(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用のリチウムイオン透過性セパレータ及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/446 20210101AFI20231226BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231226BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/497 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/494 20210101ALI20231226BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231226BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20231226BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231226BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20231226BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20231226BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231226BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M10/052
H01M50/443 M
H01M50/489
H01M50/497
H01M50/494
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/48
H01M4/58
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/587
H01M4/525
H01M50/403 Z
H01M10/058
H01M50/414
H01M50/434
H01M10/0566
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536072
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 US2021072916
(87)【国際公開番号】W WO2022133441
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522082160
【氏名又は名称】グローバル グラフェン グループ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Global Graphene Group,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021BB15
5H021EE02
5H021EE05
5H021EE06
5H021EE10
5H021EE22
5H021EE29
5H021HH01
5H021HH03
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL04
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL18
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ20
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB05
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA13
5H050EA22
5H050EA23
(57)【要約】
正極、負極並びにこの正極及びこの負極の間に配置された弾性複合体セパレータを備えたリチウム二次電池であって、この弾性複合体セパレータは、高弾性ポリマー及び1重量%~99重量%の無機固体電解質の粒子を含み、この粒子は、この高弾性ポリマー中に分散され又はこの高弾性ポリマーによって結合され、この弾性複合体セパレータは、50nm~100μmの厚さ及び室温で10
-8S/cm~5×10
-2S/cmのリチウムイオン伝導性を有し、この高弾性ポリマーは、このポリマー中にいかなる添加剤も分散させずに測定した場合、2%~1,000%の完全回復可能な引張ひずみを有する、リチウム二次電池。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極並びに前記正極及び前記負極の間に配置された弾性複合体セパレータを備えたリチウム二次電池であって、前記弾性複合体セパレータは、高弾性ポリマー及び1重量%~99重量%の無機固体電解質の粒子を含み、前記粒子は、前記高弾性ポリマー中に分散され又は前記高弾性ポリマーによって結合され、前記弾性複合体セパレータは、50nm~100μmの厚さ及び室温で10
-8S/cm~5×10
-2S/cmのリチウムイオン伝導性を有し、前記高弾性ポリマーは、前記高弾性ポリマー中にいかなる添加剤も分散させずに測定した場合、2%~1,000%の完全回復可能な引張ひずみを有する、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記電池は、リチウム金属電池であり、前記負極は、負極集電体を有するが、前記電池を作製したとき及び前記電池の充電又は放電操作前には、前記負極は最初はリチウム又はリチウム合金を前記負極集電体によって支持された負極活物質として有さない、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記電池は、リチウム金属電池であり、前記負極は、負極集電体及びある量のリチウム又はリチウム合金を前記負極集電体によって支持された負極活物質として有する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記電池は、リチウムイオン電池であり、前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体によって支持された1層の負極活物質を有し、前記負極活物質は、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、リン(P)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びカドミウム(Cd);(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Ni、Co、又はCd及び他の元素との合金又は金属間化合物、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Fe、Ni、Co、V、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物、複合体、又はリチウム含有複合体;(d)Snの塩及び水酸化物;(e)チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、アルミン酸リチウム、チタンニオブ酸化物リチウム、リチウム含有酸化チタン、遷移金属酸化物リチウム、ZnCo
2O
4;(f)カーボン又はグラファイト粒子、(g)これらのプレリチオ化型、並びに(h)これらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記無機固体電解質材料は、酸化物型、硫化物型、水素化物型、ハロゲン化物型、ホウ酸塩型、リン酸塩型、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)、ガーネット型、リチウム超イオン伝導体(LISICON)型、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)型、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワーク中にエーテル結合、ニトリル誘導結合、過酸化ベンゾイル誘導結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ樹脂結合、トリアクリレートモノマー誘導結合、テトラアクリレートモノマー誘導結合、又はこれらの組み合わせを有する前記ポリマー鎖の架橋ネットワークを含有する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、アクリル酸誘導鎖、ポリビニルアルコール鎖、又はこれらの組み合わせから選択されるポリマー鎖の架橋ネットワークを含有する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記弾性ポリマーは、天然ポリイソプレン、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、ポリクロロプレン、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、メタロセン系ポリ(エチレンオクテン共重合体)エラストマー、ポリ(エチレン-ブテン共重合体)エラストマー、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンエラストマー、エピクロロヒドリンゴム、ポリアクリルゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、パーフロロエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性エラストマー、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリン共重合体、ポリシロキサン、ポリウレタン、ウレタン-尿素共重合体、ウレタン-アクリル共重合体、これらの共重合体、これらのスルホン酸化型、又はこれらの組み合わせから選択されるエラストマーを含有する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記弾性ポリマーはさらに、0.1重量%~30重量%のリチウムイオン伝導性添加剤を含み、前記リチウムイオン伝導性添加剤は、組成物又は構造中の前記無機固体電解質粒子とは異なる、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記リチウムイオン伝導性添加剤は、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)、ヘキサフルオロひ酸リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、ビスートリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF
3SO
2)
2)、リチウムビス(オキサレート)ホウ酸(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロホウ酸(LiBF
2C
2O
4)、硝酸リチウム(LiNO
3)、Li―フルオロアルキルリン酸(LiPF
3(CF
2CF
3)
3)、リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されるリチウム塩を含む、請求項9に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記リチウムイオン伝導性添加剤は、Li
2CO
3、Li
2O、Li
2C
2O
4、LiOH、LiX、ROCO
2Li、HCOLi、ROLi、(ROCO
2Li)
2、(CH
2OCO
2Li)
2、Li
2S、Li
xSO
y、又はこれらの組み合わせから選択され、X=F、Cl、I、又はBrであり、R=1つの炭化水素基であり、0<x≦1、1≦y≦4である、請求項9に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記高弾性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス(phosphazenex)、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)、これらのスルホン酸誘導体、又はこれらの組み合わせから選択されるリチウムイオン伝導性ポリマーと混合物又はブレンドを形成する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
前記電池はさらに、前記セパレータ中の前記固体電解質に加え、負極活物質及び/又は正極活物質とイオン接触する作用電解質を含み、前記作用電解質は、有機液体電解質、イオン液体電解質、ポリマーゲル電解質、固体電解質、有機又はイオン液体に溶解したリチウム塩を有し、リチウム塩濃度が2.0Mより高い準固体電解質、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
