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特表2024-500357神経炎症を定量化するためのデバイス、システム、及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】神経炎症を定量化するためのデバイス、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/372 20210101AFI20231226BHJP
【FI】
A61B5/372
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535444
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 US2021063166
(87)【国際公開番号】W WO2022126031
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/124,524
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521105640
【氏名又は名称】篠崎 元
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【弁理士】
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 元
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127GG09
4C127GG13
4C127GG15
(57)【要約】
本明細書に開示され、企図されるのは、せん妄のある患者を検出することができ、かつ全身性炎症を伴うせん妄を検出することができる、バイスペクトルEEG(BSEEG)法である。様々な実装において、マウスモデルを使用して、リポ多糖(LPS)注射によって誘発される全身性炎症を伴うせん妄を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイスペクトルEEG評価システムであって、
a)少なくとも1つのセンサと、
b)スクリーニングデバイスと、
c)プラットフォームツールと、を備え、前記システムが、
EEGを記録して、生のEEGデータを取得することと、
記録されたBSEEGスコアを計算することと、
前記記録されたBSEEGスコアを臨床炎症閾値と比較することと、を行うように構成されている、バイスペクトルEEG評価システム。
【請求項2】
前記生のEEGデータが、ある期間にわたって記録される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
最大BSEEGスコアを計算することを更に含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記記録されたBSEEGスコアを出力することを更に含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記システムが、機械学習モデルを介して前記臨床炎症閾値を更新するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プラットフォームツールが、ウェブベースのツールである、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
経時的に脳波異常のレベル及び神経炎症のレベルを定量化するように更に構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記記録されたBSEEGスコアが、パワースペクトル密度分析を介して生のEEGデータから計算される、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記記録されたBSEEGスコアが、3Hz~10HzでのEEG信号の比率である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
ベースラインBSEEGスコアを計算することを更に含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
標準化されたBSEEGスコアを計算することを更に含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
神経炎症を定量化するためのシステムであって、
(a)脳波周波数を示すEEG信号を記録するように構成された少なくとも2つのセンサと、
(b)プロセッサと、
(c)前記プロセッサ上で動作するように構成された少なくとも1つのツールと、を備え、前記ツールが、
EEG信号を記録することと、
前記EEG信号に対してスペクトル密度分析を実行して、BSEEGスコアを計算することと、
前記BSEEGスコアを臨床炎症閾値と比較して、神経炎症の量を決定することと、を行うように構成されている、システム。
【請求項13】
前記少なくとも1つのツールが、ベースラインBSEEGスコアを決定するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つのツールが、標準化されたBSEEGスコアを計算するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記少なくとも1つのツールが、所与の期間にわたる最大BSEEGスコアを計算するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
前記少なくとも1つのツールが、所与の期間にわたる平均BSEEGスコアを計算するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
平均BSEEGスコア、最大BSEEGスコア、ベースラインBSEEGスコア、標準化されたBSEEGスコアを含む出力を表示するように構成されたディスプレイを更に備える、請求項12に記載のシステム。
【請求項18】
