(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】インクジェット印刷における使用のための前処理液
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20231226BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231226BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20231226BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41J2/01 123
B41J2/01 501
C09D11/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023534643
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2021084413
(87)【国際公開番号】W WO2022128573
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516255493
【氏名又は名称】キャノン プロダクション プリンティング ホールディング ビー. ヴィ.
【氏名又は名称原語表記】Canon Production Printing Holding B.V.
【住所又は居所原語表記】Van der Grintenstraat 10, 5914 HH Venlo, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビレムス,ギード・ヘー
(72)【発明者】
【氏名】シェル,イェルン・アー
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA14
2C056FC02
2C056HA42
2H186AB03
2H186AB12
2H186AB27
2H186AB54
2H186AB55
2H186AB56
2H186AB61
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB55
4J039BC09
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE22
4J039BE30
4J039GA24
(57)【要約】
本発明は、インクジェット印刷における使用のための水性前処理液であって、水;硫酸マグネシウム;並びにソルビトール、キシリトール、アドニトール、β-アラニン、プロリン、及びγ-アミノ酪酸から成る群から選択される結晶化遅延剤を含む、水性前処理液に関する。前処理液は、非黄変性、無臭であり、乾燥時に結晶化しない。水性インクと組み合わせて本発明による前処理液を使用することにより作られた印刷物は、長期間の後の端部カールの著しい低減を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷における使用のための水性前処理液であって、
a.水;
b.硫酸マグネシウム;並びに
c.ソルビトール、キシリトール、アドニトール、β-アラニン、プロリン、及びγ-アミノ酪酸から成る群から選択される結晶化遅延剤
を含む、水性前処理液。
【請求項2】
硫酸マグネシウムが、前処理液組成物全体に対して無水MgSO
4を基準として10wt%を超える濃度で存在する、請求項1に記載の水性前処理液。
【請求項3】
結晶化遅延剤が前処理液組成物全体に対して10wt%を超える量で存在する、請求項1又は2に記載の水性前処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷における使用のための水性前処理液、特にインクジェット画像形成デバイスにより記録基材上に施用するのに適している水性前処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷の分野において、前処理液は印刷品質を改善するために使用される。前処理液はインク中の成分と反応する成分を含み、例えば分散顔料粒子(インク中に存在する)のコロイド安定性は金属塩(前処理液中に存在する)によって与えられる。したがって、インク組成物と前処理液との間で接触が起こると、分散顔料粒子が不安定化し、凝集し、記録基材の表面に固定される。したがって、マシンコート(MC)紙上の(色間の)色にじみ及び融合を防ぐことができ、これは印刷品質の改善となる。普通紙においてODは増加し、透け感は減少する。
【0003】
前処理液は先行技術で知られており、通常は、定着剤及び/又はクラッシング剤の機能を有する、強酸性化合物又は(多)価金属塩のいずれかを含む。
【0004】
反応溶液若しくは反応液、プライマー液、処理液、又はインク受容溶液とも呼ばれる、多価金属塩を含む前処理液は、先行技術により、特にUS6,419,352;US6,786,588;US8,523,342;US8,591,018;US2011/0303113;US2012/0098883;US2012/0314000;及びWO2014/051547により知られている。
【0005】
公開された米国特許出願公開第2012/0019588号は、金属カルボン酸塩を定着剤として含む、インクジェット印刷用の定着液を開示している。特に酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸カルシウム、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、カルシウムシアナミド、リン酸カルシウム、乳酸カルシウム、硝酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、及び硫酸カルシウムが定着剤として開示されている。
【0006】
公開された米国特許出願公開第2014/0055520号は、少なくとも1つの金属塩、特に塩化カルシウムを含む、インク受容溶液を開示している。
【0007】
JP2014097632は、少なくとも水溶性有機溶媒、両親媒性物質、有機酸若しくは有機酸塩、及び/又はカチオンポリマー、疎水性架橋剤、及び水を含む、記録媒体を処理するための処理液を開示している。コハク酸ビスエトキシジグリコール、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムは、両親媒性物質として引用することができる。
【0008】
EP2489707A1は、シアン又はマゼンタ顔料粒子、並びに(実質的に)水不溶性の樹脂粒子及び/又は水不溶性のワックス粒子を含む、インク組成物を開示している。そのようなインクと、インク組成物と接触すると凝集物を形成する凝集成分を含む処理液とを含む、インクセットも開示されている。