前記正極は、無機材料、有機材料、ポリマー材料、又はこれらの組み合わせから選択される正極活物質を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
前記無機材料は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムバナジウム酸化物、リチウム混合金属酸化物、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸バナジウムリチウム、リン酸混合金属リチウム、リチウム金属ケイ化物、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項14に記載のリチウム二次電池。
【請求項16】
前記無機材料は、Li
2MSiO
4又はLi
2Ma
xMb
ySiO
4と示される、リチウム遷移金属ケイ化物から選択され、M及びMaは、Fe、Mn、Co、Ni、V、又はVOから選択され、Mbは、Fe、Mn、Co、Ni、V、Ti、Al、B、Sn、又はBiから選択され、そしてx+y≦1である、請求項14に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
正極活物質としての、前記無機材料は、金属酸化物、金属リン酸塩、金属ケイ化物、金属セレン化物、遷移金属硫化物、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項14に記載のリチウム二次電池。
【請求項18】
前記金属酸化物は、Li
xVO
2、Li
xV
2O
5、Li
xV
3O
8、Li
xV
3O
7、Li
xV
4O
9、Li
xV
6O
13、これらのドープ型、これらの誘導体及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸化バナジウムを含み、0.1<x<5である、請求項17に記載のリチウム二次電池。
【請求項19】
前記金属酸化物又は金属リン酸塩は、層状化合物LiMO
2、スピネル化合物LiM
2O
4、オリビン化合物LiMPO
4、ケイ化物化合物Li
2MSiO
4、タボライト化合物LiMPO
4F、ホウ酸化合物LiMBO
3、又はこれらの組み合わせから選択され、Mは、1個の遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である、請求項17に記載のリチウム二次電池。
【請求項20】
前記弾性複合体セパレータは、勾配濃度の前記無機固体電解質粒子を有する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項21】
請求項1に記載の弾性複合体セパレータの製造プロセスであって、前記プロセスは、(A)前記無機固体電解質粒子を液体反応物の弾性ポリマー前駆体に分散してスラリーを形成すること、(B)1層の前記液体反応物を固体基板の面に分注及び堆積させること、及び(C)前記反応物を重合させる及び/又は硬化させて前記層の弾性複合体セパレータを形成することを含む、プロセス。
【請求項22】
前記固体基板は、負極集電体、負極活物質層、又は正極活物質層である、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記プロセスは、ロールツーロールプロセスであり、前記ステップ(B)は、(i)1層の前記固体基板をフィーダーローラから分注ゾーンへ連続供給し、分注ゾーンで前記反応物を前記固体基板上に分注及び堆積させて連続層の前記反応物を形成する、連続供給するステップ、(ii)前記層の前記反応物を反応ゾーンに移動させ、反応ゾーンで連続層の弾性複合体を形成する目的で前記反応物を熱、紫外線、又は高エネルギー放射線に曝露して前記反応物を重合及び/又は硬化させるステップ、及び(iii)前記弾性複合体を巻取りローラに回収するステップを含む、請求項21に記載のプロセス。
【請求項24】
前記弾性複合体の層を一片又は複数片の弾性複合体セパレータに切断及び/又はトリムするステップをさらに含む、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
負極、前記弾性複合体セパレータ、電解質、及び正極電極を組み合わせてリチウム電池を形成するステップをさらに含む、請求項21に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池及びリチウム金属電池を含む、再充電可能リチウム電池の分野、特に電池を作製したとき最初はリチウム金属を負極活物質として有さない負極を欠く再充電可能リチウム金属電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン及びリチウム(Li)金属電池(リチウム硫黄電池、リチウム空気電池などを含む)は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、並びにノートパソコン及び携帯電話などの携帯電子機器用の有望な電源と考えられている。リチウム金属は、他のいかなる金属又は金属挿入化合物(Li4.4Siを除く)と比較して負極活物質として最高の容量を有する(3,861mAh/g)。したがって、再充電可能Li金属電池は概して、リチウムイオン電池よりエネルギー密度が著しく高い。
【0003】
歴史上、再充電可能リチウム金属電池は、TiS2、MoS2、MnO2、CoO2及びV2O5などの比容量が高い非リチオ化化合物を正極活物質としても用いて製造され、この非リチオ化化合物をリチウム金属負極と結合した。電池を充電するとき、リチウムイオンはリチウム金属負極から溶解し、電解質を通って正極に移動するので、正極はリチオ化される。残念なことに、サイクル中に、リチウム金属は、最終的に電池の状態を危険にするデンドライトを形成する。結果として、これらの種類の二次電池の製造は、1990年代前半に終了し、リチウムイオン電池に取って代わられた。
【0004】
今でも、サイクル安定性及び安全性に対する懸念は、主要因のままであり、Li金属電池をEV、HEV、及びマイクロ電子デバイス応用にさらなる商業化することは止められている。これらの問題は主に、充放電サイクルを繰り返したり過充電したりする間にLiがデンドライト構造を形成する傾向が高いためであり、内部短絡及び熱暴走を起こす。デンドライトに関連する問題に対処するために、以下に手短にまとめた、多くの試みがなされてきた。
【0005】
Fauteuxらは、金属負極に、金属イオンの金属負極から電解質及び背面への移動を可能にする表面保護層(例えば多環芳香族及びポリエチレンオキシドの混合物など)をつけた[D.Fauteuxら、“Secondary Electrolytic Cell and Electrolytic Process,”「米国特許第5,434,021号、1995年7月18日]。表面層も電気伝導性であり、その結果イオンは電析中(すなわち電池の充電中)に金属負極に再び均一に引き付けられることになる。Alamgirらは、固体ポリマー電解質系充電池の化学的過充電及びデンドライト形成を防ぐためにフェロセンを用いた[M.Alamgirら、“Solid polymer electrolyte batteries containing metallocenes,”「米国特許第5,536,599号、1996年7月16日]。
【0006】
Skotheimは、Li金属負極及び電解質の間に介在させたLiイオン伝導性ポリマーの真空蒸着した薄膜を用いることによりデンドライト形成に対して安定化したLi金属負極を提供した[T.A.Skotheim,“Stabilized Anode for Lithium-Polymer Battery,”米国特許第5,648,187号(1997年7月15日);第5,961,672号(1999年10月5日)]。Skotheimらはさらに、Li金属系の第1の層、一時保護金属(例えばCu、Mg、及びAl)第2の層、及びケイ酸リチウム及びリン酸リチウム、又はポリマーなどの少なくとも1層の(典型的には2個以上の層の)単一のイオン伝導性ガラスから成る第3の層から成る多層負極構造を提案した[T.A.Skotheimら、“Lithium Anodes for Electrochemical Cells,”米国特許第6,733,924号(2004年5月11日);第6,797,428号(2004年9月28日);第6,936,381号(2005年8月30日);及び第7,247,408号(2007年7月24日)]。少なくとも3又は4層から成るこのような負極構造が複雑すぎ、費用がかかりすぎて作製及び使用できないことは明らかである。
【0007】
LiI-Li3PO4-P2S5のガラス状表面層などのLi負極用の保護コーティングを、プラズマアシスト蒸着により得ることができる[S.J.Viscoら、“Protective Coatings for Negative Electrodes,”米国特許第6,025,094号(2000年2月15日)]。複雑な多層保護コーティングも、Viscoらにより提案された[S.J.Viscoら、“Protected Active Metal Electrode and Battery Cell Structures with Non-aqueous Interlayer Architecture,”米国特許第7,282,295号(2007年10月16日);第7,282,296号(2007年10月16日);及び第7,282,302号(2007年10月16日)]。
【0008】
これらの以前の努力にもかかわらず、市場で成功した再充電可能なLi金属電池はまだない。これは、これらの先行技術の手法には、依然として主要な欠陥があるという考えによる可能性がある。例えば、いくつかの場合においては、負極又は電解質構造が複雑すぎる。他の場合においては、材料に費用がかかりすぎるか、又はこれらの材料の製造工程が労力を要しすぎるか難しすぎる。固体電解質は典型的にはリチウムイオン伝導性が低く、製造するのが難しく、電池に備え付けるのが難しい。
【0009】
さらに、電池中の単独の電解質としての又は負極保護層(リチウムフィルム及び負極電解質の間に介在させた)としての固体電解質は、リチウム金属としっかり接触せず、しっかりした接触を維持することができない。これにより実際上、電解質がリチウムイオンの溶解(電池の充電中)、リチウムイオンの移動を支持する効力を低下させ、リチウムイオンがリチウム負極に再び再堆積することを可能にする(電池の放電中)。負極活物質層(例えばグラファイト系負極層又はリチウム金属層)及び正極活性層の間に配置されたセラミックセパレータも、同様に同一の問題を被る。さらに、セラミックセパレータはまた、正極層中の電解質が固体電解質である場合(例えば無機固体電解質など)、正極層とあまり接触しない。
【0010】
リチウム金属負極に関連する別の主要な問題は、電解質及びリチウム金属の間の連続反応であり、負極に再び再堆積することができず、負極から分離する「デッドリチウム含有化学種」が繰り返し形成される。これらの反応では電解質及びリチウム金属を不可逆的に消費し続け、急速に容量が減衰する。リチウム金属のこの連続損失を補うために、電池の製造時に過剰量のリチウム金属(必要とされる量の3~5倍多く)を通常負極に備え付ける。これにより費用が増すだけでなく、電池にかなりの重量及び容積が加わり、電池セルのエネルギー密度が低下する。この重要な問題はほとんど無視されてきて、電池業界においてこの問題に対する妥当と思える解決策は今までなかった。
【0011】
明らかに、Li金属電池のLi金属デンドライト誘導内部短絡及び熱暴走問題を防ぎ、リチウム金属及び電解質の間の有害反応を低減し又はなくすためのより簡単で費用対効果の優れた、実行しやすい手法に対する緊急の必要性が存在する。
【0012】
したがって、本開示の目的は、リチウム金属負極を有する全ての種類のLi金属電池のリチウム金属デンドライト及び反応問題を克服する効果的な方法を提供することである。本開示の具体的な目的は、高い比容量、高い比エネルギー、高い安全度、及び長くて安定なサイクル寿命を示すリチウム金属電池を提供することである。
【発明の概要】
【0013】
本開示は、正極、負極並びにこの正極及びこの負極の間に配置された弾性複合体セパレータ(イオン伝導性膜)を備えたリチウム二次電池であって、この弾性複合体セパレータは、高弾性ポリマー及び1重量%~99重量%(好ましくは10重量%超、より好ましくは20重量%~95重量%、及び最も好ましくは30重量%~90重量%)の無機固体電解質の粒子を含み、この粒子は、この高弾性ポリマー中に分散され又はこの高弾性ポリマーによって結合され、この弾性複合体セパレータは、50nm~100μm(好ましくは1~20μm)の厚さ及び室温で10-8S/cm~5×10-2S/cmのリチウムイオン伝導性を有し、この高弾性ポリマーは、このポリマー中にいかなる添加剤も分散させずに測定した場合、2%~1,000%(好ましくは10%超及びさらに好ましくは30%~300%)の完全回復可能な引張ひずみを有する、リチウム二次電池を提供する。典型的な構成において、このセパレータは、この負極及びこの正極の両方とイオン接触し、典型的には負極活物質層(又は負極集電体)と及び正極活物質層と物理的に接触する。