前記ツールが、経時的に脳波異常のレベル及び神経炎症のレベルを定量化するように更に構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項19】
前記所与の期間が、約12時間である、請求項12に記載のシステム。
【請求項20】
炎症評価方法であって、
EEGを記録して、生のEEGデータを取得することと、
記録されたBSEEGスコアを計算することと、
前記記録されたBSEEGスコアを臨床炎症閾値と比較することと、を含む、炎症評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月11日に出願された米国仮出願第63/124,524号、表題「Devices,Systems,and Method for Quantifying Neuro-Inflammation」に対する、米国特許法第119条(e)の利益を主張するものであり、全ての目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、神経炎症を定量化することに関し、特に、神経炎症を定量化するためのバイスペクトルEEG(BSEEG)の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
せん妄は一般的であるだけでなく危険であり、1年死亡率は40%にも達することが広く認識されている。更に、せん妄は、入院期間の延長、自宅への退院の可能性の低下、及び長期的な認知障害と関連する。更に、せん妄には大きな経済的負担が伴う。すなわち、せん妄の一症例は約60,000ドルかかると推定されている。米国だけで年間2~3百万のせん妄症例があり、せん妄に関連する年間の経済的損失は約1,500億ドルである。したがって、せん妄は、高齢患者、医療提供者、病院システム、及び医療経済にとって重大な負担となっている。
【0004】
せん妄が負担であることが提示されているにもかかわらず、その病態生理学についてはほとんど知られておらず、効果的な予防措置又は治療法が特定されていない。更に、せん妄の診断は、精神医学的インタビューに基づいた精神状態の主観的評価に大きく依存している。
【0005】
したがって、神経炎症を含むせん妄に関連する変数を体系的に精査するためのデバイス、システム、及び方法が当技術分野で必要である。
【発明の概要】
【0006】
本明細書では、患者の神経炎症及び関連するせん妄を精査及び定量するための様々な方法が開示される。
【0007】
本明細書に説明される様々な実施例では、1つ以上のコンピュータのシステムは、動作中にシステムにアクションを実行させる、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、又はそれらの組み合わせをシステムにインストールさせることによって、特定の動作又はアクションを実行するように構成され得る。1つ以上のコンピュータプログラムは、データ処理装置によって実行されるときに、装置にアクションを実行させる命令を含むことによって、特定の動作又はアクションを実行するように構成され得る。様々な実装は、対応するコンピュータシステム、装置、及び1つ以上のコンピュータ記憶デバイスに記録されたコンピュータプログラムを含み、各々が方法のアクションを実行するように構成される。
【0008】
実施例1では、バイスペクトルEEG評価システムであって、少なくとも1つのセンサと、スクリーニングデバイスと、プラットフォームツールと、を備え、システムが、EEGを記録して、生のEEGデータを取得することと、記録されたBSEEGスコアを計算することと、記録されたBSEEGスコアを臨床炎症閾値と比較することと、を行うように構成されている、バイスペクトルEEG評価システム。
【0009】
実施例2では、生のEEGデータが、ある期間にわたって記録される、実施例1に記載のシステム。
【0010】
実施例3では、最大BSEEGスコアを計算することを更に含む、実施例1~2のいずれかに記載のシステム。
【0011】
実施例4では、記録されたBSEEGスコアを出力することを更に含む、実施例1~3のいずれかに記載のシステム。
【0012】
実施例5では、システムが、機械学習モデルを介して臨床炎症閾値を更新するように構成されている、実施例1~4のいずれかに記載のシステム。
【0013】
実施例6では、プラットフォームツールがウェブベースのツールである、実施例1~5のいずれかに記載のシステム。
【0014】
実施例7では、経時的に脳波異常のレベル及び神経炎症のレベルを定量化するように更に構成されている、実施例1~6のいずれかに記載のシステム。
【0015】
実施例8では、記録されたBSEEGスコアが、パワースペクトル密度分析を介して生のEEGデータから計算される、実施例1~7のいずれかに記載のシステム。
【0016】
実施例9では、記録されたBSEEGスコアが、3Hz~10HzでのEEG信号の比率である、実施例1~8のいずれかに記載のシステム。
【0017】
実施例10では、ベースラインBSEEGスコアを計算することを更に含む、実施例1~9のいずれかに記載のシステム。
【0018】
実施例11では、標準化されたBSEEGスコアを計算することを更に含む、実施例1~10のいずれかに記載のシステム。
【0019】
実施例12では、神経炎症を定量化するためのシステムであって、脳波周波数を示すEEG信号を記録するように構成された少なくとも2つのセンサと、プロセッサと、プロセッサ上で動作するように構成された少なくとも1つのツールと、を備え、ツールが、EEG信号を記録することと、EEG信号に対してスペクトル密度分析を実行して、BSEEGスコアを計算することと、BSEEGスコアを臨床炎症閾値と比較して、神経炎症の量を決定することと、を行うように構成されている、システム。
【0020】
実施例13では、少なくとも1つのツールが、ベースラインBSEEGスコアを決定するように構成されている、実施例12に記載のシステム。
【0021】
実施例14では、少なくとも1つのツールが、標準化されたBSEEGスコアを計算するように構成されている、実施例12~13のいずれかに記載のシステム。
【0022】