【0009】
EP0761783A2は、インクジェットインク及びインクジェット記録法を開示しており、ここでは反応溶液が、インク組成物と接触させるとインク組成物中の顔料の分散及び/又は溶解の状態を破壊することが可能である反応物を含有する。
【0010】
WO2011/099977A1は、金属カルボン酸塩を定着剤として含む、インクジェット印刷用の定着液組成物を開示している。
【0011】
EP0959112A1は、少なくとも多価金属塩、アンモニア、及びベンゾトリアゾール又はベンゾトリアゾール誘導体を含む、反応溶液を開示している。
【0012】
US2012/229558A1は、水;及び1重量%以上の量で処理溶液中に含有される塩基性アミノ酸又はその塩を含む、インクジェット記録用の処理溶液を開示している。塩基性アミノ酸の開示される例は、リシン、アルギニン、ヒスチジン、及びオルニチンである。
【0013】
US2012/0098883は、硫酸マグネシウムを含有する水性プライマー剤(前処理液)を開示している。硫酸マグネシウムは、インクジェット印刷の観点から好ましい前処理溶液である、非黄変前処理液を実現する。
【0014】
硫酸マグネシウムは、非黄変性であり(マグネシウム/カルシウム-硝酸塩のような)臭いが少ない(マグネシウム/カルシウム-酢酸塩、又はマグネシウム/カルシウム-プロピオン酸塩のような)という有益性を有する、非毒性塩である。
【0015】
硫酸マグネシウムをクラッシング剤として含む前処理液の欠点は、特に高濃度において硫酸マグネシウムがプライマー溶液中で結晶化する傾向があるということである。前処理液の薄膜の施用が可能となるように、最小量の液体(例えば水)を使用して適正量のクラッシング剤を印刷基材の表面に与えることを可能とするために、高濃度のクラッシング塩が望ましい。前処理液中のクラッシング剤の結晶化は、画像形成デバイスの吐出経路に障害物を形成し得る結晶の存在に起因して、前処理溶液の吐出性を損なう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6,419,352号明細書
【特許文献2】米国特許第6,786,588号明細書
【特許文献3】米国特許第8,523,342号明細書
【特許文献4】米国特許第8,591,018号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2011/0303113号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2012/0098883号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2012/0314000号明細書
【特許文献8】国際公開第2014/051547号
【特許文献9】米国特許出願公開第2012/0019588号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2014/0055520号明細書
【特許文献11】特開2014-097632号公報
【特許文献12】欧州特許出願公開第2489707号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第0761783号明細書
【特許文献14】国際公開第2011/099977号
【特許文献15】欧州特許出願公開第0959112号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2012/229558号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって本発明の目的は、非黄変性及び無臭性をもたらし、良好な吐出性をもたらし、耐カール性をもたらす前処理液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の要旨)
目的物は請求項1に記載の前処理液により少なくとも部分的に得られる。
【0019】
そのような前処理液は、水及び硫酸マグネシウムに加えて、結晶化遅延剤を含む。非移行性溶媒である結晶化遅延剤は、印刷物の乾燥後に結晶性となり、これはインク組成物中で多くの場合に必要とされる移行性液体溶媒、例えばグリセロール、エチレングリコール、2-ピロリドンなどによって引き起こされるカールを和らげることが可能である。
【0020】
好適な非移行性溶媒は、ソルビトール、キシリトール、アドニトール、β-アラニン、プロリン、及びγ-アミノ酪酸である。
【0021】
一実施形態において、硫酸マグネシウムは、前処理液組成物全体に対して無水硫酸マグネシウムを基準として10wt%を超える濃度で存在する。
【0022】
一実施形態において、結晶化遅延剤は、前処理液組成物全体に対して10wt%を超える、好ましくは12wt%を超える、より好ましくは15wt%を超える量で存在する。
【0023】
本発明及びその利点のより完全な理解のために、本発明の例示的な実施形態は添付の図面を参照して以下の説明においてより詳細に説明され、ここで同様の参照文字は同様の部材を示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】蒸発実験の結果:A)硫酸マグネシウム溶液、B)硫酸マグネシウム及びβ-アラニンを含む前処理液(比較例A並びに実施例1及び2)。
【
図2】共溶媒:A)ソルビトール(実施例3);B)β-アラニン(実施例4);C)γ-アミノ酪酸(実施例5);及びD)プロリン(実施例6)を含む、本発明によるいくつかの前処理溶液の蒸発実験の結果。
【
図3】A)前処理液不使用;B)前処理液2;C)前処理液1について、印刷の1か月後のカールを示す、印刷の実施例の結果。
【発明を実施するための形態】
【0025】
前処理液
本発明による前処理液は、非黄変性、無臭のクラッシング剤である、金属硫酸塩を含む。前処理液は、共溶媒、pH-調節剤、及び界面活性剤などの添加剤を含んでいてもよい。本発明による前処理液は、当技術分野において良く知られている、普通紙及びマシンコート(MC)紙上で好適に使用することができる。
【0026】
金属塩
本発明による前処理液において好適に使用できる金属硫酸塩は、一価金属イオン、例えばLi+、Na+、K+、Hg+、Cu+、及びAg+などを含む。しかし、印刷基材(特に紙様基材)の変形を防ぐために、前処理液の薄層を印刷基材に施用できることが好ましい。したがって、有効な前処理液を薄層で提供するために、比較的高いイオン強度を与える塩が好ましい。
【0027】
本発明の文脈において、イオン強度は式1:
【0028】
【数1】
にしたがって定義され、式中、
IはM(すなわちmol/l)で表されるイオン強度であり;
c
iはイオンiの濃度であり;
Z
iはイオンiの価数である。