【0014】
特定の実施形態において、リチウム二次電池の負極は、ある量のリチウム又はリチウム合金を負極集電体によって支持された負極活物質として有する。他の特定の実施形態において、この電池を作製したとき及びこの電池の充電又は放電操作前には、この負極は最初は、リチウム又はリチウム合金をこの負極集電体によって支持された負極活物質として有さない。この後者の構成を、負極を欠くリチウム電池と呼ぶ。
【0015】
特定の実施形態において、この電池は、リチウムイオン電池であり、この負極は、負極集電体及びこの負極集電体によって支持された1層の負極活物質を有し、この負極活物質は、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、リン(P)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びカドミウム(Cd);(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Ni、Co、又はCd及び他の元素との合金又は金属間化合物、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Fe、Ni、Co、V、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物、複合体、又はリチウム含有複合体;(d)Snの塩及び水酸化物;(e)チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、アルミン酸リチウム、チタンニオブ酸化物リチウム、リチウム含有酸化チタン、遷移金属酸化物リチウム、ZnCo2O4;(f)カーボン又はグラファイト粒子(g)これらのプレリチオ化型、並びに(h)これらの組み合わせから成る群から選択される。
【0016】
この負極集電体は、例えばCu箔、Cuでコーティングされたポリマーフィルム、ニッケルフォームの層、グラフェンシート、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどのナノフィラメントの多孔質層から選択されてよい。
【0017】
好ましくは、無機固体電解質材料(弾性複合体セパレータ層に分散した)は、好ましくは10nm~30μm、より好ましくは50nm~1μmの粒径を有する微粉形状である。無機固体電解質材料は、酸化物型、硫化物型、水素化物型、ハロゲン化物型、ホウ酸塩型、リン酸塩型、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)、ガーネット型、リチウム超イオン伝導体(LISICON)、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。
【0018】
高弾性ポリマーとは、ポリマー、典型的には軽度に架橋したポリマーを指し、これは、単軸引張下で測定する場合少なくとも2%(好ましくは少なくとも5%)の弾性変形を示す。材料工学の分野では、「弾性変形」とは、負荷が解放されると本質的に完全回復可能な材料の変形(機械的に応力をかけている場合の)と定義され、この回復工程は本質的に即時(時間遅延はない又はほとんどない)に起こる。弾性変形は、より好ましくは10%超、さらに好ましくは30%超、さらにより好ましくは50%、及びずっと好ましくは100%超である。弾性ポリマー単独での弾性は(ポリマー中にいかなる添加剤も分散させない)、1,000%の高さに達することができる。しかしながら、特定量の無機充填剤をこのポリマーに添加すると、この弾性を著しく低減させることができる。組み込む固体電解質粒子の種類及び割合に応じて、可逆的弾性変形は典型的には2%~500%の範囲により典型的には2%~300%の範囲に低減する。
【0019】
いくつかの好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワーク中にエーテル結合、ニトリル誘導結合、過酸化ベンゾイル誘導結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ樹脂結合、トリアクリレートモノマー誘導結合、テトラアクリレートモノマー誘導結合、又はこれらの組み合わせを有するポリマー鎖の軽度に架橋したネットワークを含有する。これらのネットワーク又は架橋ポリマーは、高い弾性(高い弾性変形ひずみ)及び高いリチウムイオン伝導性の固有の組み合わせを示す。
【0020】
特定の好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETEA)鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はアクリル酸誘導鎖、ポリビニルアルコール鎖、又はこれらの組み合わせから選択される軽度に架橋したネットワークポリマー鎖を含有する。
【0021】
弾性ポリマーは、天然ポリイソプレン、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、ポリクロロプレン、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、メタロセン系ポリ(エチレンオクテン共重合体)エラストマー、ポリ(エチレン-ブテン共重合体)エラストマー、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンエラストマー、エピクロロヒドリンゴム、ポリアクリルゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、パーフロロエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性エラストマー、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリン共重合体、ポリシロキサン、ポリウレタン、ウレタン-尿素共重合体、ウレタン-アクリル共重合体、これらの共重合体、これらのスルホン酸化型、又はこれらの組み合わせから選択されるエラストマーを含有する。
【0022】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、天然ポリイソプレン(例えばシス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴムのためのIR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴムのためのBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えばネオプレン、Baypren等)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)を含む、ブチルゴム(イソブチレン及びイソプレンの共重合体、IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレン及びブタジエンの共重合体、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエン及びアクリロニトリルの共重合体、NBR)、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレン及びプロピレンの共重合体)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン、プロピレン及びジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、フルオロエラストマー(FKM、及びFEPM;例えばViton、Tecnoflon、Fluorel、Aflas及びDai-El)、ペルフルオロエラストマー(FFKM:Tecnoflon PFR、Kalrez、Chemraz、Perlast)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM;例えばハイパロン)、及びエチレン酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリン共重合体、ポリウレタン、ウレタン-尿素共重合体、及びこれらの組み合わせ.から選択されるエラストマーを含有する。
【0023】
高弾性ポリマーはさらに、0.1重量%~50重量%のリチウムイオン伝導性添加剤を含んでよく、リチウムイオン伝導性添加剤は、無機固体電解質粒子とは異なる。
【0024】
この高弾性ポリマーは、負極集電体の面に接触して配置される薄膜であってよい。負極は、電池セルを製造したときに、リチウム金属又はグラファイト若しくはSi粒子などの他のいかなる負極活物質も含まない集電体を含む。最初はリチウム金属を含まない負極を有するこのような電池セルは通常、「負極を欠く」リチウム電池と呼ばれる。負極及び正極の間を往復する必要があるリチウムイオンは最初は、正極活物質(例えばLiMn2O4及びLiMPO4,のLi、M=Ni、Co、F、Mnなど)中に保存される。最初の電池充電手順中に、リチウムイオン(Li+)が正極活物質から出てきて、電解質中を移動し、ついで本発明で開示した高弾性ポリマー保護層を通過し、負極集電体の面上に堆積する。この充電手順を継続するにつれ、多くのリチウムイオンが集電体の面に堆積し、最終的にリチウム金属フィルム又はコーティングを形成する。
【0025】
続く放電中に、リチウムが電解質中に溶解してリチウムイオンになるため、このリチウムフィルム又はコーティング層の厚さが減少し、保護層に弾性がなかった場合、集電体及び保護層の間に間隙が生じる。このような間隙があると、続く再充電手順中にリチウムイオンが負極に再び再堆積するのが不可能になる。高弾性ポリマーは、負極層と一致又は適合するように膨張又は収縮することができることを観測した。この能力は、集電体(又はリチウムフィルム自体)及び保護層の間のしっかりした接触を維持するのに役立ち、リチウムイオンを途切れなく再堆積することを可能にする。
【0026】
特定の実施形態において、高弾性ポリマーはさらに、高弾性ポリマー中に分散した補強材料を含有し、この補強材料は、ポリマー繊維、ガラス繊維、セラミック繊維又はナノフレーク(例えばナノクレイフレーク)、グラフェンシート、炭素繊維、グラファイト繊維、カーボンナノファイバー、グラファイトナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト粒子、膨張グラファイトフレーク、アセチレンブラック粒子、又はこれらの組み合わせから選択される。補強材料は好ましくは、100nm未満の厚さ又は直径を有する。
【0027】
高弾性ポリマー複合体はさらに、ポリマー中に分散したリチウム塩(リチウムイオン伝導性添加剤)を含んでよく、このリチウム塩は好ましくは、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロひ酸リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビスートリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(オキサレート)ホウ酸(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロホウ酸(LiBF2C2O4)、硝酸リチウム(LiNO3)、Li―フルオロアルキルリン酸(LiPF3(CF2CF3)3)、リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。
【0028】
リチウム電池中の電解質は、有機液体電解質、イオン液体電解質、ポリマーゲル電解質、固体電解質、有機又はイオン液体に溶解したリチウム塩を有し、リチウム塩濃度が2.0Mより高い準固体電解質、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。
【0029】
負極側では、好ましく及び典型的には、保護層用の高弾性ポリマー複合体は、10-5S/cm以上、より好ましくは10-4S/cm以上、及び最も好ましくは10-3S/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する。選択されたポリマーのいくつかは、10-2S/cm超のリチウムイオン伝導性を示す。
【0030】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマー複合体はさらに、高弾性ポリマーマトリックス材料中に分散したリチウムイオン伝導性添加剤を含み、このリチウムイオン伝導性添加剤は、Li2CO3、Li2O、Li2C2O4、LiOH、LiX、ROCO2Li、HCOLi、ROLi、(ROCO2Li)2、(CH2OCO2Li)2、Li2S、LixSOy、又はこれらの組み合わせから選択され、X=F、Cl、I、又はBrであり、R=炭化水素基であり、0<x≦1,1≦y≦4である。
【0031】
高弾性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、これらの誘導体(例えばスルホン酸化型)、又はこれらの組み合わせから選択される電子伝導性ポリマーと混合物、ブレンド、共重合体、又は半相互侵入ネットワークポリマー(semi-IPN)を形成してよい。