実施例15では、少なくとも1つのツールが、所与の期間にわたる最大BSEEGスコアを計算するように構成されている、実施例12~14のいずれかに記載のシステム。
【0023】
実施例16では、少なくとも1つのツールが、所与の期間にわたる平均BSEEGスコアを計算するように構成されている、実施例12~15のいずれかに記載のシステム。
【0024】
実施例17では、平均BSEEGスコア、最大BSEEGスコア、ベースラインBSEEGスコア、標準化されたBSEEGスコアを含む出力を表示するように構成されたディスプレイを更に備える、実施例12~16のいずれかに記載のシステム。
【0025】
実施例18では、ツールが、経時的に脳波異常のレベル及び神経炎症のレベルを定量化するように更に構成されている、実施例12~17のいずれかに記載のシステム。
【0026】
実施例19では、所与の期間が、約12時間である、実施例12~18のいずれかに記載のシステム。
【0027】
実施例20では、炎症評価方法であって、EEGを記録して、生のEEGデータを取得することと、記録されたBSEEGスコアを計算することと、記録されたBSEEGスコアを臨床炎症閾値と比較することと、を含む、炎症評価方法。
【0028】
説明される技術の実装は、ハードウェア、方法若しくはプロセス、又はコンピュータアクセス可能媒体上のコンピュータソフトウェアを含んでもよい。複数の実施形態が開示されるが、本開示の更に他の実施形態は、本発明の例示的な実施形態を示し、説明する以下の詳細な説明から、当業者に明らかになるであろう。実現されるように、本開示は、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な明白な態様において修正することが可能である。したがって、図面及び詳細な説明は、本質的に例示するものであり、限定するものではないとみなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】一実装によるシステム図である。
図2A】一実装によるシステムのフロー図である。
図2B】一実装による様々なシステム計算のためのフロー図である。
図3】EEGヘッドマウントの配置、ベースラインEEG測定、続いてEEG変化によって測定される脳応答を評価するために全身性炎症を誘発するリポ多糖(LPS)注射を含む実験スケジュールを示す。
図4】マウス頭上の電極配置の図を示す。標準的な手順に従って、合計4つの電極(2つのEEG、接地、及び参照)が配置された。
図5】LPS注射後のマウスにおけるBSEEGスコアの典型的なパターンを示す。EEG1及びEEG2は、図2に示すように位置するヘッドマウントから記録され、同じ実験における同じマウスから独立した記録が取られた。両方のチャネルからのBSEEGスコアは、LPSを注射した後に増加した。BSEEGスコアは、ベースラインに戻るまで数日間異常に上昇したままであった。また、LPS投与前に見られた日内変動は、BSEEG上昇の期間中に減少し、しばしば異常な睡眠サイクルを経験するせん妄のある患者の臨床像と一致した。ここに示す実施例は、1mg/kgのLPSを注射した若年マウスのものである。
図6】様々な用量のLPS注射後の標準化BSEEG(sBSEEG)スコアの日内変動の減少を示す。若年マウスEEG2(前額部)からの平均sBSEEGスコアは、LPSを注射した後に増加した。スコアは、ベースラインに戻るまで数日間異常に上昇したままであった。また、LPS投与前に見られた日内変動は、sBSEEG上昇の期間中に減少し、しばしば異常な睡眠サイクルを経験するせん妄のある患者の臨床像と一致した。
図7】LPS注射後のマウスにおけるBSEEGスコアの用量依存的変化を示す。様々な用量のLPS注射後の最大BSEEGスコアが比較されている。LPS注射後のBSEEGスコアの用量依存的増加が示された。エラーバーは標準誤差である。
図8】EEGヘッドマウント手術、EEG記録、及びUP-LPS注射を含む実験スケジュールを示す。
図9】生理食塩水注射の前後の若年マウスにおける典型的なBSEEG結果を示す。
図10】生理食塩水注射の前後の若年マウスのsBSEEG結果を示す。
図11】UP-LPS注射の前後の若年マウスにおけるBSEEG及びsBSEEG結果の比較を示す。
図12】若年マウスにおけるUP-LPS注射後のsBSEEGスコアの用量依存的増加を示す。
図13A】若年マウスにおけるUP-LPS注射後のsBSEEGスコアの用量依存的増加を示す。
図13B】老齢マウスにおけるUP-LPS注射後のsBSEEGスコアの用量依存的増加を示す。
図14】2.0mg/kgのUP-LPS注射後の若年マウス及び老齢マウスの両方のsBSEEGスコア増加の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書では、せん妄、神経炎症などのような認知障害を評価、研究、及び定量化するためのアルゴリズムを備えたバイスペクトルEEG(BSEEG)の使用のための様々な方法並びに関連するシステム及びデバイスが開示される。特定の実装では、方法及びシステムは、死亡率を予測するために使用されてもよい。様々な実装では、開示されるBSEEG法は、リポ多糖(LPS)を介して全身性炎症によって誘発される神経炎症のレベルを客観的に定量化することができる。
【0031】
本明細書に開示され、企図されるのは、更なるバイスペクトルEEG(BSEEG)アプローチである。特定の態様では、開示されるシステム、デバイス、及び方法は、せん妄のある患者の検出を利用し、全身性炎症との関連性を決定することができる。特定の更なる態様では、開示される方法、システム、及びデバイスは、せん妄の検出のための一般的に使用される行動テスト又は病理学的検査よりも客観的かつ効率的なアプローチを提供する。更に、特定の実装形態では、本明細書で更に考察されるように、BSEEG及びsBSEEGスコアリングのためのウェブベースのツールが、方法と併せて使用されてもよい。
【0032】