【0029】
例えば、0.5mol/l Na2SO4溶液のイオン強度は
0.5*(2*0.5*(1)2+1*0.5*(-2)2)=1.5M
である。
【0030】
守られるべき別の基準は、選択された塩の溶解性が、有効な反応溶液を調製することができるのに十分に高いことである。これらの理由によって、多価金属イオン、例えばCa2+、Mg2+、Sr2+、Zn2+、Cu2+、Ni2+、Fe3+、Cr3+、及びAl3+などが好ましい。これらのうち、HSEの理由によりMg2+及びCa2+が好ましい。CaSO4は水に不溶性であり、したがって、上記の理由によりMg2+が最も好ましい。
【0031】
一般に、本発明による前処理液は、組成物全体を基準として10wt%~60wt%の間、好ましくは15w%~50wt%の間、より好ましくは20wt%~40wt%の間の多価金属硫酸塩を含む。しかし塩の量は塩の最大の溶解度に限定される。前処理液中の塩の飽和度(実際の濃度/最大溶解度*100%)は、一般に10%~100%の間、好ましくは15%~95%の間、より好ましくは20%~80%の間である。
【0032】
共溶媒
吐出性の要求を満たすために、共溶媒が前処理液に加えられてもよい。共溶媒は、例えば前処理液のレオロジー的挙動を改良する、及び/又は画像形成デバイス内若しくは画像形成デバイスのノズル表面上での前処理液の乾燥を防ぐなどの、複数の機能を有し、この乾燥は画像形成デバイス内又はノズルプレート上での金属塩の析出につながることがある。共溶媒はまた、主溶媒(水)の印刷基材への浸透を改善するためにも使用されてもよく、そのような共溶媒は浸透剤とも呼ばれる。使用される共溶媒のタイプは、本発明の効果が保たれる限り、いかなる種類にも限定されない。(水性)インク組成物において同様に使用される共溶媒は、本発明による前処理液において好適に使用され得る。好適な共溶媒の例は、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、窒素含有複素環化合物、アミド、アミン、アンモニウム化合物、硫黄含有化合物、プロピレンカーボネート、及びエチレンカーボネートなどの水溶性有機溶媒である。本発明では、基材上に印刷される場合に非移行性成分である固体共溶媒が使用され、したがってこれは施用された前処理層の上に印刷されたインク組成物中に存在する移行性共溶媒に対抗し得る。このようにして、印刷物の(長期の)カールを防ぐ又は少なくとも軽減することができる。
【0033】
水溶性有機溶媒の例としては、(限定はされないが)グリセリン(グリセロールとも呼ばれる)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、好ましくは200グラム/mol~1000グラム/mol(例えばPEG200、PEG400、PEG600、PEG800、PEG1000)の間の分子量を有するポリエチレングリコール、グリセリンエトキシレート、ペンタエリスリトールエトキシレート、好ましくは200グラム/mol~1000グラム/molの間の分子量を有するポリエチレングリコール(ジ)メチルエーテル、トリメチロール-プロパン、ジグリセロール(ジグリセリン)、トリメチルグリシン(ベタイン)、N-メチルモルホリンN-オキシド、デカグリセリン、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-ピロリジノン、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノピロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、3-メチル2,4-ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、及び1,2-ブタンジオールが挙げられる。
【0034】
耐カール性を与える好適な固体共溶媒は、限定はされないが、キシリトール、ベタイン(トリメチルグリシン)、イソソルビド、ジメチル尿素(DMU)、ソルビトール、及びアドニトールである。他の耐カール性(固体)共溶媒の例は、特定のアミノ酸、例えば(限定はされないが)β-アラニン、プロリン、及びγ-アミノ酪酸である。
【0035】
一実施形態において、水溶性有機溶媒の混合物が本発明による前処理液に含まれていてもよい。個々の有機溶媒は、インク組成物全体に対して、好ましくは1重量%~40重量%の量で、より好ましくは3重量%~30重量%の量で、さらにより好ましくは5重量%~20重量%の量で存在する。
【0036】
pH-調節剤
使用されるプリントヘッドについて指定されるpHの要求を満たすために、pH-調節剤を前処理液へ加えて前処理液体のpHを最適化することができる。一般に、プリントヘッドのpHの仕様はアルカリ領域(すなわちpH>7)内である。したがって、アルカリ性pH-調節剤が好ましい。好適なpH-調節剤の例は、(限定はされないが)KOH、アンモニア、(第二級及び第三級)アミン、アミノアルコール、特にN-アルキル-ジアルカノールアミンである。好適なアミノアルコールの具体例は、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチル-モノエタノールアミン、及びN-n-ブチル-ジエタノールアミンである。
【0037】
通常、pH-調節剤は前処理液中に少量で、特に前処理液組成物全体に対して1wt%未満で存在する。しかし、pH-調節剤は、所望のpHに到達するまで、及び本発明の効果が保たれる限り、任意の量で好適に施用することができる。
【0038】
界面活性剤
界面活性剤を前処理液へ加えて印刷基材上の前処理液の伸展挙動を改善することができる。好適な界面活性剤の例は、本発明の効果が保たれる限り、いかなる種類にも限定されない。
【0039】
界面活性剤の例としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、特にベタイン界面活性剤、シリコーン界面活性剤、及びフルオロ界面活性剤が挙げられる。特に、アセチレン界面活性剤、シリコーン界面活性剤、及びフルオロ界面活性剤から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0040】
カチオン性界面活性剤の例としては、脂肪族アミン塩、脂肪族第四級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩が挙げられる。
【0041】
