコードするVSV-G偽型のLVを、管瘻造設術を通じて成体マウスにインビボで投与した。動物は30日目に屠殺された。上皮、らせん神経節ニューロン(SGN)、および有毛細胞(HC)はマーカータンパク質に対して高度に陽性であった。赤シグナル:dTomato;青シグナル:DAPI。(A)蝸牛の例示的なセクション。(B)内有毛細胞(IHC)および外有毛細胞(OHC)をよりよく識別するために、Aで白いボックス(コルチ器)で強調表示されたセクションの高倍率。
【0097】
図11】dTomatoレポーター導入遺伝子を送達するLVベクター粒子は、マウスの内耳に効率的に形質導入する。(A)CAGプロモーターの制御下で発現されるdTomatoレポーターを送達するVSV-G偽型化粒子を、管瘻造設術を介して投与した。分娩後2か月で蝸牛を摘出し、除去し、dTomatoタンパク質の発現を測定して形質導入パターンを特徴付けた。内有毛細胞および外有毛細胞、およびSGNは両方ともdTomato陽性であり、形質導入が成功したことを示している。(B)処置動物の蝸牛と同様に処理された未処置対照。血管条には偽陽性細胞がいくつか存在する。
【0098】
図12】dTomatoレポータータンパク質をコードし、VSV-GIND、VSV-GINDts、COCV-G、MARAV-G、Ampho糖タンパク質またはEboZ糖タンパク質で偽型化されたLVのインビボ注射時の内耳内のいくつかの異なる細胞タイプの効率的な形質導入。蝸牛のセクションが表示される。血管条(*)の形質導入細胞(赤色)、HC(白色矢印)、神経突起(#)、およびらせん神経節細胞(§)が示されている。細胞核はDAPI(青)で染色される。
【0099】
図13】治療に関連するコドン最適化ヒトClaudin14(hCLDN14co)導入遺伝子およびdTomatoレポーター蛍光タンパク質を発現するための内部SFFVプロモーター(Prom.)を有する第3世代(SIN)LVは、高い力価を生成した。(A)CLDN14の喪失による難聴を処置するためのベクターの概略図。GOI、目的の遺伝子。(B)HT1080細胞におけるVSV-G偽型CLDN14LVの力価測定は、高い力価の産生を示した。
【0100】
図14】ヒトClaudin14(hCLDN14)およびdTomato蛍光マーカータンパク質を送達するように設計されるVSV-G偽型LVによる293T細胞の効率的かつ用量依存的な形質導入。(A)dTomato発現のフローサイトメトリー分析によって決定された形質導入率は50%から80%以上の範囲であった。形質導入率は、適用された感染多重度(MOI)に依存した。(BおよびC)イムノブロット分析により、dTomato蛍光マーカータンパク質(B)およびhCLDN14(C)の発現が成功したことが示された。タンパク質発現レベルは形質導入された細胞のパーセンテージと相関し、より高いMOIで形質導入される細胞ではより高いタンパク質レベルが検出された。
【0101】
図15】CLDN14ノックアウトマウスからの蝸牛外植片におけるhCLDN14の強制発現の成功。dTomato赤色蛍光タンパク質を発現するように設計されるモノシストロニックLV、またはhCLDN14およびdTomatoを発現するように設計されるビシストロン性LVを蝸牛外植片に形質導入した後、dTomato赤色蛍光マーカータンパク質が蝸牛外植片で検出された。対照的に、dTomato発現は、非形質導入対照(NTC)外植片培養では観察されなかった。同様に、hCLDN14発現は、抗CLDN14抗体染色(緑)で示されるように、VSV-G偽型化LVCLDN14ベクターで形質導入された外植片でのみ検出された。スケールバーは100μmを表する。
【0102】
図16】ヒトミオシンVIIa導入遺伝子を送達するLV粒子は首尾よく生成できる。(A)ミオシンVIIa欠損による難聴を処置するためのベクターの概略図。ヒトミオシンVIIa(hMYO7A)cDNA配列の発現は、SFFVまたはCAGsプロモーターのいずれかによって駆動される。最初のテストでは、導入遺伝子は、IRES配列(i2.dTomato)を介してdTomatoレポーターと結合され、形質導入細胞の同定が容易になる。(B)Aに示すベクター変異体で生成されるVSV-G偽型粒子の力価。力価は、dTomatoレポーターを含む調製物について、形質導入細胞のフローサイトメトリーに基づいて決定され、ミリリットルあたりの形質導入単位(TU/mL)として表される。dTomatoレポーターを含まない調製物について、形質導入細胞内のベクターコピー数を定量するqPCRに基づいており、1ミリリットルあたりの感染性ゲノム(IG/mL)として表される。
【0103】