特定の機序に結合することを望まないが、神経炎症がせん妄の病態生理学において重要な役割を果たすことが示唆されている。証拠により、中枢神経系の常駐免疫細胞であり、神経炎症に寄与するミクログリアが容易に活性化され、末梢感染によって誘発される炎症性サイトカインを放出することが示唆されている。いくつかの動物研究では、LPSで処置された老齢げっ歯類が成体げっ歯類と比較して、活性化されたミクログリア及び炎症性サイトカインのタンパク質レベルの増加を示すことが示されている。これらの分子的及び病理学的変化は、認知障害のような行動変化で観察されたが、ミクログリア活性化とEEG変化との関係を示す研究はほとんどない。本明細書で論じられる方法及びシステムは、BSEEGスコアを計算することによってEEG減速を定量化することができるため、開示される方法は、LPS又は他のタイプの侵襲によって誘発される、ミクログリア活性化と脳電気生理学的機能障害との間の相関をより正確に評価することを可能にすることができる。
【0033】
炎症誘発性認知変化を用いた以前の動物研究は、認知障害の重症度を定量化するための客観的及び生物学的方法なしの行動テストに依存してきた。本明細書に示され、記載されるように、マウスモデルを使用して、リポ多糖(LPS)注射によって誘発される全身性炎症を伴うせん妄を検出する。BSEEGデータを使用して、C57Bl/6マウスにおける全身性炎症反応を誘発するLPS注射に応答して、脳の電気生理学的変化を客観的に定量化した。
【0034】
せん妄を検出するための以前に開示されたアプローチは、バイスペクトルEEG(BSEEG)及び臨床研究におけるアルゴリズムを利用した。この先行のアプローチは、せん妄のある患者とない患者とを効果的に区別し、特定の実装では、長期的な死亡率を予測する。
【0035】
様々な実装では、開示されたシステム及び方法は、例えば、図1に示されるスクリーニングデバイス8を含む。これらの実装では、スクリーニングデバイス8は、1つ以上のセンサ12A、12Bから信号を受信するように構成されている。この実装では、1つ以上のセンサ12A、12Bは、患者2に配置された電極などの脳センサであるが、これらに限定されない。1つ以上のセンサ12A、12Bは、脳波検査(EEG)を介するなどして、患者2の脳活動を測定するように構成されている。次いで、信号が処理されて、信号の1つ以上の特徴を抽出してもよい。センサ12A、12Bは、有線又は無線であってもよい。1つ以上の特徴は、1つ以上の特徴の各々についての1つ以上の値を決定するために分析されてもよい。値には、BSEEGスコア、標準化されたBSEEGスコア(sBSEEGスコア)、及び最大BSEEGスコアを含んでもよい。値が様々なデータと比較されて、神経炎症及びせん妄の重症度を決定してもよい。
【0036】
特定の実装形態では、スクリーニングデバイス8及び/又は開示されたシステム及び方法は、動作中にシステム/デバイス8にアクションを実行させる、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、又はそれらの組み合わせをシステム/デバイス8にインストールさせることによって、特定の動作又はアクションを実行するように構成された1つ以上のコンピュータを含む。1つ以上のコンピュータプログラムは、データ処理装置によって実行されるときに、装置にアクションを実行させる命令を含むことによって、特定の動作又はアクションを実行するように構成され得る。
【0037】
ここで、図2A及び図2Bを参照すると、本明細書に開示されるアプローチは、一連のステップを含み、その各々は任意選択的であり、特定のステップは、任意の順序で実行されてもよく、反復的に行われてもよい。1つのステップでは、EEGが記録されて(ボックス10)、生のEEGデータを取得する(ボックス12)。更なる処理ステップ(ボックス20)では、EEG記録は、パワースペクトル密度を介して変換されて(ボックス22)、BSEEGスコアを計算する(ボックス24)。ある特定の実装では、BSEEGスコア(ボックス24)は、2017年12月5日に出願されたPCT出願第PCT/US16/64937号、表題「Apparatus,Systems and Methods for Predicting,Screening and Monitoring of Encephalopathy Delirium」、2019年9月16日に出願されたPCT出願第PCT/US19/51276号、表題「Systems and Methods for Detection of Delirium Risk Using Epigenetic Markers」、及び2020年4月6日に出願されたPCT出願第PCT/US20/26914号、表題「Apparatus,Systems and Methods for Predicting,Screening and Monitoring of Mortality and Other Conditions」に開示されたものと類似のBSEEGアルゴリズムを使用して計算され、これらの各々が参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
すなわち、1つのステップにおいて、生のEEG信号を記録した後(ボックス12)、データは、当業者によって容易に理解されるように、Pinnacle Sirenia EEGシステム又は他の適切なファイルタイプ及びシステムのためのデフォルトソフトウェアによってEDFファイルなどにエクスポートされ得る。エクスポートされたファイルは、ウェブベースのツール、又は他のソフトウェアアプリケーションなどのプラットフォームツールにアップロードされ得、BSEEGスコア(ボックス24)は、容易に理解されるように、視覚化され、結果が閲覧され得る。
【0039】
別の任意選択のステップでは、数日にわたる記録からの連続データがアップロードされると、ベースラインデータを使用してsBSEEGスコア(ボックス26)が計算され得る。sBSEEGスコアは、ベースライン測定値からのBSEEGスコアの変化として計算される(ボックス28)。
【0040】