アニオン性界面活性剤の例としては、アルキル硫酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリン酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩の塩、脂肪酸石けん、N-アシル-N-メチルグリシン塩、N-アシル-N-メチル-β-アラニン塩、N-アシルグルタメート、アシル化ペプチド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩(例えばスルホコハク酸ジオクチルナトリウム塩(DSS);別名:ドクサートナトリウム、エアロゾルOT、及びAOT)、アルキルスルホアセテート、α-オレフィンスルホネート、N-アシル-メチルタウリン、スルホン化油、高級アルコール硫酸塩、第二級高級アルコール硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、第二級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸塩、アルキルエーテルリン酸塩、及びアルキルリン酸塩が挙げられる。
【0042】
両性界面活性剤の例としては、カルボキシベタインタイプ、スルホベタインタイプ、アミノカルボン酸塩、及びイミダゾリウムベタインが挙げられる。
【0043】
非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン第二級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、甘蔗糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキシド、アルコキシル化アルコール、アセチレングリコール、エトキシ化アセチレングリコール、アセチレンアルコールが挙げられる。
【0044】
フルオロ界面活性剤として、2~16個のフッ素置換炭素原子を有する界面活性剤が好ましく、界面活性剤4~16個のフッ素置換炭素原子を有する界面活性剤がより好ましい。フッ素置換炭素原子の数が2未満である場合、フルオロ界面活性剤に特有の効果が得られないことがある。これが16個を超える場合、保存安定性の低下などが生じることがある。
【0045】
フルオロ界面活性剤の例としては、非イオン性フルオロ界面活性剤、アニオン性フルオロ界面活性剤、及び両性フルオロ界面活性剤が挙げられる。
【0046】
非イオン性フルオロ界面活性剤の例としては、ペルフルオロアルキルリン酸エステル化合物、ペルフルオロアルキルエチレンオキシド付加体、及びペルフルオロアルキルエーテル基を側鎖として有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が挙げられる。これらの中で、ペルフルオロアルキルエーテル基を側鎖として有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が好ましく、なぜならそれらは起泡性が低いからである。
【0047】
フルオロ界面活性剤として、市販品が使用されてもよい。
【0048】
市販品の例としては、SURFLON S-HI、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、及びS-145(これらのすべては旭硝子株式会社製である)、FLUORAD FC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、及びFC-431(これらのすべては住友スリーエム株式会社製である)、MEGAFAC F-470、F-1405、及びF-474(これらのすべては大日本インキ化学工業株式会社製である)、ZONYL TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSG-100、FSO、FS-300、及びUR(これらのすべてはデュポン・ド・ヌムール社製である)、FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、及びFT-400SW(これらのすべては株式会社ネオス製である)、並びにPOLYFOX PF-136A、PF-156A、PF-151N、PF-154、及びPF-159(これらのすべてはOMNOVA Solutions Inc.製である)が挙げられる。これらの中で、ZONYL FS-300(E.I.du Pont de Nemours and Company製)、FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(株式会社ネオス製)、及びPOLYFOX PF-151N(OMNOVA Solutions Inc.製)は、それらが印刷品質において、特に発色能力及び色素レベリング性において優れているという点で好ましい。
【0049】
シリコーン界面活性剤は特に限定されず、意図する用途にしたがって好適に選択することができる。
【0050】
シリコーン界面活性剤の例としては、側鎖修飾ポリジメチルシロキサン、両末端修飾ポリジメチルシロキサン、片側末端修飾ポリジメチルシロキサン、及び側鎖/両末端修飾ポリジメチルシロキサンが挙げられる。修飾基としてポリオキシエチレン基又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル修飾シリコーン界面活性剤が特に好ましく、なぜならそれらは水性界面活性剤として優れた物理特性を示すからである。
【0051】
シリコーン界面活性剤は好適に合成されてもよく、又は市販品を使用してもよい。市販品は、BYK Chemie GmbH、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学株式会社などより容易に入手可能である。
【0052】
ポリエーテル修飾シリコーン界面活性剤は特に限定されず、意図する用途にしたがって好適に選択することができる。それらの例としては、式1により表されるポリアルキレンオキシド構造がジメチルポリシロキサンのSi部分側鎖に含まれる化合物が挙げられる。
【0053】
【化1】
式中、X=-R(C
2H
4O)
a(C
3H
6O)
bR’である。
【0054】
式1において、x、y、a、及びbはそれぞれ整数であり;Rはアルキル基を表し、R’はアルキレン基を表す。
【0055】
ポリエーテル修飾シリコーン界面活性剤/ポリアルキレンオキシド修飾シリコーンとして、市販品を使用してもよい。
【0056】
市販品の例としては、KF-618、KF-642、及びKF-643(信越化学工業株式会社製);EMALEX-SS-5602及びSS-1906EX(日本エマルジョン株式会社製);FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、及びFZ-2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製);並びにBYK-33、BYK331、BYK341、BYK348、BYK349、BYK3455、BYK-387(BYK Chemie GmbH製);Tegowet240、Tegowet245、Tegowet250、Tegowet260(Evonik製);Silwet L-77(Sabic製)、DBE714界面活性剤が挙げられる。