図17】MYO7Aのレンチウイルス送達により、マウスMyo7aノックアウト(KO)難聴マウスモデルにおいて有毛細胞が生存する。Shaker-1マウスに、生後21日目にhMYO7Aを送達するVSV-G擬似型LV粒子を注射した。生後2ヶ月で蝸牛を摘出した。(A~C)ミッドターン蝸牛台全体の内有毛細胞におけるアクチンのファロイジン染色の共焦点画像。(A)Shaker-1+/-(ミオシンVIIaKOのヘテロ接合)。(B)Shaker-1-/-(ホモ接合性KO)、未処置:有毛細胞の完全な損失が見られる。(C)Shaker-1-/-(ホモ接合型KO)、レンチウイルス処置:LV治療時の有毛細胞の生存。
【0104】
図18】LV MYO7A遺伝子治療は、ホモ接合型Shaker-1マウスの平衡機能を改善する。Myo7a発現が欠損しているホモ接合変異体シェーカーマウスを、17歳時点でMYO7Aを発現する第3世代VSV-G偽型LVおよび後半規管を介して送達されたdTomatoタグで処置した。以前の評価では、この年齢では、標的となる有毛細胞の集団が存在し、ある程度の聴力が残っていることが示唆されている。(A)離れた(rural)試験によるバランスの評価では、ベクター送達後1か月および2か月(1mo、2mo)の両方で、未処置対照と比較してロータロッド時間が統計的に有意に維持されていることが示された。しかしながら、これは統計的にはヘテロ接合同腹子よりも少なかった。(B)活動量計試験を使用した評価では、ヘテロ接合型(+/-)未処置対照およびLV処置ホモ接合型(-/-)同腹子との間に総移動距離に有意差はなく、未処置のホモ接合型と比較して有意な改善が示されたことが示された。(C)合計円弧度の評価により、LV処置ホモ接合性(-/-)動物は、未処置の年齢が一致した同腹子と比較して、円弧行動が減少していることが示された。
【0105】
図19】LVMYO7A遺伝子治療は難聴の進行を阻止する。ヘテロ接合(+/-)Shaker-1マウスは、ホモ接合野生型(+/+)マウスと比較して、生後6か月までに重大な難聴を発症する(すべての周波数でP<0.001)。Shaker-1マウスには、生後4日目に、hMYO7Aを送達するVSV-G偽型化LV粒子を注射するか、未処置のまま放置した。聴覚脳幹録音(ABR)を実行して、さまざまな音の周波数での閾値dBを決定した。LVMYO7Aでの処置により、すべての周波数で難聴の進行が予防された。
【0106】
実施例
以下の実施例では、偽型LVの調製および、感覚有毛細胞およびらせん神経節ニューロンの効果的な形質導入のためのそれらの使用を実証する。
【0107】
材料および方法
HEK293T細胞培養
材料
【表1】
【0108】
手順
・HEK293T細胞を、5%CO2存在下、37°Cの完全培養培地で保存した
・細胞を2~3日おきに継代する
-細胞を1xPBSですすぐ
-細胞を、1xトリプシン/EDTAで処置し、37°Cで1分間インキュベートすることによって剥離する
-反応を標準培地で停止させる
-培養物をそれぞれの比率(通常1:8~1:12)で分割する
【0109】
ウイルスベクター生成
材料
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
手順
・0日目:細胞播種
HEK293T細胞を、標準的な培地を使用した組織培養グレードのプラスチック皿に播種する
・1日目:パッケージング成分の一過性トランスフェクション
-すべてのパッケージング成分を、Gag/Polパッケージングコンストラクト、Envプラスミド、Revプラスミド、およびベクタープラスミドと滅菌水中で13~16:1~7:6~8:6~8の比で混合する
-10%(v/v)[250mM]塩化カルシウムを加え、よく混合する
-DNA混合物の添加中およびさらに30秒間、電動ピペットフィラーで気泡を生成しながら、DNA/CaCl2混合物を等量の2xHeBSに滴下する
-混合物を室温で15~20分間インキュベートする
-その間、培養細胞の培地を、1~2%(v/v)[10~20mM]のHEPESおよび0.1%(v/v)[25μM]クロロキンを補充した新鮮な完全培養培地に置き換える
-20分間のインキュベーション後、トランスフェクションミックスを細胞に滴下する
-細胞を37°C、5%CO2で培養する
-トランスフェクション後6~16時間で、培地を10~20mMのHEPESを補充した新鮮な完全培養培地に置き換える
・3日目:採取I
-トランスフェクションの30~36時間後、生成されたレンチウイルス粒子を含有する培地を採取し、孔径0.22μMのフィルターに通過させる
-2回目の採取のために、10~20mMHEPESを補充した新鮮な完全培養培地をトランスフェクト細胞に使用する
