(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】補体のゲノム編集
(51)【国際特許分類】
A61K 38/46 20060101AFI20231226BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231226BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231226BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231226BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231226BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231226BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231226BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61K38/46
A61K48/00
A61P1/16
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P37/02
A61K31/7105
A61P43/00 121
A61K35/76
C12N5/10 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535518
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 US2021062896
(87)【国際公開番号】W WO2022125955
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513283268
【氏名又は名称】アペリス・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APELLIS PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】バーバー,タラ
(72)【発明者】
【氏名】デシャテレッツ,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】シャイブラー,ルーカス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084DC22
4C084DC29
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZA75
4C084ZB07
4C084ZB21
4C084ZC01
4C084ZC41
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZA75
4C086ZB07
4C086ZB21
4C086ZC01
4C086ZC41
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA13
4C087ZA75
4C087ZB07
4C087ZB21
4C087ZC01
4C087ZC41
4C087ZC75
(57)【要約】
補体タンパク質、例えばC3をコードする遺伝子のゲノム編集のための方法、システム、及び組成物が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象を治療する方法であって、対象の細胞に、
(i)エンドヌクレアーゼ(例えば、Casエンドヌクレアーゼ)とデアミナーゼとを含む融合タンパク質を含む塩基エディターと、
(ii)ヒトC3遺伝子の一部に相補的なヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含むgRNA(例えば、シングルガイドRNA(sgRNA))と、を投与することを含み、
前記投与する工程の後、前記細胞及び/または前記対象が、コントロールと比較して低下した(約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下した)C3タンパク質の発現及び/または活性を示す、前記方法。
【請求項2】
前記ヒトC3遺伝子の前記一部が、配列番号1のエクソン内のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒトC3遺伝子の前記一部が、配列番号1のイントロン内のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記gRNAが、表2、3、または4に記載の1つ以上の塩基位置に対して前記塩基エディターをターゲティングする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記投与する工程の後、前記ヒトC3遺伝子が、野生型ヒトC3遺伝子と比較して、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置において、CからTへ、GからAへ、TからCへ、またはAからGへの塩基編集を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記投与する工程の後、前記ヒトC3遺伝子が、野生型ヒトC3遺伝子と比較して、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置において非終止コドンから終止コドンへの塩基編集を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
C3タンパク質の活性の低下が、チオエステルドメイン活性の低下を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記投与する工程の後、前記細胞または前記対象が変異体C3タンパク質を発現し、C3コンバターゼによる前記変異体C3タンパク質の切断のレベルまたは速度が、前記C3コンバターゼによる野生型C3タンパク質の切断のレベルまたは速度と比較して低下する(例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下する)、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記Casエンドヌクレアーゼが、ヌクレアーゼ不活性Casエンドヌクレアーゼである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記Casエンドヌクレアーゼが、ニッカーゼである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ニッカーゼが、Cas9ニッカーゼである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記デアミナーゼが、アポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーのデアミナーゼに由来するデアミナーゼである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記APOBECファミリーのデアミナーゼが、APOBEC1デアミナーゼ、APOBEC2デアミナーゼ、APOBEC3Aデアミナーゼ、APOBEC3Bデアミナーゼ、APOBEC3Cデアミナーゼ、APOBEC3Dデアミナーゼ、APOBEC3Fデアミナーゼ、APOBEC3Gデアミナーゼ、及びAPOBEC3Hデアミナーゼからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記塩基エディターをコードするヌクレオチド配列を投与することを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記塩基エディターをコードする前記ヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記gRNAを含むウイルスベクターを投与することを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記塩基エディターをコードし、前記gRNAを含む前記ヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することを含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記塩基エディター及び前記gRNAを含むリボ核タンパク質(RNP)複合体を投与することを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、補体媒介性疾患を有するかまたは補体媒介性疾患に罹患している、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
細胞内のヒトC3遺伝子を編集する方法であって、
(i)エンドヌクレアーゼ(例えば、Casエンドヌクレアーゼ)とデアミナーゼとを含む融合タンパク質を含む塩基エディターと、
(ii)前記ヒトC3遺伝子の一部に相補的なヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含むgRNA(例えば、シングルガイドRNA(sgRNA))と、を細胞に接触させること、または対象に投与することを含み、
前記接触させる工程または投与する工程の後、前記細胞が、少なくとも1つのゲノム編集を含むヒトC3遺伝子を含む、前記方法。
【請求項21】
前記投与する工程の後、前記細胞及び/または前記対象が、コントロールと比較して低下した(約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下した)C3タンパク質の発現及び/または活性を示す、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ヒトC3遺伝子の前記一部が、配列番号1のエクソン内のヌクレオチド配列を含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記ヒトC3遺伝子の前記一部が、配列番号1のイントロン内のヌクレオチド配列を含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項24】
前記gRNAが、表2、3、または4に記載の1つ以上の塩基位置に対して前記塩基エディターをターゲティングする、請求項20~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記投与する工程の後、前記ヒトC3遺伝子が、野生型ヒトC3遺伝子と比較して、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置において、CからTへ、GからAへ、TからCへ、またはAからGへの塩基編集を含む、請求項20~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記投与する工程の後、前記ヒトC3遺伝子が、野生型ヒトC3遺伝子と比較して、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置において非終止コドンから終止コドンへの塩基編集を含む、請求項20~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
C3タンパク質の活性の低下が、チオエステルドメイン活性の低下を含む、請求項20~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記投与する工程の後、前記細胞または前記対象が変異体C3タンパク質を発現し、C3コンバターゼによる前記変異体C3タンパク質の切断のレベルまたは速度が、前記C3コンバターゼによる野生型C3タンパク質の切断のレベルまたは速度と比較して低下する(例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下する)、請求項20~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記Casエンドヌクレアーゼが、ヌクレアーゼ不活性Casエンドヌクレアーゼである、請求項20~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記Casエンドヌクレアーゼが、ニッカーゼである、請求項20~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記ニッカーゼが、Cas9ニッカーゼである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記デアミナーゼが、アポリポタンパク質BのmRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーのデアミナーゼに由来するデアミナーゼである、請求項20~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記APOBECファミリーのデアミナーゼが、APOBEC1デアミナーゼ、APOBEC2デアミナーゼ、APOBEC3Aデアミナーゼ、APOBEC3Bデアミナーゼ、APOBEC3Cデアミナーゼ、APOBEC3Dデアミナーゼ、APOBEC3Fデアミナーゼ、APOBEC3Gデアミナーゼ、及びAPOBEC3Hデアミナーゼからなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記塩基エディターをコードするヌクレオチド配列を投与することを含む、請求項20~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記塩基エディターをコードする前記ヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記gRNAを含むウイルスベクターを投与することを含む、請求項20~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記塩基エディターをコードし、前記gRNAを含む前記ヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することを含む、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
前記塩基エディター及び前記gRNAを含むリボ核タンパク質(RNP)複合体を投与することを含む、請求項20~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記対象が、補体媒介性疾患を有するかまたは補体媒介性疾患に罹患している、請求項20~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
(i)エンドヌクレアーゼ(例えば、Casエンドヌクレアーゼ)とデアミナーゼとを含む融合タンパク質を含む塩基エディターと、
(ii)ヒトC3遺伝子の一部に相補的なヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含むgRNA(例えば、シングルガイドRNA(sgRNA))と、を含む、組成物。
【請求項41】
前記gRNAが、表2、3、または4に記載の1つ以上の塩基位置に対して前記塩基エディターをターゲティングする、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
請求項40または41に記載の組成物を含む細胞。
【請求項43】
請求項42に記載の細胞の子孫細胞。
【請求項44】
対象における補体活性化をコントロールと比較して低下させる(例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下させる)方法であって、請求項40または41に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項45】
前記細胞が肝細胞である、請求項1~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記細胞が肝細胞である、請求項42または43に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月10日に出願された米国仮出願第63/124,009号の利益を主張するものであり、本明細書に参照によりその全容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
補体は、自然免疫と獲得免疫の両方で重要な役割を果たす、30を超える血漿タンパク質及び細胞結合タンパク質からなるシステムである。補体系のタンパク質は、様々なタンパク質相互作用及び切断イベントによって一連の酵素カスケードで作用する。補体活性化は、抗体依存性古典経路、別経路、マンノース結合レクチン(MBL)経路という3つの主要な経路を介して生じる。不適切なまたは過剰な補体活性化は、多くの重篤な疾患及び状態の根本的な原因または寄与因子であり、過去数十年にわたり、治療薬としての様々な補体阻害剤の探索に多大な努力が払われてきた。
【発明の概要】
【0003】
一態様では、本開示は、対象を治療する方法であって、対象に、(i)エンドヌクレアーゼ(例えば、Casエンドヌクレアーゼ)とデアミナーゼとを含む融合タンパク質を含む塩基エディターと、(ii)ヒトC3遺伝子の部分に相補的なヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含むgRNA(例えば、シングルガイドRNA(sgRNA))と、を投与することを含み、投与する工程の後、細胞及び/または対象が、コントロールと比較して、C3タンパク質の発現及び/または活性の低下(例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の低下)を示す、方法に関する。
【0004】
いくつかの実施形態では、ヒトC3遺伝子の一部は、配列番号1のエクソン内のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトC3遺伝子の一部は、配列番号1のイントロン内のヌクレオチド配列を含む。
【0005】
いくつかの実施形態では、gRNAは、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置に塩基エディターをターゲティングする。いくつかの実施形態では、投与する工程の後、ヒトC3遺伝子は、野生型ヒトC3遺伝子に対して、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置において、CからTへ、GからAへ、TからCへ、またはAからGへの塩基編集を含む。いくつかの実施形態では、投与する工程の後、ヒトC3遺伝子は、野生型ヒトC3遺伝子に対して、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置において非終止コドンから終止コドンへのゲノム編集を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、C3タンパク質の活性の低下は、チオエステルドメイン活性の低下を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、投与する工程の後、細胞または対象は変異体C3タンパク質を発現し、C3コンバターゼによる変異体C3タンパク質の切断のレベルまたは速度は、C3コンバターゼによる野生型C3タンパク質の切断のレベルまたは速度と比較して低下する(例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下する)。
【0008】
いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼはヌクレアーゼ不活性Casエンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼはニッカーゼである。いくつかの実施形態では、ニッカーゼはCas9ニッカーゼである。
【0009】
いくつかの実施形態では、デアミナーゼは、アポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーのデアミナーゼに由来するデアミナーゼである。いくつかの実施形態では、APOBECファミリーデアミナーゼは、APOBEC1デアミナーゼ、APOBEC2デアミナーゼ、APOBEC3Aデアミナーゼ、APOBEC3Bデアミナーゼ、APOBEC3Cデアミナーゼ、APOBEC3Dデアミナーゼ、APOBEC3Fデアミナーゼ、APOBEC3Gデアミナーゼ、及びAPOBEC3Hデアミナーゼからなる群から選択される。
【0010】
いくつかの実施形態では、方法は、塩基エディターをコードするヌクレオチド配列を投与することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、塩基エディターをコードするヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、方法は、gRNAを含むウイルスベクターを投与することを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、方法は、塩基エディターをコードし、gRNAを含むヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、方法は、塩基エディター及びgRNAを含むリボ核タンパク質(RNP)複合体を投与することを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、対象は、補体媒介性疾患を患っているか、補体媒介性疾患に罹患しているか、または補体媒介性疾患を発症するリスクがある。
【0015】
別の態様では、本開示は、細胞内のヒトC3遺伝子を編集する方法であって、(i)エンドヌクレアーゼ(例えば、Casエンドヌクレアーゼ)とデアミナーゼとを含む融合タンパク質を含む塩基エディターと、(ii)ヒトC3遺伝子の一部に相補的なヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含むgRNA(例えば、シングルガイドRNA(sgRNA))と、を細胞に接触させること、または対象に投与することを含み、
接触させる工程または投与する工程の後、細胞が、少なくとも1つのゲノム編集を含むヒトC3遺伝子を含む、方法に関する。
【0016】
いくつかの実施形態では、投与する工程の後、細胞及び/または対象が、コントロールと比較して低下した(約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下した)C3タンパク質の発現及び/または活性を示す。
【0017】
いくつかの実施形態では、ヒトC3遺伝子の一部は、配列番号1のエクソン内のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトC3遺伝子の一部は、配列番号1のイントロン内のヌクレオチド配列を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、gRNAは、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置に塩基エディターをターゲティングする。いくつかの実施形態では、投与する工程の後、ヒトC3遺伝子は、野生型ヒトC3遺伝子に対して、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置において、CからTへ、GからAへ、TからCへ、またはAからGへの塩基編集を含む。いくつかの実施形態では、投与する工程の後、ヒトC3遺伝子は、野生型ヒトC3遺伝子に対して、表2、3、または4に記載される1つ以上の塩基位置において非終止コドンから終止コドンへのゲノム編集を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、C3タンパク質の活性の低下は、チオエステルドメイン活性の低下を含む。いくつかの実施形態では、投与する工程の後、細胞または対象は変異体C3タンパク質を発現し、C3コンバターゼによる変異体C3タンパク質の切断のレベルまたは速度は、C3コンバターゼによる野生型C3タンパク質の切断のレベルまたは速度と比較して低下する(例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下する)。