【0057】
この項で述べられるあらゆる界面活性剤は単独で使用されてもよく、又は複数の組み合わせで使用されてもよい。
【0058】
エトキシ化アセチレングリコールは式2に示すような一般構造を有する。
【0059】
【0060】
式中、R1及びR4は3~10個、好ましくは3~6個の炭素原子を有する同一の又は異なるアルキル基であり、好ましくはR1及びR4は同一であり、R2及びR3は同一であり又は異なり、メチル及びエチルから選択され、好ましくはR2及びR3は共にメチルであり、x及びyは共に整数であり、1~60の間の範囲の合計を有する。
【0061】
一実施形態において、式2によるエトキシ化アセチレングリコールは、本発明によるインク組成物において単独で又は他の界面活性剤との組み合わせで界面活性剤として使用され、式中、x及びyは互いに独立であり、各々は0~25の間、好ましくは0~20の間、より好ましくは0~15の間の範囲内であるが、ただしx及びyのうち少なくとも1つは0を超えるものとする。
【0062】
エトキシ化アセチレングリコールの具体例は、エトキシ化3-メチル-1-ノニン-3-オール、エトキシ化7,10-ジメチル-8-ヘキサデシン-7,10-ジオール、エトキシ化4,7-ジメチル-5-デシン-4,7-ジオール、エトキシ化2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、及びエトキシ化2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオールである。これらは互いに組み合わせて使用することができる。
【0063】
界面活性剤は、別々に及び複数の組み合わせで使用されてもよい。
【0064】
インク
前処理液に含まれる塩と接触すると凝集する分散粒子を含む、任意のインク組成物を使用してもよい。分散粒子は、着色剤粒子、特に顔料粒子、及び/又はラテックス粒子であってもよい。好適なインクの例は、水性顔料インク及びラテックスインクであり、インク中に存在する粒子(例えば顔料粒子及び/又はラテックス粒子)は、本発明によるプライマー組成物中に存在する金属塩と反応しやすい。そのようなインク組成物は、例えば公開済みの国際特許出願公開第2013/131924号、特に実施例及び引用される先行技術において開示され、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
着色剤
着色剤粒子は、着色剤が水分散型である限り、顔料若しくは顔料の混合物、染料若しくは染料の混合物、又は顔料及び染料を含む混合物であってもよい。
【0066】
本発明で使用可能な顔料の例としては、限定されることなく一般的に知られているものが挙げられ、水分散性型顔料又は油分散型顔料のいずれかが使用可能である。例えば、不溶性顔料又はレーキ顔料などの有機顔料、並びにカーボンブラックなどの無機顔料が好ましくは使用可能である。
【0067】
不溶性顔料の例は特に限定はされないが、好ましいのはアゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、又はジケトピロロピロール色素である。
【0068】
例えば、黒色及びカラーインク用の無機顔料及び有機顔料が例示される。これらの顔料は単独で又は組み合わせで使用されてもよい。無機顔料としては、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、及びクロムイエローに加えて、接触法、炉による方法、及び熱的方法などの既知の方法により製造されたカーボンブラックを使用することが可能である。
【0069】
有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、及びキノフタロン顔料)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、及び酸性染料型キレート)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックを使用することが可能である。これらの中で、特に、水との高い親和性を有する含量が好ましく使用される。
【0070】
好ましく使用可能である特定の顔料を以下に記載する。
【0071】
マゼンタ又は赤色の顔料の例としては、C.I.ピグメントレッド1、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド17、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド23、C.I.ピグメントレッド31、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、C.I.ピグメントレッド48:3、C.I.ピグメントレッド48:4、C.I.ピグメントレッド49:1、C.I.ピグメントレッド52:2;C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1(ブリリアントカーミン6B)、C.I.ピグメントレッド60:1、C.I.ピグメントレッド63:1、C.I.ピグメントレッド64:1、C.I.ピグメントレッド81.C.I.ピグメントレッド83、C.I.ピグメントレッド88、C.I.ピグメントレッド101(ベンガラ)、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド106、C.I.ピグメントレッド108(カドミウムレッド)、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド114、C.I.ピグメントレッド122(キナクリドンマゼンタ)、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド44、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド172、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド185、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド193、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド219、及びC.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット5:1、C.I.ピグメントバイオレット16、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、及びC.I.ピグメントバイオレット38が挙げられる。