【0032】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス(phosphazenex)、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)、これらのスルホン酸誘導体、又はこれらの組み合わせから選択されるリチウムイオン伝導性ポリマーと混合物、ブレンド、又はsemi-IPNを形成する。スルホン酸化は、本明細書でポリマーにリチウムイオン伝導性の改善を与えることが分かっている。
【0033】
正極活物質は、無機材料、有機材料、ポリマー材料、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。無機材料は、金属酸化物、金属リン酸塩、金属ケイ化物、金属セレン化物(例えばLi-Se電池で使用するためのリチウムポリセレン化物)、金属硫化物(例えばLi-S電池で使用するためのリチウムポリ硫化物)、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。好ましくは、これらの正極活物質は、正極活物質の構造中にリチウムを含有し、そうでなければ正極は、リチウム源を含有する必要がある。
【0034】
無機正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムバナジウム酸化物、リチウム混合金属酸化物、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸バナジウムリチウム、リン酸混合金属リチウム、リチウム金属ケイ化物、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。
【0035】
正極活物質層は、LixVO2、LixV2O5、LixV3O8、LixV3O7、LixV4O9、LixV6O13、これらのドープ型、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸化バナジウムを含有する金属酸化物を含有してよく、0.1<x<5である。
【0036】
正極活物質層は、層状化合物LiMO2、スピネル化合物LiM2O4、オリビン化合物LiMPO4、ケイ化物化合物Li2MSiO4、タボライト化合物LiMPO4F、ホウ酸化合物LiMBO3、又はこれらの組み合わせから選択される、金属酸化物又は金属リン酸塩を含有してよく、Mは、1個の遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である。
【0037】
正極活物質は好ましくは、100nm未満の厚さ又は直径を有するナノ粒子(球形、楕円形、及び不規則な形状)、ナノワイヤー、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノシート、ナノベルト、ナノリボン、ナノディスク、nano platelet、又はナノホーンの形状である。別段の定めがない限り、又は上の化学種の中で特定の種類が望ましいわけではないかぎり、これらの形状を、まとめて「粒子」と呼ぶことができる。さらに好ましくは、正極活物質は、50nm未満、より好ましくは20nm未満、及び最も好ましくは10nm未満の寸法を有する。いくつかの実施形態において、1個の粒子又は複数の粒子のクラスターを、粒子間に配置された1層の炭素及び/又は高弾性ポリマーでコーティングしてもよく、又は包含してもよい(封入シェル)。
【0038】
正極層はさらに、正極活物質粒子と混合したグラファイト、グラフェン、又は炭素材料を含有してよい。炭素又はグラファイト材料は、高分子炭素、非晶質炭素、化学蒸着炭素、コールタールピッチ、石油ピッチ、中間相ピッチ、カーボンブラック、コークス、アセチレンブラック、活性炭、寸法が100nm未満の微細膨張グラファイト粒子(fine expanded graphite particle)、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、又はこれらの組み合わせから選択される。グラフェンは、プリスティングラフェン、グラフェンオキシド、還元型グラフェンオキシド、グラフェンフッ化物、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、官能化グラフェンなどから選択されてよい。
【0039】
正極活物質粒子を、炭素材料、グラフェン、電気伝導性ポリマー、導電性金属酸化物、又は導電性金属コーティングから選択される、導電性保護コーティングによりコーティング又は包含してもよい。
【0040】
本開示はまた、リチウム金属電池に使用するための負極電極も提供し、この負極は、(a)負極集電体及びこの負極集電体上に支持された任意選択なリチウム金属又はリチウム合金、及び(b)負極集電体又はリチウム金属若しくはリチウム金属合金(存在する場合)と接触した薄層の高弾性ポリマー複合体を含み、ポリマー複合体は、弾性ポリマー中に分散した0.01重量%~50重量%の無機充填剤を含み、このポリマー複合体は、1nm~10μmの厚さ、2%~500%の完全回復可能な引張ひずみ及び10-8S/cm~5×10-2S/cmのリチウムイオン伝導性を有する。
【0041】
特定の実施形態において、弾性複合体層は、第1の主要な面が負極側に面し、第2の主要な面が第1の主要な面と反対側に置かれる又は反対側にある2個の主要な面を有し、固体電解質粉末は、第1の面で第1の濃度を、第2の面で第2の濃度を有し、第1の濃度は第2の濃度より高い。言い換えると、弾性複合体層の負極側には、正極に面するよう意図された反対側のよりも多くの無機粒子がある。弾性複合体セパレータ層の厚さにわたり濃度勾配がある。負極側に高濃度の無機固体電解質粒子があると(好ましくは>30重量%及びより好ましくは>60重量%)、リチウムデンドライトが形成された場合でも、貫通を停止するのに役立つことができ、安定な人工固体電解質界面(SEI)を形成するのに役立つ。したがって、いくつかの実施形態において、弾性複合体セパレータは、セパレータの厚さにわたり無機固体電解質粒子の勾配濃度を有する。
【0042】
本開示はまた、弾性複合体セパレータの製造プロセスも提供し、このプロセスは、(A)この無機固体電解質粒子を弾性ポリマー前駆体の液体反応物に分散してスラリーを形成すること、(B)1層のこの液体反応物を固体基板の面に分注及び堆積させること、及び(C)この反応物を重合させる及び/又は硬化させてこの層の弾性複合体セパレータを形成することを含む。
【0043】
この固体基板は、負極集電体、負極活物質層、又は正極活物質層であってよい。言い換えると、この弾性複合体セパレータを、1層の負極活物質、負極集電体、又は1層の正極活物質上に直接堆積させることができる。これが達成可能なのは、高弾性ポリマーを硬化するのに高温は必要とされず、硬化温度は典型的には、200℃未満又は100℃未満でさえあるからである。このことは、無機固体電解質を焼結してセラミックセパレータを形成するのに典型的に必要とされる900~1,200℃と全く対照的である。さらに、本発明に開示される弾性セパレータは、界面インピーダンスを低減し、デンドライト貫通を停止する点でセラミックセパレータと少なくとも同じくらい良好である。
【0044】
好ましくは、プロセスは、ロールツーロールプロセスであり、ステップ(B)は、(i)1層の固体基板(例えば柔軟な金属フィルム、プラスチックフィルムなど)をフィーダーローラから分注ゾーンへ連続供給し、分注ゾーンでこの反応物をこの固体基板上に分注及び堆積させて連続層のこの反応物を形成する、連続供給するステップ、(ii)この層のこの反応物を反応ゾーンに移動させ、反応ゾーンで連続層の弾性複合体を形成する目的でこの反応物を熱、紫外線(UV)、又は高エネルギー放射線に曝露してこの反応物を重合及び/又は硬化させるステップ、及び(iii)この弾性複合体を巻取りローラに回収するステップを含む。このプロセスは、リールツーリール方式で実施される。
【0045】
このプロセスは、この弾性複合体の層を一片又は複数片の弾性複合体セパレータに切断及び/又はトリムするステップをさらに含んでよい。
【0046】
このプロセスは、負極、この弾性複合体セパレータ、電解質、及び正極電極を組み合わせてリチウム電池を形成するステップをさらに含んでよい。
【0047】
好ましくは、高弾性ポリマー複合体は、1×10-5S/cm~5×10-2S/cmのリチウムイオン伝導性を有する。いくつかの実施形態において、高弾性ポリマー複合体は、10%~300%(より好ましくは>30%、さらに好ましくは>50%)の回復可能な引張ひずみを有する。
【0048】
特定の実施形態において、エラストマー(又はエラストマーの前駆体)、イオン伝導性ポリマー、リチウムイオン伝導性材料、補強材料(例えば高強度、非伝導性繊維)、又はこれらの組み合わせなどの、いくつかの添加剤を反応物に添加してよい。
【0049】
リチウムイオン伝導性材料を、高弾性ポリマー中に分散し、好ましくはLi2CO3、Li2O、Li2C2O4、LiOH、LiX、ROCO2Li、HCOLi、ROLi、(ROCO2Li)2、(CH2OCO2Li)2、Li2S、LixSOy、又はこれらの組み合わせから選択し、X=F、Cl、I、又はBr、R=炭化水素基であり、0<x≦1、1≦y≦4である。
【0050】
いくつかの実施形態において、反応物中に分散するリチウムイオン伝導性材料は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビスートリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(オキサレート)ホウ酸(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロホウ酸(LiBF2C2O4)、硝酸リチウム(LiNO3)、Li―フルオロアルキルリン酸(LiPF3(CF2CF3)3)、リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0051】
必要に応じて、生じた弾性複合体セパレータを有機又はイオン液体電解質に浸漬又は含浸させてよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】
図1は、負極層(集電体、Cu箔の面上に堆積した薄いLi箔又はLiコーティング)、多孔性セパレータ、及び正極活物質層を備える、従来技術のリチウム金属電池セルの概略図であり、正極活物質層は、正極活物質の粒子、伝導性添加剤(図示せず)及び樹脂結合剤から成る。正極活性層を支持する正極集電体も示す。
【
図2】
図2は、負極集電体(例えばCu箔)、負極活物質はない(電池を製造した時又は完全放電状態で)、弾性複合体セパレータ、及び正極活物質層を備える本発明で開示したリチウム金属電池(上の図)の概略図であり、正極活物質層は、正極活物質の粒子、伝導性添加剤(図示せず)及び樹脂結合剤(図示せず)から成る。正極活性層を支持する正極集電体も示す。下の図は、電池が充電状態のときのCu箔及び弾性複合体セパレータ層の間に堆積したリチウム金属の薄層を示す。
【
図3】
図3Aは、本開示のいくつかの実施形態による高弾性ポリマーのマトリックス中に無機固体電解質粒子が均一に分散した弾性複合体セパレータ層の概略図である。
図3Bは、本開示のいくつかの実施形態による、無機固体電解質粒子が弾性複合体セパレータ層の一方の面(例えば負極側に面する)近くに優先的に分散され、反対側の面の無機固体電解質粒子の濃度が低い又はゼロである弾性複合体セパレータ層の概略図である。
【
図4】
図4は、弾性複合体セパレータのロールを連続方式で製造するためのロールツーロールプロセスの概略図である。
【
図5】
図5は、軽度に架橋したETPTAポリマーの代表的な引張応力―ひずみ曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本開示は、リチウム二次電池に関し、このリチウム二次電池は好ましくは有機液体電解質、ポリマーゲル電解質、イオン液体電解質、準固体電解質、又は固体電解質に基づく。リチウム二次電池の形状は、円筒型形、角形、ボタン状などとすることができる。本開示は、いかなる電池の形状若しくは構成又は電解質の種類にも限定されない。
【0054】
本開示は、正極、負極並びにこの正極及びこの負極の間に配置された弾性複合体セパレータ(イオン伝導性膜)を備えたリチウム二次電池であって、この弾性複合体セパレータは、高弾性ポリマー及び1重量%~99重量%の(好ましくは10重量%超、より好ましくは20重量%~95重量%、及び最も好ましくは30重量%~90重量%)の無機固体電解質の粒子を含み、この粒子は、この高弾性ポリマー中に分散され又はこの高弾性ポリマーによって結合され、この弾性複合体セパレータは、50nm~100μm(好ましくは1~20μm)の厚さ、室温で10-8S/cm~5×10-2S/cmのリチウムイオン伝導性を有し、この高弾性ポリマーは、このポリマー中にいかなる添加剤も分散させずに測定した場合、2%~1,000%(好ましくは10%超及びさらに好ましくは30%~300%)の完全回復可能な引張ひずみを有する、リチウム二次電池を提供する。典型的な構成においては、このセパレータは、この負極及びこの正極の両方とイオン接触し、典型的には負極活物質層(又は負極集電体)と及び正極活物質層と物理的に接触する。