【0020】
いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼはヌクレアーゼ不活性Casエンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼはニッカーゼである。いくつかの実施形態では、ニッカーゼはCas9ニッカーゼである。
【0021】
いくつかの実施形態では、デアミナーゼは、アポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーのデアミナーゼに由来するデアミナーゼである。いくつかの実施形態では、APOBECファミリーデアミナーゼは、APOBEC1デアミナーゼ、APOBEC2デアミナーゼ、APOBEC3Aデアミナーゼ、APOBEC3Bデアミナーゼ、APOBEC3Cデアミナーゼ、APOBEC3Dデアミナーゼ、APOBEC3Fデアミナーゼ、APOBEC3Gデアミナーゼ、及びAPOBEC3Hデアミナーゼからなる群から選択される。
【0022】
いくつかの実施形態では、方法は、塩基エディターをコードするヌクレオチド配列を投与することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、塩基エディターをコードするヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、方法は、gRNAを含むウイルスベクターを投与することを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、方法は、塩基エディターをコードし、gRNAを含むヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、方法は、塩基エディター及びgRNAを含むリボ核タンパク質(RNP)複合体を投与することを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、対象は、補体媒介性疾患を患っているか、補体媒介性疾患に罹患しているか、または補体媒介性疾患を発症するリスクがある。
【0027】
別の態様では、本開示は、(i)エンドヌクレアーゼ(例えば、Casエンドヌクレアーゼ)とデアミナーゼとを含む融合タンパク質を含む塩基エディターと、(ii)ヒトC3遺伝子の一部に相補的なヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含むgRNA(例えば、シングルガイドRNA(sgRNA))と、を含む、組成物に関する。いくつかの実施形態では、gRNAは、表2、3、または4に記載の1つ以上の塩基位置に対して前記塩基エディターをターゲティングする。
【0028】
別の態様では、本開示は、(i)エンドヌクレアーゼ(例えば、Casエンドヌクレアーゼ)とデアミナーゼとを含む融合タンパク質を含む塩基エディターと、(ii)ヒトC3遺伝子の一部に相補的なヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含むgRNA(例えば、シングルガイドRNA(sgRNA))と、を含む組成物を含む細胞、またはかかる細胞の子孫に関する。いくつかの実施形態では、gRNAは、表2、3、または4に記載の1つ以上の塩基位置に対して前記塩基エディターをターゲティングする。
【0029】
別の態様では、本開示は、対象における補体活性化をコントロールと比較して低下させる(例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下させる)方法であって、(i)エンドヌクレアーゼ(例えば、Casエンドヌクレアーゼ)とデアミナーゼとを含む融合タンパク質を含む塩基エディターと、(ii)ヒトC3遺伝子の一部に相補的なヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含むgRNA(例えばシングルガイドRNA(sgRNA))と、を含む組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。いくつかの実施形態では、gRNAは、表2、3、または4に記載の1つ以上の塩基位置に対して前記塩基エディターをターゲティングする。
【0030】
本明細書に記載される態様のいずれかのいくつかの実施形態では、細胞は肝細胞である。
【0031】
定義
補体成分:本明細書で使用される場合、「補体成分」または「補体タンパク質」という用語は、補体系の活性化に関与するか、または1つ以上補体媒介活性に関与する分子である。古典的補体経路の構成要素としては、例えば、C1q、C1r、C1s、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、及び膜侵襲複合体(MAC)とも呼ばれるC5b-9複合体、ならびに前述のいずれかの活性断片または酵素的切断産物(例えば、C3a、C3b、C4a、C4b、C5aなど)が挙げられる。代替経路の構成要素としては、例えば、因子B、D、H、及びI、及びプロペルジンが挙げられ、因子Hは経路の負の調節因子である。レクチン経路の構成要素としては、例えば、MBL2、MASP-1、及びMASP-2が挙げられる。補体成分としては、可溶性補体成分の細胞結合受容体も挙げられる。このような受容体としては、例えば、C5a受容体(C5aR)、C3a受容体(C3aR)、補体受容体1(CR1)、補体受容体2(CR2)、補体受容体3(CR3)などが挙げられる。「補体成分」という用語は、補体活性化の「トリガー」として機能する分子及び分子構造、例えば、抗原-抗体複合体、微生物または人工表面に見られる外来構造などを含むことを意図していない。
【0032】
対象:本明細書で使用される場合、「対象」または「被験者」という用語は、提供される化合物または組成物が、例えば、実験、診断、予防、及び/または治療の目的で、本発明に従って投与される任意の生物を指す。典型的な対象は、動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、及びヒト、昆虫、蠕虫など)を含む。いくつかの実施形態では、対象は、疾患、障害、及び/または状態に罹患している、及び/またはそれらに感受性がある場合がある。
【0033】
~に罹患している:疾患、障害、及び/または状態に「罹患している」個人は、疾患、障害、及び/または状態の1つ以上の症状があると診断されているか、及び/または疾患、障害、または状態の1つ以上の症状を示す。
【0034】
治療すること:本明細書で使用される場合、「治療すること」という用語は、治療を提供すること、すなわち、対象の任意のタイプの医学的管理または外科的管理を提供することを指す。治療は、疾患、障害、もしくは状態の進行を逆転、緩和、阻害、予防または低減するために、または疾患、障害、もしくは状態の1つ以上の症状または徴候を逆転、緩和、その進行を予防、その可能性を低減するために、提供され得る。「予防する」とは、少なくとも一部の個人において、少なくとも一定期間、そのような疾患、障害、状態、または症状もしくは徴候が起こらないようにすることを指す。治療することは、補体媒介性状態を示す1つ以上の症状または徴候の発症後に、例えば、状態を逆転、緩和、重症度を軽減、及び/またはその進行を阻害もしくは予防するために、及び/または状態の1つ以上の症状もしくは徴候を逆転、緩和、重症度を軽減、及び/または阻害するために、対象に薬剤を投与することを含むことができる。本開示の組成物は、補体媒介性疾患を発症している、または一般集団のメンバーと比較してそのような疾患を発症するリスクが高い対象に投与することができる。本開示の組成物は、予防的に、すなわち、症状の発症または状態の徴候の前に投与することができる。この場合、典型的には、対象は症状を発症するリスクがある。
【0035】
核酸:「核酸」という用語には、任意のヌクレオチド、その類似体、及びそれらのポリマーが含まれる。本明細書で使用する場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチド(RNA)またはデオキシリボヌクレオチド(DNA)のいずれかの任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。これらの用語は分子の一次構造を指すため、二本鎖及び一本鎖DNA、二本鎖及び一本鎖RNAが含まれる。これらの用語には、同等物として、ヌクレオチド類似体及び、例えばメチル化、保護及び/またはキャップされたヌクレオチドまたはポリヌクレオチド(ただし、これらに限定されない)などの修飾ポリヌクレオチドから作られたRNAまたはDNAの類似体が含まれる。この用語には、ポリまたはオリゴリボヌクレオチド(RNA)及びポリまたはオリゴデオキシリボヌクレオチド(DNA);核酸塩基及び/または修飾核酸塩基のN-グリコシドまたはC-グリコシドから誘導されるRNAまたはDNA;糖及び/または修飾糖から誘導される核酸;ならびにリン酸架橋及び/または修飾リン原子架橋(本明細書では「ヌクレオチド間結合」とも呼ばれる)から誘導される核酸が含まれる。この用語には、核酸塩基、修飾核酸塩基、糖、修飾糖、リン酸架橋または修飾リン原子架橋の任意の組み合わせを含む核酸が含まれる。例としては、これらに限定されるものではないが、リボース部分を含む核酸、デオキシリボース部分を含む核酸、リボース部分とデオキシリボース部分の両方を含む核酸、リボース部分と修飾リボース部分を含む核酸が挙げられる。いくつかの実施形態では、接頭辞「ポリ」は、2~約10,000個、2~約50,000個、または2~約100,000個のヌクレオチドモノマー単位を含む核酸を指す。いくつかの実施形態では、接頭辞「オリゴ」は、2~約200個のヌクレオチドモノマー単位を含む核酸を指す。
【0036】
ベクター:本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、その核酸分子に連結された別の核酸分子を輸送することが可能な核酸分子を指す。1つの種類のベクターとして、さらなるDNAセグメントをライゲートすることができる環状二本鎖DNAループのことを指す「プラスミド」がある。別の種類のベクターとして、さらなるDNAセグメントをウイルスゲノムにライゲートすることができるウイルスベクターがある。特定のベクターは、ベクターが導入された宿主細胞内で自律的に複製することが可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム性の哺乳動物ベクターなど)。他のベクター(例えば非エピソーム性の哺乳動物ベクター)は、宿主細胞内に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれることにより、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、特定のベクターはベクターが機能的に連結された遺伝子の発現を誘導することができる。かかるベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。
【0037】
内因性:核酸(例えば、遺伝子、タンパク質をコードするゲノム領域、プロモーター)に関連して本明細書で使用される「内因性」という用語は、その天然の場所、例えば、細胞のゲノム内にある天然の核酸またはタンパク質を指す。
【0038】
外因性:核酸、例えば発現コンストラクト、cDNA、インデル、及び核酸ベクターに関して本明細書で使用される「外因性」という用語は、例えば、遺伝子編集または遺伝子操作技術、例えば、CRISPRベースの編集技術を使用して細胞のゲノムに人工的に導入された核酸を指す。
【0039】
ガイドRNA:「ガイドRNA」及び「gRNA」という用語は、Cas9またはCpf1などのエンドヌクレアーゼの、細胞内のゲノム配列またはエピソーム配列などの標的配列に対する特異的結合(または「ターゲティング」)を促進する任意の核酸を指す。
【0040】
変異体:本明細書で使用する場合、「変異体」または「バリアント」という用語は、参照実体との顕著な構造的同一性を示すが、参照実体と比較して1つ以上の化学部分の存在またはレベルにおいて参照実体と構造的に異なる、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または小分子などの実体を意味する。多くの実施形態において、変異体またはバリアントは、その参照実体と機能的にも異なる。一般に、特定の物質が適切に参照物質の「バリアント」であるとみなされるかどうかは、当該参照物質との構造的同一性の程度に基づく。
【0041】
以下の表10に示すように、本明細書に示されるヌクレオチド配列では従来のIUPAC表記が使用される(参照により本明細書に援用するCornish-Bowden A, Nucleic Acids Res.1985 May10;13(9):3021-30も参照)。しかしながら、例えばgRNAターゲティングドメインにおいて、配列がDNAまたはRNAのいずれかによってコードされるような場合では、「T」は「チミンまたはウラシル」を意味する点に留意すべきである。
表10:IUPAC核酸表記
【表1】
【0042】
組み換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、ならびに組織培養及び形質転換の標準的な技術が使用される(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)。酵素反応及び精製技術は、製造業者の仕様書に従って、または当該技術分野において一般的に行われるようにして、または本明細書に記載されるようにして行うことができる。上記の技術及び手順は一般に、当該技術分野では周知の従来の方法に従って、かつ本明細書全体を通して引用され、考察される、一般的かつより具体的な様々な参考文献に記載されるようにして行うことができる。例えば、あらゆる目的で本明細書に参照により援用する、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989))を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】ペグセタコプラン(「APL-2」)の構造を示し、nが約800~約1100であり、PEGが約40kDであると仮定している。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本開示は、その一部において、例えばゲノム編集によって本明細書に記載の補体タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を遺伝子操作するための方法、システム、及び組成物を包含する。かかる方法は、例えば、補体媒介性疾患を有する、または補体媒介性疾患のリスクのある対象を治療するために使用することができる。
【0045】
補体系
補体は、自然免疫と獲得免疫の両方で重要な役割を果たす、数多くの血漿タンパク質及び細胞結合タンパク質からなるシステムである。補体系のタンパク質は、様々なタンパク質相互作用及び切断イベントによって一連の酵素カスケードで作用する。本開示の理解を容易にするために、本発明をいかなる意味でも限定しようとするものではないが、このセクションでは補体及びその活性化経路の概要を与える。さらなる詳細については、例えば、Kuby Immunology,6th ed.,2006;Paul,W.E.,Fundamental Immunology,Lippincott Williams & Wilkins;6th ed.,2008;及びWalport MJ.,Complement. First of two parts. N Engl J Med.,344(14):1058-66,2001に見られる。
【0046】
補体は、感染性病原体から体を守るのに重要な役割を果たす自然免疫系の武器である。補体系は、古典的経路、別経路、及びレクチン経路として知られる3つの主要な経路に関与する30を超える血清及び細胞タンパク質で構成されている。古典的経路は通常、抗原とIgMまたはIgG抗体の複合体がC1に結合することによって引き起こされる(ただし、特定の他の活性化因子も経路を開始することができる)。活性化されたC1は、C4とC2を切断して、C2aとC2b以外に、C4aとC4bを生成する。C4bとC2aとは結合してC3コンバターゼを形成し、規定の切断部位でC3を切断してC3a及びC3bを形成する(例えば、Kulkarni et al., Am J Respir Cell Mol Biol 60:144-157 (2019)を参照)。C3bがC3コンバターゼに結合すると、C5コンバターゼが生成され、C5がC5aとC5bに切断される。C3a、C4a、及びC5aはアナフィラトキシンであり、急性炎症反応における複数の反応を媒介する。C3aとC5aは、好中球などの免疫系細胞を誘引する走化性因子でもある。初期に用いられていた「C2a」及び「C2b」の名称は科学文献では後に逆になっている点は理解されよう。
【0047】
別経路は、例えば微生物表面及び様々な複合多糖類によって開始され、増幅される。この経路では、低レベルで自然に発生するC3からC3(H2O)への加水分解により、B因子の結合がもたらされ、これはD因子によって切断され、C3をC3aとC3bに切断することによって補体を活性化する液相C3コンバターゼが生成される。C3bは細胞表面などの標的に結合し、因子Bと複合体を形成する。これは、後に因子Dによって切断され、C3コンバターゼになる。表面に結合したC3コンバターゼは、さらなるC3分子を切断して活性化し、活性化部位にごく近接した急速なC3b沈着をもたらし、さらなるC3コンバターゼを形成し、これにより、さらなるC3bが生成される。このプロセスにより、C3切断とC3コンバターゼ形成のサイクルが生じ、応答が大幅に増幅される。C3の切断及びC3bの別の分子のC3コンバターゼへの結合は、C5コンバターゼを生じさせる。この経路のC3コンバターゼ及びC5コンバターゼは、細胞分子CR1、DAF、MCP、CD59、及びfHによって制御されている。これらのタンパク質の作用機序には、崩壊促進活性(すなわち、コンバターゼを解離する能力)、第I因子によるC3bまたはC4bの分解における補因子として機能する能力、あるいはその両方が含まれる。通常、細胞表面に補体調節タンパク質が存在すると、その上で有意な補体活性化が起こるのを防ぐ。
【0048】
両方の経路で生成されたC5コンバターゼは、C5を切断してC5aとC5bを生成する。次に、C5bがC6、C7、及びC8に結合してC5b-8を形成し、これがC9の重合を触媒して、終末補体複合体(TCC)としても知られるC5b-9膜侵襲複合体(MAC)を形成する。MACはそれ自体を標的細胞膜に挿入し、細胞溶解を引き起こす。細胞膜上の少量のMACは、細胞死以外のさまざまな結果をもたらし得る。TCCが膜に挿入されない場合、可溶性sC5b-9(sC5b-9)として血液中を循環することができる。血中のsC5b-9のレベルは、補体活性化の指標として機能しうる。
【0049】
レクチン補体経路は、マンノース結合レクチン(MBL)及びMBL関連セリンプロテアーゼ(MASP)の炭水化物への結合によって開始される。MB1-1遺伝子(ヒトではLMAN-1として知られる)は、小胞体とゴルジ体の間の中間領域に局在するI型膜内在性タンパク質をコードしている。MBL-2遺伝子は、血清中に見られる可溶性マンノース結合タンパク質をコードしている。ヒトのレクチン経路では、MASP-1とMASP-2がC4とC2のタンパク質分解に関与し、上記のC3コンバターゼをもたらす。
【0050】
補体活性は、補体制御タンパク質(CCP)または補体活性化(RCA)タンパク質の調節因子と呼ばれるさまざまな哺乳動物タンパク質によって調節される(米国特許第6,897,290号)。これらのタンパク質は、リガンドの特異性と補体阻害のメカニズム(複数可)に関して異なる。それらは、コンバターゼの通常の崩壊を加速し、及び/または第I因子の補因子として機能し、C3b及び/またはC4bをより小さな断片に酵素的に切断し得る。CCPは、ショートコンセンサスリピート(SCR)、補体制御タンパク質(CCP)モジュール、またはSUSHIドメインとして知られる、4つのジスルフィド結合システイン(2つのジスルフィド結合)、プロリン、トリプトファン、及び多くの疎水性残基を含む保存されたモチーフを含む長さ約50~70アミノ酸の複数の(通常4~56)相同モチーフの存在を特徴としている。CCPファミリーには、補体受容体1型(CR1;C3b:C4b受容体)、補体受容体2型(CR2)、膜補体タンパク質(MCP;CD46)、崩壊促進因子(DAF)、補体因子H(fH)、及びC4b結合タンパク質(C4bp)が含まれる。CD59は、CCPとは構造的に無関係な膜結合型補体調節タンパク質である。補体調節タンパク質は通常、哺乳動物の細胞または組織、例えばヒト宿主で発生する可能性のある補体活性化を制限する働きをする。したがって、「自己」細胞は通常、補体の活性化がこれらの細胞で進行することで生じる有害な影響から保護される。不適切または過剰な補体活性化は、多くの重篤な疾患及び状態の根本的な原因または寄与因子である。補体調節タンパク質(複数可)の欠損または欠陥は、様々な補体媒介性疾患の病因に関与している。
【0051】
ゲノム編集システムと技術
いくつかの実施形態では、例えば、補体の発現または活性のレベルの低下を必要とする対象(例えば、補体媒介性疾患に罹患しているか、またはそのリスクがある対象)の細胞に対して遺伝子工学が行われる。いくつかの実施形態では、遺伝子工学は、ゲノム編集を用いて行われる。
【0052】
本明細書で使用される場合、「ゲノム編集」とは、標的遺伝子の発現を改変及び/またはノックアウトするために、生物の任意のタンパク質コードまたは非コードヌクレオチド配列を含むゲノムを改変する方法を指す。一般に、ゲノム編集法には、ゲノムの核酸、例えば標的ヌクレオチド配列を切断できるエンドヌクレアーゼの使用が含まれる。ゲノム内の一本鎖または二本鎖の切断の修復により、突然変異が導入される可能性があり、かつ/または外因性の核酸が標的部位に挿入される可能性がある。
【0053】
ゲノム編集法は当該技術分野では周知のものであり、一般に、標的核酸の切断の生成に関与するエンドヌクレアーゼの種類に基づいて分類される。これらの方法には、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターベースのヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、及びCRISPR/Casシステムの使用が含まれる。
【0054】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集方法は、当技術分野で知られているTALEN技術を利用する。一般に、TALENは、目的の標的DNA分子に特異的に結合して切断できるように設計された制限酵素である。TALENには通常、DNA切断ドメインに融合された転写活性化因子様エフェクター(TALE)DNA結合ドメインが含まれている。DNA結合ドメインは、12位と13位に可変の2アミノ酸のRVD(反復可変ジペプチドモチーフ)を有する、高度に保存された33~34アミノ酸配列を含むことができる。RVDモチーフは、核酸配列に対する結合特異性を決定し、当業者には周知の方法に従って操作して、所望のDNA配列に特異的に結合させることができる。一例では、DNA切断ドメインは、FokIエンドヌクレアーゼに由来し得る。FokIドメインは二量体として機能し、適切な配向と間隔を有する標的ゲノム内の部位に対する固有のDNA結合ドメインを有する2つのコンストラクトを必要とする。目的の標的遺伝子(例えば、C3)内の配列に特異的なTALENは、当該技術分野では周知の任意の方法を使用して構築することができる。
【0055】