更なる分析ステップ(ボックス30)では、平均BSEEGスコア(ボックス32)は、例えば12時間の期間にわたって、所与の期間にわたって計算され得る。次いで、この平均BSEEGスコア(ボックス32)を使用して、平均が取得された期間内の別個の期間について最大BSEEGスコア(ボックス34)を計算することができる。例えば、最大BSEEGスコアは、平均BSEEGスコアが計算された12時間の1時間ごとのBSEEGスコアと平均BSEEGスコアとの比較に等しくてもよい。各期間の比較後の最高値は、最大BSEEGスコアである(ボックス34)。
【0041】
特定の実装では、任意選択のステップで、記録されたBSEEGスコア及び/又はsBSEEGスコアが、臨床炎症閾値などの臨床閾値と比較され、ここで、臨床炎症閾値を超える結果が、プラットフォームツールなどを介して、臨床使用のために報告される(ボックス40)。
【0042】
特定の実施態様では、閾値ステップ(ボックス40)は、炎症閾値を決定することを含む。これら及び他の実装形態では、炎症閾値は、理解されるように、患者又は患者群の履歴EEGデータ、医療記録データ、及び追加のデータソースに基づいてもよい。
【0043】
更なる任意選択のステップでは、記録されたBSEEGスコア、sBSEEGスコア、及び/又は閾値比較がシステム10によって処理及び分析され、出力ステップで出力される(ボックス50)。出力されたデータは、医師、患者、又は他の利害関係者によって読まれ、解釈され得る。高いsBSEEG及びBSEEGスコアは、より高いレベルの神経炎症を示し、指定された閾値を超えると、異常な脳活動を示す。様々な実装では、出力された情報は、例えば、図1に示されるように、デバイス8に表示される。
【0044】
様々な実装では、開示される方法、システム、及びデバイスは、ヒトのせん妄の特徴であるデルタ波などの拡散徐波を捕捉することができる、脳波EEGを使用したせん妄の改善された評価を可能にする。アルゴリズムを使用したバイスペクトルEEG法は、以前に組み込まれた参考文献に開示され、これは、スペクトル電力密度分析を使用して脳波を処理し、高周波と比較して徐波を捕捉することによって、せん妄のある患者とない患者と効果的に区別する。アイオワ大学病院及び診療所(University of Iowa Hospitals and Clinics)に入院した高齢患者におけるBSEEG法のヒト研究では、感度及び特異度が80%を超え、受信者動作特性(ROC)は約0.8であった。この結果は、BSEEGスコアがせん妄のバイオマーカであり得ることを示唆した。
【0045】
これまでの多くのEEG研究では、アトロピン、ビペリデンなどの抗コリン剤を使用して、動物モデルにおけるEEGのせん妄の特徴を誘発してきた。しかし、このシナリオは、抗コリン薬の過剰摂取のまれな症例にのみ関連している。本明細書に開示されるのは、リポ多糖(LPS)が全身性炎症誘発性せん妄をモデル化するために注入されるせん妄のモデルである。更に、開示される定量化方法は、ヒトにおけるせん妄の病態生理、具体的には、中枢神経系における炎症につながる末梢炎症/感染の効果を理解するために、臨床状況に関連し、臨床環境に直接変換可能である。
【0046】
せん妄状態の患者は肺炎、尿路敗血症などの全身性炎症から回復している。本明細書に開示されるデータは、アルゴリズムと併せてBSEEGを使用することにより、電気生理学的異常又はせん妄を客観的かつ正確に定量化することが可能であることを示す。
【0047】
本明細書で更に開示されるのは、全身性炎症関連するせん妄に特徴的な電気生理学的特徴を捕捉することが可能であるEEGベースの技術である。ウェブベースのツールを使用して、開示された方法及びシステムの広範囲にわたる適用可能性を作成してもよい。特定の実装では、ユーザは、経時的にBSEEGスコア変化を視覚化するために、自身のEEG記録をアップロードすることができる。様々な実装では、ウェブベースのツールは、経時的に脳波異常のレベル及び神経炎症のレベルを定量化することができる。
【0048】
本明細書の実施例に記載のように、BSEEGをマウスで使用して、ヒトにおけるせん妄と一致する電気生理学的変化を検出した。更に、老齢マウスは、BSEEGスコアの上昇によって反映されるように、若年マウスよりもLPSに対してより感度が高いことが示されている。LPS注射からの用量依存性EEG変化を評価するために、ある範囲のLPS濃度に対するBSEEG応答が評価された。これらの年齢に関連する違い及びLPS用量に関連する違いは、年齢が高い患者、又は重篤な感染症、高度侵襲性手術などの重度の全身性炎症の患者がせん妄を発症するリスクが高いという事実と一致している。
【0049】
せん妄は、感染、手術、コリン作動性薬物の過剰摂取などを含む多因子病因によって引き起こされる可能性があるため、様々な病因と共にBSEEG変化を比較するために異なる誘発方法を比較することが理想的である。更に、ミクログリアの阻害又は活性化は、LPS又は他のトリガに応答してBSEEGスコアの変化を変更させ得る可能性がある。特定の薬物療法は、せん妄の発生を抑制してもよく、ラメルテオン、スボレキサント、デキサメタゾンなどのLPSに応答してBSEEGスコアが増加するのを防ぐこともできる。
【0050】
更なる実装では、BSEEGスコアと行動変化との関係を評価することができ、これらの方法では、無線EEGシステムを使用して、同じ患者からのEEGと行動応答の両方を同時に測定してもよい。EEG変化及び行動変化の一貫性を評価するために、そのようなアプローチは、貴重な情報を提供するであろう。すなわち、観察された行動変化は、BSEEG及びsBSEEGスコアと比較/相関され得る。追加的に、脳機能障害又はせん妄の評価におけるBSEEGの有用性をよりよく評価するためには、BSEEGスコアと、ミクログリア活性化などの病理学的データ、及びサイトカインレベル、遺伝子発現などの分子データとの相関を評価することが重要である。様々な実装では、そのような相関は、脳機能異常及び神経炎症の病態生理学的機序の理解を可能にする。
【0051】
特定の実装では、機械学習モデルを使用して、BSEEG/sBSEEGスコアの特性を特定し、パラメータ及び閾値を確立し、また、機械学習モデルを使用して、システム及びデバイス8の精度を改善するために閾値及び標準を改良することなどにより、本明細書に記載される他のシステム、方法、及びデバイスを見直すことができる。これらの実装形態では、モデルを使用して、サーバ、データベースなどのコンピューティングマシン内のデジタルBSEEGデータを関連付ける。