【0055】
特定の実施形態において、このリチウム二次電池のこの負極は、ある量のリチウム又はリチウム合金を負極集電体によって支持された負極活物質として有する。他の特定の実施形態において、この電池を作製したとき及びこの電池の充電又は放電操作前には、この負極は最初はリチウム又はリチウム合金を負極集電体によって支持された負極活物質として有さない。この後者の構成は、負極を欠くリチウム電池と呼ばれる。特定の実施形態において、この電池はリチウム金属膜をこの弾性複合体セパレータ及びこの負極集電体の間に備えて製造することができる。
【0056】
この集電体は、Cu箔、ニッケルフォームの層、3次元的に相互接続した電気伝導路ネットワークを形成するグラフェンシート、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどのナノフィラメントの多孔質層であってよい。
【0057】
好ましくは、この弾性複合体セパレータ層の組成は、このリチウム電池に用いられる作用電解質と異なり、この弾性複合体層は、別々の層として維持される(この電解質中に溶解されない)。
【0058】
この複合体セラミック層が、いくつかの予想外の利益、(a)デンドライトの形成及び貫通を本質的になくすことができる、(b)電池の充電中にリチウムを負極側に均一に再び堆積することを容易に達成する、(c)この複合体セラミック層があると、負極集電体の面(又は電池の運転中に負極集電体の面上に堆積したリチウムフィルム)から/へ集電体(又は集電体の面上に堆積したリチウムフィルム)及び弾性複合体セパレータ層の間の界面を介してリチウムイオンを最小の界面抵抗で確実に円滑に及び途切れなく移動させる、及び(d)サイクル安定性を著しく改善することができ、サイクル寿命を延ばす、を提供することを見出した。リチウム金属負極の追加の保護層は要しない。セパレータ自身が負極保護層の役割も果たす。
【0059】
図1に示す従来のリチウム金属セルにおいては、負極集電体(例えばCu箔)上に負極活物質(リチウム)を直接薄膜状又は薄箔状に堆積した後でこの負極及び正極を組み合わせてセルを形成する。電池は、リチウム金属電池、リチウム硫黄電池、リチウム-セレン電池などである。背景技術の節で前述したように、これらのリチウム二次電池は、負極にデンドライト誘導内部短絡及びデッドリチウム(dead lithium)問題を有する。
【0060】
本発明者らは、電池の設計者及び電気化学者を同じように30年超悩ませてきたこれらの困難な課題を、負極(負極集電体又は負極活物質層)及び正極活物質層の間に配置した新規な弾性複合体セパレータを開発及び取り付けることにより解決した。この弾性セパレータ層は、単軸引張下2%以上(好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%~500%)の回復可能な(弾性)引張ひずみ及び室温で10-8S/cm以上のリチウムイオン伝導性(好ましくは及びより典型的には1×10-5S/cm~5×10-2S/cm)を有する高弾性ポリマーを含む。
【0061】
図2に図式的に示す通り、本開示の1つの実施形態は、負極集電体(例えばCu箔など)、高弾性ポリマー複合体系負極保護層、多孔質セパレータ、及び正極活物質層を備えるリチウム金属電池セルであり、正極活物質層は、正極活物質の粒子、導電性添加剤(図示しない)及び樹脂結合剤(図示しない)から成る。正極活性層を支持する正極集電体(例えばAl箔など)も
図2に示す。
【0062】
高弾性ポリマー材料とは、単軸引張下で測定する場合少なくとも2%の弾性変形を示す材料(ポリマー又はポリマー複合体)を指す。材料工学の分野では、「弾性変形」とは、本質的に完全回復可能な材料の変形(機械的に応力をかけている場合の)と定義され、この回復は負荷が解放されると本質的に即時に起こる。弾性変形は、好ましくは5%超、より好ましくは10%超、さらに好ましくは30%超、及びさらにより好ましくは100%超(500%以下)である。
【0063】
図2は、電池製造時に最初は負極にリチウム箔又はリチウムコーティングを含まない(Cu箔又はグラフェン/CNTマットなどの負極集電体などのみを含む)リチウム電池を示すことを留意してよい。負極及び正極の間を往復するために必要とされるリチウムは、最初は正極活物質中に保存される(例えば酸化バナジウムV
2O
5でなくて、リチウムバナジウム酸化物Li
xV
2O
5、又は硫黄でなくて、リチウムポリスルフィド)。リチウム電池の第一の充電手順中に(例えば電気化学的形成プロセスの一部として)、リチウムは、正極活物質から出てきて、弾性複合体セパレータを通過し、負極集電体上に堆積する。本発明で開示される高弾性複合体セパレータが存在すると(集電体としっかり接触する)、リチウムイオンを負極集電体の面に均一に堆積させることができる。このような電池構成があると、電池の製造中にリチウム箔の層又はコーティングを存在させる必要性を避けられる。むき出しのリチウム金属は、空気中の湿気及び酸素に非常に敏感に反応するので、したがって、実際の電池製造環境で取り扱うのはよりやりがいがある。Li
xV
2O
5及びLi
2S
xなどのリチオ化した(リチウムを含有する)正極活物質にリチウムを予め貯蔵する本発明の戦略を用いると、全ての材料を実際の電池製造環境で安全にとり扱うことができる。Li
xV
2O
5及びLi
2S
xなどの正極活物質は典型的には空気に敏感ではない。
【0064】
充電手順を継続するにつれて、多くのリチウムイオンが負極集電体上に堆積し、リチウム金属フィルム又はコーティングを形成する。続く放電手順中には、リチウムが電解質に溶解してリチウムイオンになるため、このリチウムフィルム又はコーティング層の厚さが減少し、セパレータ層に弾性がなかった場合、集電体及び保護層の間に間隙が生じる。このような間隙があると、続く再充電手順中にリチウムイオンが負極に再び再堆積するのが不可能になる。弾性複合体セパレータ層は、負極層と一致又は適合するように膨張又は収縮することができることを観測した。この能力は、集電体(又は集電体の面に続いて又は最初は堆積したリチウムフィルム)及び保護層の間のしっかりした接触を維持するのに役立ち、リチウムイオンを途切れなく再堆積することを可能にする。
【0065】
図3Aは、本開示のいくつかの実施形態による弾性ポリマーのマトリックス中に無機固体電解質粒子が均一に分散した弾性複合体セパレータ層を図式的に示す。本開示の他のいくつかの実施形態によると、
図3Bは、無機固体電解質粒子が弾性複合体セパレータ層の一方の面(例えば負極側に面する)近くに優先的に分散され、反対側の面の無機固体電解質粒子の濃度が低い又はゼロである弾性複合体セパレータ層を図式的に示す。この後者の構造には、高濃度部分は強度が高くて硬く、リチウムデンドライト停止能力をもたらす一方、この層の他の部分は、界面インピーダンスを低減するために隣接する層(例えば固体電解質を一方の側に含みリチウム金属を他方の側に含む正極活物質層)としっかりした接触を維持するよう非常に弾性なままであるという長所がある。
【0066】
好ましくは、無機固体電解質材料は、好ましくは10nm~30μm(より好ましくは50nm~1μm)の粒子径を有する微粉形状である。無機固体電解質材料は、酸化物型(例えばペロブスカイト型)、硫化物型、水素化物型、ハロゲン化物、ホウ酸塩型、リン酸塩型、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)、ガーネット型、リチウム超イオン伝導体(LISICON)、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。
【0067】
セパレータを作成するためにイオン伝導性添加剤として弾性ポリマーマトリックス中に組み込むことができる無機固体電解質としては、ペロブスカイト型、NASICON型、ガーネット型及び硫化物型材料が挙げられるが、これらに限定されない。代表的及び周知のペロブスカイト固体電解質は、Li3xLa2/3-xTiO3であり、この材料は室温で10-3S/cmを超えるリチウムイオン伝導性を示す。この材料は、Ti4+のリチウム金属との接触が低下するため、リチウム電池には適さないとみなされてきた。しかしながら、この材料を弾性ポリマー中に分散する場合、この問題に苦しまないことが分かった。
【0068】
ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)型化合物には、周知のNa1+xZr2SixP3-xO12が含まれる。この材料は一般的に式AM2(PO4)3を有し、Aの場所はLi、Na又はKによって占められる。Mの場所は通常、Ge、Zr又はTiによって占められる。特に、LiTi2(PO4)3系は、リチウムイオン電池用の固体電解質として広く研究されている。LiZr2(PO4)3のイオン誘電率は非常に低いが、Hf又はSnで置換することにより改善することができる。Li1+xMxTi2-x(PO4)3(M=Al、Cr、Ga、Fe、Sc、In、Lu、Y又はLa)を形成する置換ではイオン誘電率をさらに高めることができる。Al置換は、最も効果的な固体電解質であることが証明されている。Li1+xAlxGe2-x(PO4)3系も、電気化学的安定性の領域が比較的広いため、効果的な固体である。NASICON型材料は、高電圧固体電解質電池に適した固体電解質と考えられる。
【0069】
ガーネット型材料は、一般式A3B2Si3O12を有し、A及びBのカチオンはそれぞれ八配位及び六配位を有する。Li3M2Ln3O12(M=W又はTe)に加えて、Li5La3M2O12(M=Nb又はTa)、Li6ALa2M2O12(A=Ca、Sr又はBa;M=Nb又はTa)、Li5.5La3M1.75B0.25O12(M=Nb又はTa、B=In又はZr)並びに立方晶系Li7La3Zr2O12及びLi7.06M3Y0.06Zr1.94O12(M=La、Nb又はTa)を含む、一連のガーネット型材料を添加剤として用いてよい。Li6.5La3Zr1.75Te0.25O12化合物は、室温で1.02×10-3S/cmの高いイオン導電率を有する。
【0070】
硫化物型固体電解質には、Li2S-SiS2系が含まれる。この種類の材料で報告された最も高い導電率は、6.9×10-4S/cmであり、Li2S-SiS2系にLi3PO4をドープすることにより達成した。硫化物型には、Li2S-P2S5系によって表されるチオ-LISICON(リチウム超イオン伝導体)結晶物質の種類も含まれる。Li2S-P2S5系の化学安定性は低いと考えられ、この材料は湿気と敏感に反応する(ガス状H2Sを発生させる)。金属酸化物を添加することにより安定性を改善することができる。Li2S-P2S5材料を弾性ポリマー中に分散させた場合にも、安定性は著しく改善する。
【0071】
弾性ポリマー中に分散したこれらの固体電解質粒子は、リチウムデンドライトの貫通を停止させ、本来的にイオン導電率が低い特定の弾性ポリマーのリチウムイオン伝導性を高めるのに役立つことができる。
【0072】
好ましく及び典型的には、高弾性ポリマーは、10-5S/cm以上、より好ましくは10-4S/cm以上、さらに好ましくは10-3S/cm以上、及び最も好ましくは10-2S/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する。高弾性複合体セパレータは、高弾性ポリマーマトリックス材料中に分散され又は高弾性ポリマーマトリックス材料によって結合された1重量%~95重量%(好ましくは10重量%~85重量%)のリチウムイオン伝導性固体電解質粒子を含有するポリマーマトリックス複合体である。
【0073】
高弾性ポリマーは、高い弾性を有するべきである(弾性変形ひずみ値>2%)。弾性変形とは、完全回復可能な変形であり、この回復は、本質的に即時に起こる(大幅な時間遅延はない)。高弾性ポリマーは、5%~1,000%(高弾性ポリマーの元の長さの10倍)、より典型的には10%~800%、及びさらに典型的には50%~500%、及び最も典型的で望ましくは70%~300%の弾性変形を示してよい。金属が典型的には高い延性を有したとしても(すなわち破壊せずにかなりの程度まで伸ばすことができる)、変形の大多数は塑性変形であり(回復不能)、弾性変形はほんの一部しかない(典型的には<1%及びより典型的には<0.2%)ことに留意してよい。
【0074】
いくつかの好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリマー鎖の架橋ネットワーク中にエーテル結合、ニトリル誘導結合、過酸化ベンゾイル誘導結合、エチレンオキシド結合、プロピレンオキシド結合、ビニルアルコール結合、シアノ樹脂結合、トリアクリレートモノマー誘導結合、テトラアクリレートモノマー誘導結合、又はアクリル酸誘導鎖、ポリビニルアルコール鎖、又はこれらの組み合わせを有する軽度に架橋したネットワークポリマー鎖を含有する。これらのネットワーク又は架橋ポリマーは、高い弾性(高い弾性変形ひずみ)及び高いリチウムイオン伝導性の固有の組み合わせを示す。
【0075】