目的の標的遺伝子に特異的なTALENを細胞内で使用して、二本鎖切断(DSB)を生成することができる。修復機構が非相同末端結合により切断を不適切に修復する場合、切断部位に変異を導入することができる。例えば、不適切な修復によりフレームシフト変異が生じる可能性がある。あるいは、所望の配列を有する外来DNA分子をTALENとともに細胞内に導入することもできる。外来DNA及び染色体配列の配列に応じて、このプロセスを利用して欠陥を修正したり、目的の標的遺伝子にDNA断片を導入したり、そのような欠陥を内因性遺伝子に導入して標的遺伝子の発現を低下させることができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、細胞は、当該技術分野では周知のジンクフィンガー(ZFN)技術を使用して遺伝子操作することができる。一般に、ジンクフィンガー媒介ゲノム編集では、通常、DNA結合ドメイン(すなわち、ジンクフィンガー)及び切断ドメイン(すなわち、ヌクレアーゼ)を含むジンクフィンガーヌクレアーゼが使用される。ジンクフィンガー結合ドメインは、当該技術分野では周知の方法を使用して、任意の目的とする標的遺伝子(例えば、C3)を認識して結合するように操作することができ、特に、約3ヌクレオチド~約21ヌクレオチドの長さ、または約8~約19ヌクレオチドの長さの範囲のDNA配列を認識するように設計することができる。ジンクフィンガー結合ドメインは、一般的には、少なくとも3つのジンクフィンガー認識領域(例えば、ジンクフィンガー)を含む。DNAに配列特異的に結合し(認識部位で)、かつ結合部位またはその付近でDNAを切断することができる制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は、当該技術分野では周知のものであり、ゲノム編集で使用するためのZFNを形成するために使用することができる。例えば、IIS型制限ヌクレアーゼは、認識部位から除去された部位でDNAを切断し、分離可能な結合及び切断ドメインを有する。いくつかの実施形態では、DNA切断ドメインは、FokIエンドヌクレアーゼに由来し得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、CRISPR-Casシステムを使用して行われるが、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)(クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート)-Casシステムは、操作された非天然CRISPR-Casシステムである。CRISPR-Casシステムは、本明細書に記載の補体タンパク質、例えばC3をコードするポリヌクレオチド中の標的配列とハイブリダイズすることができ、ポリヌクレオチドの切断及び修飾を可能にする。CRISPR/Casシステムは、Casエンドヌクレアーゼと操作されたcrRNA/tracrRNA(またはシングルガイドRNA)で構成される。いくつかの実施形態では、CRISPR/CasシステムはcrRNAを含み、tracrRNA配列を含まない。
【0058】
本明細書に記載のCRISPR/Casシステムは、例えば、リーダー配列、トレーラー配列、もしくはイントロンなどの、遺伝子内または遺伝子に隣接したコーディング領域もしくは非コーディング領域内の目的の領域、またはコーディング領域の上流もしくは下流の非転写領域内の目的の領域に結合し、かつ/または切断することができる。本開示で使用されるガイドRNA(gRNA)は、gRNAが、ゲノム内の所定の切断部位(標的部位)へのCas酵素-gRNA複合体の結合を誘導するように設計することができる。切断部位は、不明配列の領域、またはSNP、ヌクレオチド挿入、ヌクレオチド欠失、再配列などを含む領域を含むフラグメントを放出するように選択することができる。
【0059】
遺伝子領域の切断は、Cas酵素によって標的配列の位置で1本鎖または2本鎖を切断することを含み得る。いくつかの実施形態では、そのような切断によって、標的遺伝子の転写が減少し得る。いくつかの実施形態では、切断は、外因性鋳型ポリヌクレオチドとの相同組換えによって切断された標的ポリヌクレオチドを修復することをさらに含み得、修復は、標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換をもたらす。
【0060】
「gRNA」、「ガイドRNA」及び「CRISPRガイド配列」という用語は、本明細書では互換的に使用され、CRISPR/CasシステムのCas DNA結合タンパク質の特異性を決定する配列を含む核酸を指す。gRNAは、宿主細胞のゲノム内の標的核酸配列に(部分的または完全に相補的に)ハイブリダイズする。gRNAを設計及び構築する方法は当該技術分野では周知のものであり、本明細書に記載の標的配列に結合するgRNAを生成するように改変することができる(例えば、米国特許第8,697,359号を参照)。標的核酸にハイブリダイズするgRNAまたはその部分の長さは、約15~約25ヌクレオチド、約18~約22ヌクレオチド、または約19~約21ヌクレオチドとすることができる。いくつかの態様では、標的核酸にハイブリダイズするgRNA配列は、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25ヌクレオチドの長さである。いくつかの態様では、標的核酸にハイブリダイズするgRNA配列は、約10~約30または約15~約25ヌクレオチドの長さである。
【0061】
いくつかの実施形態では、gRNAは、標的核酸に結合する配列以外に足場配列も含む。標的核酸に相補的な配列と足場配列の両方をコードするgRNAの発現は、標的核酸への結合(ハイブリダイゼーション)と標的核酸へのエンドヌクレアーゼの動員という二重の機能を有し、これにより部位特異的なCRISPR活性が生じ得る。いくつかの実施形態では、このようなキメラgRNAはシングルガイドRNA(sgRNA)と呼ばれる。
【0062】
本明細書で使用する場合、「足場配列」はtracrRNAとも呼ばれ、相補的gRNA配列に結合(ハイブリダイズ)した標的核酸にCasエンドヌクレアーゼを動員する核酸配列を指す。少なくとも1つのステムループ構造を含み、エンドヌクレアーゼを動員する任意の足場配列を、本明細書に記載の遺伝子エレメント及びベクターにおいて使用することができる。例示的な足場配列は当該技術分野では周知のものであり、例えば、Jinek et al.,Science(2012)337(6096):816-821、Ran et al.,Nature Protocols(2013)8:2281-2308、PCT公開第WO2014/093694及びPCT公開第WO2013/176772に記載されている。いくつかの実施形態では、CRISPR-CasシステムはtracrRNA配列を含まない。
【0063】
いくつかの実施形態では、gRNA配列は足場配列を含まず、足場配列は別個の転写物として発現される。いくつかの実施形態では、gRNA配列は、足場配列の一部に相補的であり、かつ足場配列に結合(ハイブリダイズ)してエンドヌクレアーゼを標的核酸に動員するように機能するさらなる配列をさらに含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、gRNA配列は、標的核酸と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または少なくとも100%相補的である。いくつかの実施形態では、gRNA配列は、標的核酸の3’末端(例えば、標的核酸の3’末端の最後の5、6、7、8、9、または10ヌクレオチド)と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または少なくとも100%相補的である。当業者には明らかなように、sgRNA配列の選択は、予測されるオンターゲット結合部位及び/またはオフターゲット結合部位の数などの要因に依存し得る。いくつかの実施形態では、sgRNA配列は、潜在的なオンターゲット部位を最大化し、潜在的なオフターゲット部位を最小化するように選択される。当業者には明らかなように、sgRNAの配列を設計及び/または最適化するため、例えばゲノム編集の特異性及び/または精度を高めるために、様々なツールを使用することができる。一般に、候補sgRNAは、利用可能なウェブベースのツールのいずれかに基づいて、予測されるオンターゲット効率が高く、オフターゲット効率が低い標的領域内の配列を特定することによって設計することができる。候補sgRNAは、手動検査及び/または実験的スクリーニングによってさらに評価することができる。Webベースのツールの例としては、これらに限定されるものではないが、CRISPR Seek、CRISPR Design Tool、Cas-OFFinder、E-CRISP、ChopChop、CasOT、CRISPR direct、CRISPOR、BREAKING-CAS、CrispRGold、及びCCTopが挙げられる。例えば、Safari, et al. Current Pharma.Biotechol.(2017)18(13)を参照されたい。
【0065】
いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼ(またはそのバリアント)またはCpf1ヌクレアーゼ(またはそのバリアント)である。Cas9エンドヌクレアーゼが標的核酸の二本鎖DNAを切断して平滑末端を生じるのに対して、Cpf1ヌクレアーゼによる切断は核酸のスタッガード末端を生じる。Cas9ヌクレアーゼ配列及び構造は当該技術分野では周知のものである(例えば、Ferretti et al.,PNAS 98:4658-4663(2001);Deltcheva et al.,Nature 471:602-607(2011);Jinek et al.,Science 337:816-821(2012)を参照)。Cas9オーソログは、これらに限定されるものではないがS.pyogenes及びS.Thermophilusを含む様々な種で報告されている。さらなる適当なCas9ヌクレアーゼ及び配列が、本開示に基づけば当業者には明らかであり、かかるCas9ヌクレアーゼ及び配列としては、Chylinski et al.,(2013)RNA Biology10:5,726-737に開示される生物及び座位に由来するCas9配列が挙げられる。いくつかの実施形態では、野生型Cas9は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9(NCBI参照配列:NC_002737.2、ヌクレオチド)及びUniprot参照配列:Q99ZW2(アミノ酸)に相当する。いくつかの実施形態では、野生型Cas9は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のCas9(NCBI参照配列:WP_001573634.1、アミノ酸)に相当する。いくつかの実施形態では、Cas9は、Corynebacteriumulcerans(NCBI参照番号:NC_015683.1, NC_017317.1)、Corynebacteriumdiphtheria(NCBI参照番号:NC_016782.1, NC_016786.1)、Spiroplasmasyrphidicola(NCBI参照番号:NC_021284.1)、Prevotella intermedia(NCBI参照番号:NC_017861.1)、Spiroplasma taiwanense(NCBI参照番号:NC_021846.1)、Streptococcus iniae(NCBI参照番号:NC_021314.1)、Belliella baltica(NCBI参照番号:NC_018010.1)、Psychroflexus torquisl(NCBI参照番号:NC_018721.1)、Streptococcus thermophilus(NCBI参照番号:YP_820832.1)、Listeria innocua(NCBI参照番号:NP_472073.1)、Campylobacter jejuni(NCBI参照番号:YP_002344900.1)またはNeisseria.meningitidis(NCBI参照番号:YP_002342100.1)に由来するCas9を指す。
【0066】
標的核酸の3’側には、エンドヌクレアーゼと相互作用して標的核酸へのエンドヌクレアーゼ活性のターゲティングに関与し得るプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を隣接させることができる。一般に、標的核酸に隣接するPAM配列は、エンドヌクレアーゼ及びそのエンドヌクレアーゼの由来源に依存すると考えられている。例えば、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNGGである。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNNGRRTである。Neisseria meningitidisに由来するCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNNNNGATTである。Streptococcus Thermophilus由来のCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNNAGAAである。Treponema denticola由来のCas9エンドヌクレアーゼの場合、PAM配列はNAAAACである。Cpf1ヌクレアーゼの場合、PAM配列はTTTNである。いくつかの実施形態では、CasエンドヌクレアーゼはMAD7(Eubacterium rectale由来のCpf1ヌクレアーゼとも呼ばれる)であり、PAM配列はYTTTNである。
【0067】
いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼは、Cas9酵素またはそのバリアントである。いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼは、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、Neisseria meningitidis、Streptococcus thermophilus、Campylobacter jujuniまたはTreponema denticolaに由来する。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列は、宿主細胞で発現させるためにコドン最適化される。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、Cas9のホモログまたはオーソログである。
【0068】
いくつかの実施形態では、野生型または変異体Cas酵素を使用することができる。いくつかの実施形態では、Cas9酵素をコードするヌクレオチド配列は、タンパク質の活性を変化させるように修飾される。変異体Cas酵素は、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を切断する能力を欠いていてもよい。Cas9は、HNH及びRuvCエンドヌクレアーゼに相同な2つの独立したヌクレアーゼドメインを有しており、2つのドメインのいずれかを変異させることによって、Cas9タンパク質は一本鎖切断を導入するニッカーゼに転換することができる(Cong, L. et al.Science 339,819-823(2013))。例えば、化膿連鎖球菌由来のCas9のRuvC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を、両鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断)に転換する。Cas9をニッカーゼに転換する変異の他の例としては、これらに限定されるものではないが、D10A、H840A、N854A、N863A、及びそれらの組み合わせが挙げられる。野生型Cas9ヌクレアーゼの点変異体(D10A)である「nCas9」はニッカーゼ活性を有する。変異D10A及びH840Aを有する「dCas9」には、エンドヌクレアーゼ活性がない。例えば、Dabrowska et al.Frontiers in Neuroscience(2018)12(75)を参照されたい。いくつかの実施形態では、Cas9ニッカーゼは、アミノ酸位置D10及び/またはH840に変異を含む。いくつかの実施形態では、Cas9ニッカーゼは、置換変異D10A及び/またはH840Aを含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼは、触媒的に不活性なCas9(例えば、dCas9)である。あるいは、またはさらに、Cas9エンドヌクレアーゼを別のタンパク質またはその一部と融合させることもできる。いくつかの実施形態では、dCas9は、KRABドメインなどのリプレッサードメインと融合される。いくつかの実施形態では、dCas9は、VP64またはVPRなどのアクチベータードメインと融合される。いくつかの実施形態では、dCas9は、ヒストンデメチラーゼドメインまたはヒストンアセチルトランスフェラーゼドメインなどのエピジェネティックな調節ドメインと融合される。いくつかの実施形態では、dCas9は、LSD1もしくはp300、またはそれらの一部と融合される。いくつかの実施形態では、dCas9またはCas9は、Fok1ヌクレアーゼドメインと融合される。いくつかの実施形態では、Cas9またはdCas9は、蛍光タンパク質(例えば、GFP、vRFP、mCherryなど)と融合される。
【0070】
いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼは、酵素の特異性を高めるように修飾される(例えば、オフターゲット効果を低減し、安定したオンターゲット切断を維持する)。いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼは、特異性が高められたCas9変異体(例えば、eSPCas9)である。例えば、Slaymaker et al.Science(2016)351(6268):84-88を参照されたい。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼは、高忠実度Cas9変異体(例えば、SpCas9-HF1)である。例えば、Kleinstiver et al.Nature(2016)529:490-495を参照されたい。
【0071】
いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列は、エンドヌクレアーゼ活性の特異性を変化させる(例えば、オフターゲットの切断を減少させ、細胞内のCasエンドヌクレアーゼ活性または寿命を減少させ、相同組換え修復を増加させ、かつ/または非相同末端結合を減少させる)ためにさらに修飾される。例えば、Komor et al.Cell (2017)168:20-36を参照されたい。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列は、エンドヌクレアーゼのPAM認識を変化させるように修飾される。例えば、CasエンドヌクレアーゼSpCas9は、PAM配列NGGを認識するが、このエンドヌクレアーゼの1つ以上の修飾を含むSpCas9の緩和(relaxed)バリアント(例えば、VQR SpCas9、EQR SpCas9、VRER SpCas9)は、PAM配列NGA、NGAG、NGCGを認識することができる。修飾されていないCasエンドヌクレアーゼと比較して、Casエンドヌクレアーゼがより多くの潜在的なPAM配列を認識する場合、修飾されたCasエンドヌクレアーゼのPAM認識は「緩和されている」(relaxed)とみなされる。例えば、CasエンドヌクレアーゼSaCas9はPAM配列NNGRRTを認識するが、このエンドヌクレアーゼの1つ以上の修飾を含むSaCas9の緩和バリアント(例えばKKH SaCas9)はPAM配列NNNRRTを認識することができる。一例では、例えば、CasエンドヌクレアーゼFnCas9は、PAM配列NGGを認識するが、このエンドヌクレアーゼの1つ以上の修飾を含むFnCas9の緩和変異体(例えば、RHA FnCas9)は、PAM配列YGを認識することができる。一例では、Casエンドヌクレアーゼは、置換変異S542R及びK607Rを含むCpf1エンドヌクレアーゼであり、PAM配列TYCVを認識する。一例では、Casエンドヌクレアーゼは、置換変異S542R、K607R、及びN552Rを含むCpf1エンドヌクレアーゼであり、PAM配列TATVを認識する。例えば、Gao et al.Nat.Biotechnol.(2017)35(8):789-792を参照されたい。
【0072】
いくつかの実施形態では、CasエンドヌクレアーゼはCpf1ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cpf1ヌクレアーゼはProvetella sppまたはFrancisella sppに由来する。いくつかの実施形態では、Cpf1ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列は、宿主細胞での発現のためにコドン最適化されている。
【0073】
いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは塩基エディターである。本明細書に記載されるように、「塩基エディター」という用語は、ヌクレオチド塩基を編集するタンパク質を指す。「塩基編集」とは、ある核酸塩基から別の核酸塩基への変換を指す(例えば、AからG、AからC、AからT、CからT、CからG、CからA、GからA、GからC、GからT、TからA、TからC、TからG)。塩基エディターエンドヌクレアーゼは一般に、機能ドメインに融合された、触媒的に不活性なCasエンドヌクレアーゼ、または触媒活性が低下したCasエンドヌクレアーゼを含む。例えば、Eid et al. Biochem.J.(2018)475(11):1955-1964;Rees et al.Nature Reviews Genetics(2018)19:770-788を参照されたい。いくつかの実施形態では、触媒的に不活性なCasエンドヌクレアーゼはdCas9である。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、1つ以上のウラシルグリコシラーゼ阻害剤(UGI)ドメインに融合されたdCas9を含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、アデニン塩基エディター(ABE)、例えばRNAアデニンデアミナーゼTadAから進化したABEに融合されたdCas9を含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、シトジンデアミナーゼ酵素(例えば、APOBECデアミナーゼ、pmCDA1、活性化誘導性シチジンデアミナーゼ(AID))に融合されたdCas9を含む。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼは低い活性を有し、nCas9である。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、1つ以上のウラシルグリコシラーゼ阻害剤(UGI)ドメインに融合されたnCas9を含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、アデニン塩基エディター(ABE)、例えばRNAアデニンデアミナーゼTadAから進化したABEに融合されたnCas9を含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、シトジンデアミナーゼ酵素(例えば、APOBECデアミナーゼ、pmCDA1、活性化誘導性シチジンデアミナーゼ(AID))に融合されたnCas9を含む。いくつかの実施形態では、塩基エディターは、(i)Cas9(例えば、dCas9またはnCas9)、CasX、CasY、Cpf1、C2c1、C2c2、C2c3、またはアルゴノートタンパク質、(ii)デアミナーゼ(例えば、アポリポタンパク質BのmRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーのデアミナーゼからのデアミナーゼ、例えば、APOBEC1デアミナーゼ、APOBEC2デアミナーゼ、APOBEC3Aデアミナーゼ、APOBEC3Bデアミナーゼ、APOBEC3Cデアミナーゼ、APOBEC3Dデアミナーゼ、APOBEC3Fデアミナーゼ、APOBEC3Gデアミナーゼ、またはAPOBEC3Hデアミナーゼ)、及び(iii)UGIドメインを含む融合タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の塩基エディターは、核局在化シグナルをさらに含む。