・4日目:採取II
-トランスフェクションの48~54時間後、1回目の採取の手順に従って2回目の採取を行う
-各プレートからの2つの採取物(IおよびII)をプールする
-ウイルスベクター調製物を、さらなる濃縮を行わずに-80°Cで直ちに凍結するかまたは超遠心分離を使用して濃縮する
【0112】
ウイルスベクターの濃縮および再構成
手順
・ウイルスベクター調製物をSW28ポリアロマー超遠心管にロードする
・濃縮のために、ウイルスベクター粒子を偽型に応じて異なる速度および実行時間で4°Cで回転させる(表を参照)。
【0113】
【表4】
【0114】
表1は、本明細書に記載の方法を使用して首尾よく産生された、カーゴとして様々な治療用導入遺伝子を保有する異なるLV粒子の集合を示す。この表は、それぞれの導入遺伝子の発現を制御するために使用されるプロモーター、共発現されるレポータータンパク質、および各LV粒子調製物で得られる力価に関する情報をさらに提供する。
【0115】
【表5】
【0116】
レンチウイルスベクター粒子のインビボ適用
手順
成体マウスを、0.9%塩化ナトリウム中のケタミン(150mg/kg)、キシロカイン(6mg/kg)およびアセプロマジン(2mg/kg)の混合物の腹腔内(IP)注射により麻酔する。背側耳介後部を切開し、後半規管を露出させる。マイクロドリルを使用して管瘻造設術が作成され、外リンパ腔が露出する。続いて、0.1μL目盛りのハミルトンマイクロシリンジおよび36ゲージ針を使用して、1μLのベクターを注入する。管瘻造設術を骨蝋で密閉し、動物を72時間かけて回復させる。マウスには術後、前庭機能障害または頭の傾きの兆候は見られなかった。
【0117】
可能性のあるヒト送達:
ヒトの内耳への送達には、主に3つの経路が考えられる。標準的なあぶみ骨切除術のアプローチを使用して、あぶみ骨底板を通してベクターを送達することができる。これは前庭器官および前庭階に送られる。鼓膜を持ち上げた後、あぶみ骨の底板が視覚化される。CO2レーザーを使用して、フットプレートに250μmの穴を開ける。注入カテーテルをあぶみ骨切開部の深さ0.5mmを超えないように配置する。ベクターの注入は10μL/分を超えない速度で実行される。
【0118】
正円窓への注射は、中耳ベースまたは後鼓膜切開アプローチを使用して行うことができる。これにより、鼓室階への送達が可能になる。中耳へのアプローチでは、鼓膜を持ち上げ、骨の丸い窓の張り出しをマイクロドリルで除去する。正円窓擬似膜を除去する。この時点で、正円窓を注入できる。正円窓の場合は、MedElGmbHが開発したマイクロインジェクション装置ならびに蝸牛カテーテルを使用してもよい。
【0119】
最後に、ヒトにおいて、内リンパ嚢に注射することによって、中央階への送達も行うことができる。乳様突起切除術の完了後、顔面神経および後半規管が特定される。内リンパ嚢が特定され、アクセスできるようになる。これらのアプローチはすべて、標準化された存在論的外科手術手順に基づいており、標準的な手術室設備および麻酔を使用する。
【0120】
結果
図1に示す改良型LVシステムは、さまざまな種類の耳の細胞、たとえば蝸牛HC様細胞株HEI-OC1や血管条細胞株SV-k1に効率的に形質導入するために使用された(図2)。最大70%、例えば20%以上、40%以上、または60%以上の形質導入効率が、低いMOI(感染多重度)で達成され、導入遺伝子発現は少なくとも56日間安定であった(図2)。
【0121】
LV粒子は、VSV-GIND、VSV-GINDts、VSV-GNJ、COCV-G、MARAV-G、PIRYV-G、EboZおよびAmphoなどのさまざまなエンベロープ糖タンパク質を使用して効率的に偽型化できる(図3)。細胞導入効率のレポーターとしてdTomato蛍光タンパク質を使用し、上記の名前のエンベロープ糖タンパク質で偽型化されたLV粒子をHEI-OC1細胞で直接比較した。フローサイトメトリー分析により、異なるエンベロープ糖タンパク質で偽型化されたLV粒子は、細胞形質導入効率(%dTomato発現細胞)および導入遺伝子発現レベル(dTomato+細胞におけるdTomatoのMFI)の降順で形質導入効率が異なることが示された:MARAV-G、COCV-G、VSV-G、VSV-Gts、PIRYV-G、Ampho、およびEboZ(図4)。
【0122】
細胞侵入阻止実験により、VSV-GIND、VSV-GINDts、VSV-GNJ、COCV-GおよびMARAV-Gで偽型化されたLV粒子は細胞侵入にLDL受容体(LDL-R)を使用するのに対し、PIRYV-G媒介細胞侵入にはLDL-Rが関与しなくてもよい(図5)。ブロッキングは、VSV-G対応物よりもCOCV-GおよびMARAV-G偽型粒子でより顕著であった(図5)。