特定の好ましい実施形態において、高弾性ポリマーは、ニトリル含有ポリビニルアルコール鎖、シアノ樹脂鎖、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETEA)鎖、ペンタエリスリトールトリアクリレート鎖、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)鎖、エチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)鎖、又はこれらの組み合わせから選択される軽度に架橋したネットワークポリマー鎖を含有する。
【0076】
典型的には、高弾性ポリマーは本来、硬化して高弾性の架橋ポリマーを形成することができるモノマー又はオリゴマー状態である。硬化前は、これらのポリマー又はオリゴマーは、有機溶媒に可溶であってポリマー溶液を形成する。この溶液にイオン伝導性又は電子伝導性添加剤を添加して懸濁液を形成してよい。この溶液又は懸濁液をついで、負極集電体上で薄層のポリマー前駆体に形成することができる。ポリマー前駆体(モノマー又はオリゴマー及び開始剤)をついで重合し、硬化して軽度に架橋したポリマーを形成する。この薄層のポリマーを、固体基板上に暫定的に堆積し(例えばポリマー又はガラスの面など)、乾燥させ、基板から分離して自立したポリマー層にする。この自立した層を、リチウム箔/コーティング上に置く又は、リチウムフィルム/コーティング及び電解質又はセパレータの間に取り付ける。ポリマー層の形成は、例えばスプレー、スプレー塗装、印刷、コーティング、押し出しに基づくフィルム形成、成型などの、当該技術分野において周知の複数の手順の1つを用いることにより達成することができる。
【0077】
例えば、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートモノマー(ETPTA、Mw=428、化学式は以下に示す)を、開始剤と共に、エチレンカーボネート(EC)又は炭酸ジエチル(DEC)などの、有機溶媒に溶解することができる。ついで、ETPTAモノマー/溶媒/開始剤溶液を成型してガラス面上にETPTAノマー/開始剤層を形成してよい。この層を熱硬化して薄層の高弾性ポリマーを得ることができる。このモノマーの重合及び架橋反応を、開始剤分子の熱分解により過酸化ベンゾイル(BPO)又はAIBNから生じたラジカル開始剤により開始することができる。ETPTAモノマーは、以下の化学式を有する。
【0078】
【0079】
別の例として、負極リチウム箔/コーティングを保護するための高弾性ポリマーは、コハク酸ニトリル(SN)中でのシアノエチルポリビニルアルコール(PVA-CN、式2)のカチオン性重合及び架橋に基づいてよい。
【0080】
【0081】
この手順は、PVA-CNをコハク酸ニトリル(NCCH2CH2CN)に溶解して混合物溶液を形成することから始めてよい。この手順に続けて開始剤を混合物溶液に添加する。例えば、LiPF6をPVA-CN/SN混合物溶液にある重量比(好ましい範囲20:1~2:1から選択される)で添加して前駆体溶液を形成することができる。ついで、この溶液を堆積させて薄層の反応物PVA-CN/LiPF6を形成してよく、この反応物を続けてある温度(例えば75~100℃)で2~8時間加熱して高弾性ポリマーを得る。このプロセス中、PVA-CN上のシアノ基のカチオン性重合及び架橋を、PF5により開始してよく、PF5は、このような高温でのLiPF6の熱分解により得られる。
【0082】
これらの材料が軽度に架橋したポリマー鎖のネットワークを形成するのは極めて重要である。言い換えると、ネットワークポリマー又は架橋ポリマーは、高い弾性変形を与えるために比較的低度の架橋又は低い架橋密度を有する必要がある。
【0083】
ポリマー鎖の架橋ネットワークの架橋密度を、架橋間の分子量の逆数として定義してよい(Mc)。架橋密度は、方程式Mc=ρRT/Geによって決定することができ、Geは、動的機械分析における温度スウィープによって決定される平衡弾性率であり、ρは物理的密度であり、Rは単位J/mol*Kの一般気体定数であり、Tは単位Kの絶対温度である。Ge及びρを一度実験的に決定すると、Mc及び架橋密度を算出することができる。
【0084】
Mcの大きさは、Mc値を架橋鎖又は鎖結合の特徴的な繰り返し単位の分子量で除算して数Ncを得ることにより標準化してよく、Ncは、2個の架橋点間の繰り返し単位の数である。弾性変形ひずみがMc及びNcと非常によく相関することが分かった。架橋ポリマーの弾性は、架橋間にとても多くの繰り返し単位(大きいNc)があることに由来する。繰り返し単位は、ポリマーに応力がかかっていない場合、より緩和された立体構造をとることができる(例えばランダムコイルなど)。しかしながら、ポリマーに機械的応力をかけた場合、結合鎖はほどけ、引き伸ばされて大きく変形する。架橋点間の鎖結合が長いと(大きいNc)、大きな弾性変形が可能となる。負荷が解放されると、結合鎖はより緩和してコイル状の状態に変わる。ポリマーに機械的負荷をかけている間は、架橋があると、ない場合には塑性変形(回復不能)になる鎖のすべりを防ぐ。
【0085】
好ましくは、高弾性ポリマーのNc値は、5より大きい、より好ましくは10より大きい、さらに好ましくは100より大きい、及びずっと好ましくは200より大きい。これらのNc値は、様々な官能性を有する様々な架橋剤を用いることにより、及び様々な温度で様々な期間進行させるよう重合及び架橋反応を設計することにより、様々な弾性変形値を実現するよう容易に制御し、変えることができる。
【0086】
あるいは、架橋の程度を決定するためにムーニー・リブリン(Mooney-Rilvin)法を用いてよい。架橋はまた、膨潤試験により測定することもできる。膨潤試験では、架橋済みサンプルを対応する線状ポリマー用の良溶媒に特定の温度で配置し、質量の変化又は体積の変化のいずれかを測定する。架橋の程度が高いほど、少ない膨潤が達成できる。膨潤度、フローリー相互作用パラメーター(Flory Interaction Parameter)(サンプルと溶媒の相互作用に関する、フローリー・ハギンズ方程式)、及び溶媒の密度に基づいて、フローリーのネットワーク理論にしたがって理論的架橋度を算出することができる。フローリー‐レーナーの式は、架橋度の決定に有用であってよい。
【0087】
高弾性ポリマーは、2個の架橋鎖が互いに絡み合う同時生成相互侵入ネットワーク(simultaneous interpenetrating network)(SIN)ポリマー、又は架橋ポリマー及び線状ポリマーを含有する半相互侵入ネットワークポリマー(semi-IPN)を含有してよい。semi-IPNの例は、UV硬化性/重合性3価/1価アクリル酸混合物であり、これは、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)及びエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(EGMEA)オリゴマーから成る。3価のビニル基を有するETPTAは、光(UV)-架橋性モノマーであり、架橋鎖のネットワークを形成することができる。1価のビニル基を有するEGMEAも、UV重合性であり、オリゴマーエチレンオキシド単位が存在するため柔軟性が高い線状ポリマーを形成する。ETPTAの架橋度が中程度又は低度である場合、生じるETPTA/EGMEAsemi-IPNポリマーは、良好な機械的柔軟性又は弾性及びほどほどの機械的強度を提供する。このポリマーのリチウムイオン伝導性は、10-4~5×10-3S/cmの範囲である。
【0088】
前述の高弾性ポリマーは、負極のリチウム箔/コーティング層を保護するために単独で用いてよい。あるいは、高弾性ポリマーは、多くのエラストマー、導電性ポリマー、リチウムイオン伝導性材料、及び/又は補強材料(例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、又はグラエナシート)と混合することができる。
【0089】
多くのエラストマーを弾性ポリマーとして単独で用いることができ、又は高弾性ポリマーと混合して正極活物質粒子を封入するブレンド、共重合体、又は相互侵入ネットワークを形成することができる。エラストマー材料は、天然ポリイソプレン(例えばシス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴムのためのIR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴムのためのBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えばネオプレン、Baypren等)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)を含む、ブチルゴム(イソブチレン及びイソプレンの共重合体、IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレン及びブタジエンの共重合体、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエン及びアクリロニトリルとの共重合体、NBR)、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレン及びプロピレンの共重合体)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン、プロピレン及びジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、フルオロエラストマー(FKM、及びFEPM;例えばViton、Tecnoflon、Fluorel、Aflas及びDai-El)、ペルフルオロエラストマー(FFKM:Tecnoflon PFR、Kalrez、Chemraz、Perlast)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM;例えばハイパロン)、及びエチレン酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリン共重合体、ポリウレタン、ウレタン-尿素共重合体、及びこれらの組み合わせから選択してよい。
【0090】
ウレタン-尿素共重合体フィルムは通常、2種類のドメイン、軟質ドメイン及び硬質ドメインからなる。ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)単位からなる絡み合い直鎖主鎖は、軟質ドメインを構成するが、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)及びエチレンジアミン(EDA)の反復単位は、硬質ドメインを構成する。リチウムイオン伝導性添加剤を軟質ドメイン又は他のより非晶質の領域に混入することができる。
【0091】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、高弾性ポリマーマトリックス材料中に分散したリチウムイオン伝導性添加剤を含有するポリマーマトリックス複合体を形成することができ、このリチウムイオン伝導性添加剤は、Li2CO3、Li2O、Li2C2O4、LiOH、LiX、ROCO2Li、HCOLi、ROLi、(ROCO2Li)2、(CH2OCO2Li)2、Li2S、LixSOy、又はこれらの組み合わせから選択され、X=F、Cl、I、又はBrであり、R=1つの炭化水素基であり、0<x≦1、1≦y≦4である。
【0092】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、リチウムイオン伝導性添加剤と混合することができ、リチウムイオン伝導性添加剤は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロひ酸リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビスートリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(オキサレート)ホウ酸(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロホウ酸(LiBF2C2O4)、硝酸リチウム(LiNO3)、Li―フルオロアルキルリン酸(LiPF3(CF2CF3)3)、リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせから選択されるリチウム塩を含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、高弾性ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス(phosphazenex)、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)、これらの誘導体(例えばスルホン酸化型)、又はこれらの組み合わせから選択されるリチウムイオン伝導性ポリマーと混合物、共重合体、又は半相互侵入ネットワークを形成してよい。
【0094】