【0074】
基本エディターの例としては、これらに限定されるものではないが、BE1、BE2、BE3、HF-BE3、BE4、BE4max、BE4-Gam、YE1-BE3、EE-BE3、YE2-BE3、YEE-CE3、VQR-BE3、VRER-BE3、SaBE3、SaBE4、SaBE4-Gam、Sa(KKH)-BE3、Target-AID、Target-AID-NG、xBE3、eA3A-BE3、BE-PLUS、TAM、CRISPR-X、ABE7.9、ABE7.10、ABE7.10*、xABE、ABESa、VQR-ABE、VRER-ABE、Sa(KKH)-ABE、及びCRISPR-SKIPが挙げられる。塩基エディターのさらなる例は、例えば、US20170121693、US20180312825、US20180312828、PCT公開WO2018165629A1、及びPorto et al.,Nat Rev Drug Discov.19:839-859(2020)にみることができる。
【0075】
Cpf1の触媒的に不活性なバリアント(Cas12a)は、dCas12aと呼ばれることもある。本明細書に記載されるように、Cpf1の触媒的に不活性なバリアントは、機能ドメインに融合されて塩基エディターを形成し得る。例えば、Rees et al. Nature Reviews Genetics(2018)19:770-788を参照されたい。いくつかの実施形態では、触媒的に不活性なCasエンドヌクレアーゼはdCas9である。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、1つ以上のウラシルグリコシラーゼ阻害剤(UGI)ドメインに融合されたdCas12aを含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、アデニン塩基エディター(ABE)、例えばRNAアデニンデアミナーゼTadAから進化したABEに融合されたdCas12aを含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、シトジンデアミナーゼ酵素(例えば、APOBECデアミナーゼ、pmCDA1、活性化誘導性シチジンデアミナーゼ(AID))に融合されたdCas12aを含む。あるいは、またはさらに、Casエンドヌクレアーゼは、Cas14エンドヌクレアーゼまたはそのバリアントであってもよい。Cas9エンドヌクレアーゼと異なり、Cas14エンドヌクレアーゼは古細菌に由来し、サイズが小さい傾向がある(例えば、400~700アミノ酸)。さらに、Cas14エンドヌクレアーゼはPAM配列を必要としない。例えば、Harrington et al.,Science 362:839-842 (2018)を参照されたい。
【0076】
また、本明細書では、1つ以上の補体タンパク質(例えば、C3)をコードする1つ以上の編集された遺伝子を保有する、本明細書に記載の遺伝子操作細胞を作製する方法も提供される。いくつかの実施形態では、方法は、細胞を提供することと、ゲノム編集用のCRISPR Casシステムの成分を細胞内に導入することと、を含む。いくつかの実施形態では、補体タンパク質(例えば、C3)をコードするヌクレオチド配列の一部にハイブリダイズするか、またはハイブリダイズすることが予測されるCRISPR-CasガイドRNA(gRNA)を含む核酸が細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、gRNAは、ベクターによって細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼが細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼは、Casエンドヌクレアーゼをコードする核酸として細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、gRNAと、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列とが、単一の核酸(例えば、同じベクター)内で細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、gRNAと、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列とは、別々の核酸(例えば、異なるベクター)内で細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼはタンパク質の形態で細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、CasエンドヌクレアーゼとgRNAはインビトロで予め形成され、リボ核タンパク質複合体として細胞に導入される。
【0077】
いくつかの実施形態では、複数のgRNAが細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、2つ以上のガイドRNAが等モル量で細胞にトランスフェクトされる。いくつかの実施形態では、2つ以上のガイドRNAは、等モルではない量で与えられる。いくつかの実施形態では、2つ以上のガイドRNAは、各標的の編集が等しい頻度で起こるように最適化された量で与えられる。いくつかの実施形態では、2つ以上のガイドRNAは、各標的の編集が最適な頻度で起こるように最適化された量で与えられる。
【0078】
本開示のベクターは、哺乳類発現ベクターを使用して、哺乳類細胞内で1つ以上の配列の発現を誘導することができる。哺乳類発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed,Nature(1987)329:840)及びpMT2PC(Kaufman,et al.,EMBO J.(1987)6:187)が挙げられる。哺乳動物細胞で使用される場合、発現ベクターの制御機能は通常、1つ以上の調節エレメントによって与えられる。例えば、一般的に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、シミアンウイルス40、及び本明細書に開示され、当該技術分野では周知であるその他のプロモーターに由来する。原核細胞及び真核細胞の両方に適した他の発現系については、例えば、Sambrook,et al.,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL 2nd eds.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989の第16章及び第17章を参照されたい。
【0079】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のベクターは、特定の細胞型で選択的に核酸の発現を誘導することができる(例えば、組織特異的調節エレメントを使用して核酸を発現させる)。このような調節エレメントには、組織特異的または細胞特異的であり得るプロモーターが含まれる。プロモーターの特異性は、当該技術分野では周知の方法、例えば免疫組織化学的染色法を使用して評価することができる。
【0080】
従来のウイルス及び非ウイルスベースの遺伝子導入法を用いて、本明細書に記載のエンドヌクレアーゼ(例えば、ZFN、TALEN、メガヌクレアーゼ、及びCRISPR-Cas9)をコードする核酸を、哺乳類細胞または標的組織に導入することができる。例えば、こうした方法を使用して、CRISPR-Casシステムの成分をコードする核酸を、培養細胞または宿主生物に投与することができる。非ウイルスベクター送達系としては、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載のベクターの転写産物)、ネイキッド核酸、及び送達ビヒクルと複合体を形成させた核酸が挙げられる。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas9をコードする核酸は、トランスフェクション(例えば、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション)によって導入される。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas9をコードする核酸は、ナノ粒子送達、例えば、カチオン性ナノキャリアによって導入される。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas9をコードする核酸は、脂質ナノ粒子によって導入される。
【0081】
ウイルスベクター送達系は、細胞への送達後にエピソームゲノムまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有するDNA及びRNAウイルスを含む。
【0082】
ウイルスベクターは、(インビボで)対象に直接投与するか、またはウイルスベクターを用いて細胞をインビトロまたはエクスビボで操作することができ、改変された細胞を患者に投与することができる。ウイルスベクターとしては、これらに限定されるものではないが、遺伝子導入用のレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス及び単純ヘルペスウイルスベクターが挙げられる。さらに、本開示は、レトロウイルスまたはレンチウイルスなどの宿主ゲノムに組み込むことができるベクターを提供する。in vivoでは、C3を含む多くの補体タンパク質は主に肝臓で合成される。したがって、いくつかの実施形態では、肝細胞がゲノム編集の標的とされる。いくつかのウイルスベクターのクラスが、レトロウイルスベクターを含む遺伝子治療コンストラクトの肝臓を標的とした送達に適していることが示されている(例えば、Axelrod et al.,PNAS 87:5173-5177 (1990);Kay et al.,Hum.Gene Ther.3:641-647 (1992);Van den Driessche et al.,PNAS 96:10379-10384 (1999);Xu et al.,ASAIO J.49:407-416 (2003);及びXu et al.,PNAS 102:6080-6085 (2005)を参照)、レンチウイルスベクター(例えば、McKay et al.,Curr.Pharm.Des.17:2528-2541 (2011);Brown et al.,Blood 109:2797-2805 (2007);及びMatrai et al.,Hepatology 53:1696-1707 (2011)を参照)、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、Herzog et al.,Blood 91:4600-4607 (1998)を参照)、及びアデノウイルスベクター(例えば、Brown et al.,Blood 103:804-810 (2004)及びEhrhardt et al.,Blood 99:3923-3930 (2002)を参照)。
【0083】
いくつかの実施形態では、調節配列は組織特異的な遺伝子発現能を付与する。場合によっては、組織特異的調節配列は、組織特異的な形で転写を誘導する組織特異的転写因子に結合する。そのような組織特異的調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)は当該技術分野では周知のものである。いくつかの実施形態では、プロモーターは、ニワトリβ-アクチンプロモーター、pol IIプロモーター、またはpol IIIプロモーターである。
【0084】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは肝細胞のゲノム編集用に設計され、ウイルスベクターは肝細胞への発現を実質的に制限する1つ以上の肝臓特異的調節エレメントを含む。一般に、肝臓特異的調節エレメントは、肝臓でのみ発現することが知られている任意の遺伝子に由来し得る。WO2009/130208では、α-アンチトリプシンとしても知られるセルピンペプチダーゼ阻害剤、クラーデAメンバー1(SERPINA1;遺伝子ID5265)、アポリポタンパク質C-I(APOC1;遺伝子ID341)、アポリポタンパク質C-IV(APOC4;遺伝子ID346)、アポリポタンパク質H(APOH;遺伝子ID350)、トランスサイレチン(TTR;遺伝子ID7276)、アルブミン(ALB;遺伝子ID213)、アルドラーゼB(ALDOB;遺伝子ID229)、シトクロムP450、ファミリー2、サブファミリーE、ポリペプチド1(CYP2E1;遺伝子ID1571)、フィブリノーゲンアルファ鎖(FGA;遺伝子ID2243)、トランスフェリン(TF;遺伝子ID7018)、及びハプトグロビン関連タンパク質(HPR;遺伝子ID3250)を含む、肝臓特異的に発現されるいくつかの遺伝子を特定している。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のウイルスベクターは、これらのタンパク質の1つ以上のゲノム座位に由来する肝臓特異的調節エレメントを含む。いくつかの実施形態では、プロモーターは、肝臓特異的プロモーターチロキシン結合グロブリン(TBG)であり得る。あるいは、他の肝臓特異的プロモーターを使用してもよい(例えば、The Liver Specific Gene Promoter Database,Cold Spring Harbor,http://rulai.cshl.edu/LSPD/を参照、例えば、α1抗トリプシン(A1AT);ヒトアルブミン(Miyatake et al.,J.Virol.71:5124 32(1997));humA1b;B型肝炎ウイルスコアプロモーター(Sandig et al.,Gene Ther.3:1002 9(1996));またはLSP1。さらなるベクター及び調節エレメントが、例えば、Baruteau et al., J. Inherit.Metab.Dis.40:497-517 (2017)に記載されている)。
【0085】
いくつかの実施形態では、gRNAはベクターの形態で細胞に導入される。いくつかの実施形態では、gRNAと、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列とが、単一の核酸(例えば、同じベクター)で細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、gRNAと、Casエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列とは、異なる核酸(例えば、異なるベクター)で細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、gRNAは、RNAの形態で細胞内に導入される。いくつかの実施形態では、gRNAは、例えば、gRNAの安定性を高め、オフターゲット活性を低減し、及び/または編集効率を高めるように1つ以上の修飾を含むことができる。修飾の例としては、これらに限定されるものではないが、塩基修飾、骨格修飾、及びgRNAの長さの改変が挙げられる。例えば、Park et al.,Nature Communications(2018)9:3313;Moon et al.,Nature Communications(2018)9:3651を参照されたい。さらに、核酸またはロック核酸を組み込むことで、ゲノム編集の特異性を高めることができる。例えば、Cromwell,et al.Nature Communications(2018)9:1448;Safari et al.,Current Pharm.Biotechnol.(2017)18:13を参照されたい。いくつかの実施形態では、gRNAは、ホスホロチオエート骨格修飾、2’-O-Me-修飾糖(例えば、3’末端及び5’末端の一方または両方)、2’F-修飾糖、リボース糖の二環式ヌクレオチド-cEtによる置換、3’チオPACE (MSP)、またはそれらの任意の組み合わせから選択される1つ以上の置換を含む。適切なgRNA修飾は、例えば、Rahdar et al.,PNAS Dec.22,2015 112 (51) E7110-E7117;及びHendel et al.,Nat Biotechnol.2015 September;33(9):985-989に記載されている。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるgRNAは、1つ以上の2’-O-メチル-3’-ホスホロチオエートヌクレオチド、例えば、少なくとも2、3、4、5、または6個の2’-O-メチル-3’-ホスホロチオエートヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるgRNAは、3つの末端位置と5’末端に、及び/または3つの末端位置と3’末端に修飾ヌクレオチド(例えば、2’-O-メチル-3’-ホスホロチオエートヌクレオチド)を含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、gRNAは、1つ以上の修飾塩基(例えば、2’O-メチルヌクレオチド)を含む。いくつかの実施形態では、gRNAは、1つ以上の修飾ウラシル塩基を含む。いくつかの実施形態では、gRNAは、1つ以上の修飾アデニン塩基を含む。いくつかの実施形態では、gRNAは、1つ以上の修飾グアニン塩基を含む。いくつかの実施形態では、gRNAは、1つ以上の修飾シトシン塩基を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、gRNAは、例えば、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、及びO’メチルリボースまたはデオキシリボース残基などの1つ以上の修飾ヌクレオチド間結合を含む。
【0088】
いくつかの実施形態では、gRNAは、gRNAの3’末端及び/または5’末端に約10ヌクレオチド~100ヌクレオチドの延長部を含む。いくつかの実施形態では、gRNAは、約10ヌクレオチド~100ヌクレオチド、約20ヌクレオチド~90ヌクレオチド、約30ヌクレオチド~80ヌクレオチド、約40ヌクレオチド~70ヌクレオチド、約40ヌクレオチド~60ヌクレオチド、約50ヌクレオチド~60ヌクレオチドの延長部を含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、CasエンドヌクレアーゼとgRNAはインビトロで予め形成され、リボ核タンパク質複合体として細胞内に導入される。Casエンドヌクレアーゼ及びgRNAを含むリボ核タンパク質複合体を導入する機構の例としては、これらに限定されるものではないが、エレクトロポレーション、カチオン性脂質、DNAナノクルー、及び細胞透過性ペプチドが挙げられる。例えば、Safari et al.,Current Pharma.Biotechnol.(2017)18(13);Yin et al.,Nature Review Drug Discovery (2017)16: 387-399を参照されたい。
【0090】
小分子は、Casエンドヌクレアーゼのゲノム編集を調節することが確認されている。Casエンドヌクレアーゼゲノム編集を調節する可能性のある小分子の例としては、これらに限定されるものではないが、L755507、ブレフェルジンA、リガーゼIV阻害剤SCR7、VE-822、AZD-7762が挙げられる。例えば、Hu et al.Cell Chem.Biol.(2016)23: 57-73;Yu et al.Cell Stem Cell (2015)16: 142-147;Chu et al.Nat.Biotechnol.(2015)33: 543-548: Maruyama et al.Nat.Biotechnol.(2015)33: 538-542;及びMa et al.Nature Communications (2018)9:1303を参照されたい。いくつかの実施形態では、Casエンドヌクレアーゼのゲノム編集性を高めるために細胞を1つ以上の小分子と接触させる。いくつかの実施形態では、対象に1つ以上の小分子を投与することでCasエンドヌクレアーゼのゲノム編集性を高める。いくつかの実施形態では、細胞を1つ以上の小分子と接触させることで非相同末端結合を阻害し、及び/または相同組換え修復を促進する。
【0091】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のゲノム編集システム(または本明細書に記載の構成要素)は、局所的または全身的を問わず、任意の適切な様式または経路によって対象に投与することができる。全身投与様式には、経口経路及び非経口経路が含まれる。非経口経路としては、例として、静脈内、骨髄内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、くも膜下腔内、鼻腔内、及び腹腔内経路が挙げられる。局所投与様式としては、例として、海綿骨への骨髄内注射または骨髄腔への大腿内注射、及び門脈への注入が含まれる。
【0092】
投与は、定期的なボーラス(例えば、静脈内)として、または内部リザーバーまたは外部リザーバー(例えば、静脈内バッグまたは埋め込み型ポンプ)からの連続注入として与えることができる。各成分は、例えば、徐放性薬物送達デバイスからの連続放出によって局所的に投与することができる。
【0093】
さらに、各成分は、長期間にわたる放出を可能にするように製剤化されてもよい。放出システムは、生分解性材料のマトリックス、または組み込まれた成分を拡散によって放出する材料を含むことができる。各成分は、放出システム内に均一または不均一に分散させることができる。様々な放出システムが有用となりうるが、適切なシステムの選択は、特定の用途で必要とされる放出速度に依存する。非分解性放出システムと分解性放出システムの両方を使用できる。適当な放出システムとしては、これらに限定されるものではないが、ポリマー及びポリマーマトリックス、非ポリマーマトリックス、または無機及び有機の賦形剤ならびに希釈剤、例えば炭酸カルシウム及び糖(例えば、トレハロース)が挙げられる。放出システムは天然であっても合成であってもよい。しかしながら、合成放出システムは、一般に、より信頼性が高く、より再現性があり、より明確な放出プロファイルを与えることから好ましい。放出システムの材料は、異なる分子量を有する各成分が材料の拡散または材料の分解によって放出されるように選択することができる。
【0094】
代表的な合成生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリ(アミノ酸)及びポリ(ペプチド)などのポリアミド;ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、及びポリ(カプロラクトン)などのポリエステル;ポリ(無水物);ポリオルトエステル;ポリカーボネート;及びそれらの化学誘導体(化学基の置換、付加、例えば、アルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化、及び当業者によって日常的に行われる他の修飾)、コポリマー及びそれらの混合物が挙げられる。代表的な合成非分解性ポリマーとしては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)、及びポリ(テトラメチレンオキシド)などのポリエーテル;ビニルポリマー(メチル、エチル、他のアルキル、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸及びメタクリル酸などのポリアクリレート及びポリメタクリレート、ならびにポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、及びポリ(酢酸ビニル)などの他のビニルポリマー);ポリ(ウレタン);セルロース及びその誘導体(例えば、アルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、エステル、ニトロセルロース、及び各種酢酸セルロース);ポリシロキサン;及びそれらの任意の化学誘導体(化学基の置換、付加、例えば、アルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化、及び当業者によって日常的に行われる他の修飾)、コポリマー及びそれらの混合物が挙げられる。