【0072】
オレンジ色又は黄色の顔料の例としては、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー24、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー35、C.I.ピグメントイエロー37、C.I.ピグメントイエロー42(黄色酸化鉄)、C.I.ピグメントイエロー53、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー81、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー100、C.I.ピグメントイエロー101、C.I.ピグメントイエロー104、C.I.ピグメントイエロー408、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー117、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー153、及びC.I.ピグメントイエロー183;C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントオレンジ17、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ43、及びC.I.ピグメントオレンジ51が挙げられる。
【0073】
緑色又はシアンの顔料の例としては、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3(フタロシアニンブルー)、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー17:1、C.I.ピグメントブルー56、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントブルー63、C.I.ピグメントグリーン1、C.I.ピグメントグリーン4、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン8、C.I.ピグメントグリーン10、C.I.ピグメントグリーン17、C.I.ピグメントグリーン18、及びC.I.ピグメントグリーン36が挙げられる。
【0074】
上記の顔料に加えて、赤色、緑色、青色、又は中間色が必要な場合、以下の顔料を個々に又はこれらの組み合わせで採用することが好ましい。採用可能な顔料の例としては、C.I.ピグメントレッド209、224、177、及び194、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.バットバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、23、及び37、C.I.ピグメントグリーン36、及び7、C.I.ピグメントブルー15:6が挙げられる。
【0075】
さらに、黒色の顔料の例としては、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7、及びC.I.ピグメントブラック11が挙げられる。本発明で使用可能な黒色インクの顔料の具体例としては、カーボンブラック(例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャネルブラック);(C.I.ピグメントブラック7)、又は金属系顔料(例えば、銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、及び酸化チタン;及び有機顔料(例えば、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)が挙げられる。
【0076】
インクジェットインクに含有される水不溶性顔料の量は、固形分として、好ましくは0.5重量%~15重量%、より好ましくは0.8重量%~10重量%、さらにより好ましくは1重量%~6重量%の間である。水不溶性顔料の量が0.5重量%未満である場合、インクの発色能力及び画像濃度が低下する場合がある。これが15重量%を超える場合、不都合なことに、インクの粘度が上昇し、インク吐出安定性の低下を引き起こす。
【0077】
ラテックス粒子
本発明によるインクセット中に存在するインクジェットインクは、記録媒体への顔料定着性を考慮して水分散型樹脂(ラテックス樹脂)を含有していてもよい。水分散型樹脂としては、膜形成性(画像形成性)に優れ、高い撥水性、高い耐水性、及び高い耐候性を有する水分散型樹脂が、高い耐水性及び高い画像濃度(高い発色能力)を有する画像の記録において有用である。
【0078】
水分散型樹脂の例としては、合成樹脂及び天然ポリマー化合物が挙げられる。
【0079】
合成樹脂の例としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、アクリル-シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂、並びにスチレン-アクリレートコポリマー樹脂、スチレン-ブタジエンコポリマー樹脂などのコポリマーが挙げられる。
【0080】
天然ポリマー化合物の例としては、セルロース、ロジン、及び天然ゴムが挙げられる。
【0081】
一実施形態において、本発明で使用される水分散型樹脂は、カルボン酸基又はスルホン酸基などの水溶性官能基を有する樹脂でできていてもよい。
【0082】
一実施形態において、本発明によるインク組成物は、水分散型樹脂の高速の凝集効果をもたらすことを考慮して、解離速度が小さいカルボン酸基を有する樹脂を含む。カルボン酸基はpH変化によって影響を受ける傾向があるので、分散状態が容易に変化し、その凝集性は高い。本発明の実施形態によるインク組成物における使用のために適している樹脂の例は、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレンブタジエン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリルスチレン樹脂、ブタジエン樹脂、及びスチレン樹脂である。水分散型樹脂の樹脂成分に関して、これは親水性部分及び疎水性部分の両方を分子内に有するポリマーであることが好ましい。疎水性部分を有することにより、疎水性部分が水分散型樹脂の内側に向かって配向し、親水性部分が水分散型樹脂の外側に向かって効果的に配向することが可能である。その結果として、液体のpH変化に応答した分散状態の変化がより大きくなり、インクの凝集がより効率的に行われることになる。
【0083】