【0123】
EGFPを発現するように操作され、VSV-Gエンベロープ糖タンパク質で偽型化されたLV粒子は、インビトロで初代ラットSGNに効率的に形質導入され、低MOIでは20%以上、高MOIでは80%以上のSGNが形質導入されたことが、EGFPのフローサイトメトリー分析で実証された(図6A)。さらに、形質導入されたSGNにおけるEGFP導入遺伝子の発現は、免疫蛍光顕微鏡法によって明確に示されている(図6B)。SGNマーカーの神経フィラメントの免疫組織化学的染色により、dTomatoを発現するように設計されたLVによるSGNの形質導入が成功したことが示された(図6C)。
【0124】
上記の図4に示したデータと同様に、細胞形質導入効率のレポーターとしてdTomato蛍光タンパク質をコードするLVは、LV粒子の偽型に使用されるエンベロープ糖タンパク質に応じて異なる効率で初代SGNエクスビボ培養物に形質導入した(図7)。フローサイトメトリー分析により、異なるエンベロープ糖タンパク質で偽型化されたLV粒子は、EboZ糖タンパク質で偽型化されたものを除き、良好な形質導入効率を有するが、導入遺伝子発現のレベルが異なり、導入遺伝子発現はMARAV-G偽型化粒子で最も高く、次いで導入効率が高いことが示された。これらは、VSV-G、COCV-G、VSV-Gts、PIRYV-G、Ampho、およびEboZエンベロープ糖タンパク質で偽型化されたものである(図7)。
【0125】
導入遺伝子としてEGFPまたはdTomatoを含むVSV-G偽型LVは、蛍光顕微鏡写真で示されるように、ラットのコルチ器外植片の一次臓器を効率的に形質導入した(図8)。EGFPおよびdTomatoがそれぞれの外植片全体で強く発現していることに注意のこと(図8)。
【0126】
マウスSGNおよびHCの効率的なインビボ形質導入は、導入遺伝子としてdTomatoレポータータンパク質をコードするVSV-G偽型化LVのインビボ注射により観察された(図10)。IHCおよびOHCを含む蝸牛全体(基部から頂点まで)のマウス内耳細胞に、dTomatoレポータータンパク質を発現するように操作されたLV粒子をインビボで効率的に形質導入した(図11)。
【0127】
この特許出願に含まれるすべての異なるレンチウイルス偽型は、正常聴力マウスへのインビボ注射により、関連する蝸牛細胞型をうまく効率的に形質導入した。重要なことは、外側および内側の両方のHC、ならびにSGNおよび血管条の細胞が、ベクターにコードされたdTomatoレポータータンパク質に対して陽性であった(図12)。MARAV-G、Ampho、およびEboZ糖タンパク質で偽型化されたLVは、血管条内のより多くの細胞層(つまり、より深い層)に形質導入するようである。
【0128】
Claudin14欠損による難聴を処置するためにヒトClaudin14(CLDN14)導入遺伝子を送達するように設計されたLV粒子は、高力価で首尾よく生成された(図13)。293T細胞の形質導入により、コードされたCLDN14およびレポーターdTomatoタンパク質の用量依存的な発現により、ベクターの機能性が確認された(図14)。重要なことに、レンチウイルスCLDN14ベクターの適用により、Cldn14ノックアウトマウスからの一次外植片においてCLDN14の発現を達成することができた(図15)。
【0129】
第2の治療関連設定では、ミオシンVIIa欠損による難聴を処置するためにヒトミオシンVIIa(MYO7A)導入遺伝子を送達するように設計されたLV粒子の製造に成功した(図16)。LV力価は、1×10~3×10TU/mLおよび2×10~4×10IG/mLの範囲であった(図16)。
【0130】
機能的には、MYO7Aのレンチウイルス送達は、難聴がMyo7aノックアウトによるものであるShaker-1マウスモデルにおける内耳有毛細胞の生存の増加をもたらした(図17)。LV粒子の遺伝子治療の可能性をさらに実証するために、MYO7AのLV送達によってホモ接合型シェーカー-1マウスの平衡機能が改善された(図18)。さまざまな音の周波数での聴力レベル(例えば閾値dB)を測定する聴性脳幹記録(ABR)により、MYO7A発現LVで処置したヘテロ接合型Shaker-1マウスは、未処置対照と比較して聴力が大幅に優れていることが実証され、遺伝子導入により、これらのマウスに共通する進行性難聴が抑制されたことがわかった(図19)。
【0131】
参照


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
2024500314000001.app
【国際調査報告】