【0095】
ポリ(ラクチド-co-グリコリド)ミクロスフェアも使用できる。通常、ミクロスフェアは乳酸とグリコール酸のポリマーで構成されており、中空の球体を形成するように構造化されている。スフェアは直径約15~30ミクロンであり、本明細書に記載の各成分を充填することができる。
【0096】
ゲノム編集の標的
本開示には、標的遺伝子(例えば、C3)のゲノム編集に関連する組成物及び方法が含まれる。いくつかの実施形態では、標的遺伝子は、ヒトC3以外に、1つ以上の非ヒト種のC3、例えば非ヒト霊長類C3、例えばカニクイザルC3、または例えばグリーンモンキーである。カニクイザルC3遺伝子にはNCBI遺伝子ID:102131458が割り当てられており、カニクイザルC3の予測されるアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれNCBI参照配列アクセッション番号XP_005587776.1及びXM_005587719.2に記載されている。いくつかの実施形態では、標的遺伝子はヒトC3である。ヒトC3のアミノ酸配列及びmRNA配列は当該技術分野では周知のものであり、一般に利用可能なデータベース、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information)(国立バイオテクノロジー情報センター)参照配列(RefSeq)データベースで見つけることができ、それぞれ、参照配列アクセッション番号NP_000055(アクセッションバージョン番号NP_000055.2)及びNM_000064(アクセッションバージョン番号NM_000064.4)に記載されている(この関連での「mRNA」とは、ゲノムDNAで表されるC3のmRNA配列を指すが、実際のmRNAのヌクレオチド配列はTではなくUを含むものとして理解される)。当業者には、前述の配列が補体C3プレプロタンパク質のものであり、切断されるために成熟タンパク質中には存在しないシグナル配列を含んでいる点は認識されよう。ヒトC3遺伝子にはNCBI遺伝子ID:718が割り当てられており、ゲノムC3配列には参照配列アクセッション番号NG_009557(アクセッションバージョン番号NG_009557.1)を有している。ヒトC3遺伝子は第19番染色体に位置しており、ヒトC3のゲノム配列は以下に示される(参照配列アクセッション番号NG_009557.1より)。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【0097】
以下の表1に示すように、ヒトC3遺伝子には41個のエクソンがある。
【表2-1】
【表2-2】
【0098】
ヒトC3のアミノ酸配列を以下に示す。
MGPTSGPSLLLLLLTHLPLALGSPMYSIITPNILRLESEETMVLEAHDAQGDVPVTVTVHDFPGKKLVLSSEKTVLTPATNHMGNVTFTIPANREFKSEKGRNKFVTVQATFGTQVVEKVVLVSLQSGYLFIQTDKTIYTPGSTVLYRIFTVNHKLLPVGRTVMVNIENPEGIPVKQDSLSSQNQLGVLPLSWDIPELVNMGQWKIRAYYENSPQQVFSTEFEVKEYVLPSFEVIVEPTEKFYYIYNEKGLEVTITARFLYGKKVEGTAFVIFGIQDGEQRISLPESLKRIPIEDGSGEVVLSRKVLLDGVQNPRAEDLVGKSLYVSATVILHSGSDMVQAERSGIPIVTSPYQIHFTKTPKYFKPGMPFDLMVFVTNPDGSPAYRVPVAVQGEDTVQSLTQGDGVAKLSINTHPSQKPLSITVRTKKQELSEAEQATRTMQALPYSTVGNSNNYLHLSVLRTELRPGETLNVNFLLRMDRAHEAKIRYYTYLIMNKGRLLKAGRQVREPGQDLVVLPLSITTDFIPSFRLVAYYTLIGASGQREVVADSVWVDVKDSCVGSLVVKSGQSEDRQPVPGQQMTLKIEGDHGARVVLVAVDKGVFVLNKKNKLTQSKIWDVVEKADIGCTPGSGKDYAGVFSDAGLTFTSSSGQQTAQRAELQCPQPAARRRRSVQLTEKRMDKVGKYPKELRKCCEDGMRENPMRFSCQRRTRFISLGEACKKVFLDCCNYITELRRQHARASHLGLARSNLDEDIIAEENIVSRSEFPESWLWNVEDLKEPPKNGISTKLMNIFLKDSITTWEILAVSMSDKKGICVADPFEVTVMQDFFIDLRLPYSVVRNEQVEIRAVLYNYRQNQELKVRVELLHNPAFCSLATTKRRHQQTVTIPPKSSLSVPYVIVPLKTGLQEVEVKAAVYHHFISDGVRKSLKVVPEGIRMNKTVAVRTLDPERLGREGVQKEDIPPADLSDQVPDTESETRILLQGTPVAQMTEDAVDAERLKHLIVTPSGCGEQNMIGMTPTVIAVHYLDETEQWEKFGLEKRQGALELIKKGYTQQLAFRQPSSAFAAFVKRAPSTWLTAYVVKVFSLAVNLIAIDSQVLCGAVKWLILEKQKPDGVFQEDAPVIHQEMIGGLRNNNEKDMALTAFVLISLQEAKDICEEQVNSLPGSITKAGDFLEANYMNLQRSYTVAIAGYALAQMGRLKGPLLNKFLTTAKDKNRWEDPGKQLYNVEATSYALLALLQLKDFDFVPPVVRWLNEQRYYGGGYGSTQATFMVFQALAQYQKDAPDHQELNLDVSLQLPSRSSKITHRIHWESASLLRSEETKENEGFTVTAEGKGQGTLSVVTMYHAKAKDQLTCNKFDLKVTIKPAPETEKRPQDAKNTMILEICTRYRGDQDATMSILDISMMTGFAPDTDDLKQLANGVDRYISKYELDKAFSDRNTLIIYLDKVSHSEDDCLAFKVHQYFNVELIQPGAVKVYAYYNLEESCTRFYHPEKEDGKLNKLCRDELCRCAEENCFIQKSDDKVTLEERLDKACEPGVDYVYKTRLVKVQLSNDFDEYIMAIEQTIKSGSDEVQVGQQRTFISPIKCREALKLEEKKHYLMWGLSSDFWGEKPNLSYIIGKDTWVEHWPEEDECQDEENQKQCQDLGAFTESMVVFGCPN (配列番号2)
【0099】
いくつかの実施形態では、標的核酸は、本明細書に記載の補体タンパク質をコードするポリヌクレオチド、例えば、C3をコードするポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、標的核酸は、ヒトC3ゲノム配列(例えば、配列番号1、例えば、表1に記載されるエクソン)のエクソン(またはその一部)であるか、またはこれを含む。いくつかの実施形態では、標的核酸は、ヒトC3ゲノム配列(配列番号1)のイントロン(またはその一部)であるか、またはこれを含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、ヒトC3ゲノム配列(例えば、配列番号1、例えば、表1に記載されるエクソン)のエクソン(またはその一部)内、及び/またはヒトC3ゲノム配列(例えば、配列番号1)のイントロン(またはその一部)内の1つ以上のヌクレオチドの欠失、置換、及び/または挿入を含む。
【0101】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、一塩基編集を含む。いくつかの実施形態では、一塩基編集は、例えば野生型補体タンパク質(例えばC3)と比較して、補体タンパク質(例えばC3)の発現及び/または機能を低下させる。いくつかの実施形態では、一塩基編集は、例えば野生型C3タンパク質と比較して、切断型及び/または非機能性C3タンパク質をもたらす中途終止コドンをC3コード配列中に導入する。特定の実施形態では、中途終止コドンは、TAG(アンバー)、TGA(オパール)、またはTAA(オーカー)である。
【0102】
いくつかの実施形態では、中途終止コドンは、Cの脱アミノ化(本明細書に記載の塩基エディター及び適切なゲノム座位を標的とするgRNAを使用した)による、コーディング鎖上のCAGからTAGへの変化から生じる。いくつかの実施形態では、中途終止コドンは、Cの脱アミノ化(本明細書に記載の塩基エディター及び適切なゲノム座位を標的とするgRNAを使用した)による、コーディング鎖上のCGAからTGAへの変化から生じる。いくつかの実施形態では、中途終止コドンは、Cの脱アミノ化(本明細書に記載の塩基エディター及び適切なゲノム座位を標的とするgRNAを使用した)による、コーディング鎖上のCAAからTAAへの変化から生じる。標的遺伝子(例えば、C3などの補体タンパク質をコードする遺伝子)内の任意の「CAG」、「CGA」、及び/または、それぞれ、「CAA」コドンは、「TAG」、「TGA」、または「TAA」に編集することができる。対応する終止コドンに編集することができるヒトC3遺伝子内のコドンの例を表2に示す。
表2:終止コドンを導入するためのヒトC3遺伝子(配列番号1)に対する例示的な一塩基編集
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【0103】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、C3コンバターゼによって切断される能力が低下しているか、かつ/または切断されない変異体C3タンパク質の発現をもたらすヒトC3遺伝子の編集を含む。いくつかの実施形態では、このような変異体C3タンパク質は、C3コンバターゼの競合阻害剤である(例えば、変異体C3タンパク質はC3コンバターゼに結合するが、C3コンバターゼによって切断されない)。このような編集は、C3の推定される切断部位内及び/またはその近傍の領域をコードする核酸を標的とすることによって行うことができる。いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、配列番号2のアミノ酸662~681のうちの1つ以上(例えば、配列番号2のアミノ酸665~671のうちの1つ以上)をコードするコドンの1つ以上のヌクレオチドの欠失、置換、及び/または挿入を含む。いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、配列番号2のアミノ酸662~681のうちの1つ以上(例えば、配列番号2のアミノ酸665~671のうちの1つ以上)をコードするコドンの全部または一部を欠失させる。いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、配列番号2のアミノ酸662~681のうちの1つ以上(例えば、配列番号2のアミノ酸665~671のうちの1つ以上)をコードするコドンの一塩基編集を含み、編集後のコドンは元のアミノ酸とは異なるアミノ酸をコードするようになる。いくつかの実施形態では、そのような一塩基編集は、本明細書に記載の塩基編集と、適切なゲノム座位を標的とするgRNAとを使用して行われる。切断部位を除去及び/または無効化するための例示的な一塩基編集を表3に記載する。
表3:切断部位を除去するためのC3遺伝子への例示的な一塩基編集
【表4】
【0104】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、チオエステルドメイン内に変異を有するC3タンパク質の発現をもたらすヒトC3遺伝子の編集を含む(例えば、Isaac et al., JBC 267:10062-10069 (1992)を参照)。いくつかの実施形態では、このような突然変異は、野生型C3と比較して、チオエステルドメインの機能の低下をもたらす。このような編集は、チオエステルドメイン内の領域をコードする核酸を標的とすることによって行うことができる。いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、配列番号1のエクソン24~30のうちの1つ以上のヌクレオチドの1つ以上の欠失、置換、及び/または挿入を含む(表1を参照)。いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、配列番号1のエクソン24の1つ以上のヌクレオチドの欠失、置換、及び/または挿入を含む(表1を参照)。いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、配列番号2のアミノ酸1005~1021のうちの1つ以上をコードするコドンの全部または一部の欠失、置換、及び/または挿入を含む。いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、配列番号2のアミノ酸1005~1021のうちの1つ以上をコードするコドンの一塩基編集を含み、編集後のコドンは元のアミノ酸とは異なるアミノ酸をコードするようになる。いくつかの実施形態では、そのような一塩基編集は、本明細書に記載の塩基編集と、適切なゲノム座位を標的とするgRNAとを使用して行われる。チオエステルドメインをコードするコドンに対する例示的な一塩基編集を表4に記載する。
表4:チオエステルドメインをコードするC3遺伝子内の例示的な一塩基編集
【表5】
【0105】
C3S(白人及びアジア人集団における頻度がそれぞれ0.79及び0.99)とC3Fという、C3の2つの主要な多型アロタイプが知られている(例えば、Rodriguez et al., JBC 290:2334-2350(2015)を参照)。C3Fは、IgA腎症、全身性血管炎、部分的リポジストロフィー、膜性増殖性糸球体腎炎II型、加齢黄斑変性などの疾患と関連している。C3Sが、配列番号2に示されるように102位にArgを含むのに対して、C3Fは配列番号2の102位に(Argの代わりに)Glyを含む。102位にArgがあることで、活性を調節する塩橋が形成される(Rodriguez et al., JBC 290:2334-2350(2015)を参照)。
【0106】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集は、ヒトC3Sタンパク質の発現をもたらすヒトC3F発現遺伝子の編集を含む。このような編集は、例えば表5に示すように、配列番号2の102位のGlyをコードするコドンを標的とすることによって行うことができる。
表5:102位のGlyをコードするC3コドンに対する例示的な編集
【表6】
【0107】
補体媒介性疾患及び疾病
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療(例えば、本明細書に記載のゲノム編集システム)は、臓器、組織、または細胞に対する補体媒介性傷害に罹患している、またはそのリスクがある対象に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、臓器、組織、または細胞に対する補体媒介性傷害に罹患している、または補体媒介性傷害のリスクがある対象に、1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される遺伝子治療は、エクスビボで臓器、組織、または細胞と接触させられる。この臓器、組織、または細胞を対象に導入することができ、これが行われなければレシピエントの補体系によって引き起こされるであろう傷害から保護することができる。
【0108】
特定の対象とする用途には以下が含まれる:(1)発作性夜間ヘモグロビン尿症または非定型溶血性尿毒症症候群または補体媒介性RBC溶解を特徴とするその他の疾患などの疾患を有する個人において補体媒介性傷害から赤血球(RBC)を保護する。(2)移植された臓器、組織、細胞を補体媒介性傷害から保護する。(3)虚血/再灌流(I/R)損傷を軽減する(例えば、外傷、血管閉塞、心筋梗塞、またはI/R傷害が発生し得る他の状況を有する個人の)。及び(4)補体成分に曝露され得る様々な身体構造(例えば、網膜)または膜(例えば、滑膜)を、広範な異なる補体媒介性疾患のいずれかにおける補体媒介性傷害から保護する。細胞の表面または他の身体構造における補体活性化の阻害の有益な効果は、直接的な補体媒介性傷害からの細胞または構造自体の保護(例えば、細胞溶解の防止)から直接生じるものに限定されない。例えば、補体活性化を阻害することにより、アナフィラトキシンの生成及びその結果生じる好中球の流入/活性化及び他の炎症促進性事象が減少し、及び/または潜在的に有害な細胞内容物の放出が減少し、それによって遠隔の臓器系または全身にわたって有益な効果をもたらす可能性がある。
【0109】
A.血球の保護
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、補体媒介性傷害から血球を保護するために使用される。血球は、血液の任意の細胞成分、例えば、赤血球(RBC)、白血球(WBC)、及び/または血小板であり得る。様々な疾患が、補体を介した血球への傷害に関連している。このような疾患は、例えば、個人の細胞性CRPまたは可溶性CRPの1つ以上における欠損または欠陥、例えば、(a)そのようなタンパク質をコードした遺伝子(複数可)の変異(複数可)、(b)1つ以上のCRPの生成または適切な機能に必要とされる遺伝子の変異(複数可)、及び/または(c)1つ以上のCRPに対する自己抗体の存在から生じ得る。補体媒介性のRBC溶解は、様々な原因(多くの場合、特発性)によって発生し得る、RBC抗原に対する自己抗体の存在によって生じ得る。CRPをコードする遺伝子にそのような変異(複数可)を有する個人、及び/またはCRPに対する、または自身のRBCに対する抗体を有する個人は、補体媒介性RBC傷害が関与する疾患のリスクが高い。ある障害に特徴的なエピソードを1つ以上経験した個人は、再発のリスクが高くなる。
【0110】
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、補体媒介性血管内溶血、ヘモグロビン尿症、骨髄不全、及び血小板増加症(血栓ができる傾向)を特徴とする後天性溶血性貧血を含む比較的まれな疾患である。PNHは、全世界で100万人当たり16人が罹患していると推定され、男女問わず発症し、あらゆる年齢で発症する可能性があり、しばしば若年者で発症する(Bessler,M. & Hiken,J.,Hematology Am Soc Hematol Educ Program,104-110(2008);Hillmen,P.Hematology Am Soc Hematol Educ Program,116-123(2008))。PNHは、急性溶血エピソードを交えた慢性の衰弱性疾患であり、高い死亡率と平均余命の短縮をもたらす。多くの患者は貧血以外に腹痛、嚥下障害、勃起不全、肺高血圧症を有し、腎不全及び血栓塞栓症の高いリスクを有する。
【0111】
PNHは1800年代に別個の病態として初めて記載されたが、補体活性化の別経路の発見により、PNHにおける溶血の原因が明確に確立されたのはようやく1950年代に入ってからである(Parker CJ.Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:an historical overview.Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 93-103(2008)). CD55及びCD59は通常、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー(特定のタンパク質を細胞膜に固定する糖脂質構造)を介して細胞膜に結合されている。PNHは、GPIアンカーの合成に関与するタンパク質をコードするPIGA遺伝子に体細胞変異を獲得した造血幹細胞(複数可)の非悪性クローン増殖の結果として発生する(Takeda J,et al.Deficiency of the GPI anchor caused by a somatic mutation of the PIG-A gene in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria.Cell.73:703-711(1993))。このような幹細胞の子孫は、CD55及びCD59などのGPIアンカータンパク質が欠損している。この欠陥により、これらの細胞は補体媒介性赤血球溶解を受けやすくなる。GPIアンカータンパク質に対する抗体を使用したフローサイトメトリー分析が、しばしば診断に使用されている。この分析法は、細胞表面のGPIアンカータンパク質の欠損を検出し、欠損の程度と罹患細胞の割合を決定することができる(Brodsky RA. Advances in the diagnosis and therapy of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria.Blood Rev.22(2):65-74 (2008))。PNH III型のRBCではGPI結合タンパク質が完全に欠損しており、補体に対して非常に感受性が高いのに対し、PNH II型のRBCでは部分欠損しており、感受性は低い。FLAERは、プロアエロリジン(GPIアンカーに結合する細菌毒素)の蛍光標識された不活性バリアントであり、PNHの診断にフローサイトメトリーと併用されつつある。FLAERの顆粒球への結合の欠如は、PNHの診断に十分である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、PNHのRBCをC3bの沈着から保護する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、PNHに罹患している対象における血管内及び血管外の溶血を阻害する。
【0112】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)に罹患している対象に投与される。aHUSは、微小血管障害性溶血性貧血、血小板減少症、及び急性腎不全を特徴とする慢性疾患であり、不適切な補体活性化によって引き起こされ、多くの場合、補体調節タンパク質をコードする遺伝子の変異が原因である(Warwicker,P.,et al.Kidney Int 53,836-844(1998);Kavanagh, D.& Goodship,T.Pediatr Nephrol 25,2431-2442(2010).補体H因子(CFH)遺伝子の変異は、aHUS患者で最も一般的な遺伝子異常であり、これらの患者の60~70%が発症後1年以内に死亡するか、末期腎不全に達する(Kavanagh & Goodship、前出) 第I因子、B因子、C3、H因子関連タンパク質1~5、及びトロンボモジュリンの変異も報告されている。aHUSの他の原因としては、CFHなどの補体調節タンパク質に対する自己抗体が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、I因子、B因子、C3、H因子関連タンパク質1~5、またはトロンボモジュリンの変異を有することが確認されているか、または補体調節タンパク質、例えばCFHに対する抗体を有することが確認されている対象に投与される。
【0113】
補体媒介性溶血は、RBCに結合して補体媒介性溶血を引き起こす抗体が関与する自己免疫性溶血性貧血など、他の様々な病態でも発生する。例えば、そのような溶血は、原発性慢性寒冷凝集素症ならびに薬物及び他の異物に対する特定の反応で起こり得る(Berentsen,S.,et al.,Hematology 12,361-370 (2007);Rosse,W.F.,Hillmen,P.&Schreiber,A.D.Hematology Am Soc Hematol Educ Program,48-62(2004))。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、慢性寒冷凝集素症に罹患しているかまたはそのリスクのある対象に投与される。別の実施形態において、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、溶血、肝酵素の上昇、低い血小板数の存在によって定義され、少なくとも一部の対象において補体調節タンパク質(複数可)の変異と関連しているHELLP症候群に罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される(Fakhouri,F., et al.,112: 4542-4545 (2008))。