弾性ポリマーとして用いることができる不飽和ゴムとしては、天然ポリイソプレン(例えばシス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴムのためのIR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴムのためのBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えばネオプレン、Baypren等)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)を含む、ブチルゴム(イソブチレン及びイソプレンの共重合体、IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレン及びブタジエンの共重合体、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエン及びアクリロニトリルの共重合体、NBR)が挙げられる。
【0095】
いくつかのエラストマーは、硫黄加硫によって硬化させることができない飽和ゴムである;これらのエラストマーは、例えば、他の直鎖を保持する共重合体ドメインを一緒にすることによるなどの、異なる手段によりゴム又はエラストマー材料に製造される。これらのエラストマーの各々を使用して複数の手段の1つによって正極活物質の粒子を結合することができる:例えばスプレーコーティング、希薄溶液を混合し(dilute solution mixing)(有機溶媒の有無にかかわらず、正極活物質粒子を未硬化ポリマー、モノマー又はオリゴマー中に溶解する)、その後乾燥させ、硬化させるなど。
【0096】
この分類の飽和ゴム及び関連するエラストマーとしては、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレン及びプロピレンの共重合体)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン、プロピレン及びジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)、フルオロエラストマー(FKM、及びFEPM;例えばViton、Tecnoflon、Fluorel、Aflas及びDai-El)、ペルフルオロエラストマー(FFKM:Tecnoflon PFR、Kalrez、Chemraz、Perlast)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM;例えばハイパロン)、及びエチレン酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レジリン、及びタンパク質エラスチンが挙げられる。ポリウレタン及びポリウレタンの共重合体(例えばウレタン-尿素共重合体)は、負極活物質粒子を封入するのに特に有用なエラストマーシェル材料である。
【0097】
本明細書に開示されるリチウム二次電池は、多種多様な正極活物質を含むことができる。正極活物質層は、無機材料、有機材料、ポリマー材料、又はこれらの組み合わせから選択される正極活物質を含んでよい。無機材料は、金属酸化物、金属リン酸塩、金属ケイ化物、金属セレン化物、遷移金属硫化物、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。
【0098】
無機正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムバナジウム酸化物、リチウム混合金属酸化物、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸バナジウムリチウム、リン酸混合金属リチウム、リチウム金属ケイ化物、又はこれらの組み合わせから選択されてよい。
【0099】
正極活物質層は、LixVO2、LixV2O5、LixV3O8、LixV3O7、LixV4O9、LixV6O13、これらのドープ型、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸化バナジウムを含有する金属酸化物を含んでよく、0.1<x<5である。
【0100】
正極活物質層は、層状化合物LiMO2、スピネル化合物LiM2O4、オリビン化合物LiMPO4、ケイ化物化合物Li2MSiO4、タボライト化合物LiMPO4F、ホウ酸化合物LiMBO3、又はこれらの組み合わせから選択される金属酸化物又は金属リン酸塩を含んでよく、Mは、1個の遷移金属又は複数の遷移金属の混合物である。
【0101】
リチウム電池に用いられる電解質は、液体電解質、ポリマーゲル電解質、固体電解質(固体ポリマー電解質、無機電解質、及び複合体電解質を含む)、準固体電解質、イオン液体電解質であってよい。
【0102】
液体電解質又はポリマーゲル電解質は典型的には、有機溶媒又はイオン液体溶媒に溶解したリチウム塩を含む。本開示を実行するために用いることができるリチウム塩又は溶媒の種類については特に制限はない。
【0103】
いくつかの特定の有用なリチウム塩は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロひ酸リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビスートリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(オキサレート)ホウ酸(LiBOB)、リチウムオキサリルジフルオロホウ酸(LiBF2C2O4)、硝酸リチウム(LiNO3)、Li―フルオロアルキルリン酸(LiPF3(CF2CF3)3)、リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、又はこれらの組み合わせである。
【0104】
弾性複合体セパレータの層を作成するために用いることができる多種多様なプロセスがある。これらには、コーティング、成型、塗装、スプレー(例えば超音波スプレー)、スプレー塗装、印刷(スクリーン印刷、3D印刷など)、テープキャスティングなどが含まれる。
【0105】
特定の実施形態において、弾性複合体セパレータの製造プロセスは、(A)この無機固体電解質粒子を液体反応物の弾性ポリマー前駆体に分散してスラリーを形成すること、(B)1層のこの液体反応物を固体基板の面に分注及び堆積させること、及び(C)この反応物を重合させる及び/又は硬化させて1層の弾性複合体セパレータを形成することを含んでよい。
【0106】
固体基板は、負極集電体、負極活物質層、又は正極活物質層であってよい。言い換えると、この弾性複合体セパレータを、負極活物質の層、負極集電体、又は正極活物質の層に直接堆積させることができる。これが達成可能なのは、高弾性ポリマーを硬化するのに高温は必要とされず、硬化温度は典型的には、200℃未満又は100℃未満でさえあるからである。このことは、無機固体電解質を焼結してセラミックセパレータを形成するのに典型的に必要とされる900~1,200℃と全く対照的である。さらに、本発明に開示される弾性セパレータは、界面インピーダンスを低減し、デンドライト貫通を停止する点でセラミックセパレータと少なくとも同じくらい良好である。
【0107】
好ましくは、このプロセスはロールツーロールプロセスであり、ステップ(B)は、(i)1層のこの固体基板(例えば柔軟な金属フィルム、プラスチックフィルムなど)をフィーダーローラから分注ゾーンへ連続供給し、分注ゾーンでこの反応物をこの固体基板上に分注及び堆積させて連続層のこの反応物を形成する、連続供給するステップ、(ii)この層のこの反応物を反応ゾーンに移動させ、連続層の弾性複合体を形成する目的で反応ゾーンでこの反応物を熱、紫外線(UV)、又は高エネルギー放射線に曝露してこの反応物を重合及び/又は硬化させるステップ、及び(iii)この弾性複合体を巻取りローラに回収するステップを含む。このプロセスは、リールツーリール方式で実施される。
【0108】
図4に示す特定の実施形態において、ロールツーロールプロセスは、固体基板層12(例えばPETフィルム)をフィーダーローラ10から連続供給することから始めてよい。反応物16(例えばスラリー)を固体基板層12上に分注し、堆積させるよう分注装置14を操作し、分注装置14は一対のローラー(18a、18b)に向けて駆動される。これらのローラは、反応物20の厚さを調節又は制御するための設備の例である。固体基板上に支持された反応物20は、硬化手段(熱、UV、高エネルギー放射線など)を備えた反応ゾーン22を通過して移動するよう駆動される。部分的又は完全に硬化したポリマー複合体24を巻取りローラ26上に回収する。このロールを後の段階で伸ばしてよい。
【0109】
このプロセスは、この弾性複合体の層を一片又は複数片の弾性複合体セパレータに切断及び/又はトリムするステップをさらに含んでよい。
【0110】
このプロセスは、負極、この弾性複合体セパレータ、電解質、及び正極電極を組み合わせてリチウム電池を形成するステップをさらに含んでよい。
【0111】
このリチウム電池は、リチウム金属電池、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウムセレン電池、リチウム空気電池などであってよい。リチウム硫黄電池の正極活物質は、硫黄又はリチウムポリスルフィドを含んでよい。
【実施例】
【0112】
実施例1:固体電解質粉末、窒化リン酸リチウム化合物(LIPON)の調製
Li3PO4(平均粒径4μm)及び尿素の粒子を原料として調製し、Li3PO4及び尿素を各々5g秤量し、乳鉢中で混合して原料組成物を得た。続けて、原料組成物を成形機で1cm×1cm×10cmのロッドに成形し、得られたロッドをガラス管に入れ、真空にした。ガラス管をついで管状炉中500℃で3時間加熱して窒化リン酸リチウム化合物(LIPON)を得た。この化合物を乳鉢中でひいて粉末状にした。
【0113】
実施例2:固体電解質粉末、Li10GeP2S12(LGPS)-型構造を有するリチウム超イオン伝導体の調製
出発物質、ボールミル装置を用いてLi2S及びSiO2粉末を粉砕して微粒子を得た。これらの出発物質をアルゴンで満たされたグローブボックス中でP2S5と適切なモル比で混合した。混合物をステンレス製のポットに入れ、高強度ボールミルを用いて90分間粉砕した。この試料をプレス加工してペレット状にし、黒鉛るつぼに入れ、炭素被覆石英管中10Paで密封した。石英管を反応温度1,000℃で5時間加熱した後、氷水でクエンチした。生じた固体電解質物質を乳鉢中でひいて、後で意図する弾性ポリマーマトリックス(弾性ポリマーの例は以下に示す)中に分散した無機固体電解質粒子として加えるための粉末サンプルを形成した。
【0114】
実施例3:ガーネット型固体電解質粉末の調製
c-Li6.25Al0.25La3Zr2O12の合成は、修正ゾルゲル合成―燃焼法に基づき、温度650℃で焼成後サブミクロンサイズの粒子を生じる(J. van den Broek, S. Afyon and J. L. M. Rupp, Adv. Energy Mater., 2016, 6, 1600736)。
【0115】
組成物c-Li6.25Al0.25La3Zr2O12のガーネット型立方晶粒子を合成するために、化学量論量のLiNO3、Al(NO3)3-9H2O,La(NO3)3-6(H2O)、及びジルコニウム(IV)アセチルアセトナートを水/エタノール混合物に温度70℃で溶解した。焼成及び焼結時にLiが損失する可能性を避けるために、リチウム前駆体を他の前駆体より10重量%分わずかに過剰に取り入れた。溶媒を一晩95℃で真空のままにして乾燥キセロゲルを得て、これを乳鉢でひき、一定の人工エアフロ―下アルミナるつぼに入れて縦型管状炉中650℃で15時間焼成した。焼成により直接立方体相c-Li6.25Al0.25La3Zr2O12を生じ、さらなる加工のためにこれを乳鉢中で微粉にひいた。
【0116】
この粉末から作製した相対密度~87±3%のc-Li6.25Al0.25La3Zr2O12固体電解質ペレット(O2雰囲気下水平管状炉中1070℃で10時間焼成した)は、~0.5×10-3Scm-1(室温)のイオン伝導率を示す。粉末状の組成物c-Li6.25Al0.25La3Zr2O12(LLZO)を含むガーネット型固体電解質を、以下の実施例で論じるいくつかの電気、イオン伝導性ポリマー中に分散させた。
【0117】
実施例4:ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)型固体電解質粉末の調製
Na3.1Zr1.95M0.05Si2PO12(M=Mg、Ca、Sr、Ba)材料を、アルカリ土類イオンをZrの八面体6配位の部位にドープすることにより合成した。用いた手順には、2個の連続するステップが含まれる。第1に、アルカリ土類金属酸化物(MO)及びZrO2の固溶体を、875rpmで2時間高エネルギーボールミル処理することにより合成した。ついで、Na2CO3、Zr1.95M0.05O3.95、SiO2、及びNH4H2PO4を1260℃で固相反応法することによりNASICON Na3.1Zr1.95M0.05Si2PO12構造を合成した。
【0118】