【0052】
一般に、様々な機械学習アプローチは、プロセッサ、サーバ/コンピューティングデバイス、データベース、サードパーティサーバ、デバイス8及び/又はセンサ12A、12Bと動作中に通信する他のコンピューティング又は電子記憶デバイスでの実行のためにコード化されてもよい。
【0053】
モデルは、ウェアラブルデバイス又はビデオイメージングを通したモーションキャプチャを介して記録された患者の動き、及び医療記録などの他の記録されたデータからなど、患者から記録された、又はそうでなければ観察されたBSEEGデータに対して実行され得るが、これらに限定されない。
【0054】
様々な実装では、データは、理解されるであろうように、BSEEGデータ、生のEEGデータ、パワースペクトル密度変換データ、及び他の実装のうちの1つ以上を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0055】
したがって、機械学習モデルを使用する様々なシステム及び方法は、ゲートウェイ又は他の接続機構を介して、せん妄/炎症の監視、スクリーニング、又は予測に使用するために、様々なコンピューティングデバイス、及び患者の電子医療記録(「EMR」)から情報を送信及び/又は受信してもよい。特定の実施形態では、システム及び方法は、EMRデータを利用して、スクリーニングデバイス8及び関連するシステム及び方法と併せて行われるせん妄のモニタリング、スクリーニング、又は予測の精度を改善してもよい。
【0056】
様々な実装では、BSEEGスコアはまた、適切なツリーアルゴリズム又はロジスティック回帰式を生成するために、コンピュータのコンピュータ記憶装置のいずれかにロードされてもよい。一度生成されると、大規模なセットのif-then条件の形式を取り得るツリーアルゴリズムは、次いで、テスト実装のために任意の一般的なコンピューティング言語を使用してコード化されてもよい。例えば、if-then条件を捕捉してコンパイルして、マシン実行可能モジュールを生成することができ、このモジュールは、動作するときに、新しいデータを受け入れ、結果を出力し、この出力は、計算された予測又は他のグラフィック表現を含むことができる。
【0057】
出力は、p値、カイスコアなどの関連する統計的指標と共に、予測又は確率値を示すグラフの形態であってもよい。様々な実装では、これらの結果が学習モジュール内又は他の場所に再導入されて、全体で使用される様々な閾値を更新することを含む、システムの機能を継続的に改善することができる。これらの実装は、デバイス、システム、及び方法のパフォーマンスを改善するために、それぞれのデータ値及び読み取り値をトレンドすることもできることを理解する。これらの実装では、例えば、追加の任意の評価ステップを提供するために使用され得るトレンドデータの連続的なストリーム、及び経時的なトレンドが特定され得る。様々な実装では、モデルは、精度を改善するための追加のプログラムを提供し、本明細書に記載される様々な閾値の集約及び調整に含まれ得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、「値」及び「特徴」という用語は、交換可能であり、数値、時間スケール、グラフィカル、又は他のものであっても、生のデータ及び分析されたデータを企図することができる。本明細書に記載されるような様々な実装では、高周波の数などの値が閾値と比較されてもよい。代替的又は追加的に、2つ以上の値の比率が閾値と比較されてもよい。閾値は、所定の値であってもよい。閾値は、個体集団からの情報など、せん妄のその後の発症の存在、不在、又は可能性に関する統計情報に基づいてもよい。特定の実施形態では、閾値は、1人以上の患者について予め決定されてもよい。特定の実施形態では、閾値は、全ての患者に対して一貫していてもよい。特定の実施形態では、閾値は、現在の健康、年齢、性別、人種、病歴、他の病状などのような、患者の1つ以上の特性に特異的であってもよい。特定の実施形態では、閾値は、患者のEMRの生理学的データに基づいて調整されてもよい。
【0059】
特定の実施形態では、閾値は、低周波数波に対する高周波数波の比率であってもよい。特定の実施形態では、閾値は、ある期間にわたる低周波数波に対する高周波数波の比率であってもよい。本明細書の開示を通して、比率は、低周波数波に対する高周波数波の比率と呼ばれるが、比率のフォーマットがプロセス全体を通して一貫している限り、比率はまた、高周波数波に対する低周波数波の比率であってもよいことが理解される。例えば、比較は、低周波数波に対する高周波数波の比率、又は逆、すなわち、低周波数波/高周波数波であってもよい。
【0060】
1つ以上の特徴又は値は、予め決定されてもよい。例えば、高周波数波である波の範囲は、設定値よりも大きいと予め決定されてもよい。同様に、低周波数波である波の範囲は、設定値未満として予め決定されてもよい。設定値は、全ての患者で同じであってもよいし、特定の患者特性に応じて変動してもよい。
【0061】
1つ以上の信号の他の特徴又は値が抽出されてもよい。例えば、信号対雑音比も、他の用途のために決定されてもよい。データ品質は、電気的活動の非生理学的周波数を探すことによって評価されてもよい。データ収集及び/又は解釈は、データ品質が許容レベルを下回るときに、停止されるように限定されてもよい。
【実施例
【0062】
実施例1
方法及び材料
動物及び飼育
早期成人期(約2~3ヶ月)及び老齢マウス(約18~19ヶ月)の雄の野生型C57Bl/6マウスは、ジャクソン研究所(Jackson Laboratory)から購入した。マウスは、アイオワ大学(University of Iowa)の動物飼育施設で飼育した。全てのマウスは、食物及び水が自由に給餌される状態で、プレキシグラスケージに性別を分けて飼育した。施設内の周囲温度及び相対湿度は、厳密に制御されていた。動物は、動物施設内で12:12時間の明暗サイクルで維持した。動物研究は、UI動物実験委員会によって承認されたプロトコルに従って実施した。