【0114】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、温式自己免疫性溶血性貧血に罹患しているかまたはそのリスクがある対象に投与される。
【0115】
他の実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、対象に輸血される血液のRBCまたは他の細胞成分を保護するために使用される。特定のそのような使用例について、以下でさらに説明する。
【0116】
B.移植
移植は、外傷、病気、またはその他の症状によって損傷した臓器及び組織を置き換える手段を与える、その重要性が増している治療アプローチである。移植できる臓器には、腎臓、肝臓、肺、膵臓、心臓などがある。頻繁に移植される組織には、骨、軟骨、腱、角膜、皮膚、心臓弁、血管などがある。膵島または膵島細胞移植は、糖尿病、例えばI型糖尿病の治療に対する有望なアプローチである。本発明の目的上、これから移植される予定の、現在移植されている、または既に移植された臓器、組織、または細胞(または細胞集団)を「移植片」と呼ぶ場合がある。本明細書の目的上、輸血は「移植片」とみなされる。
【0117】
移植は、移植片に様々な傷害事象及び刺激をもたらし、移植片の機能不全及び場合によっては生着不全につながり得る。例えば、虚血再灌流(I/R)傷害は、多くの移植片(特に実質臓器)の場合、罹患率と死亡率の一般的かつ重大な原因であり、移植片生着の可能性の主要な決定要因となりえる。移植拒絶反応は、遺伝的に異なる個人間での移植に伴う主要なリスクの1つであり、移植片の不全につながり、レシピエントから移植片を除去する必要が生じるおそれがある。
【0118】
移植片は、本開示の様々な実施形態において、移植前、移植中、及び/または移植後に、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、C3発現を阻害する本明細書に記載の遺伝子治療と接触させることができる。別の実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、移植片の除去前に、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせてドナーに投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、移植片の導入中及び/または導入後にレシピエントに、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、移植された移植片に局所的に送達される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、移植片の導入前にレシピエントに投与される。いくつかの実施形態では、対象に、移植片の移植後に1つ以上のさらなる用量の遺伝子治療及び/または1つ以上のさらなる補体阻害剤が投与される。
【0119】
いくつかの実施形態では、移植片は、腎臓、肝臓、肺、膵臓、または心臓などの実質臓器であるかまたはこれらを含む。いくつかの実施形態では、移植片は、骨、軟骨、筋膜、腱、靱帯、角膜、強膜、心膜、皮膚、心臓弁、血管、羊膜、または硬膜であるかまたはこれらを含む。いくつかの実施形態では、移植片は、心肺移植片または膵臓腎臓移植片などの複数の臓器を含む。いくつかの実施形態では、移植片は、完全な臓器または組織未満を含む。例えば、移植片は、臓器または組織の一部、例えば、肝葉、血管の一部、皮弁、または心臓弁を含み得る。いくつかの実施形態では、移植片は、元の組織から単離されているが少なくとも一部の組織構造、例えば膵島を保持している単離細胞または組織断片を含む調製物を含む。いくつかの実施形態では、調製物は、結合組織を介して互いに付着していない単離細胞、例えば、末梢血及び/または臍帯血、または全血、または赤血球(RBC)もしくは血小板などの任意の細胞含有血液製剤に由来する造血幹細胞または前駆細胞を含む。いくつかの実施形態では、移植片は、死体ドナー(例えば、「脳死後の臓器提供」(DBD)ドナーまたは「心停止後の臓器提供」ドナー)から得られたものである。いくつかの実施形態では、特定の移植片の種類に応じて、移植片は生体ドナーから得られる。例えば、腎臓、肝臓切片、血液細胞などは、生体ドナーから不要なリスクを負うことなく、健全な医療行為に沿って多くの場合得ることができる移植片の種類である。
【0120】
いくつかの実施形態では、移植片は異種移植片である(すなわち、ドナーとレシピエントは異なる種のものである)。いくつかの実施形態では、移植片は自家移植片(すなわち、同じ個人の身体の一部から身体の別の部分への移植片)である。いくつかの実施形態では、移植片は同系移植片である(すなわち、ドナーとレシピエントが遺伝的に同じである)。ほとんどの実施形態では、移植片は同種移植片である(すなわち、ドナーとレシピエントは同じ種の遺伝的に同じではないメンバーである)。同種移植の場合、ドナーとレシピエントは遺伝的に関連している場合もあれば、そうでない場合もある(家族など)。通常、ドナーとレシピエントは、適合する血液型(少なくともABO適合性、及び場合によりRh、Kell及び/または他の血球抗原適合性)を有する。移植片及び/またはレシピエント及びドナーに対する同種抗体の存在は超急性拒絶反応(すなわち、移植片がレシピエントの血液と接触してからほぼ即座に、例えば数分以内に始まる拒絶反応)を引き起こす可能性があることから、レシピエントの血液は、そのような同種抗体についてスクリーニングされていてもよい。補体依存性細胞傷害(CDC)アッセイを使用して、抗HLA抗体について対象の血清をスクリーニングすることができる。血清を、既知のHLA表現型のリンパ球のパネルとインキュベートする。血清に標的細胞上のHLA分子に対する抗体が含まれている場合、補体媒介溶解による細胞死が生じる。選択された標的細胞のパネルを使用することで、検出された抗体に対する特異性を割り当てることができる。抗HLA抗体の有無を決定し、場合によりそれらのHLA特異性を決定するうえで有用な他の技術として、ELISAアッセイ、フローサイトメトリーアッセイ、マイクロビーズアレイ技術(例えば、Luminex技術)が挙げられる。これらのアッセイを実行するための方法は周知のものであり、それらを実施するための様々なキットが市販されている。
【0121】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、補体媒介性拒絶反応を阻害する。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、超急性拒絶反応を阻害する。超急性拒絶反応は、古典的経路を介したレシピエントの補体系の抗体媒介活性化と、その結果生じる移植片へのMAC沈着によって少なくとも一部が引き起こされる。超急性拒絶反応は通常、移植片と反応する既存の抗体がレシピエント体内に存在することによって起こる。移植前に適切なマッチングによって超急性拒絶反応を回避することが望ましいが、例えば時間及び/またはリソースの制約により、常にそれが可能であるとは限らない。さらに、一部のレシピエント(例えば、複数回の輸血を行った人、過去に移植を受けている人、複数回の妊娠を経験した女性)は、通常は検査対象とならない抗原に対する抗体を含む、多くの予め形成された抗体をすでに持っている可能性があるため、確実に適合する移植片を適時に入手することは困難であるか、あるいはほぼ不可能である。こうした個人では超急性拒絶反応のリスクが高くなる。
【0122】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、急性拒絶反応または生着不全を阻害する。本明細書で使用する場合、「急性拒絶反応」とは、移植後少なくとも24時間、一般的には少なくとも数日から1週間後~移植後6ヶ月までの間に起こる拒絶反応を指す。急性抗体媒介性拒絶反応(AMR)では、移植後の最初の数週間でドナー特異的同種抗体(DSA)の急激な上昇をしばしば伴う。いかなる理論にも束縛されるものではないが、既存の形質細胞及び/または記憶B細胞の新たな形質細胞への転換がDSA産生の増加に関与していると考えられる。このような抗体は、補体を介した移植片への傷害を引き起こす可能性がある。いかなる理論にも束縛されるものではないが、移植片における補体活性化を阻害することで、急性生着不全のもう一つの原因である白血球(例えば、好中球)の浸潤が減少すると考えられる。
【0123】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、移植片に対する補体媒介性I/R傷害を阻害する。以下でさらに説明するように、I/R傷害は、移植された臓器にみられるように、血液供給が一時的に中断された組織の再灌流時に発生し得る。I/R傷害が軽減されることで、急性移植片機能不全の可能性またはその重症度が軽減され、急性移植片不全の可能性が低下する。
【0124】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、慢性拒絶反応及び/または慢性生着不全を阻害する。本明細書で使用される場合、「慢性拒絶反応または慢性生着不全」は、移植後少なくとも6ヶ月、例えば、移植後6ヶ月~1、2、3、4、5年またはそれ以上の期間の後、多くの場合、数ヶ月から数年にわたって良好な移植片機能が維持された後に起こる拒絶反応または不全を指す。これは移植片に対する慢性炎症及び免疫反応によって引き起こされる。本明細書の目的上、慢性拒絶には、移植組織の内部血管の線維化を指して用いられる用語である慢性同種移植片血管症が含まれ得る。免疫抑制療法により急性拒絶反応の発生率が減少するにつれて、移植片の機能不全及び生着不全の原因として慢性拒絶がより顕在化しつつある。B細胞による同種抗体の産生が慢性拒絶反応及び移植片不全の発生における重要な要素であるという証拠が増えている(Kwun J. and Knechtle SJ,Transplantation,88(8):955-61(2009))。移植片への早期の傷害は、最終的に慢性拒絶反応につながり得る線維症などの慢性プロセスを引き起こす要因となる可能性がある。
【0125】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、移植片拒絶反応及び/または生着不全を阻害するために移植片レシピエントに投与される。
【0126】
C.虚血/再灌流傷害
虚血再灌流(I/R)傷害は、外傷後の組織損傷、ならびに心筋梗塞、脳卒中、重度の感染症、血管疾患、動脈瘤修復、心肺バイパス、移植などの一時的な血流の中断に伴うその他の状態における組織損傷の要因である。
【0127】
外傷の場面では、全身性低酸素血症、低血圧、打撲、コンパートメント症候群、血管損傷による局所的な血液供給の遮断により虚血が引き起こされ、代謝が活発な組織に傷害を与える。血液供給の回復は、虚血そのものよりもしばしば有害な激しい全身性炎症反応を引き起こす。虚血領域が再灌流されると、局所的に生成及び放出された因子が循環系に入って遠隔の場所に到達し、肺及び腸など、元の虚血性傷害の影響を受けなかった臓器に重大な傷害を引き起こす場合があり、単一または複数の臓器の機能不全につながる。補体活性化は再潅流後まもなく起こり、直接的及び好中球に対する化学誘引効果及び刺激効果を介した虚血後傷害の重要なメディエーターである。3つの主要な補体経路はいずれも活性化され、協調的にまたは独立して作用し、多数の臓器系に影響を及ぼすI/R関連有害事象に関与する。本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、最近(例えば、その前の2、4、8、12、24、または48時間以内)、外傷、例えば、全身性低酸素血症、低血圧、及び/または血液供給の局所的中断により対象をI/R傷害のリスクに曝す外傷を受けた対象に投与される。いくつかの実施形態では、対象は、脊髄傷害、外傷性脳傷害、熱傷、及び/または出血性ショックを有する。
【0128】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、外科的処置の前、その間、またはその後に対象に投与される。このような処置の例としては、心肺バイパス術、血管形成術、心臓弁修復/置換術、動脈瘤修復、または他の血管手術が挙げられる。本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、外科的処置と重複する期間の前、その後、及び/またはその間に投与することができる。
【0129】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、MI、血栓塞栓性脳卒中、深部静脈血栓症、または肺塞栓症を有する対象に投与される。本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)(例えば、アルテプラーゼ(アクティバーゼ)、レテプラーゼ(レタバーゼ)、テネクテプラーゼ(TNKase))、アニストレプラーゼ(エミナーゼ)、ストレプトキナーゼ(カビキナーゼ、ストレプターゼ)、またはウロキナーゼ(アボキナーゼ))などの血栓溶解剤と組み合わせて投与することができる。本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、血栓溶解剤と重複する期間の前、その後、及び/またはその間に投与することができる。
【0130】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、I/R傷害を治療するために対象に投与される。
【0131】
D.その他の補体媒介性疾患
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、緑内障、またはぶどう膜炎などの眼疾患の治療用に眼内に導入される。例えば、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、AMDに罹患しているがまたはAMDのリスクがある対象を治療するために硝子体腔に(例えば、硝子体内注射により)導入するかまたは網膜下腔に(例えば、網膜下注射により)導入することができる。いくつかの実施形態では、AMDは血管新生(滲出型)AMDである。いくつかの実施形態では、AMDは、乾性AMDである。当業者には理解されるように、乾性AMDには、地理的萎縮症(GA)、中期AMD、及び初期AMDが含まれる。いくつかの実施形態では、GAを有する対象は、疾患の進行を遅らせるかまたは停止させるために治療される。例えば、いくつかの実施形態では、GAを有する対象の治療は、網膜細胞死の速度を低下させる。網膜細胞死の速度の低下は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせた本明細書に記載の遺伝子治療で治療された患者におけるGA病変の速度の、コントロール(例えば、シャム投与を行った患者)と比較した低下によって示すことができる。いくつかの実施形態では、対象は中期AMDを有する。いくつかの実施形態では、対象は初期AMDを有する。いくつかの実施形態では、中期または初期GAを有する対象は、疾患の進行を遅らせるかまたは停止させるために治療される。例えば、いくつかの実施形態では、中期AMDを有する対象の治療は、進行型のAMD(血管新生AMDまたはGA)への進行を遅らせるかまたは防止することができる。いくつかの実施形態では、中期AMDを有する対象の治療は、進行型のAMD(血管新生AMDまたはGA)への進行を遅らせるかまたは防止することができる。いくつかの実施形態では、眼はGA及び血管新生AMDの両方を有する。いくつかの実施形態では、眼はGAを有するが、滲出型AMDを有さない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、例えば、緑内障、ブドウ膜炎(例えば、後部ブドウ膜炎)、または糖尿病性網膜症を治療するために硝子体内注射または網膜下注射によって投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、例えば前部ブドウ膜炎を治療するために前眼房に導入される。
【0132】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療を、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、自己免疫疾患、例えば、1つ以上の自己抗原に対する抗体によって少なくとも一部媒介される自己免疫疾患に罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。
【0133】
本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、例えば、関節炎(例えば、関節リウマチ)に罹患している対象の滑膜腔に導入することができる。
【0134】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療を、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、脳内出血に罹患しているまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。
【0135】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、重症筋無力症に罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。
【0136】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、視神経脊髄炎(NMO)に罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。
【0137】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、腎臓、例えば腎臓の糸球体を冒す疾患またはそのリスクのある対象を治療するために使用される。いくつかの実施形態では、疾患は、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、例えば、MPGN I型、MPGN II型、またはMPGN III型である。いくつかの実施形態では、疾患は、IgA腎症(IgAN)である。いくつかの実施形態では、疾患は、原発性膜性腎症である。いくつかの実施形態では、疾患は、C3糸球体症である。いくつかの実施形態では、疾患は、腎臓における1つ以上の補体活性化産物、例えばC3bを含む糸球体沈着物によって特徴付けられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療は、そのような沈着物のレベルを減少させる。いくつかの実施形態では、補体媒介性腎疾患に罹患した対象は、タンパク尿(尿中の異常に高いレベルのタンパク質)及び/または異常に低い糸球体濾過量(GFR)を有する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療は、タンパク尿の減少及び/またはGFRの増加または安定化をもたらす。
【0138】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、神経変性疾患に罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、神経障害性疼痛に罹患しているかまたは神経障害性疼痛のリスクのある対象を治療するために使用される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、副鼻腔炎または鼻ポリープに罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、がんに罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、敗血症に罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、成人呼吸窮迫症候群に罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。
【0139】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、アナフィラキシーまたは注入反応に罹患しているかまたはそのリスクのある対象を治療するために使用される。例えば、いくつかの実施形態では、対象は、アナフィラキシーまたは注入反応を引き起こす可能性のある薬物または溶媒の投与前、投与中、または投与後に治療することができる。いくつかの実施形態では、食物(例えば、ピーナッツ、貝類、または他の食物アレルゲン)、虫刺され(例えば、ミツバチ、スズメバチ)によるアナフィラキシーのリスクがあるかまたはアナフィラキシーを有する対象が、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせた本明細書に記載の遺伝子治療により治療される。
【0140】
本開示の様々な実施形態において、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、局所的または全身的に投与することができる。
【0141】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、呼吸器疾患、例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、または特発性肺線維症を治療するために使用される。本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、例えば、吸入によって、例えば乾燥粉末としてまたは噴霧によって気道に投与することができ、または様々な実施形態において、例えば、静脈内、筋肉内、または皮下注射によって投与することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、重度の喘息、例えば、気管支拡張薬及び/または吸入コルチコステロイドによって十分に管理されない喘息を治療するために使用される。
【0142】
いくつかの態様では、補体媒介性疾患、例えば慢性補体媒介性疾患を治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法が提供される。いくつかの態様では、Th17関連疾患を治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0143】
いくつかの態様では、「慢性疾患」とは、少なくとも3ヶ月持続し、及び/または当該技術分野において慢性疾患であることが認められている疾患である。多くの実施形態において、慢性疾患は、少なくとも6ヶ月間、例えば少なくとも1年以上、例えば無期限に持続する。当業者であれば、様々な慢性疾患の少なくとも一部の症状は間欠的であり、及び/または時間の経過とともに重症度が増減し得る点は理解されよう。慢性疾患は進行性である場合があり、例えば、時間の経過とともにより重症化するかまたはより広い領域を冒す傾向がある。多くの慢性補体媒介性疾患について本明細書で検討する。慢性補体媒介性疾患は、補体活性化(例えば過剰または不適切な補体活性化)が例えば寄与因子及び/または少なくとも部分的な原因因子として関与する任意の慢性疾患であり得る。便宜上、疾患は、その疾患を有する対象において特に冒されることが多い臓器または系に基づいてしばしば分類される。多くの疾患が複数の臓器または系を冒す可能性があり、そのような分類はあらゆる意味で限定的なものではない点は理解されよう。さらに、多数の徴候(例えば、症状)が、多くの異なる疾患のいずれかを有する対象で生じ得る。本明細書で対象とする疾患に関する非限定的な情報を、例えば、Cecil Textbook of Medicine (例えば、第23版)、Harrison’s Principles of Internal Medicine(例えば、第17版)などの内科の標準的なテキスト、及び/または特定の医学分野、特に、特定の身体のシステムまたは臓器、及び/または特定の疾患を主に扱った標準的なテキストにみることができる。