市販の水分散型樹脂エマルションの例としては、Joncryl537及び7640(スチレン-アクリル樹脂エマルション、Johnson Polymer Co.,Ltd.製)、Microgel E-1002及びE-5002(スチレン-アクリル樹脂エマルション、日本ペイント株式会社製)、Voncoat4001(アクリル樹脂エマルション、大日本インキ化学工業株式会社製)、Voncoat5454(スチレン-アクリル樹脂エマルション、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE-1014(スチレン-アクリル樹脂エマルション、日本ゼオン株式会社製)、Jurymer ET-410(アクリル樹脂エマルション、日本純薬株式会社製)、Aron HD-5及びA-104(アクリル樹脂エマルション、東亜合成株式会社製)、Saibinol SK-200(アクリル樹脂エマルション、サイデン化学株式会社製)、及びZaikthene L(アクリル樹脂エマルション、住友精化株式会社製)、DSM Neoresinsのアクリルコポリマーエマルション、例えばNeoCryl製品ライン、特にアクリルスチレンコポリマーエマルションNeoCryl A-662、NeoCryl A-633、NeoCryl A-1131、NeoCryl A-2091、NeoCryl A-550、NeoCryl BT-101、NeoCryl SR-270、NeoCryl XK-52、NeoCryl XK-39、NeoCryl XK-205、NeoCryl A-1044、NeoCryl A-1049、NeoCryl A-1110、NeoCryl A-1120、NeoCryl A-1127、NeoCryl A-2092、NeoCryl A-2099、NeoCryl A-308、NeoCryl A-45、NeoCryl A-615、NeoCryl BT-24、NeoCryl BT-26、NeoCryl BT-36、NeoCryl XK-15、NeoCryl X-151、NeoCryl XK-232、NeoCryl XK-234、NeoCryl XK-237、NeoCryl XK-238-NeoCryl XK-86、NeoCryl XK-90、及びNeoCryl XK-95が挙げられる。しかし、水分散型樹脂エマルションはこれらの例に限定されない。
【0084】
フッ素系樹脂としては、フルオロオレフィン単位を有するフッ素系樹脂微粒子が好ましい。これらのうち、フルオロオレフィン単位及びビニルエーテル単位を含有するフッ素含有樹脂微粒子が特に好ましい。フルオロオレフィン単位は特に限定はされず、意図する用途にしたがって好適に選択することができる。それらの例としては、-CF2CF2-、-CF2CF(CF3)-、及び-CF2CFCl-が挙げられる。
【0085】
ビニルエーテル単位は特に限定はされず、意図する用途にしたがって好適に選択することができる。それらの例としては、-C(Ra)HC(ORb)-(式中、Raは水素原子又はメチル基であり;Rbは-CH2Rc、-C2H4Rc、-C3H6Rc、-C4H8Rc、及び-C5H10Rcから成る群から選択されてもよく、式中、Rcは水素原子(-H)、ヒドロキシ基(-OH)、又はカルボン酸基(-COOH)から成る群から選択される)が挙げられる。
【0086】
フルオロオレフィン単位及びビニルエーテル単位を含有するフッ素含有ビニルエーテル系樹脂微粒子として、フルオロオレフィン単位及びビニルエーテル単位が交互に共重合されている交互コポリマーが好ましい。そのようなフッ素系樹脂微粒子としては、好適に合成された化合物を使用してもよく、市販品を使用してもよい。市販品の例としては、大日本インキ化学工業株式会社製のFLUONATE FEM-500及びFEM-600、DICGUARD F-52S、F-90、F-90M、F-90N、及びAQUAFURFURAN TE-5A;旭硝子株式会社製のLUMIFLON FE4300、FE4500、FE4400、ASAHI GUARD AG-7105、AG-950、AG-7600、AG-7000、及びAG-1100が挙げられる。
【0087】
水分散型樹脂はホモポリマー、コポリマー、又は複合材樹脂の形態で使用されてもよく、単一相構造又はコアシェル構造を有する水分散型樹脂のあらゆるもの、及びパワーフィード乳化重合により調製されたものが使用されてもよい。
【0088】
水分散型樹脂としては、それ自体が親水性基を有しそのため一定程度の自己分散性を有する樹脂、並びにそれ自体は分散性を有していないが界面活性剤及び/又は親水性基を有する別の樹脂の使用により分散性が与えられた樹脂を使用することが可能である。これらの樹脂の中で、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂のイオノマーを乳化重合又は懸濁重合することにより得られる樹脂のエマルションが最も好適に使用される。不飽和モノマーの乳化重合の場合、樹脂分散液は、水中モノマーのエマルションにおいて分散モノマー相の重合反応を開始させることにより得られる。重合開始剤、界面活性剤、連鎖移動剤、キレート化剤、及びpH調整剤を水中モノマーのエマルションに加えてもよい。したがって、水分散型樹脂は容易に得ることができ、樹脂成分を変えることができるので所望の特性が容易に得られる。
【0089】
本発明のインク中に加えられる水分散型樹脂の含量は、インクの総重量を基準として好ましくは1~40重量%であり、より好ましくは1.5~30重量%、なおより好ましくは2~25重量%である。
【0090】
さらにより好ましくは、インクジェットインク中に含有される水分散型樹脂の量は、固形分として、インク組成物全体に対して2.5重量%~15重量%、より好ましくは3重量%~7重量%である。
【0091】
インクは共溶媒及び界面活性剤などの添加剤を含んでいてもよく、これらはいかなる種類にも限定されず、上記のような本発明による前処理液で使用される共溶媒及び界面活性剤と同様であってもよい。
【0092】
本発明によるインクセットは、本発明による前処理液及び上記のようなインク組成物を含む。
【実施例】
【0093】
材料
Multiwet SilをCrodaより入手し;Latex分散液Neocryl XK205をDSM Neoresinsより入手し;顔料分散液COJ 450 CをCabotより入手した。すべての他の材料はSigma Aldrichより入手した。すべての材料はそのまま使用した。
【0094】
比較例A(CE-A):硫酸マグネシウム溶液の蒸発実験。
27.1グラムの硫酸マグネシウム七水和物(MgSO
4.7H
2O)を72.9グラムの脱塩水(又は他の当量)へ加えることにより、27.1wt%溶液の硫酸マグネシウム七水和物を調製した。MgSO
4.7H