【0063】
薬剤及び試薬
LPS(Sigma、E.Coli起源、血清型O111:B4、カタログ番号L2630)を入手し、注射用生理食塩水に溶解した。LPS及び生理食塩水は、マウスの腹腔内に注射した。
【0064】
実験設計
EEGヘッドマウント配置手術、EEG記録、及び炎症実験の実験スケジュールを図3に示す。ここで、1日目にベースライン測定を行った。2日目に生理食塩水を注射し、4日目にLPSを注射した。様々な用量のLPSを、本明細書に記載されるように注射した。
【0065】
EEG電極ヘッドマウント配置手術
EEG電極を、標準的なプロトコルを使用して、図4に示すようにマウスの頭部に位置決めして、続いてヘッドマウント手術から1週間の回復を行った。EEG記録は、炎症実験の開始前に安定していた。有線EEGシステム(Sirenia EEGシステム、Pinnacle Technologies,Inc.,Lawrence,KS)を、標準手順に従って実験に使用した。
【0066】
炎症実験
スケジュールは、以下:1日目、ベースライン測定;2日目、生理食塩水注射;3日目、回復;4日目、LPS注射;及び5日目以降、回復であった。各マウスについて、午前8時に、以下の用量のLPSを3~4匹の雄マウスの3つのコホートに注射した。すなわち、若年マウスには、0.5、1、及び2mg/kg、老齢マウスには0.25、0.5、及び1mg/kgを注射した。最大用量2mg/kgが老齢マウスにとって致命的であると予想されたため、若年グループと老齢グループとの間でLPSの異なる用量範囲を設定した。各年齢グループ当たり合計9~10匹のマウスが含まれた。結果をグループ間で比較した。
【0067】
BSEEGスコアの計算
EEGを、野生型早期成人期マウス(約2~3ヶ月齢)及び老齢マウス(約18~19ヶ月齢)を使用して、LPS注射後に記録した。EEG記録をパワースペクトル密度に変換して、BSEEGスコアを計算した。
【0068】
EEG信号処理-このアルゴリズムは、患者のせん妄の存在及び重症度を測定するためのEEGスコアを得るために実装した。動物のEEG記録を、以前に開示されたヒト研究で使用されたものと類似するアルゴリズムを使用して分析した。生のEEG記録を、デジタル的にパワースペクトル密度に変換して、BSEEGスコアを計算した。具体的には、SleepPro(Sirenia EEGシステム、Pinnacle Technologies,Inc.,Lawrence,KS)ソフトウェアを使用して、高速フーリエ変換後に生データをエクスポートし、アルゴリズムを通してそれを処理して、BSEEGスコアを計算した。BSEEGスコアは、3Hz電力~10Hz電力の比率の計算を通して導出する。図5に示すように、BSEEGスコアをy軸にプロットし、記録時間をx軸にプロットした。
【0069】
標準化されたBSEEG(sBSEEG)スコア-ベースラインからのBSEEGスコアの変化を標準化するために、各マウス(1日目の昼間)のベースラインでの最初の12時間の間の平均BSEEGスコアをゼロに設定し、そのベースラインからの変化の程度を、標準化されたBSEEG(sBSEEG)スコアとして定義した。
【0070】
最大BSEEGスコア-様々な用量のLPS注射後のBSEEGスコアの変化を比較するために、LPS注射後のEEG2(前額部)からの最大BSEEGスコアの増加を計算した。BSEEGスコアの増加を、以下のように計算した:
(1時間ごとのLPS注射後のBSEEGスコア)-(最初の12時間の平均BSEEGスコア)。
次いで、最大値を、最大BSEEGスコアの増加として定義した。最大BSEEGスコアの増加を使用して、注射されたLPSの用量に基づいて異なるグループ間で比較した。
【0071】
統計分析
BSEEGスコアに対する用量効果を調べ、若年マウスグループと老齢マウスグループとを比較するために、用量レベル、グループ、及びレベルとグループとの間の相互作用を含む線形回帰モデルをフィッティングした。モデル内の係数の推定では、複合対称性ワーキング相関構造を使用した一般化された推定方程式を使用して、被験者内相関を説明した。Wald試験は、0.05の有意レベルで実施した。全ての統計分析は、Rにおいて実行した。
【0072】
ウェブベースのBSEEGスコア計算機
生のEEG信号データからBSEEGスコアを計算するためのウェブベースのツールが開発されており、これを、Pinnacle Sirenia EEGシステムを通して入手した。
【0073】
結果
LPS注射後のBSEEGスコア変化の典型的なパターン
2つのEEGチャネルに取り付けられた若年マウス(2~3ヶ月、n=9)及び老齢マウス(18~19ヶ月、n=10)の試験により、ベースラインにおいて、及びLPSビヒクルの注射後の両方で、24時間の期間にわたる日内変動が明らかになった。図5は、LPS注射の前後のBSEEGスコアの典型的な実施例を描写する。簡潔にするため、3日目(生理食塩水の1日後)のデータは省略した。昼間のマウスが眠っている間は、BSEEGスコアはわずかに高く、比較的安定していた。夜間のマウスが活動しているときには、BSEEGスコアは平均で低く、不安定であった。この日内変動パターンは、生理食塩水注射後に影響を受けなかった。
【0074】
マウスにLPSを注射したとき、BSEEGスコアが増加し、EEGが遅くなることを示し、スコアは約12時間でピークスコアに達し、日内変動は減少した(図5)。LPS注射は、BSEEGスコアを用量依存的に増加させ、日内変動を減少させた。平均BSEEGスコアは、用量が増加するにつれて、老齢マウスグループでより多く増加した。
【0075】
LPS注射後のsBSEEGスコア変化及び数日にわたる日内変動の損失
日内変動を強調するために、図6のデータポイントは、数日間にわたって12時間ごとのEEG2(前額部)スコアからの平均sBSEEGを表す。長期間にわたる各LPS用量グループの3匹のマウス間の平均sBSEEGスコアを、y軸上に示す。最初の3日間の日内変動のパターンは、試験された9匹のマウスの複数の実験にわたって非常に一貫していた。生理食塩水注入後(2日目)でも、パターンは変化しなかった(図6、1日目~3日目)。4日目のLPS注射後、日中のパターンは減少し、LPS曝露後約3日間(6日目)異常のままである。7日目には、日内変動が戻ってきているように見える。