【0144】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、Th2関連疾患である。本明細書で使用される場合、Th2関連疾患とは、体内またはその一部、例えば、少なくとも1つの組織、臓器、または構造におけるTh2サブタイプのCD4+ヘルパーT細胞(「Th2細胞」)の過剰な数及び/または過剰なもしくは不適切な活性を特徴とする疾患である。例えば、疾患に冒された少なくとも1つの組織、臓器、または構造では、Th1サブタイプのCD4+ヘルパーT細胞(「Th1細胞」)と比較してTh2細胞が優勢となり得る。当該技術分野では周知であるように、Th2細胞は通常、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、及びインターロイキン-13(IL-13)などの特徴的なサイトカインを分泌し、Th1細胞は通常、インターフェロン-γ(IFN-γ)及び腫瘍壊死因子(TNFβ)を分泌する。いくつかの実施形態では、Th2関連疾患は、例えば少なくとも一部の少なくとも1つの組織、臓器、または構造において、例えば、IFN-γ及び/またはTNFと比較して、IL-4、IL-5、及び/またはIL-13の過剰な産生及び/または量を特徴とする。
【0145】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、Th17関連疾患である。いくつかの態様では、2012年6月22日に出願された発明の名称が「Methods of Treating Chronic Disorders with Complement Inhibitors」であるPCT/US2012/043845にさらに詳細に記載されているように、補体活性化及びTh17細胞は、樹状細胞及び抗体が関与し、様々な疾患の原因となる病的な免疫学的微小環境の維持に寄与するサイクルに関与する。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、病的な免疫学的微小環境は、一度確立されると持続し、細胞及び組織の傷害に寄与する。
【0146】
本明細書で使用される場合、Th17関連疾患とは、体内またはその一部、例えば、少なくとも1つの組織、臓器、または構造におけるTh17サブタイプのCD4+ヘルパーT細胞(「Th17細胞」)の過剰な数及び/または過剰なもしくは不適切な活性を特徴とする疾患である。例えば、疾患に冒された少なくとも1つの組織、臓器、または構造では、Th1及び/またはTh2細胞と比較してTh17細胞が優勢となり得る。いくつかの実施形態では、Th17細胞の優勢は相対的優勢であり、例えば、Th1細胞に対するTh17細胞の比及び/またはTh2細胞に対するTh17細胞の比が、正常値と比べて大きくなっている。いくつかの実施形態では、制御性T細胞(CD4+CD25+制御性T細胞、「Treg細胞」とも呼ばれる)に対するTh17細胞の比が、正常値と比較して大きくなっている。Th17細胞の形成及び/またはTh17細胞の活性化は、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン21(IL-21)、インターロイキン23(IL-23)、及び/またはインターロイキン1β(IL-1β)などの様々なサイトカインによって促進されます。Th17細胞の形成には、前駆T細胞、例えばナイーブCD4+T細胞のTh17表現型への分化、及び機能的なTh17細胞へのそれらの成熟が含まれる。いくつかの実施形態では、Th17細胞の形成には、Th17細胞の発生、分裂(増殖)、生存、及び/または成熟のあらゆる側面が包含される。いくつかの実施形態では、Th17関連疾患は、IL-6、IL-21、IL-23、及び/またはIL-1βの過剰な産生及び/または量を特徴とする。Th17細胞は通常、インターロイキン17A(IL-17A)、インターロイキン17F(IL-17F)、インターロイキン21(IL-21)、インターロイキン22(IL-22)などの特徴的なサイトカインを分泌する。いくつかの実施形態では、Th17関連疾患は、Th17エフェクターサイトカイン、例えば、IL-17A、IL-17F、IL-21、及び/またはIL-22の過剰な産生及び/または量を特徴とする。いくつかの実施形態では、サイトカインの過剰な産生または量は、血中で検出可能である。いくつかの実施形態では、サイトカインの過剰な産生または量は、局所的に、例えば、少なくとも1つの組織、臓器または構造で検出可能である。いくつかの実施形態では、Th17関連疾患は、Treg数の減少及び/またはTreg関連サイトカインの量の減少と関連する。いくつかの実施形態では、Th17疾患は、任意の慢性炎症性疾患であり、この用語は、様々な組織に対する自己永続的な免疫障害を特徴とする広範な疾患を包含し、疾患を引き起こした最初の障害(不明の場合もある)とは切り離されていると思われる。いくつかの実施形態では、Th17関連疾患は、任意の自己免疫疾患である。ほとんどではないにしても、多くの「慢性炎症性疾患」は、実際には自己免疫疾患である可能性がある。Th17関連疾患の例としては、乾癬及びアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患;全身性強皮症及び硬化症、炎症性腸疾患(IBD)(クローン病及び潰瘍性大腸炎など);ベーチェット病;皮膚筋炎;多発性筋炎;多発性硬化症(MS);皮膚炎;髄膜炎;脳炎;ぶどう膜炎;変形性関節症;ループス腎炎;関節リウマチ(RA)、シェーグレン症候群、多発性硬化症、血管炎;中枢神経系(CNS)の炎症性疾患、慢性肝炎。慢性膵炎、糸球体腎炎;サルコイドーシス;甲状腺炎、組織/臓器移植に対する病的免疫反応(例えば、移植拒絶反応)、COPD、喘息、細気管支炎、過敏性肺炎、特発性肺線維症(IPF)、歯周炎、及び歯肉炎が挙げられる。いくつかの実施形態では、Th17疾患は、I型糖尿病または乾癬などの古典的に知られた自己免疫疾患である。いくつかの実施形態では、Th17関連疾患は、加齢黄斑変性症である。
【0147】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、IgE関連疾患である。本明細書で使用される場合、「IgE関連疾患」とは、過剰な及び/または不適切なIgEの産生及び/または量、IgE産生細胞(例えば、IgE産生B細胞または形質細胞)の過剰なまたは不適切な活性、及び/または好酸球またはマスト細胞などのIgE応答性細胞の過剰な及び/または不適切な活性である。いくつかの実施形態では、IgE関連疾患は、対象の血漿中及び/または局所における総IgEレベルの上昇、及び/またはいくつかの実施形態では、アレルゲン特異的IgEレベルの上昇を特徴とする。
【0148】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、例えば古典経路を介して補体を活性化し得る体内の自己抗体及び/または免疫複合体の存在を特徴とする。自己抗体は、例えば、体内の細胞または組織上の自己抗原に結合し得る。いくつかの実施形態では、自己抗体は、血管、皮膚、神経、筋肉、結合組織、心臓、腎臓、甲状腺などの抗原に結合する。いくつかの実施形態では、対象は視神経脊髄炎を有し、アクアポリン4に対する自己抗体(例えば、IgG自己抗体)を産生する。いくつかの実施形態では、対象は類天疱瘡を有し、ヘミデスモソームの構造成分(例えば、膜貫通型コラーゲンXVII(BP180またはBPAG2)及び/またはプラキンファミリータンパク質BP230(BPAG1))に対する自己抗体(例えば、IgGまたはIgE自己抗体)を産生する。いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、自己抗体及び/または免疫複合体によって特徴付けられない。
【0149】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、呼吸器疾患である。いくつかの実施形態では、慢性呼吸器疾患は、喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。いくつかの実施形態では、慢性呼吸器疾患は、肺線維症(例えば、特発性肺線維症)、放射線誘発性肺傷害、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、過敏性肺炎(アレルギー性肺胞炎としても知られる)、好酸球性肺炎、間質性肺炎、サルコイド、ウェゲナー肉芽腫症、または閉塞性細気管支炎である。いくつかの実施形態では、本開示は、慢性呼吸器疾患、例えば喘息、COPD、肺線維症、放射線誘発性肺傷害、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、過敏性肺炎(アレルギー性肺胞炎としても知られる)、好酸球性肺炎、間質性肺炎、サルコイド、ウェゲナー肉芽腫症、または閉塞性細気管支炎の治療を必要とする対象を治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0150】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、または鼻ポリープ症である。いくつかの実施形態では、本開示は、アレルギー性鼻炎、鼻副鼻腔炎、または鼻ポリープ症の治療を必要とする対象を治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0151】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、筋骨格系を冒す疾患である。このような疾患の例としては、炎症性関節状態(例えば、関節リウマチまたは乾癬性関節炎などの関節炎、若年性慢性関節炎、脊椎関節症、ライター症候群、痛風)が挙げられる。いくつかの実施形態では、筋骨格系疾患は、冒された身体部分(複数可)の痛み、硬直及び/または運動制限などの症状をもたらす。炎症性筋疾患としては、皮膚筋炎、多発性筋炎が挙げられ、その他の様々な疾患は、筋力低下を引き起こす原因不明の慢性筋肉炎症の疾患である。いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、重症筋無力症である。いくつかの実施形態では、本開示は、筋骨格系を冒す前述の疾患のいずれかを治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0152】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、外皮系を冒す疾患である。このような疾患の例としては、例えば、アトピー性皮膚炎、乾癬、類天疱瘡、天疱瘡、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、強皮症、強皮筋炎、シェーグレン症候群、及び慢性蕁麻疹が挙げられる。いくつかの態様では、本開示は、外皮系を冒す前述の疾患のいずれかを治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0153】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、神経系、例えば、中枢神経系(CNS)及び/または末梢神経系(PNS)を冒す。このような疾患の例としては、例えば、多発性硬化症、他の慢性脱髄疾患(例えば、視神経脊髄炎)、筋萎縮性側索硬化症、慢性疼痛、脳卒中、アレルギー性神経炎、ハンチントン病、アルツハイマー病、及びパーキンソン病が挙げられる。いくつかの実施形態では、本開示は、神経系を冒す前述の疾患のいずれかを治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0154】
いくつかの実施形態において、補体媒介性疾患は、循環系を冒す。例えば、いくつかの実施形態では、疾患は、血管炎、または脈管炎症、例えば、血管及び/またはリンパ管炎症に関連する他の疾患である。いくつかの実施形態では、血管炎は、結節性多発性動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、巨細胞性動脈炎、チャーグ・ストラウス症候群、顕微鏡的多発血管炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、高安動脈炎、川崎病、またはベーチェット病である。いくつかの実施形態では、対象、例えば、血管炎の治療を必要とする対象は、抗好中球細胞質抗体(ANCA)について陽性である。
【0155】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、消化器系を冒す。例えば、疾患は、炎症性腸疾患、例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎であり得る。いくつかの実施形態では、本開示は、消化器系を冒す慢性補体媒介性疾患を治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0156】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、甲状腺炎(例えば、橋本甲状腺炎、バセドウ病、産後甲状腺炎)、心筋炎、肝炎(例えば、C型肝炎)、膵炎、糸球体腎炎(例えば、膜性増殖性糸球体腎炎または膜性糸球体腎炎))、または脂肪織炎である。
【0157】
いくつかの実施形態では、本開示は、慢性疼痛を有する対象を治療する方法であって、本明細書に記載の遺伝子治療を、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、慢性疼痛の治療を必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、対象は神経障害性疼痛を有する。神経障害性疼痛は、神経系の一次病変または機能不全によって開始または引き起こされる痛み、特に体性感覚系を冒す病変または疾患の直接の結果として生じる痛みとして定義されている。例えば、神経障害性疼痛は、末梢神経の小径線維及び/またはCNSの脊髄視床皮質系への傷害を伴う体性感覚経路に関わる病変から生じ得る。いくつかの実施形態では、神経障害性疼痛は、自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症)、代謝性疾患(例えば、糖尿病)、感染症(例えば、帯状疱疹またはHIVなどのウイルス疾患)、血管疾患(例えば、脳卒中)、外傷(例えば、怪我、手術)、またはがんから生じる。例えば、神経障害性疼痛は、傷害の治癒後、または末梢神経終末の刺激の停止後に持続する痛み、または神経の傷害により生じる痛みであり得る。神経障害性疼痛またはそれに関連する状態の例としては、有痛性糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛(例えば、急性帯状疱疹の部位で、急性発症から3ヶ月以上経過しても持続するまたは再発する痛み)、三叉神経痛、がん関連神経障害性疼痛、化学療法関連神経障害性疼痛、HIV関連神経障害性疼痛(例えば、HIV神経障害による)、中枢性/脳卒中後神経障害性疼痛、腰痛に関連する神経障害、例えば、腰痛(例えば、椎間板ヘルニアによって生じ得る脊椎根圧迫、例えば、腰椎根圧迫などの神経根障害による)、脊柱管狭窄症、末梢神経障害疼痛、幻肢痛、多発性神経障害、脊髄損傷関連疼痛、脊髄症、多発性硬化症が挙げられる。本開示の特定の実施形態では、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、前述の1つ以上の条件を有する対象における神経障害性疼痛を治療するための投与スケジュールに従って投与される。
【0158】
いくつかの実施形態では、慢性補体媒介性疾患は、慢性眼疾患である。いくつかの実施形態では、慢性眼疾患は、黄斑変性、脈絡膜血管新生(CNV)、網膜血管新生(RNV)、眼炎症、または上記の任意の組み合わせによって特徴付けられる。黄斑変性症、CNV、RNV、及び/または眼炎症は、この疾患の定義及び/または診断上の特徴となり得る。これらの特徴の1つ以上を特徴とする例示的な疾患としては、これらに限定されるものではないが、黄斑変性関連症状、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、増殖性硝子体網膜症、ぶどう膜炎、角膜炎、結膜炎、及び強膜炎が挙げられる。黄斑変性症関連症状には、例えば、加齢黄斑変性症(AMD)が含まれる。いくつかの実施形態では、対象は滲出型AMDの治療を必要とする。いくつかの実施形態では、対象は乾性AMDの治療を必要とする。いくつかの実施形態では、対象は地理的萎縮AMDの治療を必要とする。いくつかの実施形態では、対象は眼炎症の治療を必要とする。眼炎症は、結膜(結膜炎)、角膜(角膜炎)、上強膜、強膜(強膜炎)、ブドウ膜路、網膜、血管系、及び/または視神経などの多くの眼の構造に生じ得る。眼炎症の証拠には、眼内の白血球(例、好中球、マクロファージ)などの炎症関連細胞の存在、内因性炎症メディエーター(複数可)の存在、眼痛、充血、光過敏、かすみ目、及び飛蚊症などの1つ以上の症状が含まれ得る。ブドウ膜炎は、眼のブドウ膜、例えば虹彩、毛様体、または脈絡膜を含むブドウ膜の構造のいずれかにおける炎症を指す一般用語である。ブドウ膜炎の特定の種類としては、虹彩炎、虹彩毛様体炎、毛様体炎、扁平部炎及び脈絡膜炎が挙げられる。いくつかの実施形態では、慢性眼疾患は、緑内障などの視神経傷害(例えば、視神経変性)を特徴とする眼疾患である。
【0159】
上で述べたように、いくつかの実施形態では、慢性呼吸器疾患は喘息である。喘息の危険因子、疫学、病因、診断、現在の管理などに関する情報は、例えば「Expert Panel Report 3: Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma」(専門家パネル報告書3:喘息の診断と管理のガイドライン)に記載されている。National Heart Lung and Blood Institute.2007.http://www.nhlbi.nih.gov/guidelines/asthma/asthgdln.pdf. (“NHLBI Guidelines”;www.nhlbi.nih.gov/guidelines/asthma/asthgdln.htm)、Global Initiative for Asthma, Global Strategy for Asthma Management and Prevention 2010 “GINA Report”)及び/またはCecil Textbook of Medicine(第20版)、Harrison’s Principles of Internal Medicine(第17版)及び/または呼吸器内科を主に扱った標準的テキストなどの内科学の標準的テキスト。喘息は気道の慢性炎症性疾患であり、マスト細胞、好酸球、Tリンパ球、マクロファージ、好中球、及び上皮細胞などの多くの細胞ならびに細胞要素が役割を担っている。喘息患者は、喘鳴、息切れ(呼吸困難または息切れとも呼ばれる)、胸の圧迫感、咳など、症状に関連した再発性エピソードを経験する。これらのエピソードは通常、広範ではあるが変化する気流閉塞を伴い、多くの場合、自然にまたは治療により可逆性である。炎症はまた、広範な刺激に対する既存の気管支過敏性の関連増加も引き起こす。気道過敏症(刺激に対する気管支収縮反応の過剰)は喘息の典型的な特徴である。一般に、気流制限は、気管支収縮と気道浮腫によって引き起こされる。一部の喘息患者では、気流制限の可逆性が不完全な場合がある。例えば、気道リモデリングにより気道狭窄が固定される可能性がある。構造変化には、基底膜の肥厚、上皮下の線維症、気道平滑筋の肥大と過形成、血管の増殖と拡張、粘液腺過形成、分泌過多などがある。
【0160】
喘息患者は、その個人の以前の状態からの変化を特徴とする事象として識別される増悪を経験する場合がある。重度の喘息の増悪は、喘息による入院や死亡などの重篤な結果を防ぐために、個人とその医師の側で緊急の措置を必要とする事象として定義できる。例えば、重篤な喘息の増悪は、喘息が通常、全身性コルチコステロイド(例えば、経口コルチコステロイド)を投与することなく良好にコントロールされている対象においてOCSの使用を必要とするか、または安定した維持用量の増加を必要とする場合がある。中度の喘息の増悪は、患者にとって厄介であり、治療変更の必要性を促す事象であるが、重症ではないものとして定義することができる。これらの事象は、対象の通常の日常的な喘息変動の範囲外であることによって臨床的に識別される。
【0161】
現在の喘息の治療薬は通常、持続性喘息の管理を実現及び維持するために使用される、吸入コルチコステロイド(ICS)、経口コルチコステロイド(OCS)、長時間作用型気管支拡張薬(LABA)、ロイコトリエン修飾薬(例えば、ロイコトリエン受容体拮抗薬またはロイコトリエン合成阻害薬、抗IgE抗体(オマリズマブ(ゾレア(登録商標)))、クロモリン及びネドクロミルなどの長期管理薬(「管理薬」)と、急性症状や増悪の治療に使用される短時間作用型気管支拡張薬(SABA)などの即効性のある薬剤の2つの大きなクラスに分類される。本発明の目的上、これらの治療は「従来の治療」と呼ばれる場合がある。増悪の治療には、管理薬療法の用量及び/または強度を増やすことも含まれ得る。例えば、OCSを一定期間使用して喘息を再び管理することができる。現在のガイドラインでは、持続性喘息の患者に対して管理薬を毎日投与するか、多くの場合で、管理薬を毎日複数回投与することが義務付けられている(ゾレアは例外で、2週間または4週間ごとに投与される)。
【0162】
対象が平均して週に2回以上症状を発症するか、及び/または通常、症状管理のために即効性の薬剤(例えば、SABA)を週2回以上使用している場合、対象は一般に持続性喘息であるとみなされる。「喘息の重症度」は、関連する併存疾患が治療され、吸入技術とアドヒアランスが最適化された後、対象の喘息を管理するために必要な治療の強度に基づいて分類することができる(例えば、GINA Report;Taylor,DR,Eur Respir J 2008;32:545-554を参照)。治療強度の説明は、NHLBI Guidelines 2007,GINA Report、及びその前身などのガイドライン、及び/または標準的な医学テキストに記載されている段階的治療アルゴリズムで推奨される薬剤及び用量に基づいたものとすることができる。例えば、喘息は、表8に示すように、間欠性、軽度、中度、または重度に分類することができ、「治療」とは、対象の最良レベルの喘息管理を実現するのに十分な治療を指す。(軽度、中度、及び重度の喘息のカテゴリーは、一般に、間欠的な喘息ではなく持続性の喘息を意味することが理解されよう)。当業者であれば、表8は例示的なものであり、これらの薬剤すべてがすべての医療システムで利用できるわけではなく、このことは、環境によっては喘息の重症度の評価に影響し得る点は理解されよう。他の新たに開発された、または新規のアプローチが軽度/中度喘息の分類に影響を与え得る点も理解されよう。ただし、軽度の喘息は、非常に低強度の治療で良好な管理を実現できることにより定義され、重度の喘息は高強度の治療を必要とすることにより定義されるという同じ原則を依然適用することができる。さらに、またはあるいは、喘息の重症度は、治療を行っていない場合の疾患の本質的な強度に基づいて分類することもできる(例えば、NHBLIガイドライン2007を参照)。評価は、現在の肺活量測定と過去2~4週間の患者の症状の記憶に基づいて行うことができる。現在の機能障害と将来的なリスクのパラメータを評価して、喘息の重症度のレベルの判定に含めることができる。いくつかの実施形態では、喘息の重症度は、それぞれ、0~4歳、5~11歳、または12歳以上の個人について、NHBLIガイドラインの
図3.4(a)、3.4(b)、3.4(c)に示されるように定義される。
表8:治療に基づく喘息の分類
【表7】
【0163】
「喘息の管理」とは、治療(薬理学的か非薬理学的かを問わず)によって喘息の症状が軽減または除去された程度を指す。喘息の管理は、症状の頻度、夜間症状、スパイロメトリーパラメータなどの肺機能の客観的尺度(例えば、予測値の%FEV
1、FEV
1変動性、症状管理のためのSABAの使用要件など)などの要因に基づいて評価することができる。現在の機能障害と将来的なリスクのパラメータを評価して、喘息の管理のレベルの判定に含めることができる。いくつかの実施形態では、喘息の管理は、それぞれ、0~4歳、5~11歳、または12歳以上の個人について、NHBLIガイドラインの