実施例5:高弾性複合体セパレータを含む負極を欠くリチウム電池
エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートモノマー(ETPTA、Mw=428、Sigma-Aldrich)をエチレンカーボネート(EC)/炭酸ジエチル(DEC)の溶媒混合物中にETPTA/溶媒の重量に基づく組成比3/97(w/w)で溶解した。続けて、過酸化ベンゾイル(BPO、ETPTA含有量に対して1.0重量%)を、所望量の選択した無機固体電解質粒子(例えばAlドープガーネット型固体電解質粒子)と共に、ラジカル開始剤として添加してCu箔の面に堆積させる時に熱的架橋反応を行わせた。このETPTAモノマー/開始剤層を60℃で30分間熱的に硬化させて保護層を得た。
【0119】
別の例に基づいて、幾分かのETPTAモノマー/溶媒/開始剤溶液をガラスの面に成形して湿潤膜を形成し、湿潤膜を熱により乾燥させ、ついで60℃で30分間硬化させて架橋ポリマーのフィルムを形成した。この実験において、いくつかの異なるポリマーフィルムの架橋度を変えるようBPO/ETPTAの重量比を、0.1%~4%に変えた。硬化したポリマーサンプルの一部を動的機械分析にかけて、2個の架橋点間の数平均分子量(Mc)及び対応する繰り返し単位の数(Nc)を決定するための、架橋度を特徴づける手段として、平衡動的弾性率Geを得た。典型的な及び好ましい繰り返し単位(Nc)の数は、5~5,000、より好ましくは10~1,000、さらに好ましくは20~500、及び最も好ましくは50~500である。
【0120】
いくつかの引張試験試料を各架橋フィルムから切断し、一般的な試験機で試験した。試験結果から(
図5)、BPOで開始した架橋ETPTAポリマーは、約230%~700%の弾性変形を有することが分かる。上の値は、いかなる添加剤も含まないニートポリマーについてのものである。無機充填剤を30重量%以下添加すると、典型的には、この弾性を10%~120%の可逆的引張ひずみまで低減させる。
【0121】
電気化学的試験用に、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)に溶解した85重量%LiV2O5又は88%重量のグラフェン包含LiV2O5粒子、5~8重量%CNT、及び7重量%ポリフッ化ビニリデン(PVDF)結合剤を混合して全固形分5重量%のスラリーを形成することにより作動電極(正極層)を調製した。スラリーをAl箔上にコーティングした後、電極を真空中120℃で2時間乾燥させてプレス加工する前に溶媒を除去した。ついで、電極をディスク状に切断し(Φ=12mm)、真空中100℃で24時間乾燥させた。
【0122】
負極集電体としての1枚のCu箔(最初は負極活物質としてのリチウム金属を有さない)、弾性複合体セパレータ、並びにエチレンカーボネート(EC)及び炭酸ジエチル(DEC)の混合物(EC-DEC,1:1v/v)中に溶解した1M LiPF6電解質溶液を備えるCR2032(3V)コイン型セルを用いて電気化学実験を行った。構成が類似するが、従来の多孔性PE/PPセパレータを用いて別のセルを調整した。セルの組み立ては、アルゴンで満たされたグローブボックス中で行った。CV測定は、走査速度1mV/秒でCH-6電気化学ワークステーションを用いて実行した。高弾性複合体セパレータを備えたセル及び従来のプラスチックセパレータを含むセルの電気化学的性能を、Arbin電気化学ワークステーションを用いて電流密度50mA/gの定電流充/放電サイクルにより評価した。
【0123】
各々がLiV2O5粒子を含む正極を有する2個のリチウム電池のインターカレーションの比容量を測定した。サイクル数が増加するにつれ、従来のプラスチックセパレータを備えたセルの比容量は速い速度で下落した。対照的に、本発明で開示した架橋ETPTAポリマー複合体セパレータは、非常に大きいサイクル数でも著しく安定で比容量が著しく高い電池セルを提供する。これらのデータから、本発明で開示した架橋ETPTAポリマー複合体セパレータの手法は、驚くべき、そして優れた性能を明確に示した。
【0124】
高弾性架橋ETPTA複合体セパレータ層は、電池放電中にリチウム箔の厚さが減少するとき、破壊せずにかなりの程度可逆的に変形できるようである。複合体セパレータ層はまた、負極での液体電解質及びリチウム金属の間の継続反応も防ぎ、リチウム及び電解質が損失し続ける問題を低減する。これにより、電池の充電中にリチウムイオンが正極から戻るとき、かなり均一に堆積することも可能となり、したがってリチウムデンドライトが生じない。これらのことは、SEMを用いて数回の充放電サイクル後の電池セルから回復した電極の面を調べることにより観察された。
【0125】
実施例6:リチウム-LiCoO2セル(このセルは最初はリチウムを含まない)のセパレータとして取り付けられた高弾性ポリマー複合体層
複合体セパレータを作製するための高弾性ポリマーは、コハク酸ニトリル(SN)中でのシアノエチルポリビニルアルコール(PVA-CN)のカチオン性重合及び架橋に基づいた。この手順は、PVA-CNをコハク酸ニトリルに溶解して混合物溶液を形成することから始まった。このステップの後、開始剤をこの溶液に添加した。いくつかのリチウム化学種を高弾性ポリマーに組み込む目的で、LiPF6を開始剤として選択した。LiPF6及びPVA-CN/SN混合物溶液の比率は、一連の前駆体溶液を形成するよう重量で1/20~1/2に変えた。所望量の無機充填剤(例えばNASICON型固体電解質粉末)を溶液に添加した。続けて、これらの溶液を別々にスプレー堆積させてCu箔状に薄層の前駆体反応物を形成した。前駆体反応物をついで温度75~100℃で2~8時間加熱してCu箔の面に接着した高弾性ポリマー複合体の層を得た。
【0126】
さらに、幾分かの反応物、PVA-CN/LiPF6をガラスの面上に成型していくつかのフィルムを形成し、これを重合及び架橋させて異なる架橋度を有する架橋ポリマーを得た。これらのフィルムについて引張試験も実施し、一連のこの架橋ポリマーは、最大約80%(架橋度が高い)~400%(架橋度が低い)弾性的に延びることができた。
【0127】
電気化学的試験の結果から、弾性複合体セパレータ層を有するセルは、かなり安定なサイクル挙動を示すことが分かる。高弾性複合体は、液体電解質を後で堆積するリチウムコーティングから離すよう作用するようであり、液体電解質及びリチウム金属の間の眷属反応を防ぐ。
【0128】
実施例7:PETEA系高弾性ポリマーで保護した負極を含むLi金属セル
弾性複合体セパレータ層として調製するために、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETEA)、式3をモノマーとして用いた。
【0129】
【0130】
代表的な手順において、前駆体溶液は、1,2-ジオキソラン(DOL)/ジメトキシメタン(DME)の溶媒混合物(体積比1:1)に溶解した1.5重量%のPETEA(C17H20O8)モノマー及び0.1重量%アゾジイソブチロニトリル(AIBN、C8H12N4)開始剤から成った。PETEA/AIBN前駆体溶液を、前駆体溶液中に分散した無機固体電解質粒子(LIPON型又はガーネット型固体電解質粉末)と共に、Cu箔の面上に予め堆積させたリチウム金属層上に成型して前駆体フィルムを形成し、これを70℃で半時間重合及び硬化させて軽度に架橋したポリマーを得た。
【0131】
さらに、反応物、PETEA/AIBN(いかなる無機充填剤も含まない)をガラスの面上に成型していくつかのフィルムを形成し、これを重合及び硬化させて様々な架橋度を有する架橋ポリマーを得た。これらのフィルムについて引張試験も実施し、一連のこの架橋ポリマーは、最大約25%(架橋度が高い)~80%(架橋度が低い)弾性的に延びることができた。
【0132】
市販のNCM-532粉末(周知のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物)を、グラフェンシート(伝導性添加剤として)と共にNMP及びPVDF結合剤の懸濁液に添加して複数成分のスラリーを形成した。このスラリーをついでAl箔上にスラリーコーティングして正極層を形成した。
【0133】
同一の正極活物質を有するが、一方のセルは弾性複合体セパレータを有し、他方は従来の多孔性プラスチックセパレータを有する2個のコインセルについて放電容量曲線を得た。これらの結果から、弾性複合体セパレータ方針では負極のないリチウム金属電池の容量減衰に対して優れた保護を提供することが実証された。
【0134】
高弾性複合体セパレータは、充放電時に負極層が膨張及び収縮する場合、破壊せずに可逆的に変形できるようである。この複合体セパレータはまた、液体電解質及びリチウム金属の間の継続反応も防ぐ。
【0135】
実施例8:スルホン酸化トリブロック共重合体ポリ(スチレン-イソブチレン-スチレン、すなわちSIBS)複合体を負極保護層として含むLi金属セル
非スルホン酸化及びスルホン酸化エラストマー複合体を用いて負極を欠くリチウム電池に負極保護層を構築した。スルホン酸化型は典型的には、ずっと高いリチウムイオン伝導性を示し、したがって高い速度能力又は高い電力密度を可能とする。エラストマーマトリックスは、無機固体電解質粒子に加え、望まれれば、リチウムイオン伝導性添加剤を含むことができる。
【0136】
スルホン酸化エラストマーを作製するために本研究で用いられるスルホン酸化手順の例を以下の通り要約する。SIBS(50g)の10%(w/v)ジクロロメタン溶液(500ml)を調製した。この溶液を約40℃で攪拌及び還流しながらジクロロメタン中指定量のアセチル硫酸をゆっくり加えてスルホン化反応を開始した。ジクロロメタン中のアセチル硫酸は、ジクロロメタン150mlを約10分間氷浴中で冷却することによりこの反応前に調製した。ついで指定量のアセチル硫酸及び硫酸を攪拌条件下冷却されたジクロロメタンに添加した。硫酸を加える約10分前に無水酢酸を、無水酢酸のモル比が1:1の過剰量で添加した。この溶液をついで室温に戻させた後で反応容器に添加した。
【0137】
約5時間後、メタノール100mlをゆっくり添加することにより反応を終結させた。反応したポリマー溶液を純水で沈殿させた。沈殿物を水及びメタノールで別々に何回か洗浄し、真空オーブン中50℃で24時間乾燥させた。この洗浄及び乾燥操作を、洗浄水のpHが中性になるまで繰り返した。このプロセスの後、最終ポリマー収率は、平均して約98%だった。このスルホン酸化操作を様々な量のアセチル硫酸で繰り返して様々なレベルのスルホン酸化又はイオン交換能(IEC)を有するいくつかのスルホン酸化ポリマーを作製した。スルホン酸化mol%は、mol%=(スルホン酸のモル/スチレンのモル)×100%と定義し、IECは、ポリマーg当たりのスルホン酸のミリ等量と定義した(mequiv./g)。
【0138】
各ポリマーをスルホン酸化及び洗浄した後、S-SIBSサンプルをトルエン/ヘキサノールの混合溶媒(85/15,w/w)に0.5~2.5%(w/v)の濃度で溶解した。所望量の無機固体電解質の粒子(0,25重量%、50重量%、及び75重量%)をこの溶液に添加してスラリーサンプルを形成した。スラリーサンプルをPETプラスチック基板上にスロットダイコーティングしてスルホン酸化エラストマー複合体の層を形成した。
【0139】
実施例9:無機固体電解質の粒子を含む弾性ポリウレタンエラストマー
24重量部のジフェニルメタンジイソシアネート及び22重量部のブチレングリコールを両末端にヒドロキシル基を有する100重量部のポリエチレンアジペート(分子量2,100)と、反応温度115℃で反応時間60分間、攪拌しながら連続的に反応させてヒドロキシル末端を有するプレポリマーを与えた。ヒドロキシル末端を有するこのプレポリマーは、70℃で粘度4,000cPを有した。
【0140】
別の例に基づいて、84重量部のジフェニルメタンジイソシアネートを両末端にヒドロキシル基を有する200重量部のポリエチレンアジペート(分子量2,100)と、攪拌反応温度115℃で反応時間60分間、攪拌しながら連続的に反応させてイソシアネート末端を有するプレポリマーを与えた。イソシアネート末端を有するこのプレポリマーは、70℃で粘度1,500cPを有した。
【0141】
ヒドロキシル末端を有するこのように得られた146(146)重量部のプレポリマー及びイソシアネート末端を有する得られた284重量部のプレポリマーを、所望量の選択された無機固体電解質粒子と共に、熱交換機に連続的に注入し、反応温度190℃で滞留時間5~30分間混合し、攪拌した。得られた粘性生成物をすぐにガラスの面上に成型して、それぞれ約7.2、25、及び36μmの厚さを有するエラストマー複合体層を得た。
【0142】
結論として、高弾性複合体に基づくセパレータ方針は、問題を軽減できなければ急速な容量減衰及び内部短絡の可能性及びリチウム二次電池の爆発を引き起こすリチウム金属デンドライト形成及びリチウム金属―電解質反応の問題を軽減するのに驚くほど効果的である。高弾性ポリマー複合体は、負極層と一致又は適合するように膨張又は収縮することができる。この能力は、集電体(又は充電操作中に堆積したリチウムフィルム)及びセパレータの間のしっかりした接触を維持するのに役立ち、リチウムイオンを途切れなく均一に再堆積することを可能にする。
【国際調査報告】