2Oが完全に溶解するまで混合物を撹拌した。5グラムの混合物を使い捨てのアルミニウムトレーに加え、室温で3日間置いた。残渣を秤量した。この特定の実施例において、溶液の量は5.00グラムであった。残渣の重量は1.94グラムであった。したがって残渣は元の試料の38.8wt%であった。試料を撮影した写真(
図1A)は明らかに硫酸マグネシウムの結晶化を示す。
【0095】
[実施例1] 本発明による前処理液(前処理液1)の調製。
27.11グラムの硫酸マグネシウム七水和物(MgSO4.7H2O)、20グラムのβ-アラニン、5グラムの1M酢酸、0.85グラムのN-n-ブチルジエタノールアミン、0.40グラムのEmpigen BB、及び0.20グラムのMultiwet SUを46.44グラムの水に加えて100グラムの前処理溶液1を得ることにより、前処理液を調製した。
【0096】
[実施例2] 前処理液1の蒸発実験。
5グラムの前処理液を使い捨てのアルミニウムトレーに加え、室温で3日間置いた。残渣を秤量した。この特定の実施例において、溶液の量は4.99グラムであった。残渣の重量は1.93グラムであった。したがって残渣は元の試料の38.7wt%であった。試料を撮影した写真(
図1B)は明らかに硫酸マグネシウムの結晶化の兆候を示さない。
【0097】
[実施例3~6] 硫酸マグネシウムと共溶媒としてソルビトール、β-アラニン、γ-アミノ酪酸、及びプロリンをそれぞれ含む混合物の蒸発実験。
25wt%のMgSO
4.7H
2Oと、ソルビトール(実施例3)、β-アラニン(実施例4)、γ-アミノ酪酸(実施例5)、及びプロリン(実施例6)である20wt%の共溶媒とをそれぞれ含む水溶液を得るために、2.5grのMgSO
4.7H
2O、2グラムの共溶媒、及び5.5grの脱塩水を混合した。各々から、使い捨てのアルミニウムトレーに1mlを滴定し、30%の相対湿度で1週間乾燥させた。
図2の写真は明らかに結晶化の兆候を示さない。
【0098】
試験した溶液は結晶化の兆候を示さず、使用された共溶媒が効果的に結晶化を防ぎ吐出可能な前処理液を調製するのに使用できることを示している。27wt%のMgSO4及び12.5wt%のβ-アラニンを含む組成物は全く結晶化を示さないことが分かった。
【0099】
[実施例6] 本発明による前処理液(前処理液2)の調製。
20グラムのβ-アラニンの代わりに17.50グラムのキシリトールを使用して、実施例1にしたがって前処理液を調製した。2.5グラムのさらなる脱塩水を添加することにより差を補った。100グラムの前処理液を得た。
【0100】
[実施例7] 印刷実験8~10における使用のためのインク組成物の調製
表1に示すような成分を加えて(好ましくは間で撹拌しながら表1に記載される順番で)表1に示すような組成物を得ることによりインクを調製した。
【0101】
【0102】
[実施例8~10] 印刷実験
すべての印刷実験は600DPI Kyocera KJ4B印刷ヘッドを含む印刷装置により行った。前処理液及びインクの両方がこのようにして吐出された。使用される印刷基材はIgepaより入手したSoporset premium offsetであった。
【0103】
3種の印刷実験を、各々二重で行った。第1に、実施例7で調製された8.5gr/m
2のインク組成物を上記で示した印刷基材に施用することにより単一の(片面の)印刷物を作った(実施例8、
図3A)。第2に、実施例6で調製されるような2gr/m
2の前処理液2を施用しその後実施例7で調製される8.5gr/m
2のインク組成物を施用することにより、単一の印刷物を作った(実施例9、
図3B)。第3に、実施例1で調製されるような前処理液1により先の実験を繰り返した(実施例10、
図3C)。IR照射の助けにより印刷物を乾燥させ定着させた(1つの工程での乾燥及び定着)。印刷されたシートにIR照射を5秒間行った。乾燥及び定着温度はおよそ90℃であった。
【0104】
1種の実験につき2枚のフルブリード印刷物が得られるように(印刷領域を取り囲む印刷されていない紙が残っていない)、2枚のシートを各実験から切り出した。紙のカールを時間の関数として追跡した。
【0105】
図3の写真は印刷の1か月後にカールを示している。本発明による前処理液の使用は(内向きの)カールを大幅に低減することが明らかに分かる。
【0106】
[実施例11] 白色の紙の色シフト(耐光堅牢度)及び黄変の決定
Igepaより入手した印刷基材Soporset premium offset(前処理液の施用有り及び無し)の試料のΔE2000として表される色シフト(耐光堅牢度としても知られる)を、ASTM D3424-11、方法3にしたがって、Xrite lab測定装置を使用して決定する。試料に420nmの波長のキセノン光源を63℃の温度で照射した。試料調製の直後に測定を行い、3日後に繰り返した。すべての測定は3回行われた。ΔE2000(色シフト)が決定され、黄変の直接的指標となる。測定結果を表2に示す。これらの試験における使用される塩濃度はすべての使用される塩について1.1mol/kgであった。表2は28.2wt%の硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2.6H2O)を含む前処理液はブランクの紙を基準として著しい色シフトを示すが、一方で27.1wt%の硫酸マグネシウム(MgSO4.7H2O)を含む前処理液は大幅に低い色シフトを示し、したがって改善された「黄変」性能、すなわちあまり顕著ではない黄変効果を有する。
【0107】
【0108】
したがって、ソルビトール、キシリトール、アドニトール、β-アラニン、プロリン、及びγ-アミノ酪酸から成る群から選択される結晶化遅延剤の使用によって高濃度で存在することが可能である、硫酸マグネシウムであるクラッシング剤の選択に起因して、本発明による前処理液は非黄変性及び無臭である。全体としての前処理組成物は(内向きの)カールの著しい低減をさらにもたらす。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷における使用のための水性前処理液であって、
a.水;
b.硫酸マグネシウム;並びに
c
.β-アラニン、プロリン、及びγ-アミノ酪酸から成る群から選択される結晶化遅延剤
を含む、水性前処理液。
【請求項2】
硫酸マグネシウムが、前処理液組成物全体に対して無水MgSO
4を基準として10wt%を超える濃度で存在する、請求項1に記載の水性前処理液。
【請求項3】
結晶化遅延剤が前処理液組成物全体に対して10wt%を超える量で存在する、請求項1又は2に記載の水性前処理液。
【請求項4】
インクジェット印刷における使用のための水性前処理液において、結晶化遅延剤として、ソルビトール、キシリトール、アドニトール、β-アラニン、プロリン、及びγ-アミノ酪酸から成る群から選択される剤の使用であって、水性前処理液は水及び硫酸マグネシウムをさらに含む、使用。
【国際調査報告】