図4.3(a)、4.3(b)、または4.3(c)に示されるように定義される。
【0164】
一般に、当業者によれば、喘息の重症度レベル及び/または管理の程度を判定する適切な手段を選択することができ、当業者によって妥当と考えられる任意の分類スキームを使用することができる。
【0165】
本開示のいくつかの実施形態では、持続性喘息に罹患している対象は、投薬レジメンを使用して、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて治療される。いくつかの実施形態では、対象は軽度または中度の喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は重度の喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、従来の治療法を使用しても十分に管理されない喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、従来の治療法を用いて治療する場合、十分に管理するためにICSの使用を必要とする喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、ICSの使用にもかかわらず、十分に管理できない喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、従来の治療法を用いて治療する場合、良好に管理するためにOCSの使用を必要とする喘息を有する。いくつかの実施形態では、対象は、OCSを含む高強度の従来の治療法の使用にもかかわらず、十分に管理できない喘息を有する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の遺伝子治療は、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて、管理薬として投与されるか、または対象が従来の管理薬の使用を回避するかもしくはその用量を減らすことを可能にする。
【0166】
いくつかの実施形態では、対象は、ほとんどの喘息患者の場合に当てはまるアレルギー性喘息を有する。いくつかの実施形態では、喘息の非アレルギー性誘因(例えば、風邪、運動)が不明であるかかつ/または標準的な診断評価で特定されない場合に、喘息患者はアレルギー性喘息を有するとみなされる。いくつかの実施形態では、喘息患者は、(i)患者が感受性を有する1乃至複数のアレルゲンへの曝露後に喘息症状(または喘息症状の悪化)を再現性をもって発症するか、(ii)患者が感受性を有する1乃至複数のアレルゲンに特異的なIgEを示すか、(iii)患者が感受性を有するアレルゲンに対する皮膚プリックテストで陽性を示すか、かつ/または(iv)アレルギー性鼻炎、湿疹、または血清総IgEの上昇など、アトピーと一致する特徴(複数可)の他の症状(複数可)を示す場合に、アレルギー性喘息を有するとみなされる。特定のアレルギーの誘因は特定されない場合があるが、患者が例えば特定の環境で症状の悪化を有する場合には、疑われるかまたは推測され得る点は理解されよう。
【0167】
吸入によるアレルゲンチャレンジは、アレルギー性気道疾患の評価に広く用いられている方法である。アレルゲンを吸入すると、マスト細胞や好塩基球などのIgE受容体に結合したアレルゲン特異的IgEの架橋が起こる。続いて分泌経路が活性化され、その結果、気管支収縮及び血管透過性のメディエーターが放出される。アレルギー性喘息患者は、アレルゲンチャレンジ後に、例えば、早期喘息反応(EAR)、遅発性喘息反応(LAR)、気道過敏症(AHR)、及び気道好酸球増加症など様々な症状を発現する場合があるが、これらはそれぞれ当該技術分野で知られるに検出及び定量化することができる。例えば、気道好酸球増加症は、喀痰及び/またはBAL液中の好酸球の増加として検出することができる。EARは、即時型喘息反応(IAR)とも呼ばれ、吸入によるアレルゲンチャレンジに対する反応であり、吸入後まもなく、通常は吸入後10分以内に、例えばFEV1の減少として検出可能となる。EARは通常、チャレンジ後30分以内に最大値に達し、2~3時間(h)以内に解消する。例えば、患者は、そのFEV1がベースラインFEV1と比較してこの時間枠内で、少なくとも15%、例えば少なくとも20%減少した場合に「陽性」EARを示すとみなすことができる(ただし、この関連での「ベースライン」とは、チャレンジ前の状態、例えば、患者が喘息の増悪を示さず、患者が感受性を有するアレルギー刺激に曝露されていない場合の患者の通常の状態と同等の状態を指す。遅発性喘息反応(LAR)は通常、チャレンジ後3時間~8時間の間に始まり、気道の細胞炎症、気管支血管透過性の増加、及び粘液分泌を特徴とする。LARは通常、FEV1の低下として検出されるが、この低下はEARに伴うものよりも程度が大きく、臨床的により重要である可能性がある。例えば、患者は、患者のFEV1が、ベースラインFEV1と比較して、関連する期間内でFEV1 に対して少なくとも15%、例えば少なくとも20%減少する場合に「陽性」LARを示すとみなすことができる。気道反応遅延(DAR)は、チャレンジ後約26~32時間で始まり、約32~48時間で最大に達し、約56時間以内に解消し得る(Pelikan, Z. Ann Allergy Asthma Immunol.2010,104(5):394-404)。
【0168】
いくつかの実施形態では、慢性呼吸器疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。COPDには、治療によっても完全に不可逆ではなく、通常は進行性である気流制限を特徴とする一連の状態が含まれる。COPDの症状には、呼吸困難(息切れ)、運動耐容能の低下、咳、痰の生成、喘鳴、胸部圧迫感などがある。COPD患者は、頻度及び期間が異なり、重大な症状に関連し得る、急性(例えば、1週間未満、多くの場合24時間以内に発症)の症状悪化(COPD増悪と呼ばれる)のエピソードを経験する場合がある。これらは、呼吸器感染症、有害粒子への曝露などの事象によって誘発される場合もあれば、未知の病因である場合もある。喫煙はCOPDの最も一般的な危険因子であり、その他の吸入曝露も疾患の発症及び進行に寄与する可能性がある。COPDにおける遺伝的要因の役割は、活発な研究が行われている分野である。COPD患者の少数は、セリンプロテアーゼの主要な循環阻害剤であるα-1アンチトリプシンの遺伝的欠損症を有しており、この欠損症により疾患が急速に進行し得る。
【0169】
COPDの特徴的な病態生理学的特徴には、小気道の狭窄と構造的変化、及び肺実質(特に肺胞周囲)の破壊が含まれるが、これは多くの場合、慢性炎症によるものである。COPDで観察される慢性的な気流制限では通常、これらの要因が複合的に関与しており、気流制限及び症状に寄与するそれらの相対的な重要度は人によって異なる。「肺気腫」という用語は、終末細気管支の遠位にある気腔(肺胞)が拡張し、その壁が破壊されることを指す。「肺気腫」という用語は、こうした病理学的変化に関連する病状を指してしばしば臨床的に使用される点に留意されたい。COPD患者の一部は慢性気管支炎を有するが、慢性気管支炎とは、臨床用語では、痰を伴う咳が、1年のうち3ヶ月間のほとんどの日にみられ、これが2年連続で続くものとして定義されている。COPDのリスク因子、疫学、病因、診断、及び現在の管理に関するさらなる情報は、例えば、「Global Initiative on Chronic Obstructive Pulmonary Disease, Inc. (GOLD)社のウェブサイト(www.goldcopd.org)で利用可能なGlobal Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease」(2009年更新)(本明細書で「GOLDレポート」とも呼ばれる)、ATSウェブサイト(www.thoracic.org/clinical/copd-guidelines/resources/copddoc.pdf)で利用可能な米国胸部学会/欧州呼吸器学会ガイドライン(2004)(本明細書では「ATC/ERS COPDガイドライン」とも呼ばれる)、ならびにCecil Textbook of Medicine (第20版)、Harrison’s Principles of Internal Medicine(第17版)、及び/または呼吸器内科を主に扱った標準的なテキストで利用可能である。
【0170】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、上記に述べたDC-Th17-B-Ab-C-DCサイクルを阻害(妨害、破壊)する。例えば、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて投与することで、補体がDC細胞を刺激してTh17表現型を促進するサイクルを断ち切ることができる。その結果、Th17細胞の数及び/または活性が減少し、それにより、Th17を介したB細胞の刺激及びポリクローナル抗体産生の量が減少する。いくつかの実施形態では、これらの効果は、免疫学的微小環境を、より正常で病的でない状態に「リセット」することになる。PCT/US2012/043845(WO/2012/178083)の実施例1及び米国特許出願公開第20140371133号に記載されるように、補体阻害がTh17関連サイトカイン産生に対して持続的な阻害効果を有することを裏付ける証拠が、喘息の動物モデルで得られている。
【0171】
いくつかの実施形態では、DC-Th17-B-Ab-C-DCサイクルの阻害は、疾患改変効果を有する。いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、DC-Th17-B-Ab-C-DCサイクルの阻害によって、単に疾患の症状を治療するのではなく、症状が十分に管理されている場合でも進行中の組織傷害に寄与し得る、及び/または疾患の悪化に寄与し得る基本的な病理学的メカニズムが妨げられる可能性がある。いくつかの実施形態では、DC-Th17-B-Ab-C-DCサイクルの阻害は、慢性疾患を寛解状態に移行させる。いくつかの実施形態では、寛解とは、慢性疾患を有する患者で疾患活動性が存在しないかまたは実質的に存在しない状態を指し、疾患は再発する可能性がある。いくつかの実施形態では、寛解は、継続的治療を行わない場合、または用量を減少させた場合、または投与間隔を大きくした場合に長期にわたって(例えば、少なくとも6ヶ月、例えば、6~12ヶ月、12~24ヶ月、またはそれ以上)持続させることができる。いくつかの態様では、補体の阻害は、Th17細胞が豊富な組織の免疫学的微小環境を変化させ、これを制御性T細胞(Treg)が豊富な微小境に改変することができる。そうすることで、免疫系自体が「リセット」され、寛解状態に移行する可能性がある。いくつかの実施形態では、例えば、寛解は、誘因事象が発生するまで持続し得る。誘因事象は、例えば、感染(感染病原体及び自己タンパク質の両方と反応するポリクローナル抗体の産生を引き起こし得る)、特定の環境条件への曝露(例えば、高レベルのオゾンもしくは粒子状物質などの大気汚染物質、またはタバコの煙などの煙の成分、アレルゲンなど)であり得る。遺伝的要因が関与している可能性もある。例えば、補体成分をコードする特定の遺伝子のアレルを有する個人は、補体活性のベースラインレベルが高く、補体系の反応性がより高く、及び/または内因性補体調節タンパク質活性のベースラインレベルがより低い可能性がある。いくつかの実施形態では、個人は、AMDのリスクの増加に関連する遺伝子型を有する。例えば、対象は、補体タンパク質または補体調節タンパク質、例えば、CFH、C3、因子Bをコードする遺伝子にAMDのリスク増加と関連している多型を有する場合がある。
【0172】
いくつかの実施形態では、免疫学的微小環境は、例えば慢性疾患の症状をまだ発症していない対象、または疾患を発症し本明細書の記載に従って治療されている対象において、時間の経過とともに病的状態に向けて徐々により分極化する可能性がある。このような移行は、確率的に(例えば、抗体レベル及び/または親和性の明らかにランダムな変動に少なくとも一部起因して)、及び/または、症状を伴う疾患の発症を誘因するのに十分な強度のものではない、蓄積された「閾値以下」の誘因事象の結果として起こる可能性がある。
【0173】
いくつかの実施形態では、比較的短期間、例えば1週間~6週間、例えば約2~4週間の、単独で、または本明細書に記載の1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わされた本明細書に記載の遺伝子治療により、長期的な効果がもたらされる可能性があることが想到される。いくつかの実施形態では、寛解は、長期間、例えば、1~3ヶ月、3~6ヶ月、6~12ヶ月、12~24ヶ月、またはそれ以上にわたって達成される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される遺伝子治療は、対象に1回または2回だけ投与され、少なくとも1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月、またはそれ以上持続する効果を実現する。いくつかの実施形態では、症状が再発する前に、対象を監視及び/または予防的に治療することができる。例えば、対象を、誘因事象への曝露前または曝露後に治療することができる。いくつかの実施形態では、対象を、例えば、バイオマーカー、例えば、Th17細胞もしくはTh17細胞活性、または補体活性化の指標を含むバイオマーカーの増加について監視することができ、そのようなバイオマーカーのレベルの増加に応じて治療することができる。さらなる考察については、例えばPCT/US2012/043845を参照されたい。
【0174】
併用療法
いくつかの態様では、本開示の方法は、本明細書に記載の遺伝子治療を単独で、または1つ以上のさらなる補体阻害剤と組み合わせて投与することを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子治療は、別の補体阻害剤による治療をすでに受けている対象に投与される。いくつかの実施形態では、別の補体阻害剤が遺伝子治療を受けている対象に投与される。いくつかの実施形態では、遺伝子治療と別の補体阻害剤の両方が対象に投与される。
【0175】
いくつかの実施形態では、遺伝子治療の投与により、単独療法としての第2の補体阻害剤の投与と比較して、第2の補体阻害剤を低減された投薬レジメン(例えば、個々の用量の量を少なくする、投与頻度を減らす、投与回数を減らす、及び/または全体の曝露を減らす)で投与することが可能となる。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、いくつかの実施形態では、第2の補体阻害剤の低減された投薬レジメンにより、これが行われない場合に生じ得る1つ以上の望ましくない副作用を回避することができる。
【0176】
いくつかの態様では、第2の補体阻害剤と組み合わせた遺伝子治療の投与は、所望の補体阻害の程度を達成するために遺伝子治療及び/または第2の補体阻害剤の低減された投薬レジメンが必要となるように、対象の血液中のC3の量を十分に減少させることができる。
【0177】
いくつかの実施形態では、そのような低減された用量は、単独療法としての遺伝子治療または第2の補体阻害剤の投与と比較して、より少ない量で、またはより低い濃度を使用して、またはより長い投与間隔を使用して、または上記の任意の組み合わせで投与することができる。
【0178】
任意の補体阻害剤、例えば当該技術分野では周知の補体阻害剤を、本明細書に記載の遺伝子治療と組み合わせて投与することができる。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、コンプスタチンまたはコンプスタチン類似体である。
【0179】
コンプスタチンは、C3に結合し、補体の活性化を阻害する環状ペプチドである。米国特許第6,319,897号は、Ile-[Cys-Val-Val-Gln-Asp-Trp-Gly-His-His-Arg-Cys]-Thr(配列番号1)の配列を有するペプチドが記載されており、2つのシステイン間のジスルフィド結合は括弧で示されている。「コンプスタチン」という名称は米国特許第6,319,897号では使用されていないものの、その後、科学文献及び特許文献(例えば、Morikis,et al.,Protein Sci.,7(3):619-27,1998を参照)において、米国特許第6,319,897号に開示される配列番号2と同じ配列を有するが、C末端でアミド化されているペプチドを指して用いられている点は理解されよう。「コンプスタチン」という用語は、本明細書ではそのような使用に合わせて使用されている。コンプスタチンよりも高い補体阻害活性を有するコンプスタチン類似体が開発されている。例えば、WO2004/026328(PCT/US2003/029653)、Morikis,D.,et al.,Biochem Soc Trans.32(Pt 1):28-32,2004、Mallik,B.,et al.,J.Med.Chem.,274-286,2005;Katragadda,M.,et al.J.Med.Chem.,49:4616-4622,2006;WO2007062249(PCT/US2006/045539);WO2007044668(PCT/US2006/039397)、WO/2009/046198(PCT/US2008/078593);WO/2010/127336(PCT/US2010/033345)を参照されたい。さらなるコンプスタチン類似体は、例えば、WO2012/155107、WO2014/078731、及びWO 2019/166411に記載されている。特定の実施形態では、コンプスタチン類似体は、ペグセタコプラン(「APL-2」)であり、約800~約1100のnを有する
図1の化合物の構造及び約40kDの平均分子量を有するPEGを有する。ペグセタコプランは、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)、α-ヒドロ-ω-ヒドロキシ-、N-アセチル-L-イソロイシル-L-システイン-L-バリル-1-メチル-L-トリプトフィル-L-グルタミニル-L-α-アスパルチル-L-トリプトフィルグリシル-L-アラニル-L-ヒスチジル-L-アルギニル-L-システイニル-L-トレオニル-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチル-N
6-カルボキシ-L-リジンアミド環状(2-->12)-(ジスルフィド)を有する15,15’-ジエステル;またはO,O’-ビス[(S
2,S
12-シクロ{Nアセチル-L-イソロイシル-L-システイニル-L-バリル-1-メチル-L-トリプトフィル-L-グルタミニル-L-α-アスパルチル-L-トリプトフィルグリシル-L-アラニル-L-ヒスチジル-L-アルギニル-L-システイン-L-トレオニル-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチル-L-リジンアミド})-N
6.15-カルボニル]ポリエチレングリコール(n=800~1100)とも呼ばれる。
【0180】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、抗体、例えば、抗C3抗体及び/または抗C5抗体、またはそのフラグメントである。いくつかの実施形態では、抗体フラグメントを使用して、C3またはC5の活性化を阻害することができる。断片化された抗C3または抗C5抗体は、Fab’、Fab’(2)、Fv、または単鎖Fvであり得る。いくつかの実施形態では、抗C3抗体または抗C5抗体はモノクローナルである。いくつかの実施形態では、抗C3抗体または抗C5抗体はポリクローナルである。いくつかの実施形態では、抗C3抗体または抗C5抗体は脱免疫化されている。一実施形態では、抗C3抗体または抗C5抗体は、完全ヒトモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗C5抗体はエクリズマブである。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、抗体、例えば、抗C3抗体及び/または抗C5抗体、またはそのフラグメントである。
【0181】
いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、ポリペプチド阻害剤及び/または核酸アプタマーである(例えば、米国特許出願公開第20030191084号を参照)。例示的なポリペプチド阻害剤としては、C3またはC3bを分解する酵素が挙げられる(例えば、米国特許第6,676,943号を参照)。さらなるポリペプチド阻害剤としては、ミニ因子H(例えば、米国特許公開第20150110766号を参照)、黄色ブドウ球菌由来のEfbタンパク質もしくは補体阻害剤(SCIN)タンパク質、またはそのバリアントもしくは誘導体もしくは模倣体(例えば、米国特許出願公開第20140371133号を参照)が挙げられる。
【0182】
他の様々な補体阻害剤も、本開示の様々な実施形態において使用することができる。いくつかの実施形態では、補体阻害剤は、天然に存在する哺乳動物の補体調節タンパク質、またはそのフラグメントもしくは誘導体である。例えば、補体調節タンパク質は、CR1、DAF、MCP、CFH、またはCFIであり得る。いくつかの実施形態では、補体調節ポリペプチドは、天然に存在する状態では通常は膜結合しているものである。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメイン及び/または細胞内ドメインの一部または全部を欠くこのようなポリペプチドのフラグメントが使用される。例えば、可溶型の補体受容体1(sCR1)を使用することもできる。例えば、TP10またはTP20(Avant Therapeutics)として知られる化合物を使用することができる。C1阻害剤(C1-INH)を使用することもできる。いくつかの実施形態では、可溶性補体制御タンパク質、例えばCFHが使用される。
【0183】
C1の阻害剤を使用することもできる。例えば、米国特許第6,515,002号には、C1を阻害する化合物(フラニル及びチエニルアミジン、複素環式アミジン、及びグアニジン)が記載されている。米国特許第6,515,002号及び同第7,138,530号には、C1を阻害する複素環式アミジンが記載されている。米国特許第米国特許第7,049,282号には、古典経路の活性化を阻害するペプチドが記載されている。ペプチドの一部は、WESNGQPENN(配列番号73)またはKTISKAKGQPREPQVYT(配列番号74)、またはこれらと有意な配列同一性及び/または立体的構造類似性を有するペプチドを含むか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、これらのペプチドは、IgGまたはIgM分子の一部と同一または実質的に同一である。米国特許第米国特許第7,041,796号は、C3b/C4b補体受容体様分子及び補体活性化を阻害するためのその使用を開示している。米国特許第米国特許第6,998,468号は、補体活性化の抗C2/C2a阻害剤を開示している。米国特許第米国特許第6,676,943号は、肺炎球菌由来のヒト補体C3分解タンパク質を開示している。
【0184】
GenBankアクセッション番号を含む、本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、それらの全容を参照により援用するものとする。加えて、材料、方法、及び実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明の所属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書において記載されているものと類似または同等の方法及び物質を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法及び物質を本明細書に記載する。
【0185】
均等物
当業者は、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識し、または日常的な実験のみを使用して確認することができるであろう。本発明の範囲は、上記の説明に限定されることを意図するものではなく、以下の特許請求の範囲に記述されるようなものである。
【配列表】
【国際調査報告】