【0076】
LPSに応答した用量依存性BSEEGスコアの増加
様々な用量のLPS注射後のEEG2(前額部)からの最大BSEEGスコア(若年マウスでは、0.5、1、及び2mg/kg、老齢マウスでは、0.25、0.5、及び1mg/kg)を比較した(図7)。0.05の有意レベルのWald試験によれば、若年マウスグループ(p値<0.0001)及び老齢マウスグループ(p値<0.0001)の両方で用量レベルが増加するにつれて、平均スコアが有意に増加した。追加的に、相互作用効果は統計学的に有意であり(p値=0.004)、推定係数が、正であった。これは、用量が増加するにつれて、BSEEGスコアが老齢グループにおいてはるかに速く増加したことを示している(図7)。
【0077】
ウェブベースのBSEEGスコア計算機
生のEEG信号を記録した後、データは、Pinnacle Sirenia EEGシステム又は他の適切なファイルタイプ及びシステムのためのデフォルトソフトウェアによってEDFファイルとしてエクスポートされ得る。次いで、EDFファイルがウェブベースのツールにアップロードされ、BSEEGスコアが視覚化され得る。数日にわたる記録からの連続データがアップロードされると、sBSEEGスコアも、1日目のベースラインデータを使用して計算され得る。
【0078】
考察
BSEEGデータを使用して、C57Bl/6マウスにおける全身性炎症反応を誘発するLPS注射に応答して、脳の電気生理学的変化を客観的に定量化した。このタイプのLPS注射動物モデルは、全身性炎症の結果を評価するために広く使用されている。本明細書に開示されるのは、EEG及び特定の実装におけるBSEEGを使用して動物モデルにおけるせん妄を定量化する能力である。
【0079】
このアプローチは、BSEEGを使用してせん妄のある患者とない患者とを区別する以前に開示されたヒト研究の成功によって支持されている。以前に開示されたアルゴリズムを用いて、せん妄のある患者とない患者とを区別するためのアルゴリズムを開発する前に、EEG生のシグナルの様々な特徴を試験した。これを通して、せん妄を経験した患者と経験しなかった患者との間に、せん妄の明確で定量的な重症度の差が見出された。マウスモデルに関する本研究では、同じアルゴリズムを、マウスから測定されたEEG信号の分析に適用した。
【0080】
この実施例のデータは、BSEEG法により、ヒトにおけるBSEEGを使用した以前の知見と一致する、せん妄の特徴であるEEG特徴に類似したマウスにおける電気生理学的活性を評価することが可能であることを示す。BSEEGスコアの増加は、脳機能障害を示唆する「EEG徐波」を示す。LPS注射は、BSEEGスコアの日内変動を減少させた。すなわち、BSEEGスコアは、昼間は比較的安定し、わずかに高かったが、BSEEGスコアは、夜間は不安定で低かった(図3及び図4)。これらのLPS誘発性BSEEG変化は、せん妄のある患者の睡眠/覚醒サイクルの障害と一致する。
【0081】
更に、老齢マウスは、用量依存的な様式で、若年マウスよりもLPSに強く反応した(図7)。これらの年齢に関連する違い及びLPS用量に関連する違いは、年齢が高い患者、又は重篤な感染症、高度侵襲性手術などの重度の全身性炎症の患者がせん妄を発症するリスクが高いという事実と一致している。
【0082】
実施例2
材料及び方法-この実施例では、若年(8週齢)及び老齢(72週齢)マウスの両方を含む、C57BL/6マウスを研究した。この研究はまた、腹腔内に与えられた0.5~2.0mg/kgの範囲の様々な用量で超純度LPS(Invivo Gen)を使用した。
【0083】
実験スケジュールを図8に示す。実験では、EEG記録の2週間前に、EEGヘッドマウント手術を行った。EEG記録は、0日目に開始し、5日間継続した。2日目に、マウスにUP-LPS注射を施した。
【0084】
理解されるように、有線及び無線EEGシステムの両方を使用した。
【0085】
分析-生のEEG信号を記録することによって、EEGデータを分析した。この生のEEGデータを、次いで、適切なソフトウェアによって処理して、BSEEGスコア(3Hz/10Hz)を決定する。場合によっては、ウェブベースのBSEEG計算機を使用する。
【0086】
結果-図9は、数日間にわたる若年マウスのBSEEGスコアを示す。2日目に、マウスに生理食塩水注射を施した。図10は、データからのsBSEEGスコアを示す。このデータは、若年マウスにおける日内変動を示している。
【0087】
図11は、示された時間にマウスがUP-LPS注射を受けた若年マウスのBSEEG及びsBSEEGスコアを示す。見ることができるように、特に、sBSEEGデータでは、LPS注射後に日内変動が停止した。
【0088】
図12は、若年マウスにおけるUP-LPS注射後のsBSEEGスコアの用量依存的増加を示す。これは、投与後にUP-LPSの用量が増加してsBSEEGスコアが得られたためである。
【0089】
図13A図13Bは、UP-LPS注射後のsBSEEGスコアの用量依存的変化を、若年(図13A)及び老齢(図13B)の両方で示している。若年マウス及び老齢マウスの両方において見ることができるように、投与されるUP-LPSの用量も増加したときに、sBSEEGスコアの増加がある。増加率は、若年マウスと比較して老齢マウスでより高かった。
【0090】
図14は、若年マウス及び老齢マウスの両方において2.0mg/kg用量のUP-LPSでは、BSEEGスコアの増加があることを示す。UP-LPSは、若年マウスと比較して、老齢マウスにおいてより大きなBSEEGスコアの増加を誘発した。
【0091】
本開示は様々な実施形態に関して説明されてきたが、当業者は、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に変更が行われ得ることを認識するであろう。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
【国際調査報告】